(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】複数の倍率で拡大することができる拡大デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 25/00 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
G02B25/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022132363
(22)【出願日】2022-08-23
【審査請求日】2022-08-23
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ダリオ・グレコ
(72)【発明者】
【氏名】ピエルパスクヮーレ・トルトラ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ウィルマン
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-032817(JP,U)
【文献】特開平11-326790(JP,A)
【文献】特表2000-501203(JP,A)
【文献】実開昭60-173916(JP,U)
【文献】実開昭48-007045(JP,U)
【文献】特開2011-149997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の倍率で拡大することができる拡大デバイス(100)であって、
回転軸(X-X)のまわりの回転体を形成し内部空洞(5)が形成された外側シェル(10)と、及び
前記外側シェル(10)の第2の端(13)に取り付けられた第1のレンズ(30)とを備え、
前記拡大デバイス(100)は、さらに、リトラクト位置とデプロイ位置の間で動くことができる第2のレンズ(20)と、可動キャリッジ(40)と、前記可動キャリッジ(40)の角位置を変えるように構成されるキャリッジガイド溝(51)の組と、を備え、
前記可動キャリッジ(40)は、前記外側シェル(10)の壁の厚みに形成される前記キャリッジガイド溝(51)の組と連係するガイドメンバー(42、46)を備え、
前記第2のレンズ(20)は、キャリッジガイドロッド(41)を介してユーザーがアクチュエートすることができる前記可動キャリッジ(40)と一体的であり、
前記デプロイ位置においては、前記拡大デバイス(100)の光学的性質を変えるように前記第2のレンズ(20)が前記第1のレンズ(30)に重なり合い、
前記キャリッジガイド溝の組の前記キャリッジガイド溝(51)には、第1のまっすぐな枝部(51a)、曲がった中央部分(51b)及び第2のまっすぐな枝部(51c)があ
り、
前記キャリッジガイド溝(51)の組は、ユーザーが前記キャリッジガイドロッド(41)を変位させた際に前記可動キャリッジ(40)の角位置を前記第2のレンズ(20)のリトラクト位置とデプロイ位置の間で変えるように構成される、
ことを特徴とする拡大デバイス(100)。
【請求項2】
前記第2のレンズは、前記リトラクト位置と前記デプロイ位置の両方において、前記外側シェル(10)の前記内部空洞(5)内に収容されている
ことを特徴とする請求項1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項3】
前記キャリッジガイドロッド(41)は、前記外側シェル(10)の壁の厚みに形成されるガイドロッドガイド溝(18)の組内にて摺動する
ことを特徴とする請求項
1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項4】
前記ガイドロッドガイド溝の組のガイドロッドガイド溝(18)は、まっすぐである
ことを特徴とする請求項
3に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項5】
前記キャリッジガイドロッド(41)は、ピボットリンクを形成するガイドピン(42)によって前記可動キャリッジ(40)と一体的にされる
ことを特徴とする請求項
1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項6】
前記デプロイ位置において、前記第2のレンズ(20)は、前記第1のレンズ(30)と同軸であり、前記第1のレンズ(30)から距離d離れるように配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項7】
前記第1のレンズの焦点距離f1は、100mmであり、
前記第2のレンズ(20)の焦点距離f2は、27mmである
ことを特徴とする請求項1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項8】
前記第1のレンズ(30)は、取り外し可能な保持用リング(11)を用いて前記外側シェル(10)の前記第2の端(13)において取り付けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項9】
前記外側シェル(10)は、互いに組み付けられて一体的にされる2つの半シェル(10a、10b)によって形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項10】
前記拡大デバイス(100)は、リトラクト位置とデプロイ位置の間で運動可能な第3のレンズを備え、
前記デプロイ位置において、前記第3のレンズは、前記第1のレンズ(30)及び/又は前記第2のレンズ(20)と重なり合って前記拡大デバイス(100)の光学的性質を変える
ことを特徴とする請求項1に記載の拡大デバイス(100)。
【請求項11】
前記拡大デバイス(100)には、レンズ(20、30)が曇ることを防ぐための換気口、及び/又はユーザーが拡大せずに外を見るための窓をユーザーに提供する前記外側シェルに形成される開口(60)がある
ことを特徴とする請求項1に記載の拡大デバイス(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、計時器のような小さな部品の検査、オーバーホール及びメンテナンスに関し、特に、このような検査、オーバーホール及びメンテナンスの作業を小さな部品や計時器に対して行うための補助物品(アクセサリー)に関する。
【0002】
本発明は、特に、複数の倍率で拡大することができ、異なる大きさの時計部品のような部品を単一の単眼用ルーペで観察することを可能にするような、時計技師の単眼用ルーペのような拡大デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
計時器、宝飾品又は小さな部品を検査、オーバーホール又はメンテナンスするときに構成部品や小さな部品を観察するために拡大デバイスを用いることが知られている。
【0004】
時計の分野において、時計技師用ルーペとしても知られている単眼タイプの拡大デバイスが伝統的に用いられている。
【0005】
このような単眼用ルーペは、設計が非常に単純であり、通常はプラスチックによって作られる、中空体と、この中空体の一端に配置される凸レンズによって構成している。したがって、ユーザーは、凸レンズの性質に応じた拡大効果が発揮されるように、中空体を通して要素を観察することができる。
【0006】
このように、様々な倍率の単眼用ルーペが多く存在している。
【0007】
現在、異なる倍率での観察を可能にするためには、倍率の異なる複数の単眼用ルーペを用意する必要がある。
【0008】
代わりに、一部のメーカーは、単眼用ルーペの倍率を変えることができるように、レンズを交換可能な単眼用ルーペを提案している。したがって、同じ単眼用ルーペを用いるにもかかわらず、具体的には同じ本体を用いるにもかかわらず、本体の一端に配置されている保持用リングを取り外すことなどによって凸レンズを交換することで、ユーザーは、複数の倍率で拡大することができる。
【0009】
しかし、この種の単眼用ルーペの実用性には課題がある。特に、ユーザーは、様々なレンズを保管し、汚れていないことを確実にし、適切に保管して損傷することを避ける必要がある。また、レンズを次々に組み付けたり取り外したりする際の様々なレンズ取り扱い作業によって、レンズが損傷してしまう可能性もある。
【0010】
最後に、この種の単眼用ルーペには、検査、オーバーホール又はメンテナンスの作業中に何度も繰り返すことがある組み付け及び取り外し作業が必要となる。このような作業は面倒であり、ユーザーにとっては煩わしくなる原因となることがある。ユーザーは、一般的には、ユーザーの必要性に応じて倍率を合わせるために面倒なレンズの取り外し/組み付け操作を繰り返し行うよりも、倍率がそれぞれ異なる複数の単眼用ルーペの組を用いることを好む。
【0011】
既存の別の手法として、第2のレンズを拡大デバイスの本体に一時的に取り付けることを可能にする、磁性素子(例、磁石)又はクリップやクランプのような迅速に取り外すことができる固定具を用いて、単眼用ルーペのレンズに第2のレンズを重ね合わせて倍率を変えるものがある。
【0012】
しかし、この手法もユーザーにとって満足できるものではない。様々な取り扱い操作中に追加のレンズが単眼用ルーペの本体から外れるおそれがあるからである。また、この手法は、汚染のリスクを発生させ、追加のレンズを保管することが必要となる。
【0013】
この結果、特に、異なる規模の倍率での観測が必要な場合に、計時器の検査、オーバーホール及びメンテナンスの作業を容易にする必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような状況で、本発明は、複数の倍率で拡大することができる拡大デバイスを提案するものであり、この拡大デバイスは、回転軸(X-X)のまわりの回転体を形成し内部空洞が形成された外側シェルと、及び前記外側シェルの第1の端に取り付けられた第1のレンズとを備える。本発明に係る拡大デバイスは、さらに、リトラクト位置とデプロイ位置(使用位置又は展開した位置)の間で動くことができる第2のレンズを備え、前記デプロイ位置においては、前記拡大デバイスの光学的性質を変えるように前記第2のレンズが前記第1のレンズに重なり合う。
【0015】
前の段落に記載した特徴に加えて、本発明に係る拡大デバイスは、単独で、又は技術的に可能な任意の組み合わせにしたがって、以下の特徴のうちの1つ又は複数を有することができる。
- 前記第2のレンズは、キャリッジガイドロッドを介してユーザーがアクチュエートすることができる可動キャリッジと一体的である。
- 前記第2のレンズと前記可動キャリッジは、一体的である。
- 前記第2のレンズは、前記リトラクト位置と前記デプロイ位置の両方において、前記外側シェルの前記内部空洞内に収容されている。
- 前記拡大デバイスは、さらに、ユーザーが前記キャリッジガイドロッドを変位させた際に前記可動キャリッジの角位置を前記第2のレンズのリトラクト位置とデプロイ位置の間で変えるように構成している要素を備える。
- 前記キャリッジガイドロッドは、前記外側シェルの壁の厚みに形成されるガイドロッドガイド溝の組内にて摺動する。
- 前記ガイドロッドガイド溝の組のガイドロッドガイド溝は、まっすぐである。
- 前記キャリッジガイドロッドは、ピボットリンクを形成するガイドピンによって前記可動キャリッジと一体的にされる。
- 前記可動キャリッジは、前記外側シェルの壁の厚みに形成されるキャリッジガイド溝の組と連係するガイドメンバーを備え、前記キャリッジガイド溝の組は、ユーザーによって前記キャリッジガイドロッドが変位した際に前記可動キャリッジの角位置を変えるように構成している。
- 前記キャリッジガイド溝の組の前記キャリッジガイド溝には、第1のまっすぐな枝部、曲がった中央部分及び第2のまっすぐな枝部がある。
- 前記デプロイ位置において、前記第2のレンズは、前記第1のレンズと同軸であり、前記第1のレンズから距離d離れるように配置される。
- 前記第1のレンズの焦点距離f1は、100mmであり、
前記第2レンズの焦点距離f2は、27mmである。
- 前記第1のレンズは、取り外し可能な保持用リングを用いて前記外側シェルの前記第1の端において取り付けられる。
- 前記外側シェルは、互いに組み付けられて一体的にされる2つの半シェルによって形成される。
- 前記拡大デバイスは、リトラクト位置とデプロイ位置の間で運動可能な第3のレンズを備え、前記デプロイ位置において、前記第3のレンズは、前記第1のレンズ及び/又は前記第2のレンズと重なり合って前記拡大デバイスの光学的性質を変える。
- 前記拡大デバイスには、レンズが曇ることを防ぐための換気口、及び/又はユーザーが拡大せずに外を見るための窓をユーザーに提供する前記外側シェルに形成される開口がある。
【0016】
前記拡大デバイスは、好ましくは、時計技師用ルーペタイプの単眼用ルーペである。
【0017】
図面を参照しながら以下に与えられる詳細な説明を読むことによって、本発明の目的、利点及び特徴を明確に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る単眼タイプの拡大デバイスの実施例についての斜視図を概略的に示している。
【
図2】
図1に示している単眼タイプの拡大デバイスの分解図を概略的に示している。
【
図3】
図1に示している拡大デバイスの部分側面図であり、一方の半シェルを示していない。
図3は、追加のレンズがリトラクト状態となっている拡大デバイスの第1の状態を示している。
【
図4】
図3に示している拡大デバイスの斜視図である。
【
図5】
図1に示している拡大デバイスの部分側面図であり、一方の半シェルを示していない。
図5は、追加のレンズがデプロイ状態となっている拡大デバイスの第2の状態を示している。
【
図6】
図5に示している拡大デバイスの斜視図である。
【
図7】追加のレンズをデプロイ状態にすることを可能にする、本発明に係る拡大デバイスの可動キャリッジの斜視図である。
【
図8】本発明に係る拡大デバイスの1つの代替的実施形態の概略図である。
【
図9】
図1に示している拡大デバイスの実施例についての別の斜視図であり、追加のレンズをデプロイ状態にしたりリトラクト状態にしたりするようにキャリッジガイドロッドをアクチュエートすることを可能にする溝を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
すべての図において、特に言及していないかぎり、共通の要素には同じ参照符号を割り当てている。
【0020】
図1は、本発明に係る拡大デバイス100の実施例の斜視図を概略的に示している。
【0021】
図2は、本発明に係る拡大デバイス100の分解図を概略的に示している。この分解図によって、本発明に係る拡大デバイス100を構成している様々な要素を評価することができる。
【0022】
図3は、本発明に係る拡大デバイス100の部分側面図であり、外側シェルの一方の半シェルは示していない。したがって、
図3は、追加のレンズがリトラクト状態となっている拡大デバイスの第1の状態を示している。
【0023】
図4は、
図3に示している拡大デバイスの斜視図である。
【0024】
図5は、本発明に係る拡大デバイス100の部分側面図であり、外側シェルの一方の半シェルは示していない。
図5は、追加のレンズがデプロイ状態にされた拡大デバイスの第2の状態を示している。
【0025】
図6は、
図5に示している拡大デバイスの斜視図である。
【0026】
図1~6を参照しながら説明する。拡大デバイス100は、時計技師用ルーペタイプの単眼用ルーペである。
【0027】
拡大デバイス100は、内部空洞5が形成された回転軸X-Xのまわりの中空の回転体を形成する外側シェル10を備え、これによって、ユーザーが拡大レンズを通して小さな要素や時計部品を観察することができる。
【0028】
好ましくは、外側シェル10は、互いに組み付けられて一体的にされる2つの半シェル10a、10bによって形成される。
【0029】
2つの半シェル10a、10bどうしは、組み付け要素を介して組み付けられる。この組み付け要素は、この組み付け要素のオス部分を形成する組み付けピン15と、この組み付けピン15と連係しこの組み付け要素のメス部品を形成する凹部16によって構成しており、凹部16は、組み付けピン15がある一方の半シェルに対向する他方の半シェルに形成される。
【0030】
図1~6に示している例において、組み付けピン15(例として3つを示している)は、同じ半シェル、特に、参照符号10bを割り当てている一方の半シェル10bに設けられ、凹部16は、その半シェルに対向するように配置される他方の半シェル10aに形成される。
【0031】
しかし、本発明の範囲を逸脱せずに他の実施形態も可能であり、例えば、2つの半シェルのそれぞれに組み付けピン15と凹部16を分散させることができる。
【0032】
好ましくは、2つの半シェル10a、10bどうしは、接着結合によって一体化される。他の取り付け方法も可能であり、例えば、クリッピングや保持用スリーブを用いるものが可能である。また、半シェルに用いられる材料によっては熱溶着も可能である。
【0033】
好ましくは、外側シェル10は、ポリマーベースの材料、例えば、プラスチック材料、金属ベースの材料、セラミックスベースの材料、木又は竹のような植物ベースの材料、又はいくつかの材料の混合物、によって形成されている。
【0034】
外側シェル10は、例えば、3次元印刷法や射出法によって作られる。
【0035】
伝統的な形態で、外側シェル10は、拡大デバイス100のバレルを形成し、これは、ユーザーが外側シェル10を通して小さな部品又は時計部品を見ることを可能にする。
【0036】
外側シェル10には、拡大デバイス100をユーザーの眼の領域に配置するために適応しているインタフェースを形成するフレア状の第1の端12がある。
【0037】
外側シェル10には、固定レンズと呼ばれる第1のレンズ30を担持する第2の端13がある。第1のレンズ30は、保持用リング11によって第2の端13における適切な位置に保持される。
【0038】
保持用リング11は、好ましくは、取り外し可能なリングである。保持用リング11は、例えば、外側シェル10の第2の端13にあるねじ山と連係するねじ山付きリングである。
【0039】
したがって、保持用リング11のおかげで、第1のレンズ30のための受け面を形成する端プレート14に対向するように第1のレンズ30を適切な位置に保持することができる。
【0040】
また、保持用リング11は、2つの半シェル10a、10bにクランプ力を与えることによってこれらを一緒に保持するようにはたらく。
【0041】
また、他の代替的実施形態において、保持用リング11は、外側シェル10に嵌まるリングであることができ、これは、例えば、リングの粘弾性変形によるものであることができ、また、弾性クリップを介した保持用リング11の弾性嵌合によるものであることができる。
【0042】
このような代替的実施形態は、さらなる説明を必要とせずに当業者が考えられる範囲内である。
【0043】
取り外し可能な保持用リング11は、必要に応じてクリーニング、交換などをするために、第1のレンズ30への容易なアクセスを可能にする。
【0044】
例えば、保持用リング11をポリマー材料又は金属材料によって作る。例として、保持用リング11をプラスチック材料又はエラストマーによって作ることができる。拡大デバイス100を高級な仕上げにするためには、金属リング11の使用が好ましい。
【0045】
1つの代替的実施形態(図示せず)において、このような取り外し可能な保持用リングを用いないことも可能である。この場合、第1のレンズ30は、2つの半シェル10a、10bの組み付けのときに、2つの環状の半ハウジング内に配置される。これらの2つの環状の半ハウジングは、この目的のために外側シェル10の第2の端13において形成され、2つの半シェル10a、10bが組み付けられた後に、拡大デバイス100の光路に対向する適切な位置にて第1のレンズ30を保持することができる。
【0046】
第1のレンズ30は、凸レンズである。第1のレンズ30は、好ましくは、薄いレンズである。
【0047】
第1のレンズ30は、第1の焦点距離f1及び第1の倍率G1を有する。
【0048】
本発明に係る拡大デバイス100は、さらに、可動レンズと呼ばれる第2のレンズ20を備える。この第2のレンズは、リトラクト位置と、デプロイ位置ないし使用位置との間で動くことができ、このデプロイ位置において、第2のレンズ20が第1のレンズに重なり合っており、拡大デバイス100の光学的性質、特に、拡大デバイス100の倍率、を変える。デプロイ位置において、第2のレンズ20の光軸は、拡大デバイス100の回転軸と平行である。
【0049】
したがって、第2のレンズ20は、ユーザーの要求に応じて拡大デバイス100の光学的性質を変える追加のレンズである。
【0050】
第2のレンズ20は、凸レンズである。第2のレンズ20は、好ましくは、薄いレンズである。
【0051】
第2のレンズ20は、第2の焦点距離f2及び第2の倍率G2を有する。
【0052】
第2のレンズ20は、好ましいことに、外側シェル10の構造の内部、すなわち、内部空洞5、に一体化されて収容され、外側シェル10内にて配置されて動くことができる。
【0053】
第2のレンズ20は、拡大デバイス100の外部からアクセスすることができるインタフェース部分があるキャリッジガイドロッド41を介してユーザーがアクチュエートすることができる可動キャリッジ40と一体的である。外側シェル10には、キャリッジガイドロッド41が摺動できるようにする溝17がある。
図9に、溝17を詳しく示している。
【0054】
外側シェル10には、ガイドロッドガイド溝18の組があり、その1つのガイドロッドガイド溝18が、半シェル10a、10bのそれぞれに、具体的には、外側シェル10の壁の厚みに、形成される。ガイドロッドガイド溝18は、キャリッジガイドロッド41のガイド及び摺動のための摺動路を形成する。ガイドロッドガイド溝18は、まっすぐであり、互いに対向するように形成される。
【0055】
したがって、キャリッジガイドロッド41、特に、キャリッジガイドロッド41の本体は、ユーザーの操作に基づいて、
図3及び4に示しており非アクティブ位置と呼ばれる第1の位置と、
図5及び6に示しておりアクティブ位置と呼ばれる第2の位置との間で、ガイドロッドガイド溝18内を摺動することができる。第1の位置においては、可動キャリッジ40と第2のレンズ20がリトラクト状態となっており、第2の位置においては、可動キャリッジ40と第2のレンズ20がデプロイ状態となっており、第2レンズ20が第1レンズ30と平行に、かつ、第1レンズ30から特定の距離d離れた位置に配置される。
【0056】
したがって、拡大デバイス100は、ユーザーがキャリッジガイドロッド41を変位させた際に、可動キャリッジ40の角位置をリトラクト位置とデプロイ位置の間で変えるように構成している要素を備える。
【0057】
追加のレンズをデプロイ状態にすることを可能にする本発明に係る拡大デバイス100の可動キャリッジをより詳細に示している
図7に示しているように、可動キャリッジ40には、プレート45があり、このプレート45に第2のレンズ20が、嵌め合い、接着結合などによってしっかりと保持される。
【0058】
キャリッジガイドロッド41は、そのキャリッジガイドロッド41とともにヒンジタイプのピボットリンクを形成するプレート45の第1の端において可動キャリッジ40と一体的になっている。キャリッジガイドロッド41は、ガイドピン42を介して可動キャリッジ40と一体的になっている。このガイドピン42は、さらに、ピボットピンを形成する。
【0059】
キャリッジガイドロッド41との接合部を形成するプレート45の第1の端において、プレート45には、偶数個のメスナックル43(
図7の実施例では、2つのメスナックル43を示している)があり、キャリッジガイドロッド41には、奇数個のオスナックルがあり、2つのメスナックル43と連係するものとして単一のオスナックル44を示している。
【0060】
第2の端47において、プレート45には、2つのガイドペグ46がある。
【0061】
第1の代替的実施形態において、ガイドペグ46は、プレート45と一体的である。
【0062】
第2の代替的実施形態において、ガイドペグ46は、プレート45とは独立なガイドピンによって形成され、このガイドピンが貫通孔に挿入される。この貫通孔は、プレート45の端においてこの目的のために形成される。
【0063】
したがって、ガイドピン42とガイドペグ46の端は、可動キャリッジ40をガイドするためのガイドメンバーを形成する。
【0064】
これらの可動キャリッジ40のガイドメンバーは、キャリッジガイド溝51の組と連係する。半シェル10a、10bにはそれぞれ1つのキャリッジガイド溝51がある。
【0065】
キャリッジガイド溝51は、曲がった溝であり、キャリッジガイドロッド41、したがって、プレート45の第1の端、が変位したときに、可動キャリッジの角位置を変え、かつ、可動キャリッジが変位することを可能にする。本発明にしたがって、キャリッジガイドロッド41の並進運動が、可動キャリッジ40の一端に伝達されて、可動キャリッジ40が傾斜し回転することができるようになる。
【0066】
典型的には、キャリッジガイド溝51には、第1のまっすぐな枝部51a、曲がった中央部分51b、及び第2のまっすぐな枝部51cがある。
【0067】
好ましくは、第1のまっすぐな枝部51aと第2のまっすぐな枝部51cは、垂直な2つの方向に形成され、可動キャリッジ40がリトラクト位置とデプロイ位置の間で90°回転することができる。
【0068】
キャリッジガイド溝51の第1のまっすぐな枝部51aは、可動キャリッジ40のガイドピン42の端を受ける。第1のまっすぐな枝部51aには、ガイドピン42の変位を制限する当接体を形成する第1の端と第2の端がある。
【0069】
曲がった中央部分51bと第2のまっすぐな枝部51cは、可動キャリッジ40のプレート45の第2の端のガイドペグ46を受ける。
【0070】
拡大デバイス100は、以下のように動作する。キャリッジガイドロッド41が非アクティブ位置にあるときに、可動キャリッジ40はリトラクト位置にある。キャリッジガイドロッド41は、好ましいことに、外側シェル10の周壁の厚みに形成される凹部にあり、これによって、リトラクト位置においては、可動キャリッジ40と第2のレンズ20が光線の経路内になく視線に入らない。
図3及び4に、このリトラクト位置を示している。
【0071】
このリトラクト位置において、ガイドピン42は、第1のまっすぐな枝部51aの第1の端に当接し、具体的には、外側シェル10のフレア状の第2の端12に最も近い端に当接する。
【0072】
このリトラクト位置において、
図3に示しているように、ガイドペグ46は、曲がった中央部分51bの下側部分にあり、すなわち、第1のまっすぐな枝部51aと曲がった中央部分51bの間の接合部に近い。
【0073】
この可動キャリッジ40のリトラクト位置において、第2のレンズ20の光軸は、第1のレンズ30の光軸と整列していない。この可動キャリッジ41のリトラクト位置において、第2のレンズ20の光軸は、第1のレンズ30の光軸に対して実質的に垂直である。
【0074】
この可動キャリッジのリトラクト位置において、拡大デバイス100の倍率は、第1のレンズ30の倍率G1に対応するものとなっている。
【0075】
キャリッジガイドロッド41を外側シェル10のフレア状の第2の端12から離すように動かすことなどによってキャリッジガイドロッド41を用いて
図3に示している矢印の方向に摺動させるときに、このようなキャリッジガイドロッド41の並進運動のおかげで、ガイドペグ46とキャリッジガイド溝51の曲がった中央部分51bによって可動キャリッジ40が回転し、外側シェル10の内部空洞内にてデプロイ状態になることができる。
【0076】
可動キャリッジ40がデプロイ位置にあるときに、ガイドピン42は、第1のまっすぐな枝部51aの第2の端、具体的には、外側シェル10のフレア状の第2の端12から最も遠い位置にある端、に当接する。
【0077】
このデプロイ位置において、
図5に示しているように、ガイドペグ46は、第2のまっすぐな部分51cの端に対して、近い又は当接する。
【0078】
可動キャリッジ40がデプロイ位置にあるときに、可動キャリッジ40と第2のレンズ20は光線の経路内にある。
【0079】
可動キャリッジ40がこのデプロイ位置にあるときに、第2のレンズ20の光軸は、第1のレンズ30の光軸と平行であり、好ましくは、これらの2つのレンズの光軸は一致し、これらのレンズ20、30は同軸である。
【0080】
したがって、可動キャリッジ40がデプロイ位置になると、拡大デバイス100の倍率が変わり、好ましくは、大きくなる。
【0081】
2つのレンズ20、30の間の距離dは、第2のガイド溝51の組の配置、特に、第1のレンズ30に対する第2のまっすぐな枝部51cの位置、によって構成される。
【0082】
例として、焦点距離f1が100mmであるときに、拡大デバイスの倍率は2.5倍である。第1のレンズ30に付加されてデプロイ状態にされた焦点距離f2が27mmである第2のレンズ20を用いるときに、拡大デバイスの倍率は15倍となる。この構成において、2つのレンズ20、30の間の距離dは、1.46mmである。
【0083】
好ましいことに、本発明に係る拡大デバイス100は、単レンズを備える伝統的な時計技師用ルーペの寸法構成に比較的近い寸法構成を有しており、このために、ユーザーは、伝統的な単眼用ルーペの代替品として用いる際に困難に遭遇しない。
【0084】
本発明の1つの代替的実施形態において、可動キャリッジ40と第2のレンズ20は、一体的なユニットを形成する。すなわち、可動キャリッジ40と第2のレンズ20は、同じ材料の単一の部品として作られる。この場合、この一体的なユニットは、好ましくは、断面が長方形である球面レンズであり、第1の端には、上記のメスナックル43があり、第2の端には、上記のガイドペグ46がある。したがって、この一体的なユニットを、前記可動キャリッジと同様にリトラクト状態にしデプロイ状態にすることができる。
【0085】
このような代替的実施形態においては、特に、部品数を最小限に抑え、可動キャリッジ40/第2のレンズ20によって形成されるアセンブリーの全体の寸法構成を小さくすることができる。この寸法構成が小さくなると、外側シェル10の周壁の厚み、したがって、外側シェル10の周壁の厚みに形成される凹部の厚み、を薄くして内部空洞5の内径を大きくすることによって、ユーザーの視野を最大限に大きくすることができる。
【0086】
このような一体的なユニットは、機械加工などを経た、ガラス、又はポリマー材料、例えば、プレキシガラスとしても知られているポリメチルメタクリレート(PMMA)、又はポリカーボネート、によって作ることができる。
【0087】
本発明に係る拡大デバイス100は、さらに、第2のレンズと同様にリトラクト状態になることができる第3のレンズを備えることができ、これによって、単一の同じ拡大デバイスしか用いなくても4つの異なる倍率の値を得ることができる。
【0088】
図8に示しているように、本発明の1つの代替的実施形態において、拡大デバイス100には、さらに、本発明に係る拡大デバイスの様々なレンズが曇ることを防ぐための換気口、又はユーザーが自身から拡大デバイス100を取り除かなくても近くの要素を拡大せずに見ることを可能にする開口60があることができる。
【符号の説明】
【0089】
5 内部空洞
10 外側シェル
10a、10b 半シェル
11 保持用リング
12 第1の端
13 第2の端
15 組み付けピン
18 ガイドロッドガイド溝
20 第2のレンズ
30 第1のレンズ
40 可動キャリッジ
41 キャリッジガイドロッド
42 ガイドピン
46 ガイドペグ
51 キャリッジガイド溝
51a 第1のまっすぐな枝部
51b 曲がった中央部分
51c 第2のまっすぐな枝部
60 開口
100 拡大デバイス