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特許7425144封止されたワイヤ束を作り出すための構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】封止されたワイヤ束を作り出すための構造物
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/22 20060101AFI20240123BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 123/02 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 177/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H02G3/22
C09J123/08
C09J123/02
C09J177/00
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022149796
(22)【出願日】2022-09-21
(62)【分割の表示】P 2021503565の分割
【原出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2022180514
(43)【公開日】2022-12-06
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】16/046,577
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399132320
【氏名又は名称】ティーイー・コネクティビティ・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】TE Connectivity Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】セシィ,サニー
(72)【発明者】
【氏名】ダガ,ヴィージェイ
(72)【発明者】
【氏名】バラディワジ,カーヴィサ
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ティング
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-503955(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0097344(US,A1)
【文献】特表昭63-503494(JP,A)
【文献】特開2014-73637(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009904(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/22
H02G 15/013
C09J 123/08
C09J 123/02
C09J 177/00
H01B 13/012
H01B 13/32
H01B 3/30
H01B 3/44
H01B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止されたワイヤ束を作り出すための構造物であって、
前記構造物は、
・円形または半円形の形状であり、第1の外壁を有し、かつ第1の粘度を有する第1の接着材料と、
・複数本のワイヤが配置される複数の第1ワイヤ受容空間と、を備えており、
前記構造物に熱が付与されると、前記第1の接着材料が流れて前記複数本のワイヤ間の空隙を満たすことによって、前記複数本のワイヤを封止するように構成されており、
複数の第1スポークアームが前記第1の外壁から内側に延びており、
前記複数の第1ワイヤ受容空間は、前記複数の第1スポークアームの間に設けられており、
前記複数の第1スポークアームは、それぞれ、前記第1の外壁から延びる第1の端部と、前記第1の外壁から間隔をおいて配置される第2の端部を有しており、
前記第1の端部は、前記第2の端部よりも大きな断面積を有している、

封止されたワイヤ束を作り出すための構造物。
【請求項2】
前記第1の接着材料が、前記第1の外壁から間隔をおいて配置される第1のセンターハブを有しており、
前記複数の第1スポークアームの前記第2の端部が、前記第1のセンターハブまで延びている、
請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記第1の接着材料は、約300Pa.s未満の粘度を有する、
請求項1に記載の構造物。
【請求項4】
前記第1の接着材料は、約40重量%から約95重量%のエチレン酢酸ビニルまたはポリオレフィンまたはポリアミドである、
請求項3に記載の構造物。
【請求項5】
粘度を損わずに熱伝導率を改善するために、前記第1の接着材料がフィラー材料と安定剤材料を含む、
請求項3に記載の構造物。
【請求項6】
前記第1の外壁は、少なくとも1つの間隙を備えており、
前記少なくとも1つの間隙が、前記複数本のワイヤが前記第1の外壁を通って前記第1ワイヤ受容空間の中に挿入されることを容易にする、
請求項に記載の構造物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの間隙が複数の間隙であり、
前記複数の間隙のそれぞれが、前記複数の第1ワイヤ受容空間のうちのそれぞれと位置合わせされて配置されている、
請求項6に記載の構造物。
【請求項8】
円形または半円形の形状であり、第2の粘度を有している第2の接着材料が、前記第1の接着材料の第1の側に配置される、
請求項1に記載の構造物。

【請求項9】
封止されたワイヤ束を作り出すための構造物であって、
前記構造物は、
・円形または半円形の形状であり、第1の外壁を有し、かつ第1の粘度を有する第1の接着材料と、
・複数本のワイヤが配置される複数の第1ワイヤ受容空間と、を備えており、
前記構造物に熱が付与されると、前記第1の接着材料が流れて前記複数本のワイヤ間の空隙を満たすことによって、前記複数本のワイヤを封止するように構成されており、

円形または半円形の形状であり、第2の粘度を有している第2の接着材料が、前記第1の接着材料の第1の側に配置される
造物。
【請求項10】
前記第2の接着材料は第2の外壁を有し、
複数の第2スポークアームが前記第2の外壁から内側に延びており、
前記複数の第2スポークアームの間に、前記複数本のワイヤが配置される、複数の第2ワイヤ受容空間が設けられている、
請求項9に記載の構造物。
【請求項11】
前記第2の接着材料の粘度が、前記第1の接着材料の粘度よりも高い、
請求項9に記載の構造物。
【請求項12】
円形または半円形の形状であり、第3の粘度を有している第3の接着材料が前記第1の接着材料の第2の側に配置される、
請求項9に記載の構造物。
【請求項13】
前記第3の接着材料は第3の外壁を有し、
複数の第3スポークアームが前記第3の外壁から内側に延びており、
前記複数の第3スポークアームの間に、前記複数本のワイヤが配置される、複数の第3ワイヤ受容空間が設けられている、請求項12に記載の構造物。
【請求項14】
前記第3の接着材料の粘度が、前記第1の接着材料の粘度よりも高い、
請求項12に記載の構造物。
【請求項15】
前記第2の接着材料の粘度が、前記第3の接着材料の粘度とおおよそ等しい、
請求項14に記載の構造物。
【請求項16】
前記第1の接着材料、前記第2の接着材料、および前記第3の接着材料の厚さが、約0.5mmから約2.0mmの範囲内である、
請求項12に記載の構造物。
【請求項17】
粘度を損わずに熱伝導率を改善するために、前記第2の接着材料と前記第3の接着材料がフィラー材料と安定剤材料を含む、
請求項12に記載の構造物。
【請求項18】
前記第1の接着材料が、前記第1の外壁から間隔をおいて配置される第1のセンターハブを有している、
求項に記載の構造物。
【請求項19】
前記第1の外壁は、複数の間隙を備えており、
前記複数の間隙は、前記複数本のワイヤが前記第1の外壁を通って前記複数の第1ワイヤ受容空間のうちのそれぞれの第1ワイヤ受容空間内に挿入されることを容易にする、
請求項に記載の構造物。
【請求項20】
前記第1の接着材料は、前記第1の外壁から間隔をおいて配置されている第1のセンターハブを有し、前記第1の接着材料における複数の第1スポークアームが前記第1の外壁から前記第1のセンターハブまで延びており、

前記第2の接着材料は、前記第2の接着材料における第2の外壁から間隔をおいて配置されている第2のセンターハブを有し、前記第2の接着材料における複数の第2スポークアームが前記第2の外壁から前記第2のセンターハブまで延びており、

前記第3の接着材料は、前記第3の接着材料における第3の外壁から間隔をおいて配置されている第3のセンターハブを有し、前記第3の接着材料における複数の第3スポークアームが前記第3の外壁から前記第3のセンターハブまで延びている、
請求項12に記載の構造物。
【請求項21】
前記第1の接着材料、前記第2の接着材料、および前記第3の接着材料が、前記第1の外壁、前記第2の接着材料における第2の外壁および前記第3の接着材料における第3の外壁へ及ぶ1つの熱収縮性材料を備えている、
請求項12に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にワイヤ組立体に関する。より詳細には、本発明は、封止されたワイヤ束を作り出すための構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
多数本のワイヤが様々な環境条件を有する領域を分離する壁を通過するような用途では、通常はワイヤ束の封止が必要である。例えば、自動車では、電力ケーブル、様々なセンサおよび制御装置などからのワイヤ/ケーブルが、エンジン室から隔壁の開口部を通って乗員室まで通っている。ワイヤが開口部を通過する領域では、ワイヤが封止部材で包囲される場合がある。封止部材は、水分/流体がワイヤ間を移動して車室に入るのを防止するために、ワイヤを完全に封入し、理想的にはワイヤ間の空隙を充填するように構成され得る。シーラント材はまた消音ももたらし、その結果、乗員室の騒音レベルが低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ワイヤ束を封止するための現在の方法は、マスチック材(mastics)、シリコーンおよびエポキシなどのRT液体の接着材系、ならびにオーバーモールドを利用する。マスチック材を利用する方法は、ワイヤ/ケーブル間にマスチック材をもみ込む(massaging)ことによって機能する。この方法の問題点としては、労働コストが高いこと、信頼性が低いこと、および温度定格に劣ること、が挙げられる。RT液体硬化性接着材系を利用する方法では、接着材はワイヤの間に流れ込み、その後温度上昇、水分または溶剤の蒸発などの刺激を介して硬化する。しかしながら、液体接着材の取り扱いは製造においては困難であり、高い汚染のリスクが存在し、硬化プロセスにはより長い処理時間が必要となる。オーバーモールドを利用する方法では、ワイヤの上にシーラント材が成形される。しかしながら、このプロセスはオフラインで行う必要があり、高価な設備およびより長い処理時間が必要となる。
【0004】
下記の開示を検討すれば、既存の封止部材の他の問題が明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、封止されたワイヤ束を作り出すための構造物であって、
前記構造物は、
・円形または半円形の形状であり、第1の外壁を有し、かつ第1の粘度を有する第1の接着材料と、
・複数本のワイヤが配置される複数の第1ワイヤ受容空間と、を備えており、
前記構造物に熱が付与されると、前記第1の接着材料が流れて前記複数本のワイヤ間の空隙を満たすことによって、前記複数本のワイヤを封止するように構成されている、
封止されたワイヤ束を作り出すための構造物を提供する。
【0006】
導入温度において約300Pa.s未満の粘度を有する接着材料を用意することを含む、ワイヤの束を封止するための方法も提供される。この方法は、接着材料から構造物を形成することと、複数本のワイヤを構造物内に挿入することと、を更に含む。第1の加熱操作において、構造物に第1の熱量が適用される。第1の熱量は周囲温度よりも高く、接着材構造物の軟化/溶融の温度よりも低い。次に、第2の加熱操作において接着材構造物に第2の熱量を適用し、それにより接着材構造物を十分に溶融させ構造物の接着材に複数本のワイヤ間の空隙を充填させ、それによりワイヤを封止する。第1の加熱操作中の構造物への第1の熱量の適用により、第2の加熱操作中の構造物の溶融均一性の改善が促進される。
同じ長手方向に延在する上側部分および下側部分と、上側部分と下側部分の間に延在する複数の垂直部材と、を含む、封止されたワイヤ束を作り出すための構造物も提供される。隣り合う垂直部材はそれらの間に、1本または複数本のワイヤを設置するための空間を画定する。上側部分および下側部分ならびに複数の垂直部材は、約300Pa.s未満の粘度を有する、40重量%~95重量%のエチレン酢酸ビニル(EVA)またはポリオレフィン(PO)である接着材料から形成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1Aおよび図1Bは、接着材料内に入れられた複数本のワイヤを含む封止されたワイヤ束を示す図である。
図2図2Aおよび図2Bは、ワイヤの束を封止するために利用され得る例示的な接着材構造物を示す図である。
図3図3Aは、各接着材構造物の長手方向に端部を接してスタックされた、複数の接着材構造物を示す図である。図3Bは、端部を接し互いにスタックされた、複数の接着材構造物の例を示す図である。
図4】接着材構造物および熱収縮管材などの熱収縮性構造を使用して図1に示す封止されたワイヤの束を形成するための、例示的な工程を示す図である。
図5】接着材構造物内に挿入されたワイヤの束を示す図である。
図6図6Aおよび図6Bは、熱収縮性スリーブ内に挿入された図5のワイヤの束および接着材構造物を示し、かつ組立体を予熱するために利用され得る第1の例示的な加熱装置を示す図である。
図7】覆われたまたは巻かれた予熱された接着材構造物を同時に加熱および圧縮し得る、第2の例示的な加熱装置を示す図である。
図8】封止されたワイヤ束の断面を示す図である。
図9図9Aおよび図9Bは、覆われた後の接着材構造物の束の中心領域の加熱を促進するために、抵抗性要素とワイヤを束ねて接着材構造物内に入れる様子を示す図である。
図10図10Aおよび図10Bは、接着材構造物の様々な構成を示す図である。
図11図11A図11Dは、接着材構造物の様々な構成を示す図である。
図12図12Aおよび図12Bは、封止組立体の異なる例示的な構成を示す図である。
図13】ある溶融温度において異なる粘度特性を有する区域を有する、例示的な接着材構造物を示す図である。
図14A】多粘度の接着材ストリップを示す図である。
図14B】熱収縮性チューブに埋め込まれた成形した接着材構造物のストリップを含む、例示的な組立体を示す図である。
図15】熱収縮管材などの熱収縮性構造の内部に接着材プロファイルが事前に導入されている一体型のデバイスを使用して封止されたワイヤの束を形成するための、例示的な工程を示す図である。
図16図16Aおよび図16Bは、それぞれ熱を加える前および加えた後の、熱収縮性構造の中に挿入されたワイヤ束を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上記で検討した問題を克服するために、望ましい封止および粘度特性を有する熱可塑性接着材ならびにシーラント調合物(sealant formulations)から形成された、様々な構造物を以下に開示する。
【0009】
一般に、熱溶融性接着材(ホットメルト接着材)およびシーラントは、それらの取り扱いの容易さ、適用の容易さおよび高い信頼性に起因して、マスチック材およびシリコーンよりも望ましい。熱溶融性接着材系は、熱可塑性物質または熱硬化性物質であり得る。大きなワイヤ束を封止するための熱溶融性接着材を利用する解決法を提供する上での主な課題には、好適な流動学的挙動(rheological behavior)を示す材料の調合、接着材の流れ方向の制御、内向きの機械的な力、および接着材を溶融させるのに好適な熱送達構造の提供が含まれる。大きなワイヤ束は20本以上のワイヤを含む構造として定義され得る。
【0010】
シーラント材料の温度定格は、それらの流動学的挙動に基づき得る。適用後、それらはその仕様温度以下では流出(流動)しないものとされる。例えば、定格105℃の製品では、材料は105℃以下の温度においては、ほとんどまたは全く流動しないものとされる。同様に、定格125℃の材料では、接着材は125℃以下の温度においては、全くまたはほとんど流動しないものとされる。ただし材料の粘度は、導入温度(例えば110℃から140℃の間)では、接着材がワイヤ間に流入することおよび任意の閉じ込められた空気と入れ替わることができるように、比較的低くすべきである。一般に、導入プロセス中、接着材/シーラント材の温度は、構造物の温度定格よりも10℃高くなり得る。したがって、例えば、温度定格を約105℃とするのであれば、導入プロセス中にはシーラント材の温度は>115℃、つまり115℃超であることが推奨される。
このことは丈夫な封止部を確保するために重要である。例えば、直径の異なるワイヤを含む大きなワイヤ束構造では、ワイヤ間にいわゆる砲弾構成(cannon ball geometries)が形成される。ワイヤ間の空隙を充填するのは困難な場合がある。したがって、粘度は接着材が空隙に流入できるのに十分な低さであるべきである。
【0011】
接着材の流れ方向に関して、流体の流れは最小抵抗の経路によって決定される。ワイヤの束の場合、最小抵抗の経路はワイヤと並行である。しかしながら、効果的な封止部を形成するためには、接着材はワイヤに対して垂直に流れるべきである。液体化した接着材にワイヤを浸漬したり、物理的に接着材剤をワイヤの間に押し込むなどの、過剰な接着材の使用を含む従来の方法は、大規模用途には望ましくない。
【0012】
内向きの機械的な力を加えることに関して、接着材は熱を加えることによって液体化するので、接着材系の滴下を防止するとともに接着材をワイヤ間に押し込むための内向きの力を提供する構造を有することが望ましい。
【0013】
ワイヤ間を流れて信頼性の高い封止部を提供するためには、導入温度において300Pa.s.未満の粘度を有する接着材料を有することが望ましい。本明細書に記載するシーラント材/接着材料の粘度は、回転レオメータを使用して測定した。この方法では、シーラント材材料の小さい円盤(例えば、厚さ1.5mm~1.8mm、直径25mmの円盤)を回転レオメータのプレート間に設置し、6.28rad/秒の回転運動周波数でせん断する(振動モード)。シーラント材材料の温度を5℃/分の割合および5%のひずみで60℃から140℃へと漸増させ、温度の関数として複素粘度を測定する。より高い粘度を有する接着材料の場合、接着材は、3本のワイヤが互いに接して三角形を形成しているいわゆる砲弾構成の間を、うまく流れない場合がある。三角形の間に閉じ込められた空間は非常に限られており、低粘度の流体しかこれらの空間の間を流れることができない。低粘度接着材の欠点は、それらがワイヤと垂直な方向および砲弾構成間よりも、ワイヤと平行な方向に流れる傾向の方が強いことである。
【0014】
図1Aおよび図1Bは、接着材料105内に入れられた複数本のワイヤ107を含む、第1の封止されたワイヤ束100および第2の封止されたワイヤ束110の実装形態を示す。第2の封止されたワイヤ束110は、以下でより詳細に記載するように、封止されたワイヤ束110の製造性を改善する、接着材料105を覆う熱収縮性材料112を含む。
【0015】
接着材料105は熱可塑性ポリマーおよび様々な添加剤を含んでもよく、それらの組合せおよび相対量は、定格105℃の用途の場合に>105℃の軟化温度、つまり105℃超の軟化温度において接着材に約300Pa.s.未満の粘度を提供するように選択されるが、この粘度は、ワイヤ間の接着材の流れを確保するためにおよび信頼性の高い封止部を提供するために、必要であり得る。同様に、定格125℃の用途では、熱可塑性ポリマーと様々な添加剤の組合せは、>125℃の軟化温度、つまり125℃超の軟化温度を提供するように選択され得る。接着材料105の第1の調合物、第2の調合物、および第3の調合物における材料の組合せおよび相対量が、以下の表1~表3にそれぞれ示されている。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
接着材料105は熱硬化性ポリマーおよび様々な添加剤を含んでもよく、それらの組合せおよび相対量は、硬化前の接着材に約300Pa.s.未満の粘度を提供するように選択されるが、この粘度は、ワイヤ間の接着材の流れを確保するためにおよび信頼性の高い封止部を提供するために、必要であり得る。構造が硬化すると、接着材料は流れなくなる。以下の表に架橋性接着材の例を示す。
【0020】
上記した接着材料105の実装形態のいずれにも、封止特性を改善するための様々な材料を添加することができる。例えば、接着材料105は、上で列挙した粘度特性を犠牲にすることなく熱伝導率を改善するための、フィラー材料を含み得る。フィラー材料は、炭素(例えば、グラファイト、グラフェン、等)、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅含有合金、銅-スズ混合物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化ベリリウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、および/または他のフィラーに相当し得る。
【0021】
図2Aおよび図2Bは、ワイヤ107の束を封止するために利用され得る例示的な接着材構造物200を示す。接着材構造物200は、例えば成形技法または押出成形技法によって、上記した接着材料調合物のいずれかから形成され得る。押出成形の場合、押出成形物を切断して個々の構造物を得てもよい。
【0022】
図示されているように、接着材構造物200はくし状の構造物を画定し得る。例えば、接着材構造物200は、同じ長手方向に延在する上側部分205Aおよび下側部分205Bを含み得る。上側部分205Aと下側部分205Bの間に、複数の垂直部材215が延在し得る。隣り合う垂直部材215はそれらの間に、1本または複数本のワイヤ107を設置するための空間を画定し得る。
【0023】
いくつかの実装形態では、上側部分205Aおよび下側部分205Bの各々が、約10~50mmの幅W1を有する概ね平面的な形状を画定し得る。上側部分205Aおよび下側部分205Bの奥行き(すなわち図面に向かう距離であり、図示されていない)は、約4~15mmであり得る。垂直部材215は、約1~5mmの幅W2、約4~12mmの高さHを有し得、約3~10mmの距離Lだけ離間され得る。垂直部材215は、接着材構造物200の第1の端部210Aと第2の端部210Bの間に等間隔で配置されてもよく、または異なる間隔で配置されてもよい。垂直部材210の幅は1~5mmであり得る。凸部230は0.5~2mmであってもよく、対応する切り欠き235は0.5~2mmであってもよく、隣り合うくし状部材を230および235を介して1つに嵌合できるようになっている。
【0024】
更に他の実装形態では、頂部205Aは、複数の間隙225を画定し得る。各間隙225は、隣り合う垂直部材215の間に画定されている空間220の上方に配設され得る。間隙225は、頂部205Aを通した空間220内へのワイヤ107の挿入を容易にする、約0.5mm~2mmの幅W3を有し得る。
【0025】
いくつかの実装形態では、接着材構造物200の第1の端部210Aにある垂直部材は、凸部230を画定し得、接着材構造物200の第1の端部の反対側の第2の端部210Bにある垂直部材は、凸部230と相補の関係となる凹部235を画定し得る。図3Aに示されているように、凸部230および凹部235によって、複数の接着材構造物200を長手方向に端部を接してスタックするのが容易になる。複数の接着材構造物200をスタックすることによって、単一の接着材構造物200を用いた場合に可能になるよりも大きなワイヤの束の封止が容易になる。いくつかの実装形態では、凸部230および凹部235は、続く製造工程での接着材構造物200の分離を防止するために、互いに対してロックされるように構成される。
【0026】
図3Bに示されているように、接着材構造物200は互いに、隣り合って、またはこれらの組合せで集合することができる。
【0027】
封止されたワイヤの束100を形成するための例示的な工程が、図4に示されている。工程400において、図2Aおよび図2Bの接着材構造物200を用意することができる。工程405において、図5に示されているように、接着材構造物200の垂直部材215間に画定される空間220内に、ワイヤ107を挿入することができる。
【0028】
工程407において、接着材構造物200およびワイヤを、例えば、図6に示すように使用され得る熱収縮性チューブ、熱収縮性スリーブ、熱収縮性テープ、熱収縮性グロメット、または熱収縮性ブーツなどの、熱収縮性構造内に挿入することができる。以降の工程で加熱されると、熱収縮性構造は接着材構造物200に緊締力(constricting force)を及ぼし、接着材料がワイヤ107間の空隙に確実に流入するのを助ける。
【0029】
熱収縮性構造は、架橋ポリオレフィン(例えばポリエチレンコポリマー)またはフルオロポリマー(例えば、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE))または非架橋材料(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET))などの材料から形成することができ、シーラント材(例えば、ポリマー系材料がポリアミドまたはエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)などのポリエチレンコポリマーであるシーラント材)を用いても用いなくてもよい。市販の熱収縮性スリーブ605を利用してもよい。熱収縮性スリーブ605を形成する材料は、半径方向の収縮が75℃~325℃の間で5~80%であり得る。
【0030】
収縮前の熱収縮性材料の壁厚さは、約0.5~2mmの間であり得る。熱収縮性材料は、4:1、3:1、2:1、1.5:1の収縮率、または異なる収縮率を有し得る。収縮温度は約100~150℃の間であり得る。PTFEなどのフルオロポリマー系の構造では、収縮温度は325℃超であり得る。
【0031】
熱収縮性構造は、単一壁または二重壁の構造物であってもよい。二重壁の熱収縮性構造物は、外側ジャケットと内側層とを含み得る。二重壁の熱収縮性構造物中の内側層は、熱を加えると溶融および流動できる接着材系で構成されてもよい。
【0032】
工程410において、第1の加熱操作を実行して、接着材構造物200を、中に挿入されたワイヤ107によって予熱することができる。例えば、接着材構造物200に第1の熱量が適用され得る。第1の熱量は、熱収縮性構造を有意に回復させることなく、接着材構造物を軟化または溶融させることができる。例えば、ある実装形態では、中にワイヤが挿入されている接着材構造物200は、接着材構造物200の温度を上昇させるために、約50℃から120℃の間の温度に約1分間に曝される。
【0033】
いくつかの実装形態では、中にワイヤ107が挿入されている接着材構造物200は、図6Aまたは図6Bに示されている例示的な加熱装置600および610などの、接着材構造物200を加熱するように特別に構成されている加熱装置内に挿入され得る。そのような特別に構成された加熱装置600および加熱装置610により、接着材構造物200の加熱均一性の改善が促進され得る。
【0034】
図6Aの加熱装置600および図6Bの加熱装置610は、熱収縮チューブ605の上方および下方から熱を加えることができ、接着材200がワイヤ107間に流れることを可能にする。予熱することによって塗布時間をより速くすることができる。図6Aの加熱装置600は、誘導性または抵抗性の加熱技法を利用し得る。図6Bの加熱装置610はIR加熱を利用してもよく、その場合、加熱装置610のIRヒータの表面は、300℃から700℃となり得る。
【0035】
加熱装置は、異なる構成を有する接着材構造物を加熱するように特別的に構成され得ることが、理解されるべきである。
【0036】
工程415において所定の時間を待機した後で、工程425において、接着材構造物200およびワイヤ107に対して第2の加熱操作を実行して、接着材構造物200を溶融させることができる。第2の加熱操作によって、熱収縮性構造の十分な回復が可能になるとともに、接着材構造物200が少なくとも1つの断面において空隙を完全に充填することが可能になる。第2の加熱装置の例としては、300~700℃の表面温度を有するIRヒータが挙げられる。第1の加熱操作における接着材構造物200の予熱によって、第2の加熱操作において接着材構造物200を均一に溶融させるために必要な時間が短くなる。
【0037】
いくつかの実装形態では、図7の加熱装置700などの加熱装置は、構造物の露出した外面に熱を加えるために利用され得る。例えば、加熱装置700は、1対の圧縮プレート705A、705Bを含み得る。1対の圧縮プレート705A、705Bは、中にワイヤ107が挿入されている覆われた(wrapped)接着材構造物105に同時に圧力を加え、これを加熱することができる。圧縮プレート705A、705Bの領域707の内部は、接着材を円筒形状などの所望の形状に形成するように構成され得る。
【0038】
工程430において、封止されたワイヤ束100を、第2の加熱装置700から取り外す前に放冷することができる。その後では、封止されたワイヤ束100の断面は図8に示すようになり得る。示されているように、接着材構造物200は十分に溶融し、接着材料はワイヤ107間のあらゆる空隙を充填する。その後、構造物に、意図する目的に合わせた仕上げを行うことができる。例えば、封止されたワイヤ束100には、封止されたワイヤ束100が車両の防火壁の開口部内にぴったりと嵌合され、それによりエンジン室から車両の車室内への水の進入が防止され得るような、自動車環境での使用が容易になるような仕上げを行ってもよい。
【0039】
ワイヤの束を封止するための組立体および方法について特定の実施形態を参照して記載してきたが、本願の特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる、および等価物で置換を行うことができることが、当業者には理解されるであろう。
【0040】
例えば、図9Aおよび図9Bに示されているように、第1の加熱操作中に接着材構造物を予熱することに加えてまたはその代わりに、抵抗性要素905をワイヤ107と一緒に束ねて接着材構造物200の中に入れてもよい。次いで第2の加熱操作中に、抵抗性要素905の電極の両端に電位を印加して、抵抗性要素905を所望の温度まで加熱してもよい。例えば、抵抗器と電圧の組合せは200~600Wの電力を生成するように選択することができ、この電力は、中央領域を約1~2分で約120℃の温度まで加熱し得る。
【0041】
電圧の印加後、第2の加熱操作中に、中に抵抗性要素905を有する覆われた束を加熱してもよい。このようにして、覆われた接着材構造物200の内部およびワイヤ107から加えられる熱と、加熱装置を介して接着材構造物200の外部およびワイヤ107に加えられる熱とを組み合わせることにより、覆われた接着材構造物200およびワイヤ107の、より短い時間での均一な加熱が促進される。
【0042】
更に他の実装形態では、接着材構造物は、異なる形状を有し得る。例えば、図10Aおよび図10Bを参照すると、接着材構造物は凸部もしくは凹部を有さなくてもよく(図10Aを参照)、かつ/または、ワイヤの挿入が容易になるように頂部1005がめくれて開くように構成されている、概ね卵型の断面を有し得る(図10Bを参照)。
【0043】
図11A図11Dに示されているように、接着材構造物は、概ね円形または半円形の形状を有し得る。図11Aの円形状の構造物1100は、図11Bにも示されているように、構造物1100を開くのを容易にしてワイヤの設置を容易にする、間隙1105を含み得る。図11Cの円形状の構造物1110は、構造物1110内へのワイヤの設置を容易にするための間隙1105を周縁に沿って有する、ハブ-スポーク構成を有し得る。
【0044】
封止されたワイヤ束100の製造性を改善するために、他の工程を実行してもよい。例えば、図12Aおよび図12Bに示されているように、ワイヤ107を、上記した材料のうちの1つから形成された第1の接着材構造物200、1110内に設置してもよい。図示されているように、第1の接着材構造物200、1110よりも高い粘度を有する材料から形成された第2の接着材構造物1205A、1205Bおよび第3の接着材構造物1210A、1210Bを、第1の接着材構造物200、1110の両端に設置してもよい。第2の接着材構造物1205A、1205Bおよび第3の接着材構造物1210A、1210Bは、同じ材料であっても異なる材料であってもよい。
【0045】
第2の接着材構造物1205A、1205Bおよび第3の接着材構造物1210A、1210Bは、約0.5~2mmの間の厚さを有してもよく、上記した低接着性の材料よりも高い粘度を有する接着材料から形成されてもよい。高粘度接着材料は以下のパラメータによって特徴付けられる。
【0046】
【表4】
【0047】
高粘度接着材の接着化学特性は低粘度接着材と同様であり得、より高い粘度は、例えばより分子量が高いポリマーを使用することによっておよび/またはシリカフィラーなどのフィラーを添加することによって達成され得る。当業者に知られている他の様式が利用され得る。
【0048】
第2の接着材構造物1205A、1205Bおよび第3の接着材構造物1210A、1210Bは、上で列挙した粘度特性を犠牲にすることなく熱伝導率を改善するためのフィラー材料、および、長時間の温度エージング特性(long-time temperature aging characteristics)を改善するための安定剤材料(stabilizer materials)を含み得る。
【0049】
3つ全ての構造物200、1110、1205A、1205B、1210A、1210Bは、接着材構造物200、1110、1205A、1205B、1210A、1210Bのそれぞれの温度を融点近くまで上昇させるように、予熱してもよい。次いで第2の加熱操作中に、接着材構造物200、1110、1205A、1205B、1210A、1210Bを溶融させて、ワイヤを封止する。より高い粘度を有する第2の構造物1205A、1205Bおよび第3の接着材1210A、1210Bは、より低い粘度を有する第1の接着材構造物200、1110が溶融時にワイヤ束の間から浸み出すのを防止するのに役立ち得る。
【0050】
接着材構造物の実装形態において低粘度接着材料と高粘度接着材料の組合せを利用する他の実装形態が、図13図14A、および図14Bに示されている。
【0051】
図13に示されているように、上記したくし状の構造物1300は、図示されているように、低粘度材料1310および高粘度材料1320の両方から形成され得る。
【0052】
図14Aは、両縁部が高粘度接着材を有し中央が低粘度接着材を有する、多粘度の接着材ストリップを示す。高粘度接着材は、ワイヤと平行な流れを防止するための、低粘度接着材のための障壁として作用する。示されているように、ワイヤ束上に、高-低-高粘度の接着材ストリップを設置することができる。次に熱収縮チューブ接着材がストリップの上部に挿着され得る。
【0053】
別法として、図14Bに示すように、接着材ストリップ1400を熱収縮チューブスリーブ1405内に事前に導入してもよく、この場合、図示されているようにストリップ1400が、熱収縮性スリーブ1405の内面に全体的に追従する。加熱されると、熱収縮性スリーブ1405は、接着材ストリップ1400が溶融するにつれこれを圧縮する。接着材ストリップ1400の高粘度材料区域1410a,1410bは、収縮中に低粘度材料区域1415の体積を熱収縮性スリーブ1405内に維持するのを助ける。
【0054】
いくつかの実装形態では、接着材ストリップ1400は、熱収縮性スリーブ1405の内面の一方側に配置され得る。他の実装形態では、接着材ストリップ1400は、熱収縮性スリーブ1405の内面の大部分または全部を覆ってもよい。更に他の実装形態では、熱収縮性スリーブ1405内の第1の接着材ストリップ1400に対向する側に、第2の接着材ストリップを配置してもよい。
【0055】
更に他の実施形態では、熱収縮性構造を利用して、封止されたワイヤの束が形成される
。熱収縮性構造は、上記した任意の熱収縮性材料から形成された外側の熱収縮性のものと、上記した任意の接着材料から形成された内側の接着材層と、を有し得る。封止されたワイヤの束を形成するための工程は、図4で上記した対応する工程と類似している、図15のステップ1500~1520で提示されている。
【0056】
図16Aおよび図16Bは、図15の工程の適用後の、それぞれ熱を加える前および加えた後の、熱収縮性構造の中に挿入されたワイヤ束を示す図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16