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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ヒンジ
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/04 20060101AFI20240123BHJP
   F16C 11/10 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F16C11/04 F
F16C11/10 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022167719
(22)【出願日】2022-10-19
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 雅尚
(72)【発明者】
【氏名】平田 真之
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0062413(US,A1)
【文献】特開2015-530506(JP,A)
【文献】特開2010-500492(JP,A)
【文献】特開平8-312237(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0155784(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0007380(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0272481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00
-11/12
F16B 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉位置と開位置との間で相対的に旋回可能な第一の部材及び第二の部材を軸支し、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍の角度位置にあるときには第一の部材又は第二の部材を閉位置に引き込むが、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍を超えた角度位置にあるときにはその角度位置を保持するヒンジであって、
第一の部材に固定されて支持軸上を軸方向に延びるシャフトと、前記シャフトが挿通される片側部材及び他側部材とを具備し、前記片側部材及び前記他側部材は軸方向に隣接して配置されており、
前記片側部材は保持手段が有する保持トルクによって前記シャフトに相対回転可能に接続され、
前記他側部材は第二の部材に接続されてこれに対して軸方向への移動は許容されるが周方向への移動は制限されており、
前記他側部材の外周面には挿通された前記シャフトに連通する溝が、前記シャフトの外周面には穴が夫々形成されていて、前記溝においてピンが前記穴に挿通せしめられることで、前記他側部材は前記シャフトにも接続されており、
前記溝は軸方向に傾斜して周方向に延在する誘導領域と、周方向に直線状に延在する保持領域とに区画され、第一の部材又は第二の部材が閉位置から開位置まで旋回開動せしめられると、前記ピンは相対的に前記誘導領域における前記溝の一端から前記保持領域における前記溝の他端まで移動せしめられ、
軸方向に隣接して配置された前記片側部材及び前記他側部材の相互に対向する面には夫々片側係合手段及び他側係合手段が配設されており、
第一の部材又は第二の部材が閉位置にあるときは、前記片側部材と前記他側部材とは離隔し、
第一の部材又は第二の部材が閉位置から旋回開動せしめられると、前記ピンが前記溝の前記誘導領域に位置する間は、前記他側部材は前記シャフトに対し回転しながら前記片側部材に接近し、前記ピンが前記溝の前記誘導領域と前記保持領域との境界に到達したときには、前記他側係合手段が前記片側係合手段に摩擦係合せしめられて前記他側部材は前記片側部材と一体となって回転可能であり、前記ピンが前記溝の前記保持領域に位置する間は、前記他側部材は前記摩擦係合により前記片側部材と一体となって前記保持手段による前記保持トルクに抗して前記シャフトに対して回転せしめられる、ヒンジ。
【請求項2】
前記片側部材と前記他側部材との間には、両部材間に斥力を常時作用せしめる弾性部材が配設されている、請求項1に記載のヒンジ。
【請求項3】
前記片側係合手段及び前記他側係合手段は共に前記支持軸を軸として軸方向に突出した円筒壁の突出端面に形成された凹凸であり、前記凹凸は周方向に交互に繰り返し多数形成されている、請求項1に記載のヒンジ。
【請求項4】
前記他側部材は第二の部材に固定されるステーを介して第二の部材に接続せしめられ、前記ステーは内側に前記他側部材が隙間嵌合せしめられる中空嵌合部を備えている、請求項1に記載のヒンジ。
【請求項5】
前記溝は180度の角度間隔をおいて2つ形成され、2つの前記溝は前記支持軸を軸とした点対称の位置関係にあり、前記シャフトに形成された前記穴は前記支持軸に対して垂直に貫通しており、単一の前記ピンが前記穴に挿通せしめられると、前記ピンの一方端部が2つの前記溝の一方に、他方端部が2つの前記溝の他方に位置する、請求項1に記載のヒンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉位置と開位置との間で相対的に旋回可能な第一の部材及び第二の部材を軸支するヒンジ、殊に第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍の角度位置にあるときには第一の部材又は第二の部材を閉位置に引き込むが、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍を超えた角度位置にあるときにはその角度位置を保持するヒンジに関する。
【背景技術】
【0002】
閉位置と開位置との間で相対的に旋回可能な第一の部材及び第二の部材を軸支するヒンジとして、トルクリミッタの利用形態の一つでもあるトルクヒンジが従前より知られている。トルクヒンジによって軸支された第一の部材及び第二の部材は所要保持トルクに抗して相対的に旋回せしめられ、かかる旋回が停止せしめられると、閉位置と開位置との間の任意の中間角度位置にあっても上記保持トルクによって角度位置が保持される。上記保持トルクは通常、ばねの如き弾性体が弾性変形した際の復元力によって生成される。下記特許文献1にはトルクヒンジの一例が開示されている。
【0003】
また、下記特許文献2には、上記トルクヒンジに類するヒンジとして、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍の角度位置にあるときには第一の部材又は第二の部材を閉位置に引き込むが、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍を超えた角度位置にあるときにはその角度位置を保持するヒンジが開示されている。かかるヒンジは支持軸上で軸方向に隣接して配置される凹カム7及び凸カム8を備えており、凹カム7は第二の部材に固定される第2ブラケット2に、凸カム8は第一の部材に固定される第1ブラケット1に夫々接続されている。凹カム7及び凸カム8の相互に対向する面には夫々周方向に延在して相互に嵌合可能な凹部7b及び7c並びに凸部8b及び8cが形成されている。第一の部材又は第二の部材が閉位置にあるとき、凸部8b及び8cが凹部7b及び7cに嵌入しており、凹カム7及び凸カム8の軸方向長さは最小となる。そして、第一の部材又は第二の部材が閉位置から旋回開動せしめられると、凸部8b及び8cは凹部7b及び7cに対して周方向に移動する。凹部7b及び7c並びに凸部8b及び8cの周方向両側面は周方向外側に向かって傾斜せしめられているため、凸部8b及び8cが凹部7b及び7cに対して周方向に移動すると、凸部8b及び8cが凹部7b及び7cの周方向側面に乗り上げ、これによって凹カム7及び凸カム8の軸方向長さが延びる。そして、凸部8b及び8cが凹部7b及び7cの周方向側面を乗り越えて凹部7b及び7cから脱出すると、凹カム7及び凸カム8の軸方向長さは最大となる。凸カム8の背面つまり凹カム7とは軸方向反対側には弾性手段4が隣接して配設されており、凹カム7及び凸カム8の軸方向長さが延びると、凸カム8は弾性手段4によって凹カム7に向かって軸方向に押圧される。凹カム7の前方には第2ブラケット2に当接するスペーサー部材5aが配設されており、凸カム8は凹カム7を介してスペーサー部材5aを第2ブラケット2に押圧することとなる。これにより第2ブラケット2には所要抵抗トルクが発生し、かかる抵抗トルクによって第一の部材又は第二の部材は上記中間角度位置にて保持される。一方、凹カム7及び凸カム8の軸方向長さが最小のときは、凸カム8は弾性手段4によって軸方向に押圧されない。このことから、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍にあるときには凸部8b及び8cの側面が凹部7b及び7cの側面に当接し、これら側面はいずれも周方向外側に向かって傾斜せしめられていることから、凸部8b及び8cは凹部7b及び7cの底面に誘導される。かくして第一の部材又は第二の部材は閉位置に引き込まれる。かようなトルクヒンジはディテントトルクヒンジと称されることもある。なお、第一の部材又は第二の部材が閉位置に引き込まれる閉位置近傍の角度領域のことを「引き込み領域」と称す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6866529号公報
【文献】特開2015-48906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたトルクヒンジにあっては、使用者は第一の部材又は第二の部材を閉位置にするためにこれを上記保持トルクに抗して強制的に旋回閉動せしめる。而して、上記特許文献1に開示されたトルクヒンジにあっては、第一の部材又は第二の部材には常時保持トルクが作用しているため、第一の部材又は第二の部材の剛性や弾性体の所謂スプリングバックに起因して、使用者が第一の部材又は第二の部材を閉位置に強制的に旋回閉動せしめても、使用者が旋回閉動せしめた部材から手を離すとその部材は閉位置から反発して幾分旋回開動してしまいこれを閉位置に位置付けることができない。第一の部材及び第二の部材を閉位置に位置せしめるために、閉位置にて第一の部材及び第二の部材を解除可能に係止せしめる係止手段を両部材に夫々配設する場合もあるが、部品点数の増加、使用時の煩雑さ、美観等の観点から好ましくない。
【0006】
上記特許文献2に開示されたヒンジによれば、特許文献1が有する上述した課題を解決することができるが、特許文献2に開示されたヒンジには以下のとおりの課題が存在する。即ち、特許文献2に開示されたヒンジにあっては、同文献の図8に明確に示されているとおり、第一の部材又は第二の部材が旋回開動せしめられて引き込み領域を脱出する際に抵抗トルクがオーバーシュートしてしまうため、引き込み領域前後での官能性が好ましくない。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、第一の部材又は第二の部材を閉位置から引き込み領域を超えて開位置へ充分円滑に旋回開動させることのできる、新規のヒンジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を解決するヒンジとして、閉位置と開位置との間で相対的に旋回可能な第一の部材及び第二の部材を軸支し、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍の角度位置にあるときには第一の部材又は第二の部材を閉位置に引き込むが、第一の部材又は第二の部材が閉位置近傍を超えた角度位置にあるときにはその角度位置を保持するヒンジであって、
第一の部材に固定されて支持軸上を軸方向に延びるシャフトと、前記シャフトが挿通される片側部材及び他側部材とを具備し、前記片側部材及び前記他側部材は軸方向に隣接して配置されており、
前記片側部材は保持手段が有する保持トルクによって前記シャフトに相対回転可能に接続され、
前記他側部材は第二の部材に接続されてこれに対して軸方向への移動は許容されるが周方向への移動は制限されており、
前記他側部材の外周面には挿通された前記シャフトに連通する溝が、前記シャフトの外周面には穴が夫々形成されていて、前記溝においてピンが前記穴に挿通せしめられることで、前記他側部材は前記シャフトにも接続されており、
前記溝は軸方向に傾斜して周方向に延在する誘導領域と、周方向に直線状に延在する保持領域とに区画され、第一の部材又は第二の部材が閉位置から開位置まで旋回開動せしめられると、前記ピンは相対的に前記誘導領域における前記溝の一端から前記保持領域における前記溝の他端まで移動せしめられ、
軸方向に隣接して配置された前記片側部材及び前記他側部材の相互に対向する面には夫々片側係合手段及び他側係合手段が配設されており、
第一の部材又は第二の部材が閉位置にあるときは、前記片側部材と前記他側部材とは離隔し、
第一の部材又は第二の部材が閉位置から旋回開動せしめられると、前記ピンが前記溝の前記誘導領域に位置する間は、前記他側部材は前記シャフトに対し回転しながら前記片側部材に接近し、前記ピンが前記溝の前記誘導領域と前記保持領域との境界に到達したときには、前記他側係合手段が前記片側係合手段に摩擦係合せしめられて前記他側部材は前記片側部材と一体となって回転可能であり、前記ピンが前記溝の前記保持領域に位置する間は、前記他側部材は前記摩擦係合により前記片側部材と一体となって前記保持手段による前記保持トルクに抗して前記シャフトに対して回転せしめられる、ヒンジが提供される。
【0009】
好ましくは、前記片側部材と前記他側部材との間には、両部材間に斥力を常時作用せしめる弾性部材が配設されている。前記片側係合手段及び前記他側係合手段は共に前記支持軸を軸として軸方向に突出した円筒壁の突出端面に形成された凹凸であり、前記凹凸は周方向に交互に繰り返し多数形成されているのがよい。好適には、前記他側部材は第二の部材に固定されるステーを介して第二の部材に接続せしめられ、前記ステーは内側に前記他側部材が隙間嵌合せしめられる中空嵌合部を備えている。前記溝は180度の角度間隔をおいて2つ形成され、2つの前記溝は前記支持軸を軸とした点対称の位置関係にあり、前記シャフトに形成された前記穴は前記支持軸に対して垂直に貫通しており、単一の前記ピンが前記穴に挿通せしめられると、前記ピンの一方端部が2つの前記溝の一方に、他方端部が2つの前記溝の他方に位置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヒンジは支持軸上で軸方向に隣接して配置された片側部材及び他側部材を備えており、片側部材及び他側部材は、軸支される第一の部材及び第二の部材が閉位置にあるときには軸方向に間隔をおいて位置し、第一の部材又は第二の部材が引き込み領域にて閉位置から開位置へ旋回開動せしめられると、他側部材は回転しながら片側部材に接近する。片側部材及び他側部材の相互に対向する面には夫々片側係合手段及び他側係合手段が形成されており、上記接近により片側係合手段が他側係合手段に摩擦係合することで、片側部材及び他側部材は一体となって保持手段による所要保持トルクに抗してシャフトに対して回転を開始する。つまり、本発明のヒンジでは、第一の部材又は第二の部材が閉位置から旋回開動せしめられて引き込み領域を脱出する際に片側係合手段と他側係合手段とはいわば摩擦クラッチのように作用するため、旋回開動する第一の部材又は第二の部材に作用する抵抗トルクはオーバーシュートすることなく漸次増大せしめられる。それ故に、使用者は第一の部材又は第二の部材を閉位置から引き込み領域を超えて開位置へ官能性良く旋回開動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に従って構成されたヒンジが用いられる蓋付き箱の一例を示す図。
図2】本発明に従って構成されたヒンジの好適実施形態の構成図。
図3図2に示すヒンジの分解斜視図。
図4図2に示すヒンジが備える保持手段がシャフトに組み合わされた状態の図。
図5図2に示すヒンジが備える片側部材を単体で示す図。
図6図2に示すヒンジが備える他側部材を単体で示す図。
図7-1】図2に示すヒンジの作動を説明するための図。
図7-2】図2に示すヒンジの作動を説明するための図。
図7-3】図2に示すヒンジの作動を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0013】
本発明に従って構成されるヒンジの好適実施形態に関する説明に先立ち、便宜上このヒンジが用いられた蓋付き箱の一例について図1を参照して説明する。箱100は直方体形状であって4つの側壁102a乃至102d(図示しない側壁102dは側壁102bと対向する側壁)及び図示しない底壁によって外周面及び底面は閉塞されている。箱100の上面の片側は矩形形状の上面壁104によって閉鎖されており、上面の他側には矩形形状の開口部106が形成されている。蓋108は開口部106に対応する薄板形状であって、本発明に従って構成されるヒンジ2によって開口部106を覆う閉位置と開口部106を露呈せしめる開位置との間で旋回可能となるよう箱100に接続される。ヒンジ2の支持軸oは上面壁104と開口部106との境界に位置し、ヒンジ2は蓋108の両側側面に夫々配設されている。一方のヒンジ2にあっては、後述する第一ステー12が箱100の側壁102aの内面に、後述する第二ステー44が蓋108の片側側面に夫々固定せしめられ、図示しない他方のヒンジ2にあっては、後述する第一ステー12が箱100の側壁102cの内面に、後述する第二ステー44が蓋108の他側側面に夫々固定せしめられる。
【0014】
続いて、本発明に従って構成されるヒンジの好適実施形態について説明する。なお、以下の説明における「軸方向片側」及び「軸方向他側」とは、特に指定しない限り、図2のA-A断面に示される状態を基準として、「軸方向片側」は同図において左側を、「軸方向他側」は同図において右側のことを言う。
【0015】
図2及び図3を参照して説明すると、本発明に従って構成されるヒンジの好適実施形態であるヒンジ2は支持軸o上を軸方向に延びるシャフト4と、このシャフト4が挿通される片側部材6及び他側部材8とを具備している。片側部材6及び他側部材8はシャフト4上で軸方向に隣接して配置されている。
【0016】
図2及び図3と共に図4も参照して説明すると、シャフト4は軸方向片側端部を除いて断面円形である、シャフト4の軸方向片側端部には外周面の一部を切り欠いて断面が非円形である連結部10が形成されている。連結部10は箱100の如き第一の部材に固定せしめられる平板形状の第一ステー12に形成された連結穴14に嵌め合わされる。このことから、図示の実施形態においては、シャフト4は第一ステー12を介して第一の部材に固定される。図示の実施形態においては更に、シャフト4の軸方向他側端部の外径が低減せしめられており、シャフト4の軸方向他側端部は転がり軸受16を介して後述する第二ステー44に軸支される。シャフト4の軸方向他側端部の外周面には周方向に連続して延びる環状の溝18が形成されており、シャフト4の軸方向他側端部が第二ステー44に軸支された状態で溝18にCリング20が嵌め合わされることで、シャフト4が第二ステー44から抜け落ちることは防止される。シャフト4の軸方向中間部の外周面にも周方向に連続して延びる環状の溝22が形成されている。シャフト4の軸方向中間部の外周面には更に、軸方向に対して垂直に延びる穴24も形成されている。図示の実施形態においては、穴24は溝22よりも幾分軸方向他側に形成されており、穴24は軸方向に対して垂直に貫通している。
【0017】
図2及び図3と共に図5を参照して説明すると、片側部材6は軸方向に対して垂直に配置される略正方形の端板26と端板26の外周縁から軸方向片側に延びる角筒状の外周壁28とから構成されている。端板26の中央には円形の貫通穴30が形成されており、この貫通穴30にシャフト4は挿通せしめられる。端板26の軸方向他側面には、貫通穴30の外周縁を囲繞して軸方向に突出する片側円筒壁32が形成されており、片側円筒壁32の突出端面には片側係合手段34が形成されている。片側係合手段34は周方向に交互に繰り返し多数形成された凹凸である。
【0018】
片側部材6は保持手段が有する保持トルクによってシャフト4に相対回転可能に接続される。図2及び図3と共に再度図4を参照して説明すると、図示の実施形態においては、全体を番号36で示す保持手段はシャフト4の外周面の所要部位に嵌め合わされた積層された複数枚(図示の実施形態においては4枚)のC字形状の板ばね38と板ばね38をシャフト4に保持する保持具40とから構成される。保持具40は積層された複数枚の板ばね38をこれが挿通せしめられたシャフト4の一部と共に適宜の合成樹脂材料でインサート成形することで形成される。形成された保持具40は積層された複数枚の板ばね38と共にシャフト4に対して回転可能であり、積層された複数枚の板ばね38とシャフト4との間で所要保持トルク(抵抗トルク)が発生する。かような保持手段36の詳細については、上記特許文献1を参照されたい。保持具40の外形は略立方体形状であって、その外周面の断面形状は片側部材6の外周壁28の内周面の断面形状と対応し、保持具40は外周壁28の内側に嵌め合わされる。上述したとおり、シャフト4の軸方向片側端部に形成された連結部10が第一ステー12に形成された連結穴14に嵌め合わされることでシャフト4は第一ステー12に連結せしめられるが、第一ステー12と保持具40との間に隙間があると安定性が良好でないため、かかる隙間には円環形状のスペーサー42が配置される。
【0019】
図2及び図3を参照して説明すると、他側部材8は軸方向に見て略正方向形であって所要軸方向幅を備えており、蓋108の如き第二の部材に接続されてこれに対して軸方向への移動は許容されるが周方向への移動は制限される。図示の実施形態においては、他側部材8は第二ステー44を介して第二の部材に接続される。第二ステー44は第二の部材に固定される平板形状の主部46と主部46の一端に付設された中空嵌合部48とを備えている。中空嵌合部48は軸方向に対して垂直に配置される底壁48aと底壁48aの外周縁から軸方向片側に延びる保持筒48bとを備えており、保持筒48bの軸方向片側端部の外周面に主部46の一端が接続されている。保持筒48bの内周面の断面形状は他側部材8の外周面の断面形状に対応する略正方形であって、他側部材8は保持筒48bの内側に隙間嵌合せしめられてこれに対して回転不能となる。また、保持筒48bの軸方向内寸は他側部材8の軸方向長さよりも長く、他側部材8は保持筒48bの内側においてこれに対して軸方向に移動可能となる。なお、他側部材8はシャフト4に接続された後に保持筒48bの内側に隙間嵌合せしめられる(他側部材8とシャフト4との接続に関しては後述する)。底壁48aには転がり軸受16が収容される軸受け部50及びシャフト4の軸方向他側端部が挿通せしめられる円形の中央貫通穴52が形成されている。
【0020】
図2及び図3と共に図6を参照して説明すると、他側部材8の中央には軸方向に延びる円形の貫通穴54が形成されており、この貫通穴54にシャフト4は挿通せしめられる。他側部材8の外周面には貫通穴54に連通する溝56が形成されており、貫通穴54にシャフト4が挿通された状態で、ピン58が他側部材8の外側から溝56を介してシャフト4の外周面に形成された穴24に挿通されることで、他側部材8はシャフト4にも接続される。溝56は周方向に延在しており、後述するとおり他側部材8がシャフト4に対して回転すると、ピン58は相対的に溝56に沿って移動する。換言すれば、シャフト4に対する他側部材8の回転はピン58が溝56に沿って移動する範囲に制限される。ピン58はシャフト4つまり第一の部材に対して回転不能であると共に、溝56が形成されている他側部材8は第二の部材に対して回転不能であることから、ピン58が溝56の両端に位置するときが第一の部材又は第二の部材の閉位置又は開位置となる。ここで、本発明に従って構成されるヒンジにあっては、溝56は軸方向に傾斜して周方向に延在する誘導領域60と、周方向に直線状に延在する保持領域62とに区画され、第一の部材又は第二の部材が閉位置から開位置まで旋回開動せしめられると、ピン58は相対的に誘導領域60における溝56の一端56aから保持領域62における溝56の他端56bまで移動せしめられる。図示の実施形態においては、溝56は180度の角度間隔をおいて2つ形成されている。そして、2つの溝56は支持軸oを軸とした点対称の位置関係にあり、ピン58がシャフト4の外周面に形成された穴24に挿通せしめられると、ピン58の一方端部は2つの溝56の一方に、他方端部は2つの溝56の他方に夫々位置することとなる。溝56は1つのみ形成されていれば良いが、図示の実施形態のように、単一のピン58が2つの溝56の各々に共通して挿通せしめられることで、後述するとおり他側部材8がシャフト4に対して回転しながら軸方向に移動する際にはシャフト4に対する他側部材8の姿勢が安定し、これにより他側部材8はシャフト4に対して円滑に移動することができる。
【0021】
他側部材8の軸方向片側面には、貫通穴54の外周縁を囲繞して軸方向に突出する他側円筒壁64が形成されており、他側円筒壁64の突出端面には他側係合手段66が形成されている。他側係合手段66は周方向に交互に繰り返し多数形成された凹凸である。他側係合手段66は上述した片側係合手段34と軸方向において対向し、第一の部材又は第二の部材が閉位置にあるときは、片側部材6と他側部材8とは離隔して片側係合手段34と他側係合手段66との係合は解除される。図示の実施形態においては、片側部材6と他側部材8との間には、両部材間に斥力を常時作用せしめる板ばねの如き環状の弾性部材68が複数(図示の実施形態においては4枚)配設されている。これら弾性部材68は片側部材6の片側円筒壁32及び他側部材8の他側円筒壁64の外周面を囲繞して配置されている。視認容易性の観点から、弾性部材68は図2では二点鎖線で、図7-1乃至図7-3では省略して示す。
【0022】
続いて、図7-1乃至図7-3を参照してヒンジ2の作動について説明する。図7-1乃至図7-3夫々の中央図及びその一部を拡大して示す右図においては、第二ステー44の中空嵌合部48の内部を実線で示し、第二ステー44自身は想像線(二点鎖線)で示している。以下の説明では、図1に示す蓋付き箱を例として、第一の部材が固定の箱100に、第二の部材が箱100に対して旋回可能な蓋108に夫々相当するものとして説明する。図7-1乃至図7-3と共に図1を参照して説明すると、図示の実施形態においては、第一の部材に対して第二の部材が閉位置にあるとき、図7-1に示すとおり、第一の部材(箱100)に固定された第一ステー12及び第二の部材(蓋108)に固定された第二ステー44は支持軸oを中心として180度開いた状態となる。この状態にあっては、上述したとおりピン58は誘導領域60における溝56の一端56aに位置し、片側部材6と他側部材8とは離隔して片側係合手段34と他側係合手段66との係合は解除されている。
【0023】
図7-1に示す状態、つまり第二の部材が第一の部材に対して閉位置にある状態から第二の部材が第一の部材に対して旋回開動せしめられると、第二ステー44と共にこれが有する中空嵌合部48に嵌め合わされた他側部材8は、軸方向片側から見て支持軸oの回りを反時計方向に回転せしめられる。図7-1乃至図7-3の中央図には、上記旋回開動が遂行された際の他側部材8の回転方向が矢印で示されている。他側部材8が上記方向に回転せしめられることで、図7-2に示すとおり、ピン58は溝56の一端56aから他端56bに向かって溝56に沿って相対的に移動する。このとき、溝56の誘導領域60は軸方向に傾斜、更に詳しくは他側部材8の回転方向(矢印で示す方向)に見て軸方向他側から軸方向片側に向かってつまり片側部材6に接近する方向に傾斜して周方向に延在していることに起因して、他側部材8が上記方向に回転せしめられてピン58が相対的に溝56の一端56aから他端56bに向かって誘導領域60に沿って移動すると、他側部材8は片側部材6に接近せしめられる。つまり、他側部材8は反時計方向に回転しながら片側部材6に接近せしめられる。図示の実施形態においては、片側部材6と他側部材8との間には両部材間に斥力を常時作用せしめる弾性部材68が配設されているため、他側部材8は弾性部材68による斥力に抗して片側部材6に接近する。そして、片側部材6及び他側部材8の相互に対向する面には夫々片側係合手段34及び他側係合手段66が配設されていることから、他側部材8が片側部材6に接近して他側係合手段66が片側係合手段34に当接してこれに密接せしめられると、両者間の摩擦によって他側係合手段66と片側係合手段34とは係合(摩擦係合)せしめられ、他側部材8は片側部材6と一体となって片側部材6に接続された保持手段36が有する保持トルクに抗してシャフト4に対して回転する。他側係合手段66は、ピン58が溝56の誘導領域60と保持領域62との境界(図7-2に示す状態)に到達するまでには、片側係合手段34に摩擦係合せしめられて他側部材8は片側部材6と一体となって回転可能となる。図示の実施形態においては、ピン58が溝56の誘導領域60と保持領域62との境界(図7-2に示す状態)に到達したときに、他側部材8は片側部材6と一体となって回転可能となる。図7-2に示す状態から第二の部材が第一の部材に対して更に旋回開動せしめられると、ピン58は溝56の他端56bに向かって保持領域62に沿って相対的に移動する。溝56の保持領域62は軸方向に傾斜することなく周方向にのみ延在することから、ピン58が溝56の保持領域62に位置するときに第二の部材が旋回開動しても他側部材8が片側部材6に接近することはなく、他側部材8は上記摩擦係合により片側部材6と一体のまま上記保持トルクに抗してシャフト4に対して回転する。そして、ピン58が溝56の他端56bに到達することで、第二の部材の旋回開動は停止せしめられ、第二の部材は開位置に位置せしめられる。図示の実施形態においては、第二の部材が閉位置から18°旋回開動せしめられることでピン58が溝56の誘導領域60から保持領域62に移行し、閉位置から78°旋回開動せしめられることで開位置に到達する。
【0024】
ここで、第一の部材に対する第二の部材の旋回が閉位置と開位置との間の中間角度位置で停止せしめられると、他側部材8には第二の部材の自重によってこれが旋回閉動する方向の回転トルクが作用する。かかる回転トルクが作用する方向は支持軸oの軸方向片側から見て時計方向であって、図7-1乃至図7-3の中央図にあっては矢印で示す方向とは反対の方向である。このとき、本発明に従って構成されたヒンジ2にあっては、ピン58が溝56の誘導領域60に位置する間に第二の部材の旋回開動が停止せしめられた場合には、溝56の誘導領域60は軸方向に傾斜、更に詳しくは他側部材8に作用する上記回転トルクが作用する方向に見て軸方向片側から軸方向他側に向かってつまり片側部材6から離隔する方向に傾斜して周方向に延在していることに起因して、上記回転トルクが他側部材8に作用すると、ピン58は相対的に溝56の一端56aに誘導されて他側部材8は片側部材6から離隔せしめられる。かくして第二の部材は閉位置に向かって旋回閉動つまり引き込まれる。このことから、ピン58が溝56の誘導領域60に位置する間が上述した「引き込み領域」に相当する。一方、ピン58が溝56の保持領域62に位置する間に第二の部材の旋回が停止せしめられた場合には、上記回転トルクが他側部材8に作用しても、溝56の保持領域62は軸方向に対して傾斜していないため他側部材8は片側部材6から離隔することはできない。それ故に、他側係合手段66と片側係合手段34との摩擦係合によって他側部材8は支持軸o上で片側部材6に対して回転することはできず、ピン58は溝56の保持領域62に留まる。これにより、他側部材8は片側部材6と一体のまま保持手段36が有する保持トルクによってシャフト4に保持されるため、第二の部材は上記中間角度位置にて保持される。
【0025】
第一の部材に対して第二の部材を開位置から閉位置へ旋回閉動せしめる際には、使用者はピン58が溝56の保持領域62に位置する間は第二の部材を強制的に旋回閉動せしめる。そして、ピン58が溝56の保持領域62から誘導領域60に移行した後にあっては、使用者が第二の部材から手を離すと、第二の部材は自重によって閉位置に引き込まれる。
【0026】
本発明のヒンジは支持軸o上で軸方向に隣接して配置された片側部材6及び他側部材8を備えており、片側部材6及び他側部材8は、軸支される第一の部材及び第二の部材が閉位置にあるときには軸方向に間隔をおいて位置し、第一の部材又は第二の部材が引き込み領域にて閉位置から開位置へ旋回開動せしめられると、他側部材8は回転しながら片側部材6に接近する。片側部材6及び他側部材8の相互に対向する面には夫々片側係合手段34及び他側係合手段66が形成されており、上記接近により片側係合手段34と他側係合手段66とが摩擦係合することで、片側部材6及び他側部材8は一体となって保持手段36による所要保持トルクに抗してシャフト4に対して回転を開始する。つまり、本発明のヒンジでは、第一の部材又は第二の部材が閉位置から旋回開動せしめられて引き込み領域を脱出する際に片側係合手段34と他側係合手段66とはいわば摩擦クラッチのように作用するため、旋回開動する第一の部材又は第二の部材に作用する抵抗トルクはオーバーシュートすることなく漸次増大せしめられる。それ故に、使用者は第一の部材又は第二の部材を閉位置から引き込み領域を超えて開位置へ官能性良く旋回開動させることができる。図示の実施形態においては、片側部材6と他側部材8との間には、両部材間に斥力を常時作用せしめる弾性部材68が配設されていることに起因して、引き込み領域において片側部材6と他側部材8とは円滑に分離して離隔せしめられる。また、第一の部材又は第二の部材が閉位置から旋回開動せしめる際には、第一の部材又は第二の部材が引き込み領域内にあるときから抵抗トルクを付与させることができるため、引き込み領域前後での抵抗トルクの差を小さくすることができ、官能性を更に向上させることができる。更にまた、片側部材6と他側部材8との間に弾性部材68が配設されていれば、例えば蓋が天井に形成された開口部を覆い、蓋の旋回開動方向が室内側(下方)であって蓋には重力による旋回開動方向の力が常時作用する場合等、第一の部材又は第二の部材を旋回開動させようとする力が第一の部材又は第二の部材に常時作用する場合であっても、上記斥力によって第一の部材又は第二の部材を閉位置に保持させることができる。
【0027】
以上、本発明に従って構成されたヒンジについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、第二の部材が固定された第一の部材に対して旋回したが、第一の部材が固定された第二の部材に対して旋回してもよいし、第一の部材及び第二の部材が支持軸を軸に夫々旋回してもよい。また、図示の実施形態においては、支持軸oを中心として第一ステー12及び第二ステー44が180度に開いた状態を第一の部材及び第二の部材の閉位置としたが、支持軸oを中心として第一ステー12及び第二ステー44が0度に閉じた状態を第一の部材及び第二の部材の閉位置とすることもある。図示の実施形態においては、保持手段は先に本願の出願人が出願して特許された上記特許文献1に記載のものを使用したが、これはシャフトに対して所要抵抗トルクで回転可能な所謂トルクリミッタであれば任意のものでよく、従って板ばねの代わりにコイルばねやトレランスリングを用いるものであってもよい。更にまた、片側係合手段及び他側係合手段は相互に摩擦係合自在であれば任意の形態であって良く、従って必ずしも周方向に交互に繰り返し多数形成された凹凸でなくてよく、例えば平坦な粗面等であってもよい。
【符号の説明】
【0028】
2:ヒンジ
4:シャフト
6:片側部材
8:他側部材
24:穴
34:片側係合手段
36:保持手段
56:溝
56a:(溝の)一端
56b:(溝の)他端
58:ピン
60:(溝の)誘導領域
62:(溝の)保持領域
66:他側係合手段
【要約】
【課題】第一の部材又は第二の部材を閉位置から引き込み領域を超えて開位置へ充分円滑に旋回開動させることのできる、新規のヒンジを提供すること。
【解決手段】固定のシャフトが挿通される片側部材6及び他側部材8を備える。片側部材は保持手段が有する保持トルクによってシャフトに相対回転可能に接続される。他側部材は第二の部材に接続されると共にシャフトにも接続される。他側部材及びシャフトはピン58と溝56とによって接続される。溝は軸方向に傾斜して周方向に延在する誘導領域60と周方向に直線状に延在する保持領域62とに区画される。片側部材及び他側部材の相互に対向する面には夫々片側係合手段34及び他側係合手段66が配設されており、第一の部材又は第二の部材が閉位置にあるときは片側部材と他側部材とは離隔する。閉位置から旋回開動せしめられると他側部材は片側部材に接近して他側係合手段が片側係合手段に摩擦係合せしめられる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】