(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】産業機械の操作システム
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20240123BHJP
G06F 3/0346 20130101ALI20240123BHJP
G06F 3/04845 20220101ALI20240123BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G06F3/01 570
G06F3/0346 422
G06F3/01 510
G06F3/04845
G05B23/02 E
G05B23/02 Z
(21)【出願番号】P 2022501944
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2021005982
(87)【国際公開番号】W WO2021166973
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020025897
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小野瀬 直
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/097223(WO,A1)
【文献】特表2019-532396(JP,A)
【文献】国際公開第2014/016992(WO,A1)
【文献】特開2015-060579(JP,A)
【文献】特開2008-040832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
G06F 3/0346
G06F 3/04845
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械に対応する機械特定情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得した前記機械特定情報に基づき、前記産業機械を特定する機械特定部と、
前記機械特定部で特定した前記産業機械に対応するモデルを仮想空間に投影するモデル投影部と、
前記モデル投影部によって投影された前記モデルに対する、該モデルを観察する利用者の距離及び方向を算出する距離方向算出部と、
前記利用者のジェスチャーを、前記機械特定部で特定した前記産業機械に対する前記利用者からの指示として観測するジェスチャー観測部と、
前記距離方向算出部で算出した前記利用者の距離及び方向、並びに前記ジェスチャー観測部で観測した前記利用者のジェスチャーに基づいて、前記利用者の指示の可否を判定する指示判定部と、
前記指示判定部による判定結果が可の場合に、前記ジェスチャー観測部で観測した前記利用者のジェスチャーに基づいて、前記機械特定部で特定した前記産業機械を動作させる動作指示部と、を備える、産業機械の操作システム。
【請求項2】
前記ジェスチャー観測部で観測した前記利用者のジェスチャーに基づいて、前記モデル投影部によって投影された前記モデルの拡大、縮小及び回転の少なくとも1つを含む操作を行う操作部を備える、請求項1に記載の産業機械の操作システム。
【請求項3】
前記機械特定部で特定した前記産業機械の状態を取得する状態取得部を備え、
前記指示判定部は、前記状態取得部で取得した前記産業機械の状態に基づいて、前記利用者の指示の可否を判定する、請求項1又は2に記載の産業機械の操作システム。
【請求項4】
前記動作指示部で動作させる対象を特定する対象特定部を備える、請求項1~3のいずれかに記載の産業機械の操作システム。
【請求項5】
前記モデル投影部は、前記対象特定部で特定した前記対象が強調されるように、前記モデルを投影する、請求項4に記載の産業機械の操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、産業機械の操作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、現実世界と仮想世界を融合し、現実のモノと仮想的なモノが影響し合う複合現実(MR)の技術が注目されている。この複合現実の技術は、産業の分野においても利用されている(例えば、特許文献1参照)。本技術のヘッドマウントディスプレイ機器を装着し、現実空間に存在する産業機械を視認する場合、仮想空間にその産業機械の3Dモデルを投影することが可能となる。この場合、ヘッドマウントディスプレイ機器の装着者は、自らの手足を視認することもできるので、産業機械の直感的な操作の実現が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現状では、産業機械を操作する場合、操作盤やパネルを見ながら操作しなければならず、産業機械の状態を同時に視認しながら直感的に操作することができていない。また、産業機械に複合現実の技術を単に適用したところで、現実の状態と仮想の空間の情報を同期させることはできるものの、操作の安全性が確保されるわけではない。
【0005】
従って、複合現実を利用して産業機械を直感的かつ安全に動作させる産業機械の操作システムを提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、産業機械に対応する機械特定情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部で取得した前記機械特定情報に基づき、前記産業機械を特定する機械特定部と、前記機械特定部で特定した前記産業機械に対応するモデルを仮想空間に投影するモデル投影部と、前記モデル投影部によって投影された前記モデルに対する、該モデルを観察する利用者の距離及び方向を算出する距離方向算出部と、前記利用者のジェスチャーを、前記機械特定部で特定した前記産業機械に対する前記利用者からの指示として観測するジェスチャー観測部と、前記距離方向算出部で算出した前記利用者の距離及び方向、並びに前記ジェスチャー観測部で観測した前記利用者のジェスチャーに基づいて、前記利用者の指示の可否を判定する指示判定部と、前記指示判定部による判定結果が可の場合に、前記ジェスチャー観測部で観測した前記利用者のジェスチャーに基づいて、前記機械特定部で特定した前記産業機械を動作させる動作指示部と、を備えている産業機械の操作システムである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、複合現実を利用して産業機械を直感的かつ安全に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る産業機械の操作システムの概略図である。
【
図2】
図1に示す産業機械の操作システムが備えるMR機器の機能ブロック図である。
【
図3】仮想空間に投影されたモデルの拡大、縮小及び回転の操作を説明する概念図である。
【
図4】仮想空間に投影されたモデルに対するMR機器の距離及び方向を説明する概念図である。
【
図5A】仮想空間に投影されたモデルの正面図であり、動作させる対象が特定される前の状態を示す図である。
【
図5B】仮想空間に投影されたモデルの正面図であり、利用者のジェスチャーにより、動作させる対象が特定された後の状態を示す図である。
【
図6】仮想空間に投影されたモデルの正面図であり、利用者のジェスチャーに基づいて産業機械を動作させる状態を示す図である。
【
図7】仮想空間に投影されたモデルの上面図であり、利用者の指示が可となる利用者の距離及び方向の範囲を投影した状態を示す図である。
【
図8】仮想空間に投影されたモデルの状態を説明する概念図であり、利用者のジェスチャーに基づいて産業機械を動作させる状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、一実施形態に係る産業機械の操作システム1について説明する。
【0010】
まず、
図1及び
図2を用いて、産業機械の操作システム1の構成について説明する。
図1は、産業機械の操作システム1の概略図である。
図2は、産業機械の操作システム1が備えるMR機器2の機能ブロック図である。
【0011】
図1に示す産業機械の操作システム1は、複合現実(MR)の技術を採用したMR機器2を用いて、産業機械3を操作するシステムである。即ち、産業機械の操作システム1は、MR機器2を備えている。
【0012】
産業機械3としては、特に限定されないが、例えば
図1に示すようなマシニングセンタを用いることができる。マシニングセンタで構成される産業機械3は、自動工具交換装置としてタレットを備え、このタレットによる工具の自動切り換えによって、ドリル加工、フライス加工、ミーリング加工、ボーリング加工等の各種加工が可能となっている。
【0013】
MR機器2は、産業機械3を操作する利用者が装着するヘッドマウントディスプレイ機器である。具体的に、MR機器2は、いずれも図示しない、カメラ等の入力手段と、複合現実の画像を表示する出力手段と、産業機械3と通信する通信手段と、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理手段と、各種のプログラムを格納したHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の補助記憶手段と、演算処理手段がプログラムを実行する上で一時的に必要とされるデータを格納するためのRAM(Random Access Memory)といった主記憶手段と、を備えている。
【0014】
図2に示すように、MR機器2が備えるCPUは、各種プログラムを実行することによって、情報取得部20、機械特定部21、モデル投影部22、距離方向算出部23、ジェスチャー観測部24、操作部25、対象特定部26、状態取得部27、指示判定部28、動作指示部29等による各種機能を実現する。
【0015】
情報取得部20は、産業機械3に対応する機械特定情報を取得する。例えば、情報取得部20は、カメラ等の入力手段を利用して、産業機械3に対応する機械特定情報として、該産業機械3に設けられたQRコード(登録商標)や該産業機械3のパターン認識による特徴点を取得する。
【0016】
機械特定部21は、情報取得部20で取得した機械特定情報に基づいて産業機械3を特定する。具体的に、機械特定部21は、情報取得部20で取得した機械特定情報と、予め登録されかつ該機械特定情報に対応して紐付けられた産業機械に関するデータとに基づいて、現実の産業機械3が何であるかを特定する。これにより、例えば本実施形態では、機械特定部21は、産業機械3が
図1に示すマシニングセンタであることを特定可能である。
【0017】
モデル投影部22は、機械特定部21で特定した産業機械3に対応するモデルを仮想空間に投影する。具体的に、モデル投影部22は、複合現実画像を表示可能なヘッドマウントディスプレイ等の出力手段を利用して、機械特定部21で特定した産業機械3に対応する3DのモデルM(後述の
図4等参照)を、拡大、縮小及び回転が可能となるように仮想空間に投影する。このとき、モデル投影部22により仮想空間に投影されるモデルMは、現実空間における現実の産業機械3と常に状態はリンクしている。なお、機械特定部21で特定した産業機械3とそれに対応するモデルMは、上述の予め登録されかつ該機械特定情報に対応して紐付けられた産業機械に関するデータに含まれる。
【0018】
また、モデル投影部22は、後述の対象特定部26で特定した対象が強調されるように、モデルMを仮想空間に投影する。具体的に、モデル投影部22は、後述の対象特定部26で特定した動作対象を、例えば赤色で表示する等して強調表示する。これにより、利用者は動作対象を認識可能となる。
【0019】
なお、モデル投影部22は、各所に設置されたカメラにより取得された画像に基づいて産業機械3のモデルを作成し、作成したモデルを仮想空間に召喚してもよい。このとき、カメラの画像は情報取得部20により機械特定情報として取得され、機械特定部21により現実の産業機械が何であるかが特定される。
【0020】
距離方向算出部23は、モデル投影部22によって投影されたモデルMに対する、該モデルMを観察する利用者の距離及び方向を算出する。ここで、ヘッドマウントディスプレイでは、仮想空間にモデルMを投影する際の利用者との距離及び方向については、ある設定値とされる。即ち、仮想空間にモデルMを投影したときの利用者との距離及び方向は設定値により決まり、距離方向算出部23はその設定値を取得する。また、距離方向算出部23は、後述の操作部25によりモデルMの拡大、縮小、回転が行われた場合には、上記設定値と操作部25による操作量に基づいて、操作後のモデルMと利用者との距離及び方向を算出する。
【0021】
ジェスチャー観測部24は、利用者のジェスチャーを、機械特定部21で特定した産業機械3に対する利用者からの指示として観測する。具体的に、ジェスチャー観測部24は、カメラ等の入力手段を利用して、所定の利用者のジェスチャーを、機械特定部21で特定した産業機械3に対する利用者からの指示として観測する。所定の利用者のジェスチャーは、予め登録されている。
【0022】
操作部25は、ジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーに基づいて、モデル投影部22によって投影されたモデルMの拡大、縮小及び回転の少なくとも1つを含む操作を行う。操作部25が操作を行うためのジェスチャーは、予め情報として設定されてその情報は登録されている。
【0023】
対象特定部26は、後述の動作指示部29で動作させる対象を特定する。具体的に、対象特定部26は、カメラ等の入力手段による入力、例えばジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーに基づいて、動作指示部29で動作させる対象を特定する。対象特定部26が対象を特定するためのジェスチャーは、予め情報として設定されて登録されている。あるいは、対象特定部26は、ヘッドマウントディスプレイに設けられた図示しないCCDカメラ等により検出される利用者の視点に基づいて、動作指示部29で動作させる対象を特定する。さらには、対象特定部26は、ジェスチャー観測部24による利用者のジェスチャー観測時に、利用者の手と重なっているモデルMの対象オブジェクト部がある場合に、かかる対象オブジェクト部を動作させる対象として特定してもよい。これについては後段で詳述する。
【0024】
状態取得部27は、機械特定部21で特定した産業機械3の状態を取得する。具体的に、状態取得部27は、カメラ等の入力手段を利用して、機械特定部21で特定した産業機械3の現実の状態を取得する。産業機械3の現実の状態としては、例えば、アラーム表示の有無、タレットの位置、タレットに装着されている工具の種類、主軸の位置等が挙げられる。
【0025】
指示判定部28は、距離方向算出部23で算出した利用者の距離及び方向、並びにジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーに基づいて、利用者の指示の可否を判定する。産業機械3の状態を考慮する必要がある場合にあっては、指示判定部28は、距離方向算出部23で算出した利用者の距離及び方向、ジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャー、並びに状態取得部27で取得した産業機械3の状態に基づいて、利用者の指示の可否を判定する。
【0026】
指示判定部28の判定結果が可となる利用者の距離及び方向の条件は、予め情報として設定されてその情報は登録されている。同様に、指示判定部28が利用者の指示と判断するジェスチャーの条件は、予め情報として設定されてその情報は登録されている。これらの各条件については、後段で詳述する。また、指示判定部28の判定結果が可となる産業機械3の状態についても、予め情報として設定されてその情報は登録されている。
【0027】
動作指示部29は、指示判定部28による判定結果が可の場合に、ジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーに基づいて、機械特定部21で特定した産業機械3を動作させる。利用者のジェスチャーに対応する産業機械3の動作内容は、予め情報として設定されてその情報は登録されている。仮想空間におけるモデルMの状態と現実空間における産業機械3の状態は上述の通信手段を介して常にリンクしており、これにより、現実の産業機械3を動作させることが可能となる。
【0028】
次に、
図3を用いて、仮想空間に投影されたモデルMの拡大、縮小及び回転の操作について説明する。
図3は、仮想空間に投影されたモデルMの拡大、縮小及び回転の操作を説明する概念図である。
【0029】
図3に示すように、利用者のジェスチャーに基づいて、仮想空間に投影されたモデルMの拡大、縮小及び回転の少なくとも1つを含む操作が行われる。
図3に示すように、例えば利用者が両手の間隔を広げたり狭めたりすることにより、モデルMが拡大、縮小表示される。また、例えば利用者が両手を所定方向に回転させることにより、モデルMが所定方向に回転表示される。即ち、利用者は、仮想空間におけるモデルMを自由に操作して表示させることができる。これにより、実際の大きさとは異なる任意の大きさに投影されたモデルMに対し、実際に視認している方向とは異なる任意の方向から視認した状態で作業を行うことが可能になる。
【0030】
次に、
図4を用いて、仮想空間に投影されたモデルMに対する利用者の距離及び方向について説明する。
図4は、仮想空間に投影されたモデルMに対する利用者の距離及び方向を説明する概念図である。
図4では、仮想空間に投影されたモデルMとして産業機械3のタレットを示しており、このタレットと利用者(
図4ではMR機器2)との距離及び方向を示している。
【0031】
ここで、タレットに対する動作、例えば工具交換動作では、モデルMとしてのタレットに対する利用者の距離及び方向が所定の範囲内に収まっていることが、産業機械3を動作させるための条件(特定位置条件)となっている。この場合、産業機械3の実際の大きさに対して等倍(100%)の大きさでモデルMが投影されていれば、所定の範囲に収まる距離は、1m以上1.5m以下であることが好ましく、所定の範囲に収まる方向は、モデルMの正面方向からの傾斜角度が15度以下であることが好ましい。産業機械3の実際の大きさに対して拡大又は縮小した大きさでモデルMが投影されていれば、所定の範囲に収まる距離は、(1×拡縮倍率%)m以上(1.5×拡縮倍率%)m以下であることが好ましい。
【0032】
次に、
図5A及び
図5Bを用いて、動作させる対象を特定する方法について説明する。
図5Aは、仮想空間に投影されたモデルMの正面図であり、動作させる対象が特定される前の状態を示す図である。
図5Bは、仮想空間に投影されたモデルMの正面図であり、利用者のジェスチャーにより、動作させる対象が特定された後の状態を示す図である。なお、
図5A及び
図5Bでは、仮想空間に投影されたモデルMとして産業機械3のタレットを示している。
【0033】
図5A及び
図5Bに示すように、仮想空間にモデルMが投影されている場合において、利用者が所定の入力をすることで、上述の対象特定部26により動作させる対象が特定され、
図5Bに示すように特定された対象が強調表示される。所定の入力としては、
図5Bに示すような対象に対する指差し等のジェスチャーの他、対象に視点を所定時間合わせ続けること等が挙げられる。
【0034】
なお、動作させる対象を事前に特定することなく、利用者のジェスチャーによる指示を行う際に、利用者の手が触れている部品、即ち利用者の手と重なっている対象オブジェクト部品を、動作させる対象として特定するようにしてもよい。この方法は、利用者の視点から複数の動作対象部品が存在する場合に有効である。
【0035】
次に、
図6を用いて、利用者のジェスチャーに基づいて産業機械3を動作させる方法について説明する。
図6は、仮想空間に投影されたモデルMの正面図であり、利用者のジェスチャーに基づいて産業機械3を動作させる状態を示す図である。なお、
図6では、仮想空間に投影されたモデルMとして産業機械3のタレットを示している。
【0036】
図6に示すように、仮想空間にモデルMが投影されている場合において、利用者が所定のジェスチャーをすることが、産業機械3を動作させるための条件(特定動作条件)になる。産業機械3の工具交換を行う所定のジェスチャーとして、船の舵輪を回すようなジェスチャー等が予め設定される。
【0037】
このように、上述の特定位置条件(モデルMに対する利用者の距離及び方向が所定の範囲に収まっていること)及び特定動作条件(利用者が所定のジェスチャーをすること)の双方を満たす場合に、指示判定部28による判定が可となり、動作指示部29によって産業機械3の工具交換を行うことができる。即ち、モデルMに対する利用者の距離が遠い場合、仮に利用者が所定のジェスチャーをしたときであっても、産業機械3の工具交換を行うことはできない。遠い位置からでは工具の種類が判別できず、危険なためである。これにより、複合現実を利用して、工具交換作業を直感的かつ安全に行うことが可能となっている。
【0038】
次に、
図7及び
図8を用いて、利用者のジェスチャーに基づいて産業機械3を動作させる方法について説明する。
図7は、仮想空間に投影されたモデルMの上面図であり、利用者の指示が可となる利用者の距離及び方向の範囲を投影した状態を示す図である。
図8は、仮想空間に投影されたモデルMの状態を説明する概念図であり、利用者のジェスチャーに基づいて産業機械3を動作させる状態を示す図である。
図7及び
図8では、仮想空間に投影されたモデルMとして、ワークWと産業機械3の主軸Aを示している。
【0039】
ここで、産業機械3の加工プログラム運転開始動作では、上述の特定位置条件及び特定動作条件を満たしていることに加えて、状態取得部27で取得される産業機械3の状態が特定状態条件を満たしている場合に、指示判定部28による判定が可となり、動作指示部29によって産業機械3の加工プログラム運転が開始される。
【0040】
図8に示すように、産業機械3の加工プログラム運転開始動作の場合、特定位置条件としては、モデルMである主軸A及びワークWの直線上から傾斜角度が5度以上20度以下の範囲となる位置であることが好ましい。これにより、主軸AとワークWの両方の視認が可能になるためである。
【0041】
また、この場合における特定動作条件としては、利用者がするジェスチャーとして、例えば
図8に示すように、腕全体を捻って回転させる動作が設定される。
【0042】
そして、この場合における特定状態条件としては、例えば産業機械3にアラーム表示が出ていないことや、主軸Aの位置が加工開始可能な位置にあること等が好ましい。主軸Aの加工開始可能な範囲は、例えば
図7に示すように、マーカーKにより仮想空間に投影するようにしてもよい。
【0043】
このように、産業機械の操作システム1は、産業機械3に対応する機械特定情報を取得する情報取得部20と、情報取得部20で取得した機械特定情報に基づき、産業機械3を特定する機械特定部21と、機械特定部21で特定した産業機械3に対応するモデルMを仮想空間に投影するモデル投影部22と、モデル投影部22によって投影されたモデルMに対する、当該モデルMを観察する利用者の距離及び方向を算出する距離方向算出部23と、利用者のジェスチャーを、機械特定部21で特定した産業機械3に対する利用者からの指示として観測するジェスチャー観測部24と、距離方向算出部23で算出した利用者の距離及び方向、並びにジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーに基づいて、利用者の指示の可否を判定する指示判定部28と、指示判定部28による判定結果が可の場合に、ジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーに基づいて、機械特定部21で特定した産業機械3を動作させる動作指示部29と、を備えている。
これにより、現実の産業機械3を仮想空間にモデルMとして表示させ、仮想空間上での利用者の操作により、現実の産業機械3を動作させることができる。より詳しくは、距離方向算出部23で算出した利用者の距離及び方向が予め設定された特定位置条件を満たし、かつ、ジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーが予め設定された特定動作条件を満たす場合には、利用者の動作指示を可と判定し、産業機械3を動作させることができる。具体的には、例えば産業機械3の工具交換動作に有効である。従って、産業機械の操作システム1によれば、複合現実を利用することにより産業機械3を直感的かつ安全に動作させることができる。
【0044】
また、産業機械の操作システム1は、ジェスチャー観測部24で観測した利用者のジェスチャーに基づいて、モデル投影部22によって投影されたモデルMの拡大、縮小及び回転の少なくとも1つを含む操作を行う操作部25を備える構成としてよい。
これにより、操作部25によって仮想空間におけるモデルMを自由に操作できるため、モデルMに状態が常にリンクしている現実の産業機械3について種々の動作をさせることが可能となる。
【0045】
また、産業機械の操作システム1は、機械特定部21で特定した産業機械3の状態を取得する状態取得部27を備え、指示判定部28は、状態取得部27で取得した産業機械3の状態に基づいて、利用者の指示の可否を判定する構成としてよい。
これにより、上述の特定位置条件及び特定動作条件を満たしていることに加えて、状態取得部27で取得される産業機械3の状態が特定状態条件を満たしている場合に、指示判定部28による判定が可となり、動作指示部29によって産業機械3を動作させることができる。具体的には、例えば産業機械3の加工プログラム運転開始動作に有効である。
【0046】
また、産業機械の操作システム1は、動作指示部29で動作させる対象を特定する対象特定部26を備える構成としてよい。
これにより、動作させる対象を確実に特定できるため、上述の効果がより確実に発揮される。
【0047】
また、産業機械の操作システム1において、モデル投影部22は、対象特定部26で特定した対象が強調されるように、モデルMを投影する構成としてよい。
これにより、利用者は動作対象を視覚的に確実に認識できるため、上述の効果がより確実に発揮される。
【0048】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良は本開示に含まれる。
例えば、上記実施形態では、産業機械としてマシニングセンタを例に挙げて説明したが、これに限定されない。他の工作機械やロボット等に本開示の操作システムを適用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 産業機械の操作システム
2 MR機器
20 情報取得部
21 機械特定部
22 モデル投影部
23 距離方向算出部
24 ジェスチャー観測部
25 操作部
26 対象特定部
27 状態取得部
28 指示判定部
29 動作指示部
3 産業機械
M モデル
K マーカー
A 主軸
W ワーク