(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ポリ乳酸の分解方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/10 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
(21)【出願番号】P 2022507057
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010352
(87)【国際公開番号】W WO2021181532
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】孫 吟
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-309863(JP,A)
【文献】特開2008-050351(JP,A)
【文献】特開2007-224113(JP,A)
【文献】国際公開第2003/091238(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0311793(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/10
C08G 63/00
C07C 51/00
C07D 319/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属の酸化物、及びアルカリ土類金属の酸化物からなる群から選択される1種、又は2種以上の混合物である添加剤とを反応装置に投入する工程と、
下記の式で表される水分含有量が0.15~3.0%となる条件で、前記ポリ乳酸及び前記添加剤を保持又は混練する工程とを備
え、
前記ポリ乳酸及び前記添加剤を前記反応装置に投入する前に、前記ポリ乳酸及び前記添加剤の少なくとも一方の含水率を調整する工程をさらに備える、ポリ乳酸の分解方法。
水分含有量=反応装置内の水分の質量/(ポリ乳酸の質量+添加剤の質量+外部から添加する水分の質量)
ただし、前記反応装置内の水分の質量は、前記ポリ乳酸及び前記添加剤に吸着している水分の質量並びに外部から添加する水分の質量を含み、前記ポリ乳酸の質量及び前記添加剤の質量は、それぞれに吸着している水分の質量を含む質量とする。
【請求項2】
請求項
1に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記反応装置の投入口の湿度を制御することによって、前記ポリ乳酸及び前記添加剤の少なくとも一方の含水率を調整する、ポリ乳酸の分解方法。
【請求項3】
請求項
2に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記投入口の湿度を調整する装置が噴霧装置である、ポリ乳酸の分解方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記反応装置内の水分を測定する工程と、
前記測定した水分に基づいて、前記反応装置内の水分を調整する工程とをさらに備える、ポリ乳酸の分解方法。
【請求項5】
請求項
4に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記反応装置に投入する前記ポリ乳酸及び前記添加剤の少なくとも一方の含水率を調整することによって、前記反応装置内の水分を調整する、ポリ乳酸の分解方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記添加剤は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び酸化マグネシウムからなる群から選択される1種、又は2種以上の混合物である、ポリ乳酸の分解方法。
【請求項7】
請求項
6に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記添加剤は、炭酸水素ナトリウムである、ポリ乳酸の分解方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記添加剤の量が、前記ポリ乳酸100質量部に対して0.2~20質量部である、ポリ乳酸の分解方法。
ただし、前記ポリ乳酸の質量及び前記添加剤の質量は、それぞれに吸着している水分の質量を含む質量とする。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のポリ乳酸の分解方法であって、
前記保持又は混練する工程は、0.15~20.0MPaで1秒間以上保持又は混練する工程である、ポリ乳酸の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂廃棄物による環境汚染が社会的な問題となる中、ポリ乳酸に代表される生分解性樹脂が注目されている。近年、生分解性樹脂を分解して再利用するケミカルリサイクルに関する技術が開発されている。
【0003】
特開平6-279434号公報には、アルカリ金属塩を触媒として、ヒドロキシ酸系オリゴマーの熱分解を行うメソ体含有ラクタイド類の製造方法が開示されている。特開2007-210889号公報には、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を170~330℃の高温下で、5~240分間処理するステレオコンプレックス型ポリ乳酸のモノマー化方法が開示されている。
【0004】
特開2017-132730号公報には、減圧下に保持されたベント室に通じる押出機にポリ乳酸及び解重合触媒を投入し、該押出機でポリ乳酸と解重合触媒とを溶融混練し、該溶融混練物をベント室内に供給し、該ベント室内でポリ乳酸の解重合を行い、生成したラクチドをガス化して該ベント室から回収するラクチド回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-279434号公報
【文献】特開2007-210889号公報
【文献】特開2017-132730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開平6-279434号公報に記載の方法は、減圧環境下での反応であり、装置が大掛かりになる上にバッチ処理せざるを得ないという問題がある。また、原料にするヒドロキシ酸の分子量が低いものを用いる必要がある。
【0007】
特開2007-210889号公報には、ポリ乳酸を分解して乳酸を得る方法が提案されている。しかし、乳酸から直接ポリ乳酸を合成する方法は、分子量が上がらないといった問題があり実用化されていない。一方、ラクチドを生成するためには、ポリ乳酸と水とを分離する必要がある。この工程には多くのエネルギーが必要であり、環境負荷を低減するという生分解性樹脂のリサイクルの趣旨に反することになる。
【0008】
特開2017-132730号公報に記載された方法は、反応の再現性が低く、生成物の分子量や反応率を安定的に制御できない。
【0009】
本発明の目的は、エネルギー消費を抑えながらポリ乳酸を分解することができる、ポリ乳酸の分解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によるポリ乳酸の分解方法は、ポリ乳酸と、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属の酸化物、及びアルカリ土類金属の酸化物からなる群から選択される1種、又は2種以上の混合物である添加剤とを反応装置に投入する工程と、下記の式で表される水分含有量が0.15~3.0%となる条件で、前記ポリ乳酸及び前記添加剤を保持又は混練する工程とを備える。
水分含有量=反応装置内の水分の質量/(ポリ乳酸の質量+添加剤の質量+外部から添加する水分の質量)
ただし、前記反応装置内の水分の質量は、前記ポリ乳酸及び前記添加剤に吸着している水分の質量並びに外部から添加する水分の質量を含み、前記ポリ乳酸の質量及び前記添加剤の質量は、それぞれに吸着している水分の質量を含む質量とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エネルギー消費を抑えながらポリ乳酸を分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態によるポリ乳酸の分解方法のフロー図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施形態によるポリ乳酸の分解方法のフロー図である。
【
図3】
図3は、本発明の第3の実施形態によるポリ乳酸の分解方法のフロー図である。
【
図4】
図4は、ポリ乳酸の分解装置の一例の模式図である。
【
図5】
図5は、ポリ乳酸の分解装置の他の例の模式図である。
【
図6】
図6は、水分含有量と分解生成物の数平均分子量及び消費エネルギーとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来、ポリ乳酸の分解反応を促進するためには多量の水が必要であると考えられていた。例えば、上述した特開2007-210889号公報には、ポリ乳酸1質量部に対して、水5~100質量部を共存させることが記載されている。
【0014】
本発明者らは、所定の添加剤を添加した条件下においては、水を非常に少量にしても、ポリ乳酸の分解反応が進むことを見出した。
【0015】
本発明は、この知見に基づいて完成された。以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態によるポリ乳酸の分解方法のフロー図である。本実施形態によるポリ乳酸の分解方法は、ポリ乳酸及び添加剤を準備する工程(ステップS1)、ポリ乳酸及び添加剤の含水率を調整する工程(ステップS2)、ポリ乳酸及び添加剤を反応装置に投入する工程(ステップS3)、ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練する工程(ステップS4)、及び分解生成物を取り出す工程(ステップS5)を備えている。
【0017】
原料となるポリ乳酸、及びポリ乳酸に加える添加剤を準備する(ステップS1)。ポリ乳酸は、粉末状又はペレット状に前処理されたものが好ましい。あるいは、反応装置の原料投入口に粉砕装置を設けて、後述する原料投入工程(ステップS3)と同時にポリ乳酸を含む原料(例えば廃棄物等)が粉砕されるようにしてもよい。
【0018】
添加剤は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属の酸化物、及びアルカリ土類金属の酸化物からなる群から選択される1種、又は2種以上の混合物である。添加剤は、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び酸化マグネシウムからなる群から選択される1種、又は2種以上の混合物であることが好ましく、重曹が特に好ましい。
【0019】
必要に応じて、ポリ乳酸及び添加剤の含水量を調整する(ステップS2)。添加剤は、吸湿性があり、水分が吸着している場合がある。ポリ乳酸も、水分が吸着している場合がある。そのため、ポリ乳酸及び添加剤を反応装置に投入する前に、予めこれらの含水率を調整しておいてもよい。
【0020】
含水率を調整する工程(ステップS2)は任意の工程であり、投入されるポリ乳酸及び添加剤の含水率が安定している場合には省略してもよい。含水率を調整する場合、ポリ乳酸及び添加剤の少なくとも一方の含水率を調整すればよい。
【0021】
含水率を調整する具体的な方法としては、ポリ乳酸及び添加剤を乾燥機で乾燥することや、恒温恒湿槽に所定時間保持すること、霧吹き等で湿らせること等が挙げられる。
【0022】
また、反応装置の投入口の湿度を制御することで、ポリ乳酸及び添加剤の含水率を調整してもよい。上述のとおり、特に添加剤には吸湿性があるため、ポリ乳酸及び添加剤の含水率は、反応装置の投入口の湿度の影響を受ける。ポリ乳酸及び添加剤の含水率を低くしたい場合には、反応装置の投入口の湿度を低くすればよく、ポリ乳酸及び添加剤の含水率を高くしたい場合には、反応装置の投入口の湿度を高くすればよい。反応装置の投入口の湿度を制御する装置としては、空調設備のほか、噴霧装置が挙げられる。
【0023】
ポリ乳酸及び添加剤を反応装置に投入する(ステップS3)。本実施形態では、後述するように、反応装置内の水分を制御した状態でポリ乳酸を分解させる。そのため、反応装置は、原料の投入口や取出口、ガスの導入口や排出口(ベント口)、水分の注入口等を除いて、内部を密閉できる構造であることが好ましい。反応装置は、金属製、ガラス製、又はセラミック製であることが好ましく、金属製であることが特に好ましい。反応装置は、後述するような押出機であってもよい。
【0024】
添加剤の量は、ポリ乳酸100質量部に対して0.2~20質量部とすることが好ましい。ただし、ポリ乳酸の質量及び添加剤の質量は、それぞれに吸着している水分の質量を含む質量とする。以下、この(添加剤の質量(吸着している水分の質量を含む))/(ポリ乳酸の質量(吸着している水分の質量を含む))×100の値を「添加剤濃度」という。
【0025】
添加剤濃度が低すぎると、ポリ乳酸の分解速度が遅くなる。添加剤濃度の下限は、より好ましくは0.50質量部であり、さらに好ましくは1.0質量部であり、さらに好ましくは2.0質量部である。一方、添加剤濃度が高すぎると、加熱に必要なエネルギーが大きくなる。添加剤濃度の上限は、より好ましくは18質量部であり、さらに好ましくは15質量部であり、さらに好ましくは10質量部である。
【0026】
ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練する(ステップS3)。この保持又は混練する工程(ステップS3)は、下記の式で表される水分含有量が0.15~3.0%になるようにする。
水分含有量=反応装置内の水分の質量/(ポリ乳酸の質量+添加剤の質量+外部から添加する水分の質量)
ただし、反応装置内の水分の質量は、ポリ乳酸及び添加剤に吸着している水分の質量並びに外部から添加する水分の質量を含み、ポリ乳酸の質量及び添加剤の質量は、それぞれに吸着している水分の質量を含む質量とする。
【0027】
この保持又は混練する工程(ステップS3)において、反応装置の外部から水分を添加して、反応装置内の水分を調整してもよい。外部からの水分の添加は例えば、反応装置の投入口や、投入口とは別途に設けられた注入口から水分を供給することで行うことができる。水分は、液体として供給してもよいし、加湿気体として供給してもよい。もっとも、外部から水分を添加することは必須ではなく、外部から添加する水分の質量は0であってもよい。また、乾燥気体を供給することで水分を低下させてもよい。
【0028】
水分含有量が低すぎると、ポリ乳酸の分解速度が遅くなる。水分含有量の下限は、好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは1.0%である。一方、水分含有量が高すぎると、加熱に必要なエネルギーが大きくなる。水分含有量の上限は、好ましくは2.8%であり、さらに好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。
【0029】
この保持又は混練は、反応装置内を加熱して行うことが好ましい。加熱温度は、好ましくは120~340℃である。加熱温度が高い程、反応が進みやすくなる。加熱温度の下限は、より好ましくは160℃であり、さらに好ましくは180℃である。一方、加熱温度が高すぎると、エステル結合以外の部分の結合が切れ、所期の分解生成物の収率が低下する。加熱温度の上限は、より好ましくは300℃であり、さらに好ましくは280℃であり、さらに好ましくは260℃である。
【0030】
この保持又は混練は、反応装置内を加圧して行うことが好ましい。反応装置内の圧力は、好ましくは0.15~20.0MPaである。反応装置内の圧力の下限は、より好ましくは0.5MPaであり、さらに好ましくは1.0MPaであり、さらに好ましくは3.0MPaである。反応装置内の圧力の上限は、より好ましくは15.0MPaであり、さらに好ましくは10.0MPaであり、さらに好ましくは5.0MPaである。
【0031】
保持又は混練する時間は、特に限定されないが、好ましくは1秒間以上であり、例えば1秒間~12時間である。保持又は混練する時間の下限は、より好ましくは30秒間であり、さらに好ましくは1分間であり、さらに好ましくは2分間である。保持又は混練する時間の上限は、より好ましくは6時間であり、さらに好ましくは2時間であり、さらに好ましくは30分間である。混練する場合、剪断速度を500s-1以下にすることが好ましい。
【0032】
所定時間保持又は混練した後、ポリ乳酸が分解されて形成された分解生成物を反応装置から取り出す(ステップS5)。この分解生成物は、乳酸のオリゴマー、乳酸、ラクチド等を含む。
【0033】
以上、本発明の第1の実施形態によるポリ乳酸の分解方法を説明した。本実施形態によるポリ乳酸の分解方法は、水分含有量が0.15~3.0%となる条件で、ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練する工程を含む。この構成によれば、水の加熱に必要なエネルギーの消費を抑制しつつ、ポリ乳酸を分解することができる。また、本実施形態によれば、乳酸のオリゴマー及び乳酸だけではなく、ラクチドを回収することもできる。
【0034】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の第2の実施形態によるポリ乳酸の分解方法のフロー図である。本実施形態によるポリ乳酸の分解方法は、第1の実施形態(
図1)の各工程に加えて、反応装置内の水分を測定する工程(ステップS6)と、測定された水分に基づいて、反応装置内の水分を調整する工程(ステップS7)とをさらに備えている。
【0035】
本実施形態では、ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練する工程(ステップS4)と併行して、反応装置内の水分を測定する(ステップS6)。反応装置内の水分の測定は、例えば、反応装置に設けたベント口から反応装置内のガス成分を採取し、採取したガス成分を水分計で分析することで行うことができる。水分計は例えば、カールフィッシャー水分計や赤外水分計である。
【0036】
測定された水分に基づいて、反応装置内の水分を調整する(ステップS7)。具体的には、測定された水分と予め設定された水分下限とを比較し、測定された水分が水分下限未満である場合には、反応装置内の水分を上げる操作を行う。反応装置内の水分を上げる具体的な操作としては例えば、反応装置内に液体の水を注入したり、反応装置内に加湿気体を導入したりすることが挙げられる。
【0037】
反応装置内の水分を調整する工程(ステップS7)として、上記の操作に代えて、又は上記の操作に加えて、測定された水分と予め設定された水分上限とを比較し、測定された水分が水分上限を超えている場合には、反応装置内の水分を下げる操作を行ってもよい。反応装置内の水分を下げる具体的な操作としては例えば、反応装置内への注水を停止したり、反応装置内に乾燥気体を導入したりすることが挙げられる。
【0038】
本実施形態では、ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練する工程(ステップS4)、反応装置内の水分を測定する工程(ステップS6)、及び反応装置内の水分を調整する工程(ステップS7)を、所定の時間が経過するまで繰り返す。これによって、水分含有量が所定の範囲になるように制御した状態で、ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練することができる。
【0039】
[第3の実施形態]
図3は、本発明の第3の実施形態によるポリ乳酸の分解方法のフロー図である。本実施形態では、ポリ乳酸及び添加剤の投入から分解生成物の取り出しまでを連続的に行う。このような処理として例えば、投入口及び取出口を有する反応装置を用いて、投入口からポリ乳酸及び添加剤を投入しながら、これと併行して取出口から反応生成物を取り出して、ポリ乳酸を連続的に分解する処理が挙げられる。
【0040】
本実施形態の分解方法も、第1の実施形態(
図1)の分解方法と同様に、ポリ乳酸及び添加剤を準備する工程(ステップS1)、ポリ乳酸及び添加剤の含水率を調整する工程(ステップS2)、ポリ乳酸及び添加剤を反応装置に投入する工程(ステップS3)、ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練する工程(ステップS4)、及び分解生成物を取り出す工程(ステップS5)を備えている。上述したように、本実施形態では、ポリ乳酸及び添加剤の投入から分解生成物の取り出しまでを連続的に行う。具体的には、ポリ乳酸及び添加剤を準備する工程(ステップS1)から分解生成物を取り出す工程(ステップS5)までを、所定の時間が経過するまで繰り返す。
【0041】
本実施形態の分解方法も、第2の実施形態(
図2)の分解方法と同様に、反応装置内の水分を測定する工程(ステップS6)と、測定された水分に基づいて、反応装置内の水分を調整する工程(ステップS7)とをさらに備えている。ただし、本実施形態の分解方法では、反応装置内の水分を調整する工程(ステップS7)を実施するタイミングが、第2の実施形態と異なっている。
【0042】
本実施形態では、反応装置に投入するポリ乳酸及び添加剤の少なくとも一方の含水率を調整することによって、反応装置内の水分を調整する。すなわち、本実施形態では、ポリ乳酸及び添加剤の含水率を調整する工程(ステップS2)が、反応装置内の水分を調整する工程(ステップS7)を兼ねている。
【0043】
具体的には、第2の実施形態の場合と同様に、測定された水分と予め設定された水分下限とを比較し、測定された水分が水分下限未満である場合には、反応装置内の水分を上げる操作を行う。本実施形態では、反応装置内の水分を上げる操作として、反応装置に投入するポリ乳酸及び添加剤の少なくとも一方の含水率を上げる操作を行う。より具体的には例えば、ポリ乳酸及び添加剤の乾燥温度を低くする、乾燥時間を短くする、霧吹き等で湿らせる、反応装置の投入口の湿度を高くするといった操作が挙げられる。
【0044】
第2の実施形態の場合と同様に、上記の操作に代えて、又は上記の操作に加えて、測定された水分と予め設定された水分上限とを比較し、測定された水分が水分上限を超えている場合には、反応装置内の水分を下げる操作を行ってもよい。本実施形態では、反応装置内の水分を下げる操作として、反応装置に投入するポリ乳酸及び添加剤の少なくとも一方の含水率を下げる操作を行う。より具体的には例えば、ポリ乳酸及び添加剤の乾燥温度を高くする、乾燥時間を長くする、霧吹き等で湿らせることを停止する、反応装置の投入口の湿度を低くするといった操作が挙げられる。
【0045】
上記の操作に加えて、あるいは上記の操作に代えて、反応装置内への水の注入や、加湿気体又は乾燥気体の導入によって反応装置内の水分を調整するようにしてもよい。すなわち、反応装置に投入するポリ乳酸及び添加剤の少なくとも一方の含水率を調整することによって反応装置内の水分を調整することに加えて、あるいはこれに代えて、第2の実施形態の場合と同様に、反応装置内への水の注入や、加湿気体又は乾燥気体の導入によって反応装置内の水分を調整するようにしてもよい。
【0046】
本実施形態によっても、水分含有量が所定の範囲になるように制御した状態で、ポリ乳酸及び添加剤を保持又は混練することができる。
【0047】
[ポリ乳酸の分解装置の構成]
次に、ポリ乳酸の分解装置の構成を説明する。以下に説明する分解装置はあくまでも例示であって、本実施形態によるポリ乳酸の分解方法を限定するものではない。
【0048】
[構成例1]
図4は、ポリ乳酸の分解装置の一例である分解装置1の模式図である。分解装置1は、押出機10、フィーダ20、水分調整装置25、ガス分析装置30、及び制御装置40を備えている。ポリ乳酸及び添加剤は、フィーダ20によって押出機10に投入され、押出機10によって混練されて、最終的に押出機10の吐出口(取出口)11cから低分子量の分解生成物として取り出される。
【0049】
フィーダ20は、ポリ乳酸及び添加剤を所定の供給量で押出機10に投入する。フィーダ20は、ポリ乳酸及び添加剤の供給量をそれぞれ独立に制御できる構造であることが好ましい。フィーダ20は、モータ21を備えており、モータ21の回転数を制御することによって、ポリ乳酸及び添加剤の供給量を制御することができる。フィーダ20として、より具体的には例えば、スクリューフィーダやベルトコンベアを用いることができる。
【0050】
押出機10は、シリンダ壁11(反応装置)、スクリュー12、加熱装置13、シール部材14、ダイス15等を備えている。
【0051】
シリンダ壁11は、後述する開口部(投入口11a、ベント口11b、吐出口11c)を除き、内部が密閉された構造を有しており、ポリ乳酸の分解反応の反応装置として機能する。
【0052】
スクリュー12は、シリンダ壁11の内容物を混練する。シリンダ壁11内に投入されたポリ乳酸及び添加剤は、スクリュー12によって混練されながら吐出口11cに向かって搬送される。スクリュー12は、モータ121を備えており、モータ121の回転数を制御することによって、剪断速度を調整することができる。
【0053】
加熱装置13は、シリンダ壁11を加熱して、シリンダ壁11の温度を調整する。
図4の例では、シール部材14によって画された三つの領域の周りに加熱装置13を分割して配置し、それぞれの領域の温度を独立して制御できるようにしている。これによって例えば、搬送方向の上流側の領域を溶融遷移ゾーン、中央の領域を分解ゾーン、下流側の領域を脱気・冷却吐出ゾーンとして、分解ゾーンを最も高温にした温度分布を形成することができる。
【0054】
シリンダ壁11には、開口部として、投入口11a、ベント口11b、及び吐出口11cが設けられている。
【0055】
投入口11aは、シリンダ壁11の搬送方向の最も上流側に設けられている。投入口11aには、フィーダ20からポリ乳酸及び添加剤が投入される。
【0056】
ベント口11bは、シリンダ壁11の搬送方向の下流側に、ガス成分のみが通過できるように設けられている。ベンド口11bは、吐出口11cの近傍に設けられていることが好ましい。
図4の例では、ベント口11bは、シール部材13によって画された三つの領域のうち、下流側の領域(脱気・冷却吐出ゾーン)に配置されている。ベント口11bは、ガス分析装置30に接続されている。
【0057】
吐出口11cは、シリンダ壁11の搬送方向の最も下流側に設けられている。吐出口11cには、ダイス15が配置されている。シリンダ壁11内で混練されて形成された分解生成物は、ダイス15によって所定の形状に成型されて吐出口11cから押し出される。
【0058】
水分調整装置25は、シリンダ壁11内の水分を調整する。水分調整装置25は例えば、投入口11aの湿度を調整する噴霧装置である。水分調整装置25は、シリンダ壁11内に水を注入するポンプや、シリンダ壁11内に乾燥気体や加湿気体を導入する装置であってもよい。
【0059】
ガス分析装置30は、図示しない水分計を含んでいる。ガス分析装置30は、ベント口11bから採取されたガス成分を分析し、シリンダ壁11内の水分を測定する。測定された水分の値は、制御装置40に送信される。
【0060】
制御装置40は、ガス分析装置30からシリンダ壁11内の水分の値を受け取り、この値に基づいて、水分調整装置25を制御する。これによって、シリンダ壁11内の水分を調整する。すなわち、分解装置1は、制御装置40によって、シリンダ壁11内の水分を調整する工程を自動で行うことができるように構成されている。
【0061】
上記の例では、分解装置1が制御装置40を備え、制御装置40によってシリンダ壁11内の水分を調整する工程を自動で行う場合を説明した。しかし、水分を調整する工程は手動で行ってもよく、分解装置は制御装置40を備えていなくてもよい。
【0062】
[構成例2]
図5は、ポリ乳酸の分解装置の他の例である分解装置2の模式図である。分解装置2は、分解装置1(
図4)の押出機10に代えて、反応設備60を備えている。反応設備60は、反応装置61、スクリュー62、及び加熱装置63を備えている。
【0063】
反応装置61は、本体611と蓋612とを含んでいる。蓋612には、原料投入口612a、ガス導入口612b、ベント口612cが設けられており、それぞれ、フィーダ20、水分調整装置25、及びガス分析装置30に接続されている。
【0064】
スクリュー62は、反応装置61の内容物を混練する。加熱装置63は、反応装置61を加熱する。
【0065】
分解装置2においても、制御装置40は、ガス分析装置30から反応装置61内の水分の値を受け取り、この値に基づいて、水分調整装置25を制御する。これによって、反応装置61内の水分を調整する。すなわち、分解装置2は、制御装置40によって、反応装置61内の水分を調整する工程を自動で行うことができるように構成されている。なお、この例においても、水分を調整する工程は手動で行ってもよく、分解装置は制御装置40を備えていなくてもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0067】
図4で示した装置に準じた分解装置を用いて、水分含有量、圧力、添加剤の種類、及び添加剤濃度を変えて、数平均分子量78000のポリ乳酸の分解を行い、分解生成物の数平均分子量を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
表1及び表2の「消費エネルギー」の欄の値は、100gのポリ乳酸、添加剤、及び水を室温(20℃)から反応温度(200℃)まで加熱するのに必要なエネルギー(ポリ乳酸及び添加剤の融解熱、並びに水の蒸発熱を含む)の計算値である。
【0071】
図6は、実施例1及び比較例1~3から作成した、水分含有量と分解生成物の数平均分子量及び消費エネルギーとの関係を示すグラフである。
【0072】
表1及び表2、並びに
図6に示すように、比較例1の条件では、分解生成物の数平均分子量が十分に下がらなかった。これは、水分含有量が低すぎたことにより、分解速度が著しく低下したためと考えられる。
【0073】
一方、実施例1と比較例2及び3とを比較すると、水分含有量を1.5%程度まで低下させても、分解速度はそれほど低下しないことが分かる。この例では、実施例1の反応速度は、比較例2及び3の反応速度よりもむしろ大きくなっている。一方、水分含有量を低下させることで、消費エネルギーを大きく削減できることが分かる。
【0074】
以上、本発明についての実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1,2 ポリ乳酸の分解装置、10 押出機、11 シリンダ壁(反応装置)、12 スクリュー、13 加熱装置、14 シール部材、15 ダイス、20 フィーダ、25 水分調整装置、30 ガス分析装置、40 制御装置、60 反応設備、61 反応装置、62 スクリュー、63 加熱装置