(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ベルト駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/14 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
F16H7/14 A
(21)【出願番号】P 2022540283
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2021027496
(87)【国際公開番号】W WO2022024977
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020130298
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】久米 宏和
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159161(JP,A)
【文献】特開2005-343394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定距離をおいて装置本体に回転可能に配置される第1のプーリ及び第2のプーリと、
前記第1のプーリと前記第2のプーリとに巻架されるベルトと、
前記第1のプーリに設けられ、前記第1のプーリと前記第2のプーリとの軸間距離を調整する調整機構と、を備えるベルト駆動装置であって、
前記調整機構は、
前記第1のプーリを回転可能に支持する支持部材と、
前記装置本体及び前記支持部材のうちの少なくとも一方に設けられ、その長さ方向が、前記第1のプーリの回転軸と前記第2のプーリの回転軸との間を結ぶ軸間方向に沿う第1の長孔と、
前記第1の長孔に軸部が挿通されて前記支持部材を前記装置本体に締結する第1の締結部材と、
前記装置本体及び前記支持部材のうちの少なくとも一方に設けられ、その長さ方向が前記軸間方向に沿う、前記第1の長孔よりも短い第2の長孔と、
前記第2の長孔に軸部が挿通されて前記支持部材を前記装置本体に締結する第2の締結部材と、を備え、
前記第1の長孔は、前記軸間距離が、少なくとも前記第1のプーリと前記第2のプーリとに前記ベルトを巻架させることが可能な距離となるまで、前記支持部材を前記第2のプーリの方向に移動可能とする第1の長さを有し、
前記第2の長孔は、前記軸間距離を、前記第1のプーリと前記第2のプーリとに対する前記ベルトの巻架の状態が外れない距離に保持する第2の長さを有する、ベルト駆動装置。
【請求項2】
前記調整機構は、
前記第1の長孔を囲む円環状の第1のシール部材と、
前記第2の長孔を囲む円環状の第2のシール部材と、をさらに備え、
前記第1のシール部材と前記第2のシール部材のそれぞれは、前記装置本体と前記支持部材との間に挟まれる、請求項1に記載のベルト駆動装置。
【請求項3】
前記調整機構は、複数の前記第1の長孔を備え、
複数の前記第1の長孔は、互いに平行、かつ一直線上に延在する、請求項1または2に記載のベルト駆動装置。
【請求項4】
前記第1のプーリ及び前記第2のプーリはタイミングプーリであり、
前記ベルトは、前記第1のプーリ及び前記第2のプーリに噛み合うタイミングベルトである、請求項1~3のいずれかに記載のベルト駆動装置。
【請求項5】
前記装置本体は、多関節ロボットのアーム部本体を含み、前記第2のプーリは、前記多関節ロボットの回転部材を回転させる、請求項1~4のいずれかに記載のベルト駆動装置。
【請求項6】
前記第2の締結部材はボルトであり、前記第2の長孔は、前記ボルトの頭部による座面で完全に覆われることが可能である、請求項1~5のいずれかに記載のベルト駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体部品の搬送や搭載といった作業を行うロボットとして、複数のアーム部が関節(軸)を介して回転可能に連結された多関節ロボットが使用されている。この種のロボットにおいては、駆動側のプーリの回転を従動側のプーリにベルトによって伝達し、従動側のプーリの回転によって、アーム部等の回転部材を回転するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、一方のプーリを、長孔を利用してねじ留めすることにより、一対のプーリの軸間距離を調整可能として、ベルトの張力を調整可能とする機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長孔を利用して一対のプーリの軸間距離を調整する機構によれば、軸間距離を縮めて双方のプーリにベルトを巻回してから軸間距離を長くすることにより、ベルトに張力を付与することができる。しかし、長孔に通した締結用のねじに緩みが生じると、プーリが移動して軸間距離が縮み、ベルトがプーリから外れる場合がある。そこで、軸間距離を調整するための移動側のプーリを固定するねじに緩みが生じても、ベルトの外れを防止することができる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るベルト駆動装置は、所定距離をおいて装置本体に回転可能に配置される第1のプーリ及び第2のプーリと、前記第1のプーリと前記第2のプーリとに巻架されるベルトと、前記第1のプーリに設けられ、前記第1のプーリと前記第2のプーリとの軸間距離を調整する調整機構と、を備えるベルト駆動装置であって、前記調整機構は、前記第1のプーリを回転可能に支持する支持部材と、前記装置本体及び前記支持部材のうちの少なくとも一方に設けられ、その長さ方向が、前記第1のプーリの回転軸と前記第2のプーリの回転軸との間を結ぶ軸間方向に沿う第1の長孔と、前記第1の長孔に軸部が挿通されて前記支持部材を前記装置本体に締結する第1の締結部材と、前記装置本体及び前記支持部材のうちの少なくとも一方に設けられ、その長さ方向が前記軸間方向に沿う、前記第1の長孔よりも短い第2の長孔と、前記第2の長孔に軸部が挿通されて前記支持部材を前記装置本体に締結する第2の締結部材と、を備え、前記第1の長孔は、前記軸間距離が、少なくとも前記第1のプーリと前記第2のプーリとに前記ベルトを巻架させることが可能な距離となるまで、前記支持部材を前記第2のプーリの方向に移動可能とする第1の長さを有し、前記第2の長孔は、前記軸間距離を、前記第1のプーリと前記第2のプーリとに対する前記ベルトの巻架の状態が外れない距離に保持する第2の長さを有する。
【発明の効果】
【0006】
一態様によれば、軸間距離を調整するための移動側のプーリを固定する締結部材に緩みが生じても、ベルトの外れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の実施形態に係るベルト駆動装置を備えた手首旋回部を有する産業用ロボットの斜視図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るベルト駆動装置を備えた手首旋回部の第1のアーム部を示す側面図である。
【
図4】本開示の実施形態に係るアーム部本体の側面図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る第1のプーリを支持する支持部材を示す斜視図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る第1のプーリの正面図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る調整機構の作用を示す図であって、ベルトに張力が付与されている状態を示している。
【
図9】本開示の実施形態に係る調整機構の作用を示す図であって、第2のプーリによりベルトが外れない状態を示している。
【
図10】本開示の実施形態に係る調整機構の作用を図であって、第2のボルトを外してベルトを緩め、ベルトを第1のプーリから取り外し可能な状態を示している。
【
図11】本開示の実施形態に係る長孔の長さを算出する式を説明するための図であって、プーリの取付理想位置を示している。
【
図12】本開示の実施形態に係る長孔の長さを算出する式を説明するための図であって、小径の第1のプーリが移動した状態を示している。
【
図13】本開示の実施形態に係る長孔の長さを算出する式を説明するための図であって、プーリのピッチ円直径、歯先円直径を示す図である。
【
図14】本開示の実施形態に係る長孔の長さを算出する式を説明するための図であって、ベルトの張力と伸び率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本明細書での「略」は厳密にその状態、大きさ、方向、向き等を特定するものではなく、それらの機能や効果を達成可能な範囲で近似する状態を含むという意味である。
【0009】
図1は、本実施形態に係る産業用の多関節ロボット100の外観を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す手首旋回部105を下方から見た図である。多関節ロボット100は、基台101、旋回部102、下腕部103、上腕部104、手首旋回部105、手首曲げ部106、及び手首回転部107を有する、6軸自由度の構造を有する多関節ロボットである。
【0010】
図2に示すように、手首旋回部105は、アームケーシング105aを備える。アームケーシング105aは、互いに平行に並列配置された第1のアーム部2A及び第2のアーム部2Bを備える。第1のアーム部2A及び第2のアーム部2Bは、アームケーシング105aの両側の側板部をそれぞれ構成する。
図3は、アームケーシング105aの長さ方向Eが略水平の状態を示している。
図3に示すように、第1のアーム部2Aは、本開示の実施形態に係るベルト駆動装置1を備える。
【0011】
第1のアーム部2Aは、前後方向(
図3で右側が前側、左側が後側)に長いアーム部本体30を備える。アーム部本体30は、装置本体の一例である。アーム部本体30の前端部には、手首曲げ部106が設けられている。手首曲げ部106は、後述する第2のプーリ20が回転することによって、矢印G方向に回転する。手首曲げ部106は、回転部材の一例である。さらに手首曲げ部106の先端には、回転軸線Hを回転中心として回転する手首回転部107が支持されている。手首回転部107の先端には、例えば、半導体部品等の部品を掴む不図示のハンド等が装着される。
【0012】
本実施形態に係るベルト駆動装置1は、アーム部本体30に取り付けられる第1のプーリ10及び第2のプーリ20と、第1のプーリ10と第2のプーリ20とに巻架されるベルト40と、調整機構50と、を備える。
【0013】
アーム部本体30の一方の側面に、収容部31が設けられている。収容部31は、不図示のカバーで覆われる。前記カバーで覆われる収容部31に、第1のプーリ10、第2のプーリ20及びベルト40が収容される。
図4は、第1のプーリ10、第2のプーリ20及びベルト40が収容部31から外されたアーム部本体30を示している。
【0014】
第1のプーリ10は、駆動プーリである。第2のプーリ20は、従動プーリである。ベルト40は、第1のプーリ10と第2のプーリ20とに巻架され、第1のプーリ10の回転を第2のプーリ20に伝達する。本実施形態では、第1のプーリ10及び第2のプーリ20は、歯付きのタイミングプーリである。ベルト40は、第1のプーリ10及び第2のプーリ20の歯に噛み合う歯付きのタイミングベルトである。なお、
図13以外の図面において、歯の図示は省略されている。
【0015】
第1のプーリ10は、アーム部本体30の長さ方向の中央部に配置される。アーム部本体30の長さ方向は、第1のアーム部2Aの長さ方向Eと同じ方向であり、以下適宜に、アーム部本体30の長さ方向Eともいう。第1のプーリ10は、
図5に示すように、後述する調整機構50の支持部材52に回転可能に支持される。支持部材52は、
図3においてアーム部本体30の裏側の面に固定される。支持部材52に回転可能に支持される第1のプーリ10の回転軸は、アーム部本体30の孔30aを貫通する。
図6に示すように、第1のプーリ10は、その周面12に隣接して、ベルト40の外れを防止する鍔部14を軸方向両側に有する。第1のプーリ10は、
図5に示すモータを含む駆動部19によって回転駆動される。
【0016】
第2のプーリ20は、アーム部本体30の前端部に配置される。第2のプーリ20のベルト40の巻き径は、第1のプーリ10よりも若干大きい。第2のプーリ20は、円板状の支持板21に回転可能に支持される。支持板21は、第2のプーリ20の回転を減速して手首曲げ部106に伝える減速機を内蔵する。支持板21は、
図3においてアーム部本体30の裏側の面に、複数の固定ボルト22により固定される。第2のプーリ20の回転軸は、アーム部本体30の孔30bを貫通する。アーム部本体30には、複数の固定ボルト22が挿通される挿通孔30cが形成されている。第2のプーリ20も、第1のプーリ10と同様に、その周面に隣接して、ベルト40の外れを防止する鍔部を軸方向両側に有する。駆動部19が駆動する第1のプーリ10により、ベルト40を介して第2のプーリ20の回転が制動される。
【0017】
図3に示すように、第1のアーム部2Aが略水平な状態で、第1のプーリ10は第2のプーリ20よりも下方に配置される。第1のプーリ10の回転軸と第2のプーリ20の回転軸とを結ぶ直線Fで表される軸間方向(以下適宜に、軸間方向Fともいう)は、第1のアーム部2Aの長さ方向Eに対して前上がりにやや傾斜している。
【0018】
図5および
図7に示すように、調整機構50は、第1のプーリ10を回転可能に支持する支持部材52と、アーム部本体30に設けられる複数の第1の長孔61及び第2の長孔62と、第1の長孔61に挿通される第1のボルト71と、第2の長孔62に挿通される第2のボルト72と、を備える。第1のボルト71は第1の締結部材の一例であり、第2のボルト72は第2の締結部材の一例である。第1のボルト71と第2のボルト72とは、同じサイズである。
【0019】
支持部材52は板材を所定形状に成形したものである。支持部材52は、
図7においてアーム部本体30の裏側の面に合わせて固定される。支持部材52は、第1のボルト71及び第2のボルト72によってアーム部本体30に固定される。
【0020】
図4において孔30aの上方に、2つの第1の長孔61が前後に並んで形成されている。2つの第1の長孔61は、その長さ方向が、アーム部本体30の長さ方向Eと略平行、かつ一直線上に延在している。したがってアーム部本体30の長さ方向Eを略水平とした場合、2つの第1の長孔61は、その長さ方向が略水平方向に延在する。2つの第1の長孔61のそれぞれに、第1のボルト71が挿通される。アーム部本体30が略水平になるように回転させて2つの第1の長孔61の長さ方向を略水平方向に延在させると、支持部材52及び第1のプーリ10は、重力により前後方向のいずれかに偏って移動するという事態が起こりにくい。このため、後述するベルト40の張力調整を行いやすい。
【0021】
図5に示すように、支持部材52には、第1のボルト71がねじ込まれる2つの第1のねじ穴54が形成されている。2つの第1のねじ穴54の周囲には、第1の長孔61を囲む円環状の第1のシール部材81がそれぞれ配置される。第1のボルト71は、ねじが形成されている軸部71aがアーム部本体30の収容部31側から第1の長孔61に挿通されて、支持部材52の第1のねじ穴54にねじ込まれる。
【0022】
図4に示すように、孔30aの前側及び後側(
図4で右側及び左側)に第2の長孔62が1つずつ、計2つ形成されている。アーム部本体30が略水平な状態において、前側の第2の長孔62は孔30aの中心よりも上方に位置し、後側の第2の長孔62は孔30aの中心よりも下方に位置する。2つの第2の長孔62の長さ方向は、第1の長孔61と略平行である。2つの第2の長孔62のそれぞれに、第2のボルト72が挿通される。
【0023】
図7に示すように、第1のプーリ10の回転軸と第2のプーリ20の回転軸とを結ぶ軸間方向を示す直線Fの近傍に、前後の第2の長孔62は位置する。また、側面視した場合、直線Fの両側に、2つの第2の長孔62はそれぞれ配置されている。すなわち前後の第2の長孔62のうち、前側の第2の長孔62は、直線Fを通る仮想平面Faで仕切られる上側の領域に位置し、後側の第2の長孔62は、前記仮想平面Faの下側の領域に位置している。また、第2の長孔62は、第2のボルト72の頭部による座面で完全に覆われることが可能である。このような配置により、前後の第2の長孔62にそれぞれ挿通する第2のボルト72によって第1のプーリ10を安定して固定することができる。
【0024】
図5に示すように、支持部材52には、第2のボルト72がねじ込まれる2つの第2のねじ穴56が形成されている。なお、
図5において一方(後側)の第2のねじ穴56は、第1のプーリ10により隠れて見えない。2つの第2のねじ穴56の周囲には、第2の長孔62を囲む円環状の第2のシール部材82がそれぞれ配置される。第2のボルト72は、ねじが形成されている軸部72aがアーム部本体30の収容部31側から第2の長孔62に挿通されて、支持部材52の第2のねじ穴56にねじ込まれる。
【0025】
第1の長孔61に挿通された第1のボルト71が第1のねじ穴54に締め付けられ、第2の長孔62に挿通された第2のボルト72が第2のねじ穴56に締め付けられて、支持部材52はアーム部本体30に締結される。
【0026】
第1のシール部材81及び第2のシール部材82のそれぞれは、アーム部本体30と支持部材52との間に挟まれ、アーム部本体30と支持部材52とに密着する。第1のシール部材81は第1の長孔61を囲んで第1の長孔61をシールし、第2のシール部材82は第2の長孔62を囲んで第2の長孔62をシールする。これにより、各長孔61、62から異物が収容部31側、あるいは駆動部19側に浸入することが抑制される。
【0027】
第1の長孔61の長さと第2の長孔62の長さとは異なっており、第1の長孔61の方が第2の長孔62よりも長い。第1の長孔61の長さは、例えば第1のボルト71及び第2のボルト72のねじ径の1.5倍~4.0倍程度である。第2の長孔62の長さは、例えば第1のボルト71及び第2のボルト72のねじ径の0.5倍~1.2倍程度である。
【0028】
なお、第2の長孔62は、第2のボルト72の頭部による座面で完全に覆われる長さを有していてもよい。
【0029】
支持部材52をアーム部本体30に締結している第1のボルト71及び第2のボルト72を緩めることにより、第1のプーリ10はアーム部本体30の長さ方向E(前後方向)に支持部材52ごと移動可能となる。支持部材52は、第1のボルト71の軸部71aが第1の長孔61にガイドされ、かつ第2のボルト72の軸部72aが第2の長孔62にガイドされて、アーム部本体30の長さ方向Eに移動する。第1のプーリ10が前後方向に移動することにより、第2のプーリ20に対する第1のプーリ10の離間距離、すなわち両プーリ10、20の軸間距離Lが変位する。
【0030】
このように本実施形態では、第1のプーリ10がアーム部本体30の長さ方向Eに移動することにより、第1のプーリ10は軸間方向Fに移動可能となっている。これは、軸間方向Fが長さ方向Eに対してやや傾斜しているものの、その傾斜の度合いは、調整機構50の機能面においては支障をきたさないほど僅かであって、軸間方向Fが長さ方向Eに概ね沿っているためである。したがって本実施形態の説明においては、第1の長孔61及び第2の長孔62の長さ方向は、軸間方向Fに沿っているという場合がある。
【0031】
本実施形態では、第1の長孔61は、第1のプーリ10と第2のプーリ20との軸間距離Lが、少なくとも各プーリ10、20にベルト40を巻架させる作業が可能な距離となるまで、第1のプーリ10を支持する支持部材52を第2のプーリ20の方向に移動可能とする第1の長さを有する。また、本実施形態では、第2の長孔62は、第1のプーリ10と第2のプーリ20との軸間距離Lが、各プーリ10、20に対するベルト40の巻架の状態が外れないような距離に保持する第2の長さを有する。
【0032】
本実施形態の調整機構50によれば、第1の長孔61及び第2の長孔62が上記のような長さを有することにより、ベルト40は次の3つ状態となる。
【0033】
図8に示すように、ベルト40に適正な張力が付与されている時には、第1のボルト71及び第2のボルト72は、それぞれ第1の長孔61及び第2の長孔62に対し前方及び後方の双方向に移動可能な位置で固定される(第1の状態)。
図9に示すように、例えば第1のボルト71及び第2のボルト72に緩みが生じて第1のプーリ10が前方に移動した時には、第2のボルト72が第2の長孔62の前端の内縁に係合してそれ以上の前方への移動が規制される。この時、ベルト40は、第1のプーリ10および第2のプーリ20に対する巻架の状態に緩みは生じるものの、各プーリ10、20からは外れない(第2の状態)。第1のボルト71が緩んだ状態から、
図10に示すように第2のボルト72を外すと、第1のボルト71が第1の長孔61の前端の内縁に係合するまで第1のプーリ10は前方に移動可能となる(第3の状態)。この状態では、第1のプーリ10及び第2のプーリ20にベルト40を架け渡して巻架する作業を行うことができる。
【0034】
ここで、第2の長孔62の適切な長さの算出方法の一例を示す。
図11は、小径のプーリ(第1のプーリ10に相当)及び大径のプーリ(第2のプーリ20に相当)の取付理想位置を示している。
図12は、軸間方向Fに第1のプーリがL1だけ移動した状態を示している。
図13は、タイミングプーリである小径プーリにタイミングベルトであるベルトが噛み合っている状態を示している。
【0035】
図11及び
図12において、
L:概略軸間距離[mm]
D2:大プーリ(第2のプーリ)の直径[mm]
D1:小プーリ(第1のプーリ)の直径[mm]
とした場合、プーリ取付位置におけるL、D2、D1は、設計的に決定しており、その時のベルトの概略周長Rは、
R≒2L+{π(D2+D1)/2}+{(D2-D1)×(D2-D1)/4L}
で表される。
図12に示すように、小径のプーリがL1の長さを移動した場合にプーリからベルトが外れるか否かは、
図11に示すプーリの取付理想位置におけるベルトの概略周長R1に対して、小径のプーリにベルトの歯の高さh(
図13参照)を足した円でのベルトの概略周長R2が長くなった(R2>R1)か否かとなる。
【0036】
図13に示されるプーリのピッチ円直径:PD、及び歯先の円直径:ODは、
P:ベルトピッチ(ベルトの歯のピッチ)[mm]
N:プーリの歯数
PLD(ベルトのベルトピッチ線(BPL)と歯の底面との距離)
とした場合、
PD=(P×N)/π
で求められ、
OD=PD-(2×PLD)
で求められる。
【0037】
ベルトの張力とベルトの伸び率の関係を、
図14に示すグラフのように求めておくと、必要なベルト張力の調整代L2は、
L3:幾何学公差調整代
α:必要ベルト伸び率
とすると、
L2=α×L/100
で求められる。
以上のことから、R1=R2となる値をL1とした場合、
L2+L3<L1
が成立するように第2の長孔を設計すれば、プーリからベルトが外れることが防止される。
【0038】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
本実施形態に係るベルト駆動装置1は、所定距離をおいてアーム部本体30に回転可能に配置される第1のプーリ10及び第2のプーリ20と、第1のプーリ10と第2のプーリ20とに巻架されるベルト40と、第2のプーリ20の回転により回転する手首曲げ部106と、第1のプーリ10に設けられ、第1のプーリ10と第2のプーリ20との軸間距離Lを調整する調整機構50と、を備え、調整機構50は、第1のプーリ10を回転可能に支持する支持部材52と、アーム部本体30に設けられ、その長さ方向が、前記第1のプーリの回転軸と前記第2のプーリの回転軸との間を結ぶ軸間方向Fに沿う第1の長孔61と、第1の長孔61に軸部71aが挿通されて支持部材52をアーム部本体30に締結する第1のボルト71と、アーム部本体30に設けられ、その長さ方向が軸間方向Fに沿う、第1の長孔61よりも短い第2の長孔62と、第2の長孔62に軸部72aが挿通されて支持部材52をアーム部本体30に締結する第2のボルト72と、を備え、第1の長孔61は、軸間距離Lが、少なくとも第1のプーリ10と第2のプーリ20とにベルト40を巻架させることが可能な距離となるまで、支持部材52を第2のプーリ20の方向に移動可能とする第1の長さを有し、第2の長孔62は、軸間距離Lを、第1のプーリ10と第2のプーリ20とに対するベルト40の巻架の状態が外れない距離に保持する第2の長さを有する。
【0039】
これにより、第1のボルト71及び第2のボルト72がともに緩んでも、第2のボルト72が第2の長孔62の前側の内縁に係合することにより、各プーリ10、20間の軸間距離Lが、ベルト40が外れない距離に保持される。このため、ベルト40が各プーリ10、20から外れることを抑制することができる。その結果、第2のプーリ20はベルト40により制動される状態が保持され、手首曲げ部106が第2のプーリ20とともに重力で回転することを抑制することができる。第2の長孔62は第1の長孔61よりも短いため、第2の長孔62の長さが第1の長孔61の長さと同じ場合よりも、第2の長孔62の近傍に加工用の穴30dや追加の部材80等を密集した状態に配置できる。このため、アーム部本体30の太さを細くできる範囲が広くなり、アーム部本体30の小型化を図ることができる。
【0040】
本実施形態に係るベルト駆動装置1において、調整機構50は、第1の長孔61を囲む円環状の第1のシール部材81と、第2の長孔62を囲む円環状の第2のシール部材82と、をさらに備え、第1のシール部材81と第2のシール部材82のそれぞれは、アーム部本体30と支持部材52との間に挟まれる。
【0041】
これにより、各長孔61、62から異物が収容部31側、あるいは駆動部19側に浸入することを抑制することができる。特に第2のシール部材82は、長さが短いため、第2のシール部材82を第1のシール部材81よりも小型にすることができる。
【0042】
本実施形態に係るベルト駆動装置1において、調整機構50は、複数の第1の長孔61を備え、複数の第1の長孔61は、互いに平行、かつ一直線上に延在する。
【0043】
これにより、複数の第1の長孔61に沿って第1のプーリ10がスムーズに前後方向に移動し、軸間距離Lを調整しやすい。
【0044】
本実施形態では、第2の長孔62は、第2のボルト72の頭部による座面で完全に覆われることが可能である。
【0045】
これにより、締結時において第2のボルト72がアーム部本体30に圧接する座面の面積を、第1の長孔61に挿通される第1のボルト71よりも大きくでき、固定強度を増大させることができる。
【0046】
本開示は、上記実施形態に制限されることはなく、適宜変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、アーム部本体30に第1の長孔61及び第2の長孔62を設けているが、これに制限されない。長孔61、62のそれぞれは、アーム部本体30及び支持部材52のうちの少なくとも一方に設けてよい。すなわち長孔61、62は、支持部材52に設けてもよく、支持部材52及びアーム部本体30の双方に設けてもよい。
締結部材としてボルトを用いているが、ボルトの代わりにリベット等の他の締結部材を用いてもよい。
各プーリ10、20及びベルト40は歯付きのタイミングプーリ及びタイミングベルトであるが、周面が平滑なプーリ及びベルトであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ベルト駆動装置
10 第1のプーリ
20 第2のプーリ
30 アーム部本体(装置本体)
40 ベルト
50 調整機構
52 支持部材
61 第1の長孔
62 第2の長孔
71 第1のボルト(第1の締結部材)
71a 第1のボルトの軸部
72 第2のボルト(第2の締結部材)
72a 第2のボルトの軸部
81 第1のシール部材
82 第2のシール部材
100 多関節ロボット
106 手首曲げ部(回転部材)
F 軸間方向
L 軸間距離