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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20240123BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/203
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022571566
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047645
(87)【国際公開番号】W WO2022138741
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020213278
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】安倍 和宏
(72)【発明者】
【氏名】下野 博賢
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164000(JP,A)
【文献】特開2018-167681(JP,A)
【文献】特開2020-037382(JP,A)
【文献】特開2019-142338(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235145(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0119271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールに搭載されるエアバッグ装置であって、
前記ステアリングホイールに固定され、膨張ガスを発生するガス発生器と;
前記膨張ガスによって乗員側に向かって膨張展開するエアバッグクッションと、を備え、
前記エアバッグクッションは、膨張展開時に乗員に面する乗員側パネルと、当該乗員側パネルに対向するステアリング側パネルと、これら乗員側パネルとステアリング側パネルの外縁部において両パネルを連結するサイドパネルとを含み、
前記エアバッグクッションが膨張展開した状態で、前記乗員側パネルの中央付近に凹部が形成され、
前記乗員側パネルの前記凹部の上方において、乗員の顔面が接触する領域に実質的な平面部が形成されることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
膨張展開した前記エアバッグクッションを側方から見た時に、乗員の頭部が接触した時に前記平面部の上端と下端とを結んだ線LBと、乗員の顔面の上端と下端とを結んだ線LAとが実質的に平行となることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記平面部は、車両衝突試験時に使用されるTHORダミーAM50の顔面の平面部分の全てが前記乗員側パネルに同時に接触するように成形されることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記ステアリングホイールを側方から見た時に、前記ステアリングホイールのリム表面に平行な線LSが、垂直に対して前方に倒れる方向に15°~30°傾いていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
展開状態の前記エアバッグクッションを側方から見た時に、前記平面部の上端と下端とを結んだ線LBが、前記ステアリングホイールのリム表面に平行な線LSに対して、乗員の頭部に近づく方向に0°~30°傾斜していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記エアバッグクッション内部において前後方向に延び、前記ステアリング側パネルと前記乗員側パネルとを連結するテザーを備え、
前記テザーの前後方向の長さによって、前記平面部の傾斜を調整可能に構成されていることを特徴とする請求項5に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記凹部は、前記エアバッグクッション内部において前後方向に延び、前記ステアリング側パネルと前記乗員側パネルとを連結するテザーによって成形されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記テザーは、前記乗員側パネルの中心付近で円形又は楕円形の縫製ラインに沿って連結されることを特徴とする請求項6又は7に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記サイドパネルは、膨張展開時の前記エアバッグクッションの上端(12時の位置)に連結される部分の前後方向の幅が、下端(6時の位置)に連結される部分の前後方向の幅よりも広くなるように成形されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記サイドパネルは1枚の長尺状のパネルとして成形され、当該パネルの両端部が、前記エアバッグクッションの上端(12時の位置)において互いに連結されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記凹部の上下方向の中心位置C1が、前記乗員側パネルの上下方向の中心位置C0よりも上方に位置することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
膨張展開した前記エアバッグクッションの前記乗員側パネルに乗員の頭部が接触した時に、前記凹部の上端部が、当該乗員の顎近傍に位置することを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記凹部の上下方向中心における左右端部から前記乗員側パネルの左右端部までの水平(横方向)距離D3が、前記凹部の左右方向中心における上下端部から前記乗員側パネルの上下端部までの垂直(縦方向)距離D4と実質的に等しいことを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項14】
前記凹部を乗員側から見た外周形状は、前記乗員側パネルの外周形状と相似であることを特徴とする請求項1乃至13の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか1項に記載のエアバッグ装置に使用されるエアバッグクッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリングホイールに収容されるドライバエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために1つまたは複数のエアバッグ装置を車両に設けることは周知である。エアバッグ装置としては、例えば、ステアリングホイールの中心付近から展開して運転者を保護する、いわゆるドライバエアバッグ装置や、窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ装置や、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員の側部(シートの側部)で展開するサイドエアバッグ装置などの様々な形態がある。
【0003】
ステアリングホイールに収容されるドライバエアバッグ装置においては、エアバッグクッションの速やかな展開によって乗員を確実に拘束することが要求される。そして、乗員の拘束性能を向上させるためには、エアバッグクッションの展開形状、展開姿勢が安定していることが重要である。
【0004】
ドライバエアバッグ装置に使用されるエアバッグクッションとしては、概ね円形(楕円形)の2枚のパネルの外縁同士を縫い合わせることで成形されるものがある。このようなパネル構成の場合、エアバッグクッションの構造がシンプルになり、製造コストの低減を図ることができる。しかしながら、膨張・展開したエアバッグクッションは、内部圧力が分散することにより、球体に近い形状になる。このため、乗員(運転者)の頭部は湾曲したエアバッグクッションと接触することとなり、当該頭部が回転し、乗員(頭部)を適切に保護することが困難であった。
【0005】
特許文献1に記載されたエアバッグ装置においては、乗員側パネルと、ステアリング側パネルと、これらのパネルを連結するサイドパネルとによって、膨張展開状態で円錐台形状をなすエアバッグクッションを採用している。このような構造によって、「膨張完了状態において、乗員対向面を平面に近い形状とすることができる」とされている。しかしながら、エアバッグクッションの内部圧力が上昇すると、実際には、乗員側パネルが湾曲し、接触した乗員の頭部が回転し易く、拘束性を十分に向上させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-20737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、乗員の頭部拘束性能に優れたエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、車両のステアリングホイールに搭載されるエアバッグ装置であって、前記ステアリングホイールに固定され、膨張ガスを発生するガス発生器と;前記膨張ガスによって乗員側に向かって膨張展開するエアバッグクッションと、を備える。前記エアバッグクッションは、膨張展開時に乗員に面する乗員側パネルと、当該乗員側パネルに対向するステアリング側パネルと、これら乗員側パネルとステアリング側パネルの外縁部において両パネルを連結するサイドパネルとを含む。前記エアバッグクッションが膨張展開した状態で、前記乗員側パネルの中央付近に凹部が形成される。そして、前記乗員側パネルの前記凹部の上方において、乗員の顔面が接触する領域に実質的な平面部が形成される。
【0009】
ここで、「乗員の顔面が接触する領域」は、車両衝突試験時に使用されるTHORダミーAM50の頭部重心Xaから顔面方向に延びる直線Lxが顔面に対して垂直に交差する点Oxが、膨張展開したエアバッグクッションの乗員側パネルと接触するときの、当該顔面が接触する領域と定義することができる。
【0010】
「車両衝突試験」は、EURO NCAPのMPDB試験において、車両を時速50kmで走行させて、50%オーバーラップさせて、1400kgのアルミハニカムを衝突させる試験を想定することができる。また、当該試験に使用されるダミーとしては、例えば、ENCAPで規定されるTHOR AM50を適用することができる。
【0011】
また、「実質的な平面部」とは、完全な平面に限定されるものではなく、乗員の顔面全体が膨張展開したエアバッグクッションに略同時に接触できれば、若干の湾曲は許容される。「略同時」とは、0~5msの範囲とすることができ、その範囲で最も効果が大きい。
【0012】
本発明に係るエアバッグクッションは、乗員側パネルとステアリング側パネルとをサイドパネルによって連結することで成形されるため、乗員側パネルとステアリング側パネルとを直接連結した場合に比べて、乗員側パネルの湾曲具合が小さく(曲率が大きく)なり、平面に近づくことになる。
【0013】
また、乗員側パネルの中央付近に凹部を形成することにより、乗員側パネルの当該凹部周辺における湾曲具合が小さく(曲率が大きく)なり、乗員側パネルの表面が更に平面に近づくことになる。
【0014】
そして、乗員側パネルの凹部の上方において、乗員の顔面が接触する領域に実質的な平面部を形成することにより、乗員の頭部(顔面)との実質的な接触面積が大きくなり、当該頭部がエアバッグクッションに進入した時の回転を抑制でき、乗員の頭部を確実に拘束できる。その結果、乗員の脳傷害を低減することが可能となる。
【0015】
膨張展開した前記エアバッグクッションを側方から見た時に、前記平面部の上端と下端とを結んだ線LBと、乗員の顔面の上端と下端とを結んだ線LAとが実質的に平行となるように構成することができる。
【0016】
ここで、「実質的に平行」とは、2つの線LB,LAが平行又は平行からの開きが±10°以内であることを許容するものであり、実験的に当該開きが±10°以上であると、本発明の効果が低下することが分かっている。
【0017】
前記平面部は、車両衝突試験時に使用されるTHORダミーAM50の顔面の平面部分の全てが同時に接触するように成形することができる。ここで、「同時」とは、0~5msの範囲とすることができ、その範囲で最も効果が大きい。
【0018】
前記ステアリングホイールを側方から見た時に、前記リム表面は、垂直に対して前方に倒れる方向に15°~30°傾くように構成することができる。一般的な乗用車、SUV等のステアリングホイールは、概ね前方に15°~30°の範囲で傾いている。本発明は、例えば、ステアリングホイールが水平近くまで傾いた、大型トラックや特殊車両を想定していない。なお、「垂直」とは、車両のシャシー等の水平に配置された構造部に対して垂直という意味であり、車両が水平な路面上に停車した状態では「鉛直」に相当することになる。
【0019】
展開状態の前記エアバッグを側方から見た時に、前記平面部の上端と下端とを結んだ線LBが、前記ステアリングホイールのリム表面に平行な線LSに対して、乗員の頭部に近づく方向に0°~30°傾斜していることが好ましい。
【0020】
上述したように、一般車両のステアリングホイールは垂直に対して前方に倒れる方向に傾斜した状態で取り付けられている。エアバッグは、ステアリングホイールのリム表面に対して概ね垂直な方向に展開することになる。そこで、乗員側パネルを乗員の頭部に近づく方向に傾斜させることにより、乗員側パネルの平面部をより垂直(直立)に近い状態にすることが可能となる。その結果、エアバッグの平面部に対して乗員の頭部(顔面)がより大きな面積で接触することになる。
【0021】
前記エアバッグクッション内部において前後方向に延び、前記ステアリング側パネルと前記乗員側パネルとを連結するテザーを備え、前記テザーの前後方向の長さによって、前記平面部の傾斜を調整可能に構成することができる。
【0022】
テザーの前後方向の長さをサイドパネルの幅よりも小さくすることで、乗員側パネルの中心付近に凹部が形成される。テザーの長さを短くすればするほど、凹部が深くなり、その結果、乗員側パネルの上方に形成される平面部が垂直に対して、乗員側に倒れる方向に大きく傾斜することになる。
【0023】
前記サイドパネルは、膨張展開時の前記エアバッグクッションの上端(12時の位置)に連結される部分の前後方向の幅D2が、下端(6時の位置)に連結される部分の前後方向の幅D1よりも広くなるように成形することができる。
【0024】
このように、サイドパネルの上端部分の幅を下端部分の幅よりも広くすることにより、膨張展開したエアバッグクッションの乗員側パネルの上部(12時側)が乗員に近づく方向に傾くことになる。ここで、従来のエアバッグクッションの乗員側の面は、垂直よりも30°~60°程度、乗員から離れる側(車両前方)に傾いているが、乗員側パネルを乗員側に傾けることにより、乗員側パネルの平面部を垂直に近くすることができ、乗員の顔面との接触面積を増加させることが可能となる。
【0025】
前記サイドパネルは1枚の長尺状のパネルとして成形され、当該パネルの両端部を前記エアバッグクッションの上端(12時の位置)において互いに連結することができる。
【0026】
前記凹部の上下方向の中心位置C1が、前記乗員側パネルの上下方向の中心位置C0よりも上方に位置する構成とすることができる。
【0027】
このように、凹部を乗員側パネルの上方にオフセット(偏心)させることにより、エアバッグクッションの下側の領域の割合が増加し、乗員の腹部を確実に拘束でき、乗員の腹部周辺がステアリングホイールに衝突する等の好ましくない事態を回避することができる。
【0028】
膨張展開した前記エアバッグクッションの前記乗員側パネルに乗員の頭部が接触した時に、前記凹部の上端部が、当該乗員の顎近傍に位置するように構成することができる。
【0029】
このように、凹部の上端が乗員の顎近傍に位置するような構造とすることにより、乗員側パネルの凹部の上方にある平面部が乗員の顔面全体をカバーすることができる。
【0030】
前記凹部の上下方向中心における左右端部から前記乗員パネルの左右端部までの水平(横方向)距離D3と、前記凹部の左右方向中心における上下端部から前記乗員パネルの上下端部までの垂直(縦方向)距離D4とを実質的に等しくすることができる。あるいは、前記凹部を乗員側から見た外周形状が、前記乗員側パネルの外周形状と相似とすることができる。
【0031】
このように、凹部を乗員側パネルの中心に配置することにより、エアバッグクッションの内部に均一にガスが行き渡るため、エアバッグクッションの展開形状、展開挙動が安定することになる。
【0032】
前記凹部は、前記エアバッグクッション内部において前後方向に延び、前記ステアリング側パネルと前記乗員側パネルとを連結するテザーによって成形することができる。
【0033】
前記テザーは、前記乗員側パネルの中心付近で円形又は楕円形の縫製ラインに沿って連結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明に係るエアバッグ装置が作動してエアバッグクッションが膨張展開した様子を示す側面図である。
図2図2(A)は、本発明に係るエアバッグ装置において、展開したエアバッグクッションと乗員(ダミー)との位置関係を示す側面図である。図2(B)は、ダミーの頭部重心位置等を示す側面図である。
図3図3は、本発明に係るエアバッグ装置において、展開したエアバッグクッションの乗員側パネルを示す正面図である。
図4図4は、本発明に係るエアバッグ装置において、エアバッグクッションのパネル構成を示す平面図である。
図5図5は、本発明に係るエアバッグ装置において、エアバッグクッションを構成するサイドパネルの基布取りを示す説明図(平面図)である。
図6図6は、本発明に係るエアバッグ装置に使用されるテザーの構造を示す平面図である。
図7図7は、本発明の他の態様に係るエアバッグ装置において、エアバッグクッションの乗員側パネルと凹部との位置関係を示す平面図である。
図8図8は、本発明に係るエアバッグクッションの展開形状を示す部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、 本発明に係るエアバッグ装置について、添付図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員が向いている方向を「前方」、その反対方向を「後方」と称し、座標の軸を示すときは「前後方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を「右方向」、乗員の左側を「左方向」と称し、座標の軸を示すときは「左右方向」と言う。更に、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の頭部方向を「上方」、乗員の腰部方向を「下方」と称し、座標の軸を示すときは「上下方向」と言う。
【0036】
また、12時、3時、6時、9時の方向とは、ステアリングホイールを時計の文字盤に見立てた場合の位置であるが、車両直進時のステアリングの向きが基準であり、ステアリングホイールをドライバ側から見たときに、上又は進行方向を12時とし、この12時の位置を基準にして時計回りに90度回転した位置を3時、180度回転した位置を6時、270度回転した位置を9時とする。
【0037】
図1は、本発明に係るエアバッグ装置が作動してエアバッグクッション16が膨張展開した様子を示す側面図である。図2(A)は、展開したエアバッグクッション16と乗員(ダミー)Xとの位置関係を示す側面図である。図2(B)は、ダミーの頭部重心位置等を示す側面図である。図3は、展開したエアバッグクッション16の乗員側パネル32を示す正面図である。図4は、エアバッグクッション16のパネル構成を示す平面図である。
【0038】
本発明は、車両のステアリングホイール12に搭載されるエアバッグ装置であって、ステアリングホイール12に固定され、膨張ガスを発生するガス発生器14と;膨張ガスによって乗員X側に向かって膨張展開するエアバッグクッション16と、を備えている。
【0039】
エアバッグクッション16は、膨張展開時に乗員Xに面する乗員側パネル32と、当該乗員側パネルに対向するステアリング側パネル34と、これら乗員側パネル32とステアリング側パネル34の外縁部において両パネル(32,34)を連結するサイドパネル38とを含んでいる。
【0040】
エアバッグクッション16が膨張展開した状態で、乗員側パネル32の中央付近には凹部40が形成される。乗員側パネル32の凹部40の上方には、乗員Xの顔面が接触する領域に実質的な平面部42が形成される。
【0041】
「実質的な平面部」とは、完全な平面領域に限定されるものではなく、乗員Xの顔面全体が膨張展開したエアバッグクッション16に略同時に接触できれば、若干の湾曲は許容される領域である。
【0042】
図2(B)に示すように、乗員Xの顔面が接触する領域は、車両衝突試験時に使用されるTHORダミーAM50の頭部重心Xaから顔面方向に延びる直線Lxが顔面と直交して交差する点Oxが、膨張展開したエアバッグクッション16の乗員側パネル32と接触するときの、当該顔面が接触する領域と定義することができる。
【0043】
なお、「車両衝突試験」は、EURO NCAPのMPDB試験において、車両を時速50kmで走行させて、50%オーバーラップさせて、1400kgのアルミハニカムを衝突させる試験を想定することができる。また、当該試験に使用されるダミーとしては、ENCAPで規定されるTHOR AM50を適用することができる。
【0044】
図2(B)に示すように、ダミーXの頭部重心位置Xaを中心とした頭部の回転(頭部の角速度)に基づいて、乗員の脳傷害を計測することができ、本発明では、このような試験において良好な結果を得ることができる。すなわち、乗員頭部の前方への急回転に起因する脳傷害を低減することが可能となる。
【0045】
図1及び図2に示すように、膨張展開したエアバッグクッション16を側方から見た時に、平面部42の上端と下端とを結んだ線LBと、乗員Xの顔面の上端と下端とを結んだ線LAとが実質的に平行となる。ここで、「実質的に平行」とは、2つの線LB,LAが平行又は平行からの開きが±10°以内であることを許容するものであり、実験的に当該開きが±10°以上であると、本発明の効果が低下することが分かっている。
【0046】
図2に示すように、平面部42は、車両衝突試験時に使用される乗員ダミーXの顔面の平面部分44の全てが同時に接触するように構成する。ここで、「同時」とは、0~5msの範囲とすることができ、その範囲で最も効果が大きい。
【0047】
図2及び図4(C)に示すように、サイドパネル16は、膨張展開時のエアバッグクッション16の上端(12時の位置)に連結される部分の前後方向の幅D2が、下端(6時の位置)に連結される部分の前後方向の幅D1よりも広くなるように成形されている。
【0048】
乗員側パネル32に形成された凹部40の上端部は、車両衝突試験時における乗員の顎近傍に位置する。このように、凹部40の上端が乗員の顎近傍に位置するような構造とすることにより、乗員側パネル32の凹部40の上方にある平面部42が乗員Xの顔面全体をカバーすることができる。
【0049】
図4(A),(B),(C)に示すように、エアバッグクッション16は、楕円形又は円形の乗員側パネル32と、略円形のステアリング側パネル34と、サイドパネル38とから構成されている。サイドパネル38の両端38c、38dは、展開したエアバッグクッション16の12時の位置で連結される(図3参照)。
【0050】
図4に加えて、再び図1及び図2を参照すると、エアバッグクッション16を縫製によって成形する際には、乗員側パネル32の外周ライン32aとサイドパネル38の外側ライン38aとを連結(縫製)することによって、縫製ライン52が形成される。また、ステアリング側パネル34の外周ライン34aと、サイドパネル38の内側ライン38bとを連結(縫製)することによって、縫製ライン54が形成される。そして、サイドパネル38の両端部38c、38d同士を連結する(縫製する)。なお、図4(B)に示す符号36は、ガス発生器14を固定するための穴を示す。
【0051】
サイドパネル38は1枚の長尺状のパネルとして成形され、当該パネル38の両端部をエアバッグクッション16の上端(12時の位置)において互いに連結される。また、サイドパネル38は、当該パネル38の長手方向の最大長さLMの方向と、基布(60)の横糸が延びる方向Lwが平行になる向きで、当該基布から裁断して成形することができる。
【0052】
図5は、サイドパネル38の基布取りを示す説明図(平面図)である。サイドパネル38は、帯状の基布60から成形され、当該サイドパネル38の長手方向が基布60の幅方向Dwと平行になる向きで裁断して成形することができる。
【0053】
上記のように、帯状の基布60に対してサイドパネル38の裁断方法を工夫することにより、基布60を効率よく使用することができ、結果としてコストの低減を図ることが可能となる。なお、サイドパネル38を同一形状の2枚のパネルから構成し、これら2枚のパネルを基布60から裁断し、その後、縫製によって1枚のサイドパネル38を成形することも可能である。
【0054】
図6は、エアバッグクッション16の内部に取り付けられるテザー50(図1図2参照)の構造を示す平面図である。乗員側パネルの中心32に形成される凹部40は、エアバッグクッション16の内部において前後方向に延び、ステアリング側パネル34と乗員側パネル32とを連結するテザー50によって形作られる。エアバッグクッション16が膨張した時に、テザー50によってエアバッグクッション16の前後方向の展開が規制され、その結果として乗員側パネル32の表面に凹部40が形成されることになる。
【0055】
テザー50は、乗員側パネル32に連結される第1のテザー54と、ステアリング側パネル34に連結される第2のテザー56とから構成される。
図6に加えて図4を再び参照すると、第1のテザー54の中心付近の円形の縫製ライン54aと、乗員側パネル32の中心付近の円形の縫製ライン32bとが連結(縫製)される。一方、第2のテザー56の中心付近の円形の縫製ライン56aと、ステアリング側パネル34の中心付近の円形の縫製ライン34bとが連結(縫製)される。また、第1のテザー54の端部54b、54cが、第2のテザー56の端部56b、56cと連結(縫製)される。
【0056】
図4(A)に示すように、乗員側パネル32の凹部40の上下方向の中心位置C1が、乗員側パネル32の上下方向の中心位置C0よりも上方に位置する。
【0057】
このように、乗員側パネル32の凹部40を上方にオフセット(偏心)させることにより、エアバッグクッション16の下側の領域の割合が増加し、乗員Xの腹部を確実に拘束でき、乗員Xの腹部周辺がステアリングホイール12に衝突する等の好ましくない事態を回避することができる。
【0058】
以上説明したように、本発明においては、エアバッグクッション16は、乗員側パネル32とステアリング側パネル34とをサイドパネル38によって連結することで成形されるため、乗員側パネル32とステアリング側パネル34とを直接連結した場合に比べて、乗員側パネル32の湾曲具合が小さく(曲率が大きく)なり、平面に近づくことになる。
【0059】
また、乗員側パネル32の中央付近に凹部40を形成することにより、乗員側パネル32の当該凹部40周辺における湾曲具合が小さく(曲率が大きく)なり、乗員側パネル32の表面が更に平面に近づくことになる。
【0060】
そして、乗員側パネル32の凹部40の上方において、車両衝突試験時に乗員の顔面が接触する領域に実質的な平面部42を形成することにより、乗員Xの顔面との実質的な接触面積が大きくなり、乗員の頭部がエアバッグクッション16に進入した時の回転を抑制でき、乗員Xの頭部を確実に拘束可能となる。
【0061】
また、サイドパネル38の上端部分の幅D2を下端部分の幅D1よりも広くすることにより、膨張展開したエアバッグクッション16の乗員側パネル32の上部(12時側)が乗員Xに近づく方向に傾くことになる。ここで、ステアリングホイール12のリムに平行な面は、通常は垂直よりも20°程度、乗員Xから離れる側(車両前方)に傾いているが、乗員側パネル32を乗員X側に傾けることにより、乗員側パネル32の平面部42を垂直に近くすることができ、乗員Xの顔面との接触面積を増加させることが可能となる。
【0062】
図7は、本発明の他の態様に係る乗員側パネル132と凹部140との位置関係を示す平面図である。乗員側パネル132において、凹部140の上下方向中心における左右端部から乗員パネル132の左右端部までの水平(横方向)距離D3と、凹部140の左右方向中心における上下端部から乗員パネル132の上下端部までの垂直(縦方向)距離D4とが実質的に等しく成形されている。別の見方をすると、凹部140の外周形状を、乗員側パネル132の外周形状と相似とすることができる。
【0063】
このように、凹部140を乗員側パネル132の中心C2に配置することにより、エアバッグクッション16の内部に均一にガスが行き渡るため、エアバッグクッション16の展開形状、展開挙動が安定することになる。
【0064】
図8は、本発明に係るエアバッグクッション16の展開形状を示す部分側面図である。図8に示すように、ステアリングホイール12を側方から見た時に、リム表面の沿ったラインLSは、垂直LVに対して前方(図の左側)に倒れる方向に15°~30°傾くように、当該ステアリングホイール12が取り付けられる。
【0065】
また、エアバッグ16の平面部42の上端と下端とを結んだ線LBが、ステアリングホイール12のリム表面に平行な線LSに対して、乗員の頭部に近づく方向(図の右方向)に0°~30°傾斜するように構成する。
【0066】
上述したように、一般車両のステアリングホイール12は垂直に対して前方に倒れる方向に傾斜した状態で取り付けられ、エアバッグクッション16は、ステアリングホイール12のリム表面に対して概ね垂直な方向に展開する。本実施例においては、乗員側パネル32を乗員の頭部に近づく方向に傾斜させることにより、乗員側パネルの平面部42をより垂直(直立)に近い状態にすることが可能となる。その結果、エアバッグクッション16の平面部42に対して乗員の頭部(顔面)がより大きな面積で接触することになる。
【0067】
ここで、平面部42の傾斜度合い(角度)については、テザー50の前後方向の長さを変えることで調整することが可能となる。本発明においては、テザー50の前後方向の長さをサイドパネル38の幅よりも小さくすることで、乗員側パネル32の中心付近に凹部40が形成される。テザー50の長さを短くすればするほど、凹部40が深くなり、その結果、乗員側パネル32の上方に形成される平面部42が垂直に対して、乗員側に倒れる方向に大きく傾斜することになる。他方、凹部40が深くなると、乗員側パネル32の下方部分は垂直に対して、乗員側に倒れる方向に大きく傾斜することになる。
【0068】
凹部42をより深くした場合の変化を図8の紙面上で見ると、乗員側パネル32における凹部40よりも上側の部分(平面部42)については、乗員側パネル32とテザー50との連結部X1を基点として、時計周りに回動するように傾斜する。他方、凹部40よりも下側の部分については、乗員側パネル32とテザー50との連結部X2を基点として、反時計周りに回動するように傾斜する。
【0069】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲に示された技術的思想の範疇において変更可能なものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8