(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ベベルギヤ対
(51)【国際特許分類】
F16H 1/14 20060101AFI20240123BHJP
F16H 55/08 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F16H1/14
F16H55/08 Z
(21)【出願番号】P 2022576933
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002425
(87)【国際公開番号】W WO2022157968
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野村 宗平
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/027027(WO,A2)
【文献】特開2003-222201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/14
F16H 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1歯車(G1)と、その第1歯車(G1)よりも歯数の多い第2歯車(G2)とが相互に噛み合うベベルギヤ対であって、
それら第1および第2歯車(G1,G2)にはそれぞれ歯先修整が施されており、
前記第1歯車(G1)におけるピッチ円(P1)から歯先(T1)までの距離(L1a)に対する前記ピッチ円(P1)から歯先修整の開始位置(R1)までの距離(L1b)の割合は、前記第2歯車(G2)におけるピッチ円(P2)から歯先(T2)までの距離(L2a)に対する前記ピッチ円(P2)から歯先修整の開始位置(R2)までの距離(L2b)の割合よりも大きいことを特徴とするベベルギヤ対。
【請求項2】
前記第1歯車(G1)は、差動装置の差動機構を構成するピニオンギヤであり、前記第2歯車(G2)は、前記差動機構を構成するサイドギヤであることを特徴とする、請求項1に記載のベベルギヤ対。
【請求項3】
前記第1および第2歯車(G1,G2)の基本歯形は、球面インボリュート歯形またはオクトイド歯形であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のベベルギヤ対。
【請求項4】
前記第2歯車(G2)の歯先修整の修整量(m2)は、前記第1歯車(G1)の歯先修整の修整量(m1)と比較して大きいことを特徴とする、請求項1~請求項3の何れか1項に記載のベベルギヤ対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1歯車と、その第1歯車よりも歯数の多い第2歯車とが相互に噛み合うベベルギヤ対であって、それら第1および第2歯車にそれぞれ歯先修整が施されているものに関する。
【背景技術】
【0002】
相互に噛み合う歯車対の歯車に歯先修整を施すことで、歯車対の静粛な噛み合いを図る技術が、例えば特許文献1に開示されるように従来より知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが特許文献1の技術は遊星歯車減速機を構成する平歯車に関する技術であって、ベベルギヤ対の歯車に特化して検討されたものでなく、また、相互に噛み合う第1および第2歯車の歯先の修整を相互に関連付けて検討したものでもないので、ベベルギヤ対の滑らかな噛み合いを実現するための検討が十分になされているとは言えない。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、滑らかな噛み合いを実現可能としたベベルギヤ対を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、第1歯車と、その第1歯車よりも歯数の多い第2歯車とが相互に噛み合うベベルギヤ対であって、それら第1および第2歯車にはそれぞれ歯先修整が施されており、前記第1歯車におけるピッチ円から歯先までの距離に対する前記ピッチ円から歯先修整の開始位置までの距離の割合は、前記第2歯車における前記割合よりも大きいことを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記第1歯車は、差動装置の差動機構を構成するピニオンギヤであり、前記第2歯車は、前記差動機構を構成するサイドギヤであることを第2の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記第1および第2歯車の基本歯形は、球面インボリュート歯形またはオクトイド歯形であることを第3の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記第2歯車の歯先修整の修整量は、前記第1歯車の歯先修整の修整量と比較して大きいことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1歯車の歯数よりも第2歯車の歯数の方が多いベベルギヤ対においては、第2歯車のピッチ円が第1歯車のピッチ円よりも歯先側に位置するが、歯先修整の開始位置がピッチ円に近づきすぎると噛み合い率が低下してしまうので、第2歯車の歯先修整可能な領域が制限されてしまう。しかしながら本発明の第1の特徴によれば、第1歯車におけるピッチ円から歯先までの距離に対する前記ピッチ円から歯先修整の開始位置までの距離の割合が、第2歯車における前記割合よりも大きくされているので、第2歯車の歯先修整可能な領域が制限される中にあっても、その領域内で第2歯車の歯先修整の開始位置をピッチ円に近づけつつ、第1歯車における歯先修整の開始位置を第2歯車における歯先修整の開始位置よりもピッチ円から離すことができるから、ベベルギヤ対の噛み合い率を確保しつつ歯先修整の効果を最大限に発揮させて、滑らかな噛み合いを実現することができる。
【0011】
また本発明の第2の特徴によれば、第1歯車は、差動装置の差動機構を構成するピニオンギヤであり、第2歯車は、前記差動機構を構成するサイドギヤであるので、差動装置の差動機構を構成するピニオンギヤおよびサイドギヤの噛み合い率を確保しつつ、歯先修整の効果を最大限に発揮させることが可能となる。
【0012】
また第3の特徴によれば、第1および第2歯車の基本歯形は、球面インボリュート歯形またはオクトイド歯形であるので、修整を行わない部分における第1および第2歯車の良好な噛み合いを確保することができる。
【0013】
また第4の特徴によれば、第2歯車の歯先修整の修整量は、第1歯車の歯先修整の修整量と比較して大きいので、第2歯車の歯先修整可能な領域が前述したように制限される中でも、歯先修整可能な領域の制約を補って、歯先修整の効果を最大限に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は第1歯車および第2歯車の噛み合い状態を示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、
図1の第1歯車における一つの歯を歯すじに直交する任意の平面で切ったときの断面図であり、
図2(B)は
図1の第2歯車における一つの歯を歯すじに直交する任意の平面で切ったときの断面図である。
【
図3】
図3(A)は、
図1の第1歯車における一つの歯のピッチ円すいの母線の位置と歯先修整の開始位置とを示す斜視図であり、
図3(B)は
図1の第2歯車における一つの歯のピッチ円すいの母線の位置と歯先修整の開始位置とを示す斜視図である。
【
図4】
図4は第1歯車および第2歯車のピッチ円からの距離と修整量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0015】
G1,G2・・第1,第2歯車
L1a・・・・第1歯車のピッチ円から歯先までの距離
L1b・・・・第1歯車のピッチ円から歯先修整の開始位置までの距離
L2a・・・・第2歯車のピッチ円から歯先までの距離
L2b・・・・第2歯車のピッチ円から歯先修整の開始位置までの距離
P1・・・・・第1歯車のピッチ円
P2・・・・・第2歯車のピッチ円
R1・・・・・第1歯車の歯先修整の開始位置
R2・・・・・第2歯車の歯先修整の開始位置
T1・・・・・第1歯車の歯先
T2・・・・・第2歯車の歯先
m1・・・・・第1歯車の歯先修整の修整量
m2・・・・・第2歯車の歯先修整の修整量
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0017】
図1は、小径歯車である第1歯車G1と、その第1歯車G1よりも歯数の多い大径歯車である第2歯車G2とが相互に噛み合う本発明のベベルギヤ対における両歯車G1,G2の噛み合い状態を示すものであり、これら第1,第2歯車G1,G2は、例えば差動装置の差動機構を構成するピニオンギヤおよびサイドギヤとして好適に用いることができる。
【0018】
第2歯車G2の歯数は第1歯車G1の歯数よりも多いので、第1歯車G1の一つの歯の断面図である
図2(A)、および第2歯車G2の一つの歯の断面図である
図2(B)に示すように、第2歯車G2のピッチ円P2は、第1歯車G1のピッチ円P1よりも歯先T2側に位置している。
【0019】
また、ベベルギヤ対の滑らかな噛み合いを実現するために、第1歯車G1の各歯には、
図2(A)に示すような、開始位置R1から始まって歯先T1に至る歯先修整が施されると共に、第2歯車G2の各歯には、
図2(B)に示すような、開始位置R2から始まって歯先T2に至る歯先修整が施される。
【0020】
歯先修整の効果を最大限に発揮させるためには、歯先修整の開始位置R1,R2をピッチ円P1,P2に近づけることが望ましいが、それがピッチ円P1,P2に近づきすぎると噛み合い率が低下してしまうので、ピッチ円P2が第1歯車G1のピッチ円P1よりも歯先側に位置する第2歯車G2では、第1歯車G1と比べて歯先修整可能な領域が制限されてしまう。
【0021】
しかも、両歯車G1,G2の歯先修整の開始位置は、円滑な噛み合いを図る観点から相互に関連しているので、第1歯車G1の歯先修整の開始位置R1を第2歯車G2の歯先修整の開始位置R2と無関係に決定することはできないが、従来の歯先修整においては、ベベルギヤ対における相互に噛み合う両歯車G1,G2の歯先修整の開始位置R1,R2を相互に関連付けて規定していないので、両歯車G1,G2の歯先修整の設定を難しくしている。
【0022】
本発明は、この点に鑑みて、第1歯車G1におけるピッチ円P1から歯先T1までの距離L1aに対する前記ピッチ円P1から歯先修整の開始位置R1までの距離L1bの割合を、前記第2歯車G2におけるピッチ円P2から歯先T2までの距離L2aに対する前記ピッチ円P2から歯先修整の開始位置R2までの距離L2bの割合よりも大きくするようにしたものである。
【0023】
なお、本発明のこのような歯先修整は、第1,第2歯車G1,G2における一つの歯の斜視図である
図3(A)(B)に示すように、ベベルギヤ対を構成する各々の歯の歯すじ方向全長に亘って施される。
【0024】
また、前述したように第2歯車の歯先修整可能な領域が制限されることで、第2歯車の歯先修整の可能な範囲が、第1歯車の歯先修整の可能な範囲よりも少なくなってしまうが、
図4の、第1歯車G1および第2歯車G2のピッチ円からの距離と修整量との関係を示すグラフに示すように、
図2(B)における第2歯車G2の歯先修整の修整量m2を、
図2(A)における第1歯車G1の歯先修整の修整量m1と比較して大きくすることで、第2歯車G2の歯先修整可能な領域が制限される中でも、歯先修整可能な領域の制約を補って、歯先修整の効果を最大限に発揮させることができる。
【0025】
また更に、第1,第2歯車G1,G2の基本歯形は、特に限定するものではないが、修整を行わない部分における第1および第2歯車の良好な噛み合いを確保するためには、基本歯形が球面インボリュート歯形またはオクトイド歯形であることが望ましい。
【0026】
次に本実施形態の作用を説明する。
【0027】
本実施形態では、第1歯車G1におけるピッチ円P1から歯先T1までの距離L1aに対する前記ピッチ円P1から歯先修整の開始位置R1までの距離L1bの割合を、前記第2歯車G2におけるピッチ円P2から歯先T2までの距離L2aに対する前記ピッチ円P2から歯先修整の開始位置R2までの距離L2bの割合よりも大きくしているので、第2歯車G2の歯先修整可能な領域が制限される中にあっても、その領域内で第2歯車G2の歯先修整の開始位置R2をピッチ円P2に近づけつつ、第1歯車G1における歯先修整の開始位置R1を第2歯車G2における歯先修整の開始位置R2よりもピッチ円P1から離すことができるから、ベベルギヤ対の噛み合い率を確保しつつ歯先修整の効果を最大限に発揮させて、滑らかな噛み合いを実現することができる。その結果、ベベルギヤ対の寿命アップが図られる。
【0028】
また、第1歯車G1を、差動装置の差動機構を構成するピニオンギヤとし、第2歯車G2を、前記差動機構を構成するサイドギヤとすれば、差動装置の差動機構を構成するピニオンギヤおよびサイドギヤの噛み合い率を確保しつつ、歯先修整の効果を最大限に発揮させることが可能となる。
【0029】
また、第1および第2歯車G1,G2の基本歯形を、球面インボリュート歯形またはオクトイド歯形とすれば、修整を行わない部分における第1および第2歯車G1,G2の良好な噛み合いを確保することができる。
【0030】
また更に、第2歯車G2の歯先修整の修整量m2を、第1歯車G1の歯先修整の修整量m1と比較して大きくすることで、第2歯車の歯先修整可能な領域が前述したように制限される中でも、歯先修整可能な領域の制約を補って、歯先修整の効果を最大限に発揮させることができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0032】
例えば、
図1のベベルギヤ対はすぐ歯であるが、曲がり歯であっても良い。