(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】血中酸素濃度測定プローブ、及び血中酸素濃度測定方法、および運動強度推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
A61B5/1455
(21)【出願番号】P 2023052963
(22)【出願日】2023-03-29
【審査請求日】2023-04-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 征次
(72)【発明者】
【氏名】三宅 亜依
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-023262(JP,A)
【文献】特表2013-517041(JP,A)
【文献】特開2022-175581(JP,A)
【文献】特開2013-022338(JP,A)
【文献】特開2007-167183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145- 5/1495
A63B 69/00 -71/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手指末節に装着される装着部と、
前記装着部に手指末節の幅方向に対向するように配置された発光部と受光部と、
を有し、
前記装着部が
、伸縮性を有する単一部材であり、
手指の指腹側と爪側の少なくとも一方に前記発光部と前記受光部とが配置された部分と比較して変形しやすい易変形部を有し、
前記発光部と前記受光部とが、前記装着部内で電気的に接続されていないことを特徴とする血中酸素濃度測定プローブ。
【請求項2】
前記装着部が、手指の長さ方向から見た前記発光部と前記受光部とを通る断面における内周面の幅(W)と厚さ(T)との比(W/T)が、1.05以上1.30以下であることを特徴とする請求項1に記載の血中酸素濃度測定プローブ。
【請求項3】
運動時測定用であることを特徴とする請求項1または2に記載の血中酸素濃度測定プローブ。
【請求項4】
親指装着用であることを特徴とする請求項1または2に記載の血中酸素濃度測定プローブ。
【請求項5】
手指末節に装着される装着部と、前記装着部に手指末節の幅方向に対向するように配置された発光部と受光部と、を有し、
前記装着部が、伸縮性を有す
る単一部材であ
り、手指の指腹側と爪側の少なくとも一方に前記発光部と前記受光部とが配置された部分と比較して変形しやすい易変形部を有し、
前記発光部と前記受光部とが、前記装着部内で電気的に接続されていない血中酸素濃度測定プローブを用い、
前記血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを、手指末節の幅方向に対向させた状態で血中酸素濃度(SpO
2)を測定することを特徴とする血中酸素濃度測定方法。
【請求項6】
運動時に測定することを特徴とする請求項
5に記載の血中酸素濃度測定方法。
【請求項7】
前記血中酸素濃度測定プローブが親指に装着されていることを特徴とする請求項
5または
6に記載の血中酸素濃度測定方法。
【請求項8】
手指末節に装着される装着部と、前記装着部に手指末節の幅方向に対向するように配置された発光部と受光部と、を有し、
前記装着部が、伸縮性を有す
る単一部材であ
り、手指の指腹側と爪側の少なくとも一方に前記発光部と前記受光部とが配置された部分と比較して変形しやすい易変形部を有し、
前記発光部と前記受光部とが、前記装着部内で電気的に接続されていない血中酸素濃度測定プローブを用い、
前記血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを被験者の手指末節の幅方向に対向するように配置した状態で、被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、血中酸素濃度(SpO
2)と同時に脈拍数を測定し、
運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点、または、SpO
2を脈拍数で除した値(SpO
2/脈拍数)の挙動が変化する屈曲点を決定し、
この下降開始点または屈曲点における運動負荷量を、被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度推定方法。
【請求項9】
血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを被験者の手指末節の幅方向に対向するように配置した状態で、被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度の測定値を90~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、血中酸素濃度(SpO
2)と同時に脈拍数を測定し、
運動負荷量の増加に伴い、請求項
8に記載の方法で推定される最適運動強度を超えて、SpO
2を脈拍数で除した値(SpO
2/脈拍数)が変化する屈曲点を決定し、
この屈曲点における運動負荷量を、被験者の上限運動強度であると推定することを特徴とする上限運動強度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中酸素濃度測定プローブと、血中酸素濃度測定方法および運動強度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋力、心肺能力等の体力が高いほど健康度と生存率が高く、死亡率が低いことが、多くの報告で明らかとなっている(例えば、非特許文献1,2等)。筋力、心肺能力等の体力を向上させるためには、中強度以上の運動をする必要があり、例えば、強度が不足する運動は継続しても体力は向上しない。個人ごとに中強度の運動は異なるが、有酸素運動から無酸素運動へと切り替わる無酸素性作業閾値(AT)は、すべての人で中強度の運動となることが知られている。
【0003】
また、ATより強度な運動強度の基準として、代謝性アシドーシスが原因で著しい過呼吸が発生する前に持続できる上限の運動強度である呼吸性代償開始点(RCP)がある。AT以上の運動強度により血中の二酸化炭素の増加率が一段と高くなるが、さらに運動強度を増加させると、それに伴い血中の二酸化炭素濃度も並行して上昇していく。この運動強度の増加に並行して増加した血中の二酸化炭素を、呼吸回数を増加させて積極的に排出し始める開始点がRCPである。RCPを上限とするAT~RCPの範囲内、かつ、RCPでの運動強度の80~95%程度の強度の運動を行うことで、スポーツ選手等の非常に高いレベルでの運動能力を欲する者にとって、効率的に、身体能力を向上できることが知られている。
【0004】
本出願人は、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に測定した血中酸素濃度(SpO2)の測定値から、ATに相当する最適運動強度を推定する方法(特許文献1)、RCPに相当する上限運動強度を推定する方法(特許文献2:本願出願時には未公開)を提案している。
【0005】
ここで、血中酸素濃度測定装置として、赤色光(例えば波長640nm)と赤外光(例えば波長940nm)とを生体に照射し、生体の一部を反射または透過するそれぞれの光強度から、酸素と結合したヘモグロビン(HbO2:酸化ヘモグロビン)と結合していないヘモグロビン(Hb:還元ヘモグロビン)の比率を算出することにより、血中酸素濃度(SpO2)を測定でき、光強度の周期的な変動により脈拍数を測定できるパルスオキシメーターが知られている。
【0006】
パルスオキシメーターは、手指、額、耳たぶ等に装着されるが、人差し指や中指の爪と指腹を挟み込むように装着することが一般的である(特許文献3等)。パルスオキシメーターは、その測定原理上、光を照射する箇所に十分な血量(赤血球量であり、ヘモグロビン量である)が必要であるため、指先が冷えている等の血量が少ないときには、正確な値が測定できない場合がある。また、運動中には、多くの酸素を必要とする運動中の筋肉に優先して血液が流れ、運動には関わらない指先等の血流は少なくなるため、運動しながら正確な値を測定することは難しい場合があった(例えば、非特許文献3等)。さらに、樹脂や接着剤が光を吸収する場合があるため、マニキュアや付け爪をしていると正確な値が測定できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2022-175581号公報
【文献】特願2022-168216号
【文献】特開2017-153616号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Blair SN et al., Physical fitness and all-cause mortality. Aprospective study of healthy men and women JAMA. 1989; 262(17):2395-401.
【文献】Jonathan Myers, Manish Prakash, Victor Froelicher, et al., Exercise Capacity and Mortality among Men Referred for Exercise Testing. Engl J Med 2002; 346:793-801
【文献】高橋 真、関川 清一、濱田 泰伸、「運動時の循環調節:基礎研究から臨床への展開」、理学療法の臨床と研究、第26号、2017年、23-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な血中酸素濃度測定プローブと、新規な血中酸素濃度測定方法および新規な運動強度推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.手指末節に装着される装着部と、
前記装着部に手指末節の幅方向に対向するように配置された発光部と受光部と、
を有することを特徴とする血中酸素濃度測定プローブ。
2.前記装着部が、手指の長さ方向から見た前記発光部と前記受光部とを通る断面における内周面の幅(W)と厚さ(T)との比(W/T)が、1.05以上1.30以下であることを特徴とする1.に記載の血中酸素濃度測定プローブ。
3.前記発光部と前記受光部とが、前記装着部内で電気的に接続されていないことを特徴とする1.または2.に記載の血中酸素濃度測定プローブ。
4.運動時測定用であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の血中酸素濃度測定プローブ。
5.親指装着用であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の血中酸素濃度測定プローブ。
6.血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを、手指末節の幅方向に対向させた状態で血中酸素濃度(SpO2)を測定することを特徴とする血中酸素濃度測定方法。
7.運動時に測定することを特徴とする6.に記載の血中酸素濃度測定方法。
8.前記血中酸素濃度測定プローブが親指に装着されていることを特徴とする6.または7.に記載の血中酸素濃度測定方法。
9.血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを被験者の手指末節の幅方向に対向するように配置した状態で、被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、血中酸素濃度(SpO2)と同時に脈拍数を測定し、
運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点、または、SpO2を脈拍数で除した値(SpO2/脈拍数)の挙動が変化する屈曲点を決定し、
この下降開始点または屈曲点における運動負荷量を、被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度推定方法。
10.血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを被験者の手指末節の幅方向に対向するように配置した状態で、被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度の測定値を90~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、血中酸素濃度(SpO2)と同時に脈拍数を測定し、
運動負荷量の増加に伴い、最適運動強度を超えて、SpO2を脈拍数で除した値(SpO2/脈拍数)が変化する屈曲点を決定し、
この屈曲点における運動負荷量を、被験者の上限運動強度であると推定することを特徴とする上限運動強度推定方法。
以下、本発明の血中酸素濃度測定プローブと血中酸素濃度測定方法とを、それぞれ本発明のプローブ、本発明の測定方法ともいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプローブは、装着時に発光部と受光部とが手指末節の幅方向に対向するように配置されている。手指は、厚さ方向よりも幅方向の方が長いため、本発明のプローブは、手指の厚さ方向に装着する従来のプローブと比較して光が透過する血量が多く、より正確に血中酸素濃度を測定することができ、特に、運動しながらの血中酸素濃度の測定に好適に用いることができる。本発明のプローブは、光は手指の幅方向に透過して爪を透過しないため、マニキュアや付け爪をしたままでも正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施態様である血中酸素濃度測定プローブの概略図。
【
図2】本発明の一実施態様である血中酸素濃度測定プローブを左手の親指に装着した様を示す図。
【
図3】本発明の一実施態様である血中酸素濃度測定プローブの
図1におけるA-Aの厚さ方向の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
手指の末節とは、手指の先端から第一関節(DIP関節)までの部分を意味する。
本明細書において、厚さ方向、長さ方向は、それぞれ手指の爪-指腹方向、手指の指元-指先方向を意味する。幅方向は、厚さ方向と長さ方向の両方と直交する方向を意味する。
本明細書において、「A~B(A、Bは数字)」との記載は、A、Bの値を含む数値範囲、すなわち、A以上B以下を意味する。
【0014】
・血中酸素濃度測定プローブ
本発明の一実施態様である血中酸素濃度測定プローブ1の概略図を
図1に、血中酸素濃度測定プローブ1を親指に装着した様を
図2に示す。
本発明の一実施態様であるプローブ1は、手指末節に装着される装着部10と、この装着部10に手指末節の幅方向に対向するように配置された発光部20と受光部30とを有する。発光部20と受光部30との左右配置はどちらでもよい。
【0015】
装着部10の内周面には、装着時に手指末節の幅方向に対向するように発光部20と受光部30とが配置されている。
発光部20と受光部30は、それぞれフレキシブル基板21、31上に設置され、装着部10外に伸びる別々のケーブル22、32に接続されている。ケーブル22、32の他端は血中酸素濃度測定装置(パルスオキシメーター)の本体部(図示せず)に接続されている。本体部は、制御部、演算部、表示部、電源部、通信部等を備える。
なお、本発明において、発光部、受光部、ケーブル、本体部等のパルスオキシメーターを構成する各部材は、従来用いられている構成のものを特に制限することなく使用することができる。
【0016】
装着部は、先端の爪側のみに開口11を有し、指腹側はストッパー12となっている。これにより、装着部10を手指末節に確実に装着できるとともに、付け爪等をしたままでも手指末節に装着することができる。
装着部10の手指の長さ方向から見た発光部20と受光部30とを通る断面形状(
図1のA-Aの厚さ方向の切断面)を
図3に示す。
装着部10は、手指の長さ方向から見た発光部20と受光部30とを通る断面における内周面の幅(W)と厚さ(T)との比(W/T)が、1.15である。人の手指の長さ方向から見た断面形状は、幅が厚さよりも長い略楕円形である。そのため、装着部10の手指長さ方向から見た発光部20と受光部30とを通る断面の内周面が、手指の断面形状と略相似する略楕円形状であることにより、発光部20と受光部30をより手指に密着させることができ迷光が生じにくいため、より正確に血中酸素濃度等を測定することができる。装着部10のこの比(W/T)は、1.05以上1.30以下であることが好ましく、1.10以上1.25以下であることがより好ましい。
【0017】
装着部10の内周面は、装着する手指よりも僅かに小さいことが好ましい。装着する手指の太さは、装着者の性別・年齢や装着する手指(親指かそれ以外か)等により異なるため、想定する装着者と手指等に応じて、装着時の血流を過度に妨げないように設定する。装着する指は特に制限されないが、親指(第一指)に装着することが、他の指よりも幅が広いため光が透過する血量が多いこと、手指を動かした際に隣の指(第二指/人差し指)と接触しにくいため位置ずれが起こりにくいこと、長期間装着してもケーブル等による違和感が少ないこと等の点から好ましい。
【0018】
装着部10は、装着時に手指に密着させるために、少なくともその一部が伸縮性を有することが好ましい。伸縮性を有する材としては特に制限されず、ゴム、樹脂、不織布、編布等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、ゴムを用いることが好ましい。使用するゴムの種類は特に制限されず、天然ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等を用いることができ、これらの中でシリコーンゴムが強度と伸縮性のバランスに優れるとともに汚れにくい点から好ましい。
【0019】
装着部10が伸縮性を有する場合、装着部10内に剛直な部材が埋設されていると、装着部10の伸縮に剛直な部材は追従することができないため、界面で剥離や断線等の破壊が生じる場合がある。特に、装着部10の内部に発光部20と受光部30とを接続する配線が埋設されている場合、配線は装着部10の約半周に亘って設けられるため伸縮に伴う変形量が大きく、断線等の破壊が起こりやすい。一実施態様であるプローブ1は、発光部20と受光部30が、それぞれ別々に装着部10の外に伸びるケーブル22、32に接続されており、発光部20と受光部30とが装着部10内で電気的に接続されていないため、配線の断線等に起因する故障を防ぐことができる。
【0020】
装着部10は、手指の指腹側と爪側と接触する両方の領域の少なくとも一部に、発光部20と受光部30とが配置された部分と比較して、厚さの薄い易変形部13、14を備える。具体的には、
図3において、発光部20と受光部30とが配置された部分の厚さ(t1)を100としたとき、爪側の易変形部13の厚さ(t2)は75、指腹側の易変形部14の厚さ(t3)は50となっている。
易変形部13、14は、発光部20と受光部30とが配置された部分よりも変形しやすい。そのため、一実施態様であるプローブ1は、伸長時に主に易変形部13、14が伸長し、剛直な発光部20と受光部30とが配置された部分の変形量が小さいため、発光部20と受光部30とが装着部10から剥離することを防止することができる。なお、易変形部13、14の構成は特に制限されず、発光部20と受光部30とが配置された部分よりも細くする、発光部20と受光部30の周辺部分を形成する材質と比較してより変形しやすい(柔らかい)材質で形成する等により構成することもできる。易変形部13、14が、発光部20と受光部30とが配置された部分より薄い/細い場合、易変形部13、14の手指長さ方向の断面積は、発光部20と受光部30とが配置された領域の手指長さ方向の断面積の90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明のプローブにおいて、易変形部は、手指の指腹側、爪側の少なくとも一方に形成すればよく、少なくとも指腹側に形成することが好ましい。これは、易変形部は強度に劣るため、爪側が易変形部であると、硬い爪に当たって傷みやすいためである。
【0021】
・血中酸素濃度測定方法
本発明の血中酸素濃度測定方法は、血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを、手指末節の幅方向に対向させた状態で血中酸素濃度(SpO
2)を測定する(
図2)。本発明の血中酸素濃度測定方法は、上記した本発明のプローブを用いることができる。
上記したように、手指の長さ方向から見た断面形状は、幅が厚さよりも長く、例えば、一般的な人であれば、親指の幅は親指の厚さの1.15倍程度、人差し指の幅は人差し指の厚さの1.20倍程であり、さらに、親指の幅は人差し指の厚さの1.5倍程度である。そのため、本発明の測定方法により親指の幅方向で測定する場合、人差し指の厚さ方向で測定する従来の測定方法と比較して、測定に用いる光が1.5倍量の血液を透過するため、より正確に血中酸素濃度を測定することができる。また、本発明の測定方法により親指の幅方向で測定する場合、仮に血流が安静時の0.67倍になったとしても、測定に用いる光が従来の測定方法と約同量の血液を透過できるため(0.67×1.5=1)、従来の測定方法と同様の精度で血中酸素濃度を測定することができる。そのため、本発明の方法は、指先の血流が少ないときにも正確に血中酸素濃度の値を測定することができる。
【0022】
本発明のプローブと測定方法は、指先の血流が少ない状態でも血中酸素濃度と脈拍数をより正確に測定することができるため、運動時に用いることが好ましい。運動時とは、例えば、カルボーネン法や、カルボーネン法を簡素化した方法における運動強度50%の目標心拍数以上で体を動かしている状態や、110拍/分以上の心拍数で体を動かしている状態とすることができる。
【0023】
・カルボーネン法
カルボーネン法による運動強度における目標心拍数
={予測最大心拍数-安静時心拍数}×運動強度+安静時心拍数
(予測最大心拍数=220-年齢)
・カルボーネン法を簡素化した方法
簡素化したカルボーネン法による運動強度における目標心拍数
=(220-年齢)×運動強度
【0024】
運動時は、カルボーネン法およびこれを簡素化した方法における運動強度が50%、60%、70%、80%、90%等の目標心拍数以上で体を動かしている状態と定めることもでき、心拍数が110拍/分以上、120拍/分以上、125拍/分以上、130拍/分以上等で体を動かしている状態と定めることもできる。
【0025】
さらに、本発明のプローブまたは本発明の測定方法を用いて、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO2)の測定値を90~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求めることにより、最適運動強度や上限運動強度を推定することもできる。
【0026】
・最適運動強度の推定方法
最適運動強度を推定する場合は、本発明のプローブまたは本発明の測定方法を用いて、血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを被験者の手指末節の幅方向に対向するように配置した状態で、被験者にRamp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、必要に応じて血中酸素濃度(SpO2)と同時に脈拍数を測定し、
運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点、または、SpO2を脈拍数で除した値(SpO2/脈拍数)の挙動が変化する屈曲点を決定し、
この下降開始点または屈曲点における運動負荷量を、被験者の最適運動強度であると推定する。
なお、最適運動強度の推定方法やこれを用いたトレーニング方法、運動指示装置、最適運動強度の推定システムが、本願出願人による上記特許文献1に記載されている。特許文献1で開示される内容の全てを本明細書に援用する。
【0027】
・上限運動強度の推定方法
上限運動強度を推定する場合は、本発明のプローブまたは本発明の測定方法を用いて、血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを被験者の手指末節の幅方向に対向するように配置した状態で、被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度の測定値を90~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、血中酸素濃度(SpO2)と同時に脈拍数を測定し、
運動負荷量の増加に伴い、最適運動強度を越えて、SpO2を脈拍数で除した値(SpO2/脈拍数)の挙動が変化する屈曲点を決定し、
この屈曲点における運動強度を、被験者の上限運動強度であると推定する。
なお、上限運動強度の推定方法やこれを用いたトレーニング方法、運動指示装置、上限運動強度の推定システムが、本願出願人による上記特許文献2に記載されている。特許文献2で開示される内容の全てを本明細書に援用する。
【0028】
Ramp負荷となる運動をしながら血中酸素濃度と心拍数を測定すると、血中酸素濃度は減少する方向のみに、心拍数は増加する方向のみに変化するのが通常である。運動しながら血中酸素濃度と心拍数を測定すると、測定プローブのずれや血量の不足等により、血中酸素濃度の減少傾向、心拍数の増加傾向からずれた値が測定される場合がある。通常の傾向からずれた値は、運動強度を推定する演算には用いない処理がされている場合、ずれた値が多くなると正確な最適運動強度、上限運動強度が推定できない。本発明のプローブを用いることにより、運動しながら血中酸素濃度の値をより正確に測定することができるため、演算処理に用いられない測定値の数を減らし、より正確に運動強度を推定することができる。
【実施例】
【0029】
パルスオキシメーターは、測定部位にある程度の血量が必要であるため、運動時等には正確な値が測定できない場合がある。
SpO2を正確に測定するためには、その前提として脈拍数を正確に測定できる必要がある。そのため、運動しながらパルスオキシメーターで脈拍数とSpO2を、心拍センサーで心拍数を同時に測定し、パルスオキシメーターで測定した脈拍数の値を、正確な値の測定が可能である心拍数の値と比較することで、パルスオキシメーターの正確性を評価した。
【0030】
(運動負荷方法)
使用機器:トレッドミル
負荷方法:Ramp負荷法
安静条件-座位で2分間安静にする
Warm up条件-4km/hで2分間
運動負荷条件-Ramp負荷漸増量 1km/h/分
停止条件-下記のいずれかの条件を満たした時点で負荷を終了する
1)下肢疲労により運動が持続できなくなったとき
2)試験担当者が試験停止を判断したとき
3)SpO2または脈拍数が、設定測定範囲を超えたとき
負荷単位:km/h
【0031】
(SpO2と脈拍数及び心拍数の測定)
・パルスオキシメーターによるSpO2と脈拍数の測定
「実施例」
装着部がシリコーンゴムからなり、装着部の手指の長さ方向から見た発光部と受光部とを通る断面における内周面の幅(W)と厚さ(T)との比(W/T)が1.15である、上記した一実施態様であるプローブ1と同様の構成を有するプローブを、発光部と受光部が手指の幅方向に対向するように配置した。
本体部は、市販のパルスオキシメーター(株式会社ニューロシューティカルズ、リングO2max)のものを用い、これにプローブを接続した。
「比較例」
市販のパルスオキシメーター(シースター株式会社、オキシシリーズS-127)を用い、使用説明書に従い、発光部と受光部が手指の厚さ方向に対向するように配置した。
・心拍センサーによる心拍数の測定
「対照例」
心拍センサー(株式会社POLAR、H10心拍センサー N)
【0032】
実施例は、SpO2と脈拍数を2秒間隔で測定し、60秒ごとの平均値とした。
比較例は、専用アプリケーション(OXiM SpO2)をインストールしたスマートフォンと無線で接続し、SpO2と脈拍数を2秒間隔で測定し、60秒ごとの平均値とした。
対照例は、心拍数を20秒間隔で測定し、60秒ごとの平均値とした。
SpO2が96~100%の範囲内、かつ、心拍数の上限160拍/分として実施した。
3名の被験者A~Cの、左手の親指末節に実施例のプローブを、右手の親指末節に比較例のパルスオキシメーターをそれぞれ装着し、胸部に心拍センサーを装着した状態で、運動負荷を与えながら、SpO2と脈拍数及び心拍数の測定を行った。
Warm up時及び心拍数が110拍以上となった時点から運動終了時までの測定結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
実施例と比較例のパルスオキシメーターによる脈拍数の測定値と、対照例である心拍センサーによる心拍数の測定値とを比較すると、実施例の方がより心拍数の値に近く、正確に脈拍数を測定できることが確認できた。すなわち、本発明のプローブは、従来の一般的なパルスオキシメーターと比較して、光強度をより正確に測定することができ、より正確に血中酸素濃度を測定できることが確かめられた。
【符号の説明】
【0035】
1 プローブ
10 装着部
11 開口
12 ストッパー
13 爪側の易変形部
14 指腹側の易変形部
20 発光部
21 フレキシブル基板
22 ケーブル
30 受光部
31 フレキシブル基板
32 ケーブル
【要約】
【課題】新規な血中酸素濃度測定プローブと血中酸素濃度測定方法と運動強度推定方法を提供すること。
【解決手段】手指末節に装着される装着部とこの装着部に手指末節の幅方向に対向するように配置された発光部と受光部とを有する血中酸素濃度測定プローブ、血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを手指末節の幅方向に対向させた状態で血中酸素濃度を測定する血中酸素濃度の測定方法、血中酸素濃度測定プローブの発光部と受光部とを被験者の手指末節の幅方向に対向するように配置した状態で、被験者に、Ramp負荷を与えながら血中酸素濃度と同時に脈拍数を測定し、運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点またはSpO
2を脈拍数で除した値(SpO
2/脈拍数)の挙動が変化する屈曲点を決定し、この下降開始点または屈曲点における運動負荷量を被験者の最適運動強度、最適運動強度を超えた屈曲点における運動負荷量を被験者の上限運動強度と推定する運動強度の推定方法。
【選択図】
図1