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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ワーク保持シート
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/30 20120101AFI20240124BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20240124BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20240124BHJP
   B23Q 3/02 20060101ALI20240124BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240124BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
B24B37/30 C
C08G18/10
C08G18/79 010
B23Q3/02 A
B24B37/30 D
H01L21/304 622J
C08G101:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020033796
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133484
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 卓
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-144191(JP,A)
【文献】特開2010-240770(JP,A)
【文献】特開2014-097554(JP,A)
【文献】特開2011-212822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/30
C08G 18/10
C08G 18/79
B23Q 3/02
H01L 21/304
C08G 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークと密着する保持面を有する無発泡ウレタン樹脂層と、前記無発泡ウレタン樹脂層の保持面とは反対の面側に接合される発泡樹脂層を有するワーク保持シートにおいて、
前記無発泡ウレタン樹脂層はイソシアネート基末端プレポリマーが3官能以上のポリオール化合物および3官能性イソシアヌレート化合物により架橋された網目状架橋構造を含み、前記網目状架橋構造の少なくとも一部はジオール化合物及び/又はポリオール化合物からなるダングリング鎖が結合されており、
前記発泡樹脂層はポリウレタン発泡樹脂によって構成され、
またソフトセグメント成分を30~70質量%の割合で含有することを特徴とするワーク保持シート。
【請求項2】
前記無発泡ウレタン樹脂層を構成するポリオール化合物の水酸基に対するイソシアネート基末端プレポリマーおよび3官能性イソシアヌレート化合物のイソシアネート基の当量比であるR値(NCO/OH)が0.7~1.3の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のワーク保持シート。
【請求項3】
前記3官能性イソシアヌレート化合物前記無発泡ウレタン樹脂層に対して2~20質量%の範囲で含まれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワーク保持シート。
【請求項4】
前記無発泡ウレタン樹脂層に対し、上記ジオール化合物及び/又はポリオール成分を20~45質量%の範囲で含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のワーク保持シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワーク保持シートに関し、詳しくはワークと密着する保持面を有する無発泡ウレタン樹脂層と、当該無発泡ウレタン樹脂層の保持面とは反対の面側に接合される発泡樹脂層とを有するワーク保持シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板やガラス、金属、樹脂、セラミックスなど板状のワーク表面を研削・研磨する装置では、上記ワークを保持定盤に保持した状態で加工を行うようになっており、その際、例えば接着テープやパラフィンを主成分とする固定材を用いて保持したり(特許文献1、2)、樹脂製のワーク保持シートを用いて保持することが行われている(特許文献3、4)。
一方、携帯電話やスマートフォンなどの携帯型端末を構成する筐体として、金属製や樹脂製のものが採用されており、デザイン上の差別化等を目的として、当該筐体の外周部に湾曲面を形成することが行われている。
このような筐体を製造する場合、切削加工や金型成型によって素材の外周に湾曲形状を形成するが、その後ワークの表面全体に形成された切削跡やバリなどを研磨する必要がある。
その際、保持定盤に保持された筐体に対して弾性を有する研磨パッドを押し付け、研磨パッドを当該筐体の形状に従って変形させながら研磨することで、側面や湾曲部の研磨を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3163614号公報
【文献】特開2007-326208号公報
【文献】特開2005-224888号公報
【文献】特許第4569273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した携帯型端末の筐体のように平面と外周側面を同時に研磨する必要のあるワークを研磨する場合、ワークを保持定盤に保持するためのワーク保持シートとしては、以下の性能が要求される。
第1には、研磨時にワークがワーク保持シートより離脱しないように保持する保持力が求められる。特に平面と外周側面を同時に研磨する必要のあるワークの場合、半導体基板やガラス基板に対する平面研磨と異なり、ワークの側面にも研磨パッドからの応力が作用するため、ワークの側面に水平方向の応力が作用した場合であっても、ワークが離脱しないように保持しなければならない。
第2には、研磨終了時にワークを保持定盤から離脱させる際に、ワークにワーク保持シートの接着成分が残留せず、またワーク保持シートを繰り返し使用できる再剥離性が求められる。接着成分がワークに残留してしまうと、ワークの洗浄作業が必要となり、また接着成分がワーク保持シートからワークへ移行することから、ワーク保持シートを繰り返し使用することができない。
そして、特許文献1、2のような接着テープやパラフィンを用いてワークを保持する場合、研磨終了後、ワークに付着した接着成分を洗浄する工程が必要となり、また特許文献3のアクリル系粘着剤を使用したワーク保持シートにおいても、ワークに接着成分が残留する場合があり、洗浄する工程が必要となる。
一方、特許文献4で使用されるワーク保持シートは無発泡樹脂層を備え、接着成分の残留が生じないが、半導体基板等の精密平面研磨に使用されることから、ワークに対して水平方向に応力が作用した場合に保持できない場合があった。
このような問題に鑑み、本発明は特に板厚を有するワークの保持に好適であって、研磨終了時にワークへの接着成分の残留がないワーク保持シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかるワーク保持シートは、ワークと密着する保持面を有する無発泡ウレタン樹脂層と、前記無発泡ウレタン樹脂層の保持面とは反対の面側に接合される発泡樹脂層を有するワーク保持シートにおいて、
前記無発泡ウレタン樹脂層はイソシアネート基末端プレポリマーが3官能以上のポリオール化合物および3官能性イソシアヌレート化合物により架橋された網目状架橋構造を含み、前記網目状架橋構造の少なくとも一部はジオール化合物及び/又はポリオール化合物からなるダングリング鎖が結合されており、
前記発泡樹脂層はポリウレタン発泡樹脂によって構成され、
またソフトセグメント成分を30~70質量%の割合で含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記請求項1の発明によれば、無発泡ウレタン樹脂層のウレタン樹脂組成物を構成するポリオール化合物として3官能以上のポリオールを含むことにより、ある程度の柔らかさを持ちながら、凝集力を高めた形で粘着力と再剥離性を発揮させることができる。
さらに、ジオール化合物及び/又はポリオール化合物はダングリング鎖を形成し、高い表面粘着性およびちぎれにくい性質を生じさせる。
以上のことから、ワーク厚み部分に水平方向の応力が作用してもこれを保持することができ、またワークを離脱させる際には接着成分の残留がなく、また再使用することが可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施例にかかるワーク保持シートによりワークを保持して研磨加工しているときの模式断面図
図2】本実施例にかかるワーク保持シートの模式断面図
図3】無発泡ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂組成物の概念図
図4】ウレタン樹脂組成物による作用を説明する図
図5】ウレタン樹脂組成物による作用を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施形態について本発明を説明すると、図1はワーク1を研磨する研磨装置2を示し、この研磨装置2は、上方に設けられてワーク1を保持する保持定盤3と、下方に設けられて研磨パッド4を保持する研磨定盤5と、上記ワーク1と研磨パッド4との間にスラリー(研磨液)を供給する図示しないスラリー供給手段とを備えている。
本実施例のワーク1は携帯電話やスマートフォンなどに用いられる金属製や樹脂製の筐体となっており、当該ワーク1は例えば3.0~30.0mmの厚さを有し、その外周には半径1.5~15.0mmの湾曲部1aが形成されている。
上記ワーク1は切削や金型成形といった手法で形成され、本実施例の研磨装置2では切削の際の切削痕や、成形時のバリを除去しつつ、これを平滑に研磨するものとなっており、特に上記ワーク1の表面(図示下面)だけでなく、側面や湾曲部1aの研磨も同時に行うようになっている。
【0009】
上記保持定盤3および研磨定盤5はそれぞれ略円盤状を有しており、それぞれ図示しない駆動手段によって相互に回転するとともに、上記研磨定盤5は昇降可能に設けられている。
本実施例の研磨装置2では複数のワーク1を同時に研磨加工することが可能となっており、上記保持定盤3には複数のワーク1を所定の配置で保持するための板状のキャリア6が設けられ、上記ワーク1は当該キャリア6に形成された複数の保持穴6aの内側に配置されるようになっている。
そして、各ワーク1は保持定盤3の表面に装着されたワーク保持シート7の表面に保持されるようになっており、ワーク1を保持定盤3に装着する際には、ワーク1をワーク保持シート7の保持面に押し付けるようになっている。
ワーク1は相互作用によってワーク保持シート7に吸着保持されるが、このときワーク1とワーク保持シート7との間に水等の液体を介在させる必要はない。
そして、ワーク保持シート7によって保持されたワーク1は、上記キャリア6の保持穴6aより下方に突出した状態で保持され、これにより突出したワーク1の表面や側面、湾曲部1aを研磨パッド4によって研磨することが可能となっている。
【0010】
上記研磨定盤5の上面には、略円盤状を有した研磨パッド4が両面テープ等によって固定されている。本実施例においては、特に上記ワーク1の湾曲部1aを研磨する必要があることから、研磨パッド4は所要の厚さを有するとともに所要の圧縮弾性を有している。
上記研磨装置2を用いてワーク1を研磨する際、研磨パッド4を回転させながらワーク1に押し当て、これにより研磨パッド4がワーク1の形状に従って変形しつつ、ワーク1の表面や側面、湾曲部1aの研磨を行うようになっている。
またワーク1の研磨加工を行う際、スラリー供給手段がワーク1と研磨パッド4との間にスラリーを供給するようになっている。
【0011】
図1に示すように、本実施例の研磨装置2によって厚さを有するワーク1を研磨する際、研磨パッド4を変形させながらワーク1に当接させるため、ワーク1平面に作用する応力F2の他、ワーク側面に作用する水平方向からの応力F1が作用することとなる。
したがって、本実施例のワーク保持シート7には、ワーク1に水平方向の応力F1が作用しても脱落しないように保持する保持力が必要となる。
このワーク1の保持力が足りないと、研磨作業中にワーク保持シート7からワーク1が脱落したり、ワーク1の外周縁部がワーク保持シート7より剥離して、これらの間に研磨屑が入り込んでワーク1に傷がつく恐れがある。
一方、研磨終了後にはワーク1を保持定盤3より取り外す必要があるが、このときワーク1にワーク保持シート7の粘着成分が残留すると、当該ワーク1の洗浄を行わなければならず、またワーク保持シート7の粘着成分自体もワークへ移行してしまうことから、ワーク保持シート7を再利用することができない。
そこでワーク保持シート7には、ワーク1をワーク保持シート7より離脱させる際に、粘着成分がワーク1に残留せず、かつ使用後のワーク保持シート7が再利用可能とする再剥離性が必要となる。
本発明にかかるワーク保持シート7は、平面と外周側面とを同時に研磨する必要のあるワーク1に水平方向の応力が作用してもこれを保持することができ、またワーク1を離脱させる際には粘着成分の残留がなく、また再使用することが可能なものとなっている。
【0012】
以下、本実施例における上記ワーク保持シート7について詳細に説明する。図2は上記ワーク保持シート7の模式的な断面図を示しており、図示上方の表面が上記ワーク1を保持する保持面となっている。
本実施例のワーク保持シート7は、上記保持面の形成されたウレタン樹脂組成物からなる無発泡ウレタン樹脂層11と、上記無発泡ウレタン樹脂層11の保持面とは反対の面側に接合された発泡樹脂層12とから構成されている。また後述するように無発泡ウレタン樹脂層11と発泡樹脂層12とは化学的に結合され、これらの間に接着層は不要となっている。
本実施例において、上記無発泡ウレタン樹脂層11の厚さは20~50μmとすることが望ましく、25~45μmとすることがより望ましい。また発泡樹脂層12の厚さは150~1400μmとすることが望ましく、200~1000μmとすることがより望ましい。これにより、上述したような厚みのあるワーク1の保持性と再剥離性とを両立させることができる。
そして本実施例のワーク保持シート7は、無発泡ウレタン樹脂層11の保持面にワーク1を押し付けることで、保持面とワーク1の表面との相互作用によりワーク1を保持するものである。従って、本実施例のワーク保持シート7は、無発泡ウレタン樹脂層11の保持面に貫通孔や溝を形成しないことが好ましい。
【0013】
まず、上記無発泡ウレタン樹脂層11としては、実質的に発泡を有しないものであればよく、実際の製造工程上で混入し得る程度の気泡を有していてもよいが、気泡はより少ないことが好ましい。
具体的には、開孔面積率が3%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下であればよい。開孔面積率は、例えば、保持面を175倍に拡大して観察し、得られた画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver. 1.3、ニコン製)により二値化処理して気泡個数を測定し、また、各々の気泡の面積(開孔径)を測定して、単位面積当たりの開孔面積率を算出することができる。
【0014】
次に、無発泡ウレタン樹脂層11を構成するウレタン樹脂組成物は、イソシアネート基末端プレポリマーと3官能以上のポリオール化合物および3官能性イソシアヌレート化合物とにより架橋された網目状架橋構造を形成し、網目状構造にジオール化合物及び/又はポリオール化合物からなるダングリング鎖が結合されたものによって構成されている。
上記ウレタン樹脂組成物としては、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられ、これら1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、本発明の目的をより有効且つ確実に奏する観点から、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0015】
そして無発泡ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂組成物のNCO当量は、好ましくは300~600であり、より好ましくは350~550である。ウレタンプレポリマーのNCO当量が上記範囲内であることにより、ワーク1の保持力及びクッション性がより向上する傾向にある。
さらに本実施例において、無発泡ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂組成物に含まれるイソシアネート基(NCO)の数と、上記ポリオール化合物に含まれる水酸基(OH)の数との当量比(NCO/OH)が0.7~1.3の範囲であることが望ましい。
当量比(NCO/OH)が0.7以上とすることにより、架橋密度が高くなりすぎることなく適度な柔軟性を得ることができ、また1.3以下とすることにより、発泡樹脂層と結合するNCOを確保でき、凝集力を保ちつつ、一端が自由端となった後述するダングリング鎖が多く存在可能となるため、ダングリング鎖による濡れ性を確保することができる。
なお、本明細書中において、「NCO当量」とは、無発泡ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂組成物中の平均NCO当量を意味する。また、NCO当量は周知の方法で測定でき、例えばJISK7301(1995)に準拠して測定することができる。
【0016】
また、上記イソシアネート基末端プレポリマーとともに、3官能性イソシアヌレート化合物を添加することにより、後述する網目状のポリウレタン架橋構造の形成に寄与することができる。
3官能性イソシアヌレート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、トリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、水添キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、からなる化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
そして3官能性イソシアヌレート化合物については、無発泡ウレタン樹脂層を構成するポリウレタン樹脂組成物全体に対して2~20質量%の範囲で含むことが望ましく、4~15質量%の範囲で含むことがより望ましい。
2質量%より多くすることで、網目状ポリウレタン架橋構造を発達させて網目構造内にダングリング鎖を効率的に導入させることができ、20質量%以下とすることで、架橋密度が密になりすぎて脆くなることがなく、無発泡ウレタン樹脂層11の柔軟性を保つことができる。
【0017】
次に、鎖伸長剤として、本実施例では3官能以上のポリオールを用い、網目状のポリウレタン架橋構造の一部を形成するようになっている。
上記3官能以上のポリオールとしては、分子量3000~6000のトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリプロピレングリコールを使用することができる。
3官能以上のポリオールを用いることで、ある程度の柔らかさを持ちながら、凝集力を高めることができ、ワーク保持シート7としての粘着力と再剥離性を発揮することができる。
【0018】
次に、上記網目状架橋構造とウレタン結合されてダングリング鎖として機能するポリオール化合物としては、炭素数10~30の飽和又は不飽和脂肪族基のダングリング鎖を有するポリオールであれば特に限定されない。
例えば、炭素数10~30の飽和又は不飽和脂肪族基のダングリング鎖を有するジオール化合物及び/又は水酸基を2つ以上有するポリオール化合物を含むものであればよく、その他のイソシアネート基と反応する活性水素基を2以上有する活性水素化合物を併用することもできる。
ポリオール化合物の水酸基などの活性水素基は、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と反応し、ウレタン結合を形成する。この際に、ジオール化合物の炭素数10~30の飽和又は不飽和脂肪族基は、炭素数10~30のダングリング鎖となる。
ジオール化合物及び/又はポリオール化合物を用いることにより、ジオール化合物及び/又はポリオール化合物の分子量に比例した長さのダングリング鎖を導入することができる。
ジオール化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
HO-(R(R”))-OH (1)
ジオール化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、カプリン酸グリセリル、ラウリン酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、ペンタデシル酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、マルガリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、アラキジン酸グリセリル、ヘンイコシル酸グリセリル、ベヘン酸グリセリル、リグノセリン酸グリセリル、セロチン酸グリセリル、モンタン酸グリセリル、メリシン酸グリセリルのようなグリセリン飽和脂肪酸エステル;パルミトレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、バクセン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、リノレン酸グリセリル、エレオステアリン酸グリセリル、アラキジン酸グリセリル、アラキドン酸グリセリル、ネルボン酸グリセリルのようなグリセリン不飽和脂肪酸エステルが挙げられる。
ポリオール化合物としては、上記式(1)におけるR”を有するポリオール化合物が挙げられ、より具体的には、特に限定されないが、例えば、モノオレイン酸ジグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリルのようなポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
ジオール化合物及び/又はポリオール化合物における脂肪族基(例えば上記R”)の炭素数は、好ましくは10~30であり、より好ましくは15~25であり、さらに好ましくは16~24である。ジオール化合物の脂肪族基の炭素数が上記範囲内であることにより、被研磨物に対する保持力がより向上する傾向にある。
ジオール化合物及び/又はポリオール化合物の含有量は、無発泡ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂組成物の総量に対して、好ましくは20~45質量%であり、より好ましくは25~40質量%である。
ジオール化合物及び/又はポリオール化合物の含有量を調整することで、導入されるダングリング鎖の本数を制御することができ、本数の制御により吸着力の調整を行うことができる。
上記ジオール化合物及び/又はポリオール化合物は、一端が上記網目状のポリウレタン架橋構造に結合され、他端が架橋構造と繋がっていない自由端となったダングリング鎖を構成する。
本実施例では、各ダングリング鎖の分子量が200~400程度のものを使用しており、これにより無発泡ウレタン樹脂層11によるワーク1への粘着性を発現させるようになっている。
ダングリング鎖の分子量が上記範囲内であることにより、ワークに対する初期タック性に優れるとともに水平方向の応力に対し吸着力の向上が期待できる。
【0019】
ワーク保持シート7のショアA硬度は、好ましくは5~70°であり、より好ましくは8~60°であり、さらに好ましくは20~55°であり、特に好ましくは10~40°である。
ワーク保持シート7のショアA硬度が5°以上であることにより、耐久性がより向上する傾向にある。またショアA硬度が70°以下であることにより、クッション性がより向上し、また、ワーク1と保持面とが密着することで保持力がより向上する。
ワーク保持シート7のショアA硬度は、発泡樹脂層12の密度や樹脂モジュラス等により制御することができる。
【0020】
ワーク保持シート7の圧縮率は、1~60%であり、好ましくは2~55%であり、より好ましくは3~50%である。圧縮率が1%以上であることにより、研磨時の衝撃を吸収することができ、ワークの脱落を抑制できる。
また、圧縮率が60%以下であることにより、ワークへの追従性が向上し、ワークの表面粗さが低減する。圧縮率は、発泡樹脂層の密度や硬度により調整することができる。
また、ワーク保持シート7の圧縮率は、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を用いて、日本工業規格(JIS L 1021)に準拠して、測定することができる。
具体的には、初荷重で30秒間加圧した後の厚さt0を測定し、次に最終圧力のもとで1分間放置後の厚さt1を測定し、下記数式(2)で圧縮率を算出することができる。このとき、初荷重は300g/cm、最終圧力は1800g/cmとする。
数式(2):圧縮率(%)=(t0-t1)/t0×100
【0021】
そして図3は、無発泡ウレタン樹脂層11を形成するウレタン樹脂組成物を模式的に示したものとなっており、ポリウレタンからなる網目状架橋構造13に対し、一端が自由端になったダングリング鎖14が結合した構造となっている。
これを化学式で示すと、ポリウレタンの架橋構造中に、下記化学式(1)で表される繰り返し単位を有するものとなっている。当該化学式(1)において上記ダングリング鎖14は、R”で示す部分となる。
【化1】
(式中、R及びR’は、ポリウレタンの主鎖を構成する有機基を示し、R”は、Rに結合したダングリング鎖を示す。)
【0022】
このように、網目状架橋構造13にダングリング鎖14を導入すると、無発泡ウレタン樹脂層をある程度の柔らかさに保つことができる。
ダングリング鎖14は一端が架橋構造に繋がっていないため、高い表面粘着性を示すとともに、一端が自由となった部分鎖が分子間内で相互に侵入することで、絡み合いによる凝集力を発現し、再剥離性が発揮されるようになっている。
そして、上記ダングリング鎖14は柔軟性が高くワーク1表面の微細な凹凸に追従するよう密着することができ、ワーク1の表面と無発泡ウレタン樹脂層との間に働く分子間力を大きくし、ワーク1の保持力に寄与する。
このワーク1との分子間力はダングリング鎖14が網目状架橋構造13と結合する力よりも弱いため、ワーク1を無発泡ウレタン樹脂層11より離脱させる際にダングリング鎖14が分断されにくく、ワーク1とワーク保持シート7の間で剥離が起きるため再剥離性に優れるものとなっている。
【0023】
図4は無発泡ウレタン樹脂層11にワーク1が密着した際の作用を模式的に示したものであり、図示下方の線は網目状架橋構造13の一部を示し、当該網目状架橋構造13に対してダングリング鎖14が複数結合された状態を示している。
まず、無発泡ウレタン樹脂層11の表面でワーク1を保持する際の保持力は、ワーク1とダングリング鎖14との分子間力に由来するが、この分子間力は3~5Å程度の極めて近い距離でしか作用しない。
このためワーク1を無発泡ウレタン樹脂層11に密着させた際に、ワーク1表面の微細な凹凸が無発泡ウレタン樹脂層11の構成物質によって濡れた状態とすることで、高い保持力を生じさせることができる。
ここでは、一端が自由になったダングリング鎖14が液体のようにふるまうことにより、ダングリング鎖14がワーク1の表面を濡れた状態にさせることができ、これにより高い保持力を生じさせるものとなっている。
またワーク1の厚み部分に対して水平方向の応力が作用した場合、一部のダングリング鎖14の一端はワーク1から離脱するものの、他のダングリング鎖14の一端がワーク1に付着して濡れた状態が維持されることから、保持力が維持されるようになっている。
ここで、無発泡ウレタン樹脂層11による保持力は、網目状架橋構造13に連結しているダングリング鎖14の本数によって増減し、換言するとワーク1の保持力はダングリング鎖14の密度によって調整することが可能となっている。
【0024】
次に、図5は無発泡ウレタン樹脂層11からワーク1を離脱させる際の作用を模式的に示したものである。
図5(a)に示すように、ワーク1を上方に移動させると、一部のダングリング鎖14がまっすぐに伸びつつ、他のダングリング鎖はワーク1に密着した状態を維持するため、その間はワーク1が無発泡ウレタン樹脂層11に保持された状態が維持される。
その後図5(b)に示すように、さらにワーク1を上方に移動させると一部のダングリング鎖14が伸び切り、分子間力によるワーク1とダングリング鎖の相互作用が解除されることで、ワーク1が無発泡ウレタン樹脂層11より離脱する。
このとき、ダングリング鎖14の作用する距離はダングリング鎖14の分子量に依存し、つまり分子量によって粘着力を調整することが可能となっている。
またダングリング鎖14からワーク1が離脱する際、これらの間に作用していた分子間力は、ダングリング鎖14を構成している化学結合や、ダングリング鎖と網目状架橋構造とのウレタン結合よりも低いため、ダングリング鎖14が分断されることはなく、したがってワーク1に無発泡ウレタン樹脂層11を構成する密着成分が残留することはない。
つまり、ワーク1を離脱させてもダングリング鎖14が損傷しないことから、使用後の無発泡ウレタン樹脂層11に新たなワーク1を保持させることが可能となっている。
さらに、ダングリング鎖を構成するジオール化合物及び/又はポリオール化合物における脂肪族基の炭素数は、10~30と大きく疎水性を示すため、ワーク1と無発泡ポリウレタン樹脂層11の間に水を介在させることによっても、容易にワークを離脱させることができる。
【0025】
次に、ワーク保持シート7を構成する発泡樹脂層12について説明すると、発泡樹脂層12として好ましくはポリウレタン発泡樹脂を使用することができ、内部に複数の涙形状の気泡が形成されていることが好ましい。ここで涙形状気泡とは、湿式成膜法によってポリウレタンシート内部に形成される気泡を意図するものである。
上記発泡樹脂層12は湿式成膜法により形成することができる。ここで湿式成膜法とは、成膜する樹脂を有機溶媒に溶解させ、その樹脂溶液をシート状の基材に塗布後、該有機溶媒は溶解するが該樹脂は溶解しない凝固液中に通して該有機溶媒を置換し、凝固させ、乾燥して発泡層を形成する方法となっており、例えば、特許第5421635号公報、特許第5844189号公報を参照して製造することができる。
【0026】
発泡樹脂層12を構成するポリウレタン樹脂の種類に特に制限はなく、種々のポリウレタン樹脂の中から使用目的に応じて選択すればよい。例えば、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、又はそれら混合系の樹脂を用いることができる。
本実施例の発泡樹脂層12はハードセグメント成分とソフトセグメントを含有しており、ソフトセグメント成分としてポリエーテル系、ポリエステル系、またはポリカーボネート系ポリオールをポリウレタン樹脂中に30~70質量%含有することが望ましい。
発泡樹脂層12にソフトセグメント成分を上記範囲で含むことにより、発泡樹脂層12に含まれる水酸基(OH)と上記無発泡ウレタン樹脂層11に含まれるイソシアネート基(NCO)とで化学結合することができ、上記研磨作業中にワーク1を介して無発泡ウレタン樹脂層11に水平方向への応力が作用しても、発泡樹脂層12と無発泡ウレタン樹脂層11との層間剥離が防止される。
特に、ソフトセグメント成分を30質量%以上とすることで、発泡樹脂層12に含まれる水酸基(OH)と上記無発泡ウレタン樹脂層11に含まれるイソシアネート基(NCO)とが化学結合により層間剥離しにくくなり、また70質量%以下とすることにより、発泡樹脂層12が柔軟性を保ち、研磨作業中にワーク1に作用する応力を分散させることができる。
本明細書においてソフトセグメント成分はパルスNMRにより測定でき、パルスNMRは下記の条件でsolid echo(ソリッドエコー)法により測定することができる。
<パルスNMR測定の条件>
測定装置:日本電子(株)製 JNM-MU25、測定磁場強度:0.58T、観測周波数:25MHz、観測核:1H、測定:スピン-スピン緩和(T2)、測定法:Solid Echo法、パルス幅:2.2μs、パルス間隔:13.0μs、パルス繰り返し時間:4.0sec、積算回数:16回、測定温度:20℃。
【0027】
上記ソリッドエコー法については、既によく知られているため詳細は省略するが、主にガラス状および結晶性高分子などの緩和時間の短い試料の測定に用いられるものである。
デッドタイムを見かけ上除く方法で、2つの90°パルスを、位相を90°変えて印加する90°x-τ-90°yパルス法で、X軸方向に90°パルスを加えると、デッドタイム後に自由誘導減衰(FID)信号が観測される。
FID信号が減衰しない時間τに、第2の90°パルスをy軸方向に加えると、t=2τの時点で磁化の向きがそろってエコーが現れる。得られたエコーは90°パルス後のFID信号に近似することができる。
パルスNMRの解析結果から物性と相分離構造と組成との関連を解析する方法は既によく知られており、パルスNMRで得られる自由誘導減衰(FID)信号を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引いて、波形分離することにより、3成分に分けることができ、緩和時間の長い成分が運動性の大きな成分であり非晶相(ソフトセグメント成分)、短い成分が運動性の小さな成分であり結晶相(ハードセグメント成分)、中間の成分は界面相であると定義し(界面相と非晶相の成分分けが困難な場合は界面相として解析)、ガウス型関数及びローレンツ型関数による計算式を用いて、各成分の成分量が求められる。
上記パルスNMR、ソリッドエコー法、スピン-スピン緩和時間T2については、特開2007-238783号公報(特には段落[0028]~[0033])を参照することができる。
【0028】
上記構成を有する発泡樹脂層12は圧縮性および回復性に富むことから、ワーク1が研磨定盤5によって押圧され、ワーク1を介して無発泡ウレタン樹脂層11に応力が作用すると、これに追従しながら変形してワーク1の保持性に寄与するものとなっている。
特に、ワーク1の側面に研磨応力が作用した際、無発泡ウレタン樹脂層11に応力が集中することなく発泡樹脂層12にも分散されることから、ワーク保持シート7からワーク1を剥離させることなくワーク1の側面や湾曲部1aの研磨を行うことが可能となる。
このとき、発泡樹脂層12が圧縮変形しワークに追従することで得られるワーク保持力と無発泡ウレタン樹脂層11の表面粘着性によるワーク保持力の両者の保持力によりワークを保持することができるため、無発泡ウレタン樹脂層11の粘着力を下げ、その分だけ無発泡ウレタン樹脂層11の再剥離性を良好にすることができる。
さらに、本実施例のワーク保持シート7は無発泡ウレタン樹脂層11と発泡樹脂層12とが積層されて化学的に結合された構成を有していることから、ワーク1に対して水平方向に応力が作用した場合であっても、無発泡ウレタン樹脂層11と発泡樹脂層12とが剥離しないようになっている。
【0029】
以下、本実施例のワーク保持シート7の製造方法について説明する。
最初に無発泡ウレタン樹脂層11を構成するウレタン樹脂組成物を形成するため、イソシアネート基末端プレポリマーと、3官能イソシアヌレート化合物、ダングリング鎖として機能するジオール化合物及び/又は3官能以上のポリオール化合物を混合させる。
【0030】
イソシアネート基末端プレポリマーとしては、当業界でよく用いられるような、ポリイソシアネート化合物と(ウレタンプレポリマー用)ポリオール化合物との反応により調製されるイソシアネート基含有化合物が使用できる。また、市販されている多様なウレタンプレポリマーを使用してもよい。
ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等が挙げられる。
【0031】
イソシアネート基末端プレポリマー用のポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリカプロラクトンポリオール;等が挙げられる。
【0032】
3官能イソシアヌレート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、トリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、水添キシリレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、からなる化合物群の中から選択された、少なくとも一種以上であることが好ましい。
【0033】
ダングリング鎖として機能するジオール化合物及び/又はポリオール化合物として、炭素数10~30の飽和又は不飽和脂肪族基のダングリング鎖を有するポリオールであれば特に限定されない。
例えば、炭素数10~30の飽和又は不飽和脂肪族基のダングリング鎖を有するジオール化合物及び/又は水酸基を2つ以上有するポリオール化合物を含むものであればよく、その他のイソシアネート基と反応する活性水素基を2以上有する活性水素化合物を併用することもできる。
ジオール化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、カプリン酸グリセリル、ラウリン酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、ペンタデシル酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、マルガリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、アラキジン酸グリセリル、ヘンイコシル酸グリセリル、ベヘン酸グリセリル、リグノセリン酸グリセリル、セロチン酸グリセリル、モンタン酸グリセリル、メリシン酸グリセリルのようなグリセリン飽和脂肪酸エステル;パルミトレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、バクセン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、リノレン酸グリセリル、エレオステアリン酸グリセリル、アラキジン酸グリセリル、アラキドン酸グリセリル、ネルボン酸グリセリルのようなグリセリン不飽和脂肪酸エステルが挙げられる。ポリオール化合物としては、モノオレイン酸ジグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリルのようなポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0034】
3官能以上のポリオール化合物としては、分子量3000~6000トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトール、ポリプロピレングリコールを使用でき、混合液の総量に対し5~20質量%含有することが望ましい。
【0035】
なお、必要に応じてその他の添加剤を用いてもよい。その他の添加剤としては、シリコーン消泡剤等が挙げられる。
上記消泡剤の含有量は、混合液の総量に対して、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.3~2.5質量%であり、さらに好ましくは0.5~2.0質量%である。消泡剤の含有量が上記範囲内であることにより、気泡の発生をより抑制することができる傾向にある。
【0036】
上記無発泡ウレタン樹脂層11を形成するための混合液を調整した後、上記発泡樹脂層12を構成するポリウレタン樹脂シート上に無発泡ウレタン樹脂層11を形成する混合液を塗布し硬化させる。
ポリウレタン樹脂シートの製造方法は特許第5421635号公報、特許第5844189号公報を参照してポリウレタン樹脂を湿式成膜したのち、裏面側がバフ処理され、バフ処理された面にポリエチレンテレフタレート樹脂からなる可撓性シートを接着剤により貼り合わせ、さらに可撓性シートのポリウレタン樹脂シートが貼り合わされていない面は保持定盤3に接着するための両面テープが貼付される。
そして、両面テープを貼付した面とは反対側の面であるポリウレタン樹脂シート表面に、スクリーン印刷に代表される公知の印刷技術によって上記無発泡ウレタン樹脂層11を形成するための混合液を均一の厚みで塗布し、その後オーブンに投入して熱硬化処理を行う。
このとき、架橋反応が生じ、上記網目状架橋構造13が形成されるとともに、当該網目状架橋構造13に上記ダングリング鎖14が結合されて、無発泡ウレタン樹脂層11が形成される。
一方、上記無発泡ウレタン樹脂層11と発泡樹脂層12との境界部分では、発泡樹脂層12に含まれる水酸基(OH)と無発泡ウレタン樹脂層11に含まれるイソシアネート基(NCO)が化学結合するようになっている。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
〔研磨試験〕
ワーク保持シートの表面にワークを所定の配置で保持するための板状のキャリアを接着し、ワーク保持シートの裏面を両面テープにより保持定盤に固定した。
次いで、ワーク保持シートに被研磨物としてガラス基板(平面部のサイズが65mm×65mm、厚み10mmで端部に曲面加工済み)10枚をキャリアの保持穴の内側に保持させ下記条件にて研磨加工を施す研磨試験を行った。
なお、実施例1~6および比較例2ではガラス基板とワーク保持シートとの間に水を介さず直にワークを保持するようにし、比較例1では吸着力を向上させるためワーク保持シート表面を水で濡らし、水を介してワークを保持するようにした。
【0039】
研磨に使用した研磨装置にはスピードファム社製、「型番:DSM9B-5P-IV」を用い、また研磨パッドとして、研磨層(フジボウ愛媛社製 品番:510VL)とクッション層(ソフトロンSX2005;厚み5.0mm、ショアA硬度15.0、圧縮率30.0%、積水化学工業社製)とをPET芯材付き両面テープで貼り合せた積層研磨パッドを用いた。
研磨する際の研磨条件は、荷重:330gf/cm、研磨速度:トップリング60rpm/定盤回転数60rpmに設定し、研磨時間:1時間/バッチの条件で研磨を行った。
また研磨に用いるスラリーとして、フジミインコーポレーテッド社製 COMPOLEX-3を、スラリー流量:5cc/分(循環)の割合で供給した。
【0040】
〔実施例1〕
発泡樹脂層を形成するポリウレタン樹脂として、100%モジュラスが10MPaのポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。
このポリウレタン樹脂のDMF溶液100質量部に対して、粘度調整用のDMF45質量部、顔料のカーボンブラックを30%含むDMF分散液の40質量部、疎水性活性剤の2質量部を混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。
得られた樹脂含有溶液を、濾過することにより、不溶成分を除去した。前記溶液をポリエステルシート上にナイフコータを用いて塗布厚みが1.2mmとなるようキャストした。
その後、樹脂含有溶液をキャストしたポリエステルシートを凝固浴(凝固液は水)に浸漬し、該樹脂含有溶液を凝固させた後、ポリエステルシートを剥離し洗浄・乾燥させて、厚さ1mmのポリウレタン樹脂シートを得た。
得られたポリウレタン樹脂シートの裏面をバフ処理し厚みを0.9mmとしたのち、バフ処理面側に厚み0.188μmのPET製の樹脂基材を接着剤で貼り合わせポリウレタン発泡樹脂シートを得た。
続いて、R値が1.1となるように、2,4-トリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量540のウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン社製、製品名DC6912)50.1質量部と、3官能イソシアネート化合物であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、コロネートHX)7質量部、3官能以上のポリオールとして水酸基を3つ有するポリオキシプロピレングリコール(三洋化成社製、プライムポール、OH当量1700)9.1質量部と、ダングリング鎖としてモノオレイン酸ジグリセリル(日光ケミカルズ社製、NIKKOL MGO、OH当量178)33.7質量部と、シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製、71 ADDITIVE)0.05質量部と、を均一に混合し、混合液を得た。
上記混合液を、ポリウレタン発泡樹脂シート上に、厚さが均一となるようにスクリーン印刷機により塗布し、80℃で1時間加熱することより硬化させて実施例1のワーク保持シートを得た。
得られたワーク保持シートは、ポリウレタン発泡樹脂シート上に、厚さ30μmの無発泡ポリウレタン樹脂層を有するものであった。
【0041】
〔実施例2〕
R値が1.1となるように、2,4-トリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量540のウレタンプレポリマー52.9質量部と、3官能イソシアネート化合物であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、コロネートHX)4.24質量部、3官能以上のポリオールとして水酸基を3つ有するポリオキシプロピレングリコール(三洋化成社製、プライムポール、OH当量1700)12質量部と、ダングリング鎖としてモノオレイン酸ジグリセリル(日光ケミカルズ社製、NIKKOL MGO、OH当量178)30.78質量部と、シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製、71 ADDITIVE)0.05質量部と、を均一に混合し、調整した混合液により無発泡ウレタン樹脂層を形成したほかは、実施例1と同様にしてワーク保持シートを得た。
【0042】
〔実施例3〕
R値が1.1となるように、2,4-トリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量540のウレタンプレポリマー48.14質量部と、3官能イソシアネート化合物であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、コロネートHX)9.00質量部、3官能以上のポリオールとして水酸基を3つ有するポリオキシプロピレングリコール(三洋化成社製、プライムポール、OH当量1700)6.98質量部と、ダングリング鎖としてモノオレイン酸ジグリセリル(日光ケミカルズ社製、NIKKOL MGO、OH当量178)35.82質量部と、シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製、71 ADDITIVE)0.05質量部と、を均一に混合し、調整した混合液により無発泡ウレタン樹脂層を形成したほかは、実施例1と同様にしてワーク保持シートを得た。
【0043】
〔実施例4〕
R値が0.80となるように、2,4-トリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量540のウレタンプレポリマー60.66質量部と、3官能イソシアネート化合物であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、コロネートHX)6.01質量部、3官能以上のポリオールとして水酸基を3つ有するポリオキシプロピレングリコール(三洋化成社製、プライムポール、OH当量1700)5.66質量部と、ダングリング鎖としてモノオレイン酸ジグリセリル(日光ケミカルズ社製、NIKKOL MGO、OH当量178)27.63質量部と、シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製、71 ADDITIVE)0.05質量部と、を均一に混合し、調整した混合液により無発泡ウレタン樹脂層を形成したほかは、実施例1と同様にしてワーク保持シートを得た。
【0044】
〔実施例5〕
R値が1.30となるように、2,4-トリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量540のウレタンプレポリマー55.48質量部と、3官能イソシアネート化合物であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、コロネートHX)1.66質量部、3官能以上のポリオールとして水酸基を3つ有するポリオキシプロピレングリコール(三洋化成社製、プライムポール、OH当量1700)8.00質量部と、ダングリング鎖としてモノオレイン酸ジグリセリル(日光ケミカルズ社製、NIKKOL MGO、OH当量178)34.84質量部と、シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製、71 ADDITIVE)0.02質量部と、を均一に混合し、調整した混合液により無発泡ウレタン樹脂層を形成したほかは、実施例1と同様にしてワーク保持シートを得た。
【0045】
〔実施例6〕
R値が0.71となるように、2,4-トリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量540のウレタンプレポリマー58.06質量部と、3官能イソシアネート化合物であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、コロネートHX)9.68質量部、3官能以上のポリオールとして水酸基を3つ有するポリオキシプロピレングリコール(三洋化成社製、プライムポール、OH当量1700)5.47質量部と、ダングリング鎖としてモノオレイン酸ジグリセリル(日光ケミカルズ社製、NIKKOL MGO、OH当量178)26.74質量部と、シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製、71 ADDITIVE)0.05質量部と、を均一に混合し、調整した混合液により無発泡ウレタン樹脂層を形成したほかは、実施例1と同様にしてワーク保持シートを得た。
【0046】
〔比較例1〕
無発泡ポリウレタン樹脂を塗工しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のワーク保持シートを得た。つまり、比較例1はポリウレタン発泡樹脂シートのみからなるワーク保持シートである。
【0047】
〔比較例2〕
R値が1.10となるように、2,4-トリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量540のウレタンプレポリマー34.65質量部と、3官能イソシアネート化合物であるヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、コロネートHX)3.6質量部、3官能以上のポリオールとして水酸基を3つ有するポリオキシプロピレングリコール(三洋化成社製、プライムポール、OH当量1700)26.75質量部、ポリテトラメチレンエーテルグリコール34.96質量部(三菱化学社製、PTMG1000)シリコーン系消泡剤(東レ・ダウコーニング社製、71 ADDITIVE)0.04質量部と、を均一に混合し、調整した混合液により無発泡ウレタン樹脂層を形成したほかは、実施例1と同様にしてワーク保持シートを得た。
【0048】
上記実施例1~6および比較例1、2について、ワーク保持シートによるワーク吸脱着性に関する評価を行った。
ここでは研磨終了時までワークが脱落しない場合を〇、研磨終了時までにワークが脱落してしまった場合を×として評価した。
実施例1~6のワーク保持シートでは、研磨終了までワークがずれることなく保持することができ、いずれも評価は〇であった。これに対し、比較例1、2のワーク保持シートでは研磨加工中に水平方向の応力に対応できずワークが全て外れたため評価は×であった。
さらに、研磨終了後、保持定盤3よりワークを取り外す際、実施例1~6のワーク保持シートは当該ワークの取出しを容易に行うことができ、またワークへの粘着成分の移行も見当たらなかった。
なお、比較例1、2についてはワークが脱落してしまったため再剥離性について評価できなかった。
【符号の説明】
【0049】
1 ワーク 2 研磨装置
3 保持定盤 4 研磨パッド
5 研磨定盤 7 ワーク保持シート
11 無発泡ウレタン樹脂層 12 発泡樹脂層
13 網目状架橋構造 14 ダングリング鎖
図1
図2
図3
図4
図5