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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20240124BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240124BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240124BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240124BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240124BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L1/02
C08K3/04
C08K3/013
B60C1/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023002197
(22)【出願日】2023-01-11
【審査請求日】2023-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 克典
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-006949(JP,A)
【文献】特開2011-137105(JP,A)
【文献】特開2022-120935(JP,A)
【文献】特開2013-10855(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104356434(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、結晶性セルロース凝集体を0.5~30質量部含み、
前記結晶性セルロース凝集体が、結晶性セルロースの一次粒子が凝集し且つ前記一次粒子間に空隙を有する二次凝集体構造であり、さらに、前記結晶性セルロース凝集体の平均粒子径(D50)が5μm以上200μm以下である、ゴム組成物。
【請求項2】
前記結晶性セルロース凝集体の嵩密度が0.5g/cm3以下である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記結晶性セルロース凝集体の前記平均粒子径(D50)が10μm以上100μm未満である、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記結晶性セルロース凝集体の前記結晶性セルロースが未修飾結晶性セルロースである、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記結晶性セルロース凝集体の前記結晶性セルロースがカルメロースナトリウムで修飾された結晶性セルロースである、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ジエン系ゴムが天然ゴム(NR)およびブタジエンゴム(BR)を含む、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が-100~-50℃である、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載のゴム組成物を用いた冬用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、およびそのゴム組成物を用いた冬用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤなどの冬用タイヤには、アイスバーンなどの氷上においても摩擦力が大きいという性能(氷上摩擦)が求められる。同時に、ウェット性能(ウェット路面でのグリップ性能)あるいは転がり性能(低転がり抵抗性)も高いレベルが求められることがある。そして、このような冬用タイヤに用いるための様々なゴム組成物が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、常温で固体のジエン系ゴム100質量部に対して、常温で液体のジエン系ゴム3~30質量部と、空隙率75~95%である多孔性セルロース粒子0.3~20質量部とを含有する、優れたウェットグリップ性能及び氷上制動性能を有するタイヤ用ゴム組成物が開示されている。
また、特許文献2には、ジエン系ゴムと、結晶性ナノセルロースと、無機充填剤と、を含み、ジエン系ゴムが天然ゴムおよびブタジエンゴムを含み、且つジエン系ゴム100質量部のうちブタジエンゴムを30質量部以上含み、さらに、ジエン系ゴム100質量部に対して、無機充填剤を20質量部以上含有する、表面粗さが付与されて氷上性能がより向上し、且つ転がり抵抗指数も維持されたタイヤ用ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-091839号公報
【文献】特開2022-121848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、近年では、車両等に求められる安全レベルの高まりや環境配慮などに伴い、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れたタイヤが求められている。しかしながら、上記した特許文献1に示されるような多孔性セルロース粒子は、タイヤ用ゴム組成物の氷上摩擦を高めるとともに、空隙を有することによりタイヤ用ゴム組成物のウェット性能も高めることができるが、その構造等から転がり性能を高度に維持することは難しい。一方で、上記した特許文献2に示されるような結晶性ナノセルロースは、タイヤ用ゴム組成物の氷上摩擦を高めるとともに、平均繊維径が極細のセルロースであることによりタイヤ用ゴム組成物の転がり性能を高度に維持することができるが、ウェット性能を向上させることは難しい。
【0006】
そこで本発明は、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、空隙を有する所定の結晶性セルロース凝集体が、ゴム組成物の氷上摩擦およびウェット性能を高め、さらに空隙を有する凝集体構造でありながら転がり性能も高度に維持できることを明らかにした。この知見から、ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、ならびに結晶性セルロース凝集体を0.5~30質量部含み、この結晶性セルロース凝集体が、結晶性セルロースの一次粒子が凝集し且つこの一次粒子間に空隙を有する二次凝集体構造であり、さらに、この結晶性セルロース凝集体の平均粒子径(D50)が5μm以上200μm以下であるゴム組成物が、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れたものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<8>である。
<1>ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、結晶性セルロース凝集体を0.5~30質量部含み、前記結晶性セルロース凝集体が、結晶性セルロースの一次粒子が凝集し且つ前記一次粒子間に空隙を有する二次凝集体構造であり、さらに、前記結晶性セルロース凝集体の平均粒子径(D50)が5μm以上200μm以下である、ゴム組成物。
<2>前記結晶性セルロース凝集体の嵩密度が0.5g/cm3以下である、<1>に記載のゴム組成物。
<3>前記結晶性セルロース凝集体の前記平均粒子径(D50)が10μm以上100μm未満である、<1>または<2>に記載のゴム組成物。
<4>前記結晶性セルロース凝集体の前記結晶性セルロースが未修飾結晶性セルロースである、<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<5>前記結晶性セルロース凝集体の前記結晶性セルロースがカルメロースナトリウムで修飾された結晶性セルロースである、<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<6>前記ジエン系ゴムが天然ゴム(NR)およびブタジエンゴム(BR)を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<7>前記ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が-100~-50℃である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物を用いた冬用タイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れたゴム組成物を得ることができる。そして、このゴム組成物を用いることにより、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れた冬用タイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、結晶性セルロース凝集体を0.5~30質量部含み、この結晶性セルロース凝集体が、結晶性セルロースの一次粒子が凝集し且つこの一次粒子間に空隙を有する二次凝集体構造であり、さらに、この結晶性セルロース凝集体の平均粒子径(D50)が5μm以上200μm以下であるゴム組成物、ならびに、このゴム組成物を用いた冬用タイヤである。以下においては、これらを「本発明のゴム組成物」、および「本発明の冬用タイヤ」ともいう。
【0011】
なお、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、特段の断りがない限り、「~」の前に記載される数値を下限値、および「~」の後に記載される数値を上限値とする数値範囲を意味する。
【0012】
以下、本発明のゴム組成物に含まれる成分、その含有量などについて、詳細に説明する。
【0013】
[ジエン系ゴム]
本発明のゴム組成物に含まれるジエン系ゴムは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であり、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが例示される。そして、本発明のゴム組成物には、このようなジエン系ゴムを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
そして、本発明のゴム組成物においては、このジエン系ゴムが天然ゴム(NR)およびブタジエンゴム(BR)を含むと、つまり本発明のゴム組成物が天然ゴムおよびブタジエンゴムを含むジエン系ゴムを含有すると、本発明の効果がより発揮され易くなり好適である。特に、このジエン系ゴムは、天然ゴムおよびブタジエンゴムを合計で好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有するとより好適であり、天然ゴムおよびブタジエンゴムからなる(天然ゴムおよびブタジエンゴムを合計で100質量%含む、天然ゴムとブタジエンゴムとの混合物からなる)ジエン系ゴムであってもよい。
【0015】
さらに、本発明のゴム組成物に含まれるジエン系ゴムが天然ゴムおよびブタジエンゴムを含有する場合において、このジエン系ゴム中における天然ゴムの含有割合は特に限定されないが、このジエン系ゴムのうち80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。下限は、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってもよい。
同様に、このジエン系ゴム中におけるブタジエンゴムの含有割合も特に限定されないが、これもこのジエン系ゴムのうち80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。下限は、これも20質量%以上であってよく、30質量%以上であってもよい。
【0016】
なお、本発明のゴム組成物に含まれるジエン系ゴムの重量平均分子量は、50000~3000000であることが好ましく、100000~2000000であることがより好ましい。
ここで、本発明において「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。また、このGPC測定は、測定器としてカラム(Polymer Laboratories社製、MIXED-B)を使用し、40℃において行う。
【0017】
また、本発明のゴム組成物に含まれるジエン系ゴムは、氷上摩擦等をより向上させ易いことから、その平均ガラス転移温度(平均Tg)が-100~-50℃であるのが好ましく、-90~-60℃であるのがより好ましい。ここで、このジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は、ジエン系ゴム中に含まれる各成分のガラス転移温度に各成分の質量%をそれぞれ掛けて足し合わせた値である。なお、この計算時には各成分の質量%の合計を1.0とする。
また、各ジエン系ゴムのガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、低温側のベースラインと転移域の傾き(傾斜直線)とのそれぞれの延長線の交点の温度とする。ジエン系ゴムが油展品であるときは、油展成分(オイル)を含まない状態におけるジエン系ゴムのガラス転移温度とする。
【0018】
なお、本発明のゴム組成物にはジエン系ゴム以外のゴム成分が含まれていてもよいが、含有するゴム成分のうち90質量%以上がジエン系ゴムであるのが好ましく、95質量%以上がジエン系ゴムであるのがより好ましく、含有するゴム成分がジエン系ゴムからなる(100質量%ジエン系ゴムである)のがさらに好ましい。
【0019】
[カーボンブラック]
本発明のゴム組成物に含まれるカーボンブラックは、特に限定されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている公知の任意のカーボンブラックを用いることができる。例えば、カーボンブラックの具体例としては、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。そして、このカーボンブラックは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。このカーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に制限されないが、本発明の効果がより発揮され易くなることから、50~200m2/gであることが好ましく、70~150m2/gであることがより好ましい。
なお、この「カーボンブラック」とは、工業的に品質制御して製造された直径3~500nm程度の炭素微粒子を意味する。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に従って測定された値である。
【0020】
[白色充填剤]
本発明のゴム組成物に含まれる白色充填剤も、特に限定されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている公知の任意の白色充填剤を用いることができる。具体的には、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレイ、マイカ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。そして、この白色充填剤も、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。特に、本発明のゴム組成物では、本発明の効果がより発揮され易くなることから、白色充填剤としてシリカを用いるのがより好ましい。シリカの具体例としては、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられ、このようなシリカを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、本発明の効果がより向上し易くなることから、本発明のゴム組成物に含まれるシリカのCTAB比表面積が110~200m2/gであるのがより好ましく、150~180m2/gであるのがさらに好ましい。
なお、この「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、あるいは二酸化ケイ素を主成分とする(例えば80質量%以上、さらには90質量%以上含む)粒子物質を意味する。また、シリカのCTAB比表面積は、「ISO5794/1」に従って測定された値である。
【0021】
そして、本発明のゴム組成物では、上記したカーボンブラックまたは白色充填剤のうち少なくとも1つを含み、且つこのカーボンブラックおよび/または白色充填剤を合計でジエン系ゴム100質量部に対して30~100質量部含む。さらに、この下限は、40質量部以上であるのがより好ましく、50質量部以上であるのがさらに好ましく、60質量部以上であるのがさらに好ましい。上限は、90質量部以下であるのがより好ましく、80質量部以下であるのがさらに好ましい。なお、このカーボンブラックおよび/または白色充填剤の合計含有量がジエン系ゴム100質量部に対して30質量部未満または100質量部超であると、ゴム組成物の力学特性が十分に向上しない可能性がある。
【0022】
[結晶性セルロース凝集体]
本発明のゴム組成物に含まれる結晶性セルロース凝集体は、結晶性セルロースの一次粒子(複数の一次粒子)が凝集し且つこの一次粒子間に空隙を有する二次凝集体構造の凝集体である。そして、この結晶性セルロース凝集体の平均粒子径(D50)は5μm以上200μm以下である。
なお、この結晶性セルロース凝集体を構成する結晶性セルロースは、パルプを原料とし加水分解により結晶領域を取り出して精製したセルロースであって、親水面と親油面との両方を持ち合わせた不溶性のセルロースである。そして、この結晶性セルロースにより構成された上記のような結晶性セルロース凝集体は、そのメカニズムは明確ではないが、結晶性セルロースの親油面等によってジエン系ゴム成分中への分散性が高く、結晶性セルロースの親水面や凝集体の構造等によってタイヤ等の表面でより吸水または排水し易くなることなどによりウェット性能を大きく高めることができ、さらに結晶性セルロースの作用や凝集体でありながら嵩密度が比較的小さいことなどによりタイヤ等の表面粗さを向上させ易くなり氷上摩擦も大きく高めることができ、同時に、空隙を有する凝集体でありながら平均粒子径(D50)が5μm以上200μm以下と小さい範囲にあることや嵩密度が比較的小さいことなどによりタイヤ等の転がり性能(低転がり抵抗性)も高度に維持できるようになっている。さらに、このような平均粒子径(D50)であるため、上記したジエン系ゴム成分中への分散性が高いだけでなく、ゴム組成物の力学特性も高度に維持し易い。
【0023】
この結晶性セルロース凝集体の平均粒子径(D50)の下限は、10μm以上であるのがより好ましく、15μm以上であるのがさらに好ましく、20μm超であるのがさらに好ましく、30μm以上であるのがさらに好ましい。上限は、150μm以下であるのがより好ましく、120μm以下であるのがさらに好ましく、100μm未満であるのがさらに好ましい。
ここで、この「平均粒子径(D50)」とは、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積基準の平均粒子径(体積積算分布50%径(D50))である。
【0024】
さらに、この結晶性セルロース凝集体は、本発明の効果がより発揮され易くなることから、その嵩密度が0.5g/cm3以下であるのが好ましい。この嵩密度の上限は、0.4g/cm3以下であるのがより好ましく、0.35g/cm3以下であるのがさらに好ましく、0.3g/cm3以下であるのがさらに好ましい。下限は特に限定されないが、例えば0.05g/cm3以上が例示され、0.1g/cm3以上であってもよい。
ここで、この嵩密度とは、一定容積の容器に結晶性セルロース凝集体(粉体)を物理的な付加外力を加えずに(押し込み、タッピング等を行うことなく)満量充填したときに、その内容積を体積としたときの密度(単位体積当たりの質量)であり、容器法によって測定される値である。
【0025】
また、限定されるものではないが、この結晶性セルロース凝集体は、タイヤ等の表面で排水などがよりし易くなり、本発明の効果(特にウェット性能および氷上摩擦の向上効果)がより発揮され易くなることなどから、平均アスペクト比(凝集体に外接する最小の長方形における、短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比)が1~50であるのが好ましい。そして、この平均アスペクト比の上限は、45以下であるのがより好ましく、40以下であるのがさらに好ましい。下限は、3以上であるのがより好ましく、5以上であるのがさらに好ましく、10以上であるのがさらに好ましい。
【0026】
ここで、この平均アスペクト比は、TEM観察またはSEM観察により、結晶性セルロース凝集体の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50個以上の凝集体について、その外接する最小の長方形における短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比を算出し、これらの平均値をとったものである。
【0027】
また、この結晶性セルロース凝集体を構成する結晶性セルロースは、未修飾結晶性セルロースまたはカルメロースナトリウムで修飾された結晶性セルロースであるのが好ましい。未修飾結晶性セルロースとは、他の化合物により表面修飾(セルロースが有する官能基との反応、あるいは表面のコーティングによる改質)がなされていない結晶性セルロースであり、この未修飾結晶性セルロースが乾燥され、さらに凝集されて結晶性セルロース凝集体が構成されていると、分散性などの観点から好適である。一方で、カルメロースナトリウムで修飾されたセルロースとは、カルメロースナトリウムで表面修飾がされた結晶性セルロースであり、例えば、結晶性セルロースの一次粒子表面にカルメロースナトリウムがコーティングされて乾燥され、これが凝集して結晶性セルロース凝集体が構成されていると、親水性などの観点から好適である。
ここで、カルメロースナトリウム(CAS No.9004-32-4)とは、下記式(1)で表される構造式の水溶性高分子化合物である。
【0028】
【化1】
【0029】
そして、本発明のゴム組成物では、上記したような結晶性セルロース凝集体をジエン系ゴム100質量部に対して0.5~30質量部含む。さらに、この下限は、1質量部以上であるのがより好ましく、3質量部以上であるのがさらに好ましい。上限は、25質量部以下であるのがより好ましく、20質量部以下であるのがさらに好ましく、15質量部以下であるのがさらに好ましく、12質量部以下であるのがさらに好ましい。なお、この結晶性セルロース凝集体の含有量がジエン系ゴム100質量部に対して0.5質量部未満であると、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦のうち1以上が十分に向上しない可能性がある。また、この結晶性セルロース凝集体の含有量がジエン系ゴム100質量部に対して30質量部超であると、ゴム組成物の転がり性能が十分に向上しない可能性がある。
【0030】
なお、限定されるものではないが、カーボンブラックおよび/または白色充填剤と、この結晶性セルロース凝集体と、の相互作用がより発揮され易くなることから、本発明のゴム組成物では、カーボンブラックおよび白色充填剤の合計100質量部に対して、上記した結晶性セルロース凝集体を5~20質量部含むのがより好適である。この下限は7質量部以上であるのがさらに好適であり、上限は15質量部以下であるのがさらに好適である。特に、本発明のゴム組成物がカーボンブラックおよびシリカを含み、このカーボンブラックおよびシリカの合計100質量部に対してこの結晶性セルロース凝集体を上記範囲で含むと、これらの相互作用という観点からより好適である。
【0031】
[その他の成分]
本発明のゴム組成物は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、さらに、上記以外の無機充填剤、樹脂成分、プロセスオイル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、ワックス、レシチン、老化防止剤、可塑剤、硬化剤、加硫剤(例えば硫黄など)、加硫促進剤、加硫促進助剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量含有させることができ、これらの添加剤を公知の方法で混練してゴム組成物とすることができる。
【0032】
例えば、本発明のゴム組成物におけるプロセスオイルの含有量は、前述したジエン系ゴム100質量部に対して5~30質量部であるのが好ましく、10~25質量部であるのがより好ましい。これにより、本発明のゴム組成物の硬度を調整することができ、その加工性もより向上させることができる。本発明のゴム組成物におけるステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、および老化防止剤の含有量は、いずれも、前述したジエン系ゴム100質量部に対して1~5質量部であるのが好ましい。
また、本発明のゴム組成物における加硫剤の含有量は、前述したジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であるのが好ましく、0.5~2.5質量部であるのがより好ましい。さらに、本発明のゴム組成物における加硫促進剤の含有量は、一次促進剤単独もしくは二次とのブレンドで、前述したジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であるのが好ましく、0.5~2.5質量部であるのがより好ましい。
【0033】
本発明のゴム組成物は、白色充填剤としてシリカを用いた場合などにおいて、このシリカの分散性をより高めるなどのために、さらにシランカップリング剤を含んでいてもよい。このシランカップリング剤は、加水分解性基および有機官能基を有するシラン化合物であれば特に限定されない。そして、この加水分解性基も限定されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシ基、アルケニルオキシ基などが挙げられ、アルコキシ基がケイ素原子と結合したアルコキシシリル基であることがより好ましい。加水分解性基がアルコキシシリル基である場合、そのアルコキシ基の炭素数は1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0034】
また、有機官能基も限定されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であればよく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリル基、アミノ基、スルフィド基(特に、ポリスルフィド基(-Sn-:nは2以上の整数))、メルカプト基、ブロックメルカプト基(保護メルカプト基)(例えば、オクタノイルチオ基)などが挙げられ、なかでも、スルフィド基(特に、ジスルフィド基、テトラスルフィド基)、メルカプト基、ブロックメルカプト基が好ましい。
そして、このようなシランカップリング剤を、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、このシランカップリング剤は、硫黄含有シランカップリング剤であるのが好ましい。
【0035】
そして、本発明のゴム組成物においては、前述したシリカ100質量部に対して、このシランカップリング剤を1~20質量部含むのが好ましく、2~10質量部含むことがより好ましい。
【0036】
[製造方法等]
本発明のゴム組成物の製造方法は、常法にしたがえばよく、特段限定はされない。製造方法の一例としては、ジエン系ゴムと、カーボンブラックおよび/または白色充填剤と、所定の結晶性セルロース凝集体と、必要に応じて他の成分とを、バンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混錬機を用いて常温あるいは高温下において所定の配合で混練、混合することにより本発明のゴム組成物を製造することができる。なお、加硫系成分(硫黄、加硫促進剤、加硫促進助剤など)を使用する場合には、これ以外の成分を先に高温下で混合し、冷却してから加硫系成分を混合するのが好ましい。また、所定の結晶性セルロース凝集体は粉末状態で配合することができる。
【0037】
以上のようにして得られた本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックおよび/または白色充填剤と、所定の結晶性セルロース凝集体と、の相互作用などによって、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れたものとなる。
【0038】
そして、この本発明のゴム組成物を例えば路面と接するタイヤトレッド部(キャップトレッド部)などに用いることにより、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れた本発明の冬用タイヤ(スタッドレスタイヤなど)を得ることができる。また、これ以外のタイヤ部材にも本発明のゴム組成物を用いてもよい。つまり、本発明のゴム組成物はタイヤ用ゴム組成物として好適なものである。なお、本発明の冬用タイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、この空気入りタイヤに充填する気体としては、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、およびその他の気体を使用することができる。
【0039】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例
【0040】
(ゴム組成物の作製および評価)
下記表1に示す組成のゴム組成物を作製した。
【0041】
具体的には、まず下記表1の上段に示す質量部の各成分(加硫促進剤および硫黄を除く)を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて150℃付近まで温度を上げてから5分間混合した後、ミキサーから放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。なお、各セルロースはいずれも粉体で配合した。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られた各マスターバッチに加硫促進剤および硫黄を所定量混合して混錬し、これを所定の金型中において170℃10分間プレス加硫して、標準例、実施例1~8、および比較例1~3のゴム組成物(加硫ゴム試験片)を作製した。
【0042】
そして、得られた標準例、実施例1~8、および比較例1~3のゴム組成物(加硫ゴム試験片)について、以下のようにしてウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦の評価を行った。
【0043】
<ウェット性能>
得られた各加硫ゴム試験片について、JIS K6394:2007に準拠し、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度0℃の条件におけるtanδを測定した。
この結果を下記表1の下段に示した。なお、結果は標準例の値を100とする指数で表した。この指数が大きいほどウェット性能(ウェットグリップ性能)に優れることを意味する。
【0044】
<転がり性能>
得られた各加硫ゴム試験片について、JIS K6394:2007に準拠し、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件におけるtanδを測定した。
この結果も下記表1の下段に示した。なお、結果は標準例の値を100とする指数で表した。この指数が小さいほどtanδが小さく、つまり転がり抵抗が小さい(低転がり抵抗性である、転がり性能が高い)ことを意味する。
【0045】
<氷上摩擦>
得られた各加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-3.0℃ 、荷重5.5kg/cm3、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。
この結果も下記表1の下段に示した。なお、結果は標準例の値を100とする指数で表した。この指数が大きいほど氷上摩擦力が大きい(氷上で止まり易い)ことを意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
上記表1中における各成分の詳細な内容は以下の通りである。
・NR:天然ゴム(STR20、ガラス転移温度(Tg):-65℃、ボンバンディット社製)
・BR:ブタジエンゴム(Nipol BR1220、ガラス転移温度(Tg):-110℃、日本ゼオン社製)
・シリカ:ULTRASIL VN3(CTAB吸着比表面積:167m2/g、エボニックデグッサ社製)
・カーボンブラック:ショウブラックN339(窒素吸着比表面積(N2SA):88m2/g、ギャボットジャパン社製)
・シランカップリング剤:Si69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサ社製)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR(日油社製)
・老化防止剤:アミン系老化防止剤(サントフレックス 6PPD、フレクシス社製)
・ワックス:パラフィンワックス(大内新興化学社製)
・プロセスオイル:エキストラクト4号S(シェルルブリカンツジャパン社製)
・硫黄:油処理硫黄(細井化学社製)
・加硫促進剤:スルフェンアミド系加硫促進剤(サンセラーCM-G、三新化学社製)
・結晶性セルロース1(未修飾結晶性セルロース凝集体):CEOLUS TG-101(平均粒子径(D50)50μm、形状未制御、嵩密度0.29g/cm3、旭化成社製)
・結晶性セルロース2(未修飾結晶性セルロース凝集体):CEOLUS PH-102(平均粒子径(D50)90μm、形状未制御、嵩密度0.30g/cm3、旭化成社製)
・結晶性セルロース3(未修飾結晶性セルロース凝集体):CEOLUS TG-F20(平均粒子径(D50)20μm、形状未制御、嵩密度0.23g/cm3、旭化成社製)
・結晶性セルロース4(未修飾結晶性セルロース凝集体):CEOLUS UF-F711(平均粒子径(D50)50μm、球状、嵩密度0.22g/cm3、旭化成社製)
・結晶性セルロース5(未修飾結晶性セルロース凝集体):CEOLUS ST-100(平均粒子径(D50)50μm、繊維状、嵩密度0.12g/cm3、旭化成社製)
・結晶性セルロース6(修飾結晶性セルロース凝集体):RC-N30(平均粒子径(D50)50μm、カルメロースナトリウムによりコーティング修飾、形状未制御、嵩密度0.30g/cm3、旭化成社製)
・結晶性セルロース7(未修飾結晶性セルロース凝集体):CEOLUS CP-102(平均粒子径(D50)50μm、造粒、嵩密度0.83g/cm3、旭化成社製)
※結晶性セルロース1~7はいずれも、結晶性セルロースの一次粒子が凝集し且つこの一次粒子間に空隙を有する二次凝集体構造の結晶性セルロース凝集体
・結晶性セルロース8(未修飾結晶性ナノセルロースの一次粒子):セルロースナノクリスタル(平均粒子径(D50)300μm、形状未制御、フィラーバンク社製)
・多孔性セルロース(多孔性セルロース粒子):ビスコパール(平均粒子径(D50)400μm、形状未制御、嵩比重0.3g/ml、レンゴー社製)
【0048】
これらの結果から、ジエン系ゴム(天然ゴムおよびブタジエンゴム)100質量部に対して、カーボンブラックおよびシリカを合計で70質量部、所定の結晶性セルロース凝集体を5~10質量部含む構成とすることにより(実施例1~8)、標準例や比較例1~3と比較して、ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れたゴム組成物となることが示された。特に、嵩密度がより小さい結晶性セルロース凝集体を含む実施例1~7はより効果がより高かった。そして、これらは特に冬用タイヤへの使用に適したゴム組成物であると認められた。
【要約】
【課題】ウェット性能、転がり性能、および氷上摩擦がいずれも優れたゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、結晶性セルロース凝集体を0.5~30質量部含み、この結晶性セルロース凝集体が、結晶性セルロース一次粒子が凝集し且つ結晶性セルロース一次粒子間に空隙を有する二次凝集体構造であり、さらに、この結晶性セルロース凝集体の平均粒子径(D50)が5μm以上200μm以下であるゴム組成物とすることにより、上記課題を解決する。
【選択図】なし