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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】架橋性フッ素ゴム組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20240124BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240124BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/22
C08K5/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023118076
(22)【出願日】2023-07-20
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2022118092
(32)【優先日】2022-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏幸
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-063197(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225487(WO,A1)
【文献】特開2013-191527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭素原子および/またはヨウ素原子を含有するフッ素ゴム、
多官能架橋助剤、
有機パーオキサイド、ならびに、
酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有しており、
前記金属化合物の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~0.50質量部である
架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項2】
前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴム、および、パーフルオロゴムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項3】
前記有機パーオキサイドの含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~10質量部である請求項1または2に記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項4】
前記多官能架橋助剤の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部である請求項1または2に記載の架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋することにより得られる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、架橋性フッ素ゴム組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フッ素含有量が64重量%以上で、含臭素および/または含ヨウ素化合物に由来する架橋部位を有し、過酸化物架橋可能な共重合体であり、その共重合体の成分単位組成が、
(a)パーフロロメトキシメトキシエチルビニルエーテル成分単位 10~25モル%、
(b)フッ化ビニリデン成分単位 60~80モル%、
(c)四フッ化エチレン成分単位 5~20モル%、
(d)六フッ化プロピレン成分単位 0~10モル%、
及び
(e)架橋部位用として少量の臭素化および/またはヨウ素化不飽和フロロ炭化水素成分単位((a)~(d)の合計を100モル%とする)
であるフッ素ゴムと、
該フッ素ゴム100重量部に対して、金属化合物を2重量部以上と、有機過酸化物を0.5~6重量部と、多官能性モノマーを1~10重量部とを含有することを特徴とするフッ素ゴム系シール材用組成物が記載されている。
【0003】
特許文献2には、(a)テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、(b)有機過酸化物、(c)共架橋剤、および(d)ハイドロタルサイトを含有することを特徴とする加硫性フッ素ゴム組成物が記載されている。
【0004】
特許文献3には、(a)過酸化物加硫可能な3元系フッ素ゴム、(b)瀝青炭系充填剤、(c)ハイドロタルサイト化合物、(d)有機過酸化物、(e)共架橋剤、を配合してなることを特徴とするフッ素ゴム組成物が記載されている。
【0005】
特許文献4には、フッ素含量が64重量%以上のパーオキサイド架橋可能なテトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン3元共重合ゴム100重量部、(A)比表面積が5~20m/gのカーボンブラック5~90重量部、(B)瀝青質微粉末5~40重量部、(C)親水性付与タルク1~30重量部および親水性付与クレーの少くとも一種1~20重量部および(D)有機過酸化物0.5~6重量部を含有してなり、燃料油と接触する燃料油系シール材の成形材料として用いられるフッ素ゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-217892号公報
【文献】特開2000-053835号公報
【文献】国際公開第2006/006468号
【文献】国際公開第2012/137724号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示では、耐スチーム性に優れる成形品を得ることができ、しかも、金属製の部材と接して用いられる場合でも、部材を腐食させにくい成形品を得ることができる架橋性フッ素ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、臭素原子および/またはヨウ素原子を含有するフッ素ゴム、多官能架橋助剤、有機パーオキサイド、ならびに、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有しており、前記金属化合物の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~0.50質量部である架橋性フッ素ゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、耐スチーム性に優れる成形品を得ることができ、しかも、金属製の部材と接して用いられる場合でも、部材を腐食させにくい成形品を得ることができる架橋性フッ素ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
特許文献1には、含臭素および/または含ヨウ素化合物に由来する架橋部位を有し、過酸化物架橋可能な共重合体、ならびに、金属化合物を含有するフッ素ゴム系シール材用組成物が記載されている。また、金属化合物としては、水酸化カルシウム等が挙げられること、このような金属化合物は、過酸化物架橋可能な(未架橋)フッ素ゴム100重量部に対して、通常2重量部以上、好ましくは5~15重量部の量で用いられることが記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1が教示するように、架橋性フッ素ゴム組成物が、水酸化カルシウムなどの金属化合物を比較的多量に含有すると、架橋性フッ素ゴム組成物から得られる成形品の耐スチーム性が十分ではないことが今や判明した。成形品の耐スチーム性が十分でないと、たとえば、高温のスチーム環境下において、金属製部材間をシールするためのシール材として成形品を用いた場合に、成形品と接する金属製の部材の腐食を抑制できたとしても、成形品自体の劣化を抑制することができず、成形品のシール性能が早期に低下してしまう問題がある。
【0013】
そこで、この問題を解決するための手段を鋭意検討したところ、金属化合物として、酸化マグネシウム、または、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体を選択し、さらに、これらの使用量を、従来の常識では考えられない程に少量とすることによって、驚くべきことに、耐スチーム性に優れる成形品を得ることができ、しかも、金属製の部材と接して用いられる場合でも、部材を腐食させにくい成形品を得ることができる架橋性フッ素ゴム組成物が得られることが見出された。
【0014】
すなわち、本開示によれば、臭素原子および/またはヨウ素原子を含有するフッ素ゴム、多官能架橋助剤、有機パーオキサイド、ならびに、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有しており、金属化合物の含有量が、フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~0.50質量部である架橋性フッ素ゴム組成物が提供される。
【0015】
以下に各成分について詳述する。
【0016】
(フッ素ゴム)
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムを含有する。本開示において、フッ素ゴムとは、非晶質フルオロポリマーである。「非晶質」とは、フルオロポリマーの示差走査熱量測定〔DSC〕(昇温速度10℃/分)あるいは示差熱分析〔DTA〕(昇温速度10℃/分)において現われた融解ピーク(ΔH)の大きさが4.5J/g以下であることをいう。フッ素ゴムは、架橋することにより、エラストマー特性を示す。エラストマー特性とは、ポリマーを延伸することができ、ポリマーを延伸するのに必要とされる力がもはや適用されなくなったときに、その元の長さを保持できる特性を意味する。
【0017】
フッ素ゴムは、部分フッ素化ゴムであってもよいし、パーフルオロゴムであってもよい。
【0018】
本開示において、部分フッ素化ゴムとは、フルオロモノマー単位を含み、全重合単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%未満のフルオロポリマーであって、20℃以下のガラス転移温度を有し、4.5J/g以下の融解ピーク(ΔH)の大きさを有するフルオロポリマーである。
【0019】
本開示において、パーフルオロゴム(パーフルオロエラストマー)とは、全重合単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%以上、好ましくは91モル%以上のフルオロポリマーであって、20℃以下のガラス転移温度を有し、4.5J/g以下の融解ピーク(ΔH)の大きさを有するフルオロポリマーであり、更に、フルオロポリマーに含まれるフッ素原子の濃度が71質量%以上、好ましくは71.5質量%以上であるポリマーである。本開示において、フルオロポリマーに含まれるフッ素原子の濃度は、フルオロポリマーを構成する各モノマーの種類と含有量より、フルオロポリマーに含まれるフッ素原子の濃度(質量%)を計算により求めるものである。
【0020】
本開示において、パーフルオロモノマーとは、分子中に炭素原子-水素原子結合を含まないモノマーである。上記パーフルオロモノマーは、炭素原子及びフッ素原子の他、炭素原子に結合しているフッ素原子のいくつかが塩素原子で置換されたモノマーであってもよく、炭素原子の他、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、燐原子、硼素原子又は珪素原子を有するものであってもよい。上記パーフルオロモノマーとしては、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたモノマーであることが好ましい。上記パーフルオロモノマーには、架橋部位を与えるモノマーは含まれない。
【0021】
架橋部位を与えるモノマーとは、架橋剤により架橋を形成するための架橋部位をフルオロポリマーに与える架橋性基を有するモノマー(キュアサイトモノマー)である。
【0022】
本開示では、臭素原子および/またはヨウ素原子を含有するフッ素ゴムを用いる。本開示で用いるフッ素ゴムは、架橋部位として、臭素原子および/またはヨウ素原子を含有するフッ素ゴムであって、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムである。
【0023】
フッ素ゴムがヨウ素原子を含有する場合のヨウ素含有率としては、好ましくは0.001~10質量%であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0024】
フッ素ゴムは、部分フッ素化ゴムであってもよいし、パーフルオロゴムであってもよい。フッ素ゴムとしては、耐スチーム性に一層優れる成形品を得ることができ、コスト面でも有利であることから、部分フッ素化ゴムが好ましく、パーオキサイド架橋可能な部分フッ素化ゴムがより好ましい。
【0025】
部分フッ素化ゴムとしては、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE)、ビニリデンフルオライド(VdF)および一般式:CF=CF-Rf(式中、Rfは-CFまたは-ORf(Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基))で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物(たとえばヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)など)からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体に基づく単量体単位を含有することが好ましい。部分フッ素化ゴムは、なかでも、VdF単位またはTFE単位を含有することが好ましい。
【0026】
部分フッ素化ゴムとしては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム等が挙げられる。なかでも、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム及びテトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
フッ素ゴムとしては、耐スチーム性に一層優れる成形品を得ることができることから、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴム、および、パーフルオロゴムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムおよびテトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0028】
ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド45~85モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー55~15モル%とからなる共重合体が好ましく、ビニリデンフルオライド50~80モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー50~20モル%とからなる共重合体がより好ましい。
【0029】
ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマーとしては、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、フルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、一般式(100):CHX101=CX102Rf101(式中、X101およびX102は、一方がHであり、他方がFであり、Rf101は炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマー、一般式(170):CH=CH-(CF-X171(式中、X171はH又はFであり、nは3~10の整数である。)で表されるフルオロモノマー、架橋部位を与えるモノマー等のモノマー;エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル等の非フッ素化モノマーが挙げられる。これらをそれぞれ単独で、又は、任意に組み合わせて用いることができる。
【0030】
フルオロアルキルビニルエーテルとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)またはパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)がより好ましい。これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0031】
一般式(100)で表されるフルオロモノマーとしては、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンまたは1,3,3,3-テトラフルオロプロピレンが好ましく、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンがより好ましい。
【0032】
ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマーとしては、なかでも、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテル、CTFEおよび一般式(100)で表されるフルオロモノマーからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテルおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0033】
ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムの具体例としては、VdF/HFP系ゴム、VdF/HFP/TFE系ゴム、VdF/CTFE系ゴム、VdF/CTFE/TFE系ゴム、VdF/一般式(100)で表されるフルオロモノマー系ゴム、VdF/一般式(100)で表されるフルオロモノマー/TFE系ゴム、VdF/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕系ゴム、VdF/PMVE/TFE系ゴム、VdF/PMVE/TFE/HFP系ゴム等が挙げられる。これらのなかでも、VdF/HFP系ゴム、VdF/HFP/TFE系ゴムおよびVdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種の共重合体が好ましい。
【0034】
VdF/HFP系ゴムとしては、VdF/HFPのモル比が45~85/55~15であるものが好ましく、より好ましくは50~80/50~20であり、さらに好ましくは60~80/40~20である。
【0035】
VdF/HFP/TFE系ゴムとしては、VdF/HFP/TFEのモル比が40~80/10~35/10~35のものが好ましい。
【0036】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン系ゴムとしては、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンのモル比が45~85/55~15であるものが好ましく、より好ましくは50~80/50~20であり、さらに好ましくは60~80/40~20である。
【0037】
上記テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムとしては、テトラフルオロエチレン45~70モル%、プロピレン55~30モル%、及び、架橋部位を与えるフルオロモノマー0~5モル%からなる共重合体が好ましい。
【0038】
パーフルオロゴムとしては、TFEを含むパーフルオロゴム、例えばTFE/一般式(11)、(12)又は(13)で表されるフルオロモノマー共重合体及びTFE/一般式(11)、(12)又は(13)で表されるフルオロモノマー/架橋部位を与えるモノマー共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
一般式(11):CF=CF-ORf111
(式中、Rf111は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるフルオロモノマーが好ましい。Rf111は、炭素数が1~5のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
一般式(12):CF=CFOCFORf121
(式中、Rf121は炭素数1~6の直鎖又は分岐状パーフルオロアルキル基、炭素数5~6の環式パーフルオロアルキル基、1~3個の酸素原子を含む炭素数2~6の直鎖又は分岐状パーフルオロオキシアルキル基である。)で表されるフルオロモノマー
一般式(13):CF=CFO(CFCF(Y131)O)(CF
(式中、Y131はフッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。mは1~4の整数である。nは1~4の整数である。)で表されるフルオロモノマー
【0039】
一般式(11)で表されるフルオロモノマーとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、及び、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、及び、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0040】
一般式(12)で表されるフルオロモノマーとしては、CF=CFOCFOCF、CF=CFOCFOCFCF、及び、CF=CFOCFOCFCFOCFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
一般式(13)で表されるフルオロモノマーとしては、CF=CFOCFCF(CF)O(CFF、CF=CFO(CFCF(CF)O)(CFF、及び、CF=CFO(CFCF(CF)O)(CFFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
TFE/PMVE共重合体の組成は、好ましくは45~90/10~55(モル%)であり、より好ましくは55~80/20~45であり、さらに好ましくは55~70/30~45である。
【0043】
TFE/PMVE/架橋部位を与えるモノマー共重合体の組成は、好ましくは45~89.9/10~54.9/0.01~4(モル%)であり、より好ましくは55~77.9/20~49.9/0.1~3.5であり、さらに好ましくは55~69.8/30~44.8/0.2~3である。
【0044】
TFE/炭素数が4~12の一般式(11)、(12)又は(13)で表されるフルオロモノマー共重合体の組成は、好ましくは50~90/10~50(モル%)であり、より好ましくは60~88/12~40であり、さらに好ましくは、65~85/15~35である。
【0045】
TFE/炭素数が4~12の一般式(11)、(12)又は(13)で表されるフルオロモノマー/架橋部位を与えるモノマー共重合体の組成は、好ましくは50~89.9/10~49.9/0.01~4(モル%)であり、より好ましくは60~87.9/12~39.9/0.1~3.5であり、更に好ましくは65~84.8/15~34.8/0.2~3である。
【0046】
これらの組成の範囲を外れると、ゴム弾性体としての性質が失われ、樹脂に近い性質となる傾向がある。
【0047】
パーフルオロゴムとしては、TFE/一般式(13)で表されるフルオロモノマー/架橋部位を与えるフルオロモノマー共重合体、TFE/一般式(13)で表されるパーフルオロビニルエーテル共重合体、TFE/一般式(11)で表されるフルオロモノマー共重合体、および、TFE/一般式(11)で表されるフルオロモノマー/架橋部位を与えるモノマー共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0048】
パーフルオロゴムとしては、国際公開第97/24381号、特公昭61-57324号公報、特公平4-8118号公報、特公平5-13961号公報等に記載されているパーフルオロゴムも挙げることができる。
【0049】
フッ素ゴムは、架橋部位を与えるモノマー由来の重合単位を含む共重合体からなることも好ましい。架橋部位を与えるモノマーとしては、たとえば特公平5-63482号公報、特開平7-316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6-ジヒドロ-6-ヨード-3-オキサ-1-ヘキセン)やパーフルオロ(5-ヨード-3-オキサ-1-ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、特表平4-505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特表平4-505345号公報、特表平5-500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。
【0050】
フッ素ゴムは、重合時に連鎖移動剤を使用して得られたものであることが好ましい。上記連鎖移動剤として、臭素化合物またはヨウ素化合物を使用してもよい。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用して行う重合方法としては、たとえば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物またはヨウ素化合物の存在下に、加圧しながら水媒体中で乳化重合を行う方法があげられる(ヨウ素移動重合法)。使用する臭素化合物またはヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
Br
(式中、xおよびyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは炭素数1~16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物があげられる。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用することによって、ヨウ素または臭素が重合体に導入され、架橋点として機能する。
【0051】
フッ素ゴムのフッ素含有率は、耐スチーム性に一層優れ、金属製の部材を一層腐食させにくい成形品を得ることができることから、好ましくは55~73質量%であり、より好ましくは61質量%以上であり、さらに好ましくは63質量%以上であり、尚さらに好ましくは65質量%以上であり、特に好ましくは67質量%以上であり、最も好ましくは69質量%以上であり、より好ましくは71質量%未満である。フッ素ゴムのフッ素含有率は、19F-NMRにて測定されたフッ素ゴムの組成から計算によって求めることができる。
【0052】
フッ素ゴムの100℃におけるムーニー粘度(ML1+10(100℃))は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。また200以下であることが好ましく、120以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましく、80以下であることが特に好ましい。ムーニー粘度は、ASTM-D1646-15およびJIS K6300-1:2013に準拠して測定する値である。
【0053】
(金属化合物)
本開示においては、金属化合物として、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種を用いる。これら以外の金属化合物、たとえば、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイトなどの金属化合物を用いると、耐スチーム性に優れる成形品を得ることができなかったり、圧縮永久歪特性に優れる成形品を得ることができなかったりする。酸化マグネシウムは、水酸化カルシウムと同様に、吸湿性を有していることが知られている。このような技術常識からは予測できないことであるが、酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムを含有する固溶体を用いることによって、耐スチーム性に優れる成形品が得られることが明らかになった。
【0054】
また、本開示においては、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種の含有量を、フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~0.50質量部の範囲内とする。金属化合物として、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体を用いる場合でも、含有量を上記の数値範囲外とすると、所望の効果が得られない。架橋性フッ素ゴム組成物中の金属化合物の含有量が少なすぎると、金属製の部材を腐食させにくい成形品を得ることが困難になる。架橋性フッ素ゴム組成物中の金属化合物の含有量が多すぎると、耐スチーム性に優れる成形品を得ることが困難になり、また、得られる成形品の圧縮永久歪が大きくなりすぎることがある。
【0055】
架橋性フッ素ゴム組成物中の金属化合物の含有量は、耐スチーム性に一層優れ、金属製の部材を一層腐食させにくい成形品を得ることができることから、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.40質量部以下であり、より好ましくは0.30質量部以下であり、さらに好ましくは0.20質量部以下であり、尚さらに好ましくは0.15質量部以下であり、特に好ましくは0.11質量部以下である。
【0056】
架橋性フッ素ゴム組成物が金属化合物として酸化マグネシウムを含有する場合、酸化マグネシウムの含有量は、耐スチーム性に一層優れ、金属製の部材を一層腐食させにくい成形品を得ることができることから、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.06質量部以上であり、より好ましくは0.07質量部以上であり、さらに好ましくは0.08質量部以上であり、尚さらに好ましくは0.09質量部以上であり、好ましくは0.40質量部以下であり、より好ましくは0.30質量部以下であり、さらに好ましくは0.20質量部以下であり、尚さらに好ましくは0.15質量部以下であり、特に好ましくは0.11質量部以下である。
【0057】
架橋性フッ素ゴム組成物が金属化合物として固溶体を含有する場合、固溶体の含有量は、耐スチーム性に一層優れ、金属製の部材を一層腐食させにくい成形品を得ることができることから、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.40質量部以下であり、より好ましくは0.30質量部以下であり、さらに好ましくは0.20質量部以下であり、尚さらに好ましくは0.15質量部以下であり、特に好ましくは0.11質量部以下である。
【0058】
酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体は、たとえば、下記式:
(Mg1-xAl)O1+0.5x
(式中、0<x<0.4である。)で示される化学組成を有することができる。
【0059】
酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体は、たとえば、Mg0.7Al0.31.15で示される化学組成を有することができる。
【0060】
固溶体は、通常、アニオンを含まない点で、アニオンを含むハイドロタルサイト化合物と区別される。
【0061】
固溶体中の酸化アルミニウム(Al)含量は、固溶体の質量に対して、たとえば、10~40質量%である。また、固溶体中の酸化マグネシウム(MgO)含量は、固溶体の質量に対して、たとえば、90~60質量%である。
【0062】
(架橋剤)
本開示においては、架橋剤として、有機パーオキサイドを用いる。
【0063】
有機パーオキサイドとしては、通常パーオキサイド架橋に用いられている架橋剤であればとくに限定されるものではなく、一般には、熱や酸化還元系の存在で容易にパーオキシラジカルを発生するものがよい。具体的には、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエイトなどをあげることができる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3が好ましい。
【0064】
有機パーオキサイドの含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、1.0~5質量部がより好ましい。
【0065】
(多官能架橋助剤)
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物は、さらに、多官能架橋助剤を含有する。
【0066】
多官能架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどが挙げられる。多官能架橋助剤としては、2~4の不飽和官能基および含窒素複素環を有する化合物が好ましく、トリアリルイソシアヌレートおよびトリメタリルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)がさらに好ましい。フッ素ゴムと多官能架橋助剤とを混練りする際には、多官能架橋助剤を不活性無機粉体などに含浸させたものを用いてもよい。
【0067】
多官能架橋助剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。
【0068】
(その他の成分)
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物は、本開示の架橋性フッ素ゴム組成物が奏する所望の効果を損なわない範囲で、受酸剤を含有してもよいし、含有しなくてもよい。受酸剤としては、たとえば、酸化カルシウム、ハイドロタルサイト、酸化ビスマス、酸化亜鉛等の金属酸化物、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、メタケイ酸ナトリウム等の特表2011-522921号公報に記載されたアルカリ金属ケイ酸塩、特開2003-277563号公報に記載された弱酸の金属塩等が挙げられる。弱酸の金属塩としては、Ca、Sr、Ba、Na、Kの炭酸塩、安息香酸塩、蓚酸塩、亜リン酸塩などが挙げられる。
【0069】
受酸剤としては、金属酸化物(ただし、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体を除く)、金属水酸化物、アルカリ金属ケイ酸塩、ハイドロタルサイト、および弱酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0070】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物の一実施形態においては、アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、および、アルカリ土類金属の塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物(ただし、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体を除く)を含有するか、または、含有しておらず、前記金属化合物の含有量が、フッ素ゴム100質量部に対して、0~1質量部である。本開示の架橋性フッ素ゴム組成物がこのような構成を備える場合、得られる成形品の耐スチーム性が一層向上する傾向がある。前記金属化合物の含有量は、好ましくは0.5質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以下であり、含まないことが特に好ましい。
【0071】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物の一実施形態においては、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの受酸剤(ただし、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体を除く)を含有するか、または、含有しておらず、受酸剤の含有量が、フッ素ゴム100質量部に対して、0~1質量部である。本開示の架橋性フッ素ゴム組成物がこのような構成を備える場合、得られる成形品の耐スチーム性が一層向上する傾向がある。受酸剤(ただし、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体を除く)の含有量は、好ましくは0.5質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以下であり、含まないことが特に好ましい。
【0072】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物には、必要に応じて架橋性フッ素ゴム組成物に配合される通常の添加物、たとえば充填剤(カーボンブラック、瀝青炭、硫酸バリウム、珪藻土、焼成クレー、タルク等)、加工助剤(ワックス等)、可塑剤、着色剤、安定剤、粘着性付与剤(クマロン樹脂、クマロン・インデン樹脂等)、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤、発泡剤、国際公開第2012/023485号に記載の酸化防止剤などの各種添加剤を配合することができ、前記のものとは異なる常用の架橋剤、架橋促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0073】
充填剤としては、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩;硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化銅などの金属硫化物;珪藻土、アスベスト、リトポン(硫化亜鉛/硫化バリウム)、グラファイト、フッ化カーボン、フッ化カルシウム、コークス、石英微粉末、タルク、雲母粉末、ワラストナイト、炭素繊維、アラミド繊維、各種ウィスカー、ガラス繊維、有機補強剤、有機充填剤、ポリテトラフルオロエチレン、含フッ素熱可塑性樹脂、マイカ、シリカ、セライト、クレー等が挙げられる。
【0074】
カーボンブラックなどの充填剤の含有量は、特に限定されるものではないが、フッ素ゴム100質量部に対して0~300質量部であることが好ましく、1~150質量部であることがより好ましく、2~100質量部であることが更に好ましく、2~75質量部であることが特に好ましい。
【0075】
ワックス等の加工助剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して0~10質量部であることが好ましく、0~5質量部であることが更に好ましい。加工助剤、可塑剤や離型剤を使用すると、得られる成形品の機械物性やシール性が下がる傾向があるので、目的とする得られる成形品の特性が許容される範囲でこれらの含有量を調整する必要がある。
【0076】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物は、ジアルキルスルホン化合物を含有してもよい。ジアルキルスルホン化合物としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジブチルスルホン、メチルエチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン等が挙げられる。ジアルキルスルホン化合物の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して0~10質量部であることが好ましく、0~5質量部であることがさらに好ましく、0~3質量部であることが特に好ましい。本開示の架橋性フッ素ゴム組成物がジアルキルスルホン化合物を含有する場合には、ジアルキルスルホン化合物の含有量の下限値は、たとえば、フッ素ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上であってよい。
【0077】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム、金属化合物、有機パーオキサイド、多官能架橋助剤、充填剤などを、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得られる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機などを用いることができる。
【0078】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物は、スチームおよび熱水の一方または両方に接触する成形品を得るために好適に用いることができる。したがって、本開示は、スチームおよび熱水の一方または両方に接触する成形品を形成するために用いられる架橋性フッ素ゴム組成物に関し、より詳細には、スチームおよび熱水の一方または両方に接触した場合の体積変化が抑制された成形品を得るための架橋性フッ素ゴム組成物の使用にも関する。
【0079】
(成形品)
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋することにより成形品を得ることができる。
【0080】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋する方法としては、プレス架橋、スチーム架橋、オーブン架橋など通常用いられている方法はもちろんのこと、常圧、加圧、減圧下においても、また、空気中においても、どのような条件下においても架橋反応を行うことができる。架橋条件としては、使用する架橋剤の種類などにより適宜決めればよいが、通常、150~300℃の温度で、1分~24時間加熱を行う。プレス架橋、スチーム架橋の場合、150~180℃の温度で行うことが好ましく、架橋時間は、少なくとも架橋時間T90の時間まで行えばよいが、例えば1分~2時間である。その後(プレス架橋又はスチーム架橋を行った後)のオーブン架橋の場合、170℃~250℃の温度で行うことが好ましいが、必ずしも行う必要はなく、オーブン架橋の架橋時間は例えば、0~48時間であることが好ましい。
【0081】
本開示の架橋性フッ素ゴム組成物を成形することにより成形品を得てもよい。成形は従来公知の方法により行うことができ、たとえば、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、カレンダー成形などが挙げられる。
【0082】
成形品の使用形態としては、たとえば、リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、オイルシール、ベアリングシール、リップシール、プランジャーシール、ドアシール、リップ及びフェースシール、ガスデリバリープレートシール、ウエハサポートシール、バレルシール等の各種シール材やパッキンなどが挙げられる。シール材としては、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、非粘着性が要求される用途に用いることができる。
【0083】
成形品は、また、チューブ、ホース、ロール、各種ゴムロール、フレキシブルジョイント、ゴム板、コーティング、ベルト、ダンパー、バルブ、バルブシート、バルブの弁体、耐薬品用コーティング材料、ラミネート用材料、ライニング用材料などとしても使用できる。
【0084】
上記リング、パッキン、シールの断面形状は、種々の形状のものであってよく、具体的には、たとえば、四角、O字、へルールなどの形状であってもよいし、D字、L字、T字、V字、X字、Y字などの異形状であってもよい。
【0085】
特に、本開示の架橋性フッ素ゴム組成物を成形することにより得られる成形品は、耐スチーム性に優れており、金属製の部材と接して用いられる場合でも、部材を腐食させにくいことから、スチームおよび熱水の一方または両方に接触する成形品として好適に用いることができる。
【0086】
本開示の成形品の一実施形態においては、スチームおよび熱水の一方または両方に接触する接触面を有しており、少なくとも接触面が、架橋性フッ素ゴム組成物を架橋することにより得られる成形品により構成されている。すなわち、架橋性フッ素ゴム組成物から得られる成形品は、スチームおよび熱水の一方または両方に接触する成形品のうち、少なくともスチームおよび熱水の一方または両方に接触する接触面を形成するために使用することができる。
【0087】
スチームおよび熱水の一方または両方に接触する成形品には、標準的な使用中、スチームおよび熱水の一方または両方に接触する可能性がある成形品(たとえば、容器、ホース、シール、ガスケットなど)が含まれる。これらの成形品としては、たとえば、ボイラー、タービン、スチーム洗浄機、熱水洗浄機などにおいて用いる成形品(たとえば、容器、ホース、シール、ガスケットなど)が挙げられる。
【0088】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0089】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
臭素原子および/またはヨウ素原子を含有するフッ素ゴム、
多官能架橋助剤、
有機パーオキサイド、ならびに、
酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有しており、
前記金属化合物の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~0.50質量部である
架橋性フッ素ゴム組成物が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴム、および、パーフルオロゴムからなる群より選択される少なくとも1種である第1の観点による架橋性フッ素ゴム組成物が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
前記有機パーオキサイドの含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~10質量部である第1または第2の観点による架橋性フッ素ゴム組成物が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
前記多官能架橋助剤の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部である第1~第3のいずれかの観点による架橋性フッ素ゴム組成物が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
第1~第4のいずれかの観点による架橋性フッ素ゴム組成物を架橋することにより得られる成形品が提供される。
【実施例
【0090】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0091】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0092】
<フッ素ゴムの単量体組成>
19F-NMR(Bruker社製AC300P型)を用いて測定した。
【0093】
<ヨウ素含有率>
NaCOとKCOとを1対1(重量比)で混合し、得られた混合物を純水20mlに溶解することにより、吸収液を調製した。試料(フッ素ゴム)12mgにNaSOを5mg混ぜて混合物を調製し、石英製のフラスコ中、酸素中で燃焼させ、発生した燃焼ガスを吸収液に導入した。得られた吸収液を30分間放置した後、吸収液中のヨウ素イオンの濃度を、島津20Aイオンクロマトグラフを用いて測定した。ヨウ素イオン0.5ppmを含むKI標準溶液および1.0ppmを含むKI標準溶液を用いて作成した検量線を用いて、ヨウ素イオンの含有率を決定した。
【0094】
<ムーニー粘度>
ASTM D1646-15およびJIS K6300-1:2013に準拠して測定した。測定温度は100℃である。
【0095】
<融解熱>
示差走査熱量計(メトラー・トレド社製、DSC822e、もしくは、日立ハイテクサイエンス社製、X-DSC7000)を用い、試料10mgを20℃/分で昇温することによりDSC曲線を得て、DSC曲線において現われた融解ピーク(ΔH)の大きさから融解熱を算出した。
【0096】
<100%モデュラス、引張強さおよび切断時伸び>
厚さ2mmの架橋シートを用いて、ダンベル6号形状の試験片を作製した。得られた試験片および引張試験機(エー・アンド・デイ社製テンシロンRTG-1310)を使用して、JIS K6251:2010に準じて、500mm/分の条件下、23℃における100%モデュラス(M100)、引張強さ(TB)および切断時伸び(EB)を測定した。
【0097】
<ショア硬さ(HS)>
厚さ2mmの架橋シートを3枚重ねたものを用いて、タイプAデュロメーターを使用して、JIS K6253-3:2012に準拠して、硬さ(Peak値)を測定した。
【0098】
<圧縮永久歪(CS)>
圧縮永久歪み測定用小形試験片(P-24、Oリング)を用いて、JIS K6262:2013のA法に準じて、圧縮率25%、試験温度200℃、試験時間70時間の条件で、圧縮永久歪を測定した。
【0099】
<腐食試験>
厚さ2mmの架橋シートを、2枚のSUS304製の金属板で挟み、両側から圧力を負荷し、架橋シートを圧縮率10%で圧縮させた状態で、スチーム加硫缶内に設置した。スチーム加硫缶内で、170℃、6.9MPa、70時間の条件で、架橋シートを挟んだ状態の金属板をスチームに暴露させた。架橋シートを挟んだ状態の金属板をスチーム加硫缶から取り出した。金属板と架橋シートとが密着していた部分の金属板の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
(腐食性評価)
Poor 光沢が失われている。
Acceptable 光沢が残っているが、多くの部分に変色がみられる。
Good 光沢が残っているが、少しの部分に変色がみられる。
Excellent 光沢が残っており、変色も観られない。
【0100】
<耐スチーム性>
縦20mm、横20mm、厚さ2mmの架橋シートを、スチーム加硫缶内に設置した。スチーム加硫缶内で、170℃、6.9MPa、70時間の条件で、架橋シートをスチームに暴露させた。スチーム加硫缶から架橋シートを取り出し、上記した方法で、23℃における100%モデュラス(M100)、引張強さ(TB)、切断時伸び(EB)およびショア硬さ(HS)を測定した。
【0101】
また、スチームに暴露させる前後の架橋シートを用いて、架橋シートの比重と質量を測定して、体積変化率を以下の式に従って算出した。比重は、自動比重計DMA-220H(新光電子社製)を用いて測定した。
体積変化率(%)={[(浸漬後の架橋シートの質量)/(浸漬後の架橋シートの比重)]-[(浸漬前の架橋シートの質量)/(浸漬前の架橋シートの比重)]}/[(浸漬前の架橋シートの質量)]/(浸漬前の架橋シートの比重)]×100
【0102】
実施例および比較例では、以下の材料を用いた。
フッ素ゴムA
フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体
フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン:50/20/30(モル比)
ヨウ素含有率:0.25質量%
ムーニー粘度(ML1+10(100℃)):50
融解熱:セカンドランでは認めず
【0103】
フッ素ゴムB
ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体
フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル):75/7/18(モル比)
ヨウ素含有率:0.32質量%
ムーニー粘度(ML1+10(100℃)):68
融解熱:セカンドランでは認めず
【0104】
フッ素ゴムC
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル):62.5/37.5(モル比 )
ヨウ素含有率:0.55質量%
ムーニー粘度(ML1+10(100℃)):65
融解熱:セカンドランでは認めず
【0105】
カーボンブラック:MTカーボン(NSA=8m/g、DBP吸油量=43ml/100g)
多官能架橋助剤:トリアリルイソシアヌレート
有機パーオキサイド:2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン
【0106】
添加剤-A:水酸化カルシウム(井上石灰工業株式会社製 NICC5000)
添加剤-B:ハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製 DHT-4A)
添加剤-C:酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製 キョーワマグ150)
添加剤-D:酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体(協和化学工業株式会社製 KW-2200)(MgO/Al=59.5/34.5(質量比))
【0107】
比較例1~6および実施例1~21
表1の処方に従ってそれぞれの成分を配合し、オープンロール上で混練りして、架橋性フッ素ゴム組成物を調製した。得られた架橋性フッ素ゴム組成物を、160℃で30分間プレスすることにより架橋させ、さらにオーブン中で180℃で4時間加熱して、架橋シート(厚さ2mm)を得た。得られた架橋シートの評価結果を表1~3に示す。
【0108】
【表1-1】
【0109】
【表1-2】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【要約】
【課題】耐スチーム性に優れる成形品を得ることができ、しかも、金属製の部材と接して用いられる場合でも、部材を腐食させにくい成形品を得ることができる架橋性フッ素ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】臭素原子および/またはヨウ素原子を含有するフッ素ゴム、多官能架橋助剤、有機パーオキサイド、ならびに、酸化マグネシウム、および、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種の金属化合物を含有しており、前記金属化合物の含有量が、前記フッ素ゴム100質量部に対して、0.05~0.50質量部である架橋性フッ素ゴム組成物を提供する。
【選択図】 なし