(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】多孔質ガラス部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/093 20060101AFI20240124BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C03C3/093
C03C3/089
(21)【出願番号】P 2019203901
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-10-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相徳 孝志
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-46037(JP,A)
【文献】特開昭62-202839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、SiO
2 40~80%、B
2O
3 0超~40%、Li
2O 0~20%、Na
2O 0~20%、K
2O
1.25~20%、ZrO
2 0超~20%、Al
2O
3 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有し、モル比でK
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.1~0.5、(Li
2O+Na
2O+K
2O)/B
2O
3が0.35~0.5であるガラス母材を熱処理して2相に分相させる工程、及び、一方の相を酸で除去する工程、を含むことを特徴とする多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項2】
ガラス母材が、2~1000のアスペクト比を有することを特徴とする請求項1に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項3】
熱処理温度が500~800℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項4】
ガラス母材が、モル比でNa
2O/B
2O
3 0.1~0.5であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質ガラス部材の製造方法。
【請求項5】
モル%で、SiO
2 40~80%、B
2O
3 0超~40%、Li
2O 0~20%、Na
2O 0~20%、K
2O
1.25~20%、ZrO
2 0超~20%、Al
2O
3 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有し、モル比でK
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.1~0.5、(Li
2O+Na
2O+K
2O)/B
2O
3が0.35~0.5であることを特徴とする多孔質ガラス部材用ガラス母材。
【請求項6】
モル比でNa
2O/B
2O
3 0.1~0.5であることを特徴とする請求項5に記載の多孔質ガラス部材用ガラス母材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質ガラスは、シャープな細孔分布と大きな比表面積を持ち、耐熱性、耐有機溶媒性を持つため、分離膜、散気管、電極材料や触媒の担持体など幅広い用途への利用が検討されている。一般に、多孔質ガラスは、アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス母材を熱処理してシリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分離し、酸化ホウ素リッチ相を酸で除去することにより作製される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した多孔質ガラスの用途のなかには、アルカリ性の環境下で使用する場合もあり、そのような用途への応用を考慮すると、多孔質ガラスには耐アルカリ性が必要となってくる。しかしながら、従来の多孔質ガラスは耐アルカリ性に劣るという問題がある。
【0005】
以上に鑑み、本発明は、優れた耐アルカリ性を有する多孔質ガラス部材を作製することが可能な多孔質ガラス部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、多孔質ガラス部材の母材の組成を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の多孔質ガラス部材の製造方法は、モル%で、SiO2 40~80%、B2O3 0超~40%、Li2O 0~20%、Na2O 0~20%、K2O 0超~20%、ZrO2 0超~20%、Al2O3 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有し、モル比でK2O/(Li2O+Na2O+K2O)が0.1~0.5であるガラス母材を熱処理して2相に分相させる工程、及び、一方の相を酸で除去する工程、を含むことを特徴とする。
【0008】
なお本明細書において、「x+y+・・・」は、x、y・・・の各成分の合量を意味する。また「x/y」はxの含有量をyの含有量を除した値を意味する。
【0009】
本発明の多孔質ガラス部材の製造方法は、ガラス母材が、2~1000のアスペクト比を有することが好ましい。なお、アスペクト比は下記の式により算出する。
【0010】
アスペクト比=(ガラス母材の底面積)1/2/ガラス母材の厚み
【0011】
本発明の多孔質ガラス部材の製造方法は、熱処理温度が500~800℃であることが好ましい。
【0012】
本発明の多孔質ガラス部材用ガラス母材は、モル%で、SiO2 40~80%、B2O3 0超~40%、Li2O 0~20%、Na2O 0~20%、K2O 0超~20%、ZrO2 0超~20%、Al2O3 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有し、モル比でK2O/(Li2O+Na2O+K2O)が0.1~0.5であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐アルカリ性を有する多孔質ガラス部材を作製することが可能な多孔質ガラス部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多孔質ガラス部材の製造方法は、モル%で、SiO2 40~80%、B2O3 0超~40%、Li2O 0~20%、Na2O 0~20%、K2O 0超~20%、ZrO2 0超~20%、Al2O3 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有し、モル比でK2O/(Li2O+Na2O+K2O)が0.1~0.5であるガラス母材を熱処理して2相に分相させる工程、及び、一方の相を酸で除去する工程、を含むことを特徴とする。
【0015】
以下に、ガラス母材における各成分の含有量を上記のように特定した理由を説明する。なお、特に断りがない場合、以下の成分含有量に関する説明において、「%」は「モル%」を意味する。
【0016】
SiO2はガラスネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量は40~80%であり、45~75%、47~60%、特に50~65%であることが好ましい。SiO2の含有量が少なすぎると、多孔質ガラス部材の耐候性や機械的強度が低下する傾向がある。また、製造工程において、シリカゲルの水和による膨張量が、シリカリッチ相中からNa2O等のアルカリ成分が溶出することによる収縮量より小さくなりやすく、多孔質ガラス部材に割れが発生しやすくなる。一方、SiO2の含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0017】
B2O3はガラスネットワークを形成し、分相を促進する成分である。B2O3の含有量は0超~40%であり、10~30%、特に15~25%であることが好ましい。B2O3の含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。一方、B2O3の含有量が多すぎると、ガラス母材の耐候性が低下しやすくなる。
【0018】
Li2Oは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。Li2Oの含有量は0~20%であり、0.3~15%、特に0.6~10%であることが好ましい。Li2Oの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0019】
Na2Oは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。Na2Oの含有量は0~20%であり、0超~15%、特に4~10%であることが好ましい。Na2Oの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。一方、Na2Oの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0020】
K2Oは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。また、シリカリッチ相中のZrO2含有量を増加させる成分である。そのため、K2Oを含有させることにより、得られる多孔質ガラス部材中のZrO2含有量が増加し、耐アルカリ性を向上させることができる。K2Oの含有量は0超~20%、0.3~5%、特に0.8~3%であることが好ましい。K2Oの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。一方、K2Oの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0021】
Li2O+Na2O+K2Oの含有量は0超~20%、2~15%、4~12%、特に5~10%であることが好ましい。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が少なすぎると、溶融温度が高くなり、溶融性が低下するおそれがある。また分相しにくくなる。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0022】
K2O/(Li2O+Na2O+K2O)は0.1~0.5であり、0.13~0.45、特に0.15~0.4であることが好ましい。K2O/(Li2O+Na2O+K2O)が小さすぎると、シリカリッチ相中のZrO2含有量を増加させる効果を得にくくなる。一方、K2O/(Li2O+Na2O+K2O)が大きすぎると、スピノーダル分相からバイノーダル分相に分相状態が変化したり、分相しなくなる。その結果、所望の連通孔を有する多孔質ガラス部材が得にくくなる。
【0023】
Na2O/B2O3は0.1~0.5、0.15~0.45、特に0.2~0.4であることが好ましい。このようにすれば、製造工程において、シリカゲルの水和による膨張量と、シリカリッチ相中からNa2Oが溶出することによる収縮量のバランスが取れ、多孔質ガラス部材に割れが発生しにくくなる。
【0024】
(Li2O+Na2O+K2O)/B2O3は0.2~0.5、0.29~0.45、0.31~0.42、特に0.33~0.42であることが好ましい。このようにすれば、製造工程において、シリカゲルの水和による膨張量と、シリカリッチ相中からアルカリ成分が溶出することによる収縮量のバランスが取れ、多孔質ガラス部材に割れが発生しにくくなる。
【0025】
ZrO2はガラス母材の耐候性や多孔質ガラス部材の耐アルカリ性を向上させる成分である。ZrO2の含有量は0超~20%であり、2~15%、特に2.5~12%であることが好ましい。ZrO2の含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。一方、ZrO2の含有量が多すぎると、失透しやすくなるとともに分相しにくくなる。
【0026】
Al2O3は多孔質ガラス部材の耐候性や機械的強度を向上させる成分である。Al2O3の含有量は0~10%であり、0.1~7%、特に1~5%であることが好ましい。Al2O3の含有量が多すぎると、溶融温度が上昇し溶融性が低下しやすくなる。
【0027】
RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)は、シリカリッチ相中のZrO2含有量を増加させる成分である。そのため、ROを含有させることにより、得られる多孔質ガラス部材中のZrO2含有量が増加し、耐アルカリ性を向上させることができる。また、ROは多孔質ガラス部材の耐候性を向上させる成分である。ROの含有量(MgO、CaO、SrO及びBaOの合量)は0~20%であり、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12であることが好ましい。ROの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。なお、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量は各々0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12であることが好ましい。また、MgO、CaO、SrO及びBaOから選択される少なくとも2種の成分を含有させる場合、その合量は0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12であることが好ましい。ROのなかで、多孔質ガラス部材の耐アルカリ性を向上させる効果が特に大きいという点で、CaOを使用することが好ましい。
【0028】
ガラス母材には、上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0029】
ZnOはシリカリッチ相中のZrO2含有量を増加させる成分である。また多孔質ガラス部材の耐候性を向上させる効果もある。ZnOの含有量は0~20%、0~10%、特に0~3%未満であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0030】
P2O5は分相を促進させる成分である。P2O5の含有量は0~10%、0.01~5%、特に0.05~2%であることが好ましい。P2O5の含有量が多すぎると、結晶化する恐れがある。
【0031】
また、TiO2、La2O3、Ta2O5、TeO2、Nb2O5、Gd2O3、Y2O3、Eu2O3、Sb2O3、SnO2及びBi2O3等を各々15%以下、各々10%以下、特に各々5%以下、合量で30%以下の範囲で含有させてもよい。
【0032】
なお、PbOは環境負荷物質であるため、実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、意図的に原料として含有させないことを意味し、客観的には含有量が0.1%未満の場合を指す。
【0033】
上記のガラス組成となるように調合したガラスバッチを、例えば1300~1600℃で4~12時間溶融する。次いで、溶融ガラスを成形した後、例えば400~600℃で10分~10時間徐冷を行うことによりガラス母材を得る。得られたガラス母材の形状は特に限定されないが、平面形状が矩形や円形の板状であることが好ましい。なお、得られたガラス母材を所望の形状にするために、切削、研磨等の加工を施しても構わない。
【0034】
得られたガラス母材は、アスペクト比が2~1000、特に5~500であることが好ましい。アスペクト比が小さすぎると、酸化ホウ素リッチ相を酸により除去(エッチング)する工程において、ガラス母材の表面と内部にてエッチング速度に大きな差が出るため、多孔質ガラス部材内部に応力が発生しやすく、割れが発生しやすくなる。一方、アスペクト比が大きすぎると、取り扱いにくくなる。
【0035】
なお、得られたガラス母材の底面積と厚みは、上記アスペクト比となるように適宜調整すればよい。例えば、底面積は1~1000mm2、特に5~500mm2であることが好ましく、厚みは0.1~1mm、特に0.2~0.5mmであることが好ましい。
【0036】
次に、得られたガラス母材を熱処理し、シリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分相(スピノーダル分相)させる。熱処理温度は500~800℃、特に600~750℃であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、ガラス母材が軟化し、所望の形状を得にくくなる。一方、熱処理温度が低すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間は1分以上、10分以上、特に30分以上であることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間の上限は特に限定されないが、長時間熱処理しても分相はある一定以上は進まなくなるため、現実的には180時間以下である。
【0037】
次に、2相に分相させたガラス母材を酸に浸漬させ、酸化ホウ素リッチ相を除去し、多孔質ガラス部材を得る。酸としては、塩酸や硝酸を用いることができる。なお、これらの酸を混合して用いてもよい。酸の濃度は0.1~5規定、特に0.5~3規定であることが好ましい。酸の浸漬時間は1時間以上、10時間以上、特に20時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、エッチングが不十分となり、所望の連続孔を有する多孔質ガラス部材を得にくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には100時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、エッチングが不十分となり、所望の連続孔を有する多孔質ガラス部材を得にくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には、95℃以下である。
【0038】
なお、ガラス母材を分相させる工程において、ガラス母材の最表面にシリカ含有層(シリカを概ね80モル%以上含有する層)が形成される場合がある。シリカ含有層は酸で除去し難いため、シリカ含有層が形成された際は、分相させたガラス母材を切削または研磨し、シリカ含有層を除去した後に酸に浸漬させると、酸化ホウ素リッチ相を除去しやすくなる。また、シリカ含有層を除去するために、分相後のガラス母材をフッ酸に短時間浸漬させてもよい。
【0039】
さらに、得られた多孔質ガラスの細孔中に残留するZrO2コロイドやSiO2コロイドを除去することが好ましい。
【0040】
ZrO2コロイドは、例えばガラス母材を硫酸に浸漬させることで除去することができる。硫酸の濃度は0.1~5規定、特に1~5規定であることが好ましい。硫酸への浸漬時間は1時間以上、特に10時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、ZrO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には100時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、ZrO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には95℃以下である。
【0041】
SiO2コロイドは、例えばガラス母材をアルカリ水溶液に浸漬させることで除去することができる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることができる。なお、これらのアルカリ水溶液を混合して用いてもよい。アルカリ水溶液への浸漬時間は10分間以上、特に30分間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、SiO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には100時間以下である。浸漬温度は15℃以上、特に20℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、SiO2コロイドを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には95℃以下である。
【0042】
得られた多孔質ガラス部材は、質量%で、SiO2 75~99%(さらには、80~95%)、Na2O 0~15%(さらには、0~10%)、K2O 0~5%(さらには、0~3%)、ZrO2 4~20%(さらには、4.5~15%)、Al2O3 0~5%(さらには、0超~4%)、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~5%(さらには、0~3%)を含有することが好ましい。このように多孔質ガラス部材がSiO2及びZrO2を所定量含有することにより、優れた耐アルカリ性を達成することができる。
【0043】
多孔質ガラス部材の細孔分布の中央値は、1μm以下、200nm以下、150nm以下、120nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、特に70nm以下であることが好ましい。細孔分布の中央値の下限は特に限定されないが、現実的には1nm以上、2nm以上、さらには4nm以上である。また、孔の形状としては、真球状や略楕円状の孔の連続体や、チューブ状等が挙げられる。なお、多孔質ガラス部材のアスペクト比、底面積、厚み等の寸法はガラス母材と同様である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~8)、及び比較例(試料No.9、10)を示している。
【0046】
【0047】
表中の各組成になるように調合した原料を白金坩堝に入れた後、1400℃~1500℃で4時間溶融した。原料の溶融に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスを金属板上に流し出して板状に成形した後、580℃~540℃で30分間徐冷しガラス母材を得た。
【0048】
得られたガラス母材を5mm×5mm×0.5mmのサイズとなるよう切削及び研磨した。その後、電気炉にて650℃~750℃で30分~24時間熱処理し、分相させた。分相後のガラス母材を、1規定の硝酸(95℃)中に48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、続いて3規定の硫酸(95℃)中に48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、さらに0.5規定の水酸化ナトリウム水溶液(室温)中に3時間~5時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。このようにして、多孔質ガラス部材を得た。
【0049】
得られた多孔質ガラス部材の断面をFE-SEM(日立製作所製SU-8220)で観察したところ、いずれのガラスもスピノーダル分相に基づいたスケルトン構造を有していた。
【0050】
次に、多孔質ガラス部材をEDX(堀場製作所製EX-370X-MaxN150)により分析することにより多孔質ガラス部材の組成を測定した。なお分析は多孔質ガラス部材断面の中央部の3点について行い、その平均値を採用した。
【0051】
また多孔質ガラス部材について、以下のようにして耐アルカリ性を評価した。多孔質ガラス部材を80℃に保持した0.5規定の水酸化ナトリウム水溶液中に20分間浸漬した。浸漬前後での比表面積当たりの重量減少量が3mg/m2未満のものを「○」、3mg/m2以上のものを「×」として評価した。なお、比表面積はカンタクローム社製QUADRASORB SIを用いて測定した。
【0052】
本発明の実施例であるNo.1~8では、多孔質ガラス部材中のZrO2の含有量が4.8~8.2質量%と多く、耐アルカリ性に優れていた。一方、比較例であるNo.9、10では、ZrO2の含有量が3.5質量%以下と少なく、耐アルカリ性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の方法により製造される多孔質ガラス部材は、分離膜、散気管、電極材料や触媒の担持体等の用途に好適である。