(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】生体試料分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240124BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240124BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
G01N33/53 S
G01N33/543 541A
C12Q1/06
(21)【出願番号】P 2020024511
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】辻田 公二
(72)【発明者】
【氏名】糸長 誠
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-138112(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039179(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094307(WO,A1)
【文献】特開2017-40595(JP,A)
【文献】国際公開第2019/068269(WO,A1)
【文献】特表2016-502862(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068772(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0001197(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110540961(CN,A)
【文献】国際公開第2017/124000(WO,A1)
【文献】HE, F. et al.,Quantification of Exosome Based on a Copper-Mediated Signal Amplification Strategy,Analytical Chemistry,2018年06月12日,Vol.90,pp.8072-8079
【文献】ZONG, S. et al.,Facile detection of tumor-derived exosomes using magnetic nanobeads and SERS nanoprobes,Analytical Methods,2016年,Vol.8,pp.5001-5008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53,33/543
C12Q 1/06,1/6806
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の疾患に関連した第1の抗原と特異的に結合する第1の抗体を表面に固定した複数の第1のビーズを含む第1の緩衝液が注入された反応容器に、第2の疾患に関連した第2の抗原と特異的に結合する第2の抗体を表面に固定した複数の第2のビーズと、前記第1の抗原及び前記第2の抗原を表面に有する分析対象のエクソソームを含む生体試料とを注入して、前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームを含む第2の緩衝液を生成し、
前記第2の緩衝液から、前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームを回収し、
回収した前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームから前記第1のビーズを切り離し、前記第2のビーズが結合した前記分析対象のエクソソームを回収し、
回収した前記第2のビーズが結合した前記分析対象のエクソソームを溶解処理して、前記第2のビーズと前記分析対象のエクソソームの内包物とに分離してそれぞれを回収し、
回収した前記分析対象のエクソソームの内包物を分析し、回収した前記第2のビーズの個数を計測する
生体試料分析方法。
【請求項2】
前記第1の抗体は、ハプテンを用いて前記第1のビーズに固定されており、
前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームを含む第3の緩衝液にハプテンを添加することによって、前記第1のビーズを切り離す
請求項1に記載の生体試料分析方法。
【請求項3】
前記第1の抗体は、開裂可能なリンカーを用いて前記第1のビーズに固定されており、
前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームを含む第3の緩衝液に前記リンカーの開裂試薬を添加することによって、前記第1のビーズを切り離す
請求項1に記載の生体試料分析方法。
【請求項4】
前記溶解処理に界面活性剤を用いる請求項1~3のいずれか1項に記載の生体試料分析方法。
【請求項5】
前記第1のビーズが磁性ビーズである請求項1~4のいずれか1項に記載の生体試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料に含まれているエクソソームの内包物を分析し、エクソソームの個数を計測する生体試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の疾患と関連付けられている抗原をバイオマーカとして検出して分析することで、特定の疾患を発見したり、特定の疾患の治療の効果を検証したりすることが行われている。細胞から分泌され、血液等の各種の体液に含まれているエクソソームは、特定の疾患を発見するためのバイオマーカとして期待されている。
【0003】
エクソソームは脂質二重膜で覆われた微小な膜小胞であり、脂質二重膜には、CD9、CD63等の各種の膜たんぱく質が存在する。人が特定の疾患に罹患すると、疾患に関連した膜たんぱく質が脂質二重膜の表面(エクソソームの表面)に発現しているエクソソームの量に影響することが知られている。エクソソームの表面に発現している疾患に関連した膜たんぱく質を抗原とし、疾患に関連した抗原を有するエクソソームの個数を計測することによって、人が特定の疾患に罹患しているか否かを発見できる可能性がある。
【0004】
エクソソームの内部には、miRNA(マイクロRNA)及びDNA等の核酸、たんぱく質等の内包物が存在する。エクソソームの内包物も特定の疾患を発見するためのバイオマーカとして期待されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-163043号公報
【文献】特開2017-40595号公報
【文献】特開2019-211366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来においては、エクソソームを含む生体試料の検体を2つ用意し、一方の検体でエクソソームの内包物を分析し、他方の検体でエクソソームの個数を計測する。即ち、内包物を分析したエクソソームと、個数を計測したエクソソームとは同一のものではない。1つの検体で、エクソソームの内包物を分析し、エクソソームの個数を計測することが望まれる。
【0007】
本発明は、1つの生体試料で、エクソソームの内包物を分析し、かつ、エクソソームの個数を計測することができる生体試料分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の疾患に関連した第1の抗原と特異的に結合する第1の抗体を表面に固定した複数の第1のビーズを含む第1の緩衝液が注入された反応容器に、第2の疾患に関連した第2の抗原と特異的に結合する第2の抗体を表面に固定した複数の第2のビーズと、前記第1の抗原及び前記第2の抗原を表面に有する分析対象のエクソソームを含む生体試料とを注入して、前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームを含む第2の緩衝液を生成し、前記第2の緩衝液から、前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームを回収し、回収した前記第1のビーズと前記第2のビーズとが結合した前記分析対象のエクソソームから前記第1のビーズを切り離し、前記第2のビーズが結合した前記分析対象のエクソソームを回収し、回収した前記第2のビーズが結合した前記分析対象のエクソソームを溶解処理して、前記第2のビーズと前記分析対象のエクソソームの内包物とに分離してそれぞれを回収し、回収した前記分析対象のエクソソームの内包物を分析し、回収した前記第2のビーズの個数を計測する生体試料分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の生体試料分析方法によれば、1つの生体試料で、エクソソームの内包物を分析し、かつ、エクソソームの個数を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】一実施形態の生体試料分析方法を部分的に示すフローチャートである。
【
図1B】
図1Aに続く、一実施形態の生体試料分析方法を部分的に示すフローチャートである。
【
図2】一実施形態の生体試料分析方法で用いる磁性マイクロビーズを示す概念図である。
【
図3】磁性マイクロビーズを含む緩衝液を注入した反応容器を示す概念図である。
【
図4】シングルポジティブのエクソソーム及びダブルポジティブのエクソソームを含む生体試料の検体を示す概念図である。
【
図5A】シングルポジティブのエクソソームの構造を示す概念図である。
【
図5B】ダブルポジティブのエクソソームの構造を示す概念図である。
【
図6】一実施形態の生体試料分析方法で用いる抗体ナノビーズを示す概念図である。
【
図7】磁性マイクロビーズを含む緩衝液を注入した反応容器にダブルポジティブのエクソソームを含む検体及び抗体ナノビーズを注入して、ダブルポジティブのエクソソームを磁性マイクロビーズと抗体ナノビーズとでサンドイッチ捕捉した状態を示す概念図である。
【
図8】
図7に示す反応容器からダブルポジティブのエクソソームをサンドイッチ捕捉した磁性マイクロビーズ及び抗体ナノビーズ以外の不要物を除去した状態を示す概念図である。
【
図9】
図7に示す反応容器から不要物を分離する方法を示す図である。
【
図10】ダブルポジティブのエクソソームをサンドイッチ捕捉した磁性マイクロビーズ及び抗体ナノビーズにおけるエクソソームを磁性マイクロビーズから切り離した状態を示す概念図である。
【
図11】ハプテンを用いてエクソソームを磁性マイクロビーズから切り離す方法を示す図である。
【
図12】リンカーを用いてエクソソームを磁性マイクロビーズから切り離す方法を示す図である。
【
図13】磁性マイクロビーズと、ダブルポジティブのエクソソームを捕捉した抗体ナノビーズと、シングルポジティブのエクソソームとを分離して得られた磁性マイクロビーズを示す概念図である。
【
図14】磁性マイクロビーズと、ダブルポジティブのエクソソームを捕捉した抗体ナノビーズと、シングルポジティブのエクソソームとを分離して得られた、ダブルポジティブのエクソソームを捕捉した抗体ナノビーズ及びシングルポジティブのエクソソームを示す概念図である。
【
図15A】磁性マイクロビーズと抗体ナノビーズとを分離する方法の途中までの工程を示す図である。
【
図15B】磁性マイクロビーズと抗体ナノビーズとを分離する方法の
図15Aに続く工程を示す図である。
【
図16】ダブルポジティブのエクソソームを捕捉した抗体ナノビーズと、シングルポジティブのエクソソームとを分離して得られた、ダブルポジティブのエクソソームを捕捉した抗体ナノビーズを示す概念図である。
【
図17】ダブルポジティブのエクソソームを捕捉した抗体ナノビーズと、シングルポジティブのエクソソームとを分離して得られた、シングルポジティブのエクソソームを示す概念図である。
【
図18】ダブルポジティブのエクソソームから抗体ナノビーズを切り離した状態を示す概念図である。
【
図19】互いに切り離された、抗体ナノビーズとダブルポジティブのエクソソームとを分離して得られた抗体ナノビーズを示す概念図である。
【
図20】互いに切り離された、抗体ナノビーズとダブルポジティブのエクソソームとを分離して得られたダブルポジティブのエクソソームを示す概念図である。
【
図21】
図1BのステップS122の具体的な抗体ナノビーズの個数の計測方法を示すフローチャートである。
【
図22】抗体ナノビーズの個数の計測方法を示す図である。
【
図23】ディスク基板に抗体ナノビーズを付着させるための極性官能基を形成した状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態の生体試料分析方法について、添付図面を参照して説明する。本実施形態においては、1つのエクソソームの表面に2種類の特定の膜たんぱく質が発現しているダブルポジティブのエクソソームを捕捉して内包物を分析し、かつ、そのエクソソームの個数を計測することができる生体試料分析方法を例とする。
【0012】
図1Aにおいて、オペレータは、ステップS11にて、
図2に示すように、磁性マイクロビーズ10の表面に第1の疾患に関連した抗原と特異的に結合する複数の抗体11を固定させる。
図3に示すように、オペレータは、ステップS12にて、反応容器20に抗体11が固定された多数の磁性マイクロビーズ10を含む緩衝液21(第1の緩衝液)を注入する。磁性マイクロビーズ10の直径は3μm程度であり、直径はマイクロメートルオーダーであればよい。
【0013】
図4に示すように、オペレータは、容器30に生体試料の検体31を準備する。検体31は、後述するシングルポジティブのエクソソーム32s及びダブルポジティブのエクソソーム32wを含む。検体31は血液等の任意の体液であって、エクソソーム32s及び32wの他に、不要物である夾雑物33及び34を含む。シングルポジティブのエクソソーム32s及びダブルポジティブのエクソソーム32wをエクソソーム32と総称する。
【0014】
図5Aに概念的に示すように、シングルポジティブのエクソソーム32sは脂質二重膜320で覆われており、脂質二重膜320には、膜たんぱく質321~323が存在している。膜たんぱく質321はCD9、膜たんぱく質322はCD63、膜たんぱく質323はCD147である。CD9及びCD63は通常存在する膜たんぱく質であり、CD147は第1の疾患に関連した膜たんぱく質の一例である。このようにシングルポジティブのエクソソーム32sは、1つのエクソソーム32の表面に1種類の疾患に関連した膜たんぱく質(本実施形態においてはCD147)が存在しているエクソソーム32を指す。
【0015】
図5Bに概念的に示すように、ダブルポジティブのエクソソーム32wは脂質二重膜320で覆われており、脂質二重膜320には、膜たんぱく質321~324が存在している。膜たんぱく質324はHER2(CD340)である。HER2(CD340)は第2の疾患に関連した膜たんぱく質の一例である。このようにダブルポジティブのエクソソーム32wは、1つのエクソソーム32の表面に2種類の疾患に関連した膜たんぱく質(本実施形態においてはCD147及びHER2(CD340)の2つ)が存在しているエクソソーム32を指す。以下、HER2(CD340)を通称名であるHER2と称する。
【0016】
本実施形態においては、一例として、CD147及びHER2の双方が表面に存在するダブルポジティブのエクソソーム32wを分析対象のエクソソームとする。本実施形態においては、CD147を第1の疾患に関連した第1の抗原とし、HER2を第2の疾患に関連した第2の抗原としているが、これに限定されない。磁性マイクロビーズ10の表面に固定されている抗体11は、CD147と特異的に結合する第1の抗体である。
【0017】
エクソソーム32の内部には、miRNA325及びDNA326等の核酸、及び図示していないたんぱく質等の内包物が存在する。
【0018】
図6に示すように、オペレータは、容器40に、表面に複数の抗体51が固定された抗体ナノビーズ50を含む緩衝液41を準備する。抗体ナノビーズ50は磁性マイクロビーズ10よりも格段に小径であって、直径は200nm程度である。抗体ナノビーズ50の直径は1μm未満であればよく、好ましくは100nm~500nmである。抗体ナノビーズ50の表面に固定されている抗体51は、第2の疾患に関連した第2の抗原であるHER2と特異的に結合する抗体(第2の抗体)である。
【0019】
図7に示すように、オペレータは、ステップS13にて、エクソソーム32を含む検体31と、抗体ナノビーズ50を含む緩衝液41を順に(または同時に)反応容器20に注入する。緩衝液21と緩衝液41とを混合した緩衝液を緩衝液21とすると、反応容器20内には、磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50とでサンドイッチ捕捉されたダブルポジティブのエクソソーム32wを含む緩衝液21(第2の緩衝液)が生成される。この場合、サンドイッチ捕捉とは2つのビーズが1つのエクソソームに結合することを意味していることから、磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50とが結合したエクソソーム32wを含む第2の緩衝液が生成される、ということができる。このとき、オペレータは、反応容器20を必要に応じて振盪し、所定時間待機する。
【0020】
図7において、CD147及びHER2の双方が表面に存在しているダブルポジティブのエクソソーム32wが磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50とでサンドイッチ捕捉されている。HER2が存在していないシングルポジティブのエクソソーム32sは磁性マイクロビーズ10の抗体11と結合する。しかしながら、シングルポジティブのエクソソーム32sには抗体ナノビーズ50は結合しないため、シングルポジティブのエクソソーム32sは磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50とでサンドイッチ捕捉されない。
【0021】
図7において、反応容器20内には多数の磁性マイクロビーズ10が存在しているが、理解を容易にするため、拡大した1つの磁性マイクロビーズ10のみを示している。
【0022】
オペレータは、ステップS14にて、エクソソーム32を介して抗体ナノビーズ50が連結された磁性マイクロビーズ10と不要物とを磁気捕集または弱遠心分離等によって分離する。オペレータは、分離された磁性マイクロビーズ10を洗浄する。磁性マイクロビーズ10と連結していない抗体ナノビーズ50、夾雑物33及び34は不要物である。なお、ステップS13にて抗体ナノビーズ50は過剰に注入されるから、不要物は主として磁性マイクロビーズ10と連結していない抗体ナノビーズ50である。ステップS14の結果、
図8に示す、エクソソーム32を介して抗体ナノビーズ50が連結された磁性マイクロビーズ10を回収することができる。
【0023】
回収された磁性マイクロビーズ10には抗体ナノビーズ50が結合していないエクソソーム32sも結合している。勿論、複数ある磁性マイクロビーズ10の中には、抗体ナノビーズ50が結合したエクソソーム32wのみが結合している磁性マイクロビーズ10もあれば、抗体ナノビーズ50が結合していないエクソソーム32sのみが結合している磁性マイクロビーズ10もある。
【0024】
ところで、抗体ナノビーズ50が磁性ナノビーズでなければ、磁性マイクロビーズ10を磁気捕集することによって、磁性マイクロビーズ10と、磁性マイクロビーズ10と連結していない抗体ナノビーズ50とを容易に分離することができる。後述するステップS22にて磁性マイクロビーズ10と連結している抗体ナノビーズ50の個数を計測する際に、抗体ナノビーズ50は磁性ナノビーズであることが好ましい。抗体ナノビーズ50が磁性ナノビーズであったとしても、磁性マイクロビーズ10と、非連結の抗体ナノビーズ50とを分離することが可能である。
【0025】
具体的には、
図9に示すようにして、磁性マイクロビーズ10と非連結の抗体ナノビーズ50とを分離することができる。
図9において、(a)は、容器60内に抗体ナノビーズ50が連結された磁性マイクロビーズ10と非連結の抗体ナノビーズ50とを含む緩衝液21を注入した状態である。
図9の(a)は
図7の状態に相当する。容器60の底部に磁石を配置する磁気捕集または弱遠心分離によって、
図9の(b)に示すように、磁性マイクロビーズ10と非連結の抗体ナノビーズ50とを大方分離することができる。
【0026】
これは、磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50との体積が約1000倍異なるため、磁性マイクロビーズ10は短時間で磁気捕集されるのに対し、抗体ナノビーズ50は長時間かけないと磁気捕集されないからである。この磁気捕集の時間差を利用することによって、磁性マイクロビーズ10と非連結の抗体ナノビーズ50とを大方分離することができる。
【0027】
磁性マイクロビーズ10を洗浄する工程において、
図9の(b)の主として磁性マイクロビーズ10である沈殿物を回収して上清を除去して緩衝液21を加えれば、
図9の(c)に示すように非連結の抗体ナノビーズ50を大幅に減らすことができる。
図9の(c)に示す状態で磁気捕集すれば
図9の(d)となり、沈殿物を回収して上清を除去して緩衝液21を加えれば、
図9の(e)に示すように非連結の抗体ナノビーズ50をさらに大幅に減らすことができる。
【0028】
図9の(e)に示す状態で磁気捕集すれば
図9の(f)となり、沈殿物を回収して上清を除去して緩衝液21を加えれば、
図9の(g)に示すように抗体ナノビーズ50が連結された磁性マイクロビーズ10のみを分離することができる。
図9の(g)は
図8の状態に相当する。沈殿物回収及び上清除去の回数は
図9に示す回数に限定されない。
【0029】
図10に示すように、オペレータは、ステップS15にて、エクソソーム32を磁性マイクロビーズ10から切り離す処理を実行する。すると、抗体ナノビーズ50が結合したダブルポジティブのエクソソーム32wと、抗体ナノビーズ50が結合していないシングルポジティブのエクソソーム32sとが、磁性マイクロビーズ10から切り離される。
【0030】
ステップS15のエクソソーム32を磁性マイクロビーズ10から切り離す処理としては、以下のいずれかの方法を採用することができる。第1の方法として、
図11に示すハプテンを用いる方法がある。ハプテンとは、抗体と結合するが、分子量が小さいため単独で抗体産生を誘起する活性(免疫原性)を示さない物質である。ハプテンは、適当なたんぱく質と結合すると、免疫原性を有する完全抗原となる。
【0031】
図11に示すように、磁性マイクロビーズ10には抗体51の代わりに抗DNP抗体52が固定されている。DNPとは2, 4-ジニトロフェノールであって、ハプテンの一例である。抗DNP抗体52には、DNP53が結合した抗体54(以下、DNP抗体54)を介して、ダブルポジティブのエクソソーム32wまたはシングルポジティブのエクソソーム32sが結合されている。DNP抗体54はCD147と特異的に結合する抗体である。
【0032】
この状態で抗DNP抗体52とDNP抗体54との結合は平衡反応である。磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50とでサンドイッチ捕捉されたエクソソーム32wを含む緩衝液21(第3の緩衝液)にDNP53(ハプテン)を大過剰に添加すると、抗DNP抗体52と結合していたDNP抗体54がDNP53に入れ替わって、磁性マイクロビーズ10と、抗体ナノビーズ50と結合しているダブルポジティブのエクソソーム32w及びシングルポジティブのエクソソーム32sとが切り離される。
【0033】
エクソソーム32を磁性マイクロビーズ10から切り離す第2の方法として、
図12に示す開裂可能なリンカー55を用いる方法がある。磁性マイクロビーズ10には、リンカー55を介して抗体11が固定されている。第2の方法を用いる場合、
図8に示す磁性マイクロビーズ10にはリンカー55を介して抗体11が固定され、抗体11がエクソソーム32と結合している。
【0034】
反応容器20内の緩衝液21(第3の緩衝液)にリンカー開裂試薬を添加すると、
図12に示すように、リンカー55が開裂して、磁性マイクロビーズ10と抗体11とが切り離される。
【0035】
エクソソーム32を磁性マイクロビーズ10から切り離す第3の方法として、磁性マイクロビーズ10にWhole抗体を用い、抗体ナノビーズ50にFab抗体を用いてもよい。Whole抗体を酵素で分解及び消化すれば、エクソソーム32を磁性マイクロビーズ10から切り離すことができる。
【0036】
図1Bにおいて、オペレータは、ステップS16にて、磁性マイクロビーズ10と、ダブルポジティブのエクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50及びシングルポジティブのエクソソーム32sとを分離する。分離された磁性マイクロビーズ10を洗浄すれば、
図13に示す磁性マイクロビーズ10を回収することができる。
図13において、磁性マイクロビーズ10のみを含む緩衝液21は反応容器20に注入されている。
【0037】
分離されたエクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50及びエクソソーム32sを洗浄すれば、
図14に示すエクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50及びエクソソーム32sを回収することができる。
図14において、エクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50及びエクソソーム32sを含む緩衝液21は容器22に注入されている。
【0038】
ステップS16における磁性マイクロビーズ10と、エクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50及びエクソソーム32sとの分離は、
図9と同様に実行することができる。但し、ステップS16の分離においては、上清を廃棄せず、上清に含まれるエクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50及びエクソソーム32sを回収する必要がある。
【0039】
具体的には、
図15A及び
図15Bに示すようにして、磁性マイクロビーズ10とエクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50とを分離することができる。
図15A及び
図15Bにおいてはエクソソーム32sの図示を省略している。
【0040】
図15Aにおいて、(a)は、容器61内に互いに分離した磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50とを含む緩衝液21を注入した状態である。
図16Aの(a)は
図10の状態に相当する。容器61の底部に磁石を配置する磁気捕集または弱遠心分離によって、
図15Aの(b)に示すように、磁性マイクロビーズ10と抗体ナノビーズ50とを大方分離することができる。
【0041】
図15Aの(b)の主として磁性マイクロビーズ10である沈殿物を回収して緩衝液21を加えれば、
図15Aの(c)に示すように抗体ナノビーズ50を大幅に減らすことができる。
図15Aの(d)に示すように、上清を容器62に回収すれば、抗体ナノビーズ50を多く含む緩衝液21を得ることができる。
図15Aの(c)に示す状態で磁気捕集すれば
図15Aの(e)となる。
【0042】
図15Aの(e)の主として磁性マイクロビーズ10である沈殿物を回収して緩衝液21を加えれば、
図15Bの(f)に示すように抗体ナノビーズ50をさらに減らすことができる。
図15Bの(g)に示すように、上清を容器63に回収すれば、抗体ナノビーズ50を含む緩衝液21を得ることができる。
図15Bの(f)に示す状態で磁気捕集すれば
図15Bの(h)となる。
【0043】
図15Bの(h)の磁性マイクロビーズ10のみとなった沈殿物を回収して緩衝液21を加えれば、
図15Bの(i)に示すように抗体ナノビーズ50を含まない磁性マイクロビーズ10のみを含む緩衝液21を得ることができる。
図15Bの(i)は
図13の状態に相当する。
図15Bの(j)に示すように、上清を容器64に回収すれば、抗体ナノビーズ50をわずかに含む緩衝液21を得ることができる。
【0044】
図15Bの(k)に示すように、容器62~64全ての抗体ナノビーズ50を合わせれば、磁性マイクロビーズ10に結合していた、エクソソーム32wと結合した全ての抗体ナノビーズ50を回収することができる。このとき、エクソソーム32sも回収することができる。
図15Bの(k)は
図14の状態に相当する。沈殿物回収及び上清回収の回数は
図15A及び
図15Bに示す回数に限定されない。
【0045】
図1Bにおいて、オペレータは、ステップS17にて、エクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50とエクソソーム32sとを分離する。エクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50とエクソソーム32sとは、
図15A及び
図15Bと同様の方法によって分離して個別に回収することができる。
【0046】
分離されたエクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50を洗浄すれば、
図16に示すエクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50を回収することができる。
図16において、エクソソーム32wと結合した抗体ナノビーズ50のみを含む緩衝液21は容器23に注入されている。分離されたエクソソーム32sを洗浄すれば、
図17に示すエクソソーム32sを回収することができる。
図17において、エクソソーム32sのみを含む緩衝液21は容器24に注入されている。
【0047】
オペレータは、ステップS18にて、エクソソーム32sを溶解処理してエクソソーム32sの内包物を分析する。エクソソーム32sを含む緩衝液21に界面活性剤を添加すると、エクソソーム32sの脂質二重膜320が溶解処理されて破壊される。本実施形態においては、ダブルポジティブのエクソソーム32wを分析することを主目的としているので、ステップS18は省略されてもよい。
【0048】
オペレータは、ステップS19にて、抗体ナノビーズ50とエクソソーム32wとを切り離す処理を実行する。一例として、
図16に示す緩衝液21に界面活性剤を添加することによって、
図18に示すように、抗体ナノビーズ50とエクソソーム32wとを切り離すことができる。例えば、界面活性剤は2%の非イオン性界面活性剤であるTritonX-100溶液である。界面活性剤によってエクソソーム32wの脂質二重膜320が溶解処理されるので、エクソソーム32wが破壊されることによって抗体ナノビーズ50とエクソソーム32wとが切り離され、かつ、エクソソーム32wの内包物が緩衝液21中に放出される。
図18において、実際には各エクソソーム32wは脂質二重膜320が破壊されて複数の内包物に分断される。
【0049】
オペレータは、ステップS20にて、抗体ナノビーズ50とエクソソーム32wの内包物とを分離して個別に回収する。抗体ナノビーズ50とエクソソーム32wの内包物とは、
図15A及び
図15Bと同様の方法によって分離することができる。
【0050】
分離された抗体ナノビーズ50を洗浄すれば、
図19に示す抗体ナノビーズ50を回収することができる。
図19において、抗体ナノビーズ50のみを含む緩衝液21は容器24に注入されている。分離されたエクソソーム32wの内包物を洗浄すれば、
図20に示すエクソソーム32wの内包物を回収することができる。
図20においても、実際には各エクソソーム32wは複数の内包物に分断されている。
図20において、エクソソーム32wの内包物のみを含む緩衝液21は容器25に注入されている。
【0051】
オペレータは、ステップS21にて、容器25内のエクソソーム32wの内包物を取り出して内包物を分析する。このとき、RT-PCR(Reverse Transcription - Polymerase Chain Reaction)分析、LC-MS(Liquid Chromatography - Mass Spectrometry)分析等の分析方法によって、内包物中のDNAまたはタンパク質を解析することができる。また、オペレータは、ステップS22にて、抗体ナノビーズ50の個数を計測する。オペレータは、ステップS21とステップS22とを任意の順番で行えばよく、複数のオペレータによって同時に行ってもよい。ステップS18とステップS21とステップS22との順番も任意である。オペレータがステップS21及びS22(または、ステップS18、S21及びS22)を実行すれば、生体試料分析の処理が終了する。
【0052】
ステップS22で個数が計測される抗体ナノビーズ50はダブルポジティブのエクソソーム32wと結合していたものであるから、ステップS22では、CD147及びHER2の双方が存在するエクソソーム32wの個数が計測されることになる。ステップS21で内包物が分析されるエクソソーム32は、シングルポジティブのエクソソーム32sを取り除いたダブルポジティブのエクソソーム32wのみであり、ステップS22で個数が計測されるエクソソーム32wである。
【0053】
よって、内包物を分析したダブルポジティブのエクソソーム32wと、個数を計測したダブルポジティブのエクソソーム32wとは同一のものである。
図4に示す1つの検体31で、疾患に関連した膜たんぱく質であるCD147及びHER2の双方が存在するダブルポジティブのエクソソーム32wの内包物を分析し、かつ、そのエクソソーム32wの個数を計測することができる。
【0054】
図21~
図23を用いて、
図1BのステップS22の具体的な抗体ナノビーズ50の個数の計測方法を説明する。
図21において、オペレータは、ステップS221にて、
図22の(a)に示すように、抗体ナノビーズ50に固定されている抗体51と結合する抗体82(第3の抗体)を固定させたディスク基板81を準備する。抗体82は一例としてGoat anti Mouse IgG抗体である。
【0055】
ディスク基板81は円盤状であるのがよく、径方向に凹部81Gと凸部81Lとが交互に配置されているのがよい。凹部81G及び凸部81Lはスパイラル状または同心円状に形成されている。
【0056】
図22の(b)に示すように、オペレータは、複数の例えば円筒状の貫通穴が形成されたカートリッジ83をディスク基板81に装着する。すると、ディスク基板81とカートリッジ83とでウェル83Wが形成される。
図22の(c)に示すように、オペレータは、ステップS222にて、回収した抗体ナノビーズ50を含む緩衝液21を各ウェル83Wに分注する。なお、カートリッジ83は特許文献2に記載の構成を採用することができる。
【0057】
図22の(d)に示すように、オペレータは、ステップS223にて、振盪または磁気吸着によって、抗体ナノビーズ50の抗体51とディスク基板81に固定された抗体82とを結合させる。抗体ナノビーズ50を磁性ナノビーズとして、ディスク基板81の裏面側に磁石を配置すれば、抗体ナノビーズ50がディスク基板81の表面に引き寄せられる。これにより、ディスク基板81に固定された抗体82に抗体ナノビーズ50の抗体51が結合しやすくなる。
【0058】
オペレータは、ステップS224にて、ウェル83W中の上清を排出し、ステップS225にて、ディスク基板81を乾燥させる。
図22の(e)に示すように、オペレータは、ステップS226にて、乾燥させたディスク基板81を分析装置に装着して、分析装置でディスク基板81に固定された抗体ナノビーズ50の個数を計測する。分析装置は、ディスク基板81に集光レンズ101によって集光したレーザビームを照射して抗体ナノビーズ50の個数を計測する。なお、分析装置は特許文献3に記載の構成を採用することができる。
【0059】
図23に示すように、ディスク基板81に抗体82を固定する代わりに、ディスク基板81の表面を酸素プラズマ処理してカルボキシル基(COOH)等の極性官能基を形成してもよい。抗体ナノビーズ50の抗体51は極性官能基に吸着する。
【0060】
以上のように、本実施形態の生体試料分析方法によれば、1つの生体試料(検体31)で、疾患に関連した2種類の抗原(膜たんぱく質)を含むダブルポジティブのエクソソーム32wの内包物を分析し、かつ、そのエクソソーム32wの個数を計測することができる。
【0061】
本発明は以上説明した本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。本実施形態においては、第1のビーズを磁性マイクロビーズ10、第2のビーズを抗体ナノビーズ50としているが、第1のビーズと第2のビーズとは互いに分離可能な程度に大きさが異なればよい。第1のビーズをマイクロビーズ、第2のビーズをナノビーズとすると互いに容易に分離可能となるので、第1のビーズをマイクロビーズ、第2のビーズをナノビーズとすることが好ましい。
【0062】
第1のビーズは磁性ビーズであることが好ましいが、非磁性ビーズとすることも可能である。第1のビーズを磁性ビーズ、第2のビーズが非磁性ビーズとすれば、互いの分離が極めて容易となる。第2のビーズを磁性ビーズとすれば、第2のビーズをディスク基板81に固定させやすくなる。第1のビーズを非磁性ビーズ、第2のビーズを磁性ビーズとしてもよい。第1のビーズ及び第2のビーズを磁性ビーズとしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 磁性マイクロビーズ
11 抗体
20 反応容器
21 緩衝液
22~25,30,40,60,61~65 容器
31 検体
32s シングルポジティブのエクソソーム
32w ダブルポジティブのエクソソーム
51,82 抗体
52 抗DNP抗体
53 DNP
54 抗体(DNP抗体)
55 リンカー
81 ディスク基板
83 カートリッジ
83W ウェル
101 集光レンズ
320 脂質二重膜
321~324 膜たんぱく質(抗原)
325 miRNA
326 DNA