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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】共重合体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/36 20060101AFI20240124BHJP
   A61L 15/24 20060101ALI20240124BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20240124BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240124BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20240124BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240124BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20240124BHJP
   C08F 230/02 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C08F220/36
A61L15/24 100
A61L15/42 100
A61L31/04 110
A61L31/10
A61L31/12 100
C08F220/26
C08F230/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020043702
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021143303
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
(72)【発明者】
【氏名】野田 朋澄
(72)【発明者】
【氏名】小林 滉
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0045522(US,A1)
【文献】特開2006-266746(JP,A)
【文献】特許第3204956(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
A61L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホリルコリン構成単位(A)とアセトアセチル構成単位(B)からなり、ホスホリルコリン構成単位(A)のモル比a及びアセトアセチル構成単位(B)のモル比bがa/(a+b)=0.50~0.90かつb/(a+b)=0.10~0.50であり、重量平均分子量5,000~500,000である共重合体。
【化1】
[式(A)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
【化2】

[式(B)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは式(B1)~(B3)で表されるいずれか1の基を表す。]
【化3】

【化4】

[式(B2)中、nは2~4の整数である。]

【化5】
【請求項2】
共重合体を含む、アセトアセチル基と結合できる官能基を有する表面を有する基材用表面処理剤、
ここで、該共重合体はホスホリルコリン構成単位(A)とアセトアセチル構成単位(B)を含有し、ホスホリルコリン構成単位(A)のモル比a及びアセトアセチル構成単位(B)のモル比bがa/(a+b)=0.50~0.90かつb/(a+b)=0.10~0.50であり、重量平均分子量5,000~500,000である共重合体。
【化6】
[式(A)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
【化7】

[式(B)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは式(B1)~(B3)で表されるいずれか1の基を表す。]
【化8】

【化9】

[式(B2)中、nは2~4の整数である。]

【化10】
【請求項3】
共重合体がアセトアセチル基と結合できる官能基を有する表面に吸着又は結合している基材
ここで、該共重合体はホスホリルコリン構成単位(A)とアセトアセチル構成単位(B)を含有し、ホスホリルコリン構成単位(A)のモル比a及びアセトアセチル構成単位(B)のモル比bがa/(a+b)=0.50~0.90かつb/(a+b)=0.10~0.50であり、重量平均分子量5,000~500,000である共重合体。
【化11】
[式(A)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
【化12】

[式(B)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは式(B1)~(B3)で表されるいずれか1の基を表す。]
【化13】

【化14】

[式(B2)中、nは2~4の整数である。]

【化15】
【請求項4】
請求項2に記載の表面処理剤で基材のアセトアセチル基と結合できる官能基を有する表面を処理し、共重合体の吸着層又は結合層を該基材の表面に形成する工程を有する、基材への表面処理方法。
【請求項5】
請求項2に記載の表面処理剤をアセトアセチル基と結合できる官能基を有する表面に有する基材。
【請求項6】
請求項2に記載の表面処理剤をアセトアセチル基と結合できる官能基を有する表面に有する医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホスホリルコリン基含有共重合体を各種材料表面に処理することにより、ホスホリルコリン基に起因する表面親水性、生体適合性、抗血栓性等を付与しうる表面処理剤が広く提案されている。その用途としては、疎水性基材を親水化するための親水化処理、工業用フィルター表面の防汚処理、医療用高分子材料に対する蛋白質や細胞の吸着抑制のための表面処理等が挙げられる。特に近年では、臨床検査、診断薬の分野において、免疫反応を利用した測定系でのホスホリルコリン基を成分とする蛋白質吸着抑制剤が利用されている。微量の生体成分を検出する測定法では、ホスホリルコリン基を有する蛋白質吸着抑制剤の添加は、測定対象となる抗体あるいは抗原の免疫反応容器等の基材表面への非特異吸着を防止する点で重要であることが知られている。これらの蛋白質吸着抑制剤では、共重合体を基材表面に物理吸着させ、含水被膜ゲルを形成させることで用いられている。該共重合体を基材表面に物理吸着させるために、該共重合体に疎水性基を導入して物理吸着させる方法やイオン性基を導入してイオン結合させる方法が挙げられる。しかしながら、これらの方法では、基材との親和性が不十分である場合、耐久性が不十分となるために基材表面に形成された被膜がはがれてしまい、ホスホリルコリン基の機能を十分に発揮できていない。
【0003】
上記課題を解決するために、各種反応性基を含有する2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン共重合体を基材表面に固定化することで耐久性を向上させる方法について数多く検討されている。その中に反応性基としてアセトアセチル基を用いた反応を利用する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、ホスホリルコリン基構成単位、アセトアセチル基構成単位を有する共重合体の組成や分子量及び基材表面への固定化方法やその固定化された表面の生体適合性に関する情報は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3204956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、蛋白質や細胞等の生体成分の吸着・接着を防止する効果(生体適合性)を有する共重合体と該共重合体を用いた表面処理剤を提供することである。また、該共重合体が基材表面に吸着又は結合している基材を提供することにある。
さらに、基材を生体適合性に改変する該共重合体の被膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ホスホリルコリン基構成単位、アセトアセチル基構成単位を有する共重合体を特定比率で含有する共重合体が、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0007】
1.ホスホリルコリン構成単位(A)とアセトアセチル構成単位(B)を含有し、ホスホリルコリン構成単位(A)のモル比a及びアセトアセチル構成単位(B)のモル比bがa/(a+b)=0.50~0.90かつb/(a+b)=0.10~0.50であり、重量平均分子量5,000~500,000である共重合体。
【化1】
[式(A)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
【化2】
[式(B)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは式(B1)~(B3)で表されるいずれか1の基を表す。]
【化3】
【化4】
[式(B2)中、nは2~4の整数である。]
【化5】
2.前項1に記載の共重合体を含む表面処理剤。
3.前項1に記載の共重合体が基材表面に吸着又は結合している基材。
4.前項2に記載の表面処理剤で基材の表面を処理し、共重合体の吸着層又は結合層を該基材の表面に形成する工程を有する、基材への表面処理方法。
5.前項2に記載の表面処理剤を表面に有する基材。
6.前項2に記載の表面処理剤を表面に有する医療用具。
7.下記の式(1)で表される構造を有し、重量平均分子量5,000~500,000である共重合体。
【化6】
[式中Rは、水素原子又はメチル基、a、bはモル比率を表し、a/(a+b)=0.50~0.90、b/(a+b)=0.10~0.50]
8.前項7に記載の共重合体を有効成分として含有する、表面処理剤。
9.前項7又は8に記載の共重合体が基材表面に吸着している基材。
10.基材表面を前項8に記載の表面処理剤で処理し、前項7に記載の共重合体の吸着層を形成する工程を有する、基材への表面処理方法。
11.前項8に記載の表面処理剤の吸着層を表面に有する医療用具。
【発明の効果】
【0008】
本発明の共重合体を医療用具等の基材表面に吸着させることにより、基材表面への蛋白質や細胞等の生体成分の吸着・接着を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の共重合体の一例は、下記式(1)で表される構造を有し、ホスホリルコリン構成単位、アセトアセチル構成単位からなる共重合体である。本発明の共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲において、ほかの構成単位を含有させてもよい。
【0010】
【化7】
[式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、a、bはモル比率を表し、a/(a+b)=0.50~0.90、b/(a+b)=0.10~0.50である。]
【0011】
また、本発明の共重合体は、ホスホリルコリン構成単位(A)とアセトアセチル構成単位(B)を含有し、ホスホリルコリン構成単位(A)のモル比a及びアセトアセチル構成単位(B)のモル比bがa/(a+b)=0.50~0.90かつb/(a+b)=0.10~0.50である。
【化8】
[式(A)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
【化9】
[式(B)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは式(B1)~(B3)で表されるいずれか1の基を表す。]
【化10】
【化11】
[式(B2)中、nは2~4の整数である。]
【化12】
本発明の共重合体の各構成単位について、下記に説明する。
【0012】
[ホスホリルコリン構成単位]
本発明の共重合体は、ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位(ホスホリルコリン構成単位と称する場合がある。参照:下記式(A))を共重合体構造中に含む。共重合体構造中、ホスホリルコリン基は、生体膜の主成分であるリン脂質と同様の構造を有する極性基である。ホスホリルコリン基を共重合体中に導入することで、親水性、蛋白質吸着抑制、細胞接着抑制、抗血栓性などの生体適合性を共重合体に付与することができる。
さらに、該共重合体を基材表面上に化学結合により固定化することで、基材に生体適合性を付与できる。
前記ホスホリルコリン基含有単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2’-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(参照:下記式(2))が挙げられる。
【0013】
【化13】
(式中Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【0014】
【化14】
(式中Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【0015】
[アセトアセチル構成単位]
本発明の共重合体は、アセトアセチル基含有単量体に基づく構成単位(アセトアセチル構成単位と称する場合がある。参照:下記式(B))を共重合体構造中に含む。共重合体構造中、アセトアセチル基は、基材表面に存在する官能基と反応することによってその表面と化学結合を形成し、該共重合体が基材と化学結合された被膜を形成する。具体的には、本発明の共重合体のアセトアセチル基と、基材表面のアミノ基や水酸基、アルデヒド基等の反応性官能基とが反応して結合することにより本発明の共重合体が基材表面に結合する。
【0016】
前記アセトアセチル基含有単量体としては、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アリルアセトアセテート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレート、2,3-ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート等が挙げられ、好ましくは2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート(参照:下記式(3))が挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似用語についても同様である。
【0017】
【化15】
(式中Rは、水素原子又はメチル基を示し、Xは式(B1)~(B3)のいずれか1で表される基を示す。)
【化16】
【化17】
(式(B2)中、nは2~4の整数である。)
【化18】
【0018】
【化19】
(式中Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【0019】
本発明の共重合体の重量平均分子量が5,000未満の場合、重合体の精製が困難であり、500,000を超える場合は、製造時の粘性が高くなりすぎ取り扱いが困難となるおそれがある。
式(1)中、a、bは、式(A)、(B)の2つの構成単位の構成比、すなわち対応する単量体のモル比を表す。
ここで、a、bは、当該構成単位の構成比を表しているのみであって、本発明の共重合体が式(A)で表されるブロックと、式(B)で表されるブロックからなるブロック共重合体のみを意味するものではない。本発明の共重合体は、式(A)と式(B)の単量体がランダムに共重合体されたランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、あるいは、ランダム部とブロック部が混在する共重合体であってもよい。また、交互共重合体部が存在してもよい。
また、当該構成単位の構成比を表すa、bの比は、任意に調製可能であり、水性媒体に可溶な共重合体であればよいが、a/(a+b)=0.50~0.90であり、好ましくは0.50~0.70であり、より好ましくは0.50~0.60であり、b/(a+b)=0.10~0.50であり、好ましくは0.30~0.50であり、より好ましくは0.40~0.50である。
【0020】
[その他の構成単位]
本発明の共重合体は、基材表面への生体成分の吸着抑制能に悪影響を与えない範囲で、ホスホリルコリン構成単位、アセトアセチル構成単位以外の構成単位を含有させることができる。
例えば、直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、親水性の水酸基含有(メタ)アクリレート、酸基含有単量体、窒素含有基含有単量体、アミノ基含有単量体、カチオン性基含有単量体に基づく構成単位等を例示することができる。
【0021】
直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0025】
ビニルエーテル単量体としては、例えば、イソブチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0026】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0027】
親水性の水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0028】
酸基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸等が挙げられる。
【0029】
窒素含有窒素単量体としては、例えば、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0030】
アミノ基含有単量体としては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0031】
カチオン性基含有単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩酸塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート塩酸塩等が挙げられる。
【0032】
本発明に用いる共重合体の分子鎖中に含まれる、ホスホリルコリン構成単位(A)とアセトアセチル構成単位(B)の組み合わせの好適な例は、基材表面への蛋白質や細胞等の生体成分の吸着・接着を抑制する効果の観点から、以下の組み合わせが挙げられる。
2-メタクリロイルオキシエチル-2’-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(MPC)及び2-アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)。
【0033】
[本発明の共重合体の製造方法]
次に、本発明の共重合体の製造方法例について説明する。
式(1)に示される2元共重合体においては、下記式(2)で示されるホスホリルコリン基含有単量体と、下記式(3)で示されるアセトアセチル基含有単量体とを、ホスホリルコリン基含有単量体およびアセトアセチル基含有単量体の合計量に対して、ホスホリルコリン基含有単量体をモル比で0.50~0.90、ホスホリルコリン基含有単量体をモル比で0.10~0.50の割合で含む単量体組成物を重合させることで、式(1)に示される共重合体を得ることができる。
例えば、下記式(2)で示される(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-トリメチルアンモニオエチルホスフェート(好ましくは、MPC(2-メタクリロイルオキシエチル-2-トリメチルアンモニオエチルホスフェート))と、下記式(3)で示されるAAEM(2-アセトアセトキシエチルメタクリレート)を、MPCおよびAAEMの合計量に対して、MPCをモル比で0.50~0.90、AAEMをモル比で0.10~0.50の割合で含む単量体組成物を重合させることで、式(1)に示される共重合体を得ることができる。
【0034】
【化20】
(式中Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【0035】
【化21】
(式中Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【0036】
上記単量体組成物の重合反応は、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスで反応系内を置換して、または当該雰囲気において、ラジカル重合、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法により行うことができる。
【0037】
得られる重合体の精製等の観点から、溶液重合が好ましい。この重合反応により、式(1)で示される構成単位を有する共重合体が得られる。なお、本発明の共重合体は、上記の通り、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、あるいは、ランダム部とブロック部が混在する共重合体であってもよい。また、交互共重合体部が存在してもよい。
加えて、式(1)に示される共重合体においては、a/(a+b)=0.50~0.90であり、好ましくは0.50~0.70であり、より好ましくは0.50~0.60であり、b/(a+b)=0.10~0.50であり、好ましくは0.30~0.50であり、より好ましくは0.40~0.50である。
これら共重合体を精製する場合、その精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の一般的な精製方法により行うことができる。
【0038】
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機過酸化物、過硫酸化物が挙げられる。
【0039】
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2-アゾビス(2-アミノプロピル)二塩酸塩、2,2-アゾビス(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、1-((1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ)ホルムアミド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミヂン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス(2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル)等が挙げられる。
【0040】
有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、コハク酸ペルオキシド(=サクシニルペルオキシド)、グルタルペルオキシド、サクシニルペルオキシグルタレート、t-ブチルペルオキシマレート、t-ブチルペルオキシピバレート、ジ-2-エトキシエチルペルオキシカーボネート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
【0041】
過硫酸化物としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いても混合物で用いてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体組成物100質量部に対して通常0.001~10質量部、好ましくは0.01~5.0質量部である。
【0043】
上記単量体組成物の重合反応は、溶媒の存在下で行うことができる。該溶媒としては、単量体組成物を溶解し、単量体組成物と重合開始剤添加前に反応しないものが使用できる。例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、含窒素系溶媒が挙げられる。アルコール系溶媒としてはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等、ケトン系溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等、エステル系溶媒としては酢酸エチル等、エーテル系溶媒としてはエチルセロソルブ、テトラヒドロフラン等、含窒素系溶媒としてはアセトニトリル、ニトロメタン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。好ましくは、水、アルコールまたはそれらの混合溶媒が挙げられる。
重合反応時の温度は、使用する重合開始剤や溶媒の種類によって、また所望の分子量によって適宜適した温度を選択すればよいが、40~100℃の範囲が好ましい。
【0044】
[本発明の表面処理剤、蛋白質吸着抑制剤、表面処理方法]
本発明の表面処理剤は、蛋白質吸着抑制剤、細胞接着抑制剤等を含む。
本発明の表面処理剤は、式(1)で示される本発明の共重合体を含有し、本発明の共重合体が溶解可能な適当な溶媒、例えば、水、生理食塩水、各種緩衝液(リン酸緩衝液やMES緩衝液など)、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、もしくはこれらを混合したものを含んでいてもよい。これら溶媒に溶解し、本発明の共重合体を目的の基材上に塗布すればよい。
本発明の表面処理剤における本発明の共重合体の含有濃度は、特に限定されないが、例えば0.001質量%~50質量%、0.01質量%~10質量%又は0.01質量%~5質量%であり、好ましくは0.05質量%~5質量%、より好ましくは0.1質量%~1質量%である。
【0045】
本発明の表面処理方法としては、本発明の共重合体が基材表面の反応性官能基と結合して吸着層を形成し、該基材表面に架橋体を形成させる。
本発明の共重合体は、好ましくは、基材表面に存在する反応性官能基と反応することによりその表面に結合し、吸着層を形成する。具体的には、本発明の共重合体のアセトアセチル基と、基材表面のアミノ基、水酸基、アルデヒド基、スクシンイミド基等の反応性官能基とが反応して結合することにより基材表面に本発明の共重合体からなる吸着層を形成する。従って、基材表面には、これらの官能基があると良い。
基材表面にこのような官能基が存在しない場合、例えば、基材表面にイソシアネート基のようなアセトアセチル基とは反応しない官能基のみしか存在しない場合には、例えば、ポリエチレンイミンやエチレンジアミン等の多官能性試薬を用いて、アセトアセチル基と反応し得る官能基を基材表面に導入することが可能である。このような反応性官能基の基材表面への導入方法はとくに制限はなく、基材の種類、その表面性質、および反応性官能基の所望の導入量により、公知の条件から適宜選択して行うことができる。さらに、基材表面に反応性官能基を導入することが困難である場合には、本発明の共重合体を基材表面に物理吸着可能な化合物と事前に反応させた後、それを溶液あるいは分散体として基材表面に物理吸着させることで、表面処理することもできる。
本発明の共重合体と結合しうる官能基を有する基材表面上に、該共重合体の吸着層を形成する具体的な操作方法としては、例えば、次のような方法を挙げることができる。本発明の表面処理剤に基材を浸漬した後、室温または加温により十分に乾燥させることによって、本発明の共重合体が基材表面に結合した吸着層を形成させる。
浸漬温度としては4~80℃、好ましくは30~60℃である。これらの温度範囲であれば、該表面処理剤の吸着層を実施可能な時間の範囲で形成させることができる。
浸漬時間は、該表面処理剤の吸着層を形成できれば特に限定されないが、例えば1分以上、10分以上又は30分以上であり、好ましくは1時間~5時間であり、より好ましくは2時間~4時間である。
【0046】
[本発明の基材]
本発明の共重合体が基材表面に結合又は吸着している基材について説明する。
本発明に用いる基材としては、その材質はとくに限定されるものではないが、例えばポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ガラス、金属、セラミック、シリコンラバー、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ナイロン、ニトロセルロース等を挙げることができる。本発明に用いる基材は、これらの材質がさらに例えばポリアルキル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート等の各種ポリマーでコーティングされた基材でもよい。
本発明に用いる基材は、基材表面をアミノ基、水酸基、アルデヒド基、スクシンイミド基等の反応性官能基で修飾されたものが好ましい。
また、基材の形状としてはとくに限定されるものではないが、具体的には、膜(フィルム)状、プレート状、ビーズ状、粒子状、多孔状、ゲル状、さらには、試験管形状、バイアル瓶形状、チューブ形状、およびフラスコ形状等を例示することができる。
【0047】
[本発明の医療用具]
本発明の共重合体は、生体適合性、親水性、含水性、構造柔軟性、物質吸収性等に優れており、特に生体適合性に優れる。したがって、本発明の表面処理剤に含有する共重合体の吸着層を基材表面に形成させることにより、生体適合性を基材に付与することができる。一般的に、ホスホリルコリン基が示す生体適合性は血液適合性であり、これは基材表面に蛋白質や細胞が吸着・接着しないことを特長としている。そして、これらの性質を利用することで、架橋体の薬物の徐放担体や細胞の足場、表面修飾材料や、止血剤等の創傷治癒促進剤などの医療用具に好適に用いることができる。
本発明の医療用具の具体例としては、例えば、医療機器、コンタクトレンズ、移植細胞の足場として機能する基材、創傷部被覆剤、創傷治癒促進剤、止血剤、薬物除放材、表面修飾材料、止血剤等、イムノクロマト、ELISAなどの診断薬用基材、シャーレ、マイクロプレート、フラスコ、バッグなどの細胞培養用基材、マイクロ流路、セル、磁気ビーズなどのアフィニティ精製用ビーズ等を例示することができる。
【実施例
【0048】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、合成例中の各種測定は以下に示す方法に従って実施した。
【0049】
<NMR測定>
測定装置:日本電子社製、
溶媒:重メタノール
試料濃度:30(mg/mL)
測定温度:50℃
積算回数:16回(H NMR)
緩和時間:15秒
【0050】
<重量平均分子量の測定>
得られた共重合体15 mgを、イオン交換水 2.985gに溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により重量平均分子量を測定した。測定条件は以下のとおりである。
装置:(東ソー(株)製)、カラム:Shodex OHpak SB-802.5HQ、OHPak SB-802.5M HQ(昭和電工(株)製)、移動相:pH=7.4の20mMリン酸緩衝液、標準物質:ポリエチレングリコール、検出:視差屈折率計、流速:0.5mL/分、カラム温度:40℃、試料溶液注入量:100μL、測定時間:60分
【0051】
[合成例1]
2-メタクリロイルオキシエチル-2-トリメチルアンモニオホスフェート(MPC)37.02 g(0.125 mol)、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)2.98 g( 0.0139 mol)をエタノール(EtOH)155.1120 gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4ツ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、60℃でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の10wt%EtOH溶液を4.8880 g(2.98 mmol)加えて24時間重合反応させることで単量体仕込み組成からなる共重合体が得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られた共重合体について、H NMR、重量平均分子量の測定結果を示す。
H NMR):0.70-1.70ppm(-CH )、1.70-2.20ppm(CH -C)、2.30-2.40ppm(-C(O)CH )、3.20-3.40ppm(-NCH )、3.60-3.90ppm(-CH -N(CH、-O-C(O)-CH -C(O)-)、4.00-4.50ppm(-P-O-CH-、-C(O)-O-CH CH -O-)
【0052】
以上の結果より、式(A)で示されるMPCに基づく構成単位の比率が90mol%、式(B)で示されるAAEMに基づく構成単位の比率が10mol%で、重量平均分子量が94,000の共重合体であることを確認した。
【0053】
[合成例2~5]
MPC、AAEMの仕込み組成を表1に示すように変更し、合成例1と同様の手順で合成した。
【0054】
[比較合成例1]
MPC40.00 g(0.136 mol)をEtOH 155.1120 gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4ツ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8880 g(2.98 mmol)加えて、24時間重合反応させることで重合体を得た。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製し、得られた重合体について、重量平均分子量の測定を行った。
【0055】
[比較合成例2]
MPC 35.94 g(0.122 mol)、ブチルメタクリレート(BMA)4.06 g(0.0286 mol)をEtOH 155.1120 gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4ツ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8880 g(2.98 mmol)加えて、24時間重合反応させることで共重合体を得た。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製し、得られた共重合体について、重量平均分子量の測定を行った。
【0056】
[比較合成例3]
MPC 36.45 g(0.108 mol)、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミドの60%水溶液(HMMA) 5.92 g(0.031 mol)をEtOH 152.7420 gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4ツ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8880 g(2.98 mmol)加えて、24時間重合反応させることで共重合体を得た。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製し、得られた共重合体について、重量平均分子量の測定を行った。
【0057】
(実施例1)
<タンパク質吸着抑制効果の評価1>
以下のようにして免疫反応測定を行い、該測定においてアミノプレートへのタンパク質吸着抑制方法を実施して、合成例1で得た共重合体1が基材表面に吸着している基材を調製し、タンパク質吸着抑制効果を評価した。
合成例1で得た共重合体1を0.1M MES緩衝液(以下、MES緩衝液)に、その濃度が0.5質量%となるように溶解して、表面処理剤溶液1-1を調製した。
アミノプレート(住友ベークライト社製)に表面処理剤溶液1-1を200μL/ウェル加え、37℃にて3時間静置し、その後表面処理剤溶液1を除去した。DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(-)(以下、PBSとする)を200μL/ウェル加え、除去する操作を4回実施後、PBSで24000倍希釈したHRP標識IgG(BioRad社製)を100μL/ウェル加え、室温にて1時間静置した。ウェル内のHRP標識IgG溶液を除去し、0.05%Tween20の入ったPBSを200μL/ウェル加え、除去する洗浄工程を4回繰り返した。洗浄後に、HRP用発色液(KPL社製)を100μL/ウェル加え、室温にて10分間反応させ、10分後に2N硫酸を50μL/ウェル加えることで反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(Molecular Device社製)を用いて450nmの吸光度を測定することでウェル内に吸着したタンパク質を検出した。吸光度は3回測定の平均値を用いた。吸光度が小さいほどタンパク質の吸着が抑制されていることを示す。
蛋白質吸着抑制効果は、実施例1の吸光度と下記の比較例4の吸光度とから下記式で算出する相対的な蛋白質吸着率により評価した。すなわち、実施例1のアミノプレートへの蛋白質吸着率を、比較例4のアミノプレートへの蛋白質吸着率を100%としたときの相対吸着率で評価した。
実施例1の蛋白質吸着率=(実施例1の吸光度/比較例4の吸光度)×100
結果を表1、2に示す。
【0058】
<タンパク質吸着抑制効果の評価2>
以下のようにして免疫反応測定を行い、該測定においてアミノビーズへのタンパク質吸着抑制方法を実施して、合成例1で得た共重合体1が基材表面に吸着している基材を調製し、タンパク質吸着抑制効果を評価した。
表面処理剤溶液1-1 298.5 μLにアミノビーズ(多摩川精機製)1.5 μLを添加、混合後、37℃にて3時間振盪した。その後、当該アミノビーズ分散液をPP製マイクロプレート 96/V(エッペンドルフ製)に100μL/ウェル加え、磁石を用いてアミノビーズを固定化した後、上清を除去した。0.05%Tween20の入ったPBSを100μL/ウェル加え、全量を新しいウェルに移し、磁石を用いてアミノビーズを固定化後、再度上清を廃棄した。0.05%Tween20の入ったPBSを100μL/ウェル加え、上清を廃棄する操作を3回実施後、PBSで30000倍希釈したHRP標識IgG(BioRad社製)を100μL/ウェル加え、室温にて1時間振盪した。ウェル内のHRP標識IgG溶液を除去し、0.05%Tween20の入ったPBSを100μL/ウェル加え、全量を新しいウェルに移し、磁石を用いてアミノビーズを固定化後、再度上清を廃棄した。0.05%Tween20の入ったPBSを100μL/ウェル加え、上清を廃棄する操作を4回繰り返した。洗浄後に、HRP用発色液(KPL社製)を100μL/ウェル加え、室温にて10分間反応させ、10分後に2N硫酸を50μL/ウェル加えることで反応を停止させた。磁石を用いてアミノビーズを固定化した後、上清を96ウェルポリスチレン製マイクロプレート(ワトソン製)に100μL/ウェル移し、マイクロプレートリーダー(Molecular Device社製)を用いて450nmの吸光度を測定することでアミノビーズに吸着したタンパク質を検出した。吸光度が小さいほどタンパク質の吸着が抑制されていることを示す。
蛋白質吸着抑制効果は、実施例1の吸光度と下記の比較例4の吸光度とから下記式で算出する相対的な蛋白質吸着率により評価した。すなわち、実施例1のアミノビーズへの蛋白質吸着率を、比較例4のアミノビーズへの蛋白質吸着率を100%としたときの相対吸着率で評価した。
実施例1の蛋白質吸着率=(実施例1の吸光度/比較例4の吸光度)×100
結果を表1、2に示す。
【0059】
<細胞接着抑制効果の評価>
以下のようにして細胞接着率測定を行い、該測定においてアミノプレートへの細胞接着抑制方法を実施して、合成例1で得た共重合体1が基材表面に吸着している基材を調製し、細胞接着抑制効果を評価した。
合成例1で得た共重合体1をPBS緩衝液に、その濃度が0.5質量%となるように溶解して、表面処理剤溶液1-2を調製した。
アミノプレート(住友ベークライト社製)に表面処理剤溶液1-2を200μL/ウェル加え、37℃にて乾燥させ、共重合体被膜を形成させた後、クリーンベンチ内にてUVランプを照射しながら3時間放置した。10%牛胎児血清(GIBCO社製)と1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma社製)を含むMEMα培地(Invitrogen社製、以下P19培地とする)を用いて培養したマウス胚性癌細胞P19.CL6細胞(以下P19とする)を0.25%トリプシン処理により回収し、P19培地にて400 cells/mLに希釈し、それを100μL/well播種し、37℃の5%COインキュベーター(以下インキュベーター)で3日間培養した。3日後、培地を除去し、PBSを100μL/well加え、除去するという洗浄工程を2回行った。その後、0.5mg/mLのMTTを含むP19培地を100μL/well加え、インキュベーターにて1時間培養した。1時間後、培地を除去し、静かにPBSを100μL/well加え、PBSを除去した。その後、ジメチルスルホキシド(キシダ化学製)を100μL/well加え、室温で10分間振盪しながら色素を抽出し、マイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX M3、Molecular Devices社製)を用いて、570nmの吸光度を測定した。
【0060】
細胞接着抑制効果は、実施例1の吸光度と下記の比較例4の吸光度とから下記式で算出する相対的な細胞接着率により評価した。すなわち、実施例1のアミノプレートへの細胞接着率を、比較例4のアミノプレートへの細胞接着率を100%としたときの相対吸着率で評価した。
実施例1の細胞接着率=(実施例1の吸光度/比較例4の吸光度)×100
結果を表1、2に示す。
【0061】
(実施例2)
実施例1の共重合体1の代わりに、合成例2で得た共重合体2を用いて表面処理剤溶液2-1(0.5質量%MES緩衝液)及び表面処理剤溶液2-2(0.5質量%PBS緩衝液)を調製した。
表面処理剤溶液2-1又は2-2を用いた以外、実施例1と同様の操作で実験を行った。
【0062】
(実施例3)
実施例1の共重合体1の代わりに合成例3で得た共重合体3を用いて表面処理剤溶液3-1(0.5質量%MES緩衝液)及び表面処理剤溶液3-2(0.5質量%PBS緩衝液)を調製した。
表面処理剤溶液3-1又は3-2を用いた以外、実施例1と同様の操作で実験を行った。
【0063】
(実施例4)
実施例1の共重合体1の代わりに合成例4で得た共重合体4を用いて表面処理剤溶液4-1(0.5質量%MES緩衝液)及び表面処理剤溶液4-2(0.5質量%PBS緩衝液)を調製した。
表面処理剤溶液4-1又は4-2を用いた以外、実施例1と同様の操作で実験を行った。
【0064】
(実施例5)
実施例1の共重合体1の代わりに合成例5で得た共重合体5を用いて表面処理剤溶液5-1(0.5質量%MES緩衝液)及び表面処理剤溶液5-2(0.5質量%PBS緩衝液)を調製した。
表面処理剤溶液5-1又は5-2を用いた以外、実施例1と同様の操作で実験を行った。
【0065】
(比較例1)
実施例1の共重合体1の代わりに、比較合成例1で得た共重合体6を用いて表面処理剤溶液6-1(0.5質量%MES緩衝液)及び表面処理剤溶液6-2(0.5質量%PBS緩衝液)を調製した。
表面処理剤溶液6-1又は6-2を用いた以外、実施例1と同様の操作で実験を行った。
【0066】
(比較例2)
実施例1の共重合体1の代わりに、比較合成例2で得た共重合体7を用いて表面処理剤溶液7-1(0.5質量%MES緩衝液)及び表面処理剤溶液7-2(0.5質量%PBS緩衝液)を調製した。
表面処理剤溶液7-1又は7-2を用いた以外、実施例1と同様の操作で実験を行った。
【0067】
(比較例3)
実施例1の共重合体1の代わりに、比較合成例3で得た共重合体8を用いて表面処理剤溶液8-1(0.5質量%MES緩衝液)及び表面処理剤溶液8-2(0.5質量%PBS緩衝液)を調製した。
表面処理剤溶液8-1又は8-2を用いた以外、実施例1と同様の操作で実験を行った。
【0068】
(比較例4)
表面処理剤溶液の代わりに、共重合体を溶解していない水を用いた以外、同様の操作で実験を行った。比較例4の蛋白質吸着率を100%として、実施例1~5、比較例1~3の蛋白質吸着率を算出した。結果を表1、2に示す。
【0069】
【表1】
表1中、Aはホスホリルコリン基含有単量体を示し、Bはアセトアセチル基含有単量体を示し、aはホスホリルコリン基含有単量体のモル比を示し、bはアセトアセチル基含有単量体のモル比を示す。
【0070】
【表2】
表1中、Aはホスホリルコリン基含有単量体を示し、Bはアセトアセチル基含有単量体を示し、aはホスホリルコリン基含有単量体のモル比を示し、bはアセトアセチル基含有単量体のモル比を示す。
【0071】
(タンパク質吸着抑制効果の評価の結果)
表1、2から明らかなように、合成例1~5の共重合体の被膜を基材表面に形成させることで、蛋白質(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ標識IgG)の吸着を抑制する基材表面を形成できたことを確認した。アミノプレート又はアミノビーズ上のアミノ基と共重合体1~5中のアセトアセチル基が反応し、イミン、あるいはエナミン結合により共有結合していると考えられる。
一方、比較合成例1(アセトアセチル構成単位を有しない重合体)、比較合成例2(アミノ基を有する構成単位を有し、アセトアセチル構成単位を有しない共重合体)、比較合成例3(メチロール基を有する構成単位を有し、アセトアセチル構成単位を有しない共重合体)においては、基材表面と結合した共重合体の吸着層が十分に形成されないために、洗浄工程により共重合体が洗い流されてしまい、蛋白質が吸着してしまう結果となった。
以上の結果より、本発明の表面処理剤は、基材表面への共重合体の吸着層の形成により、基材表面に生体適合性(蛋白質が吸着できない性能)を付与できることを確認した。
【0072】
(細胞接着抑制効果の評価の結果)
表1、2から明らかなように、合成例1~5の共重合体の吸着層を基材表面に形成させることにより、マウス胎児由来繊維芽細胞の接着を抑制する基材表面を形成できたことを確認した。タンパク質吸着抑制効果の評価と同様に、アミノプレートのアミノ基と共重合体1~5中のアセトアセチル基が反応し、イミン、あるいはエナミン結合により共有結合していると考えられる。
一方、比較合成例1(アセトアセチル構成単位を有しない重合体)、比較合成例2(アミノ基を有する構成単位を有し、アセトアセチル構成単位を有しない共重合体)、比較合成例3(メチロール基を有する構成単位を有し、アセトアセチル構成単位を有しない共重合体)においては、基材表面と結合した共重合体の吸着層が十分に形成されないために、洗浄工程により共重合体が洗い流されてしまい、マウス胎児繊維芽細胞が接着してしまう結果となった。
以上の結果より、本発明の表面処理剤は、基材表面への共重合体の吸着層の形成により、基材表面に生体適合性(細胞が接着できない性能)を付与できることを確認した。
【0073】
以上の結果より、本発明の共重合体から形成された吸着層には、蛋白質、細胞等が吸着、接着しないことを確認した。これにより、本発明の表面処理剤は、医療機器や免疫反応容器等の基材表面に効果的に結合し、本発明の表面処理剤の吸着層を含む医療用具は、高い生体適合性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0074】
基材表面への蛋白質や細胞等の生体成分の吸着・接着を抑制できる共重合体および表面処理剤を提供することができる。