(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/04 20060101AFI20240124BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20240124BHJP
F16H 61/684 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
F16H61/04
F16H59/14
F16H61/684
(21)【出願番号】P 2022540015
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013797
(87)【国際公開番号】W WO2022024461
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020129416
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】田中 将之
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189194(JP,A)
【文献】特開2010-280262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/04
F16H 59/14
F16H 61/684
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、噛み合い式の第1係合装置と摩擦式の第2係合装置とを備えて前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路に配置された変速機と、を備え、前記変速機が、前記第1係合装置が係合し且つ前記第2係合装置が解放した状態で第1変速段を形成し、前記第1係合装置が解放し且つ前記第2係合装置が係合した状態で前記第1変速段より変速比の小さい第2変速段を形成する車両用駆動伝達装置を、制御対象とする制御装置であって、
前記変速機が形成する変速段を前記第1変速段から前記第2変速段に移行させるアップシフトを行う場合に、前記第2係合装置の係合圧を漸増させる係合制御と、前記第1係合装置を解放するための力である解放力を前記第1係合装置における噛み合い部に作用させる解放制御と、を実行し、
前記係合制御では、前記第2係合装置の係合圧を、前記第2係合装置の伝達トルク容量が前記駆動力源からの前記入力部材への入力トルクに応じた大きさとなる対象係合圧に向けて漸増させ、
前記第2係合装置の係合圧が前記対象係合圧より低い設定係合圧に到達する到達時点以降の、前記第2係合装置の係合圧の変化率を、前記到達時点より前の前記第2係合装置の係合圧の変化率より小さくし、
前記解放制御を前記到達時点以降に開始する、制御装置。
【請求項2】
前記解放制御では、前記解放力の大きさが一定となるように制御する解放力維持制御を行う、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1係合装置の係合と解放との切り替えを行うアクチュエータが、駆動電流の大きさに応じた大きさの駆動力を発生する電動アクチュエータであり、
前記解放力維持制御は、前記駆動電流の大きさを一定に維持する制御である、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記変速機は、第1軸上に、第1回転部材、第1ギヤ、及び、第2ギヤを備え、前記第1軸とは異なる第2軸上に、第2回転部材、前記第1ギヤに噛み合う第3ギヤ、及び、前記第2ギヤに噛み合う第4ギヤを備え、
前記第1ギヤは、前記第1回転部材と一体的に回転し、
前記第3ギヤは、前記第2回転部材に対して相対回転可能に配置され、
前記第1変速段は、前記第1ギヤと前記第3ギヤとのギヤ対である第1ギヤ対を介して前記第1回転部材と前記第2回転部材とが連結された状態で実現され、
前記第2変速段は、前記第2ギヤと前記第4ギヤとのギヤ対である第2ギヤ対を介して前記第1回転部材と前記第2回転部材とが連結された状態で実現され、
前記第1係合装置は、前記第2回転部材と一体的に回転するスリーブ部材と、前記第3ギヤと一体的に回転する係合部と、を備え、
前記スリーブ部材は、前記スリーブ部材と前記係合部とが係合して、前記第1ギヤ対を介して前記第1回転部材と前記第2回転部材とが連結される係合位置と、前記スリーブ部材と前記係合部との係合が解除されて、前記第1ギヤ対を介した前記第1回転部材と前記第2回転部材との連結が解除される解放位置と、の間で軸方向に移動可能であり、
前記第2係合装置は、前記第2ギヤ対を介した前記第1回転部材と前記第2回転部材との間の伝達トルクを調整するように設けられ、
前記係合制御では、前記第2係合装置の係合圧を漸増させて前記第2ギヤ対を介した前記第1回転部材と前記第2回転部材との間の伝達トルクを漸増させることで、前記スリーブ部材と前記係合部との間の伝達トルクを減少させ、
前記解放制御では、前記軸方向に沿って前記係合位置から前記解放位置に向かう推力を前記スリーブ部材に付与することで、前記解放力を前記噛み合い部に作用させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噛み合い式の第1係合装置が係合し且つ摩擦式の第2係合装置が解放した状態で第1変速段を形成し、噛み合い式の第1係合装置が解放し且つ摩擦式の第2係合装置が係合した状態で第1変速段より変速比の小さい第2変速段を形成する変速機を備えた車両用駆動伝達装置を、制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置の一例が、特開2010-280262号公報(特許文献1)に開示されている。以下、背景技術の説明において括弧内に示す符号は特許文献1のものである。特許文献1では、トランスミッションコントローラ(47)により制御される有段変速機(6)が、ドグクラッチ(8)が係合し且つ摩擦クラッチ(7)が解放した状態で低速段を形成し、ドグクラッチ(8)が解放し且つ摩擦クラッチ(7)が係合した状態で高速段を形成するように構成されている。特許文献1の
図5には、有段変速機(6)が形成する変速段を低速段から高速段に移行させるアップシフトを行う場合の変速制御処理の流れが示されている。この変速制御処理の流れに沿ってアップシフトが行われる場合、特許文献1の段落0055,0056に記載されているように、アップシフトの要求が発生すると、ドグクラッチ(8)のアクチュエータへ解放指令が出力される。また、摩擦クラッチ(7)の油圧目標値が設定され、摩擦クラッチ(7)の油圧指令値が当該油圧目標値まで所定の割合で増加される。摩擦クラッチ(7)での締結油圧が増加するに伴って、ドグクラッチ(8)を介して伝達されている駆動トルクが低減する。そして、特許文献1の段落0057に記載されているように、ドグクラッチ(8)を介して伝達されている駆動トルクが、ドグクラッチ(8)を解放できる所定の範囲に達すると、ドグクラッチ(8)を解放するための上記アクチュエータのトルクが、ドグクラッチ(8)を介して伝達されている駆動トルクを上回り、ドグクラッチ(8)が解放される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アップシフトに要する時間の短縮の観点から、摩擦式の第2係合装置(特許文献1では摩擦クラッチ)の係合圧を目標係合圧まで増加させる場合の、係合圧の変化率を大きくすることが考えられる。しかし、摩擦式の係合装置には一般に係合圧の指令値に対する実係合圧にばらつきがあるため、第2係合装置の係合圧の変化率を大きくすると、例えば噛み合い式の第1係合装置(特許文献1ではドグクラッチ)が解放される前に第2係合装置の係合圧が大きくなり過ぎる状況等、比較的大きな車両の加速度変動を誘発する状況が発生しやすくなる。
【0005】
そこで、アップシフトを行う場合に、アップシフトに要する時間の短縮を図りつつ車両に発生する加速度変動を小さく抑えることが可能な技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る制御装置は、駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、噛み合い式の第1係合装置と摩擦式の第2係合装置とを備えて前記入力部材と前記出力部材との間の動力伝達経路に配置された変速機と、を備え、前記変速機が、前記第1係合装置が係合し且つ前記第2係合装置が解放した状態で第1変速段を形成し、前記第1係合装置が解放し且つ前記第2係合装置が係合した状態で前記第1変速段より変速比の小さい第2変速段を形成する車両用駆動伝達装置を、制御対象とする制御装置であって、前記変速機が形成する変速段を前記第1変速段から前記第2変速段に移行させるアップシフトを行う場合に、前記第2係合装置の係合圧を漸増させる係合制御と、前記第1係合装置を解放するための力である解放力を前記第1係合装置における噛み合い部に作用させる解放制御と、を実行し、前記係合制御では、前記第2係合装置の係合圧を、前記第2係合装置の伝達トルク容量が前記駆動力源からの前記入力部材への入力トルクに応じた大きさとなる対象係合圧に向けて漸増させ、前記第2係合装置の係合圧が前記対象係合圧より低い設定係合圧に到達する到達時点以降の、前記第2係合装置の係合圧の変化率を、前記到達時点より前の前記第2係合装置の係合圧の変化率より小さくし、前記解放制御を前記到達時点以降に開始する。
【0007】
本構成によれば、アップシフトを行う場合に係合制御及び解放制御が実行されるため、第1係合装置の伝達トルクが解放力に応じたトルク以下まで低下した際に、第1係合装置を解放することができる。ここで、係合制御では、到達時点以降の第2係合装置の係合圧の変化率が、到達時点より前の第2係合装置の係合圧の変化率より小さくされる。そのため、到達時点より前の期間では第2係合装置の係合圧の変化率を大きくすることで、アップシフトに要する時間の短縮を図ることができる。また、到達時点以降の期間では第2係合装置の係合圧の変化率を小さくすることで、例えば第1係合装置が解放される前に第2係合装置の係合圧が大きくなり過ぎる状況等、比較的大きな車両の加速度変動を誘発する状況を発生し難くすることができる。
【0008】
以上のように、本構成によれば、アップシフトを行う場合に、アップシフトに要する時間の短縮を図りつつ車両に発生する加速度変動を小さく抑えることが可能となっている。更に、本構成によれば、解放制御が到達時点以降に開始されるため、第1係合装置の伝達トルクが第1係合装置を解放することができる程度(或いはそれに近い程度)に低下してから、解放制御を開始することができる。よって、解放制御の開始時期が早すぎることによる無駄なエネルギの消費を抑制できるという利点もある。
【0009】
制御装置の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】制御装置において実行される制御フローの一例を示すフローチャート
【
図4】アップシフト時の制御挙動の一例を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれる。伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等)が含まれていてもよい。
【0012】
制御装置5は、車両用駆動伝達装置4を制御対象とする制御装置である。制御装置5による制御対象となり得る車両用駆動伝達装置4の一例を
図1に示し、別例を
図2に示す。制御装置5による制御対象となる車両用駆動伝達装置4は、
図1や
図2に示す車両用駆動伝達装置4に限られず、他の構成の車両用駆動伝達装置4であってもよい。
【0013】
図1及び
図2に示すように、車両用駆動伝達装置4は、回転電機3に駆動連結される入力部材20と、車輪2に駆動連結される出力部材30と、入力部材20と出力部材30との間の動力伝達経路に配置された変速機10と、を備えている。なお、
図1及び
図2では、機能が共通する部分に同一の符号を付与しており、
図2では、
図1における一部の構成を省略している。本実施形態では、回転電機3が「駆動力源」に相当する。入力部材20に駆動連結される駆動力源は、回転電機に限られず、他の種類の駆動力源(例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関)であってもよい。また、入力部材20に駆動連結される駆動力源は、同じ種類又は異なる種類の複数の駆動力源であってもよい。
【0014】
図1に示すように、回転電機3は、直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータ装置6を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置7と電気的に接続されている。回転電機3は、蓄電装置7から電力の供給を受けて力行し、或いは、車両1の慣性力等により発電した電力を蓄電装置7に供給して蓄電させる。回転電機3として、3相交流(多相交流の一例)で駆動される交流回転電機を用いることができる。
【0015】
図1及び
図2に示す2つの例では、入力部材20は、駆動力源の出力部材(ここでは、回転電機3のロータ軸)と一体的に回転するように、当該出力部材に連結されている。また、これら2つの例では、出力部材30は、2つの車輪2に駆動連結されている。具体的には、出力部材30は、出力用差動歯車装置31を介して2つの車輪2(例えば、2つの前輪又は2つの後輪)に連結されている。出力用差動歯車装置31は、例えば傘歯車式又は遊星歯車式等の差動歯車機構を備え、差動入力ギヤとして機能する出力部材30の回転を2つの車輪2に分配する。
図1に示すように、車両1には、車輪2に連結される車軸2aが設けられている。車軸2aは、車輪2と一体的に回転する軸部材(ドライブシャフト)である。
図1に示す例では、車軸2aは、出力用差動歯車装置31と車輪2とを連結しており、出力用差動歯車装置31は、出力部材30の回転を2つの車軸2aに分配することで、出力部材30の回転を2つの車輪2に分配する。出力部材30が、2つの車輪2ではなく1つの車輪2(すなわち、2つの車軸2aではなく1つの車軸2a)に駆動連結される構成とすることもできる。
【0016】
変速機10は、入力部材20の回転を変速して出力部材30に伝達する。変速機10は、出力部材30の回転速度に対する入力部材20の回転速度の比である変速比を変更可能に構成されている。変速機10は、変速比の異なる複数の変速段を形成可能な有段の自動変速機であり、本実施形態では、第1変速段と、第1変速段より変速比の小さい第2変速段と、を形成可能に構成されている。変速機10は、第1係合装置11と第2係合装置12とを備えている。そして、変速機10は、第1係合装置11が係合し且つ第2係合装置12が解放した状態で第1変速段を形成し、第1係合装置11が解放し且つ第2係合装置12が係合した状態で第2変速段を形成するように構成されている。
【0017】
第1係合装置11は、噛み合い式の係合装置(ドグクラッチ)である。第1係合装置11の係合の状態は、係合状態と解放状態とに切り替えられる。第1係合装置11の係合の状態は、電動アクチュエータ、油圧アクチュエータ、電磁アクチュエータ等のアクチュエータ90によって切り替えられる。具体的には、
図1及び
図2に示すように、第1係合装置11は、アクチュエータ90により軸方向Lに駆動されるスリーブ部材15を備えており、第1係合装置11の係合の状態は、スリーブ部材15の軸方向Lの位置に応じて切り替えられる。ここで、軸方向Lは、第1係合装置11が配置される軸(
図1に示す例では中間部材40が配置される軸、
図2に示す例では入力部材20が配置される軸)に沿う方向である。
【0018】
第2係合装置12は、摩擦式の係合装置である。第2係合装置12として、例えば、湿式多板クラッチを用いることができる。第2係合装置12の係合の状態は、直結係合状態と滑り係合状態と解放状態とに切り替えられる。第2係合装置12の係合の状態は、電動アクチュエータ、油圧アクチュエータ(油圧サーボ機構等)、電磁アクチュエータ等のアクチュエータによって切り替えられる。直結係合状態では、第2係合装置12の係合部材間に回転速度差(滑り)がない状態で、静摩擦により係合部材間でトルクが伝達される。滑り係合状態では、第2係合装置12の係合部材間に回転速度差がある状態で、動摩擦により係合部材間でトルクが伝達される。摩擦式の係合装置には、制御装置5により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。本明細書では、このような引き摺りトルクは係合の状態の分類に際して考慮せず、伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合に係合部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じている状態(すなわち、引き摺りトルクが発生している状態)は「解放状態」とする。
【0019】
図1に示す例では、変速機10は、複数の平行な軸に配置された複数の歯車が相互に噛み合う構成を備えた平行軸歯車式の変速機である。
図1に示す変速機10は、入力部材20とそれぞれ同軸に配置された第1入力ギヤ21及び第2入力ギヤ22と、中間部材40とそれぞれ同軸に配置された第1中間ギヤ41及び第2中間ギヤ42を備えている。中間部材40は、入力部材20とは別軸(入力部材20が配置される軸と平行な軸)に配置されており、出力部材30を構成するギヤに噛み合う第3中間ギヤ43を備えている。第1中間ギヤ41は第1入力ギヤ21に噛み合い、第2中間ギヤ42は第2入力ギヤ22に噛み合っている。第1入力ギヤ21と第1中間ギヤ41とのギヤ比、及び第2入力ギヤ22と第2中間ギヤ42とのギヤ比は、第1中間ギヤ41の回転速度に対する第1入力ギヤ21の回転速度の比が第2中間ギヤ42の回転速度に対する第2入力ギヤ22の回転速度の比より大きくなるように設定されている。
【0020】
第1係合装置11が係合し且つ第2係合装置12が解放して第1変速段が形成された状態では、入力部材20と中間部材40とが第1入力ギヤ21と第1中間ギヤ41とのギヤ対を介して連結され、入力部材20の回転が当該ギヤ対のギヤ比に応じて変速されて中間部材40に伝達される。また、第1係合装置11が解放し且つ第2係合装置12が係合して第2変速段が形成された状態では、入力部材20と中間部材40とが第2入力ギヤ22と第2中間ギヤ42とのギヤ対を介して連結され、入力部材20の回転が当該ギヤ対のギヤ比に応じて変速されて中間部材40に伝達される。
【0021】
図1に示す例では、第1入力ギヤ21及び第2入力ギヤ22は、入力部材20と一体的に回転するように入力部材20に連結されている。そして、第1係合装置11は、第1中間ギヤ41と中間部材40とを選択的に連結し、第2係合装置12は、第2中間ギヤ42と中間部材40とを選択的に連結する。第1係合装置11が係合して第1中間ギヤ41と中間部材40とが連結され、第2係合装置12が解放して第2中間ギヤ42と中間部材40との連結が解除された状態で、第1変速段が形成される。また、第1係合装置11が解放して第1中間ギヤ41と中間部材40との連結が解除され、第2係合装置12が係合して第2中間ギヤ42と中間部材40とが連結した状態で、第2変速段が形成される。
【0022】
図1に示す例では、スリーブ部材15は、中間部材40と一体的に回転する第3係合部40aに外嵌するように配置されている。すなわち、スリーブ部材15は、中間部材40と一体的に回転する。具体的には、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第3係合部40aの外周部に形成された外歯に、相対回転が規制され且つ軸方向Lの相対移動が許容される形態で係合している(具体的には、スプライン係合している)。そして、スリーブ部材15が、第3係合部40aと、第1中間ギヤ41と一体的に回転する第1係合部41aとの双方に係合する軸方向Lの位置(
図1に示す係合位置P1)に移動した状態で、第1係合装置11が係合して第1中間ギヤ41と中間部材40とが連結される。この状態では、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第3係合部40aの外周部に形成された外歯と第1係合部41aの外周部に形成された外歯との双方に係合している。また、スリーブ部材15が、第1係合部41aに係合しない軸方向Lの位置(例えば、
図1に示す解放位置P2)に移動した状態で、第1係合装置11が解放して第1中間ギヤ41と中間部材40との連結が解除される。
【0023】
図1に示す例では、変速機10は、更に、第3係合装置13を備えている。第3係合装置13は、第2係合装置12と並列に設けられており、第2中間ギヤ42と中間部材40とを選択的に連結する。よって、第2係合装置12に代えて第3係合装置13を係合させることでも、第2変速段が形成される。第3係合装置13は、噛み合い式の係合装置である。
図1に示す例では、第1係合装置11と第3係合装置13とが共通のスリーブ部材15を用いて構成されており、第3係合装置13の係合の状態は、スリーブ部材15の軸方向Lの位置に応じて切り替えられる。具体的には、スリーブ部材15が、第3係合部40aと、第2中間ギヤ42と一体的に回転する第2係合部42aとの双方に係合する軸方向Lの位置(
図1に示す解放位置P2より図中左側の位置)に移動した状態で、第3係合装置13が係合して第2中間ギヤ42と中間部材40とが連結される。この状態では、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第3係合部40aの外周部に形成された外歯と第2係合部42aの外周部に形成された外歯との双方に係合している。また、スリーブ部材15が、第2係合部42aに係合しない軸方向Lの位置(例えば、
図1に示す解放位置P2)に移動した状態で、第3係合装置13が解放されて第2中間ギヤ42と中間部材40との連結が解除される。
【0024】
図2に示す例では、変速機10は、1つ以上の遊星歯車機構(ここでは、1つの遊星歯車機構50)を用いて構成される遊星歯車式の変速機である。遊星歯車機構50は、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、サンギヤ51と、リングギヤ52と、サンギヤ51及びリングギヤ52の双方に噛み合うピニオンギヤ53を回転自在に支持するキャリヤ54と、を備えている。リングギヤ52は、入力部材20と一体的に回転するように入力部材20に連結され、キャリヤ54は、出力部材30を構成するギヤに噛み合う出力ギヤ55と一体的に回転するように出力ギヤ55に連結されている。
【0025】
図2に示す例では、第1係合装置11は、サンギヤ51を車両用駆動伝達装置4のケース9(固定部材の一例)に選択的に固定し、第2係合装置12は、サンギヤ51とキャリヤ54とを選択的に連結する。第1係合装置11が係合してサンギヤ51がケース9に固定され、第2係合装置12が解放してサンギヤ51とキャリヤ54との連結が解除された状態で、第1変速段が形成される。この状態では、入力部材20の回転が、遊星歯車機構50のギヤ比に応じて減速されて、出力ギヤ55に伝達される。また、第1係合装置11が解放してサンギヤ51がケース9から切り離され、第2係合装置12が係合してサンギヤ51とキャリヤ54とが連結した状態で、第2変速段が形成される。この状態では、入力部材20の回転が、そのままの回転速度で出力ギヤ55に伝達される。
【0026】
図2に示す例では、スリーブ部材15は、サンギヤ51と一体的に回転する第4係合部51aに外嵌するように配置されている。具体的には、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第4係合部51aの外周部に形成された外歯に、相対回転が規制され且つ軸方向Lの相対移動が許容される形態で係合している(具体的には、スプライン係合している)。そして、スリーブ部材15が、第4係合部51aとケース9に固定された第5係合部9aとの双方に係合する軸方向Lの位置(
図2に示すスリーブ部材15の位置より図中右側の位置)に移動した状態で、第1係合装置11が係合してサンギヤ51がケース9に固定される。この状態では、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯が、第4係合部51aの外周部に形成された外歯と第5係合部9aの外周部に形成された外歯との双方に係合している。また、スリーブ部材15が、第5係合部9aに係合しない軸方向Lの位置(例えば、
図2に示すスリーブ部材15の位置)に移動した状態で、第1係合装置11が解放されてサンギヤ51がケース9から切り離される。
【0027】
次に、制御装置5の構成について説明する。制御装置5は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の当該演算処理装置が参照可能な記憶装置を備えている。そして、ROM等の記憶装置に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置5の各機能が実現される。制御装置5が備える演算処理装置は、各プログラムを実行するコンピュータとして動作する。
【0028】
図1に簡略化して示すように、車両1にはセンサ群8が設けられており、制御装置5は、センサ群8を構成する各種センサの検出情報(センサ検出情報)を取得可能に構成されている。センサ検出情報には、例えば、アクセル開度の情報、ブレーキ操作量の情報、車速の情報、入力部材20の回転速度の情報、出力部材30の回転速度の情報、車両1の運転者によるレンジ(走行レンジ、ニュートラルレンジ、パーキングレンジ等)の選択操作の情報、車両1の運転者による変速段の変更操作(シフト操作)の情報、スリーブ部材15の軸方向Lの位置或いは移動量の情報が含まれる。
【0029】
制御装置5は、変速機10が形成する変速段を第1変速段から第2変速段に移行させるアップシフトを行う場合に、係合制御と解放制御とを実行する。すなわち、制御装置5は、第1係合装置11が係合し且つ第2係合装置12が解放した状態(
図1に示す例では、更に、第3係合装置13が解放した状態)から、第1係合装置11を解放させると共に第2係合装置12を係合させてアップシフトを行う場合に、係合制御と解放制御とを実行する。
【0030】
ここで、係合制御は、第2係合装置12の係合圧を漸増させる制御である。制御装置5は、第2係合装置12のアクチュエータの動作を制御して、第2係合装置12の係合圧を漸増させる。制御装置5は、係合制御では、第2係合装置12の係合圧をゼロから漸増させる。第2係合装置12の伝達トルク容量(摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさ)は、第2係合装置12の係合圧が大きくなるに従って大きくなる。そのため、第2係合装置12の係合圧が大きくなるに従って、変速機10が伝達するトルクのうちの第2係合装置12が分担する割合が高くなり、これに伴い第1係合装置11の伝達トルクが低下する。
【0031】
本実施形態では、制御装置5は、係合制御では、第2係合装置12の係合圧を、第2係合装置12の伝達トルク容量が回転電機3からの入力部材20への入力トルクに応じた大きさとなる対象係合圧(後に参照する
図4に示す例では、“P1”で示す係合圧)に向けて漸増させる。ここで、回転電機3からの入力部材20への入力トルクに応じた大きさとは、当該入力トルクを第2係合装置12でのトルクに換算したトルクの大きさであり、当該入力トルクの大きさと、入力部材20と第2係合装置12との間の変速比と、に応じて定まる。このように第2係合装置12の係合圧が対象係合圧に向けて漸増されるため、第1係合装置11の伝達トルクは、ゼロに向かって漸減する。
【0032】
解放制御は、第1係合装置11を解放するための力である解放力(抜き力)を第1係合装置11における噛み合い部(歯と歯の噛み合い部)に作用させる制御である。ここでの第1係合装置11における噛み合い部は、第1係合装置11が係合している状態での噛み合い部である。第1係合装置11の伝達トルクの低下に伴い、第1係合装置11における噛み合い部に作用する摩擦力が低下する。そして、第1係合装置11の伝達トルクの低下に伴い、第1係合装置11における噛み合い部に作用する摩擦力が、噛み合い部に作用する解放力によって第1係合装置11を解放可能な程度まで低下すると、第1係合装置11が当該解放力によって解放される。
【0033】
制御装置5は、第1係合装置11のアクチュエータ90の動作を制御して、解放力を第1係合装置11における噛み合い部に作用させる。本実施形態では、第1係合装置11のアクチュエータ90は、スリーブ部材15を軸方向Lに駆動するアクチュエータであり、制御装置5は、当該アクチュエータ90の動作を制御して、スリーブ部材15に軸方向Lの推力を付与する。この推力の向きは、スリーブ部材15を、第1係合装置11が係合する位置(係合位置P1、
図1参照)から第1係合装置11が解放される位置(解放位置P2、
図1参照)に向けて移動させる向きとされる。なお、
図1では、係合位置P1に位置する状態のスリーブ部材15を第3係合部40aに対して下側に示し、解放位置P2に位置する状態のスリーブ部材15を第3係合部40aに対して上側に示している。スリーブ部材15に付与される軸方向Lの推力が、第1係合装置11における噛み合い部に解放力として作用する。すなわち、本実施形態では、解放力は、スリーブ部材15を係合位置P1から解放位置P2に向けて軸方向Lに移動させる力である。
【0034】
図1に示す例では、解放制御では、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯と第1係合部41aの外周部に形成された外歯との噛み合い部、及び、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯と第3係合部40aの外周部に形成された外歯との噛み合い部に、解放力(具体的には、スリーブ部材15を
図1における左側に移動させる力)が付与される。また、
図2に示す例では、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯と第4係合部51aの外周部に形成された外歯との噛み合い部、及び、スリーブ部材15の内周部に形成された内歯と第5係合部9aの外周部に形成された外歯との噛み合い部に、解放力(具体的には、スリーブ部材15を
図2における左側に移動させる力)が付与される。
【0035】
図1に示す例について、以下に具体的に説明する。
図1に示すように、変速機10は、第1軸A1上に、第1回転部材61、第1ギヤ71、及び、第2ギヤ72を備え、第1軸A1とは異なる第2軸A2上に、第2回転部材62、第1ギヤ71に噛み合う第3ギヤ73、及び、第2ギヤ72に噛み合う第4ギヤ74を備えている。第1ギヤ71は、第1回転部材61と一体的に回転し、第3ギヤ73は、第2回転部材62に対して相対回転可能に配置されている。なお、第1軸A1及び第2軸A2は、互いに平行に配置されている。また、第1軸A1及び第2軸A2は、仮想軸である。
【0036】
第1係合装置11は、第2回転部材62と一体的に回転するスリーブ部材15と、第3ギヤ73と一体的に回転する第1係合部41aと、を備えている。スリーブ部材15は、係合位置P1と解放位置P2との間で軸方向L(第1軸A1及び第2軸A2に平行な方向)に移動可能である。ここで、係合位置P1は、スリーブ部材15と第1係合部41aとが係合して、第1ギヤ対81(第1ギヤ71と第3ギヤ73とのギヤ対)を介して第1回転部材61と第2回転部材62とが連結される位置である。また、解放位置P2は、スリーブ部材15と第1係合部41aとの係合が解除されて、第1ギヤ対81を介した第1回転部材61と第2回転部材62との連結が解除される位置である。
図1に示す例では、第1係合部41aが「係合部」に相当する。
【0037】
上述したように、第1ギヤ71は、第1回転部材61と一体的に回転する。そのため、第1係合装置11が係合した状態(言い換えれば、スリーブ部材15が係合位置P1に位置する状態)では、第3ギヤ73が第2回転部材62と一体的に回転するように連結されることで、第1ギヤ対81を介して第1回転部材61と第2回転部材62とが連結される。第1変速段は、第1ギヤ対81を介して第1回転部材61と第2回転部材62とが連結された状態で実現される。すなわち、第1変速段は、スリーブ部材15が係合位置P1に位置する状態で実現される。
【0038】
第2係合装置12は、第2ギヤ対82(第2ギヤ72と第4ギヤ74とのギヤ対)を介した第1回転部材61と第2回転部材62との間の伝達トルクを調整するように設けられている。第2変速段は、第2ギヤ対82を介して第1回転部材61と第2回転部材62とが連結された状態で実現される。具体的には、第2変速段は、第2ギヤ対82を介して第1回転部材61と第2回転部材62とが連結され、更に、第1ギヤ対81を介した第1回転部材61と第2回転部材62との連結が解除された状態で実現される。
【0039】
そして、制御装置5は、係合制御では、第2係合装置12の係合圧を漸増させて第2ギヤ対82を介した第1回転部材61と第2回転部材62との間の伝達トルクを漸増させることで、スリーブ部材15と第1係合部41aとの間の伝達トルクを減少させる。また、制御装置5は、解放制御では、軸方向Lに沿って係合位置P1から解放位置P2に向かう推力をスリーブ部材15に付与することで、解放力を噛み合い部に作用させる。
【0040】
第1回転部材61は、第2回転部材62を介さずに、入力部材20及び出力部材30の一方に駆動連結され、第2回転部材62は、第1回転部材61を介さずに、入力部材20及び出力部材30の他方に駆動連結される。
図1に示す例では、第1回転部材61は、第2回転部材62を介さずに入力部材20に駆動連結され、第2回転部材62は、第1回転部材61を介さずに出力部材30に駆動連結されている。具体的には、第1軸A1は、入力部材20が配置される軸であり、第1回転部材61は、入力部材20と一体的に回転する。第1回転部材61は、例えば、入力部材20と一体的に回転するように連結され、或いは、入力部材20と共通の回転部材とされる。また、第2軸A2は、中間部材40が配置される軸であり、第2回転部材62は、中間部材40と一体的に回転する。第2回転部材62は、例えば、中間部材40と一体的に回転するように連結され、或いは、中間部材40と共通の回転部材とされる。そして、
図1に示す例では、第1ギヤ71は第1入力ギヤ21であり、第2ギヤ72は第2入力ギヤ22であり、第3ギヤ73は第1中間ギヤ41であり、第4ギヤ74は第2中間ギヤ42である。
【0041】
また、
図1に示す例では、第2ギヤ72は、第1回転部材61と一体的に回転し、第4ギヤ74は、第2回転部材62に対して相対回転可能に配置されている。そして、第2係合装置12は、第4ギヤ74と第2回転部材62との間(
図1に示す例では、第2中間ギヤ42と中間部材40との間)の伝達トルクを調整することで、第2ギヤ対82を介した第1回転部材61と第2回転部材62との間の伝達トルクを調整するように設けられている。
【0042】
なお、
図1に示す例とは異なり、第1回転部材61が、第2回転部材62を介さずに出力部材30に駆動連結され、第2回転部材62が、第1回転部材61を介さずに入力部材20に駆動連結される構成とすることもできる。例えば、
図1に示す例を、以下のような構成に変更することができる。第1軸A1は、中間部材40が配置される軸であり、第1回転部材61は、中間部材40と一体的に回転する。第1回転部材61は、例えば、中間部材40と一体的に回転するように連結され、或いは、中間部材40と共通の回転部材とされる。また、第2軸A2は、入力部材20が配置される軸であり、第2回転部材62は、入力部材20と一体的に回転する。第2回転部材62は、例えば、入力部材20と一体的に回転するように連結され、或いは、入力部材20と共通の回転部材とされる。この場合、第1中間ギヤ41が第1ギヤ71となり、第2中間ギヤ42が第2ギヤ72となり、第1入力ギヤ21が第3ギヤ73となり、第2入力ギヤ22が第4ギヤ74となる。
【0043】
また、
図1に示す例とは異なり、第4ギヤ74が、第2回転部材62と一体的に回転し、第2ギヤ72が、第1回転部材61に対して相対回転可能に配置される構成とすることもできる。この場合、第2係合装置12は、第2ギヤ72と第1回転部材61との間(
図1に示す例に適用した場合には、第2入力ギヤ22と入力部材20との間)の伝達トルクを調整することで、第2ギヤ対82を介した第1回転部材61と第2回転部材62との間の伝達トルクを調整するように設けられる。
【0044】
以上のように、アップシフトを行う場合には、係合制御及び解放制御が実行され、第1係合装置11の伝達トルクが解放力に応じたトルク以下まで低下した際に、第1係合装置11が解放される。第1係合装置11の解放時には、第1係合装置11の伝達トルクが急に低下することで、車両1に比較的大きな加速度変動(具体的には、前後加速度変動)が発生する可能性がある。ここで、単純化したモデルで考えると、第1係合装置11の解放直前の伝達トルクをT0とし、第1係合装置11が係合している状態での第1係合装置11から車軸2aまでの減速比をNとし、第1係合装置11が係合している状態での第1係合装置11から車軸2aまでの動力の伝達効率をηとして、第1係合装置11の解放時にはT0×N×ηの大きさのトルク変動が車軸2aに発生する。動力の伝達効率は、ギヤの噛み合い損失等に応じて定まる。
【0045】
図1に示す例では、出力部材30の回転速度に対する第3中間ギヤ43の回転速度の比(すなわち、出力用差動歯車装置31の減速比)がNとなる。
図1に示す変速機10を、第1中間ギヤ41が中間部材40と一体的に回転するように中間部材40に連結され、第1係合装置11が第1入力ギヤ21と入力部材20とを選択的に連結する構成に改変した場合には、第1変速段の変速比と出力用差動歯車装置31の減速比との積がNとなる。一方、
図2に示す例では、第1係合装置11はブレーキであり、第1係合装置11が係合している状態では第1係合装置11の回転速度はゼロとなる。この場合、例えば、第1係合装置11が係合し且つ第2係合装置12が解放している状態での、損失を無視した場合の車軸2aのトルクに対する第1係合装置11の伝達トルク(ブレーキトルク)の比(トルク伝達比)の逆数を、第1係合装置11が係合している状態での第1係合装置11から車軸2aまでの減速比とみなしてNを定めるとよい。このように、第1係合装置11が係合している状態での第1係合装置11から車軸2aまでの減速比をNとすることは、第1係合装置11が係合している状態での第1係合装置11から車軸2aまでのトルク伝達比(但し、損失は無視する)の逆数をNとすることと等価である。
【0046】
上記のように、単純化したモデルで考えると、第1係合装置11の解放時には、T0×N×ηの大きさのトルク変動が車軸2aに発生する。この点に鑑みて、本実施形態では、車両用駆動伝達装置4が搭載される車両1の加速度変動(具体的には、前後加速度変動)の許容最大値に応じて定まる、車軸2aのトルク変動の許容最大値をTとして、制御装置5は、解放制御における解放力を、第1係合装置11の伝達トルクがT/(N×η)である状態で第1係合装置11が解放される大きさ以下に制限するように構成されている。このように解放力の大きさを制限することで、第1係合装置11の解放直前の伝達トルクであるT0を、T/(N×η)以下に抑えることができる。よって、車軸2aに発生するトルク変動を{T/(N×η)}×N×η以下(すなわち、T以下)に抑えることができ、この結果、車両1に発生し得る加速度変動を小さく(具体的には、許容最大値以下に)抑えることが可能となっている。
【0047】
なお、車両1の加速度変動(具体的には、前後加速度変動)の許容最大値(但し、重力加速度を1とする単位系で表した数値)をGとし、車両1の重量をMとし、車輪2の半径(具体的には、動半径)をrとし、重力加速度(具体的には、標準重力加速度)をgとして、車軸2aのトルク変動の許容最大値であるTは、G×M×g×rにより導出される値とすることができる。Gの値は、車両1の乗員が車両1の加速度変動を感じない値に設定すると好適である。Gの値は、例えば、0.1以下とし、好ましくは0.05以下とし、より好ましくは0.03以下とすると好適である。
【0048】
制御装置5は、変速機10が形成する変速段を第1変速段から第2変速段に移行させるアップシフトを行う場合に、例えば
図3の処理手順に沿って係合制御及び解放制御を実行する。制御装置5は、アップシフト要求があると(ステップ#01:Yes)、係合制御を開始する(ステップ#02)。制御装置5は、例えば、センサ検出情報(例えば、アクセル開度及び車速の情報)に基づき決定される目標変速段が第1変速段から第2変速段に変更された場合や、車両1の運転者による第1変速段から第2変速段へのシフト操作が検出された場合に、アップシフト要求があると判定する。
【0049】
制御装置5は、係合制御を開始した後、解放制御の開始条件が成立したか否かを判定し(ステップ#03)、開始条件が成立したと判定すると(ステップ#03:Yes)、解放制御を開始する(ステップ#04)。このように、
図3に示す手順に沿ってアップシフトを行う場合、制御装置5は、係合制御の開始に合わせて解放制御を開始せず、係合制御を開始した後、解放制御の開始条件が成立した場合に、解放制御を開始する。そして、制御装置5は、解放制御を開始した後、第1係合装置11が解放したか否かを判定する(ステップ#05)。制御装置5は、センサ検出情報に基づき、第1係合装置11が解放したか否かの判定を行う。例えば、スリーブ部材15が規定位置まで移動した場合に、第1係合装置11が解放したと判定される構成や、スリーブ部材15の軸方向Lの移動量が規定量に達した場合に、第1係合装置11が解放したと判定される構成とすることができる。
【0050】
制御装置5は、第1係合装置11が解放されるまでの間(ステップ#05:No)、解放制御を継続的に実行し、第1係合装置11が解放されると(ステップ#05:Yes)、係合制御及び解放制御を終了する。そして、制御装置5は、出力部材30の回転速度と第2変速段の変速比とに応じて定まる入力部材20の回転速度を同期回転速度として、入力部材20の回転速度を同期回転速度に近づけるように回転電機3からの入力部材20への入力トルクを制御する同期制御を行い(ステップ#06)、アップシフトが完了する。同期回転速度は、具体的には、出力部材30の回転速度に第2変速段の変速比を乗算した回転速度である。制御装置5は、インバータ装置6の動作を制御して回転電機3の出力トルクを制御することで、入力部材20の回転速度を同期回転速度に近づけるように入力トルクを制御する。
図1に例示する車両用駆動伝達装置4のように、車両用駆動伝達装置4が第2係合装置12と並列に第3係合装置13を備える場合には、制御装置5は、例えば、同期制御の完了後に、第3係合装置13を係合すると共に第2係合装置12を解放する制御を行う。
【0051】
図4は、制御装置5が
図3に示す処理手順に沿ってアップシフトを行う場合の制御挙動の一例を示している。
図4では、入力部材20の回転速度である入力回転速度のグラフ、回転電機3の出力トルクである回転電機トルクのグラフ、第1係合装置11及び第2係合装置12のそれぞれの伝達トルクのグラフ、第1係合装置11が備えるスリーブ部材15のストローク(軸方向Lの位置)のグラフ、第1係合装置11の電動アクチュエータを駆動する駆動電流のグラフ、第2係合装置12の係合圧(具体的には、係合圧の指令値)のグラフ、車両1の加速度である車両加速度のグラフを、上から順に示している。入力回転速度のグラフにおいて、“1st”で示す回転速度は、出力部材30の回転速度に第1変速段の変速比を乗算した回転速度であり、“2nd”で示す回転速度は、出力部材30の回転速度に第2変速段の変速比を乗算した回転速度(上述した同期回転速度)である。
【0052】
図4では、時刻t1より前の時点において、第1係合装置11が係合し且つ第2係合装置12が解放している状態で(すなわち、変速機10が第1変速段を形成している状態で)、車両1が走行している状況を想定している。そして、時刻t1においてアップシフト要求があると、制御装置5により係合制御が開始される。ここでは、第2係合装置12のアクチュエータが油圧アクチュエータ(具体的には、油圧サーボ機構)である場合を想定している。そのため、制御装置5は、係合制御を開始する時刻t1において、第2係合装置12の係合圧を上昇させるための準備制御(具体的には、作動油を予備充填する制御)を開始する。その後、制御装置5は、時刻t2において、第2係合装置12の係合圧を漸増させる(具体的には、作動油の予備充填後の値から漸増させる)制御を開始する。
【0053】
時刻t2以降、第2係合装置12の係合圧が大きくなるに従って、第1係合装置11の伝達トルクが低下する。
図4に示す例では、時刻t2以降、変速比の低下による車輪伝達トルク(変速機10の側から車輪2に伝達されるトルク)の減少を補うように、回転電機3の出力トルクが漸増している。
図4では、制御装置5が、第2係合装置12の係合圧が対象係合圧より低い設定係合圧に到達する到達時点以降の、第2係合装置12の係合圧の変化率を、到達時点より前の第2係合装置12の係合圧の変化率より小さくする場合を想定している。上述したように、対象係合圧は、第2係合装置12の伝達トルク容量が回転電機3からの入力部材20への入力トルクに応じた大きさとなる係合圧である。
図4では、“P1”で示す係合圧が対象係合圧であり、“P2”で示す係合圧が設定係合圧であり、時刻t3が到達時点である。
【0054】
アップシフトに要する時間の短縮の観点から、係合制御における第2係合装置12の係合圧の変化率を大きくすることが考えられる。しかし、摩擦式の第2係合装置12には一般に係合圧の指令値に対する実係合圧にばらつきがあるため、第2係合装置12の係合圧の変化率が大きい場合には、車軸2aのトルク変動を誘発する状況(例えば、第1係合装置11が解放される前に第2係合装置12の実係合圧が大きくなり過ぎる状況)が発生しやすくなる。制御装置5が、到達時点以降の第2係合装置12の係合圧の変化率を、到達時点より前の第2係合装置12の係合圧の変化率より小さくする場合には、到達時点より前の期間では第2係合装置12の係合圧の変化率を大きくして、アップシフトに要する時間の短縮を図りつつ、到達時点以降の期間では第2係合装置12の係合圧の変化率を小さくして、車軸2aのトルク変動を誘発する状況を発生し難くすることができる。
【0055】
図4に示すように、第2係合装置12の係合圧が時刻t3において設定係合圧に到達すると、制御装置5は、解放制御を開始する。すなわち、
図4に示す例では、解放制御の開始条件(
図3におけるステップ#03)は、第2係合装置12の係合圧が設定係合圧に到達したことである。このように、ここでは、制御装置5が、解放制御を、第2係合装置12の係合圧が設定係合圧に到達する到達時点以降に開始する場合を想定しており、
図4では、制御装置5が、解放制御を到達時点に開始している。制御装置5は、例えば、第2係合装置12の係合圧の指令値に基づき、当該指令値が設定係合圧に到達した場合に、第2係合装置12の係合圧が設定係合圧に到達したと(言い換えれば、到達時点に到達したと)判定する。或いは、制御装置5は、例えば、第2係合装置12の係合圧の漸増の開始時点からの経過時間が設定時間(例えば、学習に基づき設定された時間)経過した場合に、第2係合装置12の係合圧が設定係合圧に到達したと判定する。
【0056】
制御装置5が解放制御を到達時点以降に開始する場合、設定係合圧を適切に設定することで、第1係合装置11の伝達トルクが第1係合装置11を解放することができる程度(或いはそれに近い程度)に低下してから、解放制御を開始することができる。そのため、解放制御の開始時期が早すぎることによる無駄なエネルギの消費を抑制しやすい。
【0057】
制御装置5は、時刻t3において解放制御を開始すると、第1係合装置11のアクチュエータ90の動作を制御して、解放力を第1係合装置11における噛み合い部に作用させる。上述したように、本実施形態では、制御装置5は、解放制御における解放力を、第1係合装置11の伝達トルクがT/(N×η)である状態で第1係合装置11が解放される大きさ以下に制限する。
図4では、第1係合装置11のアクチュエータ90が電動アクチュエータである場合を想定しており、当該電動アクチュエータに印加される駆動電流に応じた大きさの解放力が、第1係合装置11における噛み合い部に作用する。制御装置5は、第1係合装置11の電動アクチュエータに印加する駆動電流を制限することで、解放制御における解放力を上記の大きさ以下に制限する。
【0058】
図4では、第1係合装置11の電動アクチュエータに印加される負の駆動電流の絶対値が大きくなるに従って、解放力が大きくなる場合を想定しており、駆動電流が“Lim”で示される負の電流である場合に、第1係合装置11の噛み合い部に作用する解放力が、第1係合装置11の伝達トルクがT/(N×η)である状態で第1係合装置11が解放される大きさとなる。そのため、第1係合装置11の電動アクチュエータに印加される負の駆動電流の絶対値を、“Lim”で示される負の電流の絶対値以下に制限することで、第1係合装置11の噛み合い部に作用する解放力が上記の大きさ以下となる。
図4では、制御装置5が、第1係合装置11の電動アクチュエータに印加する負の駆動電流を“Lim”で示す負の電流に合わせる制御を行う場合を例示している。このように、
図4に示す例では、制御装置5は、解放制御では、解放力の大きさが一定となるように制御する解放力維持制御を行う。
図4では、第1係合装置11の係合と解放との切り替えを行うアクチュエータ90が、駆動電流の大きさに応じた大きさの駆動力を発生する電動アクチュエータである場合を想定しているため、解放力維持制御は、駆動電流の大きさを一定に維持する制御とされる。
【0059】
図4では、解放制御が開始された後の時刻t4において、第1係合装置11の伝達トルクが、第1係合装置11の噛み合い部に作用する解放力によってスリーブ部材15が軸方向Lに移動可能となる程度まで低下して、スリーブ部材15が、第1係合装置11が係合する位置(係合位置P1)から第1係合装置11が解放される位置(解放位置P2)に向けて移動し始める。そして、時刻t5において、第1係合装置11の伝達トルクが、噛み合い部に作用する解放力によって第1係合装置11を解放可能な程度まで低下すると、第1係合装置11が当該解放力によって解放される。第1係合装置11の解放に伴い第1係合装置11の伝達トルクが急にゼロになることで、時刻t5において車両1に加速度変動が発生する。その後、時刻t6において第2係合装置12の係合圧が対象係合圧(“P1”で示す係合圧)に到達し、時刻t7においてスリーブ部材15が解放位置P2に到達すると、制御装置5は、時刻t8において上述した同期制御(
図3におけるステップ#06)を開始し、入力部材20の回転速度が同期回転速度(
図4において“2nd”で示す回転速度)に到達するとアップシフトが完了する。図示は省略するが、制御装置5は、その後、例えば、第3係合装置13を係合すると共に第2係合装置12を解放する制御を行い、或いは、第2係合装置12の係合圧を上昇させる(例えば、ライン圧まで上昇させる)制御を行う。なお、解放位置P2は、車両1の加減速等を考慮しても確実に第1係合装置11が解放したと保証される位置に設定される。
【0060】
ところで、
図4に示すように、第2係合装置12の係合圧が大きくなるに従って、第2係合装置12の伝達トルクが大きくなり、第2係合装置12の係合圧が対象係合圧(“P1”で示す係合圧)に到達すると、第2係合装置12の伝達トルクが、回転電機3からの入力部材20への入力トルクに応じた対象トルク(“T1”で示すトルク)に到達する。
図4では、第2係合装置12の係合圧が設定係合圧(“P2”で示す係合圧)に到達する時点の第2係合装置12の伝達トルクを、対象トルクより小さい設定トルク(“T2”で示すトルク)としている。そのため、
図4に示す例では、解放制御が、第2係合装置12の伝達トルクが設定トルクに到達する時点以降に(具体的には、当該時点に)開始されている。なお、設定トルクを、第2係合装置12の係合圧が設定係合圧に到達する時点の第2係合装置12の伝達トルクとは異ならせてもよい。
【0061】
このように、
図4に示す例では、制御装置5は、第2係合装置12の伝達トルクが、回転電機3からの入力部材20への入力トルクに応じた対象トルクより小さい設定トルクに到達する時点以降に(ここでは、当該時点に)、解放制御を開始する。この場合、設定トルクを適切に設定することで、第2係合装置12の伝達トルクの上昇に伴い低下する第1係合装置11の伝達トルクが、第1係合装置11を解放することができる程度(或いはそれに近い程度)に低下してから、解放制御を開始することができる。そのため、解放制御の開始時期が早すぎることによる無駄なエネルギの消費を抑制しやすい。
【0062】
制御装置5が、第2係合装置12の伝達トルクが設定トルクに到達する時点以降に解放制御を開始する構成とする場合、解放制御の開始条件(
図3におけるステップ#03)を、第2係合装置12の伝達トルクが設定トルクに到達したこととすることができる。制御装置5は、例えば、第2係合装置12の伝達トルクの推定値に基づき、当該推定値が設定トルクに到達した場合に、第2係合装置12の伝達トルクが設定トルクに到達したと判定する。
【0063】
〔その他の実施形態〕
次に、制御装置のその他の実施形態について説明する。
【0064】
(1)
図4では、制御装置5が、係合制御において、第2係合装置12の係合圧が対象係合圧より低い設定係合圧に到達する到達時点以降の、第2係合装置12の係合圧の変化率を、到達時点より前の第2係合装置12の係合圧の変化率より小さくする場合を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、例えば、制御装置5が、係合制御において、第2係合装置12の係合圧を対象係合圧に到達するまで一定の変化率で漸増させてもよい。
【0065】
(2)
図4では、制御装置5が、解放制御を、第2係合装置12の係合圧が設定係合圧に到達する到達時点に開始する場合を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、制御装置5が解放制御を到達時点より後に開始する構成とすることもできる。また、制御装置5が解放制御を到達時点より前に開始する構成とすることもでき、例えば、制御装置5が解放制御を係合制御と同時或いは同時期に開始する構成とすることができる。
【0066】
(3)
図4では、制御装置5が、解放制御を、第2係合装置12の伝達トルクが設定トルクに到達する時点に開始する場合を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、制御装置5が解放制御を当該時点より後に開始する構成とすることもできる。また、制御装置5が解放制御を当該時点より前に開始する構成とすることもでき、例えば、制御装置5が解放制御を係合制御と同時或いは同時期に開始する構成とすることができる。
【0067】
(4)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0068】
〔本実施形態のまとめ〕
以下、上記において説明した制御装置の概要について説明する。
【0069】
駆動力源(3)に駆動連結される入力部材(20)と、車輪(2)に駆動連結される出力部材(30)と、噛み合い式の第1係合装置(11)と摩擦式の第2係合装置(12)とを備えて前記入力部材(20)と前記出力部材(30)との間の動力伝達経路に配置された変速機(10)と、を備え、前記変速機(10)が、前記第1係合装置(11)が係合し且つ前記第2係合装置(12)が解放した状態で第1変速段を形成し、前記第1係合装置(11)が解放し且つ前記第2係合装置(12)が係合した状態で前記第1変速段より変速比の小さい第2変速段を形成する車両用駆動伝達装置(4)を、制御対象とする制御装置(5)であって、前記変速機(10)が形成する変速段を前記第1変速段から前記第2変速段に移行させるアップシフトを行う場合に、前記第2係合装置(12)の係合圧を漸増させる係合制御と、前記第1係合装置(11)を解放するための力である解放力を前記第1係合装置(11)における噛み合い部に作用させる解放制御と、を実行し、前記係合制御では、前記第2係合装置(12)の係合圧を、前記第2係合装置(12)の伝達トルク容量が前記駆動力源(3)からの前記入力部材(20)への入力トルクに応じた大きさとなる対象係合圧に向けて漸増させ、前記第2係合装置(12)の係合圧が前記対象係合圧より低い設定係合圧に到達する到達時点以降の、前記第2係合装置(12)の係合圧の変化率を、前記到達時点より前の前記第2係合装置(12)の係合圧の変化率より小さくし、前記解放制御を前記到達時点以降に開始する。
【0070】
本構成によれば、アップシフトを行う場合に係合制御及び解放制御が実行されるため、第1係合装置(11)の伝達トルクが解放力に応じたトルク以下まで低下した際に、第1係合装置(11)を解放することができる。ここで、係合制御では、到達時点以降の第2係合装置(12)の係合圧の変化率が、到達時点より前の第2係合装置(12)の係合圧の変化率より小さくされる。そのため、到達時点より前の期間では第2係合装置(12)の係合圧の変化率を大きくすることで、アップシフトに要する時間の短縮を図ることができる。また、到達時点以降の期間では第2係合装置(12)の係合圧の変化率を小さくすることで、例えば第1係合装置(11)が解放される前に第2係合装置(12)の係合圧が大きくなり過ぎる状況等、比較的大きな車両(1)の加速度変動を誘発する状況を発生し難くすることができる。
【0071】
以上のように、本構成によれば、アップシフトを行う場合に、アップシフトに要する時間の短縮を図りつつ車両(1)に発生する加速度変動を小さく抑えることが可能となっている。更に、本構成によれば、解放制御が到達時点以降に開始されるため、第1係合装置(11)の伝達トルクが第1係合装置(11)を解放することができる程度(或いはそれに近い程度)に低下してから、解放制御を開始することができる。よって、解放制御の開始時期が早すぎることによる無駄なエネルギの消費を抑制できるという利点もある。
【0072】
ここで、前記解放制御では、前記解放力の大きさが一定となるように制御する解放力維持制御を行うと好適である。
【0073】
第1係合装置(11)の解放時には、その時点での第1係合装置(11)の伝達トルクの大きさに応じた大きさの加速度変動が車両(1)に発生し得る。本構成によれば、解放制御において、解放力の大きさが一定となるように制御する解放力維持制御が行われるため、第1係合装置(11)の解放時に車両(1)に発生する加速度変動のばらつきを小さく抑えることができ、これにより、第1係合装置(11)の解放時に車両(1)に発生する加速度変動を小さく抑えやすくなる。
【0074】
上記のように前記解放制御では前記解放力維持制御を行う構成において、前記第1係合装置(11)の係合と解放との切り替えを行うアクチュエータ(90)が、駆動電流の大きさに応じた大きさの駆動力を発生する電動アクチュエータであり、前記解放力維持制御は、前記駆動電流の大きさを一定に維持する制御であると好適である。
【0075】
本構成によれば、第1係合装置(11)のアクチュエータ(90)が電動アクチュエータである場合に、解放力維持制御を適切に行うことができる。
【0076】
上記の各構成の制御装置(5)において、前記変速機(10)は、第1軸(A1)上に、第1回転部材(61)、第1ギヤ(71)、及び、第2ギヤ(72)を備え、前記第1軸(A1)とは異なる第2軸(A2)上に、第2回転部材(62)、前記第1ギヤ(71)に噛み合う第3ギヤ(73)、及び、前記第2ギヤ(72)に噛み合う第4ギヤ(74)を備え、前記第1ギヤ(71)は、前記第1回転部材(61)と一体的に回転し、前記第3ギヤ(73)は、前記第2回転部材(62)に対して相対回転可能に配置され、前記第1変速段は、前記第1ギヤ(71)と前記第3ギヤ(73)とのギヤ対である第1ギヤ対(81)を介して前記第1回転部材(61)と前記第2回転部材(62)とが連結された状態で実現され、前記第2変速段は、前記第2ギヤ(72)と前記第4ギヤ(74)とのギヤ対である第2ギヤ対(82)を介して前記第1回転部材(61)と前記第2回転部材(62)とが連結された状態で実現され、前記第1係合装置(11)は、前記第2回転部材(62)と一体的に回転するスリーブ部材(15)と、前記第3ギヤ(73)と一体的に回転する係合部(41a)と、を備え、前記スリーブ部材(15)は、前記スリーブ部材(15)と前記係合部(41a)とが係合して、前記第1ギヤ対(81)を介して前記第1回転部材(61)と前記第2回転部材(62)とが連結される係合位置(P1)と、前記スリーブ部材(15)と前記係合部(41a)との係合が解除されて、前記第1ギヤ対(81)を介した前記第1回転部材(61)と前記第2回転部材(62)との連結が解除される解放位置(P2)と、の間で軸方向(L)に移動可能であり、前記第2係合装置(12)は、前記第2ギヤ対(82)を介した前記第1回転部材(61)と前記第2回転部材(62)との間の伝達トルクを調整するように設けられ、前記係合制御では、前記第2係合装置(12)の係合圧を漸増させて前記第2ギヤ対(82)を介した前記第1回転部材(61)と前記第2回転部材(62)との間の伝達トルクを漸増させることで、前記スリーブ部材(15)と前記係合部(41a)との間の伝達トルクを減少させ、前記解放制御では、前記軸方向(L)に沿って前記係合位置(P1)から前記解放位置(P2)に向かう推力を前記スリーブ部材(15)に付与することで、前記解放力を前記噛み合い部に作用させると好適である。
【0077】
上記のように変速機(10)が構成される場合、係合位置(P1)に位置するスリーブ部材(15)を解放位置(P2)に移動させて、第1係合装置(11)を解放することで、アップシフトを行うことができる。本構成によれば、このようにアップシフトを行う場合に、係合制御の実行に伴い第1係合装置(11)の伝達トルク(具体的には、スリーブ部材(15)と係合部(41a)との間の伝達トルク)が減少している過程で、解放制御によってスリーブ部材(15)に付与される推力によってスリーブ部材(15)を係合位置(P1)から解放位置(P2)に移動させて、第1係合装置(11)を解放することができる。よって、上記のように変速機(10)が構成される場合に、係合制御及び解放制御を実行することでアップシフトを適切に行うことができる。
【0078】
本開示に係る制御装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。
【符号の説明】
【0079】
2:車輪、3:回転電機(駆動力源)、4:車両用駆動伝達装置、5:制御装置、10:変速機、11:第1係合装置、12:第2係合装置、15:スリーブ部材、20:入力部材、30:出力部材、41a:第1係合部(係合部)、61:第1回転部材、62:第2回転部材、71:第1ギヤ、72:第2ギヤ、73:第3ギヤ、74:第4ギヤ、81:第1ギヤ対、82:第2ギヤ対、90:アクチュエータ、A1:第1軸、A2:第2軸、L:軸方向、P1:係合位置、P2:解放位置