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特許7425423繊維強化材において繊維束の分布を評価するシステム
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  • 特許-繊維強化材において繊維束の分布を評価するシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】繊維強化材において繊維束の分布を評価するシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/36 20060101AFI20240124BHJP
   C04B 35/80 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
G01N33/36 B
C04B35/80
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022543273
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014487
(87)【国際公開番号】W WO2022038825
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2020137884
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 尚弘
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-156271(JP,A)
【文献】国際公開第2014/080622(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052489(WO,A1)
【文献】特開2008-122178(JP,A)
【文献】特表2017-507327(JP,A)
【文献】特開平11-254545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/36
G01N 23/04
C04B 35/80
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化材における繊維束の分布を、前記繊維束の3次元ベクトルデータにより評価するためのデータを表示するシステムであって、
前記繊維強化材を複数の3次元セルに分割し、前記3次元ベクトルデータから各セルに属する一以上の3次元ベクトルデータを選び出して前記3次元セルごとにそれぞれ平均することにより参照ベクトルデータを算出する算出手段と、
前記参照ベクトルデータを2次元的にまたは3次元的に表示する表示手段と、
を備えたシステム。
【請求項2】
前記参照ベクトルデータを基準データと比較する比較手段を、
さらに備える請求項1のシステム。
【請求項3】
前記比較手段は、前記参照ベクトルデータと前記基準データとの差分を算出し、前記差分の大きさを輝度または色相の差異に変換して前記表示手段に表示させる差分表示手段を備える、請求項2のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化材において繊維束の分布を評価するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
高強度の繊維(強化繊維)を母材(マトリックス)と複合した、所謂繊維強化材が種々に提案されている。強化繊維とマトリックスとが共にセラミックスよりなるセラミックス基繊維強化複合材料(CMC)は、軽さ、耐熱性および強度の点から、特に航空機の素材として注目されている。
【0003】
CMCは、通常、まず強化繊維よりなる織物を織布し、かかる織物に、気相含浸(CVI)、液相含浸(例えばポリマー溶融含浸熱分解(PIP))、固相含浸(SPI)、あるいは溶融含浸(MI)を適用し、セラミックスよりなるマトリックスを形成することにより製造される。3次元的な構造を与えようとするときには、織物を、予め、あるいはマトリックス形成と並行して、所望の形状に近似するよう成形しておく。
【0004】
繊維強化材の諸特性は必ずしも等方的ではなく、また均一でもない。強化繊維の分布、特にその走行する方向は、繊維強化材の特に強度に影響する。通常、強化繊維が走行する方向に沿うほど、またそれが密であるほど、相対的に高強度が期待できる。材料評価のため、またよりよいプロセスを模索するため、繊維強化材の内部における繊維束の分布を評価する手法の確立が望まれている。
【0005】
特許文献1,2は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開公報WO2014/080622
【文献】国際公開公報WO2016/052489
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
強化繊維よりなる織物を平坦なまま使用するときには、繊維束に乱れは生じないので、繊維強化材の内部における分布は容易に推測できる。ところが3次元的な構造物を成形するべく織物を成形するときには問題が生じうる。すなわち、セラミックスよりなる強化繊維はほとんど伸縮しないために、織物を曲げても伸縮が歪みを十分に吸収できずに、繊維束が変位して乱れを生じてしまう。乱れによって強化繊維が意図しない向きに走行することがありうるので、繊維強化材の内部における強化繊維の向きに関する知見は極めて重要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るシステムは、繊維強化材における繊維束の分布を、前記繊維束の3次元ベクトルデータにより評価するためのデータを表示するシステムであって、前記繊維強化材を複数の3次元セルに分割し、前記3次元ベクトルデータから各セルに属する一以上の3次元ベクトルデータを選び出して前記3次元セルごとにそれぞれ平均することにより参照ベクトルデータを算出する算出手段と、前記参照ベクトルデータを2次元的にまたは3次元的に表示する表示手段と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
セルごとに平均した参照ベクトルデータを算出することにより、繊維束の位置が異なる繊維強化材の間でも定量的な比較が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、3次元強化繊維織物を模式的に表す斜視図である。
図2図2は、強化繊維束を模式的に表す斜視図である。
図3図3は、模式的な繊維強化材の斜視図である。
図4図4は、単純曲げ部における織物を模式的に表す斜視図である。
図5図5は、複雑曲げ部における織物およびその各繊維束の3次元ベクトルを模式的に表す斜視図である。
図6図6は、3次元セルおよびその一に属する3次元ベクトルを模式的に表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付の図面を参照して以下にいくつかの例示的な実施形態を説明する。
【0012】
いくつかの図において、X,Y,Zは3次元座標系におけるそれぞれ軸方向を意味する。本明細書および添付の特許請求の範囲を通じて、これらの方向を引用するのは説明の便宜のために過ぎず、実施形態を制限するものではない。また各軸方向は互いに直交するとは限らない。
【0013】
以下の開示は、繊維強化材における繊維束の分布を、前記繊維束の3次元ベクトルデータにより評価する方法に関する。かかる方法は、コンピュータおよびディスプレイよりなるシステムを利用して、部分的に手動だが本質的には自動的に実行することができる。かかるコンピュータは一般に入手可能な汎用のものであって、ハードディスクドライブあるいはソリッドステートドライブのごときストレージと、ランダムアクセスメモリのごとき一時記憶装置と、演算素子とを備え、以下の開示に従うアルゴリズムと組み合わせることにより以下の各処理を実行し、結果をディスプレイ上に表示する。ストレージは、かかるアルゴリズムを実行するプログラムのみならず、演算のため、あるいは比較のための他のデータを格納することができる。
【0014】
繊維強化材は、一般に、高強度の繊維(強化繊維)を母材(マトリックス)と複合したものである。強化繊維は例えばグラファイト、ボロンナイトライド、あるいは炭化ケイ素のごときセラミックスよりなる。あるいは、ケブラーのごとき樹脂、あるいは適宜の金属や合金よりなることがありうる。マトリックスは、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、あるいは炭化ケイ素のごとき適宜のセラミックスである。マトリックスがセラミックスよりなるものは、特にセラミックス基複合材料(CMC)と呼ばれる。
【0015】
主に図1を参照するに、本実施形態による繊維強化材には、例えば強化繊維を3次元的に織成した3次元強化繊維織物を利用することができる。3次元強化繊維織物において、X,Y方向のみならずZ方向にも繊維が走り、これらの繊維が互いを緩やかに拘束している。一例によれば、繊維束3,5はそれぞれX,Y方向に走り、また互いに層をなしており、これらをZ方向に走る繊維束7が互いに結合し、以って3次元強化繊維織物をなす。もちろんこれは例示に過ぎず、繊維は互いに直交ではなく斜め織であってもよく、また織物は厚さ方向に積層されていない2次元的なものであってもよい。
【0016】
図2を参照するに、これらの繊維束3,5,7は、それぞれ、互いに略平行な複数の強化繊維1を束ねたものである。あるいはこれらのうち、例えば繊維束7は単繊維であってもよい。図示の例では各強化繊維1は真直だが、互いに撚り合わされていてもよい。一の繊維束3,5,7は例えば500ないし800本の強化繊維1を束ねたものだが、その数は任意に増減することができる。
【0017】
かかる強化繊維織物は、プレスやバギングのごとき公知の成形方法により適宜の形状に成形される。成形に引き続き、あるいは成形と並行して、マトリックス原料を含浸して固化することにより、マトリックスが形成されて繊維強化材が製造される。図3に例示される繊維強化材よりなる製品10は、ガスタービンエンジンのタービンノズルを構成する静翼である。もちろんこれは説明の便宜に過ぎず、種々の製品が繊維強化材により製造される。
【0018】
タービン静翼において、翼部11は所謂エアフォイル形状をなして湾曲しており、アウタバンド部13およびインナバンド部15は翼部11から概ね直交するように曲げられている。アウタバンド部13およびインナバンド部15は、それぞれさらに曲げられた部分を有する。言うまでもなく、タービン静翼に埋め込まれた織物はかかる外形に倣うよう変形しているのであり、既に述べた通り、変形を可能にするよう強化繊維束は変位している。それゆえ元の織物において強化繊維束が整然と並んでいたとしても、成形後の各部位において強化繊維束の分布および向きは一様ではない。
【0019】
例えば図3において符号P1を付した部位においては、織物は繊維束に直交するように単純に曲がっているに過ぎないので、図4に例示するごとく、繊維束は曲げに沿ってそれぞれに反るが、繊維束同士は相互に僅かにずれるに過ぎない。かかる部位において繊維束の変位は顕著ではない。
【0020】
ところが図3において符号P2を付した複雑曲げ部位のように、織物が多様な方向に曲がることが必要であり、また曲げが急峻である部位においては、繊維束は個別に反るだけでなく、相互に変位をしなければ歪みを吸収できない。図5に示す例では、繊維束3間の間隔が変化して平行が失われている。また隣り合う繊維束3の間で高さも変わっており、これらに直交する繊維束5はそれを反映してZ軸方向に蛇行している。
【0021】
繊維強化材の特性を評価する上で、その内部の繊維束の分布、特にその走行する方向に係る知見を得ることは重要であり、符号P2の部位のような複雑曲げ部においては特に重要である。
【0022】
繊維強化材における繊維束の分布および向きは、適宜の内部観察手段を利用して3次元的に観察することができる。例えばCMCのごとく光学的に不透明なものであっても、X線を利用したコンピュータ断層撮影(X線CT)を利用することができる。あるいは透明な樹脂を利用した繊維強化樹脂ならば、光学的手段を利用することも可能である。もちろんこれらに代えて、または加えて、他の粒子による内部観察手段を利用することができる。
【0023】
得られた3次元観察結果は、通常、定性的な分析に供することができるが、定量的な分析になじむものではない。観察結果からは、また、公知の適宜の画像解析手段を適用することにより、繊維束のベクトルデータを抽出することができる。本実施形態においては、かかるベクトルデータを利用する。図5においては、図中に現れている繊維束についてそれぞれ平行なベクトルが模式的に付されており、抽出されるベクトルデータはこれらの集合である。
【0024】
抽出されたベクトルデータは、極めて多くのデータの集合であって、このままでは他のデータ、例えば何らかの方法で算出ないし仮定された基準と比較するのにも便利ではない。そこで本実施形態では、抽出されたベクトルデータに次のような処理を行って、これを他と比較可能にする。処理は既に述べた通り、以下の開示に従うアルゴリズムと汎用コンピュータの組み合わせによって実行することができる。
【0025】
図6を参照するに、対象とする繊維強化材の全体、またはその中で注目する領域を含む空間を、適宜の3次元格子により分割することにより、複数の3次元セルを設定する。図6には特定のセルに少数のベクトルが描かれているに過ぎないが、実際には全てのセルに多数のベクトルが属している。抽出されたベクトルデータから、始点または終点の座標に基づいて各セルに属するものを選び出し、セルごとに平均する。
【0026】
【数1】
【0027】
【数2】
【0028】
式(1)のごとく、単純な算術平均をとってもよいし、式(2)のごとく、それを正規化してもよい。あるいはまた、ベクトルごとに適宜に重みづけをして加重平均をとってもよい。算出されたものを、以下の説明および添付の特許請求の範囲において、参照ベクトルデータと称する。
【0029】
抽出されたベクトルデータが変形前の織物中でどの方向を向いていた繊維(または繊維束)に由来するデータであるかを判別可能な場合、この情報をもとに、変形前の織物中のある特定の方向の繊維(または繊維束)に由来するベクトルごとに平均してもよい。図6には、変形後のベクトルをX,Y,Z方向それぞれについて平均した平均ベクトルが描かれている。平均ベクトルは式(3)に基づきセルごとに算出される。
【0030】
【数3】
【0031】
例えば図3より理解される通り、織物は元来において種々の位置に種々の方向を向いた繊維束を含む。さらに図4より理解される通り、織物が変形を受けることによりこれらの繊維束は種々に変位するとともに種々に向きを変える。それゆえ例えば一の繊維強化材について得られたデータと他の繊維強化材について得られたデータとを比較しても、意味のある知見を得ることは難しい。本実施形態により得られた参照ベクトルデータは、各セルにおける繊維束の向きを代表しているので、同様な格子に基づいて得られた基準データと比較可能である。
【0032】
参照ベクトルデータは、例えばこのままディスプレイ上に、2次元ないし3次元的に表示させることができる。生の内部観察結果やベクトルデータを表示させたものと異なり、それぞれのセルを代表するベクトルを観察することができるので、表示から一定の知見を得ることができる。例えば数値計算から得られた応力分布と視覚的に比較することができ、あるいは他の機会に得られた参照ベクトルデータと視覚的に比較することもできる。応力の方向と繊維束の方向とが整合していればその箇所は相対的に強靭であり、乖離があれば相対的に脆弱になるであろうことが予測できる。
【0033】
より定量的な比較を可能にするため、参照ベクトルデータには、また、基準データとの間で差分を取るなどの演算処理を施してもよい。例えば基準データとして他の機会に得られた参照ベクトルデータを採用すれば、差分は製造機会ごとに生じる繊維束の方向のばらつきを表し、その3次元表示はばらつきが出やすい箇所の把握を容易にする。もちろん基準データは任意に選択することができ、また差分に代えて他の任意の演算を適用することができる。
【0034】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
セルごとに平均した参照ベクトルデータを算出することにより、繊維束の位置が異なる繊維強化材の間でも定量的な比較を可能にする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6