(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】自然免疫活性化剤の製造方法及び自然免疫活性化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/64 20150101AFI20240124BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240124BHJP
A61K 36/062 20060101ALI20240124BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
A61K35/64
A23L33/10
A61K36/062
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2019183656
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501481492
【氏名又は名称】株式会社ゲノム創薬研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関水 和久
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/126905(WO,A1)
【文献】特開2007-306898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/64
A23L 33/10
A61K 36/062
A61P 37/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌
であって黒色の菌を、
カイコに投与した後に経時させ、経時後の該
カイコの体内に生産されていた物質を抽出
し、それを有効成分とすることを特徴とする自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項2】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌である、Aspergillus niger、Aspergillus tubingensis、Aspergillus awamori、又は、Aspergillus luchuensisを、カイコに投与した後に経時させ、経時後の該カイコの体内に生産されていた物質を抽出し、それを有効成分とすることを特徴とする自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項3】
前記アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を、
カイコに投与した後に経時させ、該
カイコを該菌によって感染死させ、該感染死したものの体内に生産されていた物質を抽出
し、それを有効成分とする請求項1
又は請求項2に記載の自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項4】
上記投与が注射による投与である請求項1
ないし請求項3の何れかの請求項に記載の自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項5】
上記抽出が熱水抽出である請求項1ないし請求項
4の何れかの請求項に記載の自然免疫活性化剤の製造方法。
【請求項6】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌
であって黒色の菌を、
カイコに投与した後に経時させ、経時後の該
カイコを加熱すること
により抽出し、それを有効成分とすることを特徴とする自然免疫活性化飲食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の自然免疫活性化剤の製造方法を使用して製造されるものであることを特徴とする自然免疫活性化剤。
【請求項8】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌
であって黒色の菌を、
カイコに投与した後に経時させ、経時後の該
カイコの体内に生産される物質を有効成分とすることを特徴とする自然免疫活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然免疫活性化剤の製造方法及び自然免疫活性化剤に関し、更に詳しくは、特定の菌を昆虫に投与した後に経時させ、そこから抽出する自然免疫活性化剤の製造方法;菌を投与した後に体内に生産される物質を有効成分とする自然免疫活性化剤;及び;特定の菌を昆虫に投与した後に経時させる自然免疫活性化飲食品の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
自然免疫とは、抗体に依らず、生体内の異物(細菌・真菌・ウイルス・癌細胞)を排除する防御機構であり、昆虫から哺乳動物に至るまで共通して有する機構である。
【0003】
これまでに、本発明者らは、細菌や真菌の細胞壁画分を生きたカイコの血液に注射すると、自然免疫活性化に伴って麻痺ペプチドと呼ばれるサイトカインの成熟が引き起こされ、その結果として、カイコの筋肉が収縮することを見出し、かかるカイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法を用いて、ヒト等の自然免疫を活性化する物質を定量的に評価・スクリーニングできることを確かめている(特許文献1、非特許文献1、2)。
【0004】
また、本発明者らは、この確立されたカイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法を用いて、植物等から幾つかの自然免疫活性化物質を見出し(特許文献1、非特許文献3~5)、更に、特定の乳酸菌自体又は該乳酸菌の処理物を有効成分とする自然免疫活性化剤を複数種類見出している(特許文献2、3)。
【0005】
一方、民間伝承治療薬として、冬虫夏草が知られている。冬虫夏草とは、昆虫にキノコを作る真菌が感染して死亡し、該死亡した昆虫の体内から生えてきたキノコ(を乾燥させたもの)のことを言う。古来、漢方薬として珍重されており、特に、ネパール産の冬虫夏草は、極めて高価で取引されている。
例えば、特許文献4には、天然の冬虫夏草に代えて、中国のトウチュウカソウ菌を、特定の培地で人工的に培養し、そこから子実体を得る冬虫夏草の人工培養法が記載されている。
【0006】
しかしながら、冬虫夏草は、昆虫の死体から生えてきた主にキノコ(の乾燥物)であり、死亡した昆虫側(昆虫自体)に含まれる有効成分に特に着目したものではなかった。
また、冬虫夏草を含め、菌に感染した昆虫、そこから生えてきたキノコ(子実体)に、自然免疫活性があることを実際に確かめた文献も殆どなかった。
【0007】
そこで、確立された自然免疫活性評価法を用いた、より高い比活性を有する自然免疫活性化剤や自然免疫活性化食品の探索が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2008/126905号
【文献】国際公開第2015/056770号
【文献】国際公開第2018/034203号
【文献】国際公開第2015/196734号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ishii K, Hamamoto H, Kamimura M. and Sekimizu K. (2008) Activation of the silkworm cytokine by bacterial and fungal cell wall components via a reactive oxygen species-mechanism, J. Biol. Chem. 25, 283(4), 2185-2191.
【文献】Ishii K, Hamamoto H, Kamimura M, Nakamura Y, Noda H, Imamura K, Mita K and Sekimizu K. (2010) Insect cytokine paralytic peptide (PP) induces cellular and humoral immune responses in the silkworm Bombyx mori, J. Biol. Chem., 285, 28635-28642.
【文献】Dhital S, Hamamoto H, Urai M, Ishii K, Sekimizu K. (2011) Purification of innate immunostimulant from green tea using a silkworm muscle contraction assay. Drug Discov Ther. 5,18-25.
【文献】Fujiyuki T, Hamamoto H, Ishii K, Urai M, Kataoka K. Takeda T, Shibata S, Sekimizu K. (2012) Evaluation of innate immune stimulating activity of polysaccharides using a silkworm (Bombyx mori) muscle contraction assay. Drug Discov Ther. 6, 88-93.
【文献】Urai M, Kataoka K, Nishida S, Sekimizu K. (2017) Structural analysis of an innate immunostimulant from broccoli, Brassica oleracea var. italica. Drug Discov Ther. 11, 230-237.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、高い自然免疫活性化機能を有する物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、カイコ等の昆虫の幼虫は、様々な菌により感染死するという事実を見出した。そして更に検討を進め、特定の菌を昆虫の体内に投与すると、該昆虫の体内に自然免疫活性化機能を有する物質が生産されることを、上記した既に確立されている「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」によって見出して本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産されていた物質を抽出することを特徴とする自然免疫活性化剤の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、該昆虫の幼虫又は蛹を該菌によって感染死させ、該感染死したものの体内に生産されていた物質を抽出する上記の自然免疫活性化剤の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹を加熱することを特徴とする自然免疫活性化飲食品の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記自然免疫活性化剤の製造方法を使用して製造されるものであることを特徴とする自然免疫活性化剤を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産される物質を有効成分とすることを特徴とする自然免疫活性化剤を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産されていた物質を抽出して抽出液を得て、該抽出液の自然免疫活性を、カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法を用いて定量的に評価することを特徴とする自然免疫活性化剤のスクリーニング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法によって、高い比活性を有することが確認された、すなわち高い自然免疫活性化能を有する「特定の菌に由来した昆虫由来の自然免疫活性化剤」を提供することができる。
また、高い自然免疫活性化能を有する飲食品を提供することができる。
更に、昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産されていた物質の自然免疫活性化能を定量的に評価する「新規の自然免疫活性化剤のスクリーニング方法」を提供することができる。
【0019】
古くから民間伝承治療薬として冬虫夏草が知られている。冬虫夏草とは、真菌に感染して死亡した昆虫の体内から生えてきたキノコ(を乾燥させたもの)のことを言う。
一方、本発明は、菌の投与によって昆虫の体内に生産された物質に自然免疫活性化能があることを見出してなされたものである。
従って、機能を発揮する部分は全く同一ではないが、本発明の自然免疫活性化剤も、古くから治療薬として知られ実績もある冬虫夏草と同様の機構・作用・機序によって効果を発揮したとも考えられる。
すなわち、本発明は、かかる機構・作用・機序が当てはまる範囲に限定されるものではないが、菌に感染した昆虫が免疫系を動員して抵抗した結果、該昆虫の体内に自然免疫物質が蓄積し、本発明はそれを利用したものであるとも言える。
【0020】
日本においては、冬虫夏草は医薬品として局方に収載されておらず、食品として扱われている。従って、冬虫夏草は医薬品としての規制を受けないが、本発明の自然免疫活性化剤も医薬品としての規制を受けず、食品として扱われ製造販売ができる。
【0021】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌は真菌である。真菌は様々な発酵食品に見出され食経験があるもの(可食性のもの)が多い。パン、ブドウ酒等に使われるパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)や、日本酒の製造に用いられる(ニホン)コウジカビ(Aspergillus oryzae)は、その代表例である。それ以外の真菌も発酵食品に見出されるものがあり、それらについては、長い歴史の中で安全性が確認されてきたと言ってよい。
本発明におけるアスペルギルス(Aspergillus)属の菌にも、食経験のある(可食性の)菌が多い。従って、この点からも、本発明の自然免疫活性化剤は、食品としての安全性が高い。
【0022】
また、昆虫の幼虫や蛹は、それ自体が食品としてタンパク源として重要であり、また、調理法・加工法によっては美味しい。本発明によれば、特定の菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後にそれを加熱等して加工することで、自然免疫活性化と言った新しい製品用途・技術思想・コンセプトの昆虫食品の提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】表2のサンプル液No.30(Aspergillus nigar)の菌を投与したカイコからの熱水抽出液の自然免疫活性を示すグラフである。
【
図2】表2のサンプル液No.31(Aspergillus sp.)の菌を投与したカイコからの熱水抽出液の自然免疫活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0025】
<自然免疫活性化剤の製造方法>
本発明の自然免疫活性化剤の製造方法は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産されていた物質を抽出することを特徴とする。
【0026】
上記アスペルギルス(Aspergillus)属は、ユーロチウム菌綱(Eurotiomycetes)の下位に位置し、そこに属するものは、麹黴(コウジカビ)、麹菌(コウジキン、キクキン)等とも呼ばれることがある。
【0027】
本発明で使用されるアスペルギルス属に属する菌としては、限定はされないが、具体的には、例えば、クロコウジカビ若しくはクロカビ(Aspergillus niger)、黒麹菌(Aspergillus luchuensis)、Aspergillus tubingensis、アワモリコウジカビ若しくは黒麹(Aspergillus awamori)等の黒色のカビ(黒色の菌);ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)、ショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)、カツオブシカビ(Aspergillus glaucus)等の非黒色のカビ(黒色ではない菌);それらの近縁の菌・カビ;等が挙げられる。
【0028】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌は、他の属に属する真菌に比べ、総じて、昆虫に投与した後の昆虫の体内に自然免疫活性化能を有する物質が生産される(実施例参照)。言い換えると、抽出液の比活性が高く(実施例1、表1、2)、優れた自然免疫活性化剤が得られる。
【0029】
中でも、アスペルギルス属に属し、具体例を上記した「黒色菌(黒色カビ)」(例えば、表2のNo.30、No.31)は、アスペルギルス属に属する他の菌(カビ)に比べても、総じて、昆虫に投与した後の昆虫の体内に特に高い自然免疫活性化能を有する物質が好適に生産される(実施例参照)。言い換えると、抽出液の比活性が極めて高く(実施例1、表1、2)、特に優れた自然免疫活性化剤が得られる。
従って、本発明における菌としては、アスペルギルス属に属する黒色の菌又は黒色のカビであることが好ましい。
【0030】
なお、古来知られている冬虫夏草(Ophiocordyceps sinensis、Cordyceps sinensis)は、フンタマカビ綱(Sordariomycetes)、オフィオコルディセプス属(Ophiocordyceps)に属する菌に感染した昆虫由来の子実体・キノコであるとも言われている(特許文献4)。
【0031】
上記昆虫としては、蛾、蝶、蟻、蜂等が挙げられる。また、古来、「冬虫夏草が生える昆虫として知られている昆虫」も好ましいものとして挙げられる。また、昆虫の幼虫又は蛹に上記菌(カビ)を投与する際の該「蛾の幼虫」としては、例えば、養殖カイコ、野カイコ、スズメガの幼虫等が挙げられる。
また、本発明を自然免疫活性化食品とする場合には、食経験のある又は美味しいと言われている「昆虫の幼虫若しくは蛹」であることが好ましい。
【0032】
上記「投与」は、好適に昆虫の体内に入り投与した菌に感染させ易ければ特に限定はないが、注射による投与が、確実に昆虫の体内に菌を投与できるために好ましい。昆虫の幼虫又は蛹の大きさにもよるが、その1匹の有する血液(体液)量を勘案して、真菌のフルグロース液、好ましくは10~200μL、より好ましくは20~120μL、特に好ましくは30~80μLを注射により投与する。投与された液は、昆虫の血液(体液)内に入る。
【0033】
本発明によって、真菌を昆虫の体内に投与すると、該昆虫が該真菌に感染すること、該昆虫が該真菌によって感染死する場合があること、及び、該真菌によっては、該昆虫の体内に自然免疫活性化能を有する物質が生産される場合があることが分かった。
従って、上記「経時」は、該昆虫の体内に自然免疫活性化能を有する物質が生産されるに十分な期間であることが好ましい。現象的・外観的には、好ましくは十分に菌に感染し、特に好ましくは感染死するまでの期間が望ましい。
経時の期間は、具体的には、菌の種類にも依存するので特に限定はないが、好ましくは2~30日、より好ましくは3~20日、特に好ましくは4~14日である。
【0034】
上記真菌がアスペルギルス属に属する菌である場合、特に自然免疫活性化能を有する物質が好適に生産される。
本発明の自然免疫活性化剤の製造方法は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、該昆虫の幼虫又は蛹を該菌によって感染死させ、該感染死したものの体内に生産されていた物質を抽出する方法であることが好ましい。
【0035】
上記「抽出」については、昆虫の体全体を抽出の対象としてもよいし、該昆虫の特定部分だけを抽出の対象としてもよい。抽出は、自然免疫活性化能のある物質が抽出され得るような抽出方法を用いればよく、特に限定はないが、抽出溶媒を用いる方法が好ましく、抽出溶媒としては、例えば、水、エタノール、アセトン、酢酸エチル等やそれらの混合溶媒;超臨界・亜臨界流体;等が好ましいものとして挙げられる。「水」又は「水とエタノールの混合溶媒」がより好ましく、水が特に好ましい。
該溶媒抽出法は、限定はないが、例えば、浸漬抽出、ソックスレー抽出、遠心分離、固相カラム抽出等が挙げられる。
【0036】
熱水抽出が、好適に自然免疫活性化能のある物質を抽出できるために特に好ましい。
上記熱水抽出の方法は、特に限定されないが、例えば、上記「溶媒抽出法」に記載した方法が挙げられる。また、オートクレーブ装置中に水等の溶媒を加えて該装置を加熱することにより、熱水抽出物を得ることもできる。
【0037】
熱水抽出条件は、高い比活性の自然免疫活性化成分が得られる点等から、熱水抽出の温度は、60℃以上160℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がより好ましく、80℃以上140℃以下が特に好ましい。
また、熱水抽出時間は1分以上120分以下が好ましく、3分以上80分以下がより好ましく、10分以上40分以下が特に好ましい。
【0038】
上記「抽出液」自体が知られていないので、本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産されていた物質を抽出することを特徴とする抽出液の製造方法でもあり、該製造方法で製造される抽出液でもある。
【0039】
上記抽出液は、そのまま自然免疫活性化剤とすることもできるし、溶媒置換、溶媒希釈若しくは溶媒留去して、自然免疫活性化剤とすることもできるし、該抽出液を成分分離、分画、精製等して、該抽出液の一部を自然免疫活性化剤とすることもできる。
また、下記する「他の物質」を配合して、自然免疫活性化剤とすることもできる。すなわち、本発明の自然免疫活性化剤は、前記した「昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産される有効成分」に加えて、「その他の成分」を含有することができる。
【0040】
上記「その他の成分」としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容し得る担体等が挙げられる。かかる担体としては、特に制限はなく、例えば、後述する剤形等に応じて適宜選択することができる。また、自然免疫活性化剤中の「その他の成分」の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
また、本発明の自然免疫活性化剤の剤形としては、特に制限はなく、所望の投与方法に応じて適宜選択することができる。
具体的には、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶剤、懸濁剤等)、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散布剤等が挙げられる。
【0042】
上記自然免疫活性化剤としては、上記有効成分に、必要に応じて、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0043】
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。
上記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
上記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
上記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
上記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0044】
上記経口液剤としては、例えば、上記有効成分に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤、食用(加工)油、動植物油等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
上記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。上記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。上記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0045】
上記注射剤としては、例えば、上記有効成分に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
上記pH調節剤及び該緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。上記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。上記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。上記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。
【0046】
上記軟膏剤としては、例えば、上記有効成分に、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等を配合し、常法により混合し、製造することができる。
上記基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。上記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
上記貼付剤としては、例えば、公知の支持体に上記軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤等を、常法により塗布し、製造することができる。上記支持体としては、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等のフィルム、発泡体シート等が挙げられる。
【0047】
<自然免疫活性化剤>
本発明は、上記の「自然免疫活性化剤の製造方法」を使用して製造されるものであることを特徴とする自然免疫活性化剤でもある。
【0048】
また、本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産される物質を有効成分とすることを特徴とする自然免疫活性化剤でもある。
上記自然免疫活性化剤では、その好ましい態様、例えば、好ましい菌、菌の投与方法、感染させること、感染死させること、抽出方法、その他の成分等を含め、前記した「自然免疫活性化剤の製造方法」における好ましい態様と同一である。
【0049】
アスペルギルス属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させると、どのような物質がその体内に生産されているかを同定することは難しい。該物質が極微量である場合もあり得るし、化学構造が複雑であるか、高分子若しくはオリゴマーである可能性もあり、複数物質の相乗効果で自然免疫活性化能が現れている可能性もある。
このような、物質の化学構造、成分組成等を直接特定することはできないし、該物質をパラメーター等で特定することも不可能であるか又はおよそ実際的でない。
【0050】
本発明の自然免疫活性化剤は、それ自体を、薬剤、健康食品等として提供してもよいし、一般食品等の中に含有させる用途として提供してもよい。ここで、一般食品中の含有形態としては、該一般食品の調理中に配合する、一般食品にふりかけ等の形で添加する、等の形態が挙げられる。
<自然免疫活性化食品の製造方法>
本発明は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹を加熱することを特徴とする自然免疫活性化食品の製造方法でもある。
上記態様では、前記したような実質的な抽出工程を有さず、昆虫の成分を実質的に全て自然免疫活性化食品とするが、好ましい態様、例えば、好ましい菌、菌の投与方法、感染させること、感染死させること等を含め、前記した自然免疫活性化剤の製造方法と同一である。
【0051】
加熱は、主に食の安全等のために行うもので、食の安全が確保されれば加熱条件は、特に限定はない。食品加工、調理等の過程で、それを兼ねて行ってもよい。
自然免疫活性化食品の製造においては、公知の方法が全て用いられ得る。昆虫の原型を留めていてもよく、刻んだり磨り潰したりしてもよく、濾してジュース状にしてもよい。
例えば、切る、磨り潰す、磨り下ろす、茹でる、煮る、蒸す、焼く、揚げる等が挙げられる。限定はされないが、昆虫食として馴染みのある態様(形状)又は調理方法が好ましい。
【0052】
<自然免疫活性化食品>
本発明は、前記「自然免疫活性化剤の製造方法」や、「自然免疫活性化飲食品の製造方法」で製造される自然免疫活性化食品でもある。
アスペルギルス属に属する菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させると、どのような物質がその体内に生産されているかを同定することは難しい。該物質が極微量である場合もあり得るし、化学構造が複雑であるか、高分子若しくはオリゴマーである可能性もあり、複数物質の相乗効果で自然免疫活性化能が現れている可能性もある。
このような食品の化学構造、成分組成等を直接特定することはできないし、該食品をパラメーター等で特定することも不可能であるか又はおよそ実際的でない。
【0053】
<自然免疫活性化剤又は自然免疫活性化飲食品の用途・使用方法>
本発明の自然免疫活性化剤又は自然免疫活性化飲食品は、病気の人、未病の人、又は、健常人に使用でき、例えば、自然免疫機構の活性化を必要とする個体(例えば、健康維持や疲労回復を必要とする個体;癌や生活習慣病の予防や治療を必要とする個体;細菌、真菌、ウイルス等に感染した個体;等)に投与することにより、好ましく使用することができる。
【0054】
本発明の自然免疫活性化剤の投与対象動物としては、特に制限はないが、例えば、ヒト;マウス、ラット等の実験動物;サル;ウマ;ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ等の家畜;ネコ、イヌ等のペット;等が挙げられる。
上記自然免疫活性化剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、上記した剤形等に応じ、適宜選択することができ、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射、腸内への注入等が挙げられる。
【0055】
<自然免疫活性化剤のスクリーニング方法>
前記した通り、「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」は、既に知られている評価方法である。
上記した通り、本発明によって、該評価方法が、菌が投与された昆虫にも適用できることが初めて見出された。すなわち、本発明によって、菌を昆虫に投与して該昆虫の体内から抽出液を得て、その抽出液に対して「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」を適用させれば、優れた「自然免疫活性化剤のスクリーニング方法」になることが、初めて見出された。
従って、本発明は、菌を昆虫の幼虫又は蛹に投与した後に経時させ、経時後の該昆虫の幼虫又は蛹の体内に生産されていた物質を抽出して抽出液を得て、該抽出液の自然免疫活性を、カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法を用いて定量的に評価することを特徴とする自然免疫活性化剤のスクリーニング方法でもある。
【0056】
上記飲食品は、自然免疫機構の活性化を目的とした、機能性食品、健康食品等として、特に有用であると考えられる。
【0057】
本発明の自然免疫活性化飲食品の製造方法において、当業者に周知の工程を行うことができる。当業者であれば、本発明の中性多糖類を他の成分と混合する工程、成形工程、殺菌工程、発酵工程、焼成工程、乾燥工程、冷却工程、造粒工程、包装工程等を適宜組み合わせ、目的の飲食品を作ることが可能である。
【0058】
<発明の効果・作用・原理>
昆虫には、獲得免疫機能はなく自然免疫機能のみがある。自然免疫機能を有する昆虫の幼虫又は蛹を菌に感染させたと言う報告は存在する。しかしながら、その免疫活性化能等の生理活性は明らかになっていない。本発明で、カイコ(カイコガの幼虫)等の「昆虫の幼虫又は蛹」は、様々な真菌により感染死するという知見を得た。
本発明では、食経験のある真菌で昆虫を感染死させ、カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法を用いて定量的に評価することで、高い自然免疫活性化能を有する、冬虫夏草を模擬した、新しい、剤(薬品、薬品原料等)や、食品(健康食品、サプリメント、一般食品等)を製造できた。
【0059】
本発明において、食経験のある真菌によりカイコが感染死すること、感染死したカイコの熱水抽出液中には、カイコの筋肉収縮を指標とした自然免疫促進活性があることを見出した。この真菌で感染死させたカイコは、「擬似冬虫夏草」として、上記用途に有用であると考えられる。
【0060】
以下の作用・原理によって本発明の効果が発揮できている範囲に本発明の範囲が限定される訳ではないが、以下のように考えられる。
キノコが生えた昆虫は、冬虫夏草と呼ばれる漢方薬として古くから使われている。しかしながら、その薬理活性に関しては殆ど明らかになっていない。冬虫夏草が薬として有用であるという考え方の基本は、感染に伴って昆虫体内で免疫反応が起こり、その結果として免疫活性化物質等のヒトの健康維持に役立つ物質が蓄積されると考えられる。
食経験のある真菌により感染死させた昆虫の幼虫や蛹は、冬虫夏草の上記した考え方によく合致している。
【0061】
昆虫等の無脊椎動物は、抗体を持たず獲得免疫系がない。自然免疫系と呼ばれる免疫系によって病原体の侵入から体を守っている。
近年の研究により、ヒト等の哺乳動物にも昆虫で見られるTollやImdと呼ばれる自然免疫の受容体が存在していることが明らかにされた。すなわち、哺乳動物にも自然免疫系が存在しており、免疫系において重要な役割を果たしていることが明らかにされている。従って、昆虫の自然免疫を促進する物質が、ヒトの免疫に対して促進的に働いたと考えられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び検討例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。以下、「%」と言う記載は、それが質量に関するものについては「質量%」を意味する。
【0063】
実施例1
植物の葉等の天然物から真菌を採集し、リボソームRNAのシークエンスから種を決定し、食経験のある真菌のライブラリーを構築した。135個の真菌について食経験があると判定した。
そして、そこから31個を選択し(表1、2)、該菌を「昆虫の幼虫又は蛹」を代表してカイコ(カイコガの幼虫)に注射により投与し、該カイコの体内に生産された物質の自然免疫活性を評価した。具体的には、該カイコ自体から熱水抽出し、該抽出液の自然免疫活性を、既にヒトとの対応・相関が認められている「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」を用いて定量的に評価した。
【0064】
<カイコへの菌の投与>
表1及び表2に示した真菌を、それぞれ、液体培地(YPD液体培地)中で、30℃にて1日培養してフルグロース液を得た。
一方、人工餌で飼育した4令眠のカイコ幼虫を集め、一晩餌を与えずに置いて脱皮させ、5令カイコとした。
【0065】
更に、1日間、1匹あたり1gの人工餌を与え、真菌のフルグロース液50μLを、ツベルクリン注射筒(27ゲージ針)で血液内注射した。
対照実験として、YPD液体培地、及び、生理食塩水50μLを注射したカイコを用意した。その後、カイコ幼虫を27℃で餌を与えずに飼育した。
【0066】
<カイコの熱水抽出液の調製>
カイコ1匹あたり1mLのミリQ水(登録商標)を加えて、オートクレーブ処理(121℃、20分)し、8000回転5分の遠心によって得た上澄を、自然免疫活性測定用のサンプル液とした。
【0067】
<「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」を用いた自然免疫活性の評価>
非特許文献1~5及び特許文献1~3に記載の「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」で、以下の評価を行った(特に、非特許文献1参照)。
【0068】
すなわち、5令カイコを人工餌で5日間飼育し、筋肉標本を作製した。
27ゲージ針付きのツベルクリン注射筒を用いて、サンプル液50μLを、上記で作製した筋肉標本カイコの血液内に注射し、10分間の体長変化を計測した。
実験開始時のカイコの体長x[cm]、及び、最大収縮時の体長y[cm]を用いて、収縮値(C値:Contraction value)「(x-y)/x」を計算した。
【0069】
上記サンプル液を、0.9%生理食塩水で、4倍ずつ(例えば、1/1、1/4、1/16、1/64、1/256)の系列段階希釈した液で、それぞれ収縮値を測定し、該収縮値(C値)をグラフ上にプロットし、該収縮値(C値)が0.15のときの緩行性筋収縮活性を1[unit]と定義し、サンプル液の乾燥質量の単位質量当たりのユニット数を求め、該サンプル液の比活性[units/mg]とした。
結果を以下の表1及び表2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
表2中、YPD(control)は、真菌培養に用いたYPD培地を注射した時の比活性である。生理食塩水(ネガティブコントロール)は、カイコの筋肉標本に生理食塩水を注射した時の比活性である。
サンプル液を希釈して、系列希釈を作製し、作用容量曲線を得て、収縮値(C値:Contraction value)が0.15を示す量を1unitとして活性量を求めた。サンプルの乾燥質量から、比活性(units/mg)を求めた。
真菌サンプルのリボソームRNA配列を決定し種の同定を行い、相同性(%)が最も高い菌種名をその真菌の菌種とした。相同性が同じ菌種がある場合は、その全てを表1、表2に記載した。
【0073】
<食経験のある真菌によるカイコの感染死の状況と個数割合>
食経験のある真菌のライブラリーから、表1及び表2に示す31種を選別して、フルグロースを得て、それを1群3匹の5令カイコに注射した。
5日以内に半数以上のカイコを死亡させたのは、31株中3株であり、それらは、Aspergillus nigerの1株、及び、Lachancea fermentatiの2株であった。Aspergillus nigerにより死亡したカイコの体表には、黒色の胞子が現れた。更に、足に相当する部分に、白色の構造体が出現した。
【0074】
11日後までに半数以上のカイコを死亡させたのは、合わせて29株であった。残り2株については、11日後においても、3匹とも生存していた。
【0075】
また、YPD液体培地や生理食塩水を注射した群においては、11日後においても3匹中3匹全てが生存した。従って、真菌の注射によるカイコの死亡は、該真菌による感染死である。
【0076】
<カイコの熱水抽出液に見出される自然免疫活性(表1、2)>
25種の真菌で殺傷された(感染死した)カイコから熱水抽出液を調製し、「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」を用いて、自然免疫促進活性を測定した。すなわち、各サンプル液の乾燥質量(mg)を求め、比活性(units/mg)を算出した(表1、表2)。
なお、YPD液体培地や生理食塩水を注射後生存したカイコから調製した熱水抽出液には、自然免疫活性は見出されなかった(表2)。
【0077】
表1及び表2より、No.30及びNo.31の菌が、評価した他の菌に比べて比活性が高かった。No.30及びNo.31の菌は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌であった。また、アスペルギルス(Aspergillus)属以外の菌は、比活性が低かった。
更に、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌の中には、黒色の菌と黒色ではない菌があるところ、No.30及びNo.31の菌は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する黒色の菌(黒色の菌)であった。
【0078】
<Aspergillusに属する菌の収縮値の量依存性>
表2中のNo.30の「Aspergillus niger(クロコウジカビ、クロカビ)」により死亡したカイコの熱水抽出液について、収縮値(C値:Contraction value)を求めた(
図1)。
その結果、Aspergillus niger(クロコウジカビ、クロカビ)により死亡したカイコの熱水抽出液は、量依存的に収縮値(C値:Contraction value)を増大させ(
図1)、収縮値(C値:Contraction value)を0.15とするのに必要な量(1[unit])は、5μLと算定された(
図1)。
【0079】
表2中のNo.31の「Aspergillus tubingensis、Aspergillus awamori(アワモリコウジカビ若しくは黒麹)、Aspergillus luchuensis(黒麹菌)」により死亡したカイコの熱水抽出液について、収縮値(C値:Contraction value)を求めた(
図2)。
その結果、上記のアスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌より死亡したカイコの熱水抽出液は、量依存的に収縮値(C値:Contraction value)を増大させ(
図2)、収縮値(C値:Contraction value)を0.15とするのに必要な量(1[unit])は、5μLと算定された(
図2)。
表2中のNo.31の上記した菌(カビ)は、全て黒色の菌(カビ)である。
【0080】
Aspergillus niger(クロコウジカビ、クロカビ)等の培養に用いたYPD液体培地を注射したカイコの熱水抽出液は、カイコの筋肉収縮を引き起こさなかった。従って、Aspergillus niger(クロコウジカビ、クロカビ)、Aspergillus tubingensis、Aspergillus awamori(アワモリコウジカビ若しくは黒麹)、Aspergillus luchuensis(黒麹菌)により死亡したカイコの熱水抽出液に見出された自然免疫活性は、カイコの上記菌による感染に依存している。
【0081】
なお、実際の菌の投与の対象として、「昆虫の幼虫又は蛹」の代表としてカイコを用いたが、カイコで言えたことは、一般的に「昆虫の幼虫又は蛹」でも言える可能性が高い。
自然免疫活性の評価については、カイコを用いた「カイコ筋肉収縮系による自然免疫活性評価法」を用いるが、自然免疫活性化能がある物質を産生するものは、カイコに限らず、「昆虫の幼虫又は蛹」にまで広げられる。
【0082】
<真菌の安全性>
本発明では、406個の真菌を、主に植物の葉から分離し、リポソーム遺伝子のシークエンスにより種を同定した。そのうち、クロコウジカビ若しくはクロカビ(Aspergillus niger)を含め135個の真菌について食経験があると判定した。
【0083】
これらの真菌は、安全性は経験的に証明されており、発酵食品やサプリメントに利用できると考えられる。カイコそれ自体も食経験があるので、食経験のある真菌で感染死させたカイコも安全性については問題ないと考えられる。食経験のあるアスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌で感染させた、食経験のある「昆虫の幼虫又は蛹」も、安全性については問題ないと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、特定の属に属する菌と、昆虫の幼虫又は蛹に由来した、自然免疫活性化剤が得られるので、本発明は、医薬品、薬品原料、健康食品、一般食品、機能性食品、特定保健用食品等として、それらを製造、販売、使用等する分野に広く利用される。