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特許7425430レールの普通継目の時間位置を特定するための方法及びプログラム、並びに情報処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】レールの普通継目の時間位置を特定するための方法及びプログラム、並びに情報処理システム
(51)【国際特許分類】
   E01B 35/00 20060101AFI20240124BHJP
   B61L 25/02 20060101ALI20240124BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
E01B35/00
B61L25/02 Z
G01H17/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020152826
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047093
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】595061705
【氏名又は名称】株式会社アニモ
(73)【特許権者】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103528
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 一男
(72)【発明者】
【氏名】木村 晋太
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎一
(72)【発明者】
【氏名】桜井 淳宏
(72)【発明者】
【氏名】松田 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将之
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148466(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0215400(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 35/00
B61L 25/02
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雑音除去後の列車の走行音に対して包絡線の抽出処理を実行して、抽出された前記包絡線からレールの普通継目の音の候補時間位置を特定する第1特定ステップと、
前記列車の走行区間におけるレール長のデータを格納する格納部に格納された前記レール長のデータから、前記レールの普通継目の音の仮説時間位置を生成する生成ステップと、
前記候補時間位置と前記仮説時間位置とを照合して、前記レールの普通継目の音の時間位置を特定する第2特定ステップと、
を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項2】
前記生成ステップが、
前記候補時間位置のデータ及び前記レール長のデータから前記走行区間を代表する列車速度を特定するステップと、
前記レール長のデータ及び前記列車速度から、前記レールの普通継目の音の仮説時間位置を生成するステップと、
を含む請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
前記生成ステップが、
前記レール長のデータと複数の候補速度とから、前記レールの普通継目の音の仮説時間位置の複数のパターンを生成するステップ
を含み、
前記第2特定ステップが、
前記候補時間位置と前記仮説時間位置の複数のパターンの各々とのずれを算出し、前記複数のパターンのずれに基づき前記複数のパターンのうちいずれかを選択するステップ
を含む請求項1記載のプログラム。
【請求項4】
雑音除去後の列車の走行音に対して包絡線の抽出処理を実行して、抽出された前記包絡線からレールの普通継目の音の候補時間位置を特定するステップと、
前記列車の走行区間におけるレール長のデータを格納する格納部に格納された前記レール長のデータから、前記レールの普通継目の音の仮説時間位置を生成するステップと、
前記候補時間位置と前記仮説時間位置とを照合して、前記レールの普通継目の音の時間位置を特定するステップと、
を含み、コンピュータが実行する、レールの普通継目の時間位置の特定方法。
【請求項5】
雑音除去後の列車の走行音に対して包絡線の抽出処理を実行して、抽出された前記包絡線からレールの普通継目の音の候補時間位置を特定する手段と、
前記列車の走行区間におけるレール長のデータを格納する格納部に格納された前記レール長のデータから、前記レールの普通継目の音の仮説時間位置を生成する手段と、
前記候補時間位置と前記仮説時間位置とを照合して、前記レールの普通継目の音の時間位置を特定する手段と、
を有する情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の走行音からレールの普通継目の時間位置を特定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、鉄道軌道のレールを通じて少なくとも2つの方向を異にするビームが出射され、かつ少なくとも1つの超音波ビームがレールの腹部に近接した空気中に送出され、かつ受信された信号を比較することで、レールにおける断続部または異常部を検出する技術が開示されている。このような技術では、超音波ビームを2本送受信できるような装置が必要となる。
【0003】
また、特許文献2では、GPS(Global Positioning System)信号などから列車位置を特定するが、加速度センサによる上下振動信号及び集音装置による音響信号から波形特徴を抽出して予め用意された波形パターンと比較することでレール継ぎ目や分岐部等の特徴点を通過したか判断して、特徴点通過を検出する列車位置を補正する技術が開示されている。このような技術では、レール継ぎ目や分岐部等の特徴点に対応する波形パターンを予め用意しなければならない。また、様々なセンサを用意しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-501724号公報
【文献】特開2011-225188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、一側面によれば、レールの普通継目の時間位置を簡易な構成で精度良く特定できるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、レールの普通継目の時間位置の特定方法は、(A)雑音除去後の列車の走行音に対して包絡線の抽出処理を実行して、抽出された包絡線からレールの普通継目の音の候補時間位置を特定するステップと、(B)列車の走行区間におけるレール長のデータを格納する格納部に格納されたレール長のデータから、レールの普通継目の音の仮説時間位置を生成するステップと、(C)候補時間位置と仮説時間位置とを照合して、レールの普通継目の音の時間位置を特定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0007】
一側面によれば、レールの普通継目の時間位置を簡易な構成で精度良く特定できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係る情報処理装置の概要を示す図である。
図2図2は、第1の実施の形態に係る仮説生成部の構成例を示す図である。
図3図3は、実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図4図4は、本実施の形態における音データの処理過程の一例を示す図である。
図5図5は、第1の実施の形態に係る仮説時間位置の生成処理の処理フローを示す図である。
図6図6は、本実施の形態における音データの処理過程の一例を示す図である。
図7図7は、第1の実施の形態に係る照合処理の処理フローを示す図である。
図8図8は、第2の実施の形態に係る仮説生成部及び照合部の構成例を示す図である。
図9図9は、第2の実施の形態に係る仮説時間位置の生成処理の処理フローを示す図である。
図10図11は、第2の実施の形態に係る照合処理の処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る情報処理装置の構成例を図1に示す。
【0010】
情報処理装置100は、マイク101と、AD(Analog-to-Digital)変換部103と、第1データ格納部105と、雑音除去部107と、包絡線抽出部109と、候補抽出部111と、第2データ格納部113と、照合部115と、出力部117と、レール長データベース(DB)119と、仮説生成部121と、第3データ格納部123とを有する。
【0011】
マイク101は、列車走行中に列車上で走行音を集音する。ここでいう走行音は、列車の走行にともなって発生する、パンタグラフの音、台車の音、車体の音、風切り音、普通継目におけるボルトから発生する音など、すべての音が合わさって列車上で観測される音のことである。AD変換部103は、マイク101で集音された音入力信号をディジタル音データに変換して、第1データ格納部105に格納する。雑音除去部107は、第1データ格納部105に格納された音データに対して雑音除去処理を実行して、包絡線抽出部109に出力する。包絡線抽出部109は、雑音除去後の音データに対して包絡線抽出処理を実行し、候補抽出部111に出力する。候補抽出部111は、包絡線抽出後の音データと所定の閾値との比較により、レールの普通継目の音の候補時間位置を抽出し、当該候補時間位置のデータを第2データ格納部113に格納する。なお、普通継目とは、一対の継目板をレール腹部に当てて、継目板ボルトで組み立てレール端部を接続した突合せ継目である。
【0012】
本実施の形態では、レール長DB119は、列車の走行区間における一連のレール長のデータを格納する。例えば、Xmのレールの次にYmのレールが並んでいるといったデータが格納されている。仮説生成部121は、レール長DB119に格納されているデータを用いてレールの普通継目の音の仮説時間位置のデータを生成し、第3データ格納部123に格納する。なお、本実施の形態では、仮説生成部121は、第2データ格納部113に格納されている、レールの普通継目の音の候補時間位置のデータを更に用いている。但し、第2の実施の形態では、第2データ格納部113のデータを用いない。
【0013】
照合部115は、第2データ格納部113に格納されている、レールの普通継目の音の候補時間位置のデータと、第3データ格納部123に格納されている、レールの普通継目の音の仮説時間位置のデータとを照合する処理を行って、レールの普通継目の音の正しい時間位置を特定する。出力部117は、照合部115の処理結果を、表示装置や印刷装置、他の装置に出力する処理を行う。
【0014】
図2に、本実施の形態に係る仮説生成部121の構成例を示す。仮説生成部121は、間隔推定部1211と、速度推定部1212と、レール長抽出部1213と、仮説算出部1214とを有する。
【0015】
間隔推定部1211は、第2データ格納部113に格納されている候補時間位置の間隔からそれらを代表する時間間隔を推定する処理を実行し、速度推定部1212に出力する。レール長抽出部1213は、レール長DB119から走行区間を代表するレール長を抽出し、速度推定部1212に出力する。速度推定部1212は、代表の時間間隔と代表のレール長とから列車の速度を推定し、仮説算出部1214に出力する。
【0016】
仮説算出部1214は、推定された列車速度とレール長DB119に格納されているレール長のデータとから、レールの普通継目の音の仮説時間位置を算出し、そのデータを第3データ格納部123に格納する。
【0017】
次に、情報処理装置100の処理内容について図3乃至図6を用いて説明する。
【0018】
まず、マイク101により列車の走行音を列車上で収録し、マイク101の出力信号をAD変換部103にてディジタル音データに変換して、第1データ格納部105に格納する(ステップS1)。なお、A/D変換だけではなく必要ならば増幅などの他の処理を行っても良い。また、列車の走行音を列車上で収録することは必要であるが、以下の処理については、列車以外の場所で行うようにしても良い。なお、ステップS1で得られる音データは、例えば図4(a)に示すようなデータで、多くの雑音でレールの普通継目の音の波形は見いだせない。
【0019】
次に、雑音除去部107は、第1データ格納部105に格納されている音データに対して、雑音除去処理を実行する(ステップS3)。具体的には、例えば400Hzをカットオフ周波数とするハイパスフィルタで低周波雑音を除去する。例えば、図4(a)に示すような音データについては、雑音除去処理によって図4(b)に示すような音データが得られる。このようにレールの普通継目の音の波形が先鋭化される。
【0020】
そして、包絡線抽出部109は、雑音除去後の音データに対して包絡線抽出処理を実行する(ステップS5)。波形の包絡線は、絶対値を取ることで波形を整流波形に変換し、その整流波形にローパスフィルタをかけて整流波形を平滑化することで得られる。このような包絡線抽出処理によって図4(c)に示すような波形包絡線が得られる。
【0021】
その後、候補抽出部111は、予め設定した閾値と波形包絡線とを比較すること、閾値以上となっている時間位置を、レールの普通継目の音の候補時間位置として特定する(ステップS7)。図4(d)に示すように波形包絡線に対して閾値を設定すると、図4(e)に示すようにパルスで時間位置が特定される。これは候補時間位置であって、図4(e)で上向き矢印で示すように、レールの普通継目以外の軌道材料が発生原因となる音(以下、普通継目以外からの音と言う)でも候補時間位置として特定されてしまう。普通継目以外からの音は、閾値を調整することでは識別できない。
【0022】
そこで本実施の形態では、仮説生成部121は、レール長DB119を用いて、レールの普通継目の音の仮説時間位置のデータを生成する、仮説時間位置の生成処理を実行する(ステップS9)。
【0023】
本実施の形態に係る仮説時間位置の生成処理について図5を用いて説明する。
【0024】
間隔推定部1211は、第2データ格納部113に格納されている候補時間位置の時間間隔を算出し、そのうちの中央値を代表の時間間隔として特定する(ステップS21)。また、レール長抽出部1213は、レール長DB119に格納されている走行区間の一連のレール長のうち、その中央値を代表のレール長として特定する(ステップS23)。
【0025】
そして、速度推定部1212は、代表のレール長を代表の時間間隔で除することによって、推定列車速度を算出する(ステップS25)。さらに、仮説算出部1214は、レール長DB119から走行区間のレール長[m]を順次読み出して、推定列車速度[m/s]でそれぞれを除することで、各レールの走行時間[s]が算出されて、それらを並べることでレールの普通継目の音の仮説時間位置のデータを生成して、第3データ格納部123に格納する(ステップS27)。
【0026】
図6(a)に、図4(e)と同じレールの普通継目の音の候補時間位置を示す。図6(b)は、走行区間のレール長を、模式的にパルス間隔で示している。各レール長を推定列車速度で除することによって、各レールについての走行時間が推定されて、それを並べると図6(c)に示すようなパルス列が得られる。このパルスの位置がレールの普通継目の音の仮説時間位置を表す。
【0027】
図3の処理の説明に戻って、照合部115は、第2データ格納部113に格納されたデータと第3データ格納部123に格納されたデータとに対する照合処理を実施する(ステップS11)。本実施の形態に係る照合処理の処理フローを図7に示す。
【0028】
照合部115は、第2データ格納部113に格納されている各候補時間位置を、第3データ格納部123に格納されている仮説時間位置と比較して(ステップS31)、候補時間位置に対応する仮説時間位置がない場合には普通継目以外からの音であるとしてその候補時間位置を除去することで、候補時間位置からレールの普通継目の音の時間位置を特定する(ステップS35)。対応するか否かは例えば、各候補時間位置と仮説時間位置との差が所定時間内であるか否かで判断すれば良い。
【0029】
図6(a)の各候補時間位置を、図6(c)の仮説時間位置と比較すると、レールの普通継目以外の軌道材料で生じた候補時間位置のパルスに対応する仮説時間位置のパルスが存在していないので、この候補時間位置のパルスを除去することで、図6(d)に示すようなレールの普通継目の音の時間位置が特定されるようになる。
【0030】
図3の処理の説明に戻って、出力部117は、照合部115の処理結果を、出力装置に出力する(ステップS13)。例えば、図6(d)に示されるようなデータが出力される。
【0031】
このように、波形包絡線と閾値との単純な比較では混入してしまう、普通継目以外からの音を除去することできるようになるため、精度良くレールの普通継目の音の時間位置を特定できるようになる。
【0032】
鉄道事業を実施するにあたって、鉄道運行の安全性を確保するために、レールの保守が重要である。レールの保守の中でも、レールの普通継目の遊間量が大きいと列車通過時のレールにかかる衝撃が大きくなるため、レールの普通継目は軌道の弱点となる。そのため、レールの普通継目の状態把握は特に重要となる。走行する列車上から、各レール継目の状態をその通過音で診断する方法が強く望まれるが、本実施の形態によれば、レールの普通継目の音の時間位置を正しく特定できるので、効率の良い検査実施と適切な検査判定に繋がる。
【0033】
[実施の形態2]
本実施の形態では、仮説生成部121では第2データ格納部113に格納されている候補時間位置のデータを用いずに処理する例を示す。
【0034】
本実施の形態では、仮説生成部121の代わりに仮説生成部121bを用い、照合部115の代わりに照合部115bを用いる。
【0035】
仮説生成部121b及び照合部115bの構成例を図8に示す。
【0036】
仮説生成部121bは、速度候補生成部1215と仮説パターン生成部1216とを有する。速度候補生成部1215は、予め定められた速度範囲及び間隔で複数の速度候補を生成する。仮説パターン生成部1216は、レール長DB119に格納されている一連のレール長から、速度候補毎の仮説時間位置パターンを生成して、第3データ格納部123に格納する。
【0037】
照合部115bは、ずれ算出部1151と選択部1152とを有する。ずれ算出部1151は、第2データ格納部113に格納されている候補時間位置のデータと、第3データ格納部123に格納されている複数の仮説時間位置パターンとのずれを算出する。選択部1152は、ずれ算出部1151によって算出された複数のずれのうち最小のずれに対応する仮説時間位置パターンを選択して、レールの普通継目の音の時間位置として採用する。
【0038】
より具体的に、本実施の形態に係る仮説時間位置の生成処理は、図9に示すような処理である。すなわち、速度候補生成部1215は、設定に基づき複数の速度候補を生成する(ステップS41)。例えば、走行区間において30km/hから45km/hの速度が想定される場合には、1km/h間隔で速度候補を生成する。すなわち、30km/h、31km/h、32km/h・・・・44km/h、45km/hといった複数の速度候補を生成する。範囲や間隔は設定に基づく。
【0039】
そして、仮説パターン生成部1216は、レール長DB119に格納されている走行区間における一連のレール長と複数の速度候補から、複数の仮説時間位置パターンを生成し、第3データ格納部123に格納する(ステップS43)。すなわち、一連のレール長をある速度候補で除することで各レールの走行時間が得られるのでそれを並べることで1つの仮説時間位置パターンが得られる。これを複数の速度候補に対して行うことで複数の仮説時間位置パターンを生成する。図6(c)のようなパルス列が、各速度候補について生成されることになる。なお、速度候補が大きな値ほどパルス間隔が狭いパルス列が生成され、速度候補が小さな値ほどパルス間隔が広いパルス列が生成される。
【0040】
また、本実施の形態に係る照合処理は、図10に示すような処理である。
【0041】
ずれ算出部1151は、第2データ格納部113に格納されている候補時間位置のデータと第3データ格納部123に格納されている各仮説時間位置パターンとに対して動的計画法を用いて非線形伸縮マッチングを実施することで、各仮説時間位置パターンについて候補時間位置に対するずれを算出する(ステップS51)。非線形伸縮マッチングについては、周知であるから具体的なアルゴリズムの説明については省略する。
【0042】
選択部1152は、ずれ算出部1151によって算出された各仮説時間位置パターンについてのずれを比較することで最小のずれを生じさせた仮説時間位置パターンを特定し、当該仮説時間位置パターンを、レールの普通継目の音の時間位置を表すデータとして選択する(ステップS53)。
【0043】
このような処理によっても、精度良くレールの普通継目の音の時間位置を特定できるようになる。
【0044】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図1図2及び図7の機能ブロック構成は一例であって、プログラムモジュール構成とは一致しない場合がある。図3等に示した処理フローについても、処理結果が同じであれば、並列実行したり順番を入れ替えたりしても良いステップが含まれる場合もある。
【0045】
また、情報処理装置100は、一台の装置として実施される場合もあれば、複数の装置として実施される場合もある。例えば、マイク101、AD変換部103及び第1データ格納部105を列車に搭載して、それ以外の構成要素については他の場所に配置するようにしても良い。このように情報処理装置100は、1又は複数の装置で実現される情報処理システムとして構築される場合もあり、1台の装置の場合を含めて情報処理システムと呼ぶ場合がある。
【0046】
なお、上で述べた情報処理装置100は、コンピュータ装置であって、メモリとCPU(Central Processing Unit)とハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)と表示装置に接続される表示制御部とリムーバブル・ディスク用のドライブ装置と入力装置とネットワークに接続するための通信制御部とがバスで接続されている。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本実施例における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDDに格納されており、CPUにより実行される際にはHDDからメモリに読み出される。CPUは、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部、通信制御部、ドライブ装置を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリに格納されるが、HDDに格納されるようにしてもよい。本発明の実施の形態では、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスクに格納されて頒布され、ドライブ装置からHDDにインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部を経由して、HDDにインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU、メモリなどのハードウエアとOS及びアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【0047】
以上述べた本実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0048】
本実施の形態に係る、レールの普通継目の時間位置の特定方法は、(A)雑音除去後の列車の走行音に対して包絡線の抽出処理を実行して、抽出された包絡線からレールの普通継目の音の候補時間位置を特定する第1特定ステップと、(B)列車の走行区間におけるレール長のデータを格納する格納部に格納されたレール長のデータから、レールの普通継目の音の仮説時間位置を生成する生成ステップと、(C)候補時間位置と仮説時間位置とを照合して、レールの普通継目の音の時間位置を特定する第2特定ステップとを含む。
【0049】
このようにレール長のデータを活用することで、レールの普通継目以外からの音を効果的に除外でき、精度良くレールの普通継目の音の時間位置を特定できるようになる。
【0050】
上で述べた生成ステップは、(b1)候補時間位置のデータ及びレール長のデータから走行区間を代表する列車速度を特定するステップと、(b2)レール長のデータ及び列車速度から、レールの普通継目の音の仮説時間位置を生成するステップとを含むようにしても良い。
【0051】
このように走行区間を代表する列車速度を特定できれば、一連のレール長から、レールの普通継目の音の時間間隔を算出できるようになるので、理想的状態におけるレールの普通継目の音の時間位置を特定できるようになる。なお、候補時間位置のデータから候補時間位置を代表する間隔(例えば中央値。但し他の統計量であっても良い)と、レール長のデータからレール長を代表する長さ(例えば中央値。但し他の統計量であっても良い)とから、列車速度を算出するようにしても良い。
【0052】
また、上で述べた生成ステップは、(b3)レール長のデータと複数の候補速度とから、レールの普通継目の音の仮説時間位置の複数のパターンを生成するステップを含みようにしても良い。その場合、上で述べた第2特定ステップが、(c1)候補時間位置と仮説時間位置の複数のパターンの各々とのずれを算出し、複数のパターンのずれに基づき複数のパターンのうちいずれかを選択するステップを含むようにしても良い。
【0053】
このように候補時間位置を用いて走行区間を代表する列車速度を特定することなく、ある得る複数の候補速度に基づき仮説時間位置の複数のパターンを生成することでも、精度良くレールの普通継目の音の時間位置を特定できるようになる。
【0054】
なお、上で述べた第1特定ステップにおいて、包絡線と所定の閾値との比較によって候補時間位置を特定するようにしても良い。このような単純な閾値との比較では精度良くレールの普通継目の音の時間位置のみを抽出できないので、上で述べたような処理を実行するものである。
【0055】
なお、上記処理を実行するためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブルディスク、光ディスク(CD-ROM、DVD-ROMなど)、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は記憶装置に格納される。尚、中間的な処理結果はメインメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【符号の説明】
【0056】
100 情報処理装置
101 マイク 103 AD変換部
105 第1データ格納部 107 雑音除去部
109 包絡線抽出部 111 候補抽出部
113 第2データ格納部 115,115b 照合部
117 出力部 119 レール長DB
121,121b 仮説生成部 123 第3データ格納部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10