(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/20 20060101AFI20240124BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20240124BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240124BHJP
【FI】
B32B5/20
B32B27/08
B32B7/027
(21)【出願番号】P 2019164309
(22)【出願日】2019-09-10
【審査請求日】2022-05-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築~安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現~」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000180287
【氏名又は名称】エスケー化研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】軽賀 英人
(72)【発明者】
【氏名】田中 康典
(72)【発明者】
【氏名】高岩 裕也
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭57-045861(JP,B2)
【文献】特開2004-092256(JP,A)
【文献】特開2002-201736(JP,A)
【文献】特開2015-156788(JP,A)
【文献】特開昭58-222844(JP,A)
【文献】特許第5478263(JP,B2)
【文献】特開2010-216228(JP,A)
【文献】特開平11-198264(JP,A)
【文献】特開2000-096737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
E04B 1/62- 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材を有する積層体であって、
上記プラスチック基材に対し、少なくとも熱反射層及び/又は吸熱層を介して、熱発泡層が積層されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
上記プラスチック基材に対して、少なくとも熱反射層、吸熱層、及び、熱発泡層の順に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
さらに補強層が積層されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
上記プラスチック基材に対して、少なくとも熱反射層、吸熱層、熱発泡層、及び、補強層の順に積層されていることを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
上記プラスチック基材が、繊維強化プラスチック基材であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の床や天井、トンネル、橋梁などの各種構造物には、コンクリートが幅広く利用されている。
【0003】
このようなコンクリート構造物は、一般的に耐用年数は50年程度といわれているが、地震などの災害により、早く劣化してしまう場合がある。また、コンクリートはそれ自体の重量が大きいため、災害時における人的被害の要因になることが懸念されている。
【0004】
コンクリートの代替品として、プラスチック基材が、各種構造物だけでなく、幅広い産業分野に利用されている。特に、プラスチック基材は軽量であり、作業性に優れ、中でも、繊維強化プラスチック基材は、軽量であることに加え、優れた強度を有することから各種構造物への利用が注目されている。
【0005】
但し、プラスチック基材は、高温に晒されると強度が低下し、変形しやすい性質を有するため、災害時などに発生する火災に対して、耐久性(耐火性・耐熱性)が求められる。
【0006】
例えば、建築物の天井などにプラスチック基材が使用されていると、火災が発生した際にその熱により、プラスチック基材が熱変形し、強度が著しく低下し、天井が抜け落ちるなどの問題が生じる恐れがある。
【0007】
特許文献1では、プラスチック基材に、無機質中空粒子を含む樹脂組成物からなる層と、発泡性耐火塗料からなる層とを積層することによって、プラスチック基材の耐熱性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1では、JIS A1304の30分耐火試験に規定される性能に関して、一定の耐熱性を有することが開示されているが、実用的には、より高度な耐熱性が要求される場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、鋭意研究した結果、軽量で、作業性、耐久性(耐火性・耐熱性)に優れた積層体を提供することを目的とする。
【0011】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.プラスチック基材を有する積層体であって、上記プラスチック基材に対し、少なくとも熱反射層及び/又は吸熱層を介して、熱発泡層が積層されていることを特徴とする積層体。
2.上記プラスチック基材に対し、少なくとも熱反射層、吸熱層、及び熱発泡層の順に積層されていることを特徴とする1.記載の積層体。
3.さらに補強層が積層されていることを特徴とする1.又は2.に記載の積層体。
4.上記プラスチック基材に対して、少なくとも熱反射層、吸熱層、熱発泡層、及び、補強層の順に積層されていることを特徴とする3.に記載の積層体。
5.上記プラスチック基材が、繊維強化プラスチック基材であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラスチック基材、熱反射層及び/又は吸熱層に加えて、熱発泡層を有することにより、軽量で作業性に優れ、更に、耐火性、耐熱性に優れた積層体を得ることができ、有用である。また、補強層を設けることで、積層体の更なる耐久性(耐熱性、耐火性、機械的強度)の向上を図ることができ、有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【符号の説明】
【0014】
1:プラスチック基材
2、2’:熱反射層
3:吸熱層
4:熱発泡層
5:補強層
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
本発明の積層体は、プラスチック基材に対して、少なくとも熱反射層及び/又は吸熱層を介して、熱発泡層が積層されていることを特徴とする。本発明では、プラスチック基材と熱発泡層との間に、少なくとも熱反射層及び/又は吸熱層を設けた積層構造により、優れた耐熱性を発揮させることが可能となる。更に、プラチック基材に対して、補強層を設けることも好ましい。なお、後述する熱反射層、吸熱層、熱発泡層、及び、補強層は、積層体を構成する際にそれぞれ層を、1層ずつ有していてもよく、いずれかの層を複数層有していても構わない。
【0017】
<プラスチック基材>
本発明において、プラスチック基材として、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を主成分とする基材を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリエステル、ポリブチレンテレフタラート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、架橋反応によって三次元架橋構造を形成するものが使用でき、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で使用できる。
【0018】
プラスチック基材の厚みは、強度、軽量性等の点から、好ましくは0.5~50mm、より好ましくは1~40mmであり、更に好ましくは2~30mmである。なお、本発明において「a~b」は、「a以上b以下」と同義である。
【0019】
本発明では、プラスチック基材として、繊維強化プラスチック基材を使用することができる。繊維強化プラスチック基材は、上述のような樹脂と繊維が複合化されたものであり、高強度、軽量等の特性を有する基材である。プラスチック基材として繊維強化プラスチック基材を用いることにより、本発明の積層体を構造部材などに適用することが可能となる。
【0020】
繊維強化プラスチック基材に使用される繊維としては、例えば、ガラス繊維、ケブラー繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、ボロン繊維、チラノ繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維等が挙げられ、中でも、機械的強度向上の観点から、ガラス繊維や炭素繊維を使用することが好ましく、更にガラス繊維の使用はコスト面からも好ましい。これらは1種又は2種以上で使用できる。
【0021】
<熱反射層>
本発明において、熱反射層として、熱反射性の高い金属製の板、シート、テープ等を用いることができる。熱反射層を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、銅、銀等が挙げられ、この中でもアルミニウムが好適である。具体的に熱反射層としては、例えば、アルミニウム箔、アルミニウムテープ、アルミニウムクロス、アルミニウム箔・ガラス不織布積層シート、アルミニウム箔・メッシュ積層シート、アルミニウム箔・合成樹脂積層シート等が挙げられる。例えば、アルミニウムテープを使用する際は、アルミニウム層の片面に粘着剤層が形成されているテープなどを使用することができる。これらは1種又は2種以上で使用できる。
【0022】
熱反射層の厚みは、熱反射性、耐熱性、強度、軽量性等の点から、好ましくは0.01~1mm、より好ましくは0.02~0.5mmであり、更に好ましくは、0.04~0.1mmである。
【0023】
<吸熱層>
本発明において、吸熱層は、温度上昇時に吸熱作用を示すものを用いることができる。吸熱層としては、結合水及び/又は自由水を有する層が好ましく、このような吸熱層は、温度上昇の際、結合水及び/又は自由水の脱水(蒸発等)により熱を吸収する性能を発揮することができる。ここで、結合水とは、吸熱層を構成する成分に結合した状態にある水であり、例えば、水和水、結晶水、吸着水等が挙げられる。一方、自由水とは、吸熱層を構成する成分との結びつきがない状態で吸熱層に含まれる、結合水以外の水である。
【0024】
吸熱層を構成する材料としては、例えば、セメント、石膏等を原料とする硬化物(例えば、モルタル、コンクリート、石膏ボード等)、あるいは、吸水性ポリマー、ハイドロゲル等を内包する板、シート、硬化物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で使用できる。
【0025】
本発明では、吸熱層を構成する好適な材料の一例として、例えば、石膏ボードが挙げられる。石膏ボードは、通常、硫酸カルシウム2水和物を主成分とすることから、結合水を多く含んでおり、100~200℃の温度領域内で吸熱作用を示す。そのため、炎や熱等による温度上昇の際に、安定した吸熱作用を発揮することができる。石膏ボードとしては、一般的な石膏ボードの他、不燃積層石膏ボード(表紙として不燃性の原紙を用いた石膏ボード)、強化石膏ボード(ガラス繊維等の無機繊維を混入した石膏を芯材とする石膏ボード)、ガラス繊維不織布入石膏ボード(ガラス繊維を混入した石膏を芯材とし、その表裏面にガラス繊維不織布を挿入した石膏ボード)等が使用できる。
【0026】
吸熱層の厚みは、吸熱性、耐熱性、強度、軽量性等の点から、好ましくは1~30mm、より好ましくは3~28mmであり、更に好ましくは5~25mmである。
【0027】
<熱発泡層>
本発明において、熱発泡層としては、火災等により周囲温度が上昇して、熱発泡層の温度が所定の発泡温度に達すると、熱発泡層を構成するそれぞれの原料により、発泡し、炭化断熱層を形成するものを用いることができる。
【0028】
熱発泡層の発泡温度としては、炎や熱等による温度上昇の点から、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは200~400℃である。
【0029】
熱発泡層は、例えば、熱発泡性コーティング材や熱発泡性シート等によって形成することができ、これらを組み合わせて使用することもできる。
【0030】
熱発泡層は、構成成分として樹脂成分、難燃剤、発泡剤、炭化剤、及び充填剤を含有する各成分の混合物からなるものが好適である。このうち、樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。難燃剤としては、例えばポリリン酸アンモニウム等が挙げられ、発泡剤としては、例えばメラミン、ジシアンジアミド、アゾジカーボンアミド等が挙げられる。また、炭化剤としては、例えばペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられ、充填剤としては、例えば二酸化チタン、炭酸カルシウム、無機繊維等が挙げられる。これら各成分については、1種又は2種以上で使用できる。
【0031】
各成分の混合比率(重量比率)は、固形分換算で、樹脂成分100重量部に対して、難燃剤200~600重量部、発泡剤40~150重量部、炭化剤40~150重量部、及び充填剤50~160重量部であることが好ましい。上記混合比率で使用した場合には、難燃性や耐火性、耐熱性などを満足することができ、好ましい態様となる。
【0032】
熱発泡層を形成する混合物は、上記各成分に加え、必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、本発明の効果を著しく阻害しないものであればよく、例えば、顔料、繊維、湿潤剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、希釈溶媒等が挙げられる。
【0033】
熱発泡層の形成に用いられる熱発泡性コーティング材は、上記各成分や添加剤を含有する液状の混合物として用いることができる。また、熱発泡層の形成に用いられる熱発泡性シートは、上記各成分や添加剤を含有する混合物がシート状に成形されたものを用いることができる。
【0034】
熱発泡層の厚みは、用途等により適宜設定すれば良いが、耐熱性、軽量性等の点から、好ましくは0.1~10mmであり、より好ましくは0.3~8mmであり、更に好ましく0.5~6mmである。
【0035】
熱発泡層は、上記各成分や添加剤を含む混合物のみから構成されたものであってもよいが、熱発泡層の表面ないし裏面に繊維質シート等が積層されたものであってもよい。このような繊維質シートとしては、例えば、有機繊維及び/又は無機繊維等を含む公知のシートを使用することができる。
【0036】
本発明において、上記プラスチック基材に対し、少なくとも熱反射層、吸熱層、及び熱発泡層の順に積層されていることが好ましい。上記順で、各層が積層されることにより、火災等の熱による温度上昇を抑制する効果が高まり、耐久性(耐火性・耐熱性)が向上し、好ましい態様となる。
【0037】
<補強層>
本発明において、更に補強層が積層されていることが好ましい。補強層としては、火災等により周囲温度が上昇した際に、熱発泡層の発泡を阻害せず、熱発泡層の発泡により形成された炭化断熱層の脱落を防止できるものを用いることができる。補強層を有することで、積層体自体の耐熱性や耐火性だけでなく、機械的強度の向上を図ることができ、好ましい態様となる。なお、補強層は、熱発泡層又は吸熱層のプラスチック基材と接する面とは反対面に形成することが、炭化断熱層の脱落防止等の点から、好ましく、より好ましくは、補強層が、熱発泡層と接触して積層されていることが好ましい。
【0038】
補強層としては、例えば、織布、不織布、メッシュ等の1種以上からなる繊維質層、あるいは、各種金属からなる金網層等が挙げられる。このうち、繊維質層の繊維素材としては、例えば、パルプ繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、セルロース繊維等の有機繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、カーボン繊維、炭化珪素繊維等の無機繊維等が挙げられ、この中でも無機繊維を含むものが好ましい。
【0039】
また、補強層として、メッシュ、金網等のネット層を用いる場合には、無機繊維からなるメッシュや、鉄、ステンレス、真鍮等の金属から形成されるネット層を使用でき、その目開き(ピッチ)としては、好ましくは0.5~50mmであり、より好ましくは1~40mmであり、更に好ましくは5~30mmである。目開きが前記範囲内にあることにより、補強層が重くなり過ぎず、熱発泡層等の脱落を防止することができ、好ましい。金属製のネット層については、樹脂被覆等により防錆性を付与したもの等を用いることもできる。
【0040】
また、補強層の厚みとしては、好ましくは0.1~5mm、より好ましくは0.2~3mmである。
【0041】
本発明の積層体は、上記プラスチック基材に対して、少なくとも熱反射層、吸熱層、熱発泡層、及び、補強層の順に積層されていることが好ましい。上記順で、各層が積層されることにより、火災等の熱による温度上昇を抑制する効果がいっそう高まり、耐久性(耐火性、耐熱性、機械的強度)が向上し、好ましい態様となる。
【0042】
<積層体>
以下、プラスチック基材(以下、単に「基材」という場合がある。)に各層が積層された本発明の積層体について、図面を用いて説明する。
【0043】
図1には、本発明の積層体の一例(断面図)を示す。
図1の積層体では、プラスチック基材1(基材1)に対し、熱反射層2、及び熱発泡層4が順に積層されている。
図1の積層体では、基材1と熱発泡層4との間に、熱反射層2を設けた積層構造により、優れた耐熱性を発揮することが可能となる。具体的に、火災等によって熱発泡層4側が高温に晒された場合には、熱発泡層4が発泡して炭化断熱層を形成すると共に、熱反射層2が遮熱作用を示す。さらに熱反射層2は、熱発泡層4の発泡を促進する作用も示す。このような作用によって、
図1の積層体では基材1の温度上昇を抑制することができる。
【0044】
基材1として、繊維強化プラスチック基材を用いた場合は、構造部材としての機械的強度などの適性を高めることができる(
図1以外も同様)。
【0045】
図1の積層体は、例えば、基材1と熱反射層2と熱発泡層4として熱発泡性シートとを接着剤等を用いて貼り合わせることによって形成することができる。接着剤としては、例えば、アクリル樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、パラフィン等を主原料とした水分散型、水溶性型、溶剤型の接着剤等、公知のものを使用することができる。接着剤には、必要に応じて、上述の熱発泡性層に配合されるような難燃剤、発泡剤、炭化剤、充填剤等の添加剤を配合することができる。なお、本発明において、接着剤には粘着剤も包含される。
【0046】
また、熱発泡層4は、例えば、熱反射層2の表面に熱発泡性コーティング材を塗装することによっても形成できる。この場合、基材1と熱反射層2との積層は、熱発泡性コーティング材の塗装前であってもよいし、塗装後であってもよい。
【0047】
図2には、本発明の積層体の別の一例(断面図)を示す。
図2の積層体では、基材1に対し、吸熱層3、及び熱発泡層4が順に積層されている。
図2の積層体では、基材1と熱発泡層4との間に、吸熱層3を設けた積層構造により、優れた耐熱性を発揮することが可能となる。具体的に、火災等によって熱発泡層4側が高温に晒された場合には、熱発泡層4が発泡して炭化断熱層を形成すると共に、吸熱層3が水等による吸熱作用を示すことによって、基材1の温度上昇を抑制することができる。
【0048】
図2の積層体は、例えば、基材1と吸熱層3と熱発泡層4として熱発泡性シートとを接着剤(
図1の場合と同様のもの)等を用いて貼り合わせることによって形成することができる。また、熱発泡層4は、例えば、吸熱層3の表面に熱発泡性コーティング材を塗装することによっても形成でき、この場合、基材1と吸熱層3との積層は、熱発泡性コーティング材の塗装前であってもよいし、塗装後であってもよい。
【0049】
図3には、本発明の積層体の別の一例(断面図)を示す。
図3の積層体では、基材1に対し、熱反射層2、吸熱層3、及び熱発泡層4が順に積層されている。
図3の積層体では、基材1と熱発泡層4との間に、熱反射層2と吸熱層3とを設けた積層構造により、一段と優れた耐熱性を発揮することが可能となる。具体的に、火災等によって熱発泡層4側が高温に晒された場合には、熱発泡層4が発泡して炭化断熱層を形成すると共に、吸熱層3が水等による吸熱作用を示し、熱反射層2が遮熱作用を示す。さらに、熱反射層2は、熱発泡層の発泡促進作用と、吸熱層の吸熱促進作用を示す。このような作用によって、
図3の積層体では、基材1の温度上昇をよりいっそう抑制することができる。
【0050】
図3の積層体は、例えば、基材1と熱反射層2と吸熱層3と熱発泡層4として熱発泡性シートとを接着剤(
図1の場合と同様のもの)等を用いて貼り合わせることによって形成することができる。また、熱発泡層4は、例えば、吸熱層3の表面に熱発泡性コーティング材を塗装することによっても形成でき、この場合、基材1と熱反射層2との積層、熱反射層2と吸熱層3との積層は、熱発泡性コーティング材の塗装前であってもよいし、塗装後であってもよい。
【0051】
図4には、本発明の積層体の別の一例(断面図)を示す。
図4の積層体では、基材1に対し、熱反射層2、吸熱層3、熱反射層2’、及び熱発泡層4が順に積層されている。
図4の積層体では、基材1と熱発泡層4との間に、熱反射層2と吸熱層3と熱反射層2’とを設けた積層構造により、一段と優れた耐熱性を発揮することが可能となる。具体的に、火災等によって熱発泡層4側が高温に晒された場合には、熱発泡層4が発泡して炭化断熱層を形成すると共に、吸熱層3が水等による吸熱作用を示し、吸熱層3の両側に設置された熱反射層2及び2’が遮熱作用を示す。さらに、熱反射層2及び2’は、熱発泡層の発泡促進作用及び/又は吸熱層の吸熱促進作用を示す。このような作用によって、
図4の積層体では基材1の温度上昇をよりいっそう抑制することができる。
【0052】
図4の積層体は、例えば、基材1と熱反射層2と吸熱層3と熱反射層2’と熱発泡層4として熱発泡性シートとを接着剤(
図1の場合と同様のもの)等を用いて貼り合わせることによって形成することができる。また、熱発泡層4は、例えば、熱反射層2’の表面に熱発泡性コーティング材を塗装することによっても形成でき、この場合、基材1と熱反射層2との積層、熱反射層2と吸熱層3との積層、吸熱層3と熱反射層2’との積層は、熱発泡性コーティング材の塗装前であってもよいし、塗装後であってもよい。
【0053】
図5には、本発明の積層体の別の一例(断面図)を示す。
図5の積層体では、基材1に対し、熱反射層2、吸熱層3、熱発泡層4、及び補強層5が順に積層されている。すなわち、
図5の積層体は、
図3の積層体の熱発泡層4の表面に補強層5が設けられた構成となっている。
図5の積層体では、
図3で述べた事項に加え、熱発泡層4の表面に補強層5が設けられていることにより、熱発泡層4が発泡して炭化断熱層を形成した際に、炭化断熱層の形状を保持して脱落を防止する性能等を高めることができ、基材1の温度上昇抑制効果を一段と安定化させることができる。
【0054】
熱発泡層4と補強層5との積層は、例えば、熱発泡層4と補強層5とを、接着剤(
図1の場合と同様のもの)等を用いて貼り合わせることによって行うことができる。また、熱発泡層4に補強層5を圧着する方法等によって積層することもできる。熱発泡層4に補強層5を圧着するには、例えば、熱発泡層4として、熱発泡性シートを製造する際に補強層を圧着する方法、熱発泡層4として、熱発泡性コーティング材の硬化前に補強層を圧着する方法、熱発泡層を加温しながら補強層を圧着する方法等を採用することができる。熱発泡層を加温しながら、補強層を圧着する方法においては、例えば、アイロン、ヒートガン等を用いることができる。
【0055】
本発明では、
図1~5で示した他に、本発明の効果が著しく損なわれない限り、種々の層を設けることができる。例えば、熱発泡層4、補強層5等の表面には、化粧層等を設けることができる。化粧層としては、熱発泡層の発泡性を阻害しないものであればよく、各種コーティング材、シート材、フィルム材等が使用できる。これらは、透明ないし不透明、無色ないし着色、無光沢ないし有光沢、単色ないし多色、平坦ないし凹凸等、種々の外観を呈するものが使用できる。本発明では、化粧層を設けることにより、本発明の積層体の美観性、耐水性、耐候性等を高めることができる。
【0056】
図1~5では、プラスチック基材1(基材1)の片面に各層を積層した例を示したが、当該基材1のもう一方の面は、用途、適用部位、要求性能等に応じて、各種材料が積層されたものであってもよい。例えば、基材1のもう一方の面には、コア材(例えば、フォーム材、無機質板材等)を設け、さらに別途プラスチック基材等を積層することができる。また、基材1の上記片面に、上述の各層を設けることもできる。
【0057】
本発明の積層体は、例えば、建築、土木、船舶、車両、航空機等の各分野の耐熱性や耐火性が要求される用途に適用することができる。建築材料として用いる場合は、例えば、天井材、屋根材、壁材、床材、柱、梁、庇、扉、間仕切り等に適用することができる。本発明の積層体は、耐熱性や耐火性等に優れたものであり、例えば、JIS A1304:2017に規定される試験において60分以上の耐火性能を発揮することができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にするが、これら実施例に限定解釈されるものではない。
【0059】
試験体として使用する積層体を構成する材料として、以下のものを使用した。また、前記試験体としては、その積層形態を表1に示した。
・基材11:繊維強化プラスチック(ガラス繊維系、厚み5mm)
・熱反射層21:アルミニウムテープ(アルミニウム層の厚み:0.05mm、粘着剤層の厚み:0.03mm)
・吸熱層31:ガラス繊維不織布入石膏ボード(厚み8mm)
・吸熱層32:ガラス繊維不織布入石膏ボード(厚み5mm)
・熱発泡層41:熱発泡性シート[熱可塑性樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)100重量部、発泡剤(メラミン)60重量部、炭化剤(ペンタエリスリトール)60重量部、難燃剤(ポリリン酸アンモニウム)300重量部、充填剤(酸化チタン)75重量部、及びその他添加剤(繊維、可塑剤等)の混合物を120℃に加温したニーダーで混練、圧延後、室温まで放冷して得られた熱発泡性シート。厚み3mm]
・熱発泡層42:熱発泡性シート[熱可塑性樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)100重量部、発泡剤(メラミン)60重量部、炭化剤(ペンタエリスリトール)60重量部、難燃剤(ポリリン酸アンモニウム)300重量部、充填剤(酸化チタン)75重量部、及びその他添加剤の混合物を120℃に加温したニーダーで混練、圧延後、室温まで放冷して得られた熱発泡性シート。厚み0.8mm]
・補強層51:樹脂被覆鉄製金網(厚み0.4mm、鉄部分の厚み0.3mm、樹脂被覆厚み0.05mm、25mm格子)
【0060】
(試験体1)
基材11の片面に、エポキシ樹脂接着剤を用いて吸熱層31を貼り付けた後、吸熱層31の基材11と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層41を貼り付けて、試験体1を得た。
【0061】
(試験体2)
基材11の片面に、エポキシ樹脂接着剤を用いて吸熱層31を貼り付けた後、吸熱層31の基材11と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層41を貼り付け、さらに補強層51を熱圧着して、試験体2を得た。
【0062】
(試験体3)
基材11の片面に、熱反射層21の粘着剤層面を貼り付けた後、熱反射層21の基材11と接触する面とは反対面(アルミニウム層面)にエポキシ樹脂接着剤を用いて吸熱層31を貼り付け、次いで吸熱層31の熱反射層21と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層41を貼り付け、さらに補強層51を熱圧着して、試験体3を得た。
【0063】
(試験体4)
基材11の片面に、熱反射層21の粘着剤層面を貼り付けた後、熱反射層21の基材11と接触する面とは反対面(アルミニウム層面)にエポキシ樹脂接着剤を用いて吸熱層31を貼り付け、次いで吸熱層31の熱反射層21と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱反射層21を貼り付けた。次いで熱反射層21の吸熱層21と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層41を貼り付け、さらに補強層51を熱圧着して、試験体4を得た。
【0064】
(試験体5)
基材11の片面に、熱反射層21の粘着剤層面を貼り付けた後、熱反射層21の基材11と接触する面とは反対面(アルミニウム層面)にエポキシ樹脂接着剤を用いて吸熱層31を貼り付け、次いで吸熱層31の熱反射層21と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて吸熱層32を貼り付けた。次いで吸熱層32の吸熱層31と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層41を貼り付け、さらに補強層51を熱圧着して、試験体5を得た。
【0065】
(試験体6)
基材11の片面に、熱反射層21の粘着剤層面を貼り付けた後、熱反射層21の基材11と接触する面とは反対面(アルミニウム層面)にエポキシ樹脂接着剤を用いて吸熱層31を貼り付け、次いで吸熱層31の熱反射層21と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層41を貼り付けた。次いで熱発泡層41の吸熱層31と接触する面とは反対面にアクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層42を貼り付け、さらに補強層51を熱圧着して、試験体6を得た。
【0066】
(試験体7)
基材11の片面に、アクリル樹脂接着剤を用いて熱発泡層41を貼り付けて、試験体7を得た。
【0067】
(試験体8)
基材11の片面に、エポキシ樹脂接着剤を用いて吸熱層31を貼り付けて、試験体8を得た。
【0068】
(耐熱性試験)
以上の方法で作製した各試験体を、試験炉に設置(基材側が上方となるように下向きに設置。前記基材の裏面(上方)に熱電対を設置し、さらにその上方には厚さ25mmの耐熱断熱性ブランケットを2枚設置して、試験炉外の温度変化による熱電対における温度変化の影響を防止。)し、ISO834の標準加熱曲線に準じて、60分間加熱試験を行い、試験体表面を加熱した際のプラスチック基材の裏面温度を測定した。評価基準は以下の通りである。試験結果を表1に示す。なお、実用レベルとしては、評価基準のAA、A又はBであることが好ましい。
(評価基準)
AA:30分加熱後150℃以下、60分加熱後150℃以下
A :30分加熱後150℃以下、60分加熱後150℃超え、200℃以下
B :30分加熱後150℃以下、60分加熱後200℃超え、250℃以下
C :30分加熱後150℃超え、350℃以下
D :30分加熱後350℃超え、500℃以下
【0069】
(耐久性試験)
上記耐熱性試験にて60分間加熱試験を行った後、試験体を取り外して試験体表面の外観を目視にて観察し、異常(割れや脱落)の有無を確認した。
【0070】
【0071】
上記表1の評価結果より、全ての実施例において、プラスチック基材に、少なくとも熱反射層または吸熱層を有し、更にこれらの層を介して熱発泡層を有することで、耐熱性評価において、実用レベルを有していることが確認できた。特に、実施例3~6では、熱反射層と吸熱層とを有することで、耐熱性評価において、60分加熱後の基材裏面温度が200℃以下となり、優れた耐熱性を確保することが確認できた。
【0072】
一方、比較例1においては、熱発泡層を有していたが、熱反射層や吸熱層を有していなかったため、加熱30分が経過する段階で、熱発泡層が脱落して、基材の裏面温度が上昇する結果となった。また、比較例2においては、吸熱層を有していたが熱発泡層を有していなかったため、吸熱層中の結晶水が急激に蒸発し、加熱30分が経過する段階で、吸熱層に割れが生じ、基材の裏面温度が上昇する結果となり、耐熱性が得られない結果となった。