(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】遮水壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/18 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
E02D5/18
(21)【出願番号】P 2020087505
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 豪
(72)【発明者】
【氏名】宇梶 伸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】田 彦
(72)【発明者】
【氏名】勝見 武
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-041365(JP,A)
【文献】特開2006-249929(JP,A)
【文献】特開平10-263499(JP,A)
【文献】特開2018-104929(JP,A)
【文献】特開2001-129507(JP,A)
【文献】米国特許第04193716(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00-5/20
E02D 3/12
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中
の土砂に粘土鉱物のスラリーを供給して先行撹拌をし、この先行撹拌をした土砂に粘土鉱物の粉体を供給して後行撹拌をし、
セメント系材料の粉体及び/又はセメント系材料のスラリーを、前記粘土鉱物の粉体と共に供給し、
更に前記粘土鉱物の粉体の供給に次いで供給し、
前記粘土鉱物の総供給量を
土砂1m
3
に対して50~200kgとし、
前記セメント系材料の総供給量を
土砂1m
3
に対して30~200kgとし、
前記
粘土鉱物及び前記セメント系材料を含むスラリーの総供給量を
土砂1m
3
に対して50~700Lとする、
ことを特徴とする遮水壁の構築方法。
【請求項2】
前記セメント系材料は粉体で供給するものとし、
前記粘土鉱物
を含むスラリーの供給量を
土砂1m
3
に対して50~500Lとする、
請求項1に記載の遮水壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本各地の海岸域は、太平洋ベルト地帯に代表されるように、工場などが密集している。近年、かかる工場やその跡地などから、敷地外へ汚染物質が漏洩する環境汚染が重要な問題となっている。また、内陸部に造成された産業廃棄物処分場やその跡地などにおいても、海岸域の工場やその跡地におけるのと同様に、汚染物質が漏洩して周辺環境を悪化させることがある。そして、これらの汚染対策としては、対象地盤の敷地境界となる位置に遮水壁を構築して汚染物質の漏洩を遮断する(拡散を防止する)方法が存在する。
【0003】
この遮水壁を構築する方法としては、例えば、アースオーガー機などによって対象地盤(遮水壁を構築する部分の地盤)を掘削し、この掘削によって形成された当該地盤中の土砂に、セメント系材料を供給して撹拌をする方法が知られている。この方法においては、かかる撹拌をした土砂が硬化して、遮水壁となる。しかしながら、遮水壁の構築にあたって、セメント系材料を供給すると、構築された遮水壁は、地盤の変形などに追従できないものとなるため、例えば、地震時等の周辺地盤が大きく変形する場合、クラック等の発生により遮水性を維持できないことが懸念される。
【0004】
そこで、セメント系材料を供給せず、対象地盤を掘削して形成した掘削孔や掘削溝内に、粘土鉱物の懸濁液を充填する方法が存在する。この方法においては、遮水壁となる充填した粘土鉱物が、自己修復性に起因する地盤変形に対する追従性を有するため、地震時等でも遮水性を維持することができる。しかしながら、この方法においては、セメント系材料を供給していないため、遮水壁の強度が相対的に弱くなる。そこで、掘削によって形成された地盤中の土砂に、セメント及びベントナイトの両方を供給する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法においては、セメント由来の化学物質の溶解や構造の緻密化により遮水壁の透水係数が変化すると考えられる。もっとも、セメント由来のアルカリ雰囲気により重金属の吸着性が向上する可能性もある。したがって、透水係数及び吸着性を考慮したうえで、遮水壁の性能を議論する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする主たる課題は、透水係数及び吸着性に優れた遮水壁の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
地盤中の土砂に粘土鉱物のスラリーを供給して先行撹拌をし、この先行撹拌をした土砂に粘土鉱物の粉体を供給して後行撹拌をし、
セメント系材料の粉体及び/又はセメント系材料のスラリーを、前記粘土鉱物の粉体と共に供給し、更に前記粘土鉱物の粉体の供給に次いで供給し、
前記粘土鉱物の総供給量を土砂1m
3
に対して50~200kgとし、
前記セメント系材料の総供給量を土砂1m
3
に対して30~200kgとし、
前記粘土鉱物及び前記セメント系材料を含むスラリーの総供給量を土砂1m
3
に対して50~700Lとする、
ことを特徴とする遮水壁の構築方法。
【0008】
(請求項2に記載の手段)
前記セメント系材料は粉体で供給するものとし、
前記粘土鉱物を含むスラリーの供給量を土砂1m
3
に対して50~500Lとする、
請求項1に記載の遮水壁の構築方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、透水係数及び吸着性に優れた遮水壁の構築方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】バッチ吸着試験後の溶液のカルシウムイオン濃度及びヒ素濃度の関係を示す図である。
【
図4】バッチ吸着試験後の溶液の鉄イオン濃度及びヒ素濃度の関係を示す図である。
【
図5】バッチ吸着試験後の溶液の電気伝導率(EC)及びヒ素濃度の関係を示す図である。
【
図6】バッチ吸着試験後の溶液のpH及びヒ素濃度の関係を示す図である。
【
図7】バッチ吸着試験で得られた各SB(試料)の吸着等温線を示す図である。
【
図8】セメント添加後のフロー値の経時変化を示す図である。
【
図9】セメント添加後のフロー値の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0012】
〔遮水壁構築用の薬剤〕
本形態において薬剤とは、例えば、掘削装置などを用いて対象地盤を掘削し、この掘削により形成された当該地盤中の土砂に薬剤を供給し、撹拌して遮水壁を構築する際に、当該薬剤として用いられるものである。この薬剤には、例えば、粘土鉱物のスラリーや粉体、セメント系材料のスラリーや粉体等が含まれる。
【0013】
本形態において、処理の対象となる地盤は、特に限定されない。また、粘土鉱物は、好ましくはスメクタイトを含む粘土鉱物である。スメクタイトとは、モンモリロナイトとよく似た結晶構造及び特性を示す鉱物のグループであり、例えば、モンモリロナイトのほか、バイデライトやノントロナイト、サボナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイトなどを例示することができる。モンモリロナイトを含む粘土鉱物としては、例えば、ベントナイト等が存在する。ベントナイトは、Na型であっても、Ca型であってもよいが、好ましくはNa型である。
【0014】
セメント系材料としては、例えば、高炉セメントB種、セメント系固化材等のセメント単体の他、セメントベントナイト(CB)、セメントスラリー等を例示することができる。
【0015】
本形態の薬剤には、必要に応じて炭酸ソーダや珪酸ナトリウム(水ガラス)、珪酸カリウム等の珪酸アルカリが配合され、また、必要に応じて苛性ソーダが配合される。対象地盤が海水等の電解質の溶けた水を含むと、この電解質が粘土鉱物に作用して、脱水量の増加(膨潤作用の阻害)を招く。この脱水量の増加により、構築された遮水壁の遮水性が低下する。しかしながら、炭酸ソーダとともに、珪酸ナトリウム等の珪酸アルカリが配合され、必要に応じて苛性ソーダが配合された薬剤を用いると、電解質が本形態の薬剤と接触して不溶化され、粘土鉱物に接触し難くなり、脱水量の増加を抑えることができる。
【0016】
本形態の薬剤には、炭酸ソーダや珪酸アルカリとともにコロイダルシリカを配合しても好ましいものとなる。コロイダルシリカを配合すると、構築される遮水壁の遮水性が向上する。しかも、コロイダルシリカは、薬剤や土砂の粘度増加を招かないため、施工面で有利である。
【0017】
本形態の薬剤には、Na型ゼオライトを配合するのも、好ましい形態である。ゼオライトは、陽イオン交換能(CEC)が高い。したがって、ゼオライトを配合すると、アルカリ土類金属イオンを吸着、除去できると考えられ、構築される遮水壁の遮水性が低下するのを阻止することができる。
【0018】
本形態の薬剤には、シリカフュームを配合するのも、好ましい形態である。シリカフュームは、フェロシリコン、電融ジルコニア、金属シリコンの製造時に発生する平均粒径0.1~0.3μmと非常に細かい球状のシリカ微粒子である。シリカフュームを配合すると、当該シリカフュームが遮水壁中の間隙に充填された状態になるため、目止め機能が発揮されて遮水壁の遮水性が向上する。また、当該シリカフュームの充填により、粘土鉱物に対する電解質の接触量が減るため、粘土鉱物の脱水量増加、遮水壁の遮水性低下が抑えられる。
【0019】
本形態の薬剤には、吸水ポリマーを配合するのも、好ましい形態である。吸水ポリマーは、例えば、おむつ等の吸水材料として使用されているポリアクリル酸系の高吸水型樹脂などからなる。吸水ポリマーを配合すると、当該吸水ポリマーが水を吸収して体積が膨張することによる圧密効果と吸水後のゼリー状の軟体物質により粘土鉱物粒子間の空隙を埋める目詰め効果が発揮されるため遮水性が向上し、また、前述シリカフュームと同様、粘土鉱物に対する電解質の接触量減少による粘土鉱物の脱水量増加及び遮水壁の遮水性低下が抑えられる。
【0020】
〔遮水壁の構築方法〕
次に、本形態の遮水壁の構築方法について、説明する。なお、本形態において「及び/又は」とは、「少なくともいずれか一方」を意味する。したがって、例えば、「A及び/又はB」とは、「A及びBの少なくともいずれか一方」を意味する。
【0021】
以上の遮水壁構築用の薬剤を用いて遮水壁を構築するにあたっては、例えば、掘削装置などを用いて対象地盤を掘削し、この掘削により形成された当該地盤中の土砂に本形態の薬剤を供給し、適宜撹拌する等して遮水壁を構築する。より具体的には、地盤にベントナイト等の粘土鉱物のスラリーを供給して先行撹拌をし、この先行撹拌をした土砂にベントナイト等の粘土鉱物の粉体を供給して後行撹拌をする。そして、セメント系材料の粉体及び/又はセメント系材料のスラリーを、粘土鉱物の粉体と共に供給し、及び/又は粘土鉱物の粉体の供給に次いで供給する。以上の各種薬剤の供給や撹拌によって遮水壁が構築される。
【0022】
各種薬剤の供給量は、例えば、地盤条件、要求される遮水性能、対象土を用いた事前の室内配合試験、経済性等に基づいて決定することができる。以下では、施工性をも考慮した各種薬剤の供給量範囲を提示する。
【0023】
セメント系材料の総供給量は、土砂1m3に対して、好ましくは30~200kg、より好ましくは30~150kg、特に好ましくは50~150kgである。総供給量が30kgを下回ると(未満であると)、施工時の攪拌不良による固化不良が生じるおそれがある。他方、総供給量が200kgを上回ると(超えると)、強度が高くなることで、地盤の変形に追随できないものとなるおそれがある。なお、セメント系材料の総供給量とは、セメント系材料の粉体、及びセメント系材料のスラリー中のセメント系材料の総量を意味する。
【0024】
セメント系材料のスラリーの濃度は、好ましくは60~400(w/v)%、より好ましくは100~300(w/v)%、特に好ましくは150~200(w/v)%である。濃度が60(w/v)%を下回るとスラリーの液粘度が高くなり、地盤への圧送が困難となるおそれがある。他方、濃度が400(w/v)%を上回るとスラリー中の材料分離により圧送が困難となるおそれがある。
【0025】
ベントナイト等の粘土鉱物の総供給量は、土砂1m3に対して、好ましくは50~200kg、より好ましくは70~150kg、特に好ましくは100~130kgである。総供給量が50kgを下回ると、施工時の攪拌不良による遮水性の低下となるおそれがある。他方、総供給量が200kgを上回ると、後行攪拌時に粘度が高くなり、施工不能となるおそれがある。なお、粘度鉱物の総供給量とは、粘度鉱物の粉体、及び粘度鉱物のスラリー中の粘度鉱物の総量を意味する。
【0026】
以上において「粉体」とは、固体が粒子になって多数集合している状態を意味する。したがって、1つ1つの固体の大きさは特に限定されない。
【0027】
スラリーの総供給量は、その種類の如何に関わらず、土砂1m3に対して、好ましくは50~700L、より好ましくは100~600L、特に好ましくは100~500Lである。総供給量が50Lを下回ると、先行攪拌時に掘削不能となるおそれがある。なお、スラリーの総供給量とは、粘度鉱物のスラリー、及びセメント系材料のスラリーの総量を意味する。
【0028】
また、セメント系材料を粉体で供給する場合においては、粘土鉱物のスラリーの供給量を50~500L/m3とするのが好ましく、100~400L/m3とするのがより好ましく、200~400L/m3とするのが特に好ましい。供給量を多くすることで、セメント系材料の添加直後におけるフロー値が高くなり、施工性(均質性)の向上を期待することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について説明する。
本実施例においては、供試体を等厚式施工機械を用いた施工手順にならって作製した。具体的には、乾燥密度1.62g/cm3、含水比22%のまさ土地盤を想定し、これを母材に用いた。セメント系材料にはセメントである高炉セメントB種(住友大阪セメント)を、粘度鉱物であるベントナイトにはNa型ベントナイトを用いた。含水比調整した母材に5(w/v)%濃度のベントナイトスラリーを添加して十分に先行撹拌した後、粉体ベントナイトを添加し、後行撹拌した。その後、所定量の粉体状のセメントを添加して再度攪拌し、混合土を作製した。作製した混合土は、直径6.0cm、高さ2.0cmの圧密試験用の鋼製セルに充填し、39.2kPaで2日間予備圧密を行った後、24時間浸水脱気を行い供試体を飽和させた。飽和後の試料をセルから取り出し、後述の柔壁型透水試験装置にセットして透水試験を行った。対象とした試料の配合条件を表1に示す。
【0030】
【0031】
Group Aはセメントを添加していないSB(ソイルベントナイト)である。Group B~Eではベントナイト添加量や含水量はGroup Aと同じであり、セメント添加量のみ変化させた。Group Eは、Group Dとセメント添加量は同じであるが、粉体ベントナイト添加量を増加させた。
【0032】
(透水試験)
SBの透水係数は極めて低いことから、ASTM D5084-03に準拠した柔壁型透水試験装置を用いた。この装置の概略図を
図1に示す。拘束圧は40kPaとし、透水溶液には蒸留水を用いた。
【0033】
(バッチ吸着試験)
バッチ吸着試験では、日本や中国においてヒ素による基準不適合事例が多いことを勘案し、溶媒としてNaAsO2溶液を用いた。
【0034】
表1のGroup A~Eの条件で作製したSBを、粒径が2mm以下となるよう解砕し、液個比(溶質に対する溶媒の体積質量比)が10となるようNaAsO2溶液と混合した。Group Aでは7日養生した試料を用い、Group B~Eでは28日養生した試料を用いた。対象としたヒ素濃度は0.1、0.5、1、5、10mg/Lである。なお、ヒ素の土壌環境基準は、0.01mg/Lである。混合液は300rpmで24時間水平振とうした後、15分間静置した。静置後の混合液は3000rpmで10分間の遠心分離を行った後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し検液を作製した。いずれの条件においても、繰返し回数3回で実施した。検液中の陽イオン濃度は、ICP 発光分光分析装置(Agilent Technologies製,700 Series ICP-OES)と原子吸光分光光度計(島津製作所製,AA-6800)を用いて定量した。
【0035】
(結果と考察)
(透水試験の結果)
図2に透水係数の経時変化を示す。
図2(a)は横軸に経過時間を示しているが、
図2(b)では通水量を供試体の間隙体積で標準化したPore volumes of flow(PVF)で示している。Group Aの透水係数は極めて低く現時点では通水量が十分に確保できていないため、平均値を直線で示している。
【0036】
この結果から、セメント添加したSBの透水係数は、含まないGroup Aと比較して特に透水初期に高い値を示し、10-9m/sオーダーの透水係数を示すことが分かる。これは、Group B、C、D、Eでは、セメントの添加によりSBの単位体積あたりに含まれるベントナイト量が相対的に少なくなったことが一因であると考えられる。これに加え、セメントに含まれる溶解性イオンが間隙中に溶出し、ベントナイトの膨潤が阻害されたことも透水係数に大きく影響したと言える。一方で、時間の経過に伴い、セメントの硬化メカニズムであるケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)や水酸化カルシウムが間隙中に生成されるため、構造が緻密化し透水係数が経時的に低下することが分かる。セメントを100kg/m3添加したGroup Dでは、透水開始と比較し、60日後には2.0×10-10m/s程度まで透水係数が低下し、十分に高い遮水性が期待できる。また、粉体ベントナイト添加量を増加させることによっても透水係数の改善が期待でき、粉体ベントナイト添加量を1.2倍にしたGroup Eでは、Group Dと比較して約4/5倍の値となり、透水後28日で10-11m/sオーダーの透水係数を示した。
【0037】
(バッチ吸着試験の結果)
図3から
図6に、バッチ吸着試験後の溶液のカルシウムイオン濃度、鉄イオン濃度、電気伝導率(EC)、pHを示す。各図の横軸には供与液のヒ素濃度を示している。これらの結果から、吸着試験後の液相の特性は、供与液のヒ素濃度によって変化しないことが分かる。また、
図3と
図4に示すように、カルシウムイオン濃度や鉄イオン濃度はセメント添加量の増加とともに上昇しており、セメント由来の水溶性成分が溶解していることが分かる。一方で、セメント添加量が75kg/m
3と100kg/m
3のケースでは、液相の化学特性の変化は相対的に小さく、非線形な上昇を示すことが分かる。また、セメントの添加によりECが顕著に上昇していることからも、セメント添加により液相中の水溶性成分の濃度が高くなり、ベントナイトの膨潤が阻害されたことで、SBの透水係数が高くなったと考えられる。供与したヒ素溶液の初期pHは7~8程度であったが、セメント添加したGroup B、C、D、Eでは、セメント添加量に関わらずpH=11.5~12.0程度の値を示すことが分かる。
【0038】
図7はバッチ吸着試験で得られた各SBの吸着等温線である。吸着等温線とは、平衡時の固相吸着量と液相濃度の関係を示したもので、SBの吸着等温線は以下のフリードリッヒ式で表現できることが分かる。
q
S=K
FC
eq
n
ここで、K
Fとnは吸着定数で、K
Fが分配係数であり、吸着性能の大小を示す指標である。また、q
Sは固相吸着量であり、C
eqは液相濃度である。この結果から,セメント添加によりSBの吸着性能が向上することが分かる。セメント添加に伴い,pH上昇によりヒ素が溶出しやすくなることや、ベントナイトの単位体積あたりの存在量が減少すること等が懸念されるが、SBの吸着性能は損なわれないことが分かる。セメント系材料のヒ素吸着メカニズムとしては、CaHAsO
3等の難溶性沈殿物の形成が考えられ、セメント添加量の増加に伴う鉄イオン濃度の上昇も、ヒ素イオンの共沈に寄与したと考えられる。また、セメント水和物として生成されるエトリンガイトも、その大きい比表面積から吸着に寄与したと考えられる。これらのことは、セメント添加量が少ないGroup Bと比較し、セメント添加量の多いGroup C、Dの方が吸着性能が改善していることからもうかがえる。セメント添加増量に伴うCaイオン濃度の変化は限定的であることから、エトリンガイトの生成が吸着性能の改善の支配的な要因であると考えられる。
【0039】
ここで、得られた吸着等温線に基づき、液相濃度が土壌環境基準の0.01mg/Lに相当する場合の固相吸着量をそれぞれのSBに対して求めた。その結果は表2(液相濃度が0.01mg/Lとなるときの固相吸着量)に示すとおりで、同等以上の固相吸着量が得られていることから、特に土壌環境基準前後の低濃度のヒ素に対しては、セメント添加はSBの吸着性能に影響しないと言える。
【0040】
【0041】
(結論)
以上の試験では従来のSBにセメントを粉体混合し、透水試験とバッチ吸着試験により遮水性能を評価した。その結果、以下のことが明らかとなった。
【0042】
セメント添加により混合初期の透水係数が10-10m/sオーダーに上昇する。これはセメント由来の溶解性成分の存在によりベントナイトの水和膨潤が阻害されるためである。
【0043】
セメント添加したSBの透水係数は経時的に低下し、粉体セメント添加量が100kg/m3のケースでは約60日経過時点で透水初期の約1/10まで透水係数が低下する。
【0044】
粉体ベントナイト添加量を1.2倍に増やすことで、セメント添加した場合でも透水係数を低下しうる。
【0045】
セメント添加によりSBのヒ素に対する吸着性能は高くなる。50kg/m3のセメントを添加した場合には、セメントを添加していないSBと同等の吸着性能を示す。
【0046】
セメント添加したSBの吸着メカニズムは,ベントナイトとエトリンガイトへの吸着であり、セメント添加によりエトリンガイト生成の影響が卓越する。
【0047】
次に、セメント添加によるテーブルフロー値の変化について、実施例を示す。
(試験方法)
表3及び表4に示すように、混合方法及びベントナイトスラリー添加量の異なる条件で試料(SBM)を作製し、フロー値の経時変化を評価した。母材には自然含水比22%のまさ土を使用した。以下で詳細に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
まず、セメント添加法の違いによる影響については、いずれの方法でも、含水比を調整した母材に5%濃度のベントナイトスラリーを添加するところまでは共通であるが、その後の手順が以下のように異なる。まず、混合方法1では、粉体ベントナイトを添加したのち、セメントを粉体状で添加した。また、混合方法2では、粉体ベントナイトと粉体セメントを予め混合してから添加した。さらに、混合方法3と混合方法4では、粉体ベントナイトを添加したのち、セメントをW/C(水セメント比)=3のスラリーとして添加した。なお、混合方法3では、混合方法1、混合方法2のケースと総スラリー添加量(ベントナイトスラリー+セメントスラリー)が等しくなるよう設定しているが、ベントナイト添加量は同じである。一方、混合方法4では、混合方法1、混合方法2のケースとベントナイトスラリー/粉体添加量は同じであり、セメントスラリー添加量を混合方法4と統一している。
【0051】
結果を
図8に示す。
図8は、セメント添加後のフロー値の経時変化を示すグラフである。横軸は時間(分)を、縦軸は供試体の径(mm)を示している。粉体添加したケース(混合方法1、混合方法2)では、セメント添加後約20分以内にフロー値が約150~160mmから約135mmに大きく低下した。自由水がセメントの水和反応に消費されたためであると考えられる。混合方法1と混合方法2では大きな差異はなく、いずれもセメント添加後約20分が経過すると130mm前後のフロー値を示す。W/C=3のスラリーとしてセメントを添加したケース(Cement slurry A、Cement slurry B)では、粉体添加したケースと比較し、フロー値の経時的な低下は小さい。このことから、スラリー中のセメントが添加後に消費する自由水は限定的であると言える。混合方法3では、セメントを粉体添加したケースと総スラリー量は同じであるものの、フロー値は相対的に小さい。一方で、約20分経過後のフロー値は同じく約130mmである。混合方法4では、水分量が他のケースより相対的に多いため、フロー値は約150~160mmと高い。これらのことから、スラリーの種類に依らず、総スラリー添加量が施工後のフロー値を決定することが分かる。
【0052】
次に、ベントナイトスラリー添加量の違いによる影響については、上記のうちセメントを粉体添加するケースに特化し、ベントナイトをスラリー又は粉体として添加する比率を変化させてフロー値を評価した。いずれのケースでもベントナイトスラリーの濃度は5%であり、混合手順は前述のとおりである。いずれのケースでもセメント添加量は50kg/m3、ベントナイト添加量は115kg/m3で統一している。
【0053】
結果を
図9に示す。
図9は、セメント添加後のフロー値の経時変化を示すグラフである。横軸は時間(分)を、縦軸は供試体の径(mm)を示している。
【0054】
ベントナイトスラリー添加量が増えるとともにフロー値は高くなる。スラリー添加量が少ないケースでは自由水が少ないため、セメント添加によるフロー値の変化も相対的に小さい。300L/m3のケースと350L/m3のケースでは、約15分後のフロー値が同等であるものの、セメント添加直後のフロー値は350L/m3のケースで有意に高く、施工性(均質性)の向上が期待できる。セメント添加による粉体ベントナイトの膨潤阻害が懸念されることからも、スラリー添加量を増やすことは有効である可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、遮水壁の構築方法として利用可能である。