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特許7425444発電性能評価装置および発電性能評価方法並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】発電性能評価装置および発電性能評価方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/15 20140101AFI20240124BHJP
   G01R 31/26 20200101ALI20240124BHJP
   G01J 1/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
H02S50/15
G01R31/26 F
G01J1/00 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020121029
(22)【出願日】2020-07-15
(65)【公開番号】P2022018143
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-03-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和1年8月1日に一般社団法人電気設備学会が発行した2019年(第37回)電気設備学会全国大会講演論文集の第467頁に掲載 (2)令和1年8月9日に一般社団法人日本太陽エネルギー学会「若手研究発表会」で発表 (3)令和1年8月23日に一般社団法人電気学会が発行した令和元年 電気学会電力・エネルギー部門大会講演論文集の第3-6-3頁に掲載 (4)令和1年8月29日に2019年(第37回)電気設備学会全国大会で発表 (5)令和1年9月6日に令和元年 電気学会電力・エネルギー部門大会で発表 (6)令和1年9月9日に令和元年度電気・電子・情報関係学会東海支部連合大会で発表 (7)令和1年9月9日に一般社団法人電気学会東海支部が発行した令和元年電気・電子・情報関係学会東海支部連合大会講演論文集の第E1-2頁に掲載 (8)令和1年10月17日に一般社団法人日本太陽エネルギー学会が発行した日本太陽エネルギー学会講演論文集2019の第9頁に掲載 (9)令和1年10月17日に令和1年 日本太陽エネルギー学会研究発表会で発表 (10)令和2年6月4日に一般社団法人日本太陽エネルギー学会が発行した太陽エネルギー学会学会誌「Journal of Japan Solar Energy Society Vol.46,NO.3(通巻257号)」の第94頁に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】000219820
【氏名又は名称】株式会社トーエネック
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131406
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 正寿
(72)【発明者】
【氏名】青山 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】西戸 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩
(72)【発明者】
【氏名】山中 三四郎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 賢
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/198216(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/244313(WO,A1)
【文献】特開2017-221010(JP,A)
【文献】特開2018-157726(JP,A)
【文献】特開2006-093176(JP,A)
【文献】特開2012-160498(JP,A)
【文献】特開2016-149832(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0375471(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102707213(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02S 50/00-50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池セルに対して順方向に直流電流を導入した際に生じる光の発光特性を取得すると共に取得した該発光特性に基づき発光輝度を取得する取得部と、
正常状態の前記太陽電池セルの前記発光輝度に対する,評価対象の前記太陽電池セルの前記発光輝度の低下率を示す輝度低下率を演算すると共に、該輝度低下率が50%以上の場合には、定電流電源と、ダイオードと、前記太陽電池セルの出力電流を端子に集める結線の直列抵抗と、前記ダイオードの漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗と、を有する等価回路で表された前記太陽電池セルの前記並列抵抗を20Ω以上の値に設定し、前記輝度低下率が50%未満の場合には、前記並列抵抗を0.1Ωに設定し、設定した該並列抵抗を用いて次式(1)により前記太陽電池セルの電流-電圧特性を演算する演算部と、
を備える発電性能評価装置。
(数1)
ただし、式(1)において、“I”は、前記太陽電池セルの出力電流であり、“V”は、前記太陽電池セルの出力電圧であり、“Iph”は、前記太陽電池セルが出力可能な最大電流(光誘起電流あるいは短絡電流という)であり、“Rs”は、前記直列抵抗であり、“Rsh”は、前記並列抵抗であり、“I0”は、前記ダイオードの逆飽和電流であり、“Vd”は、前記ダイオードにかかる電圧であり、“q”は、電子電荷量であり、“n”は、ダイオード指数であり、“k”は、ボルツマン定数であり、“T”は、絶対温度である。
【請求項2】
前記演算部は、複数の前記太陽電池セルの電流-電圧特性を合成することによって、複数の前記太陽電池セルが直列に接続されてなる太陽電池モジュールの電流-電圧特性を演算する
請求項1に記載の発電性能評価装置。
【請求項3】
前記演算部は、複数の前記太陽電池モジュールの電流-電圧特性を合成することによって、複数の前記太陽電池モジュールが直列および/または並列に接続されてなる太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算する
請求項2に記載の発電性能評価装置。
【請求項4】
前記演算部は、演算した前記太陽電池アレイの電流-電圧特性を用いて年間の発電量を演算する
請求項3に記載の発電性能評価装置。
【請求項5】
複数の前記太陽電池モジュールが前記正常状態である場合の前記太陽電池アレイによる年間の発電量である正常時年間発電量を記憶する記憶部と、
前記演算部によって演算された前記太陽電池アレイによる年間の発電量である演算年間発電量と、前記正常時年間発電量と、を比較する比較部と、
該比較部の比較結果に基づいて前記太陽電池アレイの良否を判定する良否判定部と、
をさらに備える請求項4に記載の発電性能評価装置。
【請求項6】
前記演算部は、太陽光の日射強度および前記太陽電池モジュールの温度に基づき前記太陽電池モジュールの電流-電圧特性を補正する
請求項2ないし5のいずれか1項に記載の発電性能評価装置。
【請求項7】
(a)太陽電池セルに対して順方向に直流電流を導入した際に生じる光の発光特性を取得すると共に該発光特性に基づき発光輝度を求めるステップと
(b)正常状態の前記太陽電池セルの前記発光輝度に対する,評価対象の前記太陽電池セルの前記発光輝度の低下率を示す輝度低下率を演算するステップと
(c)前記太陽電池セルを、定電流電源と、ダイオードと、前記太陽電池セルの出力電流を端子に集める結線の直列抵抗と、前記ダイオードの漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗と、を有する等価回路として表わすステップと
(d)前記輝度低下率が50%以上である場合には、前記並列抵抗を20Ω以上の値に設定し、前記輝度低下率が50%未満である場合には、前記並列抵抗を0.1Ωに設定するステップと
(e)設定した前記並列抵抗を用いて次式(2)により前記太陽電池セルの電流-電圧特性を演算して前記太陽電池セルの発電性能を評価するステップと、
を備える発電性能評価方法。
(数2)
ただし、式(2)において、“I”は、前記太陽電池セルの出力電流であり、“V”は、前記太陽電池セルの出力電圧であり、“Iph”は、前記太陽電池セルが出力可能な最大電流(光誘起電流あるいは短絡電流という)であり、“Rs”は、前記直列抵抗であり、“Rsh”は、前記並列抵抗であり、“I0”は、前記ダイオードの逆飽和電流であり、“Vd”は、前記ダイオードにかかる電圧であり、“q”は、電子電荷量であり、“n”は、ダイオード指数であり、“k”は、ボルツマン定数であり、“T”は、絶対温度である。
【請求項8】
前記ステップ(e)は、演算した複数の前記太陽電池セルの電流-電圧特性を合成することによって、複数の前記太陽電池セルが直列に接続されてなる太陽電池モジュールの電流-電圧特性を演算するステップを含んでいる
請求項7に記載の発電性能評価方法。
【請求項9】
前記ステップ(e)は、演算した複数の前記太陽電池モジュールの電流-電圧特性を合成することによって、複数の前記太陽電池モジュールが直列および/または並列に接続されてなる太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算するステップを含んでいる
請求項8に記載の発電性能評価方法。
【請求項10】
前記ステップ(e)は、演算した前記太陽電池アレイの電流-電圧特性を用いて年間の発電量を演算するステップを含んでいる
請求項9に記載の発電性能評価方法。
【請求項11】
複数の前記太陽電池モジュールが正常状態である場合の前記太陽電池アレイによる年間の発電量である正常時年間発電量を記憶するステップ(f)と、
前記ステップ(e)によって演算された前記太陽電池アレイによる年間の発電量である演算年間発電量と前記正常時年間発電量と、を比較するステップ(g)と、
該ステップ(g)の比較結果に基づいて前記太陽電池アレイの良否を判定するステップ(h)と、
をさらに備える請求項10に記載の発電性能評価方法。
【請求項12】
前記ステップ(e)は、太陽光の日射強度および前記太陽電池モジュールの温度に基づき前記太陽電池モジュールの電流-電圧特性を補正するステップを含んでいる
請求項8ないし11のいずれか1項に記載の発電性能評価方法。
【請求項13】
請求項7ないし12のいずれか1項に記載の発電性能評価方法の各ステップを1又は複数のコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電性能評価装置および発電性能評価方法並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
WO2006/059615号公報(特許文献1)には、太陽電池セルに順方向の電流を供給することにより当該太陽電池セルを発光させ、発光した太陽電池セルを撮影することにより発光特性としての発光強度を検出して、当該発光強度が所定値より大きい場合には太陽電池セルは良好と判定し、発光強度が所定値未満の場合には太陽電池セルは不良と判定する太陽電池が記載されている。
【0003】
当該装置によれば、ソーラシュミレータのような大掛かりな設備を用いる必要が無いため、簡便かつ正確に太陽電池セルを含む太陽電池モジュールの良否を判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2006/059615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した公報に記載の太陽電池の評価装置は、太陽電池セルや太陽電池モジュールの良否は判定できるものの、不良と判定された太陽電池セルや太陽電池モジュールが、どの程度出力が低下しているのかを定量的に知ることができないため、発電性能の評価という点において、なお改良の余地がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、太陽電池セルやこれを有する太陽電池モジュール、当該太陽電池モジュールを有する太陽電池アレイにおける発電性能を定量的に評価可能な技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る発電性能評価発電性能評価装置の好ましい形態によれば、太陽電池セルに対して順方向に直流電流を導入した際に生じる光の発光特性を取得すると共に当該発光特性に基づき発光輝度を取得する取得部と、正常状態の太陽電池セルの発光輝度に対する,評価対象の太陽電池セルの発光輝度の低下率を示す輝度低下率を演算すると共に、当該輝度低下率が50%以上の場合には、並列抵抗を20Ω以上の値に設定し、輝度低下率が50%未満の場合には、並列抵抗を0.1Ωに設定し、設定した当該並列抵抗を用いて次式(1)により太陽電池セルの電流-電圧特性を演算する演算部と、を備えている。なお、並列抵抗とは、定電流電源と、ダイオードと、太陽電池セルの出力電流を端子に集める結線の直列抵抗と、ダイオードの漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗と、を有する等価回路で太陽電池セルを表したときの当該並列抵抗のことである。ここで、本発明における「輝度低下率」とは、正常な状態(初期状態)の太陽電池セルの輝度に対する電圧誘起劣化現象が発生した太陽電池セルの輝度の低下率として規定される。即ち、電圧誘起劣化現象が発生した太陽電池セルの発光輝度Bkを、正常な状態(初期状態)の太陽電池セルの発光輝度Bnで除した値に100を乗ずることで求めることができる。
(数1)
ただし、式(1)において、“I”は、太陽電池セルの出力電流であり、“V”は、太陽電池セルの出力電圧であり、“Iph”は、太陽電池セルが出力可能な最大電流(光誘起電流あるいは短絡電流という)であり、“Rs”は、直列抵抗であり、“Rsh”は、並列抵抗であり、“I0”は、ダイオードの逆飽和電流であり、“Vd”は、ダイオードにかかる電圧であり、“q”は、電子電荷量であり、“n”は、ダイオード指数であり、“k”は、ボルツマン定数であり、“T”は、絶対温度である。
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、太陽電池セルに電圧誘起劣化現象が発生しているか否かが輝度低下率と相関があること、また、太陽電池セルの出力を左右するダイオードの漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗の値を、太陽電池セルが正常な場合には20Ω以上、太陽電池セルに電圧誘起劣化現象が発生している場合には0.1Ωに設定して、当該太陽電池セルを等価回路として表したときの電流-電圧特性を求めた値が、実測値によく一致することを見出した。この研究結果を踏まえて、本発明では、まず、太陽電池セルの輝度低下率が50%以上の場合には、並列抵抗を20Ω以上の値に設定する一方、輝度低下率が50%未満の場合には、並列抵抗を0.1Ωに設定する。そして、設定した並列抵抗を用いて、太陽電池セルを等価回路として表したときの電流-電圧特性を示す式(1)により太陽電池セルの電流-電圧特性を求める構成とした。これにより、電圧誘起劣化現象が発生していない太陽電池セルの出力のみならず、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルの出力も推定することができる。即ち、電圧誘起劣化現象が発生していない太陽電池セルおよび電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルそれぞれにおいて、発電性能を定量的に評価することができる。なお、並列抵抗は、値が20Ωでも1000Ωでも電流-電圧特性(特に、定格出力電力(最適動作点での出力)やフィルファクター(曲線因子))に与える影響は1%未満であるという研究報告がある。
【0009】
本発明に係る発電性能評価装置の更なる形態によれば、演算部は、複数の太陽電池セルの電流-電圧特性を合成することによって、複数の太陽電池セルが直列に接続されてなる太陽電池モジュールの電流-電圧特性を演算する。
【0010】
本形態によれば、太陽電池セルの電流-電圧特性のみならず太陽電池モジュールの電流-電圧特性を演算するため、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルを有する太陽電池モジュールの出力を推定できる。即ち、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルを有する太陽電池モジュールの発電性能を定量的に評価することができる。
【0011】
本発明に係る発電性能評価装置の更なる形態によれば、演算部は、複数の太陽電池モジュールの電流-電圧特性を合成することによって、複数の太陽電池モジュールが直列および/または並列に接続されてなる太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算する。
【0012】
本形態によれば、太陽電池セルおよび太陽電池モジュールの電流-電圧特性のみならず太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算するため、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池モジュールを有する太陽電池アレイの出力を推定できる。即ち、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池モジュールを有する太陽電池アレイの発電性能を定量的に評価することができる。
【0013】
本発明に係る発電性能評価装置の更なる形態によれば、演算部は、演算した太陽電池アレイの電流-電圧特性を用いて年間の発電量を演算する。
【0014】
本形態によれば、太陽電池アレイによる年間の発電量を推定することができる。これにより、当該太陽電池アレイを有する太陽電池システムの年間の発電性能を定量的に評価することができる。
【0015】
本発明に係る発電性能評価装置の更なる形態によれば、記憶部と、比較部と、良否判定部と、をさらに備えている。記憶部は、複数の太陽電池モジュールが正常状態である場合の太陽電池アレイによる年間の発電量である正常時年間発電量を記憶する。比較部は、演算部によって演算された太陽電池アレイによる年間の発電量である演算年間発電量と、記憶部に記憶された正常時年間発電量と、を比較する。そして、良否判定部は、比較部の比較結果に基づいて太陽電池アレイの良否を判定する。
【0016】
本形態によれば、評価対象の太陽電池アレイが、正常状態の太陽電池アレイに対して、どの程度出力が低下したかを知ることができるため、出力低下による逸失利益損失と、太陽電池セルや太陽電池モジュールを取り替えるのに要する費用と、を比較考量の上、取り替え工事を実施した方が良いか否かを検討することができる。
【0017】
本発明に係る発電性能評価装置の更なる形態によれば、演算部は、太陽光の日射強度および太陽電池モジュールの温度に基づき当該太陽電池モジュールの電流-電圧特性を補正する。ここで、本発明における「日射強度」は、「日射量」を適に包含する。また、本発明における「太陽電池モジュールの温度」には、太陽電池モジュールの表面温度の他、気温を基に推定した太陽電池モジュールの温度、あるいは、気温そのものを好適に包含する。
【0018】
本形態によれば、日射強度や太陽電池モジュールの温度を考慮した太陽電池モジュールおよび太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算することができる。これにより、太陽電池モジュールおよび太陽電池アレイの電流-電圧特性をより正確に推定することができる。
【0019】
本発明に係る発電性能評価方法の好ましい形態によれば、(a)太陽電池セルに対して順方向に直流電流を導入した際に生じる光の発光特性を取得すると共に当該発光特性に基づき発光輝度を求めるステップと、(b)正常状態の太陽電池セルの発光輝度に対する,評価対象の太陽電池セルの発光輝度の低下率を示す輝度低下率を演算するステップと、(c)太陽電池セルを、定電流電源と、ダイオードと、太陽電池セルの出力電流を端子に集める結線の直列抵抗と、ダイオードの漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗と、を有する等価回路として表わすステップと、(d)輝度低下率が50%以上である場合には、並列抵抗を20Ω以上の値に設定し、輝度低下率が50%未満である場合には、並列抵抗を0.1Ωに設定するステップと、(e)設定した並列抵抗を用いて次式(2)により太陽電池セルの電流-電圧特性を演算して太陽電池セルの発電性能を評価するステップと、を備える。ここで、本発明における「輝度低下率」とは、正常な状態(初期状態)の太陽電池セルの輝度に対する電圧誘起劣化現象が発生した太陽電池セルの輝度の低下率として規定される。即ち、電圧誘起劣化現象が発生した太陽電池セルの発光輝度Bkを、正常な状態(初期状態)の太陽電池セルの発光輝度Bnで除した値に100を乗ずることで求めることができる。
(数2)
ただし、式(2)において、 “I”は、太陽電池セルの出力電流であり、“V”は、太陽電池セルの出力電圧であり、“Iph”は、太陽電池セルが出力可能な最大電流(光誘起電流あるいは短絡電流という)であり、“Rs”は、直列抵抗であり、“Rsh”は、並列抵抗であり、“I0”は、ダイオードの逆飽和電流であり、“Vd”は、ダイオードにかかる電圧であり、“q”は、電子電荷量であり、“n”は、ダイオード指数であり、“k”は、ボルツマン定数であり、“T”は、絶対温度である。

【0020】
本発明者は、鋭意研究の結果、太陽電池セルに電圧誘起劣化現象が発生しているか否かが輝度低下率と相関があること、また、太陽電池セルの出力を左右するダイオードの漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗の値を、太陽電池セルが正常な場合には20Ω以上、太陽電池セルに電圧誘起劣化現象が発生している場合には0.1Ωに設定して、当該太陽電池セルを等価回路として表したときの電流-電圧特性を求めた値が、実測値によく一致することを見出した。この研究結果を踏まえて、本発明では、まず、太陽電池セルの輝度低下率が50%以上の場合には、並列抵抗を20Ω以上の値に設定する一方、輝度低下率が50%未満の場合には、並列抵抗を0.1Ωに設定する。そして、設定した並列抵抗を用いて、太陽電池セルを等価回路として表したときの電流-電圧特性を示す式(1)により太陽電池セルの電流-電圧特性を求める構成とした。これにより、電圧誘起劣化現象が発生していない太陽電池セルの出力のみならず、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルの出力も推定することができる。即ち、電圧誘起劣化現象が発生していない太陽電池セルおよび電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルそれぞれにおいて、発電性能を定量的に評価することができる。なお、並列抵抗は、値が20Ωでも1000Ωでも電流-電圧特性(特に、定格出力電力(最適動作点での出力)やフィルファクター(曲線因子))に与える影響は1%未満であるという研究報告がある。
【0021】
本発明に係る発電性能評価方法の更なる形態によれば、ステップ(e)は、演算した複数の太陽電池セルの電流-電圧特性を合成することによって、複数の太陽電池セルが直列に接続されてなる太陽電池モジュールの電流-電圧特性を演算するステップを含んでいる。
【0022】
本形態によれば、太陽電池セルの電流-電圧特性のみならず太陽電池モジュールの電流-電圧特性を演算するため、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルを有する太陽電池モジュールの出力を推定できる。即ち、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルを有する太陽電池モジュールの発電性能を定量的に評価することができる。
【0023】
本発明に係る発電性能評価方法の更なる形態によれば、ステップ(e)は、演算した複数の太陽電池モジュールの電流-電圧特性を合成することによって、複数の太陽電池モジュールが直列および/または並列に接続されてなる太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算するステップを含んでいる。
【0024】
本形態によれば、太陽電池セルおよび太陽電池モジュールの電流-電圧特性のみならず太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算するため、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池モジュールを有する太陽電池アレイの出力を推定できる。即ち、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池モジュールを有する太陽電池アレイの発電性能を定量的に評価することができる。
【0025】
本発明に係る発電性能評価方法の更なる形態によれば、ステップ(e)は、演算した太陽電池アレイの電流-電圧特性を用いて年間の発電量を演算するステップを含んでいる。
【0026】
本形態によれば、太陽電池アレイによる年間の発電量を推定することができる。これにより、当該太陽電池アレイを有する太陽電池システムの年間の発電性能を定量的に評価することができる。
【0027】
本発明に係る発電性能評価方法の更なる形態によれば、複数の太陽電池モジュールが正常状態である場合の太陽電池アレイによる年間の発電量である正常時年間発電量を記憶するステップ(f)と、ステップ(e)によって演算された太陽電池アレイによる年間の発電量である演算年間発電量と正常時年間発電量と、を比較するステップ(g)と、当該ステップ(g)の比較結果に基づいて太陽電池アレイの良否を判定するステップ(h)と、をさらに備えている。
【0028】
本形態によれば、評価対象の太陽電池アレイが、正常状態の太陽電池アレイに対して、どの程度出力が低下したかを知ることができるため、出力低下による逸失利益損失と、太陽電池セルや太陽電池モジュールを取り替えるのに要する費用と、を比較考量の上、取り替え工事を実施した方が良いか否かを検討することができる。
【0029】
本発明に係る発電性能評価方法の更なる形態によれば、ステップ(e)は、太陽光の日射強度および太陽電池モジュールの温度に基づき当該太陽電池モジュールの電流-電圧特性を補正するステップを含んでいる。ここで、本発明における「日射強度」は、「日射量」を適に包含する。また、本発明における「太陽電池モジュールの温度」には、太陽電池モジュールの表面温度の他、気温を基に推定した太陽電池モジュールの温度、あるいは、気温そのものを好適に包含する。
【0030】
本形態によれば、日射強度や太陽電池モジュールの温度を考慮した太陽電池モジュールおよび太陽電池アレイの電流-電圧特性を演算することができる。これにより、陽電池モジュールおよび太陽電池アレイの電流-電圧特性をより正確に推定することができる。
【0031】
本発明に係るプログラムの好ましい形態によれば、上述したいずれかの態様の本発明に係る発電性能評価方法の各ステップを1又は複数のコンピュータに実行させるためのプログラムが構成される。当該プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体、例えば、ハードディスクやROM、SSD、フラッシュメモリ(USBメモリ、SDカードなど)、フロッピーディスク、CD、DVDなどに記録されていても良いし、伝送媒体、例えば、インターネットやLANなどの通信網を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されても良いし、あるいは、その他如何なる態様で授受されても良い。
【0032】
本発明によれば、プログラムを一つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに各ステップを分担して実行させることによって、上述したいずれかの態様の本発明に係る発電推定方法の各ステップが実行されるため、上述した本発明に係る発電推定方法と同様の作用効果、例えば、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルの出力を推定できるため、電圧誘起劣化現象が発生している太陽電池セルの発電性能や当該太陽電池セルを有する太陽電池モジュールの発電性能、あるいは、当該太陽電池モジュールを有する太陽電池アレイの発電性能を定量的に推定することができるといった効果や、簡易な方法で太陽電池セルに電圧誘起劣化現象が発生しているか否かを判定することができるといった効果などを得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、太陽電池セルやこれを有する太陽電池モジュール、当該太陽電池モジュールを有する太陽電池アレイにおける発電性能を定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施の形態に係る発電性能評価システム10の構成の概略を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態に係る発電性能評価装置として機能するコンピュータ1の機能構成を示す機能ブロック図である。
図3】正常年間発電量推定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図4】太陽電池セルCkを等価回路で表した説明図である。
図5】発電性能評価処理ルーチンの一例を示すメインフローチャートである。
図6】発電性能評価処理ルーチンから分岐した部分のフローチャートである。
図7】本実施の形態に係る発電性能評価装置を用いて演算した太陽電池モジュールMのIV特性IVmn,IVmpと、同じ太陽電池モジュールMをソーラーシミュレータで実測したIV特性IVmn,IVmpと、の比較を行った実験結果である。
図8】本実施の形態に係る発電性能評価装置を用いて演算した太陽電池システム60の年間発電量の推定値と、同じ太陽電池システム60の年間発電量の実測値と、の比較を行った実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0036】
本実施の形態に係る発電性能評価システム10は、図1に示すように、太陽電池システム60に電気的に接続可能な電源装置40と、太陽電池システム60、具体的には、後述する太陽電池アレイAを撮影するカメラ50と、当該カメラ50によって撮影されたEL測定画像データ32(図2参照)を受信可能に当該カメラ50に電気通信回線(無線を含む)を介して接続可能な発電性能評価装置として機能するコンピュータ1と、を備えている。コンピュータ1は、本発明における「発電性能評価装置」に対応する実施構成の一例である。
【0037】
太陽電池システム60は、図1に示すように、太陽電池ストリングStrを並列に複数配線した太陽電池アレイAと、当該太陽電池アレイAに接続箱62を介して電気的に接続されたパワーコンディショナー(PCS)64と、を有している。太陽電池ストリングStrは、直列に配線された複数の太陽電池モジュールMi(i=1、2、・・・、W)を有している。当該太陽電池モジュールMi(i=1、2、・・・、n)は、複数の太陽電池セルCk(k=1、2、・・・、U)を有している。また、接続箱62は、太陽電池ストリングStr毎に発電した電力を集めるための機器として構成されており、主に、太陽電池ストリングStr毎に電力のオン・オフが可能な複数の開閉器62aと、太陽電池ストリングStr間での電流の流れを防止するための複数の逆流防止ダイオード62bと、図示しない避雷素子と、を有している。
【0038】
電源装置40は、図1に示すように、商用電源や発電機などの電源40aと、当該電源40aからの交流電流を直流電流に変換するAC/DC変換器40bと、を有している。電源装置40は、接続箱62の各開閉器62aに電気的に接続可能に構成されており、各開閉器62aのオン・オフを切り替えることで、電源装置40からの電流を太陽電池ストリングStr毎に流すことができる。
【0039】
コンピュータ1は、ユーザが使用する発電性能評価装置として構成されたパソコンである。コンピュータ1は、図1に示すように、装置全体の制御を司るコントローラ2と、画像処理を行う際に必要な計算処理や行列演算処理を行うGPU4、各種アプリケーションプログラム(単にアプリケーションと称する)や画像データを含む各種データを記憶する大容量メモリであるハードディスク(HDD)6、カメラ50などの外部機器とのデータの入出力を行う入出力インターフェイス(I/F)8などを備えている。コントローラ2は、CPU2aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、各種処理プログラムを記憶するROM2b、一時的にデータを記憶するRAM2cなどを備えている。
【0040】
また、コンピュータ1は、図1に示すように、ユーザが各種指令を入力するキーボードおよびマウス等の入力装置14や、各種情報を表示するディスプレイ16などを備えている。CPU2aやROM2b、RAM2c、GPU4、HDD6、I/F8、入力装置14、ディスプレイ16などは、バス80によって電気的に接続され、互いに各種制御信号やデータのやり取りができるように構成されている。
【0041】
当該コンピュータ1は、ユーザが入力装置14を介してディスプレイ16に表示されたカーソル等を入力操作すると、その入力操作に応じた動作を実行する機能を有している。また、当該コンピュータ1は、HDD6に格納されたアプリケーション、具体的には、太陽電池アレイAの発電性能を評価する処理を実行する後述する発電性能評価プログラムによって、各種処理が実行されることで、本実施の形態に係る発電性能評価装置として機能する。なお、本実施の形態では、発電性能評価装置をコンピュータ1によって実現可能な構成としたが、専用装置によって実現しても良い。
【0042】
また、コンピュータ1には、図2に示すように、CPU2aやROM2b、RAM2c、GPU4、HDD6、I/F8、入力装置14、ディスプレイ16などの前述したハードウェア資源と、発電性能評価プログラムといったソフトウェアと、の一方または双方の協働により、取得部20や、演算部22、比較部24、良否判定部26、記憶部30等が機能ブロックとして構成されている。換言すれば、これら取得部20や、演算部22、比較部24、良否判定部26は、HDD6からRAM2c上に展開されたアプリケーションを実行するCPU2aからの命令によって、図1に示す各構成要素(CPU2aやROM2b、RAM2c、GPU4、HDD6、I/F8、入力装置14、ディスプレイ16など)が単独あるいは協働して動作することにより実現される機能であると言うことができる。なお、取得部20や、演算部22、比較部24、良否判定部26、記憶部30等は、アドレスバスやデータバスなどのバスライン82によって電気的に接続されている。
【0043】
取得部20は、各太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)が有する太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の枚数Uおよび太陽電池アレイAが有する太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)の枚数Wを読み込む。また、取得部20は、記憶部30に記憶されたEL測定画像データ32から各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)を取得すると共に、取得した発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)の中から最大値を示す最大発光輝度Bmaxを選定し、取得した当該最大発光輝度Bmaxを記憶部30に格納する。取得部20による発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)の取得および最大発光輝度Bmaxの取得は、本実施の形態では、フリーソフトの画像編集ソフトである「GIMP(GNU GPLの下で配布されているビットマップ画像編集・加工ソフトウェア)」を用いる構成とした。なお、発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)は、平均発光輝度として取得する構成とした。また、発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)を計測する前段階として、各EL測定画像データ32をグレースケールに変換しておくことが望ましい。以降、特別は記述がない限り、「発光輝度」は「平均発光輝度」を意味する。
【0044】
演算部22は、後述する正常年間発電量推定処理ルーチンが実行された際に、正常状態の太陽電池アレイA(以下、「正常アレイ」という。)による年間発電量Pamax*を演算する。具体的には、演算部33は、正常状態の太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の電流-電圧特性IVcnや、当該正常状態の太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)をU枚有する正常状態の太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)の電流-電圧特性IVmn、当該正常状態の太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)をW枚有する正常アレイの電流-電圧特性IVanを演算する。以下、正常状態の太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)および正常状態の太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)を「正常セル」および「正常モジュール」といい、電流-電圧特性を「IV特性」という。
【0045】
また、演算部22は、記憶部30に格納された年間の日射強度データSIj(j=1,2,・・・,N)および年間のTmj(j=1,2,・・・,N)を用いて年間の正常モジュールのIV特性IVmnjを推測することで、正常アレイAの年間の電流-電圧特性IVanjを演算して、当該正常アレイによる年間発電量Pamax*を演算して、当該年間発電量Pamax*を記憶部30に格納する。年間発電量Pamax*は、本発明における「正常時年間発電量」に対応する実施構成の一例である。
【0046】
なお、年間の太陽電池モジュール温度データTmj(j=1,2,・・・,N)は、太陽電池モジュールMiの温度を計測している場合には、当該温度を記憶部30に記憶させておく構成とすることができる。一方、太陽電池モジュールMiの温度を計測していない場合には、次式(3)により太陽電池モジュール温度MiTを演算して、記憶部20に記憶させておく構成としても良い。
【0047】
(数3)
MiT=Tair+(NOCT-20)/0.8×SIj・・・・・(3)
ここで、Tairは、気温であり、NOCTは、日射強度が0.8kW/m2,気温が20℃,風速1m/sのときのモジュール温度である。
【0048】
また、演算部22は、後述する発電性能評価処理ルーチンが実行された際に、取得部20によって取得された評価対象の各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)の輝度低下率を演算すると共に、評価対象の各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の中から、電圧誘起劣化現象(以下、「PID現象」という。)を発生している太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の枚数P*を計数する。以下、PID現象を発生している太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)を「PIDセル」という。
【0049】
また、演算部22は、正常セルおよびPIDセルのIV特性IVcn,IVpnを演算すると共に、(U-P*)枚の正常セルおよびP*枚のPIDセルを有する太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)の電流-電圧特性IVmpiを演算する。以下、説明の便宜上、発電性能評価処理ルーチンにおいて演算された太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)を「評価対象モジュール」という。なお、評価対象モジュールのIV特性IVmpiの演算は、評価対象モジュールの枚数W枚分だけ実施される。
【0050】
さらに、演算部22は、W枚の評価対象モジュールを有する太陽電池アレイAのIV特性IVapを演算する。以下、評価対象モジュールを有する太陽電池アレイAを「評価対象アレイ」という。
【0051】
また、演算部22は、記憶部30に格納された年間の日射強度データSIj(j=1,2,・・・,N)および年間の太陽電池モジュール温度データTmj(j=1,2,・・・,N)を用いて年間の評価対象モジュールのIV特性IVmpijを推測すると共に年間の評価対象アレイAのIV特性IVapjを演算して、当該評価対象アレイによる年間発電量Pamaxを演算して、当該年間発電量Pamaxを記憶部30に格納する。年間発電量Pamaxは、本発明における「演算年間発電量」に対応する実施構成の一例である。
【0052】
比較部24は、記憶部30に格納された正常アレイによる年間発電量Pamax*と、演算部22によって算出された評価対象アレイによる年間発電量Pamaxと、を比較する。具体的には、正常アレイによる年間発電量Pamax*と評価対象アレイによる年間発電量Pamaxと、の差をとって年間損失発電量ΔPamaxを算出して、当該年間損失発電量ΔPamaxを記憶部30に格納する。
【0053】
良否判定部26は、記憶部30に格納された年間損失発電量ΔPamaxに基づき、評価対象アレイの良否を判定する。この判定は、例えば、当該年間損失発電量ΔPamaxに起因する逸失利益損失を算出し、太陽電池セルCk(k=1、2、・・・、U)や太陽電池モジュールMi(i=1、2、・・・、W)の取り替えに要する費用(取り換え費用)と、を比較して、逸失利益損失が取り換え費用を上回れば、取り替え工事を実施した方が良い旨を示す信号を出力し、逆に、逸失利益損失が取り換え費用を下回れば、取り替え工事をする必要はない旨を示す信号を出力する。
【0054】
記憶部30は、HDD6およびRAM2cの少なくとも一方に確保され、カメラ50(図1参照)によって撮影されたEL測定画像データ32、取得部20によって取得された発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)のうち最大値を示す最大発光輝度Bmax、取得部20によって取得されたPIDセルの枚数P*、正常セルの並列抵抗Rshp(値100Ω)、PIDセルの並列抵抗Rshn(0.1Ω)、演算部22によって演算された正常セルのIV特性IVcnおよびPIDセルのIV特性IVcp、演算部22によって演算された正常モジュールのIV特性IVmnおよび評価対象モジュールのIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)、演算部22によって推測された正常モジュールの年間IV特性IVmnj(j=1,2,・・・,N)および評価対象モジュールの年間のIV特性IVmpij(i=1,2,・・・,n、j=1,2,・・・,N)、演算部22によって演算された正常アレイのIV特性IVanj(j=1,2,・・・,N)および評価対象アレイのIV特性IVapj(j=1,2,・・・,N)、演算部22によって演算された正常および評価対象アレイの交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)、演算部22によって演算された正常および評価対象アレイの年間発電量Pamax*,Pamax、年間の日射強度データSIj、年間の太陽電池モジュール温度データTmj、および、演算部22によって演算された年間損失発電量ΔPamaxなどを記憶する。
【0055】
発電性能評価プログラムは、正常アレイによる年間発電量Pamax*を推定する際に実行される正常年間発電量推定処理ルーチンと、評価対象アレイの発電性能を評価する際に実行される発電性能評価処理ルーチンと、から構成されている。
【0056】
次に、コンピュータ1において実行される発電性能評価プログラムについて説明する。まず、正常年間発電量推定処理ルーチンについて説明し、続いて、発電性能評価処理ルーチンについて説明する。図3は、正常年間発電量推定処理ルーチンの一例を示すフローチャートであり、図5は、発電性能評価処理ルーチンの一例を示すメインフローチャートであり、図6は、図5のメインフローチャートから分岐したサブフローチャートである。
【0057】
正常年間発電量推定処理ルーチンは、例えば、評価対象アレイの発電性能を初めて診断するときに実行される。正常年間発電量推定処理ルーチンは、主に、演算部22および記憶部30などにより実行される。
【0058】
正常年間発電量推定処理ルーチンでは、図3に示すように、まず、演算部22が、各太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)が有する太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の枚数Uおよび太陽電池アレイAが有する太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)の枚数Wを読み込む処理を実行する(ステップS100)。ここで、太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の枚数Uおよび太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)の枚数Wは、ユーザが入力装置14を入力操作することにより入力され、記憶部30に記憶されている。
【0059】
続いて、演算部22は、並列抵抗Rshとして記憶部30に記憶された並列抵抗Rshn(100Ω)を設定し(ステップS102)、次式(4)により正常セルのIV特性IVcnを演算する処理を実行する(ステップS104)。
【0060】
(数4)
ただし、式(4)において、“I”は、各太陽電池セルCkの出力電流であり、“V”は、各太陽電池セルCkの出力電圧であり、“Iph”は、各太陽電池セルCkが出力可能な最大電流(光誘起電流あるいは短絡電流という)であり、“Rs”は、各太陽電池セルCkの出力電流を端子に集める結線の直列抵抗であり、“Rsh”は、ダイオードの漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗であり、“I0”は、ダイオードの逆飽和電流であり、“Vd”は、ダイオードにかかる電圧であり、“q”は、電子電荷量であり、“n”は、ダイオード指数であり、“k”は、ボルツマン定数であり、“T”は、絶対温度である。
【0061】
ここで、各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)は、図4に示すように、定電流電源70と、ダイオード72と、各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の出力電流Iを端子に集める結線の直列抵抗Rsと、ダイオード72の漏れ電流に起因する抵抗成分である並列抵抗Rshと、を有する等価回路として表すことでき、上述した式(4)は、当該等価回路から各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の両端子で観測される電流Iと電圧Vとの関係を表したものである。
【0062】
式(4)は、数値解と、実際に測定した各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)のIV特性IVcと、を直列抵抗Rs、並列抵抗Rsh、ダイオードの逆飽和電流I0、ダイオード指数nを変数としてフィッティングさせることにより、直列抵抗Rs、並列抵抗Rsh、ダイオード指数nを解析解として解くことができる。本実施の形態では、並列抵抗Rshは、固定値100Ω(Rshn)あるいは後述する値0.1Ω(Rshp)を用いるため、実質的には、直列抵抗Rs、ダイオードの逆飽和電流I0、ダイオード指数nを変数として、直列抵抗Rs、ダイオード指数nを解析解として解く構成である。なお、各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)のIV特性IVc(式(4)の解)は、例えば、回路シミュレーションソフトを用いて演算することができ、本実施の形態では、回路シミュレーションソフト「PSpice(登録商標)」を用いる構成とした。
【0063】
また、太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)が正常である場合には、並列抵抗Rshには太陽電池セルに導入した順方向の直流電流がほとんど流れない。したがって、並列抵抗Rshの値としては、太陽電池セルに導入した順方向の直流電流が当該並列抵抗Rshにほとんど流れないような値であれば良く、本実施の形態では固定値100Ω(Rshn)を用いる構成とした。なお、正常セルであれば並列抵抗Rshは、値20Ωでも値1000ΩでもIV特性(特に、定格出力電力(交流最大電力Pamax、最適動作点での出力)やフィルファクター(曲線因子)FF)に与える影響は1%未満であるという研究報告があるため、20Ω以上1000Ω以下の範囲であれば如何なる値を用いても良い。
【0064】
こうして正常セルのIV特性IVcnを演算した後、演算部22は、当該正常セルのIV特性IVcnをセルの枚数U枚分の直列回路として合成することによって、正常モジュールのIV特性IVmnを演算する処理を実行する(ステップS106)。なお、各正常モジュールのIV特性IVmnは、例えば、回路シミュレーションソフトを用いて演算することができ、本実施の形態では、回路シミュレーションソフト「PSpice(登録商標)」を用いる構成とした。
【0065】
続いて、演算部22は、記憶部30に記憶されている年間の日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および年間の太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を読み込み(ステップS108)、読み込んだ年間の日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および年間の太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を用いて、各正常モジュールのIV特性IVmnを補正することにより補正IV特性IVmnj(j=1、2、・・・、N)を演算する処理を実行する(ステップS110)。ここで、“N”は、年間の日射強度データSIjおよび年間の太陽電池モジュール温度データTmjのデータ数で決まる値であり、例えば、1日に1つの日射強度データSIjおよび太陽電池モジュール温度データTmjを有しているものとした場合には、“N”は値365となる。なお、日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を用いた正常モジュールのIV特性IVmnの補正は、本実施の形態では、回路シミュレーションソフト「PSpice(登録商標)」において、各入力パラメータ(太陽電池セルの出力電流“I”、太陽電池セルの出力電圧“V”、短絡電流“Iph”、直列抵抗“Rs”、並列抵抗“Rsh”、ダイオードの逆飽和電流“I0”、ダイオードにかかる電圧“Vd”、電子電荷量“q”、ダイオード指数“n”、ボルツマン定数“k”、絶対温度“T”)を、温度補正計数で変動する値だけ増減させることにより行う構成とした。なお、温度補正計数とは、太陽電池モジュールMiが1℃上昇したときに、電流I・電圧V・電力Pが定格値に対して何%増減するかを表す係数である。
【0066】
次に、演算部22は、演算した各補正IV特性IVmnj(j=1、2、・・・、N)を、モジュールの枚数W枚分の直列回路や並列回路で合成することによって、正常アレイのIV特性IVanj(j=1、2、・・・、N)を演算する処理を実行し(ステップS112)、当該正常アレイのIV特性IVanj(j=1、2、・・・、N)について(直流)最大動作電力Pdmaxj(j=1、2、・・・、N)を算出すると共に(ステップS114)、当該(直流)最大動作電力Pdmaxj(j=1、2、・・・、N)にPCS64の効率ηを乗ずることにより当該正常アレイによる交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)を算出する(ステップS116)。
【0067】
そして、演算部22は、当該交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)を記憶部30に格納すると共(ステップS118)、データ番号jを1だけインクリメントして(ステップS120)、データ番号jがデータ数Nになったか否か、即ち、全ての日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を用いた交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)の演算が完了したか否かの判定を行う処理を実行する(ステップS122)。
【0068】
演算部22は、データ番号jがデータ数Nでない場合、即ち、全ての日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を用いた交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)の演算が完了していない場合には、データ番号jがデータ数Nに等しくなるまでステップS108~ステップS122までの処理を繰り返し実行する。一方、データ番号jがデータ数Nに等しい場合、即ち、全ての日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を用いた交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)の演算が完了した場合には、データ番号jを値1に設定すると共に(ステップS124)、記憶部30に格納された全ての交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)を足し合わせることで正常アレイによる年間発電量Pamax*を演算する(ステップS126)。そして、演算部22は、演算した年間発電量Pamax*を記憶部30に格納して(ステップS128)、本ルーチンを終了する。
【0069】
次に、発電性能評価処理ルーチンについて説明する。発電性能評価処理ルーチンは、例えば、同じ評価対象アレイに対する発電性能の診断が2回目以降のときに実行される。発電性能評価処理ルーチンは、主に、取得部20、演算部22、比較部24、良否判定部26および記憶部30などにより実行される。
【0070】
発電性能評価処理ルーチンでは、図5に示すように、まず、取得部20が、記憶部30から評価対象モジュールが有する太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の枚数Uおよび評価対象アレイが有する評価モジュールの枚数Wを読み込む処理を実行する(ステップS200)。続いて、取得部20が、カメラ50によって撮影され記憶部30に記憶された各評価モジュールの各EL測定画像データ32から、各評価モジュールを構成する各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)を取得すると共に(ステップS202)、取得した発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)の中から最大発光輝度Bmaxを選定する処理を実行する(ステップS204)。ここで、EL測定は、測定を行う太陽電池ストリングStrに接続された開閉器62aに電源装置40を接続して、当該太陽電池ストリングStrに電流を流すことで、各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)に発生する電界発光をカメラ50により撮影することにより行われる。また、発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)の取得および最大発光輝度Bmaxの取得は、例えば、フリーソフトの画像編集ソフトである「GIMP(GNU GPLの下で配布されているビットマップ画像編集・加工ソフトウェア)」を用いることができる。最大発光輝度Bmaxは、本発明における「正常状態の太陽電池セルの発光輝度」に対応する実施構成の一例である。
【0071】
最大発光輝度Bmaxが選定されると、演算部22は、当該取得した各発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)と当該最大発光輝度Bmaxを用いて各太陽電池セルCk(k=1,2,・・・,U)の輝度低下率を演算する処理を実行する(ステップS206)。ここで、輝度低下率を演算は、本発明では、最大発光輝度Bmaxに対する各発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)の低下率として規定し、各発光輝度Bk(k=1,2,・・・,U)を最大発光輝度Bmaxで除した値に100を乗ずることにより求める構成とした。
【0072】
こうして輝度低下率を演算した後、演算部22はPIDセルの枚数P*を計数する処理を実行する(ステップS208)。ここで、PIDセルであるか否かの判定は、本実施の形態では、ステップS206で演算した輝度低下率が50%未満であるか否かにより判定する構成とした。即ち、輝度低下率が50%未満であればPIDセルであると判定し、輝度低下率が50%以上であればPIDセルではないと判定する。なお、本実施の形態において、輝度低下率が50%未満をPIDセルと判定する構成としたのは、本発明者が鋭意研究の結果、輝度低下率が50%未満の太陽電池セルCkのほとんどに、PID現象が発生していることを見出したことに起因している。
【0073】
そして、PIDセルの枚数P*を計数する処理を実行した後、演算部22は、正常セルの並列抵抗Rshとして記憶部30に記憶された並列抵抗Rshn(100Ω)を設定すると共に、PIDセルの並列抵抗Rshとして記憶部30に記憶された並列抵抗Rshp(0.1Ω)を設定する処理を実行する(ステップS210)。
【0074】
こうして並列抵抗Rshn(100Ω),Rshp(0.1Ω)を設定する処理を実行した後、演算部22は、これら設定した並列抵抗Rshn(100Ω),Rshp(0.1Ω)を用いて、上述した式(4)により正常セルおよびPIDセルのIV特性IVcn,IVcpを演算する処理を実行する(ステップS212)。具体的には、演算部22は、並列抵抗Rshn(100Ω)を用いて式(4)により正常セルのIV特性IVcnを演算すると共に、並列抵抗Rshp(0.1Ω)を用いて式(4)によりPIDセルのIV特性IVcpを演算する。ここで、PIDセルのIV特性IVcpを演算する際に、並列抵抗Rshp(0.1Ω)を用いるのは、本発明者が鋭意研究の結果、並列抵抗Rshp(0.1Ω)を用いることにより、式(4)により演算したPIDセルのIV特性IVcpと、PIDセルのIV特性IVcpの実測値と、がよく一致することを見出したことに起因している。
【0075】
続いて、演算部22は、演算した正常セルおよびPIDセルのIV特性IVcn,IVcpをセルの枚数U分の直列回路として合成することによって、評価対象モジュールのIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)を演算すると共に、当該演算した評価対象モジュールのIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)を記憶する処理を実行する(ステップS214)。具体的には、演算部22は、正常セルのIV特性IVcnを(U-P*)枚分の直列回路として合成したものと、PIDセルのIV特性IVcpをP*枚分の直列回路として合成したものと、を互いに直列回路として合成することにより、評価対象モジュールのIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)を演算する。なお、評価対象モジュールのIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)は、例えば、回路シミュレーションソフトを用いて演算することができ、本実施の形態では、回路シミュレーションソフト「PSpice(登録商標)」を用いる構成とした。
【0076】
そして、演算部22は、モジュール番号iを値1だけインクリメントすると共に(ステップS216)、モジュール番号iが値Wと等しいか否かの判定を行う処理を実行する(ステップS220)。即ち、全ての太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)について、IV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)の演算を行ったか否かの判定、より具体的には、全ての太陽電池モジュールMi(i=1,2,・・・,W)について、ステップS202~S214の処理を実行したか否かの判定を行う。
【0077】
モジュール番号iが値Wになっていない、即ち、全ての評価対象モジュールについてIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)の演算を行っていない場合は、演算部22はモジュール番号iが値Wになるまで、即ち、W枚の評価対象モジュールについてIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)の演算が完了するまで、ステップS202~S218の処理を繰り返し実行する。
【0078】
一方、モジュール番号iが値Wになった場合、即ち、W枚の評価対象モジュールについてIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)の演算が完了した場合は、演算部22はモジュール番号iを値1に設定して(ステップS220)、記憶部30に記憶されている年間の日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および年間の太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を読み込み(ステップS224)、読み込んだ年間の日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および年間の太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)を用いて、各評価対象モジュールのIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)を補正すると共に、当該補正した各評価対象モジュールの補正IV特性IVmpij(i=1,2,・・・,W、j=1、2、・・・、N)を記憶部30に記憶する処理を実行する(ステップS224)。ここで、“N”は、上記した通り、年間の日射強度データSIjおよび年間の太陽電池モジュール温度データTmjのデータ数で決まる値であり、例えば、1日に1つの日射強度データSIjおよび太陽電池モジュール温度データTmjを有しているものとした場合には、“N”は値365となる。また、各評価対象モジュールのIV特性IVmpi(i=1,2,・・・,W)の補正は、既述したとおり、本実施の形態では、回路シミュレーションソフト「PSpice(登録商標)」において、各入力パラメータ(太陽電池セルの出力電流“I”、太陽電池セルの出力電圧“V”、短絡電流“Iph”、直列抵抗“Rs”、並列抵抗“Rsh”、ダイオードの逆飽和電流“I0”、ダイオードにかかる電圧“Vd”、電子電荷量“q”、ダイオード指数“n”、ボルツマン定数“k”、絶対温度“T”)を、温度補正計数で変動する値だけ増減させることにより行う構成とした。なお、温度補正計数とは、太陽電池モジュールMiが1℃上昇したときに、電流I・電圧V・電力Pが定格値に対して何%増減するかを表す係数である。
【0079】
次に、演算部22は、演算した各評価対象モジュールの補正IV特性IVmpij(i=1,2,・・・,W、j=1、2、・・・、N)を、モジュールの枚数W枚分の直列回路や並列回路として合成することによって、評価対象アレイのIV特性IVapj(j=1、2、・・・、N)を演算する処理を実行し(ステップS226)、当該評価対象アレイのIV特性IVapj(j=1、2、・・・、N)について(直流)最大動作電力Pdmaxj(j=1、2、・・・、N)を算出すると共に(ステップS228)、当該(直流)最大動作電力Pdmaxj(j=1、2、・・・、N)にPCS64の効率ηを乗ずることにより当該評価対象アレイによる交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)を算出する(ステップS230)。なお、評価対象アレイのIV特性IVapj(j=1、2、・・・、N)は、例えば、回路シミュレーションソフトを用いて演算することができ、本実施の形態では、回路シミュレーションソフト「PSpice(登録商標)」を用いる構成とした。
【0080】
そして、演算部22は、当該交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)を記憶部30に格納すると共(ステップS232)、データ番号jを1だけインクリメントして(ステップS234)、データ番号jがデータ数Nになったか否かの判定を行う処理を実行する(ステップS236)。即ち、各評価対象モジュールの年間のIV特性IVmpij(i=1,2,・・・,W、j=1、2、・・・、N)の演算が完了したか否か、具体的には、全ての日射強度データSIjおよび太陽電池モジュール温度データTmjを用いた各評価対象モジュールのIV特性IVmpij(i=1,2,・・・,W、j=1、2、・・・、N)の補正が完了したか否か、より具体的には、全ての日射強度データSIj(j=1、2、・・・、N)および太陽電池モジュール温度データTmj(j=1、2、・・・、N)について、ステップS222~S232の処理を実行したか否の判定を行う。
【0081】
演算部22は、データ番号jがデータ数Nでない場合、即ち、全ての日射強度データSIjおよび太陽電池モジュール温度データTmjを用いた各評価対象モジュールのIV特性IVmpij(i=1,2,・・・,W、j=1、2、・・・、N)の補正が完了していない場合は、演算部22は、全ての日射強度データSIjおよび太陽電池モジュール温度データTmjを用いた各評価対象モジュールのIV特性IVmpij(i=1,2,・・・,W、j=1、2、・・・、N)の補正が完了するまで、ステップS222~S236の処理を繰り返し実行する。
【0082】
一方、データ番号jがデータ数Nである場合、即ち、全ての日射強度データSIjおよび太陽電池モジュール温度データTmjを用いた各評価対象モジュールのIV特性IVmpij(i=1,2,・・・,W、j=1、2、・・・、N)の補正が完了した場合は、演算部22は、データ番号jを値1に設定すると共に(ステップS238)、記憶部30に記憶した全ての交流最大電力Pamaxj(j=1、2、・・・、N)を足し合わせることで評価対象アレイによる年間発電量Pamaxを演算すると共に、当該年間発電量Pamaxを記憶部30に格納する処理を実行する(ステップS240)。
【0083】
続いて、演算部22は、記憶部30に記憶された正常アレイによる年間発電量Pamax*を読み込み(ステップS242)、読み込んだ正常アレイによる年間発電量Pamax*と、評価対象アレイによる年間発電量Pamaxと、の差を取ることで、PID現象の発生に起因して年間で損失すると推測される発電量である年間損失発電量ΔPamaxを算定する処理を実行する(ステップS244)。
【0084】
こうして演算部22によって年間損失発電量ΔPamaxが算定されると、良否判定部26が、当該年間損失発電量ΔPamaxに基づいて、評価対象アレイの良否判定を行う処理を実行する(ステップS246)。ここで、評価対象アレイの良否判定は、例えば、年間損失発電量ΔPamaxを用いて、PID現象が発生したことによる出力低下に起因した逸失利益損失を計算すると共に、当該逸失利益と、PIDセルや評価対象モジュールを取り替えるのに要する費用と、を比較して、逸失利益が取り替え費用を上回れば、取り換え工事を実施した方が良い、即ち、評価対象アレイは良品でないと判定し、逆に、取り替え費用が逸失利益を上回れば、取り換え工事は実施しない方が良い、即ち、評価対象アレイは良品であると判定することができる。そして、良否判定部26は、当該判定結果を出力して(ステップS248)、本ルーチンを終了する。
【0085】
次に、本実施の形態に係る発電性能評価装置を用いて演算した太陽電池モジュールMのIV特性IVmn,IVmpijと、同じ太陽電池モジュールMをソーラーシミュレータで実測したIV特性IVmn,IVmpijと、の比較を行った実験結果(図7)、および、本実施の形態に係る発電性能評価装置を用いて演算した太陽電池システム60の年間発電量の推定値と、同じ太陽電池システム60の年間発電量の実測値と、の比較を行った実験結果(図8)について、図7および図8を参照しながら説明する。
【0086】
まず、PIDセルを有さない正常モジュール(図7のモジュール番号1および2)について、本実施の形態に係る発電性能評価装置を用いて演算したIV特性IVmnと、当該正常モジュールにおけるIV特性IVmnの実測値と、を比較すると、全ての評価項目(短絡電流Iph、開放電圧Voc、逆飽和電流I0、ダイオードに掛かる電圧Vd、フィルファクターFF、最大動作出力Pdmax)において、誤差率が数%に抑えられており、本発明の有効性が確認された。
【0087】
また、PIDセルを有する評価対象モジュール(図7のモジュール番号3~10)についても、正常モジュールと同様、本実施の形態に係る発電性能評価装置を用いて演算したIV特性IVmpijと、当該評価対象モジュールにおけるIV特性IVmpijの実測値と、を比較すると、全ての評価項目(短絡電流Iph、開放電圧Voc、逆飽和電流I0、ダイオードに掛かる電圧Vd、フィルファクターFF、最大動作出力Pdmax)において、誤差率が数%に抑えられており、本発明の有効性が確認された。
【0088】
さらに、太陽電池システム60の年間発電量についても、図8に示すように、誤差率が数%に抑えられており、本発明の有効性が確認された。
【0089】
以上、説明した本実施の形態に係る本発明の発電性能評価装置によれば、EL測定によって取得された太陽電池セルCkの輝度低下率が50%より大きい場合には、並列抵抗Rshを100Ωに設定して、太陽電池セルCkを等価回路として表したときの式(4)により正常セルのIV特性IVcnを演算し(ステップS200~S212)、輝度低下率が50%未満の場合には、並列抵抗Rshを0.1Ωに設定して、式(4)によりPIDセルのIV特性IVcpを演算する(ステップS200~S212)。そして、これら正常セルおよびPIDセルのIV特性IVcn,IVcpをセル数各(U-P*)枚およびP*枚の計U枚分の直列回路として合成することにより各評価対象モジュールのIV特性IVmpiを演算する(ステップS214~S220)。なお、各評価対象モジュールのIV特性IVmpiは、年間の日射強度データSIjおよび年間の太陽電池モジュール温度データTmjを用いて補正することで、各評価対象モジュールの年間のIV特性IVmpijを演算する(ステップS222~S224)。さらに、各評価対象モジュールの年間のIV特性IVmpijをデータ番号j毎でモジュール枚数W枚分の直列回路および並列回路として合成することにより太陽電池アレイAの年間のIV特性IVapjを演算すると共に、当該太陽電池アレイAの年間のIV特性IVanj,IVapjのそれぞれについて最大動作電力Pdmaxjを算出し、算出した各最大動作電力PdmaxjにPCS64の効率ηを乗じて年間の交流最大電力Pamaxjを算出する(ステップS226~S230)。そして、各交流最大電力Pamaxjを合計することで、評価対象アレイによる年間発電量Pamaxを演算し、記憶部30に記憶された正常アレイによる年間発電量Pamax*と当該評価対象アレイによる年間発電量Pamaxと、の差である年間損失発電量ΔPamaxを算出して、評価対象アレイAの良否を判定する(ステップS232~S248)。これにより、正常セルのIV特性IVcn、正常モジュールのIV特性IVmnij、正常アレイのIV特性IVanjのみならず、PIDセルのIV特性IVcp、当該PIDセルを有する評価対象モジュールのIV特性IVmpij、および、当該評価対象モジュールを有する評価対象アレイのIV特性IVapjをも推定することができる。この結果、太陽電池システム60の発電性能を定量的に評価することができる。
【0090】
本実施の形態では、正常アレイのIV特性IVanは、太陽電池システム60の発電性能を初めて診断するときに正常年間発電量推定処理ルーチンを実行することにより取得する構成としたが、これに限らない。例えば、正常アレイのIV特性IVanを出荷時に予め測定すると共に、太陽電池システム60を制御するための図示しない制御装置のメモリに予め格納しておき、太陽電池システム60の発電性能の測定に際に、コンピュータ1の操作によって、太陽電池システム60の制御装置のメモリから当該IV特性IVanをコンピュータ1が読み込む構成としても良い。この場合、正常年間発電量推定処理ルーチンは不要となり、発電性能評価処理ルーチンのステップS242の正常アレイの年間発電量Pamax*は、太陽電池システム60の制御装置のメモリから読み込む処理となる。
【0091】
本実施の形態では、最大発光輝度Bmaxの選定は、EL測定で取得した各太陽電池セルCkの発光輝度Bkのうち最大値を示すものを選定する構成としたが、これに限らない。例えば、新品(出荷前)かつ正常状態の太陽電池セルの発光輝度を予め測定しておき、当該発光輝度を最大発光輝度Bmaxとして記憶部30に記憶しておく構成や、あるいは、新品(出荷前)かつ正常状態の太陽電池セルにおいて取得し得る最大発光輝度を当該最大発光輝度Bmaxとして記憶部30に記憶しておく構成としても良い。この場合、発電性能評価処理ルーチンのステップS204は、最大発光輝度Bmaxを選定する処理に代えて、記憶部30から最大発光輝度Bmaxを読み込む処理とすることができる。
【0092】
本実施の形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0093】
1 コンピュータ(発電性能評価装置)
2 コントローラ
2a CPU
2b ROM
2c RAM
4 GPU
6 HDD
8 I/F
10 発電性能評価システム
14 入力装置
16 ディスプレイ
20 取得部(取得部)
22 演算部(演算部)
24 比較部(比較部)
26 良否判定部(良否判定部)
30 記憶部(記憶部)
32 EL測定画像データ
40 電源装置
40a 電源
40b AC/DC変換器
50 カメラ
60 太陽電池システム
62 接続箱
62a 開閉器
62b 逆流防止ダイオード
64 PCS
70 定電流電源
72 ダイオード(ダイオード)
80 バス
82 バスライン
I 各太陽電池セルの出力電流
V 各太陽電池セルの出力電圧
Iph 短絡電流
Rs 直列抵抗(直列抵抗)
0 逆飽和電流
Vd ダイオードにかかる電圧
q 電子電荷量
n ダイオード指数
k ボルツマン定数
T 絶対温度
Str 太陽電池ストリング
A 太陽電池アレイ
M 太陽電池モジュール
Mi 太陽電池モジュール
Ck 太陽電池セル(太陽電池セル)
Bk 発光輝度(発光輝度)
Bmax 最大発光輝度
P* PIDセルの枚数
Rsh 並列抵抗(並列抵抗)
Rshn 正常セルの並列抵抗(並列抵抗)
Rshp PIDセルの並列抵抗(並列抵抗)
IVc 各太陽電池セルのIV特性
IVcn 正常セルのIV特性(太陽電池セルの電流-電圧特性)
IVmn 正常モジュールのIV特性(太陽電池モジュールの電流-電圧特性)
IVmnj 正常モジュールの年間のIV特性
IVan 正常アレイのIV特性(太陽電池アレイの電流-電圧特性)
IVap 評価対象アレイのIV特性(太陽電池アレイの電流-電圧特性)
IVanj 正常アレイの年間のIV特性(太陽電池アレイの電流-電圧特性)
IVcp PIDセルのIV特性(太陽電池セルの電流-電圧特性)
IVmpi 評価対象モジュールのIV特性(太陽電池モジュールの電流-電圧特性)
IVmpij 評価対象モジュールの年間のIV特性
IVapj 評価対象アレイの年間のIV特性(太陽電池アレイの電流-電圧特性)
SIj 年間の日射強度データ(日射強度)
Tmj 年間の太陽電池モジュール温度データ(太陽電池モジュールの温度)
Pdmaxj 最大電力
Pamaxj 交流最大電力
Pamax* 正常アレイによる年間発電量(正常時年間発電量)
Pamax 評価対象アレイによる年間発電量(演算年間発電量)
ΔPamax 年間損失発電量
U 太陽電池モジュールあたりの太陽電池セルの枚数
W 太陽電池アレイあたりの太陽電池モジュールの枚数
η 効率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8