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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】安定化されたHMGB1含有溶液
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
G01N33/68
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019188094
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021063707
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000131474
【氏名又は名称】株式会社シノテスト
(72)【発明者】
【氏名】吉尾 鈴代
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/147873(WO,A1)
【文献】特開2004-144728(JP,A)
【文献】特表2017-502969(JP,A)
【文献】特表平02-502874(JP,A)
【文献】特表2015-501134(JP,A)
【文献】特表2013-532677(JP,A)
【文献】特開平04-299263(JP,A)
【文献】特開平06-265546(JP,A)
【文献】特開2001-033450(JP,A)
【文献】特開昭63-049081(JP,A)
【文献】特表平08-500013(JP,A)
【文献】特開平06-284886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HMGB1含有溶液に塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化リチウム、硫酸マグネシウム、又は硫酸アンモニウムからなる群から選ばれるものを添加することを特徴とする、溶液中のHMGB1の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敗血症等の疾患のマーカーとなりうる試料中のHMGB1(ハイモビリティーグループプロテイン-1;HMG-1)を測定する際用いるHMGB1含有溶液に関するものである。
本発明は、特に、化学、生命科学、分析化学及び臨床検査等の分野において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
ハイモビリティーグループプロテイン(High Mobility Group Protein)は、クロマチン構造に含まれる大量の非ヒストンタンパク質として1964年に発見され、すべての高等動植物に普遍的に含まれるタンパク質であり、種族間で一次構造の保存性は極めて高い。
また、核内ばかりではなく、細胞質内にも豊富に存在することが分かっている。
生理作用ははっきりとは分かっていないが、HMGB1はDNAと結合する際に二重螺旋構造を緩めることから、転写反応の際にDNAの高次構造を最適構造に変化させて転写活性を高めるという、極めて広範囲の転写促進因子及びヌクレオソーム弛緩因子として機能すると考えられている。
【0003】
ハイモビリティーグループプロテインには、いくつかの種類が存在する。例えば、ハイモビリティーグループプロテイン-1(HMGB1)、ハイモビリティーグループプロテイン-2(HMGB2)、ハイモビリティーグループプロテイン-3(HMGB3)、ハイモビリティーグループプロテイン-8(HMGB8)、ハイモビリティーグループプロテイン-17(HMGB17)、ハイモビリティーグループプロテイン-I(HMGBI)、ハイモビリティーグループプロテイン-Y(HMGBY)、ハイモビリティーグループプロテイン-I(Y)(HMGBI(Y))、ハイモビリティーグループプロテイン I-C(HMGB I-C)等を挙げることができる。
【0004】
ワングらは1999年に、HMGB1自体を免疫原として調製したポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロット法により、初めて血清中(血液中)のHMGB1の定量測定を行った。
その結果、ワングらは、HMGB1が敗血症のマーカーとなりうることを示した。
そして、敗血症の患者において、生き残る患者と、死に至る患者を判別することが、精密に血液中のHMGB1を測定することによって可能であることを示した。
即ち、ただ単に血液中でのHMGB1の存在を確認するだけではなく、精密に定量することの有用性が明らかにされた(非特許文献1参照)。
【0005】
ところで、試料中に含まれる測定対象物質の定量測定を行うには、濃度既知の標準液を用いて校正を行なうことが一般的であり、また、その定量測定が正確に、かつ精密に行われているかを確かめるために、濃度既知の測定試料を用いて精度管理を行なうことが一般的である。
HMGB1の測定に際して、校正に用いられる濃度既知の標準液や、精度管理に用いられる濃度既知の測定試料には、HMGB1含有溶液を用いる場合が多い。
【0006】
しかしながら、水溶液中のタンパク質は、保存温度等の保存条件によっては変性や分解が促進されることも多く、その結果、タンパク質の高次構造が変化してしまい、抗体との反応性が低下してしまうことがあるため、このようなタンパク質の水溶液を、校正用の標準液や精度管理用の測定試料に用いてしまうと、誤った測定値を生ずる等の原因となりうる。
【0007】
抗体との反応性の低下を防ぐために、タンパク質の水溶液を凍結乾燥して保存しておき、使用時に適切な量の水を添加して溶解させてから水溶液として使用する方法や、凍結保存する方法などが一般的にとられる。
しかし、凍結乾燥による方法では、使用時に水を添加しなければいけないため操作が煩雑となり、溶解操作による誤差が生じる恐れがある。
凍結保存による方法では、凍結融解の繰り返し、融解方法、融解状態によって測定値が変わってしまう可能性がある。
また、どちらの方法においても、液体の状態となった後の安定性は悪いことが殆どである。
【0008】
凍結乾燥による方法、凍結による方法以外としては、ヘムタンパク質を含有する試料中に、遷移金属類を共存させることを特徴とするヘムタンパク質の安定化方法や、肺サーファクタント蛋白質と2価金属イオンを共存させ、肺サーファクタント蛋白質の抗原活性を安定化する方法などが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、HMGB1含有溶液の安定化について十分に検討した例はない。
【0009】
上述のように、従来のHMGB1含有溶液においては、保存安定性が不十分であり、HMGB1含有溶液の凍結乾燥品や凍結品を使わなければならず、使い勝手や正確性の面で課題を有しており、HMGB1の測定に問題が生じていた。よって、HMGB1含有溶液の保存安定性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】H.Wangら,SCIENCE,285巻,9号,248~251頁,1999年発行
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-249132号公報
【文献】特開2016-183112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の課題は、HMGB1含有溶液において、保存安定性を向上させることにより、長期間液状で安定なHMGB1含有溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題の解決を目指して鋭意検討を行った結果、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を添加させることにより、たとえ液体の状態であっても、HMGB1の変性若しくは分解又は効力の低下が生じることなく、長期間安定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
(1) HMGB1とカチオン部位を有する物質とを含むHMGB1含有溶液。
(2) カチオン部位が、第1族元素のイオン、第2族元素のイオン、又はアンモニウムイオンである、前記(1)記載のHMGB1含有溶液。
(3) HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を添加することを特徴とする、溶液中のHMGB1の安定化方法。
(4) カチオン部位が、第1族元素のイオン、第2族元素のイオン、又はアンモニウムイオンである、請求項3記載のHMGB1の安定化方法。
(5) 試料中のHMGB1の測定に使用するための標準液であって、カチオン部位を有する物質を含有することを特徴とするHMGB1測定用標準液。
(6) カチオン部位が、第1族元素のイオン、第2族元素のイオン、又はアンモニウムイオンである、請求項5記載のHMGB1測定用標準液。
【発明の効果】
【0015】
本発明のHMGB1含有溶液は、HMGB1とカチオン部位を有する物質とを含むことにより、その保存安定性を向上させたHMGB1含有溶液である。
また、本発明のHMGB1の安定化方法は、HMGB1を液状で長期間安定化できる方法である。
そして、安定化されたHMGB1含有溶液を標準液として用いることにより、疾患の診断等の場において、誤差を含まない、かつ正確なHMGB1の測定値を提供することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0017】
〔1〕HMGB1含有溶液
1.概要
本発明においては、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を含有させることにより、溶液状態のHMGB1を安定化することができる。
【0018】
2.HMGB1
本発明において、HMGB1としては、例えば、ヒト又は他の動物由来のもの等を挙げることができる。
また、HMGB1は、例えば、ヒト又は他の動物の体液、細胞、組織もしくは臓器等から、公知の方法等により抽出、精製等して、取得することができる。更に、HMGB1は、ヒト又は他の動物の遺伝子組み換え法により調製して取得することもできる。
【0019】
なお、HMGB1のヒト胸腺、ブタ胸腺、ウシ胸腺、ヒト胎盤、好中球、HL-60細胞株等からの取得の方法は、以下の文献等に記載されている(H.Goodwinら,Biochemica Biophisica Acta,405巻,280~291頁,1975年発行;M.Yoshidaら,J.Biochem.,95巻,117~124頁,1980年発行;Y.Adachiら,J.Chromatogr,530巻,39~46巻,1992年発行)。
【0020】
また、HMGB1の遺伝子組み換え法による調製方法は、以下の文献に記載されている(A.Mistryら,Bio Techniques,22巻,718~729頁,1997年発行)。
【0021】
3.カチオン部位を有する物質
本発明のHMGB1含有溶液は、カチオン部位を有する物質を含有する。本発明において、カチオン部位を有する物質としては、特に限定はなく、カチオン部位を有する物質であればよい。
【0022】
(1)カチオン部位
本発明において、カチオン部位としては、例えば、金属イオン、又はアンモニウムイオン等を挙げることができる。
【0023】
この金属イオンとしては、例えば、第1族元素、第2族元素、又はその他の金属等のイオンを挙げることができる。
【0024】
第1族元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、又はルビジウム等を挙げることができる。
【0025】
第2族元素としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、ストロンチウム、又はバリウム等を挙げることができる。
【0026】
その他の金属としては、例えば、ガリウム、インジウム、又はゲルマニウム等を挙げることができる。
【0027】
本発明において、カチオン部位としては、例えば、第1族元素のイオン、第2族元素のイオン、又はアンモニウムイオンが好ましい。
【0028】
(2)カチオン部位を有する物質
本発明において、カチオン部位を有する物質としては、特に限定はなく、カチオン部位を有する物質であればよい。
このカチオン部位を有する物質としては、例えば、カチオン部位の水酸化物、又はカチオン部位の塩等を挙げることができる。
【0029】
このカチオン部位の塩としては、例えば、ハロゲンイオンとの塩、又は酸基との塩等を挙げることができる。
【0030】
ハロゲンイオンとしては、例えば、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、又はヨウ素イオン等を挙げることができる。
【0031】
酸基としては、例えば、硫酸基、塩酸基、硝酸基、リン酸、酢酸又はクエン酸等を挙げることができる。
【0032】
そして、カチオン部位を有する物質の具体例としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アンモニウム、又は硫酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0033】
本発明において、カチオン部位を有する物質としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化リチウム、硫酸マグネシウム、又は硫酸アンモニウム等が好ましい。
【0034】
本発明において、カチオン部位を有する物質の濃度は、溶液中のHMGB1を十分に安定化できる量であれば特に限定されるものではなく、溶液中のHMGB1の濃度等によって最適濃度は異なるが、溶液中において、150mM以上であればよく、好ましくは200mM以上であり、より好ましくは500mM以上であり、特に好ましくは1,000mM以上である。
【0035】
また、溶液中において、カチオン部位を有する物質の濃度の上限は、特に限定はないが、コスト等のことを考えると、3,000mM以下が好ましく、2,000mM以下がより好ましく、1,500mM以下が特に好ましい。
【0036】
なお、本発明で用いられるカチオン部位を有する物質は、単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
4.溶液のpH
本発明のHMGB1含有溶液のpHは、pH9.0以下であることが好ましく、pH4.4~8.0の範囲が特に好ましい。
【0038】
また、本発明のHMGB1含有溶液を前記のpH範囲となるように使用する緩衝剤としては、前記のpH範囲に緩衝能がある従来公知の緩衝剤を適宜使用することができる。
このような緩衝剤として使用できるものとしては、例えば、リン酸、クエン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イミダゾール、グリシルグリシン、MES、Bis-Tris、ADA、ACES、Bis-Trisプロパン、PIPES、MOPSO、MOPS、BES、HEPES、TES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPS、HEPPSO、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、若しくはCAPS又はこれらの塩等の各緩衝剤を挙げることができる。
【0039】
5.その他の構成成分
本発明のHMGB1含有溶液の溶液中には、カチオン部位を有する物質の他に、公知の防腐剤等を必要に応じて適宜含有させることができる。
【0040】
なお、本発明において、溶液中のHMGB1を安定化するためには、HMGB1含有溶液に、カチオン部位を有する物質を存在させるだけでよく、それ以外の操作は特に必要ない。
【0041】
〔2〕HMGB1測定用標準液
1.概要
本発明はまた、試料中のHMGB1の測定に使用するための標準液において、カチオン部位を有する物質を含有させることを特徴とするHMGB1測定用標準液を提供するものである。
【0042】
2.HMGB1
本発明のHMGB1測定用標準液における、HMGB1の詳細については、前記「〔1〕HMGB1含有溶液」に記載したとおりである。
【0043】
また、本発明のHMGB1測定用標準液に含有されるHMGB1の濃度は、特に限定されるものではなく、HMGB1測定用標準液として通常使用される濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0044】
3.カチオン部位を有する物質
本発明のHMGB1測定用標準液における、カチオン部位を有する物質の詳細については、前記「〔1〕HMGB1含有溶液」に記載したとおりである。
【0045】
また、本発明において、HMGB1測定用標準液に、前記のカチオン部位を有する物質を含有させる場合の濃度は、標準液中のHMGB1を十分に安定化できる量であれば特に限定されるものではなく、標準液中のHMGB1の濃度等によって最適濃度は異なるが、標準液中において、150mM以上であればよく、好ましくは200mM以上であり、より好ましくは500mM以上であり、特に好ましくは1,000mM以上である。
【0046】
また、標準液中において、カチオン部位を有する物質の濃度の上限は、特に限定はないが、コスト等のことを考えると、3,000mM以下が好ましく、2,000mM以下がより好ましく、1,500mM以下が特に好ましい。
【0047】
4.標準液のpH
本発明のHMGB1測定用標準液のpHは、pH9.0以下であることが好ましく、pH4.4~8.0の範囲が特に好ましい。
【0048】
また、本発明のHMGB1測定用標準液を前記のpH範囲となるように使用する緩衝剤としては、前記のpH範囲に緩衝能がある従来公知の緩衝剤等を適宜使用することができる。
【0049】
なお、本発明のHMGB1測定用標準液は、HMGB1含有溶液に前記のカチオン部位を有する物質を添加することによって調製することができ、例えば、前記のカチオン部位を有する物質とHMGB1とを純水に溶解し、前記した従来公知の緩衝剤等によりpHを調整することにより、調製することができる。
【0050】
また、本発明のHMGB1測定用標準液は、試料中のHMGB1を測定するための測定試薬と組み合わせて、試料中のHMGB1を測定するための測定キットとして用いることができる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕(本発明による溶液中のHMGB1の安定化効果の確認-1)
塩化ナトリウムによる溶液中のHMGB1の安定化効果を確認した。
【0053】
1.HMGB1含有溶液の調製
後述する参考例1で調製したブタHMGB1を含む溶液を、リン酸二水素カリウム-リン酸水素二カリウム緩衝液(pH7.4)で充分に透析した。
この透析後の前記HMGB1を含む溶液のタンパク質濃度をプロテインアッセイ(バイオラッド社製)で求めた。
そして、この前記HMGB1を含む溶液を、下記の濃度の塩化ナトリウム及びBSA1%を含む10mMグッド緩衝液(pH7.4)で希釈して、塩化ナトリウム濃度が異なるHMGB1濃度が80ng/mLの5種類のHMGB1含有溶液をそれぞれ調製した。
塩化ナトリウム:0mM、150mM、300mM、500mM又は1,000mM
【0054】
2.HMGB1含有溶液の保存
上記1で調製した5種類のHMGB1含有溶液を冷蔵(2~8℃)で保存した。
【0055】
3.HMGB1の測定
保存開始時(0日)及び保存3日後、61日後、131日後、193日後、327日後、469日後、並びに594日後に、5種類のHMGB1含有溶液の各々のHMGB1濃度を測定した。
【0056】
なお、HMGB1の測定は、以下の(1)に記載する測定試薬を使用し、酵素免疫測定法(サンドイッチ法)により行った。
【0057】
(1) 測定試薬
(a)パーオキシダーゼ標識抗体
後述する参考例2で調製した、HMGB1及びHMGB2に結合する抗体にパーオキシダーゼを結合させたパーオキシダーゼ標識抗体を、酵素免疫測定法のサンドイッチ法における酵素標識抗体として使用した。
(b)マイクロプレート固相化抗体
後述する参考例3で調製した、HMGB1に結合しHMGB2には結合しない抗体をマイクロプレートの各ウェルに固相化したマイクロプレート固相化抗体を、酵素免疫測定法のサンドイッチ法における固相化抗体として使用した。
(c)希釈試薬
0.1%BSAを含む100mMグッド緩衝液(pH9.0)を調製し、希釈試薬とした。
(d)洗浄液
0.05%ツイーン20(Tween20)を含むリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)を調製し、洗浄液とした。
(e)パーオキシダーゼ基質液
3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)を含む過酸化水素水溶液をパーオキシダーゼ基質液とした。
(f)反応停止液
6N硫酸水溶液を調製して、反応停止液とした。
(g)HMGB1測定用基準液
実施例1の1と同様にして調製したHMGB1を含む溶液を、BSA1%を含む10mMグッド緩衝液(pH7.4)で希釈して、HMGB1濃度が320ng/mLのHMGB1測定用基準液を調製し、-80℃で凍結保存した。
なお、このHMGB1測定用基準液は、使用時にHMGB1濃度が80ng/mLとなるよう前記(1)の(c)の希釈試薬で希釈して用いた。
【0058】
(2) 酵素免疫測定法(サンドイッチ法)による測定
(a)前記1で調製した、5種類のHMGB1含有溶液をそれぞれ、前記(1)の(c)の希釈試薬で41倍に希釈した。
(b)前記の5種類のHMGB1含有溶液を、前記(1)の(b)のマイクロプレート固相化抗体の各ウェルに100μLずつ添加して、37℃で2時間静置して、マイクロプレートに固相化された抗体と、HMGB1含有溶液に含まれていたHMGB1との抗原抗体反応を行わせた。
(c)次に、前記のマイクロプレート固相化抗体の各ウェルを、前記(1)の(d)の洗浄液で洗浄した。
(d)前記(1)の(a)のパーオキシダーゼ標識抗体を、0.1%BSAを含むグッド緩衝液(pH7.0)で6,000倍希釈した。次にこれを、前記の洗浄操作を行ったマイクロプレート固相化抗体の各ウェルに、100μLずつ添加した後、25℃で2時間静置した。
これにより、マイクロプレートに固相化した抗体に結合したHMGB1に、パーオキシダーゼ標識抗体を結合させる反応を行わせた。
(e)その後、前記のマイクロプレート固相化抗体の各ウェルを前記(1)の(d)の洗浄液で洗浄した。
(f)次に、前記のマイクロプレート固相化抗体の各ウェルに、前記(1)の(e)のパーオキシダーゼ基質液を100μLずつ添加した。そして、常温で反応させた。
(g)前記のパーオキシダーゼ基質液の添加20分後に、前記1の反応停止液を、前記のマイクロプレート固相化抗体の各ウェルに100μLずつ添加して、標識パーオキシダーゼの反応を停止させた。
(h) 次に、前記のマイクロプレート固相化抗体の各ウェル中の溶液の吸光度(450nm)をマイクロプレートリーダー(Model680;バイオラッド社製)により測定した。
(i)以上の操作により得られた、HMGB1濃度の測定結果を表1に示した。
なお、表1に示した各々の測定値(HMGB1濃度)は、生理食塩水(150mM塩化ナトリウム水溶液)を試料とした場合の吸光度を差し引き、前記(1)の(g)のHMGB1測定用基準液から換算したものである。
【0059】
(3)測定結果
HMGB1濃度の測定結果を表1に示した。なお、表1に示した値は、測定で得られたHMGB1濃度(ng/mL)であり、カッコ内の数値は保存開始時(0日)を100%とした場合のHMGB1の残存率を表したものである。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から明らかなように、HMGB1含有溶液に塩化ナトリウムを存在させていないもの(0mM)は、保存期間の経過に従ってHMGB1の濃度が低下しており、保存開始時のHMGB1濃度を100%とした場合に、保存61日後で75.3%に、保存131日後では、54.6%にまで低下していることが分かる。その後も、HMGB1濃度の低下は続き、594日目では4.3%まで低下していることが分かる。
これに対して、HMGB1含有溶液に塩化ナトリウムを存在させたものはいずれも、塩化ナトリウムを存在させない場合に比べてHMGB1の残存率が著しく向上していることが分かる。
このように、HMGB1含有溶液に塩化ナトリウムを存在させることにより、溶液状態のHMGB1を安定化できることが確認できた。
【0062】
〔実施例2〕(本発明による溶液中のHMGB1の安定化効果の確認-2)
カチオン部位を有する物質による溶液中のHMGB1の安定化効果を確認した。
【0063】
1.HMGB1含有溶液の調製
表2に記載のカチオン部位を有する物質を表2に記載のそれぞれの濃度で含有すること(又は含有しないこと)以外は、実施例1の1と同様にして、9種類のHMGB1含有溶液をそれぞれ調製した。
【0064】
2.HMGB1含有溶液の保存
上記1で調製した9種類のHMGB1含有溶液を冷蔵(2~8℃)で保存した。
【0065】
3.HMGB1の測定
保存開始時(0日)及び保存6日後、10日後、64日後、90日後、並びに276日後に、実施例1の3と同様にして、9種類のHMGB1含有溶液の各々のHMGB1濃度を測定した。
【0066】
(3)測定結果
HMGB1濃度の測定結果を表2に示した。なお、表2に示した値は、測定で得られたHMGB1濃度(ng/mL)であり、カッコ内の数値は保存開始時(0日)を100%とした場合のHMGB1の残存率を表したものである。
【0067】
【表2】
【0068】
表2から明らかなように、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を存在させていないもの(0mM)は、保存期間の経過に従ってHMGB1の濃度が低下しており、保存開始時のHMGB1濃度を100%とした場合に、保存64日後で77.1%に、保存90日後では48.5%に、保存276日目では40.6%まで低下していることが分かる。
これに対して、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を存在させたものはいずれも、カチオン部位を有する物質を存在させない場合に比べてHMGB1の残存率が著しく向上していることが分かる。
このように、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を存在させることにより、溶液状態のHMGB1を安定化できることが確認できた。
【0069】
〔実施例3〕(本発明による溶液中のHMGB1の安定化効果の確認-3)
カチオン部位を有する物質による溶液中のHMGB1の安定化効果を確認した。
【0070】
1.HMGB1含有溶液の調製
表3に記載のカチオン部位を有する物質を表3に記載のそれぞれの濃度で含有すること(又は含有しないこと)以外は、実施例1の1と同様にして、3種類のHMGB1含有溶液をそれぞれ調製した。
【0071】
2.HMGB1含有溶液の保存
上記1で調製した3種類のHMGB1含有溶液を冷蔵(2~8℃)で保存した。
【0072】
3.HMGB1の測定
保存開始時(0日)及び保存102日後、並びに169日後に、実施例1の3と同様にして、2種類のHMGB1含有溶液の各々のHMGB1濃度を測定した。
【0073】
4.測定結果
HMGB1濃度の測定結果を表3に示した。なお、表3に示した値は、測定で得られたHMGB1濃度(ng/mL)であり、カッコ内の数値は保存開始時(0日)を100%とした場合のHMGB1の残存率を表したものである。
【0074】
【表3】
【0075】
表3から明らかなように、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を存在させていないもの(0mM)は、保存期間の経過に従ってHMGB1の濃度が低下しており、保存開始時のHMGB1濃度を100%とした場合に、保存102日後で57.5%に、保存169日後では、37.8%にまで低下していることが分かる。
これに対して、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を存在させたものはいずれも、カチオン部位を有する物質を存在させない場合に比べてHMGB1の残存率が著しく向上していることが分かる。
このように、HMGB1含有溶液にカチオン部位を有する物質を存在させることにより、溶液状態のHMGB1を安定化できることが確認できた。
【0076】
〔参考例1〕(ブタHMGB1の調製)
(1)ブタ胸腺を生理食塩水と一緒にミキサーにかけた。これを3回程度繰り返し、よく洗浄した。
(2)これを遠心分離機で遠心分離し(7,000×G、10分間)、上清を捨てた。
(3)胸腺細胞を別の容器に移し、750mM過塩素酸を添加し、ミキサーにかけた。
(4)これを遠心分離機で遠心分離し(7,000×G、10分間)、その上清を分取して、ポアサイズ0.45μmのガラスフィルターで濾過し、このガラスフィルターを750mM過塩素酸で洗浄した。
(5)アセトンに濾液を強く攪拌しながら加えた。
(6)この濾液を遠心分離機で遠心分離し(7,000×G、10分間)、その上清を分取して、さらにアセトンを加えた。
(7)沈殿を集めて、ドラフトで一晩乾燥させ、7.5mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)に溶解し、透析した。
(8)これをCM-セファデックスカラムに通し、ブタ胸腺由来のHMGB1を精製した。
【0077】
〔参考例2〕(パーオキシダーゼ標識抗体の調製)
HMGB1及びHMGB2に結合する抗体(モノクローナル抗体)にパーオキシダーゼを標識化して、パーオキシダーゼ標識抗体を調製した。
【0078】
(1)パーオキシダーゼへのマレイミド基の導入
パーオキシダーゼ(西洋ワサビ由来)4mgを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)の0.3mLに溶解した。これに、N-サクシニミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸の1.0mgをN,N’-ジメチルホルムアミドの60μLに溶解したものを添加して、30℃で60分間反応させた。
その後、これを0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)で一晩透析を行った。
以上の操作により、前記のパーオキシダーゼに、マレイミド基を導入した。
【0079】
(2)抗体へのチオール基の導入
HMGB1及びHMGB2に結合する抗体(モノクローナル抗体)〔自家調製品〕を、10mg/mLの濃度で含有する0.1Mリン酸緩衝液溶液(pH6.5)の0.5mLに、S-アセチルメルカプト無水コハク酸の0.6mgをN,N’-ジメチルホルムアミドの10μLに溶解したものを添加して、室温で30分間反応させた。
【0080】
その後これに、0.1MのEDTAの20μL、0.1Mのトリス塩酸緩衝液(pH7.0)の0.1mL、及び1Mのヒドロキシルアミン塩酸塩(pH7.0)の0.1mLをそれぞれ添加して、30℃で5分間放置した。
【0081】
次にこれを、5mMのEDTAを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化しておいたセファデックスG-25のカラムに通し、単純ゲル濾過クロマトグラフィーを行い、過剰のS-アセチルメルカプト無水コハク酸を取り除き、抗体画分を集めた。
以上の操作により、前記のHMGB1及びHMGB2に結合する抗体(モノクローナル抗体)に、チオール基を導入した。
【0082】
(3)標識抗体の調製
前記(1)で調製したマレイミド基を導入したパーオキシダーゼ及び前記(2)で調製したチオール基を導入した抗体を一対一で混合し、30℃で20時間反応させて、前記抗体へのパーオキシダーゼの導入(標識化)を行った。
【0083】
その後これを、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)で平衡化しておいたウルトラゲルAcA34のカラムに通し、ゲル濾過クロマトグラフィーを行った。
このゲル濾過クロマトグラフィーの各画分を、10%ポリアクリルアミド電気泳動にかけて確認を行い、未結合のパーオキシダーゼが混入しないように、パーオキシダーゼが結合した抗体の画分だけを集めた。
【0084】
このパーオキシダーゼが結合した抗体の画分を濃縮して、パーオキシダーゼが結合した抗体、即ちパーオキシダーゼ標識抗体を得た。
そして、このパーオキシダーゼ標識抗体を含む溶液のタンパク質濃度を測定した。
【0085】
〔参考例3〕(マイクロプレート固相化抗体)
HMGB1に結合しHMGB2には結合しない抗体(モノクローナル抗体)をマイクロプレートに固相化して、マイクロプレート固相化抗体を調製した。
【0086】
(1) HMGB1に結合しHMGB2には結合しない抗体(モノクローナル抗体)〔自家調製品〕を、リン酸緩衝生理食塩水(5.59mMリン酸水素二ナトリウム、1.47mMリン酸二水素カリウム、137mM塩化ナトリウム、2.68mM塩化カリウム(pH7.2))により10μg/mLとした後、96ウェル-マイクロプレート(ヌンク社製)に1ウェル当り100μLずつ加え、37℃で4日間以上静置して、前記抗体を前記マイクロプレートの各ウェルに吸着させ、固相化した。
【0087】
(2) この抗体が固相化されたマイクロプレートに1%BSAを含む10mMリン酸緩衝液(pH8.0)を1ウェル当り200μLずつ加えて、冷蔵で一晩以上静置してブロッキングを行った。
【0088】
以上の操作により、HMGB1に結合しHMGB2には結合しない抗体(モノクローナル抗体)をマイクロプレートに固相化した、マイクロプレート固相化抗体を調製した。