(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】異常検知システム
(51)【国際特許分類】
G08B 25/00 20060101AFI20240124BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20240124BHJP
G01J 1/42 20060101ALI20240124BHJP
G01J 5/10 20060101ALI20240124BHJP
G01V 8/20 20060101ALI20240124BHJP
G08B 17/12 20060101ALI20240124BHJP
G08B 17/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
G08B25/00 520A
G01J1/02 J
G01J1/42 C
G01J5/10 C
G01V8/20 Q
G08B17/12 A
G08B17/00 C
(21)【出願番号】P 2019188682
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000192338
【氏名又は名称】深田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花井 佑一朗
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮
(72)【発明者】
【氏名】平澤 正憲
【審査官】大橋 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-243876(JP,A)
【文献】特開2017-157024(JP,A)
【文献】特開2016-100864(JP,A)
【文献】特開2001-268254(JP,A)
【文献】特開平09-062957(JP,A)
【文献】特開2007-213414(JP,A)
【文献】特開2012-027717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 13/00-31/00
G01J 1/00-5/00
G01V 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、所定の異常を検知したか否かを判定する異常判定部、及び
前記異常判定部による判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部
を含む異常検知器と、
前記異常検知器と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、
前記異常検知器へ電力を供給する電源部と、
前記信号変換器と前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための複数の信号伝送線を含むと共に、前記異常検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、
を含み、
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行い、前記信号伝送手法の一つとして、前記入出力部から前記信号変換器へ流れる電流を変調して生成される前記デジタル信号を用いて、前記デジタル信号の授受を行う、
異常検知システム。
【請求項2】
センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、所定の異常を検知したか否かを判定する異常判定部、及び
前記異常判定部による判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部
を含む異常検知器と、
前記異常検知器と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、
前記異常検知器へ電力を供給する電源部と、
前記信号変換器と前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための複数の信号伝送線を含むと共に、前記異常検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、
を含み、
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行い、前記信号伝送手法の一つとして、前記入出力部へ印加される電圧の変調又は電圧の振幅により生成される前記デジタル信号を用いて、前記デジタル信号の授受を行うと共に、前記信号伝送手法の一つとして、前記入出力部から前記信号変換器へ流れる電流を変調して生成される前記デジタル信号を用いて、前記デジタル信号の授受を行う、
異常検知システム。
【請求項3】
センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、所定の異常を検知したか否かを判定する異常判定部、及び
前記異常判定部による判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部
を含む異常検知器と、
前記異常検知器と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、
前記異常検知器へ電力を供給する電源部と、
前記信号変換器と前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための複数の信号伝送線を含むと共に、前記異常検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、
を含み、
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行い、前記信号伝送手法の一つとして、平衡型差動信号を用いて、前記デジタル信号の授受を行うと共に、前記信号伝送手法の一つとして、前記入出力部から前記信号変換器へ流れる電流を変調して生成される前記デジタル信号を用いて、前記デジタル信号の授受を行う、
異常検知システム。
【請求項4】
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記信号伝送手法の一つとして、イーサネット(登録商標)を用いて、前記デジタル信号の授受を行うと共に、前記電力供給を行う請求項1~請求項
3の何れか1項記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記伝送ケーブル部は、前記複数の信号伝送線を収めた1本の伝送ケーブルで構成される請求項1~請求項
4の何れか1項記載の異常検知システム。
【請求項6】
前記入出力部と前記信号変換器との間に設けられた、前記電源部から供給される電流及び電圧を制限するためのバリア部を更に含む請求項1~請求項
5の何れか1項記載の異常検知システム。
【請求項7】
前記異常検知器は、各々が前記伝送ケーブル部に接続された複数台の異常検知器であって、
前記複数台の異常検知器の各々が、前記信号変換器と双方向通信を行う請求項1~請求項
6の何れか1項記載の異常検知システム。
【請求項8】
前記複数台の異常検知器の各々に対して固有のアドレスが予め付与されており、
前記異常検知器と前記信号変換器との間で授受される前記デジタル信号は、前記異常検知器のアドレスを含む、請求項
7記載の異常検知システム。
【請求項9】
前記信号変換器は、一定時間毎にポーリングにて各異常検知器の状態、前記伝送ケーブル部の状態、及び判定結果を順に監視し、前記異常検知器の状態又は前記伝送ケーブル部の状態が異常状態である場合、若しくは前記判定結果が前記所定の異常を検知したことを示す場合、又は
前記異常検知器から前記所定の異常を検知したことを示す前記判定結果のデジタル信号の出力があった場合には、上位装置へ所定のメッセージを伝送する請求項
7又は
8記載の異常検知システム。
【請求項10】
前記信号変換器は、2台以上の異常検知器から、前記異常検知器の状態が異常状態であることを示す前記デジタル信号、又は前記判定結果が前記所定の異常を検知したことを示す前記デジタル信号の出力があった場合に、各異常検知器の状態及び判定結果を順に監視し、監視結果を上位装置へ伝送する請求項
7~請求項
9の何れか1項記載の異常検知システム。
【請求項11】
前記伝送ケーブル部の前記異常状態は、前記信号伝送線又は電源ケーブルの断線又は短絡である請求項
9記載の異常検知システム。
【請求項12】
前記異常検知器は、複数の入出力部を備え、
前記伝送ケーブル部、前記電源部、及び前記信号変換器を含む中位構成が複数設けられ、
前記複数の入出力部の何れか一つ及び前記複数の中位構成の何れか一つを用いて、前記デジタル信号の授受が行われる請求項1~請求項
11の何れか1項記載の異常検知システム。
【請求項13】
前記異常判定部は、前記所定の異常として、炎、異常温度、異常の位置、窓汚れ、又は前記異常検知器の異常を検知したか否かを判定する請求項1~請求項
12の何れか1項記載の異常検知システム。
【請求項14】
センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、所定の異常を検知したか否かを判定する異常判定部、及び
前記異常判定部による判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部
を含む異常検知器と、
前記異常検知器と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、
前記異常検知器へ電力を供給する電源部と、
前記信号変換器と前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための複数の信号伝送線を含むと共に、前記異常検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、
を含み、
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行い、
前記異常判定部は、前記所定の異常として、炎、異常温度、異常の位置、窓汚れ、又は前記異常検知器の異常を検知したか否かを判定し、
前記異常検知器は、
炭酸ガス共鳴放射帯のピーク波長を含む第1帯域の赤外光を透過する第1帯域フィルター、
前記第1帯域とは異なる第2帯域の赤外光を透過させると共に、帯域中心が前記炭酸ガス共鳴放射帯の帯域中心から離れた位置に設けられた第2帯域フィルター、及び
前記第1帯域及び前記第2帯域とは異なる第3帯域の赤外光を透過させると共に、帯域中心が前記炭酸ガス共鳴放射帯の帯域中心から離れた位置に設けられた第3帯域フィルターを含む複数の帯域フィルターと、
前記複数の帯域フィルターの各々に対して設けられた、前記帯域フィルターを透過した赤外光を検出して電気信号に変換する検出素子を含む検出部であって、前記複数の帯域フィルターの少なくとも1つに対して設けられた検出素子は、2次元状に配列されたアレイセンサとして構成されている検出部と、
各検出素子によって検出された電気信号に基づいて、炎又は異常温度を検知したか否かを判定する異常判定部と、
を含む異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異常検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
監視エリアの火災を検知して出力する異常検知器については、異常状態(火災・異常温度等)を知らせる信号が伝送される性質上、高い信頼性を有する伝送技術が求められる。上記対策として、信号伝送ラインの断線対策や、異常検知器の機能確認を行う仕組み等が提案されている(特許文献1、2)。また、伝送経路を二重化して信頼性を高めたネットワークが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-106023号公報
【文献】特開2017-117358号公報
【文献】特開2016-71460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、可燃性ガス等が充満する危険個所に設置される異常検知器については、防爆構造やエネルギー等の制約のため、上記の仕組みがそのまま適用できず、その多くが制御盤と一対一で接続され、火災等の異常時に接点出力がなされる耐圧防爆型の異常検知システムとなっている。この異常検知システムでは、1対1接続や単純な伝送手法である点から火災信号の伝送において信頼性の高い手法であるものの、伝送経路断線の箇所特定が難しい点や、異常検知器を複数台設置する場合にコストが高くなる点、ZONE1までしか設置できない等の課題があった。
【0005】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、簡易な構成で、信頼性の高い異常検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る異常検知システムは、センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、所定の異常を検知したか否かを判定する異常判定部、及び前記異常判定部による判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部を含む異常検知器と、異常検知器と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、前記異常検知器へ電力を供給する電源部と、前記信号変換器と前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための複数の信号伝送線を含むと共に、前記異常検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、を含み、前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様である異常検知システムによれば、簡易な構成で、信頼性の高い異常検知システムを提供することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る異常検知システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るケーブル部の構成を示す概略図である。
【
図3】マンチェスタ符号化バス給電を用いた伝送方式における電流の変化を示すグラフである。
【
図4】平衡型差動信号伝送を用いた伝送方式を説明するための図である。
【
図5】平衡型差動信号伝送を用いた伝送方式における電圧の変化を示すグラフである。
【
図6】異常検知器をツリー接続した場合のイメージ図である。
【
図7】マンチェスタ符号化バス給電を用いた伝送方式における電圧の変化を示すグラフである。
【
図8】高周波電圧変調を用いた伝送方式における電圧の変化を示すグラフである。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係る異常検知器の構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係る異常検知器の演算処理部の構成を示すブロック図である。
【
図11】異常検知器からの伝送信号のデータ構成を示す図である。
【
図12】通常時の異常検知システムの上位システムと信号変換器と異常検知器との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【
図13】異常時の異常検知システムの上位システムと信号変換器と異常検知器との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【
図14】(A)単独の火災信号の電流の変化を示すグラフ、(B)単独の火災信号の電流の変化を示すグラフ、(C)2つの火災信号を重ね合わせた信号の電流の変化を示すグラフである。
【
図15】火災信号が同時に出力された場合における異常検知システムの上位システムと信号変換器と異常検知器との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【
図16】ケーブル部の断線又は短絡が発生した場合のイメージ図である。
【
図17】本発明の第2の実施の形態に係る異常検知システムの構成を示すブロック図である。
【
図18】ケーブル部の断線又は短絡が発生した場合のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
<本発明の実施の形態の概要>
本発明の実施の形態は、危険箇所(可燃性ガス蒸気場所、可燃性粉塵場所)で火災又は異常温度を検知し、当該情報を上位システムへ出力する異常検知システムのネットワーク構成に係るものである。
【0011】
本ネットワーク構成においては、特に以下に列挙される性質が求められ、これらを満足しかつ異常検知システムにとって最適なネットワーク構成やデータ授受方法が特徴となる。
【0012】
(1)火災信号又は異常温度信号を冗長化して確実に伝送する。
(2)最も技術要求の厳しい危険個所(ZONE0)へも設置できる。
(3)安全度水準が高い(伝送経路の断線や短絡へ対応している)。
(4)施工コスト及びメンテナンスコストが安い。
(5)異常検知器は、通常時は火災監視に必要な電流のみを消費し、一定時間おきに状態信号を出力する。また異常検知時は、その段階で上位システムへ信号出力を行う。
【0013】
具体的には、火災信号の伝送を2種類の異なる伝送方式にて行うことにより、高い冗長性を有するネットワーク構成を実現する。また、上記2種類の伝送方式のための伝送線を1本の伝送ケーブルに収めることで、ネットワークの施工や機器を低コスト化する。
【0014】
また、ネットワークの2重化により、ケーブルの断線や短絡時でも火災監視環境を継続できるようにする。また、通信時の消費電流を抑え、危険個所に対する異常検知器の設置可能台数を増加させる。更に、簡素かつ伝送の確実性が高いポーリングを用いることにより、異常検知器からの火災信号の喪失を防ぎ、データ伝送に高い信頼性を持たせる。
【0015】
[第1の実施の形態]
<システム構成>
以下、本発明の第1の実施の形態に係る異常検知システムについて説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る異常検知システム100は、複数の異常検知器10と、バリア70と、信号変換器72と、電源部74と、上位システム80とを備えている。
【0017】
信号変換器72と、複数の異常検知器10とはケーブル部90で接続されている。
【0018】
上位システム80は、ホストコンピュータ82、DCS/PLC84と、制御盤86と、火災受信機88との何れか一つ又は複数を備えている。上位システム80と、信号変換器72とはネットワーク92を介して接続されている。異常検知器10は、危険個所に設置され、バリア70と、信号変換器72と、電源部74と、上位システム80とは、非危険個所に設置されている。
【0019】
信号変換器72は、異常検知器10と上位システム80との間におけるデジタル信号の授受の中継を行う。電源部74は、ケーブル部90を介して各異常検知器10へ電力を供給する。
【0020】
危険個所に複数台設置された異常検知器10は、ケーブル部90にT分岐コネクタ90Cを介して接続されており、非危険個所に設けられたバリア70及び信号変換器72を介して上位システム80と半二重通信を行う。ここでバリア70は、異常検知器10へ供給されるエネルギーを制限し、断線又は短絡時に生じる過電圧や過電流を、着火に至る火花が発生しないレベルに抑える役割を担う。また信号変換器72は、異常検知器10と上位システム80間の伝送信号を変換する役割を担うとともに、ネットワーク状態の監視(バスラインの断線及び短絡監視等)を行う。なお、ネットワーク92として、上位システムの通信仕様に応じてEthernet(R)やRS-485等を選択可能であり、制御盤86や火災受信機88への拡張性も有している。
【0021】
なお、
図1は一本のケーブル部90を中心としたバス接続となっているが、ツリー構造も可能である。
【0022】
<信号伝送(異常検知器→信号変換器)>
ケーブル部90は、
図2に示すように、信号変換器72と異常検知器10の後述する入出力部との間を接続するように設けられた、デジタル信号を伝送するための信号伝送線90A、及びデジタル信号を伝送すると共に異常検知器10に対して電源部74からの電力供給を行うための信号伝送線90Bを備えている。
【0023】
異常検知器10は、信号伝送線90A、90Bを介して、信号(固有アドレス/火災信号/異常温度信号/状態情報等)を、2種類の異なる伝送方式にてそれぞれ信号変換器72へ伝送する。ここで、信号伝送線90Aでの第1の伝送方式には、電源ライン上にマンチェスタ符号化した伝送信号を載せる、マンチェスタ符号化バス給電(Manchester-coded Bus Powered:MBP)を用いる。MBPでは、各異常検知器10へ基本消費電流を供給するとともに、信号伝送を行う異常検知器10に対して通信用電流(例えば10[mA])を供給し、当該異常検知器10での電流変調(例えば±9[mA])にて電流信号を伝送する(
図3参照)。また、信号伝送線90Bでの第2の伝送方式は、電圧振幅の平衡型差動信号伝送であり、信号伝送線90Aを構成する、対をなす2本の信号線にて、それぞれ逆位相の電圧信号を伝送する(
図4、
図5参照)。両伝送方式は危険個所への伝送手法として確立された技術であり、信頼性が非常に高い伝送方式となる。
【0024】
本実施の形態に係る異常検知システム100では、伝送方式の異なる両方式をそれぞれ用いて信号伝送することにより、高い冗長性を有するネットワークを実現する。ここで各伝送方式の特徴を表1に示す。
【0025】
【0026】
更に上記両データ伝送は、最大でも30kbps程度の低い伝送速度で実施する。例えば、デジタル信号の伝送速度を、10kbps~30kbpsとする。上記速度であれば、長距離伝送(数10km~)を除いてインピーダンス整合を考慮する必要がなく(伝送ラインの分岐による信号反射を考慮する必要が無く)、異常検知器10をツリー状に配置することもできる(
図6参照)。
【0027】
なお、異常検知システム100で扱うデータ伝送量は数10bit程度であり、上記伝送速度でも充分に実用に足る仕様である。上記方式にて異常検知器10からそれぞれ別個に出力された信号は、信号変換器72にて任意の伝送信号(RS485/Ethernet(R)等)に変換され、上位システム80へ出力される。なお、伝送される信号は火災や異常温度を知らせるという性質上、両方式のうち一方から信号が伝送された場合でも、上位システム80へ信号の出力を行う。
【0028】
<信号伝送(信号変換器→異常検知器)>
本実施の形態に係る異常検知システム100においては、信号変換器72から異常検知器10へ伝送される信号(アドレス/状態確認信号等)についても、2種類の方式を併用して伝えられる。ただし危険個所へ供給できる最大電流には制限があり、MBP伝送のための電流を全ての異常検知器10へ供給した場合、ケーブル部90へ接続される異常検知器10の台数には大きな制限がかかる。例えば危険個所(ZONE0)に設置された異常検知器10(機器グループIIC、保護レベルia)に対するFISCO電源の許容出力電流は183mA(@出力電圧14[V])であり、接続可能台数は最大でも9台となる。そこで第1の伝送方式は、異常検知器10へ印加される電圧の変調により、信号伝送を行う。例として、非伝送時に異常検知器10へ印加される電圧が14[V]の場合、伝送時は10.5Vまで電圧を降下させ、電圧変調(通信用電圧±3.5[V])にてマンチェスタ符号化した電圧を伝送する(
図7参照)。この際、印加される電流は異常検知の動作に必要な基本消費電流を設置台数で積算した値となる(例えば1[mA/台]×32台=32[mA])。本手法により、MBP伝送ラインと同一ラインで通信時の消費電流を抑えることが可能であり、異常検知器10の設置可能台数を増加させることができる。本方式では、全異常検知器10に対して同時に信号伝送が可能となる。ただし上記手法は一例であり、0.75~1.0[V]の高周波電圧変調にて信号形成する伝送手法等も可能である(
図8参照。)
【0029】
なお第2の伝送方式では、差動信号伝送を用い、対をなす2本の信号線にてそれぞれ逆位相の電圧信号を伝送する。このように、2種類の異なる伝送方式にて信号伝送を冗長化することにより、異常検知システム100の信頼性を向上させることができる。
【0030】
<伝送ケーブル>
本実施の形態においては、2種類の信号伝送線90A、90B(MBP用、差動信号伝送用)が、1本のケーブル部90に収められることを特徴とする(
図2参照)。これにより、省配線化による施工コスト低減や、ケーブル誤接続のリスク低減を図れる。また、誤接続による本質安全性の損失リスクを低減できる。加えて、ケーブル部90を両端コネクタ付きとし、異常検知器10やT分岐コネクタ90C、終端抵抗と、コネクタ接続できるようにすることで、より一層の施工コストを低減することができ、誤接続や異常検知器10の筐体内への異物混入リスクも低減できる。
【0031】
<異常検知器の構成>
図9に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る異常検知器10は、炎が発する炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を検出する第1センサ12と、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光を検出する第2センサ14と、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光を検出する第3センサ16と、上記の3つの帯域より短い帯域の3.0μm近傍のバンドの光を監視窓330を介して検出する第4センサ318とを備えている。また、異常検知器10は、第1センサ12からの信号を増幅する増幅部18と、第2センサ14からの信号を増幅する増幅部20と、第3センサ16からの信号を増幅する増幅部22と、第4センサ318からの信号を増幅する増幅部322と、増幅部18、20、22、322からの信号を切り替えるスイッチ24と、スイッチ24からの信号をデジタル値に変換するAD変換部26とを備えている。また、異常検知器10は、炎又は異常温度を検知する処理を行う演算処理部28と、入出力部32とを備えている。
【0032】
入出力部32は、演算処理部28によって炎又は異常温度を検知したことをデジタル信号として信号変換器72へ出力するとともに、信号変換器72とデジタル信号を授受する。
【0033】
また、上記
図9に示すように、異常検知器10は、筐体310Aの一部に監視窓330が設けられている。
【0034】
第1センサ12は、炎が発する炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を透過するフィルター12Aと、フィルター12Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子を2次元状に配列させたアレイセンサ12Bと、フィルター12Aの前に配置された光学レンズ12Cとを備えている。
【0035】
第2センサ14は、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光を透過させるフィルター14Aと、フィルター14Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子を2次元状に配列させたアレイセンサ14Bと、フィルター14Aの前に配置された光学レンズ14Cとを備えている。
【0036】
第3センサ16は、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光を透過させるフィルター16Aと、フィルター16Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子を2次元状に配列させたアレイセンサ16Bと、フィルター16Aの前に配置された光学レンズ16Cとを備えている。
【0037】
第4センサ318は、監視窓330を透過した自然光のうち、4.0μm以下の可視光域を含む範囲の少なくとも一部である短波長域の光を透過させるフィルター318Aと、フィルター318Aを透過した光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子318Bとを備えている。
【0038】
アレイセンサ12Bの各検出素子は、アレイセンサ14Bの各検出素子及びアレイセンサ16Bの各検出素子と対応するように配置されている。
【0039】
また、アレイセンサ12B、14B、16Bは、予め定められた監視角度(例えば、90度)で、赤外光を検出しており、対応するアレイセンサ12Bの検出素子、アレイセンサ14Bの検出素子、及びアレイセンサ16Bの検出素子は、予め定められた同じ領域からの赤外光を検出している。
【0040】
また、光学レンズ12C、14C、16Cは、各々1枚以上のレンズで構成されている。なお、光学レンズ12C、14C、16Cは、各々2枚以上のレンズで構成されていることが望ましい。これは、アレイセンサ12Bの検出素子、アレイセンサ14Bの検出素子、及びアレイセンサ16Bの検出素子の広い監視角度に対して、フラットな面にできる限り焦点を結ばせるためである。また、レンズの反射によりロスを少なくする為に、レンズに反射防止膜(ARコート)を蒸着することにより、検出素子の感度を増加させることも可能である。レンズ材料は、サファイア、カルコゲナイドガラス、シリコン、ゲルマニウムなどである。
【0041】
なお、炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を検出する弱い電気信号を確実に捉えるために、第1センサ12と同じセンサを更に設けてもよい。
【0042】
第1センサ12~第4センサ318の検出素子は、サーモパイルで構成されているが、InAsSb素子など、他の光起電力タイプの素子や、抵抗変化を利用したマイクロボロメータ素子、PbSeなどの光導電タイプの素子で構成することもある。なお、サーモパイルやマイクロボロメータと比較して、他の素子は、赤外線検出速度が極めて速い。このため、回路構成は同じでも、AD変換速度を速くする事で、極めて高速に炎を検出することが出来る異常検知器を構成することが可能となる。
【0043】
増幅部18、20、22、322は、第1センサ12の各検出素子の電気信号、第2センサ14の各検出素子の電気信号、第3センサ16の各検出素子の電気信号、及び第4センサ318の検出素子318Bの電気信号をそれぞれ独立して増幅する。
【0044】
スイッチ24は、増幅部18、20、22、322によって個別に増幅された電気信号を、一定の時間で順次切り替えて一つの電気信号に集約するスイッチ部(図示省略)を含み、当該スイッチ部により一つに集約された電気信号を出力する。なお、スイッチ24を設けずに、増幅部18、20、22、322のそれぞれに対して、AD変換部を設けて、増幅された電気信号をデジタル値に個別に変換して演算処理部28に出力するようにしてもよい。
【0045】
演算処理部28は、CPUで構成されている。演算処理部28を、機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、
図10に示すように、演算処理部28は、信号取得部40、異常判定部44、及び入出力制御部46を備えている。
【0046】
信号取得部40は、AD変換部26から出力された信号から、第1センサ12の各検出素子からの電気信号の値、第2センサ14の各検出素子からの電気信号の値、第3センサ16の各検出素子からの電気信号の値、及び第4センサ318の検出素子318Bからの電気信号の値を取得する。
【0047】
異常判定部44は、信号取得部40によって取得された、第1センサ12の各検出素子からの電気信号の値、第2センサ14の各検出素子からの電気信号の値、及び第3センサ16の各検出素子からの電気信号の値に基づいて、アレイセンサ12Bの各検出素子に対し、炎又は異常温度を検知したか否かを判定する。なお、判定方法については特許文献(国際公開第2018/198504号)に記載の手法と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
また、異常判定部44は、アレイセンサ12Bの検出素子のうち、炎を検知したと判定された検出素子に対して予め定められた位置を、火災位置として判定する。
【0049】
検出素子に対して予め定められる位置は、異常検知器10を設置するときに、位置計測器を用いて、検出素子毎に実空間上の検出位置を計測して設定しておけばよい。
【0050】
異常判定部44は、炎を検知したと判定された検出素子からの電気信号の値に基づいて、炎の空間的な大きさである規模Wを判定する。
【0051】
異常判定部44は、災を検知したと判定された場合、火災位置を報知するように入出力制御部46を制御する。例えば、入出力制御部46は、火災信号をケーブル部90を介して信号変換器72へ送信させる。
【0052】
また、異常判定部44は、第3センサ16の検出素子からの電気信号の値と、第4センサ318の検出素子318Bからの電気信号の値とが、予め定められた条件を満たした場合に、監視窓330、第3センサ16、第4センサ318、増幅部18、20、22、322、スイッチ24、AD変換部26、又は演算処理部28が異常状態であると判定し、異常状態を報知するように入出力制御部46を制御する。例えば、入出力制御部46は、窓汚れ又はその他異常を示す信号をケーブル部90を介して信号変換器72へ送信させる。
【0053】
<異常検知システムの作用>
次に、本発明の第1の実施の形態に係る異常検知システム100の作用について説明する。
【0054】
まず、異常検知システム100に設置される異常検知器10に対しては、それぞれに個別のアドレスが付与される。これにより、異常検知器10と信号変換器72との間のデータ伝送では、アドレスと各種情報を併せた信号の授受がなされる。例として、ケーブル部90上に32台の異常検知器10が接続される場合、アドレス部は5bitで表現され、その後ろに数bitの状態情報(火災信号、異常温度、窓汚れ、火災位置等)が付け加えられる(
図11)。なお本アドレスは、上位システム80からの信号伝送や、異常検知器10内に設けられたディップスイッチ等で任意に変更可能である。
【0055】
また、異常検知器10によって、炎又は異常温度を検知する処理が、一定の周期毎に繰り返し実行される。また、異常検知器10によって、異常検知器10の異常状態を判定する処理が、一定の周期毎に繰り返し実行される。
【0056】
このとき、異常検知システム100において、通常時、以下のデータの授受が行われる。
【0057】
<データの授受(通常時)>
異常検知システム100では、通常時、ポーリング形式にて各異常検知器10の状態チェックが行われる。具体的には、信号変換器72から各異常検知器10(各アドレス)に対して順に状態情報要求信号を出力し(S1)、指定された異常検知器10が当該情報(アドレス及び異常なし/窓汚れ/その他異常等)を出力する(S2)。これをアドレス順に各異常検知器10に対して実施し、1サイクルが完了した時点で収集した状態情報を上位システム80へ出力する。これを一定時間サイクルで繰り返す(
図12)。
【0058】
なお本状態チェックにより、後述する断線箇所の特定が可能である。信号変換器72からの状態情報要求信号に対して返答がない異常検知器10の数やアドレスにより、断線箇所の特定が可能となる。
【0059】
上記のように、異常検知器10およびネットワークの機能を定期的に診断し上位システム80へ伝送することにより、異常検知システム100の信頼性を向上できるだけでなく、メンテナンスコスト等を低減できる。
【0060】
また、異常検知器10によって炎又は異常温度が検知され、あるいは、異常検知器10が異常状態であると判定されると、異常検知システム100において、以下のデータの授受が行われる。
【0061】
<データの授受(火災検知時、異常温度検知時、異常状態判定時)>
任意の異常検知器10にて異常状態が検知された場合、
図13に示すように、当該異常検知器10から信号変換器72に対して当該情報(アドレス及び火災信号/異常温度信号等)が出力される(S3)。この本信号入力を受け、信号変換器72は上位システム80へ火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号等を出力する(S4)。加えて信号変換器72は、上記信号のうちアドレス部の情報が伝送された時点で、全ての異常検知器10に対して当該アドレスの異常検知器10から信号伝送されている旨を信号出力する(S5)。上記信号伝送を受け、当該異常検知器10を除くすべての異常検知器10は任意時間後まで火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号の出力が停止され、任意時間(ミリ秒オーダー)が経過するまでに異常を検知していた異常検知器10が存在する場合は、当該任意時間経過後、火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号の出力がなされる。これにより、複数の異常検知器10から僅かな時間差で出力された信号について、重なりによる喪失や通信失敗を防ぐことができる。なお上記時間は、伝送する信号量に応じて任意に変更可能である(出力される情報が火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号のみの場合は短く、異常位置情報や温度情報等を併せて出力する場合は長くする等)。
【0062】
なお、異常検知器10は、一定時間を経過しても信号変換器72から承諾信号が伝送されてこない場合、火災信号等を再度出力し、承諾信号が伝送されるまでこれを繰り返し実行する。なお、同時刻に2台以上の異常検知器10から火災信号等が出力された場合や、異常検知器10の状態チェック中に任意の異常検知器10から火災信号等が出力された場合、2つ以上の信号が合成された信号が信号変換器72へ入力される(
図14)。この場合、条件によっては信号の復元ができず喪失する可能性があるため、ポーリング形式にて各異常検知器10の状態チェックを行う。具体的には、
図15に示すように、信号変換器72側で複数の異常検知器10から出力があったと判定された場合、全ての異常検知器10に対して順にアドレスおよび状態情報要求信号を出力し(S6)、指定された各異常検知器10が当該情報(アドレス及び異常なし/火災信号等)を出力する(S7)。これをアドレス順に各異常検知器10に対して実施し、火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号が確認された時点で、当該情報を上位システム80へ出力する(S8)。なお、複数台の異常検知器10から出力がなされたと信号変換器72にて判定する手法としては、MBP伝送では例えば電源からの出力電流を監視し、当該電流の増加量によって判定を行う方法がある。一方で平衡型差動信号伝送については、信号変換器72へ入力される信号の振幅の増加により判定する方法があるものの、完全に信号が重なった場合には判定が困難となる。
【0063】
したがって、当該伝送方式にて何らかの信号が入力した場合は、上記MBPと同様にポーリング形式にて各異常検知器10の状態チェックを行うことで、確実な伝送を行う。ただし本手法は一例であり、搬送波感知多重アクセス/衝突検出(CSMA/CD)のように、異常検知器10同士でケーブル部90を流れる信号の状況を監視し、回線の使用権を調整する手法も適用可能である。以上のように、簡素かつ伝送の確実性が高いポーリングを用いることにより、異常検知器10からの火災信号の喪失や通信失敗を防ぎ、両伝送方式におけるデータの授受に対する信頼性を向上できる。
【0064】
<断線/短絡対策>
ケーブル部90において断線又は短絡時が発生した場合、任意の異常検知器10で監視不可状態(電源供給がなされない状態、信号伝送がなされない状態等)が発生する可能性がある(
図16)。異常検知システム100では、以下の手法にて断線及び短絡の監視を行い、上位システム80へ断線/短絡警報を出力する。
【0065】
(断線監視)
異常検知システム100では、上述したように、異常検知器10の状態チェックが一定周期でなされる。従って、信号変換器72からの状態情報要求信号に対して応答がない場合、断線の発生を疑う。ここで、異常検知器10に対しては固有のアドレスが付与されるため、
図16(A)に示すように、ケーブル部90上で断線が発生した場合や、
図16(B)に示すように、ケーブル部90の支線上で断線が発生した場合には、1サイクルの状態チェックを経て応答がないアドレスを基に、信号変換器72にて断線箇所の特定が可能である。
【0066】
(短絡監視)
異常検知システム100では、
図16(C)に示すように、ケーブル部90上で短絡が発生した場合や、
図16(B)に示すように、ケーブル部90の支線上で短絡が発生した場合には、短絡箇所の特定は行えないものの、信号変換器72ないし電源部74にて短絡電流を監視することで、短絡を検知することが可能である。
【0067】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る異常検知システムによれば、異常検知器の入出力部及び信号変換器の各々は、複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行うことにより、簡易な構成で、信頼性の高い異常検知システムを提供することができる。
【0068】
また、複数の信号伝送線を含むケーブル部により、異常検知器で検知した火災又は異常温度を、ケーブル部の不具合(断線や短絡)が発生した場合でも確実に上位システムへ伝送させ、安全度水準の高い異常検知システムを実現できる。
【0069】
また、最も技術要求の厳しい危険個所(ZONE0)での火災/異常温度監視環境を、低コストで実現できる。
【0070】
また、危険個所に複数台設置された異常検知器は、一本のケーブル部にT分岐で接続されており、非危険個所に設けられたバリアおよび信号変換器を介して上位システムと半二重通信を行う。具体的には、異常検知器から信号変換器へ伝送される信号(固有アドレス/火災信号/異常温度信号/状態情報等)は、マンチェスタ符号化バス給電による電流信号と、平衡型差動信号伝送による電圧信号の2種類の信号として、冗長化されて伝えられる。また、信号変換器から異常検知器へ伝送される信号(アドレス/状態確認信号等)は、異常検知器へ印加する電圧の変調によって生成される電圧伝送と、差動信号伝送による電圧信号の2種類の信号として、冗長化されて伝えられる。これにより、火災信号又は異常温度を確実に上位システムへ伝達することができる。
【0071】
また、上記電圧変調による電圧伝送を用いることにより、危険個所へ供給される電流を抑えることが可能であり、危険個所へ設置される異常検知器の数を増やすことができる。
【0072】
また、2種の信号伝送をそれぞれ数10kbps程度の低い伝送速度で実施することで、ツリー分岐も可能なネットワークとすることができる。
【0073】
また、上記2種類の信号伝送線を1本のケーブル部に収められることで施工コストを低減させる。
【0074】
また、信号変換器からのポーリングにより、異常検知器およびネットワークの機能を定期的に診断し上位システムへ伝送することにより、異常検知システムの信頼性を向上させ、かつメンテナンスコスト等を低減する。
【0075】
また、複数台の異常検知器から火災信号等が同時出力された場合に、信号変換器からのポーリングを行うことで火災信号の通信失敗を防ぎ、データの授受に対する信頼性を向上させる。
【0076】
[第2の実施の形態]
<システム構成>
以下、本発明の第2の実施の形態に係る異常検知システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0077】
図17に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る異常検知システム200は、複数の異常検知器10と、バリア70A、70Bと、信号変換器72A、72Bと、電源部74A、74Bと、上位システム80とを備えている。
【0078】
信号変換器72Aと、複数の異常検知器10とはケーブル部290Aで接続され、信号変換器72Bと、複数の異常検知器10とはケーブル部290Bで接続されている。
【0079】
このように、本実施の形態では、ケーブル部290A、電源部74A、信号変換器72A、及びバリア70Aを含む第1中位構成と、ケーブル部290B、電源部74B、信号変換器72B、及びバリア70Bを含む第2中位構成と、が設けられている。これに合わせて、各異常検知器10は、入出力部32を2つ備え、一方の入出力部32は、第1中位構成と接続され、ケーブル部290Aを介して、演算処理部28によって炎を検知したことをデジタル信号として信号変換器72Aへ出力するとともに、信号変換器72Aとデジタル信号を授受する。また、他方の入出力部32は、第2中位構成と接続され、ケーブル部290Bを介して、演算処理部28によって炎を検知したことをデジタル信号として信号変換器72Bへ出力するとともに、信号変換器72Bとデジタル信号を授受する。
【0080】
ケーブル部290A、290Bは、上記第1の実施の形態のケーブル部90と同様に、信号伝送線90A、及び信号伝送線90Bを備えている。
【0081】
異常検知システム200では、ケーブル部290A、290Bから電源部74A、74Bまでのラインを2重化する。このように、ネットワーク二重化を行うことで、断線又は短絡時に監視不可となる状態を回避できる(
図18)。具体的には、第1の実施の形態と同様の手法で一方のネットワークでの断線/短絡を信号変換器72A又は72Bにて検知した場合、上位システム80へ短絡警報を出力すると伴に、伝送ラインを自動的にもう一方のネットワークへ切替える。これにより、断線又は短絡による火災/異常温度監視不可となる状態を回避でき、信頼性の高い火災監視環境を構築できる。
【0082】
なお、異常検知器10に対しては固有のアドレスが付与されるため、
図18(A)に示すように、ケーブル部290B上で断線が発生した場合や、
図18(B)に示すように、ケーブル部290Bの支線上で断線が発生した場合には、1サイクルの状態チェックを経て応答がないアドレスを基に、信号変換器72Bにて断線箇所の特定が可能である。また、
図18(C)に示すように、ケーブル部290B上で短絡が発生した場合や、
図18(B)に示すように、ケーブル部290Bの支線上で短絡が発生した場合には、短絡箇所の特定は行えないものの、信号変換器72Bないし電源部74Bにて短絡電流を監視することで、短絡を検知することが可能である。
【0083】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る異常検知システムによれば、ケーブル部から電源部までのラインを2重化することにより更なる冗長化が図れ、火災又は異常温度監視のための、信頼性の高いネットワークを低コストで実現する。この場合、信号伝送という点では4重系統となる。二重化により、断線や短絡が発生した場合でも、火災又は異常温度の監視環境を継続できる。なお実際の運用においては、ケーブル接続用コネクタを2個設けた異常検知器を標準品とし、顧客の要求する安全度水準(SIL)やコストに応じて二重化の有無を選択可能とすることも可能である。
【0084】
<変形例>
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0085】
例えば、異常検知器10の第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16の全てにおいて、アレイセンサを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16の少なくとも一つにおいて、アレイセンサを用いるようにしてもよい。例えば、第1センサ12を、アレイセンサ12Bを用いて構成し、第2センサ14、及び第3センサ16では、アレイセンサではなく、1つの検出素子を用いて構成してもよい。
【0086】
また、第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16で、アレイセンサではなく、1つの検出素子を用いて構成し、2.0μm近傍から5.0μm近傍までの帯域の赤外光を検出する第5センサを更に含むように構成し、第5センサを、アレイセンサを用いて構成するようにしてもよい。この場合には、異常判定部は、第5センサのアレイセンサの各検出素子によって検出された電気信号の値に基づいて、電気信号の値が最大となる検出素子に対して予め定められた位置を、火災位置として判定するようにすればよい。
【0087】
また、ガス検知器や温度センサのように定められた閾値以上で所定の異常を検知したことを示す警報を出力するようなシステムに、本発明を適用してもよい。また、異常検知器として、危険個所に複数台が連なって設置されるフィールド機器を用いた異常検知システムに本発明を適用してもよい。
【0088】
また、第1の伝送方式として、MBPを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、電圧変調によるマンチェスタ符号や、イーサネット(登録商標)を使用してもよい。第1の伝送方式として、イーサネット(登録商標)を使用する場合には、PoE(Power over Ethernet)という技術で通信線にて給電が可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 異常検知器
28 演算処理部
32 入出力部
70、70A、70B バリア
72、72A、72B 信号変換器
74、74A、74B 電源部
80 上位システム
90、290A、290B ケーブル部
90A、90B 信号伝送線
100、200 異常検知システム