(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】イソキノリンスルホンアミドの新規な形態
(51)【国際特許分類】
C07D 217/02 20060101AFI20240124BHJP
A61K 31/472 20060101ALI20240124BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240124BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C07D217/02
A61K31/472
A61P27/06
A61P9/12
(21)【出願番号】P 2020561396
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049099
(87)【国際公開番号】W WO2020129876
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2018235213
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599118539
【氏名又は名称】株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日高 弘義
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】伊豆原 剛
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086727(WO,A1)
【文献】高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年,Vol. 6, No. 10,pp. 20-25
【文献】C.G.WERMUTH編, 長瀬博監訳,最新創薬化学下巻,株式会社テクノミック,1999年
【文献】平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年
【文献】緒方章著,化学実験操作法上巻,株式会社南江堂,1963年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 217/02
A61K 31/472
A61P 27/06
A61P 9/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物
の結晶。
【請求項2】
粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが6.8±0.1°,10.0±0.1°,12.7±0.1°,14.6±0.1°,14.8±0.1°,16.2±0.1°,17.4±0.1°,17.8±0.1°,19.5±0.1°,20.0±0.1°,21.6±0.1°,24.7±0.1°,25.5±0.1°,25.8±0.1°,29.8±0.1°,39.5±0.1°及び44.9±0.1°に特徴的なピークを有する
、請求項1記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
【請求項3】
赤外吸収スペクトルにおいて
、703±5,1143±5,1165±5,1174±5,1325±5,1655±5,2558±5,2634±5,2691±5,3122±5,3235±5及び3396±5cm
-1に特徴的なピークを有する
、請求項1又は2記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
【請求項4】
示差走査熱量分析におい
て、237±5℃に吸熱ピークを有する、
請求項1又は2記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
【請求項5】
カールフィッシャー法による水分含量測定において、0~0.16%の水分含量を示す、
請求項1又は2記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
【請求項6】
N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミドに2当量以上の塩酸を加え、生じた固体をエタノール及び水に溶解し、エタノール以外の極性溶媒で析出させることを特徴とする請求項
1~5のいずれか1項記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物
の結晶及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬として有用なイソキノリンスルホンアミド化合物の新規な形態に関する。
【背景技術】
【0002】
N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド一塩酸塩は、次式(1)で表わされる化合物であり、特許文献1において緑内障治療薬、血圧降下剤として有用であることが示されている。従来、N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミドの塩としては、化合物(1)、すなわち一塩酸塩のみが知られているにすぎなかった。
【0003】
【0004】
化合物(1)の固体粉末を通常の大気下において一定時間空気に触れさせると、徐々に粉末性状を失い、粘性の高いペースト状物へと変性する。これは化合物(1)が強い吸湿性を有しているためである。このような性質は医薬品製造業者等に対して、多大な負担を強いるだけでなく、保存中の品質管理の観点からも特別な注意を払う必要があり、医薬原体としての取り扱いやすさを考慮した場合、克服すべき課題であった。
【0005】
化合物(1)は、いわゆるイソキノリンスルホンアミド系化合物に分類されるが、これまでに同類薬物の安定な結晶としては、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン塩酸塩1/2水和物(特許文献2)、(S)-(-)-1-(4-フルオロイソキノリン-5-イル)スルホニル-2-メチル-1,4-ホモピペラジン塩酸塩・二水和物(特許文献3)、(S)-(-)-1-(4-フルオロイソキノリン-5-イル)スルホニル-2-メチル-1,4-ホモピペラジン塩酸塩無水物(特許文献4)、(S)-1-(4-クロロ-5-イソキノリンスルホニル)-3-(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩(特許文献5)のような化合物が知られている。これらの実例からも明らかなようにイソキノリンスルホンアミド系化合物の安定結晶は、その一塩酸塩の無水物もしくは水和物において獲得されてきたが、化合物(1)は一塩酸塩であるものの、無水物としても水和物としても目的とする安定な結晶は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/086727号
【文献】特許第2899953号公報
【文献】国際公開第2006/057397号
【文献】特許第5819705号公報
【文献】国際公開第2009/004792号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は医薬原体として望ましい物性を備えたN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミドの塩の安定な結晶を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミドの安定な塩を得ることを目的に鋭意検討を続けたところ、意外にも下記式で表される化合物(2)が極めて優れた安定性を示すことを見出した。すなわち化合物(2)は二塩酸塩無水物であり、従来のイソキノリンスルホンアミド系化合物とは異なる塩形態によって安定化することが判明した。化合物(2)は、化合物(1)において見られたような大気下での吸湿性を示さず、かつ熱に対しても安定であった。更に水に対する溶解性においても、化合物(2)は化合物(1)よりも良好な傾向であった。
また、一般に医薬原体は結晶体であることが望ましいが、化合物(1)及び(2)の結晶性について粉末X線回折により検討したところ、化合物(1)は非晶質性であることが判明したが、化合物(2)は結晶性を示した。
以上のことから、化合物(2)は化合物(1)と比較して、明らかに医薬原体として適した物理化学的性質を有していることが判明した。
【0009】
【0010】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔8〕を提供するものである。
【0011】
〔1〕N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物。
〔2〕粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが6.8±0.1°,10.0±0.1°,12.7±0.1°,14.6±0.1°,14.8±0.1°,16.2±0.1°,17.4±0.1°,17.8±0.1°,19.5±0.1°,20.0±0.1°,21.6±0.1°,24.7±0.1°,25.5±0.1°,25.8±0.1°,29.8±0.1°,39.5±0.1°及び44.9±0.1°に特徴的なピークを有するN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
〔3〕赤外吸収スペクトルにおいて、約703±5,1143±5,1165±5,1174±5,1325±5,1655±5,2558±5,2634±5,2691±5,3122±5,3235±5及び3396±5cm-1に特徴的なピークを有するN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
〔4〕示差走査熱量分析において約237±5℃に吸熱ピークを有するN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
〔5〕カールフィッシャー法による水分含量測定において、0~0.16%の水分含量を示す、N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶。
〔6〕N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミドに2当量以上の塩酸を加え、生じた固体をエタノール及び水に溶解し、エタノール以外の極性溶媒で析出させることを特徴とする〔2〕~〔5〕のいずれかに記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶の製造方法。
〔7〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
〔8〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の、医薬製造のための使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶は、化合物(1)と比較して吸湿性が低く、熱に対しても高い安定性を有しており、更に水に対する溶解性も良好である。従って本発明の二塩酸塩無水物(2)は、医薬原体として望ましい性質を備えた有用な塩形態である。すなわち、N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミドの塩を医薬原体として製造又は使用する場合において、安定な二塩酸塩無水物である化合物(2)を用いることで、作業面だけでなく品質管理の面からも取り扱いが容易となる。また化合物(2)を溶液製剤として使用する場合においても、水に対する良好な溶解性を有していることから、製剤化工程において特別な操作や溶解性を向上させるための添加物等を必要としないし、冷蔵保存下における析出等の懸念も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】化合物(2)の粉末X線回折スペクトルを示す。
【
図2】化合物(1)の粉末X線回折スペクトルを示す。
【
図3】化合物(2)の赤外線吸収スペクトルを示す。
【
図4】化合物(1)の赤外線吸収スペクトルを示す。
【
図5】化合物(2)の示差走査熱量分析結果を示す。
【
図6】化合物(1)の示差走査熱量分析結果を示す。
【
図7】化合物(2)及び化合物(1)の吸湿に対する安定性を示す。
【
図8】化合物(2)、化合物(3)及び(4)の吸湿に対する安定性を示す。
【
図9】化合物(2)及び化合物(1)の熱に対する安定性を示す。
【
図10】化合物(2)及び化合物(1)の水に対する溶解性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物は、以下の方法により製造できる。
まず、フリー体であるN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミドは特許文献1に記載の方法に従って製造できる。このようにして得られたフリー体の有機溶媒溶液に2当量以上の塩酸を加えれば、二塩酸塩無水物の結晶が得られる。得られた結晶をエタノール及び水に溶解し、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、アセトン、イソプロピルアルコール等のエタノール以外の極性溶媒で析出させることにより、高純度の結晶が製造できる。
より詳細には、前記フリー体は、ジクロロメタン1,4-ジオキサン、エタノールのような有機溶媒中に溶解した後に、2当量以上の塩酸を加えることで二塩酸塩無水物の結晶となる。ここで用いる有機溶媒の量は、前記フリー体が溶解する量であればよい。加える塩酸の量は2当量以上であればよく、大過剰に加える必要はない。
得られた二塩酸塩の結晶を30~80℃のエタノールに溶解し、同じ温度で水を加え、攪拌し、完全に溶解させる。ここで、用いられるエタノールの量は、二塩酸塩の結晶1gに対して6~30mLが好ましい。また用いられる水の量は、二塩酸塩の結晶1gに対して1~3mLが好ましい。
続いてアセトニトリル、1,4-ジオキサン、アセトン、イソプロピルアルコール等のエタノール以外の極性溶媒を加え、0~30℃に冷却することで、本発明化合物(2)の高純度の結晶を得ることができる。ここで用いられるエタノール以外の極性溶媒の量は、二塩酸塩の結晶1gに対して18~90mLが好ましい。ここで、高純度の結晶は、HPLC純度で99%以上のものをいう。
【0015】
得られた化合物(2)は、結晶であり、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが6.8±0.1°,10.0±0.1°,12.7±0.1°,14.6±0.1°,14.8±0.1°,16.2±0.1°,17.4±0.1°,17.8±0.1°,19.5±0.1°,20.0±0.1°,21.6±0.1°,24.7±0.1°,25.5±0.1°,25.8±0.1°,29.8±0.1°,39.5±0.1°及び44.9±0.1°に特徴的なピークを有する。ここで粉末X線回折は、銅Kα線の照射で測定できる。
【0016】
また、化合物(2)は、赤外吸収スペクトルにおいて、約703±5,1143±5,1165±5,1174±5,1325±5,1655±5,2558±5,2634±5,2691±5,3122±5,3235±5及び3396±5cm-1に特徴的なピークを有する。
【0017】
化合物(2)は、示差走査熱量分析において約237±5℃に吸熱ピークを有する。また、化合物(2)は、カールフィッシャー法による水分含量測定において、0~0.16%の水分含量を示す。
【0018】
図7又は
図8に示すように本発明の化合物(2)は、大気開放状態又は50℃/70%RH下の保存においても、水分吸収による重量変化が全く見られなかった。一方で特許文献1に記載の化合物(1)又は化合物(3)及び(4)は、それぞれの条件下において、水分吸収による重量増加と著しい性状の変化が確認された。更に
図9に示すように本発明の化合物(2)は、70℃下においても安定であったが、化合物(1)は、明らかな外観の変化が見られ、不安定であった。以上の結果より、本発明の化合物(2)は、化合物(1)と比較して低い吸湿性と高い熱安定性を有していることが判明した。また化合物(1)及び本発明の化合物(2)の5%濃度の水溶液をそれぞれ調製し、透明度を比較したところ、化合物(2)の水溶液は無色澄明であったが、化合物(1)の水溶液は半透明であり、完全に溶け切っていなかった。すなわち本発明の化合物(2)の方が、高い水溶性を有していることが示唆された(
図10)。
【0019】
本発明の化合物(2)は、緑内障治療薬、血圧降下剤の有効成分として有用である。
本発明の化合物(2)は経口でも、非経口でも投与することができる。投与剤型として錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤、点眼剤等が挙げられ、それらは汎用される技術を組み合わせて使用することができる。
【0020】
例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤は、乳糖、マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等の賦形剤、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコーン樹脂等のコーティング剤、パラオキシ安息香酸エチル、ベンジルアルコール等の安定化剤、甘味料、酸味料、香料等の矯味矯臭剤等を必要に応じて本発明化合物に組み合わせて、調製することができる。
また、注射剤、点眼剤等の非経口剤は、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール等の等張化剤、リン酸、リン酸塩、クエン酸、氷酢酸、ε-アミノカプロン酸、トロメタモール等の緩衝剤、塩酸、クエン酸、リン酸、氷酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のpH調節剤、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000、精製大豆レシチン、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール等の可溶化又は分散剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の増粘剤、エデト酸、エデト酸ナトリウム等の安定化剤、汎用のソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等の保存又は防腐剤、クロロブタノール、ベンジルアルコール、リドカイン等の無痛化剤を必要に応じて本発明化合物(2)に組み合わせて、調製することができる。
尚、注射剤又は点眼剤の場合、pHは4.0~8.0に設定することが望ましく、また、浸透圧比は1.0付近に設定することが望ましい。
【0021】
本発明の化合物(2)の投与量は、症状、年齢、剤型等により適宜選択して使用することができる。例えば、経口剤であれば通常1日当たり0.01~1000mg、好ましくは1~100mgを1回又は数回に分けて投与することができる。
また、点眼剤であれば通常0.0001%~10%(w/v)、好ましくは0.01%~5%(w/v)の濃度のものを1回又は数回に分けて投与することができる。静脈内投与の場合、1日あたり、0.1~100mg/ヒトの範囲、好ましくは、1~30mg/ヒトの範囲である。経口投与の場合、1日あたり、1~1,000mg/ヒトの範囲、好ましくは、10~30mg/ヒトの範囲である。場合によっては、これ以下でも足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とすることもある。また、1日2~3回に分割して投与することもできる。
【実施例】
【0022】
次に実施例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらによって限定されるものではない。
【0023】
N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物結晶の合成
【0024】
<実施例1>
特許文献1に記載の方法に従って製造されたN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド(0.374g)をエタノール(10mL)に溶解し、室温下、2M塩酸ジエチルエーテル溶液(2mL)を加え、2時間撹拌した。析出した固体をろ過し、減圧乾燥し、結晶を得た(0.378g)。
上記のようにして得られた結晶(33.4g)にエタノール(200mL)を加え、80℃で撹拌しながら、水(40mL)を加え、結晶を完全に溶解した。アセトニトリル(600mL)を加え、室温で2時間攪拌した。析出した固体をろ過し、減圧乾燥し、高純度の白色結晶を得た(25.0g,HPLC純度99.7%)。1HNMR(D2O,δ ppm):0.83(3H,d),1.73(3H,s),2.98(1H,dd),3.19(1H,dd),3.44(1H,d),3.64(1H,d),3.79-3.80(1H,m),7.45(1H,dd),7.53(2H,dd),7.59(2H,dd),8.25(1H,dd),8.51(1H,d),8.62(1H,d),8.69(1H,d),8.73(1H,s),9.74(1H,s).MS m/z400[M+H]+.
【0025】
<実施例2>
実施例1で得たN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶(250mg)を用いて、実施例1と同様の操作にて、アセトニトリルの代わりに、1,4-ジオキサンを用いることで高純度の結晶を白色結晶として得た(216mg)。1HNMRデータは、実施例1で得た結晶におけるそれと同一であった。
【0026】
<実施例3>
実施例1で得たN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶(250mg)を用いて、実施例1と同様の操作にて、アセトニトリルの代わりに、アセトンを用いることで高純度の結晶を白色結晶として得た(200mg)。1HNMRは、実施例1で得た結晶におけるそれと同一であった。
【0027】
<実施例4>
実施例1で得たN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物の結晶(250mg)を用いて、実施例1と同様の操作にて、アセトニトリルの代わりに、イソプロピルアルコールを用いることで高純度の結晶を白色結晶として得た(120mg)。1HNMRは、実施例1で得た結晶におけるそれと同一であった。
【0028】
以下に参考化合物の合成を示す。特許文献1には一塩酸塩体と二塩酸塩体の詳細な調製方法については述べられていないが、フリー体化合物に対して1当量の塩酸又は2当量以上の塩酸を加えることで付加する塩酸分子の数を制御することができる。
【0029】
<参考例1>
N-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド一塩酸塩(1)の合成
特許文献1に記載の方法に従って製造されたN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド(1.95g)をジクロロメタン(5mL)及びジエチルエーテル(20mL)に溶解し、室温下、1M塩酸ジエチルエーテル溶液(4.7mL)を加え、2時間撹拌した。その後、析出した固体をろ過し、減圧乾燥し、目的物を白色固体として得た(1.85g,HPLC純度98.4%)。1HNMRデータは、特許文献1に記載のデータと一致した。
【0030】
<参考例2>
(R)-N-{1-(フェネチルアミノ)プロパン-2-イル}イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩(3)の合成
特許文献1に記載の方法に従って、表題の化合物を白色固体として得た。1HNMRデータは、特許文献1に記載のデータと一致した。
【0031】
<参考例3>
N-[(R)-1-{(R)-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩(4)の合成
特許文献1に記載の方法に従って、表題の化合物を白色固体として得た。1HNMRデータは、特許文献1に記載のデータと一致した。
【0032】
このようにして得られた本発明の化合物(2)の高純度の結晶について、元素分析、粉末X線回折、赤外吸収スペクトル測定、示差走査熱量分析、水分量測定を行った。以下、結果を示す。
【0033】
(1)元素分析
化合物(2)の元素分析(ジェイ・サイエンス・ラボ製マイクロコーダーJM10型)による結果を以下に示した。尚、()内の数値は、本発明の化合物(2)の分子式をC21H27Cl2N3O3Sとした場合の理論値を示す。
C:53.30%(53.39%),H:5.78%(5.76%),N:8.91%(8.89%)
【0034】
(2)粉末X線回折
粉末X線回折(リガク製RINT-TTRIII型 広角X線回折装置)において、本発明の二塩酸塩無水物(2)の結晶は、
図1のようなパターンを示し、回折角(2θ)6.80°,10.0°,12.7°,14.6°,14.8°,16.2°,17.4°,17.8°,19.5°,20.0°,21.6°,24.7°,25.5°,25.8°,29.8°,39.5°,44.9°に特徴的なピークを示した。また参考までに
図2に化合物(1)の粉末X線回折スペクトルを示した。
図2から明らかなように化合物(1)は、本発明の化合物(2)とは異なり、非晶質性であった。
【0035】
(3)赤外吸収スペクトル
赤外分光光度計(Agilent社製FTS7000e)において、本発明の化合物(2)の結晶の赤外吸収スペクトルは、
図3のようなパターンを示し、約703,1143,1165,1174,1325,1655,2558,2634,2691,3122,3235及び3396cm
-1に特徴的なピークを示した。また参考までに
図4に化合物(1)の赤外吸収スペクトルを示した。
図4から明らかなように化合物(1)は、本発明の化合物(2)とは異なる吸収ピークであった。
【0036】
(4)示差走査熱量分析
示差走査熱量分析(島津製作所製示差走査熱量計DSC-50)において、本発明の化合物(2)の結晶の吸熱ピークは、
図5に示すように237℃であった。また参考までに化合物(1)の示差走査熱量分析の結果を
図6に示した。
図6から明らかなように化合物(1)は、本発明の化合物(2)とは異なる吸熱ピークであった。
【0037】
(2)水分含量
カールフィッシャー法(京都電子工業製カールフィッシャー水分計MKC-610)による本発明の化合物(2)の結晶の水分含量は、0.16%であった。
【0038】
<試験例1>大気開放下での吸湿に対する安定性比較試験
参考例1で得られた化合物(1)、実施例で得られた本発明の化合物(2)をそれぞれ約100mgずつプラスチック容器に量り取り、大気開放下(25~28℃/67~83%RH)にて、上方及び四方からの風圧及び異物混入等の影響をできる限り受けない状態で7日間静置した。0日目と7日目に試料の重量測定及び外観の観察を行った。
結果を
図7に示す。化合物(1)は、7日目の時点で11%の重量増加率を示した。また外観上においても明らかな吸湿現象が見られたことから、水分吸収による重量増加であることが強く示唆された。一方で本発明の化合物(2)は、7日後においても重量増加及び外観上の変化が全く見られなかった。
以上の結果から、本発明の化合物(2)は、化合物(1)と比較して低い吸湿性を有していることが示された。
【0039】
<試験例2>50℃/70%RH下での吸湿に対する安定性比較試験
参考例2及び3で得られた化合物(3)及び(4)、実施例で得られた本発明の化合物(2)の結晶をそれぞれ100mgずつプラスチック容器に量り取り、50℃/70%RH条件下、恒温恒湿器(ヤマト科学株式会社製IH400)内に静置した。
結果を
図8に示す。化合物(3)及び(4)では、静置1時間後において、吸湿による著しい外観の変化が見られ、重量もそれぞれ15%、17%の増加率を示した。従って、以降の試験を中止した。一方で本発明の化合物(2)の結晶は、外観上の変化も重量増加も全く見られなかった。また静置3日後においても同様に全く変化は見られず、粉末X線回折のピークのパターンにも変化は見られなかった。
以上の結果から、化合物(3)及び(4)は、本発明化合物(2)の構造類似体の二塩酸塩であるが、明らかに化合物(2)よりも高い吸湿性を示した。
【0040】
<試験例3>熱安定性比較試験
参考例1の化合物(1)、実施例で得られた本発明の化合物(2)の結晶をガラスバイアル瓶に約20mgずつ量り取り、密閉した状態で70℃に保った恒温器(NISSIN製インキュベーターNA-100N)中で14日間保存した。0日目、7日目、14日目における化合物(1)及び本発明の化合物(2)の外観観察及び純度測定(HPLC)を行った。
結果を
図9に示す。化合物(1)の固体は、7日目時点でガラスバイアル瓶の底に強く付着し、外観が体積膨張を伴う泡状物へと変化し、著しい性状の変性が認められた。従って、以降の試験を中止した。一方で本発明の化合物(2)の結晶は、14日目においても外観の変化や分解等は認められず、安定であった。また粉末X線回折のピークのパターンにも変化は見られなかった。
【0041】
<試験例4>水に対する溶解性比較試験
参考例1の化合物(1)、本発明の化合物(2)の結晶をガラスバイアル瓶に約100mgずつ量り取り、精製水2mLを加え、密閉した状態で激しく振盪した。液面の揺れが収まるまで静置した後、室温下、水溶液の透明度を目視によって観察した。
結果を
図10に示す。化合物(1)の水溶液は半透明状態であった。一方、本発明の化合物(2)の結晶の水溶液は極めて澄明であり、完全に溶けていた。さらに1日後、化合物(1)の水溶液のバイアル瓶の底には沈殿物が確認されたが、本発明の化合物(2)には全く沈殿物は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によるN-[(R)-1-{(S)-2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピルアミノ}プロパン-2-イル]イソキノリン-6-スルホンアミド二塩酸塩無水物(2)は、低い吸湿性を有するだけでなく、熱に対しても高い安定性を有する新規な結晶であり、かつ良好な水溶性を有しており、医薬原体としての使用に極めて望ましい性質を備えている。