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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】疾患モデル
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240124BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020569679
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2020003159
(87)【国際公開番号】W WO2020158794
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2019014778
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【弁理士】
【氏名又は名称】小合 宗一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 智史
(72)【発明者】
【氏名】永安 武
(72)【発明者】
【氏名】溝口 聡
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-195900(JP,A)
【文献】特開2016-013123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/071
C12Q 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化された肺又は肺組織に肺胞上皮細胞、肺微小血管内皮細胞(LMVEC)及び脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)を導入することにより、再細胞化された肺又は肺組織を調製する工程、及び、前記再細胞化された肺又は肺組織がん細胞を導入する工程を含む、肺がんの疾患モデルを製造する方法。
【請求項2】
前記脱細胞化された肺又は肺組織がラットに由来し、前記肺胞上皮細胞、肺微小血管内皮細胞及び脂肪組織由来間葉系幹細胞並びに前記肺がん細胞がヒトに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記がん細胞が、A549細胞、PC-9細胞、H520細胞、H1975細胞、HCC827細胞及びPC-6細胞からなる群から選択される1種以上の細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法により製造された肺がんの疾患モデル。
【請求項5】
(1)請求項に記載の肺がんの疾患モデルに被験物質を接触させる工程、及び
(2)該被験物質と接触させる前の肺がんの疾患モデル又は該被験物質と接触させていない肺がんの疾患モデルと比較して、該被験物質との接触によりがん細胞若しくは線維芽細胞の数が減少した、又は該細胞の増殖速度が低下した場合に、該被験物質を疾患の治療又は予防の候補物質として選別する工程
を含む、肺がんの疾患の治療又は予防剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
(1)請求項に記載の肺がんの疾患モデルに被験物質を接触させる工程、及び
(2)該被験物質との接触による肺がんの疾患モデルの損傷の程度を評価する工程
を含む、該被験物質の副作用の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患モデルの製造方法、及び該方法により製造された疾患モデル、並びに該モデルを用いた疾患の治療又は予防剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、ヒトの死亡の主要な要因の1つである。がんの治療方法についての研究が積極的に進められてはいるが、5年生存率は依然として低く、例えば肺がんの場合、肺がん患者の5年生存率は15%程度に留まっている。近年、がんで発現する分子を標的とした抗がん剤の開発が進められており、その標的の1つとして、非小細胞肺がん(NSCLC)などの様々な悪性腫瘍で過剰発現が認められる、上皮成長因子受容体(EGFR)が着目されている。例えば、EGFRの活性化を引き起こすEGFRの変異を有するNSCLC患者に対し、EGFR阻害剤を投与することで抗腫瘍効果を有することが報告されてはいる。しかしながら、該遺伝子変異を有する患者数は少なく、また該遺伝子の二次的な変異により、がん細胞が薬剤耐性を有するとの問題も報告されている(例えば、非特許文献1)。従って、個々の患者に適した、がんなどの疾患を治療するための薬剤や薬剤の組み合わせを提供するために、多様性や耐性獲得のメカニズムを含む疾患の生物学的メカニズムの理解が不可欠であると考えられている(例えば、非特許文献2)。
【0003】
線維症は、組織損傷や自己免疫反応等による線維組織の異常な蓄積が認められる疾患であり、ヒトにおいては、肺、肝臓、膵臓、腎臓、心臓、骨髄、皮膚などの様々な臓器や組織における線維化が知られている。原因が特定できる線維症は、その原因の除去や、ステロイド剤などの抗炎症剤の投与などにより治癒する場合が多い。一方、肺線維症や線維化を伴う間質性肺炎の治療には、一般的にステロイド剤や免疫抑制剤が用いられているが、予後を改善するような効果的な治療法は無いのが現状であり、新たな治療薬の開発が望まれている。
【0004】
また、抗がん剤の開発において、第II相及び第III相の治験の後期での臨床的な失敗により、抗がん剤の開発が断念されるケースが多くみられる(例えば、非特許文献3)。この理由の1つとして、薬理効果を正確に予測できるモデルシステムの欠如が挙げられる。薬物に対するがんの応答は、組織特異的な微小環境を含む、いくつかの因子の複雑な相互作用、機械的刺激などにより影響されるが、これらの影響を、従来の二次元で培養された細胞で評価することは非常に困難である。従って、がんや線維症などの疾患の生物学的メカニズムの解明に有用であり、また疾患に対する治療効果をより正確に予測できる、疾患を再現したモデルシステム、特に三次元構造を有する疾患モデルの開発が望まれている。
【0005】
ところで、移植医療分野において、脱細胞化した臓器骨格を、自己の細胞により再細胞化した再細胞化臓器に大きな期待が寄せられている。脱細胞化組織骨格は、動物及びヒトの組織や臓器から比較的容易に得られるため、医療用素材として実臨床で広く使用されている。医療用素材として、心臓血管外科の領域では、豚や牛由来の生体弁(HANCOK II(登録商標)、PERIMOUNT Magna(登録商標)、ヒト生体弁(Synegraft)(登録商標))などが用いられ、整形形成外科の領域では、ヒト由来皮膚(AlloDerm(登録商標))、豚小腸(OASIS(登録商標))、人工骨(AlloCraft C-Ring(登録商標))などが用いられている。臨床で使用されるこれらの医療用素材に「自己の細胞」を生着させると、理論上は、他種の臓器から自己の臓器が作製可能になる。自己の細胞などを生着させる方法として、臓器を脱細胞化上で、該臓器に自己の細胞を生着させて再細胞化臓器を作製する方法が報告されている(例えば、非特許文献4)。しかしながら、本発明者らが知る限りにおいて、再細胞化した臓器から疾患モデルを作製できたとの報告はなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jackman, D.M. et al., Clin. Cancer Res, 12:3908-3914 (2006)
【文献】Regales L. et al., J Clin Invest, 119(10):3000-10 (2009)
【文献】DiMasi J.A. et al., Clin Pharmacol Ther, 94(3):329-35 (2013)
【文献】Thomas H. et al., Science, 329(5991): 538-41 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、疾患の生物学的メカニズムの解明、及び疾患の治療又は予防剤の効果のより正確な予測に用いることができる、三次元構造を有する疾患モデルを製造する方法を提供すること、並びに該方法により製造された疾患モデルを用いた、疾患の治療又は予防剤をスクリーニングする方法などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねてきた結果、三次元構造を有するがんモデルを、脱細胞化した臓器にがん細胞を播種して再細胞化臓器を製造する方法ではなく、敢えて一旦正常な細胞を用いて再細胞化した後に、がん細胞を播種することで、自然発生のがんを再現するがんモデル臓器を作製でき、該がんモデルを用いることで、抗がん剤の効果を、従来の細胞や臓器等を用いた場合よりも正確に予測できるのではないかとの着想を得た。この着想に基づき研究を続けたところ、臓器として肺を用いた場合に、自然発生の肺がんの病理組織学的所見を反映した、即ち自然発生の肺がんを再現した人工肺を作製することができることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 再細胞化された臓器又は組織にがん細胞又は線維芽細胞を導入する工程を含む、疾患モデルを製造する方法。
[2] 前記臓器又は組織が肺又は肺組織である、[1]に記載の方法。
[3] 前記がん細胞が肺がん細胞である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記がん細胞が、A549細胞、PC-9細胞、H520細胞、H1975細胞、HCC827細胞及びPC-6細胞からなる群から選択される1種以上の細胞である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記再細胞化された肺又は肺組織が、脱細胞化された肺又は肺組織に上皮細胞及び内皮細胞を導入することにより製造された肺又は肺組織である、[2]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の方法により製造された疾患モデル。
[7] 前記疾患モデルが肺疾患モデルである、[6]に記載の疾患モデル。
[8] (1)[6]又は[7]に記載の疾患モデルに被験物質を接触させる工程、及び
(2)該被験物質と接触させる前の疾患モデル又は該被験物質と接触させていない疾患モデルと比較して、該被験物質との接触によりがん細胞若しくは線維芽細胞の数が減少した、又は該細胞の増殖速度が低下した場合に、該被験物質を疾患の治療又は予防の候補物質として選別する工程
を含む、疾患の治療又は予防剤のスクリーニング方法。
[9] 前記疾患が肺疾患である、[8]に記載の方法。
[10] (1)[6]又は[7]に記載の疾患モデルに被験物質を接触させる工程、及び
(2)該被験物質との接触による疾患モデルの損傷の程度を評価する工程
を含む、該被験物質の副作用の評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自然発生の疾患を再現し、かつ自然発生の疾患と同様の薬剤応答性を示す、三次元構造を有する疾患モデルを製造する方法が提供される。このようにして製造された疾患モデルを用いることで、疾患の治療又は予防剤の候補物質を、従来の方法と比較してより正確にスクリーニングし得る。また、例えば肺を用いた場合には、バイオリアクター内で、肺血管への灌流や呼吸運動の付加などの生理的なメカニカルストレスを、前記肺疾患モデルに加えることができるため、メカノバイオロジーの解明を含む肺疾患の生物学的メカニズムの解明にも有用であり得る。さらに、上記疾患モデルを製造する過程において、導入した細胞、特にがん細胞がどのように進展していくのかを観察することができるため、該疾患モデルは、疾患、特に肺疾患の進展の研究にも有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、肺疾患モデルの製造方法の概略図及び再細胞化中のラット肺の肉眼像を示す。
図2図2は、脱細胞後のラット肺の肉眼像(左図)及び再細胞化中のラット肺の肉眼像(右図)を示す。
図3図3は、脱細胞化後のラットの再細胞化された肺(再細胞化肺ともいう)のヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。スケールバー:100μm
図4図4は、再細胞化後のラット再細胞化肺のヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。脱細胞化骨格の肺胞の構造を保ちながら、再細胞化の際に灌流した肺胞上皮細胞や血管内皮細胞が正常の肺胞構造を再現するように生着していた。スケールバー:200μm、100μm又は50μm
図5図5は、がん細胞(PC-9細胞)を注入したラット再細胞化肺の肉眼像を示す。ヒト肺がん細胞を注入した部位に白色の結節が認められた。
図6図6は、腺がん細胞(A549細胞(左図))又は扁平上皮がん細胞(H520細胞(右図))を注入したラット再細胞化肺のヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。腺がん細胞及び扁平上皮がん細胞のどちらも、再細胞化肺上に生着していた。スケールバー:500μm
図7図7は、腺がん細胞(A549細胞(左図))又は扁平上皮がん細胞(H520細胞(右図))を注入したラット再細胞化肺のヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。がん細胞の種類によって、細胞密度や形態が異なっていた。スケールバー:100μm
図8図8は、腺がん細胞(A549細胞(左図))又は扁平上皮がん細胞(H520細胞(右図))を注入したラット再細胞化肺のヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。腺管様の構造体が形成され、また細胞中に粘液が含まれていた。スケールバー:50μm
図9図9は、腺がん細胞(A549細胞)を注入したラット再細胞化肺のPeriodic Acid-Schiff染色(PAS染色)像を示す。腺管様の構造体や細胞中に赤紫色に染まる粘液が認められた。スケールバー:50μm
図10図10は、腺がん細胞(A549細胞)を注入したラット再細胞化肺のヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。この染色像は、がん細胞が右上から左下に向かって進展していく様子を示している。スケールバー:100μm
図11図11は、腺がん細胞(A549細胞)を注入したラット再細胞化肺における、抗MUC-1抗体を用いた免疫染色の結果を示す。二次元培養したA549細胞(2D)ではMUC-1はほとんど発現されていないが、再細胞化肺(3D)になると発現量が増加している。スケールバー:50μm
図12図12は、腺がん細胞(PC-9細胞)を注入したラット再細胞化肺における、抗MUC-1抗体を用いた免疫染色の結果を示す。二次元培養したPC-9細胞(2D)ではMUC-1はほとんど発現されていないが、再細胞化肺(3D)になると発現量が増加している。スケールバー:50μm
図13図13は、がん細胞を注入したラット再細胞化肺における、抗がん剤(gefitinib)への応答性の結果を示す。EGFRが野生型のA549細胞を用いた場合には、gefitinib投与でも細胞増殖マーカーであるKi67の発現は変わらないが、EGFR変異陽性のPC-9細胞を用いた場合には、gefitinibの投与でKi67の陽性率が低下した。スケールバー:50μm
図14図14は、図13で用いたラット再細胞化肺における、Ki67の陽性細胞の割合を、ImageJを用いて算出した結果を示す。A549細胞を用いた場合には、gefitinibの投与によりKi67陽性細胞率は有意差が認められないが、PC-9細胞を用いた場合には、gefitinib投与により有意にKi67陽性細胞数が減少していた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.疾患モデルの製造方法
本発明は、再細胞化された臓器又は組織に、疾患を再現するための細胞(以下「疾患再現用細胞」と称することがある)を導入する工程を含む、疾患モデル、特に肺疾患(例:肺がん、肺線維症)モデルを製造する方法(以下「本発明の製法」と称することがある)を提供する。本明細書において、「疾患モデル」とは、疾患再現用細胞(好ましくはがん細胞)が生着した、再細胞化された臓器又は組織を意味し、該疾患モデルは、好ましくは該生着した細胞に起因する疾患(例:がん、線維症)を再現する。
【0013】
以下の実施例で示す通り、本発明の製法で製造した肺がんモデルは、自然発生の肺がんの病理組織学的所見を反映している、即ち自然発生の肺がんを再現していることが示された(図7~9)。具体的には、腺がんの細胞を用いることで、細胞を導入した部位に結節が認められ、腺がんの病理組織学的所見である腺管様の構造体が形成され、また細胞中に粘液が含有されていた。また、自然発生の肺がんと同様に、導入したがん細胞の種類に応じて、細胞密度や形態が異なっていた。例えば、腺がん細胞であるPC-9細胞を用いた場合には、類円形の核と明るい胞体を持つがん細胞が隔壁を持った細胞集塊を作るが、扁平上皮がん細胞であるH520細胞を用いた場合には、胞体のない楕円形の核を持つがん細胞が肺胞隔壁を置換するように増生しており、PC-9細胞を用いた場合とは、明らかに病理像は異なっていた。従って、治療対象のがんの種類に応じて、適したがん細胞を適宜選択することができる。また、上記肺がんモデルでは、再細胞化肺に導入したがん細胞が該肺に生着し、増殖を続けた結果、肺がんの病理組織学的所見を反映することとなったと推察されるため、がん細胞以外の、増殖性を有し、疾患の原因となる細胞を疾患再現用細胞として導入した場合であっても、同様に疾患を再現する疾患モデルが製造され得る。
【0014】
また、再細胞化された臓器又は組織には、免疫担当細胞が存在しないため、どのような細胞であっても、臓器又は組織の種類に関わらず、容易に生着することができる。従って、本発明に用いる再細胞化された臓器又は組織としては、特に限定されないが、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、腸、筋肉、皮膚、乳房、食道、気管、及びそれらの組織などが挙げられる。本明細書において、臓器には、臓器全体だけでなく、臓器の一部(例:心臓の弁等)も包含されるものとする。また、臓器等の由来としては、特に限定されないが、哺乳動物(例:マウス、ラット、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、カンガルー、サル及びヒト)が挙げられる。
【0015】
本発明の製法に用いる疾患再現用細胞としては、例えば、がん細胞、線維芽細胞などが挙げられ、再現される疾患としては、がん、線維症などが挙げられる。肺がんモデルの場合には、本発明の製法に用いるがん細胞として、肺がん以外のがんの細胞を用いることで、肺がんモデルは転移性肺がんのモデルとなり得る。一方で、肺がんの細胞を用いることで、肺がんモデルは原発性肺がんのモデルとなり得る。同様に、肺がん以外のがんモデルの場合にも、用いるがん細胞の種類により、がんモデルは転移性がんのモデル又は原発性がんのモデルとなり得る。疾患再現用細胞としては、市販の細胞を用いてもよく、あるいは新たに臓器等から単離した細胞(例:初代培養細胞)を用いてもよい。例えば、治療の結果、特定の医薬品に耐性を獲得した患者由来の臓器等から細胞を単離し、該細胞を疾患再現用細胞として用いることで、耐性株に対する治療研究も可能となる。また、肺がんモデルの場合には、用いるがん細胞は、肺がんの細胞であっても、肺がん以外のがんの細胞であってもよいが、好ましくは肺がんの細胞である。本発明の製法に用いるがん細胞としては、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの肉腫、脳腫瘍、頭頚部がん、乳がん、肺がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、虫垂がん、大腸がん、直腸がん、肝がん、膵がん、胆嚢がん、胆管がん、肛門がん、腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣がん、子宮がん、卵巣がん、外陰がん、膣がん、皮膚がんなどのがん種、さらには白血病や悪性リンパ腫等におけるがん細胞などが挙げられる。上記がん細胞は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
肺がんの細胞を用いる場合、該細胞は、非小細胞肺がん(NSCLC)(例:腺がん(ADC)、扁平上皮がん(ASC)、大細胞がん(LCC))の細胞であってもよく、小細胞肺がん(SCLC)(例:小細胞がん)の細胞であってもよい。腺がんの細胞としては、例えば、A549細胞、PC-9細胞、H1975細胞、HCC827細胞、A427細胞、NCI-H23細胞、NCI-H522細胞、LC174細胞、LC176細胞、LC319細胞、PC-3細胞、PC-14細胞、PC14-PE6細胞、NCI-H1373細胞、NCI-H1435細胞、NCI-H1793細胞、SK-LU-1細胞、NCI-H358細胞、NCI-H1650細胞、SW1573細胞などが挙げられる。腺扁平上皮がんの細胞としては、例えば、NCI-H226細胞、NCI-H596細胞、NCI-H647細胞などが挙げられる。扁平上皮がんとしては、H520細胞、RERF-LC-AI細胞、SW-900細胞、SK-MES-1細胞、EBC-1細胞、LU61細胞、NCI-H1703細胞、NCI-H2170細胞などが挙げられる。大細胞がんの細胞としては、例えば、LX1細胞、FT821細胞、KTA7細胞、KTA9細胞、KTZ6細胞、PC-13細胞などが挙げられる。小細胞がんの細胞としては、PC-6細胞、DMS114細胞、DMS273細胞、SBC-3細胞、SBC-5細胞などが挙げられる。中でも、A549細胞、PC-9細胞、H520細胞、H1975細胞、HCC827細胞、又はPC-6細胞が好ましい。上記がん細胞は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明の製法に用いる線維芽細胞としては、例えば、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞、心臓線維芽細胞、大動脈外膜線維芽細胞、子宮線維芽細胞、絨毛間葉系線維芽細胞、真皮線維芽細胞、腱線維芽細胞、靭帯線維芽細胞、滑膜線維芽細胞、包皮線維芽細胞などが挙げられる。上記線維芽細胞は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、線維芽細胞を導入する工程に代えて、正常な再細胞化された臓器又は組織に、線維化を誘導する薬剤を接触させる工程により、線維症のモデルを製造することもできる。かかる線維化を誘導する薬剤としては、例えば、ブレオマイシン、ゲフィチニブなどの抗癌剤、ウルソデオキシコール酸などの胆道疾患改善薬、小柴胡湯、PHMG、インターフェロン、抗生物質、四塩化炭素(CCl4)、ジメチルニトロソアミン(DMN:dimethylnitrosamine)などが挙げられる。
【0019】
疾患再現用細胞の由来としては、特に限定されないが、哺乳動物(例:マウス、ラット、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、カンガルー、サル及びヒト)が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0020】
上記疾患再現用細胞は、再細胞化された臓器又は組織(以下「再細胞化臓器等」と称することがある)に、注射により1つ以上の位置で導入(即ち、「播種」)してもよい。さらに、2種類以上の細胞(即ち、細胞のカクテルで、あるいは2回以上に分けて)を再細胞化臓器等に導入(播種)することができる。2種類以上の細胞を導入する場合、例えば、再細胞化臓器等の複数の位置で注射してもよいし、異なる細胞型の細胞を再細胞化臓器等の異なる部分に注射してもよい。注射の代わりに、又は注射に加えて、疾患再現用細胞は、カニューレ挿入した再細胞化臓器等に灌流により導入してもよい。このようにして製造した臓器(例:肺)の一部から、組織(例:肺組織)を調製することもできる。
【0021】
再細胞化臓器等への疾患再現用細胞の導入を灌流により行う場合、例えば、下記の工程(2-1)、(2-2)又は(2-3)により行うことができる。
(2-1)疾患再現用細胞を含む灌流液を再細胞化臓器等に灌流させる工程。
(2-2)疾患再現用細胞を含まない灌流液の灌流後、疾患再現用細胞を含む灌流液を再細胞化臓器等に灌流させる工程。
(2-3)疾患再現用細胞を含まない灌流液の灌流後、灌流を停止させて疾患再現用細胞を灌流系内に導入し、培地を含む灌流液とともに再細胞化臓器等に灌流させる工程。
上記再細胞化の工程は、複数回行ってもよく、この際細胞の種類を変えてもよい。
【0022】
灌流液としては、例えば、培地、臓器保存液、生理食塩水、リンゲル液、クレブス-リンガー液などが挙げられるが、特に限定されない。培地としては、RPMI(Roswell Park Memorial Institute Medium)、MEM(Minimum Essential Media)、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)、Ham’sF-12培地などが挙げられるが、特に限定されない。臓器保存液としては、セルシオ(Celsior)液、LPD(Low potassium dextran)液、ET-Kyoto液などの細胞外液型、ユーロ-コリンズ(Euro-Collins)液、UW(University of Wisconsin)液などの細胞内液型保存液などが挙げられるが、特に限定されない。臓器保存液は、細胞外液型保存液であってもよく、細胞内液型保存液であってもよい。灌流液には、必要に応じ、細胞の維持などに適した添加物、例えば、血漿、血清、アミノ酸などが含まれていてもよい。
【0023】
灌流液と再細胞化臓器等との接触時間は、灌流液を再細胞化臓器等の全体に行き渡らせて十分に拡散させる観点から、5分間以上であることが好ましく、20分間以上であることがより好ましい。灌流液と再細胞化臓器等との接触時間の上限は、例えば、再細胞化臓器等の種類、疾患再現用細胞の接着の度合いなどに応じて適宜決定できる。
【0024】
灌流液の流速は、再細胞化臓器等の灌流において一般的に用いられる流速であればよいが、0.01mL/min以上が好ましく、0.1mL/min以上がより好ましい。また、灌流液の流速は、100mL/min以下が好ましく、20mL/min以下がより好ましい。再細胞化臓器等と灌流液との接触時の灌流液の温度は、特に限定されないが、例えば、4~40℃が好ましく、20~38℃がより好ましい。
【0025】
本発明に用いる疾患再現用細胞の数は、再細胞化臓器等の大きさ及び重量、並びに疾患再現用細胞の種類などにより適宜設定することができるが、例えば、再細胞化臓器等には、少なくとも約1,000個(例:10,000個以上、100,000個以上、1,000,000個以上、10,000,000個以上又は100,000,000個以上)の疾患再現用細胞を播種することが好ましく、あるいは、再細胞化臓器等 1mg当たり、約1,000個~約10,000,000個の疾患再現用細胞を播種することが好ましい。
【0026】
再細胞化臓器等の由来としては、特に限定されないが、哺乳動物(例:マウス、ラット、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、カンガルー、サル及びヒト)が挙げられる。
【0027】
再細胞化臓器等は、自体公知の方法により作製することができ、例えば、脱細胞化された臓器又は組織(以下「脱細胞化臓器等」と称することがある)を再細胞化することにより行うことができる。具体的には、肺の場合には、Thomas H. et al., Science, 329(5991): 538-41 (2010)、Fecher D. et al., PLoS One, 11(8): e0160282 (2016)などに記載の方法を、肝臓の場合には、Bao J. et al., Cell Transplant, 20(5): 753-766 (2011)、Barakat O. et al., J. Surg Res, 173(1): e11-e25 (2012)、Soto-Gutierrez A. et al., Tissue Eng Part C Methods, 17(6): 677-686 (2011)、Uygun B.E. et al., Nat Med, 16(7): 814-820 (2010)などに記載の方法を、心臓の場合には、国際公開第2010/120539号公報、国際公開第2012/031162号公報などに記載の方法を、腎臓の場合には、Mireia Caralt et al., Am J Transplant, 15(1):64-75 (2015)などに記載の方法を、膀胱の場合には、Hwang J. et al., Acta Biomater, 53: 268-278 (2017)、White L.J. et al., Acta Biomater, 50: 207-219 (2017)などに記載の方法を用いることができる。
【0028】
より具体的には、肺又は肺組織を再細胞化する方法としては、例えば、上皮細胞を含む細胞懸濁液を、灌流又は注射により気道区画に導入する工程、及び内皮細胞を、灌流又は注射により肺に播種する工程を含む方法により行うことができる。この際、播種した内皮細胞の拡散を可能にするために、内皮細胞集団の導入の間、脱細胞化された肺(脱細胞化肺ともいう)に空気を送ってもよい。また、再生された血管の成熟の観点からは、内皮細胞の導入時、又はその前後において、間葉系幹細胞を導入することが好ましい。
【0029】
本明細書において、「再細胞化」とは、脱細胞化臓器等に細胞を導入し、脱細胞化臓器等の一部又は全体に、導入された細胞(以下「再細胞化用細胞」と称することがある。)を生着させることをいう。また、本明細書において、「脱細胞化」とは、生体臓器又は組織から細胞成分を除去することを意味し、「脱細胞化された臓器又は組織」とは、生体臓器又は組織から細胞成分が除去された三次元構造を有する、細胞外マトリックスを主成分とする骨格を意味する。脱細胞化において、細胞成分は完全に除去されていてもよいが、必ずしも細胞成分が完全に除去されている必要はなく、脱細胞化前の臓器又は組織と比較して細胞成分が減少している場合も脱細胞化という。また、本発明の製法で用いる脱細胞化臓器等は、細胞外マトリックスの1つである硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)を残存してもよく、残存していなくてもよい。
【0030】
再細胞化用細胞の灌流又は注射による導入方法、灌流液と脱細胞化臓器等との接触時間、灌流液の流速及び温度は、上述の疾患再現用細胞を導入する場合と同様の方法、及び同様の条件を用いることができる。この際、「疾患再現用細胞」を「再細胞化用細胞」に、「再細胞化臓器等」を「脱細胞化臓器等」に読み替えるものとする。
【0031】
灌流液としては、上述の再細胞化臓器等に疾患再現用細胞を導入する場合の灌流液と同様のものを用いることができ、また該灌流液には上記同様の添加物などが含まれていてもよい。
【0032】
本発明に用いる再細胞化用細胞の数は、脱細胞化臓器等の大きさ及び重量、並びに再細胞化用細胞の種類等の両方に依存して適宜設定することができるが、例えば、脱細胞化臓器等には、少なくとも約1,000個(例:10,000個以上、100,000個以上、1,000,000個以上、10,000,000個以上又は100,000,000個以上)の再細胞化用細胞を播種することが好ましく、あるいは臓器等(湿重量、すなわち、脱細胞化前の重量)1mg当たり約1,000個~約10,000,000個を播種することが好ましい。
【0033】
再細胞化に用いる上皮細胞としては、例えば、肺胞上皮細胞(例:I型肺胞上皮細胞、II型肺胞上皮細胞)、クララ細胞、杯細胞などが挙げられるが、好ましくは肺胞上皮細胞である。
【0034】
再細胞化に用いる内皮細胞としては、例えば、血液内皮細胞、骨髄内皮細胞、循環内皮細胞、大動脈内皮細胞、脳微小血管内皮細胞、皮膚微小血管内皮細胞、腸微小血管内皮細胞、肺微小血管内皮細胞、微小血管内皮細胞、肝類洞内皮細胞、伏在静脈内皮細胞、臍静脈内皮細胞、リンパ管内皮細胞、微小脈管内皮細胞、微小血管内皮細胞、肺動脈内皮細胞、網膜毛細血管内皮細胞、網膜微小血管内皮細胞、血管内皮細胞、臍帯血内皮細胞、肝臓類洞内皮細胞、内皮細胞コロニー形成単位(CFU-EC)、循環血管新生細胞(CAC)、循環内皮前駆細胞(CEP)、内皮コロニー形成細胞(ECFC)、低増殖能ECFC(LPP-ECFC)、高増殖ECFC(HPP-ECFC)などが挙げられるが、好ましくは肺微小血管内皮細胞(LMVEC)である。
【0035】
再細胞化に用いる間葉系幹細胞としては、例えば、骨髄液、脂肪組織、胎盤組織、臍帯組織、歯髄などに由来する幹細胞が挙げられるが、採取する際の侵襲性が低いという点から、脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)が好ましい。
【0036】
再細胞化用細胞の由来としては、特に限定されないが、疾患再現用細胞の由来と同様の哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0037】
脱細胞化臓器等は、自体公知の方法(例:国際公開第2010/120539号公報に記載の方法、国際公開第2012/031162号公報に記載の方法、Fecher D. et al., PLoS One, 11(8): e0160282 (2016)に記載の方法等)により作製することができ、例えば、生体から摘出した臓器又は組織を、界面活性剤(例:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)、CHAPS、TritonX-100等)を含む脱細胞化溶液と灌流により接触させることなどにより行うことができる。脱細胞化臓器等は、該臓器等に残留する核酸物質を分解するため、ヌクレアーゼ酵素を含む溶液を用いて、洗浄することが好ましい。
【0038】
下述の実施例で示す通り、本発明の製法の過程で、がん細胞がどのように進展していくかを観察することができるため(図10)、本発明の製法は、がんの進展の研究にも有用であり得る。従って、別の態様において、再細胞化臓器等に、疾患再現用細胞(好ましくはがん細胞)を導入する工程を含む、疾患再現用細胞の進展状況の観察方法が提供される。該観察方法は、ライブイメージング等のリアルタイムで行うこともできる。用いる疾患再現用細胞の種類、播種方法などは、上述の通りである。
【0039】
2.疾患モデル
本発明はまた、本発明の製法により製造された疾患モデル(以下「本発明の疾患モデル」と称することがある)、好ましくは肺疾患モデル(例:肺がんモデル)を提供する。上述の通り、本発明の肺がんモデルは、自然発生の肺がんの病理組織学的所見を反映し得る。即ち、一実施態様において、本発明の肺疾患モデルは、がん細胞を導入した部位に結節を有し、腺管様の構造体を有し、細胞中に粘液を有する。よって、疾患を再現し得る本発明の疾患モデルは、疾患の治療又は予防剤のスクリーニングに適している。また、例えば肺疾患モデルは、バイオリアクター内で、肺血管への灌流や呼吸運動の付加などのより生理的なメカニカルストレスを加えることができるため、本発明の疾患モデルは、メカノバイオロジーの解明を含む疾患の生物学的メカニズムの解明にも適している。
【0040】
3.疾患の治療又は予防剤のスクリーニング方法
本発明は、疾患の治療又は予防に有用な薬剤をスクリーニングする方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」ともいう)を提供する。本発明のスクリーニング方法は、例えば、(1)本発明の疾患モデルに被験物質を接触させる工程、及び(2)該被験物質と接触させる前の疾患モデルと比較して、あるいは該被験物質と接触させていない疾患モデル又は疾患の治療若しくは予防効果がないことが知られている対照物質を接触させた疾患モデルと比較して、該被験物質との接触により疾患再現用細胞の数が減少した場合に、又は該細胞の増殖速度が低下した場合に、該被験物質を疾患の治療及び/又は予防剤の候補物質として選別する工程を含む。疾患再現用細胞の数の計測や増殖速度の測定は、自体公知の方法、例えば組織切片を染色して細胞数を計測する方法、画像解析(例:ImageJを用いた解析等)を行う方法、ライブイメージングなどの方法により行うことができる。
【0041】
上記治療又は予防剤の対象となる疾患としては、例えば、がん(例:肺がん)、線維症(例:肺線維症)などが挙げられる。前記がんとしては、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの肉腫、脳腫瘍、頭頚部がん、乳がん、肺がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、虫垂がん、大腸がん、直腸がん、肝がん、膵がん、胆嚢がん、胆管がん、肛門がん、腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣がん、子宮がん、卵巣がん、外陰がん、膣がん、皮膚がんなどのがん種、白血病や悪性リンパ腫などが挙げられ、中でも肺がんが好ましい。かかる肺がんとしては、例えば、非小細胞肺がん(例:腺がん(ADC)、扁平上皮がん(ASC)、大細胞がん(LCC))、小細胞肺がん(SCLC)(例:小細胞がん)などが挙げられる。また、前記線維症としては、例えば、肺線維症、肝臓線維症、膵臓線維症、腎臓線維症、心臓線維症、骨髄線維症、皮膚線維症などが挙げられる。
【0042】
本明細書において、被験物質としては、例えば、免疫細胞(例:樹状細胞、リンパ球(例:T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞等)、マクロファージ等)または血球(例:赤血球、白血球(例:好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球等)、血小板等)を含む生体試料(例:血液、血清、血漿等)あるいはその改変物、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、及び天然化合物が例示される。
【0043】
本明細書において、被験物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des. 12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-13; Erb et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422-6; Zuckermann et al.(1994)J. Med. Chem. 37:2678-85; Cho et al.(1993)Science 261:1303-5; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061; Gallop et al.(1994)J. Med. Chem. 37:1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten(1992)Bio/Techniques 13:412-21を参照のこと)又はビーズ(Lam(1991)Nature 354:82-4)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith(1990)Science 249:386-90; Devlin(1990)Science 249:404-6; Cwirla et al.(1990)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-82; Felici(1991)J. Mol. Biol. 222:301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
【0044】
4.疾患の治療又は予防剤の副作用の評価方法
本発明は、被験物質の副作用を評価する方法(以下、「本発明の評価方法」ともいう)を提供する。本発明の評価方法は、例えば、(1)本発明の疾患モデルに、被験物質を接触させる工程、及び(2)該被験物質との接触による疾患モデルの損傷の程度を評価する工程を含む。上記工程(2)の評価は、例えば、被験物質の接触前と後において、残存する正常細胞の数を計測し、被験物質と接触することで正常細胞がどの程度減少したかを算出することで行うことができる。比較対象の疾患モデルとして、被験物質を接触させていない疾患モデル、又は副作用が公知の、又は副作用がないことが知られている対照物質を接触させた疾患モデルを用いてもよい。あるいは、異なる種類の被験物質を接触させた疾患モデルを比較対象とすることで、2種以上の被験物質の副作用の程度を評価することもできる。正常細胞の数の計測は、上記3.の疾患再現用細胞の数の計測と同様の方法により行うことができる。
【0045】
肺疾患モデルを用いる場合には、残存する正常細胞の数の計測に代えて、肺の酸素交換率を測定することで、被験物質の副作用を評価することもできる。肺の酸素交換率の測定は、例えば、再生肺の気管から換気を行いながら、人工赤血球と脱酸素化したPBSの混合液を肺動脈から注入し、注入前と肺静脈から回収した注入後の酸素分圧を比較することにより行うことができる。
【0046】
本発明の評価方法で用いる被験物質としては、疾患の治療又は予防効果が既に知られている疾患の治療又は予防剤であってもよく、あるいは効果が未知の被験物質、例えば上記3.で記載の被験物質、又は本発明のスクリーニング方法により得られた候補物質であってもよい。
【0047】
以下に、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0048】
<実施例1 肺がんモデルの作製>
方法
1.ラット肺の採取
肺は、若い成体(3ヶ月齢)の雄のフィッシャー344ラット(Charles River、Wilmington、MA)から採取した。全ての動物実験は、長崎大学動物実験委員会の承認を得て行い、長崎大学における動物実験指針に従って行った。ペントバルビタールナトリウム(Sigma、140mg/kg)及びヘパリン(250U/kg)を腹腔内に注射することにより、ラットを安楽死させた。横隔膜を穿刺し、胸郭を切断して肺を露出させた。50 U/ml ヘパリン(Sigma)及び1 μg/mlニトロプルシドナトリウム(SNP、Fluka)を含有するPBSを用いて、右心室を経由して肺を灌流した。灌流完了後、心臓、肺及び気管を解剖し、ひとまとめにして取り出した。肺動静脈及び気管に、それぞれ18G及び14Gカテーテルをカニューレ挿入した。
【0049】
2.肺がんモデル肺の作製
2-1.ラット肺の脱細胞化
採取しカニュレーションしたラット肺をバイオリアクター内に入れ、肺動脈を接続した。PBS+を100ml灌流したのちに0.0035%TritonのPBS+溶液425mlを灌流させた。次にBenz buffer(Tris-HCl、MgCl2、BSA、Milli-Qの混合液をpH8に調整したもの)250mlを灌流させた。さらにPBS-と1MのNaCl溶液を150ml灌流し、その後PBS-250mlで洗い流した。次に、SDS溶液を0.01%、0.05%、0.1%の順にそれぞれ425mlずつ灌流させた。その後、PBS-425mlで流した後に、Triton 0.5%+EDTA溶液を100ml灌流させた。そこからPBS-を2000ml流した後に、最後にPenicillin+Streptomycin、Amphotericin B、Gentamycinを混じたPBS-を500ml流してこの溶液に浸漬して保存した。灌流はすべて30cmの高さから重力に従って行った。
【0050】
2-2.脱細胞化肺の再細胞化
3-4週のFischer 344ラットをペントバルビタールナトリウム(Sigma、140mg/kg)及びヘパリン(250U/kg)を腹腔内に注射することにより、ラットを安楽死させた。気管を確保して14Gサーフロ―針の外套で挿管した。横隔膜を穿刺し、胸郭を切断して肺を露出させた。50 U/ml ヘパリン(Sigma)及び1 μg/mlニトロプルシドナトリウム(SNP、Fluka)を含有するPBSを用いて、右心室を経由して肺を灌流した。灌流完了後、心臓、肺及び気管を解剖し、ひとまとめにして取り出した。冷却したPBS-で気管内を洗浄し、DMEM+2.5%HEPES+elastase(4.5U/ml)+DNase I(0.02mg/ml)の溶液(Solution A)を1.5ml注入したのちにすぐに1% low-melting point agaroseを0.5-1.0ml注入して冷却した。気管を結紮してサーフロ―針の外套を抜去し、心臓を切除してSolution A入りのファルコンチューブに肺を入れた。合計3-4匹分の肺を同様に処理し、37℃、100回/分で45分間振盪した。クリーンベンチ内で気管および中枢側1/4を切除し、末梢3/4の肺を集めて剪刀もしくはメスにて細かく切り刻んだ。新たなファルコンチューブに新しいSolution Aと切り刻んだ肺の組織を入れ、37℃、100回/分で15分間振盪した。DMEM+2.5%HEPES+50%FBSを加えてelastaseの反応を止めたのちに、100μm及び70μmのnylon meshでろ過し、300xgで遠心分離した。上清を吸引し、pelletを抗生剤及び抗真菌薬入りのDMEM/F12+10%FBSで懸濁して肺胞上皮の懸濁液の作製を完了した。
クリーンベンチ内でバイオリアクターに脱細胞化したラット肺の気管を接続し、抽出したラットの肺胞上皮の懸濁液を60cmの高さから重力に従って気管内に流した。その後、バイオリアクターはCO2incubator内で一晩静置した。
翌日、バイオリアクターを再びクリーンベンチ内に移動させ、DMEM/F12とEGM-2を1:1で混合した溶液120mlを使用して肺動脈内に重力に従って流した。ラット肺微小血管上皮細胞(RLMVEC)と同系統のラットより抽出した脂肪幹細胞(ADSC)の懸濁液を作製し、肺動脈と肺静脈から重力に従って灌流させた。RLMVECは3.0-4.0×107個、ADSCは6.0-8.0×105個使用した。灌流後、バイオリアクターをCO2 incubator内に90分間静置した。その後、肺動脈は1ml/分でポンプにて灌流を行うと同時に、気管からは1分間に5-10mlで流入と流出を繰り返すようにポンプでDMEM/F12を灌流させた。
その後は1日毎に肺動脈のポンプを1ml/分ずつ上げていき、最大4ml/分となるように灌流させた。
【0051】
2-3.がん細胞の播種
(1)A549細胞の播種
RLMVEC+ADSCの懸濁液を灌流させた翌日、A549の懸濁液を作製した。懸濁液は40-50μlあたり1-2×106個となるように調整した。バイオリアクターをクリーンベンチ内に移動させ、ラット再生肺の任意の部位に40-50μlのA549の懸濁液をインスリン用注射器で局所注入した。その後、バイオリアクターをCO2 incubatorに60分間静置した。癌細胞が他の部位に播種することを防止するため、バイオリアクター内の培地を一旦すべて吸引したのちに新たな培地を入れ、CO2 incubator内で肺動脈と気管の灌流を再開した。
【0052】
(2)PC-9細胞の播種
(1)と同様の方法で懸濁液を作製し、同様の方法で局所注入した。
【0053】
(3)H520細胞の播種
(1)と同様の方法で懸濁液を作製し、同様の方法で局所注入した。
【0054】
<実施例2 組織学的分析>
方法
ヘマトキシリン・エオシン染色
サンプル(脱細胞化肺、再細胞化肺又はがん細胞を注入した再細胞化肺)を10%ホルマリンもしくは4%パラホルムアルデヒド中で4時間固定し、脱水し、パラフィンに包埋し、5μmの切片とした後、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色を施行した。
【0055】
Periodic Acid-Schiff染色
サンプル(脱細胞化肺、再細胞化肺又はがん細胞を注入した再細胞化肺)を10%ホルマリン中で4時間固定し、脱水し、パラフィンに包埋し、5μmの切片とした。その後、脱パラフィン・脱キシレンを行い、数秒で水洗を行った後に0.5%過ヨウ素酸液に10分浸漬し、5分間流水水洗後に2分間蒸留水に浸漬し、さらにシッフ試薬で15分間浸漬した。続いて亜硫酸液で2分間・3回浸漬後、5分間流水水洗を行った。続いてマイヤーヘマトキシリン液に2分間漬けたのち1分間流水水洗し、60℃の温水もしくはアンモニア水で色だしを10分間行った後に脱水、透徹、封入を行いPeriodic Acid-Schiff染色を完了した。
【0056】
結果
再細胞化の際に灌流した肺胞上皮細胞や血管内皮細胞は、脱細胞化骨格の肺胞の構造を保ちながら、正常の肺胞構造を再現するように生着していた(図4)。また、腺がん細胞及び扁平上皮がん細胞のどちらも、再細胞化肺上に生着していた(図6)。そして、ヒト肺がん細胞であるPC-9細胞を用いた場合に、該細胞を注入した部位に白色の結節が認められた(図5)。肺がん細胞として腺がん細胞を注入した肺では、腺管様の構造体が形成され、また細胞中に粘液が含まれており(図8)、腺管様の構造体や細胞中にPeriodic Acid-Schiff染色で赤紫色に染まる粘液も認められた(図9)。また、PC-9細胞を用いた場合には、類円形の核と明るい胞体を持つがん細胞が隔壁を持った細胞集塊を作るが、扁平上皮がん細胞であるH520細胞を用いた場合には、胞体のない楕円形の核を持つがん細胞が肺胞隔壁を置換するように増生しており、明らかに病理像は異なっていた(図7)。このことから、用いる細胞の種類やその性格によって、浸潤形態が異なることが示唆される。従って、本発明の製法で製造した肺がんモデルは、自然発生の肺がんの病理組織学的所見を反映している、即ち自然発生の肺がんを再現していることが示された。さらには、がん細胞が進展していく様子を観察することもできた(図10)。
【0057】
<実施例3 組織学的分析(免疫染色)>
MUC-1は多くの固形がん細胞に発現されており、特にC末端側は複数の情報伝達に関連する分子との相互作用を通じて、がん細胞の増殖や浸潤能の促進、アポトーシスの抑制などに関与するとされている。一般的にMUC-1はがん細胞では発現量が増加し、正常な上皮細胞では細胞表面に極性を持って発現されているが、がん細胞では極性が失われてくるとされている(deporalized expression pattern)。そこで、MUC-1を指標として、本発明の製法で製造した肺がんモデルが、自然発生の肺がんを再現していることか否かを検証した。
【0058】
方法
免疫染色サンプル(2次元培養した肺癌細胞株(2D)、癌細胞を注入した再細胞化肺(3D))において、2Dは4%パラホルムアルデヒド(PFA)で10分間、3Dは4%PFAで24時間固定を行った。2Dについてはそのまま染色に使用するか時間が空く場合はPBS(-)に浸漬して4℃にて保存し、1週間以内に使用した。3Dについてはパラフィン包埋を行い、5μmの切片を作成し、染色に先立って脱パラフィン後、熱処理による抗原賦活化および内因性ペルオキシダーゼブロッキングを行った。2D・3DともにPBS(-)+5% normal goat serumでブロッキングを行った後に1次抗体(MUC1-C(D5K9I、1:400、Cell Signaling Technology、#16564))を4℃でover nightにて反応させた。続いて2次抗体を室温で1時間反応させたのちに、3, 3’-diaminobenzidine(DAB)にて発色させ、核染はヘマトキシリンにて行った。
【0059】
結果
注入したがん細胞としてA549細胞及びPC-9細胞のいずれを用いた場合においても、2Dでは、MUC-1はほとんど発現されていないが(図11左図、図12左図)、3Dでは、MUC-1の発現量が増加していた(図11右図、図12右図)。即ち、本発明の製法で製造した肺がんモデルが、二次元培養したがん細胞株よりも、より自然発生の肺がんを再現していると考えられる。
【0060】
<実施例4 抗がん剤への応答性の検証>
最後に、本発明の製法で製造した肺がんモデルが、自然発生の肺がんと同様の抗がん剤への応答性を有するか否かを検証した。
【0061】
方法
Gefitinibの投与
DMEM/F-12培地およびEGM-2を1:1で混じた培地合計140ml内に、gefitinibを100μg/mlになるようにジメチルスルホキシド(DMSO)で懸濁しフィルター滅菌を行ったgefitinib溶液を1.4μl加えて、gofitinibが1μMとなる培地を作製した。また換気用にDMEM/F-12培地60mlにgefitinib溶液0.6μlを加えてこちらも1μMとなるように調整した。A549およびPC-9を局所注入して播種させた再細胞化肺のサンプルを3日間培養後、培地をすべて吸引し、上記の通りに作製した1μMのgefitinibが含まれた培地を新たにバイオリアクター内及び換気用の瓶に入れ、48時間培養を行った。また、コントロールとしてgefitinibを加えずに同量のDMSOを加えた群も作製して同様に48時間培養を行った。
【0062】
免疫染色サンプル(がん細胞を注入した再細胞化肺(3D))を4%PFAで24時間固定を行った後にパラフィン包埋を行い、5μmの切片を作製した。脱パラフィン後、熱処理による抗原賦活化および内因性ペルオキシダーゼブロッキングを行った。続いてPBS(-)+5% normal goat serumでブロッキングを行った後に1次抗体(Ki67(SP6、1:1000、Abcam、ab16667))を4℃でover nightにて反応させた。続いて2次抗体を室温で1時間反応させたのちに、3, 3’-diaminobenzidine(DAB)にて発色させ、核染はヘマトキシリンにて行った。
【0063】
ヘマトキシリン・エオシン染色
サンプル(がん細胞を注入した再細胞化肺)を10%ホルマリン中で4時間固定し、脱水し、パラフィンに包埋し、5μmの切片とした後、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色を施行した。
【0064】
Ki67の陽性細胞の割合の算出
A549とPC-9を播種させた再細胞化肺をgefitinib投与群とcontrol群にわけてそれぞれn=3で合計12サンプル作製した。上記の通り免疫染色にてKi67を染色後、明らかな癌の部位を同定し、光学顕微鏡で400倍にてそれぞれ10視野をランダムに撮影した。画像解析ソフトであるImageJを用いてそれぞれの視野の全細胞数と陽性細胞数をcountし、陽性細胞率を算出した。各群のKi67陽性細胞率の統計学的有意差はt検定で算出し、p値<0.05を統計学的有意とした。
【0065】
結果
注入したがん細胞としてA549細胞(EGFRは野生型である)を用いた場合には、gefitinib投与の有無によって、細胞増殖マーカーであるKi67の発現の有意な差は認めらなかった(ただし、gefitinib投与によりKi67陽性細胞数の減少傾向は認められた)(図13図14)。一方で、注入したがん細胞としてPC-9細胞(EGFRは変異を有する)を用いた場合には、gefitinib投与により、Ki67の陽性細胞数は有意に減少する(即ち、増殖が抑制されている)ことが認められた(図13図14)。実験室レベルでは、gefitinibは正常構造のEGFRに対しても効果を示すことが報告されているが(Int J Cancer. 2001 Dec 15;94(6):774-82、Clin Cancer Res. 2001 Oct;7(10):2958-70)、実際の臨床では、腫瘍細胞のEGFR遺伝子が特殊な型の変異を伴っている場合に、ゲフィチニブは特に腫瘍縮小効果を示すことが報告されている(N Engl J Med. 2004 May 20;350(21):2129-39、Science. 2004 Jun 4;304(5676):1497-500)。従って、本実施例の結果は、既知の報告と合致するものであり、本発明の製法で製造した肺がんモデルが、自然発生の肺がんと同様の抗がん剤への応答性を有すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、三次元構造を有する疾患モデルを製造することができる。このようにして製造された疾患モデルは、疾患の生物学的メカニズムの解明、及び疾患の治療又は予防剤の効果のより正確な予測に用いることができる。
【0067】
本出願は、日本で出願された特願2019-014778(出願日:2019年1月30日)を基礎としており、その内容をすべて本明細書に包含されるものとする。
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