(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】無効電力補償装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/18 20060101AFI20240124BHJP
G05F 1/70 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
H02J3/18 164
G05F1/70 K
(21)【出願番号】P 2020136381
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 将樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴文
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-254428(JP,A)
【文献】特開2014-017963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
G05F 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流母線に接続され、前記三相交流母線への無効電力の出力を行う補償回路と、
前記補償回路から前記三相交流母線への無効電力の出力を制御する制御部と、
を備え、
前記補償回路は、前記三相交流母線に対してデルタ接続された三相の補償部を有し、
前記三相の補償部のそれぞれは、サイリスタスイッチと、前記サイリスタスイッチと直列に接続されたコンデンサと、を有し、
前記サイリスタスイッチは、一対の端子と、前記一対の端子の間に逆並列に接続された一対のサイリスタ素子と、を有し、
前記制御部は、前記三相の補償部のそれぞれの前記一対のサイリスタ素子と接続され、前記一対のサイリスタ素子のオンタイミングを制御することにより、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチをオン状態とオフ状態とに切り替え、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチを前記オン状態とすることにより、前記三相交流母線に進相の無効電力を出力するとともに、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチを前記オン状態から前記オフ状態に切り替える際に、
切り替えのタイミングの後に電流が0になる1つの前記サイリスタスイッチを前記オン状態から前記オフ状態に切り替えた後、前記オフ状態に切り替えた1つの前記サイリスタスイッチと前記コンデンサに充電される電圧の極性が逆極性となる別の前記サイリスタスイッチの前記オン状態から前記オフ状態への切り替えを、別の前記サイリスタスイッチに流れる電流の周期に対して半周期遅らせることにより、前記コンデンサに充電される電圧の極性が、前記三相の補償部のそれぞれの前記コンデンサで同じ極性となる順序で、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチをオフ状態にする無効電力補償装置。
【請求項2】
前記デルタ接続に沿った一巡経路における前記サイリスタスイッチ及び前記コンデンサの接続順序は、前記三相の補償部のそれぞれで同じである請求項1記載の無効電力補償装置。
【請求項3】
前記三相の補償部のそれぞれの前記サイリスタスイッチは、鉛直方向に積層して設けられ、
前記補償回路は、前記三相の補償部のそれぞれの前記サイリスタスイッチの間に設けられ、それぞれの前記サイリスタスイッチの相間の絶縁を確保する一対の相間絶縁支持碍子を、さらに有する
請求項1又は2に記載の無効電力補償装置。
【請求項4】
前記三相の補償部のそれぞれは、前記サイリスタスイッチ及び前記コンデンサと直列に接続されたリアクトルを、さらに有する
請求項1~3のいずれか1つに記載の無効電力補償装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無効電力補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流の電力系統に接続され、電力系統に無効電力を出力することにより、電力系統の電圧の変動を抑制する無効電力補償装置がある。こうした無効電力補償装置の1つとして、TSC(Thyristor Switched Capacitor)の回路方式が知られている。
【0003】
TSCの回路方式では、サイリスタスイッチのオフ時に、コンデンサの充電によって異なる相のサイリスタスイッチの端子間に大きさ電圧差が生じる。例えば、一般的なTSCの結線構成では、異なる相のサイリスタスイッチの端子間に、電力系統の交流電圧(線間電圧)のピーク値の3倍の電圧が印加される。このため、相間の絶縁距離を確保する必要があり、装置の大型化の要因となってしまう。
【0004】
TSCの結線構成を工夫することにより、サイリスタスイッチのオフ時に、異なる相のサイリスタスイッチの端子間に生じる電圧差を電力系統の交流電圧のピーク値の2倍の電圧まで抑制することも提案されている。しかしながら、無効電力補償装置では、サイリスタスイッチのオフ時に、異なる相のサイリスタスイッチの端子間に生じる電圧差をより抑制できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、サイリスタスイッチのオフ時に、異なる相のサイリスタスイッチの端子間に生じる電圧差を抑制できる無効電力補償装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によれば、三相交流母線に接続され、前記三相交流母線への無効電力の出力を行う補償回路と、前記補償回路から前記三相交流母線への無効電力の出力を制御する制御部と、を備え、前記補償回路は、前記三相交流母線に対してデルタ接続された三相の補償部を有し、前記三相の補償部のそれぞれは、サイリスタスイッチと、前記サイリスタスイッチと直列に接続されたコンデンサと、を有し、前記サイリスタスイッチは、一対の端子と、前記一対の端子の間に逆並列に接続された一対のサイリスタ素子と、を有し、前記制御部は、前記三相の補償部のそれぞれの前記一対のサイリスタ素子と接続され、前記一対のサイリスタ素子のオンタイミングを制御することにより、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチをオン状態とオフ状態とに切り替え、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチを前記オン状態とすることにより、前記三相交流母線に進相の無効電力を出力するとともに、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチを前記オン状態から前記オフ状態に切り替える際に、切り替えのタイミングの後に電流が0になる1つの前記サイリスタスイッチを前記オン状態から前記オフ状態に切り替えた後、前記オフ状態に切り替えた1つの前記サイリスタスイッチと前記コンデンサに充電される電圧の極性が逆極性となる別の前記サイリスタスイッチの前記オン状態から前記オフ状態への切り替えを、別の前記サイリスタスイッチに流れる電流の周期に対して半周期遅らせることにより、前記コンデンサに充電される電圧の極性が、前記三相の補償部のそれぞれの前記コンデンサで同じ極性となる順序で、前記三相の補償部の前記サイリスタスイッチをオフ状態にする無効電力補償装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
サイリスタスイッチのオフ時に、異なる相のサイリスタスイッチの端子間に生じる電圧差を抑制できる無効電力補償装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る無効電力補償装置を模式的に表す回路図である。
【
図2】実施形態に係る無効電力補償装置を模式的に表す説明図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(d)は、実施形態に係る無効電力補償装置の動作の一例を模式的に表すグラフである。
【
図4】
図4(a)~
図4(d)は、無効電力補償装置の参考の動作の一例を模式的に表すグラフである。
【0010】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る無効電力補償装置を模式的に表す回路図である。
図1に表したように、無効電力補償装置10は、補償回路12と、制御部14と、を備える。補償回路12は、三相交流電力の三相交流母線2に接続されている。三相交流母線2の電力は、より具体的には、対称三相交流電力である。三相交流母線2は、第1交流母線2aと、第2交流母線2bと、第3交流母線2cと、を有する。補償回路12は、第1交流母線2a、第2交流母線2b、及び第3交流母線2cのそれぞれと接続される。補償回路12は、三相交流母線2への無効電力の出力を行う。
【0012】
無効電力補償装置10は、補償回路12から三相交流母線2に無効電力を出力することにより、負荷の変動などにともなう三相交流母線2の電圧(実効値)の変動を抑制する。制御部14は、補償回路12の動作を制御する。換言すれば、制御部14は、補償回路12から三相交流母線2への無効電力の出力を制御する。
【0013】
補償回路12は、デルタ接続された三相の補償部20a、20b、20cを有する。補償部20a、20b、20cは、例えば、TSC(Thyristor Switched Capacitor)である。以下では、補償部20a、20b、20cをTSC20a、20b、20cとして説明を行う。TSC20aは、三相交流母線2の第1交流母線2aと第2交流母線2bとの間に設けられる。TSC20bは、三相交流母線2の第2交流母線2bと第3交流母線2cとの間に設けられる。TSC20cは、三相交流母線2の第3交流母線2cと第1交流母線2aとの間に設けられる。
【0014】
TSC20aは、サイリスタスイッチ21と、コンデンサ31と、リアクトル41と、を有する。サイリスタスイッチ21、コンデンサ31、及びリアクトル41は、第1交流母線2aと第2交流母線2bとの間に直列に接続されている。サイリスタスイッチ21は、一対の端子U、Xを有する。コンデンサ31は、サイリスタスイッチ21の一方の端子Uと第1交流母線2aとの間に設けられる。リアクトル41は、サイリスタスイッチ21の他方の端子Xと第2交流母線2bとの間に設けられる。
【0015】
TSC20bは、サイリスタスイッチ22と、コンデンサ32と、リアクトル42と、を有する。サイリスタスイッチ22、コンデンサ32、及びリアクトル42は、第2交流母線2bと第3交流母線2cとの間に直列に接続されている。サイリスタスイッチ22は、一対の端子V、Yを有する。コンデンサ32は、サイリスタスイッチ22の一方の端子Vと第2交流母線2bとの間に設けられる。リアクトル42は、サイリスタスイッチ22の他方の端子Yと第3交流母線2cとの間に設けられる。
【0016】
TSC20cは、サイリスタスイッチ23と、コンデンサ33と、リアクトル43と、を有する。サイリスタスイッチ23、コンデンサ33、及びリアクトル43は、第3交流母線2cと第1交流母線2aとの間に直列に接続されている。サイリスタスイッチ23は、一対の端子W、Zを有する。コンデンサ33は、サイリスタスイッチ23の一方の端子Wと第3交流母線2cとの間に設けられる。リアクトル43は、サイリスタスイッチ23の他方の端子Zと第1交流母線2aとの間に設けられる。
【0017】
このように、補償回路12の三相のTSC20a~20cにおいて、デルタ接続に沿った一巡経路におけるサイリスタスイッチ、コンデンサ、及びリアクトルの接続順序は、三相のTSC20a~20cのそれぞれで同じである。但し、サイリスタスイッチ、コンデンサ、及びリアクトルの接続順序は、上記に限定されるものではない。例えば、各TSC20a~20cのそれぞれにおいて、コンデンサ31~33とリアクトル41~43の位置は、入れ替えてもよい。また、各TSC20a~20cにおいて、リアクトル41~43は、省略してもよい。三相のTSC20a~20cのそれぞれは、サイリスタスイッチと、サイリスタスイッチと直列に接続されたコンデンサと、を少なくとも有していればよい。
【0018】
サイリスタスイッチ21は、一対の端子U、Xの間に逆並列に接続された一対のサイリスタ素子21a、21bを有する。サイリスタ素子21aは、換言すれば、端子Uから端子Xの方向に電流を流すU相のサイリスタ素子である。サイリスタ素子21bは、換言すれば、端子Xから端子Uの方向に電流を流すX相のサイリスタ素子である。
【0019】
サイリスタスイッチ22は、一対の端子V、Yの間に逆並列に接続された一対のサイリスタ素子22a、22bを有する。サイリスタ素子22aは、換言すれば、端子Vから端子Yの方向に電流を流すV相のサイリスタ素子である。サイリスタ素子22bは、換言すれば、端子Yから端子Vの方向に電流を流すY相のサイリスタ素子である。
【0020】
サイリスタスイッチ23は、一対の端子W、Zの間に逆並列に接続された一対のサイリスタ素子23a、23bを有する。サイリスタ素子23aは、換言すれば、端子Wから端子Zの方向に電流を流すW相のサイリスタ素子である。サイリスタ素子23bは、換言すれば、端子Zから端子Wの方向に電流を流すZ相のサイリスタ素子である。
【0021】
サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bは、例えば、複数のサイリスタ素子を直列に接続したサイリスタバルブである。
【0022】
図1では、図示を簡略化しているが、制御部14は、三相のTSC20a~20cのそれぞれのサイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bと接続される。制御部14は、制御信号(ゲートパルス信号)を各サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bに入力することにより、各サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bのオンタイミングを制御する。
【0023】
制御部14は、例えば、サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bに電流が流れる直前の状態でパルス状の制御信号をサイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bに入力する。これにより、サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bがオン状態になる。
【0024】
各サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bは、制御部14からの制御信号に応答してオン状態となった後、制御信号がオフになっている状態で流れる電流が0になることにより、オン状態からオフ状態に切り替わる。
【0025】
サイリスタ素子21a、21bのいずれか一方をオン状態とすることにより、サイリスタスイッチ21がオン状態となる。サイリスタスイッチ21のオン状態とは、換言すれば、サイリスタ素子21a、21bのいずれか一方に電流が流れている状態である。サイリスタスイッチ21のオフ状態とは、換言すれば、サイリスタ素子21a、21bのいずれにも電流が流れていない状態である。サイリスタスイッチ22、23のオン状態及びオフ状態についても、サイリスタスイッチ21と同様である。
【0026】
サイリスタスイッチ21がオン状態になると、コンデンサ31が、第1交流母線2aと第2交流母線2bとの間に接続される。サイリスタスイッチ22がオン状態になると、コンデンサ32が、第2交流母線2bと第3交流母線2cとの間に接続される。サイリスタスイッチ23がオン状態になると、コンデンサ33が、第3交流母線2cと第1交流母線2aとの間に接続される。
【0027】
このように、制御部14は、三相のTSC20a~20cのそれぞれのサイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bと接続され、サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bのオンタイミングを制御することにより、三相のTSC20a~20cのサイリスタスイッチ21~23をオン状態とオフ状態とに切り替え、三相のTSC20a~20cのサイリスタスイッチ21~23をオン状態とすることにより、三相交流母線2に進相の無効電力を出力する。換言すれば、制御部14は、無効電力補償装置10は、コンデンサ31~33を三相交流母線2に接続した状態と、コンデンサ31~33の三相交流母線2への接続を解除した状態と、を切り替えることにより、三相交流母線2に進相の無効電力を出力する。リアクトル41~43は、コンデンサ31~33を三相交流母線2に接続した際に、瞬間的に大きな電流がTSC20a~20cに流れてしまうことを抑制する。
【0028】
図2は、実施形態に係る無効電力補償装置を模式的に表す説明図である。
図2に表したように、補償回路12は、一対の相間絶縁支持碍子51、52と、対地間絶縁支持碍子53と、ベース部54と、をさらに有する。
【0029】
三相のTSC20a~20cのそれぞれのサイリスタスイッチ21~23は、ベース部54の上に鉛直方向に積層して設けられる。一対の相間絶縁支持碍子51、52は、サイリスタスイッチ21~23のそれぞれの間に設けられる。
【0030】
例えば、サイリスタスイッチ23が、対地間絶縁支持碍子53を介してベース部54の上に設けられ、サイリスタスイッチ22が、相間絶縁支持碍子52を介してサイリスタスイッチ23の上に設けられ、サイリスタスイッチ21が、相間絶縁支持碍子51を介してサイリスタスイッチ22の上に設けられる。この例では、相間絶縁支持碍子51が、サイリスタスイッチ21とサイリスタスイッチ22との間に設けられ、相間絶縁支持碍子52が、サイリスタスイッチ22とサイリスタスイッチ23との間に設けられる。
【0031】
これにより、サイリスタスイッチ21とサイリスタスイッチ22との間は、相間絶縁支持碍子51によって絶縁される。サイリスタスイッチ22とサイリスタスイッチ23との間は、相間絶縁支持碍子52によって絶縁される。また、サイリスタスイッチ23とベース部54との間は、対地間絶縁支持碍子53によって絶縁される。相間絶縁支持碍子51、52は、換言すれば、三相のTSC20a~20cのそれぞれのサイリスタスイッチ21~23の相間の絶縁を確保する。対地間絶縁支持碍子53は、換言すれば、サイリスタスイッチ23の対地間絶縁を確保する。
【0032】
相間絶縁支持碍子51は、例えば、サイリスタスイッチ21、22の四隅に設けられる4つの碍子を有する。このように、相間絶縁支持碍子51は、複数の碍子で構成してもよい。相間絶縁支持碍子51を構成する碍子の数は、4つに限ることなく、任意の数でよい。相間絶縁支持碍子51は、1つの碍子で構成してもよい。相間絶縁支持碍子52及び対地間絶縁支持碍子53の構成についても、相間絶縁支持碍子51と同様である。
【0033】
サイリスタスイッチ21とサイリスタスイッチ22との間において、端子Uと端子Vとの間の端子間電圧VUVは、相間絶縁支持碍子51の両端に印加される。端子Xと端子Yとの間にも、同等の端子間電圧が印加される。以下では、端子Uと端子Vとの間の距離、及び端子Xと端子Yとの間の距離を、相間距離Dabと称す。
【0034】
サイリスタスイッチ22とサイリスタスイッチ23との間において、端子Vと端子Wとの間の端子間電圧VVWは、相間絶縁支持碍子52の両端に印加される。端子Yと端子Zとの間にも、同等の端子間電圧が印加される。以下では、端子Vと端子Wとの間の距離、及び端子Yと端子Zとの間の距離を、相間距離Dbcと称す。
【0035】
サイリスタスイッチ23とサイリスタスイッチ21との間において、端子Wと端子Uとの間の端子間電圧VWUは、相間絶縁支持碍子51及び相間絶縁支持碍子52の両端に印加される。端子Zと端子Xとの間にも、同等の端子間電圧が印加される。以下では、端子Wと端子Uとの間の距離、及び端子Zと端子Xとの間の距離を、相間距離Dcaと称す。
【0036】
図3(a)~
図3(d)は、実施形態に係る無効電力補償装置の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図3(a)は、コンデンサ31に流れる電流Ica、コンデンサ32に流れる電流Icb、及びコンデンサ33に流れる電流Iccの一例を模式的に表す。
図3(b)は、サイリスタスイッチ21の両端間の電圧V
UX、サイリスタスイッチ22の両端間の電圧V
VY、及びサイリスタスイッチ23の両端間の電圧V
WZの一例を模式的に表す。
図3(c)は、端子Uと端子Vとの間の端子間電圧V
UV、端子Vと端子Wとの間の端子間電圧V
VW、及び端子Wと端子Uとの間の端子間電圧V
WUの一例を模式的に表す。
図3(d)は、端子Xと端子Yとの間の端子間電圧V
XY、端子Yと端子Zとの間の端子間電圧V
YZ、及び端子Zと端子Xとの間の端子間電圧V
ZXの一例を模式的に表す。
なお、
図3(a)~
図3(d)では、サイリスタ素子21a、22a、23a(U相、V相、W相)に流れる電流の方向を正の方向として図示している。
【0037】
図3(a)~
図3(d)は、時刻t0~時刻t1の間において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態とし、時刻t1においてサイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える場合の、無効電力補償装置10の動作の一例を模式的に表している。
【0038】
制御部14は、制御信号を各サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bに入力し、各サイリスタ素子21a、21b、22a、22b、23a、23bのオンタイミングを制御することにより、サイリスタスイッチ21~23に電流を流す(
図3(a)~
図3(d)の時刻t0~時刻t1)。
【0039】
時刻t0~時刻t1においては、コンデンサ31~33が、三相交流母線2に接続され、三相交流母線2の線間電圧に応じた電流Ica、Icb、Iccが、コンデンサ31~33に流れる。この際、コンデンサ31~33は、三相交流母線2の線間電圧のピーク値に応じた電圧に充電される。
【0040】
また、サイリスタスイッチ21~23がオン状態になっている場合には、サイリスタスイッチ21~23の両端間の電圧VUX、電圧VVY、電圧VWZが、実質的に0になる。さらに、サイリスタスイッチ21~23がオン状態になっている場合には、サイリスタスイッチ21~23の各端子間電圧VUV、VVW、VWU、VXY、VYZ、VZXのそれぞれが、三相交流母線2の線間電圧に応じた電圧となる。
【0041】
制御部14は、時刻t1においてサイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える。
図3(a)~
図3(d)では、U相のサイリスタ素子21aに流れる電流が0になる直前において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える例を表している。
【0042】
サイリスタスイッチ21~23のオン状態からオフ状態への切り替えのタイミングは、制御部14の内部の制御に基づくタイミングでもよいし、外部から入力される指令に基づくタイミングなどでもよい。換言すれば、制御部14は、無効電力の出力の有無を自身で判断し、自身の判断に基づいてサイリスタスイッチ21~23のオン状態及びオフ状態を切り替えてもよいし、上位のコントローラなどから入力される指令に基づいて、サイリスタスイッチ21~23のオン状態及びオフ状態を切り替えてもよい。
【0043】
時刻t1においては、U相のサイリスタ素子21aに電流が流れているとともに、V相のサイリスタ素子22a及びZ相のサイリスタ素子23bに電流が流れている。この際、制御部14は、U相のサイリスタ素子21a、及びU相のサイリスタ素子21aと同じ極性のV相のサイリスタ素子22aについては、時刻t1において制御信号の入力を停止する。
【0044】
これにより、U相のサイリスタ素子21aに流れる電流が0になった時刻t2においてサイリスタスイッチ21がオフ状態となり、V相のサイリスタ素子22aに流れる電流が0になった時刻t3においてサイリスタスイッチ22がオフ状態となる。
【0045】
一方、制御部14は、U相のサイリスタ素子21aと逆極性のZ相のサイリスタ素子23bに電流が流れているサイリスタスイッチ23については、オフ状態とするタイミングをサイリスタスイッチ23に流れる電流の周期に対して半周期遅らせる。
【0046】
制御部14は、Z相のサイリスタ素子23bで制御信号の入力を停止することなく、W相のサイリスタ素子23aに電流が流れた後、サイリスタ素子23a、23bへの制御信号の入力を停止する。これにより、W相のサイリスタ素子23aに流れる電流が0になった時刻t4においてサイリスタスイッチ23がオフ状態となる。
【0047】
このように、制御部14は、U相のサイリスタ素子21aに流れる電流が0になる直前において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える場合には、U相-V相-W相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0048】
すなわち、制御部14は、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える際に、コンデンサ31~33に充電される電圧の極性が、三相のTSC20a~20cのそれぞれのコンデンサ31~33で同じ極性となる順序で、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0049】
制御部14は、V相のサイリスタ素子22aに流れる電流が0になる直前において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える場合には、例えば、V相-W相-U相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0050】
制御部14は、W相のサイリスタ素子23aに流れる電流が0になる直前において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える場合には、例えば、W相-U相-V相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0051】
制御部14は、X相のサイリスタ素子21bに流れる電流が0になる直前において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える場合には、例えば、X相-Y相-Z相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0052】
制御部14は、Y相のサイリスタ素子22bに流れる電流が0になる直前において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える場合には、例えば、Y相-Z相-X相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0053】
制御部14は、Z相のサイリスタ素子23bに流れる電流が0になる直前において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える場合には、例えば、Z相-X相-Y相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0054】
このように、制御部14は、例えば、三相のTSC20a~20cのサイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える際に、切り替えのタイミングの後に電流が0になる1つのサイリスタスイッチをオン状態からオフ状態に切り替えた後、オフ状態に切り替えた1つのサイリスタスイッチとコンデンサ31~33に充電される電圧の極性が逆極性となる別のサイリスタスイッチのオン状態からオフ状態への切り替えを、別のサイリスタスイッチに流れる電流の周期に対して半周期遅らせることにより、コンデンサ31~33に充電される電圧の極性が同じ極性となるようにする。
【0055】
三相交流母線2の線間電圧のピーク値をVpとする時、U相-V相-W相、V相-W相-U相、及びW相-U相-V相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする場合には、コンデンサ31~33のそれぞれに正極性のピーク電圧(+Vp)が充電される。一方、X相-Y相-Z相、Y相-Z相-X相、及びZ相-X相-Y相の順に、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする場合には、コンデンサ31~33のそれぞれに負極性のピーク電圧(-Vp)が充電される。
【0056】
このように、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする順序は、コンデンサ31~33のそれぞれに正極性のピーク電圧を充電する順序でもよいし、コンデンサ31~33のそれぞれに負極性のピーク電圧を充電する順序でもよい。
【0057】
また、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする順序は、上記に限ることなく、コンデンサ31~33に充電される電圧の極性が、コンデンサ31~33のそれぞれで同じ極性となる任意の順序でよい。但し、上記の順序でサイリスタスイッチ21~23をオフ状態にすることにより、例えば、サイリスタスイッチ21~23がオン状態からオフ状態に切り替わるタイミングの遅れを抑制することができる。例えば、三相のうちの一つの相を半周期遅らせるだけで、コンデンサ31~33に充電される電圧を同じ極性にしつつ、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にすることができる。
【0058】
図3(a)の時刻t4以降に表したように、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にすると、コンデンサ31~33に流れる電流Ica、Icb、Iccが、実質的に0になる。
【0059】
図3(b)の時刻t4以降に表したように、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にすると、サイリスタスイッチ21~23の両端間の電圧V
UX、電圧V
VY、電圧V
WZは、三相交流母線2の線間電圧にコンデンサ31~33の充電電圧(Vp)を重畳した電圧となる。
【0060】
図3(c)の時刻t4以降に表したように、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にすると、サイリスタスイッチ21~23の各端子間電圧V
UV、V
VW、V
WUは、三相交流母線2の線間電圧に応じた電圧となる。三相交流母線2の線間電圧のピーク値を1pu(per unit)とする時、各端子間電圧V
UV、V
VW、V
WUのピーク値は、1puである。
【0061】
図3(d)の時刻t4以降に表したように、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にすると、サイリスタスイッチ21~23の各端子間電圧V
XY、V
YZ、V
ZXも同様に、三相交流母線2の線間電圧に応じた電圧となる。各端子間電圧V
XY、V
YZ、V
ZXのピーク値は、1puである。
【0062】
図4(a)~
図4(d)は、無効電力補償装置の参考の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図4(a)~
図4(d)の表すものは、それぞれ
図3(a)~
図3(d)表すものと同様である。
【0063】
図4(a)~
図4(d)では、時刻t10~時刻t11の間において、サイリスタスイッチ21~23をオン状態とし、時刻t11においてサイリスタスイッチ21~23の全ての制御信号の入力を停止した場合の動作の一例を模式的に表している。
【0064】
図4(a)~
図4(d)に表したように、時刻t11においてサイリスタスイッチ21~23の全ての制御信号の入力を停止した場合には、U相のサイリスタ素子21aに流れる電流が0になった時刻t12においてサイリスタスイッチ21がオフ状態となり、Z相のサイリスタ素子23bに流れる電流が0になった時刻t13においてサイリスタスイッチ23がオフ状態となり、V相のサイリスタ素子22aに流れる電流が0になった時刻t14においてサイリスタスイッチ22がオフ状態となる。
【0065】
このように、所定のタイミングでサイリスタスイッチ21~23の全ての制御信号の入力を停止した場合には、三相のうちの一つの相が、逆極性となる。より具体的には、U相のサイリスタ素子21aに流れる電流が0になる直前に全ての制御信号の入力を停止した場合には、U相-Z相-V相の順でサイリスタスイッチ21~23がオフ状態となり、V相のサイリスタ素子22aに流れる電流が0になる直前に全ての制御信号の入力を停止した場合には、V相-X相-W相の順でサイリスタスイッチ21~23がオフ状態となり、W相のサイリスタ素子23aに流れる電流が0になる直前に全ての制御信号の入力を停止した場合には、W相-Y相-U相の順でサイリスタスイッチ21~23がオフ状態となり、X相のサイリスタ素子21bに流れる電流が0になる直前に全ての制御信号の入力を停止した場合には、X相-W相-Y相の順でサイリスタスイッチ21~23がオフ状態となり、Y相のサイリスタ素子22bに流れる電流が0になる直前に全ての制御信号の入力を停止した場合には、Y相-U相-Z相の順でサイリスタスイッチ21~23がオフ状態となり、Z相のサイリスタ素子23bに流れる電流が0になる直前に全ての制御信号の入力を停止した場合には、Z相-V相-X相の順でサイリスタスイッチ21~23がオフ状態となる。
【0066】
サイリスタスイッチ21~23のコンデンサ31~33と接続された側の各端子間電圧VUV、VVW、VWUは、下記の(1)~(3)式で表すことができる。
VUV=VSab+Vca-Vcb … (1)
VVW=VSbc+Vcb-Vcc … (2)
VWU=VSca+Vcc-Vca … (3)
ここで、VSabは、第1交流母線2aと第2交流母線2bとの間の線間電圧である。VSbcは、第2交流母線2bと第3交流母線2cとの間の線間電圧である。VScaは、第3交流母線2cと第1交流母線2aとの間の線間電圧である。Vcaは、コンデンサ31の電圧である。Vcbは、コンデンサ32の電圧である。Vccは、コンデンサ33の電圧である。
【0067】
図4(a)~
図4(d)に表した例では、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態とした際に、コンデンサ31、32に正極性のピーク電圧(+Vp)が充電され、コンデンサ33に負極性のピーク電圧(-Vp)が充電される。すなわち、Vca=+Vp、Vcb=+Vp、Vcc=-Vpとすると、上記の(1)~(3)式から各端子間電圧V
UV、V
VW、V
WUのピーク値は、下記の(4)~(6)式のようになる。
V
UV=Vp … (4)
V
VW=3・Vp … (5)
V
WU=3・Vp … (6)
(4)~(6)式及び
図4(a)~
図4(d)の時刻t14以降に表したように、所定のタイミングでサイリスタスイッチ21~23の全ての制御信号の入力を停止した場合には、各端子間電圧V
UV、V
VW、V
WUのいずれかのピーク値が、三相交流母線2の線間電圧のピーク値Vpの3倍(3pu)となってしまう。
【0068】
これに対して、本実施形態に係る無効電力補償装置10では、制御部14が、サイリスタスイッチ21~23をオン状態からオフ状態に切り替える際に、コンデンサ31~33に充電される電圧の極性が、三相のTSC20a~20cのそれぞれのコンデンサ31~33で同じ極性となる順序で、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態にする。
【0069】
例えば、
図3(a)~
図3(d)に表した例では、Vca=+Vp、Vcb=+Vp、Vcc=+Vpとなる。この場合、上記の(1)~(3)式から各端子間電圧V
UV、V
VW、V
WUのピーク値は、線間電圧VSab、VSbc、VScaの分のみとなるから、下記の(7)~(9)式のようになる。
V
UV=Vp … (7)
V
VW=Vp … (8)
V
WU=Vp … (9)
(7)~(9)式及び
図3(a)~
図3(d)の時刻t4以降に表したように、コンデンサ31~33に充電される電圧の極性が、コンデンサ31~33のそれぞれで同じ極性となる順序で、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態とした場合には、各端子間電圧V
UV、V
VW、V
WUのピーク値を、三相交流母線2の線間電圧のピーク値Vp(1pu)に抑えることができる。
【0070】
また、サイリスタスイッチ21~23をオフ状態とした場合に、サイリスタスイッチ21~23のコンデンサ31~33と接続されていない側の各端子間電圧V
XY、V
YZ、V
ZXのピーク値は、コンデンサ31~33の影響を受けないため、
図3(d)及び
図4(d)に表したように、三相交流母線2の線間電圧のピーク値Vp(1pu)となる。
【0071】
このように、本実施形態に係る無効電力補償装置10では、サイリスタスイッチ21~23のオフ時に、異なる相のサイリスタスイッチ21~23の端子間に生じる電圧差を抑制することができる。具体的には、各端子間電圧VUV、VVW、VWUのピーク値を、三相交流母線2の線間電圧のピーク値Vp(1pu)に抑えることができる。
【0072】
従って、
図4(a)~
図4(d)に表したように、各端子間電圧V
UV、V
VW、V
WUのピーク値が、三相交流母線2の線間電圧のピーク値Vpの3倍(3pu)となる場合などと比べて、相間距離D
ab、相間距離D
bc、相間距離D
caを短くすることができる。例えば、相間絶縁支持碍子51、52、及び対地間絶縁支持碍子53の鉛直方向の長さ(高さ)を短くすることができる。これにより、無効電力補償装置10の小型化を図ることができる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
2 三相交流母線、 2a 第1交流母線、 2b 第2交流母線、 2c 第3交流母線、 10 無効電力補償装置、 12 補償回路、 14 制御部、 20a~20c TSC(補償部)、 21 サイリスタスイッチ、 21a サイリスタ素子、 21b サイリスタ素子、 22 サイリスタスイッチ、 22a サイリスタ素子、 22b サイリスタ素子、 23 サイリスタスイッチ、 23a サイリスタ素子、 23b サイリスタ素子、 31~33 コンデンサ、 41~43 リアクトル、 51、52 相間絶縁支持碍子、 53 対地間絶縁支持碍子、 54 ベース部