(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】流路構造
(51)【国際特許分類】
F16L 43/00 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
F16L43/00
(21)【出願番号】P 2019153420
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏又 智明
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103411077(CN,A)
【文献】特開2009-144480(JP,A)
【文献】特開2001-116182(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1344879(CN,A)
【文献】特開昭62-007522(JP,A)
【文献】特表2006-506247(JP,A)
【文献】特開2018-123882(JP,A)
【文献】中国実用新案第203431369(CN,U)
【文献】特開2019-025710(JP,A)
【文献】登録実用新案第3220335(JP,U)
【文献】韓国登録実用新案第20-0309127(KR,Y1)
【文献】独国実用新案第202017102366(DE,U1)
【文献】特開2019-163684(JP,A)
【文献】特開2020-056456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が異なる向きに延びる複数の流路が互いに接続され、一方の前記流路と他方の前記流路との接続部分
に流路内角部が形成された継手本体と、
前記流路内角部に隣接して配置され、一方の前記流路と他方の前記流路とを湾曲した湾曲流路内壁面で連結するアダプタと、
を有
し、
前記アダプタは、
前記流路に挿入される筒状部を備え、前記筒状部の軸方向一端側に流路内側に向けて突出して前記湾曲流路内壁面を形成する突起を有している、
流路構造。
【請求項2】
前記流路内角部は、一方の前記流路と他方の前記流路とが互いに直角に接続されることで構成されている、請求項1に記載の流路構造。
【請求項3】
前記アダプタには保持部が設けられ、
流路内面には、前記保持部と係合して前記アダプタを流路内部に保持する被保持部が設けられている、
請求項1または請求項2に記載の流路構造。
【請求項4】
前記筒状部の外周部に前記保持部が設けられている、
請求項3に記載の流路構造。
【請求項5】
第1の方向に延びる前記流路と、前記第1の方向とは反対方向である第2の方向に延びる前記流路と、前記第1の方向、及び前記第2の方向とは直交する第3の方向に延びる前記流路とを備えている、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の流路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を流す流路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、排水を流す配管を接続する管継手として、屈曲部の両側に直線部を有した合成樹脂製のエルボと呼ばれる屈曲形状の管継手が知られている。
【0003】
屈曲形状の管継手を成型する従来一般的な金型として、管継手の外形を形成するための上型、及び下型と、屈曲形状の中央部を境にして管継手の一方側の流路を形成する第1のスライドピンと、他方側の流路を形成する第2のスライドピンとを備えているものがある。
【0004】
第1のスライドピン、及び第2のスライドピンは、軸方向にスライドするように金型に設けられている。このため、屈曲部の内部の流路は、第1のスライドピン、及び第2のスライドピンが、成型後の管継手から引き抜きできるように、逆テーパとならないように形成する必要がある。
【0005】
即ち、第1のスライドピン、及び第2のスライドピンは、中心軸から外周面までの半径方向の距離が、軸方向に一定か、ピン先端側へ向けて小になる(言い換えれば、先細り形状)ように形成する必要がある。
【0006】
このため、第1のスライドピン、及び第2のスライドピンは、屈曲部の屈曲外側の壁面を形成する部分は、上記半径方向の距離が先端に向けて徐々に小となるように湾曲しているが、屈曲内側を形成する部分は、成型された継手から引き抜き可能とするため、直線状に形成せざるを得ない。
【0007】
したがって、上記の様に構成された第1のスライドピンと、第1のスライドピンと直交する方向にスライドする第2のスライドピンとで形成された屈曲部の流路は、屈曲外側は湾曲面となるが、屈曲内側は第1のスライドピンの直線部分と第2のスライドピンの直線部分とが突き当たるため直角な角部となる。
【0008】
したがって、この管継手に流体、例えば水を流すと、屈曲外側では、水は湾曲面に沿って比較的滑らかに流れの向きが変更されるが、屈曲内側では角部によって流れの方向が急激に変更されて渦が生じて抵抗となり、圧力損失が大きくなる問題がある。
【0009】
そこで、圧力損失を少なくする管継手が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献には、管継手について2つの製造方法が開示されている。第1の製造方法は、直線状に引き抜き可能な直線形状のピン(所謂スライドピン)の先端に、ピンの本体から円弧形状にスライド可能な湾曲形状の可動ブロックを設け、屈曲部分の流路は可動継手で成型し、直線部分の流路は直線形状のピンで成型する金型を用いて管継手を成型する。しかしながら、第1の製造方法では、ピンの構成が複雑で、金型を構成する部品の点数が多い。
【0012】
第2の製造方法は、全体が湾曲した筒状のインサートを金型に配置して、金型内のキャビティに溶融した樹脂を射出し、インサートと樹脂とを一体化している。しかしながら、管継手を成型する際に、金型に湾曲したインサートをプリセットする手間が掛かる。また、全体が湾曲した筒状のインサートを合成樹脂で成型する場合、湾曲した流路を形成するために、湾曲したピンを湾曲方向にスライドする機構が金型に必要となり、直線状にピンをスライドさせる金型に比較して、金型の構造が複雑となり、かつ高い精度が必要となる。
このように、第1の製造方法、第2の製造方法、いずれにしても製造面で改善の余地がある。
【0013】
本発明は上記事実を考慮し、圧力損失が小さく、異なる方向に延びる複数の流路が接続された製造が容易な流体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様に係る流路構造は、各々が異なる向きに延びる複数の流路が互いに接続され、一方の前記流路と他方の前記流路との接続部分に形成される流路内角部と、前記流路内角部に隣接して配置され、一方の前記流路と他方の前記流路とを湾曲した湾曲流路内壁面で連結するアダプタと、を有する。
【0015】
第1の態様に係る流路構造では、各々が異なる向きに延びる複数の流路が互いに接続されることで、流路内に、一方の流路と他方の流路との接続部分に流路内角部が形成されている。
【0016】
流路内角部にアダプタが隣接して配置されることで、一方の流路と他方の流路とが湾曲した湾曲流路内壁面で連結され、湾曲した湾曲流路内壁面に沿って流体が流れる。したがって、流路内角部で流れの向きが急激に変更される場合に比較して、流体の流れがスムーズになり、圧力損失が小さくなる。
【0017】
アダプタは、流路構造を構成する部材に対して別部品として成型して、流路構造を構成する部材に対して後から取り付ければよいので、流路構造を構成する部材を成型する工程では、従来技術のようにインサートを位置決めしてプリセットする作業は必要無く、従来技術に対して、流路構造を構成する部材を成型する際の手間は少なくなる。
【0018】
また、角部の無い屈曲した流路を形成するために、流路構造を構成する部材を成型する金型に、従来技術の様な先端に湾曲形状の可動ブロックを設けた複雑な構造のピンを設ける必要がなく、シンプルな構造の金型にすることができる。
【0019】
(角部の定義)
なお、本発明において、角部とは、互いに異なる方向に延びる流路が接続される部分に形成され、言い換えれば、先端が尖っている形状の部分を意味するが、小さな面取り、一例として、流路の内径に対して10%以下の面取り寸法を有するC面取り、またはR面取り等が先端に形成されている場合も、本発明における角部とする。
【0020】
第2の態様に係る流路構造は、第1の態様に係る流路構造において、前記流路内角部は、一方の前記流路と他方の前記流路とが互いに直角に接続されることで構成されている。
【0021】
第2の態様に係る流路構造では、一方の流路と他方の流路とが互いに直角に接続されているので、一方の流路から流入した流体の向きを90°変えて他方の流路から排出することができる。
【0022】
一方の流路と他方の流路とが互いに直角に接続されることで形成される流路内角部の角度は直角となるため、アダプタが無い場合には、該流路内角部によって流体の流れ向きが90°に急激に変えられて大きな圧力損失を生じるが、請求項2の流路構造では、大きな圧力損失の原因となる直角の流路内角部が形成されていても、該流路内角部に隣接してアダプタを設けることで、圧力損失は小さくなる。
【0023】
第3の態様に係る流路構造は、第1の態様または第2の態様に係る流路構造において、前記アダプタは、流路内側に向けて突出して前記湾曲流路内壁面を形成する突起を有している。
【0024】
第3の態様に係る流路構造では、流路内側に向けて突出する突起が、湾曲流路内壁面を形成する。
【0025】
第4の態様に係る流路構造は、第1の態様~第2の態様の何れか1つに係る流路構造において、前記アダプタには保持部が設けられ、流路内面には、前記保持部と係合して前記アダプタを流路内部に保持する被保持部が設けられている。
【0026】
第4の態様に係る流路構造では、アダプタに設けられた保持部と、流路内面に設けられた被保持部とを係合することで、アダプタを流路内部に保持することができる。したがって、接着剤等を用いることなくアダプタを流路内部に容易に保持することができる。
【0027】
第5の態様に係る流路構造は、第3の態様に従属する第4の態様に係る流路構造において、前記アダプタは、前記流路に挿入される筒状部を備え、前記筒状部の軸方向一端側に前記突起が設けられ、前記筒状部の外周部に前記保持部が設けられている。
【0028】
第5の態様に係る流路構造では、アダプタに備えられた筒状部が流路に挿入されることで、筒状部の軸方向一端に設けられた突起で湾曲流路内壁面が形成される。
また、筒状部が流路に挿入されることで、筒状部の外周部に設けられた保持部が流路内面に設けられた被保持部に係合して、アダプタが流路内部に保持される。
【0029】
第6の態様に係る流路構造は、第1の態様~第5の態様の何れか1つに記載の流路構造において、第1の方向に延びる前記流路と、前記第1の方向とは反対方向である第2の方向に延びる前記流路と、前記第1の方向及び前記第2の方向とは直交する第3の方向に延びる1または2つの前記流路とを備えている。
【0030】
第6の態様に係る流路構造では、3つ、または4つの異なる方向に延びる流路を備えているので、例えば、1つの流路に流した流体を2つ、または3つの流路に分配することができる。また、一方の流路と一方の流路に隣接する他方の流路とが接続されて形成される流路内角部に隣接してアダプタが取り付けられるので、一方の流路から他方の流路へ、また他方の流路から一方の流路へ流体が流れる際の圧力損失を小さくできる。
【0031】
なお、3つの異なる方向に延びる流路が接続された流路構造は、一例としてT字形状に形成され、4つの異なる方向に延びる流路が接続された流路構造は、一例として十字形状に形成されているものである。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように本発明の流路構造によれば、圧力損失が小さく、異なる方向に延びる複数の流路が接続された製造が容易な流体構造を得ることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る管継手を示す、一部を断面にした側面図である。
【
図3】継手本体を示す第1直線部側から見た側面図である。
【
図4】継手本体、及びアダプタを示す分解斜視図である。
【
図5】アダプタが挿入された継手本体を示す第1直線部側から見た側面図である。
【
図6】(A)はアダプタを示す側面図であり、(B)はアダプタを示す正面図であり、(C)はアダプタを示す軸線に沿った断面図である。
【
図7】第2の実施形態に係る管継手を示す軸線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1~
図6を用いて、本発明の流路構造が適用された一実施形態に係る管継手10について説明する。なお、本実施形態において、円形とは真円(半径に関して、例えば、±5%程度の寸法公差は許容する)を意味し、非円形とは、楕円形等の真円ではない形状を意味する。
【0035】
図1に示すように、本実施形態の管継手10は、一例として、給水等に用いられる配管を接続するものであり、側面視でL字状に形成された所謂エルボ管継手である。
【0036】
(管継手の全体構成)
管継手10は、継手本体12、キャップ14、シール部材16、スペーサ18、保持リング20、ロックリング22、アダプタ24等を含んで構成されている。
【0037】
図2に示すように、本実施形態の継手本体12は、一例として合成樹脂の成形品であり、円筒形状で直線状に延びる第1直線部26と、円筒形状で第1直線部26と直交する方向に直線状に延びる第2直線部28と、第1直線部26と第2直線部28を繋ぐ筒状の屈曲部30とを有し、側面視でL字形状に形成されている。
【0038】
第1直線部26と第2直線部28とは同一構成、同一寸法であるため、以後、第1直線部26について説明する。なお、第2直線部28について、第1直線部26と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0039】
図2に示すように、第1直線部26の内部には、第1直線部26の開口側(屈曲部30とは反対側)に軸方向直角断面が円形で軸方向に一定径とされた第1収容部32が設けられ、第1収容部32の奥側(屈曲部30側)に第1収容部32よりも若干小径とされ軸方向直角断面が円形で軸方向に一定径とされた第2収容部34が設けられている。このため、継手本体12の内部には、第1収容部32と第2収容部34との間に第1段部36が形成されている。
【0040】
屈曲部30の内部には、軸線に沿った断面視で、屈曲した屈曲流路38が設けられている。屈曲流路38の屈曲内側には角部38Aが設けられ、屈曲外側には湾曲した屈曲外側湾曲流路面38Bが設けられている。
【0041】
図3に示すように、第1直線部26の軸線26CLの向から見た屈曲流路38の端部の形状(軸直角断面形状)は、軸線26CLを挟んで屈曲外側湾曲流路面38B側の半分が半径rの半円形であるが、軸線26CLを挟んで屈曲外側湾曲流路面38B側とは反対側の半分が非半円形(略楕円形の半分の形状)であり、全体として略楕円形である。
【0042】
なお、本実施形態の屈曲流路38は、一例として、角部38A側の半分の軸直角断面形状が、屈曲流路38の端部から軸方向中央部に向けて徐々に半円形に近づいており、屈曲流路38の軸直角断面形状は、全体的に見て、端部から軸方向中央部に向けて略楕円形から略円形に滑らかに変化している。
【0043】
屈曲流路38の端部における内径(開口面積)は第1直線部26の第2収容部34の内径(開口面積)よりも小さくなっている。このため、継手本体12の内部には、屈曲流路38と第2収容部34との間に第2段部40が形成されている。
【0044】
(アダプタ)
図1、及び
図4,5に示すように、第1直線部26の第2収容部34、及び屈曲流路38には、継手本体12とは別体とされた
図6に示すアダプタ24が挿入されている。本実施形態のアダプタ24は、一例として合成樹脂の成形品である。
【0045】
図1、及び
図6に示すように、アダプタ24は、第1直線部26の第2収容部34に挿入される円筒状の本体部42を備えている。本体部42は、第2収容部34に挿入できるように、その外径が第2収容部34の内径よりも若干小径とされている。本体部42は、配管44(
図1参照)が挿入できるように、その内径が配管44の外径よりも若干大径とされている。
【0046】
本体部42の一端側には、環状の壁部46が一体的に形成されている。壁部46には、本体部42の内径よりも小径で、配管44の内径と同一径とされた円形孔48が、本体部42と同軸的に形成されている。
【0047】
壁部46の外面(本体部42とは反対側の面)には、突起50が一体的に形成されている。
図6(B)に示すように、突起50は、軸方向から見て湾曲している。また、
図6(C)に示すように、突起50の内周面50Aは、円弧状に湾曲している。
【0048】
一方、継手本体12の屈曲部30の内周面には、
図2~4に示すように、突起50が嵌合する凹部39が形成されている。したがって、突起50を凹部39に挿入して嵌合させることで、突起50の取り付けの向きが定められる、言い換えれば、位置決めされる。
【0049】
本実施形態では、突起50を凹部39に挿入して嵌合させることで、一方のアダプタ24の突起50の先端と、他方のアダプタ24の突起50の先端とを互いに接触させることができる。
【0050】
図6(C)、(B)に示すように、突起50の内周面50Aは、壁部46の円形孔48の内周面に段差無く滑らかに繋がっており、該内周面50Aの軸直角断面形状は、円形孔48の内周面と同じ曲率半径rの円弧形状、言い換えれば半円形状となっており、円形孔48から突起50の先端まで、半径rの円弧形状とされている。
【0051】
図1に示すように、第2直線部28にもアダプタ24が挿入されており、第1直線部26に挿入した一方のアダプタ24の突起50と、第2直線部28に挿入した他方のアダプタ24の突起50とは、互いに先端同士が接触している。
【0052】
図4、及び
図6(A)、(B)に示すように、アダプタ24の本体部42の外周部には、軸方向に沿って延びる突起52が一対形成されている。
図4、5に示すように、本体部42が挿入される継手本体12の第2収容部34には、アダプタ24の突起52が係合(嵌合)する軸線方向に沿って延びる溝54が一対形成されている。
【0053】
なお、突起52を溝54に挿入したときに、突起52と溝54との間の摩擦によりアダプタ24を保持できるように構成することが好ましい。例えば、突起52の幅を溝54の幅よりも若干大きくする、突起52の高さを溝54の深さよりも若干大きくする等により、突起52と溝54との間で摩擦を生じさせることができる。これにより、アダプタ24を継手本体12に挿入した後のアダプタ24の脱落を抑制することができる。
【0054】
なお、本体部42の径を、第2収容部34の内径よりも若干大きくすることで、アダプタ24を第2収容部34に圧入することができ、本体部42の外周面と第2収容部34の内周面との間の摩擦により、アダプタ24を継手本体12の内部に保持することも可能である。
【0055】
図1に示すように、第1直線部26の第1収容部32には、奥側(第2収容部34側)から順に、一例としてゴム等の弾性材料から形成されたシール部材16、一例として合成樹脂等で形成されたスペーサ18、シール部材16、一例として合成樹脂で形成された保持リング20が挿入されている。
【0056】
保持リング20は、一端側が第1収容部32の内部に配置され、他端側には一端側よりも大径に形成された大径部56が形成されている。大径部56は、第1直線部26の端部よりも外側に配置されている。保持リング20の他端側の内周は、他端側に向けて徐々に拡径するテーパー形状のロックリング保持部58が形成されている。
【0057】
第1直線部26の外周には、円筒状に形成されたキャップ14が嵌め込まれている。キャップ14の内部には段部60が形成されており、この段部60と第1直線部26の端部との間に保持リング20の大径部56、及びロックリング22の外周部分が挟持されている。第1直線部26の外周にキャップ14が嵌め込まれることで、アダプタ24、シール部材16、スペーサ18、ロックリング保持部58、及びロックリング22の第1直線部26からの抜け出しが防止されている。
【0058】
ロックリング22の内周部には、配管44の外周面に引っかかり、配管44の抜けを抑制する複数の爪22Aが形成されている。
【0059】
即ち、本実施形態の管継手10は、配管44を挿入するのみで配管44の抜けが抑制される所謂ワンタッチ継手である。
【0060】
(作用、効果)
次に、本実施形態の管継手10に配管44を接続する手順、及び作用、効果を説明する。
先ず、管継手10に配管44を接続するには、キャップ14の開口から継手本体12の内部に配管44を挿入する。配管44は、先端がアダプタ24の壁部46に突き当たるまで挿入する。
【0061】
なお、アダプタ24は、管継手10を製造メーカーで組み立てる際に、予め継手本体12に挿入しておくことができるが、施工現場で、配管44を挿入する際に継手本体12に挿入することもできる。本実施形態の管継手10によれば、アダプタ24に設けた突起52を継手本体12に設けた溝54に挿入することで摩擦が生じるので、接着剤等を用いずにアダプタ24の抜け出しを抑制することができる。
【0062】
このように配管44が管継手10に挿入されると、ロックリング22の内周側の爪22Aが配管44の外周面に引っかかり、配管44の抜け出しが抑制される。そして、配管44と第1収容部32との間に配置されたシール部材16が配管44の外周面と第1収容部32の内周面とに密着し、配管44と継手本体12との間の隙間がシール部材16でシールされ、管継手内を流れる水が外部へ漏れることが抑制される。
【0063】
また、配管44の先端がアダプタ24の壁部46に突き当たった状態では、配管44の軸線とアダプタ24の壁部46に形成された円形孔48の軸線とが一致し、配管44の内部の流路と円形孔48とが段差無くスムーズに繋がる。
【0064】
アダプタ24が継手本体12に取り付けられると、屈曲流路38の角部38Aにアダプタ24の突起50が隣接して配置されて覆われ、
図1に示すように、屈曲流路38の屈曲内側が、2つの突起50の内周面50Aが連なって湾曲面が形成されるため、角部38Aが露出していた場合対比で屈曲流路38の屈曲内側を流れる流体がスムーズに向きを変えるので、圧力損失を小さくすることができる。
【0065】
さらに、アダプタ24が取り付けられた屈曲部30の屈曲流路38は、屈曲外側の屈曲外側湾曲流路面38Bと、屈曲内側の突起50の内周面50Aとで囲まれて配管44の流路と同じ径の円形の断面形状となり、流れの途中で流路の断面形状が変わらないので、流れの途中で流路の断面形状が変わることに起因する圧力損失を抑制できる。
【0066】
本実施形態の管継手10は、屈曲部30を挟んで第1直線部26側、及び第2直線部28側共に、同一構成であるため、管継手10に取り付けの方向性は無く、一方の配管44から他方の配管44へスムーズに流体を流すことができると共に、他方の配管44から一方の配管44へもスムーズに流体を流すことができる。
【0067】
アダプタ24は、継手本体12とは別部品で成型して、継手本体12に後から取り付ければよいので、継手本体12を成型する工程では、従来技術のようにインサートを位置決めしてプリセットする作業は無く、継手本体12を成型する際の手間が少なくなる。
【0068】
また、本実施形態の継手本体12は、屈曲内側、及び屈曲外側が各々湾曲面とされた屈曲流路を形成するために、先端に湾曲形状の可動ブロックを設けた複雑な構造のピンを金型に設ける必要がなく、シンプルな構造の金型で成型することができる。
【0069】
さらに、屈曲部30の屈曲流路38は、軸線に直角な断面形状が略楕円形状であるが、第1直線部26、及び第2直線部28にアダプタ24を挿入し、屈曲流路38の断面形状が非半円形とされた部分に、アダプタ24の突起50を配置することで、屈曲部30の内部に、軸直角断面形状が半円形とされた屈曲部30の内壁面の一部である屈曲外側湾曲流路面38Bと、突起50の断面形状が半円形とされた内周面とで円形断面(真円)の流路を形成することができる。
【0070】
管継手10の第1直線部26と第2直線部28との各々に、上記のように配管44を挿入すると、一方の配管44の内部の断面円形の流路と他方の配管44の内部の断面円形の流路とが、配管44と同じ円形断面で、かつ同一内径とされた屈曲部30内部の上記円形断面の流路を介して接続されることになり、第1直線部26側から第2直線部28へ、または第2直線部28側から第1直線部26へスムーズに水を流すことができ、流路方向が屈曲し、かつ流路断面形状が屈曲部で変化(断面円形から断面楕円へ変化)する場合に生ずる圧力損失の増大を抑制することができる。
【0071】
[第2の実施形態]
次に、
図7にしたがって本実施形態の第2の実施形態に係る管継手70を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0072】
図7に示すように、本実施形態の管継手70は、所謂チーズと呼ばれるT字形状をしたワンタッチ式継手である。
管継手70は、第2直線部28を挟んで線対称形状であり、T字形状の継手本体72を備えている。継手本体72は、第1直線部26の反対側に、第1直線部26と同一構造の第3直線部74が第1直線部26とは反対向きに形成されている。これにより、継手本体72の内部には、互いに直交する第2直線部28と第3直線部74とで角部76が形成されている。
【0073】
なお、第1直線部26の延びる方向、即ち、矢印R方向(第1の方向)に対して、第3直線部74の延びる方向は矢印R方向に対して反対方向の矢印L方向(第2の方向)であり、第2直線部28の延びる方向、即ち、矢印U方向(第3の方向)は、第1直線部26の延びる矢印R方向と第3直線部74の延びる矢印L方向とに対して直交する方向である。
【0074】
第2直線部28に挿入される本実施形態のアダプタ78には、一対の突起50が径方向に互いに反対向きに設けられている。
【0075】
第2直線部28にアダプタ78が挿入されると、第3直線部74に挿入されたアダプタ24の突起50と第2直線部28に挿入されたアダプタ78の一方の突起50とが角部76に隣接して配置されて覆われ、突起50の内周面50Aによって湾曲した湾曲流路内壁面が形成される。
【0076】
したがって、第2直線部28側から第3直線部74側へ、または第3直線部74側から第2直線部28側へスムーズに水を流すことができ、この場合も圧力損失を小さくすることができる。特に、チーズと呼ばれるT字形状をした管継手70は、射出成型で滑らかに湾曲した流路(角部が無い)を形成することができないため、本発明が適用された本実施形態の効果が大きい、言い換えれば、本発明が適用された本実施形態の構成としたメリットが大きい。
【0077】
[その他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0078】
上記第1の実施形態は、エルボと呼ばれるL字形状の管継手10に本発明が適用された例が示され、第2の実施形態は、チーズと呼ばれるT字形状の管継手70に本発明が適用された例が示されていたが、本発明は、十字形状の管継手等、上記エルボ、チーズ以外の形状の継手に適用することもでき、管継手以外の流路構造、例えば、単に屈曲した配管等にも適用できる。十字形状の管継手は、例えば、第2の実施形態の管継手において、第2直線部28の反対側に、第2直線部28と同じ構成の第4直線部を設けたものである。
【0079】
上記第1の実施形態の管継手10では、第1直線部26と第2直線部28とのなす角度が90°であったが、該角度は90°以外であってもよい。
【0080】
継手本体12は、アダプタ24の有無が外部から判断し易いように、透明な合成樹脂で成型してもよい。
【0081】
上記実施形態の管継手10は、配管44を差し込むだけで抜け止めが行われる所謂ワンタッチ継手であるが、配管44との接続部分の構成は、本実施形態の構成に限らず、従来公知の他の構成(一例として、螺子による締結)であってもよい。
【0082】
上記実施形態のアダプタ24は、円筒状の本体部42を備えていたが、少なくとも突起50があればよく、本体部42は必要に応じて設ければよい。また、本体部42は、円筒の半割形状であってもよい。
【0083】
上記実施形態の管継手10では、アダプタ24を継手本体12に保持するための突起52が本体部42に設けられていたが、この突起52、及び継手本体12の溝54は、必要に応じて設ければよく、無くてもよい。
【0084】
上記アダプタ24は合成樹脂の成形品であるが、一例として、
図8に示す金型62を用いて成型することができる。
【0085】
この金型62には、アダプタ24の外側を形成するための凹部62Aが設けられている。金型62には、アダプタ24の本体部42の内側を形成するための第1スライドピン64と、突起50の内側、及び円形孔48を形成するための第2スライドピン66とが出入り可能に設けられている。なお、金型62は、一例として、
図8の上下方向、または
図8の紙面裏表方向に2分割可能となっている。
【0086】
金型62の凹部62Aと、第1スライドピン64及び第2スライドピン66とで形成されるキャビティに溶融した合成樹脂を射出し、冷却後に 第1スライドピン64及び第2スライドピン66を引き抜くと共に、金型62を開くことでアダプタ24を得ることができる。
【符号の説明】
【0087】
10…管継手、12…継手本体(流路構造)、24…アダプタ、26…第1直線部(第1の方向に延びる流路)、28…第2直線部(第3の方向に延びる流路)、38…流路内角部、42…本体部(筒状部)、50…突起、50A…内周面(湾曲流路内壁面)、54…溝(保持部)、74…第3の直管部(第2の方向に延びる流路)