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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】地下水中の微生物の分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
C12Q1/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019162464
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021036845
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】512052764
【氏名又は名称】株式会社アサノ大成基礎エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100070183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100131303
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 徳人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 歩
(72)【発明者】
【氏名】竹延 千良
(72)【発明者】
【氏名】大森 将樹
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-111001(JP,A)
【文献】SUGIYAMA, A. et al.,Tracking the direct impact of rainfall on groundwater at Mt. Fuji by multiple analyses including microbial DNA,Biogeosciences,2018年,Vol. 15,P. 721-732
【文献】NAGAOSA, K. et al.,Active bacterial populations and grazing impact revealed by an in situ experiment in a shallow aquifer,Geomicrobiology Journal,2008年,Vol. 25,P. 131-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を採水する採水工程と、
前記採水工程により採水された地下水を試料として本分析を実施する本分析工程と、を含み、
前記本分析の分析項目として、微生物数計数、微生物群集解析及び微生物活性分析のうち、少なくとも一つを含む複数の分析項目が含まれ、
前記採水工程では、予備採水により採水された地下水を試料として前記本分析に含まれる各分析項目に必要となる地下水の採水量を決定するための分析である予備分析現地にて実施、前記予備分析の結果に基づいて前記本分析に含まれる各分析項目に必要となる地下水の採水量決定、決定した採水量に応じて前記本分析に含まれる全ての分析項目に必要となる地下水を採水する本採水を実施するにあたって、一連の採水作業により前記予備採水及び前記本採水が実施され、
前記予備分析の分析項目として、微生物数計数が含まれことを特徴とする地下水中の微生物の分析方法。
【請求項2】
前記採水工程では、大深度に存在する地下水が採水され、事前採水により採水された地下水について、金属イオン濃度の簡易測定が実施され、当該簡易測定の結果に応じて前記予備採水により採水された地下水に対して金属イオンのキレート剤が添加され、前記キレート剤が添加された地下水を試料として、前記予備分析が実施され、一連の採水作業により前記事前採水、前記予備採水及び前記本採水が実施されることを特徴とする請求項に記載の地下水中の微生物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水中の微生物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する技術開発の一環として、地下深部の科学的データの収集、及び、収集した科学的データに基づく地質環境の解釈が進められている。その成果の一つとして、「科学的特性マップ」(経済産業省資源エネルギー庁:2017年7月28日)が公開されている。しかしながら、地下深部の微生物データについては、既存の知見が少なく、広域的なデータベースの作成が困難であったため、現状、「科学的特性マップ」の対象とされていない。
一方、国際的動向を見ると、高レベル放射性廃棄物の地層処分を考える上で、微生物データを基礎データの一つとして組み込むことの必要性が指摘されている。ここで、微生物データを基礎データの一つとして組み込むためには、微生物データの蓄積が必須であり、特に、広域的なデータベースの作成が必須となる。そのためには、地質特性データ、水理データ、水質データ等と同様に、微生物データについても、基礎データとして効率的に収集することが求められ、基礎データの収集について体系化が必要となる。
従来、微生物データは、微生物数の計数、微生物の群集構成の解析、微生物の群集構造の分析、微生物の活性の分析等の分析項目について、各分析項目の分析が、順次、実施されることにより収集される。すなわち、図6に示すように、微生物データは、時期を異ならせて実施される複数回の調査に基づいて収集される。各回の調査では、一の分析項目を対象として分析・データ収集が実施され、その分析・データ収集の結果に応じて、次回の調査の内容(具体的には、分析・データ収集の対象とする分析項目等)が計画される。
ここで、微生物数の計数方法としては、例えば、特許文献1に開示されている方法が知られている。また、微生物の群集(群集構成・群集構造)の解析方法としては、例えば、特許文献2,3に開示されている方法が知られている。また、微生物の活性の分析方法としては、例えば、特許文献4に開示されている方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-92104号公報
【文献】特開2006-94830号公報
【文献】特開2005-65605号公報
【文献】特開2006-238771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、分析期間が長期化する恐れがある。
すなわち、従来の方法では、各分析項目の分析を実施するときに、その都度、試料とする地下水の採水が実施される。これによって、分析項目が増加するほど、採水を実施する回数が増加し、その結果、分析期間が長期化する恐れがある。特に、地下水の採水の対象とする地盤(以下、「対象地盤」とする)の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合には、各回の採水の実施に要する期間が長期化するため、分析期間が更に長期化する恐れがある。
本発明の課題は、地下水中の微生物を分析するにあたって、分析期間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、第一の発明に係る地下水中の微生物の分析方法は、地下水を採水する採水工程と、前記採水工程により採水された地下水を試料として本分析を実施する本分析工程と、を含み、前記本分析の分析項目として、微生物数計数、微生物群集解析及び微生物活性分析のうち、少なくとも一つを含む複数の分析項目が含まれ、前記採水工程では、予備採水により採水された地下水を試料として前記本分析に含まれる各分析項目に必要となる地下水の採水量を決定するための分析である予備分析現地にて実施、前記予備分析の結果に基づいて前記本分析に含まれる各分析項目に必要となる地下水の採水量決定、決定した採水量に応じて前記本分析に含まれる全ての分析項目に必要となる地下水を採水する本採水を実施するにあたって、一連の採水作業により前記予備採水及び前記本採水が実施され、前記予備分析の分析項目として、微生物数計数が含まれことを特徴とする。
第一の発明に係る地下水中の微生物の分析方法では、予備採水により採水された地下水を試料として予備分析が実施され、予備分析の結果に基づいて本分析に含まれる各分析項目に必要となる地下水の採水量が決定され、決定された採水量に応じて本分析に含まれる全ての分析項目に必要となる地下水を採水する本採水が実施される。この際、一連の採水作業により予備採水及び本採水が実施される。
これによって、本分析に必要となる試料が不足する事態の発生が防止される。したがって、不足する試料を補充するための採水の実施を回避することができ、その結果、分析期間を短縮することが可能となる。
また、1回の採水の実施により、本分析に含まれる各分析項目に必要となる試料を採水することができる。したがって、本分析において複数の分析項目が含まれている場合であっても、分析項目ごとに採水を実施する必要がない。よって、採水を実施する回数が低減され、その結果、分析期間を短縮することが可能となる。
特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合に、分析期間を大きく短縮することが可能となる。
さらに、第一の発明に係る地下水中の微生物の分析方法では、予備分析の分析項目に、微生物数計数が含まれている。
これによって、本分析に必要となる地下水の採水量を適切に決定することが可能となる。すなわち、微生物数の計数、微生物の群集(群集構成、群集構造)の解析、微生物の活性の分析等の各種分析を実施するにあたっては、試料となる地下水の単位水量あたりに存在する微生物の数が、当該分析に必要となる試料の量(すなわち、採水量)の決定に大きく影響する。この際、単位水量あたりに存在する微生物の数が少ないほど、必要となる試料の量が多くなる。そこで、予備分析の分析項目に微生物数計数を入れることで、本分析に必要となる試料の量を適切に決定することが可能となる。
ここで、採水工程としては、後述する第2予備採水及び本採水が該当する。本分析とし
ては、後述する微生物数の計数、微生物の群集(群集構造、群集構成等)の解析、微生物の活性の分析、微生物の機能の分析等が該当する。本分析工程としては、後述する微生物数計数工程、微生物の群集構造分析工程、微生物の群集構成解析工程、微生物の活性分析工程等が該当する。予備分析としては、後述する予備分析が該当する。微生物数計数としては、後述する微生物数の計数が該当する。微生物群集解析としては、後述する微生物の群集(群集構造、群集構成等)の解析が該当する。微生物活性分析としては、後述する微生物の活性の分析が該当する。現地とは、後述する採水現場が該当する。
【0007】
の発明に係る地下水中の微生物の分析方法では、第の発明に係る地下水中の微生物の分析方法において、前記採水工程では、大深度に存在する地下水が採水され、事前採水により採水された地下水について、金属イオン濃度の簡易測定が実施され、当該簡易測定の結果に応じて前記予備採水により採水された地下水に対して金属イオンのキレート剤が添加され、前記キレート剤が添加された地下水を試料として、前記予備分析が実施され、一連の採水作業により前記事前採水、前記予備採水及び前記本採水が実施されることを特徴とする。
の発明に係る地下水中の微生物の分析方法では、キレート剤が添加された地下水を試料として、予備分析が実施される。
これによって、採水された地下水中に溶存している金属イオンの析出が抑制され、予備分析を実施する際に、析出した金属イオンが顕微鏡観察を阻害する事態の発生を防止することが可能となる。
ここで、金属イオン濃度の簡易測定としては、後述する溶存鉄イオン濃度の簡易測定が該当する。金属イオンとしては、後述する鉄イオンが該当する。キレート剤としては、後述するEDTA(エチレンジアミン四酢酸)が該当する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、地下水中の微生物を分析するにあたって、分析期間を短縮することが可能となる。特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合に、分析期間を大きく短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法の手順を示すフローチャートである。
図2】金属イオン析出抑制工程の手順を示すフローチャートである。
図3】予備分析により算出された微生物数と、本分析の各分析項目に必要となる採水量と、の対応を示す図である。
図4】採水装置1の概略構成を示す図である。
図5】揚水ケーシング10内にポンプPが設置された状態の採水装置1を示す図である。
図6】従来例に係る地下水中の微生物の分析方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
(地下水中の微生物の分析方法の手順)
まず、本発明の実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法の手順を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法の手順を示すフローチャートである。図2は、金属イオン析出抑制工程の手順を示すフローチャートである。図3は、予備分析により算出された微生物数と、本分析の各分析項目に必要となる採水量と、の対応を示す図である。
本発明に係る地下水中の微生物の分析方法は、対象地盤から湧出する地下水(以下、「対象地下水」とする)を試料として、微生物に関する分析(以下、「本分析」とする)を実施し、微生物に関するデータを取得することを目的として実施される。
特に、本発明に係る地下水中の微生物の分析方法は、大深度(具体的には、数百[m]以上)の地盤(対象地盤)から湧出する地下水(対象地下水)を試料とする場合に好適な方法となっている。
ここで、本発明に係る「微生物」は、人の肉眼により個々の存在を識別できない微小な生物を指し、原核生物、真核生物(ユーカリア)等が含まれる。
「原核生物」とは、核膜を持たず、細胞内にむき出しの状態でDNAが存在する細胞によって構成される生物を指し、バクテリア(真正細菌)、及び、アーキア(古細菌)が含まれる。
「真核生物」は、細胞の内部に核膜を持ち、核と細胞質が明確に区分されている細胞によって構成される生物を指す。
本実施形態では、原核生物(バクテリア及びアーキア)を対象として、微生物に関する分析を実施し、微生物に関するデータを取得する場合の一例を説明する。
また、本発明に係る「微生物に関する分析(本分析)」の分析項目には、微生物数の計数、微生物の群集(群集構造、群集構成等)の解析、微生物の活性の分析、微生物の機能の分析等の分析項目のうち、少なくとも一つ以上(好ましくは、複数)の分析項目が含まれる。
本実施形態では、本分析の分析項目として、微生物数の計数、微生物の群集の解析、及び、微生物の活性の分析が含まれる場合の一例を説明する。
「微生物数」は、試料の単位水量あたりに存在する微生物の数をいう。
「微生物の群集」は、試料中に存在する微生物群の内容(微生物の種類(分類)、各種類に属する微生物の割合、各種類に属する微生物の数等)をいう。
本実施形態では、微生物の群集の解析として、微生物の群集構造の分析、及び、微生物の群集構成の解析が実施される。
「微生物の群集構造」は、試料中に存在する微生物群中に占める対象とする分類に属する微生物の割合(または、数)となっている。本実施形態では、微生物の群集構造の分析により、試料中に存在する微生物群中に占めるバクテリアの割合・アーキアの割合が分析される。
「微生物の群集構成」は、試料中に存在する微生物の種類となっている。本実施形態では、微生物の群集構成の解析により、試料中に存在するバクテリアの種類・アーキアの種類が解析される。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法は、採水準備工程と、採水工程と、前処理工程と、各種の本分析工程と、を含んで構成されている。
ここで、一般的に、地下水を試料として微生物分析を実施する際には、採水現場で採水した試料を、分析を実施する実験室へ輸送する必要がある。この際、採水現場と実験室との距離が離れているほど、輸送に要する時間が長くなり、その結果、輸送中において、試料中に存在する微生物の状態が変化するリスクが高くなる。
そこで、本実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法では、採水現場において現場実験室を仮設し、迅速な対応が要求される処理(具体的には、後述する金属イオン析出抑制工程、予備分析、採水量決定、前処理工程)、及び、本分析の分析項目のうち迅速な実施が要求される分析(具体的には、後述する微生物の活性分析工程)について、現場実験室で実施する構成としている。
【0013】
(採水準備工程)
採水準備工程では、対象地下水の採水のための準備を実施する。
具体的に、採水準備工程では、まず、ボーリング孔(裸孔)を掘削し、採水用の井戸を構築する。この際、ボーリング孔は、対象地盤の深度より深い深度まで掘削される。また、ボーリング孔(裸孔)を、そのままの状態で、井戸としても、ボーリング孔内にケーシングパイプを配置して井戸を構築しても、どちらでも構わない。また、井戸の構築時には、井戸内の残留水(井戸内に残留する雨水・掘削水等)に対して蛍光色素が添加される。
採水準備工程では、次に、井戸内において採水装置を設置する。ここで、採水装置としては、採水ポンプを用いて採水を実施する方式の採水装置、採水器を投入して採水を実施する方式の採水装置、パッカーシステムを利用した採水装置等、公知のあらゆる採水装置を用いることが可能である。特に、大深度(具体的には、数百[m]以上)の地盤(対象地盤)から湧出する地下水(対象地下水)を採水する場合には、後述する採水装置1を用いることが好ましい。
採水準備工程では、次に、予備排水を実施する。すなわち、構築された井戸内には、残留水が溜まっている状態となっている。これによって、採水装置の設置の完了時には、井戸内に溜まっていた残留水が採水装置内へ浸入している状態となる。そこで、予備排水により、採水装置内の残留水を対象地下水に置換する(採水装置内へ対象地下水を呼び込む)必要がある。
予備排水は、排水ポンプを採水装置内に挿入し、当該排水ポンプを作動して、採水装置内の残留水を排水することにより実施する。
予備排水中には、水質モニタリング装置により、排水された地下水(残留水)の水質(物理化学パラメータ)を、経時的に測定・監視する。本実施形態では、水質(物理化学パラメータ)として、EC(電気伝導度)、温度、水圧、pH(水素イオン指数)、ORP(酸化還元電位)、DO(溶存酸素濃度)等が測定・監視される。また、予備排水中には、排水された地下水(残留水)中の蛍光色素濃度を、経時的に測定・監視する。さらに、予備排水中には、排水された地下水(残留水)の総量を計測する。
そして、(1)排水された地下水の水質(物理化学パラメータ)が安定したこと、(2)排水された地下水中の蛍光色素濃度が十分に低下したこと、(3)システムボリューム(具体的には、採水装置の容積又は井戸の容積)に対して十分な量の地下水が排水されたこと、の全ての条件を満たすことにより、予備排水を終了する。すなわち、これらの条件を満たす場合には、採水装置内において、残留水が対象地下水に置換されたものと判断することができる。
そして、予備排水の終了により、対象地下水の採水が可能な状態となり、採水準備工程を終了する。
【0014】
(採水工程)
採水工程では、対象地下水の採水を実施する。
具体的に、採水工程では、まず、対象地下水の採水を開始する。すなわち、井戸内に設置した採水装置に応じた手法により、対象地下水の採水を開始する。
ここで、対象地下水の採水は、後述する溶存鉄イオン濃度の簡易測定の試料となる対象地下水を採水する第1予備採水と、後述する予備分析の試料となる対象地下水を採水する第2予備採水と、後述する本分析(各分析項目)の試料となる対象地下水を採水する本採水と、が含まれる。そして、対象地下水の採水は、本採水の完了により終了される。この際、対象地下水の採水は、その開始から終了まで、一連の工程として実施される。
すなわち、対象地下水の採水の開始から終了までの一連の工程の中で採水される対象地下水が、順次、溶存鉄イオン濃度の簡易測定の試料とされ、予備分析の試料とされ、本分析の試料とされる。したがって、本実施形態では、第1予備採水、第2予備採水、及び、本採水は、一連の工程であり、明確に区分されていない。
そして、後述する金属イオン析出抑制工程、予備分析、採水量決定等は、対象地下水の採水に対して、時期的に並行して実施される。
なお、第1予備採水、第2予備採水、及び、本採水が、個別の工程(時間的に区切られた工程)として実施される構成としても構わない。
【0015】
(金属イオン析出抑制工程)
採水工程では、第1予備採水の完了後(貯留された対象地下水の量が、溶存鉄イオン濃度の簡易測定を実施するために必要な量に達した後)に、金属イオン析出抑制工程を実施する。金属イオン析出抑制工程では、第1予備採水により採水された対象地下水を試料として、溶存鉄イオン濃度を簡易測定する。そして、溶存鉄イオン濃度の簡易測定結果に応じて、試料(予備分析・本分析の試料)に対する金属イオンのキレート剤の添加の有無、及び、試料(予備分析・本分析の試料)に対する金属イオンのキレート剤の添加量を決定する。
一般的に、大深度(具体的には、数百[m]以上)に存在する地下水は、嫌気的な環境下(還元環境下)にあるため、地上へ揚水されて大気中に晒されると、急速に酸化が進行し、地下水中に溶存していた金属イオン(具体的には、鉄イオン)が析出する。これによって、大深度に存在する地下水を試料として各種の本分析を実施する際には、析出した金属イオンにより顕微鏡観察が阻害される恐れがある。
そこで、試料となる対象地下水の溶存鉄イオン濃度を簡易測定し、その測定結果に応じて、試料に対して金属イオンのキレート剤を添加することにより、試料における金属イオンの析出を抑制することができ、その結果、顕微鏡観察が阻害される事態の発生を防止することが可能となる。
【0016】
図2に示すように、金属イオン析出抑制工程では、まず、第1予備採水により採水された対象地下水の一部(5[mL])を試料(以下、「第1試料」とする)として、第1試料に対してFerrozine溶液(0.5[mL])を添加して、バイアル瓶で混合する。次に、Ferrozine溶液を混合した第1試料について、第1着色判定を実施する。
そして、第1着色判定の結果、着色が確認されなかった場合(着色なしの場合)には、試料(予備分析・本分析の試料)に対して金属イオンのキレート剤を添加しないことを決定する。
本実施形態では、金属イオン(具体的には、鉄イオン)のキレート剤として、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を使用する。
一方、第1着色判定の結果、着色が確認された場合(着色ありの場合)には、新たに、第1予備採水により採水された対象地下水の一部(0.5[mL])を試料(以下、「第2試料」とする)として、第2試料に対して蒸留水(4.5[mL])を添加することにより、第2試料を1/10希釈する。次に、1/10希釈した第2試料に対してFerrozine溶液(0.5[mL])を添加して、バイアル瓶で混合する。次に、Ferrozine溶液を混合した第2試料について、第2着色判定を実施する。
そして、第2着色判定の結果、着色が確認されなかった場合(着色なしの場合)には、試料(予備分析・本分析の試料)に対して、この試料の1/200量のEDTA(0.06[M])を添加すること(最終濃度=0.3[mM])を決定する。
一方、第2着色判定の結果、薄いピンク色の着色が確認された場合(薄いピンク色の場合)には、試料(予備分析・本分析の試料)に対して、この試料の1/100量のEDTA(0.06[M])を添加すること(最終濃度=0.6[mM])を決定する。
一方、第2着色判定の結果、濃いピンク色の着色が確認された場合(濃いピンク色の場合)には、試料(予備分析・本分析の試料)に対して、この試料の1/100量のEDTA(0.6[M])を添加すること(最終濃度=6.0[mM])を決定する。
【0017】
その後、金属イオン析出抑制工程により決定された内容にしたがって、試料(予備分析・本分析の試料)が処理される。この際、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合には、試料(予備分析・本分析の試料)に対して、金属イオン析出抑制工程により決定された内容にしたがってEDTAが添加される。一方、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加を実施しないことが決定された場合には、試料(予備分析・本分析の試料)に対するEDTAの添加が実施されない。
本実施形態では、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合には、採水工程において、採水された対象地下水に対するEDTAの添加が実施される。すなわち、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合には、採水された対象地下水が所定量に達するごとに、この所定量の対象地下水に対して、金属イオン析出抑制工程により決定された内容にしたがってEDTAが添加され、試料(予備分析・本分析の試料)として貯留・保存される。一方、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加を実施しないことが決定された場合には、採水された対象地下水が、そのままの状態で、試料(予備分析・本分析の試料)として貯留・保存される。
【0018】
(予備分析)
採水工程では、第2予備採水の完了後(貯留された対象地下水の量が、予備分析を実施するために必要な量に達した後)に、予備分析を実施する。予備分析では、本分析に必要となる採水量(試料の量)を決定するための分析を実施する。本実施形態では、予備分析として、微生物数の計数を実施する。
具体的に、予備分析では、まず、第2予備採水により採水された対象地下水を試料(以下、「予備分析試料」とする)として、微生物数(単位水量あたりに存在する微生物の数)の計数・評価を実施する。ここで、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合には、EDTAが添加された対象地下水が、予備分析試料とされる。
微生物数の計数方法としては、フローサイトメトリー法、全菌数計測法(TDC:Total direct count)、最確数法(MPN:Most probable number)等の公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
本実施形態では、原核生物(バクテリア及びアーキア)を対象として、全菌数計測法(TDC)により、微生物数の計数を実施する。具体的には、予備分析試料を、ヌクレポアフィルター(孔径=0.2[μm])でろ過し、核酸染色剤によって、染色を実施し、落射型蛍光顕微鏡を用いて、フィルターの300[cells]以上について、原核生物数を計数する。そして、下記の(式1)に基づいて、予備分析試料1[mL]あたりの原核生物数(N)を算出する。
N[cells/mL]=n×(A/a)×(1/V) ・・・(式1)
ここで、「N」は、1[mL]あたりの原核生物数となっている。
「n」は、100グリットあたりの平均原核生物数となっている。
「A」は、ろ過面積[μm]となっている。
「a」は、100グリットあたりのフィルターの面積[μm]となっている。
「V」は、予備分析試料のろ過量[mL]となっている。
核酸染色剤としては、「4,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)」、「Acridine Orange(AO)」、「SYBR Green I」等を用いることができる。
【0019】
ここで、採水された地下水は、採水直後から、原位置に対して異なる環境に晒され、物理化学的特性が変化する。そこで、本実施形態では、予備分析、及び、本分析に必要となる採水量(試料の量)の決定を、現場実験室で実施する。これによって、原位置における微生物の状態(具体的には、微生物数)を、より正確に把握することができ、その結果、本分析に必要となる採水量(試料の量)を、より適切に見積ることが可能となる。
また、本実施形態では、固定されていない試料(生存している状態の微生物も含む試料)に基づいて、予備分析を実施する。これによって、より迅速に予備分析を開始することができ、その結果、原位置における微生物の状態(具体的には、微生物数)を、より迅速に把握することが可能となる。
【0020】
(採水量の決定)
採水工程では、予備分析の結果に基づいて、本分析に必要となる採水量(試料の量)を決定する。
一般的に、微生物に関する分析(本分析)では、分析対象となる微生物の数が少ないと、分析結果が、原位置における微生物の状態に対して乖離する恐れがある。したがって、適切な分析結果を導き出すためには、分析対象となる微生物の数を、ある程度、確保する必要がある。
そこで、本分析に必要となる採水量(試料の量)を決定するにあたっては、予備分析により算出された微生物数(対象地下水の単位水量あたりに存在する微生物の数)が多いほど、本分析に必要となる採水量(試料の量)を少なく決定する。換言すると、予備分析により算出された微生物数(対象地下水の単位水量あたりに存在する微生物の数)が少ないほど、本分析に必要となる採水量(試料の量)を多く決定する。
特に、本実施形態では、本分析において、複数の分析項目(具体的には、微生物数の計数、微生物の群集構造の分析、微生物の群集構成の解析、及び、微生物の活性の分析)が含まれている。そして、本分析に含まれる複数の分析項目について、個別に、採水量(試料の量)が決定される。すなわち、本分析に含まれる各分析項目について、当該分析項目に必要となる採水量(試料の量)が決定される。そして、本分析に含まれる全ての分析項目について決定された採水量(試料の量)の合計を、本分析に必要となる採水量(試料の量)としている。これによって、本分析に必要となる採水量(試料の量)を、より正確に見積ることが可能となる。
【0021】
具体的には、図3に示すように、経験則に基づいて、予め、予備分析により算出された微生物数(N)と、本分析に含まれる各分析項目に必要となる採水量(試料の量)と、の対応関係を規定しておく。そして、予備分析の結果と、予め規定されている対応関係と、にしたがって、本分析に必要となる採水量(試料の量)を決定する。
詳細に、予備分析により算出された微生物数(N)が、10[cell/mL]未満である場合には、本分析の分析項目のうち、微生物数の計数に必要となる採水量(試料の量)として、0.5[L]が決定され、微生物の群集構造の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.5[L]が決定され、微生物の群集構成の解析に必要となる採水量(試料の量)として、100[L]が決定され、微生物の活性の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.2[L]が決定される。これによって、本分析に必要となる採水量(試料の量)として、101.2[L](0.5[L]+0.5[L]+100[L]+0.2[L]=101.2[L])が決定される。
一方、予備分析により算出された微生物数(N)が、10[cell/mL]以上、10[cell/mL]未満である場合には、本分析の分析項目のうち、微生物数の計数に必要となる採水量(試料の量)として、0.2[L]が決定され、微生物の群集構造の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.2[L]が決定され、微生物の群集構成の解析に必要となる採水量(試料の量)として、10[L]が決定され、微生物の活性の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.1[L]が決定される。これによって、本分析に必要となる採水量(試料の量)として、10.5[L](0.2[L]+0.2[L]+10[L]+0.1[L]=10.5[L])が決定される。
一方、予備分析により算出された微生物数(N)が、10[cell/mL]以上、10[cell/mL]未満である場合には、本分析の分析項目のうち、微生物数の計数に必要となる採水量(試料の量)として、0.2[L]が決定され、微生物の群集構造の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.05[L]が決定され、微生物の群集構成の解析に必要となる採水量(試料の量)として、5[L]が決定され、微生物の活性の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.01[L]が決定される。これによって、本分析に必要となる採水量(試料の量)として、5.26[L](0.2[L]+0.05[L]+5[L]+0.01[L]=5.26[L])が決定される。
一方、予備分析により算出された微生物数(N)が、10[cell/mL]以上である場合には、本分析の分析項目のうち、微生物数の計数に必要となる採水量(試料の量)として、0.1[L]が決定され、微生物の群集構造の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.01[L]が決定され、微生物の群集構成の解析に必要となる採水量(試料の量)として、1[L]が決定され、微生物の活性の分析に必要となる採水量(試料の量)として、0.01[L]が決定される。これによって、本分析に必要となる採水量(試料の量)として、1.12[L](0.1[L]+0.01[L]+1[L]+0.01[L]=1.12[L])が決定される。
【0022】
本実施形態では、決定された本分析に必要となる採水量(試料の量)に基づいて、採水工程の終了時期を判定する。
すなわち、本採水により採水された対象地下水の量(貯留された対象地下水の量)が、先の工程で決定された本分析に必要となる採水量(試料の量)に達したことにより、本採水(採水工程)を終了する。
一般的に、大深度(具体的には、数百[m]以上)に存在する地下水の採水は、海水や河川水といった地表水の採水と比較して、ボーリング孔の掘削、採水装置の設置,予備排水等に膨大な時間と費用を要する。したがって、本分析の実施中に試料の不足が発生すると、再度、採水を実施する必要が生じ、その結果、本分析の分析期間及び分析コストが増大する。また、本分析に含まれる複数の分析項目について、個別に採水を実施すると、採水を実施する回数が増加し、その結果、本分析の分析期間及び分析コストが増大する。
そこで、本分析を実施する前に、本分析に必要となる採水量(試料の量)を決定し、決定された採水量にしたがって、採水を実施することにより、本分析の実施中に試料の不足が発生する事態を防止することが可能となる。特に、本分析に含まれる複数の分析項目について、一括で、採水を実施することにより、採水を実施する回数の増加を抑制することが可能となる。
【0023】
ここで、予備分析の分析項目として、微生物数の計数に加えて、混入鉱物粒子量の分析が含まれる構成としても構わない。
「混入鉱物粒子量」とは、試料中に混入している鉱物粒子の量となっている。
すなわち、後述するように、微生物の群集構造の分析、及び、微生物の活性の分析では、混入鉱物粒子量に応じて、試料をろ過する量が決定される。この際、混入鉱物粒子量が多いほど、混入している鉱物粒子により顕微鏡観察が阻害される恐れが高くなるため、試料をろ過する量を減らす必要がある。
そこで、予備分析において、混入鉱物粒子量を分析・評価し、その結果に応じて、上記の工程で決定された本分析に必要となる採水量(試料の量)を修正する構成としても構わない。この際、混入鉱物粒子量が多いほど、上記の工程で決定された本分析に必要となる採水量(試料の量)を減少させる構成とする。
【0024】
(前処理工程)
前処理工程では、本採水により採水された対象地下水(試料)について、各分析項目に応じた前処理(保存処理)を施す。
本実施形態では、本分析に含まれる分析項目のうち、微生物数の計数、微生物の群集構造の分析、及び、微生物の群集構成の解析については、採水現場と離れた実験室で実施される。これによって、これらの各分析項目の試料については、採水現場から実験室へ輸送する必要がある。そこで、本実施形態では、これらの各分析項目の試料に対して、当該分析項目に応じた前処理を施す。
一方、本分析に含まれる分析項目のうち、微生物の活性の分析については、現場実験室で実施される。これによって、微生物の活性の分析の試料については、前処理が施されない。
具体的に、前処理工程では、本採水により採水された対象地下水から、微生物数の計数の試料と、微生物の群集構造の分析の試料と、微生物の群集構成の解析の試料と、を取得する(振り分ける)。この際、先の工程で決定された各分析項目に必要となる採水量(試料の量)にしたがって、各分析項目の試料が取得される(振り分けられる)。そして、微生物数の計数の試料、微生物の群集構造の分析の試料、及び、微生物の群集構成の解析の試料のそれぞれに対して、前処理を施す。
この際、微生物数の計数の試料については、まず、中性ホルマリンを添加し、試料を固定する(固定後の最終濃度=0.2[%])。次に、固定された試料を、冷蔵保存する。ここで、試料を固定することにより、試料中に存在する微生物が死滅する。これによって、試料中の微生物数の増加が阻止され、本分析において、原位置における微生物の状態(具体的には、微生物数)を、より正確に把握することが可能となる。
一方、微生物の群集構造の分析の試料については、まず、パラホルムアルデヒドを添加し、試料を固定・膜処理する(固定後の最終濃度=3[%])。次に、顕微鏡観察により、適切なろ過量を決定する。この際、混入鉱物粒子量が多いほど、ろ過量を減らす必要がある。そして、決定したろ過量にしたがって、固定・膜処理された試料を、ヌクレポアフィルター(孔径=0.2[μm])でろ過する。次に、ろ過された試料(フィルター)を、脱水した後に、冷凍保存する。
一方、微生物の群集構成の解析の試料については、ハウジングフィルター(粒子保持能=0.22[μm])で大量ろ過した後に、大量ろ過された試料(フィルター)を、冷凍保存する。
上記のように、採水された地下水は、採水直後から、原位置に対して異なる環境に晒され、物理化学的特性が変化する。そこで、本実施形態では、前処理工程を、現場実験室で実施する。これによって、本分析において、原位置における微生物の状態(具体的には、微生物数)を、より正確に把握することが可能となる。
【0025】
(各種の本分析工程)
各種の本分析工程では、本分析に含まれる各分析項目について、分析が実施される。本実施形態では、各種の本分析工程として、微生物数計数工程と、微生物の群集構造分析工程と、微生物の群集構成解析工程と、微生物の活性分析工程と、が実施される。
ここで、上記のように、採水された地下水は、採水直後から、原位置に対して異なる環境(例えば、温度、酸素の有無、圧力等)に晒される。例えば、深度1000[m]の地下環境は、地温勾配(30[℃/km])を考慮すると、地上環境と比較して、水温が30[℃]高いことが想定される。してみると、深度1000[m]に存在する地下水は、地上に揚水されることにより、温度環境が、30[℃]変化する。そして、かかる環境の変化は、特に、地下水中に存在する微生物の活性に対して大きな影響を与え、採水後の経過時間とともに、地下水中に存在する微生物の活性が大きく変化する。
そこで、本実施形態では、各種の本分析工程のうち、微生物の活性分析工程については、現場実験室で実施される。これによって、原位置における微生物の状態(具体的には、微生物の活性)を、より正確に把握することが可能となる。ここで、微生物の活性分析工程は、前処理工程に対して、時期的に並行して実施される。
一方、各種の本分析工程のうち、微生物数計数工程、微生物の群集構造分析工程、及び、微生物の群集構成解析工程の各工程については、採水現場と離れた実験室で実施される。
【0026】
(微生物の活性分析工程)
微生物の活性分析工程では、試料中に存在する微生物の活性を分析する。
具体的に、微生物の活性分析工程では、本採水により採水された対象地下水から、微生物の活性の分析の試料(以下、「活性分析試料」とする)を取得する。この際、先の工程で決定された微生物の活性の分析(分析項目)に必要となる採水量(試料の量)にしたがって、活性分析試料が取得される。ここで、本実施形態では、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合であっても、EDTAが添加されていない対象地下水が、活性分析試料とされる。
微生物の活性分析工程では、次に、取得された活性分析試料に基づいて、微生物の活性を分析・評価する。この際、微生物の活性の分析方法としては、培養法、LIVE/DEAD(登録商標)法、CTC法(CTC:5-cyano-2,3-ditolyl tetrazolium chloride)等の公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
本実施形態では、細胞膜の健全性を評価することにより生菌の割合を算出するLIVE/DEAD法により、微生物の活性を分析する。具体的には、まず、顕微鏡観察により、適切なろ過量を決定する。この際、混入鉱物粒子量が多いほど、ろ過量を減らす必要がある。そして、決定したろ過量にしたがって、活性分析試料を、ヌクレポアフィルター(孔径=0.2[μm])でろ過する。次に、ろ過された活性分析試料を、SYTO9(最終濃度=0.334[μM])、及び、ヨウ化プロピジウム(PI)(2[μM])により、常温暗所において、15分間染色(培養)する。そして、落射型蛍光顕微鏡を用いて、20視野について、各視野中に占める微生物の総数(生菌及び死菌の合計)に対する生菌の割合を計数し、その平均値を、試料中の微生物の総数に対する生菌の割合(微生物の活性)として算出する。
【0027】
(微生物数計数工程)
微生物数計数工程では、試料中に存在する微生物数を計数する。
具体的に、微生物数計数工程では、前処理工程により前処理が施された微生物数の計数の試料(以下、「微生物数計数試料」とする)に基づいて、微生物数を計数・評価する。ここで、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合には、EDTAが添加された対象地下水が、微生物数計数試料とされる。
微生物数の計数方法としては、フローサイトメトリー法、全菌数計測法(TDC:Total direct count)、最確数法(MPN:Most probable number)等の公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
本実施形態では、原核生物(バクテリア及びアーキア)を対象として、全菌数計測法(TDC)により、微生物数の計数を実施する。具体的には、微生物数計数試料を、ヌクレポアフィルター(孔径=0.2[μm])でろ過し、核酸染色剤によって、染色を実施し、落射型蛍光顕微鏡を用いて、フィルターの300[cells]以上について、原核生物数を計数する。そして、上記の(式1)に基づいて、予備分析試料1[mL]あたりの原核生物数(N)を算出する。
核酸染色剤としては、「4,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)、「Acridine Orange(AO)」、「SYBR Green I」等を用いることができる。
【0028】
(微生物の群集構造分析工程)
微生物の群集構造分析工程では、試料中に存在する微生物の群集構造を分析する。
具体的に、微生物の群集構造分析工程では、前処理工程により前処理が施された微生物の群集構造の分析の試料(以下、「群集構造分析試料」とする)に基づいて、微生物の群集構造を分析・評価する。ここで、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合には、EDTAが添加された対象地下水が、群集構造分析試料とされる。
微生物の群集構造の分析方法としては、FISH法(FISH:Fluorescence in situ hybridization)、CARD-FISH法(CARD:Catalyzed reporter deposition)、qPCR法(qPCR:quantitative polymerase chain reaction)等の公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
本実施形態では、原核生物(バクテリア及びアーキア)を対象として、FISH法により、微生物の群集構造の分析を実施する。FISH法は、rRNAにより細胞を検出するため、活性を持つ可能性のある細胞を、「single cell level」で評価することができる。培養操作に依存しない方法であるため、自然環境中の原核生物解析に有用である。
具体的には、群集構造分析試料について、バクテリア及びアーキアのそれぞれを標的として、各分類群のrRNAに特異的な配列をターゲットにしたプローブを用いて、ハイブリダイゼーションを行う。次に、DAPI(4’,6-Diamidino-2-phenylindole,dihydrochloride)で二次染色を行う。そして、落射型蛍光顕微鏡を用いて、全細胞数(全原核生物数)、及び、ハイブリダイズされた細胞数(細菌数)を計数する。さらに、全細胞数に対するハイブリダイズされた細胞の割合を算出し、標的とした分類群の割合とする。
【0029】
(微生物の群集構成解析工程)
微生物の群集構成解析工程では、試料中に存在する微生物の群集構成を解析する。
具体的に、微生物の群集構成解析工程では、前処理工程により前処理が施された微生物の群集構成の解析の試料(以下、「群集構成解析試料」とする)に基づいて、微生物の群集構成を解析・評価する。ここで、本実施形態では、金属イオン析出抑制工程によりEDTAの添加が決定された場合であっても、EDTAが添加されていない対象地下水が、群集構成解析試料とされる。
微生物の群集構成の解析方法としては、DGGE法(DGGE:Denaturing gradient gel electrophoresis)、クローニング法、TRFLP法(TRFLP:Terminal restriction fragment length polymorphism)、NGS法(NGS:Next generation sequencer)等の公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
本実施形態では、「16S rRNA遺伝子」を対象として、NGS法により、微生物の群集構成の解析を実施する。具体的には、まず、試料を大量濾過したフィルター(群集構成解析試料)に、リゾチーム、プロテナーゼK、及び、SDS(Sodium dodecyl sulfate)を添加し、インキュベート後に、フェノール抽出によりDNAを抽出する。次に、抽出したDNAを、PCI(Phenol chloroform isoamyl alcohol)、CAIで精製後、エタノール沈殿を行い,TE緩衝液に溶解する。次に、「16S rRNA遺伝子」のV3-V4領域を対象としたプライマーを用いて、PCR(Polymerase chain reaction)反応を行い、ライブラリー作成を行う。次に、次世代シーケンサーを用いて、2x300bpの条件で、シーケンシングを行う。そして、得られたリードについて、低クオリティリードやキメラ配列を除去した後に、OTUs(Operational taxonomic units)解析、及び、系統推定を行う。
【0030】
(地下水中の微生物の分析方法の作用・効果)
本実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法では、採水された対象地下水を試料として予備分析が実施され、予備分析の結果に基づいて本分析(微生物数計数工程、微生物の群集構造分析工程、微生物の群集構成解析工程、及び、微生物の活性分析工程)に必要となる対象地下水の採水量が決定され、決定された採水量に応じて対象地下水が採水される。
これによって、本分析に必要となる試料が不足する事態の発生が防止される。したがって、不足する試料を補充するための採水の実施を回避することができ、その結果、分析期間を短縮することが可能となる。
また、1回の採水の実施により、本分析に必要となる試料を採水することができる。したがって、本分析において複数の分析項目が含まれている場合であっても、分析項目ごとに採水を実施する必要がない。よって、採水を実施する回数が低減され、その結果、分析期間を短縮することが可能となる。
特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合に、分析期間を大きく短縮することが可能となる。
さらに、本実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法では、予備分析の分析項目に、微生物数の計数が含まれている。
これによって、本分析に必要となる地下水の採水量を適切に決定することが可能となる。すなわち、微生物数の計数、微生物の群集(群集構成、群集構造)の解析、微生物の活性の分析等の各種分析を実施するにあたっては、試料となる地下水の単位水量あたりに存在する微生物の数が、当該分析に必要となる試料の量(すなわち、採水量)の決定に大きく影響する。この際、単位水量あたりに存在する微生物の数が少ないほど、必要となる試料の量が多くなる。そこで、予備分析の分析項目に微生物数の計数を入れることで、本分析に必要となる試料の量を適切に決定することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法では、予備分析の結果に基づいて、本分析に含まれる複数の分析項目のそれぞれについて、採水量が決定される。
これによって、本分析に必要となる試料の量を詳細に決定することができ、各分析項目について、試料が不足する事態の発生を防止することが可能となる。
さらに、本実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法では、金属イオン析出抑制工程において、採水された対象地下水について、金属イオン濃度の簡易測定結果に応じて金属イオンのキレート剤が添加され、キレート剤が添加された地下水を試料として、予備分析が実施される。
これによって、採水された対象地下水中に溶存している金属イオンの析出が抑制され、予備分析を実施する際に、析出した金属イオンが顕微鏡観察を阻害する事態の発生を防止することが可能となる。
【0032】
(採水装置1)
次に、本実施形態に係る地下水中の微生物の分析方法に適した採水装置1を説明する。
図4は、採水装置1の概略構成を示す図である。
採水装置1は、井戸w内において採水区間sを形成し、対象地盤から採水区間sへ湧出する対象地下水を採水するための装置となっている。
図4に示すように、採水装置1は、井戸w内に挿入される採水ユニット100と、地上に配置されるコンプレッサー200と、を含んで構成されている。
採水ユニット100は、揚水ケーシング(ケーシングパイプ)10と、揚水ケーシング10の外周面に配置された一対のパッカー20a,20bと、揚水ケーシング10内に配置された水質モニタリング装置40と、揚水ケーシング10に連通する採水管50と、揚水ケーシング10に対して着脱可能な加圧ヘッド60と、を含んで構成されている。
【0033】
揚水ケーシング10は、スチール、ステンレス等の金属材料により形成されている。揚水ケーシング10は、全体として、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。揚水ケーシング10は、井戸w内において、鉛直方向に沿って延びるように配置される。そして、揚水ケーシング10内には、その下端部から上端部まで、鉛直方向に沿って直線的に延びる流路(揚水路)が形成されている。これによって、揚水ケーシング10内において、後述するストレーナ部11から浸入した対象地下水を、地上に向かって揚水することが可能となる。
揚水ケーシング10は、ストレーナ部(ストレーナ管)11と、ストレーナ部11の上方に配置された揚水部(揚水管)12と、ストレーナ部11及び揚水部12の間に配置された孔内バルブ30及びセンサ配置部(センサ配置管)40aと、を含んで構成されている。
ストレーナ部11は、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。ストレーナ部11の下端は、閉止されている。ストレーナ部11の外周面には、一対のパッカー20a,20bが配置されている。そして、ストレーナ部11における一対のパッカー20a,20bの間の領域には、採水部hが構成されている。採水部hは、ストレーナ部11の周壁において、複数(多数)の浸入孔(図示せず)が設けられることにより構成されている。これによって、各浸入孔を介して、対象地盤から湧出した地下水を、ストレーナ部11の内部へ浸入させる(呼び込む)ことが可能となっている。
【0034】
揚水部12は、分岐部(分岐管)12dと、分岐部12dの上方に配置された小径部(小径管)12aと、小径部12aの上方に配置された大径部(大径管)12bと、を含んで構成されている。
分岐部12dは、いわゆる分岐管(分配管)により構成されている。具体的に、分岐部12d内には、鉛直方向に沿って延びる主流路と、主流路の途中から分岐する副流路と、が形成されている。主流路の下端は、孔内バルブ30の後述する出水口に連結(連通)している。主流路の上端は、小径部12aの下端に連結(連通)している。副流路の一端は、主流路に連結(連通)している。また、副流路の他端は、採水管50の下端に連結(連通)している。
小径部12aは、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。小径部12aの下端は、分岐部12dの主流路の上端に連結(連通)している。小径部12aの上端は、レデューサ12eを介して、大径部12bの下端に連結(連通)している。
後述するように、小径部12aは、対象地盤の深度に応じて、複数本の小径管体(パイプ)を連結して構成される。各小径管体は、所定の長さの管体(パイプ)となっている。
大径部12bは、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。大径部12bの下端は、レデューサ12eを介して、小径部12aの上端に連通している。大径部12bの上端は、地上における所定の高さまで延びている。
後述するように、大径部12bは、対象地盤の透水性(具体的には、後述するポンプPを設置する深度)に応じて、複数本の大径管体(パイプ)を連結して構成される。各大径管体は、所定の長さの管体(パイプ)となっている。
大径部12bの内径は、ポンプPを挿入することが可能となるように構成されている。一方、小径部12aの内径は、大径部13bの内径より小さく(ポンプPを挿入することができないように)構成されている。これによって、揚水ケーシング10の容積の増加を抑制することが可能となる。
【0035】
センサ配置部40aは、直線的に延びる管状(パイプ状)に形成されている。センサ配置部40aの下端は、ストレーナ部11の上端に連結(連通)している。センサ配置部40aの上端は、孔内バルブ30の後述する入水口に連結(連通)している。そして、センサ配置部40a内には、水質モニタリング装置40が配置されている。これによって、センサ配置部40a内に揚水される水の水質を、水質モニタリング装置40により測定することが可能となっている。
孔内バルブ30は、弁箱(バルブ室)12cと、弁箱12c内に配置された弁体30a及び弁座(図示せず)と、を含んで構成されている。
弁箱12cの底面には、入水口(図示せず)が設けられており、弁箱12cの天面には、出水口(図示せず)が設けられている。そして、入水口には、センサ配置部40aの上端が連結(連通)し、出水口には、分岐部12dの主流路の下端が連結(連通)している。
孔内バルブ30の弁体30aは、入水口を開閉する。入水口が開放されているときには、ストレーナ部11から、センサ配置部40a及び孔内バルブ30を介して、揚水部12への対象地下水の揚水(浸入)が可能となる。一方、入水口が閉止されているときには、揚水部12からストレーナ部11への対象地下水の逆流(浸入)が阻止される。
【0036】
水質モニタリング装置40は、ストレーナ部11から揚水される地下水の水質を測定し、測定結果を有線又は無線により地上に配置された電子計算機(図示せず)に対して送信する。ここで、電子計算機は、地上に設置された観測室内に配置されている。
本実施形態では、水質モニタリング装置40により、電気伝導度(EC)、温度、水圧、pH(水素イオン指数)、ORP(酸化還元電位)、DO(溶存酸素濃度)等を測定することが可能となっている。
採水管50は、スチール、ステンレス等の金属材料からなる管体(パイプ)、又は、ナイロン、テフロン(登録商標)等の地下水の水質に影響を与えることがない材質により形成されたチューブにより構成されている。採水管50は、一連に構成されていても、深度に応じて複数本の管体(または、チューブ)を連結して構成されていても、どちらでも構わない。
採水管50の下端は、分岐部12dの副流路に連結(連通)されている。また、採水管50の上端は、地上まで延びており、採水管50の他端から排出される対象地下水を、採水容器(図示せず)により受水することが可能となっている。また、採水管50の上端部には、採水管50の流路を開閉するバルブb1が配置されている。
【0037】
加圧ヘッド60は、大径部12bの上端部に対して着脱可能となるように構成されている。大径部12bの上端部に加圧ヘッド60が装着されると、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端側が密閉される。加圧ヘッド60には、加圧口(図示せず)が設けられている。
コンプレッサー200は、エアチューブtを介して、加圧ヘッド60の加圧口へ圧縮気体を供給(加圧)する。これによって、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端部に加圧ヘッド60が装着されている状態で、コンプレッサー200から加圧ヘッド60の加圧口へ圧縮気体が供給されると、揚水ケーシング10(大径部12a)の上端部が加圧される。
【0038】
(採水装置1を用いた対象地下水の採水方法)
次に、採水装置1を用いた対象地下水の採水方法を説明する。
図5は、揚水ケーシング10内にポンプPが設置された状態の採水装置1を示す図である。
採水装置1を用いて対象地下水を採水する際には、上記の採水準備工程において、まず、採水ユニット100を、井戸w内に設置(構成)する。
これには、まず、小径部12a及び大径部12bが取り外された状態の採水ユニット100を、井戸w内に挿入する。この際、孔内バルブ30の弁体30a(入水口)は、開放されており、ストレーナ部11から揚水部12への対象地下水の揚水が可能な状態となっている。さらに、採水管50のバルブb1は、開放されている。
次に、予め決定された採水区間sを形成する深度(以下、「採水深度」とする)に応じて、分岐部12dの主流路の上端に対して、複数本の小径管体を継ぎ足すことによって、小径部12aを構成するとともに、小径部12aの上端に対して、複数本の大径部12bを継ぎ足すことによって、大径部12bを構成する。この際、レデューサ12eを介して、小径部12aの上端及び大径部12bの下端が連結される。これによって、ストレーナ部11が採水深度に配置される。
次に、各パッカー20a,20bを膨張させて、採水区間sを形成する。
以上により、井戸w内における採水ユニット100の設置が完了する。採水ユニット100の設置が完了すると、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端が、地上から所定の高さに配置される。この際、加圧ヘッド60は、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端部に装着されていない。そして、採水ユニット100の設置が完了すると、水質モニタリング装置40によるストレーナ部11から揚水される地下水の水質の監視が開始される。
【0039】
次に、予備排水を実施する。
これには、図5に示すように、まず、揚水ケーシング10(大径部12b)の上端から、ポンプPを挿入し、ポンプPを、大径部12bの下端部に設置する。次に、ポンプPを作動させて、大径部12bの下端部に揚水されている残留水の排水(予備排水)を開始する。この際、孔内バルブ30の弁体30a(入水口)は、開放されている。また、採水管50のバルブb1は、開放されている。
ここで、ポンプPにより排水(吸引)された残留水は、揚水管T1を介して、地上に導かれる。揚水管T1の上端には、分岐管T2が接続されている。そして、分岐管T2内には、主流路r1と、主流路r1の途中から分岐する2本の副流路(具体的には、水質測定路r2及び採水路r3)と、が形成されている。
主流路r1の一端は、揚水管T1の上端に連結(連通)している。また、主流路r1の他端は、排水口(下水溝等)に連結(連通)している。また、主流路r1の他端部部には、流量計F及び流量制御バルブb2が配置されている。
水質測定路r2の一端は、主流路r1に連結(連通)している。また、水質測定路r2の他端は、排水口(下水溝等)に連結(連通)している。また、排水路水質測定路r2には、第2の水質モニタリング装置80が配置されている。第2の水質モニタリング装置80は、水質測定路r2を通過する残留水(ポンプPにより排水された残留水)の水質を測定する。本実施形態では、第2の水質モニタリング装置80により、CTD(電気伝導度、温度、水深)、pH(水素イオン指数)、ORP(酸化還元電位)、DO(溶存酸素量)等が測定される。
採水路r3の一端は、主流路r1に連結(連通)している。そして、採水路r3の他端から排出される対象地下水を、採水容器(図示せず)により受水することが可能となっている。また、採水路r3の他端部には、採水路r3を開閉するバルブb3が配置されている。
予備排水の実行時には、採水路r3のバルブb3が閉止されるとともに、主流路r1の流量制御バルブb2が開放される。これによって、ポンプPにより排水された残留水は、揚水管T1を介して、主流路r1へ流入する。そして、主流路r1へ流入した残留水は、流量計F及び流量制御バルブb2を通過して、排水口へ排出される。この際、主流路r1へ流入した残留水の一部は、水質測定路r2へ流入する。そして、水質測定路r2へ流入した残留水は、第2の水質モニタリング装置80により水質が測定された後に、排水口へ排出される。
【0040】
予備排水の進行により、対象地盤から採水区間sへ湧出した対象地下水が、採水部hを介して、ストレーナ部11内へ呼び込まれる。そして、ストレーナ部11内へ呼び込まれた対象地下水は、揚水ケーシング10内において、上方に向かって引き上げられる。すなわち、ストレーナ部11内へ呼び込まれた対象地下水は、センサ配置部40a(水質モニタリング装置40)及び孔内バルブ30を介して、揚水部12の下端部へ引き上げられ、さらに、揚水部12内を上方に向かって引き上げられる。
この際、対象地盤の透水性が低い場合には、予備排水の進行中に、大径部12b内において、残留水の水位が、ポンプPの吸込口が設置されている深度より低くなり、ポンプPによる排水ができなくなる恐れがある。このときには、ポンプPの作動を一時停止して、残留水の水位の回復を待った後に、ポンプPの作動を再開する必要がある。このとき、対象地盤の透水性が低いほど、単位時間あたりに湧出する対象地下水の量が少なくなるため、残留水の水位の回復に要する時間が長くなる。
そして、予備排水の進行中には、水質モニタリング装置40により測定される水質(小径部12aの下端部に揚水されている地下水の水質)の経時的な変化が監視されるとともに、第2の水質モニタリング装置80により測定される水質(ポンプPにより排水された残留水の水質)の経時的な変化が監視される。また、予備排水の進行中には、水質モニタリング装置40の測定結果と、第2の水質モニタリング装置80の測定結果と、が比較される。
【0041】
予備排水は、少なくとも揚水部12の下端部において、残留水が対象地下水に置換されていることを条件に終了される。
具体的に、水質モニタリング装置40により測定される水質について、安定状態が所定時間継続したことにより、予備排水を終了する。すなわち、この条件を満たす場合には、揚水ケーシング10内のうち、少なくとも揚水部12の下端部において、残存水が対象地下水に置換されているものと判断することができる。ここで、「安定状態」とは、水質の径時的な変化が少ない状態をいう。
そして、予備排水の終了後に、揚水ケーシング10内(大径部12bの下端部)からポンプPを回収し、その後、上記の採水工程において、対象対価水の採水を実施する。
【0042】
採水工程では、揚水ケーシング10の上端部を加圧することにより、採水管50を介して、対象地下水を採水する。
これには、まず、孔内バルブ30の弁体30a(入水口)を閉止する。これによって、揚水部12からストレーナ部11への対象地下水の逆流が阻止される。なお、採水管50のバルブb1は、開放されている。これによって、採水管50の上端から対象地下水を採水することが可能な状態となる。
次に、加圧ヘッド60を揚水ケーシング10(大径部12b)の上端部に装着する。これによって、揚水ケーシング10の上端側が密閉される。
次に、コンプレッサー200を作動させて、揚水部12の下端部に揚水されている対象地下水の採水(本採水)を開始する。すなわち、コンプレッサー200が作動すると、コンプレッサー200から、加圧ヘッド60の加圧口を介して、揚水ケーシング10の上端部に気体が圧入される。これによって、揚水ケーシング10内の残留水の水面が下方に向かって加圧される。この際、孔内バルブ30の弁体30aが閉止されていることにより、揚水部12からストレーナ部11への対象地下水の逆流が阻止されているため、揚水部12の下端部に揚水されている対象地下水が、採水管50を介して、地上に押し出される。これによって、採水管50の上端から排出された対象地下水を、採水容器内に貯留(受水)することが可能となる。
この際、採水管50内には、残留水が浸入している恐れがある。そこで、本採水の開始時には、採水管50の上端から排出される水について、少なくとも採水管50の容積分に相当する量の水を廃棄した後に、採水容器内への貯留(受水)を開始する。これによって、採水された対象地下水への残留水の混濁を防止することが可能となる。
また、採水中には、加圧による採水量が多くなると、揚水部12内に揚水されている残存水が採水される恐れがある。そこで、採水中には、所定量の対象地下水が採水されるごとに、コンプレッサー200の作動を一時停止(本採水を一時停止)して、孔内バルブ30の弁体30aを開放して、揚水ケーシング10(大径部12b)内における残留水の水位の回復(揚水部12の下端部への対象地下水の呼び込み)を待った後に、孔内バルブ30の弁体30aを閉止して、コンプレッサー200の作動を再開(本採水を再開)する必要がある。
以上により、対象地下水の採水(第1予備採水、第2予備採水、及び、本採水)を実施することが可能となる。
【0043】
(採水装置1の作用・効果)
次に、採水装置1の作用・効果を説明する。
採水装置1では、揚水部12からストレーナ部11への地下水の逆流を阻止する孔内バルブ30と、揚水部12の下端部から地上へ地下水を導く採水管50と、揚水ケーシング10の上端部に圧縮気体を供給するコンプレッサー200と、を備えている。
これによって、揚水部12からストレーナ部11への地下水の逆流が阻止されている状態で、揚水ケーシング10の上端部に対して圧縮気体を供給することで、揚水部12の下端部に揚水されている対象地下水が、気体の圧力により押し出され、採水管50を介して、地上に導かれる。
したがって、揚水ケーシング10内の全体の残留水が対象地下水に置換されていなくても、揚水部12の下端部の残留水が対象地下水に置換されていれば、地上において対象地下水を採水できる。よって、揚水ケーシング10内の全体の残留水を対象地下水に置換する必要がなくなり、対象地下水の採水に要する時間を短縮することが可能となる。
特に、対象地盤の透水性が低い場合や、対象地盤の深度が深い場合であっても、対象地下水の採水にあたって、揚水部12の下端部の残留水を対象地下水に置換すれば足りるため、対象地下水の採水に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 採水装置
10 揚水ケーシング
11 ストレーナ部
12 揚水部
12a 小径部
12b 大径部
12c 弁箱
20a,20b パッカー
40 水質モニタリング装置
50 採水管
60 加圧ヘッド
30 孔内バルブ
100 採水ユニット
200 コンプレッサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6