(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】パラフィンワックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 73/06 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
C10G73/06
(21)【出願番号】P 2019204748
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕佑
(72)【発明者】
【氏名】木戸口 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉村 悠
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 俊之
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235855(JP,A)
【文献】特表平08-508761(JP,A)
【文献】特開昭55-123687(JP,A)
【文献】特開2012-023977(JP,A)
【文献】特表平08-509704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0090476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
C10L 91/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルマルパラフィンを含む未精製ワックスと、ハンセン溶解度パラメーターにおける双極子項(δp)が4~8でありかつ水素結合項(δh)が3~10である溶剤と、を混合して混合液を得る工程と、
前記混合液から固形物を分離してよりノルマルパラフィン濃度の高いパラフィンワックスを得る工程と、を備
え、
前記溶剤が毒物及び劇物取締法で指定される毒物又は劇物を含まない、パラフィンワックスの製造方法。
【請求項2】
前記溶剤の蒸発熱が500kJ/L以下である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記未精製ワックスと前記溶剤とを、前記未精製ワックスに対する前記溶剤の質量比(溶剤の質量/未精製ワックスの質量)が5/1~1/2となるように混合する、請求項1
又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
下記式に従って算出される分離係数が5以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
(Cw/(1-Cw))/(C0/(1-C0))
(式中、Cw及びC0は、それぞれ前記パラフィンワックス中のノルマルパラフィン濃度及び前記未精製ワックス中のノルマルパラフィン濃度を示す。)
【請求項5】
ハンセン溶解度パラメーターにおける双極子項(δp)が4~8でありかつ水素結合項(δh)が3~10である溶剤を選定する工程を更に備える、請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラフィンワックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEK(メチルエチルケトン)やトルエン等の溶剤を用いて、潤滑油の原料油から脱ろうする方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記方法により析出した固形物を濾過して回収することで、パラフィンワックスを得ることができる。しかしながら、上記方法では大量の溶剤を用い、かつ低温でワックスを析出させる必要があるため、生産性の面で好ましいとは言えない。また、MEKやトルエンを用いるという点において、当該方法は環境面においても好ましくない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、パラフィンワックスの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、ノルマルパラフィンを含む未精製ワックスと、ハンセン溶解度パラメーター(HSP)における双極子項(δp)が4~8でありかつ水素結合項(δh)が3~10である溶剤と、を混合して混合液を得る工程と、混合液から固形物を分離してよりノルマルパラフィン濃度の高いパラフィンワックスを得る工程と、を備える、パラフィンワックスの製造方法に関する。本発明によれば、ワックスから油分等を効率よく選択的に除去することができる。
【0007】
一態様において、溶剤が毒物及び劇物取締法で指定される毒物又は劇物を含まなくてよい。本発明においては、安全性の高い溶剤のみでパラフィンワックスの洗浄を行うことができる。
【0008】
一態様において、溶剤の蒸発熱が500kJ/L以下であってよい。
【0009】
一態様において、未精製ワックスと溶剤とを、未精製ワックスに対する溶剤の質量比(溶剤の質量/未精製ワックスの質量)が5/1~1/2となるように混合してよい。
【0010】
一態様において、下記式に従って算出される分離係数が5以上であってよい。
(Cw/(1-Cw))/(C0/(1-C0))
(式中、Cw及びC0は、それぞれパラフィンワックス(精製されたワックス)中のノルマルパラフィン濃度及び未精製ワックス中のノルマルパラフィン濃度を示す。)
【0011】
一態様において、上記製造方法は、HSPにおける双極子項(δp)が4~8でありかつ水素結合項(δh)が3~10である溶剤を選定する工程を更に備えてよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パラフィンワックスの新規な製造方法を提供することができる。本発明の製造方法は、以下の3つの特徴を兼ね備えている。
優れた洗浄性:洗浄操作により、ワックス中のノルマルパラフィン濃度が上昇する。例えば、後述の分離係数を5以上とすることができる。
優れた選択性:未精製ワックス中のノルマルパラフィンの、溶剤への溶解を充分に抑制できる。例えば、後述のノルマルパラフィン回収率を85%以上とすることができる。
低毒性:HSPに着目することで、毒物及び劇物取締法で指定される毒劇物以外での溶剤設計が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係るパラフィンワックスの製造方法は、ノルマルパラフィンを含む未精製ワックスと、所定の溶剤と、を混合して混合液を得る工程(混合工程)と、混合液から固形物を分離してよりノルマルパラフィン濃度の高いパラフィンワックスを得る工程(分離工程)と、を備える。上記所定の溶剤とは、HSPにおける双極子項(δp)が4~8でありかつ水素結合項(δh)が3~10である溶剤である。ここで、未精製ワックスとは、本願における洗浄操作、すなわち上記混合工程及び分離工程に供されていないワックスを意味する。また、パラフィンワックスとは、直鎖状パラフィン系炭化水素(ノルマルパラフィン)を主成分とする常温で固体のワックスを意味する。
【0015】
上記パラフィンワックスの製造方法において、特定のHSPを有する溶剤を予め準備することが重要である。したがって、上記パラフィンワックスの製造方法は、HSPにおける双極子項(δp)が4~8でありかつ水素結合項(δh)が3~10である溶剤を選定する工程(溶剤選定工程)を更に備えていてよい。
【0016】
なお、ノルマルパラフィンを含む未精製ワックスを所定の溶剤で洗浄して精製するという観点から、上記パラフィンワックスの製造方法は、パラフィンワックスの精製方法ということができる。なお、洗浄とは、対象物と溶剤とを混合して析出した固形物を分離し、対象物から目的物以外を選択的に除去することを意味する。精製とは、粗製品である対象物を加工して一層品質のよい製品に仕上げることである。
【0017】
(混合工程)
未精製ワックスはノルマルパラフィンを含有する。ここで、ノルマルパラフィンとは直鎖状飽和炭化水素をいう。未精製ワックスにおけるノルマルパラフィンの含有量は、特に限定されないが、精製効率の観点から例えば10容量%以上であってよく、好ましくは30容量%以上であり、より好ましくは50容量%以上である。また、当該含有量は、例えば95容量%以下であってよく、好ましくは90容量%以下であり、より好ましくは85容量%以下である。ノルマルパラフィン含有量は、無極性カラムとFID(水素炎イオン化検出器)を装着し、所定の温度プログラムで作動させたガスクロマトグラフより定量することができ、またガスクロマトグラフとは、試料中の各組成物の物性(沸点、極性等)を利用して各組成物を分離・定量分析する分析手法のことである。
【0018】
未精製ワックスにおいて、ノルマルパラフィンの平均炭素数は10以上であってよく、好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上である。また、ノルマルパラフィンの平均炭素数は、50以下であってよく、好ましくは40以下である。平均炭素数は、ガスクロマトグラフ装置により求めた各炭素数のノルマルパラフィン濃度(質量%)の加重平均により算出される。
【0019】
未精製ワックスにおいて、炭素数20以上のノルマルパラフィンの含有比率は、特に限定されないが、例えば10容量%以上であってよく、好ましくは30容量%以上であり、より好ましくは50容量%以上である。また、未精製ワックスにおける炭素数25以上のノルマルパラフィンの含有比率は、例えば5容量%以上であってよく、好ましくは15容量%以上であり、より好ましくは25容量%以上である。
【0020】
未精製ワックスは、ノルマルパラフィン以外の他の炭化水素化合物をさらに含有している。他の炭化水素化合物としては、例えば、イソパラフィン、シクロパラフィン、芳香族分等が挙げられる。未精製ワックスを精製してこれらの化合物を除去することで、例えば潤滑油製造用途等に好適に用いることができるパラフィンワックスを製造することができる。
【0021】
未精製ワックスを得る方法は、特に限定されないが、例えば、鉱油をフィルタープレスにより加圧濾過する方法や、鉱油を溶剤と混合後に濾過する方法等が挙げられる。
【0022】
また、未精製ワックスとして、炭化水素油に低温流動性向上剤を添加した後、これを低い温度条件に置くことで析出する固形物を用いることもできる。以下、この方法について簡潔に説明する。
【0023】
未精製ワックスの製造方法は、例えば10%容量留出温度が300℃以上の炭化水素油に低温流動性向上剤を添加し、5~40℃の温度条件にて固形物を析出させる析出工程と、固形物を、固液分離方法により非透過分として回収する分離工程と、を備える。
【0024】
析出工程では、炭化水素油に低温流動性向上剤を添加して混合油を調製し、5~40℃の温度条件にて固形物を析出させる。炭化水素油の10%容量留出温度は300℃以上であるが、好ましくは320℃以上である。なお、炭化水素油の90容量%留出温度は、好ましくは480℃以下であり、より好ましく460℃以下である。炭化水素油の留出温度はJIS(日本工業規格)K2254(石油製品-蒸留試験方法)により求めることができる。炭化水素油は、例えば、重質軽油に由来するものであってよい。このような炭化水素油を用いることで、ワックスを安価に必要量確保することができる。なお、析出工程は、析出温度を上昇させることで冷却に要するエネルギーを削減するという観点や、混合した溶剤との分離工程を省くことで工程を簡略化するという観点から、溶剤の不存在下で実施される。
【0025】
炭化水素油はノルマルパラフィンを含有する。炭化水素油におけるノルマルパラフィンの含有比率は、特に限定されないが、例えば5容量%以上であってよく、好ましくは7容量%以上であり、より好ましくは10容量%以上である。また、炭化水素油におけるノルマルパラフィンの含有比率は、例えば20容量%以下であってよく、好ましくは17容量%以下であり、より好ましくは15容量%以下である。
【0026】
炭化水素油において、ノルマルパラフィンの平均炭素数は、23以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましい。また、炭化水素油において、ノルマルパラフィンの平均炭素数は、28以下であることが好ましく、27以下であることがより好ましい。
【0027】
炭化水素油において、炭素数20以上のノルマルパラフィンの含有比率は、特に限定されないが、例えば7容量%以上であってよく、好ましくは8容量%以上であり、より好ましくは9容量%以上である。また、炭化水素油における炭素数25以上のノルマルパラフィンの含有比率は、例えば3容量%以上であってよく、好ましくは4容量%以上であり、より好ましくは5容量%以上である。
【0028】
炭化水素油は、ノルマルパラフィン以外の他の炭化水素化合物を更に含有していてよい。他の炭化水素化合物としては、例えば、イソパラフィン、シクロパラフィン、芳香族分等が挙げられる。
【0029】
低温流動性向上剤としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアルキルメタクリレート、アルケニルコハク酸イミド、ポリアルキレンオキシド脂肪酸エステル、ポリアルキルアクリレート、アルキルナフタレン、オレフィンコポリマー、スチレンジエンコポリマー、デンドリマー等が挙げられる。これらのうち、油分含有量の少ないワックス分を析出させ、分離工程での収率を高めるという観点からは、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアルキルメタクリレート及びポリアルキレンオキシド脂肪酸エステル(いずれも軽油用の低温流動性向上剤)が好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体がより好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いる場合、その数平均分子量(Mn)は、析出温度の観点から、好ましくは6000以下、より好ましくは1000~5000、さらに好ましくは2000~4000である。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル含有率(VA)は、ワックス成長抑制の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25~60質量%、さらに好ましくは30~45質量%である。
【0031】
数平均分子量(Mn)は、JIS(日本工業規格)K7252(プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方-)により求めることができる。酢酸ビニル含有率(VA)は、JIS(日本工業規格)K7192(プラスチック-エチレン・酢酸ビニル樹脂(EVAC)-酢酸ビニル含有量の測定方法)により求めることができる。
【0032】
炭化水素油に対する低温流動性向上剤の添加量は、ワックス回収率と炭化水素油の流動性向上という観点から、炭化水素油100質量部に対し0.01質量部以上であることが好ましく、0.025質量部以上であることがより好ましい。また、得られたワックス中のノルマルパラフィン以外の不純物濃度を下げるという観点からは、炭化水素油100質量部に対し0.06質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以下であることがより好ましい。
【0033】
炭化水素油に低温流動性向上剤を添加して得られる(固形物を析出させる前の)混合油の流動点は、濾過性の観点から、20℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましい。なお、当該流動点の下限は特に限定されないが、例えば-5℃とすることができる。流動点はJIS(日本工業規格)K2269(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)により求めることができる。
【0034】
炭化水素油に低温流動性向上剤を添加した後、5~40℃の温度条件にて放置することで、混合油から固形物が析出する。固形物を析出させる際、必要に応じミキサーやガラス棒等による撹拌を行ってもよい。なお、温度条件は、炭化水素油の流動性を維持し、析出した固形物の粒度分布のばらつきを小さくするという観点から、15~25℃であることがより好ましい。粒度分布はJIS(日本工業規格)Z8825(粒子径解析―レーザ回折・散乱法)等により求めることができる。
【0035】
析出工程により炭化水素油中に析出した固形物を、固液分離方法により非透過分として回収する。固液分離方法としては、0℃超の温度条件にて孔径2μm以上の固液分離膜を用いた濾過、又は遠心分離により実施する方法が挙げられる。前者の場合、ろ材として布、網、充填層、多孔性物質等を用いることができ、フィルタープレス、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、遠心濾過等により固形物を分離することができる。布を構成する素材としては合成繊維、天然繊維、ガラス繊維等を用いることができ、具体的にはポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、綿布等が挙げられる。網としては金属網を用いることができ、構成素材としては、具体的には炭素鋼、ステンレス鋼、モネルメタル、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。充填層を構成する素材としては砂、白土、活性炭等を用いることができる。多孔性物質としては焼結金属、多孔性グラファイト、無機膜(無機材料から形成される膜)等を含む分離膜を用いることができ、具体的にはステンレス鋼焼結体、シリカ膜、アルミナ膜、ゼオライト膜等を含む分離膜やガラスフィルターなどが挙げられる。孔径は光学顕微鏡など物理的測定法によって求めても良いし、保持粒子径(JIS(日本工業規格)Z8901で規定された7種粉体分散水を自然濾過した時、90%以上を保持できる粒子径)を用いても良い。後者の場合、分離板型、円筒型、デカンター型等の分離機により固形物を分離することができる。
【0036】
ワックスに含まれる低温流動性向上剤の含有量は、当初の添加量及び製造工程次第で変動するため特に制限されないが、0.01~5質量%とすることができ、0.03~3質量%であってもよく、0.05~1質量%であってもよい。
【0037】
ワックスに含まれる低温流動性向上剤の含有量は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)や、一段目に熱脱着(TD)-GC/MSを、二段目に瞬間熱分解(Py)-GC/MSを組み合わせたダブルショット法により測定することができる。
【0038】
以上、未精製ワックスの製造方法の一例を示した。
【0039】
次に、本実施形態に係るパラフィンワックスの製造方法で用いられる溶剤は、特定のHSPを有する。HSPは、ある物質が有する物性値を、分子間の分散力によるエネルギーである分散項(δd)、分子間の双極子相互作用によるエネルギーである双極子項(δp)、分子間の水素結合によるエネルギーである水素結合項(δh)で表したものである。類似のHSPを有する物質同士は近い物性を示すことが知られている。発明者らの知見によると、これらの三つのパラメーターのうち、本工程においては特に双極子項(δp)及び水素結合項(δh)に着目することが重要であることが分かっている。
【0040】
少量の溶剤で高い洗浄効果(ワックス中のノルマルパラフィン濃度の向上効果)を得られる観点から、上記溶剤における双極子項(δp)は4~8でありかつ水素結合項(δh)が3~10である。双極子項(δp)は好ましくは6~8であり、より好ましくは7~8である。また、水素結合項(δh)は好ましくは5~9であり、より好ましくは5~7である。なお、分散項(δd)は特に限定されないが、3~18とすることができる。
【0041】
上記HSPを有する溶剤は、公知の溶剤を適宜組み合わせて得ることができる。公知の溶剤のうち、毒物及び劇物取締法で指定される毒物又は劇物ではない点、また溶剤の蒸発熱を低く抑えられる点から、例えばエタノール、アセトン、ノルマルヘキサン、メチルシクロペンタン等を好適な溶剤として挙げることができる。これらの溶剤を組み合わせて得られる溶剤は、メチルエチルケトンやトルエンのような、毒物及び劇物取締法で指定される毒物又は劇物を含まない。なお、「毒物又は劇物を含まない」とは、FID検出器を備えるガスクロマトグラフィー装置を用いた分析において毒物及び劇物の濃度が検出限界濃度以下(1ppm以下)であることを言う。
【0042】
上記HSPを有する溶剤として、蒸発熱を低く抑えられる点からは、アセトンを含む混合溶剤を用いることが好ましい。具体的には、アセトン、ノルマルヘキサン、メチルシクロペンタンや、これらを任意に混合した溶剤等が好ましい。後述の分離係数やノルマルパラフィンの回収率の観点から、混合溶剤におけるアセトンの含有量は50体積%以上であってよく、好ましくは50体積%超であり、より好ましくは60体積%以上であり、さらに好ましくは75体積%以上である。
【0043】
コストや環境負荷の観点から、溶剤は繰り返し用いることが現実的である。例えば、分離工程後の、不純物(例えば、ノルマルパラフィン以外の他の炭化水素化合物等)が溶解した溶剤から、溶剤を蒸留により回収することができる。この回収する工程において、溶剤の蒸発・凝縮を繰り返すことから、溶剤の蒸発熱は小さいことが好適である。この観点から、溶剤の蒸発熱は、500kJ/L以下であってよく、好ましくは450kJ/L以下であり、より好ましくは400kJ/L以下である。蒸発熱の下限は特に限定されないが、例えば100kJ/Lであってよい。溶剤の蒸発熱は示差走査熱量計により測定することができる。
【0044】
未精製ワックスと溶剤との混合比は特に限定されないが、未精製ワックスに対する溶剤の質量比(溶剤の質量/未精製ワックスの質量)が5/1~1/2となるように混合してよい。これにより、溶剤の使用量を抑えつつ、未精製ワックスに対する高い洗浄効果を維持し易い。溶剤の使用量が少ないことで、溶剤に溶解してロスとなるワックス分を低減することができる。この観点から、上記質量比は好ましくは3/1~1/2であり、より好ましくは2/1~1/2であり、さらに好ましくは1/1~1/2である。
【0045】
(分離工程)
未精製ワックスと溶剤との混合液から固形物を分離する方法としては、例えば固液分離方法が挙げられる。固液分離方法としては、具体的には固液分離膜を用いた濾過、又は遠心分離が挙げられ、その詳細は未精製ワックスの製造方法の項にて説明したとおりである。分離工程に付される際の混合液の液温は-10~20℃とすることができる。
【0046】
本製造方法により、未精製ワックスに含まれるノルマルパラフィン以外の成分の、好適には80容量%以上が除去された、パラフィンワックスを得ることができる。
【0047】
本製造方法において、下記式に従って算出される分離係数は5以上であってよく、好ましくは5.5以上であり、より好ましくは6以上である。分離係数の上限は特に限定されないが、例えば10であってよい。
(Cw/(1-Cw))/(C0/(1-C0))
(式中、Cw及びC0は、それぞれパラフィンワックス(精製されたワックス)中のノルマルパラフィン濃度及び未精製ワックス中のノルマルパラフィン濃度を示す。)
【0048】
固形物(すなわち精製されたワックス)におけるノルマルパラフィンの含有量は、原料である未精製ワックス中のノルマルパラフィン濃度にもよるため特に限定されないが、例えば50容量%以上であってよく、好ましくは60容量%以上であり、より好ましくは80容量%以上である。また、当該含有量の上限は特に限定されないが、例えば95容量%以下であってよい。
【0049】
(溶剤選定工程)
本工程は上記混合工程に先立ち実施することができる。上記のとおり、所望のHSPを有する溶剤は、公知の溶剤を適宜組み合わせて得ることができる。溶剤のHSPは、パソコンソフト等を使用して算出することができ、公知の値があればそれを用いることもできる。本工程では、溶剤のHSPに着目することで、未精製ワックスの洗浄に適した安全性の高い溶剤を自由に処方することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0051】
<パラフィンワックスの製造>
(実施例1)
10容量%留出温度が324.9℃、90容量%留出温度が432.0℃、流動点22.5℃の炭化水素油300gを、500mL硼珪酸ガラスビーカー(コーニング社製)に移した。一方、エチレン-酢酸ビニル共重合体系の軽油用低温流動性向上剤MD336K(三洋化成工業株式会社製:Mn4000、VA38質量%)0.09gを、200mLスクリュー管(マルエム製)に入れ、これをウォーターバス(アズワン製)にて60℃で1時間加熱した。このように準備した軽油用低温流動性向上剤を炭化水素油に添加し、ガラス棒にて攪拌混合して混合油を得た。混合油の流動点は4℃であった。
【0052】
次に、この混合油45gを100mLスクリュー管(マルエム製)に入れ、これを15℃に設定した低温恒温水槽(アズワン製)に10分静置した。静置後の混合油に対し、ガラスフィルターグレードGF/Dパラフィン(Whatman製、保持粒子径:2.7μm)を取り付けた減圧濾過器KGS-47及び吸引瓶VT-500(いずれもADVANTEC製)を用いて、減圧濾過を行った。濾過条件は、減圧側圧力-0.95MPa、濾過温度15℃、濾過時間20分間とした。減圧濾過によりガラスフィルター上に固形物(未精製ワックス)3gと、流動点5℃のろ液(炭化水素油)とを得た。当該固形物におけるノルマルパラフィン濃度は45容量%であった。
【0053】
次に、溶剤として、アセトンとノルマルヘキサンとを3:1(体積比)で混合した溶剤を準備した。溶剤のHSP及び蒸発熱を表1に示す。溶剤のHSPは、Hansen氏らにより開発されたソフトウエアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice:HSPを効率よく扱うためのWindows(登録商標)用ソフト)を用いて求めた。このソフトウエアHSPiPは、2019年10月1日現在、http://www.hansen-solubility.com/から入手可能である。なお、複数の溶媒が混合された混合溶媒の場合等に対しても、HSP(δd,δp,δh)を算出することができる。
【0054】
上記のとおり得られた未精製ワックスと溶剤とを質量比が1:1となるように秤量し、50mLスクリュー管内に容れた後、よく震盪してスラリーを得た。
【0055】
このスラリーを10℃に設定した低温恒温槽(アズワン製)に10分静置した。静置後のスラリーに対し、桐山濾紙No.5Aを取り付けた減圧濾過器KGS-47及び吸引瓶VT-500を用いて、減圧濾過を行った。濾過条件は、減圧側圧力-0.95MPa、濾過温度10℃、濾過時間2分間とした。減圧濾過により桐山濾紙上に固形物(精製されたワックス)と、ろ液とを得た。当該固形物(精製されたワックス)におけるノルマルパラフィン濃度は83容量%であった。また、精製されたワックスから分離されたろ液中の、溶剤を除く溶解成分中のノルマルパラフィン濃度は8容量%であった。
【0056】
(その他の実施例及び比較例)
上記溶剤を表1に示す溶剤に変更したこと以外は、実施例1と同様にして固形物(精製されたワックス)を得た。
【0057】
【0058】
<評価>
(分離係数)
分離係数を下記式に従って算出した。結果を表2に示す。
(Cw/(1-Cw))/(C0/(1-C0))
ただしCw及びC0は、それぞれ洗浄後のワックス(精製されたワックス)及び洗浄前のワックス(未精製ワックス)中のノルマルパラフィン濃度を示す。
【0059】
(ノルマルパラフィン回収率)
ノルマルパラフィン回収率を下記式に従って算出した。結果を表2に示す。
(精製されたワックスに含まれるノルマルパラフィン量/未精製ワックスに含まれるノルマルパラフィン量)×100(%)
【0060】
【0061】
実施例では優れた分離係数及びノルマルパラフィン回収率を共に達成することができた。その結果は、劇物に指定されているメチルエチルケトンやトルエンを用いた場合(比較例6)と比較しても遜色のない優れたものであった。