(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】血液分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/49 20060101AFI20240124BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240124BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240124BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240124BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
G01N33/49 K
G01N33/50 P
G01N21/64 Z
C12Q1/02
G01N33/569 A
G01N33/49 A
(21)【出願番号】P 2019234035
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥家 雄二
(72)【発明者】
【氏名】仙石 未佳子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 成一朗
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/136573(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/016253(WO,A1)
【文献】特表2019-515277(JP,A)
【文献】八木 行雄,小型ピロプラズマ原虫寄生赤血球の検出,Application Note 3,CE1013 0610,2000年11月01日,http://www.bc-cytometry.com
【文献】Equine Piroplasmosis,2018年12月,pp.1-6,http://www.cfsph.iastate.edu/
【文献】Laia Solano-Gallego,A review of canine babesiosis: the European perspective,Parasites & Vectors,2016年,9:336,pp.1-18,DOI 10.1186/s13071-016-1596-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウマ又はイヌから採取された血液試料、核酸を染色する蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を混合して調製された測定試料に光を照射し、蛍光情報を取得する工程と、
前記蛍光情報に基づいて、前記血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球を検出する工程とを含む、血液分析方法。
【請求項2】
前記カチオン性界面活性剤が第四級アンモニウム塩である、請求項1に記載の血液分析方法。
【請求項3】
前記カチオン性界面活性剤が一般式(I):
【化1】
(式中、R
1は炭素数8~25のアルキル基であり;R
2、R
3及びR
4は同一又は異なって、炭素数1~6のアルキル基であり;X
-はアニオンである。)
で表される化合物である、請求項1又は2に記載の血液分析方法。
【請求項4】
前記カチオン性界面活性剤が、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド(OTAB)、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DTAB)、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(LTAC)、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロマイド(MTAB)、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド(MTAC)、セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)、セチルピリジニウムクロライド(CPC)、及びステアリルトリメチルンモニウムクロライド(STAC)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれかに記載の血液分析方法。
【請求項5】
前記蛍光色素が、イミダゾール系蛍光色素、シアニン系蛍光色素、フェナントリジン系蛍光色素、及びアクリジン系蛍光色素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれかに記載の血液分析方法。
【請求項6】
前記蛍光色素が、イミダゾール系蛍光色素、及びシアニン系蛍光色素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれかに記載の血液分析方法。
【請求項7】
前記測定試料が、さらにノニオン性界面活性剤を含む、請求項1~6のいずれかに記載の血液分析方法。
【請求項8】
前記ノニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノイソステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレン水素化ひまし油、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンフィトスタノール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンセチルエーテル、及びポリオキシエチレンモノラウリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の血液分析方法。
【請求項9】
前記血液試料が
ウマから採取された血液試料である、請求項1~8のいずれかに記載の血液分析方法。
【請求項10】
前記検出工程において、前記血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球を計数する、請求項1~
9のいずれかに記載の血液分析方法。
【請求項11】
前記取得工程において、散乱光情報をさらに取得し、
前記検出工程において、前記蛍光情報および前記散乱光情報に基づいて、前記血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球を検出する、
請求項1~
10のいずれかに記載の血液分析方法。
【請求項12】
前記散乱光情報が、前方散乱光情報である、請求項
11に記載の血液分析方法。
【請求項13】
核酸を染色する蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を含む、
請求項1~12のいずれかに記載の血液分析方法に用いるためのピロプラズマ検出用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分析方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロプラズマ病は、ピロプラズマ目のバベシア科及びタイレリア科に属するピロプラズマによって引き起こされる伝染病である。ピロプラズマの検出方法として、たとえば非特許文献1に記載の技術があげられる。非特許文献1には、家畜血液サンプルを膜透過性の蛍光色素で染色して、得られた試料をフローサイトメーターに適用してピロプラズマ感染赤血球を検出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Flow cytometry to evaluate Theileria sergenti parasitemia using the fluorescent nucleic acid stain, SYTO16., Yagi Y, Shiono H, Kurabayashi N, Yoshihara K, Chikayama Y., Cytometry. 2000 Nov 1;41(3):223-5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピロプラズマに感染した赤血球を精度よく検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下を含む。
【0006】
生体から採取された血液試料、核酸を染色する蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を混合して調製された測定試料に光を照射し、蛍光情報を取得する工程と、前記蛍光情報に基づいて、前記血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球を検出する工程とを含む、血液分析方法。
【0007】
核酸を染色する蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を含む、ピロプラズマ検出用試薬。
【0008】
生体から採取された血液試料、核酸を染色する蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を混合して測定試料を調製する測定試料調製部と、前記測定試料に光を照射する光源部と、光が照射された前記測定試料から得られる蛍光情報を取得する検出部と、前記蛍光情報に基づいて、前記血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球を検出する制御部と、を備える血液分析装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピロプラズマに感染した赤血球を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態による血液分析装置の概略構成を示す正面図である。
【
図2】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットを示す斜視図である。
【
図4】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットの内部構造を示す斜視図である。
【
図5】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットの内部構造を示す側面図である。
【
図6】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットに設けられたフローセルの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットに設けられた光学測定部およびそれに蛍光色素(染色液)およびカチオン性界面活性剤を含む溶血剤を供給するチャンバの構成を示す概略図である。
【
図8】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットに設けられた光学測定部の構成を示す概略図である。
【
図9】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットに設けられたDC測定部の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図10】
図1に示した一実施形態による血液分析装置の測定ユニットに設けられたHGB測定部の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図11】
図1に示した一実施形態による血液分析装置における試料分析処理を示すフローチャートである。
【
図12】「1.ピロプラズマ感染ウマ赤血球の測定」の結果を示すスキャッタグラムである。
【
図13】「2.ピロプラズマ感染イヌ血液の測定」の実施例2~4の結果を示すスキャッタグラムである。
【
図14】「2.ピロプラズマ感染イヌ血液の測定」の比較例2~3の結果を示すスキャッタグラムである。
【
図15】「2.ピロプラズマ感染イヌ血液の測定」の実施例5~6の結果を示すスキャッタグラムである。
【
図16】「3.自動血球分析装置による測定」のウマ由来血液試料を検体として用いた場合(実施例7~8)の結果を示すスキャッタグラムである。
【
図17】「3.自動血球分析装置による測定」のイヌ血液を検体として用いた場合(実施例9~10)の結果を示すスキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の血液分析方法は、生体から採取された血液試料、核酸を染色する蛍光色素(以下、単に「蛍光色素」ともいう)及びカチオン性界面活性剤を混合して調製された測定試料に光を照射し、蛍光情報を取得する工程を含む。
【0012】
(測定試料)
測定試料は、フローサイトメーターに流し測定を行うための試料であり、生体から採取された血液試料、蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を含む。
【0013】
測定試料中における蛍光色素の濃度は、赤血球中のピロプラズマのDNAを染色できれば特に制限されない。該濃度は、ピロプラズマに感染した赤血球(以下、「感染赤血球」ともいう)と、ピロプラズマに感染していない赤血球(以下、「非感染赤血球」ともいう)、白血球、血小板などのその他の成分との分離能の観点から、次に示す濃度が好ましい。該濃度の下限は、好ましくは0.15μM、より好ましくは0.16μM、さらに好ましくは0.18μMである。該濃度の上限は、好ましくは1.0μM、より好ましくは0.95μM、さらに好ましくは0.89μMである。
【0014】
測定試料中におけるカチオン性界面活性剤の濃度の下限は、好ましくは0.1mM、より好ましくは0.5mM、さらに好ましくは2mMである。測定試料中におけるカチオン性界面活性剤の濃度の上限は、好ましくは100mM、より好ましくは50mM、さらに好ましくは20mMである。
【0015】
(蛍光色素)
蛍光色素としては、核酸に(特にDNAに選択的に)結合して蛍光を発することができるものである限り特に制限されず、各種蛍光色素を使用することができる。蛍光色素としては、イミダゾール系蛍光色素(ヘキスト(商標)、DAPI)、シアニン系蛍光色素(Cy、TOTO(商標)、SYTO(商標))、フェナントリジン系蛍光色素(エチジウムブロマイド、プロピジウムイオダイド)、アクリジン系蛍光色素(アクリジンオレンジ)が挙げられ、好ましくはイミダゾール系蛍光色素またはシアニン系蛍光色素が挙げられる。
【0016】
イミダゾール系蛍光色素の例としてヘキスト(商標)が挙げられる。具体的には、
【化1】
で示される蛍光色素が挙げられる。この蛍光色素は、CAS番号911004-45-0で当業者に周知であり、ヘキスト(商標)34580とも呼ばれる。この蛍光色素は、RNAよりもDNAを強く染色するDNA選択的蛍光色素である。上記の蛍光色素は、例えば青紫色レーザ光(波長が約405nm)により励起することができる。上記の蛍光色素は、公知の方法に従って合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0017】
シアニン系蛍光色素の例として、SYTO(商標)が挙げられる。具体的には、SYTO(商標)9、SYTO(商標)11、SYTO(商標)12、SYTO(商標)13、SYTO(商標)14、SYTO(商標)16、SYTO(商標)21、SYTO(商標)24等が挙げられる。
【0018】
蛍光色素としては、1種単独を使用することもできるし、2種以上を組合わせて使用することもできる。
【0019】
測定試料の調製の際には、通常、蛍光色素を含む溶液(本明細書において、ピロプラズマ分析用染色液または染色液ともいう)が使用される。染色液の溶媒は、血液分析に支障がない限り特に限定されない。溶媒は、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水、生理食塩水、炭素数1~6の低級アルコール(エタノール等)およびそれらの混合物であり、より好ましくはエチレングリコールである。
【0020】
染色液中における蛍光色素の濃度の下限は、好ましくは3μM、より好ましくは10μM、更に好ましくは50μMである。染色液中における蛍光色素の濃度の上限は、好ましくは200μM、より好ましくは180μM、更に好ましくは150μMである。
【0021】
上記の染色液中における蛍光色素の濃度の下限および上限の値は、本実施形態で用いられるような血液分析装置による測定試料の調製に際して、精度管理上の限界があることに基づく。すなわち、本実施形態で用いられるような血液分析装置を用いて測定試料を調製する際、ピペッティング可能な染色液の容量は一般的に約5μL~約50μLである。上記の血液分析装置中で染色液に加えられる溶血剤の容量は1.0mLであり、血液試料は微量であるため、蛍光色素の濃度は、約20倍~約200倍に希釈される。測定試料中の蛍光色素濃度が、上記した好ましい下限及び上限からなる範囲(0.15μM以上1.0μM以下)である場合、染色液中における蛍光色素の濃度の下限および上限は、それぞれ3μMおよび200μMとなる。
【0022】
このような染色液の調製方法は特に限定されず、当業者に公知の方法に従って調製することができる。例えば、上記の蛍光色素と上記の溶媒とを混合することによって調製することができる。染色液の調製において蛍光色素と溶媒とを混合する際、混合物を撹拌してもよい。撹拌速度および撹拌時間等の撹拌条件は、当業者が適宜設定できる。
【0023】
(カチオン性界面活性剤)
カチオン性界面活性剤は、赤血球の細胞膜を損傷する作用があれば、特に制限されない。カチオン性界面活性剤としては、例えば第四級アンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられ、特に好ましくは第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0024】
第四級アンモニウム塩としては、特に制限されず、例えば脂肪族第四級アンモニウム塩、芳香族第四級アンモニウム塩等が挙げられるが、好ましくは脂肪族第四級アンモニウム塩が挙げられ、特に好ましくは一般式(I):
【0025】
【0026】
(式中、R1は炭素数8~25のアルキル基であり;R2、R3及びR4は同一又は異なって、炭素数1~6のアルキル基であり;X-はアニオンである。)
で表される化合物が挙げられる。
アルキル基は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。R1で示されるアルキル基として、好ましくは炭素数10~20のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数12~18のアルキル基が挙げられる。R2、R3及びR4で示されるアルキル基として、好ましくは炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数1~2のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは炭素数1のアルキル基が挙げられる。アニオンとしては、特に制限されず、例えば塩素イオン、臭素イオン等が挙げられ、好ましくは塩素イオンが挙げられる。
一般式(I)で表される化合物としては、好ましくはオクチルトリメチルアンモニウムブロマイド(OTAB)、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DTAB)、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(LTAC)、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロマイド(MTAB)、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド(MTAC)、セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)、セチルピリジニウムクロライド(CPC)、及びステアリルトリメチルンモニウムクロライド(STAC)等が挙げられる。
【0027】
カチオン性界面活性剤としては、1種単独を使用することもできるし、2種以上を組合わせて使用することもできる。
【0028】
測定試料の調製の際には、カチオン性界面活性剤をそのまま使用することもできるが、通常、カチオン性界面活性剤を含む溶液(本明細書において、溶血剤ともいう)を使用する。溶血剤には、カチオン性界面活性剤以外の他の界面活性剤が含まれていてもよい。他の界面活性剤としては、例えばドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、CHAPS等の両性界面活性剤、PBC-44等のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。感染赤血球と非感染赤血球との分離能の観点から、他の界面活性剤として、PBC-44等のノニオン系界面活性剤を使用することが好ましく、この場合、カチオン性界面活性剤として、ステアリルトリメチルンモニウムクロライド(STAC)等の一般式(I)においてR1が炭素数14~25(好ましくは16~22、より好ましくは18~20)のアルキル基である化合物等を使用することがより好ましい。
【0029】
溶血剤におけるカチオン性界面活性剤の濃度の下限は、好ましくは0.1mM、より好ましくは0.5mM、さらに好ましくは2mMである。溶血剤におけるカチオン性界面活性剤の濃度の上限は、好ましくは100mM、より好ましくは50mM、さらに好ましくは20mMである。
【0030】
溶血剤のpHの下限は、好ましくは5.0、より好ましくは5.5である。溶血剤のpHの上限は、好ましくは7.0、より好ましくは6.5である。
【0031】
溶血剤の赤血球に対する浸透圧の下限は、好ましくは200mOsm/kg・H2O、より好ましくは220mOsm/kg・H2Oである。溶血剤の赤血球に対する浸透圧の上限は、好ましくは300mOsm/kg・H2O、より好ましくは280mOsm/kg・H2Oである。
【0032】
(血液試料)
血液試料は、ピロプラズマ感染が起こる哺乳動物の生体から採取され得る。当該哺乳動物は、例えば、イヌ、ウマ、ウシ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラクダ、トナカイ等の非ヒト哺乳動物である。本明細書において、「血液試料」は、赤血球を含む試料であればよく、全血、全血を処理して得られる試料などを含む。全血を処理して得られる試料としては、たとえば、全血から遠心分離等により赤血球とその他の成分を分離し、その他の成分を除去して得られる試料であってもよい。。
【0033】
測定試料は、測定試料中における蛍光色素及びカチオン性界面活性剤の濃度が適切な範囲内であることを前提として、希釈液によって希釈されていてもよい。希釈液は、血液分析に適したものであれば特に限定されず、好ましくはシスメックス社製セルパックである。しかし、本実施形態では、ピロプラズマ測定用の測定試料は、希釈液によって希釈を行わないことが好ましい。なお、後述するように、本実施形態では、希釈液は、光学測定やDC測定のためのシース液としても用いることができる。
【0034】
本発明の別の実施形態では、感染赤血球の検出または感染赤血球数の測定に加えて、赤血球数の測定または赤血球数に基づいて感染赤血球率の算出が行われる。この場合、ピロプラズマ測定用の測定試料とは別に、赤血球数測定用の測定試料を調製する。赤血球数測定用の測定試料は、上記の希釈液によって希釈されていることが好ましい。
【0035】
(測定試料の調製方法)
測定試料の調製方法は特に限定されず、当業者に公知の方法に従って調製することができる。例えば、血液試料、蛍光色素(好ましくは蛍光色素を含む染色液)及びカチオン性界面活性剤(好ましくはカチオン性界面活性剤を含む溶血剤)を混合することによって調製することができる。
【0036】
測定試料の調製温度の下限は、好ましくは20℃、より好ましくは39℃である。測定試料の調製温度の上限は、好ましくは45℃、より好ましくは43℃である。
【0037】
測定試料の調製時間の下限は、好ましくは10秒、より好ましくは15秒である。測定試料の調製時間の上限は、好ましくは60秒、より好ましくは25秒である。
【0038】
測定試料の調製において血液試料、蛍光色素およびカチオン性界面活性剤を混合する際、混合物を撹拌してもよい。撹拌速度および撹拌時間等の撹拌条件は、当業者が適宜設定できる。測定試料が希釈液を含む場合、上記の血液試料、蛍光色素およびカチオン性界面活性剤に加えて、更に希釈液を混合すること以外は、上記測定試料の調製方法と同様にして調製することができる。
【0039】
(蛍光情報の取得)
蛍光情報を取得する際の照射光の波長は、蛍光色素を励起可能な波長であれば特に限定されない。照射光の強度は当業者が適宜設定できる。
【0040】
また、蛍光情報の取得工程では、上記のようにして調製した測定試料に光を照射して得られる散乱光情報を取得してもよい。
【0041】
散乱光情報および蛍光情報の取得は、フローサイトメーターを用いて行うことができる。本実施形態では、後述する血液分析装置1に内蔵されたフローサイトメーターを用いて、散乱光情報および蛍光情報の取得が行うことができる。
【0042】
蛍光情報に基づいて、血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球が検出される。ピロプラズマに感染した赤血球の検出方法は、特に限定されない。検出方法は、好ましくはフローサイトメトリー法を用いる方法である。
【0043】
溶血剤に含まれるカチオン性界面活性剤により、赤血球の細胞膜が損傷し、蛍光色素の膜透過性が向上する。赤血球には核が含まれないため、非感染赤血球は蛍光を発しないか、非常に弱く蛍光を発する。一方、感染赤血球はピロプラズマの核が染色されるため、より強い蛍光を発する。また、白血球は感染赤血球や非感染赤血球よりもはるかに大きな蛍光を発する。これらの差は、蛍光強度、蛍光パルス幅、蛍光パルス面積等の蛍光情報に表れる。この蛍光情報の差に基づいて、感染赤血球をその他の成分から弁別することができる。検出工程において、感染赤血球を特定し、且つ感染赤血球を計数してもよい。さらに赤血球を計数し、感染赤血球比率(後述)を算出してもよい。
【0044】
本発明の別の実施形態は、上述の取得工程により得られた蛍光情報に基づき、感染赤血球とその他の成分とを弁別する工程を含む、血液分析方法である。
【0045】
なお、
図1に示される血液分析装置を用いれば、上記の散乱光情報および蛍光情報の取得工程とピロプラズマに感染した赤血球の検出工程とを自動的に行うこともできる。
【0046】
本実施形態では、
図1に示される血液分析装置に内蔵されたコンピュータプログラムを用いて、ピロプラズマに感染した赤血球の検出が行われる。より具体的には、上記のコンピュータプログラムを用いて、蛍光情報に基づき、感染赤血球を同定する。蛍光情報としては、蛍光強度、蛍光パルス幅、蛍光パルス面積などが用いられ得る。これらのうち、蛍光強度が好ましい。感染赤血球は、非感染赤血球よりも強い蛍光を生ずると考えられる。スキャッタグラムを用いる場合は、スキャッタグラム上で感染赤血球が出現する領域は、非感染赤血球が出現する領域より高い蛍光強度の位置に設定され得る。
【0047】
検出工程において、好ましくは、散乱光情報をさらに用いて、感染赤血球を検出する。動物種によっては、血液試料が網状赤血球などDNAの残存した赤血球を多く含む場合がある。通常、網状赤血球と成熟した赤血球は散乱光情報が異なるため、網状赤血球と感染赤血球との分離をより正確にする目的で、散乱光情報をさらに用いることができる。散乱光情報は、前方散乱光情報または側方散乱光情報が用いられ得る。散乱光情報としては、前方散乱光(例えば、受光角度0~20度付近)または側方散乱光(例えば、受光角度80~100度付近)のパルスの強度(ピーク値)、パルス幅、パルス面積などが例示される。本実施形態では、散乱光情報として前方散乱光強度を用いることが好ましい。
【0048】
感染赤血球は、網状赤血球などDNAの残存した赤血球よりも弱い散乱光となると考えられる。散乱光情報および蛍光情報を用いる場合は、散乱光情報および蛍光情報を2軸としたスキャッタグラムを作成してもよい。スキャッタグラムを用いる場合、スキャッタグラム上で感染赤血球が出現する領域は、非感染赤血球が出現する領域より高い蛍光強度であり、網状赤血球などDNAの残存した赤血球が出現する領域より低い散乱光強度の位置に設定され得る。この場合、当該領域内に位置する細胞の数を感染赤血球として算出することができる。ここで用いられる散乱光強度は、前方散乱光強度であることが好ましい。
【0049】
なお、本実施形態で用いられる血液分析装置は、感染赤血球の検出だけではなく、他の血液分析を行ってもよい。例えば、このような血液分析装置を用いれば、簡便に、白血球をより細かな群(例えばリンパ球、好酸球等)に分類することや赤血球数および血色素量を測定すること等も可能である。上記の感染赤血球の検出が、白血球分類や赤血球数および血色素量の測定等のその他の血液分析と同時に行われる場合も、本発明の範囲内である。
【0050】
本発明の一実施形態は、ピロプラズマ検出用試薬である。すなわち、本実施形態は、蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を含む、ピロプラズマ検出用試薬である。蛍光色素、染色液、カチオン性界面活性剤、溶血剤等については上述のとおりである。ピロプラズマ検出用試薬は、蛍光色素及びカチオン性界面活性剤がそれぞれ別々の容器に収容されてなる試薬キットの形態であることが好ましい。本発明の別の実施形態は、蛍光色素及びカチオン性界面活性剤の、ピロプラズマ検出用試薬の製造のための使用であ。本発明の別の実施形態は、上述のピロプラズマ検出のための試薬の使用である。
【0051】
本発明の一実施形態は、上記の血液分析方法を行うための装置である。すなわち、本発明によれば、生体から採取された血液試料、蛍光色素及びカチオン性界面活性剤を混合して測定試料を調製する測定試料調製部と、前記測定試料に光を照射する光源部と、光が照射された前記測定試料から得られる蛍光情報を取得する検出部と、前記蛍光情報に基づいて、前記血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球を検出する制御部と、を備える血液分析装置が提供される。
【0052】
上記の検出部は、測定試料に光を照射して得られる散乱光情報を更に取得するように構成されていてもよい。また、上記の制御部は、上記の蛍光情報および散乱光情報に基づいて、前記血液試料中のピロプラズマに感染した赤血球を検出するように構成されていてもよい。
【0053】
まず、
図1~
図10を参照して、一実施形態としての血液分析装置1の構成について説明する。
【0054】
本実施形態による血液分析装置1は、
図1に示すように、血液検査に使用される装置であり、測定ユニット2と、データ処理ユニット3とによって主として構成されている。また、血液分析装置1は、たとえば、病院または病理検査施設等の医療機関の施設内に設置されている。また、血液分析装置1では、測定ユニット2により血液試料中に含まれる成分について所定の測定を行い、この測定データをデータ処理ユニット3で受信して分析処理を行っている。そして、測定ユニット2とデータ処理ユニット3とは、互いにデータ通信可能なように、データ伝送ケーブル3aにより接続されている。なお、測定ユニット2とデータ処理ユニット3とは、データ伝送ケーブル3aにより直接接続される構成であってもよいし、たとえば、電話回線を使用した専用回線、LANまたはインターネット等の通信ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0055】
測定ユニット2は、
図2に示すように、試料供給部4と、光学測定部5と、DC測定部6と、HGB測定部7と、制御部8と、通信部9とを含んでいる。また、
図3に示すように、測定ユニット2の正面右下部分には、血液試料を収容した採血管20をセット可能に構成された採血管セット部2aが設けられている。この採血管セット部2aは、その近傍に設けられたボタンスイッチ2bをユーザが押下することにより、手前方向に迫り出すように構成されている。ユーザは、採血管セット部2aが迫り出した状態で採血管20をセットすることが可能である。そして、採血管20をセットした後、ユーザが再度ボタンスイッチ2bを押下することにより、採血管セット部2aは測定ユニット2の内部に戻されるように構成されている。
【0056】
測定ユニット2の内部には、
図4および
図5に示すように、血液試料を吸引するピペット21、および、血液試料と蛍光色素等とを混合調製するためのチャンバ22、23(
図5参照)等が設けられている。ピペット21は、上下方向に延びた管状に形成されており、その先端は鋭く尖っている。また、ピペット21は、図示しないシリンジポンプに連結されており、このシリンジポンプの動作によって液体を所定量だけ吸引するとともに、吐出することが可能なように構成されている。また、ピペット21は、移動機構に接続されており、上下方向および前後方向にそれぞれ移動可能に構成されている。また、ピペット21は、採血管20を密閉するゴム製のキャップ20aに、鋭利な先端を穿刺することにより、採血管20に収容された血液試料を吸引するように構成されている。また、ピペット21は、血液試料を吸引した後、移動機構により所定の位置まで移動され、チャンバ22または23内に血液試料を供給するように構成されている。なお、本実施形態では、2つのチャンバを備える態様について説明したが、血液分析装置に設けられる上記のようなチャンバは、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
【0057】
試料供給部4は、チャンバ22および23、複数の電磁弁、ダイヤフラムポンプ等を有する流体ユニットである。チャンバ22および23は、測定試料を調製するために設けられている。また、試料供給部4により構成される流体ユニットには、試薬容器が接続されている。具体的には、希釈液を収容するための希釈液容器24、カチオン性界面活性剤を含む溶血剤を収容するための溶血剤容器25およびピロプラズマ検出用の測定試料に用いられる染色液を収容するための染色液容器26が流体ユニットに接続されている。これにより、希釈液、溶血剤および染色液をチャンバ22または23に供給することが可能である。希釈液は、必要に応じてチャンバ22または23に供給されてもよいし、または供給されなくてもよい。
【0058】
光学測定部5は、光学式のフローサイトメーターであり、半導体レーザ光を用いたフローサイトメトリー法により、感染赤血球検出(以下、ピロプラズマ検出という)を行うために設けられている。また、光学測定部5は、測定試料の液流を形成するフローセル51(
図6参照)を有している。フローセル51は、透光性を有する石英、ガラス、合成樹脂等の材料によって管状に構成されており、その内部が測定試料およびシース液としての希釈液が通流する流路となっている。このフローセル51には、内部空間が他の部分よりも細く絞り込まれたオリフィス51aが設けられている。また、オリフィス51aの入口付近は二重管構造となっており、その内側管部分は試料ノズル51bとなっており、これを介して、チャンバ22等において調製された測定試料が供給される(
図7)。また、試料ノズル51bの外側の空間はシース液としての希釈液が通流する流路51cであり、シース液としての希釈液は、流路51cを通流し、オリフィス51aに導入される。このようにフローセル51に供給されたシース液としての希釈液は、試料ノズル51bから吐出された測定試料を取り囲むように流れる。そして、オリフィス51aによって測定試料の流れが細く絞り込まれ、測定試料に含まれる白血球、赤血球等の粒子がシース液としての希釈液に取り囲まれて1つずつオリフィス51aを通過する。
【0059】
また、光学測定部5には、半導体レーザ光源52が、フローセル51のオリフィス51aへ向けてレーザ光を出射するように配置されている。この半導体レーザ光源52は、青紫色半導体レーザ素子52aを有し、波長が約405nmの青紫色レーザ光を出射することが可能なように構成されている。また、半導体レーザ光源52とフローセル51との間には、複数のレンズからなる照射レンズ系53が配置されている。この照射レンズ系53によって、半導体レーザ光源52から出射された平行ビームがビームスポットに集束されるようになっている。また、半導体レーザ光源52から直線的に延びた光軸上には、フローセル51を挟んで照射レンズ系53に対向するように、ビームストッパ54aが設けられており、ビームストッパ54aは、半導体レーザ光源52からの直接光を遮光するように構成されている。
【0060】
また、ビームストッパ54aのさらに光軸下流側には、フォトダイオード54が配置されている。フォトダイオード54は、フローセル51を流れる測定試料により生じるレーザ光の散乱光を受光するように構成されている。具体的には、半導体レーザ光源52から直線的に延びた光軸に沿って進行する光のうち、半導体レーザ光源52の直接光はビームストッパ54aによって遮断されるので、フォトダイオード54は、概ね光軸方向に沿って進行する散乱光(以下、前方散乱光という)のみを受光するように構成されている。また、フォトダイオード54は、フローセル51から発せられた前方散乱光を光電変換し、これによって生じた電気信号(以下、前方散乱光信号という)をアンプ54bに伝達するように構成されている。そして、アンプ54bは、伝達された前方散乱光信号を増幅し、制御部8に出力するように構成されている。なお、光信号のゲイン(増幅率)や受光感度等は当業者が適宜設定または変えることができる。なお、ゲインを変えるとは、光情報を取得する際に、アンプ54bおよび/または58bの増幅率を変更することをいう。
【0061】
また、フローセル51の側方であって、半導体レーザ光源52からフォトダイオード54へ直線的に延びる光軸に対して直交する方向には、側方集光レンズ55が配置されており、この側方集光レンズ55は、フローセル51内を通過する血球にレーザ光を照射したときに発生する側方光(前記光軸に対して交差する方向へ出射される光)を集光するように構成されている。側方集光レンズ55の下流側にはダイクロイックミラー56が設けられており、ダイクロイックミラー56は、側方集光レンズ55から送られる信号光を散乱光成分と蛍光成分とに分けるように構成されている。ダイクロイックミラー56の側方(側方集光レンズ55とダイクロイックミラー56とを結ぶ光軸方向に交差する方向)には、側方散乱光受光用のフォトダイオード57が設けられており、ダイクロイックミラー56の光軸下流側には、光学フィルタ58aおよびアバランシェフォトダイオード58が設けられている。また、フォトダイオード57は、ダイクロイックミラー56で分けられた側方散乱光成分を光電変換し、これによって生じた電気信号(以下、側方散乱光信号という)をアンプ57aに伝達するように構成されている。そして、アンプ57aは、伝達された側方散乱光信号を増幅し、制御部8に出力するように構成されている。なお、光信号のゲイン(増幅率)や受光感度等は当業者が適宜設定または変えることができる。
【0062】
なお、フォトダイオード57およびアンプ57aを介して得られる側方散乱光情報は、本実施形態のピロプラズマ検出においては用いられないので、本発明の血液分析装置の構成に必須というわけではないが、フォトダイオード57およびアンプ57aを備えたフローサイトメーターがより一般的である。ピロプラズマ検出に加えて、赤血球数測定や血色素量測定等を行う場合には、フォトダイオード57およびアンプ57aを介して得られる側方散乱光情報が用いられ得る。
【0063】
また、アバランシェフォトダイオード58は、光学フィルタ58aにより波長選択された後の側方蛍光成分を光電変換し、これによって生じた電気信号(側方蛍光信号)をアンプ58bに伝達するように構成されている。そして、アンプ58bは、伝達された側方蛍光信号を増幅し、制御部8に出力するように構成されている。なお、光信号のゲイン(増幅率)や受光感度等は当業者が適宜設定または変えることができる。
【0064】
DC測定部6は、シースフローDC検出法により、赤血球数(RBC)および血小板数(PLT)を測定することが可能なように構成されている。また、DC測定部6は、赤血球パルス波高値検出法により、ヘマトクリット値(HCT)を算出するための測定データも得ることが可能に構成されている。また、DC測定部6は、フローセルを有しており、このフローセルにチャンバ22から測定試料が移送されるようになっている。たとえば、
図9に示すように、チャンバ22において血液試料と希釈液とが混合調製された測定試料が、シース液としての希釈液とともに試料供給部4からフローセルに移送される。そして、フローセル内では、測定試料がシース液としての希釈液によって取り囲まれた状態の液流が形成される。
【0065】
なお、DC測定部6は、本実施形態のピロプラズマ検出においては用いられないので、本発明の血液分析装置の構成に必須というわけではないが、DC測定部6を備えた血液分析装置がより一般的である。特に、ピロプラズマ検出に加えて、赤血球数測定等を行う場合や、赤血球数に基づいてピロプラズマ感染率を算出する場合には、DC測定部6を備えていることが好ましい。DC測定部6を用いて赤血球数を算出する場合、測定試料は、
図9に示すように、希釈液によって希釈されていることが好ましい。
【0066】
HGB測定部7は、メトヘモグロビン法により、血色素量(HGB)を測定するように構成されている。HGB測定部7は、
図10に示すように、希釈試料を収容するセルを有しており、このセルにチャンバ22から測定試料が移送されるようになっている。そして、HGB測定部7は、波長が約555nmの光を照射する発光ダイオードを有しており、上記セル中の測定試料に発光ダイオードからの光を照射することによって、その吸光度を測定するように構成されている。
【0067】
なお、HGB測定部7は、本実施形態のピロプラズマ検出においては用いられないので、本発明の血液分析装置の構成に必須というわけではないが、HGB測定部7を備えた血液分析装置がより一般的である。ピロプラズマ検出に加えて、血色素量測定等を行う場合には、HGB測定部7が用いられ得る。
【0068】
制御部8は、CPU、ROM、RAM等から構成されており、測定ユニット2の各部の動作制御を行うように構成されている。
【0069】
通信部9は、たとえば、RS-232Cインタフェース、USBインタフェース、Ethernet(登録商標)インタフェースであり、データ処理ユニット3との間でデータの送受信を行うことが可能なように構成されている。
【0070】
データ処理ユニット3は、
図2に示すように、CPU31、ROM32、RAM33、ハードディスク34、通信インタフェース35、キーボードおよびマウス等の入力部36、およびディスプレイ装置37を備えるコンピュータによって構成されている。データ処理ユニット3のハードディスク34には、オペレーティングシステムと、測定ユニット2から受信した測定データを分析処理するためのアプリケーションプログラムがインストールされている。
【0071】
本実施形態では、データ処理ユニット3のCPU31は、このアプリケーションプログラムを実行することにより、測定データを分析処理し、前方散乱光信号および側方蛍光信号を用いてスキャッタグラムを作成するように構成されている。
【0072】
通信インタフェース35は、たとえば、RS-232Cインタフェース、USBインタフェース、Ethernet(登録商標)インタフェースであり、測定ユニット2との間でデータの送受信を行うことが可能に構成されている。
【0073】
次に、
図11を参照して、血液分析装置1における試料分析処理の一実施形態について説明する。
【0074】
まず、血液分析装置1が起動されると、アプリケーションプログラム等の初期化が行われた後、ステップS1において、データ処理ユニット3のCPU31により、ユーザからの測定開始指示があったか否かが判断され、指示があるまでこの判断が繰り返される。そして、測定開始指示があった場合には、ステップS2において、データ処理ユニット3から測定ユニット2に測定開始指示信号が送信される。
【0075】
そして、ステップS21において、測定ユニット2の制御部8により、測定開始指示信号が受信されたか否かが判断され、受信するまでこの判断が繰り返される。測定ユニット2が測定開始指示信号を受信すると、ステップS22において、ピペット21により、採血管セット部2aにセットされた採血管20から血液試料が吸引される。
【0076】
そして、ステップS23において、試料供給部4により、測定試料が調製される。具体的には、チャンバ22または23に血液試料、蛍光色素を含む染色液、カチオン性界面活性剤を含む溶血剤および必要に応じて希釈液が供給され、チャンバ22または23内において混合されることにより、測定試料が調製される。チャンバ22または23を加温および/または振盪させることにより、測定試料の調製温度や撹拌速度等の調製条件を整えてもよい。その後、ステップS24において、チャンバ22または23内の測定試料が、シース液としての希釈液とともに光学測定部5に移送され、光学測定部5によりピロプラズマ検出が行われる。ピロプラズマ検出に加えて赤血球検出を行う場合、赤血球検出用の測定試料がシース液としての希釈液とともにDC測定部6に移送され、DC測定部6により赤血球検出が行われる。ピロプラズマ検出に加えて血色素(HGB)検出を行う場合、血色素検出用の測定試料がHGB測定部7に移送され、HGB測定部7により血色素検出が行われる。そして、ステップS25において、各検出部において測定された測定データが、測定ユニット2からデータ処理ユニット3に送信される。
【0077】
データ処理ユニット3では、ステップS3において、測定ユニット2が送信した測定データが受信されたか否かが判断され、受信するまでこの判断が繰り返される。そして、測定データを受信すると、ステップS4において、CPU31により、ステップS24で測定されたピロプラズマ検出による測定データに基づいて、感染赤血球がピロプラズマ感染赤血球以外の集団から分類される。具体的には、CPU31は、前方散乱光信号および側方蛍光信号を用いてスキャッタグラムを作成し、このスキャッタグラムから、感染赤血球をピロプラズマ感染赤血球以外の集団から分類する。より具体的には、スキャッタグラムにおいて、ピロプラズマに感染していない赤血球は蛍光強度の小さい領域に現れる一方、感染赤血球は比較的蛍光強度の大きい領域に現れる。また、白血球は、そのサイズおよびDNA量に起因して、蛍光強度および散乱光強度の両方が大きい領域に現れる。これにより、ピロプラズマ感染の有無を判断することが可能となる。また、従来技術では達成できなかった感染赤血球数の測定も可能となる。ステップS24において赤血球検出および/または血色素検出を行った場合には、それらの測定データに基づいて、赤血球数および/または血色素量を算出することもできる。感染赤血球検出および赤血球検出を両方行う場合、それらの測定データに基づいて、感染赤血球比率を算出することもできる。感染赤血球比率は、以下の式により算出できる。
【数1】
【0078】
ステップS5において、CPU31は、ステップS4で得られた情報をディスプレイ装置に出力することができる。また、CPU31は、この情報を、記録媒体に記録することができる。
【0079】
その後、ステップS6において、ユーザからのシャットダウン指示の有無が判断され、指示がない場合には、ステップS1に移行される。シャットダウン指示があった場合には、血液分析装置1における試料分析処理のデータ処理ユニット3の動作が終了される。また、測定ユニット2側では、ステップS25で測定データをデータ処理ユニット3に送信した後、ステップS26において、ユーザからのシャットダウン指示があったか否かが判断され、指示がない場合には、ステップS21に移行される。シャットダウン指示があった場合には、血液分析装置1における試料分析処理の測定ユニット2の動作が終了される。
【0080】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0081】
1.ピロプラズマ感染ウマ赤血球の測定
本試験における染色液としては、エチレングリコールに、蛍光色素(SYTO(商標) 16 Green Fluorescent Nucleic Acid Stain-1mM Solution in DMSO(Thermo Fisher Scientific製))を混合してなる液(蛍光色素濃度:26μM)を用いた。
【0082】
本試験では、溶血剤としてカチオン性界面活性剤を含む液(組成:カチオンAB(STAC)1.64 g、カチオンBB-R(LTAC)2.50 g、PBC-44(ノニオン性)1.00 g、ADA 3.80 g、EDTA 0.20 g、精製水1000 g、pH(NaOHにて調整) 6.0、浸透圧(NaClにて調整) 275)を用いた(実施例1)。また、比較例として、溶血剤に代えてカチオン性界面活性剤を含まないPBS(検体希釈液)を用いた(比較例1)。
【0083】
本試験で使用したウマ保存赤血球は次のようにして調製した。健康馬から全血を採血し、得られた全血にガラスビーズを入れてゆっくり撹拌した。攪拌後、全血を遠心管に回収して遠心し、血清及び赤血球それぞれ回収した(バフィーコートは捨てた)。続いて、赤血球をD-PBSもしくは基礎培地で2~3回洗浄(赤血球層の上部は捨てる)してから、基礎培地(RPMI1640あるいはM199)で懸濁して、使用するまで保存した。
【0084】
ピロプラズマ(T.equi:タイレリア・エクイ)培養株をウマ保存赤血球に感染させた感染赤血球懸濁液と、非感染赤血球懸濁液とを用意した。赤血球懸濁液17μLに、赤血球濃度が約0.3×106/μLになるように溶血剤1mL又はPBS 1mLを添加し、さらに蛍光色素の濃度が500nMになるように染色液20μLを添加した後、混合し、室温(25±2℃)、約30秒間インキュベーションして、測定試料を得た。フローサイトメーター(BD FACS MELODY)を用いて、測定試料についての前方散乱光信号および側方蛍光信号を取得し、励起波長 480nm、蛍光波長 525nm;FL1で感染赤血球集団にゲートを設定し、測定した。
【0085】
結果を
図12に示す。感染赤血球の測定において、実施例1では非感染赤血球クラスタと感染赤血球クラスタとが良好に分離されていたのに対して、比較例1ではこれら2つの集団が分離されていなかった。
【0086】
2.ピロプラズマ感染イヌ血液の測定
本試験における染色液としては、エチレングリコールに、蛍光色素(Hoechst34580(AAT Bioquest製))を溶解してなる液(蛍光色素濃度:23μM)を用いた。
【0087】
また、本試験における溶血剤としては、以下の表に示す組成の液(組成1~7)を使用した(実施例2~6及び比較例2~3)。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
PCR検査にてピロプラズマ(バベシア・ギブソニ)陽性と判定されたイヌの血液を用意した。血液8.5μLに、染色液10μL及び検体希釈液500μLを添加し、混合し、室温(25±2℃)、約30秒間インキュベーションして、測定試料を得た。フローサイトメーター(BD FACS Lyric)を用いて、測定試料についての前方散乱光信号および側方蛍光信号を取得し、励起波長:405nm、検出波長:448±45nmで感染赤血球集団にゲートを設定し、測定した。
【0096】
実施例2~4の結果を
図13に示し、比較例2~3の結果を
図14に示し、実施例5~6の結果を
図15に示す。図中、Babesiaが感染赤血球クラスタを示し、WBCが白血球を示す。実施例2~4では非感染赤血球クラスタと感染赤血球クラスタとが良好に分離されていたのに対して、比較例2~3ではこれら2つの集団が分離されていなかった。また、カチオン性界面活性剤に加えてさらにノニオン性界面活性剤を添加した実施例5~6でも、非感染赤血球クラスタと感染赤血球クラスタとが良好に分離されていた。
【0097】
3.自動血球分析装置による測定
本試験における染色液としては、Fluorocell M(核酸染色蛍光色素濃度:23μM)を用いた。また、本試験における検体希釈液としては、組成7を用いた。
【0098】
ピロプラズマ(B.caballi:バベシア・カバリ、又はT.equi:タイレリア・エクイ)培養株をウマ保存赤血球に感染させた感染赤血球懸濁液と、非感染赤血球懸濁液とを用意した(実施例7:B.caballiを感染させた感染赤血球懸濁液を使用、実施例8:T.equiを感染させた感染赤血球懸濁液を使用)。また、PCR検査にてバベシア・ギブソニ陽性と判定されたイヌの血液2検体(検体A及び検体B)と、陰性と判定された血液(陰性検体)とを用意した。血液懸濁液及び血液を自動血球分析装置(XN-30、シスメックス製)にセットして測定した(実施例9:検体Aを使用、実施例10:検体Bを使用)。
【0099】
ウマ由来血液試料を検体として用いた場合(実施例7及び8)の結果を
図16に示し、イヌ血液をを検体として用いた場合の結果を
図17に示す(実施例9及び10)。自動血球分析装置を使用した場合であっても、非感染赤血球クラスタと感染赤血球クラスタとを良好に分離できることが分かった。