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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】記録装置及び吸引ユニット
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20240124BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B41J2/17 103
B41J2/01 101
B41J2/01 301
B41J2/17 201
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019239274
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107131
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】露木 智美
(72)【発明者】
【氏名】有水 博
(72)【発明者】
【氏名】今橋 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 有人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎宣
(72)【発明者】
【氏名】飯島 康
(72)【発明者】
【氏名】杉村 英夫
(72)【発明者】
【氏名】堀場 崇嗣
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 聴
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014227(JP,A)
【文献】特開2013-180539(JP,A)
【文献】特開2019-155651(JP,A)
【文献】特開2016-034702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体にインクを吐出する記録手段と、
前記媒体上のミストを吸引して回収する回収手段と、
を備えた記録装置であって、
前記媒体前記記録手段に対して相対的に移動可能であり
前記回収手段は、
前記媒体上のミストを吸引する吸引ユニットと、
前記吸引ユニットが吸引したミストを前記吸引ユニットから排出する排出手段と、を備え、
前記吸引ユニットは、
前記記録手段に対する前記媒体の相対移動方向と交差する方向に延設された排気通路と、
前記排気通路に対して前記相対移動方向で上流側に配置され、前記媒体に対向して開口した吸引溝と、
前記排気通路と前記吸引溝とを区画する前記排気通路の周壁に形成され、前記排気通路と前記吸引溝とを連通させる連通部と、
前記相対移動方向と交差する方向に延設された第二の排気通路と、
前記相対移動方向と交差する方向で前記吸引ユニットの一方端部に設けられ、前記排気通路と前記第二の排気通路とを連通させる連通路と、を備え、
前記第二の排気通路は、前記排気通路よりも前記媒体から遠い位置に配置されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記回収手段は、
前記吸引ユニットに空気を供給する供給手段を含み、
前記吸引ユニットは、
前記供給手段から供給される空気を前記媒体の側へ吹き出す吹出部を備え、
前記吹出部は、前記吸引溝に対して前記相対移動方向で下流側に配置されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記周壁は、前記相対移動方向と交差する方向に延設された円筒体である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記連通部は、前記相対移動方向と交差する方向に延びるスリット形状の貫通孔である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1に記載の記録装置であって、
複数の前記連通部が、前記相対移動方向と交差する方向に離散的に配置されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項6】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記回収手段は、
前記吸引ユニットに洗浄液を供給する供給手段を含む、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項7】
請求項6に記載の記録装置であって、
前記吸引ユニットは、前記洗浄液を前記連通部に供給する供給通路を含み、
前記供給通路の周壁には、前記洗浄液を前記連通部へ流出させる供給孔が形成されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項8】
請求項7に記載の記録装置であって、
前記供給孔は、前記相対移動方向と交差する方向に延びるスリット形状の孔である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項9】
請求項7に記載の記録装置であって、
複数の前記供給孔が、前記相対移動方向と交差する方向に離散的に配置されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項10】
請求項7に記載の記録装置であって、
前記供給孔は、多孔質体によって形成されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項11】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記回収手段は、前記吸引ユニットに空気を供給する供給手段を含み、
前記吸引ユニットは、
前記供給手段から供給される空気を前記媒体の側へ吹き出す吹出部と、
前記吹出部と前記吸引溝との間のユニット底部と、を含み、
前記吸引溝は、前記吹出部に対して、前記相対移動方向に離間し、
前記吸引溝を画定する前記吹出部側の壁面が、前記相対移動方向に対して傾斜して前記ユニット底部と連続した傾斜面を有する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項12】
請求項11に記載の記録装置であって、
前記傾斜面が曲面である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項13】
請求項12に記載の記録装置であって、
前記曲面の曲率をr1、前記曲面の前記相対移動方向の幅をb1とした場合、
0.6×b1<r1<2.5×b1
の関係が成立する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項14】
請求項11に記載の記録装置であって、
前記ユニット底部は、前記排気通路の前記周壁により形成される、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項15】
請求項11に記載の記録装置であって、
前記吹出部は、前記吸引溝に対して前記相対移動方向で下流側に配置されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項16】
記録手段からインクが吐出される媒体上のミストを吸引する吸引ユニットであって、
前記媒体前記記録手段に対して相対的に移動可能であり
前記吸引ユニットは、
前記記録手段に対する前記媒体の相対移動方向と交差する方向に延設された排気通路と、
前記排気通路に対して前記相対移動方向で上流側に配置され、前記媒体に対向して開口した吸引溝と、
前記排気通路と前記吸引溝とを区画する前記排気通路の周壁に形成され、前記排気通路と前記吸引溝とを連通させる連通部と、
前記相対移動方向と交差する方向に延設された第二の排気通路と、
前記相対移動方向と交差する方向で前記吸引ユニットの一方端部に設けられ、前記排気通路と前記第二の排気通路とを連通させる連通路と、を備え、
前記第二の排気通路は、前記排気通路よりも前記媒体から遠い位置に配置されている、
ことを特徴とする吸引ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを中間転写体や紙等の媒体に吐出して画像を記録する記録装置では、媒体に着弾しない微小なインクのミストが生じ得る。また、媒体上のインクの成分が蒸発したミストも生じ得る。媒体上のこうしたミストは、インクを吐出する記録ヘッドに悪影響を与える場合がある。そこで、媒体上のミストを吸引回収する装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-34702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミストを回収する通路にミストが付着してミスト粒が成長すると媒体上に落下して媒体を汚す場合がある。
【0005】
本発明は、ミストを回収する通路にミストが付着することを抑制する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
媒体にインクを吐出する記録手段と、
前記媒体上のミストを吸引して回収する回収手段と、
を備えた記録装置であって、
前記媒体前記記録手段に対して相対的に移動可能であり
前記回収手段は、
前記媒体上のミストを吸引する吸引ユニットと、
前記吸引ユニットが吸引したミストを前記吸引ユニットから排出する排出手段と、を備え、
前記吸引ユニットは、
前記記録手段に対する前記媒体の相対移動方向と交差する方向に延設された排気通路と、
前記排気通路に対して前記相対移動方向で上流側に配置され、前記媒体に対向して開口した吸引溝と、
前記排気通路と前記吸引溝とを区画する前記排気通路の周壁に形成され、前記排気通路と前記吸引溝とを連通させる連通部と、
前記相対移動方向と交差する方向に延設された第二の排気通路と、
前記相対移動方向と交差する方向で前記吸引ユニットの一方端部に設けられ、前記排気通路と前記第二の排気通路とを連通させる連通路と、を備え、
前記第二の排気通路は、前記排気通路よりも前記媒体から遠い位置に配置されている、
ことを特徴とする記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ミストを回収する通路にミストが付着することを抑制する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】記録システムの概要図。
図2】記録ユニットの斜視図。
図3図2の記録ユニットの変位態様の説明図。
図4図1の記録システムの制御系のブロック図。
図5図1の記録システムの制御系のブロック図。
図6図1の記録システムの動作例の説明図。
図7図1の記録システムの動作例の説明図。
図8】回収ユニットのブロック図。
図9】(A)及び(B)は吸引ユニットの斜視図及び底面図。
図10図9(A)のA-A線断面図。
図11図10のB-B線断面図。
図12図10のC-C線断面図。
図13】(A)及び(B)は気流のシミュレーション結果を示す図。
図14】シリアル式記録装置への適用例を示す図。
図15】(A)乃至(C)は吸引ユニットの別の例を示す断面図。
図16】(A)及び(B)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図17】(A)乃至(C)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図18】(A)及び(B)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図19】(A)乃至(C)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図20】(A)及び(B)は別の例の吸引ユニットの斜視図及び底面図。
図21図20(A)のD-D線断面図。
図22】吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図23】(A)乃至(D)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図24】(A)乃至(D)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図25】吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図26】(A)乃至(D)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図。
図27】(A)は吸引ユニットの更に別の例を示す断面図、(B)は吸引ユニットの内部通路の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<記録システム>
図1は本発明の一実施形態に係る記録システム(記録装置)1を概略的に示した正面図である。記録システム1は、転写体2を介して記録媒体Pにインク像を転写することで記録物P’を製造する、枚葉式のインクジェットプリンタである。記録システム1は、記録装置1Aと、搬送装置1Bとを含む。本実施形態では、X方向、Y方向、Z方向が、それぞれ、記録システム1の幅方向(全長方向)、奥行き方向、高さ方向を示している。記録媒体PはX方向に搬送される。矢印XおよびYは水平方向を示し、互いに直交する。矢印Zは上下方向を示す。
【0011】
なお、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれ、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、本実施形態では「記録媒体」としてシート状の紙を想定するが、布、プラスチック・フィルム等であってもよい。
【0012】
インクの成分については、特に限定はないが、本実施形態では、色材である顔料、水、樹脂を含む水性顔料インクを用いる場合を想定する。
【0013】
<記録装置>
記録装置1Aは、記録ユニット3、転写ユニット4および周辺ユニット5A~5D、および、供給ユニット6を含む。
【0014】
<記録ユニット>
記録ユニット3は、複数の記録ヘッド30と、キャリッジ31とを含む。図1図2を参照する。図2は記録ユニット3の斜視図である。記録ヘッド30は、転写体2に液体インクを吐出し、転写体上に記録画像のインク像を形成する。
【0015】
本実施形態の場合、各記録ヘッド30は、Y方向に延設されたフルラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの記録媒体の画像記録領域の幅分をカバーする範囲にノズルが配列されている。記録ヘッド30は、その下面に、ノズルが開口したインク吐出面を有しており、インク吐出面は、微小隙間(例えば数mm)を介して転写体2の表面と対向している。本実施形態の場合、転写体2は円軌道上を循環的に回転移動する構成であるため、複数の記録ヘッド30は、放射状に配置されている。
【0016】
各ノズルには吐出素子が設けられている。吐出素子は、例えば、ノズル内に圧力を発生させてノズル内のインクを吐出させる素子であり、公知のインクジェットプリンタのインクジェットヘッドの技術が適用可能である。吐出素子としては、例えば電気-熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する素子、電気-機械変換体によってインクを吐出する素子、静電気を利用してインクを吐出する素子等が挙げられる。高速で高密度の記録の観点からは電気-熱変換体を利用した吐出素子を用いることができる。
【0017】
本実施形態の場合、記録ヘッド30は、9つ設けられている。各記録ヘッド30は、互いに異なる種類のインクを吐出する。異なる種類のインクとは、例えば、色材が異なるインクであり、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインク等のインクである。1つの記録ヘッド30は1種類のインクを吐出するが、1つの記録ヘッド30が複数種類のインクを吐出する構成であってもよい。このように複数の記録ヘッド30を設けた場合、そのうちの一部が色材を含まないインク(例えばクリアインク)を吐出してもよい。
【0018】
キャリッジ31は、複数の記録ヘッド30を支持する。各記録ヘッド30は、インク吐出面側の端部がキャリッジ31に固定されている。これにより、インク吐出面と転写体2との表面の隙間をより精密に維持することができる。キャリッジ31は、案内部材RLの案内によって、記録ヘッド30を搭載しつつ変位可能に構成されている。本実施形態の場合、案内部材RLは、Y方向に延設されたレール部材であり、X方向に離間して一対設けられている。キャリッジ31のX方向の各側部にはスライド部32が設けられている。スライド部32は案内部材RLと係合し、案内部材RLに沿ってY方向にスライドする。
【0019】
図3は記録ユニット3の変位態様を示しており、記録システム1の右側面を模式的に示した図である。記録システム1の後部には回復ユニット12が設けられている。回復ユニット12は記録ヘッド30の吐出性能を回復する機構を有する。そのような機構としては、例えば、記録ヘッド30のインク吐出面をキャッピングするキャップ機構、インク吐出面をワイピングするワイパ機構、インク吐出面から記録ヘッド30内のインクを負圧吸引する吸引機構を挙げることができる。
【0020】
案内部材RLは、転写体2の側方から回復ユニット12に渡って延設されている。記録ユニット3は、案内部材RLの案内により、実線で記録ユニット3を示した吐出位置POS1と、破線で記録ユニット3を示した回復位置POS3との間で変位可能であり、不図示の駆動機構により移動される。
【0021】
吐出位置POS1は、記録ユニット3が転写体2にインクを吐出する位置であり、記録ヘッド30のインク吐出面が転写体2の表面に対向する位置である。回復位置POS3は、吐出位置POS1から退避した位置であり、記録ユニット3が回復ユニット12上に位置する位置である。回復ユニット12は記録ユニット3が回復位置POS3に位置した場合に、記録ヘッド30に対する回復処理を実行可能である。本実施形態の場合、記録ユニット3が回復位置POS3に到達する前の移動途中においても回復処理を実行可能である。吐出位置POS1と回復位置POS3の間には予備回復位置POS2があり、回復ユニット12は記録ヘッド30が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動している間に、予備回復位置POS2において記録ヘッド30に対する予備的な回復処理を実行可能である。
【0022】
<転写ユニット>
図1を参照して転写ユニット4について説明する。転写ユニット4は、転写ドラム(転写胴)41と圧胴42とを含む。これらの胴は、Y方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。図1において、転写ドラム41および圧胴42の各図形内に示した矢印は、これらの回転方向を示しており、転写ドラム41は時計回りに、圧胴42は反時計回りに回転する。
【0023】
転写ドラム41は、その外周面に転写体2を支持する支持体である。転写体2の表面はインク像が形成される転写部を形成する。転写体2は、転写ドラム41の外周面上に、周方向に連続的にあるいは間欠的に設けられる。連続的に設けられる場合、転写体2は無端の帯状に形成される。間欠的に設けられる場合、転写体2は、有端の帯状に複数のセグメントに分けて形成され、各セグメントは転写ドラム41の外周面に等ピッチで円弧状に配置することができる。
【0024】
転写ドラム41の回転により、転写体2は円軌道上を循環的に移動し、転写体2と記録ユニット3等の各構成とは相対的に移動する。転写ドラム41の回転位相により、転写体2の位置は、吐出前処理領域R1、吐出領域R2、吐出後処理領域R3およびR4、転写領域R5、転写後処理領域R6に区別することができる。転写体2はこれらの領域を循環的に通過する。
【0025】
吐出前処理領域R1は、記録ユニット3によるインクの吐出前に転写体2に対する前処理を行う領域であり、周辺ユニット5Aによる処理が行われる領域である。本実施形態の場合、反応液が付与される。吐出領域R2は記録ユニット3が転写体2にインクを吐出してインク像を形成する形成領域である。吐出後処理領域R3およびR4はインクの吐出後にインク像に対する処理を行う処理領域であり、吐出後処理領域R3は周辺ユニット5Bによる処理が行われる領域であり、吐出後処理領域R4は周辺ユニット5Cによる処理が行われる領域である。転写領域R5は転写ユニット4により転写体2上のインク像が記録媒体Pに転写される転写動作が行われる領域である。転写後処理領域R6は、転写後に転写体2に対する後処理を行う領域であり、周辺ユニット5Dによる処理が行われる領域である。
【0026】
本実施形態の場合、吐出領域R2は、一定の区間を有する領域である。他の領域R1、R3~R6は、吐出領域R2に比べるとその区間は狭い。時計の文字盤に喩えると、本実施形態の場合、吐出前処理領域R1は概ね10時の位置であり、吐出領域R2は概ね11時から1時の範囲であり、吐出後処理領域R3は概ね2時の位置であり、吐出後処理領域R4は概ね4時の位置である。転写領域R5は概ね6時の位置であり、転写後処理領域R6は概ね8時の領域である。
【0027】
転写体2は、単層から構成してもよいが、複数層の積層体としてもよい。複数層で構成する場合、例えば、表面層、弾性層、圧縮層の三層を含んでもよい。表面層はインク像が形成される画像形成面を有する最外層である。圧縮層を設けることで、圧縮層が変形を吸収し、局所的な圧力変動に対してその変動を分散し、高速記録時においても転写性を維持することができる。弾性層は表面層と圧縮層との間の層である。
【0028】
表面層の材料としては、樹脂、セラミック等各種材料を適宜用いることができるが、耐久性等の点で圧縮弾性率の高い材料を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素含有樹脂、加水分解性有機ケイ素化合物を縮合して得られる縮合物等が挙げられる。表面層には、反応液の濡れ性、画像の転写性等を向上させるために、表面処理を施して用いてもよい。表面処理としては、フレーム処理、コロナ処理、プラズマ処理、研磨処理、粗化処理、活性エネルギー線照射処理、オゾン処理、界面活性剤処理、シランカップリング処理などが挙げられる。これらを複数組み合わせてもよい。また、表面層に任意の表面形状を設けることもできる。
【0029】
圧縮層の材料としては、例えばアクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。このようなゴム材料の成形時には、所定量の加硫剤、加硫促進剤等を配合し、さらに発泡剤、中空微粒子或いは食塩等の充填剤を必要に応じて配合し、多孔質のゴム材料としてもよい。これにより、様々な圧力変動に対して気泡部分が体積変化を伴って圧縮されるため、圧縮方向以外への変形が小さく、より安定した転写性、耐久性を得ることができる。多孔質のゴム材料としては、各気孔が互いに連続した連続気孔構造のものと、各気孔がそれぞれ独立した独立気孔構造のものがあるが、いずれの構造であってもよく、これらの構造を併用してもよい。
【0030】
弾性層の部材としては、樹脂、セラミック等、各種材料を適宜用いることができる。加工特性等の点で、各種エラストマー材料、ゴム材料を用いることができる。具体的には、例えばフルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。また、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン/プロピレン/ブタジエンのコポリマー、ニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。特に、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴムは、圧縮永久ひずみが小さいため、寸法安定性、耐久性の面で有利である。また、温度による弾性率の変化が小さく、転写性の点でも有利である。
【0031】
表面層と弾性層の間、弾性層と圧縮層の間には、これらを固定するために各種接着剤や両面テープを用いることもできる。また、転写体2は、転写ドラム41に装着する際の横伸びの抑制や、コシを保つために圧縮弾性率が高い補強層を含んでもよい。また、織布を補強層としてもよい。転写体2は前記材質による各層を任意に組み合わせて作製することができる。
【0032】
圧胴42は、その外周面が転写体2に圧接される。圧胴42の外周面には、記録媒体Pの先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。グリップ機構は圧胴42の周方向に離間して複数設けてもよい。記録媒体Pは圧胴42の外周面に密接して搬送されつつ、圧胴42と転写体2とのニップ部を通過するときに、転写体2上のインク像が転写される。
【0033】
転写ドラム41と圧胴42とを回転駆動するモータ等の駆動源は、これらに共通とし、歯車機構等の伝達機構により、駆動力を分配することができる。
【0034】
<周辺ユニット>
周辺ユニット5A~5Dは転写ドラム41の周囲に配置されている。本実施形態の場合、周辺ユニット5A~5Dは、順に、付与ユニット、吸収ユニット、加熱ユニット、清掃ユニットである。
【0035】
付与ユニット5Aは、記録ユニット3によるインクの吐出前に、転写体2上に反応液を付与する機構である。反応液は、インクを高粘度化する成分を含有する液体である。ここで、インクの高粘度化とは、インクを構成している色材や樹脂等がインクを高粘度化する成分と接触することによって化学的に反応し、あるいは物理的に吸着し、これによってインクの粘度の上昇が認められることである。このインクの高粘度化には、インク全体の粘度上昇が認められる場合のみならず、色材や樹脂等のインクを構成する成分の一部が凝集することにより局所的に粘度の上昇が生じる場合も含まれる。
【0036】
インクを高粘度化する成分は、金属イオン、高分子凝集剤など、特に制限はないが、インクのpH変化を引き起こして、インク中の色材を凝集させる物質を用いることができ、有機酸を用いることができる。反応液の付与機構としては、例えば、ローラ、記録ヘッド、ダイコーティング装置(ダイコータ)、ブレードコーティング装置(ブレードコータ)などが挙げられる。転写体2に対するインクの吐出前に反応液を転写体2に付与しておくと、転写体2に達したインクを直ちに定着させることができる。これにより、隣接するインク同士が混ざり合うブリーディングを抑制することができる。
【0037】
吸収ユニット5Bは、転写動作前に、転写体2上のインク像から液体成分を吸収する機構である。インク像の液体成分を減少させることで、記録媒体Pに記録される画像のにじみ等を抑制することができる。液体成分の減少を異なる視点で説明すれば、転写体2上のインク像を構成するインクを濃縮すると表現することもできる。インクを濃縮するとは、インクに含まれる液体成分が減少することによって、インクに含まれる色材や樹脂といった固形分の液体成分に対する含有割合が増加することを意味する。
【0038】
吸収ユニット5Bは、例えば、インク像に接触してインク像の液体成分の量を減少させる液吸収部材を含む。インク像の保護の点で、液吸収部材の移動速度を転写体2の周速度と同じにして液吸収部材を転写体2と同期して移動させることができる。
【0039】
液吸収部材は、インク像に接触する多孔質体を含んでもよい。液吸収部材へのインク固形分付着を抑制するため、インク像に接触する面の多孔質体の孔径は、10μm以下であってもよい。ここで、孔径とは平均直径のことを示し、公知の手段、例えば水銀圧入法や、窒素吸着法、SEM画像観察等で測定可能である。なお、液体成分は、一定の形を有さず、流動性があり、ほぼ一定の体積を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、インクや反応液に含まれる水や有機溶媒等が液体成分として挙げられる 。
【0040】
加熱ユニット5Cは、転写動作前に、転写体2上のインク像を加熱する機構である。インク像を加熱することで、インク像中の樹脂が溶融し、記録媒体Pへの転写性を向上する。加熱温度は、樹脂の最低造膜温度(MFT)以上とすることができる。MFTは一般的に知られている手法、例えばJIS K 6828-2:2003や、ISO2115:1996に準拠した各装置で測定することが可能である。転写性及び画像の堅牢性の観点から、MFTよりも10℃以上高い温度で加熱してもよく、更に、20℃以上高い温度で加熱してもよい。加熱ユニット5Cは、例えば、赤外線等の各種ランプ、温風ファン等、公知の加熱デバイスを用いることができる。加熱効率の点で、赤外線ヒータを用いることができる。
【0041】
清掃ユニット5Dは、転写後に転写体2上を清掃する機構である。清掃ユニット5Dは、転写体2上に残留したインクや、転写体2上のごみ等を除去する。清掃ユニット5Dは、例えば、多孔質部材を転写体2に接触させる方式、ブラシで転写体2の表面を擦る方式、ブレードで転写体2の表面をかきとる方式等の公知の方式を適宜用いることができる。また、清掃に用いる清掃部材は、ローラ形状、ウェブ形状等、公知の形状を用いることができる。
【0042】
以上の通り、本実施形態では、付与ユニット5A、吸収ユニット5B、加熱ユニット5C、清掃ユニット5Dを周辺ユニットとして備えるが、これらの一部のユニットに転写体2の冷却機能を付与するか、あるいは、冷却ユニットを追加してもよい。本実施形態では、加熱ユニット5Cの熱により転写体2の温度が上昇する場合がある。記録ユニット3により転写体2にインクを吐出した後、インク像がインクの主溶剤である水の沸点を超えると、吸収ユニット5Bによる液体成分の吸収性能が低下する場合がある。吐出されたインクが水の沸点未満に維持されるように転写体2を冷却することで、液体成分の吸収性能を維持することができる。
【0043】
冷却ユニットは、転写体2に送風する送風機構や、転写体2に部材(例えばローラ)を接触させ、この部材を空冷または水冷で冷却する機構であってもよい。また、清掃ユニット5Dの清掃部材を冷却する機構であってもよい。冷却タイミングは、転写後、反応液の付与前までの期間であってもよい。
【0044】
<供給ユニット>
供給ユニット6は、記録ユニット3の各記録ヘッド30にインクを供給する機構である。供給ユニット6は記録システム1の後部側に設けられていてもよい。供給ユニット6は、インクの種類毎に、インクを貯留する貯留部TKを備える。貯留部TKは、メインタンクとサブタンクとによって構成されてもよい。各貯留部TKと各記録ヘッド30とは流路6aで連通し、貯留部TKから記録ヘッド30へインクが供給される。流路6aは、貯留部TKと記録ヘッド30との間でインクを循環させる流路であってもよく、供給ユニット6はインクを循環させるポンプ等を備えてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インク中の気泡を脱気する脱気機構を設けてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インクの液圧と大気圧との調整を行うバルブを設けてもよい。貯留部TK内のインク液面が、記録ヘッド30のインク吐出面よりも低い位置となるように、貯留部TKと記録ヘッド30のZ方向の高さが設計されてもよい。
【0045】
<搬送装置>
搬送装置1Bは、記録媒体Pを転写ユニット4へ給送し、インク像が転写された記録物P’を転写ユニット4から排出する装置である。搬送装置1Bは、給送ユニット7、複数の搬送胴8、8a、二つのスプロケット8b、チェーン8cおよび回収ユニット8dを含む。図1において、搬送装置1Bの各構成の図形の内側の矢印はその構成の回転方向を示し、外側の矢印は記録媒体Pまたは記録物P’の搬送経路を示している。記録媒体Pは給送ユニット7から転写ユニット4へ搬送され、記録物P’は転写ユニット4から回収ユニット8dへ搬送される。給送ユニット7側を搬送方向で上流側と呼び、回収ユニット8d側を下流側と呼ぶ場合がある。
【0046】
給送ユニット7は、複数の記録媒体Pが積載される積載部を含むと共に、積載部から一枚ずつ記録媒体Pを、最上流の搬送胴8に給送する給送機構を含む。各搬送胴8、8aはY方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。各搬送胴8、8aの外周面には、記録媒体P(または記録物P’)の先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。各グリップ機構は、隣接する搬送胴間で記録媒体Pを受け渡されるように、その把持動作および解除動作が制御される。
【0047】
二つの搬送胴8aは、記録媒体Pの反転用の搬送胴である。記録媒体Pを両面記録する場合、表面への転写後に、圧胴42から下流側に隣接する搬送胴8へ記録媒体Pを渡さずに、搬送胴8aに渡す。記録媒体Pは、二つの搬送胴8aを経由して表裏が反転され、圧胴42の上流側の搬送胴8を経由して再び圧胴42へ渡される。これにより、記録媒体Pの裏面が転写ドラム41に面することになり、裏面にインク像が転写される。
【0048】
チェーン8cは、二つのスプロケット8b間に巻き回されている。二つのスプロケット8bの一方は駆動スプロケットであり他方は従動スプロケットである。駆動スプロケットの回転によりチェーン8cが循環的に走行する。チェーン8cには、その長手方向に離間して複数のグリップ機構が設けられている。グリップ機構は、記録物P’の端部を把持する。下流端に位置する搬送胴8からチェーン8cのグリップ機構に記録物P’が渡され、グリップ機構に把持された記録物P’はチェーン8cの走行により回収ユニット8dへ搬送され、把持が解除される。これにより記録物P’が回収ユニット8d内に積載される。
【0049】
<後処理ユニット>
搬送装置1Bには、後処理ユニット10A、10Bが設けられている。後処理ユニット10A、10Bは転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P’に対して後処理を行う機構である。後処理ユニット10Aは、記録物P’の表面に対する処理を行い、後処理ユニット10Bは、記録物P’の裏面に対する処理を行う。処理の内容としては、例えば、記録物P’の画像記録面に、画像の保護や艶出し等を目的としたコーティングを挙げることができる。コーティングの内容としては、例えば、液体の塗布、シートの溶着、ラミネート等を挙げることができる。
【0050】
<検査ユニット>
搬送装置1Bには、検査ユニット9A、9Bが設けられている。検査ユニット9A、9Bは転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P’の検査を行う機構である。
【0051】
本実施形態の場合、検査ユニット9Aは、記録物P’に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Aは、連続的に行われる記録動作中に、記録画像を撮影する。検査ユニット9Aが撮影した画像に基づいて、記録画像の色味などの経時変化を確認し、画像データあるいは記録データの補正の可否を判断することができる。本実施形態の場合、検査ユニット9Aは、圧胴42の外周面に撮像範囲が設定されており、転写直後の記録画像を部分的に撮影可能に配置されている。検査ユニット9Aにより全ての記録画像の検査を行ってもよいし、所定数毎に検査を行ってもよい。
【0052】
本実施形態の場合、検査ユニット9Bも、記録物P’に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Bは、テスト記録動作において記録画像を撮影する。検査ユニット9Bは、記録画像の全体を撮影し、検査ユニット9Bが撮影した画像に基づいて、記録データに関する各種の補正の基本設定を行うことができる。本実施形態の場合、チェーン8cで搬送される記録物P’を撮影する位置に配置されている。検査ユニット9Bにより記録画像を撮影する場合、チェーン8cの走行を一時的に停止して、その全体を撮影する。検査ユニット9Bは、記録物P’上を走査するスキャナであってもよい。
【0053】
<制御ユニット>
次に、記録システム1の制御ユニットについて説明する。図4および図5は記録システム1の制御ユニット13のブロック図である。制御ユニット13は、上位装置(DFE)HC2に通信可能に接続され、また、上位装置HC2はホスト装置HC1に通信可能に接続される。
【0054】
ホスト装置HC1では、記録画像の元になる原稿データが生成、あるいは保存される。ここでの原稿データは、例えば、文書ファイルや画像ファイル等の電子ファイルの形式で生成される。この原稿データは、上位装置HC2へ送信され、上位装置HC2では、受信した原稿データを制御ユニット13で利用可能なデータ形式(例えば、RGBで画像を表現するRGBデータ)に変換する。変換後のデータは、画像データとして上位装置HC2から制御ユニット13へ送信され、制御ユニット13は受信した画像データに基づき、記録動作を開始する。
【0055】
本実施形態の場合、制御ユニット13は、メインコントローラ13Aと、エンジンコントローラ13Bとに大別される。メインコントローラ13Aは、処理部131、記憶部132、操作部133、画像処理部134、通信I/F(インタフェース)135、バッファ136および通信I/F137を含む。
【0056】
処理部131は、CPU等のプロセッサであり、記憶部132に記憶されたプログラムを実行し、メインコントローラ13A全体の制御を行う。記憶部132は、RAM、ROM、ハードディスク、SSD等の記憶デバイスであり、CPU131が実行するプログラムや、データを格納し、また、CPU131にワークエリアを提供する。操作部133は、例えば、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力デバイスであり、ユーザの指示を受け付ける。
【0057】
画像処理部134は例えば画像処理プロセッサを有する電子回路である。バッファ136は、例えば、RAM、ハードディスクやSSDである。通信I/F135は上位装置HC2との通信を行い、通信I/F137はエンジンコントローラ13Bとの通信を行う。図4において破線矢印は、画像データの処理の流れを例示している。上位装置HC2から通信IF135を介して受信された画像データは、バッファ136に蓄積される。画像処理部134はバッファ136から画像データを読み出し、読み出した画像データに所定の画像処理を施して、再びバッファ136に格納する。バッファ136に格納された画像処理後の画像データは、プリントエンジンが用いる記録データとして、通信I/F137からエンジンコントローラ13Bへ送信される。
【0058】
図5に示すように、エンジンコントローラ13Bは、制御部14、15A~15Eを含み、記録システム1が備えるセンサ群およびアクチュエータ群16の検知結果の取得および駆動制御を行う。これらの各制御部は、CPU等のプロセッサ、RAMやROM等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェースを含む。なお、制御部の区分けは一例であり、一部の制御を更に細分化した複数の制御部で実行してもよいし、逆に、複数の制御部を統合して、それらの制御内容を一つの制御部で行うように構成してもよい。
【0059】
エンジン制御部14は、エンジンコントローラ13Bの全体の制御を行う。記録制御部15Aは、メインコントローラ13Aから受信した記録データをラスタデータ等、記録ヘッド30の駆動に適したデータ形式に変換する。記録制御部15Aは、各記録ヘッド30の吐出制御を行う。
【0060】
転写制御部15Bは、付与ユニット5Aの制御、吸収ユニット5Bの制御、加熱ユニット5Cの制御、および清掃ユニット5Dの制御を行う。
【0061】
信頼性制御部15Cは、供給ユニット6の制御、回復ユニット12の制御、および記録ユニット3を吐出位置POS1と回復位置POS3との間で移動させる駆動機構の制御を行う。
【0062】
搬送制御部15Dは、転写ユニット4の駆動制御や、搬送装置1Bの制御を行う。検査制御部15Eは、検査ユニット9Bの制御、および検査ユニット9Aの制御を行う。
【0063】
センサ群およびアクチュエータ群16のうち、センサ群には、可動部の位置や速度を検知するセンサ、温度を検知するセンサ、撮像素子等が含まれる。アクチュエータ群にはモータ、電磁ソレノイド、電磁バルブ等が含まれる。
【0064】
<動作例>
図6は記録動作の例を模式的に示す図である。転写ドラム41および圧胴42が回転されつつ、以下の各工程が循環的に行われる。状態ST1に示すように、始めに転写体2上に付与ユニット5Aから反応液Lが付与される。転写体2上の反応液Lが付与された部位は転写ドラム41の回転に伴って移動していく。反応液Lが付与された部位が記録ヘッド30の下に到達すると、状態ST2に示すように記録ヘッド30から転写体2にインクが吐出される。これによりインク像IMが形成される。その際、吐出されるインクが転写体2上の反応液Lと混ざりあうことで、色材の凝集が促進される。吐出されるインクは、供給ユニット6の貯留部TKから記録ヘッド30に供給される。
【0065】
転写体2上のインク像IMは転写体2の回転に伴って移動していく。インク像IMが吸収ユニット5Bに到達すると状態ST3に示すように吸収ユニット5Bによりインク像IMから液体成分が吸収される。インク像IMが加熱ユニット5Cに到達すると状態ST4に示すように加熱ユニット5Cによりインク像IMが加熱され、インク像IM中の樹脂が溶融し、インク像IMが造膜される。このようなインク像IMの形成に同期して、搬送装置1Bにより記録媒体Pが搬送される。
【0066】
状態ST5に示すように、インク像IMと記録媒体Pとが転写体2と圧胴42とのニップ部に到達し、記録媒体Pにインク像IMが転写され、記録物P’が製造される。ニップ部を通過すると、記録物P’に記録された画像が検査ユニット9Aにより撮影され、記録画像が検査される。記録物P’は搬送装置1Bにより回収ユニット8dへ搬送される。
【0067】
転写体2上のインク像IMが形成されていた部分は、清掃ユニット5Dに到達すると状態ST6に示すように清掃ユニット5Dにより清掃される。清掃後、転写体2は一回転したことになり、同様の手順で記録媒体Pへのインク像の転写が繰り返し行われる。上記の説明では理解を容易にするために、転写体2の一回転で一枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が一回行われるように説明したが、転写体2の一回転で複数枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が連続的に行うことができる。
【0068】
このような記録動作を継続していくと、各記録ヘッド30のメンテナンスが必要となる。図7は各記録ヘッド30のメンテナンスの際の動作例を示している。状態ST11は、吐出位置POS1に記録ユニット3が位置している状態を示す。状態ST12は、記録ユニット3が予備回復位置POS2を通過している状態を示し、通過中に回復ユニット12により記録ユニット3の各記録ヘッド30の吐出性能を回復する処理が実行される。その後、状態ST13に示すように、記録ユニット3が回復位置POS3に位置した状態で、回復ユニット12により各記録ヘッド30の吐出性能を回復する処理が実行される。
【0069】
<回収ユニット>
次に、ミストの回収ユニットについて説明する。記録ヘッド30が転写体2に吐出すると、転写体2に着弾しない微小なインク(インクミスト)や、転写体2上のインクから蒸発して発生した水蒸気が周囲の気流によって巻き上げられる場合がある。こうしたミストが記録ヘッド30に大量に付着すると記録ヘッド30のインク吐出性能を低下させる場合がある。そこで、本実施形態の記録システム1は転写体2上のミストを吸引して回収する回収ユニットを設けている。図8は回収ユニット100のブロック図である。
【0070】
回収ユニット100は、複数の吸引ユニット21と、各吸引ユニット21へ空気を供給する供給ユニット22と、各吸引ユニット21から空気を排気する排気ユニット23と、フィルタ24と、各吸引ユニット21へ洗浄液を供給する供給ユニット25とを含む。
【0071】
吸引ユニット21は、転写体2上のミストを吸い上げる吸引ユニットである。図1は各吸引ユニット21の配置を示している。本実施形態の場合、吸引ユニット21は転写ドラム41の周方向で記録ヘッド30に隣接して配置されている。具体的に言えば、転写ドラム41の周方向で、隣接する記録ヘッド30の間と、両端部に位置する記録ヘッド30の各外側とに配置されている。
【0072】
供給ユニット22は、配管20aを介して各吸引ユニット21へ圧縮空気を供給する機構である。供給ユニット22は、ポンプ等の圧力源22aと、圧力源22aから圧送される空気の流量を調節する流量調節弁22bとを含み、配管20aは流量調節弁22bに接続されている。流量調節弁22bにより、吸引ユニット21から吹き出す空気の圧力と量を調節することができる。
【0073】
供給ユニット25は、配管20cを介して各吸引ユニット21へ洗浄液を供給する機構である。供給ユニット25は、ポンプ等の圧力源と洗浄液の貯留槽とを含む液圧送源25aと、液圧送源25aから圧送される洗浄液の流量を調節する流量調節弁25bとを含み、配管20cは流量調節弁25bに接続されている。流量調節弁25bにより、吸引ユニット21へ供給する洗浄液の圧力と量を調節することができる。間欠的に洗浄水を供給するために、配管20cには配管20cを開閉する電磁弁を設けてもよい。
【0074】
排気ユニット23は、配管20bを介して各吸引ユニット21から空気(ミスト)を排気する機構である。本実施形態では、洗浄液による洗浄後の廃液も排気ユニット23によって排出する。排気ユニット23は、ポンプ等の圧力源23aと、圧力源23aによって排気する空気の流量を調節する流量調節弁23bとを含み、配管20bはフィルタ24を介して流量調整弁23bに接続されている。流量調節弁22bにより、吸引ユニット21から吸引する空気や廃液の圧力と量を調節することができる。フィルタ24は排気される空気中或いは廃液中のミストを除去するために設けられている。各吸引ユニット21から配管20bを介して吸引排出される空気或いは廃液中のミストが圧力源23aに到達して圧力源23aに影響を与えることを防止する。
【0075】
供給ユニット22及び排気ユニット23の駆動制御は、例えば、記録制御部15Aが行い、記録動作中、常時駆動される。供給ユニット25の駆動制御は、例えば、記録制御部15Aが行い、吸引ユニット21のメンテナンス時に駆動される。供給ユニット25の駆動中は排気ユニット23も駆動され、廃液が吸引ユニット21から排出される。
【0076】
吸引ユニット21の詳細について説明する。図9(A)は吸引ユニット21の斜視図、図9(B)は吸引ユニット21の底面図である。図10図9(A)のA-A線断面図である。図11図10のB-B線断面図、図12図10のC-C線断面図である。図中、矢印X’は転写ドラム41の周方向で、転写体2の移動方向を示す。つまり、転写体2と記録ユニット3との相対移動方向である。転写体2の移動方向において、移動先の側(矢印の指し示す方向)を下流側と呼び、反対側を上流側と呼ぶ場合がある。矢印Z’は転写ドラム41の径方向で外向き方向を示す。
【0077】
吸引ユニット21は、中空の本体210を備える。本体210はその外形が略直方体であり、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向でありX’方向と直交する方向。)に延びる長片状の部材である。本体210は、転写体2と対向するユニット底部(ヘッド底部)210aと、Y方向の端部210b、210bとを備える。
【0078】
各端部210bには、導入部211aと、排気部211bと、導入部211cとがZ’方向に離間して形成されている。導入部211aには配管20aが接続され、供給ユニット22からの空気が導入される。排気部211bには配管20bが接続される。導入部211cには配管20cが接続され、供給ユニット25からの洗浄液が導入される。本実施形態では、本体210の両端部210b、210bにそれぞれ導入部211及び排気部212を設けたが、一方の端部210bのみに導入部211a、211c及び排気部211bを設けてもよい。また、一方の端部210bに導入部21a及び211cを設け、他方の端部210bに排気部211bを設けてもよい。
【0079】
本体210のZ’方向の一端部(転写体2の側)に吸引溝213が形成され、他端部(Z’方向の反対側)に圧力室(圧力バッファ室)216が形成されている。吸引溝213は転写体210aに対向した開口部213aを備える。吸引溝213は、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向。)に延設され、その延設方向の長さは転写体2のY方向の幅以上である。換言すると、吸引溝213は転写体2をY方向の全域を覆う、或いは、記録ヘッド30のY方向の記録領域の全域を覆う長さを有している。本実施形態の場合、吸引溝213は一本の溝であるが、Y方向に複数本の溝に分割されていてもよい。
【0080】
吸引溝213は、本実施形態の場合、有底の溝である。吸引溝213の底部(天井部)は、X’方向で上流側から下流側へかけて転写体2の側へ傾いた弧状をなしており、吸引した空気が後述する連通部214aに案内され易い形状とされている。
【0081】
本体210は、排気通路212を備える。排気通路212は、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向。)に延設され、その延設方向の長さは吸引ユニット21の長さと略同じ長さである。排気通路212は、Y方向の各端部において排気部211bと連通している。吸引ユニット21の本実施形態の排気通路212は、周壁214により画定されている。周壁214はY方向に延びる円筒体であり、排気通路212の垂直断面形状は円形である。排気通路212と吸引溝213とは周壁214により区画されている。
【0082】
吸引溝213は排気通路212に対してX’方向で上流側に配置されている。周壁214には吸引溝213と排気通路212とを連通させる連通部214aが形成されている。本実施形態では連通部214aは開口部213aよりもX’方向で下流側に位置している。
【0083】
連通部214aは本実施形態の場合、周壁214を貫通する貫通孔である。貫通孔の形状は円形又は楕円形断面の孔であってもよいしが、図12に示すように本実施形態ではX’方向と交差する方向(ここではY方向)に延びるスリット形状の貫通孔である。また、本実施形態の場合、複数の連通部214aがX’方向と交差する方向(ここではY方向)に離散的に配置されている。連通部214aはY方向に延びる一本の貫通孔であってもよいが、本実施形態のように複数の連通部214aを離散的に配置することで、ミストを含む空気をY方向の各部位において略均等に吸引することができる。
【0084】
排気ユニット23が排気部211bを介して空気を吸引排気すると、転写体2上のミストが開口部213aから吸引溝213内に吸引され、連通部214a及び排気通路212並びに排気部212を介して排出される。なお、本実施形態では、排気通路212の端部と排気部211bとを連通させたが、排気部211bは排気通路212のY方向の途中部位において排気通路212と連通する構成でもよい。
【0085】
連通部214aと排気通路212にはミストが混じった空気が通過するため、これらにミストが付着する場合がある。このため、本実施形態では洗浄液が連通部214a及び排気通路212に供給される機構を備えている。具体的には、吸引ユニット21は、洗浄液の供給通路218を含む。供給通路218はY方向に延設された本体210の内部空間であり、そのY方向の両端部においてそれぞれ導入部211cと連通している。供給通路218はZ’方向で排気通路212の上方に位置している。
【0086】
供給通路218の周壁のうち、下部の周壁には供給孔218aが形成されている。供給孔218aは周壁を貫通する貫通孔である。貫通孔の形状は円形又は楕円形断面の孔であってもよいしが、図12に示すように本実施形態ではX’方向と交差する方向(ここではY方向)に延びるスリット形状の貫通孔である。また、本実施形態の場合、複数の供給孔218aがX’方向と交差する方向(ここではY方向)に離散的に配置されている。供給孔218aはY方向に延びる一本の貫通孔であってもよいが、本実施形態のように複数の供給孔218aを離散的に配置することで、洗浄液をY方向の各部位において略均等に供給することができる。
【0087】
本実施形態の場合、供給孔218aは連通部214aの上方に位置しており、X’方向で見ると、連通部214aよりも僅かに上流側で、周壁214の頂部の真上に位置している。これにより、供給孔218aから流出する洗浄液は周壁214上を伝ってより確実に連通部214aに供給される。また、流出した洗浄液が過剰であっても周壁214上に溜まるので転写体2に落下することを防止できる。
【0088】
洗浄液は連通部214a及びその周囲のミストを除去し、排気通路212に進入して更に排気通路212内のミストも除去する。洗浄液の廃液は、空気と共に排気通路212及び排気部211bを介して排気ユニット23により排出される。
【0089】
なお、本実施形態では供給通路218の周壁の断面形状が矩形であるが、円筒等、他の形状であってもよい。また、供給孔218aを貫通孔ではなく、供給通路218の周壁の一部を形成する多孔質体で形成してもよい。多孔質体は、多数の孔が開口した板(例えばハニカム板)や、繊維の積層体であってもよい。洗浄液は例えば純水でもよいし、純粋に界面活性剤などの添加剤を添加した液体であってもよい。洗浄のタイミングは、記録動作時に間欠的に行ってもよい。
【0090】
圧力室216はY方向に延設された本体210の内部空間であり、そのY方向の両端部においてそれぞれ導入部211aと連通している。吹出部215は通路215aを介して圧力室216と連通する。通路215aは、圧力室216からユニット底部210aの側へ延び、かつ、Y方向に延びる、薄い直方体形状の通路である。吹出部215はユニット底部210aに開口した孔である。本実施形態の吹出部215は、Y方向に延設された一本のスリット状或いはスロット状の孔であるが、Y方向に並んだ複数の孔であってもよい。
【0091】
供給ユニット22から圧送される空気は、まず、圧力室216に導入される。圧力室216に導入された空気は、通路215aを通って吹出部215から転写体2に吹き出される。本実施形態では、X’方向で吸引溝213よりも下流側の部位で、吹出部215から転写体2に空気が吹き出されるため、転写体2上のミストを吸引溝213へ促し、ミストがX’方向で下流側に流出することを防止することができる。なお、吹出部215の吹出し方向は、本実施形態の場合、X’方向と直交する方向であるが、直交しない方向であってもよく、X’方向と交差する方向であればよい。また、吹出部215を吸引溝213に対してX’方向で上流側にも設けてもよく、これによりミストを含む空気が二つの吹出部215から吹き出される空気で挟まれ、吸引溝213でより確実に吸引できる。
【0092】
吹出部215から吹き出される空気のY方向の圧力分布を均一化する圧力調整部として、通路215aの圧力室216側の端部には、複数の通路閉鎖部217が設けられている。図11に示すように、複数の通路閉鎖部217は、Y方向に櫛歯状に配置されており、通路215aを部分的に閉鎖する。通路215aの圧力室216側の端部は、通路閉鎖部217によってY方向に並んだ複数のスロットを形成する。このため、圧力室216から通路215aに進入する空気がY方向の特定の部位に偏ることを防止できる。
【0093】
なお、圧力室216と吹出部215との間の圧力調整部としては通路閉鎖部217に代えて、或いは、併用して多孔質体を設けてもよい。多孔質体は、例えば、多数の孔が開口した板(例えばハニカム板)や、繊維の積層体である。多孔質体は通路215aに設けられてもよいし、圧力室216において通路215aを覆うように配置されてもよい。
【0094】
以上の構成からなる吸引ユニット21では、吸引溝213が排気通路212に対してX’方向で上流側に配置されている。このため、図10において破線矢印で示すように、X’方向で上流側から流れてきたミストを含む空気が、吸引溝213内で下流上方へスムーズに流れて連通部214aを介して排気通路212に誘導される。このため、吸引溝213の内面等へミストが付着することを抑制することができる。
【0095】
更に、吹出部215から吹出された空気の一部が排気通路212の外壁である周壁214に沿って連通部214aまで流れることで、コアンダ効果が発生する。とりわけ、本実施形態では周壁214が円筒体であるため、吹出部215から吹出された空気が周壁214に沿って連通部214aまで流れやすく、コアンダ効果も発生しやすい。このため、周壁214の表面にミストが付着することを防止できる。
【0096】
図13(A)及び図13(B)は、吸引溝213周辺のミストの気流(流線)RLのシミュレーションの例を示している。吹出部215のX’方向の幅は1mm、吹出速度は最大1m/s、排気部211bは直径3mm、排気速度は最大で100m/sである。複数の連通部214aは、それぞれ直径1mmの円形孔であり、10mm間隔でY方向に離散的に配置した。図13(A)の流線RLより、上流側から流れてきたミストは吹出部215から吹出される気流によってヘッド210a等に付着することなく、吸引溝213を通過して連通部214aから排気通路212に入ることが分かる。また、図13(B)の流線より、排気通路212内のミストが、排気部211bへ向かって流れ、吸引ユニット21から外部に排出されていることが確認できる。
【0097】
<第二実施形態>
上記実施形態では、回収ユニット100の適用例として、記録ヘッド30から転写体2へインクを吐出してインク像を形成し、これを記録媒体Pに転写する例を例示した。しかし、記録ヘッド30から直接記録媒体Pにインクを吐出して画像を形成する装置にも上記実施形態の回収ユニット100は適用可能である。図14はその一例を示し、特にシリアル式のインクジェットプリンタへの適用例を示している。
【0098】
図14の例では、キャリッジ31’に記録ヘッド30’が搭載されており、キャリッジ31’は、主走査方向D1、D2に往復移動する構成である。キャリッジ31’が移動する際に記録ヘッド30’からインクを紙等の記録媒体Pに吐出する。記録媒体Pは副走査方向Vに間欠的に移動(搬送)される。記録媒体Pの副走査方向Vの間欠的な移動と、キャリッジ31’の主走査方向Uの往復移動中の記録ヘッド30’からのインクの吐出とを交互に繰り返すことで記録媒体Pに画像が記録される。
【0099】
キャリッジ31’の主走査方向で一方の端部には吸引ユニット21Aが、他方の端部には吸引ユニット21Bがそれぞれ設けられている。吸引ユニット21A及び21Bは、第一実施形態の吸引ユニット21に相当し、キャリッジ31’と共に移動する。キャリッジ31’が主走査方向D1に移動して記録を行う場合、吸引ユニット21Aによりミストの吸引回収を行う。また、キャリッジ31’が主走査方向D2に移動して記録を行う場合、吸引ユニット21Bによりミストの吸引回収を行う。
【0100】
<第三実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0101】
図15(A)~図15(C)、図16(A)及び図16(B)は吹出部215及びその周辺の構成例を示している。図1(A)の例では吹出部215の空気の吹出し方向がX’方向に対して垂直である。また、吹出部215と吸引溝213とがX’方向に離間し、その間に平面のユニット底部210aが位置している。排気通路212の周壁214が吸引溝213の吹出部側(吹出部215の側)の壁面213bを形成している。壁面213bは、ユニット底部210aと連続した傾斜面213cを有している。この例の傾斜面213cは、吸引溝213の深さ方向(Z’方向で転写体2から離れる方向)で、かつ、X’方向の上流側に指向した円弧面であり、吸引溝213のX’方向の幅を吸引溝213の深さ方向に徐々に狭くしている。
【0102】
吹出部215から吹き出した空気がユニット底部210aと転写体2との間を通って傾斜面213cに沿って流れやすくなり、周壁214上のコアンダ効果の発生を促進する。
【0103】
図15(B)の例は、吹出部215が排気通路212に対してX’方向で上流側に配置され、その吹き出し方向はX’方向に対して斜め(転写体2に対して斜め)である。図15(C)の例は、図15(A)の例と同様であるが、吹出部215の吹き出し方向は、X’方向に対して斜め(転写体2に対して斜め)であり、かつ、X’方向で下流側に指向している。
【0104】
図16(A)の例は、図15(A)の例と同様であるが、吹出部215の吹き出し方向は、X’方向に平行(転写体2に対して平行)であり、かつ、X’方向で下流側に指向している。図16(B)の例は、吹出部215が排気通路212に対してX’方向で上流側に配置され、導入部211aが吹出部215のY方向の端部に位置している。吹出部215は断面C字型でY方向に延びる空気通路を兼用している。圧力室216や通路215aを省略して空気の経路を短縮した例である。
【0105】
<第四実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0106】
図17(A)~図17(C)は排気通路212及びその周辺の構成例を示している。図17(A)及び図17(B)の例は排気通路212が直方体形状の通路として形成された例を示しており、周壁214の断面形状は矩形である。17(A)及び図17(B)の例の違いは、排気通路212の縦横幅や吹出部215の位置である。
【0107】
図17(C)の例は、周壁214がY方向に延びる楕円筒体であり、排気通路212の垂直断面形状は楕円形である。吹出部215と吸引溝213とがX’方向に離間し、その間に平面のユニット底部210aが位置している。排気通路212の周壁214が吸引溝213の吹出部215の側の壁面213bを形成している。壁面213bは、ユニット底部210aと連続した傾斜面213cを有している。
【0108】
この例の傾斜面213cは、吸引溝213の深さ方向(Z’方向で転写体2から離れる方向)で、かつ、X’方向の上流側に指向した楕円弧面であり、吸引溝213のX’方向の幅を吸引溝213の深さ方向に徐々に狭くしている。吹出部215から吹き出した空気がユニット底部210aと転写体2との間を通って傾斜面213cに沿って流れやすくなり、周壁214上のコアンダ効果の発生を促進する。
【0109】
図17(C)の例はまた、洗浄液の供給通路218がX’方向における吸引ユニット21の略幅全部に形成されている。
【0110】
<第五実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0111】
図18(A)及び図18(B)は連通部214aの他の構成例を示している。図18(A)の例では、連通部214aが、排気通路212の周壁214のX’方向で下流側の端部に形成されている。また、図18(B)の例では、連通部214aが、排気通路212の周壁214の下半分の領域内に形成されており、特に、連通部214aの孔の軸方向が吸引溝213の開口部213aを指向している。
【0112】
図18(A)及び図18(B)のいずれの例においても吹出部215と吸引溝213とがX’方向に離間し、その間に平面のユニット底部210aが位置している。排気通路212の周壁214が吸引溝213の吹出部215の側の壁面213bを形成している。壁面213bは、ユニット底部210aと連続した傾斜面213cを有している。
【0113】
この例の傾斜面213cは、吸引溝213の深さ方向(Z’方向で転写体2から離れる方向)で、かつ、X’方向の上流側に指向した円弧面であり、吸引溝213のX’方向の幅を吸引溝213の深さ方向に徐々に狭くしている。吹出部215から吹き出した空気がユニット底部210aと転写体2との間を通って傾斜面213cに沿って流れやすくなり、周壁214上のコアンダ効果の発生を促進する。
【0114】
<第六実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0115】
排気通路212の容積や、連通部214aの孔径、ピッチによっては連通部214aを通過する気流の速度がY方向の部位によって不均一になる場合がある。これはミストの回収性能に影響を及ぼす場合がある。そこで、Y方向で各連通部214aの気圧を均一化する圧力均一化部材を設けてもよい。図19(A)及び図19(B)はその一例を示す。
【0116】
図19(A)の例では、連通部214aを圧力均一化部材である多孔質体214cで覆っている。多孔質体214cは例えば多数の孔が開口した板(例えばハニカム板)や、繊維の積層体であってもよい。図示の例では排気通路212の周壁214上に多孔質体214cが配置されており、周壁214から突出した支持板214b等によって多孔質体214cが周壁214上に保持されている。
【0117】
吸引溝213に吸引される空気は多孔質体214c及び連通部214aを通って排気通路212へ進入することになる。多孔質体214cにミストが固着することを防止するため、洗浄液の供給通路218から多孔質体214cにも洗浄液が供給される。洗浄液は多孔質体214c及び連通部214aを通って排気通路212に流入することになる。
【0118】
図19(B)の例では、排気通路212の周壁214が矩形状である。連通部214aを圧力均一化部材である多孔質体214cで覆っている。図示の例では排気通路212の周壁214上に多孔質体214cが配置されており、周壁214から突出した支持板214b等によって多孔質体214cが周壁214上に保持されている。図19(B)の例では、洗浄液の供給構造は設けられていない。ミストの清掃の場合、多孔質体214cを定期的に交換したり、吸引ユニット21を取り外して洗浄する。
【0119】
<第七実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0120】
図19(C)の例は、供給通路218と連通部214aとの間に圧力損失の大きい多孔質体220を配置している。流れてきたミストを排気通路212に回収する場合、多孔質体220の圧力損失が大きいため、多孔質体220を空気は通過せず、多孔質体220は吸引溝213の底部(天井部)として作用する。多孔質体220は、多数の孔が開口した板(例えばハニカム板)や、繊維の積層体であってもよい。洗浄時には、供給通路218からの洗浄液が多孔質体220を通過し、連通部214aなどに供給される。
【0121】
なお、供給孔218aは供給通路218の周壁を貫通する孔ではなく、当該周壁の一部を構成する多孔質体によって形成されてもよい。この場合の多孔質体も例えば多数の孔が開口した板(例えばハニカム板)や、繊維の積層体であってもよい。
【0122】
<第八実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0123】
図20(A)は本実施形態の吸引ユニット21の斜視図、図20(B)は吸引ユニット21の底面図である。図21図20(A)のD-D線断面図である。
【0124】
吸引ユニット21は、中空の本体210を備える。本体210はその外形が略直方体であり、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向でありX’方向と直交する方向。)に延びる長片状の部材である。本体210は、転写体2と対向するユニット底部210aと、Y方向の端部210b、210bとを備える。
【0125】
各端部210bには、導入部211aと、排気部211bと、導入部211cとがZ’方向に離間して形成されている。導入部211aには配管20aが接続され、供給ユニット22からの空気が導入される。排気部211bには配管20bが接続される。導入部211cには配管20cが接続され、供給ユニット25からの洗浄液が導入される。本実施形態では、本体210の両端部210b、210bにそれぞれ導入部211及び排気部212を設けたが、一方の端部210bのみに導入部211a、211c及び排気部211bを設けてもよい。また、一方端部210bに導入部21a及び211cを設け、他方の端部210bに排気部211bを設けてもよい。
【0126】
本体210のZ’方向の一端部(転写体2の側)に吸引溝213が形成され、他端部(Z’方向の反対側)に圧力室(圧力バッファ室)216が形成されている。吸引溝213は転写体210aに対向した開口部213aを備える。吸引溝213は、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向。)に延設され、その延設方向の長さは転写体2のY方向の幅以上である。換言すると、吸引溝213は転写体2をY方向の全域を覆う、或いは、記録ヘッド30のY方向の記録領域の全域を覆う長さを有している。本実施形態の場合、吸引溝213は一本の溝であるが、Y方向に複数本の溝に分割されていてもよい。
【0127】
吸引溝213は、本実施形態の場合、有底の溝である。
【0128】
本体210は、排気通路212を備える。排気通路212は、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向。)に延設され、その延設方向の長さは吸引ユニット21の長さと略同じ長さである。排気通路212は、Y方向の各端部において排気部211bと連通している。吸引ユニット21の本実施形態の排気通路212は、周壁214により画定されている。周壁214はY方向に延びる角筒体であるが、その四隅のうちの一つ(開口部213aに隣接する隅部)は曲率r1の曲面を形成している。排気通路212と吸引溝213とは周壁214により区画されている。
【0129】
吸引溝213は排気通路212に対してX’方向で上流側に配置されている。周壁214には吸引溝213と排気通路212とを連通させる連通部214aが形成されている。本実施形態では連通部214aは開口部213aよりもX’方向で下流側に位置している。
【0130】
連通部214aは本実施形態の場合、周壁214を貫通する貫通孔である。本実施形態の場合、複数の連通部214aがX’方向と交差する方向(ここではY方向)に離散的に配置されている。排気ユニット23が排気部211bを介して空気を吸引排気すると、転写体2上のミストが開口部213aから吸引溝213内に吸引され、連通部214a及び排気通路212並びに排気部212を介して排出される。
【0131】
連通部214aと排気通路212にはミストが混じった空気が通過するため、これらにミストが付着する場合がある。このため、本実施形態では洗浄液が連通部214a及び排気通路212に供給される機構を備えている。具体的には、吸引ユニット21は、洗浄液の供給通路218を含む。供給通路218はY方向に延設された本体210の内部空間であり、そのY方向の両端部においてそれぞれ導入部211cと連通している。供給通路218はZ’方向で排気通路212の上方に位置している。
【0132】
供給通路218の周壁のうち、下部の周壁には供給孔218aが形成されている。供給孔218aは周壁を貫通する貫通孔である。本実施形態の場合、複数の供給孔218aがX’方向と交差する方向(ここではY方向)に離散的に配置されている。
【0133】
洗浄液は連通部214a及びその周囲のミストを除去し、排気通路212に進入して更に排気通路212内のミストも除去する。洗浄液の廃液は、空気と共に排気通路212及び排気部211bを介して排気ユニット23により排出される。
【0134】
圧力室216はY方向に延設された本体210の内部空間であり、そのY方向の両端部においてそれぞれ導入部211aと連通している。吹出部215A及び215Bは対応する通路215a、215aを介して圧力室216と連通する。2つの通路215aは、それぞれ、圧力室216からユニット底部210aの側へ延び、かつ、Y方向に延びる、薄い直方体形状の通路である。
【0135】
吹出部215A及び215Bは、転写体2の側に開口した孔である。本実施形態の吹出部215A及び215Bは、いずれもY方向に延設された一本のスリット状或いはスロット状の孔であるが、Y方向に並んだ複数の孔であってもよい。
【0136】
吹出部215Aと吸引溝213とがX’方向に離間し、その間に平面のユニット底部210aが位置している。排気通路212の周壁214が吸引溝213の吹出部215の側の壁面213bを形成している。壁面213bは、ユニット底部210aと連続した傾斜面213cを有している。この例の傾斜面213cは、吸引溝213の深さ方向(Z’方向で転写体2から離れる方向)で、かつ、X’方向の上流側に指向した曲率r1の円弧面であり、吸引溝213のX’方向の幅を吸引溝213の深さ方向に徐々に狭くしている。吹出部215Bは、吸引溝213に対してX’方向で上流側に位置している。
【0137】
供給ユニット22から圧送される空気は、まず、圧力室216に導入される。圧力室216に導入された空気は、通路215aを通って吹出部215A及び215Bから転写体2に吹き出される。本実施形態では、X’方向で吸引溝213よりも下流側の部位で、吹出部215Aから転写体2に空気が吹き出されるため、転写体2上のミストを吸引溝213へ促し、ミストがX’方向で下流側に流出することを防止することができる。ミストを含む空気が二つの吹出部215A及び吹出部215Bから吹き出される空気でX’方向に挟まれ、吸引溝213でより確実に吸引できる。
【0138】
以上の構成からなる吸引ユニット21では、吸引溝213が排気通路212に対してX’方向で上流側に配置されている。このため、図21において破線矢印で示すように、X’方向で上流側から流れてきたミストを含む空気が、吸引溝213内で下流上方へスムーズに流れて連通部214aを介して排気通路212に誘導される。このため、吸引溝213の内面等へミストが付着することを抑制することができる。
【0139】
更に、吹出部215Aから吹出された空気の一部が排気通路212の外壁である周壁214に沿って連通部214aまで流れることで、コアンダ効果が発生する。とりわけ、本実施形態では傾斜面213cの存在によって、吹出部215Aから吹出された空気が周壁214に沿って連通部214aまで流れやすく、コアンダ効果も発生しやすい。このため、周壁214の表面にミストが付着することを防止できる。
【0140】
吹出部215Aから吹き出した空気がユニット底部210aと転写体2との間を通って傾斜面213cに沿って流れやすくなる。この空気流により転写体2に着弾したインクINKの水分が蒸発した蒸気と、空気中に元から存在する蒸気MOIがユニット底部210aに付着することを防ぐこともできる。
【0141】
本実施形態の構成の寸法例について図21を参照して説明する。図21において距離a1はユニット底部210aと転写体2との距離である。曲率r1は傾斜面213cの曲率である。距離b1は傾斜面213cのX’方向の幅である。
【0142】
距離a1は例えば3mmである。ユニット底部210aのX’方向の幅は例えば3mmである。距離b1は例えば4mmである。曲率r1は例えば4mmである。傾斜面213cを曲面としたのは、上述の通り、吸込む蒸気とミストを含む空気の回収をスムーズに行い、吸引ユニット21内部に付着させないことが目的である。この目的を満たせば、曲面の曲率は4mmである必要はなく、曲率r1は、例えば、
0.6×b1<r1<2.5×b1
の関係が成立するように設定される。曲率r1が小さすぎると、吹出部215Aから出た空気が、ヘッド底面210aに沿わない場合がある。また、曲率r1が大きすぎると、吹出部215Aから出た空気がヘッド底面210aや周壁214から離れる場合がある。
【0143】
傾斜面213cの形状は曲面である必要はなく、ユニット底部210aと傾斜面213cとが2以上の接平面で構成されていればよい。傾斜面213cは複数の平面で構成されていてもよい。但し、傾斜面213cが単一の平面ではなく、曲面で形成すると、吹出部215Aから出た空気がヘッド底面210aや周壁214に沿わせやすくなる。
【0144】
吹出部215Aから吹き出す空気の風速は、上記の蒸気の付着を防止する点で、例えば、0.4m/s以上である。風速を0.6m/s以上とすれば、蒸気の付着防止効果を更に高められ、また、付着した蒸気の乾燥性能を向上できる。
【0145】
本実施形態の場合、吸引ユニット21は、排気通路212と供給通路218との間の、中間通路219を有する。中間通路219はY方向に延びる通路であり、吸引溝213で吸引されたミストを含む空気は中間通路219、連通部214aを通って排気通路212に流入する。排気通路219の容積と連通部214aの孔径、ピッチによっては連通部214aを通過する気流の速度がY方向の部位によって不均一になる場合がある。これはミストの回収性能に影響を及ぼす場合がある。そこで、中間通路219には各連通部214aの気圧を均一化する圧力均一化部材を設けてもよい。圧力均一化部材は、中間通路219に充填された多孔質体であってもよい。多孔質体は多数の孔が開口した板(例えばハニカム板)や、繊維の積層体であってもよい。多孔質体は供給通路218から供給される洗浄液で洗浄できる。
【0146】
洗浄液によって多孔質体や連通部214a或いは排気通路212を洗浄すると、転写体2よりも排気通路212の周囲の温度が低下し、ユニット底部210aなどに結露を生じる可能性がある。そのため、洗浄時には吹出部215Aから吹き出す空気の風速を通常時より早くしてもよい。例えば、風速を1m/s以上にしてもよい。これにより、蒸気の付着や付着した蒸気の乾燥促進を図れ、結露を回避できる。
【0147】
<第八実施形態の変形例>
第八実施形態の変形例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0148】
図22の例は図21の例において、供給通路218を省略した吸引ユニット21を示している。洗浄時には吸引ユニット21を取り外す等してその洗浄を行う。
【0149】
図23(A)の例は、ユニット底部210aが曲面の一部として形成され、傾斜面213cがこれに連続している構成例である。傾斜面213cを含むユニット底部210aの周辺の断面形状がU字型である。排気通路212は吸引溝213の上方に形成されている。吹出部215Aの吹出し方向はX’方向で上流側に指向しており、転写体2に直接風圧がかからないように構成されている。
【0150】
図23(B)の例は傾斜面213cが複数の平面S1~S3で形成されている。図23(C)の例は傾斜面213cが曲面S4と平面S5で形成されている。図23(D)は吹出部215Aがヘッド底面210aよりも高い位置(転写体2からZ’方向に離れた位置)に形成されている。図24(A)は吸引ユニット21が全体的にZ’方向に対して傾いて設置されている例である。図23(A)~図23(C)の例は、ユニット底部210aが排気通路212の周壁214を構成していないが、図24(B)~図24(D)はユニット底部210aが排気通路212の周壁214を構成している例である。図24(B)~図24(D)の例は、その他の特徴は図23(A)~図23(C)の例と同様である。
【0151】
<第九実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0152】
図25は本実施形態の吸引ユニット21の断面図であり、例えば第八実施形態の図21の断面図に相当する。
【0153】
吸引ユニット21は、中空の本体210を備える。本体210はその外形が略直方体であり、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向でありX’方向と直交する方向。)に延びる長片状の部材である。本体210は、転写体2と対向するユニット底部210aと、Y方向の端部(不図示)を備える。各端部には、配管20aが接続され、供給ユニット22からの空気が導入される導入部211aと、配管20bが接続される排気部211bとが形成されている。
【0154】
本体210のZ’方向の一端部(転写体2の側)に吸引溝213が形成され、他端部(Z’方向の反対側)に圧力室(圧力バッファ室)216が形成されている。吸引溝213は転写体210aに対向した開口部213aを備える。吸引溝213は、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向。)に延設され、その延設方向の長さは転写体2のY方向の幅以上である。換言すると、吸引溝213は転写体2をY方向の全域を覆う、或いは、記録ヘッド30のY方向の記録領域の全域を覆う長さを有している。本実施形態の場合、吸引溝213は一本の溝であるが、Y方向に複数本の溝に分割されていてもよい。
【0155】
吸引溝213は、本実施形態の場合、有底の溝である。
【0156】
本体210は、排気通路212を備える。排気通路212は、X’方向と交差する方向(本実施形態ではY方向。)に延設され、その延設方向の長さは吸引ユニット21の長さと略同じ長さである。排気通路212は、Y方向の各端部において排気部211bと連通している。吸引ユニット21の本実施形態の排気通路212は、周壁214により画定されている。周壁214はY方向に延びる角筒体である。吸引溝213は排気通路212に対してZ’方向で転写体2の側に配置されている。周壁214には吸引溝213と排気通路212とを連通させる連通部214aが形成されている。
【0157】
連通部214aは本実施形態の場合、周壁214を貫通する貫通孔である。本実施形態の場合、複数の連通部214aがX’方向と交差する方向(ここではY方向)に離散的に配置されている。排気ユニット23が排気部211bを介して空気を吸引排気すると、転写体2上のミストが開口部213aから吸引溝213内に吸引され、連通部214a及び排気通路212並びに排気部212を介して排出される。
【0158】
圧力室216はY方向に延設された本体210の内部空間であり、そのY方向の両端部においてそれぞれ導入部211aと連通している。吹出部215は通路215aを介して圧力室216と連通する。通路215aは、圧力室216からユニット底部210aの側へ延び、かつ、Y方向に延びる、薄い直方体形状の通路である。
【0159】
吹出部215は、転写体2の側に開口した孔である。本実施形態の吹出部215は、Y方向に延設された一本のスリット状或いはスロット状の孔であるが、Y方向に並んだ複数の孔であってもよい。
【0160】
吹出部215と吸引溝213とがX’方向に離間し、その間に平面のユニット底部210aが位置している。吸引溝213の吹出部215の側の壁面213bは、ユニット底部210aと連続した傾斜面213cを有している。この例の傾斜面213cは、吸引溝213の深さ方向(Z’方向で転写体2から離れる方向)で、かつ、X’方向の下流側に指向した曲率r2の円弧面であり、吸引溝213のX’方向の幅を吸引溝213の深さ方向に徐々に狭くしている。吹出部215は、吸引溝213に対してX’方向で上流側に位置している。
【0161】
供給ユニット22から圧送される空気は、まず、圧力室216に導入される。圧力室216に導入された空気は、通路215aを通って吹出部215から転写体2に吹き出される。本実施形態では、X’方向で吸引溝213よりも上流側の部位で、吹出部215から転写体2に空気が吹き出されるため、転写体2上のミストや蒸気を吸引溝213へ促すことができる。
【0162】
以上の構成からなる吸引ユニット21では、吹出部215が吸引溝213に対してX’方向で上流側に配置されている。このため、図25において破線矢印で示すように、ユニット底部210aと転写体2との間のミストや蒸気を吸引溝213内に導き、蒸気がヘッド底面210a等に付着することを抑制できる。
【0163】
吹出部215から吹き出した空気がユニット底部210aと転写体2との間を通って傾斜面213cに沿って流れやすくなる。この空気流により転写体2に着弾したインクINKの水分が蒸発した蒸気と、空気中に元から存在する蒸気MOIがユニット底部210aに付着することを防ぐこともできる。
【0164】
本実施形態の構成の寸法例について図25を参照して説明する。図25において距離a2はユニット底部210aと転写体2との距離である。曲率r2は傾斜面213cの曲率である。距離b2は傾斜面213cのX’方向の幅である。
【0165】
距離a1は例えば3mmである。ユニット底部210aのX’方向の幅は例えば3mmである。距離b2は例えば3mmである。曲率r2は例えば3mmである。傾斜面213cを曲面としたのは、上述の通り、吸込む蒸気とミストを含む空気の回収をスムーズに行い、吸引ユニット21内部に付着させないことが目的である。この目的を満たせば、曲面の曲率は3mmである必要はなく、曲率r2は、例えば、
0.6×b2<r2<2.5×b2
の関係が成立するように設定される。曲率r2が小さすぎると、吹出部215から出た空気が、ヘッド底面210aに沿わない場合がある。また、曲率r2が大きすぎると、吹出部215から出た空気がヘッド底面210aから離れる場合がある。
【0166】
傾斜面213cの形状は曲面である必要はなく、ユニット底部210aと傾斜面213cとが2以上の接平面で構成されていればよい。傾斜面213cは複数の平面で構成されていてもよい。但し、傾斜面213cが単一の平面ではなく、曲面で形成すると、吹出部215Aから出た空気がヘッド底面210aや周壁214に沿わせやすくなる。
【0167】
吹出部215から吹き出す空気の風速は、上記の蒸気の付着を防止する点で、例えば、0.4m/s以上である。風速を0.6m/s以上とすれば、蒸気の付着防止効果を更に高められ、また、付着した蒸気の乾燥性能を向上できる。
【0168】
<第九実施形態の変形例>
第九実施形態の変形例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0169】
図26(A)の例は、吹出部215の吹出し方向はX’方向で下流側に指向しており、転写体2に直接風圧がかからないように構成されている。図26(B)の例は、ユニット底部210aが曲面の一部として形成され、傾斜面213cがこれに連続している構成例である。傾斜面213cを含むユニット底部210aの周辺の断面形状がU字型である。吹出部215の吹出し方向はX’方向で下流側に指向しており、転写体2に直接風圧がかからないように構成されている。
【0170】
図26(C)の例は傾斜面213cが複数の平面S1~S3で形成されている。吹出部215の吹出し方向はX’方向で下流側に指向しており、転写体2に直接風圧がかからないように構成されている。図26(D)の例は傾斜面213cが曲面S4と平面S5で形成されている。吹出部215の吹出し方向はX’方向で下流側に指向しており、転写体2に直接風圧がかからないように構成されている。
【0171】
<第十実施形態>
吸引ユニット21の他の構成例について説明する。他の実施形態の構成例と以下に述べる各構成例は適宜組み合わせてもよい。
【0172】
本実施形態は、吸引溝213による空気の吸い込み流量を大きくするための通路構造を提供する。図27(A)は本実施形態の吸引ユニット21の断面図であり、図21等の断面図に相当する。図27(B)は吸引ユニット21内の通路を示す図である。本実施形態の吸引ユニット21は、吹出部215A及び215Bが設けられており、その間に吸引溝213が配されている点で図21の例と同様の構造となっており、その変形例として例示される。しかし、他の実施形態にも適用可能である。
【0173】
本実施形態の吸引ユニット21は、排気通路が排気通路212Aと排気通路212Bとの二本で構成されている。排気通路212Aは、これまでに説明した他の実施形態の排気通路212と同様である。排気通路212BはY方向に延設されており、排気通路212AよりもZ’方向で転写体2から遠い位置に設けられている。排気通路212Aには排気部211bが、排気通路212Bには排気部211b’に割り当てられ、排気ユニット23には、これらの排気部211b及び排気部211b’が並列に接続される。排気部211b及び排気部211b’は、双方とも本体210のY方向の一方の端部に設けられ、他方の端部の側においては、吸引ユニット21の内部で連通路212cにより排気通路212Aと排気通路212Bとが連通されている。吸引ユニット21の長手方向の同じ端部に、2つの排気部211b、211b’が配置されることから、配管20bを同様の方向から接続することができ、限られたスペース内でフィルタ24や排気ユニット23を接続できる。
【0174】
一般に、排気ユニット23から吸引溝213までの間には、様々な圧力損失要素が存在し、これらが吸引溝213の吸引流量を低下させる要因となる。本実施形態では、排気ユニット23と吸引溝213との間の経路を2つとした。これにより、より多くの吸引流量を得ることが可能となる。
【0175】
吸引溝213は、連通部214aを介して排気通路212Aと連通している。排気通路212Bには、連通部214aに相当する部位はない。排気通路212Aに回収された空気の一部は、排気部211bを通過して吸引ユニット21の外部へ排気される。また、排気通路212Aに回収された空気の一部は、連通路212c及び排気通路212Bを通過し、排気部211b’から外部に排気される。
【0176】
吸引ユニット21内で排気通路212Aと排気通路212Bを配置することで、排気通路212Aと排気通路212Bとの流路長さの差による圧力損失差をあらかじめ計算することができる。例えば、排気通路212Aと排気通路212Bの径の大きさを、同様の圧力損失なるように調整することで、排気部211b及び排気部211b’の流量を同様にすることができ、吸引ユニット21の内部圧力の長手方向の均一性を得ることが可能となる。
【0177】
また、排気通路212Bを排気通路212Aの上側を通し、かつ、洗浄水の供給通路218と圧力室216との間を通す構成とすることで、空気の吹出機能や内部の洗浄機能を損なわずに、吸込流量を増やすことができる。さらに、1つの吸引ユニット21内に各通路を収めることが可能となる。最も、排気通路212Bの位置はこの位置に限らず、様々な位置を設計可能である。
【0178】
また、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0179】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
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