(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】炭素材料及びその製造方法、蓄電デバイス用電極材料、並びに蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 32/205 20170101AFI20240124BHJP
H01G 11/36 20130101ALI20240124BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20240124BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240124BHJP
C01B 32/225 20170101ALI20240124BHJP
C01B 32/19 20170101ALI20240124BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240124BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C01B32/205
H01G11/36
H01G11/42
H01G11/86
C01B32/225
C01B32/19
H01M4/587
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2019542734
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029794
(87)【国際公開番号】W WO2020027111
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2018146925
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】笹川 直樹
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193474(JP,A)
【文献】特開2012-015086(JP,A)
【文献】国際公開第2007/034873(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101717081(CN,A)
【文献】国際公開第2015/098758(WO,A1)
【文献】特表2013-521218(JP,A)
【文献】特開平09-169512(JP,A)
【文献】特開2004-315243(JP,A)
【文献】特開2007-182358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01G 11/00-11/86
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が100m
2/g以上である、炭素材料であって、
前記炭素材料が、複数の凹部及び複数の凸部を備え、
前記複数の凸部が、前記複数の凹部に嵌合する凸部であり、
前記炭素材料0.2gを直径2cmの円筒形シリンジに充填した状態で、16kNの圧力で圧縮し、圧縮された前記炭素材料の全量を前記シリンジから取り出し目開き4.75mmの篩に入れ、前記篩を1分間振とうしたとき、振とう後に篩の上に残る前記炭素材料の重量が、篩に投入した前記炭素材料の重量100重量%に対し、90重量%以上である、炭素材料。
【請求項2】
前記炭素材料が、樹脂の炭化物を含む、請求項
1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記炭素材料が、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む、請求項1
又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
前記グラフェン積層構造を有する炭素材料が、黒鉛又は薄片化黒鉛である、請求項
3に記載の炭素材料。
【請求項5】
前記黒鉛又は薄片化黒鉛が、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている、部分剥離型薄片化黒鉛である、請求項
4に記載の炭素材料。
【請求項6】
黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、樹脂とを混合し、第1の混合物を得る工程と、
前記第1の混合物に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記第1の混合物を構成する炭素材料のマトリックス内に前記粒子を配置して第2の混合物を形成する工程と、
前記第2の混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱後の第2の混合物から前記粒子を除去する工程と、
を備え
、
前記粒子は、粒子径が、0.1μm以上1000μm以下の賦活剤であり、
前記賦活剤が、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、炭酸カリウム、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、炭素材料の製造方法。
【請求項7】
樹脂に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記樹脂のマトリックス内に前記粒子を配置して混合物を形成する工程と、
前記混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱後の混合物から前記粒子を除去する工程と、
を備え
、
前記粒子は、粒子径が、0.1μm以上1000μm以下の賦活剤であり、
前記賦活剤が、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、炭酸カリウム、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、炭素材料の製造方法。
【請求項8】
黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、樹脂とを混合し、第1の混合物を得る工程と、
前記第1の混合物に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記第1の混合物を構成する炭素材料により前記粒子を被覆して第2の混合物を形成する工程と、
前記第2の混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱後の第2の混合物から前記粒子を除去する工程と、
を備え
、
前記粒子は、粒子径が、0.1μm以上1000μm以下の賦活剤であり、
前記賦活剤が、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、炭酸カリウム、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、炭素材料の製造方法。
【請求項9】
液状の樹脂に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記樹脂により前記粒子を被覆して混合物を形成する工程と、
前記混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱後の混合物から前記粒子を除去する工程と、
を備え
、
前記粒子は、粒子径が、0.1μm以上1000μm以下の賦活剤であり、
前記賦活剤が、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、炭酸カリウム、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、炭素材料の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程が、前記樹脂の少なくとも一部を炭化させる工程である、請求項
6~
9のいずれか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項11】
前記粒子を除去する工程が、溶媒により前記粒子を除去する工程である、請求項
6~
10のいずれか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の炭素材料を含む、蓄電デバイス用電極材料。
【請求項13】
請求項
12に記載の蓄電デバイス用電極材料により構成されている電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料、該炭素材料の製造方法、並びに該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器、ハイブリッド自動車、電気自動車、家庭用蓄電用途等に向けて、蓄電デバイスの研究開発が盛んに行われている。蓄電デバイスの電極材料としては、黒鉛、活性炭、カーボンナノファイバーあるいはカーボンナノチューブなどの炭素材料が、環境的側面から広く用いられている。
【0003】
下記の特許文献1には、活性炭と、導電補助剤と、バインダーとを含む分極性電極層を有する電気二重層キャパシタが開示されている。上記バインダーは、電極において、集電体と活物質とを結着させる役割を担っている。また、活物質同士を結着させる役割も担っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、キャパシタやリチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの分野においては、さらに一層の電池特性の改善が求められている。もっとも、特許文献1のように、蓄電デバイスの電極材料にバインダーを用いた場合、内部抵抗が大きくなり、サイクル特性等の電池性能が劣化することがあった。また、バインダーの副反応や分解等によっても、電池性能が劣化することがあった。従って、蓄電デバイスの電極材料においては、バインダーの添加量を少なくすることが望ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1のような活性炭を蓄電デバイスの電極材料に用いた場合、バインダーの添加量を多くしなければ、電極膜を形成し難いという問題がある。特に、蓄電デバイスの容量等の電池特性を高めるために、比表面積の大きい炭素材料を電極材料に用いた場合、その傾向が顕著であった。
【0007】
本発明の目的は、比表面積が大きく、しかもバインダーを実質的に含まない場合においても、容易に電極膜を形成することができる、炭素材料、該炭素材料の製造方法、並びに該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炭素材料の広い局面では、BET比表面積が100m2/g以上である、炭素材料であって、前記炭素材料0.2gを直径2cmの円筒形シリンジに充填した状態で、16kNの圧力で圧縮し、圧縮された前記炭素材料の全量を前記シリンジから取り出し目開き4.75mmの篩に入れ、前記篩を1分間振とうしたとき、振とう後に篩の上に残る前記炭素材料の重量が、篩に投入した前記炭素材料の重量100重量%に対し、90重量%以上である。
【0009】
本発明に係る炭素材料のある特定の局面では、前記炭素材料が、複数の凹部及び複数の凸部を備える。
【0010】
本発明に係る炭素材料の別の特定の局面では、前記複数の凸部が、前記複数の凹部に嵌合する凸部である。
【0011】
本発明に係る炭素材料の他の特定の局面では、前記炭素材料が、樹脂の炭化物を含む。
【0012】
本発明に係る炭素材料のさらに他の特定の局面では、前記炭素材料が、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む。好ましくは、前記グラフェン積層構造を有する炭素材料が、黒鉛又は薄片化黒鉛である。より好ましくは、前記黒鉛又は薄片化黒鉛が、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている、部分剥離型薄片化黒鉛である。
【0013】
本発明の炭素材料の製造方法の広い局面では、黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、樹脂とを混合し、第1の混合物を得る工程と、前記第1の混合物に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記第1の混合物を構成する炭素材料のマトリックス内に前記粒子を配置して第2の混合物を形成する工程と、前記第2の混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、前記加熱後の第2の混合物から前記粒子を除去する工程と、を備える。
【0014】
本発明の炭素材料の製造方法の他の広い局面では、樹脂に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記樹脂のマトリックス内に前記粒子を配置して混合物を形成する工程と、前記混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、前記加熱後の混合物から前記粒子を除去する工程と、を備える。
【0015】
本発明の炭素材料の製造方法の他の広い局面では、黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、樹脂とを混合し、第1の混合物を得る工程と、前記第1の混合物に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記第1の混合物を構成する炭素材料により前記粒子を被覆して第2の混合物を形成する工程と、前記第2の混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、前記加熱後の第2の混合物から前記粒子を除去する工程と、を備える。
【0016】
本発明の炭素材料の製造方法の他の広い局面では、樹脂に炭素材料とは異なる粒子を添加し、前記樹脂により前記粒子を被覆して混合物を形成する工程と、前記混合物を200℃以上、1000℃以下の温度で加熱する加熱工程と、前記加熱後の混合物から前記粒子を除去する工程と、を備える。
【0017】
本発明の炭素材料の製造方法のある特定の局面では、前記加熱工程が、前記樹脂の少なくとも一部を炭化させる工程である。
【0018】
本発明の炭素材料の製造方法の他の特定の局面では、前記粒子を除去する工程が、溶媒により前記粒子を除去する工程である。
【0019】
本発明の炭素材料の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記粒子の平均粒子径が、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0020】
本発明に係る炭素材料の他の広い局面では、本発明に従って構成される炭素材料の製造方法により得られる。
【0021】
本発明に係る蓄電デバイス用電極材料は、本発明に従って構成される炭素材料を含む。
【0022】
本発明に係る蓄電デバイスは、本発明に従って構成される蓄電デバイス用電極材料により構成されている電極を備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、比表面積が大きく、しかもバインダーを実質的に含まない場合においても、容易に電極膜を形成することができる、炭素材料、該炭素材料の製造方法、並びに該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施例2で得られた炭素材料を示す倍率5000倍の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2】
図2は、比較例3の炭素材料を示す倍率5000倍の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図3】
図3は、実施例2の加圧後の炭素材料を示す写真である。
【
図4】
図4は、比較例3の加圧後の炭素材料を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0026】
(炭素材料)
本発明の炭素材料は、BET比表面積が、100m2/g以上である。また、上記炭素材料0.2gを直径2cmの円筒形シリンジに充填した状態で、16kNの圧力で圧縮し、圧縮された炭素材料の全量をシリンジから取り出し目開き4.75mmの篩に投入する。投入後、篩を1分間振とうしたとき、振とう後に篩の上に残る炭素材料の重量が、篩に投入した炭素材料の重量100重量%に対し、90重量%以上である。従って、本発明の炭素材料は、バインダーを実質的に含まずとも、上記16kNの圧縮により自立膜を形成することができる。なお、「バインダーを実質的に含まない」とは、膜形成をする材料100重量%に対し、バインダーの含有量が1重量%以下のことをいう。
【0027】
本発明の炭素材料は、BET比表面積が、100m2/g以上であるので、蓄電デバイスの容量などの電池特性を高めることができる。また、本発明の炭素材料は、篩の評価が上記範囲内にあるため、バインダーを実質的に含まずとも、容易に電極膜を形成することができる。なお、本発明の炭素材料は、複数の凹部及び複数の凸部を備えることが好ましい。特に、上記複数の凹部及び上記複数の凸部は、加圧により互いに嵌合し合うことがより好ましい。その場合、より一層容易に電極膜を形成することができる。
【0028】
本発明の炭素材料によれば、電極膜中におけるバインダーの添加量を少なくすることができるので、電池やキャパシタ内部の電極抵抗を小さくすることができる。また、バインダーの添加量を少なくすることができるので、バインダーの副反応や分解等が生じ難い。従って、蓄電デバイスの電池特性を高めることができる。さらに、BET比表面積が上記範囲内にあるので、容量などの電池特性を高めることができる。
【0029】
BET比表面積は、BET法に準拠して、窒素吸着等温線から算出することができる。測定装置としては、例えば、比表面積測定装置(島津製作所社製、品番「ASAP-2000」)を用いることができる。
【0030】
BET比表面積の大きい試料は空気中の水分により吸湿しやすいため、予め300度、1時間の真空乾燥により、吸着している水分や脂分などを気化させ除去しておくことが望ましい。測定に用いる試料は約100mgが基本条件であるが、BET比表面積に応じて50mgから200mgの範囲で適宜調整して用いることが望ましい。
【0031】
また、上記複数の凸部及び複数の凹部の形状及び大きさは、自立膜を形成できる限りにおいて特に限定されない。
【0032】
上記複数の凹部の平面形状が、それぞれ、略円状である場合、凹部の直径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。上記複数の凹部の平面形状が、それぞれ、略楕円状である場合、凹部の長径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。上記複数の凹部の平面形状が、それぞれ、略矩形状である場合、凹部の長辺は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。また、上記複数の凹部の深さは、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。上記複数の凹部の形状及び大きさが、それぞれ、上記範囲内にある場合、上記複数の凸部及び複数の凹部が互いに嵌合し合うことにより、自立膜をより一層容易に形成することができる。
【0033】
上記複数の凸部の平面形状が、それぞれ、略円状である場合、凸部の直径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。上記複数の凸部の平面形状が、それぞれ、略楕円状である場合、凸部の長径は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。上記複数の凸部の平面形状が、それぞれ、略矩形状である場合、凸部の長辺は、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。また、凸部における突出部の高さは、0.1μm以上、1000μm以下とすることが好ましい。上記複数の凸部の形状及び大きさが、それぞれ、上記範囲内にある場合、上記複数の凸部及び複数の凹部が互いに嵌合し合うことにより、自立膜をより一層容易に形成することができる。
【0034】
本発明の炭素材料は、多孔質体であることが好ましい。この場合、上記複数の凹部が、多孔質体のそれぞれの孔に相当するものとする。
【0035】
本発明の炭素材料は、BET比表面積が、好ましくは240m2/g以上、より好ましくは450m2/g以上、さらに好ましくは1100m2/g以上、好ましくは4000m2/g以下、より好ましくは3500m2/g以下である。BET比表面積が上記範囲内にある場合、蓄電デバイスの容量などの電池特性をより一層高めることができる。
【0036】
本発明の炭素材料には、メソ孔のような細孔が設けられていてもよい。なお、メソ孔とは、孔径が、2nm以上、50nm以下の細孔のことをいう。メソ孔の容積とは、炭素材料内における全てのメソ孔の容積の和(全メソ孔容積)のことをいう。メソ孔の容積は、例えば、ガス吸着法であるBJH(Barret、Joyner、Hallender)法により測定することができる。
【0037】
上記メソ孔の容積は、好ましくは0.04mL/g以上、より好ましくは0.05mL/g以上、さらに好ましくは0.1mL/g以上である。メソ孔の容積の上限は、特に限定されないが、好ましくは20mL/g以下、より好ましくは1mL/g以下である。メソ孔の容積が、上記下限以上である場合、炭素材料の表面に、電解液がより一層浸透しやすく、広い比表面積をより一層有効に活用できるため、蓄電デバイスの容量をより一層大きくすることができる。
【0038】
本発明の炭素材料においては、メソ孔以外にも例えばミクロ孔のような細孔が設けられていてもよい。ミクロ孔の容積は、好ましくは1.0mL/g以下、より好ましくは0.8mL/g以下である。ミクロ孔の容積の下限は、特に限定されないが、0.01mL/g以上が好ましい。ミクロ孔は、比表面積の向上には寄与するが、孔径が小さいため、電解液が浸透しにくく、電池としては活用されにくい表面積である。ミクロ孔の容積が上記上限以下である場合、炭素材料の表面に、電解液がより一層浸透しやすく、広い比表面積をより有効に活用できるため、蓄電デバイスの容量をより一層大きくすることができる。
【0039】
なお、ミクロ孔とは、孔径が2nm未満のものをいう。ミクロ孔の容積は、例えば、ガス吸着法であるMP(Micropore Analysis)法により測定することができる。また、ミクロ孔の容積とは、炭素材料内における全てのミクロ孔の容積の和のことをいう。
【0040】
本発明の炭素材料は、樹脂の炭化物を含んでいてもよい。上記樹脂の炭化物は、アモルファスカーボンであってもよい。X線回折法によって、アモルファスカーボン単独を測定した場合、2θが26°付近にピークが検出されないことが好ましい。なお、樹脂の一部は、炭化されずに残存していてもよい。なお、上記樹脂は、炭化物を形成する目的で使用するものなので、蓄電デバイスの電極材料に用いられるバインダーとは区別されるものとする。
【0041】
また、上記樹脂の炭化物に用いられる樹脂としては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、スチレンポリマー(ポリスチレン)、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリグリシジルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーなどが挙げられる。なお、上記樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。好ましくは、ポリエチレングリコール又はポリ酢酸ビニルが挙げられる。
【0042】
本発明において、炭素材料100重量%中に含まれる樹脂及び/又は樹脂の炭化物の含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは15重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。樹脂及び/又は樹脂の炭化物の含有量を上記下限以上及び上記上限以下とすることで、蓄電デバイスの電池特性をより一層高めることができる。
【0043】
本発明の炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含んでいることが好ましい。この場合、導電性をより一層高めることができる。そのため、蓄電デバイスの電極材料に用いたときに、レート特性などの電池特性をより一層向上させることができる。
【0044】
なお、本発明の炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料のみからなっていてもよく、樹脂の炭化物のみからなっていてもよい。また、グラフェン積層構造を有する炭素材料と、樹脂の炭化物との混合物であってもよい。また、本発明の炭素材料は、炭化されずに残存している樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0045】
なお、グラフェン積層構造を有するか否かについては、炭素材料のX線回折スペクトルをCuKα線(波長1.541Å)を用いて測定したときに、2θ=26°付近のピーク(グラフェン積層構造に由来するピーク)が観察されるか否かにより確認することができる。X線回折スペクトルは、広角X線回折法によって測定することができる。X線回折装置としては、例えば、SmartLab(リガク社製)を用いることができる。
【0046】
また、本発明の炭素材料は、樹脂の炭化物とグラフェン積層構造を有する炭素材料の複合体でもよい。この場合、X線回折法によって、上記複合体を測定した場合、2θが26°付近のピークは樹脂の炭化物であるアモルファスカーボンと結晶性黒鉛の配合比に応じて強度が変わる。なお、この場合においても、樹脂の一部は、炭化されずに残存していてもよい。
【0047】
本発明において、グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、例えば、黒鉛又は薄片化黒鉛などが挙げられる。
【0048】
黒鉛とは、複数のグラフェンシートの積層体である。黒鉛のグラフェンシートの積層数は、通常、10万層~100万層程度である。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛又は膨張黒鉛などを用いることができる。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層同士の層間距離が大きくなっている割合が高い。従って、黒鉛としては、膨張黒鉛を用いることが好ましい。
【0049】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。なお、薄片化黒鉛は、酸化薄片化黒鉛であってもよい。
【0050】
薄片化黒鉛において、グラフェンシートの積層数は、特に限定されないが、好ましくは2層以上、より好ましくは5層以上、好ましくは1000層以下、より好ましくは500層以下である。グラフェンシートの積層数が上記下限以上である場合、液中で薄片化黒鉛がスクロールしたり、薄片化黒鉛同士がスタックしたりすることが抑制されるため、薄片化黒鉛の導電性をより一層高めることができる。グラフェンシートの積層数が上記上限以下である場合、薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
【0051】
また、薄片化黒鉛は、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛であることが好ましい。
【0052】
より具体的に、「部分的にグラファイトが剥離されている」とは、グラフェンの積層体において、端縁からある程度内側までグラフェン層間が開いており、すなわち端縁(エッジ部分)にてグラファイトの一部が剥離していることをいう。また、中央側の部分ではグラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層していることをいうものとする。従って、端縁にてグラファイトの一部が剥離している部分は、中央側の部分に連なっている。さらに、上記部分剥離型薄片化黒鉛には、端縁のグラファイトが剥離され薄片化したものが含まれていてもよい。
【0053】
このように、部分剥離型薄片化黒鉛は、中央側の部分において、グラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層している。そのため、従来の酸化グラフェンやカーボンブラックより黒鉛化度が高く、導電性に優れている。従って、蓄電デバイスの電極に用いた場合、電極内での電子伝導性をより一層大きくすることができ、より一層大きな電流での充放電が可能となる。
【0054】
なお、部分的にグラファイトが剥離されているか否かは、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の薄片化黒鉛・樹脂複合材料と同様に、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察や、X線回折スペクトルにより確認することができる。
【0055】
(炭素材料の製造方法)
以下、上記本発明の炭素材料の製造方法の一例にとしての第1の方法及び第2の方法について説明する。
【0056】
第1の方法;
第1の方法では、まず、黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、樹脂とを混合し第1の混合物を得る(混合工程)。なお、混合方法としては、特に限定されず、例えば、超音波による混合、ミキサーによる混合、攪拌子による混合、密閉可能な容器内に黒鉛又は一次薄片化黒鉛と樹脂を入れ、容器を振とうするなどの方法を用いることができる。
【0057】
黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、樹脂との混合比(黒鉛又は一次薄片化黒鉛/樹脂)は、質量比で、好ましくは1/1000以上、より好ましくは1/300以上、好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5以下である。
【0058】
また、この混合工程では、さらに溶媒等を添加してもよい。溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、THF(テトラヒドロフラン)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等を用いることができる。この混合工程で得られる第1の混合物は、混合液であることが望ましい。次に、この混合液を乾燥させる。乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、風乾、ホットプレート、真空乾燥、凍結乾燥の方法を用いることができる。なお、混合液の乾燥物も液体であることが好ましい。また、混合工程において、さらにカルボキシメチルセルロース(CMC)やドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような分散剤を混合してもよい。
【0059】
上記樹脂と上記溶媒との混合比(樹脂:溶媒)は、例えば、質量比で、20:80~100:0とすることができる。また、上記樹脂と上記分散剤との混合比(樹脂:分散剤)は、例えば、質量比で、80:20~100:0とすることができる。
【0060】
なお、上記黒鉛としては、後述する加熱工程においてより一層容易にグラファイトを剥離することが可能であるため膨張黒鉛を使用することが好ましい。また、上記一次薄片化黒鉛とは、各種方法により黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を広く含むものとする。一次薄片化黒鉛は、部分剥離型薄片化黒鉛であってもよい。一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られるものであるため、その比表面積は、黒鉛よりも大きいものであればよい。
【0061】
上記樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリシジルメタクリレート、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、スチレンポリマー(ポリスチレン)、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーなどが挙げられる。なお、ここで用いられる樹脂は、炭素材料を製造するために用いられる樹脂であり、結着剤として用いられるバインダーとは区別されるものとする。ここで用いられる樹脂は、後述の加熱によりその多くが炭化される。
【0062】
次に、得られた第1の混合物の乾燥物に、さらに炭素材料とは異なる粒子を添加し混合する。それによって、第1の混合物を構成する炭素材料のマトリックス内に炭素材料とは異なる粒子を配置して、第2の混合物を形成する。また、第2の混合物を構成する炭素材料により炭素材料とは異なる粒子を被覆して第2の混合物を形成してもよい。なお、混合方法としては、特に限定されず、例えば、超音波による混合、ミキサーによる混合、攪拌子による混合、密閉可能な容器内に第1の混合物の乾燥物と粒子を入れ、容器を振とうするなどの方法等を挙げることができる。
【0063】
黒鉛又は一次薄片化黒鉛と、炭素材料とは異なる粒子との混合比(黒鉛又は一次薄片化黒鉛/炭素材料とは異なる粒子)は、質量比で、好ましくは0/100以上、より好ましくは1/99以上、好ましくは50/50以下、より好ましくは30/70以下である。
【0064】
上記炭素材料とは異なる粒子は賦活剤であってもよい。上記炭素材料とは異なる粒子としては、特に限定されないが、例えば、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、炭酸カリウム、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0065】
上記炭素材料とは異なる粒子の粒子径は、0.1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。上記炭素材料とは異なる粒子の粒子径は、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは10μm以上、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。上記炭素材料とは異なる粒子の粒子径を上記範囲内とすることにより、得られる炭素材料が自立膜をより一層容易に形成することができる。なお、粒子径は、乾式レーザー回折法により、体積基準分布で算出した平均粒子径をいう。平均粒子径は、例えば、マイクロトラックベル社製、MT3000IIを用いて測定することができる。
【0066】
次に、上記第2の混合物を加熱する(加熱工程)。上記加熱工程における加熱の温度としては、例えば、200℃~1000℃とすることができる。上記加熱は、大気中で行ってもよく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。この加熱工程により、樹脂の少なくとも一部を炭化させることが望ましい。樹脂は、完全に炭化させてもよい。また、この加熱工程において、黒鉛又は一次薄片化黒鉛のグラファイトの一部が部分的に剥離され、上述した部分剥離型薄片化黒鉛を得てもよい。なお、この加熱工程の後に、さらに薬品賦活法やガス賦活法により賦活処理を行ってもよい。
【0067】
次に、加熱後の第2の混合物から上記粒子を除去する。この際、第2の混合物のマトリックス内に配置された粒子が除去された部分が上記複数の凹部及び複数の凸部となる。なお、粒子の除去方法としては、特に限定されず、例えば、水などの溶媒により洗浄し乾燥させる方法が挙げられる。
【0068】
このような製造方法により得られた炭素材料は、上記複数の凹部及び複数の凸部を備える。また、上述した振とう後に篩の上に残る炭素材料の重量を、篩に投入した炭素材料の重量100重量%に対し、90重量%以上とすることができる。従って、バインダーの添加量を少なくした場合においても、容易に電極膜を形成することができる。
【0069】
なお、上述した振とう後に篩の上に残る炭素材料の重量は、例えば、混合する樹脂の量と、炭素材料とは異なる粒子の量を体積比で同量に近づけたり、炭素材料とは異なる粒子の粒子径を小さくしたり、第2の混合物から炭素材料とは異なる粒子を除去する際に炭素材料とは異なる粒子が残らないようによく洗浄したり、あるいは洗浄後の粉砕時間を長くしたりすること等により高めることができる。
【0070】
なお、第1の方法では、もとの黒鉛又は一次薄片化黒鉛、あるいは部分剥離型薄片化黒鉛等のグラフェン積層構造を有する炭素材料と、樹脂及び/又は樹脂の炭化物との複合材料である炭素材料を得ることができる。
【0071】
第2の方法;
第2の方法では、まず、マトリックスとなる樹脂に炭素材料とは異なる粒子を添加し混合する。それによって、樹脂のマトリックス中に炭素材料とは異なる粒子を配置して、混合物を形成する。また、樹脂により炭素材料とは異なる粒子を被覆して混合物を形成してもよい。なお、混合方法としては、特に限定されず、例えば、超音波による混合、ミキサーによる混合、攪拌子による混合、密閉可能な容器内に樹脂と粒子とを入れ、容器を振とうするなどの方法を挙げることができる。
【0072】
上記樹脂と、上記炭素材料とは異なる粒子との混合比(樹脂/炭素材料とは異なる粒子)は、質量比で、好ましくは1/100以上、より好ましくは10/90以上、好ましくは1000/1以下、より好ましくは500/1以下である。
【0073】
上記樹脂としては、液状の樹脂を用いることが好ましい。上記樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリシジルメタクリレート、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、スチレンポリマー(ポリスチレン)、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーなどが挙げられる。なお、ここで用いられる樹脂は、炭素材料を製造するために用いられる樹脂であり、結着剤として用いられるバインダーとは区別されるものとする。ここで用いられる樹脂は、後述の加熱によりその多くが炭化される。
【0074】
上記炭素材料とは異なる粒子は賦活剤であってもよい。上記炭素材料とは異なる粒子としては、特に限定されないが、例えば、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫化カリウム、炭酸カリウム、リン酸、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0075】
上記炭素材料とは異なる粒子の粒子径は、0.1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。上記炭素材料とは異なる粒子の粒子径は、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは10μm以上、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。上記炭素材料とは異なる粒子の粒子径を上記範囲内とすることにより、得られる炭素材料が自立膜をより一層容易に形成することができる。なお、平均粒子径は、乾式レーザー回折法により、体積基準分布で算出した平均粒子径をいう。平均粒子径は、例えば、マイクロトラックベル社製、MT3000IIを用いて測定することができる。
【0076】
次に、上記混合物を加熱する(加熱工程)。上記加熱工程における加熱の温度としては、例えば、200℃~1000℃とすることができる。上記加熱は、大気中で行ってもよく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。この加熱工程により、樹脂の少なくとも一部を炭化させることが望ましい。なお、この加熱工程の後に、さらに薬品賦活法やガス賦活法により賦活処理を行ってもよい。
【0077】
次に、加熱後の混合物から粒子を除去する。この際、マトリックス内に配置された粒子の除去された部分が上記複数の凹部及び複数の凸部となる。なお、粒子の除去方法としては、特に限定されず、例えば、水などの溶媒により洗浄し乾燥する方法が挙げられる。
【0078】
第2の方法により得られた炭素材料も、上記複数の凹部及び複数の凸部を備える。また、上述した振とう後に篩の上に残る炭素材料の重量を、篩に投入した炭素材料の重量100重量%に対し、90重量%以上とすることができる。従って、バインダーの添加量を少なくした場合においても、容易に電極膜を形成することができる。
【0079】
なお、上述した振とう後に篩の上に残る炭素材料の重量は、混合する樹脂の量と、炭素材料とは異なる粒子の量を体積比で同量に近づけたり、炭素材料とは異なる粒子の粒子径を小さくしたり、第2の混合物から炭素材料とは異なる粒子を除去する際に炭素材料とは異なる粒子が残らないようによく洗浄したり、あるいは洗浄後の粉砕時間を長くしたりすることにより高めることができる。
【0080】
よって、出発物質としては、第1の方法のように黒鉛又は一次薄片化黒鉛と樹脂との混合物を用いてもよいし、第2の方法のように黒鉛又は一次薄片化黒鉛を用いずに、樹脂のみを用いてもよい。
【0081】
なお、第2の方法では、樹脂の炭化物のみからなる炭素材料を得ることができる。もっとも、さらに炭化していない樹脂を含んでいてもよい。
【0082】
本発明の炭素材料は、バインダーの添加量を少なくしても、容易に電極膜を形成することができ、蓄電デバイスの容量などの電池特性を高めることができる。よって、本発明の炭素材料は、蓄電デバイス用電極材料として好適に用いることができる。
【0083】
(蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイス)
本発明の蓄電デバイスとしては、特に限定されないが、非水電解質一次電池、水系電解質一次電池、非水電解質二次電池、水系電解質二次電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタなどが例示される。本発明の蓄電デバイス用電極材料は、上記のような蓄電デバイスの電極に用いられる電極材料である。
【0084】
本発明の蓄電デバイスは、上記本発明の炭素材料を含む蓄電デバイス用電極材料により構成される電極を備えているので、蓄電デバイスの容量などの電池特性を高めることができる。
【0085】
特に、蓄電デバイス用電極材料に含まれる炭素材料は、キャパシタやリチウムイオン二次電池の容量を効果的に高めることができる。なお、キャパシタとしては、例えば、電気二重層キャパシタが挙げられる。
【0086】
なお、上記蓄電デバイス用電極材料は、本発明の炭素材料に必要に応じてバインダーや溶媒を含めて賦形することにより、蓄電デバイスの電極として用いることができる。もっとも、バインダーの添加量を少なくしてもよく、バインダーを含んでいなくてもよい。バインダーの添加量は、上記蓄電デバイス用電極材料100重量%に対し、5重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下である。
【0087】
上記蓄電デバイス用電極材料の賦形は、例えば、圧延ローラーでシート化した後、乾燥することにより行うことができる。また、本発明の炭素材料と溶媒と必要に応じてバインダーとからなる塗液を集電体に塗工し、その後乾燥することにより行ってもよい。
【0088】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーや、水溶性のカルボキシメチルセルロースなどの樹脂を用いることができる。好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンを用いた場合、分散性や耐熱性をより一層向上させることができる。
【0089】
なお、上記溶媒としては、エタノール、N-メチルピロリドン(NMP)又は水等を使用することができる。
【0090】
また、蓄電デバイスをキャパシタに用いる場合、キャパシタの電解液としては、水系を用いてもよいし、非水系(有機系)を用いてもよい。
【0091】
水系の電解液としては、例えば、溶媒に水を用い、電解質に硫酸や水酸化カリウムなどを用いた電解液が挙げられる。
【0092】
他方、非水系の電解液としては、例えば、以下の溶媒や電解質、イオン性液体を用いた電解液を用いることができる。具体的に、溶媒としては、アセトニトリル、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、又はアクリロニトリル(AN)などが挙げられる。
【0093】
また、電解質としては、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、4フッ化ホウ酸テトラエチルアンモニウム(TEABF4)又は4フッ化ホウ酸トリエチルメチルアンモニウム(TEMABF4)などが挙げられる。
【0094】
さらに、イオン性液体としては、例えば、以下のカチオンとアニオンを有するイオン性液体を用いることができる。カチオンとしては、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどが挙げられる。アニオンとしては、4フッ化ホウ素イオン(BF4
-)、6フッ化ホウ素イオン(BF6
-)、4塩化アルミニウムイオン(AlCl4
-)、6フッ化タンタルイオン(TaF6
-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンイオン(C(CF3SO2)3
-)などが挙げられる。イオン性液体を用いた場合には、蓄電デバイスにおいて、駆動電圧をより一層向上させ得る。つまりエネルギー密度をより一層向上させることができる。
【0095】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
ポリエチレングリコール(PEG、分子量600、三洋化成工業社製)1gに、賦活剤として炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製、平均粒子径:600μm)を2g添加し、ミルを用いて均一に混合した。さらに、得られた混合物を窒素雰囲気下において370℃(炭化温度)の温度で1時間維持した後に800℃まで昇温させ、温度(賦活温度)800℃で1時間保持することにより、賦活処理を施した。最後に、熱水で中性に洗浄することにより、炭素材料を得た。
【0097】
(実施例2)
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」、BET比表面積=22m2/g)1gと、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC、分子量25万、アルドリッチ社製)の1%濃度水溶液3gと、溶媒としての水30gとを混合し、黒鉛分散液を用意した。用意した黒鉛分散液に、超音波処理装置(本多電子社製)を用い、100W、発振周波数:28kHzで6時間、超音波を照射した。その後、ポリエチレングリコール(PEG、分子量600、三洋化成工業社製)234gと、ミキサーにて8000rpmで30分間混合した後、150℃の乾燥器内で乾燥させ、水を取り除き、ポリエチレングリコールが膨張黒鉛に吸着されている組成物を用意した。
【0098】
次に、乾燥させた組成物に賦活剤として炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製、平均粒子径:600μm)を470g添加し、ミルを用いて均一に混合した。さらに、得られた混合物を窒素雰囲気下において370℃の温度で1時間維持した後に850℃まで昇温させ、温度(炭化・賦活温度)850℃で1時間保持することにより、賦活処理を施した。最後に、熱水で中性に洗浄することにより、炭素材料を得た。使用したポリエチレングリコールはこの加温処理により樹脂炭化物へと変性しており、得られた炭素材料は薄片化黒鉛と樹脂炭化物の複合体である。
【0099】
得られた炭素材料中における樹脂炭化物の含有量の確認は、示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、商品名「STA7300」)を用いて以下の要領で行った。
【0100】
炭素材料約2mgを、白金パン中において秤量した。そのサンプルを窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で、30℃から1000℃までの測定を実施した。測定により得られた示差熱分析結果から、樹脂(ポリエチレングリコール)炭化物と部分剥離型薄片化黒鉛の燃焼温度を分離し、それに伴う熱重量変化から、炭素材料全体に対する樹脂炭化物量(重量%)を算出した。実施例2において、樹脂炭化物量は、90重量%であった。
【0101】
(実施例3)
賦活温度を950℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にして炭素材料を得た。
【0102】
(実施例4)
炭酸カリウムの添加量を94gに変更したこと以外は、実施例2と同様にして炭素材料を得た。
【0103】
(実施例5)
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」、BET比表面積=22m2/g)1gと、ポリエチレングリコール(PEG、分子量400、三洋化成工業社製)468gと、炭素材料とは異なる粒子としての塩化亜鉛(ナカライテスク社製、平均粒子径:100μm)23gとを、ミキサーにて8000rpmで30分間混合した後、150℃の乾燥器内で乾燥させ、水を取り除き、膨張黒鉛とポリエチレングリコールの混合物が塩化亜鉛に吸着されている組成物を用意した。
次に、得られた組成物を、420℃の温度で、1時間加熱処理した。しかる後、熱水洗浄により塩化亜鉛を除去することにより、炭素材料を得た。
【0104】
(比較例1)
炭素材料として、膨張黒鉛粉末(東洋炭素社製、商品名「PERMA-FOIL PF8」)をそのまま用いた。
【0105】
(比較例2)
炭素材料として、カーボンナノチューブ(CNT、昭和電工社製、商品名「VGCF-H」)をそのまま用いた。
【0106】
(比較例3)
炭素材料として、活性炭(クラレ社製、商品名「クラレコールYP50F」)をそのまま用いた。
【0107】
(比較例4)
炭素材料として、ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「ケッチェンブラックEC600JD」)をそのまま用いた。
【0108】
[評価]
実施例1~5及び比較例1~4の炭素材料について、以下の評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0109】
(炭素材料の外観の確認)
図1は、実施例2で得られた炭素材料を示す倍率5000倍の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。なお、SEM写真は、日立ハイテクノロジーズ社製、品番「SU8220」を用いて観察した。
図1から明らかなように、実施例2で得られた炭素材料は、複数の凹部及び複数の凸部を有していることがわかる。なお、同様に、実施例1,3,4,5についても、複数の凹部及び複数の凸部を有していることを確認した。
【0110】
図2は、比較例3の炭素材料を示す倍率5000倍の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2から明らかなように、比較例3の炭素材料では、実施例2のような複数の凹部及び複数の凸部は観察されなかった。
【0111】
(BET比表面積)
炭素材料のBET比表面積は、比表面積測定装置(島津製作所社製、品番「ASAP-2000」、窒素ガス)を用いて測定し、以下の評価基準でBET比表面積を評価した。
【0112】
[評価基準]
○…BET比表面積が、100m2/g以上
×…BET比表面積が、100m2/g未満
【0113】
(自立膜形成の有無の確認)
以下のようにして、自立膜の形成の有無を確認した。
【0114】
炭素材料0.2gを直径2cmの円筒形シリンジに充填した状態で、徐々に加圧し、16kNの圧力で10秒間圧縮した。続いて、圧縮された上記炭素材料の全量をシリンジから取り出し、JIS・Z8801-1に準拠した目開き4.75mmのステンレス製篩(内径:150mm、深さ:45mm)に入れた。次に、篩を振とう機(ASONE社製、品番「SHAKER SSR-2」)を用い、RECIPROCATORモードにて1分間60rpmのスピードで振とうした後、篩の上に残った炭素材料の重量を測定し、以下の評価基準で膜形成の有無を評価した。
【0115】
[評価基準]
○…篩の上に残った炭素材料の重量が、篩に投入した炭素材料の重量100重量%に対し、90重量%以上
×…篩の上に残った炭素材料の重量が、篩に投入した炭素材料の重量100重量%に対し、90重量%未満
【0116】
なお、
図3は、実施例2の加圧後の炭素材料を示す写真である。また、
図4は、比較例3の加圧後の炭素材料を示す写真である。
図3から明らかなように、実施例2の炭素材料では、自立膜が形成されていることがわかる。一方、
図4から明らかなように、比較例3の炭素材料では、自立膜を形成できなかった。
【0117】
また、実施例1~5及び比較例1で得られた加圧後の炭素材料については、目視にて直径2cmの円形膜の形成状態を確認した。一方、比較例2~4で得られた加圧後の炭素材料については、目視においても自立膜が形成できていなかった。結果を下記の表1に示す。
【0118】
【0119】
表1から明らかなように、実施例1~5の炭素材料は、自立膜を形成することができ、しかもBET比表面積が大きく、蓄電デバイスの容量を高め得ることが確認できた。一方、比較例1,2では、BET比表面積が小さく、蓄電デバイスの容量を高め得ないことがわかる。また、比較例3,4では、自立膜が形成できないことから、バインダーの添加量を多くしないと、電極膜を形成し得ないことがわかる。