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特許7425609ポリウレタン又はポリウレタンウレア、抗血栓性コーティング剤、抗血栓性医療用具、及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ポリウレタン又はポリウレタンウレア、抗血栓性コーティング剤、抗血栓性医療用具、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/83 20060101AFI20240124BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240124BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C08G18/83 060
C09D175/04
A61L33/06 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020005904
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021113260
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓真
(72)【発明者】
【氏名】西浦 聖人
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526732(JP,A)
【文献】国際公開第1998/046659(WO,A1)
【文献】特開2009-113315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/83
C09D 175/04
A61L 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構造を含むグラフト鎖を有する、ポリウレタン又はポリウレタンウレアであって、
ポリマー1.0gに対して、前記一般式(1)で表される構造に由来するリンを、3.2mmol以上10.0mmol以下含む、ポリウレタン又はポリウレタンウレア。
(式中、R及びRは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタンウレアであって、
前記R及び前記Rは、炭素数1~20のアルキル基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい、ポリウレタン又はポリウレタンウレア。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載のポリウレタン又はポリウレタンウレアを含む、抗血栓性コーティング剤。
【請求項4】
請求項1又は請求項に記載のポリウレタン又はポリウレタンウレアを備える、抗血栓性医療用具。
【請求項5】
請求項1又は請求項に記載のポリウレタン又はポリウレタンウレアの製造方法であって、
前記一般式(1)で表される構造及びラジカルに反応する官能基を有する化合物を、ポリウレタンまたはポリウレタンウレアに接触させた状態で、前記ポリウレタンまたは前記ポリウレタンウレアの表面に電離放射線を照射してラジカルを生成することにより、グラフト鎖を形成する工程を含む、ポリウレタン又はポリウレタンウレアの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項に記載のポリウレタン又はポリウレタンウレアの製造方法であって、
電離放射線をポリウレタンまたはポリウレタンウレアの表面に照射してラジカルを生成する工程と、
前記一般式(1)で表される構造及びラジカルに反応する官能基を有する化合物を、前記表面に接触させることにより、グラフト鎖を形成する工程と、を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン又はポリウレタンウレア、抗血栓性コーティング剤、抗血栓性医療用具、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工腎臓や人工肺、注射器、血液バッグ等の医療用器具に用いる材料として、ポリウレタンやポリウレタンウレアを用いることが知られている(例えば、特許文献1)。これらの医療用器具に用いる材料は、血液と接触した場合に血液が凝固しないことが望ましい。換言すると、これらの医療用器具に用いる材料は、抗血栓性に優れることが好ましい。
【0003】
特許文献1には、抗血栓性を向上させるために、医療用器具に用いる材料として、ホスホリルコリン構造を側鎖に有するポリウレタン又はポリウレタンウレアについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第1998/046659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポリウレタン又はポリウレタンウレアは、十分な抗血栓性を有しておらず、改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
(1)本発明の一形態によれば、ポリウレタン又はポリウレタンウレアが提供される。このポリウレタン又はポリウレタンウレアは、
一般式(1)で表される構造を含むグラフト鎖を有する、ポリウレタン又はポリウレタンウレアであって、
ポリマー1.0gに対して、前記一般式(1)で表される構造に由来するリンを、3.2mmol以上10.0mmol以下含む、ポリウレタン又はポリウレタンウレアである。
(式中、R及びRは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
その他、本発明は、以下の形態として実現することができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、ポリウレタン又はポリウレタンウレアが提供される。このポリウレタン又はポリウレタンウレアは、一般式(1)で表される構造を含むグラフト鎖を有することを特徴とする。
【0008】
【化1】
(式中、R及びRは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0009】
この形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアによれば、優れた抗血栓性を発揮することができる。
【0010】
(2)上記形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアにおいて、ポリマー1.0gに対して、前記一般式(1)で表される構造に由来するリンを、2.0mmol以上10.0mmol以下含んでもよい。
【0011】
この形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアによれば、優れた抗血栓性を発揮するとともに、優れた機械的強度を発揮することができる。
【0012】
(3)上記形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアにおいて、前記R及び前記Rは、炭素数1~20のアルキル基であってもよく、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0013】
この形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアによれば、より優れた抗血栓性を発揮することができる。
【0014】
(4)本発明の他の形態によれば、上記形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアを含む抗血栓性コーティング剤が提供される。
【0015】
この形態の抗血栓性コーティング剤によれば、優れた抗血栓性を発揮することができる。
【0016】
(5)本発明の他の形態によれば、上記形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアを備える抗血栓性医療用具が提供される。
【0017】
この形態の抗血栓性医療用具によれば、優れた抗血栓性を発揮することができる。
【0018】
(6)本発明の他の形態によれば、上記形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアの製造方法が提供される。この製造方法は、前記一般式(1)で表される構造及びラジカルに反応する官能基を有する化合物を、ポリウレタンまたはポリウレタンウレアに接触させた状態で、前記ポリウレタンまたは前記ポリウレタンウレアの表面に電離放射線を照射してラジカルを生成することにより、グラフト鎖を形成する工程を含む。
【0019】
この形態の製造方法によれば、優れた抗血栓性を発揮するポリウレタン又はポリウレタンウレアを製造することができる。
【0020】
(6)本発明の他の形態によれば、上記形態のポリウレタン又はポリウレタンウレアの製造方法が提供される。この製造方法は、電離放射線をポリウレタンまたはポリウレタンウレアの表面に照射してラジカルを生成する工程と、前記一般式(1)で表される構造及びラジカルに反応する官能基を有する化合物を、前記表面に接触させることにより、グラフト鎖を形成する工程と、を含む。
【0021】
この形態の製造方法によれば、優れた抗血栓性を発揮するポリウレタン又はポリウレタンウレアを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<ポリウレタン又はポリウレタンウレア>
本発明の実施形態であるポリウレタン又はポリウレタンウレアは、以下の一般式(1)で表される構造を含むグラフト鎖を有する。以下、ポリウレタンとポリウレアとを総称して、「ポリウレタン類」とも呼ぶ。また、「一般式(1)で表される構造」を、「コリンハイドロゲンホスフェート構造」とも呼ぶ。
【0023】
【化2】
【0024】
一般式(1)の式中、R及びRは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
本実施形態のポリウレタン類は、優れた抗血栓性を有する。本明細書において、「抗血栓性」とは、血液と接触した場合に血液が凝固しにくい性質を示す。本実施形態のポリウレタン類が抗血栓性に優れるメカニズムは定かでないが、以下のような推定メカニズムが考えられる。つまり、コリンハイドロゲンホスフェート構造は、生体膜を形成するホスファチジルコリンと類似する構造であり、かつ、ホスホリルコリン基と異なり、末端にリン酸基由来のヒドロキシ基を有するという特徴がある。そして、末端にリン酸基由来のヒドロキシ基を有することにより、生体中の水との相互作用が高まる結果として、本実施形態のポリウレタン類は、優れた抗血栓性を発揮できると考えられる。
【0026】
また、本実施形態のポリウレタン類は、コリンハイドロゲンホスフェート構造を含むグラフト鎖を有する。つまり、コリンハイドロゲンホスフェート構造を樹脂組成の側鎖に有する。一般に、高分子の主鎖は絡まっているため、性能を発揮する官能基が主鎖に存在する場合には、その官能基の性能を十分に発揮しにくい。これに対して、性能を発揮する官能基が側鎖に存在する場合には、この官能基の性能が主鎖に抑制されないために十分に発揮されると考えられる。つまり、本実施形態のポリウレタン類は、コリンハイドロゲンホスフェート構造を含むグラフト鎖を有することにより、リン酸基由来のヒドロキシ基が有する生体親和性を十分に発揮できるため、優れた抗血栓性を発揮できると考えられる。
【0027】
抗血栓性を向上させる観点から、R及びRは、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、炭素数1~20のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~10のアルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより一層好ましい。
【0028】
また、本実施形態のポリウレタン類1.0gに対して、コリンハイドロゲンホスフェート構造に由来するリン含有量が、0.03mmol以上20.0mmol以下であることが好ましく、0.1mmol以上10.0mmol以下であることがより好ましく、2.0mmol以上10.0mmol以下であることがさらに好ましい。好ましい範囲とすることにより、優れた抗血栓性を発揮するとともに、優れた機械的強度を発揮することができる。
【0029】
<ポリオール>
本実施形態のポリウレタン類に用いられるポリオールは、特に限定されないが、例えば、公知のものを使用することができる。ポリオールとしては、例えば、水酸基含有共役ジエン重合体およびその水素添加物、ヒマシ油、ヒマシ油ポリオールおよびその水素添加物、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール等が拳げられる。本明細書において、「ヒマシ油ポリオール」とは、ヒマシ油を変性させたものであって、末端が水酸基のポリオールを示す。
【0030】
水酸基含有共役ジエン重合体およびその水素添加物としては、特に限定されないが、例えば、ポリブタジエンポリオールやポリイソプレンポリオールなどの水酸基含有共役ジエン重合体やこれらに水素を付加した水素添加物等が挙げられる。
【0031】
ヒマシ油ポリオールおよびその水素添加物としては、特に限定されないが、例えば、ヒマシ油またはヒマシ油脂肪酸を原料として用いたヒマシ油変性ポリオール、および、これらの水素添加物等が挙げられる。このようなヒマシ油変性ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、ヒマシ油とヒマシ油以外の油脂とのエステル交換反応物、ヒマシ油と油脂脂肪酸とのエステル交換反応物、ヒマシ油と多価アルコールとのエステル交換反応物、ヒマシ油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物、ヒマシ油に含まれる水酸基の一部と酢酸などのモノカルボン酸とのエステル化反応物、これらにアルキレンオキサイドを付加重合した反応物、および、これらに水素を付加した水素添加物等が挙げられる。
【0032】
ポリエーテルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加重合したものが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸とのエステル化反応物が挙げられる。ポリカプロラクトンポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、カプロラクトンを開環重合したものが挙げられる。ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、多価アルコールと、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートおよびホスゲン等の炭酸誘導体との反応生成物が挙げられる。
【0033】
上記ポリオールのうちグラフト重合後のウレタン類の耐水性を向上させる観点から、ポリオールは疎水性の高い構造を有するものが好ましい。具体的には、多価アルコールに炭素数3以上のアルキレンオキサイドを付加重合させたポリエーテルポリオール、水酸基含有共役ジエン重合体およびその水素添加物、炭素数4以上の多価アルコールと炭素数5以上の多価カルボン酸とのエステル化反応物であるポリエステルポリオール、およびポリテトラメチレングリコールが好ましく、ポリブタジエンポリオール、および炭素数4以上の多価アルコールと炭素数5以上の多価カルボン酸とのエステル化反応物であるポリエステルポリオールがより好ましい。尚、ポリオールは、単独で又は2種以上を併用して用いることもできる。
【0034】
また、ポリオールの水酸基価は、特に限定されないが、10mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以上150mgKOH/g以下がより好ましく、30mgKOH/g以上120mgKOH/g以下がさらに好ましい。本明細書において、水酸基価とは、試料1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム(mg)数であり、JIS K 0070-1992に準じて測定されるものである。
【0035】
また、ポリオールの平均分子量は、特に限定されないが、500以上5000以下が好ましく、800以上4000以下がより好ましい。
【0036】
<ポリイソシアネート>
本実施形態のポリウレタン類に用いられるポリイソシアネートは、特に限定されないが、例えば、公知のものを使用することができる。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0037】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、「HDI」とも呼ぶ)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0038】
脂環族ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0039】
芳香族ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」とも呼ぶ)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0040】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、キシリレンジイソシアネート(以下、「XDI」とも呼ぶ)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0041】
また、ポリイソシアネートとして、上述の有機ポリイソシアネートの変性体を用いてもよい。有機ポリイソシアネートの変性体としては、特に限定されないが、例えば、カルボジイミド体、アロハネート体、ビューレット体、イソシアヌレート体、アダクト体等を挙げることができる。尚、ポリイソシアネートは、単独で又は2種以上を併用して用いることもできる。
【0042】
ウレタン類のフィルムの機械的特性を向上させる観点から、ポリイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を用いることが好ましく、電離放射線を照射した際に、安定なラジカルを生成する観点から、ヘキサメチレンジイソシアネートを用いることがより好ましい。
【0043】
また、ポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO基)と、ポリオールの水酸基(OH基)並びに鎖伸長剤及び架橋剤の水酸基(OH基)との当量比(NCO基/OH基、以下、「NCOindex」とも呼ぶ)は、特に限定されないが、0.5以上3.0以下が好ましく、0.8以上1.5以下がより好ましい。
【0044】
また、ポリイソシアネートの遊離イソシアネート基含有量は、特に限定されないが、例えば、20質量%以上70質量%以下が好ましく、25質量%以上65質量%以下がより好ましく、30質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。好ましい範囲内とすることにより、成型加工性に優れる。
【0045】
また、ポリイソシアネートの平均分子量は、特に限定されないが、100以上400以下が好ましく、150以上300以下がより好ましい。
【0046】
<ポリアミン>
ウレタン類には、ポリウレタンウレアが含まれる。本明細書において、「ポリウレタンウレア」とは、ポリイソシアネートとポリアミンとの化学反応で生成されるウレア結合を有するポリウレタンを示す。ポリウレタンウレアに用いるポリアミンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ピペラジン、ジフェニルメタンジアミン、エチルトリレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエーテルアミン等を挙げることができる。また、ポリウレタンウレアに用いるポリアミンとしては、例えば、ジエチルトルエンジアミン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0047】
<その他>
本実施形態のポリウレタン類は、本発明の効果を阻害しない範囲で他の材料を加えてもよい。他の材料としては、特に限定されないが、例えば、鎖伸長剤、架橋剤、触媒等が挙げられる。
【0048】
鎖伸長剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等を挙げることができる。架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、アミノプラスト化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、グリセリン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0049】
触媒としては、特に限定されないが、例えば、金属触媒やアミン系触媒等を挙げることができる。金属触媒としては、特に限定されないが、例えば、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジオクテート等の錫触媒、オクチル酸鉛、オクテン酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛触媒、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマスなどのビスマス触媒等を挙げることができる。アミン系触媒としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレンジアミン等の3級アミン化合物等が挙げられる。
【0050】
<製造方法>
ポリウレタン類の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により製造することができる。その際、ポリウレタン類の原材料を全て同時に反応させてもよく、例えば、一部の原材料を反応させた後、得られた生成物に残りの原材料を反応させてもよい。また、ポリウレタン類にグラフト鎖を設ける方法は、特に限定されず、公知の方法により製造することができる。ポリウレタン類にグラフト鎖を設ける方法としては、例えば、ポリウレタン類を、グラフトモノマー含む溶液に所定時間浸漬させる方法が挙げられる。
【0051】
ポリウレタン類の製造方法としては、例えば、コリンハイドロゲンホスフェート構造及びラジカルに反応する官能基を有する化合物を、ポリウレタン類に接触させた状態で、ポリウレタン類の表面に電離放射線を照射してラジカルを生成することにより、グラフト鎖を形成する工程を含む製造方法が挙げられる。電離放射線としては、特に限定されないが、例えば、電子線が挙げられる。
【0052】
また、他のポリウレタン類の製造方法としては、例えば、電離放射線をポリウレタン類の表面に照射してラジカルを生成する工程と、コリンハイドロゲンホスフェート構造及びラジカルに反応する官能基を有する化合物を、この表面に接触させることにより、グラフト鎖を形成する工程と製造方法が挙げられる。
【0053】
ポリウレタン類の分子量は、特に限定されず、例えば、重量平均分子量が5000~500000であることが好ましく、10000~300000であることがより好ましい。ここで、重量平均分子量の測定は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするGPC装置により行い、ポリスチレン換算値として求められる。具体的な測定条件は、下記のとおりである。
カラム:東ソー社製のポリスチレンゲルカラム(TSK gel G4000HXL+TSK gel G3000HXL+TSK gel G2000HXL+TSK gel G1000HXL2本をこの順で直列に接続)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器(島津製作所社製のRID-6A)
流速:1ml/分。
【0054】
<抗血栓性材料>
本実施形態のポリウレタン類は、優れた生体適合性を有し、長期間に亘って抗血栓性能を安定して発揮することができ、特に、血液適合性が要求される各種の医療用器具、機器類等の医療用具の素材、又はこれらの医療用具に対する抗血栓性コーティング剤等として有効に用いることができる。本実施形態のポリウレタン類をこの様な目的で用いることによって、血液適合性を有し、優れた抗血栓性能を安定して発揮できる医療用器具、機器類等を得ることができる。
【0055】
本実施形態のポリウレタン類を備える医療用器具、機器類等の医療用具は、特に限定されないが、例えば、血液透析膜、血漿分離膜、血液中老廃物の吸着材、人工肺用の膜素材(血液と酸素の隔壁)や人工心肺におけるシート肺のシート材料、大動脈バルーン、血液バッグ、カテーテル、カニューレ、シャント、血液回路やステント等を挙げることができる。
【0056】
本実施形態のポリウレタン類を含む抗血栓性コーティング剤として用いる場合には、例えば、ポリウレタン類を有機溶剤に溶解した後、塗布法、スプレー法、ディップ法等の適当な方法で、処理対象物に塗布する方法が挙げられる。有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、モノメチルホルムアミド(NMF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、THF-メタノール混合溶液、THF-エタノール混合溶液、THF-プロパノール混合溶液等が挙げられる。抗血栓性コーティング剤には、本実施形態のポリウレタン類の他に、必要に応じて、血液適合性が要求される各種の医療用具の材料として従来から使用されているポリマー材料を配合しても良い。ポリマー材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
【0057】
抗血栓性コーティング剤中のポリウレタン類の濃度については、特に限定されるものではなく、使用するポリウレタン類の種類に応じて、有機溶媒中に可溶な範囲で適宜決めることができる。本実施形態のポリウレタン類を、他のポリマーと混合して用いる場合には、本実施形態のポリウレタン類の含有割合は、本実施形態のポリウレタン類と他のポリマーとの合計量を100質量%とした場合に、1~99質量%とすることが好ましく、5~80質量%とすることがより好ましい。
【0058】
抗血栓性コーティング剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、本実施形態のポリウレタン類によるコーティング層が形成される。有機溶媒を除去する方法については、特に限定はないが、例えば、好ましい方法として、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で20~100℃程度で0.1~180分間程度加熱乾燥した後、20~100℃程度で0.1~36時間程度減圧乾燥する方法を挙げることができる。
【0059】
形成されるコーティング層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常、0.1~100μm程度、好ましくは0.5~70μm程度とすることができる。コーティング層の厚さは、コーティング組成物中のポリマー濃度やコーティングの回数によって容易に調整できる。
【0060】
コーティング層を形成する医療用具の材質については、特に限定はされないが、一般に、上記した医療用具の材料として従来から使用されているポリマー材料が用いられる。
【0061】
本実施形態のポリウレタン類を医療用具の素材として用いる場合には、本実施形態のポリウレタン類を単独で用いてもよく、或いは、要求される物性等に応じて、上述した血液適合性が要求される医療用具の材料として使用されているポリマー材料と混合して用いてもよい。混合して用いる場合には、本実施形態のポリウレタン類の含有割合は、通常、本実施形態のポリウレタン類と他のポリマーとの合計量を100質量%とした場合に、1~60質量%としてもよく、5~50質量%としてもよい。本実施形態のポリウレタン類を素材として医療用具を得るには、それぞれの目的物に応じて、従来から行われている公知の方法で製造することができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、「部」又は「%」とあるのは、特に指定しない限り質量基準とする。
【0063】
<使用試薬>
(1)ポリイソシアネート
・デュラネート(登録商標)50MS(旭化成社製)(HDI)
・ミリオネートMT(東ソー社製)(MDI)
・ベスタネート H12-MDI(Evonik社製)(水素添加MDI)
・タケネート(登録商標)500(三井化学社製)(XDI)
【0064】
(2)ポリオール
・NISSO-PB G-1000(日本曹達社製)
・NISSO-PB G-3000(日本曹達社製)
・NISSO-PB GI-1000(日本曹達社製)
・PTMG-1000(三菱ケミカル社製)
・クラレポリオールP-1010(クラレ社製)
・エクセノール1020(旭硝子社製)
【0065】
(3)鎖伸長剤・架橋剤
・1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル社製)
・グリセリン(阪本薬品工業社製)
・ジェファーミンD-230(ハンツマン社製)
【0066】
(4)触媒
・ネオスタンU-810(日東化成社製)
【0067】
<実施例1>
まず、撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコ内で、ポリイソシアネートとしてデュラネート50MSと、ポリオールとしてNISSO-PB G-1000とを所定量混合し、80℃にて2時間撹拌し一次反応物を得た。次いで、上記一次反応物と所定量の1,4-ブタンジオールおよびネオスタンU-810を混合した後、熱プレス機で加熱圧縮後、80℃で24時間養生することにより、ポリウレタンフィルム(膜厚100μm)を得た。後に、モノマーのグラフト量を算出するために、ポリウレタンフィルムの質量を測定しておいた。
【0068】
次に、ポリウレタンフィルムの一方の表面に、低エネルギー電子線を用いて、窒素雰囲気下で電子線を200kGy照射した(照射条件;加速電圧300kV)。また、グラフトモノマーとして下記構造式(2)で示されるコリンハイドロゲンホスフェート1の20質量%水溶液を作製した。
【0069】
【化3】
【0070】
この水溶液の作製には、メルク社製のMilli-Q IQ7015純水製造装置の純水を使用した。次いで、窒素混入下にて上記水溶液中の溶存酸素を除去した後に、ウレタンフィルムを大気暴露せずに当該溶液中に50℃で4時間浸漬した。浸漬後、純水およびエタノールで洗浄することにより、コリンハイドロゲンホスフェート構造を含むグラフト鎖を有するフィルムAを得た。
【0071】
[コリンハイドロゲンホスフェート1の合成]
窒素置換した4つ口フラスコに、2-(Dimethylamino)ethyl methacrylate(10mmol)、2-Bromoethanol(10mmol)、脱水CHCN(20ml)を加えた後、70℃で24時間還流することにより溶液を濃縮した後、酢酸エチルを加えて再沈殿を行うことによって、中間物質として2-Cholinium methacrylate bromideを得た。窒素置換し0℃に温度調節した4つ口フラスコに、2-Cholinium methacrylate bromide(10mmol)、脱水CHCN(30ml)を加え、塩化ホスホリル(30mmol)を滴下した。12時間後、脱イオン水(2.8mL)を加え、12時間撹拌した。溶液を濃縮した後、粗生成物を逆層シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて単離操作を行うことにより、コリンハイドロゲンホスフェート1を得た。
【0072】
得られたフィルムAの質量測定を行い、グラフト前のポリウレタンフィルムの質量と比較することにより、フィルムA(1.0g)に対するグラフト鎖の質量を求めた。この質量をコリンハイドロゲンホスフェート1の分子量(295)で除することにより、フィルムA(1.0g)に対するコリンハイドロゲンホスフェート構造に由来するリンの含有量(mol)を求めた。
【0073】
<フィルムAでの抗血栓性の評価>
フィルムAでの抗血栓性の評価は、以下の方法で行った。具体的には、フィルムAを直径約3cmの円形に切り抜き、直径10cmの時計皿の中央に貼り付けた。このフィルム上にウサギ(日本白色種)のクエン酸ナトリウム加血漿200μlを取り、0.025mol/lの塩化カルシウム水溶液200μlを加え、時計皿を37℃の恒温槽に浮かせながら液が混和するように穏やかに振盪した。塩化カルシウム水溶液を添加した時点から血漿が凝固する(血漿が動かなくなる時点)までの経過時間を測定した後、この経過時間を、同様の操作をガラス上で行った場合の血漿凝固に要した時間で割り、この値を凝固時間相対値として、抗血栓性を評価した。凝固時間相対値が大きいほど、抗血栓性に優れる。
【0074】
<フィルムBでの抗血栓性の評価>
さらに、フィルムAをPBS緩衝液に浸漬し、37℃の振盪恒温槽で2週間にわたって溶出を行うことにより、フィルムBを得た。PBS緩衝液は毎日交換した。そして、フィルムAと同様の方法でフィルムBでの抗血栓性について評価を行った。つまり、フィルムBでの抗血栓性の評価は、フィルムAでの抗血栓性の評価と比較して、より過酷な条件で行っている点で異なるが、それ以外は同じである。
【0075】
<実施例2>
ウレタンフィルムをコリンハイドロゲンホスフェート1の20%水溶液に50℃で4時間浸漬した実施例1に対して、実施例2では2時間浸漬した点が異なるが、それ以外は実施例1と同じ方法で実施例2を作製した。上記相違により、グラフト鎖の割合が異なることとなることにより、ポリマー1.0gに含まれる一般式(1)で表される構造に由来するリン含有量が変わることとなる。
【0076】
<実施例3>
ウレタンフィルムをコリンハイドロゲンホスフェート1の20%水溶液に50℃で4時間浸漬した実施例1に対して、実施例2では30分間浸漬した点が異なるが、それ以外は実施例1と同じ方法で実施例3を作製した。
【0077】
<実施例4ないし実施例13>
以下の表に示す所定の原料を用いて、実施例1と同様の操作によりポリウレタンフィルムを得た。
【0078】
<実施例14>
実施例1と同様の操作により、ポリウレタンフィルムを得た。次に、下記構造式(3)で示されるコリンハイドロゲンホスフェート2をグラフトモノマーに用いた以外は、実施例1と同様の操作により、ホスホリルコリン構造を含むグラフト鎖を有するポリウレタンフィルムを得た。
【0079】
【化4】
【0080】
<比較例1、2>
以下の表に示す所定の原料を用いて、実施例1と同様の操作により、ポリウレタンフィルムを得た。次に、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(日油社製)をグラフトモノマーに用いた以外は、実施例1と同様の操作により、ホスホリルコリン構造を含むグラフト鎖を有するポリウレタンフィルムを得た。
【0081】
<比較例3>
特許第4042162号を参照して、リン酸由来のOH基を有するジオールが主鎖に導入された物質として、下記構造式(4)で示されるアルコール誘導体Aを合成した。
【0082】
【化5】
【0083】
具体的には、2-Hydroxy-1,3,2-dioxaphospholane 2-oxide(Chemieliva Pharmaceutical社製)(以下の構造式(5)に示す)と4-(3-N,N-ジメチルアミノプロピル)-4-アザ-2,6-ジヒドロキシヘプタンとを、等モルずつ乾燥アセトニトリルに溶解させた後、密閉反応器中で、65℃で24時間反応を行った。反応後、溶媒を減圧下留去し、残渣をシクロヘキサンで数回洗浄することによって、中間物質としてアルコール誘導体を得た。
【化6】
【0084】
得られたアルコール誘導体41gを、ジメチルアセトアミド(DMAc)100mlに溶解させた。この溶液に、デュラネート50MS20gをDMAc30mlに溶解した溶液を、アルゴンガスによって反応器内を充分に置換した後、ゆっくり滴下した。滴下後、100℃24時間攪拌することにより、重合を行った。この反応混合物を水1500mlに攪拌しながら注ぎ込み、生成した沈澱物を濾別し、テトラヒドロフラン(THF)に溶解後、さらに50体積%メタノール水溶液に攪拌しながら注ぎ込み、生じた沈澱物を回収して減圧乾燥し、重合体を得た。この重合体をTHFに溶解して5%溶液とした。この溶液をガラス板上に均一に載せ、窒素気流下で40℃8時間乾燥後、40℃で減圧乾燥を15時間行なうことにより、厚さ約100μmのフィルムを得た。
【0085】
以下に示す表1,2は、各実験における配合材料や配合量を示し、表3は、各実験の評価結果を示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
表3の結果から以下のことが分かった。つまり、一般式(1)で表される構造を含むグラフト鎖を有する実施例は、比較例に比べて、フィルムAとフィルムBとを用いたいずれの場合においても、凝固時間相対値が大きいことが分かった。つまり、実施例は、比較例と比べて、抗血栓性に優れることが分かった。
【0090】
さらに、実施例1から実施例3を比較することにより、リン含有量が増えるほど、つまり、グラフト鎖の割合が増えるほど凝固時間相対値が大きくなる傾向にあることが分かった。したがって、グラフト鎖の割合が増えるほど、抗血栓性に優れることが分かった。
【0091】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。