(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】工程フィルム及び工程フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240124BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240124BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/36
C09D5/20
(21)【出願番号】P 2020054912
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】古野 会美子
(72)【発明者】
【氏名】森 剛志
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-170785(JP,A)
【文献】特開2019-127666(JP,A)
【文献】特開2019-093686(JP,A)
【文献】特開2018-202834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B41M 5/035-5/52
B44C 1/16-1/175
C09D 1/00-201/10
D06N 1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成された剥離剤層と、を備え、
前記剥離剤層が、剥離剤と、粒子と、アルコキシシリル基含有化合物と、を含
み、
前記粒子に対する前記アルコキシシリル基含有化合物の割合が、前記粒子100質量部に対して前記アルコキシシリル基含有化合物が0.3質量部以上2.0質量部以下である、工程フィルム。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基含有化合物が、アルキル基、グリシジル基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、メルカプト基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ウレイド基から選択される少なくとも1つの有機基を有することを特徴とする請求項1に記載の工程フィルム。
【請求項3】
前記アルコキシシリル基含有化合物が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2に記載の工程フィルム。
【請求項4】
前記粒子が、表面に官能基を有することを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の工程フィルム。
【請求項5】
前記剥離剤が、シリコーン変性アルキド樹脂を含むことを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の工程フィルム。
【請求項6】
前記基材が、ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載の工程フィルム。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか1項に記載の工程フィルムの製造方法であって、
前記剥離剤と、前記粒子と、前記アルコキシシリル基含有化合物とを混合して、剥離剤組成物を調製する第1工程と、
前記剥離剤組成物を前記基材の表面の少なくとも一部に塗布し、塗膜を形成する第2工程と、
前記塗膜を硬化して前記剥離剤層を形成する第3工程と、
を含むことを特徴とする工程フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工程フィルム及び工程フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラベル素材、電子機器やプリプレグ、合成皮革等のシート状製品の製造工程において、いわゆる工程フィルムと呼ばれるフィルムを用いて、当該シート状製品の保護・固定や装飾性の付与を行っている。
【0003】
表面に所定の凹凸形状を有するシート状製品の製造工程において使用する工程フィルムの場合、その一般的な構成としては、基材の片面側に剥離剤層が設けられ、当該剥離剤層の表面には凹凸形状が形成されているものがあげられる。この凹凸形状を樹脂フィルム等のシート状製品に転写することにより、表面に所定の凹凸形状を有するシート状製品を得ることができる。
【0004】
近年、表面のグロス(光沢度)を低減させ、マット(艶消し)調とするシート状製品が要望されている。マット調のシート状製品を製造する際に用いられる工程フィルムとして、例えば、特許文献1には、フィルムの少なくとも片面に凹凸層を有し、凹凸層が樹脂及び粒子を含む塗布層であり、凹凸層表面の表面自由エネルギーの極性成分(γsd)と水素結合成分(γsh)を合計した値が5mJ/m2以下であり、かつ凹凸層表面の60°グロスが5%以下である凹凸転写フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂及び粒子を含む塗布(剥離剤)層を有する工程フィルムは、製造する際のロール搬送工程や巻取り工程において、粒子が脱落しやすいこと、また、高温や高真空下で工程フィルムを用いて加工する際に、シート状製品の樹脂にピンホールが発生することがあった。
【0007】
そこで、本発明の1つの側面としては、粒子が脱落しにくく、かつ、転写面の樹脂のピンホールの発生量が低減することが可能な工程フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、剥離剤層に含まれる粒子に付着した水分に起因して発生するガス(アウトガス)がピンホールの原因と推測され、アルコキシシリル基含有化合物を剥離剤層中に添加することで、上記課題を克服できることを見出し、本願発明に成すに至った。
【0009】
本発明の第1の態様は、
[1]基材と、上記基材の表面の少なくとも一部に形成された剥離剤層と、を備え、
上記剥離剤層が、剥離剤と、粒子と、アルコキシシリル基含有化合物と、を含むことを特徴とする工程フィルムである。
【0010】
[2]上記アルコキシシリル基含有化合物が、アルキル基、グリシジル基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、メルカプト基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ウレイド基から選択される少なくとも1つの有機基を有することを特徴とする[1]に記載の工程フィルムである。
【0011】
[3]上記アルコキシシリル基含有化合物が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする[2]に記載の工程フィルムである。
【0012】
[4]上記粒子に対する上記アルコキシシリル基含有化合物の割合が、上記粒子100質量部に対して上記アルコキシシリル基含有化合物が0.3質量部以上2.0質量部以下であることを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の工程フィルムである。
【0013】
[5]上記粒子が、表面に官能基を有することを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の工程フィルムである。
【0014】
[6]上記剥離剤が、シリコーン変性アルキド樹脂を含むことを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の工程フィルムである。
【0015】
[7]上記基材が、ポリエステルフィルムであることを特徴とする[1]から[6]のいずれかに記載の工程フィルムである。
【0016】
[8][1]から[7]に記載の工程フィルムの製造方法であって、
上記剥離剤と、上記粒子と、上記アルコキシシリル基含有化合物とを混合して、剥離剤組成物を調製する第1工程と、
上記剥離剤組成物を上記基材の表面の少なくとも一部に塗布し、塗膜を形成する第2工程と、
上記塗膜を硬化して上記剥離剤層を形成する第3工程と、
を含むことを特徴とする工程フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つの側面によれば、粒子が脱落しにくく、かつ、転写面の樹脂のピンホールの発生量が低減することが可能な工程フィルムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施例における工程フィルムの断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0020】
[工程フィルム]
本発明の工程フィルム1は、
図1に示すように、基材20と、上記基材20の表面の少なくとも一部に形成された剥離剤層10と、を備えている。
【0021】
1.各部材
(1)基材
工程フィルム1の基材20としては、後述の剥離剤層10を支持できるものであれば適宜選択でき、例えば、紙基材、樹脂フィルム等が挙げられる。
【0022】
紙基材としては、例えば、上質紙、中質紙、グラシン紙、アート紙、コート紙及びキャストコート紙等が挙げられ、また、これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙も挙げられる。
【0023】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルからなるフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンからなるフィルム、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル等のプラスチックからなるフィルムが挙げられる。
【0024】
これらの基材20は単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
【0025】
これらの基材20の中でも、ポリエステルフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムがさらに好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくく、塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0026】
基材20の厚さは特に限定されないが、5μm以上300μm以下であることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0027】
(2)剥離剤層
剥離剤層10を形成する剥離剤組成物は、剥離剤11と粒子12とアルコキシシリ基含有化合物(図示せず)とを備え、必要に応じて添加剤、有機溶媒を配合する。
【0028】
(2-1)剥離剤
【0029】
剥離剤層10を形成する剥離剤組成物に含有する剥離剤11としては、例えば、
(1)低極性でそれ自身が剥離性を示すポリマー化合物、
(2)化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料、
(3)ポリマー材料に剥離性の低分子又はオリゴマー成分を添加して剥離性を付与された組成物等が挙げられる。
【0030】
低極性でそれ自身が剥離性を示すポリマー化合物としては、例えば、ポリオルガノシロキサン;フルオロポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリブタジエン、ポリイソプレン等のジエン系ポリマー等が挙げられる。
【0031】
化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料において、化学修飾されるポリマー成分としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、水酸基含有アクリル酸エステル共重合体、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これらポリマー成分は、化学修飾されていなければ剥離性を示さない場合が多い。
【0032】
また、化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料において、化学修飾する成分としては、例えば、官能基を有するポリオルガノシロキサン又はオルガノシロキサンオリゴマー;官能基を有するフルオロカーボン化合物;官能基を有する長鎖アルキル化合物が挙げられる。このうちの長鎖アルキル化合物としては、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基等の炭素数12以上のアルキル基をもつ化合物が挙げられる。
【0033】
化学修飾する化合物の官能基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、チオール基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0034】
化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料は、通常、シリコーン変性樹脂、フルオロ変性樹脂、長鎖アルキル変性樹脂のように呼称される。
【0035】
ポリマー材料に剥離性の低分子又はオリゴマー成分を添加して剥離性を付与された組成物において、用いられるポリマー材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、アクリル酸エステル共重合体、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0036】
これらのポリマー材料に添加される剥離性の低分子又はオリゴマー成分としては、例えば、ワックス(炭化水素化合物);ポリオルガノシロキサン又はオルガノシロキサンオリゴマー;フルオロカーボン;長鎖アルキル化合物が挙げられ、さらにこれらのポリエーテル付加物、ポリエステル付加物等が挙げられる。これらの中でも、剥離性や耐熱性が向上しやすいこと、また、充填剤や他の添加剤との親和性が良好になり得るという観点から、化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料が剥離性主剤として好ましく、ポリオルガノシロキサンで化学修飾されたアルキド樹脂、いわゆるシリコーン変性アルキド樹脂がより好ましい。なお、上記の剥離性主剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(2-2)粒子
剥離剤層10中に添加される粒子12としては、例えば、不定形のシリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等が挙げられる。中でも、耐熱性の観点から、不定形シリカ及び不定形アルミナが好ましく、経済的な観点から、不定形シリカを採用することがより好ましい。
【0038】
また、これら粒子12は、分散性向上や剥離剤との反応性の付与を目的として、粒子12の表面に有機基や反応性官能基等の官能基を有することが好ましい。
【0039】
剥離剤層10中には、粒子12が0質量%を超え40.0質量%未満添加さていることが好ましい。粒子12の配合比率は、5.0質量%を超え30.0質量%未満がより好ましく、10.0質量%を超え25.0質量未満が特に好ましい。この範囲とすることで、適度な剥離力を得ることができる。
【0040】
粒子12の平均粒子径は、0.5μm以上5.0μm以下であるのが好ましい。平均粒子径がこの下限値より小さくなると粒子12が剥離剤層10から露出しにくくなることで光沢感が強くなってしまうおそれがある。また、平均粒子径がこの上限値より大きくなると粒子12が剥離剤層10から露出しすぎることでマット感が強くなってしまう恐れがある。なお、平均粒子径は、粒子12が配合された剥離剤組成物を計測対象として、レーザー回折式粒度分布計により測定することができる。
【0041】
(2-3)アルコキシシリル基含有化合物
アルコキシシリル基含有化合物は、分子内に、ケイ素原子に結合し、無機化合物との反応性を有する官能基であるアルコキシ基を少なくとも1個と、ケイ素原子に結合した他の有機基を有する化合物である。アルコキシ基の炭素数は1~30であることが好ましい。また、他の有機基としては、アルキル基および他の有機化合物との反応性を有する官能基が挙げられる。
【0042】
剥離剤層10にアルコキシシリル基含有化合物を添加することで、塗膜と粒子12の結合が強くなり、粒子12の密着性が良好となる。また、工程フィルムを用いて加工したシート状製品のピンホール発生を低減することができる。ピンホールの発生が低減される理由は明らかではないが、アルコキシシリル基含有化合物のアルコキシ基と粒子表面の官能基とが反応することにより、アウトガス発生が低減するからと考えられる。粒子表面の官能基としては水酸基が挙げられる。
【0043】
ケイ素原子に結合したアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等があげられる。アルコキシシリル基含有化合物としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n-プロピルトリエキシシランが好ましく、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランがより好ましい。
【0044】
有機化合物との反応性を有する官能基の例としては、グリシジル基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、メルカプト基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ウレイド基等から選択される少なくとも1つが挙げられる。また、上記官能基の反応性を改善するとともに、剥離剤組成物中のその他の成分との相溶性を改善する観点から、上述した官能基とアルコキシ基が結合するケイ素原子との間には、一般式CnH2n(nは正の整数を表す。)で表される炭化水素鎖がスペーサーとして介在することが好ましい。この場合、上記一般式CnH2nにおけるnの値は、1以上であることが好ましく、特に2以上であることが好ましい。また、当該nの値は、10以下であることが好ましく、特に8以下であることが好ましい。なお、有機化合物と反応する官能基を有するアルコキシシリル基含有化合物は、シランカップリング剤として知られている。
【0045】
グリシジル基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、8-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
また、グリシジル基を有するアルコキシシリル基含有化合物は、上述した材料を構成モノマーとするオリゴマーであってもよい。この場合、当該オリゴマーのエポキシ当量は、100g/mol以上であることが好ましく、150g/mol以上であることがより好ましい。また、当該エポキシ当量は、1000g/mol以下であることが好ましく、900g/mol以下であることがより好ましい。さらに、上記オリゴマーのアルコキシ基量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。このようなオリゴマーを使用することで、剥離剤層10と基材20との間の優れた密着性を達成しやすいものとなる。
【0047】
アミノ基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等が挙げられる。
【0048】
ビニル基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
イソシアネート基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
メルカプト基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Si363(登録商標)等が挙げられる。
【0051】
(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0052】
スチリル基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、p-スチリルトリメトキシシラン等挙げられる。
【0053】
ウレイド基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
これらの中でも、剥離剤層10と基材20との間の優れた密着性を達成しやすいという観点から、他の有機基として、アルキル基、グリシジル基、アミノ基、ビニル基、イソシアネート基、メルカプト基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ウレイド基から選択される少なくとも1つの有機基を有するアルコキシシリル基含有化合物が好ましい。より好ましくは、メチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、さらに好ましくは、アウトガス発生量を低減することから、メチルトリエトキシシランである。
【0055】
なお、以上説明したアルコキシシリル基含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
粒子12に対するアルコキシシリル基含有化合物の割合は、粒子12を100質量部に対してアルコキシシリル基含有化合物0.3質量部以上、2.0質量部以下が好ましく、0.4質量部以上、1.8質量部以下がより好ましい。この範囲とすることで、アウトガスの発生量を低減できる。
【0057】
(2-4)その他の成分
剥離剤組成物に用いられる硬化剤、架橋剤及び反応開始剤は、剥離剤11が有する官能基と化学結合が可能な官能基をもつ化合物が選択される。硬化剤、架橋剤、反応開始剤は、剥離剤11と反応して三次元網目構造を形成することにより、剥離剤層10の被膜の強度や耐熱性を向上させる。剥離剤組成物に使用される硬化剤、架橋剤及び反応開始剤としては、剥離剤11が有する官能基に反応が可能であれば特に限定はなく、例えば、多価ヒドロシリル基含有オルガノシロキサン化合物、メラミン化合物、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、多価アルデヒド化合物、多価アミン化合物、多価オキサゾリン化合物、金属錯体等が挙げられる。
【0058】
剥離剤組成物に使用される触媒は、剥離剤組成物の硬化反応(架橋反応)を低温ないし短時間で進むよう反応促進させる化合物であり、当該化学反応に応じた化合物が選択される。多価ヒドロシリル基含有オルガノシロキサン化合物による付加反応に使用される触媒としては、例えば、白金触媒が用いられる。また、メラミン化合物による脱水、脱アルコールを伴う反応に使用される触媒としては、例えば、p-トルエンスルホン酸等の酸触媒が用いられる。
【0059】
剥離剤組成物において、剥離剤11の硬化剤、架橋剤及び反応開始剤の配合比率は、必要とされる工程フィルム1の諸物性に適合するよう適宜選択すればよいが、例えば、剥離剤11の不揮発成分100質量部に対して、0.1質量部以上400質量部以下が好ましく、10質量部以上200質量部以下がより好ましい。また、触媒の配合比率も同様に、必要とされる剥離剤組成物の反応速度及び必要とされる工程フィルム1の諸物性に適合するよう適宜選択すればよく、例えば、剥離剤11の不揮発成分100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0060】
本実施形態に係る剥離剤層10を形成するための剥離剤組成物は、上記の成分に加えて、貯蔵弾性率調整剤、染料や顔料等の着色剤、難燃剤等の各種添加剤を含有してもよい。また、剥離剤組成物は、有機溶媒を含む溶液の形態で用いることが好ましい。当該有機溶媒としては、剥離剤層10に対する溶解性及び揮発性が良好であって、剥離剤組成物の各成分に対し化学的に不活性な公知の有機溶媒の中から適宜選択して用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
2.工程フィルムの製造方法
本実施形態に係る工程フィルム1の製造方法は、剥離剤11と、粒子12と、シランカップリング剤とを混合して、剥離剤組成物を調製する第1工程と、剥離剤組成物を基材20の表面の少なくとも一部に塗布し、塗膜を形成する第2工程と、塗膜を硬化して剥離剤層10を形成する第3工程と、を含むこと、が好ましい。
【0062】
第1工程における剥離剤組成物の調整方法としては、特に限定されず、例えば、剥離剤組成物の分散体や溶液として調製することができる。本発明では、有機溶媒を含む溶液を調製することが好ましい。溶液は、例えば、ディスパー、コロイドミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、超音波などを用いて撹拌することが好ましい。
【0063】
剥離剤組成物の溶液の不揮発分濃度は、塗工適性及び乾燥性の観点から、2.5質量%以上60質量%以下が好ましく、5.0質量%以上40.0質量%以下がより好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下がさらに好ましい。
【0064】
第2工程における塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0065】
第3工程における塗膜を硬化する方法としては、乾燥とともに加熱により硬化させてもよく、塗膜中の成分が活性エネルギー線で反応する官能基を有する場合には、活性エネルギー線の照射により硬化させてもよく、加熱及び活性エネルギー線の照射を併用して硬化させてもよい。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線等が挙げられる。
【0066】
加熱温度は、80℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上230℃以下がより好ましい。また、加熱時間は、15秒間以上5分間以下が好ましく、20秒間以上3分間以下がより好ましい。
【0067】
工程フィルム1において、硬化後の剥離剤層10の膜厚は、特に限定されないが、0.5μm以上12μm以下が好ましく、1.0μm以上、8μm以下がより好ましい。
【0068】
3.工程フィルムの用途
本発明の工程フィルム1は、ラベル素材、電子機器やプリプレグ、合成皮革等のシート状製品の製造工程で使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに何ら限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
シリコーン変性アルキド樹脂溶液(商品名:TA31-209E、日立化成ポリマー株式会社製、固形分濃度45質量%)100質量部、トルエン216質量部、メチルエチルケトン144質量部、アルコキシシリル基含有化合物としてメチルトリメトキシシラン(商品名:KBM-13、信越化学工業株式会社製)0.22質量部添加・混合した。混合溶液に、不定形シリカ粒子(商品名:ニップシール SS50-A、東ソー・シリカ株式会社製)14.45質量部添加し、ディスパーを用いて2000rpmで5分間分散した。その後、分散液に硬化触媒として、p-トルエンスルホン酸メタノール溶液(固形分濃度50質量%)を2.5質量部添加し、2000rpmで5分間攪拌した。剥離剤組成物中の不定形シリカ粒子に対するアルコキシシリル基含有化合物の割合は、不定形シリカ粒子100質量部に対してアルコキシシリル基含有化合物1.5質量部である。この剥離剤組成物の溶液を厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ダイアホイル T100、三菱ケミカル株式会社製)の片面に塗工し、150℃で1分間乾燥及び硬化させ、硬化後の厚さが1.5μmの剥離剤層を有する工程フィルムを作製した。
【0071】
[実施例2]
アルコキシシリル基含有化合物として、メチルトリメトキシシランに替えてメチルトリエトキシシラン(商品名:KBE-13、信越化学工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0072】
[実施例3]
アルコキシシリル基含有化合物としてメチルトリメトキシシラン(商品名:KBM-13、信越化学工業株式会社製)の添加量を0.07質量部とした以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。剥離剤組成物中の不定形シリカ粒子に対するアルコキシシリル基含有化合物の割合は、不定形シリカ粒子100質量部に対してアルコキシシリル基含有化合物0.48質量部である。
【0073】
[実施例4]
アルコキシシリル基含有化合物としてメチルトリメトキシシラン(商品名:KBM-13、信越化学工業株式会社製)の添加量を0.14質量部とした以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。剥離剤組成物中の不定形シリカ粒子に対するアルコキシシリル基含有化合物の割合は、不定形シリカ粒子100質量部に対してアルコキシシリル基含有化合物0.97質量部である。
【0074】
[実施例5]
アルコキシシリル基含有化合物として、メチルトリメトキシシランに替えて3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(商品名:KBM-402、信越化学工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0075】
[実施例6]
アルコキシシリル基含有化合物として、メチルトリメトキシシランに替えて3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM-502、信越化学工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0076】
[比較例1]
アルコキシシリル基含有化合物を添加しない以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0077】
<粒子の密着性>
実施例及び比較例で製造した工程フィルムサンプルの剥離剤層表面とCPPフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルム、商品名:パイレンフィルム CT P1011、株式会社大栄科学精機製作所製)を摩擦堅牢試験機(商品名:RT-200、株式会社大栄科学精機製作所製)を用いて摩擦させ(荷重1Kg、30往復)、粒子の脱落の有無を目視にて評価した。粒子の脱落が確認できないものを〇、粒子の脱落がわずかに確認できるものを△、粒子の脱落が多く確認できるものを×とした。結果を表1に示す。
【0078】
<ピンホール発生の有無>
実施例及び比較例で製造した工程フィルムサンプルの剥離剤層表面に熱硬化性アクリル樹脂(商品名:UC-3000、東亜合成株式会社製)を塗工し、160℃、30秒間加熱することにより塗膜を硬化させ、工程フィルム上に厚さ約3μmのアクリル樹脂膜を作製した。この積層体を真空ポンプ付き真空乾燥機(商品名:LCV-234P、エスペック株式会社製)に入れて、180℃、1×10-1Paの環境下で5分間放置した。その後、アクリル樹脂膜を工程フィルムから剥離し、アクリル樹脂膜の表面のピンホールの数を目視にて評価した。ピンホールが確認できないものを◎、ピンホール数が1~5個/m2であるものを○、ピンホール数が6~10個/m2であるものを△、ピンホール数が11個以上/m2であるものを×とした。結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
実施例1~6の工程フィルムは、剥離剤層からの粒子脱落がしにくく、それを用いて得られる樹脂膜のピンホール発生が抑制されることがわかった。
【0081】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 工程フィルム
10 剥離剤層
11 剥離剤
12 粒子
20 基材