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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】フィルタ及び無線送信装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/20 20060101AFI20240124BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240124BHJP
   H01Q 1/24 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
H01P1/20 A
H01Q21/06
H01Q1/24 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020202940
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090504
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】河口 民雄
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-130663(JP,A)
【文献】特開2003-229703(JP,A)
【文献】特開2020-150463(JP,A)
【文献】特開2009-141653(JP,A)
【文献】特開平11-274817(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0156688(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0243762(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/20
H01Q 21/06
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電層と、
第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層の間に位置する誘電体基板とを有し、
前記誘電体基板は、
(1)前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、第1方向に沿って離隔して配置される第1導電ビア群と、(2)前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、前記第1方向に沿って離隔して配置される第2導電ビア群との間の領域により、高周波信号を前記第1方向に伝搬可能な導波路と
前記導波路と電磁界で結合され、前記導波路を伝搬する前記高周波信号のうち所定の周波数帯域の信号を反射させる反射型共振器と、を有し、
前記反射型共振器は、
前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、前記第1導電ビア群の一部に設けられる前記第1導電ビア群が存在しない欠損部に接する領域の周囲に沿って離隔して配置される第3導電ビア群と、
前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、前記欠損部内に配置される1つ以上の第4導電ビアを有する、フィルタ。
【請求項2】
前記第4導電ビアと前記欠損部の両端の2つの前記第1導電ビア群との間の結合孔を介して、前記導波路と前記反射型共振器との間を電磁界で結合する結合部を備える、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記導波路は、前記導波路の入力部に入力された前記高周波信号のうち、前記所定の周波数帯域の信号を遮断し、前記所定の周波数帯域以外の周波数帯域の信号を前記導波路の出力部から出力する帯域阻止フィルタ機能を有する請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第4導電ビアは、前記欠損部の中心位置から所定範囲内に配置される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記欠損部の前記第1方向の間隔は、前記欠損部以外の前記第1導電ビア群の中の隣接する2つの導電ビアの間隔よりも広い、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第3導電ビア群は、前記欠損部の両端の2つの前記第1導電ビア群から、前記第1方向と交差する方向にそれぞれ離隔して配置される第5導電ビア群及び第6導電ビア群を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第3導電ビア群は、前記第5導電ビア群及び前記第6導電ビア群の端部同士の間にそれぞれ離隔して配置される第7導電ビア群と、を有する、請求項6に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記反射型共振器は、信号伝搬方向に電界のピークを一つ持つ共振モードで共振し、
前記第4導電ビアは、前記第7導電ビア群の長さをLとしたときに、前記第5導電ビア群との距離が4L/10以上離隔し、かつ前記第6導電ビア群との距離が4L/10以上離隔した位置に配置される、請求項7に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記第4導電ビアは、前記第7導電ビア群の長さをLとしたときに、前記欠損部の中心位置を基準として前記第1方向に交差する第2方向に±L/5以下の範囲内に配置される、請求項7又は8に記載のフィルタ。
【請求項10】
前記反射型共振器は、信号伝搬方向に電界のピークをn個(nは1以上の整数)持つ共振モードで共振し、
前記欠損部内には、前記n個の前記第4導電ビアが設けられる、請求項7に記載のフィルタ。
【請求項11】
前記n個の第4導電ビアは、前記第7導電ビア群の長さをLとしたときに、前記欠損部の前記第1方向の中心位置を基準として前記第1方向に交差する第2方向に±L/(10×n)以下の範囲内に配置される、請求項10に記載のフィルタ。
【請求項12】
前記欠損部の前記第1方向の長さは、前記導波路を伝搬する前記高周波信号の周波数及び信号電力と、前記反射型共振器で反射される信号の周波数及び信号電力との相関により決定される、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項13】
前記第1導電ビア群の複数箇所に離隔して配置される複数の前記欠損部と、
前記複数の欠損部から前記第1方向に交差する第2方向に配置される複数の前記反射型共振器と、を備える、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項14】
前記第1方向に隣接する2つの前記反射型共振器は、帯域阻止を行う中心周波数に対応する波長をλgとしたときに、3λg/4を基準間隔として±20%の範囲内の間隔で配置される、請求項13に記載のフィルタ。
【請求項15】
前記反射型共振器は、前記第1導電ビア群及び前記第2導電ビア群から前記第2方向に交互に配置される、請求項14に記載のフィルタ。
【請求項16】
前記第1導電ビア群及び前記第2導電ビア群から前記第2方向に交互に配置される前記反射型共振器は、帯域阻止を行う中心周波数に対応する波長をλgとしたときに、λg/4を基準間隔として±20%の範囲内に配置される、請求項15に記載のフィルタ。
【請求項17】
前記反射型共振器は、前記第1導電ビア群及び前記第2導電ビア群から前記第2方向に、対称的に配置される、請求項14に記載のフィルタ。
【請求項18】
積層される複数の前記誘電体基板を備え、
前記複数の誘電体基板のそれぞれの対向する二面には、前記第1導電層及び前記第2導電層が配置され、
前記複数の誘電体基板のそれぞれには、前記反射型共振器、前記第1導電ビア群、及び前記第2導電ビア群が配置される、請求項1乃至17のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項19】
前記複数の誘電体基板のそれぞれに形成される前記導波路は、積層方向に重なる位置に位置に配置され、
前記複数の誘電体基板のそれぞれにおける前記反射型共振器は、積層方向に異なる位置に配置される、請求項18に記載のフィルタ。
【請求項20】
高周波信号を生成する信号生成器と、
前記高周波信号に含まれる所定の周波数帯域の信号を遮断して、前記所定の周波数帯域以外の信号を通過させるフィルタと、
前記フィルタを通過した高周波信号に応じた電波を放射するアンテナと、を備え、
前記フィルタは、
第1導電層と、
第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層の間に位置する誘電体基板とを有し、
前記誘電体基板は、
(1)前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、第1方向に沿って離隔して配置される第1導電ビア群と、(2)前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、前記第1方向に沿って離隔して配置される第2導電ビア群との間の領域により、高周波信号を前記第1方向に伝搬可能な導波路と
前記導波路と電磁界で結合され、前記導波路を伝搬する前記高周波信号のうち所定の周波数帯域の信号を反射させる反射型共振器と、を有し、
前記反射型共振器は、
前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、前記第1導電ビア群の一部に設けられる前記第1導電ビア群が存在しない欠損部に接する領域の周囲に沿って離隔して配置される第3導電ビア群と、
前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達し、前記欠損部内に配置される1つ以上の第4導電ビアを有する、無線送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、フィルタ及び無線送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代移動通信システム(以下、5Gと略する)の高速無線通信が急速に普及することが予想されている。5Gで使用する周波数帯域の近くには、他の目的に割り当てられた周波数帯域があるため、5Gの無線信号が干渉を引き起こさないようにする必要がある。
【0003】
5G用の無線通信装置に帯域通過フィルタを設けることで、アンテナから送信される電波の周波数帯域を制限することができるが、5Gの周波数帯域は広いため、周波数の遮断特性が急峻な帯域通過フィルタを作製するのは難しいという問題がある。
【0004】
また、5Gでは、1例として基板上に平板状の複数のパッチアンテナを配置したアンテナを使用することを想定しているため、パッチアンテナのサイズに見合う小型のフィルタが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-274817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の一実施形態では、遮断特性に優れて、小型化も可能なフィルタ及び無線送信装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、誘電体基板と、
前記誘電体基板の対向する二面に配置される第1導電層及び第2導電層と、
前記誘電体基板に配置され、高周波信号を第1方向に伝搬させる導波路と、
前記誘電体基板における前記導波路の信号伝搬方向と交差する方向に配置され、前記導波路を伝搬する前記高周波信号のうち所定の周波数帯域の信号を前記導波路の入力部の方向に反射させる反射型共振器と、
前記誘電体基板に配置され、前記導波路及び前記反射型共振器間を電磁界で結合する結合部と、を備え、
前記導波路は、前記第1方向に延びるとともに、前記第1方向に交差する第2方向に離隔して配置される第1ビア群及び第2ビア群を有し、
前記第1ビア群及び前記第2ビア群は、前記誘電体基板の前記第1方向に沿って離隔して配置され前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達する複数の第1導電ビアをそれぞれ有し、
前記反射型共振器は、前記第1ビア群の一部に設けられる前記第1導電ビアの欠損部の周囲に配置され、前記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達する複数の第2導電ビアを有し、
前記結合部は、前記欠損部内に配置され、記第1導電層から前記誘電体基板を貫通して前記第2導電層に到達する第3導電ビアを有する、フィルタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】5Gの無線送信装置の送信スペクトルの略図
図2A】帯域通過フィルタの信号通過帯域幅が広い場合と狭い場合で、周波数遮断特性を比較した図。
図2B】帯域通過フィルタの信号通過帯域幅が広い場合に帯域通過フィルタの段数を12段に増やした例を示す図。
図3】帯域阻止フィルタの動作原理を示す図。
図4】帯域阻止フィルタの通過特性図。
図5A】一般的な導波管を示す斜視図。
図5B】複数の導電ビアで構成される導波管構造の一例を示す斜視図。
図5C図5Bの導波管構造の周波数特性を示す図。
図6】第1例のフィルタの斜視図。
図7】第3導電ビアの位置を調整する例を示す図。
図8A】欠損部の第1方向の中心位置に第3導電ビアを配置した場合の周波数特性図。
図8B】第3導電ビアを中心位置から反射型共振器側にずらした場合の周波数特性図。
図8C】第3導電ビアを中心位置から導波路側にずらした場合の周波数特性図。
図9】一比較例によるフィルタの斜視図。
図10図9のフィルタの周波数特性図。
図11A】信号伝搬方向に電界のピークが一つ存在する場合の電界分布を模式的に示す図。
図11B】信号伝搬方向に電界のピークが二つ存在する場合の電界分布を模式的に示す図。
図11C】信号伝搬方向に電界のピークが三つ存在する場合の電界分布を模式的に示す図。
図12】第2例のフィルタの斜視図。
図13図12のフィルタの周波数特性を示す図。
図14】第3例のフィルタの斜視図。
図15】第4例のフィルタの斜視図。
図16】第5例のフィルタの斜視図。
図17A】送信機能及び受信機能を備える無線通信装置の概略構成を示すブロック図。
図17B】アンテナの平面図。
図17C】一変形例による無線通信装置の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、フィルタ及び無線送信装置の実施形態について説明する。以下では、フィルタ及び無線送信装置の主要な構成部分を中心に説明するが、フィルタ及び無線送信装置には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0010】
5Gの無線通信には、4GHz帯付近の周波数帯域の他に、24~28GHzの周波数帯域が割り当てられている。ところが、24GHz付近には、地球探査衛星が使用する周波数帯域が既に割り当てられており、5Gの無線通信が地球探査衛星の観測に干渉を与えないようにする必要がある。図1は5Gの無線送信装置からの送信スペクトルの周波数特性の一例を示した図である。図1に示すように、送信スペクトルは使用する帯域外への不要放射が存在し、隣接する周波数帯域に干渉が起きるおそれがある。
【0011】
帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter)の周波数遮断特性は、信号通過帯域幅に依存する。図2A及び図2Bは、周波数遮断特性と信号通過帯域幅との関係を模式的に示す図である。5Gのように、信号通過帯域幅が広い場合には、周波数遮断特性を急峻にするのは容易ではなく、周波数遮断特性を急峻にするには、帯域通過フィルタを多段化する必要がある。図2Aは、帯域通過フィルタの段数が3段の場合に、信号通過帯域幅が広い場合(実線)と狭い場合(破線)で、周波数遮断特性を比較した図である。図示のように、使用する共振器の損失が同じで、かつ帯域通過フィルタの段数が同じ場合、信号通過帯域幅が広いほど、周波数遮断特性の急峻性が損なわれ、信号の漏洩が生じやすくなる。
【0012】
図2Bは、帯域通過フィルタの信号通過帯域幅が広い場合に帯域通過フィルタの段数を12段に増やした例を示している。帯域通過フィルタを多段化することで、周波数遮断特性を急峻にすることができるが、多段化するほど信号損失が増えてしまう。このように、帯域通過フィルタでは、広帯域かつ周波数遮断特性を急峻にし、かつ信号損失を抑制することは容易ではない。
【0013】
5Gの無線信号が隣接する周波数帯域に漏洩することを防止する方策として、帯域通過フィルタの代わりに帯域阻止フィルタ(BRF:Band Rejection Filter)を用いることが考えられる。帯域阻止フィルタは、特定の周波数帯域(不要波)を減衰させる機能を有する。
【0014】
図3は帯域阻止フィルタ1の動作原理を示す図、図4は帯域阻止フィルタ1の通過特性図である。図3に示すように、帯域阻止フィルタ1は、伝送路2と、伝送路2上に所定間隔で接続される複数の共振器3とを有する。伝送路2上の隣接する2つの共振器3は、伝送路2を伝搬する信号の波長をλとすると、λ/4=90度の位相差を有する。
【0015】
図3の伝送路2を伝搬する信号に含まれる共振器3の共振周波数f0の信号成分は、共振器3で反射されて伝送路2の入力側に戻る。これにより、図4に示すように、共振周波数f0の信号成分のみを遮断することができる。
【0016】
帯域阻止フィルタ1は、様々なフィルタを組み合わせて構成することができ、帯域制限やスプリアス除去などを行うことも可能である。最近は、通信機器の小型化を求める声が大きいため、帯域阻止フィルタ1も、小型化と信号損失の抑制を両立させることが望まれる。
【0017】
そこで、本実施形態では、帯域阻止フィルタ1を導波管構造にすることを特徴としている。図5Aは一般的な導波管4を示す斜視図である。図5Aに示す導波管4は、高電力の伝送やミリ波帯などの高周波帯域の信号伝送ではよく用いられる。その理由は、誘電体基板上の導電パターンを有する平面回路構造では、誘電体基板の損失や信号伝送時の抵抗損がミリ波帯域では特に大きくなり、信号損失が大きくなりやすいためである。図5Aに示す導波管4は、高周波信号の伝送時には高い寸法精度が要求されるため、製造コストが高くなるおそれがある。また、導波管4は接続フランジ部を必要とするため、サイズが大きくなる。よって、導波管4を高密度に配置するのは技術的に困難である。
【0018】
このように、導波管4は、マイクロストリップ構造やコプレーナ構造のような平面回路で回路を構成するよりも、信号の損失を抑制できるという利点はあるものの、伝送路2の周囲に壁を形成して接続フランジ部を設ける必要がある等、小型化が困難である。5G等の最近の無線通信では、複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用い、アンテナ素子ごとにフィルタや送受信機を必要とするため、フィルタを小型化することが求められている。
【0019】
そこで、本実施形態では、対向する二面に導電層を配置した誘電体基板を貫通する複数の導電ビアにて導波管構造を形成することを特徴とする。図5Bは複数の導電ビア5で構成される導波管構造6の一例を示す斜視図である。図5Bの導波管構造6は、誘電体基板7の対向する二面に配置された導電層8と、一方の導電層8から誘電体基板7を貫通して他方の導電層8に到達する複数の導電ビア(金属ポストと呼ぶこともある)5と、を有する。二列に並んだ複数の導電ビア5からなる導電ビア群9、導電ビア群10と、誘電体基板7と、導電層8により、導波管構造6を構成している。図5Bでは、二列に並んだ二つの導電ビア群9、導電ビア群10が擬似的な金属壁として作用し、誘電体装荷導波管と同様に電波を伝搬する伝送路2を形成する。誘電体基板7の誘電体材料として、誘電損失の低い材料を用いることで、導波管4と同様に高周波帯域にて低損失の伝送路2を構成することができる。
【0020】
図5Bの導波管構造6は、対向する二面に導電層8を形成した誘電体基板7を貫通するように、二列に複数のビアホール(スルーホールとも呼ぶ)を形成し、各ビアホールの内部に導電部材を配置して、上下の導電層8と導通させた複数の導電ビア5からなる導電ビア群9及び導電ビア群10を有する。これら導電ビア5は、半導体プロセス技術により比較的容易に製造できる。二列の導電ビア群9及び導電ビア群10と、その間の誘電体基板7と、対向する二つの導電層8とで、導波管構造6が形成される。この導波管構造6は、図5Bに示すように、誘電体基板7の内部に形成できるため、図5Aのような構造の導波管4よりも、小型化及び薄型化が可能になり、製造も容易に行える。
【0021】
図5C図5Bの導波管構造6の周波数特性を示す図である。図5Cの横軸は周波数、縦軸は振幅[dB]である。図5Cの波形w1はSパラメータS11、波形w2はSパラメータS21の周波数特性を示している。S11は入力側の反射特性を示し、S21は入力側からの通過特性を示している。図5Cに示すように、図5Bの導波管構造6は、特定の周波数帯域の信号を入力側に反射させる機能を持たない。これに対して、本実施形態によるフィルタ1は、複数の導電ビア5により誘電体基板7内に形成される導波管構造6に反射型共振器3を追加することで、特定の周波数帯域の信号を遮断する帯域阻止フィルタ1を形成したものである。以下、本実施形態によるフィルタの代表的な具体例をいくつか順に説明する。
【0022】
(フィルタの第1例)
図6は第1例のフィルタ11の斜視図である。図6のフィルタ11は、誘電体基板7と、第1導電層8a及び第2導電層8bと、導波路12と、入力部13と、出力部14と、反射型共振器15と、結合部16とを備えている。
【0023】
第1導電層8a及び第2導電層8bは、誘電体基板7の対向する二面に配置されている。導波路12は、誘電体基板7の一部に配置され、高周波信号を伝搬させる。導波路12は、上述した導波管構造6であり、周期的に配置される複数の第1導電ビア5aからなる第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18を有する。第1導電ビア群17と第2導電ビア群18はそれぞれ、金属壁として作用し、誘電体装荷導波管4のような動作を行う。よって、第1導電ビア群17と第2導電ビア群18の間の第1導電層8a、誘電体基板7及び第2導電層8bは、導波管構造6の導波路12となる。導波路12は、第1導電ビア群17と第2導電ビア群18との間の領域により、高周波信号を第1方向Xに伝搬させることができる。
【0024】
誘電体基板7の材料としては、ミリ波帯での無線通信を行う場合には、サファイヤやアルミナなどのセラミック素材やPTFEなどのフッ素樹脂素材、石英やガラスクロスなどを用いることができる。第1導電層8a及び第2導電層8bの材料としては、銅、金、アルミニウムなどの高周波信号の損失が少ない金属を用いてもよい。第1導電ビア5aは、ビアホールの内壁に形成される銅や金の金属メッキでもよい。具体的な一例として、0.5mmの厚さのアルミナを材料とする誘電体基板7を用いて、第1導電層8a、第2導電層8b及び第1導電ビア5aを銅で形成してもよい。
【0025】
第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18を構成する第1導電ビア5aの間隔は必ずしも同一でなくてもよいが、導波路12で伝搬する高周波信号の波長に対して十分に小さくする必要がある。より具体的には、第1導電ビア5aの間隔は、導波路12を伝搬する高周波信号の管内波長λgに対して、λg/4~λg/8以下の間隔にすることで、第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18からの信号の漏れを抑制できる。具体的な一例として、20~30GHz帯域の信号を伝搬させることを想定して、第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18における第1導電ビア5aの間隔を0.5mmとした。
【0026】
導波路12は、第1方向Xに延びており、第1方向Xに高周波信号を伝搬させる。複数の第1導電ビア5aのそれぞれは、第1導電層8aから誘電体基板7を貫通して第2導電層8bに到達しており、第1導電ビア5aは第1導電層8aと第2導電層8bに導通している。第1導電ビア群17と第2導電ビア群18は、第1方向Xに交差する第2方向Yに離隔して配置されている。第2方向Yは、例えば第1方向Xに直交する方向であってもよい。導波路12の第1方向Xの一端部には入力部13が設けられ、他端部には出力部14が設けられている。入力部13を介して、導波路12に高周波信号が入力される。導波路12を伝搬した高周波信号は出力部14から出力される。
【0027】
反射型共振器15は、導波路12における高周波信号の信号伝搬方向である第1方向Xに交差する方向(例えば第2方向Y)に配置されている。反射型共振器15は、導波路12を伝搬する高周波信号のうち、所定の周波数帯域の信号を入力部13の方向に反射させる。所定の周波数帯域とは、例えば、反射型共振器15の共振周波数である。このように、導波路12に反射型共振器15を結合させることにより、導波路12を伝搬する高周波信号のうち、反射型共振器15の共振周波数成分の信号を伝搬させないようにすることができ、帯域阻止フィルタとして機能させることができる。
【0028】
反射型共振器15は、第1導電ビア群17の一部に設けられる第1導電ビア5aの欠損部19の周囲に配置されている。反射型共振器15は、第3導電ビア群21~23と第4導電ビア5cを有する。第3導電ビア群21~23は、第1導電層8aから誘電体基板7を貫通して第2導電層8bに到達し、第1導電ビア群17の一部に設けられる第1導電ビア群17が存在しない欠損部19に接する領域の周囲に沿って離隔して配置されている。第4導電ビアは、第1導電層8aから誘電体基板7を貫通して第2導電層8bに到達し、欠損部19内に配置される1つ以上の第4導電ビア5cを有する。第3導電ビア群21~23を構成する各第3導電ビア5bと第4導電ビア5cのそれぞれは、第1導電ビア5aと同じ径サイズでもよいし、異なる径サイズでもよい。反射型共振器15は、導波路12と電磁界で結合され、導波路12を伝搬する高周波信号のうち所定の周波数帯域の信号を反射させる。
【0029】
欠損部19には結合部16が設けられている。結合部16は、第4導電ビア5cと欠損部19の両端の2つの第1導電ビア群17との間の結合孔16aを介して、導波路12及び反射型共振器15間を電磁界で結合する。結合部16は、欠損部19内に配置され、第1導電層8aから誘電体基板7を貫通して第2導電層8bに到達する第4導電ビア5cを有する。第4導電ビア5cは、第1導電ビア5a又は第3導電ビア5bと同じ径サイズでもよいし、異なる径サイズでもよい。本明細書では、第1導電ビア5a、第3導電ビア5b、及び第4導電ビア5cを、必要に応じて金属ポストと呼ぶことがある。
【0030】
欠損部19の第1方向Xの間隔は、欠損部19以外の第1導電ビア群17の隣接する2つの第1導電ビア5aの間隔よりも広くしている。反射型共振器15は、欠損部19の両端の2つの第1導電ビア5aから、第1方向Xと交差する方向(例えば第2方向Y)にそれぞれ離隔して配置される複数の第3導電ビア5bを有する。
【0031】
より具体的な一例として、反射型共振器15内の第3導電ビア群21~23は、例えば、図6に示すように、欠損部19の両端の2つの第1導電ビア5aから、第2方向Yにそれぞれ離隔して配置される複数の第3導電ビア5bを有する第5導電ビア群21及び第6導電ビア群22を有する。また、第3導電ビア群21~23は、具体的な一例として、第5導電ビア群21及び第6導電ビア群22の端部同士の間にそれぞれ離隔して配置される複数の第3導電ビア5bを有する第7導電ビア群23と、を有する。
【0032】
反射型共振器15は、導波路12と電磁界で結合することで、反射型共振器15の共振周波数の信号を反射させる動作を行う。このため、反射型共振器15では、共振周波数と、導波路12との結合量の2つのパラメータが重要になる。反射型共振器15の共振周波数は、反射型共振器15のサイズで決まる。図6の反射型共振器15は、第5導電ビア群21、第6導電ビア群22、及び第7導電ビア群23からなる金属壁で誘電体を取り囲んだ構造であり、特定の周波数で共振する共振器3を実現できる。
【0033】
図6は、平面形状が矩形の反射型共振器15の例を示しているが、円形などの任意の形状を取り得る。反射型共振器15は、使用する共振モード以外にも、さまざまな共振モードで共振する。このため、反射型共振器15の形状を変えることで、遮断したい周波数で共振する共振モードを選択することができる。図6の例では、導波路12を、第1方向Xの長さL=2.5mm、第2方向Yの幅R=2.55mmの直方体形状とした。
【0034】
図6のフィルタ11では、第1導電ビア群17を構成する複数の第1導電ビア5aの一部を欠損させた欠損部19により、導波路12と反射型共振器15とを結合させている。欠損部19に設けられる結合部16は、電磁界が通り抜ける結合孔16aを有する。後述するように、結合孔16aの間に導電ビアを設けないと、共振周波数よりも低域側と高域側で反射特性が対称的にならないことから、図6のフィルタ11では、結合孔16aの中心位置付近に第4導電ビア5cを配置している。上述したように、第4導電ビア5cは、第1導電ビア5aや第3導電ビア5bと径サイズが同じでも、異なっていてもよい。第4導電ビア5cは、欠損部19の第1方向Xの長さ(第7導電ビア群23の長さ)をLとしたときに、欠損部19の一端側に位置する第5導電ビア群21との距離を4L/10以上離した位置で、かつ欠損部19の他端側に位置する第6導電ビア群22との距離を4L/10以上離した位置に配置されている。
【0035】
また、欠損部19に設けられる第4導電ビア5cを、図7の矢印線に示すように、例えば第2方向Yにずらしてもよい。図7は、欠損部19の第1方向Xの中心位置を基準として、その周囲の所定範囲(図7の円CRの範囲)内で第4導電ビア5cの位置を調整する例を示している。所定範囲は、第2方向Yだけでなく、第1方向Xでもよい。所定範囲は、欠損部19の中心位置を基準として、±L/5以下の範囲であってもよい。
【0036】
欠損部19の第1方向Xの長さは、導波路12を伝搬する高周波信号の周波数及び信号電力と、反射型共振器15で反射される信号の周波数及び信号電力との相関により決定されてもよい。
【0037】
図8A図8B及び図8Cは、第4導電ビア5cの位置を図7の所定範囲内で調整したときのフィルタ11の周波数特性を示す図である。図8Aは欠損部19の第1方向Xの中心位置に第4導電ビア5cを配置した場合、図8Bは第4導電ビア5cを中心位置から反射型共振器15側にずらした場合、図8Cは第4導電ビア5cを中心位置から導波路12側にずらした場合の周波数特性図を示している。図8A図8Cの横軸は周波数[GHz]、縦軸は振幅[dB]である。
【0038】
図8A図8Cの波形w3、w5、w7はSパラメータS11であり、反射特性を示している。波形w4、w6、w8はパラメータS21であり、通過特性を示している。欠損部19の中心位置に第4導電ビア5cを配置すると、図8Aのように、共振周波数の低帯域側と高帯域側の反射特性がほぼ対称になる。これに対して、第4導電ビア5cを欠損部19の中心位置から反射型共振器15側にずらすと、図8Bに示すように、共振周波数の低帯域側の反射特性が大きく落ち込み、共振周波数の低帯域側と高帯域側で反射特性が非対称になる。また、第4導電ビア5cを欠損部19の中心位置から導波路12側にずらすと、図8Cに示すように、共振周波数の高帯域側の反射特性が大きく落ち込み、共振周波数の低帯域側と高帯域側で反射特性が非対称になる。
【0039】
図8A図8Cからわかるように、欠損部19内の中心位置付近に設けられる第4導電ビア5cの位置を所定範囲内で調整することで、フィルタ11の反射特性の非対称性を制御できる。よって、第4導電ビア5cの位置を微調整することで、共振周波数の低帯域側と高帯域側の対称性を向上でき、周波数特性に優れた帯域阻止フィルタを得ることができる。
【0040】
図9は一比較例によるフィルタ110の斜視図である。図9のフィルタ110は、図6と同様に、第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18を有する導波管構造6の導波路12と、第5導電ビア群21~第7導電ビア群23を有する反射型共振器15とを備えているが、第1導電ビア群17の一部に設けられる欠損部19に、図6のような第4導電ビア5cが存在しない点で図6のフィルタ11とは異なる。
【0041】
図10図9のフィルタ11の周波数特性図である。図10の波形w9はSパラメータS11、波形w10はSパラメータS21である。図10からわかるように、欠損部19内に第4導電ビア5cが存在しない場合には、共振周波数の低帯域側では、反射特性の変化が緩やかであるのに対し、共振周波数の高帯域側では、反射特性の変化が急峻になり、共振周波数の低帯域側と高帯域側で反射特性が非対称になる。このため、図9の構造では、特定の周波数帯域の信号のみを遮断する帯域阻止特性に優れた帯域阻止フィルタが得られないおそれがある。
【0042】
これに対して、図6のフィルタ11では、欠損部19内の中心位置付近に第4導電ビア5cを配置し、この第4導電ビア5cの位置を所定範囲内で調整することで、帯域阻止特性に優れて、小型化及び薄型化が可能な帯域阻止フィルタを作製することができる。
【0043】
図6のフィルタ11は、第1導電ビア群17の欠損部19内に一つの第4導電ビア5cを配置しているが、欠損部19内の第4導電ビア5cの数を増やすことで、反射型共振器15を高次モードで共振させる場合の非対称性を改善することができる。図11Aは反射型共振器15内で信号伝搬方向に電界のピーク24が一つ存在する場合の電界分布を模式的に示す図である。この場合、図6のように、欠損部19の中心付近に第4導電ビア5cを配置すればよい。図11Bは反射型共振器15内で信号伝搬方向に電界のピーク24が二つ存在する場合の電界分布を模式的に示す図である。この場合、欠損部19内に2つの第4導電ビア5cを配置すればよい。図11Cは反射型共振器15内で信号伝搬方向に電界のピーク24が三つ存在する場合の電界分布を模式的に示す図である。この場合、欠損部19内に3つの第4導電ビア5cを配置すればよい。
【0044】
上述したように、欠損部19内に第4導電ビア5cを二個以上設けることで、反射型共振器15を高次モードで共振させる場合の非対称性を改善することができる。高次モードで共振させることで、帯域阻止フィルタの遮断周波数を切り替えることができる。一般化すると、図6のフィルタ11内の反射型共振器3は、信号伝搬方向に電界のピーク24をn個(nは1以上の整数)持つ共振モードで共振する。このとき、結合部16は、欠損部19内にn個の第4導電ビア5cを有する。n個の第4導電ビア5cの位置を調整することで、反射型共振器15を高次モードで共振させる場合の非対称性を改善することができ、高次モードを用いたフィルタが構成可能となり共振周波数を含む周波数帯域の信号を遮断することができる。このとき、n個の第4導電ビア5cは、欠損部19の中心位置を基準として、第2方向Yに±L/(10×n)以下の範囲内に配置される。
【0045】
(フィルタ11の第2例)
図12は第2例のフィルタ11aの斜視図である。図12のフィルタ11aは、導波路12の信号伝搬方向の片側に配置された複数の反射型共振器15を備えている。図12では、導波路12の信号伝搬方向に3つの反射型共振器15を配置しているが、反射型共振器15の数には特に制限はない。図12における各反射型共振器15は、図6の反射型共振器15と同様に、第1導電ビア群17の一部の欠損部19から第2方向Yに配置されている。第1導電ビア群17には、反射型共振器15の数と同数の欠損部19が設けられている。各反射型共振器15は、欠損部19に設けられる結合部16の結合孔16aを介して、導波路12と電磁界で結合している。欠損部19の中心位置付近には第4導電ビア5cが配置されている。各第4導電ビア5cの位置を調整することにより、共振周波数の低帯域側と高帯域側の周波数特性の対称性を改善でき、通過特性や反射特性の曲線を調整できる。
【0046】
フィルタ11a内の複数の反射型共振器15は、共振周波数が同一になるように、各反射型共振器15の第5導電ビア群21及び第6導電ビア群22の長さRと、第7導電ビア群23の長さLを同一としている。
【0047】
図12における複数の反射型共振器15は、帯域阻止を行う中心周波数に対応する波長をλgとして、例えば、3λg/4の間隔で、第1方向X(信号伝搬方向)に配置されている。これにより、狭い範囲に複数の反射型共振器15を配置できるため、フィルタ11aのサイズを小型化できる。なお、第1方向Xに隣接する2つの反射型共振器15の間隔は、ある程度の誤差が許容され、例えば3λg/4±20%の範囲内に反射型共振器15を配置するのが望ましい。
【0048】
図13図12のフィルタ11aの周波数特性を示す図である。図13の波形w11はSパラメータS11、波形w12はSパラメータS21の周波数特性を示している。図12のように、フィルタ11a内に3つの反射型共振器15を設けることで、阻止帯域27GHzの低帯域側と高帯域側の対称性がよくなる。これよりもさらに高帯域側の減衰特性を改善したい場合には、各第4導電ビア5cの位置を反射型共振器15側にずらすことで、高帯域側の減衰特性をより急峻にすることができる。この場合、共振周波数よりも低帯域側の減衰特性は悪化するため、各第4導電ビア5cの位置を微調整することで、フィルタ11aの非対称性を積極的に利用して、フィルタ11aの周波数特性を改善できる。
【0049】
(フィルタ11の第3例)
図14は第3例のフィルタ11bの斜視図である。図14のフィルタ11bは、導波路12の信号伝搬方向の両側に配置される複数の反射型共振器15を備えている。より詳細には、図14のフィルタ11bは、第1導電ビア群17における複数の欠損部19から第2方向Yに複数の反射型共振器15を配置するともに、第2導電ビア群18における複数の欠損部19から第2方向Yに複数の反射型共振器15を配置している。
【0050】
図14のフィルタ11bにおいても、導波路12は、誘電体基板7を貫通する第1導電ビア群17と第2導電ビア群18からなる導波管構造6である。複数の反射型共振器15は、導波路12との結合孔16aを介して電磁界で結合している。各結合孔16aの中心位置付近には、第4導電ビア5cが配置されている。複数の反射型共振器15は、導波路12の信号伝搬方向の両側に交互に配置されている。第1方向Xに隣接する2つの反射型共振器15の間隔は、導波路12で伝搬される信号の波長をλgとしたときに、3λg/4である。また、第1導電ビア群17に接続される反射型共振器15と、第2導電ビア群18に接続される反射型共振器15との間隔は、λg/4である。すなわち、複数の反射型共振器15は、導波路12の信号伝搬方向の両側に、λg/4の間隔で交互に配置されている。上述した間隔3λg/4と間隔λg/4は、ある程度の誤差が許容され、第1方向Xに隣接する2つの反射型共振器15は、3λg/4を基準間隔として±20%の範囲内に配置される。また、導波路12の信号伝搬方向に沿って交互に配置される2つの反射型共振器15は、λg/4を基準間隔として±20%の範囲内に配置される。
【0051】
図14では、導波路12の信号方向の片側に3つの反射型共振器15を配置し、他の片側に2つの反射型共振器15を配置しているが、これは一例であり、導波路12の信号方向の両側に交互に配置される反射型共振器15の数には特に制限はない。
【0052】
(フィルタ11の第4例)
図15は第4例のフィルタ11cの斜視図である。図15のフィルタ11cは、導波管構造6の導波路12の信号伝搬方向の両側に、複数の反射型共振器15を対向させて配置している。導波路12は、第1例~第3例のフィルタ11a、11b、11cと同様に、第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18を有する。各反射型共振器15も、第1例~第3例のフィルタ11cと同様に、第5導電ビア群21、第6導電ビア群22及び第7導電ビア群23を有する。各反射型共振器15のサイズは同一である。
【0053】
各反射型共振器15は、対応する結合孔16aを介して、導波路12と電磁界で結合している。各結合孔16aの中心付近には第4導電ビア5cが配置されている。これら第4導電ビア5cの位置を調整することで、図15のフィルタ11cの周波数特性を調整することができる。
【0054】
図15のフィルタ11cでは、導波路12を間に挟んで、2つの反射型共振器15を対向させて配置している点で、図14のフィルタ11cとは異なる。上述したように、2つの反射型共振器15のサイズ及び形状は同じであるため、共振周波数も同じになる。これら反射型共振器15が導波路12と結合することで、強い結合の反射型共振器15と同様の特性が得られる。
【0055】
例えば、一つの反射型共振器15の外部Q値をQe1とすると、二つの反射型共振器15を合わせた外部Q値はQe1/2となる。よって、図15のフィルタ11cは、広帯域のフィルタ11cを構成する場合に必要な外部Q値が一つの反射型共振器15の構造では得られない場合などに用いることができる。
【0056】
図15のフィルタ11cでは、導波路12の信号伝搬方向の両側に、一つずつ反射型共振器15を配置しているが、導波路12の信号伝搬方向の両側に、複数個ずつ反射型共振器15を配置し、かつ両側の反射型共振器15を対向させて配置してもい。
【0057】
(フィルタ11の第5例)
図16は第5例のフィルタ11dの斜視図である。図16のフィルタ11dは、積層される複数の誘電体基板7a、7bを備えている。複数の誘電体基板7a、7bのそれぞれの対向する二面には、第1導電層8a及び第2導電層8bが配置されている。複数の誘電体基板7a、7bのそれぞれには、反射型共振器15、結合部16、第1導電ビア群17、及び第2導電ビア群18が配置されている。各誘電体基板7と、各誘電体基板7の両面側の第1導電層8a及び第2導電層8bと、各誘電体基板7を貫通する第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18とで、導波管構造6が構成されている。
【0058】
このように、図16のフィルタ11dでは、積層される複数の誘電体基板7a、7bのそれぞれに、導波管構造6の導波路12が配置されており、各導波路12は、高周波信号が入力される入力部13と、高周波信号が出力される出力部14とを有する。
【0059】
各誘電体基板7を貫通する第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18は、図16のフィルタ11dを基板面から平面視したときに、積層方向に重なるように配置されている。よって、複数の誘電体基板7a、7bを積層した後に、これら誘電体基板7を貫通するビアホールを形成して、ビアホールの内壁面を導電材料で覆うことにより、各誘電体基板7a、7bの第1導電ビア群17及び第2導電ビア群18を一括で形成できる。これにより、各誘電体基板7a、7bに設けられる導波路12を、基板面の法線方向から平面視したときに、積層方向に重なる同一位置に配置することができる。
【0060】
各導波路12には、結合部16を介して反射型共振器15が接続されている。各反射型共振器15は、結合部16の結合孔16aを介して導波路12と電磁界で結合している。各結合部16には、第4導電ビア5cが配置されている。第4導電ビア5cの位置を調整することで、図16のフィルタ11dの周波数特性を調整することができる。
【0061】
各誘電体基板7の反射型共振器15は、誘電体基板7a、7bのそれぞれごとに、導波路12の信号伝搬方向に位置をずらして配置されている。具体的には、反射型共振器15は、導波路12を伝搬する高周波信号の波長をλgとして、λg/4の間隔で、各誘電体基板7に交互に配置されている。また、同一の誘電体基板7内の反射型共振器15は、3λg/4の間隔で配置されている。これらの間隔は、±20%以内の誤差が許容される。
【0062】
反射型共振器15は、第1~第4例のフィルタ11、11a、11b、11c、11d内の反射型共振器15と同様に、第5導電ビア群21、第6導電ビア群22及び第7導電ビア群23とを有する。
【0063】
図16では、各誘電体基板7a、7bに配置される複数の導波路12の信号伝搬方向の片側に、複数の反射型共振器15を配置しているが、誘電体基板7a、7bごとに、反射型共振器15が配置される方向を互いに逆にしてもよい。
【0064】
図16のフィルタ11dでは、複数の誘電体基板7a、7bを積層して、各誘電体基板7a、7b内に導波管構造6の導波路12と複数の反射型共振器15とを配置するため、フィルタ11d全体のサイズを抑制でき、小型で多段の帯域阻止フィルタを形成できる。
【0065】
図16では、二つの誘電体基板7a、7bを積層する例を示したが、積層する誘電体基板7の数に特に制限はない。各誘電体基板7に導波路12と反射型共振器15を形成できるため、一つの誘電体基板7に形成するべき反射型共振器15の数を減らすことができる。よって、積層する誘電体基板7の数を多くするほど、フィルタ11d全体の面積をより削減できる。
【0066】
(無線通信装置の構成)
上述した第1~第5例のフィルタ11、11a、11b、11c、11dは、無線送信装置又は無線通信装置で使用することができる。無線通信装置は、送信機能だけを備えていてもよいし、送信機能及び受信機能を備えていてもよい。送信機能だけを有する無線通信装置は、無線送信装置と呼ばれることもある。以下では、送信機能及び受信機能を備える無線通信装置の内部構成の一例を示すが、送信機能だけを有する無線送信装置を構成することも可能である。
【0067】
図17Aは送信機能及び受信機能を備える無線通信装置31の概略構成を示すブロック図である。図17Aの無線通信装置31は、ベースバンド部32と、RF部33と、フィルタ34と、アンテナ35とを備えている。図17Aの無線通信装置31は、例えば5Gの無線通信を行う。
【0068】
ベースバンド部32は、アンテナ35で送信されるべき送信信号の変調処理を行うとともに、アンテナ35で受信された受信信号の復調処理を行う。ベースバンド部32の内部には、変調済みの送信信号をアナログ信号に変換するDAC32aと、受信信号をデジタル信号に変換するADC32bと、変調処理及び復調処理を行うベースバンド処理部32cとが設けられている。受信機能を持たない無線送信装置では、ADC32bを省略することができる。
【0069】
RF部33は、ベースバンド部32で変調処理を施したベースハンド信号を高周波信号に変換するためのミキサ33aと、アンテナ35で受信された高周波の受信信号を中間周波数信号に変換するためのミキサ33bと、局部発振器33cと、送信用の高周波信号を増幅するRFアンプ33dと、受信信号を増幅する低雑音アンプ(LNA)33eと、アンテナ35での送受を切り替える送受切替器33fとを有する。アンテナ35は、図17Bに平面図を示すように、平板状の複数のアンテナ素子(パッチアンテナとも呼ぶ)が縦横に配置された基板を有するアンテナ35を備えていてもよい。図17Bのアンテナ35は、AIM(Adaptive Impdedance Matching)システムを搭載した無線送信装置31で用いられる。AIMシステムは、ユーザと電波の伝搬状況を検出し、それに合った最適なマッチング状態を計算して適用する。
【0070】
図17Cは一変形例による無線通信装置31aの概略構成を示すブロック図である。図17Cの無線通信装置31aは、ベースバンド部32及びRF部33とアンテナ35が1:1の関係にあり、複数のアンテナ35に対応する複数のベースバンド部32及び複数のRF部33を設けた例を示している。
【0071】
フィルタ34は、RF部33とアンテナ35との間に接続されている。フィルタ34は、無線信号を送信する際には、帯域阻止フィルタとして機能する。また、アンテナ35で無線信号を受信する際には、ローパスフィルタ34として機能するフィルタ34を設けてもよい。フィルタ34は、パッチアンテナに対応して設けられ、各パッチアンテナに取り付けられてもよい。
【0072】
このように、上述した第1~第5例のフィルタ11、11a、11b、11c、11dに代表される本実施形態によるフィルタ34では、誘電体基板7に導電ビア5(第1導電ビア5a、第3導電ビア5b、及び第4導電ビア5c)を形成することにより、導波管構造6の導波路12と、反射型共振器15と、結合部16とを構成できるため、信号損失を抑制しつつ、小型かつ薄型の帯域阻止フィルタを作製できる。また、結合部16に設けられる第4導電ビア5cの位置を調整することにより、帯域阻止フィルタの周波数特性を制御できるため、帯域阻止フィルタの周波数特性を最適化することができる。
【0073】
さらに、遮断したい周波数帯域に応じて、第3導電ビア5bの位置を変えることで、反射共振器3のサイズや数、配置場所を変更することができ、所望の周波数帯域を遮断できる帯域阻止フィルタを実現できる。
【0074】
本実施形態による帯域阻止フィルタは、小型及び薄型にすることが可能なため、5Gの無線通信で使用されるパッチアンテナ35に取り付けることができ、5Gで使用する周波数帯域に隣接する周波数帯域への干渉を抑制できる。
【0075】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 帯域阻止フィルタ、2 伝送路、3 反射型共振器、4 導波管、5 導電ビア、5a 第1導電ビア、5b 第3導電ビア、5c 第4導電ビア、6 導波管構造、7 誘電体基板、8 導電層、8a 第1導電層、8b 第2導電層、9 導電ビア群、10 導電ビア群、11 帯域阻止フィルタ、12 導波路、13 入力部、14 出力部、15 反射型共振器、16 結合部、16a 結合孔、17 第1導電ビア群、18 第2導電ビア群、19 欠損部、21 第5導電ビア群、22 第6導電ビア群、23 第7導電ビア群、24 ピーク、31 無線通信装置、32 ベースバンド部、32c ベースバンド処理部、33 RF部、33a ミキサ、33b ミキサ、33c 局部発振器、33d RFアンプ、33e 低雑音アンプ(LNA)、33f 送受切替器、34 ローパスフィルタ、35 パッチアンテナ、110 フィルタ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C