(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】気管チューブ
(51)【国際特許分類】
A61M 16/04 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
A61M16/04 A
(21)【出願番号】P 2020504946
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007423
(87)【国際公開番号】W WO2019172029
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018040923
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000205007
【氏名又は名称】大研医器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅之
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-500085(JP,A)
【文献】特表2014-523326(JP,A)
【文献】米国特許第05660175(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/04
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の気管及び気管支に挿通される気管チューブであって、
外周面に貫通孔が設けられたチューブ本体と、前記チューブ本体の外周面に設けられ、前記気管支の内周面を押圧する気管支用カフと、を備え、
前記気管支用カフは、一定の外径及び内径を有する細長形状であり、前記チューブ本体の軸方向に間隔を空けて設けられると共に、複数の通気空間を形成し、
前記複数の通気空間は、前記気管支用カフの上端部と下端部との間に設けられ、且つ互いに連通し、
前記貫通孔は、前記通気空間に連通しており、
前記気管支用カフの膨張状態における
前記軸方向の幅は、葉気管支の内径よりも小さいことを特徴とする気管チューブ。
【請求項2】
前記気管支用カフは、連続した螺旋状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の気管チューブ。
【請求項3】
前記気管支用カフの上方又は下方の少なくとも何れか一方に、気密性を確保するための密閉カフが設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の気管チューブ。
【請求項4】
前記チューブ本体の外周面に、前記気管の内周面を押圧する気管用カフが設けられていることを特徴とする、請求項1~3の何れかに記載の気管チューブ。
【請求項5】
前記チューブ本体は、第一経路と、第二経路と、を有し、
前記気管支用カフは、前記第一経路の外周面に設けられ、
前記気管用カフは、前記第一経路と前記第二経路の外周面に設けられ、
前記第二経路は、前記気管支用カフと前記気管用カフとの間に開口端を有することを特徴とする、請求項4に記載の気管チューブ。
【請求項6】
前記貫通孔が、前記通気空間に複数連通していることを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載の気管チューブ。
【請求項7】
前記気管支用カフの膨張状態における、前記通気空間の
前記軸方向の長さは、葉気管支の内径よりも大きいことを特徴とする、請求項1~6の何れかに記載の気管チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者等の対象者の気管及び気管支に挿入されるチューブに係るものである。詳しくは、チューブの外周面にカフが設けられた気管チューブに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、呼吸器系の外科的処置を行う際に、対象者の呼吸状態を適切に制御及び維持するために、変形自在な可撓性のチューブが広く用いられてきた。
【0003】
通常、このようなチューブの外周面には、カフと呼ばれる風船状の部材が設けられている。また、カフは、チューブと別途に設けられている細孔と連通している。カフの膨張及び収縮は、この細孔からカフ内部への空気等作動流体の流入及び流出を制御することで、自在に行われる。
【0004】
医師等の使用者は、上記のように構成された気管チューブを対象者の気管に挿入し、カフを膨張させることで、カフの外面を対象者の気管の内周面に密着させる。このようにすることで、カフ及びチューブの位置が確実に固定される。また、気道の気密性が確保されることで、対象者の誤嚥やガスリークを防止することができる。
【0005】
気管チューブに係る発明として、例えば特許文献1に、チューブの外周面における離間した位置に、2つのカフが設けられた気管チューブが記載されている。このチューブの外周面における2つのカフの間には、側孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、このような気管チューブを用いて分離肺喚起を行う際には、ダブルルーメンチューブ(以下DLT)と呼ばれる、気管チューブが多用されている。
【0008】
DLTは、気管用チューブと気管支用チューブとを貼り合わせたような構造を有している。また、気管用カフと気管支用カフが、間隔を置いてチューブの外周面に設けられており、各カフの膨張収縮は、独立して制御される。
【0009】
使用者は、気管用チューブを気管分岐部上に、気管支用チューブを気管支まで挿入し、各カフを膨張させることで、片肺換気の状態を作ることができる。この場合、カフは気管支鏡等を使用して、適切な位置に固定する必要がある。
【0010】
ところで、人間の気管は、右主気管支と左主気管支とで、径や全長が異なり、葉気管支までの分岐距離も異なる。このため、DLTは、左用のものと右用のものが存在する。
【0011】
そして、通常は処置を行う部位に関わらず、左主気管支に気管支用チューブが挿入される、左用のDLTが用いられる。これは、右主気管支における上葉気管支までの分岐距離が、左主気管支と比較して短いことに起因している。即ち、右用のDLTは、気管支用カフを膨張させた後、気管チューブが移動することにより、右上葉気管支を閉塞してしまう恐れがある。
【0012】
しかし、解剖学的に、気管支用チューブは右主気管支に入り易く、左主気管支に入り難い。また、左肺全摘出等の処置を行う場合や、左主気管支に病変が存在する場合等には、右用のDLTが用いられる。このため、カフの位置決めが簡単で、気管チューブの移動による気管支からの脱離や、カフによる気管支上葉閉塞を防止するための、右用のDLTの開発が切望されていた。
【0013】
この点、右用のDLTに、特許文献1に記載の発明のような貫通孔を設けたとしても、この貫通孔を右上葉気管支に合わせて固定する必要がある。ここで、DLTの位置決めは、気管支鏡を用いて深さや位置を確認する繊細な作業であるため、正確な位置決めが困難となる。特に、術野確保のために対象者の体位を変化させた場合には、外力により、カフが一端固定した位置から動いてしまうため、円滑な施術の妨げとなる。
【0014】
本発明は上記のような実状に鑑みてなされたものであり、位置決めが容易に行え、気管支を不意に閉塞する恐れのない気管チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、
対象者の気管及び気管支に挿通される気管チューブであって、
外周面に貫通孔が設けられたチューブ本体と、前記チューブ本体の外周面に設けられ、前記気管支の内周面を押圧する気管支用カフと、を備え、
前記気管支用カフは、前記チューブ本体の軸方向に間隔を空けて設けられると共に、複数の通気空間を形成し、
前記通気空間は、互いに連通し、
前記貫通孔は、前記通気空間に連通していることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、葉気管支と、互いに連通した複数の通気空間の内の何れかと、を連通させることで、葉気管支を換気可能な状態とすることができる。即ち、厳密に貫通孔の位置を考慮し、位置決めをする労力が不要となる。また、各通気空間の軸方向両側には、気管支用カフが設けられている構成であるため、気管支とチューブ本体との間で、高い摩擦力が確保される。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記気管支用カフは、連続した螺旋状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
このような構成とすることで、気管支の内周面と気管支用カフの外周面との接触面積が増大し、気管支と気管支用カフとの間の摩擦力が向上する。即ち、本発明を、対象者の気管及び気管支に、より強固に固定することが可能となる。
また、気管支用カフの膨張収縮を制御するための細孔は、1つのみとなるため、気管チューブ自体の操作性及び製作性が向上する。
さらに、螺旋状とすることで、連続した通気空間を形成することが可能となる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記気管支用カフの上方又は下方の少なくとも何れか一方に、気密性を確保するための密閉カフが設けられていることを特徴とする。
【0020】
このような構成とすることで、気管支の内周面とチューブ本体の外周面との間の高い気密性を確保することが可能となる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記チューブ本体の外周面に、前記気管の内周面を押圧する気管用カフが設けられていることを特徴とする。
【0022】
このような構成とすることで、気管の内周面とチューブ本体の外周面との間を密閉することができる。これにより、使用者は、対象者の左右何れかの肺の動きを一時的に止め、分離肺喚起を行うことが可能となる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、
前記チューブ本体は、第一経路と、第二経路と、を有し、
前記気管支用カフは、前記第一経路の外周面に設けられ、
前記気管用カフは、前記第一経路と前記第二経路の外周面に設けられ、
前記第二経路は、前記気管支用カフと前記気管用カフとの間に開口端を有することを特徴とする。
【0024】
このような構成とすることで、本発明をDLTとして用いることができる。即ち、使用者は、左右の肺への空気等所定の流体の導入を、自在に制御することが可能となる。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記貫通孔が、前記通気空間に複数設けられていることを特徴とする。
【0026】
このような構成とすることで、葉気管支と外気との間の通気性を向上させることが可能となる。
【0027】
本発明の好ましい形態では、前記気管支用カフの膨張状態における幅は、葉気管支の内径よりも小さいことを特徴とする。
【0028】
このような構成とすることで、本発明の固定位置が変化した場合であっても、気管支用カフによる葉気管支の不意の閉塞を防止することが可能となる。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記気管支用カフの膨張状態における、前記通気空間の軸方向の間隔は、葉気管支の内径よりも大きいことを特徴とする。
【0030】
このような構成とすることで、貫通孔を大きく形成することができ、葉気管支と外気との間の通気性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、位置決めが容易に行え、気管支を不意に閉塞する恐れのない気管チューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係る気管チューブの概略斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る気管チューブの部分拡大斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る気管チューブの使用例を示す正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る気管チューブの使用例を示す正面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る気管チューブの使用例を示す正面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る気管チューブの使用例を示す正面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る気管チューブの変形例を示す部分拡大斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る気管チューブの変形例を示す部分拡大斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る気管チューブの変形例を示す部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、
図1~
図6を用いて、本発明の実施形態に係る気管チューブについて説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。
なお、これらの図において、符号1は、本実施形態に係る気管チューブを示す。
【0034】
図1に示すように、気管チューブ1は、チューブ本体11と、気管支用カフ12と、密閉カフ13と、気管用カフ14と、を備えている。
なお、後述する第一経路R1、第二経路R2、第一細孔T1及び第二細孔T2の、チューブ本体11内部における形状は、点線で示している。
【0035】
チューブ本体11は、対象者の気管まで挿入される主チューブ11aと、対象者の気管支まで挿入される枝チューブ11bと、を有している。
主チューブ11aの内部には、第一経路R1と、第二経路R2と、が形成されている。
枝チューブ11bの内部には、第一経路R1が、主チューブ11aの第一経路R1から延長されるようにして形成されている。また、枝チューブ11bの外周面には、複数の貫通孔Hが形成されている。
【0036】
主チューブ11aの上方には、第一経路R1の流入開口端R1a及び第二経路R2の流入開口端R2aが形成されている。流入開口端R1a及びR2aが、アダプタ(図示せず)を介して、機器(図示せず)に接続されることで、第一経路R1及び第二経路R2に、空気等所定の流体が導入される。
また、第一経路R1の流出開口端R1bは、枝チューブ11bの端部に形成されている。第二経路R2の流出開口端R2bは、主チューブ11aと枝チューブ11bの連結部に形成されている。
使用者は、流入開口端R1a及びR2aに、アダプタ(図示せず)を介して、機器(図示せず)を接続することで、各経路への空気等所定の流体の導入を、自在に制御できる。
【0037】
主チューブ11a及び枝チューブ11bの内部には、気管支用カフ12及び密閉カフ13に空気等所定の流体を供給するための第一細孔T1が、主チューブ11a及び枝チューブ11bの管壁に沿うようにして設けられている。そして、第一細孔T1の流出開口端T1bは、密閉カフ13の内部に形成されている。
さらに、主チューブ11aの内部には、気管用カフ14に空気等所定の流体を供給するための第二細孔T2が、主チューブ11aの管壁に沿うようにして設けられている。そして、第二細孔T2の流出開口端T2bは、気管用カフ14の内部に形成されている。
【0038】
第一細孔T1の流入開口端T1a及び第二細孔T2の流入開口端T2aには、例えば、弁機構を備えたパイロットバルーン(図示せず)等が接続される。このパイロットバルーン等により、第一細孔T1及び第二細孔T2を介して、気管支用カフ12、密閉カフ13及び気管用カフ14に、空気等所定の流体が供給される。
【0039】
チューブ本体11の材質は特に限定されないが、例えば、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610等のポリアミド樹脂またはポリアミドエラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー等のオレフィン系エラストマー、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタンおよびポリウレタンエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂およびフッ素樹脂系エラストマー、ポリイミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、シリコーンゴム等の、可撓性を有する高分子材料が好適に用いられる。また、これらの内1種または2種以上を組み合せて用いることもできる。
【0040】
このような材質で形成されることにより、チューブ本体11は、適宜な柔軟性と自立
保持性を有することとなる。
【0041】
気管支用カフ12及び密閉カフ13は、枝チューブ11bの外周面に設けられている。
また、気管用カフ14は、主チューブ11aの外周面に設けられている。
なお、各カフの、チューブ本体11の外周面への取り付けは、接着剤あるいは熱融着等により行なわれるが、特に限定されるものではない。
【0042】
気管支用カフ12、密閉カフ13及び気管用カフ14は、各種の高分子材料(特に、熱可塑性樹脂)により筒状の膜部材で構成されている。各カフは、全体として可撓性を有する材料で構成されることが好ましい。
【0043】
各カフの材質として、例えば、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610等のポリアミド樹脂またはポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、天然ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン、共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリイミド、ポリイミドエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、またはこれらのうち少なくとも一種を含むポリマーブレンド、ポリマーアロイ等が、好適に用いられる。
【0044】
このような材質で形成されることにより、各カフは、膨張時に気管や気管支の内周面からの反力により押し返されることが防止される。
【0045】
図2は、
図1において枝チューブ11bを拡大した斜視図である。
なお、隠れ線は点線で示しているが、第一経路R1については省略している。
【0046】
図2に示すように、気管支用カフ12は、一定の外径及び内径を有する細長形状であり、枝チューブ11bの軸方向に一定の間隔を空けて、螺旋状に設けられている。密閉カフ13は、気管支用カフ12の上方に、気管支用カフ12と一体となるように設けられている。また、密閉カフ13の内部が、気管支用カフ12の内部と連通している。
なお、気管支用カフ12及び密閉カフ13とは、別体に形成しても良い。この際、気管支用カフ12及び密閉カフ13、それぞれに対応した細孔を設けることで、使用者は、気管支用カフ12及び密閉カフ13の膨張収縮を、独立して制御することができる。
【0047】
ここで、枝チューブ11bの外周面において、気管支用カフ12が重畳していない面を露出面と称することとする。そして、枝チューブ11bの上方において、露出面が表出し始める点Sを、露出面形成始点Sとする。さらに、露出面形成始点Sから螺旋方向に360度回転した際の、枝チューブ11bの外形線L1を、露出線L1、露出線L1から螺旋方向に360度回転した際の、枝チューブ11bの外形線L2を、露出線L2、露出線L2から螺旋方向に360度回転した際の、枝チューブ11bの外形線L3を、露出線L3とする。
【0048】
次に、気管支用カフ12の外周面が当接される仮想の筒状体Xを想定した際、この筒状体Xの内周面と露出面との間は、閉じられた空間となる。そして、この閉じられた空間において、露出面形成始点Sから露出線L1までの露出面が含まれる空間を通気空間V1、露出線L1から露出線L2までの露出面が含まれる空間を通気空間V2、露出線L2から露出線L3までの露出面が含まれる空間を通気空間V3とする。
なお、筒状体Xは、例えば、後述する対象者の右主気管支WRや左主気管支WLに置き換えることができる。
【0049】
気管支用カフ12が螺旋状に設けられているため、通気空間V1、V2及びV3は、互いに連通されている。
通気空間の数は、特に限定されず、気管支用カフ12の、枝チューブ11bの外周面への巻き数を増大させることで、任意に増大させることができる。
【0050】
貫通孔Hは、通気空間V2に2つ、通気空間V3に1つ連通されている。
貫通孔Hの数は、特に限定されず、例えば通気空間V1に1つだけ連通されていても良いし、各通気空間に3つ以上連通されていても良い。
【0051】
以下、
図3~
図6を用いて、気管チューブ1の使用例について説明する。
【0052】
まず、
図3に示すように、使用者は、気管チューブ1を、各カフを収縮状態とし、対象者の気管W及び右主気管支WRに挿入する。詳述すれば、主チューブ11aは、気管Wに挿入され、枝チューブ11bは、気管Wを通過し、右主気管支WRに挿入される。
【0053】
次に、
図4に示すように、使用者は、第一細孔T1及び第二細孔T2を介して、気管支用カフ12、密閉カフ13及び気管用カフ14を膨張状態とする。
【0054】
これにより、気管用カフ14が、気管Wの内周面を押圧し、気管Wの内周面と主チューブ11aの外周面との間が密閉される。そして、対象者の左肺と外気とが、第二経路R2により連通されている状態となる。
【0055】
また、密閉カフ13は、右主気管支WRにおいて、右上葉気管支WRaより上方の位置の内周面を押圧する。気管支用カフ12は、右主気管支WRにおいて、右上葉気管支WRaから下方の位置の内周面を押圧する。
これにより、右主気管支WRの、右上葉気管支WRaを挟んで上方及び下方の内周面と枝チューブ11bの外周面との間が密閉される。そして、対象者の右肺と外気とが、第一経路R1により連通されている状態となる。さらに、右主気管支WRと右上葉気管支WRaとが、貫通孔Hを介して、第一経路R1により連通されている状態となる。
【0056】
図4において、右上葉気管支WRaは、通気空間V1及びV2と連通している状態となっている。また、気管支用カフ12の膨張状態における外径d2は、右上葉気管支WRaの内径d1よりも小さく構成されている。さらに、気管支用カフ12の膨張状態における、通気空間V2の軸方向の間隔d3は、右上葉気管支WRaの内径d1よりも大きく構成されている。
なお、成人の右上葉気管支WRaの内径は、通常6mm~7mm程度であるから、外径d2は6mm未満、間隔d3は(d2/4)mm以上とすることが好ましい。
【0057】
図5を用いて、気管チューブ1が所定位置に位置決めされた状態から、対象者の体位が変化した場合や、気管チューブ1に直接外力が作用した場合について説明する。
なお、気管チューブ1に直接外力が作用した場合とは、例えば、体位変換により気管支の形状が変形した場合、チューブ本体11の弾性力が作用した場合、蛇管の重み等で気管チューブ1が引っ張られた場合等が挙げられる。これらの場合において、気管チューブ1は、対象者の口元側に動く場合がある。
【0058】
図5に示すように、気管チューブ1が、
図4に示す状態から、対象者の口元側(矢印A方向)に移動したとする(
図5の左図から右図)。
この際、気管支用カフ12の膨張状態での外径d2は、右上葉気管支WRaの内径d1よりも小さいため、気管支用カフ12が右上葉気管支WRaを閉塞することがない。そして、右上葉気管支WRaは、通気空間V1、V2及びV3と連通している状態となる。
【0059】
図6に示すように、気管チューブ1が、
図5の右図に示す状態から、さらに、対象者の口元側(矢印A方向)に移動したとする(
図6の左図から右図)。
この際、右上葉気管支WRaは、通気空間V2及びV3と連通している状態となる。
【0060】
このように、本実施形態によれば、気管チューブ1が移動した場合であっても、右上葉気管支WRaが、常に通気空間V1、V2及びV3の何れかと連通するため、右上葉気管支WRaを不意に閉塞する恐れがない。
また、気管チューブ1の挿入時には、各通気空間V1、V2及びV3の何れかが、右上葉気管支WRaと連通すれば、右上葉気管支WRaを換気可能な状態とすることができる。即ち、厳密に貫通孔Hの位置を考慮し、位置決めをする労力が不要となる。
さらに、各通気空間の軸方向両側には、気管支用カフ12又は密閉カフ13が設けられている構成であるため、右主気管支WRと枝チューブ11bとの間で、高い摩擦力が確保される。
【0061】
また、気管支用カフ12が、連続した螺旋状に形成されていることで、右主気管支WRの内周面と気管支用カフ12の外周面との接触面積が増大し、右主気管支WRと気管支用カフ12との間の摩擦力が向上する。即ち、気管チューブ1を、対象者の気管W及び右主気管支WRに、より強固に固定することが可能となる。
さらに、気管支用カフ12の膨張収縮を制御するための細孔は、1つのみとなるため、気管チューブ1の操作性及び製造性が向上する。
【0062】
また、気管支用カフ12の上方に、気密性を確保するための密閉カフ13が設けられていることで、右主気管支WRの内周面と枝チューブ11bの外周面との間の高い気密性を確保することが可能となる。
【0063】
また、主チューブ11aの外周面に、気管Wの内周面を押圧する気管用カフ14が設けられていることで、気管Wの内周面と主チューブ11aの外周面との間を密閉することができる。これにより、使用者は、対象者の左右何れかの肺の動きを一時的に止め、分離肺喚起を行うことが可能となる。
【0064】
また、気管チューブ1は、DLTであり、使用者は、左右の肺への空気等所定の流体の導入を、自在に制御することが可能となる。
【0065】
また、気管支用カフ12の膨張状態における外径d2は、右上葉気管支WRaの内径d1よりも小さく構成されていることで、気管チューブ1の固定位置が変化した場合であっても、気管支用カフ12による葉気管支の不意の閉塞を防止することが可能となる。
【0066】
また、通気空間V1、V2及びV3の軸方向における間隔d3は右上葉気管支WRaの内径d1よりも大きく構成されていることで、貫通孔Hを大きく形成することができ、右上葉気管支WRaと外気との間の通気性を向上させることが可能となる。
【0067】
なお、前記実施形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって、設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0068】
例えば、
図7(a)に示すように、密閉カフ13は、
図2において示した通気空間V1を埋めるようにして、気管支用カフ12の上部と一体成型することにより形成しても良い。
また、
図7(b)に示すように、密閉カフ13は、枝チューブ11bに対して、気管支用カフ12を上方に向かって隙間なく螺旋状に巻き付けることにより形成しても良い。
【0069】
さらに、
図8に示すように、円環状の気管支用カフ12を、間隔を空けて複数(
図7では3つ)設けることもできる。このようにすると、密閉カフ13及び各気管支用カフ12の間の空間が、通気空間V4、V5、V6となる。
【0070】
このような構成とする場合、密閉カフ13と最下方の気管支用カフ12との間に設けられた気管支用カフ12に、不連続部Dを形成しておく。こうすることで、通気空間V4、V5及びV6は、互いに連通することとなり、
図1~
図6に示した気管チューブ1とほぼ同様の効果を奏することができる。
なお、
図8において、複数の気管支用カフ12に対応した細孔は、省略している。
【0071】
さらに、
図9(a)に示すように、枝チューブに密閉カフ13を設けず、気管支用カフ12のみを設ける構成としても良い。
また、
図9(b)に示すように、気管支用カフ12の主チューブ11a側端部及び流出開口端R1b側端部の双方に密閉カフ13を設ける構成としても良い。
また、
図9(c)に示すように、気管支用カフ12の流出開口端R1b側端部のみに密閉カフ13を設ける構成としても良い。
【0072】
なお、
図7~
図9において、隠れ線は点線で示しているが、第一経路R1については省略している。
【0073】
また、本発明は、膨張収縮が可能なカフを用いて外科的処置を行う際に用いる、全てのチューブに適用可能である。即ち、本発明は、気管や気管支に限らず、血管、胆管、食道、気道、尿道その他の臓器などの生体管腔、又は体腔の治療に使用される全てのチューブに適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
このように、本発明は、分離肺喚起等、呼吸器系の外科的処置を行う際に、位置決めが容易に行え、気管支を不意に閉塞する恐れがないことから、産業上の利用可能性が極めて高いものである。
【符号の説明】
【0075】
1 気管チューブ
11 チューブ本体
11a 主チューブ
11b 枝チューブ
12 気管支用カフ
13 密閉カフ
14 気管用カフ
R1 第一経路
R2 第二経路
T1 第一細孔
T2 第二細孔
H 貫通孔
W 気管
WR 右主気管支
WRa 右上葉気管支
WL 左主気管支
X 筒状体
D 不連続部
V1、V2、V3、V4、V5、V6 通気空間