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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】レンサ球菌感染防御のためのワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/09 20060101AFI20240124BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240124BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240124BHJP
   C12N 9/52 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
A61K39/09
A61P37/04
A61P31/04 171
C12N9/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020531969
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018084884
(87)【国際公開番号】W WO2019115743
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】17207758.8
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブス,アントニウス・アルノルドゥス・クリスティアーン
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-518367(JP,A)
【文献】国際公開第2017/005913(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-44
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチンを1回のみ投与することによりStreptococcus suisによる病原性感染から豚を防御する方法において使用するための、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原の免疫学的に有効な量を含むワクチンであって、該ワクチンが前記抗原を用量当たり4.4μg~120μg含み、前記方法が、最大28日齢で豚に前記ワクチンを投与することを含む、前記使用のためのワクチン。
【請求項2】
前記方法が、豚を離乳させる年齢前に前記ワクチンを投与することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用のためのワクチン。
【請求項3】
前記方法が、母体由来の抗Streptococcus suis抗体を有する豚に前記ワクチンを投与することを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の使用のためのワクチン。
【請求項4】
前記方法が、Streptococcus suisの病原性感染に関連する死亡に対する防御を付与するためのものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の使用のためのワクチン。
【請求項5】
前記方法が、Streptococcus suisの病原性感染に関連する臨床徴候に対する防御を付与するためのものであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の使用のためのワクチン。
【請求項6】
ワクチンを1回のみ投与することによって豚をStreptococcus suisの病原性感染から防御するためのワクチンの製造のためのStreptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原の使用であって、該ワクチンが、用量当たり4.4μg~120μgである免疫学的に有効な量のIgMプロテアーゼ抗原を含み、ワクチンが最大28日齢で豚に投与される、前記使用。
【請求項7】
Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原の免疫学的に有効な量を含むワクチンを1回だけ投与することにより、豚をStreptococcus suisの病原性感染から防御する方法であって、該ワクチンが用量当たり4.4μg~120μgの前記抗原を含み、最大28日齢で豚に投与される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Streptococcus suis(豚レンサ球菌)による病原性感染に対する豚の防御に関する。
【背景技術】
【0002】
Streptococcus suisは豚の共生および日和見病原体である。特にストレス下では、当該細菌は病原性感染を引き起こし、疾患を誘発する可能性がある。現代の養豚条件下では、例えば子豚の離乳や若齢子豚の輸送などにより大きなストレスが誘発される。これによりStreptococcus suisは主要な豚病原体となっている。また、それはヒト髄膜炎およびレンサ球菌毒素性ショック様症候群の新興人畜共通病原体でもある。Streptococcus suisは十分にカプセル化された病原体であり、莢膜多糖類抗原の多様性に基づいて複数の血清型が記載されている。Streptococcus suisは、病原性因子の武器を用いて宿主免疫系を回避する。まとめると、これらの特性は、この重要な病原体と戦うための有効なワクチン開発に対抗してきた。最近、Streptococcus suisに対するワクチンに関して総説論文が発表されている(Mariela Segura、“Streptococcus suis vaccines:candidate antigens and progress”、Expert Review of Vaccines、第14巻、第12号、1587-1608頁(2015))。この総説では、以下に概説するように、臨床現場情報と実験データを集計し、それらをStreptoccus suisに対するワクチン開発の現状を概観するために比較している。
【0003】
現在使用されているワクチンは、主に全細胞バクテリンである。しかし、現場の報告には疾病管理の困難さが記録されており、特に「ワクチンの失敗」は一般的である。保菌豚が主な感染源であり、垂直伝播と水平伝播の両方が群れ内での本疾患の拡大に関与している。離乳や輸送などのストレスの多い条件下で、キャリア動物と感受性動物を混合すると、通常は臨床疾患が生じる。早期に薬剤を投与して離乳したり、隔離して早期離乳を実践したりしても、Streptococcus suis感染を排除することはできない。したがって、疾病を防除するための効果的な防護対策は、予防/集団的発症防止処置(可能な場合)とワクチン接種にかかっている。現在、野外予防接種の取り組みでは、市販または自家バクテリンの使用に焦点が当てられている。これらのワクチン戦略は、子豚または雌豚のいずれかに適用されている。離乳期以降の子豚は、離乳や、その後一般的に行われる輸送に伴うストレスによって、Streptococcus suis感染症に罹りやすい。したがって、雌豚における分娩前免疫は、子豚に受動免疫を試み、伝達し、幼少期にこれらのストレスの多い状況下でStreptococcus suisに対する防御を提供するためにしばしば用いられる。さらに、雌豚へのワクチン接種は費用がかからず、労働集約的であるため、子豚へのワクチン接種に代わる経済的な方法となっている。しかしながら、入手可能な結果は、バクテリンによる雌豚のワクチン接種も論争の的であることを示しているように思われる。多くの場合、ワクチン接種した雌豚は、分娩前に2回ワクチン接種しても、ワクチン接種にほとんど反応しないか、まったく反応せず、その結果、同腹児に移行した母体免疫が低くなる。そして、たとえ母体免疫が十分なレベルで移入されたとしても、多くの場合、母体抗体が低すぎて、4~7週齢の最も重要な時期に防御ができない。
【0004】
豚では、現場で、特にヨーロッパで自家バクテリンが頻繁に使用されている。それらは臨床的に問題のある農場で分離された病原性株から調製し、同じ農場に適用する。自家バクテリンの欠点の1つは、ワクチンの安全性データが不足しており、重度の副反応が起こる可能性があることである。サンプリングミス(豚またはサンプルを1~2頭のみ使用することによる)は、最近の集団発生に関連する株または血清型の同定に失敗する可能性がある。この失敗は、風土病群では特に問題となる可能性がある。最後に、自家バクテリンの最も重要なジレンマは、その実際の有効性がほとんど研究されていないことである。自家ワクチンの適用は経験的であるため、これらのワクチンで得られた結果が一貫していないことは驚くにあたらない。
【0005】
他の実験的ワクチンも当該技術分野で記載されている。Kai-Jen Hsuehらは、“Immunization with Streptococcus suis bacterin plus recombinant Sao protein in sows conveys passive immunity to their piglets”(BMC Veterinary Research、BMC series-open,inclusive and trusted、13:15、2017年1月7日)において、サブユニット添加バクテリンが、子豚に対する防御免疫を付与するための雌豚のワクチン接種成功の基礎となる可能性を示している。
【0006】
当該技術分野では、弱毒化生ワクチンも考えられている。Streptococcus suis血清型2の非莢膜同質遺伝子変異体は、無毒性であることが明確に示されている。しかしながら、非莢膜血清型2変異体を用いた生ワクチン製剤は、死亡に対して部分的な保護しかもたらさず、野生株で攻撃した豚での臨床兆候の発達を阻止することができなかった(Wisselink HJ、Stockhofe-Zurwieden N、Hilgers LAら.、“Assessment of protective efficacy of live and killed vaccines based on a non-encapsulated mutant of Streptococcus suis serotype 2.”、Vet Microbiol.、第84巻、155-168頁(2002))。
【0007】
過去数年間に、抗原性または免疫原性のStreptococcus suis分子の広範なリストが報告されており、これらの大部分は、感染豚またはヒト由来の回復期血清および/または実験室産生免疫血清のいずれかを用いた免疫プロテオミクスによって発見されている。WO2015/181356(IDT Biologika GmbH)は、IgMプロテアーゼ抗原(全蛋白質または全蛋白質の約35%に相当する高度に保存されたMac-1ドメインのいずれか)を、バクテリンを含むプライムワクチン接種と任意に組み合わせて、IgMプロテアーゼ抗原を2回投与するワクチン接種計画において、子豚に防御免疫応答を誘発することができることを示した。WO2017/005913(Intervacc AB)も、IgMプロテアーゼ抗原(特に、ヌクレオチダーゼに融合したIgMプロテアーゼポリペプチド)の使用について記載しているが、血清反応を誘発することができるという特性のみが示されていることに留意されたい。IgMプロテアーゼ抗原についての保護効果は、当該国際特許出願において示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第WO2015/181356号
【文献】国際公開第WO2017/005913号
【0009】
【文献】Mariela Segura:“Streptococcus suis vaccines:candidate antigens and progress”、Expert Review of Vaccines、第14巻、第12号、1587-1608頁(2015)
【文献】Kai-Jen Hsuehら、“Immunization with Streptococcus suis bacterin plus recombinant Sao protein in sows conveys passive immunity to their piglets”、BMC Veterinary Research、BMC series-open,inclusive and trusted、13:15、2017年1月7日
【文献】Wisselink HJ、Stockhofe-Zurwieden N、Hilgers LAら.、“Assessment of protective efficacy of live and killed vaccines based on a non-encapsulated mutant of Streptococcus suis serotype 2.”、Vet Microbiol.、第84巻、155-168頁(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、Streptococcus suisによる病原性感染から豚を防御するための改良されたワクチン接種戦略を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的を満たすために、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原の免疫学的に有効な量を含むワクチンが、当該ワクチンを1回だけ投与することによって豚を保護する方法において使用するために考案されており、ここで、該ワクチンは前記抗原を用量当たり最大でも120μgを含む。
【0012】
このワクチンの抗原は、WO2015/181356およびWO2017/005913から知られている。しかし、ここで上述したように、これらの参考文献のいずれからも、そのようなIgMプロテアーゼ抗原が、ワンショットアプローチにおいて防御的免疫応答を誘発することができるかどうかは明らかではない。WO2015/181356では、2ショットワクチン接種アプローチがバクテリンと併用され、ここでは約250μgのIgMプロテアーゼが使用される。したがって、WO2015/181356から知られている用量の半分以下で、抗原のワンショットのみを投与することによって、IgMプロテアーゼ抗原そのものが豚をStreptococcus suisの病原性感染から防御する防御免疫応答を誘発することができるということは、驚きであった。この点に関して、当該技術分野において、非生Streptocossus suisワクチンが常にプライム-ブースト法で投与されてきたことを認識することは重要である。また、当該技術分野(WO2015/181356およびWO2017/005913参照)では、本発明で使用する抗原は、任意に多元ワクチン(すなわち、IgMプロテアーゼ抗原のみよりも多種)を使用する場合でさえも、2ショット投与アプローチでこの抗原を使用することを一貫して提案している。したがって、当該技術分野で使用されている量の半分以下を使用するようなIgMプロテアーゼ抗原の単回投与が、防御免疫を誘導することができることは非常に驚くべきことであった。
【0013】
本発明の新しいワクチン接種戦略には複数の利点がある。経済的な観点から、有意に少ない抗原を使用することが有利であるという事実の他に、より少ない抗原を含むワクチンの安全性は一般に改善される。抗原が多すぎると、アナフィラキシーショックなどの望ましくない免疫学的影響を引き起こす可能性がある。また、抗原を一度投与することが必要とされるだけであるため、ワクチン接種プロセスによる動物のストレスが少なくなる。
【0014】
本発明では、ワクチン中に120μg/用量を使用することで、有効な防御免疫応答が依然として得られることが実証された。したがって、定義によれば、1用量当たり120μgは、抗原の免疫学的に有効な量である。免疫学的に有効な量の下限は、共通の用量反応試験を実施し、望ましい防御(例えば、子豚の死亡率の低下)がどのような用量で依然として達成できるかを評価することによって設定することができる。したがって、下限は望ましい防御レベルによっても決定される。4.4μg程度の低用量でも、120~250μgを使用した場合と比較して、依然として同レベルの防御が得られ、したがって、防御応答の減少はまだ見られないという知見に基づいて、1μgまたは0.1μgの用量の抗原でさえ、依然として実際的な関連する防御効果が観察され得ることが予想される。したがって、本発明のワクチンについては、実用的な最小免疫学的有効量が、用量当たり0.1μgの抗原量であると考えられるが、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、または61~119の範囲で120μg/用量までの大きな整数値のような、より高いいずれかの投与量が本発明に則して使用され得る。
【0015】
また、本発明は、ワクチンを1回だけ投与することによってStreptococcus suisの病原性感染から豚を保護するためのワクチンの製造のためのStreptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原の使用にも関し、当該ワクチンは、多くても120μg/用量の免疫学的に有効な量のIgMプロテアーゼ抗原を含む。また、本発明は、免疫学的に有効な量のStreptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンを1回だけ投与することによって、Streptococcus suisの病原性感染から豚を保護する方法であって、当該ワクチンは、多くても120μg/用量の抗原を含む方法に関する。
【0016】
本発明によるワクチンにおいて、抗原は、典型的には、薬学的に許容可能な担体、すなわち生体適合性媒質、すなわち投与後に対象動物に重大な副反応を誘発せず、ワクチン投与後に宿主動物の免疫系に抗原を提示することができる媒質と結合されることに留意する。そのような薬学的に許容可能な担体は、例えば、水および/または任意の他の生体適合性溶媒を含む液体、または凍結乾燥ワクチン(糖および/またはタンパク質に基づく)を得るために一般的に使用されるような固体担体であってよく、任意に免疫刺激剤(アジュバント)を含む。任意に、安定剤、粘度調整剤または他の成分のような他の物質を、ワクチンの意図された用途または必要とされる特性に応じて添加する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
ワクチンは、対象動物に投与することが安全であり、病原性微生物に対するその動物の防御免疫を誘導すること、すなわち、微生物に対する防御の成功を誘導することができる医薬組成物である。
【0018】
Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原は、豚IgM(豚IgGまたは豚IgAではない;Seeleら、Journal of Bacteriology、第195巻、930-940頁(2013);およびVaccine 33:2207-2212;2015年5月5日)を特異的に分解する酵素であり、IdeSsuisと表されるタンパク質、またはその免疫原性部分(典型的には全長酵素の少なくとも約30~35%の長さを有する)である。酵素全体は、約1000~1150アミノ酸に相当する約100~125kDaの重量を有し、そのサイズはS.suisの血清型に依存する。WO2015/181356には、Streptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原を表すいくつかの配列、すなわち配列番号:1、配列番号:2、配列番号:6、配列番号:7および配列番号:5であり、後者は完全長酵素の免疫原性部分である(Mac-1ドメイン、すなわち、配列番号:7のアミノ酸80-414として表される)ものが記載されている。全長酵素の免疫原性部分の他の例は、WO2017/005913に記載されている。特に、IgMプロテアーゼは、WO2015/181356の配列番号:1によるプロテアーゼ、または重複領域において少なくとも90%、または91、92、93、94、95、96、97、98、99%から100%までの配列同一性を有するタンパク質であってもよい。アミノ酸配列の同一性は、BLASTプログラムを用いて、初期パラメータを有するblastpアルゴリズムを用いて確立することができる。様々な血清型のStreptococcus suisのIgMプロテアーゼは、90%より高い配列同一性を有すると予想され、特に100%までの91、92、93、94、95、96、97、98、99%と予想される。例えば、抗原の組換え産生系において収率を最適化するために作られた人工タンパク質は、必要とされる免疫原性機能を維持しながら、酵素全体と比較して85%、80%、75%、70%またはさらに60%のような低いアミノ酸配列同一性に導くことができ、本発明の意味でStreptococcus suisのIgMプロテアーゼ抗原であると理解される。
【0019】
微生物による病原性感染に対する防御は、その微生物による病原性感染、またはその感染から生じる障害を予防、改善または治癒するのに役立つ。それは、例えば、病原体による感染から生じる1つ以上の臨床徴候を予防または軽減するためのものである。
【0020】
ワクチンが1回だけ投与されるワクチン接種方法は、ワクチンの1回だけのショット後に防御免疫が付与されることを意味し、したがって、前記防御免疫を達成するための追加ワクチン接種が省略される。2ショット法では、最初の(プライム)ワクチン接種は、典型的には、最初の投与から6週間以内に、一般的には最初の投与から3または2週間以内に追加免疫され、当該2回目の(ブースト)投与後にのみ、防御免疫、すなわち上記で定義された成功的防御が得られると理解される。
【0021】
抗原の免疫学的に有効な量とは、対象動物において防御免疫を誘発することができる量である。
【0022】
本発明の実施形態
本発明による使用のためのワクチンの実施形態では、本発明の方法は、ワクチンを多くても28日齢で豚に投与することを含む。当該技術分野では、豚は、特に28日齢より若齢でワクチン接種を受けた場合、成熟した適応免疫系を有しておらず、したがって防御免疫に到達することが損なわれる可能性があるという一般的な懸念がある。しかし、新たなワクチン接種戦略(低用量、ワンショット)に沿ってIgMプロテアーゼ抗原を用いると、十分な防御免疫を惹起できることがわかった。IgMプロテアーゼ抗原によるワクチン接種の日齢は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27または28日のいずれの日齢でもよい。当該技術分野で、特にWO2017/005913から知られているように、IgMプロテアーゼ抗原に対する免疫応答の陽性化を出生日以降からの若齢豚において得ることができる。このことは、3週齢豚における実際の防御の示す本発明により、より若い年齢でも防御が得られることが理解されることを意味している。
【0023】
別の実施形態では、本発明の方法は、豚を離乳させる年齢前にワクチンを投与することを含む。すなわち、子豚を実際に離乳させる前にワクチンを投与する。この早い年齢でのワクチン接種は、離乳直後の2~3週間という短い期間内にストレスによって誘発されるStreptococcus suisの病原性感染を防御できることが示された。これは事前に予想されなかったことであり、その理由は、離乳後2~3週間の臨界期(すなわちワクチン接種時に5~7週齢)を経過した動物については、離乳により動物がストレスを受けた期間のかなり後になってから、それなりに可能性のあるIgMプロテアーゼ抗原の防御効果が知られていた(WO2015/181356参照)だけだったからである。Streptococcus suisの病原性感染を発症する臨界期は、離乳直後であることが知られている。したがって、離乳過程が完了し、もはやストレスが関与しなくなった後の健康な動物におけるワクチン接種戦略の成功は、動物を離乳させる前にStreptococcus suisに対するワクチン接種が成功することの証拠とはならない。
【0024】
さらに別の実施形態では、本発明の方法は、母体由来の抗Streptococcus suis抗体を有する豚にワクチンを投与することを含む。非常に若齢の豚への積極的なワクチン接種は、雌豚の自然感染または能動免疫によって産生される母体抗体に対する干渉の可能性が懸念されている(Baums CG、Bruggemann C、Kock Cら、“Immunogenicity of an autogenous Streptococcus suis bacterin in preparturient sows and their piglets in relation to protection after weaning”、Clin Vaccine Immunol.、第17巻:1589-1597頁(2010))。実際、授乳豚へのワクチン接種も、免疫化した雌豚から離乳した子豚へのワクチン接種も、顕著な能動免疫応答および8週齢での防御と関連していなかった。この失敗は、母体抗体または他の初乳成分の強い阻害作用と関連していた。この点に関して、S.suisカプセル1/2型自家ワクチン製剤(Lapoint L、D‘Allaire S、Lebrun Aら、“Antibody response to an autogenous vaccine and serologic profile for Streptococcus suis capsular type 1/2.”、Can J Vet Res.、第66巻、8-14頁(2002))を接種した後の野外試験においても、母体抗体とS.suisに対する活性的な抗体産生との干渉が実証された。4日齢の哺乳子豚におけるS.suis血清型14バクテリンの単回投与プロトコールの有効性を明らかにすることを目的とした野外研究でも、同種攻撃から子豚を防御することはできなかった(Amass SF、Stevenson GW、Knox KEら、“Efficacy of an autogenous vaccine for preventing streptococcosis in piglets”、Vet Med.、第94巻、480-484頁(1999))。驚くべきことに、IgMプロテアーゼ抗原を低用量で使用し、該抗原のワンショットのみを投与することによって、母体の抗S.sui
s抗体による干渉は、Streptococcus suisによる病原性感染に対する防御を達成する際に問題とならないことがわかった。これは、免疫化された母動物の初乳を介して得られる短期間の受動的防御に依存する代わりに、子豚自身にワクチン接種し、能動的防御を誘導する独特の選択肢を提供する。離乳ストレスや、離乳実施直後または間もないうちの若齢動物の輸送によって誘発されるStreptococcus suisに起因する疾患を防御するために、子豚を離乳させる前にでさえワクチン接種を行い得ることが示された。今回初めて、高齢動物(典型的には母体由来抗体(MDA)の干渉が問題ではない)において潜在的な防御効果を有することが示されていた抗原が、MDA陽性動物にワクチン接種して幼年時(典型的には離乳後2~3週間の期間)のストレスによって誘発される疾患に対する明確な防御効果を達成するために有用であることが示された。WO2015/181356のデータは、5~7週齢でワクチン接種し9週齢で攻撃感染を受けた子豚におけるものであるから、離乳後2~3週齢、すなわち5~7週齢のリスク期間(病原性Streptococcus suis感染症のピーク発生期間)のかなり後にワクチン接種が成功したことを示しているにすぎないことに留意されたい。そこには、IgMプロテアーゼ抗原が母体免疫の妨害という一般的な問題を克服できるかどうかについての示唆はない。反対に、5~7週齢で動物にワクチン接種するのを選択したことは、MDAの干渉がある場合には、その干渉を避けるように意図していたことを明確に示している。
【0025】
さらに別の実施形態では、本発明のワクチンは、Streptococcus suisによる病原性感染に関連する死亡に対する防御を付与するためのものである。
【0026】
さらに別の実施形態では、本発明のワクチンは、Streptococcus suisによる病原性感染に関連する臨床徴候に対する防御を付与するためのものである。Streptococcus suisの病原性感染に関連する典型的な臨床徴候は、直腸温の上昇、運動障害(ふるえ、関節の腫脹)、呼吸数の増加および神経学的徴候(振戦、痙攣、斜頸、運動失調など)である。これらの徴候の1つ以上を予防、改善および治癒することは、それが単に病原性感染が抑制されていることの指標というだけのことでなく、豚にとって有益であろう。
【0027】
以下、次の非限定的な例に基づいて本発明をさらに説明する。
【実施例
【0028】
実施例1
本実験の目的は、Streptococcus suis攻撃に対する、ワンショット低用量(用量あたり120μg以下;牛血清アルブミンを標準とするBradford蛋白質アッセイにより測定)のIgMプロテアーゼワクチンの用量反応効果を検証することであった。
【0029】
研究デザイン
本研究には、3週齢の子豚50頭を用いた。子豚を各10頭ずつ5群(各群に均等に分布する異なる同腹児)に割り付けた。第1群~第4群には、油中水アジュバントに配合した、1用量あたり組換型rIdeSsuis IgMプロテアーゼ抗原(使用抗原についてはSeele、Vaccine 33:2207-2212の2.2項参照)の各120μg、40μg、13.3μg及び4.4μgのワクチン用量のいずれかを3週齢で1回筋肉内接種した。第5群はワクチン未接種の攻撃感染対照として残した。4週齢で子豚を離乳させた。6週齢時に、子豚を攻撃室に搬送し、直ちに攻撃感染させた。輸送と自然ストレスを模倣する攻撃感染の間に馴化期間はなかった。攻撃誘発後、豚にS.suis感染の臨床徴候(うつ病、運動障害および/または神経学的徴候など)を毎日観察し、0(徴候なし)から重症例が3までの定期的なスコアリングシステムを用いてスコア化した。重度に罹患した動物を安楽死させ、剖検を行った。試験終了時(攻撃感染7日後)に、生存豚全頭を安楽死させ、剖検を行った。ワクチン接種および攻撃感染の直前に、抗体測定のために血清血液を採取した。攻撃感染前後の定期的な時期に、攻撃感染株の再分離のためにヘパリン血液を採取した。
【0030】
結果
いずれのワクチンも、許容できない部位または全身反応を誘発しなかったため、安全であると考えることができた。ワクチン接種当日(3週齢)には、ほとんどの豚が血清陰性であるか、母体由来の抗体価が低かった。ワクチン接種後、すべてのワクチン群が抗体反応を示し、明確な血清学的用量反応作用が観察され、平均群力価はそれぞれ6.5、6.0、4.9、4.4および3.5logであった。攻撃感染後の様々なパラメータの結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
結論
この結果は、ワンショットIgMプロテアーゼワクチンの4つのワクチン用量のすべてが、部分的に(平均で約20%)MDA陽性の3週齢の子豚において、ワクチン接種3週間後の病原性Streptococcus suisによる攻撃感染に対して防御を誘導したことを実証している。保護のレベルは、1ショット当たり250μgのIgMプロテアーゼを用いた2ショットアプローチ(WO2015/181356で使用されるように、動物当たり合計500μg)を使用した場合に得られる保護のレベルに対応するようであった。用量反応効果は観察されず、4.4μg程度の低いワクチン用量は、120μgの抗原を使用した場合と少なくとも同じ(または、より良好な)レベルで、確かな防御を示した。これに基づいて、1.0μgまたは0.1μg程度の低用量でさえ、IgMプロテアーゼの最低実用量となし得ると考えられる。
【0033】
実施例2
Streptococcus suisに対する豚の防御は、動物がStreptococcus suisに対する母体由来抗体を有する場合でも得られることが望ましいため、母体由来の抗Streptococcus suis陽性豚において、IgMプロテアーゼ含有ワクチンがワンショットワクチンとして有効であるかどうかを3週齢で評価した。
【0034】
研究デザイン
本研究では、2群10頭ずつの豚を用いた。第1群は3週齢の抗Ssuis MDA陽性子豚から構成された(MDAレベルが検出限界以下らしかった動物は10頭中1頭のみであった)。これらの動物に、水中油型アジュバントに配合されたIgMプロテアーゼ抗原を1回筋肉内接種した。第2群は陰性攻撃感染対照群とした。4週齢で子豚を離乳させた。6週齢時に、子豚を攻撃室に搬送し、直ちに攻撃感染させた。子豚にStreptococcus suis血清型2の病原性培養物を攻撃感染させた。攻撃感染前後の定期的な時期に、攻撃感染株の再分離のためにヘパリン血液を採取した。攻撃感染後、豚のS.suis感染の臨床徴候を毎日観察した。重度に罹患した動物を安楽死させ、剖検を行った。試験終了時(攻撃感染7日後)に、生存豚全頭を安楽死させ、剖検を行った。
【0035】
結果
ワクチンは許容できない部位や全身反応を誘発しなかった。安楽死(7日目)前の期間の攻撃感染後のデータを表2に示す。攻撃感染当日、第2群の豚1頭は発育不良であると思われ、この動物には攻撃感染しないこととした。平均臨床スコア、攻撃感染後の死亡動物数および血液から病原体の再分離がされた動物数は、ワクチン接種により有意に改善された。
【0036】
【表2】
【0037】
結論
結論として、本結果は、IgMプロテアーゼ抗原を1回だけ投与することにより、ワクチン接種後3週間、離乳後2週間および輸送直後に動物を攻撃感染しても、Streptococcus suisの病原性感染に対する十分な防御を、25日齢のMDA陽性子豚において誘導できることを実証している。この結果は250μgの用量で実証されているが、実施例1は、抗原が4.4μgという低用量の抗原用量で同レベルの防御、またはより強力な、最良レベルでさえある防御を誘導することができることを示しているので、120μg以下の用量で、MDA陽性子豚における防御を目的とする場合にも、同等の結果が得られることが理解される。