(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】炭素繊維シート材、プリプレグ、成形体、炭素繊維シート材の製造方法、プリプレグの製造方法および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240124BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20240124BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20240124BHJP
D21H 13/50 20060101ALI20240124BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C08J5/24
B29B11/16
D04H1/4242
D21H13/50
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2020538485
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033031
(87)【国際公開番号】W WO2020040287
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2018157704
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 徹
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-028151(JP,A)
【文献】特開2017-160559(JP,A)
【文献】特開2017-128705(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086682(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/097436(WO,A1)
【文献】特開2017-133131(JP,A)
【文献】特開2014-051023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10,5/24
B29B 11/16,15/08-15/14
D04H
D21H 13/50
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のリサイクルされた炭素繊維と、
前記炭素繊維を結合するバインダーとを含み、
前記炭素繊維
は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で
、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とする炭素繊維シート材。
【請求項2】
請求項
1に記載の炭素繊維シート材に、樹脂材料を含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項3】
複数本のリサイクルされた炭素繊維と、
複数本の樹脂繊維と
、
前記炭素繊維、前記樹脂繊維を結合するバインダーと
を含み、
前記炭素繊維
は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で
、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
前記樹脂繊維の平均長さが2.0mm以上20mm以下である請求項
3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記炭素繊維の含有率をX
RCF[質量%]、前記樹脂繊維の含有率をX
RF[質量%]としたとき、0.22≦X
RCF/X
RF≦28の関係を満足する請求項
3または
4に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記炭素繊維の平均長さをL
RCF[mm]、前記樹脂繊維の平均長さをL
RF[mm]としたとき、0.4≦L
RF/L
RCF≦20の関係を満足する請求項
3ないし
5のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項7】
請求項
2ないし
6のいずれか1項に記載のプリプレグを加熱加圧成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項8】
複数本のリサイクルされた炭素繊維と、該炭素繊維を結合するバインダーとを混抄する工程を有
し、
前記炭素繊維は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記工程に供される組成物は、前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とする炭素繊維シート材の製造方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の方法を用いて製造された炭素繊維シート材に、樹脂材料を含浸させる工程を有することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項10】
複数本のリサイクルされた炭素繊維と、複数本の樹脂繊維と、前記炭素繊維、前記樹脂繊維を結合するバインダーとを混抄する工程を有
し、
前記炭素繊維は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記工程に供される組成物は、前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項11】
請求項
9または
10に記載の方法を用いて製造されたプリプレグを加熱加圧成形する工程を有することを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維シート材、プリプレグ、成形体、炭素繊維シート材の製造方法、プリプレグの製造方法および成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化シート材やこれを用いた繊維強化樹脂成形体は、車両や航空機等の各種分野に使用されている。特に、繊維強化プラスチック(FRP)は、埋設される強化繊維でプラスチックが補強されることから、プラスチック単体では到底に実現できない優れた強度を実現することができる。
【0003】
中でも、特に優れた物性を有する炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)が注目されている(特許文献1参照)。
【0004】
従来のCFRPでは、炭素繊維の優れた物性を生かすため、長い炭素繊維が用いられ、炭素繊維を織物として用いることが多かった。
【0005】
しかしながら、このようなCFRPでは、プリプレグ等のシート材から、所定の三次元構造を有する成形体を製造する際の成形性に劣るという問題があった。また、製造された成形体においては、繊維と樹脂材料との分布に不本意なばらつきを生じやすく、例えば、成形体の表面付近に、炭素繊維が多く露出している領域と、炭素繊維の露出量が少なく樹脂材料が多く露出している領域とが併存する場合があり、局所的な強度が低下する等の問題があった。
【0006】
また、資源の有効利用等の観点から、炭素繊維についてもリサイクルを行うことが求められている。
【0007】
しかしながら、従来においては、リサイクルされた炭素繊維を用いた場合、満足のいく強度や信頼性が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、強度、信頼性に優れた成形体を提供すること、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができるプリプレグを提供すること、それ自身の強度、信頼性に優れるとともに、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができる炭素繊維シート材を提供すること、また、これらを安定的に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)~(11)に記載の本発明により達成される。
(1) 複数本のリサイクルされた炭素繊維と、
前記炭素繊維を結合するバインダーとを含み、
前記炭素繊維は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とする炭素繊維シート材。
【0015】
(2) 上記(1)に記載の炭素繊維シート材に、樹脂材料を含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
【0016】
(3) 複数本のリサイクルされた炭素繊維と、
複数本の樹脂繊維と、
前記炭素繊維、前記樹脂繊維を結合するバインダーとを含み、
前記炭素繊維は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とするプリプレグ。
【0017】
(4) 前記樹脂繊維の平均長さが2.0mm以上20mm以下である上記(3)に記載のプリプレグ。
【0018】
(5) 前記炭素繊維の含有率をXRCF[質量%]、前記樹脂繊維の含有率をXRF[質量%]としたとき、0.22≦XRCF/XRF≦28の関係を満足する上記(3)または(4)に記載のプリプレグ。
【0019】
(6) 前記炭素繊維の平均長さをLRCF[mm]、前記樹脂繊維の平均長さをLRF[mm]としたとき、0.4≦LRF/LRCF≦20の関係を満足する上記(3)ないし(5)のいずれかに記載のプリプレグ。
【0024】
(7) 上記(2)ないし(6)のいずれかに記載プリプレグを加熱加圧成形してなることを特徴とする成形体。
【0025】
(8) 複数本のリサイクルされた炭素繊維と、該炭素繊維を結合するバインダーとを混抄する工程を有し、
前記炭素繊維は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記工程に供される組成物は、前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とする炭素繊維シート材の製造方法。
【0026】
(9) 上記(8)に記載の方法を用いて製造された炭素繊維シート材に、樹脂材料を含浸させる工程を有することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【0027】
(10) 複数本のリサイクルされた炭素繊維と、複数本の樹脂繊維と、前記炭素繊維、前記樹脂繊維を結合するバインダーとを混抄する工程を有し、
前記炭素繊維は、リサイクル原料に、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理とを行うことにより得られたものであり、その平均長さが1.0mm以上10mm以下で、その表面に、当該炭素繊維のリサイクル原料由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物として付着したものであり、
前記炭素繊維の表面への前記付着物の被覆率が2%以上40%以下であり、
前記工程に供される組成物は、前記付着物により、複数本の前記炭素繊維が結合し、束状になった束状体を含み、
前記束状体の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が2以上500以下であることを特徴とするプリプレグの製造方法。
【0028】
(11) 上記(9)または(10)に記載の方法を用いて製造されたプリプレグを加熱加圧成形する工程を有することを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、強度、信頼性に優れた成形体を提供すること、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができるプリプレグを提供すること、それ自身の強度、信頼性に優れるとともに、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができる炭素繊維シート材を提供すること、また、これらを安定的に製造することができる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の炭素繊維シート材の好適な実施形態を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の炭素繊維シート材の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、本発明のプリプレグの第1実施形態を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明のプリプレグの第2実施形態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。また、本明細書において、「シート材」とは、単体のシート材のほか、これらを複数層に積層した積層体、マット状、塊状の形態のものを含む意味で使用する。
【0032】
[炭素繊維シート材]
まず、本発明の炭素繊維シート材について説明する。
【0033】
図1は、本発明の炭素繊維シート材の好適な実施形態を模式的に示す平面図、
図2は、本発明の炭素繊維シート材の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図である。なお、
図2中、付着物2、バインダー20の図示は省略した。
【0034】
炭素繊維シート材100は、複数本のリサイクルされた炭素繊維1と、炭素繊維1を結合するバインダー20とを含む。そして、炭素繊維1の平均長さが1.0mm以上10mm以下である。
【0035】
このような構成により、強度、信頼性に優れた炭素繊維シート材100を提供することができる。また、このような炭素繊維シート材100は、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに好適に用いることができる。
【0036】
より詳しく説明すると以下のとおりである。すなわち、炭素繊維1が所定の範囲の長さを有していることにより、炭素繊維シート材100や成形体の強度等を十分に優れたものとしつつ、加熱加圧成形時の成形性(曲げ等の加工性)を優れたものとすることができる。また、炭素繊維1が必要以上に長くないため、成形時における不良の発生(例えば、繊維と樹脂材料との分布の不本意なばらつきによる局所的な強度の低下、外観不良等)を効果的に防止することができる。また、成形不良を生じにくいため、微細な構造を有する成形体や曲率半径の小さい部位を有する成形体の製造にも好適に適用することができる。また、熱履歴を受けた場合でも内部応力がたまりにくく、寸法精度を優れたものとすることができ、また、成形体の使用時における不本意な変形等も生じにくい。また、リサイクルされた炭素繊維は、一般に、リサイクル時に形成された破断部が比較的荒れた状態になりやすく、繊維同士の絡み、引っ掛かり等が起こりやすくなるとともに、バインダー20等の樹脂材料との密着性も優れたものになりやすい。また、リサイクルされた炭素繊維は、そのリサイクル条件により、後述するような付着物2の付着量(被覆率)や構成材料、所定の形状の束状体10の形成等を好適に制御することができ、炭素繊維シート材100や成形体等の品質を安定的かつ容易に優れたものとすることができる。このように、炭素繊維としてリサイクルされた炭素繊維を用いることによる効果と、炭素繊維の平均長さを所定の範囲に調整することによる効果とが相乗的に作用して、上記のような優れた効果が得られるものと考えられる。
【0037】
また、成形体の製造時に優れた成形性が得られるため、成形体の製造条件(例えば、温度、圧力等)を緩和することができる。したがって、製造装置として簡易な構成のものを用いたり、製造装置への負荷を抑制し、製造装置の長寿命化を図ったりすることができる。また、成形体の生産コスト抑制の観点からも有利である。
【0038】
また、炭素繊維の含有率を高めても、優れた成形性を維持することができるため、樹脂材料の含有率を低くすることができ、成形体において、炭素繊維が有している優れた性質(例えば、強度、熱伝導性、導電性等)をより効果的に発揮させることができる。
【0039】
また、リサイクルされた炭素繊維1を用いることにより、省資源、環境負荷の低減等の観点からも好ましい。
【0040】
これに対し、上記のような条件を満足しないと上記のような優れた効果は得られない。
例えば、リサイクルされた炭素繊維を用いないで、その代わりにバージンの炭素繊維を用いた場合、炭素繊維の端部の形状を好適なものに制御することや束状体の形成が困難であり、また、炭素繊維の表面に強固に付着物を付着させることが困難である。
【0041】
また、炭素繊維の平均長さが前記下限値未満であると、炭素繊維シート材、成形体等の強度を十分に優れたものとすることができない。
【0042】
また、炭素繊維の平均長さが前記上限値を超えると、成形時における不良等が発生しやすくなり、炭素繊維シート材、成形体等の信頼性を十分に優れたものとすることができない。
【0043】
なお、本発明において、繊維の平均長さとしては、例えば、無作為に選択した顕微鏡観察の視野中に含まれる繊維を無作為に100本抽出し、これらの長さの平均値を採用することができる。なお、1つの視野中に100本の繊維が含まれない場合、異なる複数の視野において、合計100本の繊維を無作為に抽出し、これらの長さの平均値を、平均長さとして採用することができる。
【0044】
(リサイクルされた炭素繊維)
前述したように、炭素繊維シート材100は、リサイクルされた炭素繊維1を含むものである。
【0045】
炭素繊維1の平均長さ(後述するプリプレグ200、成形体に含まれる炭素繊維1の平均長さについても同様)は、1.0mm以上10mm以下であればよいが、1.5mm以上9.0mm以下であるのが好ましく、2.0mm以上8.0mm以下であるのがより好ましく、2.5mm以上7.5mm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0046】
炭素繊維1の平均幅(後述するプリプレグ200、成形体に含まれる炭素繊維1の平均幅についても同様)は、1.0μm以上20μm以下であるのが好ましく、2.0μm以上18μm以下であるのがより好ましく、3.0μm以上15μm以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
なお、本明細書において、繊維の平均幅としては、例えば、無作為に選択した顕微鏡観察の視野中に含まれる繊維を無作為に100本抽出し、これらの幅の平均値を採用することができる。なお、1つの視野中に100本の繊維が含まれない場合、異なる複数の視野において、合計100本の繊維を無作為に抽出し、これらの幅の平均値を、平均幅として採用することができる。
【0048】
炭素繊維1は、リサイクルされたものであればよいが、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)からリサイクルされたものであるのが好ましい。
【0049】
CFRPには、一般に良質の炭素繊維が用いられており、CFRPからリサイクルされた炭素繊維1を用いることにより、炭素繊維シート材100、成形体等の品質をより優れたものとすることができる。また、CFRPをリサイクル原料として用いることにより、後述する束状体10の形成や、付着物2の組成や付着量等の調整をより好適に制御することができる。
【0050】
炭素繊維1は、いかなる方法でリサイクルしてもよいが、例えば、破砕・粉砕したリサイクル原料に熱処理を施すことにより、好適に得ることができる。
【0051】
リサイクル原料に対する熱処理条件は、特に限定されないが、例えば、空気雰囲気下での300℃以上400℃以下の温度の第1の加熱処理(主として、樹脂材料の熱分解を目的とする熱処理)と、空気雰囲気下での400℃以上600℃以下の温度の第2の加熱処理(主に、炭化した残留物の除去を目的とする熱処理)とを行うことにより、上記のような条件を満足する炭素繊維1を好適に得ることができる。
【0052】
なお、炭素繊維1としては、異なる条件でリサイクルした複数種の炭素繊維を用いてもよい。
【0053】
本実施形態では、炭素繊維1は、その表面に、炭素繊維1のリサイクル原料(例えば、CFRP等)由来の有機成分および/または当該有機成分の炭化物が付着物2として付着したものである。
【0054】
このような付着物2は、一般に、バージンの炭素繊維に後処理として付着させた付着物に比べて、炭素繊維に対する密着性に優れている。また、このような付着物2は、バインダー20や樹脂材料(含浸樹脂)30等との親和性に優れている。したがって、炭素繊維シート材100、成形体等の強度、信頼性のさらなる向上を図る上で有利である。また、炭素繊維1の表面に付着物2が付着していることにより、後述する束状体10をより好適に形成することができ、束状体10の強度、安定性をより優れたものとすることができる。
前記有機成分としては、例えば、サイジング剤、マトリックス樹脂等が挙げられる。
【0055】
炭素繊維1の表面への付着物2の被覆率(後述するプリプレグ200、成形体に含まれる第2の炭素繊維11の表面への付着物2の被覆率についても同様)は、特に限定されないが、2%以上40%以下であるのが好ましく、4%以上30%以下であるのがより好ましく、6%以上20%以下であるのがさらに好ましい。
【0056】
これにより、炭素繊維シート材100や成形体の強度、信頼性をより向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、複数本の炭素繊維1が結合し、束状になった束状体10を含んでいる。
【0058】
これにより、炭素繊維シート材100や成形体の強度、信頼性をより向上させることができる。
【0059】
特に、本実施形態では、付着物2により、複数本の炭素繊維1が結合し、束状になった束状体10を含んでいる。
【0060】
これにより、束状体10自体の強度、安定性を向上させることができ、炭素繊維シート材100や成形体の強度、信頼性をさらに向上させることができる。
【0061】
束状体10の幅Wに対する長さLの比率(L/W)であるアスペクト比(後述するプリプレグ200、成形体中に含まれる束状体10についても同様)は、2以上500以下であるのが好ましく、10以上450以下であるのがより好ましく、20以上400以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
このような条件を満足することにより、成形体の製造時における成形性(曲げ等の加工性)等をより優れたものとしつつ、炭素繊維シート材100や成形体の強度、信頼性をさらに向上させることができる。
【0063】
なお、炭素繊維シート材100(後述するプリプレグ200、成形体についても同様)が複数個の束状体10を含んでいる場合、これら複数個の束状体10についてのアスペクト比の平均値が前記のような条件を満足するのが好ましい。
【0064】
なお、アスペクト比の平均値は、例えば、無作為に選択した顕微鏡観察の視野中に含まれる束状体10を無作為に100個抽出し、これらについてのアスペクト比を求めた場合のこれらの平均値を採用することができる。なお、1つの視野中に100個の束状体が含まれない場合、異なる複数の視野において、合計100個の束状体10を無作為に抽出し、これらについてのアスペクト比の平均値を採用することができる。
【0065】
また、図示の構成では、炭素繊維シート材100(後述するプリプレグ200、成形体についても同様)には、束状体10を構成する炭素繊維1に加えて、束状体10を構成しない炭素繊維1も含まれている。
【0066】
これにより、優れた強度と取り扱いのし易さ(成形性を含む)とをより高いレベルで両立することができる。
【0067】
炭素繊維シート材100中における炭素繊維1の含有率は、40質量%以上99質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上98質量%以下であるのがより好ましく、60質量%以上97質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
このような条件を満足することにより、炭素繊維1が本来有している特徴がより効果的に発揮され、炭素繊維シート材100や成形体の強度、信頼性等をより優れたものとすることができる。
【0069】
(バインダー)
バインダー20は、炭素繊維1を結合する機能を有している。また、バインダー20が、炭素繊維シート材100を用いて製造される成形体中に残存するものである場合、成形体においてマトリックス樹脂の一部を構成するものであってもよい。
【0070】
なお、バインダー20は、炭素繊維1を直接結合するものであってもよいし、他の成分(例えば、付着物2や後述するその他の成分等)を介して、炭素繊維1同士を結合するものであってもよい。
【0071】
バインダー20としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド;ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂や、これらの共重合体や、変性樹脂、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
中でも、バインダー20は、ポリビニルアルコールであるのが好ましい。
これにより、バインダー20が炭素繊維1同士をより好適に結合、固定化することができ、炭素繊維シート材100に、好適なドレープ性を付与することができる。
【0073】
炭素繊維シート材100中におけるバインダー20の含有率は、0.5質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上45質量%以下であるのがより好ましく、1.5質量%以上35質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
このような条件を満足することにより、炭素繊維1が本来有している特徴がより効果的に発揮され、炭素繊維シート材100や成形体の強度、信頼性等をより優れたものとすることができる。
【0075】
(その他の成分)
炭素繊維シート材100は、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0076】
このような成分としては、例えば、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、プライマー、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、触媒、レベリング剤、増粘剤、分散剤、老化防止剤、難燃剤、加水分解防止剤、腐食防止剤、バージンの炭素繊維(リサイクルされた炭素繊維ではない炭素繊維)、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、フラーレン、グラファイト等が挙げられる。
【0077】
特に、リサイクルされた炭素繊維1とともに、バージンの炭素繊維(図示せず)を含むことにより、例えば、バージンの炭素繊維を用いない場合に比べて、複数本の炭素繊維が結合して束状になった束状体と束状になっていない炭素繊維との比率や、炭素繊維の長さの分布をより好適に調整することができる。その結果、炭素繊維シート材100や成形体の特性をより好適に制御することができる。より具体的には、加熱加圧成形時の成形性(曲げ等の加工性)を十分に優れたものとしつつ、炭素繊維シート材100や成形体の強度等をより優れたものとすることができる。
【0078】
炭素繊維シート材100中におけるバージンの炭素繊維の含有率は、0.5質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上30質量%以下であるのがより好ましく、1.5質量%以上20質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0079】
また、炭素繊維シート材100中におけるリサイクルされた炭素繊維1の含有率をXRCF[質量%]、炭素繊維シート材100中におけるバージンの炭素繊維の含有率をXVCF[質量%]としたとき、0.006≦XVCF/XRCF≦1.0の関係を満足するのが好ましく、0.015≦XVCF/XRCF≦0.60の関係を満足するのがより好ましく、0.020≦XVCF/XRCF≦0.33の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0080】
炭素繊維シート材100中における炭素繊維1(リサイクルされた炭素繊維)とバージンの炭素繊維との含有率の和は、50質量%以上99.5質量%以下であるのが好ましく、54質量%以上99質量%以下であるのがより好ましく、63質量%以上98.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0081】
なお、バージンの炭素繊維としては、異なる条件で製造した複数種の炭素繊維を用いてもよい。
【0082】
炭素繊維シート材100の厚さは、特に限定されないが、0.15mm以上2.5mm以下であるのが好ましく、0.20mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.25mm以上1.5mm以下であるのがさらに好ましい。
【0083】
これにより、炭素繊維シート材100の取り扱いのし易さ、プリプレグ200等の製造のし易さ、成形体とする時の成形性等をより優れたものとすることができる。
【0084】
炭素繊維シート材100の用途は、特に限定されず、例えば、後述するプリプレグや成形体の製造に用いるものや、放熱シート・フィン、導電性シート、電磁波シールド材、電極材等として用いることができる。
【0085】
[プリプレグ]
次に、本発明のプリプレグについて説明する。
【0086】
本発明のプリプレグは、加熱加圧成形により、所定の形状の成形体の製造に用いることができるシート状の部材であり、平均長さが1.0mm以上10mm以下である複数本のリサイクルされた炭素繊維を含むとともに、樹脂材料を含んでいる。樹脂材料は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。なお、本発明において、プリプレグには、樹脂材料が不完全に含浸しているセミプレグも含む概念である。
【0087】
<第1実施形態>
図3は、本発明のプリプレグの第1実施形態を模式的に示す平面図である。
【0088】
本実施形態のプリプレグ200は、炭素繊維シート材100に、樹脂材料(含浸樹脂)30を含浸させてなるものである。
【0089】
これにより、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができるプリプレグ200を提供することができる。
【0090】
また、成形体の製造時に優れた成形性が得られるため、成形体の製造条件(例えば、温度、圧力等)を緩和することができる。したがって、製造装置として簡易な構成のものを用いたり、製造装置への負荷を抑制し、製造装置の長寿命化を図ったりすることができる。また、成形体の生産コスト抑制の観点からも有利である。
【0091】
また、炭素繊維の含有率を高めても、優れた成形性を維持することができるため、樹脂材料の含有率を低くすることができ、成形体において、炭素繊維が有している優れた性質(例えば、強度、熱伝導性、導電性等)をより効果的に発揮させることができる。
【0092】
また、リサイクルされた炭素繊維1を用いることにより、省資源、環境負荷の低減等の観点からも好ましい。
【0093】
なお、樹脂材料(含浸樹脂)30は、成形体においてマトリックス樹脂を構成するものである。
【0094】
樹脂材料(含浸樹脂)30としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド;ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂や、これらの共重合体や、変性樹脂、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
中でも、樹脂材料(含浸樹脂)30は、熱硬化性樹脂であるのが好ましい。
これにより、成形体の強度、耐久性等を特に優れたものとすることができる。
【0096】
プリプレグ200中における樹脂材料(含浸樹脂)30の含有率は、3.0質量%以上70質量%以下であるのが好ましく、4.0質量%以上68質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上65質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0097】
このような条件を満足することにより、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性を十分に優れたものとしつつ、成形体を製造する際の成形性をより優れたものとすることができる。
【0098】
プリプレグ200中における炭素繊維1の含有率は、15質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、18質量%以上88質量%以下であるのがより好ましく、22質量%以上85質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0099】
このような条件を満足することにより、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性を十分に優れたものとしつつ、成形体を製造する際の成形性をより優れたものとすることができる。
【0100】
また、プリプレグ200中における炭素繊維1の含有率をXRCF[質量%]、プリプレグ200中における樹脂材料(含浸樹脂)30の含有率をXIR[質量%]としたとき、0.035≦XIR/XRCF≦5.7の関係を満足するのが好ましく、0.045≦XIR/XRCF≦4.4の関係を満足するのがより好ましく、0.060≦XIR/XRCF≦3.0の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0101】
このような条件を満足することにより、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性を十分に優れたものとしつつ、成形体を製造する際の成形性をより優れたものとすることができる。
プリプレグ200は、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0102】
このような成分としては、例えば、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、プライマー、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、触媒、レベリング剤、増粘剤、分散剤、老化防止剤、難燃剤、加水分解防止剤、腐食防止剤、バージンの炭素繊維(リサイクルされた炭素繊維ではない炭素繊維)、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、フラーレン、グラファイト等が挙げられる。
【0103】
プリプレグ200の厚さは、特に限定されないが、0.15mm以上2.5mm以下であるのが好ましく、0.20mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.25mm以上1.5mm以下であるのがさらに好ましい。
【0104】
これにより、プリプレグ200の取り扱いのし易さ、製造のし易さ、成形体とする時の成形性等をより優れたものとすることができる。
【0105】
<第2実施形態>
図4は、本発明のプリプレグの第2実施形態を模式的に示す平面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
【0106】
本実施形態のプリプレグ200は、複数本のリサイクルされた炭素繊維1と、複数本の樹脂繊維40とを含み、炭素繊維1や樹脂繊維40を結合するバインダー20と、炭素繊維1の平均長さが1.0mm以上10mm以下である。
【0107】
これにより、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができるプリプレグ200を提供することができる。
【0108】
また、成形体の製造時に優れた成形性が得られるため、成形体の製造条件(例えば、温度、圧力等)を緩和することができる。したがって、製造装置として簡易な構成のものを用いたり、製造装置への負荷を抑制し、製造装置の長寿命化を図ったりすることができる。また、成形体の生産コスト抑制の観点からも有利である。
【0109】
また、炭素繊維の含有率を高めても、優れた成形性を維持することができるため、樹脂材料の含有率を低くすることができ、成形体において、炭素繊維が有している優れた性質(例えば、強度、熱伝導性、導電性等)をより効果的に発揮させることができる。
【0110】
また、リサイクルされた炭素繊維1を用いることにより、省資源、環境負荷の低減等の観点からも好ましい。
なお、樹脂繊維40は、成形体においてマトリックス樹脂を構成するものである。
【0111】
また、本実施形態のプリプレグ200においては、炭素繊維1、付着物2、バインダー20に関しては、以下に述べる条件以外の条件については、炭素繊維シート材100で述べたのと同様の条件を満足するのが好ましい。
【0112】
樹脂繊維40の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド;ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテルケトン;ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂や、これらの共重合体や、変性樹脂、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0113】
中でも、樹脂繊維40の構成材料としては、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドが好ましい。
【0114】
これにより、プリプレグ200の取り扱いがより容易になるとともに、成形体の製造時における成形性と成形体の特性(強度、信頼性等)とを、より高いレベルで両立することができる。
【0115】
樹脂繊維40の平均長さは、特に限定されないが、2.0mm以上20mm以下であるのが好ましく、3.0mm以上18mm以下であるのがより好ましく、4.0mm以上16mm以下であるのがさらに好ましい。
【0116】
これにより、プリプレグ200の取り扱いのし易さ、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性、成形体の製造時における成形性等をより優れたものとすることができる。
【0117】
炭素繊維1の平均長さをLRCF[mm]、樹脂繊維40の平均長さをLRF[mm]としたとき、0.4≦LRF/LRCF≦20の関係を満足するのが好ましく、0.8≦LRF/LRCF≦10の関係を満足するのがより好ましく、1.5≦LRF/LRCF≦6.0の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0118】
これにより、プリプレグ200の取り扱いのし易さ、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性、成形体の製造時における成形性等をより優れたものとすることができる。
【0119】
プリプレグ200中における炭素繊維1の含有率は、15質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、18質量%以上88質量%以下であるのがより好ましく、22質量%以上85質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0120】
これにより、プリプレグ200の取り扱いのし易さ、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性、成形体の製造時における成形性等をより優れたものとすることができる。
【0121】
プリプレグ200中におけるバインダー20の含有率は、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上15質量%以下であるのがより好ましく、0.6質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0122】
これにより、プリプレグ200の取り扱いのし易さ、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性、成形体の製造時における成形性等をより優れたものとすることができる。
【0123】
プリプレグ200中における樹脂繊維40の含有率は、3.0質量%以上75質量%以下であるのが好ましく、4.0質量%以上72質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0124】
これにより、プリプレグ200の取り扱いのし易さ、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性、成形体の製造時における成形性等をより優れたものとすることができる。
【0125】
プリプレグ200中における炭素繊維1の含有率をXRCF[質量%]、プリプレグ200中における樹脂繊維40の含有率をXRF[質量%]としたとき、0.22≦XRCF/XRF≦28の関係を満足するのが好ましく、0.28≦XRCF/XRF≦20の関係を満足するのがより好ましく、0.35≦XRCF/XRF≦15の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0126】
これにより、プリプレグ200の取り扱いのし易さ、プリプレグ200を用いて製造される成形体の強度、信頼性、成形体の製造時における成形性等をより優れたものとすることができる。
プリプレグ200は、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0127】
このような成分としては、例えば、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、改質剤、防錆剤、充填剤、表面潤滑剤、腐食防止剤、耐熱安定剤、滑剤、プライマー、帯電防止剤、重合禁止剤、架橋剤、触媒、レベリング剤、増粘剤、分散剤、老化防止剤、難燃剤、加水分解防止剤、腐食防止剤、バージンの炭素繊維(リサイクルされた炭素繊維ではない炭素繊維)、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、フラーレン、グラファイト等が挙げられる。
【0128】
特に、リサイクルされた炭素繊維1とともに、バージンの炭素繊維(図示せず)を含むことにより、例えば、バージンの炭素繊維を用いない場合に比べて、複数本の炭素繊維が結合して束状になった束状体と束状になっていない炭素繊維との比率や、炭素繊維の長さの分布をより好適に調整することができる。その結果、成形体の特性をより好適に制御することができる。より具体的には、加熱加圧成形時の成形性(曲げ等の加工性)を十分に優れたものとしつつ、成形体の強度等をより優れたものとすることができる。
【0129】
プリプレグ200中におけるバージンの炭素繊維の含有率は、0.2質量%以上35質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上26質量%以下であるのがより好ましく、0.6質量%以上17質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0130】
また、プリプレグ200中におけるリサイクルされた炭素繊維1の含有率をXRCF[質量%]、プリプレグ200中におけるバージンの炭素繊維の含有率をXVCF[質量%]としたとき、0.006≦XVCF/XRCF≦1.0の関係を満足するのが好ましく、0.015≦XVCF/XRCF≦0.60の関係を満足するのがより好ましく、0.020≦XVCF/XRCF≦0.33の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0131】
なお、バージンの炭素繊維としては、異なる条件で製造した複数種の炭素繊維を用いてもよい。
【0132】
また、繊維同士の隙間には、前記第1実施形態で説明した樹脂材料(含浸樹脂)が含浸されていてもよい。
【0133】
[成形体]
次に、本発明の成形体について説明する。
【0134】
本発明の成形体は、本発明のプリプレグを加熱加圧成形してなるものである。
これにより、強度、信頼性に優れた成形体を提供することができる。
【0135】
本発明の成形体は、本発明のプリプレグを加熱加圧成形してなる部位を有していればよく、例えば、塗膜等の構成をさらに有していてもよい。
【0136】
本発明の成形体は、いかなる用途のものであってもよいが、本発明の成形体の用途としては、例えば、乗物(例えば、自動車、自転車、列車、航空機、ロケット、エレベーター等)の構成部材、電子、電気部品の構成部材(例えば、パーソナルコンピューター、携帯電話(スマートフォン、PHS等を含む)、タブレット等の携帯用端末用の筐体部等)、建築、土木構造体用部材、家具等が挙げられる。
【0137】
[炭素繊維シート材の製造方法]
次に、本発明の炭素繊維シート材の製造方法について説明する。
【0138】
前述した炭素繊維シート材100は、例えば、平均長さが1.0mm以上10mm以下である複数本のリサイクルされた炭素繊維1と、炭素繊維1を結合するバインダー20とを混抄する工程(抄紙工程)を有する方法を用いて製造することができる。
【0139】
これにより、強度、信頼性に優れるとともに、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができる炭素繊維シート材100を安定的に製造することができる製造方法を提供することができる。
【0140】
抄紙工程に際して、例えば、少なくとも一部の炭素繊維1の表面を、サイジング剤等で処理してもよい。
【0141】
これにより、バインダー20等の樹脂材料との密着性を向上させ、炭素繊維シート材100や成形体の強度、信頼性をより優れたものとすることができる。
【0142】
サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0143】
抄紙用組成物中における炭素繊維1の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上0.3質量%以下とすることにより、前述したような束状体10を効率よく形成することができる。
【0144】
[プリプレグの製造方法]
次に、本発明のプリプレグの製造方法について説明する。
【0145】
<第1実施形態>
前述した第1実施形態に係るプリプレグ200は、例えば、前述した抄紙工程を経て得られた炭素繊維シート材100に、樹脂材料(含浸樹脂)30を含浸させる工程(含浸工程)を有する方法を用いて安定的に製造することができる。
【0146】
含浸工程は、例えば、樹脂材料(含浸樹脂)30としての未硬化状態(Bステージ)の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含む材料で構成されたシート材を、炭素繊維シート材100に熱転写する方法や、液状の樹脂材料(含浸樹脂)30を炭素繊維シート材100に含浸させる方法等が挙げられる。
【0147】
<第2実施形態>
前述した第2実施形態に係るプリプレグ200は、例えば、複数本の炭素繊維1と、複数本の樹脂繊維40と、バインダー20とを混抄する工程(抄紙工程)を有する方法を用いて安定的に製造することができる。
【0148】
また、前述した第1実施形態の製造方法では、抄紙工程を経て得られた炭素繊維シート材100に含浸工程を行うのに対し、本実施形態の製造方法では、抄紙工程で炭素繊維1と樹脂繊維40とバインダー20とを用い、その後の含浸工程を行う必要がない。したがって、プリプレグ200の生産性を高めることができる。
【0149】
[成形体の製造方法]
次に、本発明の成形体の製造方法について説明する。
【0150】
前述した成形体は、例えば、上記のようにして製造したプリプレグ200を加熱加圧成形する工程(成形工程)を有する方法を用いて安定的に製造することができる。
【0151】
成形体を製造する際には、複数枚のプリプレグ200を積層してもよい。
積層枚数は、特に限定されないが、2枚以上50枚以下であるのが好ましく、3枚以上30枚以下であるのがより好ましい。
【0152】
なお、複数枚のプリプレグ200を用いる場合、これらのプリプレグ200は、互いに異なる条件のものであってもよいし、同一の条件のものであってもよい。
【0153】
また、隣り合うプリプレグ200の間に、中間層を設けてもよい。
また、接合工程に先立ち、複数枚のプリプレグ200を接合する処理を施してもよい。複数枚のプリプレグ200を接合する方法としては、例えば、溶着(溶剤溶着、重合溶着等を含む)、融着、接着等が挙げられる。
【0154】
成形工程における加熱温度は、樹脂材料(含浸樹脂)30や樹脂繊維40の種類、含有率等により異なり、特に限定されないが、100℃以上380℃以下であるのが好ましく、110℃以上350℃以下であるのがより好ましく、120℃以上300℃以下であるのがさらに好ましい。
【0155】
また、成形工程における成形圧力は、樹脂材料(含浸樹脂)30や樹脂繊維40の種類、含有率等により異なり、特に限定されないが、0.1MPa以上15MPa以下であるのが好ましく、0.2MPa以上12MPa以下であるのがより好ましく、0.3MPa以上10MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0156】
プリプレグ200が熱硬化性樹脂を含むものである場合、成形工程による加熱により、当該熱硬化性樹脂の硬化反応が進行し、得られる成形体は、耐熱性等にも優れたものとなる。
【0157】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0158】
例えば、炭素繊維シート材の製造方法、プリプレグの製造方法、成形体の製造方法においては、前述した工程に加え、他の工程(前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)をさらに有していてもよい。
【0159】
また、本発明の炭素繊維シート材、プリプレグ、成形体は、前述した方法で製造されたものに限定されず、いかなる方法で製造されたものであってよい。
【0160】
また、前述した実施形態では、炭素繊維シート材、プリプレグ、成形体において、束状体を構成する炭素繊維に加え、束状体を構成しない炭素繊維が含まれる構成について代表的に説明したが、これらのうち一方のみが含まれる構成であってもよい。
【実施例】
【0161】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に温度条件を示していない処理、測定については、20℃で行った。
【0162】
《1》炭素繊維シート材の製造
各実施例および各比較例の炭素繊維シート材を以下のようにして製造した。
【0163】
(実施例A1)
まず、リサイクルされた炭素繊維(繊維平均径(平均幅)7.0μm、平均長さ5.0mm):95質量部と、バインダーとしてのポリビニルアルコール繊維(繊度1.1デシテックス、平均長さ3.0mm、加重平均密度:1.20g/cm3):5.0質量部とからなる組成物を、水中に混合分散し、固形分0.03質量%の抄紙用スラリーを調製した。
【0164】
次に、抄紙用スラリー:100質量部に対し、分散剤としてのアニオン系ポリアクリルアミド:0.001質量部を添加して分散液を得、この分散液を、網目の隙間が0.2mmのメッシュコンベアの抄紙面に吸引して堆積してシート化した(抄紙工程)。
【0165】
その後、抄紙工程で製造された加湿状態のシートを120℃で加熱乾燥し、ポリビニルアルコール繊維を溶融して炭素繊維を交点で結合して炭素繊維シート材を得た。
【0166】
なお、リサイクルされた炭素繊維としては、破砕・粉砕したCFRPに、空気雰囲気下で350℃の第1の加熱処理を施し、さらに、空気雰囲気下で550℃の第2の加熱処理を施すことにより得られたものを用いた。
【0167】
(実施例A2、A3)
リサイクルされた炭素繊維、バインダーの条件を表1に示すように変更した以外は、前記実施例A1と同様にして炭素繊維シート材を製造した。
【0168】
(実施例A4)
抄紙用スラリーの調製に用いる組成物として、リサイクルされた炭素繊維(繊維平均径(平均幅)7.0μm、平均長さ5.0mm):75質量部と、バインダーとしてのポリビニルアルコール繊維(繊度1.1デシテックス、平均長さ3.0mm、加重平均密度:1.20g/cm3):5.0質量部と、バージンの炭素繊維(繊維平均径(平均幅)7.0μm、平均長さ6.0mm):20質量部とからなるものを用いた以外は、前記実施例A1と同様にして炭素繊維シート材を製造した。
【0169】
(実施例A5、A6)
リサイクルされた炭素繊維、バインダー、バージンの炭素繊維の条件を表1に示すように変更した以外は、前記実施例A1と同様にして炭素繊維シート材を製造した。
【0170】
(比較例A1)
リサイクルされた炭素繊維の代わりにバージンの炭素繊維を用いた以外は、前記実施例A1と同様にして炭素繊維シート材を製造した。
【0171】
(比較例A2)
リサイクルされた炭素繊維として長さが0.9mmのものを用いた以外は、前記実施例A1と同様にして炭素繊維シート材を製造した。
【0172】
(比較例A3)
リサイクルされた炭素繊維として長さが11mmのものを用いた以外は、前記実施例A1と同様にして炭素繊維シート材を製造した。
【0173】
前記各実施例および各比較例の炭素繊維シート材の構成を表1にまとめて示す。なお、前記各実施例および比較例A2、A3で用いたリサイクルされた炭素繊維は、その表面の一部にリサイクル原料由来の付着物が付着していた。また、前記各実施例および比較例A2、A3の炭素繊維シート材には、複数本の炭素繊維を含む束状体とともに、束状体を構成しない炭素繊維も含まれていた。また、前記各実施例および各比較例の炭素繊維シート材の厚さは、いずれも、0.5mm以上0.8mm以下であった。
【0174】
【0175】
《2》プリプレグの製造
各実施例および各比較例のプリプレグを以下のようにして製造した。
【0176】
(実施例B1)
まず、未硬化の熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂のメタノール溶液(40質量%)を用意した。
【0177】
次に、当該メタノール溶液を前記実施例A1の炭素繊維シート材に塗布し、含浸させた。その後、80℃に加熱してメタノールを除去し、さらに、150℃で15分間の加熱処理を施すことにより、フェノール樹脂を硬化させて、プリプレグを得た。
【0178】
(実施例B2~B6)
炭素繊維シート材として、前記実施例A1で製造したものの代わりに、前記実施例A2~A6で製造したものを用いた以外は、前記実施例B1と同様にしてプリプレグを製造した。
【0179】
(実施例B7)
まず、リサイクルされた炭素繊維(繊維平均径(平均幅)7.0μm、平均長さ5.0mm):40.2質量部と、バインダーとしてのポリビニルアルコール繊維(繊度1.1デシテックス、平均長さ3.0mm、加重平均密度:1.20g/cm3):2.9質量部と、樹脂繊維としてのナイロン6繊維(繊度1.1デシテックス、平均長さ6.0mm):56.9質量部とからなる組成物を、水中に混合分散し、固形分0.03質量%の抄紙用スラリーを調製した。
【0180】
次に、抄紙用スラリー:100質量部に対し、分散剤としてのアニオン系ポリアクリルアミド:0.001質量部を添加して分散液を得、この分散液を、網目の隙間が0.3mmのメッシュコンベアの抄紙面に吸引して堆積してシート化した(抄紙工程)。
【0181】
その後、抄紙工程で製造された加湿状態のシートを120℃で加熱乾燥し、ポリビニルアルコール繊維を溶融して炭素繊維を交点で結合してプリプレグを得た。得られたプリプレグにおいて、ナイロン6繊維は溶融せず、繊維の状態を保持していた。
【0182】
なお、リサイクルされた炭素繊維としては、破砕・粉砕したCFRPに、空気雰囲気下で350℃の第1の加熱処理を施し、さらに、空気雰囲気下で550℃の第2の加熱処理を施すことにより得られたものを用いた。
【0183】
(実施例B8、B9)
リサイクルされた炭素繊維、バインダー、樹脂繊維の条件を表2に示すように変更した以外は、前記実施例B7と同様にしてプリプレグを製造した。
【0184】
(実施例B10)
抄紙用スラリーの調製に用いる組成物として、リサイクルされた炭素繊維(繊維平均径(平均幅)7.0μm、平均長さ5.0mm):35.2質量部と、バインダーとしてのポリビニルアルコール繊維(繊度1.1デシテックス、平均長さ3.0mm、加重平均密度:1.20g/cm3):2.9質量部と、樹脂繊維としてのナイロン6繊維(繊度1.1デシテックス、平均長さ6.0mm):56.9質量部と、バージンの炭素繊維(繊維平均径(平均幅)7.0μm、平均長さ6.0mm):5.0質量部とからなるものを用いた以外は、前記実施例B7と同様にしてプリプレグを製造した。
【0185】
(実施例B11、B12)
リサイクルされた炭素繊維、バインダー、樹脂繊維、バージンの炭素繊維の条件を表2に示すように変更した以外は、前記実施例B10と同様にしてプリプレグを製造した。
【0186】
(比較例B1~B3)
炭素繊維シート材として、前記実施例A1で製造したものの代わりに、前記比較例A1~A3で製造したものを用いた以外は、前記実施例B1と同様にしてプリプレグを製造した。
【0187】
(比較例B4)
リサイクルされた炭素繊維の代わりにバージンの炭素繊維を用いた以外は、前記実施例B7と同様にしてプリプレグを製造した。
【0188】
(比較例B5)
リサイクルされた炭素繊維として長さが0.9mmのものを用いた以外は、前記実施例B7と同様にしてプリプレグを製造した。
【0189】
(比較例B6)
リサイクルされた炭素繊維として長さが11mmのものを用いた以外は、前記実施例B7と同様にしてプリプレグを製造した。
【0190】
前記各実施例および各比較例のプリプレグの構成を表2にまとめて示す。なお、前記各実施例および比較例B2、B3、B5、B6で用いたリサイクルされた炭素繊維は、その表面の一部にリサイクル原料由来の付着物が付着していた。また、前記各実施例および比較例B2、B3、B5、B6のプリプレグには、複数本の炭素繊維を含む束状体とともに、束状体を構成しない炭素繊維も含まれていた。また、前記各実施例および各比較例のプリプレグの厚さは、いずれも、0.8mm以上1.4mm以下であった。
【0191】
【0192】
《3》成形体の製造
各実施例および各比較例の成形体を以下のようにして製造した。
【0193】
(実施例C1)
まず、前記実施例B1で製造したプリプレグを15枚積層した。
【0194】
次に、プリプレグの積層体を、50kg/cm2、150℃の条件で加熱加圧処理を行った。これにより、プリプレグ中に含まれる熱硬化性樹脂が硬化し、複数枚のプリプレグが層間で互いに結合した平板状の成形体Aが得られた。
【0195】
また、外周面の曲率半径がL字状の曲げ板に成形した以外は、前記成形体Aと同様にして成形体Bを製造した。
【0196】
(実施例C2~C6)
プリプレグとして、前記実施例B1で製造したものの代わりに、前記実施例B2~B6で製造したものを用いた以外は、前記実施例C1と同様にして成形体(成形体AおよびB)を製造した。
【0197】
(実施例C7)
まず、前記実施例B4で製造したプリプレグを15枚積層した。
【0198】
次に、プリプレグの積層体を、50kg/cm2、250℃の条件で加熱加圧処理を行った。これにより、プリプレグ中に含まれる熱可塑性樹脂が軟化、溶融し、複数枚のプリプレグが層間で互いに結合した平板状の成形体Aが得られた。
【0199】
また、外周面の曲率半径がL字状の曲げ板に成形した以外は、前記成形体Aと同様にして成形体Bを製造した。
【0200】
(実施例C8~C12)
プリプレグとして、前記実施例B7で製造したものの代わりに、前記実施例B8~B12で製造したものを用いた以外は、前記実施例C7と同様にして成形体(成形体AおよびB)を製造した。
【0201】
(比較例C1~C3)
プリプレグとして、前記実施例B1で製造したものの代わりに、前記比較例B1~B3で製造したものを用いた以外は、前記実施例C1と同様にして成形体(成形体AおよびB)を製造した。
【0202】
(比較例C4~C6)
プリプレグとして、前記実施例B7で製造したものの代わりに、前記比較例B4~B6で製造したものを用いた以外は、前記実施例C7と同様にして成形体(成形体AおよびB)を製造した。
【0203】
なお、前記各実施例および比較例C2、C3、C5、C6の成形体には、複数本の炭素繊維を含む束状体とともに、束状体を構成しない炭素繊維も含まれていた。
【0204】
《4》評価
《4-1》曲げ強度評価
前記実施例C1~C12および比較例C1~C6の成形体Aについて、JIS K7074に準じた曲げ試験により求められる曲げ強度を測定し、以下の基準にした従い評価した。
【0205】
A:曲げ強度が250MPa以上。
B:曲げ強度が200MPa以上250MPa未満。
C:曲げ強度が150MPa以上200MPa未満。
D:曲げ強度が100MPa以上150MPa未満。
E:曲げ強度が100MPa未満。
【0206】
《4-2》外観評価
(目視による評価)
前記実施例C1~C12および比較例C1~C6の成形体Bについて、目視による観察を行い、以下の基準に従い評価した。
【0207】
A:外観不良が全く認められない。
B:外観不良がほとんど認められない。
C:外観不良がわずかに認められる。
D:外観不良がはっきりと認められる。
E:外観不良が顕著に認められる。
【0208】
(顕微鏡による評価)
前記実施例C1~C12および比較例C1~C6の成形体Bの屈曲部付近について、顕微鏡による観察を行い、以下の基準に従い評価した。
【0209】
A:炭素繊維の露出量にばらつきが認められない。
B:炭素繊維が多く露出している領域と炭素繊維の露出量が少なく樹脂材料が多く露出している領域とが併存しており、炭素繊維の露出量のばらつきがわずかに認められる。
C:炭素繊維が多く露出している領域と炭素繊維の露出量が少なく樹脂材料が多く露出している領域とが併存しており、炭素繊維の露出量のばらつきがはっきりと認められる。
D:炭素繊維が多く露出している領域と炭素繊維の露出量が少なく樹脂材料が多く露出している領域とが併存しており、炭素繊維の露出量のばらつきが顕著に認められる。
これらの結果を表3にまとめて示す。
【0210】
【0211】
表3から明らかなように、本発明では優れた結果が得られたのに対し、比較例では満足のいく結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明の炭素繊維シート材は、複数本のリサイクルされた炭素繊維と、前記炭素繊維を結合するバインダーとを含み、前記炭素繊維の平均長さが1.0mm以上10mm以下である。そのため、それ自身の強度、信頼性に優れるとともに、強度、信頼性に優れた成形体を優れた成形性で製造するのに用いることができる炭素繊維シート材を提供することができる。従って、本発明の炭素繊維シート材は、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0213】
100…炭素繊維シート材
200…プリプレグ
1…炭素繊維
2…付着物
10…束状体
20…バインダー
30…樹脂材料(含浸樹脂)
40…樹脂繊維