(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】エラスチンアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240124BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240124BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240124BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
G01N33/531 A
C07K16/18
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020542388
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019053003
(87)【国際公開番号】W WO2019154909
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-27
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503259129
【氏名又は名称】ノルディック・ビオサイエンス・エー/エス
【氏名又は名称原語表記】NORDIC BIOSCIENCE A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グッドマン,カロリン,ナターシャ,ステア
(72)【発明者】
【氏名】サンド,ヤニー,マリー,ビューロウ
(72)【発明者】
【氏名】マノン-イェンセン,ティナ
(72)【発明者】
【氏名】オースネス-レーミング,ディアーナ
(72)【発明者】
【氏名】カルスダル,モルテン
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504040(JP,A)
【文献】特開2004-191371(JP,A)
【文献】特表2019-510210(JP,A)
【文献】特表2011-503564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0292631(US,A1)
【文献】Jiangtao He,Characterization of peptide fragments from lung elastin degradation in chronic obstructive pulmonary disease,Experimental Lung Research,2010年09月03日,Vol.36,Page.548-557
【文献】Natasja Gudmann,Lung tissue destruction by proteinase 3 and cathepsin G mediated elastin degradation is elevated in chronic obstructive pulmonary disease,Biochemical and Biophysical Research Communications,2018年07月11日,Vol.503 No.3,Page.1284-1290
【文献】Sarah Rank Ronnow,Specific elastin degradation products are associated with poor outcome in the ECLIPSE COPD cohort,Scientific Reports,2019年03月11日,Vol.9,Page.4064
【文献】Jannie M. B. Sand,Accelerated extracellular matrix turnover during exacerbations of COPD,Respiratory Research,2015年06月11日,Vol.16,Page.69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/531
C07K 16/18
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体液試料中のC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を有するエラスチン由来のペプチドを定量化し、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)を検出するためのイムノアッセイ方法であって、
前記方法が、前記生体液試料を、前記C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)に特異的に反応性を示すモノクローナル抗体と接触させることと、前記モノクローナル抗体と前記C末端アミノ酸配列との結合量を決定することと、を含み、
前記生体液試料が、血液
、血清
、または血漿である、方法。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、前記C末端アミノ酸配列のC末端が延長された伸長型または前記C末端アミノ酸配列のC末端が切断された短縮型を、特異的に認識しないかまたはそれに結合しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者の
慢性閉塞性肺疾患(COPD)を検出するためのイムノアッセイ方法であって、前記方法が、患者の生体液試料をC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)に特異的に反応性を示すモノクローナル抗体と接触させることと、前記モノクローナル抗体と前記C末端アミノ酸配列を含むペプチドとの結合量を決定することと、前記結合量を、i)健常な対象に関連する値、および/またはii
)過去の時点で前記患者から得られた値、および/またはi
ii)所定のカットオフ値と比較することと、を含み、
前記患者の生体液試料が、血液
、血清
、または血漿である、方法。
【請求項4】
前記所定のカットオフ値が、少なくとも150.0ng/mLである、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体が、前記C末端アミノ酸配列のC末端が延長された伸長型または前記C末端アミノ酸配列のC末端が切断された短縮型を、特異的に認識しないかまたはそれに結合しない、請求項3
又は4に記載の方法。
【請求項6】
患者が
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に対して良好に反応しているかどうかを決定するための方法であって、
前記方法が、請求項1または2に記載の方法を使用して、少なくとも2つの患者の生体液試料中の前記C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を含む
エラスチン由来のペプチドの量を定量化することを含み、
前記患者の生体液試料が、血液
、血清
、または血漿であり、
前記患者の生体液試料が、第1の時点および前記患者への治療の投与の期間中の少なくとも1つのその後の時点で前記患者から得られ、
前記第1の時点から前記治療の期間中の前記少なくとも1つのその後の時点への前記C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を含む
エラスチン由来のペプチドの前記量の低減が、前記患者が前記治療に対して良好に反応していることの指標である、方法。
【請求項7】
C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)
を有するエラスチン由来のペプチドに特異的に反応性を示す、モノクローナル抗体。
【請求項8】
アッセイキットであって、
(A)C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)
を有するエラスチン由来のペプチドに特異的に反応性を示すモノクローナル抗体;及び
(B)以下のうちの少なくとも1つ:
-ストレプトアビジンコーティングウェルプレート
-ビオチン化ペプチドであるビオチン-L-LPGGYGLPYT(配列番号5)(式中、Lが任意選択的なリンカーである)
-サンドイッチイムノアッセイに使用するための二次抗体
-C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を含む較正物質ペプチド
-抗体ビオチン化キット
-抗体HRP標識キット
-抗体放射性標識キット;
を含む、アッセイキット。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体が、前記アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して産生される、請求項
8に記載のアッセイキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COPDなどの線維性疾患の評価における、エラスチンアッセイおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、気道に炎症を起こし、好中球および肥満細胞が過剰に濃縮されることを特徴とする(1、2)。好中球および肥満細胞は、カテプシンG(CG)およびプロテアーゼ3(PR3)のような事前形成されたセリンプロテアーゼを顆粒中で合成および貯蔵し、炎症誘発性媒介物質に応答してこれらを放出する。これらのプロテアーゼは一緒に、細胞外マトリックス(ECM)に対して広範な活性を有する(3,4)。弾性繊維は、肺の細胞外マトリックスの主要な不溶性成分であり、細胞外マトリックスの構造、機能、回復性、および弾性に不可欠である。弾性繊維は、フィブリリンミクロフィブリル内に埋め込まれた架橋エラスチンの内部コアによって構成される(5)。呼吸樹全体に細くかつ高度に分岐したネットワークを作り、呼吸時の肺胞の膨張および収縮を支持する。健康な成人組織では、高い安定性および、低いターンオーバー速度がそれらの特徴である。選択されたMMPに加えて、セリンプロテアーゼなどのいくつかのプロテアーゼのみが、エラスチンコアおよびミクロフィブリルを損傷することによってエラスチン繊維を切断することが可能である(6~8)。正常な炎症反応では、プロテアーゼ-アンチプロテアーゼバランスは、内因性プロテアーゼ阻害剤(例えば、硫酸ヘパラン)の分泌を通じて維持される(9)。病理学的状態では、このバランスが偏っており、COPDおよび肺気腫の主な病理学的特色である弾性の喪失につながる(10,11)。COPDではセリンプロテアーゼCGおよびPR3の両方が上方制御されることが示唆されているが、現在、エラスチン分解の増加をそれらのプロテアーゼと結びつけることが可能なマーカーは存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、現在、エラスチンのPR3分解を監視するためのイムノアッセイを開発し、線維性疾患、具体的にはCOPDの評価におけるその使用を実証している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
したがって、第1の態様において、本発明は、患者の生体液試料中のC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を有するペプチドを定量化するためのイムノアッセイ方法であって、当該方法が、当該患者の生体液試料を、当該C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)に特異的に反応性を示すモノクローナル抗体と接触させることと、当該モノクローナル抗体と当該C末端アミノ酸配列との結合量を決定することと、を含む、方法に関する。
【0005】
好ましくは、モノクローナル抗体は、当該C末端アミノ酸配列のC末端が延長された伸長型または当該C末端アミノ酸配列のC末端が切断された短縮型を、特異的に認識しないかまたはそれに結合しない。これに関して、「当該C末端アミノ酸配列のC末端が延長された伸長型」は、1つ以上のアミノ酸が配列LPGGYGLPYT-COOH(配列番号1)のC末端を超えて延長していることを意味する。例えば、C末端のアミノ酸配列LPGGYGLPYT-COOH(配列番号1)がトレオニン残基によって伸長されている場合、対応する「C末端が延長された伸長型」は、LPGGYGLPYTT-COOH(配列番号2)であろう。同様に、「当該C末端アミノ酸配列のC末端が切断された短縮型」は、1つ以上のアミノ酸が配列LPGGYGLPYT-COOH(配列番号1)のC末端から除去されていることを意味する。例えば、C末端のアミノ酸配列LPGGYGLPYT-COOH(配列番号1)が1つのアミノ酸残基だけ短縮されている場合、対応する「C末端が切断された短縮型」はLPGGYGLPY-COOH(配列番号3)であろう。
【0006】
患者の生体液試料は、限定されないが、血液、尿、滑液、血清、BALF(気管支肺胞洗浄液)、または血漿であり得る。
【0007】
イムノアッセイは、限定されないが、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイであり得る。同様に、イムノアッセイは、限定されないが、酵素結合免疫吸着アッセイまたはラジオイムノアッセイであり得る。
【0008】
第2の態様において、本発明は、患者の線維性疾患を検出または定量化するためのイムノアッセイ方法であって、方法が、患者の生体液試料をC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)に特異的に反応性を示すモノクローナル抗体と接触させることと、当該モノクローナル抗体と当該C末端アミノ酸配列を含むペプチドとの結合量を決定することと、当該結合量を、i)健常な対象に関連する値、および/またはii)分かっている線維性疾患重症度に関連する値、および/またはiii)過去の時点で当該患者から得られた値、および/またはiv)所定のカットオフ値と相関させることと、を含むイムノアッセイ方法に関する。
【0009】
好ましくは、線維性疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。
【0010】
所定のカットオフ値は、好ましくは少なくとも150.0ng/mL、より好ましくは少なくとも175.0ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも200.0ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも225.0ng/mL、および最も好ましくは少なくとも250ng/mLである。この点では、様々な統計分析を組み合わせた使用を通じて、少なくとも150.0ng/mL以上のモノクローナル抗体(上述)とC末端バイオマーカーとの測定結合量は、COPDなどの繊維症の存在の決定要因であり得ることが分かっている。少なくとも150.0ng/mL、より好ましくは少なくとも175.0ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも200.0ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも225.0ng/mL、および最も好ましくは少なくとも250.0ng/mLの統計的カットオフ値を有することにより、本発明の方法を利用して、COPDなどの線維症を高い信頼レベルで診断することが可能である。あるいは、換言すると、本発明の方法に統計的カットオフ値を適用することにより、結果として独立した診断アッセイが得られる、すなわち、診断結果に到達するために、健康な個体および/または疾患重症度が分かっている患者とのあらゆる直接比較の必要性を排除するので、特に有利である。これはまた、初期予後を裏付けるための迅速かつ決定的なツールとして機能することもでき、したがって潜在的に内視鏡検査または生検などのより侵襲性の高い手技の必要性を排除し、好適な治療計画の開始を迅速化するので、COPDなどの繊維症の一般的な指標である医学的徴候または症状(例えば、身体検査および/または医療専門家による診察によって決定される)を既に有する患者を評価するためにアッセイを利用すると、特に有利であり得る。最終診断の迅速化によって、より早い段階で疾患が検出され、したがって治療される結果となり得る。好ましくは、所定のカットオフ値は、ヒト血液、血清、または血漿中で測定されるカットオフ値に対応する。
【0011】
好ましくは、モノクローナル抗体は、当該C末端アミノ酸配列のC末端が延長された伸長型または当該C末端アミノ酸配列のC末端が切断された短縮型を、特異的に認識しないかまたはそれに結合しない。「C末端が延長された」および「C末端が切断された」という用語は、上記に説明されている。
【0012】
患者の生体液試料は、限定されないが、血液、尿、滑液、血清、BALF、または血漿であり得る。
【0013】
第3の態様において、本発明は、患者がCOPDなどの線維性疾患の治療に対して良好に反応しているかどうかを決定するための方法であって、当該方法が、上述の方法を使用して、少なくとも2つの生物学的試料中のC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYTを含むペプチドの量を定量化することを含み、当該生物学的試料が、第1の時点および当該患者への治療の投与の期間中の少なくとも1つのその後の時点で当該患者から得られ、当該第1の時点から治療期間中の当該少なくとも1つのその後の時点へのC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYTを含むペプチドの量の低減が、当該患者が当該治療に対して良好に反応していることの指標である、方法に関する。
【0014】
上記の方法を使用して、COPDなどの線維性疾患を治療するための新規療法の有効性を決定することもできる。その点では、C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を含むペプチドの量が、当該第1の時点から当該新規療法を使用する治療の期間中の当該少なくとも1つのその後の時点で低減される場合、新規療法は有効であるとみなされるであろう。
【0015】
第4の態様において、本発明は、C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)に特異的に反応性を示すモノクローナル抗体に関する。本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)に特異的に反応性を示す、完全モノクローナル抗体およびFab、Fvなどのその抗体断片にまで及ぶ。
【0016】
第5の態様において、本発明は、アッセイキットであって、C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)に特異的に反応性を示すモノクローナル抗体と、
-ストレプトアビジンコーティングウェルプレート
-ビオチン化ペプチドであるビオチン-L-LPGGYGLPYT(配列番号5)(式中、Lが任意選択的なリンカーである)
-サンドイッチイムノアッセイに使用するための二次抗体
-C末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を含む較正物質ペプチド
-抗体ビオチン化キット
-抗体HRP標識キット
-抗体放射性標識キット、のうちの少なくとも1つと、を含む、アッセイキットに関する。
【0017】
好ましくは、本発明のモノクローナル抗体は、アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して産生される。
【0018】
定義
本明細書で使用される場合、「C末端」という用語は、ポリペプチドの端を指し、すなわち、ポリペプチドのC末端側終端にあり、その一般的な方向を意味すると解釈されるべきではない。
【0019】
本明細書で使用される場合、「競合ELISA」という用語は、競合酵素結合免疫吸着アッセイを指し、当業者に既知の技術である。
【0020】
本明細書で使用される場合、「サンドイッチイムノアッセイ」という用語は、試料中の抗原の検出のための少なくとも2つの抗体の使用を指し、当業者に既知の技術である。
【0021】
本明細書で使用される場合、「結合量」という用語は、抗体とバイオマーカーとの結合の定量化を指し、当該定量化は、生体液試料中のバイオマーカーの測定値を較正曲線と比較することによって決定され、較正曲線は、既知の濃度のバイオマーカーの標準試料を使用して作成される。生体液中でC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を有するC末端バイオマーカーを測定する本明細書に開示の特定のアッセイにおいて、較正曲線は、既知の濃度の較正ペプチドLPGGYGLPYT(配列番号1)の標準試料を使用して作成される。生体液試料中で測定される値を較正曲線と比較して、試料中のバイオマーカーの実際の量を決定する。本発明は、検量線を作成することおよび生体液試料中の結合量を測定することの両方のために分光光度分析を利用し、後述の実施例において、本方法はHRPおよびTMBを利用して、結合量に比例し、分光光度計によって読み取ることができる、測定可能な色の強度を生成する。当然のことながら、いずれか他の好適な分析方法も使用することができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「カットオフ値」は、患者のCOPDなどの線維性疾患の高い可能性の指標として統計的に決定される結合量を意味し、統計的カットオフ値以上である患者の試料中のバイオマーカーの測定値は、少なくとも70%の確率、好ましくは少なくとも80%の確率、好ましくは少なくとも85%の確率、より好ましくは少なくとも90%の確率、および最も好ましくは少なくとも95%の確率の、COPDなどの線維性疾患の存在または可能性に対応する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「健常な対象に関連する値および/または分かっている疾患重症度に関連する値」という用語は、健康であるとみなされる、すなわち、COPDなどの線維性疾患を有さない対象の、上記方法によって決定されたELP-3の正規化された量、および/または重症度が分かっているCOPDなどの繊維性疾患を有することが分かっている対象の、上記方法によって決定されたELP-3の正規化された量を意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「ELP-3」はC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を有するペプチドを指し、「ELP-3-ELISA」は、試料中のC末端アミノ酸配列LPGGYGLPYT(配列番号1)を有するペプチドの量を定量化する本明細書に開示の特異的競合ELISAを指す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】健康な対象およびCOPDを有する患者のELP-3の測定値。
【実施例】
【0026】
本開示の実施形態を次の実施例において説明するが、それらは本開示を理解する上での助けになるように記載されており、決して後に続く特許請求の範囲に定義される本開示の範囲を制限するものであると解釈されるべきではない。次の実施例は、記載される実施形態の作製および使用方法の完全な開示および説明を、当業者に提供するために記述されており、本開示の範囲を限定することを意図せず、以下の実験が実施された全てまたは唯一の実験であることを表すことをも意図しない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関する精度を確保する努力がなされたが、いくらかの実験誤差および偏差が考慮されるべきである。特に指示されない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力はほぼ大気圧である。
次の実施形態において、次の材料および方法を用いた。
【0027】
試薬
提示された実験で使用した全ての適用された試薬は、Sigma Aldrich(St.Louis,Mo,USA)およびMerck(Whitehouse Station,NJ,USA)からの高品質の化学物質であった。使用した96ウェルのストレプトアビジンコーティング微量定量プレートは、Roche(Basel,Switzerland)からのものであった。適用したアッセイ緩衝液は、50mMのTris緩衝生理食塩水(TBS)(2gのNaCl、pH8.0)からなった。3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)は、Kem-EN-Tec Diagnosticsからのものであった。免疫処置およびアッセイ開発に使用した合成ペプチドは、1)免疫原性ペプチド:KLH-CGG-LPGGYGLPYT(配列番号4)、ビオチン化ペプチド:ビオチン-LPGGYGLPYT(配列番号5)、3)標準ペプチド:LPGGYGLPYT(配列番号1)、および4)伸長ペプチド:LPGGYGLPYTT(配列番号2)であった。全ての合成ペプチドは、American peptide Company(Sunnyvale,California USA)から購入した。インビトロ切断に適用した試薬:エラスチン(Sigma、E7152)ヒト好中球エラスターゼ(HNE)タンパク質(Abcam、ab91099)、PR3(EPC ML734)、および完全プロテアーゼ阻害剤(Roche 1186153001)。
【0028】
標的配列の選択
エラスチン中のPR3に特異的な切断部位(Uniprot:P15502-ELN_ヒト)は、質量分析によって以前識別されている(12)。NPS@:ネットワークタンパク質配列分析を使用して、他のタンパク質からのデカペプチド配列に対する相同性について、PR3が生成したエラスチンデカペプチドをブラストで検索した。これに基づいて、配列LPGGYGLPYT(配列番号1)をELP-3アッセイ抗体開発用に選択した。識別された配列の存在は、インビトロでのエラスチンのPR3切断を、現場で質量分析によって検証した。
【0029】
抗体開発
各選択された標的配列に対する、200ulの乳化抗原を含むFreundの不完全アジュバント(KLH-CGG-LPGGYGLPYT(配列番号4))を使用して、4~6週齢の6匹のマウスの腹部皮下に免疫処置を実施した(免疫処置当たり50ug)。4回の初回免疫処置を2週毎に実施し、続いて4週毎に追加の4回の免疫処置を実施した。融合に最も高い血清力価を有するマウスを選択した。マウスを1ヶ月間休息させ、次いで、脾臓の単離3日前に、100ulの0.9%NaCl溶液中に50ulの免疫原性ペプチドを静脈内で追加免疫した。Gefterらによって記載されるように、脾臓細胞をSP2/o骨髄腫細胞と融合させて、ハイブリドローマ(hybridroma)を生成し、培養皿にクローニングした(13)。限界希釈方法を用いるさらなる増殖用に、96ウェル微量定量プレートにクローンを播種して、確実にモノクローナルを増殖した。標準ペプチドおよび天然材料に対する反応性について、ストレプトアビジンコーティングプレートを使用する間接ELISAで、抗体産生ハイブリドーマの上清をスクリーニングした。ビオチン-LPGGYGLPYT(配列番号5)をスクリーニングペプチドとして使用し、標準ペプチドLPGGYGLPYT(配列番号1)を較正物質として使用して、クローンのさらなる特異性を試験した。
【0030】
ELISA試験計画
標的配列用に選択したクローンから上清を収集し、HiTrap親和性カラム(GE Healthcare Life Science(Little Chalfront,Buckinghamshire,UK))を使用してモノクローナル抗体を精製した。
【0031】
競合ELISAアッセイとして、収集した抗体に基づいてELP-3アッセイを構築した。96ウェルのストレプトアビジンコーティング微量定量プレート(Roche,Basel,Switzerland)を、20℃でアッセイ緩衝液中に30分間振盪溶解させた、100ulのビオチン化スクリーニングペプチド(ビオチン-LPGGYGLPYT(配列番号5))でコーティングした。洗浄緩衝液(20mMのTRIS、50mMのNaCl、pH7)中でプレートを5回洗浄した。試料/標準/対照(20ul)を添加し、続いて(100ul)モノクローナル抗体を添加し、4℃で3時間振盪培養した。培養後、洗浄緩衝液中でプレートを5回洗浄した。体積100ulの二次HRP標識ヤギ抗マウス抗体を添加し、続いて20℃で1時間振盪培養した。次いで、プレートを洗浄し、TMBを添加し、SpectraMax M読み取り機(Molecular Devices(Ca,USA))によって、650nmを基準として450nmでプレートを分析した。4つのパラメータの数学的フィッティングモデルを使用して、検量線をプロットした。各ELISAプレートは、アッセイ間の変動を監視するキット対照を含んだ。アッセイの範囲内で全ての試料を測定した。定量下限(LLOQ)レベル未満の全ての試料には、LLOQの値が割り当てられた。
【0032】
技術的評価
希釈した健康なヒト血清(n=4)の直線性を決定するために、ヘパリン血漿(n=4)、クエン酸血漿(n=4)、およびEDTA血漿を適用した。2倍希釈標準ペプチド(LPGGYGLPYT(配列番号1))、伸長ペプチド(LPGGYGLPYTT(配列番号2))、ナンセンスペプチド(PGGVPGGVFY(配列番号6))、およびナンセンスコーター(LPGGYGLPYT-K-ビオチン(配列番号7))のシグナル阻害の割合として、抗体特異性を計算した。未希釈試料の回収率によって、リナライトを評価した。アッセイ内およびアッセイ間の変動は、二重決定で実行される7つの品質対照試料の10個の独立した測定値によって決定した。検出下限(LLOD)を、21個のブランク(緩衝液)試料の平均+3×標準偏差(SD)として決定した。検出上限(ULOD)を、標準Aの平均-3×SD測定値として決定した。定量下限(LLOQ)を、ヒト血清中で測定した最低濃度として30%未満の誤差で決定した。精度は、標準ペプチドでスパイクした健康なヒト血清試料中および血清中で測定し、次いで、緩衝液中のスパイクしたペプチドまたは血清の回収率として計算した。アッセイは、脂質(低=4.83mM、高=10.98mM)、ヘモグロビン(低=0.155mM、高=0.310mM)、およびビオチン(低=30ng/ml、高=90ng/ml)でスパイクしたヒト血清と比較して、スパイクしなかった健康な血清中の分析物の回収率を計算することによって干渉について試験した。
【0033】
分析物の安定性
分析物の安定性は、3つの健康なヒト血清および血漿試料を4または20℃で2、4および24時間のいずれかで培養することによって評価し、-20℃で維持した試料の割合として計算した(0時間試料)。加えて、最大4回凍結融解した3つの健康なヒト血清および血漿試料について、凍結融解安定性を決定した。
【0034】
切断分析
ELP-3断片をインビトロで生成するために、PR3またはHNEと共に37℃で2、4、24、または48時間エラスチンを培養した。エラスチンを緩衝液(Tris-HCl、150mMのNaCl、pH7.5)中で1mg/mlの濃度で再構成した。切断溶液は、PR3では100ug/mlのエラスチンおよび1ug/mlのプロテアーゼ、HNE切断では100ug/mlのエラスチンおよび2ug/mlのプロテアーゼの最終濃度を含有していた(緩衝液:Tris-HCl、150mMのNaCl、pH7.5)。分析まで全ての溶液を即座に凍結した。
【0035】
倫理的配慮
マウスで実施した作業は、国家機関によって承認された(動物実験検査局、承認番号:2013-15-2934-00956)。全てのマウスを動物福祉ガイドラインに従って処理した。
【0036】
COPD患者でのELP-3の評価は、Sandらによって以前説明されているコホートで実施した(14)。この研究には、68人の参加者が含まれ、ヘルシンキ宣言および良き臨床上の基準ガイドラインに準拠し、地元の倫理委員会によって承認された(試験計画番号H-6-2013-014)。全ての参加者に、全ての研究関連評価の前にインフォームドコンセントを提供した。
【0037】
COPD診断およびFEV1<80%の予測値を包含基準とした。研究前4週間以内に入院に至るCOPDの急性悪化を除外基準とした。COPD患者のELP-3レベルを、健康なドナーからの市販の対照血清(Valley Bio-Medial(Winchester,VA,USA))のレベルと比較した。全ての測定を盲検で実施した。
【0038】
統計分析
健康な対照とCOPD患者とのELP-3レベルの差を、両側Mann-Whitneyの対応のない2群のt検定を使用して評価した。健康な対照とCOPD患者との年齢比較は、Mann-Whitneyの対応のない2群のt検定を使用して実施した。差は、p<0.05である場合に統計的に有意とみなした。アスタリスクは次を示す:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、***p<0.0001。グラフは、平均±標準誤差の平均として示される。全ての統計分析は、GraphPad Prism v.7(GraphPad Software(La Jolla,CA,USA))またはMedCalc(Ostend,Belgium)で実施した。
【0039】
結果
クローンの特徴評価
間接ELISAにおいて標準ペプチド、伸長ペプチド、および切断ペプチドに対する反応性について、抗体産生ハイブリドーマ由来の上清をスクリーニングした。ペプチドビオチン-LPGGYGLPYTを使用して、反応性をスクリーニングした。抗体クローンNBH116/6A10-E7-D12をELP-3に対して選択し、抗体を上清から精製した。これに基づいて、競合ELISAアッセイを確立した。血清および血漿では天然の反応性が観察され、伸長ペプチドまたはナンセンスペプチドを使用して阻害は観察されなかった。
【0040】
技術的評価
測定は、検量線の線形範囲に基づいて決定した。アッセイ内およびアッセイ間平均変動は、それぞれ、2.4~10%および4.7~14.5%の範囲であった。
【0041】
ヒト血清およびクエン酸血漿(ただし、EDTAおよびヘパリン血漿ではない)を1+3で希釈すると、希釈の直線性が観察された。血清試料は、ペプチドまたは7つの異なる濃度の別の血清試料でスパイクした。血清およびペプチドの両方のスパイク回収は許容範囲内であった。平均回収率%の値は、スパイクされた試料の予想濃度と比較して±20%以内であったため、許容可能であった。分析物の安定性は、4および20℃での短期貯蔵中(最大48時間)、凍結/サイクル中では許容可能であり、ヘモグロビン、脂質、またはビオチンは、2つのアッセイのいずれにおいてもシグナルが低減しなかった。
【0042】
インビトロ分析-ELP-3は、PR3によって生成される
ELP-3がプロテアーゼ3切断に特異的であったかどうかを決定するために、異なるエラスターゼと共にエラスチンを培養した。ELP-3は、2~48時間後にPR3によって切断されたエラスチンによって生成した。ELP-3によって認識される断片の検出可能なレベルは、HNE切断によって生成したが、それぞれのアッセイと比較してはるかに低い濃度であった。アッセイでは、完全エラスチン、緩衝液対照、またはプロテアーゼ対照に対する交差反応性は観察されなかった。
【0043】
健康な対照と比較して、COPDでは、ELP-3レベルが増加した
COPDでELP-3レベルが上昇するかどうかを決定するために、臨床的に安定なCOPDを有する68人の患者の以前説明されているコホートでELP-3を評価した。このうち26人は、4週間後の再診にも出席した。比較のために、健康なドナーからの22個の試料を含めた。人口統計は、表1に見ることができ、Sandらによって以前説明されている(14)。
【表1】
【0044】
図1に実証されるように、ELP-3は、健康な対象と比較すると、COPD患者では統計的に上昇する(p<0.0001)。
【0045】
本明細書において、特に明示的に指示されない限り、「または(論理和)」という語は、条件のうちの1つのみが満たされることを必要とする演算子「排他的論理和」とは対照的に、記述される条件のうちの一方または両方が満たされるときに真の値を返すという演算子の意味で使用される。「含む(comprising)」という語は、「からなる(consisting of)」を意味するものではなく、「含む(including)」の意味で使用される。上記で認識される全ての先行する教示は、本明細書に参照により組み込まれる。
【0046】
参考文献
1.Barnes et al.,Nat Rev Dis Prim,2015:15076
2.Decramer et al.,Lancet,2012,379:1341-1351
3.Owen,Int J Chron Obstruct Pulmon Dis,2008,3:253-268
4.Barnes et al.,Pharmacol Rev,2004,56:515
5.Baldwin et al.,Expert Rev Mol Med,2013,15:e8
6.Kielty et al.,FEBS Lett,1994,351:85-89
7.Ashworth et al.,Biochem J,1999,340(Pt1:171-181)
8.Petersen et al.,Eur J Vasc Endovasc Surg,2001,22:48-52
9.Craciun et al.,Glycobiology,2016,26:701-709
10.Dillon et al.,Am Rev Respir Dis,1992,146:1143-1148
11.Schriver et al,Am Rev Respir Dis,1992,145:762-766
12.Heinz et al.,Biochimie,2012,94:192-202
13.Gefter et al.,Somatic Cell Genet,1977,3:231-236
14.Sand et al.,Respir Res,2015,16:69
【配列表】