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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】人工血管
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/06 20130101AFI20240124BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
A61F2/06
D03D1/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021102650
(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公開番号】P2022013768
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020111686
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嵐 伸作
【審査官】五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-139498(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093480(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093387(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131148(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/152709(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06-2/07
D03D 1/00-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸とを有する人工血管であって、
前記人工血管は、
前記経糸と前記緯糸とが平織で織られた第1領域と、
前記人工血管の一方の面において、前記経糸が複数の緯糸を跨ぐ第2領域側第1部分、および、前記経糸が1本の緯糸を跨いで延びる第2領域側第2部分を有する第2領域と、
前記人工血管の一方の面において、前記経糸が複数の緯糸を跨ぐ第3領域側第1部分、および、前記経糸が1本の緯糸を跨いで延びる第3領域側第2部分を有する第3領域と
を、前記緯糸の延在方向で交互に有し、
前記第2領域側第1部分は、前記緯糸の延在方向で前記第3領域側第2部分に隣接し、前記第2領域側第2部分は、前記緯糸の延在方向で前記第3領域側第1部分に隣接し、
前記経糸はマルチフィラメント糸によって構成されている、人工血管。
【請求項2】
前記第2領域側第1部分と、前記第3領域側第1部分とが、前記経糸の延在方向でジグザグ状に連続して延びるように構成されている、請求項1に記載の人工血管。
【請求項3】
前記第2領域は、1本の緯糸を跨いで延びる少なくとも1本の経糸と、複数の緯糸を跨ぐ少なくとも1本の経糸とを有しており、
前記経糸の延在方向で前記第2領域側第1部分の両端において、前記第2領域の複数の経糸を構成するマルチフィラメント糸が、前記第2領域の複数の経糸を跨ぐ緯糸によって束ねられ、
前記第3領域は、1本の緯糸を跨いで延びる少なくとも1本の経糸と、複数の緯糸を跨ぐ少なくとも1本の経糸とを有しており、
前記経糸の延在方向で前記第3領域側第1部分の両端において、前記第3領域の複数の経糸を構成するマルチフィラメント糸が、前記第3領域の複数の経糸を跨ぐ緯糸によって束ねられている、請求項1または2に記載の人工血管。
【請求項4】
前記緯糸がマルチフィラメント糸によって構成されており、
前記第2領域および前記第3領域において、複数の緯糸を跨ぐ経糸のフィラメントの総フィラメント本数が、前記緯糸1本あたりのフィラメント本数の1.5倍以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の人工血管。
【請求項5】
前記第2領域および第3領域において、複数の緯糸を跨ぐ経糸の経糸本数が1本であり、前記緯糸1本あたりのフィラメント本数が4~500本であり、前記経糸1本あたりのフィラメント本数が8~1000本である、請求項4に記載の人工血管。
【請求項6】
前記第2領域および前記第3領域において、複数の緯糸を跨ぐ経糸の経糸本数が2本以上であり、前記経糸1本あたりのフィラメント本数が、前記緯糸1本あたりのフィラメント本数の0.8~1.2倍である、請求項4に記載の人工血管。
【請求項7】
前記経糸の前記第2領域側第1部分および前記第3領域側第1部分の、前記緯糸の延在方向への最大の広がりの平均幅が、前記第1領域における経糸の、前記緯糸の延在方向への最大の広がりの平均幅よりも大きい、請求項1~6のいずれか1項に記載の人工血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
人工血管は、例えば病的な生体血管を取り替えるために用いられている。人工血管には、生体適合性や柔軟性の他、人工血管からの血液の漏れが少ないこと、すなわち高い耐漏血性が要求される。一般的なポリエステル人工血管(布製人工血管)は、繊維が平織で織られたものが多く(例えば、特許文献1参照)、コーティングやシール層等を追加して耐漏血性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-139498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
平織構造の人工血管は、組織としては安定しているが緯糸を詰める事に限界があり、特に経糸と緯糸の交差部の4隅のポロシティが大きくなる。したがって、人工血管の構造のみで人工血管に必要となる高い耐漏血性を維持することができず、耐漏血性を向上させるためにはコーティングを必要とする。
【0005】
そこで、本発明は、平織領域を部分的に有する織構造を有する人工血管において、経糸の立体構造によって、耐漏血性が向上した人工血管の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、経糸と緯糸とを有する人工血管であって、前記人工血管は、前記経糸と前記緯糸とが平織で織られた第1領域と、前記人工血管の一方の面において、前記経糸が複数の緯糸を跨ぐ第2領域側第1部分、および、前記経糸が1本の緯糸を跨いで延びる第2領域側第2部分を有する第2領域と、前記人工血管の一方の面において、前記経糸が複数の緯糸を跨ぐ第3領域側第1部分、および、前記経糸が1本の緯糸を跨いで延びる第3領域側第2部分を有する第3領域とを、前記緯糸の延在方向で交互に有し、前記第2領域側第1部分は、前記緯糸の延在方向で前記第3領域側第2部分に隣接し、前記第2領域側第2部分は、前記緯糸の延在方向で前記第3領域側第1部分に隣接し、前記経糸はマルチフィラメント糸によって構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人工血管によれば、平織領域を部分的に有する織構造を有する人工血管において、経糸の立体構造によって、耐漏血性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の人工血管の織物組織図である。
図2図1に示される織構造を有する人工血管の外面のSEM写真である。
図3】本発明の他の実施形態の人工血管の織物組織図である。
図4】本発明の他の実施形態の人工血管の織物組織図である。
図5】本発明の他の実施形態の人工血管の織物組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の人工血管を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の人工血管は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態の人工血管の織物組織図である。図1では、人工血管の外面となる部分のうちの一部(経糸12本、緯糸12本の領域)が示されている。なお、図1において、黒で示されているのが、経糸が人工血管の外面に出る部分であり、白で示されているのが、緯糸が人工血管の外面に出る部分である。また、図2は、図1に示される織構造を有する人工血管の外面のSEM写真である。
【0011】
人工血管は、例えば、病的な生体血管と取り替えて、生体血管をバイパスするためなどに用いられる。本実施形態では、人工血管は繊維の織構造によって形成されている。本実施形態の人工血管は、図1に示されるように、経糸1a~1l(以下、まとめて経糸1と呼ぶ)と緯糸2a~2l(以下、まとめて緯糸2と呼ぶ)とを有し、経糸1と緯糸2とを交錯させた織構造を有している。なお、図1において、経糸1は上下方向に延びており、経糸1の延在方向をD1と呼ぶ。また、図1において、緯糸2は左右方向に延びており、緯糸2の延在方向をD2と呼ぶ。図示は省略するが、人工血管において、経糸1は人工血管の軸方向に沿って織り込まれており、緯糸2は人工血管の周方向に沿って織り込まれている。なお、人工血管を製造するための織機としては、特に限定されない。本実施形態の人工血管の大きさは特に限定されない。例えば、人工血管は、内径10mm以上の大口径(胸腹部大動脈用)の人工血管であってもよいし、内径6mm、8mmなど、内径6mm以上10mm未満の中口径(下肢、頸部、腋窩領域における動脈用)の人工血管であってもよいし、内径6mm未満の小口径の人工血管であってもよい。人工血管の軸方向の長さは特に限定されず、用途に応じて適宜変更が可能である。
【0012】
本実施形態では、人工血管は、図1に示されるように、経糸1と緯糸2とが平織で織られた第1領域R1を有している。また、人工血管は、人工血管の一方の面(本実施形態では、人工血管の外面)において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第2領域側第1部分R21、および、経糸が1本の緯糸を跨いで延びる第2領域側第2部分R22を有する第2領域R2を有している。さらに、人工血管は、人工血管の一方の面(本実施形態では、人工血管の外面)において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第3領域側第1部分R31、および、経糸1が1本の緯糸2を跨いで延びる第3領域側第2部分R32を有する第3領域R3を有している。第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3は、図1に示されるように、緯糸2の延在方向D2で交互に形成されている。すなわち、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3は、緯糸2の延在方向D2にこの順に繰り返し配置されている。第2領域側第1部分R21は、緯糸2の延在方向D2で第3領域側第2部分R32に隣接し、第2領域側第2部分R22は、緯糸2の延在方向D2で第3領域側第1部分R31に隣接している。また、経糸1は、図2に示されるように、マルチフィラメント糸によって構成されている。本実施形態の人工血管は、上記構成を有していることにより、後述するように、第2領域側1部分R21または第3領域側第1部分R31において拘束されずに長く延びた、マルチフィラメント糸によって構成された経糸1が、平織で織られた第1領域R1(および人工血管の一方の面に垂直な方向。図1および図2における紙面手前方向)へと広がる(図2参照)。この経糸1の立体構造によって、平織で織られた第1領域R1において生じる繊維間隙から血液が染み出たとき、血液は漏れ出ることが抑制され、立体構造内に保持される。保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上させることができる。以下、人工血管の各部の構成および織構造について説明する。
【0013】
経糸1は、人工血管を構成する繊維のうち、一方向に延びる繊維である。本実施形態では、経糸1は、人工血管の軸方向に延びる繊維である。経糸1は、繊維の織構造によって構成される布製人工血管に適用可能な材料によって構成される。経糸1の材料は、布製人工血管に適用可能な材料であれば、特に限定されない。例えば、経糸1の材料は、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド等とすることができる。また、融点や伸縮率など異なる性質を持つ適用可能な2種類以上の材料によって構成された複合材料を用いても良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等が紡糸段階で複合されて、らせん状のクリンプを有する1本の長繊維を形成する合成繊維とすることができる。例えば、らせん状のクリンプを有する、融点や伸縮率が異なる性質を持つ2種類の材料によって構成された複合材料が経糸1の材料として用いられた場合、後述する経糸1によって構成される立体構造が緯糸2の延在方向D2で広がりやすく、より血液を保持する性能が高まり、耐漏血性を向上させることができる。
【0014】
経糸1のそれぞれは、本実施形態では、マルチフィラメント糸によって構成されている(図2参照)。経糸1の繊度は、経糸1のフィラメントが第1領域R1に向かって広がって繊維間隙を塞ぐことができれば特に限定されない。経糸1の繊度は、例えば、経糸1の単糸繊度を0.25~2.50dtex、好ましくは0.50~2.00dtexとし、経糸1の総繊度を2~2500dtex、好ましくは6~1600dtex、より好ましくは10~540dtex、さらに好ましくは30~200dtexとすることができる。経糸1の単糸繊度および経糸1の総繊度を上記範囲することにより、第2領域R2および第3領域R3の経糸1を第1領域R1に向かって良好に広げることができる。したがって、第2領域R2および第3領域R3の経糸1によって第1領域R1の間隙から血液が染み出たとき、血液は漏れ出ることが抑制され、経糸1の立体構造によって保持され、保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上することができる。なお、「単糸繊度」は、経糸1を構成するフィラメント1本あたりの繊度であり、「総繊度」は、単糸繊度と、経糸1を構成するフィラメントの本数との積である。なお、経糸1本を構成するフィラメント糸の本数(以下、フィラメント本数という)は特に限定されないが、例えば、後述するように、経糸1の総フィラメント本数が緯糸2の1本あたりのフィラメント本数の1.5倍以上であり、第2領域R2において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が1本である場合、経糸1の1本あたりのフィラメント本数は、8~1000本、好ましくは12~800本、より好ましくは20~270本、さらに好ましくは60~100本とすることができる。なお、後述するように、経糸1の1本あたりのフィラメント本数が、緯糸1の1本あたりのフィラメント本数の0.8~1.2倍であり第2領域R2において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が2本以上である場合は、経糸1の1本あたりのフィラメント本数は、4~500本、好ましくは6~400本、より好ましくは10~135本、さらに好ましくは30~50本とすることができる。
【0015】
緯糸2は、人工血管を構成する繊維のうち、経糸1と交差する方向に延びる繊維である。本実施形態では、緯糸2は人工血管の周方向に延びる繊維である。緯糸2は、繊維の織構造によって構成される布製人工血管に適用可能な材料によって構成される。緯糸2の材料は、布製人工血管に適用可能な材料であれば、特に限定されない。例えば、緯糸2の材料は、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド等とすることができる。
【0016】
緯糸2のそれぞれは、モノフィラメント糸であっても、マルチフィラメント糸であってもよいが、本実施形態では、緯糸2は、図2に示されるように、マルチフィラメント糸によって構成されている。緯糸2の繊度は特に限定されないが、例えば、緯糸2がモノフィラメント糸である場合は、緯糸の単糸繊度は、15~100dtex、好ましくは20~75dtexとすることができる。また、緯糸2のそれぞれがマルチフィラメント糸によって構成されている場合、例えば、緯糸2の単糸繊度を0.25~2.50dtex、好ましくは0.50~2.00dtexとし、緯糸2の総繊度を1~1250dtex、好ましくは3~800dtex、より好ましくは5~270dtex、さらに好ましくは15~100dtexとすることができる。なお、「単糸繊度」は、緯糸2を構成するフィラメント(モノフィラメントまたはマルチフィラメント)1本あたりの繊度であり、「総繊度」は、単糸繊度と、緯糸2を構成するフィラメントの本数との積である。なお、緯糸2がマルチフィラメント糸によって構成される場合、緯糸1本を構成するフィラメント糸の本数は、4~500本、好ましくは6~400本、より好ましくは10~135本、さらに好ましくは30~50本とすることができる。
【0017】
第1領域R1は、経糸1と緯糸2とが平織された部分である。図1において、第1領域R1は、経糸1a、1b、1g、1hと緯糸2(緯糸2a~2l)とが交錯する領域である。第1領域R1は、人工血管の強度、特に(人工血管の軸方向の)引張強度を向上させる。第1領域R1は、経糸1の延在方向D1に沿って延びており、人工血管の軸方向に延びている。また、第1領域R1は、緯糸2の延在方向D2において所定間隔で互いに離間して複数配置されている。緯糸2の延在方向D2で、1つの第1領域R1と、他の1つの第1領域R1との間には、第2領域R2と第3領域R3とが配置されている。
【0018】
本実施形態では、第1領域R1は、図1に示されるように、2本の経糸1a、1b(1g、1h)と、複数の緯糸2a~2l(および図示されていない緯糸)とが平織されている。1つの第1領域R1に設けられる経糸1の経糸本数は、2~4本、好ましくは2~3本、より好ましくは2本とすることができる。なお、本明細書において、「経糸本数」という場合、マルチフィラメント糸を構成するフィラメント本数ではなく、複数のフィラメント糸によって構成されて纏まった経糸1を1本とし、そのフィラメント糸が纏まった経糸1が何本あるかをいう。経糸1の経糸本数を上述した範囲とすることにより、第2領域側第1部分R21の経糸1および第3領域側第1部分R31の経糸1によって覆われない第1領域R1の範囲を小さくすることができる。したがって、平織の第1領域R1が、第2領域側第1部分R21の経糸1および第3領域側第1部分R31の経糸1によって立体的にカバーされやすくなり、第1領域R1から血液が染み出たとき、第2領域側第1部分R21の経糸1および第3領域側第1部分R31の経糸1の立体構造によって血液が保持され、保持された状態で血液が凝固することから、人工血管からの漏血量を低減することができる。また、人工血管において、第1領域R1~第3領域R3における緯糸2の延在方向D2において配列された経糸1の全経糸本数に対する、第1領域R1での経糸1の経糸本数の比率(第1領域R1での経糸本数/全経糸本数)は、特に限定されないが、例えば0.2~0.4(本実施形態では、1/3)とすることができる。第1領域R1での経糸1の経糸本数および経糸本数の比率を上記範囲とすることにより、人工血管の強度を高めつつ、人工血管からの漏血量を低減することができる。
【0019】
第2領域R2は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第2領域側第1部分R21と、経糸1が1本の緯糸2を跨いで延びる第2領域側第2部分R22とを有している。第2領域側第1部分R21および第2領域側第2部分R22は、図1に示されるように、経糸1の延在方向D1で交互に設けられている。第2領域R2が、第2領域側第1部分R21と第2領域側第2部分R22とを有していることにより、人工血管の全てが平織構造であるものと比較して、人工血管を柔軟にすることができる。第2領域R2に設けられる経糸1の経糸本数は、例えば1~4本、好ましくは2~3本、より好ましくは2本とすることができる。
【0020】
第2領域側第1部分R21は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有するように織られた部分である。本実施形態では、経糸1d、1j等が複数の緯糸2を跨いでいる。第2領域側第1部分R21において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐことにより、平織構造よりも人工血管がその部分で柔軟になる。また、第2領域側第1部分R21の経糸1は、マルチフィラメント糸によって構成されており、経糸1の延在方向D1で第2領域側第1部分R21の両端は、第2領域側第2部分R22の緯糸2によって縛られた状態となる。そのため、図2に示されるように、両端が縛られたマルチフィラメント糸が緯糸2の延在方向D2に広がる立体構造を形成する(なお、この立体構造は図2における紙面手前方向にも広がっている)。したがって、第2領域側第1部分R21に緯糸2の延在方向D2で隣接する、平織構造の第1領域R1は、広がった第2領域側第1部分R21のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。この経糸1の立体構造によって、平織で織られた第1領域R1において生じる繊維間隙から血液が染み出たとき、染み出た血液はマルチフィラメントによって構成された立体構造のフィラメント間の隙間に保持される。これにより、保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上させることができる。また、本実施形態では、第2領域側第1部分R21に緯糸2の延在方向D2で隣接する第3領域側第2部分R32も同様に、広がった第2領域側第1部分R21のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。これにより、第3領域側第2部分R32において生じる隙間についても、第2領域側第1部分R21のマルチフィラメント糸によって被覆され、人工血管内の血液が、外部に漏出しにくくなる。
【0021】
第2領域側第1部分R21において(経糸1が人工血管の他方の面から一方の面(図1において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに)、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数は、特に限定されないが、例えば、2~5本、好ましくは3~4本、より好ましくは3本(図1に示される状態)とすることができる。第2領域側第1部分R21において、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数を上記範囲とすることによって、経糸1のマルチフィラメント糸を緯糸2の延在方向D2に広げやすいとともに、人工血管を所定の強度に維持することができる。
【0022】
第2領域側第1部分R21は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有していれば、第2領域側第1部分R21を構成する経糸1の本数は特に限定されない。本実施形態では、第2領域側第1部分R21は、複数(2本)の経糸1c、1d(または経糸1i、1j)を有している。なお、第2領域R2は、1本(のみ)の緯糸2を跨いで延びる少なくとも1本の経糸1と、複数の緯糸2を跨ぐ少なくとも1本の経糸1とを有していてもよい。本実施形態では、第2領域R2は、平織構造である第1領域R1と同様に、1本のみの緯糸2を跨いだ後、人工血管の一方の面から他方の面へと延びている、経糸1c(経糸1i)と、複数の緯糸2を跨いだ後、人工血管の一方の面から他方の面へと延びている、経糸1d(経糸1j)とを備えている。
【0023】
第2領域側第2部分R22は、経糸1が1本のみの緯糸2を跨ぐ(経糸1が人工血管の他方の面から一方の面(図1において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに複数の緯糸2を跨がない)ように織られた部分である。第2領域側第2部分R22は、経糸1の延在方向D1で、第2領域側第1部分R21の長さと同程度の長さとされている。すなわち、第2領域側第1部分R21における緯糸2の緯糸本数(図1では3本)は、第2領域側第2部分R22における緯糸2の緯糸本数(図1では3本)と等しい。
【0024】
第3領域R3は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第3領域側第1部分R31と、経糸1が1本の緯糸2を跨いで延びる第3領域側第2部分R32とを有している。第3領域側第1部分R31および第3領域側第2部分R32は、図1に示されるように、経糸1の延在方向D1で交互に設けられている。第3領域R3が、第3領域側第1部分R31と第3領域側第2部分R32とを有していることにより、人工血管の全てが平織構造であるものと比較して、人工血管を柔軟にすることができる。第3領域R3に設けられる経糸1の経糸本数は、例えば1~4本、好ましくは2~3本、より好ましくは2本とすることができる。
【0025】
第3領域側第1部分R31は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有するように織られた部分である。本実施形態では、経糸1e、1k等が複数の緯糸2を跨いでいる。第3領域側第1部分R31において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐことにより、平織構造よりも人工血管がその部分で柔軟になる。また、第3領域側第1部分R31の経糸1は、マルチフィラメント糸によって構成されており、経糸1の延在方向D1で第3領域側第1部分R31の両端は、第3領域側第2部分R32の緯糸2によって縛られた状態となる。そのため、図2に示されるように、両端が縛られたマルチフィラメント糸が緯糸2の延在方向D2に広がる立体構造を形成する。なお、この立体構造は図2における紙面手前方向にも広がっている。したがって、第3領域側第1部分R31に緯糸2の延在方向D2で隣接する、平織構造の第1領域R1は、広がった第3領域側第1部分R31のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。この経糸1の立体構造によって、平織で織られた第1領域R1において生じる繊維間隙から血液が染み出たとき、染み出た血液が、マルチフィラメントによって構成された立体構造のフィラメント間の隙間に保持される。これにより、保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上させることができる。また、本実施形態では、第3領域側第1部分R31に緯糸2の延在方向D2で隣接する第2領域側第2部分R22も同様に、広がった第3領域側第1部分R31のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。これにより、第2領域側第2部分R22において生じる隙間についても、第3領域側第1部分R31のマルチフィラメント糸によって被覆され、人工血管内の血液が、外部に漏出しにくくなる。
【0026】
第3領域側第1部分R31において(経糸1が人工血管の他方の面から一方の面(図1において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに)、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数は、特に限定されないが、例えば、2~5本、好ましくは3~4本、より好ましくは3本(図1に示される状態)とすることができる。第3領域側第1部分R31において、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数を上記範囲とすることによって、経糸1のマルチフィラメント糸を緯糸2の延在方向D2に広げやすいとともに、人工血管を所定の強度に維持することができる。
【0027】
第3領域側第1部分R31は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有していれば、第3領域側第1部分R31を構成する経糸1の本数は特に限定されない。本実施形態では、第3領域側第1部分R31は、複数(2本)の経糸1e、1f(または経糸1k、1l)を有している。なお、第3領域R3は、1本(のみ)の緯糸2を跨いで延びる少なくとも1本の経糸1と、複数の緯糸2を跨ぐ少なくとも1本の経糸1とを有していてもよい。本実施形態では、第3領域R3は、平織構造である第1領域R1と同様に、1本のみの緯糸2を跨いだ後、人工血管の一方の面から他方の面へと延びている、経糸1f(経糸1l)と、複数の緯糸2を跨いだ後、人工血管の一方の面から他方の面へと延びている、経糸1e(経糸1k)とを備えている。
【0028】
第3領域側第2部分R32は、経糸1が1本のみの緯糸2を跨ぐ(経糸1が人工血管の他方の面から一方の面(図1において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに複数の緯糸2を跨がない)ように織られた部分である。第3領域側第2部分R32は、経糸1の延在方向D1で、第3領域側第1部分R31の長さと同程度の長さとされている。すなわち、第3領域側第1部分R31における緯糸2の緯糸本数(図1では3本)は、第3領域側第2部分R32における緯糸2の緯糸本数(図1では3本)と同じになっている。
【0029】
上述したように、人工血管は、経糸1と緯糸2とが平織で織られた第1領域R1と、第2領域側第1部分R21および第2領域側第2部分R22を有する第2領域R2と、第3領域側第1部分R31および第3領域側第2部分R32を有する第3領域R3とを、緯糸2の延在方向D2で交互に有し、第2領域側第1部分R21は、緯糸2の延在方向D2で第3領域側第2部分R32に隣接し、第2領域側第2部分R22は、緯糸2の延在方向D2で第3領域側第1部分R31に隣接し、経糸1はマルチフィラメント糸によって構成されている。これにより、第2領域側第1部分R21の経糸1のマルチフィラメント糸が緯糸2の延在方向D2に広がって、第2領域側第1部分R21に隣接する第1領域R1を部分的に覆い、第1領域R1に形成された経糸1と緯糸2との交差部の4隅に形成された隙間(ポロシティ)を埋める。さらに、第3領域側第1部分R31の経糸1のマルチフィラメント糸が緯糸2の延在方向D2に広がって、第3領域側第1部分R31に隣接する第1領域R1を部分的に覆い、第1領域R1に形成された経糸1と緯糸2との交差部の4隅に形成された隙間(ポロシティ)が、第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31のマルチフィラメント糸によって被覆される。したがって、平織で織られた第1領域R1において生じる繊維間隙から血液が染み出たとき、経糸1の立体構造によって、染み出た血液が、マルチフィラメントにより構成された立体構造のフィラメント間の隙間に保持され、血液は流れ出ることなく凝固することが可能となる。これにより、耐漏血性を向上させることができる。また、本実施形態では、第2領域側第1部分R21の経糸1のマルチフィラメント糸によって、第2領域側第1部分R21に隣接する第3領域側第2部分R32が部分的に覆われ、第3領域側第2部分R32に形成された経糸1と緯糸2との交差部に形成された隙間(ポロシティ)が覆われる。さらに、第3領域側第1部分R31の経糸1のマルチフィラメント糸によって、第3領域側第1部分R31に隣接する第2領域側第2部分R22が部分的に覆われ、第2領域側第2部分R22に形成された経糸1と緯糸2との交差部に形成された隙間(ポロシティ)が覆われる。したがって、人工血管内の血液が、第3領域側第2部分R32および第2領域側第2部分R22の隙間から外部に漏出しにくくなり、人工血管の耐漏血性が向上する。
【0030】
さらに、本実施形態では、平織構造を有する第1領域R1と、平織構造とは異なる織構造を有する第2領域R2および第3領域R3が緯糸2の延在方向D2に交互に形成されている。したがって、緯糸2の延在方向D2に所定の間隔で設けられた第1領域R1によって人工血管の所定の強度を確保しつつ、第2領域R2および第3領域R3によって、人工血管に必要な所定の柔軟性を得ることができる。したがって、本実施形態の人工血管によれば、耐漏血性の向上に加え、人工血管に必要な強度および柔軟性の両立も可能となる。
【0031】
また、本実施形態では、図1に示されるように、第2領域側第1部分R21と、第3領域側第1部分R31とが、経糸1の延在方向D1でジグザグ状に連続して延びるように構成されている。この場合、緯糸2の延在方向D2に広がった、第2領域側第1部分R21の経糸1と、第3領域側第1部分R31の経糸1とが干渉せず、かつ、経糸1の延在方向D1で経糸1の広がりが途切れないので、立体構造による血液の吸収性をより高めることができる。
【0032】
経糸1の第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31の、緯糸2の延在方向D2への最大の広がり(図2におけるWa1~Wa3参照)の平均幅が、第1領域R1における経糸1の、緯糸2の延在方向D2への最大の広がり(Wb1~Wb3参照)の平均幅よりも大きいことが好ましい。この場合、第1領域R1、第2領域側第2部分R22および第3領域側第2部分R32の隙間が、第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31の経糸1によって、広い領域で被覆される。したがって、第1領域R1、第2領域側第2部分R22および第3領域側第2部分R32の隙間から染み出た血液をさらに保持しやすく、耐漏血性をさらに向上させることができる。なお、経糸1の第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31の、緯糸2の延在方向D2への最大の広がりの平均幅は、特に限定されないが、例えば、第1領域R1における経糸1の、緯糸2の延在方向D2への最大の広がりの平均幅の2.0~4.0倍とすることができる。
【0033】
なお、「経糸1の第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31の、緯糸2の延在方向D2への最大の広がりの平均幅」は、例えば、人工血管の所定の面積(例えば1mm×1mm)において、第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31の経糸1の広がりが最大になる部分の幅(図2のWa1~Wa3参照)を、所定の数m(例えば10個以上)計測し、それらの平均値((Wa1+Wa2+・・・Wam)/m)を算出すればよい。
【0034】
また、人工血管において、緯糸2がマルチフィラメント糸によって構成されており、第2領域R2および第3領域R3において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1(図1における経糸1d、1e、1j、1k)のフィラメントの総フィラメント本数が、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数の1.5倍以上、好ましくは1.5倍~3.0倍であってもよい。ここで、「複数の緯糸2を跨ぐ経糸1のフィラメントの総フィラメント本数」とは、1つの第2領域R2または1つの第3領域R3において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が1本である場合には、その1本のフィラメント本数であり、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が複数本(例えば2本または3本)である場合には、複数本の経糸1のフィラメント糸の合計数(1本の経糸1を構成するフィラメント本数に、経糸本数である2または3を乗じた数)である。複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の総フィラメント本数が、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数よりも多いことによって、経糸1のマルチフィラメント糸が緯糸2のマルチフィラメント糸よりも広がりやすく、耐漏血性をさらに高めることができる。すなわち、緯糸2よりも総フィラメント本数が多い経糸1が、経糸1の延在方向D1で、第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31の両端において、経糸1よりも細い(フィラメント本数が少ない)緯糸2によって縛られる。これにより、細い緯糸2によって縛られることで経糸1に強い圧力が加わり、経糸1はより緯糸2の延在方向D2に広がりやすくなる。さらに、経糸1の総フィラメント本数と、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数が上記比率で設けられている場合、緯糸2が経糸1のフィラメントの本数に対して少なくなり、人工血管を織る際に緯糸2を経糸1の延在方向D1に詰めやすくなる。したがって、緯糸2を経糸1の延在方向D1に詰めることで経糸1と緯糸2との交差部に形成された隙間(ポロシティ)を小さくすることができ、漏血量自体を低減することができる。したがって、緯糸2を詰めやすくすることによる漏血量自体の低減と、経糸1の立体構造による漏血した血液の吸収性との相乗効果により、耐漏血性を飛躍的に高めることができる。
【0035】
本実施形態では、第2領域R2および第3領域R3のそれぞれにおいて、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が1本であり、第2領域R2および第3領域R3における経糸1の1本あたりのフィラメント本数が、緯糸1本あたりのフィラメント本数の1.5倍以上、好ましくは1.5~3倍となるように構成されている。具体的には、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数が4~500本であり、経糸1の1本あたりのフィラメント本数が8~1000本とすることができる。これにより、第2領域R2および第3領域R3において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1を構成するマルチフィラメント糸が、第2領域R2および第3領域R3のそれぞれにおいて1つに束ねられて、緯糸2のフィラメント本数よりも多くなっている。なお、第2領域R2および第3領域R3において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1のフィラメントの総フィラメント本数が、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数の1.5倍以上となるように構成されていれば、経糸1および緯糸2の構成は特に上述した構成に限定されない。例えば、第2領域R2および第3領域R3において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が2本以上であり、経糸1の1本あたりのフィラメント本数が、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数の0.8~1.2倍(好ましくは同一のフィラメント本数)であってもよい。この場合も、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が2本以上であることによって、第2領域R2および第3領域R3において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1のフィラメントの総フィラメント本数は、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数よりも多くなる。したがって、上述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態では、図1に示されるように、第2領域R2は、1本(のみ)の緯糸2を跨いで延びる少なくとも1本の経糸1(経糸1c、1i)と、複数の緯糸2を跨ぐ少なくとも1本の経糸1(経糸1d、1j)とを有しており、経糸1の延在方向D1で第2領域側第1部分R21の両端において、第2領域R2の複数の経糸1を構成するマルチフィラメント糸が、第2領域R2の複数の経糸1(経糸1c、1d、または、経糸1i、1j)を跨ぐ緯糸2によって束ねられている。例えば、経糸1cおよび緯糸2g、2h、2iを跨ぐ経糸1dの両端は、緯糸2fおよび2jによって束ねられている。さらに、第3領域R3は、1本(のみ)の緯糸2を跨いで延びる少なくとも1本の経糸1(経糸1f、1l)と、複数の緯糸2を跨ぐ少なくとも1本の経糸(経糸1e、1k)とを有しており、経糸1の延在方向D1で第3領域側第1部分R31の両端において、第3領域R3の複数の経糸1を構成するマルチフィラメント糸が、第3領域R3の複数の経糸1(経糸1d、1f、または、経糸1k、1l)を跨ぐ緯糸2によって束ねられている。例えば、緯糸2d、2e、2fを跨ぐ経糸1eおよび経糸1fの両端は、緯糸2cおよび2gによって束ねられている。上記場合、第2領域R2および第3領域R3において、平織構造である第1領域R1とは異なり、複数本(図1では2本)の経糸1が人工血管の一方の面において纏めて束ねられている(縛られている)。これにより、第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31の中央部における、緯糸2の延在方向D2での広がりが大きくなり、経糸1の立体構造が吸収可能な血液の量を増やすことができる。したがって、さらに耐漏血性を向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態では、第2領域R2および第3領域R3において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1(例えば1d、1e、1j、1k)のフィラメント本数は、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数よりも多く(例えば1.5~3倍)、1本のみの緯糸2を跨ぐ経糸1(例えば1c、1f、1i、1l)のフィラメント本数も、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数よりも多い(例えば1.5~3倍)。この緯糸2の1本あたりのフィラメント本数よりも多い2本の経糸1を、フィラメント本数が少ない1本の緯糸2で束ねている。これにより、1本の緯糸2に経糸1から加わる反力は、1本の経糸を束ねる場合や、1本あたりのフィラメント本数が少ない経糸を束ねる場合よりも大きくなる。したがって、例えば、人工血管が緯糸の延在方向D2に沿って切断された場合に、人工血管が医師などによって触れられたときに、緯糸2が切断部分からほつれにくくなる。また、上述したように、第2領域R2および第3領域R3において、経糸1は緯糸2の延在方向D2に広がって、緯糸2の表面を覆う。これにより、緯糸2が人工血管の表面に露出しにくく、医師などが人工血管に触れた際に、緯糸2に触れる機会が減るため、人工血管の切断部分から緯糸2がほつれることが抑制される。
【0038】
なお、第2領域R2および第3領域R3は、図2に示される配列に限定されることはなく、図3図5に示される変形例のように構成されていてもよい。図3は、図2における第3領域側第1部分R31における経糸1e(経糸1k)と経糸1f(経糸1l)とが、緯糸2の延在方向D2で逆(左右逆)にされたものである。図4は、図2における第2領域側第1部分R21における経糸1c(経糸1i)と経糸1d(経糸1j)とが、緯糸2の延在方向D2で逆(左右逆)にされたものである。図5は、図2における第2領域側第1部分R21における経糸1c(経糸1i)と経糸1d(経糸1j)とが、緯糸2の延在方向D2で逆(左右逆)にされ、第3領域側第1部分R31における経糸1e(経糸1k)と経糸1f(経糸1l)とが、緯糸2の延在方向D2で逆(左右逆)にされたものである。このように、人工血管は、請求項の特徴を満たし、本発明の技術的思想を有している限り、図示した構造に限定されず、図示した構造以外の構造とすることもできる。
【符号の説明】
【0039】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l 経糸
2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、2i、2j、2k、2l 緯糸
D1 経糸の延在方向
D2 緯糸の延在方向
R1 第1領域
R2 第2領域
R21 第2領域側第1部分
R22 第2領域側第2部分
R3 第3領域
R31 第3領域側第1部分
R32 第3領域側第2部分
図1
図2
図3
図4
図5