(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】抗菌性成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20240124BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20240124BHJP
B65D 65/22 20060101ALI20240124BHJP
A61L 2/02 20060101ALI20240124BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240124BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240124BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240124BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20240124BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20240124BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20240124BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240124BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20240124BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20240124BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240124BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C08J5/00 CES
C08J7/00 Z
B65D65/22
A61L2/02
A61L31/04 110
A61L27/16
A61L27/54
A61L15/24 100
A61L29/04 100
A61L29/16
A61L31/16
A61L15/42 100
A61L29/06
A61P31/00
B24C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2021551461
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2020037459
(87)【国際公開番号】W WO2021066107
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019184043
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154129
【氏名又は名称】株式会社不二製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】清水 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 香代子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 昌博
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亜希
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 恵一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英治
(72)【発明者】
【氏名】内海 裕介
(72)【発明者】
【氏名】福井 瑛里
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198346(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152836(WO,A1)
【文献】特開2018-176400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22、
7/00-7/02、7/12-7/18
A61L 2/02、15/24、15/26、15/42、
27/16、27/18、27/54、29/04、
29/06、29/16、31/04、31/06、
31/16
A61P 31/00
B24C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形体を含み、
前記プラスチック成形体は、ポリエチレンを含む組成物を成形してなり、かつ、
JIS B0601(2013年)で規定される粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下であり、JIS B0601(2013年)で規定される輪郭曲線要素の平均長さRsmに対するJIS B0601(2013年)で規定される粗さ曲線の算術平均粗さRaの比(Ra/Rsm)が0.004以上
0.025以下である粗領域を、細菌が接触可能な表面に有する、
抗菌性成形体。
【請求項2】
前記粗領域は、JIS B0601(2013年)で規定される輪郭曲線要素の平均長さRsmが1.0μm以上50.0μm以下である、請求項1に記載の抗菌性成形体。
【請求項3】
前記粗領域は、多数の窪みが形成された領域である、請求項1または2に記載の抗菌性成形体。
【請求項4】
包装、建築物の設備、家電、電子機器もしくはその周辺機器、自動車用部品、各種コーティング、医療器具、農業用品、文房具または身体装具である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項5】
鉗子、シリンジ、ステント、人工血管、カテーテル、創傷被覆材、再生医療用足場材、癒着防止材、またはペースメーカーである、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項6】
ポリエチレンを表面に含む基材を用意する工程と、
前記基材の、少なくとも前記樹脂を含む表面にブラスト処理を施して、JIS B0601(2013年)で規定される粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下であり、JIS B0601(2013年)で規定される輪郭曲線要素の平均長さRsmに対するJIS B0601(2013年)で規定される粗さ曲線の算術平均粗さRaの比(Ra/Rsm)が0.004以上
0.025以下である粗領域を、細菌が接触可能な表面に形成する工程と、を有する、
抗菌性成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ブラスト処理を施す工程は、
前記基材を冷却しながら、圧縮流体により付勢された研磨材を前記基材の前記樹脂を含む表面に衝突させる工程である、
請求項6に記載の抗菌性成形体の製造方法。
【請求項8】
前記研磨材は、砥粒および弾性体を含む、請求項
7に記載の抗菌性成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性物品は、消費者意識の高まりから多く市場に出回っている。抗菌性物品は、抗菌剤を含むコーティングを施したものや、銀ナノ粒子を包埋させたものであることが多いが、前者は抗菌活性が経時的に消失することがあり、また、後者はその抗菌活性が高すぎたりして生体への安全性から使用環境に制限がある。
【0003】
近年、表面にナノオーダーの表面凹凸構造を形成し、物理的な穿刺によって抗菌性を発現するといった技術について特許出願・論文投稿がなされている。たとえば、特許文献1および特許文献2には、樹脂組成物の表面に複数のナノサイズの突起を形成して、当該表面に抗菌性を付与する方法が記載されている。これらの文献に記載の方法によれば、おそらくは当該突起に接触した細菌が、突起に突き刺さって死滅することにより、抗菌性が発揮されると考えられる。このメカニズムであれば、昨今問題となっている多剤耐性菌に対しても高い抗菌効果が期待できる。
【0004】
具体的には、特許文献1には、上記突起間の間隔を細菌の大きさに比べて十分に小さくして細胞と接触しやすくし、かつ、上記突起をアスペクト比が大きく細菌が突き刺さり得る針状の形状にすることにより、抗菌性能を発揮された、抗菌性物品が記載されている。なお、特許文献1には、上記抗菌性物品の表面における純水の静的接触角が30°以下であると、当該表面が親水性となり、細菌が微小突起に突き刺さりやすくなることから、抗菌性が向上すると記載されている。特許文献1によれば、上記抗菌性物品は、所望の凹凸形状を有する原板を液体状の樹脂組成物の表面に押圧しながら、当該液体状の樹脂組成物を硬化させる方法で、作製することができる。
【0005】
また、特許文献2には、複数の凸部を有する合成高分子膜であって、当該合成高分子膜の法線方向から見たとき、当該複数の凸部の2次元的な大きさが20nm超500nm未満の範囲にある、合成高分子膜が記載されている。なお、特許文献2には、上記合成高分子膜の表面のヘキサデカンへの接触角が51°以下であると殺菌性が良好であるが、水の接触角(親水性)は殺菌作用に直接には関係していないと記載されている。特許文献2によれば、上記合成高分子膜は、陽極酸化ポーラスアルミナ層を型として紫外線硬化樹脂の表面に押圧しながら、当該紫外線硬化樹脂を硬化させる方法で、作製することができる。
【0006】
また、特許文献3には、微小突起間の距離の平均が1μm以下であり、微小突起の高さが80nm以上1000nm以下であり、微小突起の先端近傍が底部よりも細い形状である、複数の微小突起が配置された抗菌・抗カビ性物品が記載されている。特許文献3によれば、細菌の大きさは一般的に1μmであるため、微小突起の形状および配置を上記のようにすることで、細菌およびカビが微小突起間に入り込まずに微小突起の先端と接触し、微小突起の先端に突き刺さることにより、死滅するとされている。
【0007】
また、特許文献4には、高さが0.125μm以上の微小突起間の距離の平均が0.5μm超かつ5.0μm以下である、複数の微小突起が配置された抗菌性物品が記載されている。特許文献4によれば、微小突起間の距離の平均を0.5μm超かつ5.0μm以下とすることで、細菌を付着させつつ、微小突起への突き刺し等により滅菌させることができ、かつ作製が容易であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-093939号公報
【文献】特開2016-120478号公報
【文献】特開2016-215622号公報
【文献】特開2017-132916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~特許文献4に記載のようにプラスチック成形体の表面に複数のナノサイズの突起を形成してなる樹脂成形体は、抗菌剤を成形体の表面に付与してなる樹脂成形体と比較して、抗菌剤の剥離および脱落などによる抗菌性の低下が生じにくいことから、より長い期間にわたって抗菌性能を維持できると期待される。
【0010】
しかし、特許文献1~特許文献4では、所望の凹凸形状を有する原板の凹凸面を樹脂組成物の塗膜に押圧しながら、当該樹脂組成物を硬化させることで、上記微小突起を形成している。しかし、この方法では、硬化型の樹脂にしか抗菌性を有する突起を形成できないため、適用可能な材料に制限があり、かつ、生産性が低いという課題があった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、材料および成形体の形状の選択可能性を広げることができる抗菌性成形体およびその製造方法を提供する事をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一態様に関する抗菌性成形体は、プラスチック成形体を含み、上記プラスチック成形体は、JIS B0601(2013年)で規定される粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下である粗領域を、細菌が接触可能な表面に有する。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の別の態様に関する抗菌性成形体の製造方法は、表面にプラスチックを含む基材を用意する工程と、上記基材の少なくともプラスチックを含む表面にブラスト処理を施す工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、材料および成形体の形状の選択可能性を広げることができる抗菌性成形体およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1Aは、実施1におけるサンプル1-1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した写真であり、
図1Bは、サンプル1-1の断面をSEMで撮像した写真である。
【
図2】
図2Aは、実施2におけるサンプル2-1(LLDPE)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した写真であり、
図2Bは、サンプル2-1(LLDPE)の断面をSEMで撮像した写真である。
【
図3】
図3Aは、実施2におけるサンプル2-3(PVDF)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した写真であり、
図3Bは、サンプル2-3(PVDF)の断面をSEMで撮像した写真である。
【
図4】
図4Aは、実施2におけるサンプル2-4(PVDC)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した写真であり、
図4Bは、サンプル2-4(PVDC)の断面をSEMで撮像した写真である。
【
図5】
図5Aは、実施2におけるサンプル2-5(PPS)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した写真であり、
図5Bは、サンプル2-5(PPS)の断面をSEMで撮像した写真である。
【
図6】
図6Aは、実施2におけるサンプル2-6(PET)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した写真であり、
図6Bは、サンプル2-6(PET)の断面をSEMで撮像した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下である粗領域を、細菌が接触可能な表面に有するプラスチック成形体を用いると、抗菌性が十分に発揮されることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成させた。
【0017】
[抗菌性成形体]
上記本発明の一の実施形態は、プラスチック成形体を含む抗菌性成形体であって、上記プラスチック成形体が、算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下である粗領域を表面に有する、抗菌性成形体に関する。
【0018】
上記抗菌性成形体は、上記粗領域を表面に有するプラスチック成形体を含めばよく、その全体が上記プラスチック成形体からなるものであってもよいし、上記プラスチック成形体と上記粗領域を表面に有さない他のプラスチック成形体との複合体であってもよいし、上記プラスチック成形体と金属またはセラミックスとの複合体であってもよい。なお、「抗菌性成形体」とは、上記粗領域により抗菌性を付与された成形体であり、抗菌性成形体そのものが抗菌用途に用いられるものであってもよいし、抗菌性成形体が有する本来の用途に加えて、抗菌性が付与された成形体であってもよい。
【0019】
上記プラスチック成形体は、プラスチックが所定の形状あるいは不定の形状に成形されて、形状を付与されてなる成形体であればよい。上記プラスチック成形体の形状は特に限定されず、上記抗菌性成形体の用途などに応じて任意に選択することができる。たとえば、上記成形体は、フィルム状、シート状、チューブ状、リング状、バルク状(たとえば、立方体、直方体、円柱状、および球状など)、板状、袋状、繊維状、網目状、ならびにこれらを加工してなる3次元立体構造などの所定の形状を有するか、または無定形の形状を有することができる。
【0020】
たとえば、フィルム状またはシート状であるとき、上記プラスチック成形体の厚みは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、3μm以上800μm以下であることがより好ましく、5μm以上500μm以下であることがさらに好ましく、10μm以上300μm以下であることが特に好ましい。
【0021】
本発明は、プラスチック成形体の表面に上記粗領域を形成することにより、射出成形等により大量生産が可能であり、設計の自由度が高く様々な形状に加工でき、柔軟であり様々な形状に張り付け付与でき、さらには金属と比較し抗菌性成形体を軽量化できるという利点がある。
【0022】
上記粗領域は、上記プラスチック成形体の表面のうち少なくとも一部であればよいが、上記プラスチック成形体の表面の全体が上記粗領域であってもよい。また、上記粗領域は、多面体などの複数の表面を有する上記プラスチック成形体の、上記複数の表面のうち全ての表面に形成されていてもよいし、少なくとも1つの表面(当該表面の全体、または当該表面に含まれる一部の領域)に形成されていてもよい。あるいは、上記粗領域は、球状体などの1つの表面を有する上記プラスチック成形体の、上記1つの表面の全体または当該1つの表面に含まれる一部の領域に形成されていてもよい。
【0023】
上記粗領域は、抗菌性成形体の、細菌が接触可能な表面に形成されている。細菌が接触可能な表面とは、抗菌性成形体の使用時、待機時および保管時などに、外部の細菌が接触する可能性があるような、抗菌性成形体の表面を意味する。たとえば、上記粗領域は、抗菌性成形体を使用する際に使用者が接触する部位に形成されていてもよい。また、使用時に水流や気流があたる部位などのような、細菌との接触の機会が多いことが予測できる部位や、食品、医薬品または生体などと接触する部分などが予測できる部位があるときは、少なくとも当該部分に上記粗領域が形成されていてもよい。上記プラスチック成形体が袋状および管状などの形状を有するときは、その内表面に上記粗領域が形成されていてもよい。また、シール処理や蓋などにより、非使用時には粗領域が外部に露出していなくてもよい。
【0024】
上記粗領域は、算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下である。上記Raが0.14μm以上であると、上記粗領域に十分な高さ(深さ)の凹凸形状が形成されて、上記凹凸形状の凹部に細菌を捕捉し、細菌の自由な運動および増殖を抑制できるため、上記粗領域による十分な抗菌性が奏されると考えられる。一方で、上記Raが0.72μm以下であると、上記粗領域に形成された凹凸の高さが高すぎないため、凸部および凹部の両方で(凹凸形状が有する斜辺および底部の両方で)で細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくできるため、細菌の自由な運動および増殖をより効果的に抑制できると考えられる。また、使用時に凸部が摩耗しにくくなり、抗菌性効果を維持しやすくなる。また成形体の外観が良好である。上記観点から、上記Raは、0.14μm以上0.70μm以下であることが好ましく、0.20μm以上0.60μm以下であることがより好ましく、0.23μm以上0.50μm以下であることがさらに好ましく、0.25μm以上0.35μm以下であることが特に好ましい。
【0025】
また、上記粗領域は、輪郭曲線要素の平均長さRsmが1.0μm以上50.0μm以下であることが好ましい。上記Rsmが1.0μm以上であると、凸部と凸部との間の凹部の長さが細菌1個の大きさよりも大きく、上記粗領域による十分な抗菌性が奏される。抗菌性発現の機構は定かではないが、上記凹部に細菌が捕捉され、その運動が抑制されることによって増殖が抑えられるものと考えられる。たとえば、大腸菌の大きさは0.5μm×1.0~2.0μmであり、黄色ブドウ球菌の大きさは0.5μm×1.0μmである。細菌の運動をより確実に抑制する観点からは、Rsmは5.0μm以上であることが好ましい。一方で、上記Rsmが50.0μm以下であると、単位長さ(単位面積)中に十分な数の凹部を粗領域が有するため、上記粗領域による十分な抗菌性が奏される。上記観点から、上記Rsmは、10.0μm以上33.0μm以下であることがより好ましく、13.0μm以上32.0μm以下であることがさらに好ましく、15.0μm以上30.0μm以下であることが特に好ましい。
【0026】
上記粗領域は、多数の微小な窪みを有することが好ましい。算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下であり、多数の微小な窪みを有する粗領域は、上記窪みの大きさが、細菌と略同程度の大きさになると考えられる。そして、上記窪みは、上記粗領域に接触した細菌を上記窪みに捕捉できると考えられる。そして、上記窪みは、捕捉した細菌の分裂を抑制し、これにより細菌の繁殖を抑制して細菌数を減少させると考えられる。たとえば、後述するブラスト処理の条件を樹脂種の物性に応じて変化させることで、樹脂種を問わずに上記粗領域を形成可能である。
【0027】
また、上記Rsmに対する上記Raの比(Ra/Rsm)は、0.004以上0.720以下であることが好ましい。上記Ra/Rsmが0.004以上0.720以下であると、それぞれの窪みの傾斜が適度な傾きになるため、凸部および凹部の両方で(凹凸形状が有する斜辺および底部の両方で)細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくできるため、細菌の自由な運動および増殖をより効果的に抑制できると考えられる。上記観点から、上記Ra/Rsmは0.005以上0.500以下であることがより好ましく、0.007以上0.100以下であることがさらに好ましく、0.008以上0.050以下であることが特に好ましく、0.009以上0.030以下であることが特に好ましく、0.010以上0.025以下であることが特に好ましい。
【0028】
なお、本明細書において、算術平均粗さRaおよび輪郭曲線要素の平均長さRsmは、JIS B 0601(2013年)に準拠して定められるパラメータである。具体的には、まず、基材の断面を形状解析レーザー顕微鏡(Vk-X250)にて撮像する。そして、得られた画像を処理して、表面をなぞる開折れ線を特定する。その後、当該開折れ線から、常法により傾きやうねりを除去し、粗さ曲線を得る。その粗さ曲線の任意の位置の10μm分について、絶対値の平均値を算術平均粗さRaとし、輪郭曲線要素の長さの平均値を輪郭曲線要素の平均長さRsmとする。上記RaおよびRsmは、キーエンス社製の形状解析レーザー顕微鏡(Vk-X250)を用いて測定された値とすることができる。
【0029】
また、本明細書において、上記微小突起の高さは、以下の方法で測定された値とすることができる。まず、基材の断面のレーザー顕微鏡の解析結果の開折れ線の非閉鎖部側を突起の底部、底部に対する開折れ線側を突起とする。そして、各突起における開折れ線上の任意の1頂点と底部側における開折れ線上の任意の2頂点を結んで形成される三角形のうち、底部側の2頂点を結ぶ辺(底辺と呼ぶ)からの高さが最も大きな三角形の高さを、各突起の高さとする。
【0030】
上記粗領域は、多種多様な細菌に対する抗菌性を有する。たとえば、上記粗領域は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、乳酸菌、および緑膿菌のうち少なくともいずれかに対する抗菌性を有し、好ましくは、大腸菌、黄色ブドウ球菌、および緑膿菌のうち少なくともいずれかに対する抗菌性を有し、少なくとも大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する。
【0031】
なお、本明細書において、抗菌とは、その媒体に存在する細菌を死滅させること、および細菌を不活化して増殖を抑制させることの両方を意図している。また、本明細書において、抗菌性を有するとは、細菌を接種し、接種直後および接種から24時間後に、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法と同様の方法で生菌数を測定して求められる、Δlog菌数(未加工サンプルの24時間後の生菌数の対数値-表面が上記粗領域である評価用サンプルの24時間後の生菌数の対数値)が0.2以上であることを意味する。なお、Δlogは、1.0以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、4.0以上であることが特に好ましい。
【0032】
上記プラスチック成形体は、樹脂を含む組成物(樹脂組成物)を成形してなる成形体であればよい。上記樹脂組成物は、たとえばその全質量に対して30質量%以上の上記樹脂を含む。上記樹脂組成物は、上記抗菌性成形体の用途などに応じてその特性を調整するための添加剤を任意に含有してもよい。上記添加剤の例には、公知のフィラー(充填剤)、滑剤、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止材、抗酸化剤、着色剤(染料、顔料)などが含まれる。これらの添加剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で最適な組み合わせを選択して用いればよい。また、用途や所望によっては、他の添加剤として有機物質(他の重合体でもよい)および金属ナノ粒子などの無機物質を用いてもよい。
【0033】
上記樹脂の種類は、上記抗菌性成形体の用途などに応じて任意に選択することができる。上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、硬化性樹脂であってもよい。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化樹脂であってもよい。また、上記樹脂は、結晶性の樹脂であってもよいし、非結晶性の樹脂であってもよい。また、上記樹脂は、合成ゴムおよび天然ゴムなどのゴムであってもよい。なお、本発明者らの知見によれば、結晶性の樹脂を含むプラスチック成形体は加工しやすく、非結晶性の樹脂を含むプラスチック成形体と比べて、たとえば後述するブラスト処理の条件が穏和であり、それによって抗菌性を付与されやすい。ただし、結晶性樹脂以外の樹脂を含むプラスチック成形体であっても、ブラスト処理条件などを適切に調整すれば、十分に抗菌性を付与することは可能である。
【0034】
上記樹脂の例には、ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、および高密度ポリエチレン(HDPE)などを含む。)、ポリプロピレン(無延伸ポリプロピレン(CPP)、一軸延伸ポリプロピレンおよび二軸延伸ポリプロピレンなどの延伸ポリプロピレン(OPP)などを含む。)、その他のポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、非芳香族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66およびナイロン12などを含む。)、非芳香族ポリイミド、ポリアセタール(POM)、ポリウレタン、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル系重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびポリグリコール酸(PGA)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリブチレンナフタレート(PBN)などを含む。)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、半芳香族ポリアミド(ナイロン6Tおよびナイロン9Tなどを含む。)、全芳香族ポリアミド、半芳香族ポリイミド、全芳香族ポリイミド、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェノール系樹脂、エポキシ樹脂などが含まれる。
【0035】
上記合成ゴムの例には、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、およびその他の熱可塑性エラストマー(SEBS、SBS、およびSEPSなどを含む)などが含まれる。
【0036】
これらの樹脂のうち、ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル系重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびポリグリコール酸(PGA)が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリフェニレンスルフィドがより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、およびポリフェニレンスルフィドがさらに好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリ塩化ビニリデンがさらに好ましく、ポリエチレンが特に好ましく、LLDPEが特に好ましい。
【0037】
上記抗菌性成形体は、包装、建築物の設備、家電、電子機器およびその周辺機器、自動車用部品、各種コーティング、医療器具、農業用品、文房具ならびに身体装具などを含む、広汎な用途に使用可能である。なお、上記抗菌性成形体の使用の態様には、上記抗菌性成形体がこれらの用途に使用される物品であることや、上記抗菌性成形体をこれらの物品の一部として組み入れることなどが含まれる。
【0038】
たとえば、上記包装用途に使用するとき、上記抗菌性成形体は、物品の包装に用いるフィルムやシートなどの外表面または内表面に上記粗領域を形成して、包装される物品への細菌の侵入を予防し、上記包装される物品の保存性を高めることもできる。
【0039】
上記建築物の設備の例には、トイレおよび便座シート、洗面化粧台、上下水の配管、足拭きマット、内装材、ならびに扉などの把手、手すりおよびスイッチなどの日常的に人の手が触れる物品などが含まれる。
【0040】
上記家電の例には、炊飯器、電子レンジ、冷蔵庫、アイロン、ヘアードライヤー、エアコンおよび空気清浄機などが含まれる。
【0041】
上記電子機器およびその周辺機器の例には、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、医療用電子機器、POSシステム、プリンター、テレビ、マウスおよびキーボードなどが含まれる。
【0042】
上記自動車用部品の例には、ハンドル、シート、シフトレバーおよび各種配管が含まれる。
【0043】
上記包装の例には、医薬品および食品などの包装が含まれる。
【0044】
上記コーティングの例には、工場、手術室、保存庫および輸送用コンテナなどの、壁面、床面および天井へのコーティングなどが含まれる。
【0045】
上記医療器具の例には、鉗子、シリンジ、ステント、人工血管、カテーテル、創傷被覆材、再生医療用足場材、癒着防止材、およびペースメーカーなどが含まれる。
【0046】
上記農業用品の例には、農業ハウス用の展張フィルムなどが含まれる。
【0047】
上記身体装具の例には、上着および下着などを含む衣類、帽子、靴、手袋、おむつ、ならびにナプキンおよびその収納袋などが含まれる。
【0048】
また、上記抗菌性成形体は、建築物の設備、身体装具、食器、飲料および食料品などに接触させて、これらに含まれる細菌を殺菌するために使用することができる。
【0049】
[抗菌性成形体の製造方法]
上記抗菌性成形体は、表面にプラスチックを含む成形体基材(以下、単に「基材」ともいう。)の、上記プラスチックを含む表面を機械的に加工して、上記表面を上述した形状を有する粗領域とする工程を含む方法によって製造することができる。
【0050】
具体的には、まず、表面に粗領域を形成すべき基材を用意する。上記基材が表面に含むプラスチックの材料および形状は、プラスチック成形体について上述したとおりである。
【0051】
上記機械的な加工は、上記基材の表面のうち、表面のプラスチックに粗領域を形成すべき領域(抗菌性を付与すべき領域)に対して施す。上記機械的な加工は、上述した形状を表面に付与できる限りにおいて特に限定されないが、たとえば、ブラスト処理、ならびにサンドペーパーおよびグラインダなどによる研磨などによって基材の表面を研削すればよい。特許文献1~特許文献4に記載の方法は、硬化型の樹脂にしか抗菌性を有する突起を形成できないため、適用可能な材料に制限があり、かつ、抗菌性を付与することができる成形体の形状はフィルム状にほぼ限定されている。しかし、これらの方法で粗表面を形成することで、材料や形状を問わず、粗表面を有するプラスチック成形体を作製することができる。これらの機械的な加工の一例として、ブラスト処理の例を以下に示す。
【0052】
ブラスト処理は、圧縮流体により付勢された研磨材を上記基材のプラスチックを含む表面に衝突させる公知の方法で行えばよい。このとき、上記粗領域が形成されるように、上記樹脂組成物の物性等に応じてブラスト処理の条件を変化させればよい。なお、上記研磨材は、基材の表面のうち、少なくともプラスチックを含む表面に衝突させればよいが、一部がプラスチック以外の材料を含む表面に衝突してもよい。
【0053】
上記圧縮流体は、大気などの気体であってもよいし、水などの液体であってもよいし、気体と液体との混合流体であってもよい。
【0054】
上記圧縮流体の噴射圧力(加工圧力)は、たとえば0.01MPa以上5MPa以下の範囲で選択すればよい。上記加工圧力は、0.03MPa以上0.7MPa以下とすることが好ましく、0.05MPa以上0.5MPa以下とすることがより好ましい。
【0055】
上記研磨材は、植物(種子片など)、金属(鋼およびステンレスなど)、セラミックス(溶融アルミナ、炭化ケイ素、およびジルコンなど)、プラスチック(ポリアミドおよびメラミン樹脂など)、ドライアイスなどの昇華性固体、ならびにダイヤモンドおよびガラスなどその他の無機材料を含む、公知の材料からなる砥粒から選択すればよい。
【0056】
本実施形態において、上記研磨材は、上記砥粒および弾性体を含む粒子であることが好ましい。上記弾性体は、上記基材の表面に上記研磨材が衝突したときの衝撃を吸収して、上述した形状の粗領域を形成しやすくする。たとえば、上記研磨材は、母材となる弾性体粒子の内部または表面に上記砥粒が分散されている粒子や、母材となる樹脂粒子の表面に上記砥粒が付着または接着されている粒子とすることができる。研磨材は、一般に粒径が20~20,000メッシュ、好ましくは100~10,000メッシュのものが用いられる。
【0057】
上記母材としての弾性体は、弾性を有する一方で反発弾性率が比較的小さいものであることが好ましく、各種ゴム、熱可塑性エラストマーおよびゲルとすることができる。
【0058】
上記ゴムは、天然ゴムであってもよいし、合成ゴムであってもよい。上記合成ゴムの例には、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、シリコンゴム、エピクロルヒドリンゴムおよびブチルゴムなどが含まれる。
【0059】
上記熱可塑性エラストマーの例には、スチレンブロックコポリマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコン系エラストマー、エステルハロゲン系ポリマーアロイ、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、およびエステルハロゲン系ポリマーアロイなどが含まれる。
【0060】
上記ゲルの例には、水とゼラチンとの混合物などが含まれる。
【0061】
上記研磨材は、株式会社不二製作所製、シリウスメディアSIG080-7であることが好ましい。シリウスメディアSIG080-7は緑色炭化ケイ素8,000メッシュ砥粒を合成ゴム弾性体で接着集合体させた研磨材である。SiCをはじめとする一般的な単一砥粒によるブラスト加工は、単一ベクトルの衝突によって単純な表面粗さを形成するが、SIG080-7は弾性体の効果によって衝突時の変形によって表面で横方向ベクトルが加わり複合的な擦過を伴う現象により目的の表面を形成する事が可能となる。
【0062】
上記研磨材の噴射量は、たとえば0.1kg/min以上10kg/min以下の範囲で選択すればよい。上記噴射量は、0.3kg/min以上9kg/min以下とすることが好ましく、0.5kg/min以上8kg/min以下とすることがより好ましい。
【0063】
上記研磨材の噴射の角度は、研磨材がより垂直に近い方向から上記基材の表面に衝突するように調整することが好ましい。上記噴射の角度は、上記基材の表面に対して20度以上160度以下とすることができ、25度以上165度以下とすることが好ましく、30度以上150度以下とすることがより好ましい。
【0064】
上記研磨材の噴射の距離は、たとえば噴射ノズルから被ブラスト材までの距離10mm以上700mm以下とすることができ、20mm以上600mm以下とすることが好ましく、30mm以上500mm以下とすることがより好ましい。
【0065】
ブラスト処理の加工時間は、たとえば0.1sec/cm2以上20sec/cm2以下の範囲で選択すればよい。上記加工時間は、0.5sec/cm2以上15sec/cm2以下とすることが好ましく、0.1sec/cm2以上10sec/cm2以下とすることがより好ましい。
【0066】
本実施形態において、ブラスト処理時に、上記基材の表面を冷却することが好ましい。上記研磨材の衝突により上記基材が発熱すると、ブラスト処理した表面のプラスチックが変形して、所望の形状が得られないことがある。これに対し、ブラスト処理と同時に冷却を行うことで、所望の形状の粗領域を得られやすくすることができる。特に、基材が上記プラスチックとして熱可塑性樹脂を含むときは、上記発熱による変形が生じやすいため、冷却を行うことにより抗菌性を有する表面が得られるという効果が顕著である。
【0067】
上記冷却の方法は特に限定されず、水または冷媒を基材表面に接触させることによる冷却であってもよいし、ドライアイスなどを用いた周辺の空気の冷却であってもよいし、フィルムのように厚みの小さな基材に対して連続してブラスト処理するときは熱交換器により裏面から冷却してもよい。
【0068】
上記ブラスト処理は、通常のブラスト装置を使用して行うことができる。具体的には、株式会社不二製作所製サンドブラスト装置「ニューマ・ブラスター」SG型重力式、FD型直圧式、及びSC型微粉研磨材式を用いることができる。
【0069】
これらのブラスト処理の条件は、樹脂組成物の種類および各種物性などに応じて、上述した形状の粗領域が形成される条件に調整すればよい。
【0070】
上記機械的な加工を施されて作製されたプラスチック成形体は、さらに成形されたり、他の部材と組み合わされたりしてもよい。たとえば、フィルム状またはシート状の成形体の表面をブラスト処理して当該表面を上記粗領域とした後、袋状および管状などにさらに成形することで、その内表面に抗菌性を付与された袋状および管状などの成形体とすることができる。
【0071】
上記他の部材との組み合わせは、ブラスト処理の前に行ってもよいし、ブラスト処理の後に行ってもよい。このように上記プラスチック成形体と他の部材とを組み合わせることにより、所望の抗菌性物品を得ることができる。
【0072】
[抗菌方法]
上記抗菌性成形体は、各種抗菌方法に使用することができる。
【0073】
具体的には、上記抗菌性成形体を、細菌を含む液体、固体または気体に接触させることにより、接触した液体中、固体表面または気体中に含まれる細菌を死滅させ、上記液体、固体または気体を殺菌することができる。上記接触は、上記抗菌性成形体の粗領域に対して行うことが好ましい。
【0074】
上記接触は、公知の方法で行えばよい。たとえば、液体との接触は、流動または静止する当該液体への上記抗菌性成形体の浸漬、当該液体の上記抗菌性成形体への噴射または噴霧、および、当該液体の上記抗菌性成形体への塗布または滴下などの方法により行うことができる。また、固体との接触は、静止またはスライドする当該固体の表面への、静止またはスライドする上記抗菌性成形体の当接または押しつけなどの方法により行うことができる。また、気体との接触は、流動または静止する当該気体を含む雰囲気内への上記抗菌性成形体の静置、および、当該気体の上記抗菌性成形体への噴射などの方法により行うことができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
[実験1]
1-1.抗菌性物品の作製
1-1-1.基材の用意
抗菌性を付与する基材として、以下の基材フィルムを用意した。基材フィルムのサイズは、15cm×15cmの正方形状だった。
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE): 三井化学東セロ株式会社製、TUS-TCS#60、厚さ53μm
【0077】
1-1-2.表面処理
株式会社不二製作所製のブラスト装置であるFDDSR-4またはSGF-4を用い、上記基材フィルムの表面をブラスト処理した。基材フィルムに対し、加工圧力を0.1MPa、噴射量を3kg/min、ノズル角度を70~90度、ノズルとブラスト対象物との間の距離を150mmとして、樹脂からなる母材中に砥粒が分散してなる研磨材(株式会社不二製作所製、SIG080-7)を、ノズル径が6mmのノズルから噴射した。上記研磨材の噴射は、水を付与して基材フィルムを冷却しながら行った。ブラスト処理による加工時間は0.07~0.4sec/cm2の範囲で変更した。ブラスト処理後、基材フィルムを洗浄および乾燥して、微細凹凸を有するフィルムを得た。
【0078】
各サンプルのブラスト条件を表1に示す。ブラスト処理を行ったサンプル1-1~サンプル1-4を評価用サンプルとし、ブラスト処理を行わなかったサンプルを比較用サンプルとした。
【0079】
【0080】
1-2.評価
1-2-1.表面形状
各サンプルのJIS B0601(2013年)で規定される粗さ曲線の算術平均粗さRa、およびJIS B0601(2013年)で規定される粗さ曲線要素の平均長さRsmを、以下の条件で求めた。
(測定機器)
株式会社キーエンス製、形状解析レーザー顕微鏡、VK-X250
(測定条件)
使用レーザー波長: 658nm
出力: 0.95mW
パルス幅: 1ns
測定倍率: 50倍
測定回数: 11回
【0081】
なお、Rsmの測定時には、高さ(深さ)が最大高さの10%以下、もしくは長さが計算区間(10μm)の長さの1%以下であるものはノイズとみなして、前後の山または谷の一部であるとみなした。
【0082】
それぞれの評価用サンプルの表面および断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した。
図1に、サンプル1-1の表面写真および断面写真を示す。
図1Aは、倍率を10000倍とした表面写真であり、
図1Bは、倍率を30000倍とした断面写真である。
図1に示すように、ブラスト処理を行った評価用サンプルの表面には、多数の窪みが形成されていた。
【0083】
1-2-2.抗菌性
上記各サンプルの大腸菌または黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を評価した。具体的には、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法と同様に、以下の大腸菌または黄色ブドウ球菌を接種し、以下の条件で24時間培養した。なお、各評価用サンプルには、粗領域に大腸菌または黄色ブドウ球菌が付着するように、播種を行った。
(菌種)
大腸菌: Escherichia coli, NBRC No. 3972
黄色ブドウ球菌: Staphylococcus aureus, NBRC No. 12732
(培養条件)
温度: 35℃±1℃
(生菌数の測定)
使用培地: 標準寒天培地
【0084】
接種直後および接種から24時間後に、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法を参考にして生菌数を測定し、Δlog菌数(比較用(未加工)サンプルの24時間後の生菌数の対数値-それぞれの評価用サンプルの24時間後の生菌数の対数値)を求めた。大腸菌、もしくは黄色ブドウ球菌のΔlogが0.2以上の場合、抗菌性ありと判断した。
【0085】
表2に、それぞれの評価用サンプルについての生菌数(対数値で示す。)およびΔlogを示す。
【0086】
【0087】
表2に示されるように、算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下である粗領域を有するフィルム(サンプル1-1~サンプル1-4)は、抗菌性を有することが確認された。
【0088】
[実験2]
2.基材の用意
2-1.基材の表面処理
6種類の基材フィルムを用意し、それぞれの基材フィルムの表面をブラスト処理して、評価用サンプルを作製した。なお、それぞれの基材フィルムについて、表面処理を施さなかった比較用サンプルも用意した。
【0089】
使用した基材フィルムは、以下の通りである。いずれの基材フィルムも、50mm×50mm角形の形状を有していた。
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE): 三井化学東セロ株式会社製、TUS-TCS#60、厚さ53μm
無延伸ポリプロピレン(CPP): 東レフィルム加工株式会社製、トレファン ZK93FM、厚さ60μm
ポリフッ化ビニリデン(PVDF): 株式会社クレハ製、厚さ16μm
ポリ塩化ビニリデン(PVDC): 株式会社クレハ製、厚さ40μm
ポリフェニレンスルフィド(PPS): 株式会社クレハ製、厚さ50μm
ポリエチレンテレフタレート(PET): 東洋紡株式会社製、東洋紡エステルフィルム E5000、厚さ75μm
【0090】
2-1-2.表面処理
表面処理(ブラスト処理、洗浄および乾燥)は、実験1と同様に行った。
【0091】
各サンプルのブラスト条件を表3に示す。ブラスト処理を行ったサンプル2-1~サンプル2-6を評価用サンプルとし、各フィルムについてブラスト処理を行わなかったサンプルを比較用サンプルとした。なお、サンプル2-1は、実験1におけるサンプル1-1と同じである。
【0092】
【0093】
2.表面形状の測定
表面形状の測定は、実験1と同様に行った。
【0094】
それぞれの評価用サンプルの表面および断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した。
図2~
図6に、倍率を3000倍としたサンプル2-1、2-3~2-6の表面写真および断面写真を示す。
図2Aは、サンプル2-1(LLDPE)の表面写真であり、
図2Bは、サンプル2-1(LLDPE)の断面写真である。
図3Aは、サンプル2-3(PVDF)の表面写真であり、
図3Bは、サンプル2-3(PVDF)の断面写真である。
図4Aは、サンプル2-4(PVDC)の表面写真であり、
図4Bは、サンプル2-4(PVDC)の断面写真である。
図5Aは、サンプル2-5(PPS)の表面写真であり、
図5Bは、サンプル2-5(PPS)の断面写真である。
図6Aは、サンプル2-6(PET)の表面写真であり、
図6Bは、サンプル2-6(PET)の断面写真である。
【0095】
3.抗菌性評価
抗菌性評価は、実験1と同様に行った。
【0096】
表4に、それぞれの評価用サンプルおよび比較用サンプルの表面粗さ(算術平均粗さRaおよび輪郭曲線要素の平均長さRsm)、ならびに評価用サンプルについてのΔlogを示す。なお、LLDPEについての結果は、実験1におけるサンプル1-1および比較用サンプルによる結果を再掲している。
【0097】
【0098】
表4に示されるように、算術平均粗さRaが0.14μm以上0.72μm以下である粗領域を有する評価用サンプルは、高い抗菌性を示した。また、上記粗領域を有するLLDPEは抗菌性が特に高かった。
【0099】
本出願は、2019年10月4日出願の日本国出願番号2019-184043号に基づく優先権を主張する出願であり、当該出願の特許請求の範囲、明細書および図面に記載された内容は本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の抗菌性成形体は、殺菌・抗菌作用が望まれる各種用途に使用することができる。