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▶ シュドウォーレ ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01H 7/02 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
D01H7/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022028002
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2020509488の分割
【原出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2022071040
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】102017124659.2
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520052824
【氏名又は名称】シュドウォーレ ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カミンスズキー,ロバート ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】マジェラン ド サ アルキノ,ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】トゥーベー,シュテファン
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-215722(JP,A)
【文献】特開昭61-028028(JP,A)
【文献】特開平06-248528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H1/00-17/02
D02G3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本の個別の繊維(2a~2c)であって、当該繊維がステープルファイバーから成る繊維(2a~2c)を紡ぐことにより形成される糸(3)の製造方法であって、
・ 製造される前記糸(3)を形成するために紡がれる、前記少なくとも2本の個別の繊維(2a~2c)を提供するステップと、
・ 複数の円筒状または円柱状の案内要素(5a~5e)を備えている案内装置(5)を用いて、提供された少なくとも2本の前記繊維(2a~2c)を、少なくとも1つの紡錘要素またはボビン要素(10)を備えている紡績装置(6)に供給するステップであって、少なくとも2つの個別の前記案内要素(5d,5e)を用いて、少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)が前記紡績装置(6)に供給され、少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)同士が、少なくとも1つの空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、かつ、少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)が、前記紡績装置(6)の前にある最終の案内要素であるステップと、
・ 前記紡績装置(6)において、供給された前記繊維(2a,2b)を紡ぎ、製造される前記糸(3)を形成するステップと、を備える方法において、
少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)が、それぞれの少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)の中心軸の方向において、お互いに空間的に離されるように同軸に配置され、
少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)が、少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)を出発後に繊維の合流点(12)でまとめられ、
前記繊維の合流点(12)が、前記紡績装置(6)に面している紡績三角形の頂点を形成し、
前記紡績装置(6)に面している前記頂点の領域における前記紡績三角形の角度(α)が、90°以下であり、
少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)と前記繊維の合流点(12)との間のそれぞれの少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)の自由長(L)が、4~20cmの間の範囲であり、
前記繊維の牽引により予張力が生成された状態で、少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)を前記紡績装置(6)に供給し、
少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)が前記繊維の合流点(12)の方向において少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)を出発するそれぞれの点(14,15)同士の間の自由長(L’)が、4~10cmの間の範囲であり、
少なくとも3本の前記繊維(2a~2c)が共に紡がれて、糸(3)を形成し、
少なくとも2本の前記繊維(2a,2c)が第1の案内要素(5d)を用いて一緒に紡績装置に供給され、
少なくとも1つの空間方向において前記第1の案内要素(5d)から空間的に離されるように配置されたさらなる案内要素(5e)を用いて、少なくとも1本のさらなる前記繊維(2b)が供給され、
前記第1の案内要素(5d)および前記さらなる案内要素(5e)が、前記紡績装置(6)の前にある最終の案内要素であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記紡績装置(6)が使用され、当該紡績装置(6)の前記紡錘要素またはボビン要素(10)が、繊維の案内方向において割り当てられた少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)の空間的に離された配置により少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)同士の間に形成される空間と、整列して配置されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紡績装置(6)に面している前記頂点の領域における前記紡績三角形の角度(α)が、45°以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも2本の繊維(2a,2b)の自由長(L)が、7.5~15cmの間の範囲であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも3本の前記繊維(2a~2c)が、3つの個別の円筒状または円柱状の案内要素を用いて前記紡績装置(6)に供給され、3つの個別の前記案内要素が、少なくとも1つの空間方向でお互いに離されるように配置され、
少なくとも1本の第1の繊維(2a)が第1の案内要素を用いて供給され、少なくとも1本の第2の繊維(2b)が、少なくとも1つの空間方向において前記第1の案内要素から空間的に離されるように配置された第2の案内要素を用いて供給され、少なくとも1本の第3の繊維(2c)が、少なくとも1つの空間方向において前記第2の案内要素から空間的に離されるように配置された第3の案内要素を用いて供給され、
前記第1の案内要素、前記第2の案内要素および前記第3の案内要素が、前記紡績装置(6)の前にある最終の案内要素であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも2本の個別の繊維(2a~2c)であって、当該繊維がステープルファイバーから成る繊維(2a~2c)を紡ぐことにより形成される糸(3)の製造方法であって、
・ 製造される前記糸(3)を形成するために紡がれる、前記少なくとも2本の個別の繊維(2a~2c)を提供するステップと、
・ 複数の円筒状または円柱状の案内要素(5a~5e)を備えている案内装置(5)を用いて、提供された少なくとも2本の前記繊維(2a~2c)を、少なくとも1つの紡錘要素またはボビン要素(10)を備えている紡績装置(6)に供給するステップであって、少なくとも2つの個別の前記案内要素(5d,5e)を用いて、少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)が前記紡績装置(6)に供給され、少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)同士が、少なくとも1つの空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、かつ、少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)が、前記紡績装置(6)の前にある最終の案内要素であるステップと、
・ 前記紡績装置(6)において、供給された前記繊維(2a,2b)を紡ぎ、製造される前記糸(3)を形成するステップと、を備える方法において、
少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)が、それぞれの少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)の中心軸の方向において、お互いに空間的に離されるように同軸に配置され、
少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)が、少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)を出発後に繊維の合流点(12)でまとめられ、
前記繊維の合流点(12)が、前記紡績装置(6)に面している紡績三角形の頂点を形成し、
前記紡績装置(6)に面している前記頂点の領域における前記紡績三角形の角度(α)が、90°以下であり、
少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)と前記繊維の合流点(12)との間のそれぞれの少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)の自由長(L)が、4~20cmの間の範囲であり、
前記繊維の牽引により予張力が生成された状態で、少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)を前記紡績装置(6)に供給し、
少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)が前記繊維の合流点(12)の方向において少なくとも2つの前記案内要素(5d,5e)を出発するそれぞれの点(14,15)同士の間の自由長(L’)が、4~10cmの間の範囲であり、
少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)と少なくとも1本のフィラメント(17)とが共に紡がれて糸(3)を形成し、
少なくとも2本の前記繊維(2a,2b)が、2つの個別の円筒状または円柱状の案内要素(5d,5e)を用いて前記紡績装置(6)に供給され、2つの個別の前記案内要素(5d,5e)が、少なくとも1つの空間方向においてお互いに離されるように配置され、
少なくとも1本の前記フィラメント(17)がフィラメント貯蔵ユニット(18)から供給され、または少なくとも1本の前記フィラメントが、2つの個別の前記案内要素(5d,5e)から離れている第3の案内要素を用いて供給され、
2つの個別の前記案内要素(5d,5e)および前記第3の案内要素が、前記紡績装置(6)の前にある最終の案内要素であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸の製造方法は、原理上、多種多様な異なる実施形態の先行技術から周知である。
【0003】
例えばリング精紡法として実施される、少なくとも2本の個々の繊維を紡ぐことにより形成される糸の周知の製造方法は、以下のステップを備えている:製造される糸を形成するために、紡がれる少なくとも2本の個々の繊維を提供するステップと、提供された前記少なくとも2本の繊維を、特に円筒状または円柱状の案内要素を備えている案内装置を用いて、少なくとも1つの紡錘要素を備えている紡績装置に供給するステップと、供給された前記繊維を前記紡績装置で紡ぎ、製造される糸を形成するステップ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対応する糸の製造方法では、それにより製造可能な糸の特性の影響に関してよく理解される一方で、それにもかかわらず、改良された特性を備えた糸の製造を可能にする方法を絶え間なく開発する必要がある。特に、いわゆるネップ(neps)(ノップ(knops)、バール(burls))の形成に関して改良された特性を有する糸、すなわち、ネップを形成する傾向が低い糸、または毛羽が低い糸を製造できる手段を開発する必要がある。
【0005】
本発明は、特に改良された特性を備えた糸の製造に関し、糸の改良された製造方法を提供する目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載の方法により達成される。この請求項1に従属する請求項は、この方法の可能な実施形態に関する。
【0007】
一般に、本明細書に記載された方法は、少なくとも1本の糸を製造するのに役立つ。当然のことながら、対応する方法で、複数の糸も当該方法により製造することができる。
【0008】
本方法は不可欠な3つのステップを備えており、当該ステップが以下で詳細に説明される。この方法の第1のステップにおいて、少なくとも2本の個別の繊維が提供され、当該繊維同士が共に紡がれて、製造される糸を形成している。これらの繊維が、例えばステープルファイバーであってもよい。これらの繊維が、粗紡またはプレヤーン(pre-yarn)と称されてもよく、または考慮されてもよい。したがって本明細書で「繊維」が言及されるときに、この「繊維」が粗紡またはプレヤーンを意味すると理解されてもよい。いずれの場合でも、これらの繊維が、例えば、例として繊維ボビンなどの、繊維供給ユニットを用いて供給されてもよく、当該繊維供給ユニットから、本方法の枠組み内で紡がれて糸にされる繊維がほどかれている。これらの繊維供給ユニットの数は通常、本方法により紡がれて糸にされる繊維の数に従って決定される。
【0009】
本方法の第2のステップにおいて、提供された当該少なくとも2つの繊維が、複数の案内要素を備えている案内装置を用いて、少なくとも1つの紡錘要素またはボビン要素を備えている紡績装置に供給される。したがって本方法の第2のステップにおいて、糸に紡がれるこれらの繊維が、案内装置を用いて紡績装置に供給される。この案内装置は通常、複数の案内要素を備えている。これらの案内要素は通常、当該繊維の案内方向に連続して配置され、第1の案内要素から、繊維の案内方向において当該第1の案内要素の下流に配置された他の案内要素に、案内される繊維を案内できるようにしている。繊維の案内方向における案内装置の第1の案内要素が、繊維の案内方向において、それぞれの繊維供給ユニットのすぐ下流に配置される。繊維の案内方向における最後の案内要素が、繊維の案内方向において、紡績装置のすぐ上流に配置される。繊維の案内方向において離される一方で当該繊維の案内方向に次々と(すぐに)配置される案内要素同士の間に、例えば板状または円盤状の適切な支持要素が設けられてもよく、当該支持要素が、案内される繊維に対して望ましい支持作用を及ぼしている。また例えば第1の案内要素と繊維供給ユニットとの間にも、適当な支持要素が配置されてもよい。
【0010】
通常、それぞれの案内要素が、円筒状または円柱状の幾何学的形状または基本形状を有している。したがって、これらの案内要素が、ガイドローラーまたはガイドロール、あるいはシリンダーと称されてもよく、または考慮されてもよい。通常、それぞれの円筒状または円柱状の案内要素が、これらの案内要素の対称軸または中心軸の周りを回転可能に取り付けられ、これらの対称軸または中心軸のそれぞれの周りを案内要素が回転している動作により、紡績装置の方向に案内される繊維の案内された動作を可能にするようにしている。
【0011】
個々の、複数の、またはすべての案内要素では、例えばゴム製被覆により実現された、特定の接着領域または特定の接着表面を設けてもよく、繊維に及ぼされる接着効果のため、当該接着領域または接着表面により、当該繊維の望ましい案内を可能にしており、すなわち、繊維の案内方向に関して、特に当該繊維の横方向の好ましくない滑りを妨げており、または防止している。
【0012】
本方法の第3のステップにおいて、紡績装置に供給された繊維の紡績がこの紡績装置で行われ、製造される糸が形成される。通常、製造される糸を形成するための繊維の紡績が、最後の案内要素の次にある紡績領域で行われる。紡績装置は、少なくとも1つの紡錘要素またはボビン要素を備えており、当該紡錘要素またはボビン要素の上に、共に紡がれている繊維同士、またはこれらの繊維を紡ぐことにより形成された糸が巻き付けられる。この紡錘要素またはボビン要素が、ボビンまたは糸巻(cop)であってもよい。紡錘要素またはボビン要素の数、またはこれらにより生じる紡績領域の数が、製造される糸の数に従って決定されている。
【0013】
本方法によれば、従来の方法とは対照的に、1つの(共通した)案内要素を用いておらず、少なくとも2つの個別の、特に円筒状または円柱状の案内要素を用いて、紡がれて糸にされる少なくとも2本の繊維が紡績装置に供給され、当該少なくとも2つの案内要素同士が、少なくとも1つの空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置される。換言すると、製造される糸を形成するために紡がれる第1の繊維が、第1の案内要素を用いて紡績装置に供給され、製造される糸を形成するために第1の繊維と共に紡がれる第2の繊維が、第2の案内要素を用いて紡績装置に供給され、当該第2の案内要素が、少なくとも1つの空間方向において第1の案内要素から離されるように配置されている。
【0014】
したがって本方法の枠組み内において、少なくとも2つの個別の、特に円筒状または円柱状の案内要素を備える案内装置が使用され、当該案内要素は、紡績装置のすぐ上流に、少なくとも1つの空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置される。したがって本方法の枠組み内で使用される案内装置が、少なくとも2つの最終の案内要素を備えている。以下に示されるように、これらの案内要素は通常、紡績装置に対して同一の水準で配置されており、すなわち、この紡績装置から同一の距離で配置される一方で、お互いに横方向にずらされて配置される。少なくとも2本の繊維が少なくとも2つの個別の案内要素を用いて紡績装置に供給され、これら少なくとも2本の繊維が、当該繊維の合流点でまとめられる直前に、少なくとも1つの空間方向においてお互いに離されるように配置される、ということが上述の説明から理解できる。少なくとも1つの空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置された、少なくとも2つの個別の案内要素を用いて、紡がれて糸にされる繊維を供給することにより、案内装置を出発してから当該繊維がまとめられる繊維の合流点までの間で、紡がれて糸にされる繊維の自由長に影響を与えることができ、すなわち、特に当該繊維の自由長を増加させることができ、このことにより、製造される糸の特性、または製造された糸の特性に好影響を与えている。これらの繊維の自由長が増加するということは、当該繊維が個別の案内要素を用いて供給されるときに、これらの繊維がまとめられる繊維の合流点が最終の案内要素から比較的大きく離れており、その結果、当該合流点が紡績装置に著しく近い、という事実によるものである。
【0015】
通常、対応する繊維の合流点が、いわゆる紡績三角形の一部を表している。この場合における繊維の合流点は通常、紡績装置に面している紡績三角形の頂点を形成している。したがって、この紡績三角形の側面を形成している繊維の自由長において、前述された増加のために当該紡績三角形が繊維の案内方向に「伸ばされる」ため、この紡績三角形の形状が、従来の方法と比較した方法に従って修正されてもよい。
【0016】
本方法は、案内装置を出発、すなわち、(繊維の観点から)それぞれの最終の案内要素を出発してから、これらの繊維がまとめられる繊維の合流点までの間で、紡がれて糸にされる繊維の自由長に影響を与えることにより、特に当該繊維の自由長を増加させることにより、製造される糸の、または製造された糸の所定の特性、特に機械的な特性を得ることができる、という発見に基づいている。このことは特に、従来の方法と比較すると、紡がれて糸にされる繊維の自由長が繊維の合流点の前に(大幅に)増加するという事実から生じている。(個々の)繊維が、繊維の合流点の前に、すでに(著しく)捩られていてもよく、このことが、製造される糸の特性、または製造された糸の特性に好影響を与えている。研究のおかげで、このような方法で特にいわゆるネップ(ノップ、バール)の形成を減少させることができることが示されている。したがって、本方法に従って製造された糸は、ネップを形成する傾向が(著しく)低く、かつ毛羽立ち(hairiness)が(著しく)低い。したがって、改良された特性を備えた糸を本方法により製造することができる。
【0017】
案内装置と合流点との間のそれぞれの繊維の自由長が、例えば、略4~20cmの間の範囲であってもよく、特に7.5~15cmの間の範囲であってもよく、10cmが好ましい。特に、少なくとも4cmの繊維長、とりわけ少なくとも6cmの繊維長から、特に有利な繊維特性を得ることができる。しかしながら原則として、これらの数値の上下の例外が可能である。
【0018】
この方法によれば、特に紡績装置が使用され、当該紡績装置の紡錘要素またはボビン要素が、繊維の案内方向において割り当てられた案内要素の空間的に離された配置によりこれらの案内要素同士の間に形成される空間と、整列して配置される。したがって、この紡錘要素またはボビン要素が、割り当てられた案内要素に関連して、繊維の案内方向に対して横方向にずらされて配置される。特に、この紡錘要素またはボビン要素が、繊維の案内方向において案内要素から離されている一方で、それに割り当てられた案内要素同士の間の中央に配置されている。同様のことが、それぞれ少なくとも2本の繊維からなる複数の糸を紡ぐことにも当てはまる。この場合、繊維の案内方向において、それぞれ割り当てられた案内要素の空間的に離された配置により、それぞれの紡錘要素またはボビン要素が、それらにそれぞれ割り当てられた案内要素同士の間に形成された空間に、それぞれ整列して配置される。
【0019】
前述されているように、案内要素同士は通常、紡績装置に対して同一の水準で配置される一方で、お互いに横方向にずらされている。したがって本方法の枠組み内で、空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、あるいは、繊維の案内方向に対して横方向に、任意で傾斜して、延びている平面においてお互いに空間的に離されるように配置された、少なくとも2つの案内要素が特に使用される。それぞれが円筒状または円柱状の基本形状を有する案内要素が使用される場合、通常、これらの案内要素が同軸に配置され、かつ、それぞれの案内要素の中心軸の方向において、お互いに空間的に離されるように配置される。空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、あるいは、繊維の案内方向に対して横方向に、または傾斜して、延びている平面においてお互いに空間的に離されるように配置された2つの案内要素が、特定の紡錘要素またはボビン要素に割り当てられた一対の案内要素と称されてもよく、または考慮されてもよい。当該一対の案内要素を用いて、それぞれの紡錘要素またはボビン要素に巻き付けられる糸を形成している繊維が供給される。
【0020】
それぞれの繊維が合流点の方向においてそれぞれの案内要素を出発するそれぞれの点同士の間の自由長が、例えば、4~10cmの間の範囲であってもよく、特に5~9cmの間の範囲であってもよく、6cmが好ましい。しかしながら原則として、これらの数値の上下の例外が可能である。
【0021】
空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、あるいは、繊維の案内方向に対して横方向に、または傾斜して、延びている平面においてお互いに空間的に離されるように配置された案内要素の配置の説明された使用の他にも、代替として、または追加として、少なくとも原則として、繊維の案内方向に、または繊維の案内されている平面に、平行に延びている空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置された、少なくとも2つの案内要素を使用することも可能である。したがって、少なくとも原則として、繊維の案内方向にずらされるように配置された案内要素も使用されてもよい。
【0022】
前述されているように、これらの繊維が繊維の合流点でまとめられる。同じく前述されるように、この繊維の合流点が通常、紡績装置に面している紡績三角形の頂点を形成する。紡績装置に面している頂点の領域における当該紡績三角形の角度が、通常0~90°の範囲または1~90°の範囲である。特に、当該角度が90°未満であり、とりわけ45°未満であり、特に30°未満である。したがって、それぞれの案内要素を出発後の少なくとも2つの繊維同士の間の角度が、通常0~90°の範囲または1~90°の範囲である。特に、当該角度が90°未満であり、とりわけ45°未満であり、特に30°未満である。したがって、当該角度は通常、鋭角である。
【0023】
本方法の枠組み内で、少なくとも3本の繊維が共に紡がれて糸を形成することも可能である。これらの少なくとも3本の繊維は通常、繊維の合流点でまとめられる。したがって、この糸が2本を上回る繊維(多繊糸条(multi-fiber yarns))から製造されてもよい。
【0024】
本方法に従って糸を形成するための少なくとも3本の繊維を紡ぐことにより、少なくとも2本の繊維が第1の案内要素を用いて一緒に紡績装置に供給され、かつ、少なくとも1つの空間方向または平面において当該第1の案内要素から空間的に離されるように配置されたさらなる案内要素を用いて、少なくとも1本のさらなる繊維が供給されるように実行できる。したがって、第1の案内要素を用いて少なくとも2本の繊維を供給でき、かつ、さらなる案内要素を用いて少なくとも1本のさらなる繊維を供給することができる。これに関連して、所定の数の案内要素に均等または不均等に繊維を分割することが可能であり、例となる4本の繊維の供給と、例となる数の2つの案内要素の場合、2本の繊維が第1の案内要素から供給され、かつ2本の繊維が第2の案内要素から供給されるようにし、または、3本の繊維が第1の案内要素から供給され、かつ1本の繊維が第2の案内要素から供給されるようにしている。
【0025】
あるいは本方法に従って、糸を形成するために少なくとも3本の繊維を紡ぐことは、当該少なくとも3本の繊維が、3つの個別の案内要素を用いて紡績装置に供給されるようにすることにより達成されてもよく、当該3つの個別の案内要素が、少なくとも1つの空間方向または平面でお互いに離されるように配置され、少なくとも1本の第1の繊維が第1の案内要素を用いて供給され、少なくとも1本の第2の繊維が、少なくとも1つの空間方向または平面において当該第1の案内要素から空間的に離されるように配置された第2の案内要素を用いて供給され、少なくとも1本の第3の繊維が、少なくとも1つの空間方向または平面において当該第2の案内要素から空間的に離されるように配置された第3の案内要素を用いて供給されている。その結果、それぞれの繊維も個別の案内要素を用いて供給されてもよい。
【0026】
本方法の枠組み内で、少なくとも2本の繊維と少なくとも1本のフィラメント-当該フィラメントが単一フィラメントまたはマルチフィラメントであってもよい-とが共に紡がれて糸を形成することもできる。通常、これらの少なくとも2本の繊維と、この少なくとも1本のフィラメントとが繊維の合流点でまとめられる。したがって、この糸が、少なくとも2本の繊維および少なくとも1本のフィラメントから製造されてもよい。適切なフィラメントが連続フィラメントであってもよい。適切なフィラメントが、弾性フィラメントの材料で作成されてもよく、または弾性フィラメントの材料を備えてもよい。フィラメントが、例えばエラステイン(ライクラ(登録商標)と称されることもある)、ポリアミド、ポリエステルまたはポリプロピレンのフィラメントであってもよい。
【0027】
本方法に従って、少なくとも2本の繊維と少なくとも1本のフィラメントとを紡ぐことは、当該少なくとも2本の繊維が、2つの個別の案内要素を用いて紡績装置に供給されるようにすることにより実行されてもよく、当該2つの個別の案内要素が、少なくとも1つの空間方向または平面においてお互いに離されるように配置され、当該少なくとも1本のフィラメントが、例として、例えばフィラメントボビンなどの、特にスプール状またはスプール形状の(個別の)フィラメント貯蔵ユニットから供給されるようにし、または当該少なくとも1本のフィラメントが、上述の2つの個別の案内要素から離れている第3の案内要素を用いて供給されるようにしている。
【0028】
当然のことながら、繊維の牽引(drafting)により、特に縦方向の繊維の牽引により、予張力が生成された状態で、少なくとも2本の繊維を紡績装置に供給することができる。同様のことが供給されたフィラメントにも当てはまる。特にこの場合、異なる牽引領域または、異なる牽引区間すなわち、例えばプレドラフト区間およびメインドラフト区間、を組み入れることが可能であり、当該牽引領域または牽引区間において、異なる度合いの牽引を繊維および/またはフィラメントが受けている。
【0029】
本方法の枠組み内で、同一かつ非同一の化学的性質および/または幾何学的性質および/または物理的性質、特に機械的性質を備えた繊維同士が共に紡がれて糸を形成してもよい。したがって繊維同士が同一ではない場合、本方法に従って紡がれた当該繊維同士が、少なくとも1つの化学的性質の点、すなわち、例として、例えば化学成分など、特に繊維の化学的性質に関係する少なくとも1つの性質の点で異なっていてもよく、および/または、少なくとも1つの幾何学的性質の点、すなわち、例として、例えば繊維の直径など、特に繊維の幾何学的形状に関連する少なくとも1つの性質の点で異なっていてもよく、および/または、少なくとも1つの物理的性質、特に機械的性質の点、すなわち、例として、例えば繊維の強度など、特に繊維の物理的性質、特に機械的性質に関する少なくとも1つの性質の点で異なっていてもよい。
【0030】
現在のところ、原則として、本方法の枠組み内で、すべての天然繊維、すなわち例えば、アルパカ繊維、綿繊維、カシミア繊維、モヘア繊維、絹繊維、麻繊維、羊毛繊維、特に、新しい羊毛繊維など、および/または、すべての化学繊維(合成繊維)、すなわち例えば、プラスチック繊維、特にポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ビスコース繊維など、が共に紡がれて、製造される糸を形成してもよい、ということが全般的に論じられるべきである。特に、天然繊維と化学繊維とを一緒にすることも可能である。これらの繊維が、可用性に応じて、連続繊維であってもよく、ステープルファイバーであってもよい。
【0031】
(個々の)繊維が、化学的に、および/または幾何学的に、および/または物理的に異なる少なくとも2つの繊維材料で作成されてもよく、または当該繊維材料を備えてもよい。したがって、混紡繊維(混紡ロービング(blended roving))とも称される適切な繊維が、例えば、第1の繊維材料(粗紡材料)と、少なくとも1つのさらなる繊維材料(粗紡材料)とで作成されてもよい。この第1の繊維材料が、例として、例えば羊毛などの天然繊維材料であってもよく、このさらなる繊維材料が、例として、例えばポリアミド、ポリエステルまたはポリプロピレンなどの化学繊維(合成繊維)であってもよい。前述されるように、これらの繊維が、可用性に応じて、連続繊維であってもよく、ステープルファイバーであってもよい。
【0032】
また方法に加えて、本発明は、記載された本方法により製造された糸または製造されている糸に関し、かつ、記載された本方法により製造された糸を使用して形成される繊維製品、または少なくとも1本のこのように製造された糸を備える繊維製品に関する。この繊維製品が、半完成品(先行品(precursor))であってもよく、または完成品(最終製品)であってもよい。
【0033】
さらに本発明は、特に記載された方法により、少なくとも2つの個別の繊維を紡ぐことにより形成される糸の製造装置に関する。したがって、本方法に関連してなされたすべての記述がこの装置に準用される。
【0034】
本製造装置は、不可欠な構成部品として、特に円筒状または円柱状の複数の案内要素を備えている案内装置と、繊維の案内方向において当該案内装置の下流に配置され、少なくとも1つの紡錘要素またはボビン要素を備えている紡績装置とを備え、当該案内装置が、当該繊維の案内方向における当該案内装置の下流に配置された紡績装置に多数の繊維を案内するように構成され、当該紡錘要素またはボビン要素が、紡錘の軸またはボビンの軸の周りを回転可能に取り付けられ、当該紡績装置が、前記案内装置を用いて供給されたこれらの繊維の少なくとも2本を共に紡いで糸を形成するように構成される。
【0035】
本製造装置は、案内装置が、少なくとも2つの個別の、特に円筒状または円柱状の案内要素を備え、当該案内要素同士が、少なくとも1つの空間方向または平面においてお互いに空間的に離されるように配置され、当該案内要素を用いて、少なくとも2本の繊維を紡績装置に供給でき、または紡績装置に供給する、という事実により識別される。したがってこの案内装置が、少なくとも1つの空間方向または平面においてお互いに空間的に離されるように配置された、少なくとも2つの個別の、特に円筒状または円柱状の案内要素を備えている。その結果、この案内装置が少なくとも2つの最後の案内要素を備え、当該最後の案内要素同士は通常、紡績装置に対して同一の水準で配置される一方で、お互いに横方向にずれている。
【0036】
本製造装置が、例えば、リング精紡機またはリング精紡装置として形成されてもよく、あるいは、リング精紡機またはリング精紡装置を備えてもよい。
【0037】
紡績装置の紡錘要素またはボビン要素が、繊維の案内方向に割り当てられた案内要素の空間的に離された配置により案内要素同士の間に形成された空間と整列して、特に配置されている。したがって、この紡績装置のそれぞれの紡錘要素またはボビン要素が、繊維の案内方向に関して割り当てられた案内要素に対して横方向にずらされて配置される。特に当該紡錘要素またはボビン要素が、繊維の案内方向において案内要素から離されている一方で、それらに割り当てられた案内要素同士の間の中央に配置される。同様のことが、それぞれ少なくとも2本の繊維から複数の糸を紡ぐことにも当てはまる。この場合、それぞれの紡錘要素またはボビン要素が、繊維の案内方向にそれぞれ割り当てられた案内要素の空間的に離された配置により、それぞれに割り当てられた案内要素同士の間に形成される空間にそれぞれ整列して配置される。
【0038】
このように、本方法に関連してすでに前述されるように、案内装置を出発してから繊維がまとめられる繊維の合流点までの間で、紡がれて糸にされる繊維の自由長を増加させることが可能であり、このことにより、製造される糸の特性、または製造された糸の特性に好影響を与えている。したがって本製造装置を使用して、改良された特性を備える糸を製造できる。
【0039】
前述されるように、これらの案内要素同士が、特に紡績装置に対して同一の水準で配置される一方で、お互いに横方向にずらされている。その結果、本製造装置が、特に少なくとも2つの案内要素を備え、当該案内要素同士が、空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、あるいは、繊維の案内方向に対して横方向に、任意で傾斜して、延びている平面においてお互いに空間的に離されるように配置される。いずれの場合にも、本製造装置が円筒状または円柱状の基本形状を有する案内要素を備える場合、通常、これらの案内要素が同軸に配置され、かつ、それぞれの案内要素の中心軸の方向において、お互いに空間的に離されるように配置される。空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、あるいは、繊維の案内方向に対して横方向に、または傾斜して、延びている平面においてお互いに空間的に分離されるように配置された2つの案内要素が、特定の紡錘要素またはボビン要素に割り当てられた一対の案内要素と称されてもよく、または考慮されてもよい。当該一対の案内要素を用いて、それぞれの紡錘要素またはボビン要素に巻き付けられる糸を形成している繊維が供給されてもよい。
【0040】
代替として、または追加として、少なくとも原則として、繊維の案内方向に、または繊維の案内されている平面に、平行に延びている空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置された、少なくとも2つの案内要素を本製造装置が備えることも可能である。したがって、少なくとも原則として、本製造装置が、繊維の案内方向にずらされるように配置された案内要素も備えることができる。
【0041】
本製造装置が牽引装置を備えてもよく、当該牽引装置は、紡績装置に供給される繊維の牽引用に構成され、特に当該繊維の縦方向の牽引用に構成されている。この牽引装置が、案内装置に機能的および/または構造的に組み込まれてもよい。この牽引装置により、異なる牽引領域または、異なる牽引区間すなわち、例えばプレドラフト区間およびメインドラフト区間、を組み入れることが可能であり、当該牽引領域または牽引区間において、繊維が異なる度合いの牽引を受けている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図面における例示的な実施形態を用いて、本発明がより詳細に説明される。図面は以下を示している:
図1】例示的な実施形態による糸の製造装置の概略図である。
図2】例示的な実施形態による糸の製造装置の概略図である。
図3図1に示された詳細IIIの拡大図である。
図4図2に示された詳細IVの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、例示的な実施形態による、少なくとも2本の個別の繊維2a,2bを紡ぐことにより形成される糸3の製造装置1の概略図を示している。図1は、製造装置1の概略平面図を表している。図3は、図1に示された詳細IIIの拡大図を示している。
【0044】
例えばリング精紡機として形成された製造装置1、またはリング精紡機を備えている製造装置1は、以下の構成部品を備えている:少なくとも2つの繊維供給ユニット4a,4bと、矢印Pで示される繊維の案内方向の下流に配置される案内装置5と、繊維の案内方向Pにおける案内装置5の下流に配置される紡績装置6。製造装置1の前述の構成部品の機能的相補作用が、以下でより詳細に説明される。
【0045】
本方法の枠組み内で紡がれて糸3にされる繊維2a,2bがほどかれる、例えば繊維ボビンであってもよい繊維供給ユニット4a,4bにより、糸3を形成するために共に紡がれる個別の繊維2a,2bが供給されている。また繊維2a,2bが、粗紡またはプレヤーンと称されてもよく、または考慮されてもよい。この例示的な実施形態において、単なる実施例として、2つの繊維供給ユニット4a,4bのみが示されている。しかしながら、以下に説明する原理により、3つ以上の繊維供給ユニット4a,4bに随意に拡張されてもよく、その結果、2本以上の繊維2a,2bに随意に拡張されてもよい。繊維供給ユニット4a,4bの数は、本方法により糸3に紡がれる繊維2a,2bの数に従って決定されている。
【0046】
案内装置5は、供給された繊維2a,2bを紡績装置6に案内するように構成されており、当該紡績装置6は、繊維の案内方向Pにおいて案内装置5の下流に配置される。この目的のために、案内装置5は、複数の(図面に示されるそれぞれの例示的な実施形態では、例として5つの)、繊維の案内方向Pにおいて連続して配置された案内要素5a~5eを備えており、案内される繊維2a、2bを、第1の案内要素5aから、繊維の案内方向Pにおいてその下流に配置されたさらなる案内要素5b~5eへと案内できるようにしている。繊維の案内方向Pにおける第1の案内要素5aが、繊維の案内方向Pにおけるそれぞれの繊維供給ユニット4a,4bのすぐ下流に配置され、繊維の案内方向Pにおける最後の案内要素5d,5eが、繊維の案内方向Pにおける紡績装置6のすぐ上流に配置される。繊維の案内方向Pにおいて離される一方で当該繊維の案内方向に次々と(すぐに)配置される案内要素5a~5e同士の間に、例えば板状または円盤状の適切な支持要素7が設けられてもよく、当該支持要素7が、案内される繊維2a,2bに対して望ましい支持作用を及ぼしている。図に示される例示的な実施形態において、適切な支持要素7が、例として、第1の案内要素5aと繊維供給ユニット4a,4bとの間に配置されている。
【0047】
それぞれの案内要素5a~5eが、円筒状または円柱状の幾何学的形状または基本形状を有している。したがって、これらの案内要素5a~5eが、ガイドローラーまたはガイドロール、あるいはシリンダーと称されてもよく、または考慮されてもよい。これらの案内要素5a~5eが、当該案内要素5a~5eの対称軸または中心軸の周りを回転可能に取り付けられ、これらの対称軸または中心軸のそれぞれの周りを案内要素5a~5eが回転している動作により、紡績装置の方向に案内される繊維の案内された動作を可能にするようにしている。
【0048】
個々の、複数の、またはすべての案内要素5a~5eでは、例えばゴム製被覆により実現された、特定の接着領域または特定の接着表面(図示せず)を設けてもよく、繊維2a,2bに及ぼされる接着効果のため、当該接着領域または接着表面により、当該繊維2a,2bの望ましい案内を可能にしており、すなわち、繊維の案内方向Pに関して、特に当該繊維2a,2bの横方向の好ましくない滑りを妨げており、または防止している。
【0049】
さらに図1および図3に示されている例示的な実施形態において-図2および図4に示されている例示的な実施形態にも同様のことが当てはまるが-不特定の牽引装置の(任意的な)牽引要素(コンデンサ)8a,8b,9a,9bが図示されている。その結果、繊維2a、2bの牽引により、特に繊維2a、2bの縦方向の牽引により、予張力が生成された状態で、繊維2a、2bを紡績装置6に供給することができる。この場合、異なる牽引要素8a,8b,9a,9bにより、異なる牽引領域または、異なる牽引区間すなわち、例えばプレドラフト区間およびメインドラフト区間、を組み入れることが可能であり、当該牽引領域または牽引区間において、異なる度合いの牽引を繊維2a、2bが受けている。これらの牽引要素8a,8b,9a,9bが、特に本明細書に記載された方法のために構造的に修正されている牽引要素であってもよく、本明細書に記載された方法に要求されるように、繊維2a,2bの案内または牽引を可能にしている。
【0050】
紡績装置6は、案内装置5を用いて供給された繊維2a,2bを共に紡いで糸3を形成するように構成される。この目的のために、紡績装置6が紡錘要素またはボビン要素10を備え、当該紡錘要素またはボビン要素10は、紡錘の軸またはボビンの軸(図示せず)の周りを回転可能に取り付けられ、当該紡錘要素またはボビン要素の上に糸3が巻き付けられてもよい。図に示されている例示的な実施形態において、糸案内部または糸監視装置16が紡錘要素またはボビン要素10の上流に設けられている。
【0051】
これらの図面を用いて理解できるように、本製造装置1は、案内装置5が少なくとも2つの個別の案内要素5d、5eを備え、当該案内要素5d、5e同士が、少なくとも1つの空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置され、当該案内要素5d、5eを用いて、少なくとも2本の繊維2a,2bを紡績装置6に供給でき、または紡糸装置6に供給する、という事実により識別される。これらの案内要素5d,5eが、繊維の案内方向Pにおいて紡績装置6の前の最後の案内要素5d,5eである、ということが理解できよう。これらの最後の案内要素5d,5eは、紡績装置6に対して同一の水準で配置される一方で、お互いに横方向にずらされている(特に図3を参照)。
【0052】
これらの図面に示されている製造装置1を使用して、2つの繊維2a,2bを紡ぐことにより形成される改良された糸特性を有している糸3の製造方法を実現できる。このような方法の例示的な実施形態が、以下でより詳細に説明される。
【0053】
本方法の第1のステップにおいて、製造される糸3を形成するために共に紡がれる個別の繊維2a,2bが、繊維供給ユニット4a,4bを用いて供給される。
【0054】
本方法の第2のステップにおいて、供給された繊維2a,2bが、案内装置5を用いて紡績装置6に供給される。
【0055】
本方法の第3のステップにおいて、紡績装置6に供給された繊維2a,2bが紡績装置6内で紡がれて、製造される糸3を形成する。繊維2a,2bの紡績が、最後の案内要素5d,5eの次にある紡績領域11で行われる。製造された糸3が、紡錘要素またはボビン要素10に巻き取られる。
【0056】
本方法によれば、2つの個別の案内要素5d、5eを用いて、紡がれて糸3にされる2本の繊維2a,2bが紡績装置6に供給され、当該2つの個別の案内要素5d、5e同士が、空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置される、ということがこれらの図面を用いて理解できよう。これらの図面は、糸3を形成するために紡がれる第1の繊維2aが、第1の案内要素5dを用いて紡績装置6に供給され、糸3を形成するために第1の繊維2aと共に紡がれる第2の繊維2bが、第2の案内要素5eを用いて紡績装置6に供給され、当該第2の案内要素5eが、第1の案内要素5dから離されるように配置される、ということを示している。
【0057】
したがって、本方法の枠組み内で、少なくとも2つの個別の案内要素5d,5eを備える案内装置が使用され、当該案内要素5d,5eは、紡績装置6の直前に、空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置される。前述されるように、これらの案内要素5d、5eが紡績装置6に対して同一の水準で配置されており、すなわち、この紡績装置6から同一の距離で配置される一方で、お互いに横方向にずらされて配置される。前述されるように、案内要素5d,5eが円筒状または円柱状の幾何学的形状または基本形状を有するため、これらの図面に示される例示的な実施形態において、これらの案内要素5d,5eが同軸に配置され、かつ、それぞれの案内要素5d,5eの中心軸の方向においてお互いに空間的に離されるように、したがって、平行な配置における繊維の案内方向Pを横切って延びている空間方向において、お互いに空間的に離されるように配置される。繊維の案内方向Pを横切って延びている空間方向において、お互いに空間的に離されるように配置された2つの案内要素5d,5eが、特定の紡錘要素またはボビン要素10に割り当てられた一対の案内要素と称されてもよく、または考慮されてもよい。当該一対の案内要素を用いて、それぞれの紡錘要素またはボビン要素10に巻き付けられる糸3を形成している繊維2a,2bが供給される。
【0058】
空間方向において、お互いに空間的に離されるように配置された2つの案内要素5d,5eを用いて、共に紡がれて糸3にされる繊維2a,2bを供給することにより、案内装置5を出発してから当該繊維2a,2bがまとめられる繊維の合流点12までの間で、紡がれて糸にされる繊維2a,2bの自由長Lに影響を与えることができ、すなわち、特に当該繊維2a,2bの自由長Lを増加させることができ、このことにより、製造される糸3の特性、または製造された糸3の特性に好影響を与えている。これらの繊維2a,2bの自由長Lが増加するということは、繊維の合流点12が、従来の方法と比較して、最終の案内要素5d,5eからさらに大きく離れており、その結果、当該繊維の合流点12が紡績装置6に著しく近い、という事実によるものである。
【0059】
この繊維の合流点12が、いわゆる紡績三角形の一部を表している。この繊維の合流点12が、紡績装置6に面している紡績三角形の頂点を形成している。したがって、この紡績三角形の側面を形成している繊維2a,2bの自由長Lが前述されたように増加するために、当該紡績三角形が繊維の案内方向Pに「伸ばされる」ため、この紡績三角形の形状が、従来の方法と比較した方法に従って修正されてもよい。
【0060】
紡績装置6に面している頂点の領域における当該紡績三角形の角度αが90°未満であり、とりわけ45°未満であり、特に30°未満である。したがって、案内要素5d,5eを出発後の繊維2a,2b同士の間の角度が90°未満であり、とりわけ45°未満であり、特に30°未満である。したがって、当該角度が鋭角である。
【0061】
本方法は、案内装置5を出発、すなわち最終の案内要素5d,5eを出発してから、繊維の合流点12までの間で、紡がれる繊維2a,2bの自由長Lに影響を与えることにより、特に当該繊維2a,2bの自由長Lを増加させることにより、製造される糸3の、または製造された糸3の特定の特性、特に機械的な特性を得ることができる、という発見に基づいている。このことは特に、従来の方法と比較すると、紡がれる繊維2a,2bの自由長Lが繊維の合流点の前に(大幅に)増加するという事実から生じている。(個々の)繊維2a,2bが、繊維の合流点12の前に、すでに(著しく)捩られていてもよく、このことが、製造される糸3の特性、または製造された糸3の特性に好影響を与えている。
【0062】
案内装置5と、繊維2a,2bがまとめられる繊維の合流点12との間の、それぞれの繊維2a,2bの自由長Lが、例えば、4~20cmの間の範囲であってもよく、特に7.5~15cmの間の範囲であってもよく、10cmが好ましい。
【0063】
繊維2a,2bが繊維の合流点12の方向においてそれぞれの案内要素5d,5eを出発するそれぞれの点14,15同士の間の自由長L’が、例えば、4~10cmの間の範囲であってもよく、特に5~9cmの間の範囲であってもよく、6cmが好ましい。
【0064】
本方法に従った紡績装置6が使用され、当該紡績装置6の紡錘要素またはボビン要素10が、繊維の案内方向Pに割り当てられた案内要素5d,5eの空間的に離された配置により、これらの案内要素5d,5eの間に形成される空間13と整列して配置される、ということが、これらの図面を用いて理解できよう。したがって、この紡錘要素またはボビン要素10が、それらに割り当てられた案内要素5d,5eに関連して(繊維の案内方向Pに対して)横方向にずらされて配置される。特に、この紡錘要素またはボビン要素10が、繊維の案内方向において案内要素から離されている一方で、それに割り当てられた案内要素同士の間の中央に配置されている。
【0065】
最後に、原則として、さらなる繊維(破線)もそれぞれの最後の案内要素5d,5eを用いて案内できる一方で、このさらなる繊維(破線)が、他の紡錘要素またはボビン要素(図示せず)、すなわち通常、前述の紡錘要素またはボビン要素10と平行に配置されたさらなる紡錘要素またはボビン要素に供給され、すなわち、紡績装置6の他の紡績領域に供給される、ということが、図3において破線の繊維により示されている。このことは当該他の紡績領域にも適用され、当該他の紡績領域から紡がれて糸3にされる繊維が、これらの図面と同様に、離された案内要素を用いて供給されている。
【0066】
図2は、さらなる例示的な実施形態による、少なくとも2本の個別の繊維2a,2bを紡ぐことにより形成される糸3の製造装置1の概略図を示している。図2は、製造装置1の概略平面図を表している。図4は、図2に示された詳細IVの拡大図を示している。
【0067】
少なくとも3本の繊維2a~2cが共に紡がれて糸3を形成することも本方法の枠組み内で可能である、ということが図2および図4を用いて最初に理解できよう。これらの少なくとも3本の繊維2a~2cが繊維の合流点12でまとめられる。その結果、2本を上回る繊維2a~2c(多繊糸条)から糸3を製造できる。
【0068】
図2および図4に示されるように、本方法に従って、糸3を形成するための少なくとも3本の繊維2a~2cを紡ぐことにより、少なくとも2本の繊維2a,2cが第1の案内要素5dを用いて一緒に紡績装置に供給され、かつ、空間方向において当該第1の案内要素から空間的に離されるように配置されたさらなる案内要素5eを用いて、少なくとも1本のさらなる繊維2bが供給されるように実行されてもよい。したがって、第1の案内要素5dを用いて少なくとも2本の繊維2a,2cが供給されてもよく、かつ、さらなる案内要素5eを用いて少なくとも1本のさらなる繊維2bが供給されてもよい。これに関連して、所定の数の案内要素に均等または不均等に繊維2a~2cを分割することができる。図4に追加的に示されているような4本の繊維(4本目の繊維が破線で示されている)の供給と、例となる数の2つの案内要素5d,5eの場合、2本の繊維が第1の案内要素5dから供給され、かつ2本の繊維が第2の案内要素5eから供給されてもよく、または、3本の繊維が第1の案内要素5dから供給され、かつ1本の繊維が第2の案内要素5eから供給されてもよい。
【0069】
あるいは図示されていないが、本方法に従って少なくとも3本の繊維2a~2cを紡ぐことにより、当該少なくとも3本の繊維2a~2cが、3つの個別の案内要素を用いて紡績装置6に供給される場合もあり、少なくとも1本の第1の繊維2aを第1の案内要素を用いて供給し、少なくとも1本の第2の繊維2bを、少なくとも1つの空間方向において当該第1の案内要素から空間的に離されるように配置された第2の案内要素を用いて供給し、少なくとも1本の第3の繊維2cを、少なくとも1つの空間方向において当該第2の案内要素から空間的に離されるように配置された第3の案内要素を用いて供給することにより、当該3つの個別の案内要素が、少なくとも1つの空間方向でお互いに離されるように配置されるようにしている。その結果、それぞれの繊維2a~2cも個別の案内要素を用いて供給されてもよい。
【0070】
最後に本方法の枠組み内で、少なくとも2本の繊維2a~2cと少なくとも1本のフィラメント17を共に紡いで糸3を形成することもできることが、図4において示されている。これらの少なくとも2本の繊維2a~2cと、この少なくとも1本のフィラメント17が、繊維の合流点12でまとめられる。その結果、少なくとも2本の繊維2a~2cと少なくとも1本のフィラメント17とから糸3を製造することができる。
【0071】
本方法に従って、少なくとも2本の繊維2a~2cと少なくとも1本のフィラメント17とを紡ぐことは、当該少なくとも2本の繊維2a~2cが、2つの個別の案内要素5d,5eを用いて紡績装置6に供給されるようにすることにより実行されてもよく、当該2つの個別の案内要素5d,5eが、少なくとも1つの空間方向においてお互いに離されるように配置され、当該少なくとも1本のフィラメント17が、例として、例えばフィラメントボビンなどの、特にスプール状またはスプール形状のフィラメント貯蔵ユニット18から供給されるようにし、または当該少なくとも1本のフィラメントが、上述の2つの個別な案内要素5d,5eと離れている第3の案内要素を用いて供給されるようにしている。
【0072】
図示されていないが、繊維の案内方向Pを横切って延びている空間方向においてお互いに空間的に離されるような案内要素5d,5eの説明された配置の他にも、代替として、または追加として、少なくとも原則として、繊維案内方向Pに平行な空間方向においてお互いに空間的に離されるように配置された、少なくとも2つの案内要素5d,5eが使用されることも可能である。その結果、少なくとも原則として、繊維の案内方向Pにおいてずらされるように配置された案内要素5d,5eが使用されてもよい。
【0073】
本方法の枠組み内で、同一かつ非同一の化学的性質および/または幾何学的性質および/または物理的性質、特に機械的性質を備えた繊維2a,2b同士が共に紡がれて糸3を形成してもよい。
【0074】
本方法の枠組み内で、すべての天然繊維、すなわち例えば、アルパカ繊維、綿繊維、カシミア繊維、モヘア繊維、絹繊維、麻繊維、羊毛繊維、特に、新しい羊毛繊維など、および/または、すべての化学繊維(合成繊維)、すなわち例えば、プラスチック繊維、特にポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ビスコース繊維など、が共に紡がれて、製造される糸を形成してもよい。特に、(個々の、または複数の)天然繊維と、(個々の、または複数の)化学繊維とを一緒にすることも可能である。これらの繊維が、可用性に応じて、連続繊維であってもよく、ステープルファイバーであってもよい。
【0075】
また(個々の)繊維2a,2bが、化学的に、および/または幾何学的に、および/または物理的に異なる少なくとも2つの繊維材料で作成されてもよく、または当該繊維材料を備えてもよい。したがって、混紡繊維(混紡ロービング(blended roving))とも称される、対応している繊維2a,2bもまた、例えば、第1の繊維材料(粗紡材料)と、少なくとも1つのさらなる繊維材料(粗紡材料)とで作成されてもよい。
図1
図2
図3
図4