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▶ クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフトの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240124BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 107/10 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 101/04 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 105/42 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 105/34 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 105/36 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 145/16 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 145/22 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 129/40 20060101ALN20240124BHJP
   C10M 129/76 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 10/16 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 10/10 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240124BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M107/34
C10M107/02
C10M101/02
C10M107/10
C10M105/32
C10M101/04
C10M105/38
C10M105/42
C10M105/34
C10M105/36
C10M145/16
C10M145/22
C10M145/14
C10M129/40
C10M129/76
C10N20:00 Z
C10N10:06
C10N10:08
C10N10:16
C10N10:12
C10N10:10
C10N10:04
C10N40:04
C10N40:02
C10N40:32
C10N40:00 G
C10N30:06
C10N30:00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022545834
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2021060351
(87)【国際公開番号】W WO2021219455
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】102020111392.7
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509350664
【氏名又は名称】クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen SE & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Geisenhausenerstrasse 7, D-81379 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゼーマイアー
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ヴィットマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ダニイェラ グラート
(72)【発明者】
【氏名】エリカ パウルス
(72)【発明者】
【氏名】マリア フロッコヴィアク
(72)【発明者】
【氏名】バラスブラマニアム ヴェングドゥサミー
(72)【発明者】
【氏名】マックス ゾマー
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0136147(US,A1)
【文献】特開2009-041021(JP,A)
【文献】特開2014-177603(JP,A)
【文献】特表2009-527613(JP,A)
【文献】特表2008-531826(JP,A)
【文献】特開2008-095076(JP,A)
【文献】特開2006-241443(JP,A)
【文献】特開平11-269475(JP,A)
【文献】特開平05-331481(JP,A)
【文献】特開2015-227451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤組成物であって、
A)基油、
B)少なくとも1種の添加剤、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.01~10質量%および
C)すべり向上剤として、極性部分ならびに無極性部分を含む有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~質量%
を含有し、ここで、前記有機化合物が、1.5~10の範囲内の比誘電率εを有し、かつ前記有機化合物の比率∫S/∫Sが1~25の範囲内にあり、
ここで、∫Sは、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲3100~2750cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を意味し、かつ
∫Sは、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲1800~1650cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を意味し、
前記基油が、油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィン、メタロセン-ポリアルファオレフィン、ホワイト油、鉱油、ファルネセンをベースとする油、エストリド、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択されており、ここで、前記基油または基油混合物の全量は、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、少なくとも20質量%であり、
かつ前記潤滑剤組成物が、付加的構成成分D)として、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、エステル化合物10~85質量%を含有し、ここで、前記エステル化合物が、天然グリセリドエステル、ポリオールエステル、ポリオール複合エステル、ダイマー酸エステルおよびダイマー酸複合エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、トリメリト酸エステルおよびピロメリト酸エステルならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択されている、前記潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記の少なくとも1種の添加剤が、酸化防止剤、摩耗防止添加剤、摩擦減少剤、極圧添加剤、腐食防止剤、非鉄重金属不活性化剤、イオン錯化剤、固体潤滑剤、分散剤、流動点改善剤および粘度向上剤、UV安定剤、乳化剤、呈色指示薬および消泡剤から選択されている、請求項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記潤滑剤組成物が、
A)前記基油、
B)前記の少なくとも1種の添加剤、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.5~7質量%、
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~質量%、および
D)前記エステル化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、10~85質量%
を含有し、ここで、前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になる、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記エステル化合物が、
鎖長C4~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でエステル化されている、ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、およびペンタエリトリトールエステル、および
任意の混合物での、鎖長C4~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸で、および鎖長C4~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のジカルボン酸で全エステル化または部分エステル化されている、ネオペンチルグリコール複合エステル、トリメチロールプロパン複合エステル、およびペンタエリトリトール複合エステル、ならびに
これらの2種以上からなる混合物
から選択されている、請求項からまでのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記の少なくとも1種の添加剤が、以下のもの:
アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ホスフィット、ホスホチオネートおよびチオカルバメートから選択される、1種以上の酸化防止剤、
トリアゾール化合物、サリチレートおよびメルカプトチアジアゾール、ならびにそれらの誘導体から選択される、1種以上の非鉄重金属不活性化剤、
中性のカルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩、ナフテン酸金属塩、リン酸金属塩およびN-メチルグリシンならびにそれらの誘導体から選択される、1種以上の腐食防止剤、
任意に、エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、ポリオール、アクリレートおよびポリシロキサンから選択される、1種以上の消泡剤、および
任意に、アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定なカーボネートおよびスルフェートから選択される、1種以上の摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤
を含む、添加剤混合物である、請求項からまでのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
A)油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィンおよびメタロセン-ポリアルファオレフィン、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択される、基油、
B)1種以上のアミン系酸化防止剤、1種以上の中性のスルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、および/またはベンゼンスルホン酸金属塩、1種以上のトリアゾール化合物および/またはこれらの誘導体、および1種以上のポリシロキサンを含む、添加剤混合物0.5~5質量%、
C)前記有機化合物0.1~5質量%、および
D)ペンタエリトリトールエステル10~85質量%
を含有し、ここで、示された量が、それぞれ、前記潤滑剤組成物の全質量を基準としており、かつ前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になる、請求項1からまでのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記有機化合物C)が、1個以上の同じかまたは異なる極性分子部分および1個以上の同じかまたは異なる無極性分子部分から構成されており、前記極性分子部分は、カルボニル基、エステル基(R-CO-O-R)、ケト基(R-CO-R)、アルデヒド基(R-CHO)、アミド基(R-CO-A、A=NH 、NHR、またはNR )、イミド基(R-CO-NR-CO-R)、カルボン酸無水物基(R-CO-O-CO-R)、尿素基(R N-CO-NR )、ウレタン基(R-NH-CO-O-R)、カルボキシレート基(R-COO )およびカルボキシ基(R-COOH)からの1種以上から選択されており、ここで、Rはそれぞれ互いに独立して、任意の有機の脂肪族または芳香族基であり、前記無極性分子部分は、線状または分岐状または環状のアルキル基または芳香族基からの1種以上から選択されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記有機化合物C)が、マレイン酸エステル-オレフィンコポリマー、変性ポリエステル、線状ポリマーならびにスターポリマーのポリメチルメタクリレート(PMMA)、オレイン酸およびグリセリンモノオレエートから選択されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての、請求項1からまでのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物の使用。
【請求項10】
ギヤ、液圧装置、リニアガイド、空気圧要素、装備品、軸受、チェーン、ケーブル、ばね、ねじおよび圧縮機を潤滑するため、および食品と時には意図せずに接触する機械部品を潤滑するため、およびプラントにおいて潤滑するための、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
海洋分野における、および陸水の分野におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての、請求項1からまでのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物の使用。
【請求項12】
海洋分野において塩水と接触するか、もしくは陸水において水および/または水性媒体と接触する機械、機械部品およびプラントにおける、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ、液圧装置、プロペララダー、プロペラシャフト、リニアガイド、空気圧要素、装備品、軸受、チェーン、ケーブル、ばねおよびねじを潤滑するための、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物、ならびに一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての、ならびに海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素における、ギヤ油およびすべり軸受油としてのそれらの使用に関する。
【0002】
一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として潤滑剤もしくは潤滑剤組成物を使用する場合に、その挑戦は、かみ合わせ部における極めて良好なトライボロジー特性ならびにシール材に対する前記潤滑剤の極めて良好な適合性を保証することにある。ギヤ、すべり軸受および転がり軸受において、通例、ラジアルシャフトシールリングが使用され、これらは通常、エラストマー、例えばFKM(フッ素ゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、HNBR(水素化ニトリルブタジエンゴム)、ACM/AEM(アクリレートエラストマー/エチレンアクリル酸エラストマー)およびポリウレタンから製造されている。前記潤滑剤のシール適合性の重要性は、ギヤ破損、すべり軸受破損および転がり軸受破損の誘因が頻発することにより明らかになる。潤滑剤およびシール材の不適合性によるギヤ破損、すべり軸受破損および転がり軸受破損の割合は、例えばスカッフィングによるギヤ破損、すべり軸受破損および転がり軸受破損の割合よりも有意に高い。したがって、前記潤滑剤についての(1種以上の)基油構成成分の選択ならびに慎重に調整される添加剤選択は、シール材の損傷を防止するため、それにもかかわらず極めて良好なトライボロジー特性を達成するために本質的である。さらなる問題は、一般工業において使用される多くの潤滑剤が、例えば食品工業の用途の際の、時には意図しない食品との接触に適していないことにあり、すなわち、これらの潤滑剤は、Code of Federal Regulations §21 CFR 178.3570に従って、H1認証を有していない。
【0003】
したがって、一般工業用のギヤ油、転がり軸受油またはすべり軸受油として使用するための新規な潤滑剤もしくは潤滑剤組成物の需要があり、これらは、シール材、殊にエラストマー材料に対する高い適合性を示し、かつ同時に良好なトライボロジー特性を有するので、すべり挙動の改善、殊に高い負荷および低い回転速度での摩擦接触における、付着すべり作用(「スティックスリップ作用」)の低下、ならびにグレーステイニング負荷容量への有利な影響を生じさせる。
【0004】
そのうえ、これらの潤滑剤組成物が最小限の毒性でもあり、かつ時には故意でない食品接触についてNSF/H1認証に従って許容される場合に、これらは食品加工工業における使用に適しているので、実地において望ましいであろう。
【0005】
海洋分野におけるおよび陸水の分野における潤滑剤もしくは潤滑剤組成物の使用、すなわち、前記潤滑剤もしくは潤滑剤組成物が通常、油の水に対する交線における水線を下回って使用される使用の場合に、海もしくは水域の環境が、例えば漏れにより引き起こされる、潤滑剤流出により汚染されるというリスクがある。これらの使用の際に水側を可能な限り良好に封止することが試みられるにもかかわらず、潤滑剤損失は日常的である。したがって、化学物質による海および陸水の負荷を低下させるための生態学的に懸念のない潤滑剤への需要は、途方もなく増大している。しかしながら、生態学的に懸念のない潤滑剤への需要は陸上でも増大している。なぜなら、化学物質による土壌の負荷も、ますます大きな役割を果たすからである。陸上で使用される部品は、例えば雨により水と接触する可能性がある。そのうえ、ここでも漏れはありえないことではないので、環境および土壌を汚染することになりうる。陸上での生態学的に懸念のない潤滑剤の高い需要は、殊に鉱業に、風力発電装置でならびに農業機械で存在する。
【0006】
近年、環境の保護、殊に海の保護の重要性もますます増している。油の水に対する交線における水線を下回って使用される潤滑剤には、例えば、米国環境保護庁のVessel General Permit (VGP)は、生分解性および水生毒性に関する高い要件を満たさなければならない、いわゆる環境対応型潤滑油(EAL)の使用を要求する。そのため、慣用のEALは、従来のような鉱油ベースの代わりに、天然および合成エステルベースで製造される。しかしながら、鉱油をベースとする潤滑剤と比較して、EALの使用の際にそれらの比較的より低い安定性に基づき、しばしばシール材の損傷およびすべり挙動または潤滑挙動に関する計り知れない性能暴落となる。
【0007】
そのため、シール材、殊にエラストマー材料に対する高い適合性を有する、殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として使用するための、生体適合性の、すなわち良好な生物学的分解性および最小限の水生毒性の、潤滑剤の需要も存在する。これは、水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素における使用も併せて含む。
【0008】
そのうえ、鉱油をベースとする潤滑剤と比較して、EALの使用の際に、船尾管潤滑における問題がしばしば生じる。多くは、EALの使用の際に、低い速度および高い負荷でのその軸受の潤滑不足となることを示唆する。潤滑不足状態が、別の潤滑箇所でも生じうることは公知である。これらには、例えばあらゆるすべり軸受、ギヤ、リニアガイド、空気圧要素、装備品、転がり軸受、チェーン、ケーブル、ばねならびにねじが含まれる。これに関連して、海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として使用するための、そのうえすべり挙動の改善を生じさせる、新規な生体適合性の潤滑剤の需要もある。
【0009】
したがって、本発明の課題は、シール材、殊にエラストマーに対する改善された適合性を示し、かつ優れたトライボロジー特性を有するので、改善されたすべり挙動、付着すべり作用(「スティックスリップ作用」)の低下、ならびにグレーステイニング負荷容量への有利な影響を生じさせ、かつ一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している、潤滑剤もしくは潤滑剤組成物を提供することであった。
【0010】
本発明のさらなる課題は、食品加工工業における使用を含めた、一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適しており、かつ同様にシール適合性およびすべり挙動に関して前記の有利な特性を示す、最小限の毒性の、すなわちNSF/H1認証される潤滑剤を提供することにあった。
【0011】
そのうえ、本発明の課題は、シール材、殊にエラストマーに対する改善された適合性を有し、かつ同時にすべり挙動もしくは潤滑挙動の改善を生じさせ、かつ海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している、生体適合性の、すなわち良好な生物学的分解性および最小限の水生毒性の、潤滑剤を提供することであった。
【0012】
前記の課題の1つ以上は、潤滑剤組成物であって、成分として:
A)基油、
B)少なくとも1種の添加剤、および
C)すべり向上剤として、極性部分ならびに無極性部分を含む有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~10質量%
を含有し、前記有機化合物が、1.5~10の範囲内の比誘電率εを有し、かつ前記有機化合物の比率∫S/∫Sが1~25の範囲内にある、潤滑剤組成物によって解決される。
【0013】
“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲3100~2750cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表す。
【0014】
“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲1800~1650cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表す。
【0015】
驚くべきことに、前記潤滑剤組成物中に含まれる別の成分/構成成分に加えて、極性部分ならびに無極性部分を含み、かつ前記比誘電率ε(1.5~10の範囲内)ならびに前記比率∫S/∫S(1~25の範囲内)の要件を満たす有機化合物の存在が、2つの摩擦相手材、例えば金属/金属または金属/エラストマー(例えばFKMまたはNBR)間のすべり挙動の著しい改善を生じさせることが見出された。そのため、前記有機化合物は、本明細書では「すべり向上剤」と呼ばれる。
【0016】
本発明の意味で、潤滑剤組成物、潤滑剤、および配合物の用語は同義で使用される。
【0017】
本発明の意味で、用語「有機化合物」は、単一化合物(すなわち、分子)および単一化合物の混合物ならびにオリゴマーおよびホモポリマーとコポリマーとポリマーブレンドとを含めたポリマー、ならびにこれらの混合物を含む。
【0018】
オリゴマーとは、本発明の意味で、複数個、殊に2~10個の、構造上同じかまたは類似の有機単位(モノマー)から構成されており、殊に約1000までの質量平均モル質量(M)を有する分子または化学化合物であると理解される。本発明の意味で、それに応じて、ポリマー(ホモポリマー)とは、大きい数の、殊に10個を上回る、構造上同じかまたは類似の有機単位(モノマー)から構成されており、殊に約1000以上の質量平均モル質量(M)を有する分子または化学化合物であると理解される。コポリマーとは、2種以上の多種多様なモノマー単位から構成されているポリマーであると理解される。
【0019】
前記有機化合物C)は、本発明によれば、極性部分ならびに無極性部分を含有する、すなわち、1個以上の同じかまたは異なる極性分子部分および1個以上の同じかまたは異なる無極性分子部分から構成されており、それから特定の相対的な極性が生じる。本発明の意味での極性分子部分は、当業者に公知のあらゆる極性官能基であってよい。殊に、前記極性分子部分は、カルボニル基、エステル基(R-CO-O-R)、ケト基(R-CO-R)、アルデヒド基(R-CHO)、アミド基(R-CO-A、A=NH、NHR、またはNR)、イミド基(R-CO-NR-CO-R)、カルボン酸無水物基(R-CO-O-CO-R)、尿素基(RN-CO-NR)、ウレタン基(R-NH-CO-O-R)、カルボキシレート基(R-COO)およびカルボキシ基(R-COOH)からの1種以上から選択されており、ここで、Rはそれぞれ互いに独立して、任意の有機の脂肪族または芳香族基である。本発明の意味での無極性分子部分は、当業者に公知のあらゆる無極性基であってよく、かつ殊に、線状または分岐状または環状のアルキル基または芳香族基、例えば線状または分岐状のアルキルベンゼン基からの1種以上から選択されている。
【0020】
前記有機化合物C)は、本発明によれば、1.5~10、好ましくは1.7~8、殊に好ましくは2~7、および最も好ましくは2.3~5の範囲内の比誘電率εを有する。
【0021】
媒質の比誘電率εは、誘電率数または誘電数とも記載され、前記媒質の誘電率εの、真空の誘電率εに対する無次元の比である:ε=ε/ε。誘電率は、誘電伝導度とも記載され、電気絶縁性の極性または無極性物質、いわゆる誘電体の材料特性を表し、かつ電場についての材料もしくは物質の透過性を記載する。前記比誘電率は、前記材料もしくは物質の誘電分極の場を弱める作用の尺度である。
【0022】
本発明によれば前記潤滑剤組成物中に含まれる有機化合物C)は、1~25、好ましくは1.3~22、殊に好ましくは1.7~17、および最も好ましくは2~14の範囲内にある比率∫S/∫Sを有することによりさらに特徴付けられている。
【0023】
ここで、“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲3100~2750cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表し、かつ“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲1800~1650cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表す。
【0024】
当業者には、前記ATR赤外分光法が、赤外分光法の測定技術であり、固形および液状の試料に適しており、かつ時がたつうちに多くの分野において主流のIR技術であることは公知である。試料の透過度の測定が行われる古典的なIR測定方法とは異なり、前記ATR赤外分光法は、全反射の原則に基づく(ATR、減衰全反射、N. J. Harrick: Internal Reflection Spectroscopy. John Wiley & Sons Inc, 1967, ISBN 0-470-35250-7参照)。透過分光法の場合と類似のスペクトルが得られる。確かに、ATRスペクトルにおけるIR吸収バンドは、より大きい波長(より小さい波数)に向かって、対応する透過スペクトルの場合よりも幅広くかつ強くなるが、しかしながら、透過スペクトルおよびATRスペクトルの場合のIR吸収バンドの位置が同じであることは公知である。重要な原子団の振動データのスペクトルデータバンクおよび表(例えばHelmut Guenzler, Hans-Ulrich Gremlich: IR-Spektroskopie: Eine Einfuehrung. 第4版. Wiley-VCH, Weinheim 2003, p.165-240)から、約1800~1650cm-1の波数範囲内の透過スペクトルもしくはATRスペクトルに、殊に、カルボニル化合物のカルボニル基のC-O伸縮振動(原子価振動)の特性IR吸収バンドがあり、かつ約3100~2750cm-1の波数範囲内の透過スペクトルもしくはATRスペクトルに、殊に、脂肪族または芳香族炭化水素中の基-C-H(x=1、2または3、結合された水素原子の数)のC-H伸縮振動(原子価振動)の特性IR吸収バンドがあることは、当業者に公知である。
【0025】
そのため、前記比率∫S/∫Sは、主に前記有機化合物の無極性分子部分により引き起こされる波数範囲3100~2750cm-1内の吸収を、主に前記有機化合物の極性分子部分により引き起こされる波数範囲1800~1650cm-1内の吸収に対する比にする。そのため、前記比率∫S/∫Sは、前記潤滑剤組成物中に含まれる、極性部分ならびに無極性部分を含む有機化合物の極性の尺度として解釈することができる。
【0026】
前記潤滑剤組成物中の前記有機化合物C)の量は、最適なエラストマー適合性およびすべり作用を達成するには、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、好ましくは0.001質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上、例えば0.1質量%以上、および10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0027】
例えば、時には意図しない食品接触のための食品加工工業の分野を含めた、一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に殊に適している、本発明の実施態様において、前記有機化合物C)の量は、最適なエラストマー適合性およびすべり作用を達成するには、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~2.5質量%、および極めて特に好ましくは0.05~1質量%である場合が、特に好ましい。
【0028】
例えば、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に殊に適している、本発明の実施態様において、前記有機化合物C)の量は、最適なエラストマー適合性およびすべり作用を達成するには、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~10質量%であり、極めて特に好ましくは0.1~5質量%、および最も好ましくは0.1~3質量%であるである場合が特に好ましい。
【0029】
前記潤滑剤組成物の他の構成成分/成分、例えば(1種以上の)基油または(1種以上の)添加剤に加えて、極性部分ならびに無極性部分を含み、かつ前記比誘電率ε(1.5~10の範囲内)ならびに前記比率∫S/∫S(1~25の範囲内)の前記で定義された要件を満たす有機化合物の添加により、驚くべきことに、すべり挙動もしくは潤滑挙動の改善を、殊に低いギヤ速度および軸受速度および高い負荷でも、達成することができる。さらに、前記有機化合物は、エラストマー材料、例えばFKMおよびNBRに対する本発明による潤滑剤組成物の適合性の改善に寄与する。
【0030】
本発明の一実施態様において、前記有機化合物C)は付加的にNSF/H1認証を有するので、食品加工工業において時には意図しない食品接触のためのギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として使用される潤滑剤において使用される。
【0031】
本発明のさらなる実施態様において、前記有機化合物C)は、付加的に生物学的分解性(例えばOECDテストガイドライン301 A-FまたはOECD 306による)であるおよび/または低い水生毒性(例えば OECDテストガイドライン201、202、203または236による)を有する有機化合物である。それにより、前記有機化合物は、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として使用される潤滑剤における使用に適している。
【0032】
本発明による潤滑剤組成物におけるすべり向上剤として有利に使用することができる有機化合物の好ましい例は、以下の化合物であるが、しかしながらこれらに限定されるものではない:
マレイン酸エステル-オレフィンコポリマー(例えばKetjenlube(登録商標)135、Ketjenlube(登録商標)2700、Ketjenlube(登録商標)23000として商業的に入手可能)、
変性ポリエステル(例えばPerfad(商標) 3000、Perfad(商標) 3050として商業的に入手可能)、
ポリメチルメタクリレート(PMMA)、線状ポリマーならびにスターポリマー(例えばLubrizol 87725として商業的に入手可能)、
オレイン酸、殊にC16~C18-脂肪酸およびC18-不飽和脂肪酸の混合物(例えばHerwemag OAとして商業的に入手可能)、
グリセリンモノオレエート(GMO)、殊に最小40%のモノ含量、最大6%の遊離グリセリンを有するもの(例えばIlco Lube 2316として商業的に入手可能)、
ポリメタクリレート(PMA)、線状ポリマーならびにくし型ポリマー(例えばViscoplex(登録商標)3-200として商業的に入手可能)、
1-デセンおよび9-ドデシル酸メチルエステルのくし型ポリマー(例えばElevance Aria(登録商標)WTP 40として商業的に入手可能)、
ペンタエリトリトール-テトライソステアレート(例えばPriolube(商標) 3987-LQとして商業的に入手可能)。
【0033】
本発明による潤滑剤組成物は、さらなる成分A)として、基油構成成分を含有する。
【0034】
前記基油は、
合成エステル、殊にネオペンチルグリコールエステル、例えばネオペンチルグリコールジイソステアレート、ペンタエリトリトールエステル、例えばペンタエリトリトールテトライソステアレート、トリメチロールプロパンエステル、例えばトリメチルプロパントリオレエートまたはトリメチロールプロパントリカプリレート、任意の混合物での、線状または分岐状であってよい、炭素原子4~36個の鎖長の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和のモノカルボン酸および/またはジカルボン酸で好ましくは全エステル化または部分エステル化されているペンタエリトリトール複合エステルおよびトリメチロールプロパン複合エステル、例えばペンタエリトリトール-イソステアレート-セバケート複合エステルまたはトリメチロールプロパン-イソステアレート-ステアレート-セバケート複合エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、例えばジ-(2-エチルヘキシル)-セバケート、ジイソトリデシル-アジピン酸エステル(DITA)またはイソプロピルオレエート、トリグリセリド-脂肪酸-(C8/C10)-エステル、トリメリト酸エステルおよびピロメリト酸エステル、およびエストリド、
炭化水素、殊にポリアルファオレフィン(PAO)、メタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ホワイト油、鉱油、アルキルナフタレン、エチレン/α-オレフィンオリゴマー、およびファルネセンをベースとする油、
好ましくは水溶性、水混和性および/または油溶性であるエーテル化合物、殊にポリエーテルポリオール、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)、アルキルジフェニルエーテル、およびポリフェニルエーテル、ならびに好ましくは水溶性、水混和性および/または油溶性であるポリグリコール、殊にポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびそれらのコポリマー、および
シリコーン油、ならびに
これらの2種以上からなる混合物
から好ましくは選択されている。
【0035】
用語「複合エステル」とは、本発明の意味で、殊に、それらの製造の際に例えばジカルボン酸(すなわち、2価カルボン酸)がモノカルボン酸(すなわち、1価カルボン酸)およびポリオールに加えて使用されるエステルであると理解される。
【0036】
本発明による潤滑剤組成物の特に好ましい実施態様によれば、殊に一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、前記基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、メタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ホワイト油、鉱油、ネオペンチルグリコールエステル、ペンタエリトリトールエステル、トリメチロールプロパンエステルならびに好ましくは前記のように定義されているペンタエリトリトール複合エステルおよびトリメチロールプロパン複合エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、トリグリセリド-脂肪酸-(C8/C10)-エステル、アルキルナフタレン、エチレン/α-オレフィンオリゴマー、および水溶性、水混和性および/または油溶性のポリグリコール、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択されている。
【0037】
この際に、前記潤滑剤組成物を、食品加工工業において時には意図しない食品接触のためのギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として使用できることを可能にするために、前記基油が、NSF/H1認証を有する場合が殊に好ましい。
【0038】
本発明の特に好ましい他の実施態様によれば、前記基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、メタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ホワイト油、ファルネセンをベースとする油、エストリドおよび油溶性ポリグリコール、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択されている。これらの基油は、それらの生分解性(すなわち、例えばOECDテストガイドライン 301 A-FまたはOECD 306による生分解性)に関して有利であり、かつそれに応じて、前記潤滑剤組成物の改善された生分解性に寄与することができるので、この潤滑剤組成物は、殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に、適している。
【0039】
前記潤滑剤組成物中の前記基油または基油混合物の量は、通例、前記組成物中に含まれるさらなる成分/構成成分の量に基づいて決定される、すなわち、前記潤滑剤組成物は、前記基油で補って100質量%にする。好ましくは、前記基油または基油混合物の全量は、少なくとも20質量%、30質量%、40質量%、50質量%または60質量%である。
【0040】
さらに好ましくは、本発明により使用される基油または基油混合物は、それぞれASTM D 7042に従って40℃で測定して、少なくとも5mm/s、より好ましくは5mm/s~20000mm/s、特に好ましくは5mm/s~10000mm/s、および極めて特に好ましくは5mm/s~1700mm/sの粘度を有する。
【0041】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、さらなる成分B)として、少なくとも1種の添加剤を、前記潤滑剤の所望の特性を改善する添加物質として含有する。技術水準において公知の通常使用される添加剤もしくは添加物質は、酸化防止剤、摩耗防止添加剤、極圧添加剤、摩擦減少剤、腐食防止剤、非鉄重金属不活性化剤、イオン錯化剤、固体潤滑剤、分散剤、流動点改善剤および粘度向上剤、UV安定剤、乳化剤、呈色指示薬および消泡剤であるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
したがって、本発明の好ましい実施態様において、前記潤滑剤組成物は、酸化防止剤、摩耗防止添加剤、極圧添加剤、摩擦減少剤、腐食防止剤、非鉄重金属不活性化剤、イオン錯化剤、固体潤滑剤、分散剤、流動点改善剤および粘度向上剤、UV安定剤、乳化剤、呈色指示薬および消泡剤から選択されている、少なくとも1種の添加剤を含有する。特に好ましくは、前記潤滑剤組成物は、酸化防止剤、摩耗防止添加剤、極圧添加剤、摩擦減少剤、腐食防止剤、非鉄重金属不活性化剤、イオン錯化剤、固体潤滑剤、分散剤、流動点改善剤および粘度向上剤、UV安定剤、乳化剤、呈色指示薬および消泡剤から選択されている、2種以上の添加剤からの添加剤混合物を含有する。
【0043】
1種以上の添加剤の意図した添加により、前記潤滑剤の特定の特性を改善することおよび/または前記潤滑剤から特定の特性を付与することを達成することができる。
【0044】
酸化防止剤の添加により、前記潤滑剤組成物の酸化安定性をさらに改善することができ、ひいては(熱)安定性の増大を達成することができる。
【0045】
前記酸化防止剤は、以下の化合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない:
アミン化合物(アミン系酸化防止剤)、殊に線状または分岐状の脂肪族アミン化合物および芳香族アミン化合物ならびにそれらの塩、ここで、前記の脂肪族および芳香族アミン化合物は、線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい、
フェノール化合物(フェノール系酸化防止剤)、
プロピオネート、
ホスフィット、
硫黄含有化合物、殊に硫黄含有フェノール化合物および硫黄含有カルボン酸、ホスホチオネート、チオカルバメート、チオホスフェート、およびチオプロピオネート、および
これらの化合物の混合物。
【0046】
特に好ましい酸化防止剤は、芳香族ジアミンおよび第二級芳香族アミン、フェノール樹脂、チオフェノール樹脂、ホスフィット、亜鉛チオカルバメート、亜鉛チオホスフェート、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、フェニル-α-ナフチルアミン類、フェニル-β-ナフチルアミン類、ジフェニルアミンおよびジフェニルアミン誘導体、殊にオクチル化ジフェニルアミン、ブチル化ジフェニルアミンおよびスチレン化ジフェニルアミン、キノリンおよびキノリン誘導体、ナフチルアミンおよびナフチルアミン誘導体、ジ-α-トコフェロール、ジ-tert-ブチル-フェニルプロパン酸およびそれらのエステル、ならびにこれらの混合物から選択されている。
【0047】
本発明によれば特に適した酸化防止剤の例は、ベンゼンアミン-,N-フェニル,2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル)アミン、N-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル]ナフタレン-1-アミン、90%~97.5%のC7~C9アルキル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートと2.5%~10%のメチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとからの異性体混合物、およびチオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]であるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
適した酸化防止剤は、商業的に入手可能である。
【0049】
本発明による潤滑剤組成物の特に好ましい実施態様によれば、殊に一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、好ましくは線状または分岐状の脂肪族アミン化合物および芳香族アミン化合物ならびにそれらの塩、ここで、前記の脂肪族および芳香族化合物は、線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい、プロピオネートおよびチオプロピオネートから選択されており、ここで、アミン系酸化防止剤が、殊に時には意図しない食品接触のための食品加工工業の分野におけるギヤ油、すべり軸受油および転がり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、極めて特に好ましい。
【0050】
本発明の特に好ましい他の実施態様によれば、前記酸化防止剤は、殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、すべり軸受油および転がり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、好ましくは線状または分岐状の脂肪族アミン化合物および芳香族アミン化合物ならびにそれらの塩、ここで、前記の脂肪族および芳香族化合物は、線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい、ホスフィット、ホスホチオネートならびにチオカルバメートから選択されており、ここで、アミン系酸化防止剤が極めて特に好ましい。
【0051】
本発明によれば、酸化防止剤として、単一化合物または2種以上の化合物の組合せを使用することができる。
【0052】
さらに、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上の腐食防止剤を含有していてよい。腐食防止剤の添加は、前記潤滑剤組成物に腐食防止作用およびさび止め作用を付与することができる。
【0053】
適した腐食防止剤は、これらに限定されるものではないが、
酸塩、殊にカルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩、ナフテン酸金属塩、コハク酸金属塩、サリチル酸金属塩およびリン酸金属塩、ならびにそれらの誘導体、これらは前記酸/酸塩の線状および分岐状の脂肪族および芳香族の誘導体を含み、さらにそれに加えて線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよく、ここで、ナトリウム(Na)塩、カルシウム(Ca)塩、カリウム(K)塩およびマグネシウム(Mg)塩が特に好ましい、
アミン化合物、イミン化合物およびイミド化合物ならびにそれらの金属塩、殊に線状および分岐状の脂肪族のアミン化合物、イミン化合物およびイミド化合物および芳香族のアミン化合物、イミン化合物およびイミド化合物ならびにそれらの金属塩、ここで、前記の脂肪族および芳香族のアミン化合物、イミン化合物およびイミド化合物は、線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよく、ここで、Na塩、Ca塩、K塩およびMg塩が特に好ましい、および
部分中和されたもしくは中和されていないジカルボン酸誘導体、例えばコハク酸ハーフエステル
の群から好ましくは選択されている。
【0054】
適した腐食防止剤は、商業的に入手可能である。
【0055】
時には意図しない食品接触のための食品加工工業の分野におけるギヤ油、すべり軸受油および転がり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、腐食防止剤としてN-メチルグリシンまたはそれらの誘導体(例えばサルコシン)の使用が特に好ましい。
【0056】
本発明による潤滑剤組成物の特に好ましい実施態様によれば、殊に一般工業用のならびに時には意図しない食品接触のための食品加工工業の分野においてギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、前記腐食防止剤は、
カルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩およびナフトエ酸金属塩およびナフテン酸金属塩、ならびにそれらの誘導体、これらは前記酸塩の線状および分岐状の脂肪族および芳香族の誘導体を含み、さらにそれに加えて線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよく、ここで、Na塩、Ca塩、K塩およびMg塩が特に好ましい、および
部分中和されたもしくは中和されていないジカルボン酸誘導体、例えばコハク酸ハーフエステル
の群から選択されている。
【0057】
本発明の特に好ましい他の実施態様によれば、前記腐食防止剤は、殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、中和されたもしくは中性の酸塩から、好ましくは中性のカルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩、ナフテン酸金属塩およびリン酸金属塩ならびにそれらの誘導体、これらは前記酸塩の線状および分岐状の脂肪族および芳香族の誘導体を含み、さらにそれに加えて線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい、および好ましくはそのNa塩、Ca塩、K塩およびMg塩から選択されており、ここで、中和されたもしくは中性のスルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩およびベンゼンスルホン酸金属塩が極めて特に好ましく、かつ殊にそのCa塩、および中性のカルシウムスルホネートが最も好ましい。この実施態様の特に適した腐食防止剤の一例は、中性のアルキルナフタレンスルホン酸カルシウム塩である。
【0058】
前記腐食防止剤は、単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0059】
「中性の」もしくは「中和された」酸塩もしくは金属塩とは、本発明の意味で、30mgKOH/g以下の酸価(TAN)を有する酸塩もしくは金属塩であると理解される。
【0060】
さらに、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上の非鉄重金属不活性化剤および/またはイオン錯化剤を含有していてよい。
【0061】
非鉄重金属不活性化剤および/またはイオン錯化剤の添加により、非鉄金属、例えばカドミウム(Cd)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、および亜鉛(Zn)、これらはいわゆる非鉄重金属に含まれる、ならびにそれらの合金を、活性硫黄による腐食から保護することができる。
【0062】
適した非鉄重金属不活性化剤ならびにイオン錯化剤は、一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としてならびに海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素における前記潤滑剤組成物の使用の際に、トリアゾール化合物、殊にトリルトリアゾール、ベンゾトリアゾールおよびそれらの誘導体、イミダゾリン化合物、ジアゾール、メルカプトチアジアゾールから好ましくは選択されている。特に好ましい非鉄重金属不活性化剤もしくはイオン錯化剤は、トリアゾール化合物、サリチレートおよびメルカプトチアジアゾール、ならびにそれらの誘導体であり、ここで、トリアゾール化合物およびこれらの誘導体、殊にベンゾトリアゾールおよびこの誘導体が極めて特に好ましい。本発明によれば、前記非鉄重金属不活性化剤もしくはイオン錯化剤は、単独でまたはそれらの2種以上の組合せで使用することができる。
【0063】
特に好ましい非鉄重金属不活性化剤もしくはイオン錯化剤の例は、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールならびにこれらの誘導体と、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-ar-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミンと、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-6-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-4-メチル-2H-ベンゾトリアゾール-2-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-5-メチル-2H-ベンゾトリアゾール-2-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチルアミンおよびN,N-ビス(2-エチルヘキシル)-5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチルアミンからの反応塊とであるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
適した非鉄重金属不活性化剤もしくはイオン錯化剤は、商業的に入手可能である。
【0065】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上の摩耗防止剤、摩擦減少剤および/または極圧添加剤を含有していてよい。適した摩耗防止剤、摩擦減少剤および極圧添加剤は、アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アリールチオホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定なカーボネートおよびスルフェート、ならびにこれらの2種以上の混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。商業的に入手可能な適した添加剤は、例えば以下に記載される製品である:IRGALUBE(登録商標)TPPT、IRGALUBE(登録商標)232、IRGALUBE(登録商標)349、IRGALUBE(登録商標)353、IRGALUBE(登録商標)211およびADDITIN(登録商標)RC3760 Liq 3960、FIRC-SHUN(登録商標)FG 1505およびFG 1506、NA-LUBE(登録商標)KR-015FG、LUBEBOND(登録商標)、FLUORO(登録商標)FG、SYNALOX(登録商標)40-D、ACHESON(登録商標)FGA 1820およびACHESON(登録商標)FGA 1810。
【0066】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上の粘度向上剤を含有していてよい。適した粘度向上剤は、線状および分岐状のアルキル化され、アクリル化され、かつ脂肪族のポリマーおよびコポリマーならびに重合脂肪酸エステル、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適した粘度向上剤の例は、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレンコポリマー、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、水素化スチレン-イソプレンコポリマーである。適した粘度向上剤は、購入により入手することができる。
【0067】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上のUV安定剤を含有していてよい。適したUV安定剤は、窒素複素環式化合物および置換された窒素複素環式化合物、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適したUV安定剤は、購入により入手することができる。
【0068】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上の固体潤滑剤を含有していてよい。適した固体潤滑剤は、PTFE、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ピロリン酸塩、チオスルフェート、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化スズ、グラファイト、グラフェン、ナノチューブ、SiO変態、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適した固体潤滑剤は、購入により入手することができる。
【0069】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上の乳化剤を含有していてよい。適した乳化剤は、分岐状および/または線状のエトキシル化および/またはプロポキシル化されたアルコールおよびそれらの塩、殊に炭素原子14~18個の鎖長を有するアルコール、エトキシル化および/またはプロポキシル化されたアルキルエーテル、脂肪酸エステル、およびイオン界面活性剤、例えばアルキルスルホン酸のナトリウム塩、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適した乳化剤は、購入により入手することができる。
【0070】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、安定な泡の形成を阻止するために、1種以上の消泡剤を含有していてよい。適した消泡剤は、エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、食用脂のモノグリセリドおよびジグリセリド、アクリレート、プロポキシル化および/またはエトキシル化されたアルキルエーテル、ジオールを含めたポリオール、およびポリシロキサン、例えばシリコーン油またはポリジメチルシロキサン、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。本発明によれば特に好ましい消泡剤は、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、ならびに一般工業用のならびに時には意図しない食品接触のための食品加工工業の分野においてギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての前記潤滑剤組成物の使用の際に、エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、ポリオール、アクリレートおよびポリシロキサンであり、ここで、ポリシロキサンが極めて特に好ましい。適した消泡剤は、購入により入手することができる。
【0071】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、1種以上の呈色指示薬を含有していてよい。適した呈色指示薬は、例えば2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール)であるが、これらに限定されるものではない。適した呈色指示薬は、購入により入手することができる。
【0072】
全ての添加剤は、それぞれ、単一化合物としてまたは2種以上の組合せで、本発明による潤滑グリース組成物中に存在していてよい。
【0073】
前記潤滑剤組成物中の全ての添加剤もしくは添加物質の全量は、前記潤滑剤組成物全体を基準として、好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.025質量%以上、例えば0.5質量%以上、および10質量%以下、特に好ましくは7.5質量%以下、例えば6質量%以下、または5質量%以下である。
【0074】
例えば、殊に、時には意図しない食品接触のための食品加工工業の分野を含めた、一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している、本発明の実施態様において、全ての添加剤の全量が、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.01~7.5質量%、極めて特に好ましくは0.01~6.0質量%である場合が特に好ましい。
【0075】
例えば、殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している、本発明の実施態様において、全ての添加剤の全量が、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.5~7.0質量%、極めて特に好ましくは0.5~5.0質量%である場合が特に好ましい。
【0076】
前記添加剤は、前記潤滑剤の特定の特性を改善することおよび/またはこの潤滑剤に特定の特性を付与することに利用されるので、これらの添加剤は、前記潤滑剤への需要もしくは要件に応じて、この潤滑剤に単一物質としてまたは2種以上の添加剤の混合物として添加することができ、ここで、添加剤混合物中の前記の個々の添加剤の量は、前記潤滑剤組成物全体を基準として、全ての添加剤の前記で定義された全量を超えない限りは、制限されていない。
【0077】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記潤滑剤組成物は、
A)基油、
B)前記の少なくとも1種の添加剤、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.01~10質量%、および
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~10質量%、好ましくは0.001~5質量%
を含有し、ここで、前記の含まれる成分は、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記構成成分A)、B)およびC)は前記のように定義されている。
【0078】
殊に食品加工工業の分野を含めた一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している、本発明のさらに好ましい実施態様において、前記潤滑剤組成物は、1種以上の酸化防止剤、1種以上の摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤、1種以上の消泡剤、任意に1種以上の非鉄重金属不活性化剤、任意に1種以上の腐食防止剤、および任意に呈色指示薬を含む、2種以上の添加剤からなる添加剤混合物を含有する。
【0079】
殊に一般工業用のギヤ油、転がり軸受油またはすべり軸受油としての使用に適している、本発明による潤滑剤組成物の特に好ましい実施態様によれば、前記潤滑剤組成物は、
A)基油、
B)添加剤混合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.01~7.5質量%、ここで、前記添加剤混合物は、1種以上の酸化防止剤、1種以上の摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤、1種以上の消泡剤、任意に1種以上の非鉄重金属不活性化剤、任意に1種以上の腐食防止剤、および任意に呈色指示薬を含む、および
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~10質量%、好ましくは0.001~5質量%
を含有し、ここで、前記の含まれる成分は、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記構成成分A)、B)およびC)は前記のように定義されている。
【0080】
殊に一般工業用のギヤ油、転がり軸受油またはすべり軸受油としての使用に適している、本発明による潤滑剤組成物の極めて特に好ましい実施態様によれば、前記潤滑剤組成物は、
A)基油、
B)添加剤混合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.01~6.0質量%、ここで、前記添加剤混合物は、以下のものを含む:
フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、プロピオネートおよびチオプロピオネートから選択される、1種以上の酸化防止剤、
エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、ポリオール、アクリレートおよびポリシロキサンから選択される、1種以上の消泡剤、
アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定なカーボネートおよびスルフェートから選択される、1種以上の摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤、
任意に、トリアゾール化合物、サリチレートおよびメルカプトチアジアゾール、ならびにそれらの誘導体から選択される、1種以上の非鉄重金属不活性化剤、
任意に、カルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩およびナフテン酸金属塩ならびにそれらの誘導体、これらは前記酸塩の線状および分岐状の脂肪族および芳香族の誘導体を含み、さらにそれに加えて線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい、および殊にそのNa塩、Ca塩、K塩およびMg塩の群から選択される、1種以上の腐食防止剤、および
任意に呈色指示薬として2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール)、および
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~2.5質量%
を含有し、ここで、前記の含まれる成分は、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記構成成分A)およびC)は前記のように定義されている。
【0081】
前記基油は、この実施態様によれば、ポリアルファオレフィン(PAO)、メタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ホワイト油、鉱油、ネオペンチルグリコールエステル、ペンタエリトリトールエステル、トリメチロールプロパンエステルならびに好ましくは前記のように定義されているペンタエリトリトール複合エステルおよびトリメチロールプロパン複合エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、トリグリセリド-脂肪酸-(C8/C10)-エステル、アルキルナフタレン、エチレン/α-オレフィンオリゴマーおよび水溶性、水混和性および/または油溶性のもの、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されている。
【0082】
この実施態様の潤滑剤は、通常はシール材として使用されるエラストマー、例えばFKM、NBR、HNBR、ACM/AEMおよびポリウレタンに対する高い適合性を有する。同時に、この実施態様の潤滑剤は、良好なトライボロジー特性を示すので、これらの潤滑剤は、すべり挙動の改善、殊に高い負荷および低い軸受速度および高い負荷での摩擦接触における、付着すべり作用(「スティックスリップ作用」)の低下、ならびにグレーステイニング負荷容量への有利な影響を生じさせ、そのため、これらの潤滑剤は、殊に一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している。
【0083】
殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している、本発明のさらなる実施態様によれば、前記潤滑剤組成物は、付加的に成分D)としてエステル化合物を含有し、ここで、2種以上の異なるエステル化合物からなる混合物も、本発明によれば併せて含まれている。
【0084】
この実施態様によれば好ましくは、前記の少なくとも1種のエステル化合物D)は、
それぞれ、モノマー型、オリゴマー型および/または重合型で存在していてよい、天然グリセリドエステルから、殊にひまわり油、なたね油またはアブラナ油、亜麻油、とうもろこし油、サフラワー油、大豆油、あまに油、落花生油、レスクエラ油、パーム油、オリーブ油、ならびに前記の油の混合物の群から、
および合成エステル、殊にポリオールエステル、ポリオール複合エステル、ダイマー酸からの複合エステル、ダイマー酸エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、リン酸エステルおよびトリメリト酸エステルおよびピロメリト酸エステル、ならびに
それらの組合せの群から、
ここで、ポリオールエステルおよびポリオール複合エステルが特に好ましい、および殊に、多価アルコール(すなわち、1個を上回るヒドロキシ基を有するアルコール)とモノカルボン酸(すなわち、1価カルボン酸)との反応により得られるポリオールエステル、および殊に、多価アルコールと任意の混合物でのモノカルボン酸およびジカルボン酸(すなわち、2価カルボン酸)との反応により得られるポリオール複合エステル、ならびにこれらの組合せから
選択されている。
【0085】
前記エステル化合物D)が、規格OECD 301 A - FまたはOECD 306による生物学的分解性であるので、本発明による潤滑剤組成物の改善された生分解性およびエコ適合性を達成することが、本発明のこの実施態様によれば好ましい。
【0086】
さらに、前記の少なくとも1種のエステル化合物が、40℃で少なくとも130mm/sの動粘度を有することが好ましい。特に好ましくは、前記の少なくとも1種のエステル化合物の動粘度は、それぞれASTM D 7042に従って測定して、40℃で130~1500mm/sの範囲内、40℃でより好ましくは130~1300mm/sの範囲内である。
【0087】
前記エステル化合物が前記潤滑剤組成物中に、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~85質量%、より好ましくは5~85質量%、特に好ましくは10~85質量%の量で含まれていることが、本発明のこの実施態様によればさらに好ましい。
【0088】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、本発明の潤滑剤組成物は、
A)基油、
B)前記の少なくとも1種の添加剤、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.5~7質量%、
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~10質量%、および
D)前記エステル化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~85質量%
を含有し、ここで、前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記構成成分A)、B)、C)およびD)は前記のように定義されている。
【0089】
この組成の潤滑剤は、シール材、殊にエラストマーに対する高い適合性に加えて、良好なすべり挙動を示し、かつ同時に良好な生物学的分解性であり、そのため、殊に、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に適している。
【0090】
したがって、本発明は、さらなる態様において、殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として使用するための、潤滑剤組成物に関するものであって、成分として以下のものを含有する:
A)基油、
B)少なくとも1種の添加剤0.5~7質量%、
C)極性部分ならびに無極性部分を含む有機化合物0.1~10質量%、および
D)エステル化合物0.1~85質量%、
ここで、示された量が、それぞれ、前記潤滑剤組成物の全質量を基準としており、かつ合わせて全部で100質量%になり、
かつ前記有機化合物が、1.5~10、好ましくは1,7~8、殊に好ましくは2~7、および最も好ましくは2.3~5の範囲内の比誘電率εを有し、かつ前記有機化合物の比率∫S/∫Sが、1~25、好ましくは1.3~22、殊に好ましくは1.7~17、および最も好ましくは2~14の範囲内であり、ここで、“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲3100~2750cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表し、かつ“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲1800~1650cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表す。
【0091】
前記成分A)、B)、C)およびD)は、この際に好ましくは前記のように定義されている。
【0092】
この実施態様によれば特に好ましくは、前記エステル化合物D)は、殊に鎖長C4~C36、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でエステル化されている、ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、およびペンタエリトリトールエステル、および
殊に、任意の混合物での、鎖長C4~C36、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でおよび鎖長C4~C36、好ましくはC4~C18、特に好ましくはC4~C12の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のジカルボン酸で全エステル化または部分エステル化されている(すなわち、依然として遊離の、エステル化されていないヒドロキシル基が存在する)、ネオペンチルグリコール複合エステル、トリメチロールプロパン複合エステル、およびペンタエリトリトール複合エステル、ならびに
それらの組合せ
から選択されている。
【0093】
これらのエステル化合物は、前記潤滑剤組成物の生体適合性もしくは生分解性に関して特に好ましい。
【0094】
特に好ましいエステル化合物の例は、ペンタエリトリトール-テトライソステアレート、ペンタエリトリトール-イソステアレート-セバケート複合エステル、トリメチロールプロパン-トリイソステアレート、トリメチロールプロパン-トリオレエート、トリメチロールプロパン-トリカプリレート、トリメチロールプロパン-イソステアレート-ステアレート-セバケート複合エステル、ネオペンチルグリコール-ジイソステアレートであるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
さらに、前記基油が、油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィン(PAO)、メタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ホワイト油、ファルネセンをベースとする油、エストリド、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択されていることが、この実施態様によれば特に好ましく、ここで、油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィン(PAO)およびメタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)が極めて特に好ましい。これらの基油は、それらの生分解性(すなわち、例えばOECDテストガイドライン 301 A-FまたはOECD 306による生分解性)に関して特に有利な特性を有し、それに応じて、前記潤滑剤組成物の改善された生物学的分解性に寄与することができる。
【0096】
エラストマー材料と、潤滑剤と、金属とからなるトライボシステムに最適に調整されている慎重な添加剤選択により、前記潤滑剤組成物のエラストマー適合性のさらなる改善を達成することができる。それに応じて、前記潤滑剤組成物が、1種以上の酸化防止剤、非鉄重金属不活性化剤および腐食防止剤および場合により1種以上の消泡剤および摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤を含む添加剤混合物を含有する場合が本発明のこの実施態様によれば好ましい。
【0097】
したがって、前記の少なくとも1種の添加剤B)が、1種以上の酸化防止剤、非鉄重金属不活性化剤および腐食防止剤および場合により1種以上の消泡剤および摩耗防止剤添加剤および/または極圧添加剤を含有する、添加剤混合物であることが、本発明のこの実施態様によれば特に好ましい。特に有利には、これに関して以下のことが分かった:
フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、好ましくは線状または分岐状の脂肪族アミン化合物および芳香族アミン化合物ならびにそれらの塩、ここで、前記の脂肪族および芳香族の化合物は、線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい、ホスフィット、ホスホチオネートならびにチオカルバメートから選択される、酸化防止剤、ここで、アミン系酸化防止剤が特に好ましい、
トリアゾール化合物、サリチレートおよびメルカプトチアジアゾール、ならびにそれらの誘導体から選択される、非鉄重金属不活性化剤、ここで、トリアゾール化合物、殊にベンゾトリアゾール化合物、およびこれらの誘導体が特に好ましい、
中和されたもしくは中性のカルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩、ナフテン酸金属塩およびリン酸金属塩、ならびにそれらの誘導体、好ましくはNa塩、Ca塩、K塩およびMg塩、ここで、中和されたもしくは中性のスルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩およびベンゼンスルホン酸金属塩が特に好ましい、殊にCa塩から選択される、腐食防止剤、ここで、中性のカルシウムスルホネート、例えば中性のアルキルナフタレンスルホン酸カルシウム塩が、極めて特に好ましい、
エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、ジオールを含めたポリオール、アクリレートおよびポリシロキサンから選択される、消泡剤、ここで、ポリシロキサンが特に好ましい、
アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定カーボネートおよびスルフェートから選択される、摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤。
【0098】
この種の添加剤混合物は、特に、海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油またはすべり軸受油として使用するための潤滑剤組成物に適している。
【0099】
したがって、本発明のこの実施態様によればさらに特に好ましくは、以下のものを含む、添加剤混合物である:
アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ホスフィット、ホスホチオネートおよびチオカルバメートから選択される、1種以上の酸化防止剤、
トリアゾール化合物、サリチレートおよびメルカプトチアジアゾール、ならびにそれらの誘導体から選択される、1種以上の非鉄重金属不活性化剤、
中和された/中性のカルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩、ナフテン酸金属塩およびリン酸金属塩、ならびにそれらの誘導体、殊にNa塩、Ca塩、K塩およびMg塩から選択される、1種以上の腐食防止剤、
任意に、エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、ポリオール、アクリレートおよびポリシロキサンから選択される、1種以上の消泡剤、および
任意に、アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定なカーボネートおよびスルフェートから選択される、1種以上の摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤。
【0100】
したがって、殊に海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油またはすべり軸受油としての使用に適している潤滑剤組成物は、本発明の特に好ましい実施態様によれば、以下のものを含有する:
A)基油、
B)添加剤混合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.5~7質量%、ここで、前記添加剤混合物は、以下のものを含む:
アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ホスフィット、ホスホチオネートおよびチオカルバメートから選択される、1種以上の酸化防止剤、
トリアゾール化合物、サリチレートおよびメルカプトチアジアゾール、ならびにそれらの誘導体から選択される、1種以上の非鉄重金属不活性化剤、
中和された/中性のカルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩、ナフテン酸金属塩およびリン酸金属塩、ならびにそれらの誘導体から選択される、1種以上の腐食防止剤、
任意に、エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、ポリオール、アクリレートおよびポリシロキサンから選択される、1種以上の消泡剤、および
任意に、アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定なカーボネートおよびスルフェートから選択される、1種以上の摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤、
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~10質量%、および
D)前記エステル化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、5~85質量%
ここで、前記エステル化合物が、
殊に鎖長C4~C36、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でエステル化されているネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、およびペンタエリトリトールエステル、および
殊に、任意の混合物での、鎖長C4~C36、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でおよび鎖長C4~C36、好ましくはC4~C18、特に好ましくはC4~C12の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のジカルボン酸で全エステル化または部分エステル化されているネオペンチルグリコール複合エステル、トリメチロールプロパン複合エステル、およびペンタエリトリトール複合エステル、ならびに
それらの組合せ
から選択されており、
前記基油が、油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィン(PAO)、メタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ホワイト油、ファルネセンをベースとする油、エストリド、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択されており、
かつ前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記成分C)は前記のように定義されている。
【0101】
この際に、前記添加剤混合物が大体において中性であるかもしくはできるだけ低い全酸価(TAN)を有することが殊に好ましい。なぜなら、このことが、前記潤滑剤組成物のエラストマー適合性に関して特に有利に作用するからである。
【0102】
極めて特に好ましいのは、本発明のこの実施態様によれば、前記潤滑剤組成物が、以下のものを含有することである:
A)油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィン(PAO)およびメタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択される、基油、
B)1種以上のアミン系酸化防止剤、1種以上の中和された/中性のスルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩および/またはベンゼンスルホン酸金属塩、1種以上のトリアゾール化合物、殊にベンゾトリアゾール化合物、および/またはこれらの誘導体、および1種以上のポリシロキサンを含む、添加剤混合物0.5~5質量%、
C)前記有機化合物0.1~5質量%、および
D)ペンタエリトリトールエステル10~85質量%、
ここで、示された量が、それぞれ、前記潤滑剤組成物の全質量を基準としており、かつ前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記有機化合物C)は前記のように定義されている。
【0103】
この組成の潤滑剤は、シール材、殊にエラストマーに対する高い適合性、ならびに良好なすべり特性もしくは潤滑特性を示す。そのうえ、この組成の潤滑剤は、良好な生体適合性、すなわち規格OECD 301 A - FまたはOECD 306による良好な生分解性および低い水生毒性(例えば規格OECD 201、202、203または236による)を有し、ひいては殊に、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油またはすべり軸受油としての使用に適している。
【0104】
したがって、そのうえ、本発明の対象は、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として使用するための潤滑剤組成物であって、成分として以下のものを含有する:
A)油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィン(PAO)およびメタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択される、基油、
B)1種以上のアミン系酸化防止剤、1種以上の中和された/中性のスルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩および/またはベンゼンスルホン酸金属塩、1種以上のトリアゾール化合物および/またはトリアゾール誘導体、および1種以上のポリシロキサンを含む、添加剤混合物0.5~5質量%、
C)極性部分ならびに無極性部分を含む有機化合物0.1~5質量%、および
D)ペンタエリトリトールエステル10~85質量%。
ここで、示された量が、それぞれ、前記潤滑剤組成物の全質量を基準としており、かつ前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、
かつ前記有機化合物が、1.5~10、好ましくは1.7~8、殊に好ましくは2~7、および最も好ましくは2.3~5の範囲内の比誘電率εを有し、かつ前記有機化合物の比率∫S/∫Sが、1~25、好ましくは1.3~22、殊に好ましくは1.7~17、および最も好ましくは2~14の範囲内であり、ここで、“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲3100~2750cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表し、かつ“∫S”は、前記有機化合物のATRスペクトルにおける波数範囲1800~1650cm-1内の(1つ以上の)IR吸収バンドの面積の和を表す。
【0105】
本発明による潤滑剤組成物は、一実施態様によれば、食品との時には意図しない接触のためのギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油を含めた、一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に際立って適している。
【0106】
一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用を併せて含む、一般な使用分野は、食品と時には意図せずに接触する、ギヤ、殊に平歯車装置、かさ歯車装置、遊星歯車装置、ウォーム歯車装置、ハイポイド歯車装置およびサイクロイド歯車装置、液圧装置、リニアガイド、空気圧要素、装備品、軸受、殊にすべり軸受および転がり軸受、チェーン、ケーブル、ばね、ねじおよび圧縮機の、および殊に機械部品のおよびプラントにおける、潤滑を含むが、これらに限定されるものではない。
【0107】
チェーンは、互いに結合された同じ種類の部材からなる。これらは、動力伝達に利用され、例えば自転車の場合の伝動チェーンとして、自動車エンジンの場合のタイミングチェーンとして、水門の場合のロードチェーンとしてまたはコンベヤー装置の場合の輸送チェーンとして、使用される。ケーブル(ロープ)は、例えばクレーン吊りの際、巻き付ける際、および引き上げる際に見られるように運動しているケーブルと、固定しているケーブル、例えばガイロープとに、ならびにキャリヤーケーブルおよびスリングロープとして区分することができる。ねじは、できるだけ少ない労力で組み立てられ、かつ分解されるべきであり、その際に使用される材料が損傷されない結合要素である。ばねは、板ばねシール、皿ばねシール、輪ばねシール、ねじ皿ばねおよびねじりばねを併せて含む。装備品は、固体流、液体流および気体流の制御に利用される。付加的に、これらも、調節する、すなわち1つ以上の体積流を混合および制御する機能を引き受けることができる。コックまたは混合水栓としての典型的な使用に加えて、あらゆる種類の弁も前記装備品に該当する。
【0108】
空気圧要素は、空気圧エネルギーの機械的エネルギーへの変換により工作物および工具の移動、持ち上げ、または戻すための直線運動を発生させる、空気圧弁および円筒である。
【0109】
液圧装置の場合に、力およびトルクは、圧力および体積流によって伝達される。例は、アキシアルピストン機関、外歯車機械およびラジアルピストン機関である。
【0110】
したがって、本発明のさらなる対象は、一般工業用のギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての、殊にギヤ、例えば平歯車装置、かさ歯車装置、遊星歯車装置、ウォーム歯車装置、ハイポイド歯車装置およびサイクロイド歯車装置、液圧装置、リニアガイド、空気圧要素、装備品、軸受、例えばすべり軸受および転がり軸受、チェーン、ケーブル、ばね、ねじおよび圧縮機を、および殊に食品と時には意図せずに接触する機械部品をおよびプラントにおいて潤滑するための、本発明による潤滑剤組成物の使用であり、ここで、前記潤滑剤組成物は、好ましくは以下のものを含有する:
A)基油、
B)前記の少なくとも1種の添加剤、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.01~10質量%、および
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~10質量%
ここで、前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記構成成分A)、B)およびC)は前記のように定義されている。
【0111】
特に好ましくは、以下のもの:
A)基油、
B)添加剤混合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.01~6.0質量%、ここで、前記添加剤混合物は、以下のものを含む:
フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、プロピオネートおよびチオプロピオネートから選択される、1種以上の酸化防止剤、
エトキシル化および/またはプロポキシル化された、炭素原子10~18個の鎖長を有するアルコール、ポリオール、アクリレートおよびポリシロキサンから選択される、1種以上の消泡剤、
アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定なカーボネートおよびスルフェートから選択される、1種以上の摩耗防止添加剤および/または極圧添加剤、
任意に、トリアゾール化合物、サリチレートおよびメルカプトチアジアゾール、ならびにそれらの誘導体から選択される、1種以上の非鉄重金属不活性化剤、
任意に、カルボン酸金属塩、スルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩、ベンゼンスルホン酸金属塩、安息香酸金属塩、ナフトエ酸金属塩およびナフテン酸金属塩ならびにそれらの誘導体、これらは前記酸塩の線状および分岐状の脂肪族および芳香族の誘導体を含み、さらにそれに加えて線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい、および殊にそのNa塩、Ca塩、K塩およびMg塩の群から選択される、1種以上の腐食防止剤、および
任意に呈色指示薬として2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール)、および
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.001~2.5質量%
ここで、前記基油が、ポリアルファオレフィン(PAO)、メタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ホワイト油、鉱油、ネオペンチルグリコールエステル、ペンタエリトリトールエステル、トリメチロールプロパンエステルならびに好ましくは前記のように定義されているペンタエリトリトール複合エステルおよびトリメチロールプロパン複合エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、トリグリセリド-脂肪酸-(C8/C10)-エステル、アルキルナフタレン、エチレン/α-オレフィンオリゴマーおよび油溶性ポリグリコール、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されており、
ここで、前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記有機化合物C)は前記のように定義されている、
を含有する潤滑剤組成物の、一般工業用のならびに時には意図しない食品接触のための食品加工工業の分野におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用である。
【0112】
本発明による潤滑剤組成物は、さらなる実施態様によれば、そのうえ、海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての使用に際立って適している。
【0113】
海洋分野におけるおよび陸水の分野における使用分野は、殊に、海洋分野において塩水と、例えばオフショアプラント、もしくは陸水において水および/または水性媒体と、接触する機械、機械部品およびプラントにおけるギヤ、液圧装置、軸受、例えばすべり軸受、転がり軸受または船尾管軸受、プロペララダー、プロペラシャフト、空気圧要素、リニアガイド、チェーンおよびケーブルの潤滑を併せて含むが、これらに限定されるものではない。
【0114】
海洋分野において、ギヤは例えば、スラスタおよびアジポッド(Azipod)において使用される。この使用は、駆動部とプロペラとの間で行われる動力伝達および動力変換に利用される。ここでは、内部への水の流入ならびに海環境への潤滑剤の流出を計算に入れなければならない。
【0115】
海洋分野におけるさらなる使用は、プラットホーム、風車用設置船または掘削基地を持ち上げるジャッキアップシステムである。この運動は、開放ギヤにより行われる。
【0116】
海洋分野における液圧装置は、調整可能なプロペララダーの駆動に、ならびにフィンスタビライザーおよびラダーベアリングにおいて利用される。後者において、同じ潤滑剤でたいてい潤滑されるリニアガイドも使用される。ここでも、前記潤滑は水線を下回って行われる。それに応じて、この場合にも、前記機械部品への水流入ならびに前記潤滑剤の海環境への流出を計算に入れるべきである。
【0117】
海洋分野におけるすべり軸受使用は、まず第一に、船尾管にあるプロペラシャフト軸受、いわゆる船尾管軸受である。前記プロペラシャフトの主な仕事は、その駆動運動をその船体部を経てスクリューに伝達することである。その際に、前記軸受は、摩擦の少ない運動に配慮する。
【0118】
さらに、オフショア風力発電装置、石油およびガス採掘プラットホームにおける、港湾施設、造船所等における、海水、水および水性媒体と接触する機械および機械部品が潤滑される。
【0119】
これらには、例えば水門において使用されるチェーン、ケーブル、例えば船索または網に使用されるケーブル、ならびに固体流、液体流および気体流を制御するための装備品も含まれる。同じように、多種多様な装置および機械におけるねじ、ばね、弁が潤滑されなければならない。
【0120】
したがって、本発明のさらなる対象は、海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油として、殊に、海洋分野において塩水ともしくは陸水において水および/または水性媒体と接触する機械、機械部品およびプラントにおいて、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素において、ギヤ、液圧装置、プロペララダー、プロペラシャフト、リニアガイド、空気圧要素、装備品、軸受、例えばすべり軸受、転がり軸受または船尾管軸受、チェーン、ケーブル、ばねおよびねじを潤滑するための、本発明による潤滑剤組成物の使用であり、ここで、前記潤滑剤組成物は好ましくは、以下のものを含有する:
A)基油、
B)前記の少なくとも1種の添加剤、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.5~7質量%、
C)前記有機化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~10質量%、および
D)前記エステル化合物、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として0.1~85質量%、
ここで、前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記構成成分A)、B)、C)およびD)は前記のように定義されている。
【0121】
特に好ましくは、以下のもの:
A)油溶性ポリグリコール、ポリアルファオレフィン(PAO)およびメタロセン-ポリアルファオレフィン(mPAO)、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から選択される、基油、
B)1種以上のアミン系酸化防止剤、1種以上の中和された/中性のスルホン酸金属塩、ナフタレンスルホン酸金属塩および/またはベンゼンスルホン酸金属塩、1種以上のトリアゾール化合物および/またはトリアゾール誘導体、および1種以上のポリシロキサンを含む、添加剤混合物0.5~5質量%、
C)前記有機化合物0.1~5質量%、および
D)ペンタエリトリトールエステル10~85質量%、
ここで、示された量が、それぞれ、前記潤滑剤組成物の全質量を基準としており、かつ前記の含まれる成分が、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記有機化合物C)は前記のように定義されている、
を含有する、海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油およびすべり軸受油としての、潤滑剤組成物の使用である。
【0122】
本発明は、以下の例により詳細に記載されるが、これらに限定されるものではない。当業者は、発明活動をすることなく、本発明による別の化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
図1】すべり向上剤なしのベース配合物(比較例1)およびすべり向上剤を有する本発明による潤滑剤(例8)についてのストライベック曲線を示す図。
図2】試験された全ての潤滑剤の移行速度を示す図。
図3A】すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物およびすべり向上剤なしのベース配合物の摩擦を示す図。
図3B】すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物およびすべり向上剤なしのベース配合物の摩擦を示す図。
図3C】すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物およびすべり向上剤なしのベース配合物の摩擦を示す図。
図3D】すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物およびすべり向上剤なしのベース配合物の摩擦を示す図。
図4A】すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物およびすべり向上剤なしのベース配合物の摩耗を示す図。
図4B】すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物およびすべり向上剤なしのベース配合物の摩耗を示す図。
図5A】マイクロピッチングに対する耐性を示す図。
図5B】マイクロピッチングに対する耐性を示す図。
【実施例
【0124】
使用される一般的な試験方法
前記潤滑剤組成物ならびにその中に含まれる構成成分の特性は、製造者側から公知ではない場合には、以下の方法を用いて測定される:
- 粘度の測定:粘度測定は、ASTM D 7042に従ってスタビンガー粘度計SVM 3000(Anton Paar)を用いて行われる。
- 酸価の測定(TAN、全酸価[mgKOH/g]):
前記酸価の測定のために、試料を溶剤混合物中に溶解させ、引き続き、ASTM D 664-18E02に従ってアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。前記滴定は、Metrohm 905 Titrando滴定ユニットのSolvotrodeを用いて電位差測定により実施される。
- 分子量(M)の測定:
前記分子量の測定は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によってポリスチレン標準に対してDIN 55672-1:2016-03 “Gelpermeationschromatographie (GPC) - Teil 1: Tetrahydrofuran (THF) als Elutionsmittel”に従ってSECcure GPCシステムを使用して行われる。
- 積分∫Sおよび∫Sの測定:
前記すべり向上剤についてのATR赤外分光測定は、規格DIN 51451 (DIN 51451:2020-02) “Pruefung von Mineraloelerzeugnissen und verwandten Produkten: Infrarotspektrometrische Analyse - Allgemeine Arbeitsgrundlagen”に準拠して、ATR測定に合わせてBruker Optik GmbH社のIR分光計Bruker Tensor 27(ソフトウェア OPUS 7.5)またはBruker Vertex 70(ソフトウェア OPUS 7.0)を使用して実施される。
【0125】
ATRスペクトルにおける以下の範囲が、積分∫Sもしくは∫Sを得るために採用される:
∫S:3100~2750cm-1
∫S:1800~1650cm-1
そのベースラインを得るために、双方の積分の場合に以下のように行われる。
前記積分範囲は二分される。これらの双方の部分範囲内で、それぞれの絶対極小値が測定される。1つの部分範囲内に複数の絶対極小点が得られる場合には、最も幅広く前記積分全体の縁部領域にある点が採用される。前記ベースラインは、前記積分全体における双方の絶対極小点からの直線方程式によって計算される。積分されうるスペクトルは、前記ベースラインの周りをきれいにする。続いて、前記ベースラインの周りをきれいにしたスペクトルが積分される。
- 比誘電率εの測定:
比誘電率εの測定には、製造者flucon fluid control GmbHのシステムEPSILON+の実験室測定装置で規格DIN EN 60247 (DIN EN 60247:2005-01)“Isolierfluessigkeiten - Messung der Permittivitaetszahl, des dielektrischen Verlustfaktors (tan δ) und des spezifischen Gleichstrom-Widerstandes”に準拠して、複素流体インピーダンスが測定される。試験されうる各すべり向上剤について、試料の充填後に室温(約20℃)で測定が連続的なデータ収集を伴って行われ、しかも約18.5~21.5℃(第1工程)から、再び戻す(第2工程)。引き続き、得られたデータを、要求された20.0℃で双方の工程から比較し、かつ平均する。
【0126】
実施例において使用されたすべり向上剤の概要(第1-a表および第1-b表参照):
【表1】
【0127】
潤滑剤組成物の製造:
前記潤滑剤組成物の製造は、当業者に公知の手順により、前記基油および添加剤を、適した容器、例えば混合釜中で、適した撹拌機を使用しながら混合することによって行われる。固体の添加剤もしくは構成成分は、温度上昇により溶液になり、かつ混ざり合う。前記製造は、連続法によって行うこともできる。
【0128】
本発明による以下の潤滑剤組成物を、前記のように製造する(第2表参照 - 例1~15b)。対照として、潤滑剤組成物を、すべり向上剤なしで(ベース配合物)、前記のように製造する(第2表参照 - 比較例1~5)。
【0129】
第2表:
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0130】
例16:潤滑剤のすべり特性へのすべり向上剤の効果
潤滑剤のすべり特性への前記すべり向上剤の影響を試験するために、低い接触圧でのホワイトメタル/鋼の接触面での移行速度(transition speed)の変化が測定される。前記移行速度は、前記接触面が完全に分離される速度として、すなわち、混合摩擦(すなわち前記金属摩擦相手材/完全に形成されない潤滑膜の時折の接触)から弾性流体力学(EHL)領域(すなわち完全に形成された潤滑膜および潤滑膜による前記金属摩擦相手材の完全な分離)への移行が行われる速度として、定義されている。
【0131】
前記試験は、シリンダーオンリングの試験組合せでのトライボメータ(AC2Tresearch/Austrian Competence Center for TribologyのKUGEL-SCHEIBE-TRIBOMETER)を使用して実施される。約0.02μmの粗さRaを有する10×10mm(直径×長さ)の100Cr6鋼シリンダーを、定義された荷重をかけて約1.3μmの粗さRaを有するホワイトメタルリングに対して摩擦する。その際に、前記ホワイトメタルリングは、油リザーバー中に存在する。
【0132】
低速から高速へ(0.05m/s~2.5m/s)および逆に高速から低速へ(2.5m/s~0.05m/s)の前記ホワイトメタルリングの速度の連続的な変動による摩擦係数の測定により、ストライベック曲線(摩擦-速度曲線)が得られる。
【0133】
前記試験の開始前に、なじみ運転工程が実施された。これは、室温で10Nおよび20Nでおよび40℃で10Nでの0.05m/sから2.5m/sへおよび引き続き2.5m/sから0.05m/sへの速度傾斜を含んでいた。
【0134】
前記ストライベック曲線を、引き続き、40℃で20Nで0.05m/s~2.5m/sの速度傾斜で作成する。
【0135】
図1は、すべり向上剤なしのベース配合物(比較例1)およびすべり向上剤を有する本発明による潤滑剤(例8)についての前記ストライベック曲線の測定を示す。前記すべり向上剤の存在で前記移行速度は、より低い速度(AからBへ)の方向へ明らかに移動することが認められる。
【0136】
図2には、試験された全ての潤滑剤の移行速度が示されている。図2から明らかであるように、すべり向上剤を有する試験された全ての潤滑剤(例2、5、8、9、11)は、ベース配合物(比較例1)ならびに本発明によらないすべり向上剤を含有する潤滑剤組成物(比較例5)よりも明らかに低い移行速度を有し、このことは、本発明によるすべり向上剤を含有する本発明による潤滑剤が、潤滑膜を比較例よりもはるかに早く形成することを示唆する。すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤の改善された潤滑特性は、これらの潤滑剤が例えばすべり軸受および類似の部品において、改善された負荷容量を生じさせることを示す。
【0137】
例17 - エラストマー動的測定によるすべり挙動の測定:
前記試験は、Huettinger, Hermes, Woeppermann(Huettinger, Hermes, Woeppermann, Prem (2015): Neues Pruefverfahren fuer dynamische Dichtungen von Getriebemotoren. In:BergerおよびKiefer(発行者)Dichtungstechnisches Jahrbuch 2016, Mannheim: Isgatec)の試験仕様に従って試験台上で、DIN 3761-10:1984-10(Beuth(発行者):DIN 3761、自動車両用ラジアルシャフトシールリング、1984)に準拠して実施される。
【0138】
その条件/測定パラメーターは、以下のとおり選択される:エラストマー材料:75 FKM 585、圧力:0.25bar、温度:70℃、試験期間:240h、回転速度2000rpm(20h)および0rpm(4h)を有する10サイクル、グリース塗布:Bremer & Leguil Cassida GTS 2。
【0139】
前記の試験仕様に従ってFreudenberg BAU3 38-90-12 75FKM585(商品49385291/ 49370995)のFKMラジアルシャフトシールリングでのエラストマー動的測定によって、本発明による潤滑剤組成物(例3および15b)の使用の際の動的エラストマー適合性が測定される。引き続き、その走行跡幅ならびにシャフトなじみが測定され、これらはすべり挙動もしくは前記潤滑剤組成物のエラストマー適合性の尺度である。対照として、すべり向上剤なしのベース配合物(比較例2)を利用する。
【0140】
前記測定の結果は、第3表にまとめられている:
第3表:
【表3】
【0141】
前記測定結果は、すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物(例3:GV 1、例15b:GV 2、それぞれ比較例2に比べて)の場合に、0.66mmから0.35mm(例3)もしくは0.54mm(例15b)への前記ラジアルシャフトシールリング-走行跡幅/摩耗幅の低下および20μmから0μm(例3)もしくは14μm(例15b)への前記シャフトなじみの低下が、前記のすべり向上剤なしのベース配合物(比較例2)に比べて達成されることを示す。比較例4に対する測定結果が示すように、これに反して、前記ベース配合物(mPAO 150/比較例4、mPAO 65/比較例2に比べて)の粘度の増大により改善は達成されない。
【0142】
例18 - DES(動的エラストマースクリーニング)による摩擦相手材としてのエラストマーの場合のすべり挙動の測定:
前記試験は、「リング-ディスクトライボメータ」を用いてSommer M.およびHaas W.により記載された構成をさらに発展させて実施される([1] Sommer, M., Haas, W. “A new approach on grease tribology in sealing technology: Influence of the thickener particles”, Tribology International (2016), 103, 574-583)。試験材料として、FKMエラストマー材料が使用される。その相手材は、鋼相手材である。
【0143】
試験されうる潤滑剤組成物を、[1]に記載されているような、リング-ディスクトライボメータで、1.5m/sの一定速度および60℃の温度で0.90N/mmの線荷重で観察して、不良な潤滑膜形成の際に前記潤滑膜の崩壊および固体接触を誘発する。
【0144】
図3A~3Dから読み取ることができるように、すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物(例2:GV 3、例5:GV 5、例11、GV 2、例14、GV 1)が、その摩擦係数μの所定時間を過ぎて明らかによりなめらかでより低い経過を示し、このことは、安定な潤滑膜構造を意味し、かつ流体潤滑を実証する。このことは、摩耗がより少なく、より安定なトライボシステムであるエラストマー/潤滑剤/鋼相手材を示唆する(図4A、4B参照)。すべり向上剤なしのベース配合物(比較例3)は、不安定な潤滑膜構造を示し、このことは、前記摩擦係数の強い振動およびより高い経過に現れる。このことは、少なくとも局所的な、固体接触および優れた付着すべり作用(「スティックスリップ作用」)を実証する。
【0145】
図4Aおよび4Bに示されているように、前記すべり向上剤の添加により、それぞれ前記のすべり向上剤なしのベース配合物(比較例3)に比べて、エラストマー体の摩耗が、しかも57%(例2:GV 3)、50%(例14、GV 1)、67%(例11、GV 2)もしくは63%(例5、GV 5)低下され、かつ鋼相手材の摩耗が、しかも80%(例2:GV 3)、67%(例14:GV 1)、67%(例11:GV 2)もしくは73%(例5:GV 5)低下される。
【0146】
例19:マイクロピッチングに対する耐性への前記すべり向上剤の作用
マイクロピッチングに対する耐性は、マイクロピッチング抵抗(MPR)試験台(PCS Instruments、ロンドン、UK)で調べる。マイクロピッチングは、歯車接触箇所の損傷を表す。
【0147】
前記試験台は、中央ローラが3枚のディスクと接触している三重配置を使用し、これは、転がり1回転あたり3回の転がり接触サイクルをもたらす。下方の2枚のディスクは、部分的に油中に浸漬されており、かつこの油を前記試験中にその接触箇所へ輸送し、それにより油浴潤滑がシミュレートされる。前記ローラおよび前記ディスクは、別個のモータにより駆動され、これは、多様なすべり-転がり比(SRR)のシミュレーションを可能にする。前記試験は、1.7GPaのヘルツの接触圧力、20%~30%のSRR、90℃の油温度および1千万サイクルで実施される。その摩擦係数および振動を、前記試験中に、トルク計もしくは加速度計で記録した。前記試験の終了時に、前記試験ローラは、溶剤を使用しながら清浄化して、残りの油を除去し、かつ前記ローラの質量を測定し、ならびに前記走行跡の光学顕微鏡で撮影する。潤滑剤組成物の、マイクロピッチングに対する耐性に関する能力は、前記ローラの減量(測定前もしくは後の質量の比較)(図5A参照)によりならびに前記摩耗痕幅の変化(図5B参照)により評価される。
【0148】
図5Aからの前記MPR測定の結果は、すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物(例1、4、6、12参照)の場合に、すべり向上剤なしのベース配合物(比較例2参照)に比べて前記減量の明らかな低下が認められることを示す。
【0149】
図5Bからの前記MPR測定の結果は、すべり向上剤を有する本発明による潤滑剤組成物(例4、7、10、15参照)の場合に、すべり向上剤なしのベース配合物(比較例4参照)に比べて前記走行跡幅の明らかな低下が認められることを示す。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B