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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】スラスタ組立体
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/58 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
F02K9/58
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022560287
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 FI2021050247
(87)【国際公開番号】W WO2021198570
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】20205344
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】522387386
【氏名又は名称】オーロラ プロパルション テクノロジーズ オサケユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ピエティカイネン ピフラ
(72)【発明者】
【氏名】ライティネン ヤッコ
(72)【発明者】
【氏名】イリ-オパス ペルトゥ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィレニウス ヴィリ
(72)【発明者】
【氏名】タカラ ローペ
(72)【発明者】
【氏名】ペイツォ ピリ
(72)【発明者】
【氏名】シエヴィネン ヤンネ
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第2054062(DE,A)
【文献】特表2000-512780(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0167377(US,A1)
【文献】米国特許第2960303(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源に接続されたスイッチ(1)と、
スラスタ(2)と、
推進剤を貯蔵し且つ加圧する推進剤タンク(3)と、
推進剤をスラスタ(2)に導く推進剤経路(5)と、を有し、
前記スラスタ(2)は、
前記推進剤経路から推進剤を受け取る空間(20)と、
電気的に制御される加熱要素(23)と、
第1熱膨張係数を持つスラスタ本体(21)と、
第1熱膨張係数とは異なる値の第2熱膨張係数を持ち前記スラスタ本体(21)内に配置されたバルブコンポーネント(22)と、を備える、スラスタ組立体であって、
スラスタ組立体は、さらに、
前記スラスタ本体(21)と単一の個体部品として一体化している収束発散ノズル(25)であって、この収束発散ノズルは推進剤ノズル孔を備えた前記収束発散ノズル(25)を有し、
前記バルブコンポーネント(22)は、第1温度で前記収束発散ノズル(25)を閉じるシール面(24)を備え、
前記電気的に制御される加熱要素(23)は、前記スイッチ(1)の作動に対応して、第2温度まで前記スラスタ(2)を加熱し、この第2温度で、前記スラスタ(2)の熱膨張により前記収束発散ノズル(25)を開くことを特徴とするスラスタ組立体。
【請求項2】
前記バルブコンポーネント(22)の一端は、前記スラスタ本体(21)に固定接続されている、請求項1に記載のスラスタ組立体。
【請求項3】
前記バルブコンポーネント(22)は、円筒部分を持つカプセル(22-1)である、請求項1に記載のスラスタ組立体。
【請求項4】
前記スラスタ本体(21)は、前記バルブコンポーネント(22)よりも高い熱膨張率を持つ、請求項1乃至3の何れか1項に記載のスラスタ組立体。
【請求項5】
前記スラスタ本体(21)は、薄板状のセラミック又はMEMSを持つ薄板状の構造体を備えた、請求項1に記載のスラスタ組立体。
【請求項6】
前記バルブコンポーネント(22)は、少なくとも1つの孔を備えたバルブストリップ(22-2)である、請求項5に記載のスラスタ組立体。
【請求項7】
前記バルブストリップ(22-2)は、前記スラスタ本体(21)よりも高い熱膨張係数を持ち、さらに、前記バルブストリップ(22-2)の両端は、前記第2温度まで加熱されたとき、前記バルブストリップ(22-2)が熱膨張により内側に曲がるように、前記スラスタ本体(21)に固定接続されている、請求項6に記載のスラスタ組立体。
【請求項8】
前記薄板状の構造体にすることにより、前記推進剤経路(5)は、前記スラスタ本体(21)と同じ部分で作られることが可能となる、請求項5乃至7の何れか1項に記載のスラスタ組立体。
【請求項9】
前記シール面(24)は、前記スラスタ本体(21)と接触する前記バルブコンポーネント(22)の面、又は、前記推進剤経路(5)と接触する前記バルブコンポーネント(22)の面である、請求項1乃至8の何れか1項に記載のスラスタ組立体。
【請求項10】
前記スラスタ本体(21)は、スリーブ(29)により取り囲まれている、請求項1乃至9の何れか1項に記載のスラスタ組立体。
【請求項11】
さらに、前記スラスタ(2)への推進剤の流れを制御する主バルブ(4)を有する、請求項1乃至10の何れか1項に記載のスラスタ組立体。
【請求項12】
前記電気的に制御される加熱要素(23)は、前記スラスタ本体(21)のまわりに巻かれた又は前記スラスタ本体(21)の内側に設けられ抵抗ワイヤである、請求項1乃至11の何れか1項に記載のスラスタ組立体。
【請求項13】
前記スラスタ(2)は、長さが5mmよりも短い、請求項1乃至12の何れか1項に記載のスラスタ組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進エンジンに係り、特に、電熱スラスタ(小型ロケットエンジン)組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星のサイズにおける最近の傾向は、非常に小型化された推進システムに向かっている。キューブサット(CubeSat)は、宇宙研究のための一種の小型化された人工衛星であり、10cm×10cm×10cmの立方体ユニットにより作られている。キューブサットや同様なより小型の人工衛星により、小型の推進システムの需要が高まり、さらに、最近及び今後の打ち上げの大部分はキューブサットの領域となっている。宇宙技術に関する教育ノウハウを増やすことを目指す簡易な工学的な実験から、多様な研究プログラムに合わせた高度に専門化された科学的ミッションまでの領域が、使命となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
推進システムを小型化することに関連した課題は、人工衛星の姿勢をどのようにして正確に制御するかである。例えば、研究使命として、地球、太陽、又は天体空間における固定点における人工衛星の機器の正確な目標(決め)が一般的に要求されている。多くの場合、その使命の科学的価値は、人工衛星の正確な制御性や衛星姿勢に関するリアルタイム情報に、決定的に依存している。
【0004】
機器の目標における明らかな必要性の他に、姿勢制御は、電気エネルギーを生じさせるためのソーラパネルの目標決めを可能とするので人工衛星の操作寿命を長くし、早期に軌道を逸脱させる地球低軌道(LEO)上での空気抗力を最小化するための人工衛星の姿勢調整のためのツールとして使用できる。他の用途として、1つのスラスタシステムにより効果的に実行される衝突回避がある。
【0005】
さらに、姿勢制御や小さな軌道の変更性能を持つ小型の人工衛星を備えたスラスタシステムの増大する需要について、信頼性のある低コストの解を得るための設計や大量生産においては、高性能のマイクロ工学やマイクロエレクトロニクスが必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決することができるスラスタ組立体を提供することを目的としている。本発明の目的は、独立請求項に記載された技術事項を特徴とする装置により達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0007】
本発明は、スラスタ本体及び異なる熱膨張係数を持つバルブ部品を有するスラスタのアイデアに基づいている。
【0008】
この装置の利点は、小型化及び制御性能において信頼性がある連続生産のための適切なスラスタシステムを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態によるスラスタ組立体を示す。
図2】本発明の第1実施形態によるスラスタの断面図である。
図3A】第1実施形態によるスラスタの他の例を示す。
図3B】第1実施形態によるスラスタの他の例を示す。
図3C】第1実施形態によるスラスタの他の例を示す。
図3D】第1実施形態によるスラスタの他の例を示す。
図4】本発明の第2実施形態によるスラスタの開いた状態を示す。
図5A図4に示す実施形態の第1温度における状態を示す。
図5B図4に示す実施形態の第2温度における状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の実施形態によるスラスタ組立体を示している。このクラスタ組立体は、スイッチ1と、スラスタ2と、推進剤タンク3と、主バルブ4と、推進剤経路(推進剤チャネル)5を備えている。スイッチ1は、電気制御システムの一部であってもよく、例えば、光起電性セルのような電源に接続されている。推進剤タンク3は、推進剤を貯蔵し加圧するためのものである。好適な推進剤は、例えば、水、又は、他のガス化できる又はガス状の物質、又は、キセノンのような混合物である。主バルブ4は、推進剤経路5を通る推進剤の流れを制御するように構成され、推進剤経路5は推進剤をスラスタ2に導くものであり、推進剤経路5で、推進剤は加熱されて吐出され、これにより、推進剤経路5は推進力を発生させて、スラスタ組立体及びこれに取り付けられた人工衛星や宇宙船を移動させる。主バルブ4は、さらに、真空中で操作する際の推進剤の漏洩に対する安全を保障している。主バルブ4からの小さなインパルスビットにより、宇宙船を移動させる際の正確な位置決め及び動的制御が可能となる。
【0011】
推進剤タンク3は、1つ以上の多数の主バルブ4に接続されてもよいし、さらに、主バルブ4は、1つ以上の複数のスラスタ2への推進剤の流れを制御してもよい。スラスタ組立体の実施形態では、推進剤経路5は、主バルブ4に接続されることなく、タンク3に直接接続されてもよい。推進剤は、タンク3内で加圧されるsことにより、スラスタ2に供給される。この推進剤は、ダイヤフラムや加圧剤を用いた袋状構造物、又は、機械式スプリングを用いて、タンク3内の推進剤を加圧することにより、又は、機械式ポンプなどの他の手段又は推進剤を加圧剤として使用することにより、スラスタに供給される。実施形態において、推進剤経路5の一端は、スラスタ2に固定接続により結合されてもよいし、推進剤経路5は、スラスタ2の一部として作られてもよい。実施形態において、推進剤経路5は、毛細管でもよい。毛細管を使用することにより、推進剤タンク3内の圧力は、他のタイプの経路に比べてより低い圧力に保持される。
【0012】
図2は本実施形態によるスラスタの断面図を示している。スラスタ2は、スラスタ本体21と、バルブコンポーネント22と、スラスタ本体21とバルブコンポーネント22との間の空間20と、電気的に制御される加熱要素23と、ノズル25を有する。空間20は、推進剤経路5から推進剤を受け取り且つ推進剤がノズル25から放出される前に推進剤を加熱するために設けられている。
【0013】
スラスタ本体21は、第1熱膨張係数の材料により作られた中空ハウジングであり、この材料は、例えば、9 10-6-1の線形熱膨張係数を持つチタニウムであってもよい。バルブコンポーネント22は、スラスタ本体21の内側に配置され、半球状の端部を持つ円筒断面のカプセル22であってもよい。このような形状は、小型の人工衛星を設計する際、微細加工を簡単に行うことができる。本実施形態においては、バルブコンポーネント22の形状は、ボール形状や直径が変化する針状のものであってもよい。バルブコンポーネント22は、第2熱膨張係数の材料により作られており、この第2熱膨張係数は上述した第1熱膨張係数と異なる値であり、この材料は、例えば、3 10-6-1の線形熱膨張係数を持つシリコンであってもよい。
【0014】
本実施形態において、第1熱膨張係数は、第2熱膨張係数よりも大きな値である。他の実施形態において、第1熱膨張係数は、第2熱膨張係数よりも小さな値であってもよい。異なる材料は異なる熱膨張係数を持っており、最も好ましい材料の組合せは、ステンレス鋼と炭化ケイ素のような金属とセラミック、又は、銅又はアルミニウムのような熱膨張係数が大きく異なるような金属、又は、十分な作動温度及び熱膨張係数の差異を持つ材料である。線形熱膨張係数の差異は、予定した温度と作動温度との間の望ましい温度差や、スラスタ寸法や静的設置応力のような他のパラメータにより、選択される。より低い熱膨張係数の差異は、より大きな温度差が必要となる。
【0015】
電気的に制御される加熱要素23は、スイッチ1の作動に対応して、第1温度から第2温度までスラスタ2を加熱するように構成されている。例えば、第1温度は典型的には-5~20℃の宇宙船の規定された本体温度であり、第2温度は600~1000℃であり、この第2温度のとき、シール面24を持つスラスタ21とバルブコンポーネント22により生じる熱膨張により、ノズル25が閉じられる。電気的に制御される加熱要素23は、例えば、スラスタ本体21のまわりに巻かれた抵抗ワイヤであってもよく、又は、誘導加熱器や非導電性材料上に選択的に配置された抵抗層のようなスラスタ2を第2温度まで加熱する他の加熱要素であってもよい。例えば、バルブコンポーネントが10mmの長さで5 10-6-1の熱膨張係数の差異があり且つ第1温度と第2温度が800℃の差異があると、シール面24に0.04mmの隙間が生じ、この隙間により、スラスタ2内の推進剤の流れが許容される。推進剤が第2温度まで加熱されると、圧力が運動エネルギにより増大し、この圧力により、加熱されたガスがノズル25から排出されたとき、スラスタ組立体が宇宙で移動することができる。電気的に制御される加熱要素23が温度低下すると、スラスタ2の温度は第1温度まで低下し、シール面24はノズル25を再び閉じる。電気的に制御される加熱要素23は、バルブコンポーネント22と推進剤の加熱の両方を制御することにより、スラスタの第1電気制御を可能とする。これは、スラスタ2を断続的に駆動するための簡易で効率的な手法である。
【0016】
図2に示すように、第1温度では、バルブコンポーネント22はスラスタ本体21と推進剤経路5との間で圧縮され、バルブコンポーネント22には、推進剤経路5がバルブコンポーネント22と接触することによりシール面24が形成される。スラスタ本体21と推進剤経路5とは、例えば、レーザ溶接により固定接続されている。図2に示すように、バルブコンポーネント22の表面は、推進剤経路5と接触している。しかしながら、他の実施形態(例えば、図3A図3D参照)においては、バルブコンポーネント22の表面は、スラスタ本体21と接触してもよい。接触するとき、ノズル25は閉じられており、推進剤が排出されるのを防止している。この構造により、推進剤の加熱とバルブ操作が同時に行われるようになっている。バルブコンポーネント22は、加熱電力がオフとなった後に、より早く温度が低下し、さらに、スラスタ2の反応速度を増大させる。
【0017】
第2温度まで加熱されたとき、スラスタ本体21は、バルブコンポーネントよりも膨張し、これにより、シール面24が推進剤経路5から離れる。バルブコンポーネント22及び推進剤経路5又はスラスタ本体21を離し、シール面24に隙間を形成することにより、ノズル25が開となる。シール面24が開放されたとき、バルブコンポーネント22は、空間20内を移動することができ、さらに、推進剤の圧力によりノズル25に向かって押される。実施形態において、バルブコンポーネント22の先端には、経路28が形成され、この経路28により、推進剤の流れは、バルブコンポーネント22がノズル25に向かって押されるときにも、制限されることがない。このように、バルブコンポーネントの先端は、ノズル25に最も近い。
【0018】
シール面24は、スラスタ本体21とバルブコンポーネント22が第1温度のとき、接触するようになっており、このとき、推進剤がノズル25に向かって漏洩することが防止される。シール面24は、スラスタ本体21とバルブコンポーネント22が第2温度のとき、離れるようになっており、このとき、推進剤がノズル25に向かって通過することを許容する。実施形態においては、バルブコンポーネント22の一端が、スラスタ本体21と固定接続されており、この固定接続は、例えば、レーザ溶接、又は、バルブコンポーネント22とスラスタ本体21とのネジ接続により達成される。バルブコンポーネント22をスラスタ本体21に固定することにより、シール面24を離すために必要な温度差を生じさせることができ、この温度差は、バルブコンポーネント22がスラスタ本体21に組立時に挿入されて材料に応力が生じて、温度と力が変化することにより、調整される。バルブコンポーネント22又はスラスタ本体21は、バルブコンポーネント22がスラスタ本体21に固定接続されているとき、推進剤をノズル25に向かって流すための上述した経路28と類似した経路を備えるものであってもよい。このような経路は、固定接続又はその隣に位置するものであってもよい。バルブコンポーネント22は、より大きな温度膨張を許容する拘束要素の間で自由に浮くものであってもよい。
【0019】
ノズル25は、スラスタ本体21の一部として作られてもよく、さらに、収束発散ノズルのような推進ノズル孔を備えてもよい。収束発散ノズルは、中央が狭い管のような形状であり、さらに、非対称な砂時計のような形状として設けられている。ノズルは、推進剤の熱エネルギーを更なるターボブーストを生じる運動エネルギーに変換することにより、ノズルを通過する高温で加圧された推進剤を推力の方向により高い超音速まで加速するために使用される。断面積が最小となる推進ノズル孔において、推進剤の速度は、局所的に音速となる。収束発散ノズルの断面積は増大しているので、推進剤は膨張し始め、さらに、推進剤の流れは超音速まで増速される。推進剤は、推進ノズル孔から出て行くので、面積が増加することにより、ジュール・トンプソン膨張(Joule-Thompson expansion)が生じ、この膨張により、推進剤は、超音速で、高圧から低圧まで膨張して、質量流れの速度を音速を超えて押し出す。これにより、出力消費を低減し、推力を増加させ、さらに、このシステムを複合推進剤システムと一体化することができ、異なる推進剤を使用することができる。
【0020】
ノズル25をスラスタ本体21の一部として作る場合、ノズル25がスラスタ本体21と一体化したときの単一の個体部品となる。この一体化構造により、スラスタの先端を少し変えて冷却ガスシステムとすることができる。これにより、冷却ガスシステムをバルブコンポーネント22と共に推進剤を加熱してターボブーストを生じさせる高温ガスシステムに変換したとき、スラスタ2の有用な用途が増大する。
【0021】
電気的に制御される加熱要素23は、絶縁体26により絶縁され、この絶縁体26は、加熱要素23のまわりのグラスファイバーや他の非導電性材料であり、この絶縁体26により、加熱要素23自体及びスラスタ本体21から絶縁される。スラスタ本体21及び絶縁され電気的に制御される加熱要素23は、スリーブ29により取り囲まれ、このスリーブ29により、電気的に制御される加熱要素23が所定の位置に保持され、さらに、スラスタ本体21と加熱要素23から放射された熱がスラスタ本体21に向けて反射させる。スリーブ29は、スラスタ2の外層であり、スラスタ本体21と同じ又は異なる材料により作られている。加熱要素23は、熱膨張係数と同様にその特定の温度によりノズル部分に影響を与えるものであってもよく、この特定の温度は、スラスタ2の上流側部分における温度と異なっていてもよい。
【0022】
図3A乃至図3Dは、スラスタ本体21、バルブコンポーネント22、空間20、シール面24、ノズル25をどのように設計し得るかを示す他の例である。図3A乃至図3Dにおけるバルブコンポーネント22のシール面24は、スラスタ本体21と接触する面である。これらの例は、上述した実施形態と同様であり、スラスタ本体21は、バルブコンポーネント22の熱膨張係数と異なる熱膨張係数を有している。例えば、図3A図3Bの例においては、バルブコンポーネント22は、スラスタ本体21の熱膨張係数よりも低い熱膨張係数を有し、図3C図3Dの例においては、バルブコンポーネント22は、スラスタ本体21の熱膨張係数よりも高い熱膨張係数を有している。図3C図3Dの例では、熱膨張により、バルブコンポーネント22は、スラスタ本体21より長くなり、シール面24を離すようになる。図3A図3Cに示すように、シール面24はノズル25に近い位置にあり、図3B図3Dに示すように、シール面24は推進剤経路5に近い位置にある。
【0023】
図4及び図5Aは、他の実施形態によるスラスタ2の開いた状態の図面である。シール面24を接触させたり離したりする原理は、図2で示した実施形態と類似している。同じである。しかしながら、他の実施形態においては、スラスタ2の全体が、薄板状のセラミックの薄板状部として作られててもよいし、又は、微小電気機械システム(MEMS)の一部として作られてもよい。薄板及びMEMSリソグラフィーの技術により、原材料の単一ブロックから作ることができるようになり、それにより、最終製品における組立体や継ぎ目の数を減少させることができる。この技術により、スラスタをより小型化されたナノ技術による構造物とすることができる。これにより、ノズル25、バルブコンポーネント22及び加熱要素23を同じシステム内で一体化する3つの部品の一体化が可能となる。この実施形態において、バルブコンポーネント22は、スラスタ本体21よりも高い熱膨張係数を持つバルブストリップ(細長い一片)22-2として配置されるものであってもよい。実施形態において、薄板状の構造体とすることにより、推進剤経路5とノズル25をスラスタ本体21と同じ部分として直接的に作ることができる。推進剤経路5をスラスタ本体21と同じ部分として作ることにより、スラスタ2全体の製造可能性が改善される。
【0024】
バルブストリップ22-2は、チタニウム又は銅チタニウムのバイメタルのような1又は複数の材料から作ってもよい。バルブストリップ22-2は、単一の機能材料の構造体として製作されてもよい。バルブストリップ22-2は、少なくとも1つの孔27又は流れを可能とする他の特徴、及び、面を備えている。この面は、図5Aに示すように、スラスタ2が第1温度のとき、ノズル25の入口とスラスタ本体21と接触してシール面24を形成し、一方、図5Bに示すように、スラスタ2が第2温度まで加熱されたとき、ノズル25を開くようになっている。バルブストリップ22-2の両端は、スラスタ本体21により、バルブストリップ22-2がスラスタ本体21の内側にシフトしないように、拘束されている。これは、例えば、スラスタ本体21内のノッチ又は両端間の溶接のような固体接続の特徴により達成される。
【0025】
第1温度のとき、バルブストリップ22-2は、真っすぐで、ノズル25に最も近い空間20と同じ幅を備え、ノズル25に向かう側面は、スラスタ本体の壁に接触している。このとき、孔27とシール面24又はこれらの両方が壁によりブロックされているので、シール面24が接触されるようになっている。バルブストリップ22-2の熱膨張係数はスラスタ本体21よりも高いので、又は、バイメタルのストリップの場合には、ノズル25に向いた側面の熱膨張係数はスラスタ本体21よりも低いので、バルブストリップ22-2は空間20に向かって内側に曲がる。この曲がりにより、シール面24が開放されノズル25を開き、推進剤が壁によりもはやブロックされていない孔27を通って流れる。
【0026】
電気的に制御される加熱要素23は、スラスタ本体21内に設けられた抵抗素子を備え、この抵抗素子は、例えば、スラスタ本体21上に選択的にメッキされるようなものであってもよい。電気的に制御される加熱要素23は、その代わりとして、スラスタ本体21の外側に設けるようにしてもよい。
【0027】
上述した実施形態によるスラスタにおいては、制限された部品数及び小型化が実現される。スラスタ2は、長さが5mmより短いものが可能となる。実施形態において、スラスタ2の全部を組立てるのに、2つの部品が必要となる。部品の数を減らすことにより、可能性のある故障の原因の数も減少し、これにより、製品の信頼性が高まり、さらに、システムの組立時間や重量を低減することができる。また、連続して生産する際の製造可能性を高め、さらに、製造における部品の品質や再現性を高めることができる。さらに、最大の推力のものまで拡張できる拡張性があり、大きなレンジの推力のレベルのための共通の基礎設計を提供できる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B