(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-23
(45)【発行日】2024-01-31
(54)【発明の名称】塗装ロボット
(51)【国際特許分類】
B05B 12/00 20180101AFI20240124BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240124BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B05B12/00 A
B05C5/00 101
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2023128770
(22)【出願日】2023-08-07
【審査請求日】2023-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505056845
【氏名又は名称】アーベーベー・シュバイツ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ABB Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 66, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】多和田 孝達
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/049718(WO,A1)
【文献】特許第7169475(JP,B1)
【文献】特許第7153816(JP,B1)
【文献】国際公開第2021/205537(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-17/08
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の塗装を行う塗装ロボットであって、
液滴を吐出する複数のノズルと、駆動することで前記ノズルから前記液滴を押し出すための圧電基板を備える塗装ヘッドを備える塗装ヘッドユニットと、
前記塗装ヘッドユニットを先端に装着すると共に、当該塗装ヘッドユニットを所望の位置へ移動させるロボットアームと、
前記ロボットアームと前記塗装ヘッドユニットの間に亘って設けられている塗料供給機構と、を備え、
前記塗料供給機構は、
前記塗装ヘッドに向けて塗料を供給する塗料供給路と、
前記塗装ヘッドの塗料排出側に接続され、前記ノズルから吐出されなかった前記塗料を回収する戻り流路と、
前記塗料供給路に設けられ、制御された空気圧に応じて弁開度を調整可能な空圧制御弁と、
前記塗料供給路において前記空圧制御弁よりも前記塗装ヘッド側に向かう下流側または当該空圧制御弁よりも上流側に設けられ、前記空圧制御弁に供給される前記塗料の圧力を上昇させる圧力昇圧機構と、
を備
え、
前記圧力昇圧機構は、前記塗料供給路の内径が狭められたオリフィスであると共に、
前記オリフィスは、単一の孔部または複数の孔部から構成されている、
ことを特徴とする塗装ロボット。
【請求項2】
請求項1記載の塗装ロボットであって、
前記戻り流路には、電気的な操作によって弁開度を調整可能な電気操作弁が設けられている、
ことを特徴とする塗装ロボット。
【請求項3】
請求項1記載の塗装ロボットであって、
前記圧力昇圧機構は、前記塗料供給路を流れる前記塗料に含まれている異物を除去する除去フィルタである、
ことを特徴とする塗装ロボット。
【請求項4】
請求項1記載の塗装ロボットであって、
前記塗料供給機構には、前記塗料供給路と前記戻り流路とを接続すると共に前記塗装ヘッドと並列状態で前記塗料を流通させるバイパス流路が設けられていて、
前記圧力昇圧機構は、前記バイパス流路よりも前記塗料供給路の上流側に設けられている、
ことを特徴とする塗装ロボット。
【請求項5】
請求項
1記載の塗装ロボットであって、
前記オリフィスは、前記塗料が流れる流路の開度を調整可能としている、
ことを特徴とする塗装ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の塗装ラインにおいては、ロボットを用いたロボット塗装が主流となっている。このロボット塗装に関する構成の一例として、たとえば特許文献1に開示の塗装ロボットのように、圧電基板(109)の作動によって塗料を吐出可能な塗装ヘッド(56)を備えると共に、その塗装ヘッド(56)に対し、塗料を供給する塗料循環装置(51)を備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の構成においては、圧力変動の影響が、塗装ヘッドからの塗料の安定的な吐出に影響を及ぼしている。例えば、5kPaの圧力の入力に対し、上流側から塗料を供給するギヤポンプ(62)の駆動状態や、比例弁(71)の作動によって、±1kPa程度の圧力変動が生じると仮定すると、その圧力変動の影響の割合は、例えば20%となり、塗料の吐出が不安定化してしまう虞がある。
【0005】
また、車両を塗装する環境においては、防爆対応を図る等のために、電気機器である比例弁を用いずに、空気圧で制御するAOPR(エアオペレートペイントレギュレータ)を用いることが検討されている。しかしながら、AOPRは、操作可能な圧力レンジが、比例制御弁よりも高めであることから、特許文献1に開示の構成では、AOPRを用いることができない。
【0006】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、圧力の変動の影響を低減すると共に、空圧制御弁を操作可能な圧力レンジとすることが可能な塗装ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、車両の塗装を行う塗装ロボットであって、液滴を吐出する複数のノズルと、駆動することでノズルから液滴を押し出すための圧電基板を備える塗装ヘッドを備える塗装ヘッドユニットと、塗装ヘッドユニットを先端に装着すると共に、当該塗装ヘッドユニットを所望の位置へ移動させるロボットアームと、ロボットアームと塗装ヘッドユニットの間に亘って設けられている塗料供給機構と、を備え、塗料供給機構は、塗装ヘッドに向けて塗料を供給する塗料供給路と、塗装ヘッドの塗料排出側に接続され、ノズルから吐出されなかった塗料を回収する戻り流路と、塗料供給路に設けられ、制御された空気圧に応じて弁開度を調整可能な空圧制御弁と、塗料供給路において空圧制御弁よりも塗装ヘッド側に向かう下流側または当該空圧制御弁よりも上流側に設けられ、空圧制御弁に供給される塗料の圧力を上昇させる圧力昇圧機構と、を備えていることを特徴とする塗装ロボットが提供される。
【0008】
また、上述の発明において、戻り流路には、電気的な操作によって弁開度を調整可能な電気操作弁が設けられている、ことが好ましい。
【0009】
また、上述のいずれかの発明において、圧力昇圧機構は、塗料供給路の内径が狭められたオリフィスであると共に、オリフィスは、単一の孔部または複数の孔部から構成されている、ことが好ましい。
【0010】
また、上述のいずれかの発明またはそれらの組み合わせにおいて、圧力昇圧機構は、塗料供給路を流れる塗料に含まれている異物を除去する除去フィルタである、ことが好ましい。
【0011】
また、上述のいずれかの発明またはそれらの組み合わせにおいて、塗料供給機構には、塗料供給路と戻り流路とを接続すると共に塗装ヘッドと並列状態で塗料を流通させるバイパス流路が設けられていて、圧力昇圧機構は、バイパス流路よりも塗料供給路の上流側に設けられている、ことが好ましい。
【0012】
また、上述のいずれかの発明またはそれらの組み合わせにおいて、オリフィスは、塗料が流れる流路の開度を調整可能としている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、圧力の変動の影響を低減すると共に、空圧制御弁を操作可能な圧力レンジとすることが可能な塗装ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る塗装ロボットの全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図1に示す塗装ロボットのうち、塗料を吐出させるノズル形成面を正面視した状態を示す図である。
【
図3】
図1に示す塗装ロボットにおいて、複数の塗装ヘッドを千鳥状に配置した状態を示す図である。
【
図4】
図1に示す塗装ロボットにおいて、各ノズルへ塗料を供給する概略的な構成について示す図である。
【
図5】
図4に示す、列方向供給流路、ノズル加圧室および列方向排出流路付近の構成を示す断面図である。
【
図6】
図2に示す塗装ヘッドユニットとは異なる他の塗装ヘッドユニットにおけるノズル形成面の構成を示す平面図である。
【
図7】
図1に示す塗装ロボットが備える塗料供給機構等の概略的な構成を示す図である。
【
図8】
図7に示す塗料供給機構に設けられているオリフィスの構成例を示す図である。
【
図9】
図8に示すオリフィスとは別の構成のオリフィスを示す図である。
【
図10】
図8および
図9に示すオリフィスとは別の構成のオリフィスを示す図である。
【
図11】
図1に示す塗装ロボットにおいて、制御的な構成の概略を示す図である。
【
図12】
図7に示す塗料供給機構に設けられているオリフィスの内径を、0.75mm,1.0mm,1.2mmとした場合における、流量と圧力損失の関係の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施の形態に係る塗装ロボット10について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、必要に応じて、X方向はノズル形成面52(塗装ヘッド53)の長手方向とし、X1側は
図2における右側、X2側は
図2における左側とする。また、Y方向はノズル形成面52(塗装ヘッド53)の短手方向(幅方向)とし、Y1側は
図2における紙面上側、Y2側は
図2における紙面下側とする。
【0016】
(1.インクジェット式の塗装ロボット10の概要について)
本実施の形態の塗装ロボット10は、自動車製造の工場における塗装ラインに位置する車両または車両部品(以下、車両の一部となる車両部品も車両として説明する)といった塗装対象物に対して、「塗装」を行うものであり、塗膜を塗装対象物の表面に形成して、その表面の保護や美観を与えることを目的としている。したがって、所定時間毎に、塗装ラインに沿って移動してくる車両に対し、一定の時間内に所望の塗装品質にて、塗装を行う必要がある。
【0017】
また、本実施の形態の塗装ロボット10では、上述した塗膜を形成するのみならず、各種のデザインや画像を、車両や車両部品といった塗装対象物に対して形成することが可能である。なお、塗装対象物は、車両や車両部品には限られず、自動車以外の各種部品(一例としては、飛行機や鉄道の外装部品)等、塗装を行う必要があるものであれば良い。
【0018】
(1-1.インクジェット式の塗装ロボット10の全体構成について)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る塗装ロボット10の全体構成を示す概略図である。
図1に示すように、塗装ロボット10は、ロボット本体20と、塗装ヘッドユニット50とを主要な構成要素としている。
図1に示す塗装ロボット10は、その一例として、6軸の垂直多関節ロボットを示しているが、当該塗装ロボット10は、6軸以外の垂直多関節型、水平多関節型、直交ロボット等、どのようなタイプのロボットでも良い。
【0019】
(1-2.ロボット本体について)
図1に示すように、ロボット本体20は、基台21と、第1~第6回転軸22a~22fと、脚部23と、第1回動アーム24と、第2回動アーム25と、回転アーム26と、リスト部27と、これらを駆動させるための不図示のモータと、を主要な構成要素としている。なお、脚部23からリスト部27までの部分は、ロボットアームR1に対応するが、基台21等のようなそれ以外の部分も、ロボットアームR1に対応するものとしても良い。
【0020】
これらのうち、基台21は床面等の設置部位に設置される部分であるが、この基台21が設置部位に対して走行可能であっても良い。また、脚部23は、基台21から上部に向かい立設された部分であり、図示を省略するモータ(第1モータ)の駆動によって第1回転軸22aを介して基台21に対して回転可能に設けられている。なお、脚部23は、基台21に対して回転しないように構成しても良い。
【0021】
また、脚部23の上端には、図示を省略するモータ(第2モータ)の駆動によって第2回転軸22bを介して第1回動アーム24が回動可能に設けられている。さらに、第1回動アーム24の先端側には、図示を省略するモータ(第3モータ)の駆動によって第3回転軸22cを介して第2回動アーム25が回動可能に設けられている。
【0022】
また、第2回動アーム25の先端側には、回転アーム26が第2回動アーム25の中心軸周りに回転可能に設けられている。この回転アーム26は、図示を省略するモータ(第4モータ)の駆動によって、第4回転軸22dを介して回転可能となっている。また、回転アーム26の先端側には、リスト部27が設けられている。このリスト部27は、複数(たとえば2つ)の異なる向きの軸部を中心に、回転運動を可能としている。
図1においては、その回転運動が可能な回転軸を、それぞれ第5回転軸22eおよび第6回転軸22fとしている。それにより、塗装ヘッドユニット50の向きを精度良くコントロールすることが可能となっている。なお、軸部の個数は、2つ以上であれば幾つでも良い。
【0023】
また、リスト部27には、塗装ヘッドユニット50が取り付けられているが、この塗装ヘッドユニット50は、リスト部27に対して着脱自在に設けられていても良い。
【0024】
(1-3.塗装ヘッドユニットについて)
次に、塗装ヘッドユニット50について説明する。
図2は、塗装ヘッドユニット50のうち、塗料を吐出させるノズル形成面52を正面視した状態を示す図である。
図2に示すように、塗装ヘッドユニット50は、不図示のヘッドカバーを備え、そのヘッドカバー内に、種々の構成が内蔵されている。
図2に示すように、ノズル形成面52には、ノズル54が塗装ヘッドユニット50の長手方向に対して傾斜する方向に連なるノズル列55が複数設けられている。かかるノズル列55には、本実施の形態では、主走査方向(Y方向)の一方側(Y2側)に存在する第1ノズル列55Aと、主走査方向の他方側(Y1側)に存在する第2ノズル列55Bとが設けられている。
【0025】
なお、塗料を吐出する場合、第1ノズル列55Aにおける隣り合うノズル54から吐出される液滴の間に、第2ノズル列55Bにおけるノズル54から吐出される液滴が着弾されるように、各ノズル54の駆動タイミングが制御される。それにより、塗装の際にドット密度を向上させることができる。
【0026】
ところで、
図2に示すように、ノズル形成面52には、単一の塗装ヘッド53が存在している。しかしながら、ノズル形成面52には、複数の塗装ヘッド53から構成されるヘッド群が存在するようにしても良い。この場合、一例として、
図3に示すように、複数の塗装ヘッド53を位置合わせしつつ千鳥状に配置する構成が挙げられるが、ヘッド群における塗装ヘッド53の配置は千鳥状でなくても良い。
【0027】
図4は、各ノズル54へ塗料を供給する概略的な構成について示す図である。
図5は、列方向供給流路58、ノズル加圧室59および列方向排出流路60付近の構成を示す断面図である。
図4および
図5に示すように、塗装ヘッド53は、供給側大流路57と、列方向供給流路58と、ノズル加圧室59と、列方向排出流路60と、排出側大流路61とを備えている。供給側大流路57は、後述する塗料供給機構70の塗料供給路72から塗料が供給される流路である。また、列方向供給流路58は、供給側大流路57内の塗料が、分流される流路である。
【0028】
また、ノズル加圧室59は、列方向供給流路58とノズル供給流路59aを介して接続されている。それにより、ノズル加圧室59には、列方向供給流路58から塗料が供給される。このノズル加圧室59は、ノズル54の個数に対応して設けられていて、内部の塗料を後述する圧電基板62を用いてノズル54から吐出させることができる。
【0029】
また、ノズル加圧室59は、ノズル排出流路59bを介して列方向排出流路60と接続されている。したがって、ノズル54から吐出されなかった塗料は、ノズル加圧室59内からノズル排出流路59bを介して、列方向排出流路60へと排出される。また、列方向排出流路60は、排出側大流路61と接続されている。排出側大流路61は、それぞれの列方向排出流路60から、排出された塗料が合流する流路である。この排出側大流路61は、後述する塗料供給機構70の戻り流路73と接続されている。
【0030】
このような構成により、後述する塗料供給機構70の塗料供給路72から供給された塗料は、供給側大流路57、列方向供給流路58、ノズル供給流路59aおよびノズル加圧室59を経て、ノズル54から吐出される。また、ノズル54から吐出されなかった塗料は、ノズル加圧室59からノズル排出流路59b、列方向排出流路60および排出側大流路61を経て、後述する塗料供給機構70の戻り流路73へと戻される。
【0031】
なお、
図4に示す構成では、1本の列方向供給流路58には、1本の列方向排出流路60が対応するように配置されている。しかしながら、1本の列方向供給流路58に、複数本(たとえば2本)の列方向排出流路60が対応するように配置されていても良い。また、複数本の列方向供給流路58に、1本の列方向排出流路60が対応するように配置されていても良い。
【0032】
また、
図5に示すように、ノズル加圧室59の天面(ノズル54とは反対側の面)には、圧電基板62が配置されている。この圧電基板62は、圧電体である2枚の圧電セラミック層63a,63bを備え、さらに共通電極64と、個別電極65とを備えている。圧電セラミック層63a,63bは、外部から電圧を印加することで、伸縮可能な部材である。このような圧電セラミック層63a,63bとしては、強誘電性を有する、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO3系、BaTiO3系、(BiNa)NbO3系、BiNaNb5O15系等のセラミックス材料を用いることができる。
【0033】
また、
図5に示すように、共通電極64は、圧電セラミック層63aと圧電セラミック層63bの間に配置されている。また、圧電基板62の上面には、共通電極用の表面電極(不図示)が形成されている。これら共通電極64と共通電極用の表面電極とは、圧電セラミック層63aに存在する不図示の貫通導体を通じて、電気的に接続されている。また、個別電極65は、上記のノズル加圧室59と対向する部位にそれぞれ配置されている。さらに、圧電セラミック層63aのうち、共通電極64と個別電極65とに挟まれた部分は、厚さ方向に分極している。したがって、個別電極65に電圧を印加すると、圧電効果によって圧電セラミック層63aが歪む。このため、所定の駆動信号を個別電極65に印加すると、ノズル加圧室59の体積を減少させるように圧電セラミック層63bが相対的に変動し、それによって塗料が吐出される。
【0034】
なお、
図5において、共通電極64がノズル加圧室59の天面に配置されているが、共通電極64は、
図5に示すような、ノズル加圧室59の天面に配置されている構成には限られない。たとえば、共通電極64は、ノズル加圧室59の側面(上記の天面と直交または概ね直交する面)に配置される構成を採用しても良く、その他、塗料をノズル54から良好に吐出可能であれば、どのような構成を採用しても良い。
【0035】
(1-4.塗装ヘッドユニットの他の構成について)
次に、塗装ヘッドユニット50の他の構成について説明する。
図6は、他の塗装ヘッドユニット50のノズル形成面52の構成を示す平面図である。
図6に示すように、複数のノズル54が塗装ヘッド53の短手方向(幅方向;Y方向)に沿って並ぶことでノズル列55を構成するようにしても良い。なお、
図6に示す構成では、複数のノズル54が塗装ヘッド53の短手方向(幅方向;主走査方向)に並んでノズル列55を構成しているが、1つの(単一の)ノズル54のみが塗装ヘッド53の短手方向(幅方向;主走査方向)に配置される構成としても良い。すなわち、ノズル列55が1つのノズル54から構成されていても良い。
【0036】
また、
図6に示すような塗装ヘッド53を用いて車両に塗装を行う場合、塗装ヘッド53の長手方向が、塗装ヘッド53の主走査方向に対して若干傾斜させた状態で塗装を実行するようにしても良い。たとえば、
図2に示す塗装ヘッド53の構成では、ノズル列55は主走査方向に対して角度αだけ傾斜しているとすると、塗装ヘッド53の長手方向を、塗装ヘッド53の主走査方向に対して角度αだけ傾斜させるようにすればよい。このように傾斜させる場合には、各ノズル54からの塗料の吐出タイミングを調整するだけで、
図2に示す塗装ヘッド53と同等の塗装を実現することができる。
【0037】
(1-5.塗料供給機構について)
次に、塗料供給機構70およびその塗料供給機構70が備える気泡除去部材および流量計について説明する。
【0038】
図7は、塗料供給機構70等の概略的な構成を示す図である。この塗料供給機構70は、塗料循環経路71と、外部供給路75と、気泡除去部材76と、供給ポンプ90と、吸引ポンプ91と、エアオペレートペイントレギュレータ(AOPR; Air Operate Paint Regulator)92と、二次側比例制御弁93と、脱気モジュール94と、除去フィルタ95と、オリフィス96と、圧力センサS1~S8と、第1流量計FM1と、第2流量計FM2とを主要な構成要素としている。
【0039】
塗料循環経路71は、塗料を循環させるための流路であり、塗料供給路72と、戻り流路73と、バイパス流路74とを有している。塗料供給路72は、外部供給路75から供給された、または戻り流路73から戻ってきた塗料を、塗装ヘッド53に向けて供給するための流路であり、上述した供給側大流路57と接続されている。
【0040】
戻り流路73は、塗装ヘッド53の排出側大流路61と接続されていて、塗装ヘッド53で吐出されなかった塗料を、気泡除去部材76へと戻すための流路である。
【0041】
バイパス流路74は、塗料供給路72と戻り流路73とを接続する流路である。すなわち、バイパス流路74は、塗装ヘッド53と並列状態で設けられていて、塗装ヘッド53から塗料が不吐出となる場合には、後述する三方弁77の作動を切り替えることで、このバイパス流路74に塗料が流される。
【0042】
外部供給路75は、サーキュレーションタンクのような塗料の貯留部位側から供給される塗料を、気泡除去部材76のタンク本体の内部に供給するための管路である。
【0043】
気泡除去部材76は、塗料に含まれる気泡を除去するための部材である。この気泡除去部材76は、ロボットアームR1外の姿勢が変化しない安定部位に設けられている。また、気泡除去部材76は、塗料供給路72に対して塗料を供給可能に接続されていると共に、戻り流路73から塗料を供給されるように当該戻り流路73に接続されている。この気泡除去部材76は、外部から密閉可能なタンク本体を備えていて、そのタンク本体には、内部に溜まった気泡による気体を排出する排出口が設けられている。
【0044】
また、塗料供給路72は、後述するAOPR92よりも下流側で三方弁77に接続されている。この三方弁77は、塗料供給路72の中途部に接続されると共に、バイパス流路74にも接続されている。したがって、塗装時には塗料供給路72の三方弁77よりも上流側と下流側とが開状態となって、塗装ヘッド53へ塗料が供給される。一方、塗装を行わない場合には、塗料供給路72からバイパス流路74へと塗料が流れるが、塗料供給路72の下流側(塗装ヘッド53側)には塗料が供給されないように切り替えられる。
【0045】
また、上述したバイパス流路74の中途部分には、開閉弁78が設けられている。この開閉弁78を開くように作動させることで、塗料はバイパス流路74を流れることが可能となっている。
【0046】
さらに、開閉弁78よりもバイパス流路74の下流側には、三方弁79が接続されていて、さらにこの三方弁79には戻り流路73の上流側(すなわち戻り流路73の塗装ヘッド53側)と下流側(すなわち戻り流路73の後述する吸引ポンプ91側)とが接続されている。このため、塗装を行う場合には、戻り流路73の三方弁79よりも上流側と下流側とが開状態となり、塗装ヘッド53から吐出されなかった塗料が戻り流路73の下流側へと流れる。一方、塗装を行わない場合には、三方弁79は、バイパス流路74を流れる塗料が、戻り流路73の下流側(吸引ポンプ91側)に塗料が流れるように切り替えられる。
【0047】
また、戻り流路73のうち、後述する吸引ポンプ91よりも下流側には、切替弁80が配置されている。この切替弁80も三方弁であり、戻り流路73の上流側および下流側以外に、排出路81にも接続されている。この切替弁80は、通常の状態では、戻り流路73の上流側と下流側とで、塗料が流れる状態となっている。しかしながら、たとえば洗浄用の液体が塗料供給路72から塗装ヘッド53またはバイパス流路74を介して戻り流路73まで流れた場合に、切替弁80の作動が切り替えられて、上記の洗浄用の液体(廃液)が排出路81を介して排出される。
【0048】
なお、戻り流路73は、切替弁80よりも下流側で、上述した気泡除去部材76に接続されている。
【0049】
また、塗料供給路72の中途部には、供給ポンプ90が接続されている。なお、供給ポンプ90は、塗料移送手段および塗料供給手段に対応する。供給ポンプ90は、塗料供給路72を流れる塗料に対し、当該供給ポンプ90よりも下流側に向かって正圧を加えるための手段である。なお、供給ポンプ90としては、回転数を制御することで、塗料の供給量を制御することが可能なギヤポンプを用いることが好ましい。しかしながら、供給ポンプ90は、ギヤポンプ以外のポンプを用いるようにしても良い。この供給ポンプ90は、後述する制御部100で作動が制御させられる。それによって、供給ポンプ90の作動は、所定の圧力設定値となるように制御可能となっている。
【0050】
また、戻り流路73の中途部には、吸引ポンプ91が接続されている。なお、吸引ポンプ91は、塗料移送手段および塗料回収手段に対応する。吸引ポンプ91は、戻り流路73を流れる塗料に対し、当該吸引ポンプ91よりも上流側に負圧を加える手段である。なお、吸引ポンプ91としては、上記の供給ポンプ90と同様に、回転数を制御することで、塗料の供給量を制御することが可能なギヤポンプを用いることが好ましい。しかしながら、吸引ポンプ91は、ギヤポンプ以外のポンプを用いるようにしても良い。この吸引ポンプ91も、後述する制御部100で作動が制御させられる。それによって、吸引ポンプ91の作動は、その下流側が所定の圧力設定値となるように制御可能となっている。
【0051】
また、塗料供給路72において、供給ポンプ90よりも下流側には、AOPR92が配置されている。AOPR92は、入力される空気圧に応じて、当該AOPR92から供給される塗料の圧力を制御する(一定に保つ)ための、塗料用のレギュレータである。すなわち、AOPR92は、入力される空気圧に対し、例えば1/20倍~2倍等のような、所定の比率にて、当該AOPR92から供給される塗料の圧力を制御する(その圧力を維持する)ように設けられている。このように、AOPR92は、電気的には制御されずに空気圧で制御されるため、電気機器を用いることが困難な防爆環境下においても、使用することが可能となっている。
【0052】
上記のAOPR92は、後述する制御部100での制御により、制御エア圧に応じて開度を調整可能となっている。それにより、AOPR92の上流側の圧力に対応して、AOPR92の下流側の圧力を、所定の圧力設定値となるように制御可能となっている。
【0053】
また、戻り流路73において、吸引ポンプ91よりも上流側には、二次側比例制御弁93が配置されている。二次側比例制御弁93は、吸引ポンプ91での脈動を緩和して、一定の圧力(負圧)で塗料を吸引するものである。この二次側比例制御弁93も、後述する制御部100での制御により、制御エア圧や電気信号に応じて開度を調整可能となっている。それにより、当該二次側比例制御弁93の下流側の圧力に対応して、二次側比例制御弁93の上流側の圧力を、所定の圧力設定値となるように制御可能となっている。
【0054】
なお、本実施の形態では、塗装ヘッド53よりも上流側に、AOPR92が配置されていて、このAOPR92にて、塗料の供給圧力が制御されている。このため、AOPR92ではなく電気制御式の比例制御弁を用いる場合と比較すると、二次側比例制御弁93においては、供給される塗料の圧力変動を低く抑えることができる。そのため、制御部100に基づく、二次側比例制御弁93の圧力制御が容易となっている。
【0055】
また、塗料供給路72において、供給ポンプ90よりも下流側かつAOPR92よりも上流側には、脱気モジュール94が配置されている。脱気モジュール94は、後述する除去フィルタ95よりも塗料供給路72の下流側に配置されていて、塗料に溶存している溶存気体を除去(脱気)するための部材である。
【0056】
また、塗料供給路72において、脱気モジュール94よりも上流側であって供給ポンプ90よりも下流側には、除去フィルタ95が配置されている。除去フィルタ95は、塗料供給路72を流れる塗料に含まれている異物を除去するものである。除去フィルタ95は、たとえば顔料が含まれる塗料中から、粗大異物や顔料凝集物を確実に除去することで、塗装ヘッド53が正常に作動し続けるのを保つものである。
【0057】
なお、上記の除去フィルタ95と同様の除去フィルタを、脱気モジュール94とAOPR92の間に追加的に設けるようにしても良い。この場合には、追加的な除去フィルタは、圧力昇圧機構に対応するが、その追加的な除去フィルタとは異なる除去フィルタ95が圧力昇圧機構に対応するものとしても良く、追加的な除去フィルタと除去フィルタ95の双方が圧力昇圧機構に対応するものとしても良い。また、脱気モジュール94よりも上流側に除去フィルタ95を設けずに、脱気モジュール94とAOPR92の間に、除去フィルタを設けるようにしても良い。
【0058】
また、塗料供給路72において、AOPR92よりも下流側には、圧力昇圧機構に対応するオリフィス96が設けられている。このオリフィス96は、塗料供給路72の内径を、塗料供給路72の他の部位よりも狭めている(小径としている)部位であり、所定の長さを有している。しかしながら、オリフィス96は、例えばオリフィス板を設ける等により、さほどの長さを有しない構成としても良い。
【0059】
また、オリフィス96としては、種々のタイプのものを用いることが可能である。例えば、オリフィス96は、
図8に示すように、塗料供給路72の中央部分の内径が所定長さだけ絞られているタイプであっても良い。この場合において、オリフィス96は、
図9に示すように、塗料供給路72の中央部分の内径が、
図8に示す構成よりも十分長い、所定長さLだけ絞られているタイプであっても良い。また、オリフィス96は、
図10に示すように、複数の小径の孔から構成されるタイプであっても良い。また、オリフィス96は、エア圧による制御または電気的な制御によって、開口面積が変動する、可変オリフィスであっても良い。
【0060】
なお、塗料供給路72およびオリフィス96の寸法の一例としては、オリフィス96以外の塗料供給路72の内径を2.5~8mmとした場合において、オリフィス96の内径を0.1~5mmとし、さらにオリフィス96の長さを0.1~5mmとするものが挙げられるが、かかる寸法以外に、適宜の寸法を採用することが可能である。
【0061】
上記のオリフィス96の存在により、塗料供給路72におけるオリフィス96よりも上流側においては、塗料の粘性による圧力損失が生じる。それにより、AOPR92においては、圧力の上昇が生じる。ここで、AOPR92は、操作可能な圧力レンジの最低圧力値が、電気制御式の比例制御弁よりも高い状態となっている。また、AOPR92は、入力されるエア圧が高い側では、エア圧が低い側と比較して、誤差が小さな状態で圧力の調整(圧力制御)が可能である、という特徴がある。
【0062】
上記のAOPR92の制御の一例としては、実験等で確認されたものとしては、塗料を所定の流量とする場合において、塗料供給路72にオリフィス96が存在しない場合、AOPR92に対し入力が必要なエア圧は、5KPaである。この場合、入力が必要なエア圧が5KPaから±1KPa変動すると、約20%程度、圧力が変動してしまう状態となる。一方、所定のオリフィス96を塗料供給路72に設けた場合、AOPR92に対し入力が必要なエア圧は、17KPaである。この場合、入力が必要なエア圧が17KPaから±1KPa変動したとしても、圧力の変動は、約5.9%程度となり、圧力変動の影響を小さくすることが可能となる。
【0063】
また、AOPR92の制御の別の例としては、実験等で確認されたものとしては、塗料を所定の流量とする場合において、塗料供給路72にオリフィス96が存在しない場合、AOPR92に対し入力が必要なエア圧は、15KPaである。この場合、入力が必要なエア圧が15KPaから±1KPa変動すると、約6.7%程度、圧力が変動してしまう状態となる。一方、所定のオリフィス96を塗料供給路72に設けた場合、AOPR92に対し入力が必要なエア圧は、39KPaである。この場合、入力が必要なエア圧が39KPaから±1KPa変動したとしても、圧力の変動は、約2.6%程度となり、圧力変動の影響を小さくすることが可能となる。
【0064】
次に、圧力センサS1~S8および流量計FM1,FM2について説明する。塗料供給路72において、供給ポンプ90の上流側には圧力センサS1が配置されている。加えて、塗料供給路72において、供給ポンプ90よりも下流側であって除去フィルタ95よりも上流側には圧力センサS2が配置されている。圧力センサS1は供給ポンプ90への塗料の供給圧力を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。また、圧力センサS2は供給ポンプ90から吐出される塗料の圧力を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。
【0065】
このように、圧力センサS1,S2によって、供給ポンプ90の上流側と下流側で塗料の圧力を測定することで、供給ポンプ90の推定圧力を精度良く測定することが可能となっている。なお、供給ポンプ90の推定圧力は、圧力センサS1の圧力値と圧力センサS2の圧力値の平均値としても良く、いずれか一方の圧力値としても良い。また、上記の推定圧力は、水頭圧および水頭圧差の算出に用いられる。
【0066】
また、上述した脱気モジュール94には、吸引管路97を介して真空ポンプ98が接続されている。真空ポンプ98は、上述したように、脱気モジュール94の筐体内部(中空糸膜の内部)を減圧するための装置である。この減圧により、筐体内部に供給されている塗料に溶存している溶存気体を除去(脱気)される。
【0067】
また、圧力センサS3は、上記の真空ポンプ98と脱気モジュール94の間の吸引管路97の圧力を測定している。
【0068】
なお、塗料供給路72において、脱気モジュール94よりも下流側であって、AOPR92よりも上流側には、第1流量計FM1が配置されている。第1流量計FM1は、AOPR92へ送り込まれる塗料の流量を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。この第1流量計FM1は、たとえば超音波方式、光学式、電磁式、熱式等のような、可動部分が存在しない非接触型の流量計であるので、塗料供給路72の外部に第1流量計FM1が設置されている。なお、第1流量計FM1は、可動部分の存在する流量計を用いるようにしても良い。
【0069】
ここで、第1流量計FM1が光学式である場合には、塗料供給路72のうち少なくとも第1流量計FM1で流量を測定する部分は、透明に設けられる。しかしながら、第1流量計FM1が光学式以外の超音波方式である場合には、塗料供給路72のうち少なくとも第1流量計FM1で流量を測定する部分は、透明に設ける必要がない。
【0070】
また、塗料供給路72において、第1流量計FM1よりも下流側であってAOPR92よりも上流側には、圧力センサS4が配置されている。また、塗料供給路72において、AOPR92よりも下流側であって三方弁77およびオリフィス96よりも上流側には、圧力センサS5が配置されている。圧力センサS4はAOPR92への塗料の供給圧力を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。また、圧力センサS5はAOPR92から吐出される塗料の圧力を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。
【0071】
このように、圧力センサS4,S5によって、AOPR92の上流側と下流側で塗料の圧力を測定することで、AOPR92の推定圧力を精度良く測定することが可能となっている。なお、AOPR92の推定圧力は、圧力センサS4の圧力値と圧力センサS5の圧力値の平均値としても良く、いずれか一方の圧力値としても良い。
【0072】
なお、塗料供給機構70には、上記の圧力センサS4が設けられることが好ましいが、この圧力センサS4を省略する構成を採用しても良い。また、圧力センサS4は、塗装ヘッドユニット50側に設けても良いが、第2回動アーム25側(ロボットアームR1側)に設けても良い。また、圧力センサS4は、第1流量計FM1よりも上流側に設けるようにしても良い。
【0073】
また、戻り流路73において、三方弁79よりも下流側であって二次側比例制御弁93よりも上流側には、圧力センサS6が配置されている。また、戻り流路73において、二次側比例制御弁93よりも下流側の流量計FM2(後述)のさらに下流側には、圧力センサS7が配置されている。圧力センサS6は二次側比例制御弁93への塗料の供給圧力を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。また、圧力センサS7は二次側比例制御弁93から吐出される塗料の圧力(すなわち、吸引ポンプ91への塗料の供給圧力)を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。
【0074】
このように、圧力センサS6,S7によって、二次側比例制御弁93の上流側と下流側で塗料の圧力を測定することで、二次側比例制御弁93の推定圧力を精度良く測定することが可能となっている。なお、二次側比例制御弁93の推定圧力は、圧力センサS6の圧力値と圧力センサS7の圧力値の平均値としても良く、いずれか一方の圧力値としても良い。
【0075】
なお、戻り流路73において、二次側比例制御弁93よりも下流側であって流量計FM2の上流側に、圧力センサを配置するようにしても良い。
【0076】
また、戻り流路73において、二次側比例制御弁93よりも下流側には、第2流量計FM2が配置されている。第2流量計FM2は、吸引ポンプ91へ送り込まれる塗料の流量を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。この第2流量計FM2も、上記の第1流量計FM1と同様に、たとえば超音波方式、光学式、電磁式、熱式等のような、可動部分が存在しない非接触型の流量計であるので、その詳細についての説明は省略する。なお、第2流量計FM2も、可動部分の存在する流量計を用いるようにしても良い。
【0077】
また、戻り流路73において、吸引ポンプ91よりも下流側であって、上述した切替弁80よりも上流側には圧力センサS8が配置されている。圧力センサS8は吸引ポンプ91から吐出される塗料の圧力を測定し、その測定結果を制御部100へ送信する。
【0078】
このように、圧力センサS7,S8によって、吸引ポンプ91の上流側と下流側で塗料の圧力を測定することで、吸引ポンプ91の推定圧力を精度良く測定することが可能となっている。なお、吸引ポンプ91の推定圧力は、圧力センサS7の圧力値と圧力センサS8の圧力値の平均値としても良く、いずれか一方の圧力値としても良い。
【0079】
(1-8.制御部の概略的な構成について)
【0080】
次に、塗装ロボット10の作動を制御するための制御部100の概略的な構成について説明する。
図11は、塗装ロボット10の制御部100を中心とした制御的な概略構成を示す図である。
図11に示すように、制御部100は、主制御部110と、アーム制御部120と、ヘッド制御部130と、塗料供給制御部140と、制御用メモリ150と、位置センサ300と、傾きセンサ310とを主要な構成要素としている。また、塗装ロボット10は、画像処理装置200に接続されることで、塗装ロボットシステムを構成している。
【0081】
なお、主制御部110、アーム制御部120、ヘッド制御部130、塗料供給制御部140および後述する画像処理部210は、CPU(Central Processing Unit)、記憶部位(ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、不揮発メモリ等)等のメモリ220、その他の要素から構成されている。なお、画像処理部210は、画像処理性能に優れたCPUと共に、またはCPUに代えて、GPU(Graphics Processing Unit)を用いるようにしても良い。
【0082】
上記の制御的な構成のうち、主制御部110は、ロボットアームR1の各モータ(第1~第6モータ)、塗料供給機構70の各作動部、および圧電基板62が協働して塗装対象物に対して塗装が実行されるように、上述したアーム制御部120、ヘッド制御部130および塗料供給制御部140に所定の制御信号を送信する部分である。
【0083】
また、アーム制御部120は、上述したロボットアームR1の各モータ(第1~第6モータ)の駆動を制御する部分である。このアーム制御部120は、アーム用メモリ121を備えていて、アーム用メモリ121には、塗装ヘッド53における塗装可能な塗装幅を勘案したロボットティーチングによって作成された、塗装ヘッド53の軌跡に関するデータ(軌跡データ)、および塗装ヘッド53の傾き等の姿勢に関する姿勢データが記憶されている。
【0084】
そして、アーム制御部120では、アーム用メモリ121に記憶された軌跡データ、姿勢データおよび後述する画像処理部210での画像処理に基づいて、上述したロボットアームR1の各モータ(第1~第6モータ)の駆動を制御する。その制御により、塗装ヘッド53は、塗装を実行するための所望の位置を、所望の速度で通過したり、所定の位置で停止することができる。なお、アーム用メモリ121は、塗装ロボット10が備えていても良いが、塗装ロボット10の外部にアーム用メモリ121が存在し、そのアーム用メモリ121に対して、有線または無線の通信手段を介して、情報の送受信を可能としても良い。
【0085】
また、ヘッド制御部130は、画像処理装置200での画像処理に基づいて、塗装ヘッドユニット50内の圧電基板62の作動を制御する部分である。このヘッド制御部130は、後述する位置センサ300、傾きセンサ310等の位置を検出する手段によって軌跡データにおける所定の位置に到達したときに、その位置に対応した分割塗装データに基づいて、塗料の吐出を制御する。なお、この場合、車両の膜厚が均一となるように、圧電基板62の駆動周波数を制御してノズル54から吐出されるドット数(液滴の数)を制御したり、圧電基板62に印加する電圧を制御して、ノズル54から吐出される液滴のサイズを制御する。
【0086】
また、塗料供給制御部140は、塗装ヘッド53への塗料の供給を制御する部分であり、具体的には塗料供給機構70における、供給ポンプ90、吸引ポンプ91、AOPR92、二次側比例制御弁93、真空ポンプ98、三方弁77,79、開閉弁78、切替弁80等の各作動部位の作動を制御する。このとき、塗料供給制御部140は、塗装ヘッド53に対して一定の圧力にて塗料が供給されるように、上記のポンプや弁等の作動部位の作動を制御することが好ましい。しかしながら、塗料供給制御部140は、塗装ヘッド53に対して一定の流量にて塗料が供給されるように、上記のポンプや弁等の作動部位の作動を制御可能であっても良い。
【0087】
ここで、塗料供給制御部140は、制御用メモリ150に対してアクセス可能となっており、かかるアクセスによって、この制御用メモリ150に記憶されている適宜の圧力設定値を読み出すことが可能となっている。
【0088】
また、位置センサ300は、塗装ヘッド53の現在の位置を検出するセンサである。かかる位置センサ300としては、ロータリエンコーダ、レゾルバ、レーザセンサ、その他、種々のセンサを用いることが可能である。また、傾きセンサ310は、塗装ヘッド53の傾斜角度を検出するセンサであり、角度検出手段に対応する。かかる傾きセンサ310としては、たとえば、ジャイロセンサ、加速度センサ、傾斜センサ、その他、種々のセンサを用いることが可能である。
【0089】
(2.実験結果について)
以上のような、オリフィス96が塗料供給路72に設けられている場合における、実験結果について、
図12に基づいて説明する。
【0090】
図12は、オリフィス96の内径を、0.75mm,1.0mm,1.2mmとした場合における、流量と圧力損失の関係の実験結果を示す図である。この
図12において、例えば、塗料供給路72の流量が50cc/minの場合における圧力損失は、オリフィス96の内径を0.75mmとした場合には、1回目の実験結果が10KPaであり、2回目の実験結果が11KPaである。また、同条件下において、オリフィス96の内径を1.0mmとした場合には、1回目の実験結果が3KPaであり、2回目の実験結果が2KPaである。また、同条件下において、オリフィス96の内径を1.2mmとした場合には、1回目の実験結果が2KPaであり、2回目の実験結果が2KPaである。
【0091】
また、塗料供給路72の流量が100cc/minの場合における圧力損失は、オリフィス96の内径を0.75mmとした場合には、1回目の実験結果が27KPaであり、2回目の実験結果が27KPaである。また、同条件下において、オリフィス96の内径を1.0mmとした場合には、1回目の実験結果が10KPaであり、2回目の実験結果が9KPaである。また、同条件下において、オリフィス96の内径を1.2mmとした場合には、1回目の実験結果が5KPaであり、2回目の実験結果が6KPaである。
【0092】
また、塗料供給路72の流量が150cc/minの場合における圧力損失は、オリフィス96の内径を0.75mmとした場合には、1回目の実験結果が48KPaであり、2回目の実験結果が48KPaである。また、同条件下において、オリフィス96の内径を1.0mmとした場合には、1回目の実験結果が17KPaであり、2回目の実験結果が17KPaである。また、同条件下において、オリフィス96の内径を1.2mmとした場合には、1回目の実験結果が9KPaであり、2回目の実験結果が9KPaである。
【0093】
(3.効果について)
以上のような構成の塗装ロボット10においては、液滴を吐出する複数のノズル54と、駆動することでノズル54から液滴を押し出すための圧電基板62を備える塗装ヘッド53を備える塗装ヘッドユニット50と、塗装ヘッドユニット50を先端に装着すると共に、当該塗装ヘッドユニット50を所望の位置へ移動させるロボットアームR1と、ロボットアームR1と塗装ヘッドユニット50の間に亘って設けられている塗料供給機構70と、を備える。そして、塗料供給機構70は、塗装ヘッド53に向けて塗料を供給する塗料供給路72と、塗装ヘッド53の塗料排出側に接続され、ノズル54から吐出されなかった塗料を回収する戻り流路73と、塗料供給路72に設けられ、制御された空気圧に応じて弁開度を調整可能なAOPR92(空圧制御弁)と、塗料供給路72においてAOPR92(空圧制御弁)よりも塗装ヘッド53側に向かう下流側またはAOPR92(空圧制御弁)よりも上流側に設けられ、AOPR92(空圧制御弁)に供給される塗料の圧力を上昇させるオリフィス96(圧力昇圧機構)と、を備えている。
【0094】
このような構成とすることにより、塗料供給路72を流れる塗料は、オリフィス96(圧力昇圧機構)を流れる際に、圧力損失を大きくすることができる。このため、オリフィス96(圧力昇圧機構)よりも塗料供給路72の上流側では、塗料の供給圧力を高くすることができる。それにより、オリフィス96(圧力昇圧機構)の上流側で塗料に入力される圧力値に対する圧力変動の割合を低下させることが可能となる。
【0095】
すなわち、オリフィス96(圧力昇圧機構)がない場合には、わずかな圧力の変動によって、塗料の流量が変わり、それによってノズル54から吐出される塗料の吐出量のばらつきにより、塗装品質が低下する虞がある。しかしながら、上記のように、オリフィス96(圧力昇圧機構)が存在することにより、塗料供給路72においてオリフィス96(圧力昇圧機構)よりも上流側で多少の圧力変動が生じても、塗装品質に影響を及ぼさない範囲に収束させることができ、結果的に塗装品質を向上させることができる。
【0096】
また、オリフィス96(圧力昇圧機構)よりも塗料供給路72の上流側では、塗料の供給圧力を高くすることができるので、操作可能な圧力レンジが、電気機器である比例制御弁よりも高めであるAOPR92(空気圧弁)を用いることが可能となる。そのため、電気機器である比例制御弁を用いずに済む。そのため、塗装ロボット10は、防爆環境に好適な構成とすることが可能となる。
【0097】
また、AOPR92(空気圧弁)を用いることにより、電気機器である比例制御弁を用いる場合と比較すると、ユーザが設定する圧力に対して、操作可能な圧力レンジを広げることが可能となる。
【0098】
また、本実施の形態では、戻り流路73には、電気的な操作によって弁開度を調整可能な二次側比例制御弁93(電気操作弁)が設けられている。このように構成する場合には、塗料循環経路71においては、二次側比例制御弁93(電気操作弁)の上流側に、AOPR92(空圧制御弁)が配置される状態となる。そのため、二次側比例制御弁93(電気操作弁)の入力側(上流側;一次側)の圧力を安定化させることができ、それによって、二次側比例制御弁93(電気操作弁)の出力側(下流側;二次側)の圧力コントロールが容易となる。
【0099】
また、本実施の形態では、圧力昇圧機構は、塗料供給路72の内径が狭められたオリフィス96であると共に、オリフィス96は、
図8または
図9に示すような単一の孔部から構成されても、
図10に示すような、複数の孔部から構成されても良い。このように構成する場合には、塗料がオリフィス96を通過する場合、単一の孔部または複数の孔部を通過することになる。そのため、その通過に際して、塗料にずり応力を及ぼさせることが可能となり、塗料の粘度を低下させることが可能となる。このため、オリフィス96の通過後の塗料は、良好にノズル54から吐出させることが可能となり、またノズル54から吐出されなかった塗料においては、戻り流路73を介して戻す際に、その流動性を高めることが可能となる。
【0100】
また、本実施の形態では、圧力昇圧機構は、塗料供給路72を流れる塗料に含まれている異物を除去する除去フィルタとすることができる。このように構成する場合には、塗料は、除去フィルタに存在する複数の孔部を通過することになる。そのため、その通過に際して、塗料にずり応力を及ぼさせることが可能となり、塗料の粘度を低下させることが可能となる。このため、除去フィルタの通過後の塗料は、良好にノズル54から吐出させることが可能となり、またノズル54から吐出されなかった塗料においては、戻り流路73を介して戻す際に、その流動性を高めることが可能となる。
【0101】
また、本実施の形態では、塗料供給機構70には、塗料供給路72と戻り流路73とを接続すると共に塗装ヘッド53と並列状態で塗料を流通させるバイパス流路74が設けられていて、オリフィス96(圧力昇圧機構)は、バイパス流路74よりも塗料供給路72の上流側に設けられている。
【0102】
このように構成する場合には、オリフィス96(圧力昇圧機構)は、バイパス流路74よりも塗料供給路72の上流側に設けられているため、塗装ヘッド53から吐出されない塗料も、オリフィス96(圧力昇圧機構)を通過する。そのため、オリフィス96(圧力昇圧機構)を通過する際に、塗料の粘度を低下させることができる。したがって、塗装ヘッド53から吐出されなかった塗料を、バイパス流路74を介して循環させてオリフィス96(圧力昇圧機構)を通過させることで、塗料の粘度を良好に低下させることが可能となる。
【0103】
また、本実施の形態では、オリフィス96は、塗料が流れる流路の開度を調整可能とする構成とすることもできる。このように構成する場合には、オリフィス96は、流路の開度を調整することができるので、塗料供給路72等を洗浄する際には、オリフィス96の開度を大きくして洗浄性を高めることが可能となる。また、オリフィス96の開度を調整することにより、AOPR92(空圧制御弁)での操作性を良好な範囲へと調整することが可能となる。
【0104】
(4.変形例について)
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態以外に、種々変形可能である。以下に、変形例について説明する。
【0105】
上述した実施の形態では、圧力センサS1~S8と、第1流量計FM1、第2流量計FM2を備える構成を採用している。しかしながら、第1流量計FM1および第2流量計FM2を備える場合には、圧力センサS1~S8のうち少なくとも1つを省略しても良く、圧力センサS1~S8を備える場合には、第1流量計FM1と第2流量計FM2のうち少なくとも1つを省略しても良い。
【0106】
また、上述の実施の形態では、オリフィス96は、塗料供給路72において、三方弁77よりも上流側に設けられている。しかしながら、オリフィス96は、塗料供給路72において、三方弁77よりも下流側かつ塗装ヘッド53よりも上流側に設けるようにしても良い。
【0107】
また、上述の実施の形態では、塗料供給路72において、AOPR92の下流側に、オリフィス96を設けている。しかしながら、AOPR92の圧力レンジが、二次側比例制御弁93と比較してさほど高くなかったり、オリフィス96以外に圧力損失を生じさせる部位が存在する場合には、オリフィス96を省略する構成を採用しても良い。
【符号の説明】
【0108】
10…塗装ロボット、20…ロボット本体、21…基台、22a…第1回転軸、22b…第2回転軸、22c…第3回転軸、22d…第4回転軸、22e…第5回転軸、22f…第6回転軸、24…第1回動アーム、25…第2回動アーム、26…回転アーム、27…リスト部、50…塗装ヘッドユニット、52…ノズル形成面、53…塗装ヘッド、54…ノズル、55…ノズル列、55A…第1ノズル列、55B…第2ノズル列、57…供給側大流路、58…列方向供給流路、59…ノズル加圧室、59a…ノズル供給流路、59b…ノズル排出流路、60…列方向排出流路、61…排出側大流路、62…圧電基板、63a…圧電セラミック層、63b…圧電セラミック層、64…共通電極、65…個別電極、70…塗料供給機構、71…塗料循環経路、72…塗料供給路、73…戻り流路、74…バイパス流路、75…外部供給路、76…気泡除去部材、77…三方弁、78…開閉弁、79…三方弁、80…切替弁、81…排出路、90…供給ポンプ(塗料供給手段に対応)、91…吸引ポンプ(塗料回収手段に対応)、92…AOPR(空圧制御弁に対応)、93…二次側比例制御弁(電気操作弁に対応)、94…脱気モジュール、95…除去フィルタ、96…オリフィス(圧力昇圧機構に対応)、97…吸引管路、98…真空ポンプ、100…制御部、110…主制御部、120…アーム制御部、121…アーム用メモリ、130…ヘッド制御部、140…塗料供給制御部、150…制御用メモリ、200…画像処理装置、210…画像処理部、220…メモリ、300…位置センサ、310…傾きセンサ(角度検出手段に対応)、FM1…第1流量計、FM2…第2流量計、R1…ロボットアーム、S1~S8…圧力センサ
【要約】
【課題】圧力の変動の影響を低減すると共に、空圧制御弁を操作可能な圧力レンジとすることが可能な塗装ロボットを提供することを目的とする。
【解決手段】塗装ロボット10は、液滴を吐出する複数のノズル54と、ノズル54から液滴を押し出すための圧電基板62を備える塗装ヘッド53を備える塗装ヘッドユニット50と、当該塗装ヘッドユニット50を所望の位置へ移動させるロボットアームR1と、ロボットアームR1と塗装ヘッドユニット50の間に亘って設けられる塗料供給機構70とを備える。また、塗料供給機構70は、塗装ヘッド53に向けて塗料を供給する塗料供給路72と、ノズル54から吐出されなかった塗料を回収する戻り流路73と、塗料供給路72に設けられ、制御された空気圧に応じて弁開度を調整可能なAOPR92と、塗料供給路72においてAOPR92よりも塗装ヘッド53側に向かう下流側に設けられるオリフィス96とを備えている。
【選択図】
図7