(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/04 20060101AFI20240125BHJP
B22D 11/059 20060101ALI20240125BHJP
B22D 11/115 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
B22D11/04 311E
B22D11/04 311G
B22D11/059 110B
B22D11/059 110H
B22D11/115 A
(21)【出願番号】P 2020177792
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019193479
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000155470
【氏名又は名称】株式会社野村鍍金
(74)【代理人】
【識別番号】100085615
【氏名又は名称】倉田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】古米 孝平
(72)【発明者】
【氏名】小田垣 智也
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 則親
(72)【発明者】
【氏名】石田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】柳田 大樹
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126742(JP,A)
【文献】特開2019-122973(JP,A)
【文献】特開2019-130578(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/04
11/057 - 11/059
C22C 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造に用いる銅または銅合金製鋳型銅板の、少なくとも鋳造中の溶湯のメニスカス位置を含む領域の内表面に複数の凹部を形成し、その凹部に鋳型銅板とは熱伝導率の異なる金属を充填し、その充填金属が2層以上の積層からなり、各層は凹部の底部から開口部へ向かって鋳型の内表面の法線方向に積層され、
第1層がニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層であり、前記第1層のニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層にレーザーを照射してめっき層を溶融し、銅を1~20質量%含有するニッケル-銅合金あるいはコバルト-ニッケル-銅合金を形成し、第2層以降がニッケルまたはニッケル基合金粉末をレーザー照射位置に供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・凝固して形成した厚み0.2~2mmのニッケル基合金層を、厚み1~10mmに多層肉盛りした被覆層であることを特徴とする、連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項2】
第1層が厚み30~500μmのニッケルめっき層あるいはニッケル7~35質量%、残部コバルトのコバルト-ニッケル合金めっき層であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項3】
鋳型銅板から銅の拡散により銅を1~20質量%含有する第1層のニッケル-銅合金あるいはコバルト-ニッケル-銅合金を形成した後または形成すると同時に、第2層以降としてニッケルまたはニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・凝固させて形成したニッケル基合金層を多層肉盛りした被覆層を形成し、銅の含有量が1~20質量%である前記第1層から最表面層に向けて段階的に減少する傾斜組成被覆層を形成することを特徴とする請求項
1または2に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より高速での連続鋳造が可能な耐熱性に優れる低熱伝導金属充填層を有する連続鋳造用鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉や電気炉で精錬した溶鋼から、固体の鋳片へ連続的に製造する連続鋳造法においては、注入される溶鋼が水冷式の連続鋳造用鋳型によって冷却され、鋳型との接触面から溶鋼が凝固し、さらに全体が冷却され鋳片が作製される。鋳型内における冷却が不均一になると、鋳片への凝固過程における凝固層の形成が不均一となる。凝固層の収縮や変形に起因する応力が作用し、不均一度が大きい場合には、鋳片の縦割れ発生や次工程での表面割れなどの原因となる。
【0003】
凝固過程に発生する応力の不均一性を改善するために、メニスカス近傍での冷却速度を制御する方法が実用化されている。特許文献1では、溶鋼から連続鋳造用鋳型への熱流束を規則的且つ周期的に増減させることにより、発生する応力が規則的に分布し局所的に蓄積される方法が考案された。具体的には、鋳型内溶鋼のメニスカス近傍の鋳型表面に2~10mmφの穴(凹部)を、5~20mmの一定の間隔で多数形成し、その穴にニッケルなどの銅より熱伝導度が低い金属、または、セラミックスを埋め込む技術が示されている。
【0004】
一方で、鋳型表面に多数の穴を形成し、熱伝導率の低い金属などを埋め込む方法は、鋳型表面に発生する応力が分散されて、個々の低熱伝導金属充填部の歪量が小さくなり、さらに、穴(凹部)の形状を円形または擬似円形にするのは、充填金属と銅との境界面が曲面状となるので、境界面で応力が集中しにくく、鋳型銅板表面に割れが発生しにくいという利点があることも述べている。
【0005】
連続鋳造工程では、近年、鋳型内の溶鋼を攪拌する電磁攪拌装置が設置されていることが一般的である。電磁コイルから溶鋼への磁場強度の減衰を抑制するために、導電率を低減した銅合金が用いられている。この場合、導電率の低下に応じて熱伝導率も低減し、純銅(熱伝導率;約400W/mK)の1/2前後の熱伝導率の銅合金製鋳型銅板が使用されることもある。
【0006】
特許文献2では、鋳型表面に設けた穴内部に、低熱伝導材料としてニッケルまたはニッケルを含有する合金をめっきする考えを示している。具体的には、ニッケル-コバルト合金(Ni-Co合金)やニッケル-クロム合金(Ni-Cr合金)などをめっき処理する。さらに、鋳型銅合金と穴に充填するめっき金属との熱抵抗(λ)の比が0.5<λCu/λcoating<15.0であることと述べている。比(λCu/λcoating)が0.5以下の場合は、めっき層の熱抵抗が小さいために、鋳片に表面割れが生じ、好ましくない。一方、比(λCu/λcoating)が15.0以上になると、めっき層の熱抵抗が高く、連続鋳造中にめっき層の温度が高くなりすぎて、めっき層の剥離などが懸念され、好ましくないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平1-170550号公報
【文献】特開2018-192530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋳型表面に多数の穴(凹部)を形成し、熱伝導率の低い金属などを埋め込むことにより、溶鋼の凝固時に発生する熱応力を周期的及び規則的に分散し、冷却鋳片の割れを抑制するだけでなく、連続鋳造鋳型の表面損傷も抑制することができる。その抑制効果を高くするために、穴形状、個数、配置についての検討や、穴に充填する金属などの熱伝導性の検討がなされている。一方では生産性向上の目的で、連続鋳造速度を上げることや、連続鋳造鋳型の長寿命化に対する要望がある。
【0009】
連続鋳造鋳型では、鋳造時に鋳型表面の凹部と銅(鋳型)との境界面において、低熱伝導材料と銅との熱歪差により大きな応力が発生する。穴形状を円形にすることや穴寸法を小さくすることで、熱歪差による応力を抑え、低熱伝導充填金属の剥離や損傷さらには鋳型表面における割れの発生を抑制している。さらに鋳造速度を上げる場合には、溶鋼から鋳型への単位時間当たりの熱移動量が大きくなる。製品である鋳片の割れを防止するために、鋳型への熱移動が局所的により大きくなり、低熱伝導充填金属に蓄積する熱量も大きくなることから、鋳型と充填金属に一層の高強度と耐熱性が求められる。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、鋳造時に鋳型表面の凹部と銅(鋳型)との境界面に発生する大きな応力と、低熱伝導充填金属に蓄積する熱量に対しても、割れや剥離が生じにくい連続鋳造用鋳型の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、鋼の連続鋳造に用いる銅または銅合金製鋳型銅板の、少なくとも鋳造中の溶湯のメニスカス位置を含む領域の内表面に複数の凹部を形成し、その凹部に鋳型銅板とは熱伝導率の異なる金属を充填し、その充填金属が2層以上の積層からなり、各層は凹部の底部から開口部へ向かって鋳型の内表面の法線方向に積層され、第1層がニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層であり、前記第1層のニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層にレーザーを照射してめっき層を溶融し、銅を1~20質量%含有するニッケル-銅合金あるいはコバルト-ニッケル-銅合金を形成し、第2層以降がニッケルまたはニッケル基合金粉末をレーザー照射位置に供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・凝固して形成した厚み0.2~2mmのニッケル基合金層を、厚み1~10mmに多層肉盛りした被覆層であることを特徴とする、連続鋳造用鋳型の製造方法である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、前記第1層が厚み30~500μmのニッケルめっき層あるいはニッケル7~35質量%、残部コバルトのコバルト-ニッケル合金めっき層であることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法において、鋳型銅板から銅の拡散により銅を1~20質量%含有する第1層のニッケル-銅合金あるいはコバルト-ニッケル-銅合金を形成した後または形成すると同時に、第2層以降としてニッケルまたはニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・凝固させて形成したニッケル基合金層を多層肉盛りした被覆層を形成し、銅の含有量が1~20質量%である前記第1層から最表面層に向けて段階的に減少する傾斜組成被覆層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、充填金属が2層以上の積層からなり、各層は凹部の底部から開口部へ向かって鋳型の内表面の法線方向に積層され、第2層以降として、ニッケルまたはニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・凝固して形成した厚み0.2~2mmのニッケル基合金層を、厚み1~10mmに多層肉盛りしたので、層間の密着強度が高くなり、鋳造時に鋳型表面の凹部と銅鋳型との境界面に発生する大きな応力と、低熱伝導充填金属に蓄積する熱量に対しても、割れや剥離が生じにくいという利点がある。
【0016】
請求項1の発明によれば、銅または銅合金製鋳型銅板の凹部に第1層としてニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層が形成されているので、銅板と充填金属の間に良好な接着強度が得られるという利点がある。
【0017】
請求項1の発明によれば、第1層のニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層あるいはコバルト-ニッケル合金めっき層にレーザーを照射してめっき層を溶融し、鋳型銅板から銅の拡散により銅を1~20質量%含有するニッケル-銅合金あるいはコバルト-ニッケル-銅合金を形成することにより、第1層のめっき層と銅鋳型との成分拡散を生じさせ、接着強度を高めることができるという効果がある。
【0018】
請求項3の発明によれば、ニッケルまたはニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・凝固させてニッケル基合金層を多層肉盛り形成するので、レーザーエネルギーを合金粉末の溶融に効率良く使用でき、鋳型銅基体に与える熱的影響を少なくし、熱ひずみを軽減できる効果がある。また、銅の含有量が1~20質量%である第1層から最表面層に向けて段階的に減少する傾斜組成被覆層を形成したので、被熱量の多い最表面層はニッケル基耐熱合金の持つ本来の耐熱性を発揮させることができ、割れや剥離が生じにくいという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
連続鋳造用鋳型では、鋳型に溶鋼を流し込むと同時に、背面を冷却水で冷やした鋳型表面で、溶鋼を抜熱し凝固させることにより連続的に鋼を鋳込み成型していく。鋳型の上部メニスカス部付近では、溶鋼が凝固しはじめ、さらに全体が冷却され鋳片が作製される。鋳片への凝固過程における凝固層の形成が不均一になると、凝固層の収縮や変形に起因する応力が作用し、不均一度が大きい場合には、鋳片の縦割れ発生や次工程での表面割れなどの原因となる。このため、鋳片での不均一凝固が生じないように、溶鋼から連続鋳造用鋳型への熱流束を規則的且つ周期的に増減させ、発生する応力が規則的に分布し集中的に大きくならないようにした。
【0020】
具体的には、冷却効果が高い熱伝導性が優れる銅あるいは銅合金製鋳型において、その鋳型内面のメニスカス部近傍にあたる鋳型上端から約50mm~250mm、鋳型横方向には全範囲(モールド銅板の大きさは多種あり、銅板の横幅はおおむね1800~2500mm)に2~10mmφの穴(凹型)を、5~20mmの一定の間隔で多数形成し、その穴にニッケルなどの銅より熱伝導性が低い金属を埋め込む技術が実用されている。鋳型表面に熱伝導性の規則的な分布を持たせることにより、鋳片表面の冷却速度に規則的な分布が生まれ、発生する応力も規則的な分布を持ち、また、応力が大きくなり過ぎないように制御でき、割れなどが生じない連続鋳造を実現している。
【0021】
一方、鋳型表面では、穴部に埋め込んだ熱伝導性の低い金属表面に熱が蓄積しやすく、周辺の銅あるいは銅合金製鋳型表面では熱伝導性が良く放熱しやすい。鋳型表面では、穴部に埋め込んだ金属と周囲の銅鋳型表面で温度差が生じることになる。連続鋳造の生産性を高めるために、鋳片引き抜き速度を2.5m/min以上に速くすると穴部に埋め込んだ低熱伝導性金属表面の熱蓄積量が増大する。このため、鋳型表面の凹部と銅鋳型部との境界面に発生する応力も増大する。
【0022】
穴部の形状は、通常10mmφ以下の小さな円筒形状であり、境界部に発生する熱歪みによる応力割れを少なくする効果を持つ。しかし、低熱伝導性金属表面の熱蓄積量が増大することで、熱クラックの発生だけでなく、低熱伝導金属と銅鋳型部との剥離や、低熱伝導金属としてニッケルめっきを使用している場合には、充填したニッケルめっき内部でのクラック発生やその破壊などの問題が発生する。
【0023】
本発明では、低熱伝導金属の耐熱性を維持したままで、銅鋳型部との剥離性を改善するために、銅鋳型部との接着強度を高めることを目的とした。まず、穴部に第1層として厚み30~500μmのニッケルめっき層、あるいはコバルト-ニッケル合金(ニッケル;7~35質量%、残部コバルト)めっき層を被覆した。第1層のめっき層は銅鋳型と良質な接着強度を持つが、成分の相互拡散はない。本発明では、接着強度を高めるために第1層のめっき層と銅鋳型との成分拡散を生じさせた。具体的方法として、第1層のめっき層に波長900~1020nmのレーザーを照射し、めっき層を1400℃以上に加熱溶融し、めっき層に鋳型から銅を拡散させる拡散接合を実施した。拡散により生成されるニッケル-銅合金、あるいはコバルト-ニッケル-銅合金層の銅含有量は、20質量%以下とする。
【0024】
続いて、同じレーザーを使用、アルゴン雰囲気中で、ニッケル基耐熱合金粉末をレーザー照射位置に供給しながらレーザーを照射し、粉末の溶融プールを形成させ、それを凝固して肉盛り層を形成する方法により、耐熱性に優れる肉盛り層を形成する。肉盛り層の厚みは1層あたり0.2~2mmで、合計厚み1~10mmに多層肉盛り層を形成する。ニッケル基耐熱合金の融点は1400℃前後で、銅の融点より300℃程度高い。肉盛り層を溶融・凝固して作製することから、めっきと銅鋳型との合金層も含め肉盛り層間での拡散を生じさせ、層間密着強度も高い。
【0025】
レーザー照射によりめっき層に混合する銅は、その後のレーザー肉盛りによる積層により、2層目以上の表層にも拡散する。レーザー入射エネルギーと照射時間を制御することにより層間の相互拡散量を調整できるが、入射エネルギーが大きすぎると凝固した肉盛り層の結晶サイズが大きくなり、耐熱性や強度の低下につながる。また、含有銅成分が多いとニッケル基耐熱合金の耐熱性や耐蝕性を損なうことから、低熱伝導金属に含有する銅の量は、表面肉盛り層ほど少なくする方が好ましい。レーザーによる溶融・凝固条件により、上層に含有される銅含有量を下層の約1/10に低下させることも可能であり、例えば、レーザー肉盛り層を3層積層することにより、最表面層の銅含有量がほとんどない積層の作製ができる。このことにより、最表面層では、金属学的手法により開発され高温での耐蝕性や耐摩耗性に優れるハステロイやインコネルなど既知のニッケル基合金肉盛り層を得ることが可能となった。
【0026】
金属肉盛り法には、溶接棒を使う方法や合金板を溶解していく方法があるが、これらの方法は粉末を使う方法に比較し、溶接棒や未溶解合金板から熱伝導により逃げていく熱エネルギーが大きいため、熱量の制御が困難になるだけでなく、過大なエネルギーを外部より供給する必要がある。このため、鋳型銅基体にまで大きな影響を与え、同時に大きな熱ひずみが発生する要因となっている。本発明のように、レーザー照射ノズルからレーザー光と共に、使用する合金粉末を供給しながら、基体表面にノズルを走査させレーザー肉盛りする方法では、レーザーエネルギーを供給する合金粉末のみの溶融目的に使用でき最も効率的である。また、レーザーエネルギーにより形成される合金溶融プールサイズと温度を管理し、制御することで、積層形成時に、銅鋳型表面および積層界面間の密着性を適度な金属拡散により確保でき、優れた密着性、耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性を有する充填合金を持つ連続鋳造用鋳型を作製可能である。
【0027】
穴部に積層する第1層の銅含有めっき層の銅含有量は20質量%以下が良い。銅鋳型からの銅の拡散は20質量%以下で十分であり、20質量%以上含有すると波長900~1020nmのレーザーの吸収率が低下し、温度上昇が困難になり、溶融に長時間必要になる。また、第1層のめっき層の厚みは30~500μmが好ましい。30μm未満でレーザー照射により銅の拡散溶融を実施すると、銅の含有量が多くなり、レーザーエネルギーの吸収率が低下する。また、厚みが500μmより大きいと、穴部低熱伝導性金属の全厚みに対して、代表的なハステロイなどの耐熱性ニッケル基合金より耐熱性が劣るニッケル銅合金層の厚み割合が厚くなることから好ましくない。
【0028】
1層の肉盛りの厚みは0.2~2mmが好ましい。厚みを0.2mmより薄くする場合には、粉末粒度も小さくする必要があり、微粉末の使用は作業環境と収率の点から好ましくない。肉盛り層を2mmより厚くするためには、穴部における合金溶融量が大きくなり、下地層からの混合量制御がより困難になり、肉盛り層組成が本来の耐熱合金組成から大きくずれる結果となる。多層肉盛り層の合計厚みは1~10mmが好ましい。膜厚が1mm未満では、低熱伝導金属層の厚みが不足し、鋳片凝固の不均一度が大きくなり表面に亀裂を生じやすくなる。また、合計厚みが10mmよりも大きくなると、低熱伝導金属層表面の残留熱量が大きくなりすぎ、鋳型表面の熱応力が大きくなり、低熱伝導金属部分のみならず銅合金鋳型部にも損傷を生じる可能性も増大する。
【0029】
Ni基合金肉盛り層は、耐熱、耐蝕性に優れる合金組成のものを選択し、これらの合金粉末を供給しながらレーザー照射する方法で作製した。耐熱、耐蝕性に優れるNi基合金として、ハステロイC276(57Ni16Mo15Cr5Fe2.5Co4W)、インコネル600(72Ni14Cr6Fe)、NiCr(50Ni50Cr)、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、Waspaloy(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)等を選択し、いずれも市販されている合金粉末を使用した。肉盛り層が厚くなると、肉盛り層表面の粗さが悪くなる。このため、レーザー肉盛り層の形成後、その表面を研磨加工し、表面粗さをRy10μm以下に平坦化することにより、肉盛り層の異常摩耗発生を抑制することができる。ここで、表面粗さRyとはJIS B0601-1994に規定される最大高さのことである。
【0030】
連続鋳造用鋳型は、100%銅からなる純銅であってもよく、銅を90質量%以上含有し、残部として、アルミニウム、クロム、ジルコニウムなどを含有する銅合金でもよい。純銅の熱伝導率は約400W/mK、銅合金は純銅より20~30%小さく、Niは約90W/mK、ハステロイは約11W/mKである。
以下、本発明の試験結果に基づき、本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0031】
銅合金(組成:クロム0.87%、ジルコニウム0.11%残部銅)からなる試験片(サイズ:30×50×厚み30mm)に5mmφ×深さ3mmの穴(凹部)を設け、その内部にニッケルめっきを300μm施し、レーザー照射(出力:2000W)を行い、さらに、粒度(レーザー回折・散乱法によって求めた球相当径の体積基準積算分布の50%に相当する径)40~120μmのニッケル基合金粉末を、粉末供給速度3.3g/min、ノズルスキャン速度600mm/minで供給しながら、波長950~1070nmの半導体レーザーを照射し、ニッケル基合金肉盛り層0.7mmを4回繰り返し形成し、4層積層させて穴部を低熱伝導合金で充填した。ニッケル粉末には、純ニッケル、ニッケル-コバルト(Ni;17mass%、残部Co)、インコネル600、およびハステロイC276粉末を使用し、本発明試験片1~4を作製した。比較片として、穴部にニッケルめっきを5回繰り返し、同様に穴部に充填した比較片を作製した。各試験片の表面は、充填後に表面研削により表面粗さRy:6μmになるよう調整した。ここで、表面粗さRyとはJIS B0601-1994に規定される最大高さのことである。
【0032】
銅合金と充填した低熱伝導合金との密着性を評価するために熱衝撃試験を行い、その評価結果を表1に示す。熱衝撃試験は、大気中、950℃で20分間加熱し、その後水冷にて急冷却を行った。これを1サイクルとし、拡大鏡で表面にクラックが確認されるまでの試験回数で評価を行った。本発明試験片は、いずれも比較片に比べ、クラックが発生するまでの回数が多く、良好な結果を示した。また、各層の銅の拡散量を蛍光X線により調査し、結果を表1に示す。この結果から、銅の拡散が低熱伝導合金の密着性や耐熱性に有効であると判断できた。
【0033】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明による連続鋳造用鋳型は、溶鋼からの製鋼用鋳型として、優れた耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性を有し、高能率の高速連続鋳造用鋳型として優れる。また上記において説明した鋳型表面の凹部に限らず、凹部以外の銅鋳型部の表面に、本発明を適用して、銅鋳型部の表面に行なっていたニッケルめっきや、コバルトめっきに代えて、本発明のレーザーによる積層肉盛り層を形成することにより、表面が平坦で凹部の無い通常の鋳型であっても、銅鋳型の表面に発生する熱応力による割れを防止し、鋳型の寿命を延長することが可能である。