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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】圧電薄膜素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20240125BHJP
   H10N 30/079 20230101ALI20240125BHJP
   H10N 30/076 20230101ALI20240125BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20240125BHJP
   C23C 14/06 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/079
H10N30/076
H10N30/87
C23C14/06 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019196629
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072316
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】木村 純一
(72)【発明者】
【氏名】井上 ゆか梨
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-095843(JP,A)
【文献】特開2019-169612(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059051(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0099288(US,A1)
【文献】特開2013-219743(JP,A)
【文献】特開2014-121025(JP,A)
【文献】特開2019-186691(JP,A)
【文献】特開2013-173647(JP,A)
【文献】特開2006-333276(JP,A)
【文献】特開2018-195807(JP,A)
【文献】特開2019-009771(JP,A)
【文献】特開2018-014643(JP,A)
【文献】特開2015-233042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0013458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/079
H10N 30/076
H10N 30/87
C23C 14/06
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極層と、
前記第一電極層に直接重なる圧電薄膜と、
を備え、
前記第一電極層は、結晶構造を有する金属Meを含み、
前記圧電薄膜は、ウルツ鉱型構造を有する窒化アルミニウムを含み、
前記窒化アルミニウムは、2価の金属元素Md、及び4価の金属元素Mtを含み、
[Al]は、前記窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの含有量であり、
[Md]は、前記窒化アルミニウムにおける前記金属元素Mdの含有量の合計であり、
[Mt]は、前記窒化アルミニウムにおける前記金属元素Mtの含有量の合計であり、
([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])は、36原子%以上70原子%以下であり、
ALNは、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の表面に略平行な方向における、前記窒化アルミニウムの格子長であり、
METALは、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行な方向における、前記金属Meの格子長であり、
ALNは、LMETALよりも長く、
前記ウルツ鉱型構造の(001)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
前記金属Meの前記結晶構造は、体心立方格子構造であり、
前記体心立方格子構造の(110)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
は、前記ウルツ鉱型構造の前記(001)面内における元素の最小間隔であり、
は、前記体心立方格子構造の格子定数であり、
前記L ALN は、7 1/2 ×a と表され、且つ前記L METAL は、2×2 1/2 ×a と表され、
又は、前記L ALN は、3 1/2 ×a と表され、且つ前記L METAL は、2×a と表される、
圧電薄膜素子。
【請求項2】
第一電極層と、
前記第一電極層に直接重なる圧電薄膜と、
を備え、
前記第一電極層は、結晶構造を有する金属Meを含み、
前記圧電薄膜は、ウルツ鉱型構造を有する窒化アルミニウムを含み、
前記窒化アルミニウムは、2価の金属元素Md、及び4価の金属元素Mtを含み、
[Al]は、前記窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの含有量であり、
[Md]は、前記窒化アルミニウムにおける前記金属元素Mdの含有量の合計であり、
[Mt]は、前記窒化アルミニウムにおける前記金属元素Mtの含有量の合計であり、
([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])は、36原子%以上70原子%以下であり、
ALNは、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の表面に略平行な方向における、前記窒化アルミニウムの格子長であり、
METALは、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行な方向における、前記金属Meの格子長であり、
ALNは、LMETALよりも長く、
前記窒化アルミニウムは、前記金属元素Mdとして、少なくともマグネシウムを含み、
前記窒化アルミニウムは、前記金属元素Mtとして、ジルコニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む、
圧電薄膜素子。
【請求項3】
前記金属Meの前記結晶構造は、面心立方格子構造、体心立方格子構造、又は六方最密充填構造である、
請求項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項4】
前記ウルツ鉱型構造の(001)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
前記金属Meの前記結晶構造は、面心立方格子構造であり、
前記面心立方格子構造の(111)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
は、前記ウルツ鉱型構造の前記(001)面内における元素の最小間隔であり、
は、前記面心立方格子構造の格子定数であり、
前記LALNは、31/2×aと表され、
前記LMETALは、21/2×aと表される、
請求項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項5】
前記ウルツ鉱型構造の(001)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
前記金属Meの前記結晶構造は、体心立方格子構造であり、
前記体心立方格子構造の(110)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
は、前記ウルツ鉱型構造の前記(001)面内における元素の最小間隔であり、
は、前記体心立方格子構造の格子定数であり、
前記LALNは、71/2×aと表され、且つ前記LMETALは、2×21/2×aと表され、
又は、前記LALNは、31/2×aと表され、且つ前記LMETALは、2×aと表される、
請求項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項6】
前記ウルツ鉱型構造の(001)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
前記金属Meの前記結晶構造は、六方最密充填構造であり、
前記六方最密充填構造の(001)面は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
は、前記ウルツ鉱型構造の前記(001)面内における元素の最小間隔であり、
は、前記六方最密充填構造の前記(001)面内における前記金属Meの最小間隔であり、
前記LALNは、aに等しく、且つ前記LMETALは、aに等しく、
又は、前記LALNは、31/2×aと表され、且つ前記LMETALは、2×aと表される、
請求項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項7】
前記窒化アルミニウムは、前記金属元素Mdとして、少なくともマグネシウムを含み、
前記窒化アルミニウムは、前記金属元素Mtとして、ジルコニウム、ハフニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む、
請求項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項8】
格子不整合度ΔLは、(LALN-LMETAL)/LMETALと定義され、
前記格子不整合度ΔLは、0.1%以上6.3%以下である、
請求項1~のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項9】
前記圧電薄膜において圧縮応力が生じており、
前記圧縮応力は、前記圧電薄膜が接する前記第一電極層の前記表面に略平行であり、
前記圧縮応力は、182MPa以上822MPa以下である、
請求項1~のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項10】
前記圧電薄膜に重なる第二電極層を更に備え、
前記圧電薄膜は、前記第一電極層及び前記第二電極層の間に位置する、
請求項1~のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜素子(piezoelectric thin film device)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が注目されている。MEMS(微小電気機械システム)とは、微細加工技術によって、機械要素部品及び電子回路等が一つの基板上に集積化されたデバイスである。センサ、フィルタ、ハーベスタ、又はアクチュエータ等の機能を有するMEMSでは、圧電薄膜が利用される。圧電薄膜を用いたMEMSの製造では、シリコン又はサファイア等の基板上に下部電極層、圧電薄膜、及び上部電極層が積層される。続く微細加工、パターンニング、又はエッチング等の後工程を経ることで、任意の特性を有するMEMSが得られる。圧電性に優れた圧電薄膜を選択することで、MEMS等の圧電薄膜素子の特性が向上し、圧電薄膜素子の小型化が可能になる。圧電薄膜の圧電性は、例えば、正圧電定数(圧電歪定数)d、及び圧電出力係数gに基づいて評価される。gはd/εεに等しい。εは真空の誘電率であり、εは圧電薄膜の比誘電率である。d及びgの増加によって、圧電薄膜素子の特性が向上する。
【0003】
圧電薄膜を構成する圧電組成物としては、例えば、Pb(Zr,Ti)O(チタン酸ジルコン酸鉛,略称;PZT)、LiNbO(ニオブ酸リチウム)、AlN(窒化アルミニウム)、ZnO(酸化亜鉛)及びCdS(硫化カドミウム)等が知られている。
【0004】
PZT及びLiNbOは、ペロブスカイト型構造を有する。ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のdは比較的大きい。しかし、圧電薄膜がペロブスカイト型構造を有する場合、圧電薄膜の厚みの減少に伴って、dが減少し易い。したがって、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜は、微細加工に不向きである。またペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のεは比較的大きいため、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のgは比較的小さい傾向がある。
【0005】
一方、AlN、ZnO及びCdSは、ウルツ鉱型構造を有する。ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜のdは、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のdに比べて小さい。しかし、ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜のεは比較的小さいため、ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜は、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜に比べて大きいgを有することが可能である。したがって、大きいgが求められる圧電薄膜素子にとって、ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物は有望な材料である。(下記特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/111280号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AlNを含む圧電薄膜が、金属からなる電極層の表面に形成される場合、電極層の表面に略平行な引張応力(tensile stress)が圧電薄膜内に生じ易い。引張応力に因り、圧電薄膜の自発的な破壊が起き易い。例えば、引張応力に因り、電極層の表面に略垂直な方向に沿って、クラック(crack)が圧電薄膜に形成され易い。また引張応力に因り、圧電薄膜が電極層から剥離し易い。このような圧電薄膜の破壊によって、圧電薄膜の圧電性及び絶縁性が劣化し、圧電薄膜素子の歩留まり率(yield rate)が低下してしまう。
【0008】
本発明の目的は、圧電薄膜の破壊を抑制する圧電薄膜素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、第一電極層と、第一電極層に直接重なる圧電薄膜と、を備え、第一電極層は、結晶構造を有する金属Meを含み、圧電薄膜は、ウルツ鉱型構造(wurtzite structure)を有する窒化アルミニウムを含み、窒化アルミニウムは、2価の(divalent)金属元素Md、及び4価の(tetravalent)金属元素Mtを含み、[Al]は、窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの含有量であり、[Md]は、窒化アルミニウムにおける金属元素Mdの含有量の合計であり、[Mt]は、窒化アルミニウムにおける金属元素Mtの含有量の合計であり、([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])は、36原子%以上70原子%以下であり、LALNは、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行な方向における、窒化アルミニウムの格子長であり、LMETALは、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行な方向における、金属Meの格子長であり、LALNは、LMETALよりも長い。
【0010】
金属Meの結晶構造は、面心立方格子構造(face‐centered cubic structure; fcc)、体心立方格子構造(bоdy‐centered cubic structure; bcc)、又は六方最密充填構造(hexagonal close‐packed structure; hcp)であってよい。
【0011】
ウルツ鉱型構造の(001)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行であってよく、金属Meの結晶構造は、面心立方格子構造であってよく、面心立方格子構造の(111)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行であってよく、aは、ウルツ鉱型構造の(001)面内における元素の最小間隔であり、aは、面心立方格子構造の格子定数であり、LALNは、31/2×aと表されてよく、LMETALは、21/2×aと表されてよい。
【0012】
ウルツ鉱型構造の(001)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行であってよく、金属Meの結晶構造は、体心立方格子構造であってよく、体心立方格子構造の(110)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行であってよく、aは、ウルツ鉱型構造の(001)面内における元素の最小間隔であり、aは、体心立方格子構造の格子定数であり、LALNは、71/2×aと表されてよく、且つLMETALは、2×21/2×aと表されてよい。又は、LALNは、31/2×aと表されてよく、且つLMETALは、2×aと表されてよい。
【0013】
ウルツ鉱型構造の(001)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行であってよく、金属Meの結晶構造は、六方最密充填構造であってよく、六方最密充填構造の(001)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行であってよく、aは、ウルツ鉱型構造の(001)面内における元素の最小間隔であり、aは、六方最密充填構造の(001)面内における金属Meの最小間隔であり、LALNは、aに等しくてよく、且つLMETALは、aに等しくてよい。又は、LALNは、31/2×aと表されてよく、且つLMETALは、2×aと表されてよい。
【0014】
窒化アルミニウムは、金属元素Mdとして、少なくともマグネシウムを含んでよく、窒化アルミニウムは、金属元素Mtとして、ジルコニウム、ハフニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。
【0015】
格子不整合度ΔLは、(LALN-LMETAL)/LMETALと定義されてよく、格子不整合度ΔLは、0%より大きく8%以下であってよい。
【0016】
圧電薄膜において圧縮応力(compressive stress)が生じていてよく、圧縮応力は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に略平行であってよく、圧縮応力は、0MPaより大きく1500MPa以下であってよい。
【0017】
圧電薄膜素子は、圧電薄膜に重なる第二電極層を更に備えてよく、圧電薄膜は、第一電極層及び第二電極層の間に位置してよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧電薄膜の破壊を抑制する圧電薄膜素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る圧電薄膜素子の模式的な斜視図である。
図2図2は、ウルツ型構造(窒化アルミニウム)の単位胞の斜視図である。
図3図3は、図2中のウルツ型構造の基本ベクトルを示す。
図4図4は、面心立方格子構造(金属Me)の単位胞の斜視図である。
図5図5中の(a)は、図2及び図3中のウルツ鉱型構造の(001)面及び格子長LALNを示し、図5中の(b)は、図4中の面心立方格子構造の(111)面及び格子長LMETALを示す。
図6図6は、体心立方格子構造(金属Me)の単位胞の斜視図である。
図7図7中の(a)は、図2及び図3中のウルツ鉱型構造の(001)面及び格子長LALNを示し、図7中の(b)は、図6中の体心立方格子構造の(110)面及び格子長LMETALを示す。
図8図8は、六方最密充填構造(金属Me)の単位胞の斜視図である。
図9図9中の(a)は、図2及び図3中のウルツ鉱型構造の(001)面及び格子長LALNを示し、図9中の(b)は、図8中の六方最密充填構造の(001)面及び格子長LMETALを示す。
図10図10中の(a)は、圧電薄膜において引張応力が生じている圧電薄膜素子の模式的な断面であり、この断面は第一電極層の表面に略垂直であり、図10中の(b)は、圧電薄膜において圧縮応力が生じている圧電薄膜素子の模式的な断面であり、この断面は第一電極層の表面に略垂直である。
図11図11は、本発明の他の実施形態に係る圧電薄膜素子の模式的な断面であり、この断面は第一電翼層の表面に略垂直である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。本発明は下記実施形態に何ら限定されない。各図において、同一又は同等の構成要素には同一の符号が付される。各図に示されるX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。
【0021】
図1中の(a)に示されるように、本実施形態に係る圧電薄膜素子10は、第一電極層4と、第一電極層4の表面4sに直接重なる圧電薄膜2と、を備える。圧電薄膜2の表面2sは、圧電薄膜2が接する第一電極層4の表面4sと略平行であってよい。換言すれば、圧電薄膜2の表面2sの法線方向dは、第一電極層4の表面4sの法線方向Dと略平行であってよい。法線方向Dは、第一電極層4の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。法線方向dは、圧電薄膜2の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。圧電薄膜2は、第一電極層4の表面4sの一部又は全体を覆っていてよい。圧電薄膜素子10は、圧電薄膜2に重なる第二電極層を更に備えてよく、圧電薄膜2は、第一電極層4及び第二電極層の間に位置してよい。例えば図11に示されるように、圧電薄膜素子10aは、基板1と、基板1に直接重なる密着層8と、密着層8の直接重なる第一電極層4と、第一電極層4に直接重なる圧電薄膜2と、圧電薄膜2に直接重なる第二電極層12と、を備えてよい。第一電極層4は、下部電極層と言い換えられてよい。第二電極層12は、上部電極層と言い換えられてよい。圧電薄膜素子10aは、第二電極層12を備えなくてもよい。例えば、第二電極層を備えない圧電薄膜素子が、製品として、電子機器の製造業者に供給された後、電子機器の製造過程において、第二電極層が圧電薄膜素子に付加されてよい。
【0022】
圧電薄膜2は、窒化アルミニウム(AlN)を含む。AlNは、六方晶系のウルツ鉱型構造を有している。図2及び図3は、ウルツ鉱型構造の単位胞(unit cell)ucwを示す。単位胞ucwは、正六角柱である。図3中のa、b及びc其々は、ウルツ鉱型構造の基本ベクトルである。図3中では、a、b及びcを示すために、窒素(N)が省略されている。aが指す結晶方位は[100]である。bが指す結晶方位は[010]である。cが指す結晶方位は[001]である。a及びbは、同一の結晶面に属する。a及びbがなす角は、120°である。cは、a及びb其々に対して垂直である。図3中のaは、ウルツ鉱型構造の(001)面内における元素の最小間隔である。aは、ウルツ鉱型構造の(001)面内に位置するアルミニウム(Al)の最小間隔と言い換えられてよい。aは、ウルツ鉱型構造の基本ベクトルaの長さと言い換えられてよい。aは、ウルツ鉱型構造のa軸方向の格子定数と言い換えられてよい。aは、例えば、0.311nm以上0.392nm以下であってよい。ウルツ構造の基本ベクトルcの長さは、cと表されてよい。cは、ウルツ鉱型構造のc軸方向の格子定数と言い換えられてよい。cは、ウルツ鉱型構造の(001)面の間隔と言い換えられてよい。cは、例えば、0.498nm以上0.549nm以下であってよい。c/aは、例えば、1.40以上1.60以下であってよい。ウルツ鉱型構造の単位胞ucwにおける任意の位置又は方向は、下記数式wで定義されるベクトルw(xyz)で表されてよい。例えば、w(xyz)は、ウルツ鉱型構造を構成する元素の位置を示してよい。
w(xyz)=xa+yb+zc (数式w)
数式w中のx、y及びz其々は、任意の実数である。数式w中のa、b及びc其々は、上述された基本ベクトルである。
【0023】
窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面は、圧電薄膜2が接する第一電極層4の表面4sに略平行であってよい。換言すれば、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面は、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向していてよい。ウルツ鉱型構造の(001)面は、単位胞ucwにおける正六角形状の結晶面に相当する。圧電薄膜2が、複数のAlNの結晶粒(crystalline grain)を含む場合、一部又は全部の結晶粒の(001)面が、第一電極層4の表面4sに略平行であってよい。換言すれば、一部又は全部の結晶粒の(001)面が、第一電極層4の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。AlNの結晶粒は、例えば、第一電極層4の表面4sの法線方向Dに延びる柱状結晶であってよい。
【0024】
窒化アルミニウムの圧電性が発現する結晶方位は、ウルツ鉱型構造の[001]である。したがって、ウルツ鉱型構造の(001)面が、第一電極層4の表面4sに略平行であることにより、圧電薄膜2は優れた圧電性を有することができる。同様の理由から、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面が、圧電薄膜2の表面2sに略平行であってよい。換言すれば、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面が、圧電薄膜2の表面2sの法線方向dにおいて配向していてよい。
【0025】
AlNは、2価の金属元素Md、及び4価の金属元素Mtを含む。換言すれば、ウルツ鉱型構造の単位胞ucw中の一部のAlが、Md又はMtで置換されている。圧電薄膜2は、Md及びMtを含むAlNのみからなっていてよい。つまり圧電薄膜2は、Al、N、Md、及びMtのみからなっていてよい。
【0026】
Md及びMtをAlNへドープ(dope)することにより、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造が歪んだり、ウルツ鉱型構造中の原子間の化学結合の強度が変化したりする。これらの理由により、圧電薄膜2の圧電性が向上し易い。またMd及びMtをAlNへドープすることにより、単位胞ucwの体積が増加し、窒化アルミニウムの格子長LALNが増加する。LALNの詳細は後述される。
【0027】
第一電極層4は、結晶構造を有する金属Meを含む。第一電極層4は、金属Meのみからなっていてよい。金属Meは、金属単体であってよい。金属Meは、合金であってもよい。つまり、第一電極層4は、金属Meとして、少なくとも二種類の金属元素を含んでよい。金属Meの結晶構造は、面心立方格子構造、体心立方格子構造、又は六方最密充填構造であってよい。
【0028】
ALNは、圧電薄膜2が接する第一電極層4の表面4sに略平行な方向における、窒化アルミニウムの格子長である。LMETALは、圧電薄膜2が接する第一電極層4の表面4sに略平行な方向における、金属Meの格子長である。LALNは、LMETALよりも長い。
【0029】
圧電薄膜2が部分的にエピタキシャル(epitaxial)に第一電極層4の表面4sに形成されることに因り、圧電薄膜2のウルツ鉱型構造は、第一電極層4の結晶構造に影響される。そして、LALNがLMETALよりも短い場合、圧電薄膜2と第一電極層4との界面では、面内方向にウルツ鉱型構造を拡張させる応力が生じる。その結果、図10中の(a)に示されるように、第一電極層4の表面4sに略平行な引張応力(tensile stress)が圧電薄膜2内に生じる。つまり、圧電薄膜2及び第一電極層4の間の格子不整合に因り、引張応力が圧電薄膜2へ印加される。引張応力に因り、第一電極層4の表面4sに略平行な方向において圧電薄膜2が断裂し易い。例えば、引張応力に因り、第一電極層4の表面4sに略垂直な方向に沿って、クラック9が圧電薄膜2に形成され易い。つまり引張応力に因り、圧電薄膜2の自発的な破壊が起き易い。圧電薄膜2の自発的な破壊に因り、圧電薄膜2の圧電性及び絶縁性が劣化し、圧電薄膜素子の歩留まり率が低下してしまう。対照的に、LALNがLMETALよりも長い場合、圧電薄膜2と第一電極層4との界面では、面内方向にウルツ鉱型構造を収縮させる応力が生じる。その結果、図10中の(b)に示されるように、第一電極層4の表面4sに略平行な圧縮応力(compressive stress)が圧電薄膜2内に生じる。つまり、圧電薄膜2及び第一電極層4の間の格子不整合に因り、圧縮応力が圧電薄膜2へ印加される。圧縮応力に因り、第一電極層4の表面4sに略平行な方向において圧電薄膜2が断裂し難い。例えば、圧縮応力に因り、第一電極層4の表面4sに略垂直な方向に沿って、クラック9が圧電薄膜2に形成され難い。つまり圧縮応力に因り、圧電薄膜2の自発的な破壊が抑制される。圧電薄膜2の破壊を抑制することに因り、圧電薄膜2の圧電性及び絶縁性が向上し、圧電薄膜素子の歩留まり率が高まる。上記と同様の理由から、本実施形態に係る圧電薄膜素子10の製造過程(加工過程)における圧電薄膜2の破壊も抑制される。
【0030】
[Al]は、窒化アルミニウム中のAlの含有量である。[Md]は、窒化アルミニウム中のMdの含有量の合計である。[Mt]は、窒化アルミニウム中のMtの含有量の合計である。[Al]、[Md]及び[Mt]其々の単位は、原子%である。([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])は、36原子%以上70原子%以下である。つまり、100×([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])は、36以上70以下である。
【0031】
([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])の調整により、ウルツ鉱型構造の格子定数aw及び格子長LALNが制御される。Md及びMtの種類に基づいて、ウルツ鉱型構造の格子定数aw及び格子長LALNが制御されてもよい。([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])が36原子%以上であることに因り、ウルツ鉱型構造の単位胞ucwの体積が十分に増加して、窒化アルミニウムの格子長LALNが十分に増加する。その結果、LALNがLMETALよりも長い値に制御され易い。([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])が70原子%よりも大きい場合、ウルツ鉱型構造が歪み過ぎてしまい、ウルツ鉱型構造が損なわれ易く、圧電薄膜2の圧電性が劣化してしまう。([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])が上記の範囲内である場合、適度に歪んだウルツ鉱型構造が安定化され易い。上記の理由から、([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])は、36原子%以上65原子%以下、又は36原子%以上60原子%以下であってよい。
【0032】
[Md]/[Mt]は略1.0であってよい。つまり、[Md]は[Mt]と略等しくてよい。[Md]が[Mt]と等しい場合、Md及びMtの価数の平均値は3価であり、Alの価数と等しい。その結果、窒化アルミニウムにおいてAl、Md及びMtの価電子の総数が、Nの価電子の総数とバランスし易く、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造が安定化され易い。ただし、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造及び圧電性が過度に損なわれない限りにおいて、[Md]は[Mt]と等しくなくてもよい。[Md]が[Mt]と等しくない場合、Al、Md及びMtの価電子の総数が、Nの価電子の総数とバランスするように、窒化アルミニウム中のAl、Md、Mt及びN其々の含有量が調整されてよい。
【0033】
圧電薄膜2に含まれる窒化アルミニウムは、下記化学式Aで表されてよい。
Al{1-(α+β)}MdαMtβN (A)
α及びβ其々は正の実数であってよく、且つα+βは0.36以上0.70以下であってよく、且つα/βは略1.0であってよい。
【0034】
以下に説明されるように、LALN及びLMETAL其々は、金属Meの結晶構造に応じて定義されてよい。
【0035】
金属Meの結晶構造は、面心立方格子構造(fcc構造)であってよい。図4は、金属Meのfcc構造の単位胞ucfを示す。単位胞ucfは、立方体である。図4中のa1、b1及びc1其々は、fcc構造の基本ベクトルである。a1が指す結晶方位は[100]である。b1が指す結晶方位は[010]である。c1が指す結晶方位は[001]である。a1、b1及びc1は互いに垂直である。a1、b1及びc1其々の長さは、格子定数aに等しい。つまり、a1、b1及びc1其々の長さは互いに等しい。fcc構造の単位胞ucfにおける任意の位置又は方向は、下記数式fで定義されるベクトルf(xyz)で表されてよい。例えば、f(xyz)は、fcc構造を構成する金属元素(Me)の位置を示してよい。
f(xyz)=xa1+yb1+zc1 (数式f)
数式f中のx、y及びz其々は、任意の実数である。数式f中のa1、b1及びc1其々は、fcc構造の基本ベクトルである。
【0036】
fcc構造の(111)面は、圧電薄膜2が接する第一電極層4の表面4sに略平行であってよい。つまり、fcc構造の(111)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向していてよい。その結果、窒化アルミニウム(圧電薄膜2)のウルツ鉱型構造の(001)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。したがって、窒化アルミニウム(圧電薄膜2)のウルツ鉱型構造の(001)面は、金属Me(第一電極層4)のfcc構造の(111)面と略平行であってよい。図5中の(a)は、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面である。図5中の(b)は、金属Meのfcc構造の(111)面である。金属Meの結晶構造がfcc構造である場合、図5中の(a)に示されるように、窒化アルミニウムの格子長LALNは、31/2×aと表される。つまり余弦定理に基づけば、LALN は、a +a -2×a×a×cоs120°に等しい。上述の通り、aは、ウルツ鉱型構造の(001)面内における元素の最小間隔である。図4及び図5中の(b)に示されるように、金属Meのfcc構造の格子長LMETALは、21/2×aと表される。つまり余弦定理に基づけば、LMETAL は、a +a -2×a×a×cоs90°に等しい。上述の通り、aは、金属Meのfcc構造の格子定数である。
【0037】
以上の通り、金属Meの結晶構造がfcc構造である場合、LALNは31/2×aであってよく、LMETALは21/2×aであってよく、31/2×aは21/2×aより長くてよい。ウルツ鉱型構造のベクトルw(xyz)に基づけば、31/2×a(つまりLALN)の方向は、w(100)-w(010)と平行である。fcc構造のベクトルf(xyz)に基づけば、21/2×a(つまりLMETAL)の方向は、f(100)-f(010)と平行である。ウルツ鉱型構造の(001)面内のベクトルであるw(100)-w(010)は、fcc構造の(111)面内のベクトルであるf(100)-f(010)と略平行であってよい。換言すれば、ウルツ鉱型構造の(001)面内のベクトルであるw(1 -1 0)は、fcc構造の(111)面内のベクトルであるf(1 -1 0)と略平行であってよい。
【0038】
金属Meの結晶構造は、体心立方格子構造(bcc構造)であってもよい。図6は、金属Meのbcc構造の単位胞ucbを示す。単位胞ucbは、立方体である。図6中のa2、b2及びc2其々は、bcc構造の基本ベクトルである。a2が指す結晶方位は[100]である。b2が指す結晶方位は[010]である。c2が指す結晶方位は[001]である。a2、b2及びc2は互いに垂直である。a2、b2及びc2其々の長さは、格子定数aに等しい。つまり、a2、b2及びc2其々の長さは互いに等しい。bcc構造の単位胞ucbにおける任意の位置又は方向は、下記数式bで定義されるベクトルb(xyz)で表されてよい。例えば、b(xyz)は、bcc構造を構成する金属元素(Me)の位置を示してよい。
b(xyz)=xa2+yb2+zc2 (数式b)
数式b中のx、y及びz其々は、任意の実数である。数式b中のa2、b2及びc2其々は、bcc構造の基本ベクトルである。
【0039】
bcc構造の(110)面は、圧電薄膜2が接する第一電極層4の表面4sに略平行であってよい。つまり、bcc構造の(110)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向していてよい。その結果、窒化アルミニウム(圧電薄膜2)のウルツ鉱型構造の(001)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。したがって、窒化アルミニウム(圧電薄膜2)のウルツ鉱型構造の(001)面は、金属Me(第一電極層4)のbcc構造の(110)面と略平行であってよい。図7中の(a)は、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面である。図7中の(b)は、金属Meのbcc構造の(110)面である。金属Meの結晶構造がbcc構造である場合、図7中の(a)に示されるように、窒化アルミニウムの格子長LALNは、71/2×aと表される。つまり余弦定理に基づけば、LALN は、a +(2a-2×a×2a×cоs120°に等しい。上述の通り、aは、ウルツ鉱型構造の(001)面内における元素の最小間隔である。図6及び図7中の(b)に示されるように、金属Meのbcc構造の格子長LMETALは、2×21/2×aと表される。上述の通り、aは、金属Meのbcc構造の格子定数である。
【0040】
以上の通り、金属Meの結晶構造がbcc構造である場合、LALNは71/2×aであってよく、LMETALは2×21/2×aであってよく、71/2×aは2×21/2×aより長くてよい。ウルツ鉱型構造のベクトルw(xyz)に基づけば、71/2×a(つまりLALN)の方向は、w(100)-w(-110)と平行である。bcc構造のベクトルb(xyz)に基づけば、21/2×a(つまりLMETAL)の方向は、b(100)-b(010)と平行である。ウルツ鉱型構造の(001)面内のベクトルであるw(100)-w(-110)は、bcc構造の(110)面内のベクトルであるb(100)-b(010)と略平行であってよい。換言すれば、ウルツ鉱型構造の(001)面内のベクトルであるw(2 -1 0)は、bcc構造の(110)面内のベクトルであるb(1 -1 0)と略平行であってよい。金属Meの結晶構造がbcc構造である場合、LALNは31/2×aであってもよく、LMETALは2×aであってもよく、31/2×aは2×aより長くてよい。
【0041】
金属Meの結晶構造は、六方最密充填構造(hcp構造)であってもよい。図8は、金属Meのhcp構造の単位胞uchを示す。単位胞uchは、正六角柱である。図8中のa3、b3及びc3其々は、hcp構造の基本ベクトルである。a3が指す結晶方位は[100]である。b3が指す結晶方位は[010]である。c3が指す結晶方位は[001]である。a3及びb3は、同一の結晶面に属する。a3及びb3がなす角は、120°である。c3は、a及びb其々に対して垂直である。図8中のaは、hcp構造の(001)面内における金属Meの最小間隔である。aは、hcp構造の基本ベクトルa3の長さと言い換えられてよい。aは、hcp構造のa軸方向の格子定数と言い換えられてよい。hcp構造の単位胞ucfにおける任意の位置又は方向は、下記数式hで定義されるベクトルh(xyz)で表されてよい。例えば、h(xyz)は、hcp構造を構成する金属元素(Me)の位置を示してよい。
h(xyz)=xa3+yb3+zc3 (数式h)
数式h中のx、y及びz其々は、任意の実数である。数式h中のa3、b3及びc3其々は、hcp構造の基本ベクトルである。
【0042】
hcp構造の(001)面は、圧電薄膜2が接する第一電極層4の表面4sに略平行であってよい。つまり、hcp構造の(001)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向していてよい。その結果、窒化アルミニウム(圧電薄膜2)のウルツ鉱型構造の(001)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。したがって、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面は、金属Me(第一電極層4)のhcp構造の(001)面と略平行であってよい。図9中の(a)は、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面である。図9中の(b)は、金属Meのhcp構造の(001)面である。金属Meの結晶構造がhcp構造である場合、図9中の(a)に示されるように、窒化アルミニウムの格子長LALNは、aに等しい。上述の通り、aは、ウルツ鉱型構造の(001)面内における元素の最小間隔である。図8及び図9中の(b)に示されるように、金属Meのhcp構造の格子長LMETALは、aに等しい。上述の通り、aは、hcp構造の(001)面内における金属Meの最小間隔である。
【0043】
以上の通り、金属Meの結晶構造がhcp構造である場合、LALNはaであってよく、LMETALはaであってよく、aはaよりも長くてよい。ウルツ鉱型構造のベクトルw(xyz)に基づけば、a(つまりLALN)の方向は、w(010)と平行である。hcp構造のベクトルh(xyz)に基づけば、a(つまりLMETAL)の方向は、h(010)と平行である。ウルツ鉱型構造の(001)面内のベクトルであるw(010)は、hcp構造の(001)面内のベクトルであるh(010)と略平行であってよい。金属Meの結晶構造がhcp構造である場合、LALNは31/2×aであってもよく、LMETALは2×aであってよく、31/2×aは2×aよりも長くてもよい。
【0044】
格子不整合度ΔLは、(LALN-LMETAL)/LMETALと定義されてよい。つまり、ΔLは、第一電極層4と圧電薄膜2との間の格子不整合度であってよい。ΔLは、0%より大きく8.0%以下であってよい。つまり、100×(LALN-LMETAL)/LMETALが、0より大きく8.0以下であってよい。ΔLを上記範囲内の値に調整することにより、圧電薄膜2における圧縮応力が所望の値に制御され易い。またΔLを上記範囲内の値に調整することにより、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易く、圧電薄膜2の圧電性が向上し易い。同様の理由から、ΔLは、0.1%以上7.0%以下、0.4%以上7.0%以下、0.8%以上7.0%以下、1.0%以上7.0%以下、又は3.0%以上6.3%以下であってよい。LMETALは、金属Meの組成及び結晶構造に応じて一義的に定められる値である。したがって、ΔLは、LALNの調整によって制御されてよい。
【0045】
ALNは、aの測定値に基づいて算出されてよい。LMETALは、a、a又はaの測定値に基づいて算出されてよい。a、a、a及びaは、X線回折(XRD)法によって測定されてよい。a、a、a及びaは、常温(例えば、5~35℃)である雰囲気下で測定されてよい。金属Meの結晶構造も、XRD法によって特定されてよい。
【0046】
圧電薄膜2において生じる圧縮応力は、0MPaより大きく1500MPa以下であってよい。上述の通り、圧縮応力は、第一電極層4の表面4sに略平行であってよってよい。圧縮応力が上記の範囲内である場合、圧電薄膜2の自発的な破壊が抑制され易い。同様の理由から、圧電薄膜2において生じる圧縮応力は、50PMa以上1000MPa以下、182MPa以上822MPa以下、288MPa以上822MPa以下、又は392MPa以上822MPa以下であってよい。
【0047】
窒化アルミニウムに含まれる2価の金属元素Mdは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。AlNに含まれる4価の金属元素Mtは、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。窒化アルミニウムは、Mdとして、少なくともマグネシウムを含み、且つMtとして、ジルコニウム、ハフニウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。その結果、圧電薄膜2の自発的な破壊が抑制され易く、圧電薄膜2の圧電性が向上し易い。
【0048】
圧電薄膜2のウルツ鉱型構造及び圧電性が損なわれない限りにおいて、圧電薄膜2は、Al、N、Md及びMtに加えて、他の元素を更に含んでよい。例えば、圧電薄膜2は、1価の(monovalent)金属元素Mm、3価の(trivalent)金属元素Mtr、及び5価の(pentavalent)金属元素Mpからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含んでよい。1価の金属元素Mmは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。3価の金属元素Mtrは、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、ランタノイド及びIn(インジウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。5価の金属元素Mpは、Cr(クロム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)及びTa(タンタル)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。窒化アルミニウム中のMmの含有量の合計は、[Mm]原子%と表されてよい。窒化アルミニウム中のMpの含有量の合計は、[Mp]原子%と表されてよい。[Mm]/[Mp]は略1.0であってよい。
【0049】
第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおける圧電薄膜2の厚みは、例えば、0.1μm以上30μm以下であってよい。圧電薄膜2の厚みは、略均一であってよい。
【0050】
上述の通り、圧電薄膜素子10aは、基板1と、基板1に直接重なる密着層8と、密着層8の直接重なる第一電極層4と、第一電極層4に直接重なる圧電薄膜2と、圧電薄膜2に直接重なる第二電極層12と、を備えてよい。
【0051】
基板1は、例えば、半導体基板(シリコン基板、若しくはガリウム砒素基板等)、光学結晶基板(サファイア基板等)、絶縁体基板(ガラス基板、若しくはセラミックス基板等)又は金属基板(ステンレス鋼板等)であってよい。
【0052】
第一電極層4に含まれる金属Meは、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Au(金)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ru(ルテニウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Ti(チタン)、Y(イットリウム)、Sc(スカンジウム)及びMg(マグネシウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。第一電極層4は、金属Meとして、上記の群より選ばれる少なくとも二種の元素を含む合金であってよい。第一電極層4は、金属Meの単体であってもよい。金属Meが、Pt、Ir、Au、Rh、Pd、Ag、Ni、Cu及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である場合、金属Meはfcc構造を有し易く、fcc構造の(111)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。金属Meが、Mo、W、V、Cr、Nb及びTaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である場合、金属Meはbcc構造を有し易く、bcc構造の(110)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。金属Meが、Ru、Zr、Hf、Ti、Y、Sc及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である場合、金属Meはhcp構造を有し易く、hcp構造の(001)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。
【0053】
第一電極層4は基板1の表面に直接積層されていてよい。第一電極層4と基板1との間に密着層8が介在してもよい。密着層8は、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、Zn(亜鉛)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)及びCe(セリウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。密着層8は、金属単体、合金又は化合物(酸化物など)であってよい。密着層8は、別の圧電薄膜、高分子、又はセラミックスから構成されていてもよい。密着層8の介在により、第一電極層4のfcc構造の(111)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。または密着層8の介在により、第一電極層4のbcc構造の(110)面が、第一電極層4の表面4sの法線方向Dにおいて配向し易い。または密着層8の介在により、第一電極層4のhcp構造の(001)面が、第一電極層4の表面の法線方向Dにおいて配向し易い。密着層8は、機械的な衝撃等に因る第一電極層4の剥離を抑制する機能も有する。密着層8は、界面層、支持層、バッファ層又は中間層と言い換えられてよい。
【0054】
第二電極層12は、Pt、Ir、Au、Rh、Pd、Ag、Ni、Cu、Al、Mo、W、V、Cr、Nb、Ta、Ru、Zr、Hf、Ti、Y、Sc及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。第二電極層12は、上記の群より選ばれる少なくとも二種の元素を含む合金であってよい。第二電極層12は、金属単体であってもよい。
【0055】
基板1の厚みは、例えば、50μm以上10000μm以下であってよい。密着層8の厚みは、例えば、0.003μm以上1μm以下であってよい。第一電極層4の厚みは、例えば、0.01μm以上1μm以下であってよい。第二電極層12の厚みは、例えば、0.01μm以上1μm以下であってよい。
【0056】
密着層8、第一電極層4、圧電薄膜2及び第二電極層12それぞれは、少なくとも一種のターゲットを用いたスパッタリングによって積層順に従って形成されてよい。複数のターゲットを用いたスパッタリング(co‐sputtering、又はmulti‐sputtering)によって、密着層8、第一電極層4、圧電薄膜2及び第二電極層12それぞれが形成されてもよい。ターゲットは、各層又は圧電薄膜を構成する元素のうち少なくとも一種を含んでよい。所定の組成を有するターゲットの選定及び組合せにより、目的とする組成を有する各層及び圧電薄膜2それぞれを形成することができる。ターゲットは、例えば、金属単体、合金又は酸化物であってよい。スパッタリングの雰囲気の組成は、各層及び圧電薄膜2それぞれの組成を左右する。圧電薄膜2を形成するためのスパッタリングの雰囲気は、例えば、窒素ガスであってよい。圧電薄膜2を形成するためのスパッタリングの雰囲気は、希ガス(例えばアルゴン)と窒素とを含む混合ガスであってもよい。各ターゲットに与えられる入力パワー(電力密度)は、各層及び圧電薄膜2それぞれの組成及び厚みの制御因子である。スパッタリングの雰囲気の全圧、雰囲気中の原料ガス(例えば窒素)の分圧又は濃度、各ターゲットのスパッタリングの継続時間、圧電薄膜が形成される基板表面の温度、及び基板バイアス等も、各層及び圧電薄膜2それぞれの組成及び厚みの制御因子である。エッチング(例えばプラズマエッチング)により、所望の形状又はパターンを有する圧電薄膜が形成されてよい。
【0057】
圧電薄膜2の製膜温度は、例えば、300℃以上500℃以下であってよい。圧電薄膜2の製膜温度は、圧電薄膜2の形成過程における第一電極層4の温度と言い換えられてよい。第一電極層4中の金属Meの熱膨張率は、圧電薄膜2中の窒化アルミニウムの熱膨張率よりも大きい傾向がある。そして、圧電薄膜2の製膜温度が300℃以上である場合、圧電薄膜2の形成過程において、第一電極層4は圧電薄膜2よりも著しく膨張し易い。そして、圧電薄膜2の形成後に第一電極層4及び圧電薄膜2其々の温度が低下する過程において、第一電極層4は圧電薄膜2よりも著しく収縮し易い。圧電薄膜2及び第一電極層4が上記の一連の過程を経ることに因り、LALNがLMETALよりも大きい値に制御され易い。
【0058】
密着層8、第一電極層4、圧電薄膜2及び第二電極層12それぞれの結晶構造は、X線回折(XRD)法によって特定されてよい。各層及び圧電薄膜2の組成は、蛍光X線分析法(XRF法)、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)、及び電子線マイクロアナライザ(EPMA)のうち少なくともいずれか一つの分析方法にとって特定されてよい。密着層8、第一電極層4、圧電薄膜2及び第二電極層12其々の厚みは、第一電極層4の表面4sの法線方向Dに平行な圧電薄膜素子10aの断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定されてよい。
【0059】
本実施形態に係る圧電薄膜素子の用途は、多岐にわたる。圧電薄膜素子は、例えば、圧電マイクロフォン、ハーベスタ、発振子、共振子、又は音響多層膜であってよい。圧電薄膜素子は、例えば、圧電アクチュエータであってもよい。圧電アクチュエータは、ハプティクス(haptics)に用いられてよい。つまり、圧電アクチュエータは、皮膚感覚(触覚)によるフィードバックが求められる様々なデバイスに用いられてよい。皮膚感覚によるフィードバックが求められるデバイスとは、例えば、ウェアラブルデバイス、タッチパッド、ディスプレイ、又はゲームコントローラであってよい。圧電アクチュエータは、例えば、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてよい。圧電アクチュエータは、例えば、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。圧電アクチュエータは、圧電スイッチに用いられてもよい。圧電薄膜素子は、例えば、圧電センサであってもよい。圧電センサは、例えば、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、超音波センサ、PMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)等の超音波トランスデューサ、又はショックセンサに用いられてよい。上述された各圧電薄膜素子は、MEMSの一部又は全部であってよい。
【実施例
【0060】
以下では実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
基板として、シリコン(Si)の単結晶が用いられた。真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Tiからなる密着層が基板の表面全体に直接形成された。密着層が形成された基板の表面は、Siの(100)面に平行であった。基板の厚みは、625μmであった。基板の厚みは均一であった。密着層の厚みは、0.03μmであった。密着層の厚みは均一であった。真空チャンバー内の雰囲気は、Arガスであった。密着層の形成過程における基板の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Ti単体が用いられた。スパッタリングターゲットの単位面積当たりの入力パワーは、9.87W/cmであった。
【0062】
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、金属Meからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。スパッタリングターゲットしては、Meの単体が用いられた。実施例1で用いたMeは、下記表1に示される。第一電極層の厚みは、0.3μmであった。第一電極層の厚みは均一であった。真空チャンバー内の雰囲気は、Arガスであった。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットの単位面積当たりの入力パワーは、9.87W/cmであった。真空チャンバー内で、第一電極層が500℃でアニールされた。真空チャンバー内の雰囲気は、Ar及びNの混合ガスであった。アニーリングの継続時間は、10分であった。
【0063】
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜が、第一電極層の表面全体に直接形成された。圧電薄膜は、Md及びMtを含む窒化アルミニウムからなっていた。実施例1の窒化アルミニウムに含まれるMd及びMtは、下記表1に示される。スパッタリングターゲットとしては、Al‐Ca合金、及びGe金属が用いられた。実施例1では、([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])が60原子%に一致するように、各スパッタリングターゲットの入力パワー(電力密度)が調整された。([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])の定義は、上述の通りである。以下に記載の[Md+Mt]は、([Md]+[Mt])/([Al]+[Md]+[Mt])を意味する。圧電薄膜の厚みは均一であった。真空チャンバー内の雰囲気は、Ar及びNの混合ガスであった。圧電薄膜の形成過程における基板、密着層及び第一電極層の温度は、300℃に維持された。圧電薄膜の厚みは、1.3μmであった。
【0064】
第一電極層の場合の同様の方法で、第二電極層を圧電薄膜の表面全体に直接形成した。第二電極層の組成は、第一電極の組成と全く同じであった。第二電極層の厚みは、第一電極の厚みと全く同じであった。第二電極層の厚みは均一であった。
【0065】
以上の手順で、基板と、基板に直接積層された密着層と、密着層に直接積層された第一電極層と、第一電極層に直接積層された圧電薄膜と、圧電薄膜に直接積層された第二電極と、を備える積層体を作製した。続くフォトリソグラフィにより、基板上の積層構造のパターニングを行った。パターニング後、積層体全体をダイシングにより切断することにより、四角形状の実施例1の圧電薄膜素子を得た。圧電薄膜素子は、基板と、基板に直接積層された密着層と、密着層に直接積層された第一電極層と、第一電極層に直接積層された圧電薄膜と、圧電薄膜に直接積層された第二電極層と、を備えていた。圧電薄膜の表面は、基板の表面及び第一電極層の表面其々に対して平行であった。
【0066】
上述の方法により、複数の実施例1の圧電薄膜素子が作製された。これらの圧電薄膜素子に関する以下の分析及び測定が実施された。
【0067】
[圧電薄膜の組成]
圧電薄膜の組成が、蛍光X線分析法(XRF法)及びレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)により特定された。XRF法には、株式会社リガク製の波長分散型蛍光X線装置(AZX-400)を用いた。LA-ICP-MS法には、Agilent社製の分析装置(7500s)を用いた。
【0068】
XRF法に基づく分析の結果、圧電薄膜は、下記化学式Aで表される窒化アルミニウムからなることが確認された。下記化学式A中のα+βは、[Md+Mt]/100に等しかった。[Md+Mt]の定義は、上述の通りである。α/βは、1.0であった。
Al{1-(α+β)}MdαMtβN (A)
【0069】
[結晶構造]
第二電極層を形成する前に、第一電極層及び圧電薄膜其々の結晶構造が、X線回折(XRD)法により特定された。XRD法には、株式会社リガク製の多目的X線回折装置(SmartLab)を用いた。第一電極層に直接形成された圧電薄膜の表面において、上記のX線回折装置を用いた2θχ‐φスキャン及び2θχスキャンが行われた。XRD法に基づく分析の結果、圧電薄膜はウルツ鉱型構造を有することが確認された。ウルツ鉱型構造の(001)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に平行であった。第一電極層(金属Me)は、下記表1に示される結晶構造を有していた。下記表1に示されるMeの結晶面が、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に平行であった。
【0070】
XRD法によって測定された窒化アルミニウムの格子定数aから、窒化アルミニウムの格子長LALNが算出された。XRD法によって測定された金属Meの格子定数aから、金属Meの格子長LALNが算出された。実施例1のLALNは、31/2×aと表される。実施例1のLMETALは、21/2×aと表される。LALN及びLMETALから、格子不整合度ΔLが算出された。上述の通り、ΔLは(LALN-LMETAL)/LMETALと定義される。正のΔLは、LALNがLMETALよりも長いことを意味する。負のΔLは、LALNがLMETALよりも短いことを意味する。実施例1のLALN、LMETAL及びΔLは、下記表1に示される。
【0071】
[残留応力σ]
以下の手順で、圧電薄膜における残留応力σ(単位:MPa)を算出した。まず、圧電薄膜が形成される直前の基板の曲率半径RBefore(単位:μm)が測定された。圧電薄膜が形成される直前の基板とは、基板、密着層及び第一電極層からなる積層体を意味する。続いて、圧電薄膜が形成された後の基板の曲率半径RAfter(単位:μm)が測定された。圧電薄膜が形成された後の基板とは、基板、密着層、第一電極層及び圧電薄膜からなる積層体を意味する。RBefore及びRAfter其々の測定には、KLA‐Tencor社製の測定装置(P‐16プロファイラ)を用いた。そして、下記数式1(ストーニーの式)に基づき、残留応力σを算出した。
【数1】
【0072】
数式1中のEは、シリコンからなる基板のヤング率(単位:GPa)である。νは、シリコンからなる基板のポアソン比である。tsub.(単位:μm)は、シリコンからなる基板の厚みである。tfilm(単位:μm)は、圧電薄膜の厚みである。
【0073】
正の残留応力σは、引張応力である。負の残留応力σは、圧縮応力である。実施例1の残留応力σは、下記表1に示される。
【0074】
<破壊率RBREAK
上記の方法で、板状の実施例1の圧電薄膜素子が作製された。板状の圧電薄膜素子の寸法は、100mm×100mmであった。この圧電薄膜素子を切断して、10mm角の100個のサンプルを作製した。個々のサンプルは、チップ状の圧電薄膜素子である。100個のサンプルのうち、圧電薄膜にクラックが形成されているサンプルの数nを、光学顕微鏡で数えた。破壊率RBREAKは、n%と定義される。実施例1の破壊率RBREAKは、下記表1に示される。
【0075】
<ロッキングカーブの半値幅>
第二電極層が形成される前、圧電薄膜の(002)面のロッキングカーブを測定した。測定には、上述のX線回折装置を用いた。ロッキングカーブの測定範囲(回折角2θの範囲)は34~37°であった。測定間隔は、0.01°であった。測定スピードは、2.0°/分であった。実施例1の圧電薄膜の(002)面のロッキングカーブの半値全幅FWHMは、下記表1に示される。FWHMが小さいほど、窒化アルミニウムの結晶性が高く、第一電極層の表面の法線方向に配向している窒化アルミニウムの(002)面が多い。
【0076】
<圧電定数d33
実施例1の圧電薄膜の圧電定数d33(単位:pC/N)を測定した。圧電定数d33の測定の詳細は以下の通りであった。実施例1の圧電定数d33(3点測定点平均値)は、下記表1に示される。
測定装置:Piezotest社製のd33メーター(PM200)
周波数: 110Hz
クランプ圧: 0.25N
【0077】
(実施例2~16及び比較例1~4)
実施例2~16及び比較例1~4其々の第一電極層の作製には、下記表1に示される金属Meからなるスパッタリングターゲットを用いた。
【0078】
実施例2~16及び比較例1~4其々の窒化アルミニウムに含まれるMd及びMtは、下記表1に示される。
【0079】
実施例2、3、8、9、14~16、比較例1及び2其々の圧電薄膜の作製には、スパッタリングターゲットとして、Al金属、Mg金属、及びZr金属が用いられた。実施例2、3、8、9、14~16、比較例1及び2其々の圧電薄膜の作製では、[Md+Mt]が下記表1に示される値に一致するように、各スパッタリングターゲットの入力パワーが調整された。
【0080】
実施例4、5、10、11及び比較例3其々の圧電薄膜の作製には、スパッタリングターゲットとして、Al金属、Mg金属、及びHf金属が用いられた。実施例4、5、10、11及び比較例3其々の圧電薄膜の作製では、[Md+Mt]が下記表1に示される値に一致するように、各スパッタリングターゲットの入力パワーが調整された。
【0081】
実施例6、7、12、13及び比較例4其々の圧電薄膜の作製には、スパッタリングターゲットとして、Al金属、Mg金属、及びTi金属が用いられた。実施例6、7、12、13及び比較例4其々の圧電薄膜の作製では、[Md+Mt]が下記表1に示される値に一致するように、各スパッタリングターゲットの入力パワーが調整された。
【0082】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~16及び比較例1~4其々の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例2~16及び比較例1~4其々の圧電薄膜素子を対象とする分析及び測定が実施された。
【0083】
実施例2~16及び比較例1~4のいずれの場合も、圧電薄膜は、下記化学式Aで表される窒化アルミニウムからなることが確認された。実施例2~16及び比較例1~4のいずれの場合も、下記化学式A中のα+βは、[Md+Mt]/100に等しく、α/βは、1.0であった。
Al{1-(α+β)}MdαMtβN (A)
【0084】
実施例2~16及び比較例1~4のいずれの場合も、圧電薄膜はウルツ鉱型構造を有していた。実施例2~16及び比較例1~4のいずれの場合も、ウルツ鉱型構造の(001)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に平行であった。実施例2~16及び比較例1~4の其々の場合、第一電極層(金属Me)は、下記表1に示される結晶構造を有していた。実施例2~16及び比較例1~4其々の場合、下記表1に示されるMeの結晶面が、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に平行であった。
【0085】
実施例2の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例3の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例4の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例5の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例6の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例7の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例8の場合、LALNはaと表され、LMETALはaと表される。
実施例9の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例10の場合、LALNはaと表され、LMETALはaと表される。
実施例11の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例12の場合、LALNはaと表され、LMETALはaと表される。
実施例13の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
実施例14の場合、LALNは71/2×aと表され、LMETALは2×21/2×aと表される。
実施例15の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは2×aと表される。
実施例16の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは2×aと表される。
比較例1の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
比較例2の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
比較例3の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。
比較例4の場合、LALNは31/2×aと表され、LMETALは21/2×aと表される。と表される。
【0086】
実施例2~16及び比較例1~4其々のLALN、LMETAL、格子不整合度ΔLは、下記表1に示される。
実施例2~16及び比較例1~4其々の残留応力σは、下記表1に示される。
実施例2~16及び比較例1~4其々の破壊率RBREAKは、下記表1に示される。
実施例2~16及び比較例1~4其々のロッキングカーブの半値全幅FWHMは、下記表1に示される。
実施例2~16及び比較例1~4其々の圧電定数d33は、下記表1に示される。
【0087】
残留応力σは負の値(つまり圧縮応力)であることが好ましい。σの目標値は、-1500MPa以上0MPa以下である。
破壊率RBREAKは小さいことが好ましい。RBREAKの目標値は、0%以上5%以下である。
ロッキングカーブの半値全幅FWHMは小さいことが好ましい。FWHMの目標値は、0°以上12°以下である。
圧電定数d33は大きいことが好ましい。d33の目標値は、6.0pC/N以上である。
下記表1に記載の品質Aとは、σ、RBREAK、FWHM及びd33の4つの値のうち、4つの値が目標値に達したことを意味する。
下記表1に記載の品質Bとは、σ、RBREAK、FWHM及びd33の4つの値のうち、3つの値が目標値に達したことを意味する。
下記表1に記載の品質Cとは、σ、RBREAK、FWHM及びd33の4つの値のうち、2つの値が目標値に達したことを意味する。
下記表1に記載の品質Dとは、σ、RBREAK、FWHM及びd33の4つの値のうち、1つ以下の値が目標値に達したことを意味する。
【0088】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、圧電薄膜の破壊を抑制する圧電薄膜素子が提供される。
【符号の説明】
【0090】
1…基板、2…圧電薄膜、2s…圧電薄膜の表面、4…第一電極層、4s…圧電薄膜が接する第一電極層の表面、8…密着層、9…クラック、10,10a…圧電薄膜素子、Al…アルミニウム、12…第二電極層、LALN…窒化アルミニウムの格子長、LMETAL…金属Meの格子長、Md…2価の金属元素、Mt…4価の金属元素、ucb…体心立方格子構造の単位胞、ucf…面心立方格子構造の単位胞、uch…六方最密充填構造の単位胞、ucw…ウルツ鉱型構造の単位胞。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11