(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】重合開始剤、重合開始剤組成物、重合性組成物、および重合体組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 4/38 20060101AFI20240125BHJP
C08F 12/08 20060101ALI20240125BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08F4/38
C08F12/08
C08F20/10
(21)【出願番号】P 2019236525
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 祐弥
(72)【発明者】
【氏名】坂田 雄亮
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-008726(JP,A)
【文献】特開昭61-100561(JP,A)
【文献】特開2001-064320(JP,A)
【文献】特開昭61-115063(JP,A)
【文献】特開昭59-093725(JP,A)
【文献】特開平02-040359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/38
C08F 12/08
C08F 20/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(a):
【化1】
(一般式(a)中、
R
a
COはそれぞれ独立した炭素数2~22のアシル基を表し、mは1~30の数を表す。)で表される化合物と、
一般式(b):
【化2】
(一般式(b)中
、R
b
COはそれぞれ独立した炭素数2~22のアシル基を表し、nは1~30の数を表す。)で表される化合物を含み、
前記一般式(a)で表される化合物と前記一般式(b)で表される化合物の質量比(一般式(a)で表される化合物/前記一般式(b)で表される化合物)が95/5以下であることを特徴とする重合開始剤。
【請求項2】
請求項1記載の重合開始剤と、炭化水素系溶剤を含むことを特徴とする重合開始剤組成物。
【請求項3】
前記一般式(a)で表される化合物、前記一般式(b)で表される化合物、および前記炭化水素系溶剤の合計中、前記一般式(a)で表される化合物および前記一般式(b)で表される化合物の割合が、10質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項2記載の重合開始剤組成物。
【請求項4】
請求項1記載の重合開始剤、または請求項2もしくは3記載の重合開始剤組成物と、ビニル系単量体を含むことを特徴とする重合性組成物。
【請求項5】
前記一般式(a)で表される化合物、および前記一般式(b)で表される化合物の合計が、前記ビニル系単量体100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下であることを特徴とする請求項4記載の重合性組成物。
【請求項6】
請求項4または5記載の重合性組成物から形成されることを特徴とする重合体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合開始剤、重合開始剤組成物、重合性組成物、および重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアシル型ポリメリックペルオキシドは、ビニル系単量体などを含む重合性組成物の重合開始剤として有用であり、また、熱により多段階で過酸化物結合が開裂をするため、重合時にビニル系単量体の添加方法を調整することで、容易にブロック共重合体を合成しやすいことが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のジアシル型ポリメリックペルオキシドは、その構造内に長鎖アルキル基の繰り返し単位を持ち、また分子量が大きいため、高分子同様に結晶性を発現しやすく0℃以下での保管時に固体になり易い。固体の有機過酸化物は、衝撃や摩擦に対する感度が高くなるため、分解の危険性が高まる。また重合開始剤として使用する際は、溶剤に溶解させる必要があることから、作業性が悪くなる。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、0℃以下での保管時に液体である、2種のジアシル型ポリメリックペルオキシドを含む重合開始剤を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、前記2種のジアシル型ポリメリックペルオキシドを含む重合開始剤を含む重合開始剤組成物および重合性組成物、ならびに当該重合性組成物から形成される重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式(a):
【化1】
(一般式(a)中、
R
a
COはそれぞれ独立した炭素数2~22のアシル基を表し、mは1~30の数を表す。)で表される化合物と、一般式(b):
【化2】
(一般式(b)中、
R
b
COはそれぞれ独立した炭素数2~22のアシル基を表し、nは1~30の数を表す。)で表される化合物を含み、前記一般式(a)で表される化合物と前記一般式(b)で表される化合物の質量比(一般式(a)で表される化合物/前記一般式(b)で表される化合物)が95/5以下である重合開始剤に関する。
【0008】
また、本発明は、前記重合開始剤と、炭化水素系溶剤を含む重合開始剤組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、前記重合開始剤、または前記重合開始剤組成物と、ビニル系単量体を含む重合性組成物に関する。
【0010】
さらに、本発明は、前記重合性組成物から形成される重合体組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる重合開始剤における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。但し、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0012】
本発明の重合開始剤は、前記一般式(a)で表される化合物と、前記一般式(b)で表される化合物を含み、前記一般式(a)で表される化合物と前記一般式(b)で表される化合物の質量比(一般式(a)で表される化合物/前記一般式(b)で表される化合物)が95/5以下である。前記一般式(a)で表される化合物は、特許文献1に記載のジアシル型ポリメリックペルオキシドである。一方、前記一般式(b)で表される化合物は、ジアシル型ポリメリックペルオキシドの構造を有するが、前記一般式(a)で表される化合物よりも、多分岐のアルキル鎖を有することによって結晶性が低くなることが推定されることから、本発明の重合開始剤は、0℃以下での保管時に液体である。
【0013】
また、特許文献1に記載のジアシル型ポリメリックペルオキシドは、炭化水素系溶剤に溶解した場合であっても、その結晶性は高く、一定の濃度以上では0℃以下での保管時に結晶が析出し易いものであったが、本発明の重合開始剤を含む重合開始剤組成物は、炭化水素系溶剤に溶解した場合においても、0℃以下での保管時に結晶が析出し難いため、有用である。
【0014】
また、上述のとおり、一般的に、ジアシル型ポリメリックペルオキシドは、容易にブロック共重合体を合成しやすい。一方、本発明の重合開始剤は、上記の2種のジアシル型ポリメリックペルオキシドを含むため、当該重合開始剤を用いて得られる(共)重合体には、分子末端に種々の分岐構造が導入される。よって、当該(共)重合体は、(共)重合体同士のパッキング性が低下しつつ、分子鎖同士の絡み合いが増加するため、例えば、当該(共)重合体をコーティング材として塗布した際に、コーティング材の「伸び」が良くなることによって、塗装面にムラができにくく、重ね塗りなどを施す必要がないことから、本発明の重合開始剤を含む重合性組成物や当該重合性組成物から形成される(共)重合体組成物は、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の重合開始剤は、前記一般式(a)で表される化合物と、前記一般式(b)で表される化合物を含み、前記一般式(a)で表される化合物と前記一般式(b)で表される化合物の質量比(一般式(a)で表される化合物/前記一般式(b)で表される化合物)が95/5以下である。
【0016】
<一般式(a)で表される化合物>
本発明の一般式(a)で表される化合物は、以下の構造を有するジアシル型ポリメリックペルオキシドである。前記一般式(a)で表される化合物は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【化3】
(一般式(a)中、
R
a
COはそれぞれ独立した炭素数2~22のアシル基を表し、mは1~30の数を表す。)
【0017】
前記一般式(a)中、mは1~30の数であり、好ましくは2~12、より好ましくは4~8である。また、前記一般式(a)で表される化合物は、数平均分子量が、好ましくは500~10,000、より好ましくは1,000~4,000、さらに好ましくは2,000~3,000である。
【0018】
前記一般式(a)で表される化合物は、通常、以下の一般式(c)で表されるカルボン酸塩化物(7-エチルヘキサデカン-1,16-ジカルボン酸塩化物)と、前記一般式(a)で表される化合物の末端基に相当する一塩基性酸塩化物を、過酸化ナトリウム、過酸化カリウムなどの過酸化剤の水溶液で、反応することにより得られる。
【化4】
【0019】
前記一般式(a)で表される化合物の末端基に相当する一塩基性酸塩化物は、例えば、酢酸塩化物、ブタン酸塩化物、ペンタン酸塩化物、ヘキサン酸塩化物、ヘプタン酸塩化物、オクタン酸塩化物、ノナン酸塩化物、イソノナン酸塩化物、ドデカン酸塩化物、ウンデカン酸塩化物、ラウリン酸塩化物、トリデカン酸塩化物、イソトリデカン酸塩化物、ミリスチン酸塩化物、ペンタデカン酸塩化物、パルミチン酸塩化物、ヘプタデカン酸塩化物、ステアリン酸塩化物、イソステアリン酸塩化物、ノナデカン酸塩化物、アラキン酸塩化物、ドデセン酸塩化物、テトラデセン酸塩化物、ヘキサデセン酸塩化物、パルミトオレイン酸塩化物、オレイン酸塩化物、バクセン酸塩化物、リノール酸塩化物、リノレン酸塩化物、アラキドン酸塩化物、ヒドロキシステアリン酸塩化物などの脂肪酸塩化物が挙げられる。これらの中でも、オクタン酸塩化物、ノナン酸塩化物、イソノナン酸塩化物、デカン酸塩化物が好ましい。
【0020】
<一般式(b)で表される化合物>
本発明の一般式(b)で表される化合物は、以下の構造を有するジアシル型ポリメリックペルオキシドである。前記一般式(b)で表される化合物は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【化5】
(一般式(b)中、
R
b
COはそれぞれ独立した炭素数2~22のアシル基を表し、nは1~30の数を表す。)
【0021】
前記一般式(b)中、nは1~30の数であり、好ましくは2~12、より好ましくは4~8である。また、前記一般式(b)で表される化合物は、数平均分子量が、好ましくは500~10,000、より好ましくは1,000~4,000、さらに好ましくは2,000~3,000である。
【0022】
前記一般式(b)で表される化合物は、通常、以下の一般式(d)で表されるカルボン酸塩化物(7,8-ジエチルテトラデカン-1,14-ジカルボン酸塩化物)と、前記一般式(b)で表される化合物の末端基に相当する一塩基性酸塩化物を、過酸化ナトリウム、過酸化カリウムなどの過酸化剤の水溶液で、反応することにより得られる。
【化6】
【0023】
前記一般式(b)で表される化合物の末端基に相当する一塩基性酸塩化物は、例えば、酢酸塩化物、ブタン酸塩化物、ペンタン酸塩化物、ヘキサン酸塩化物、ヘプタン酸塩化物、オクタン酸塩化物、ノナン酸塩化物、イソノナン酸塩化物、ドデカン酸塩化物、ウンデカン酸塩化物、ラウリン酸塩化物、トリデカン酸塩化物、イソトリデカン酸塩化物、ミリスチン酸塩化物、ペンタデカン酸塩化物、パルミチン酸塩化物、ヘプタデカン酸塩化物、ステアリン酸塩化物、イソステアリン酸塩化物、ノナデカン酸塩化物、アラキン酸塩化物、ドデセン酸塩化物、テトラデセン酸塩化物、ヘキサデセン酸塩化物、パルミトオレイン酸塩化物、オレイン酸塩化物、バクセン酸塩化物、リノール酸塩化物、リノレン酸塩化物、アラキドン酸塩化物、ヒドロキシステアリン酸塩化物などの脂肪酸塩化物が挙げられる。これらの中でも、オクタン酸塩化物、ノナン酸塩化物、イソノナン酸塩化物、デカン酸塩化物が好ましい。
【0024】
本発明の重合開始剤は、前記一般式(a)で表される化合物と前記一般式(b)で表される化合物の質量比(一般式(a)で表される化合物/前記一般式(b)で表される化合物)が95/5以下である。前記一般式(a)で表される化合物と前記一般式(b)で表される化合物の質量比は、結晶性を低くする観点から、90/10以下であることが好ましく、85/15以下であることがより好ましく、そして、重合開始剤の分解温度を高め、安全性を向上させて保管を容易にさせる観点から、50/50以上であることが好ましく、60/40以上であることがより好ましく、70/30以上であることがさらに好ましい。
【0025】
前記一般式(a)で表される化合物と前記一般式(b)で表される化合物の混合方法は、特に限定されず、両者を別々に合成した後に混合してもよいし、前記一般式(c)で表されるカルボン酸塩化物と前記一般式(d)で表されるカルボン酸塩化物を所定の割合で混合した後に、上記の一塩基性酸塩化物と反応してもよい。反応および混合は、安全性の観点から30℃以下で行うことが好ましい。
【0026】
<重合開始剤組成物>
本発明の重合開始剤組成物は、前記重合開始剤と、炭化水素系溶剤を含む。
【0027】
前記炭化水素系溶剤は、公知のものが使用でき、消防法上の危険物分類を第5類から除外できる観点から、好ましくは芳香族炭化水素系溶剤であり、より好ましくは炭素数が6~14の芳香族炭化水素系溶剤である。前記炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、デセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、о‐キシレン、m‐キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン、アントラセン、スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンが好ましい。前記炭化水素系溶剤は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0028】
前記一般式(a)で表される化合物、前記一般式(b)で表される化合物、および前記炭化水素系溶剤の合計中、前記一般式(a)で表される化合物および前記一般式(b)で表される化合物の割合が、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。前記一般式(a)で表される化合物および前記一般式(b)で表される化合物の割合が、50質量%より多い場合、消防法上の危険物分類が第5類となる。また、前記一般式(a)で表される化合物および前記一般式(b)で表される化合物の割合が、10質量%より少ない場合、後述する重合性組成物の重合効率が低下する。
【0029】
前記重合開始剤と、前記炭化水素系溶剤の混合方法は特に限定されず、両者をそれぞれ混合しても良く、前記一般式(a)で表される化合物および/または前記一般式(b)で表される化合物の合成時に前記炭化水素系溶剤の存在下で反応しても良い。混合は、安全性の観点から30℃以下で行うことが好ましい。
【0030】
前記重合開始剤、および前記重合開始剤組成物は、品質上および安全上の観点から、0℃以下で保管することが好ましい。0℃を超えて保管すると、1~2ヶ月程度で過酸化物結合が開裂し、重合開始剤としての性能が失活する恐れがある。また30℃を超える環境で保管すると、過酸化物結合の開裂速度が急速になり、分解する恐れがある。
【0031】
<重合性組成物>
本発明の重合性組成物は、前記重合開始剤、または前記重合開始剤組成物と、ビニル系単量体を含む。
【0032】
前記ビニル系単量体は、ラジカル重合性を有する官能基を有していれば特に限定されず、目的とする(共)重合体を得るために公知のものを選定すればよい。前記ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、N-メチルマレイミド、フマル酸ジメチル、酢酸ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニル、種々のフッ化(メタ)アクリレート、シリコーンマクロモノマーなどが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」と「メタクリル酸」を共に含む概念である。ビニル系単量体は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。なお、前記重合開始剤が多段階でラジカルを発生するため、1段目のビニル系単量体を添加して重合を進行した後で、2段目に異なるビニル系単量体を添加して重合を行うことにより、ブロック共重合体を容易に得ることができる。好ましくは、メタアクリル酸、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、メタアクリロニトリル、酢酸ビニルである。
【0033】
前記重合性組成物は、前記一般式(a)で表される化合物、および前記一般式(b)で表される化合物の合計が、前記ビニル系単量体100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上6質量部以下である。
【0034】
前記重合性組成物は、必要に応じ、上記の炭化水素系溶剤などの希釈溶剤で希釈してもよく、また、耐熱安定剤、老化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、滑剤、分散剤、レベリング剤などの添加剤を配合してもよい。
【0035】
<重合体組成物>
本発明の重合体組成物は、前記重合性組成物から形成される。前記重合体組成物は、具体的には、前記ビニル系単量体を重合させることにより得られる、重合体を含む組成物である。なお、前記重合体は、共重合体の概念も含む。例えば、前記重合体組成物を、コーティング材として使用する場合、コーティング方法は公知の手法を適用することができ、例えば、スプレーコート法、フローコート法、ディップコート法、ロールコート法などが挙げられる。
【0036】
炭化水素系溶剤および希釈溶剤の量は、例えば、前記重合体組成物を、コーティング材として使用する場合、重合体100質量に対して、1~10000質量部、好ましくは50~1000質量部、さらに好ましくは100~500質量部である。炭化水素系溶剤および希釈溶剤の量が、10000質量部より多い場合、そこに含まれる重合体の割合が小さくなるため、粘度が低下して塗装時に液垂れを生じやすくなると共に、必要な物性を得るためにはコーティング材を厚塗りする必要がある。一方、炭化水素系溶剤および希釈溶剤の量が1質量部より少ない場合、コーティング材はほとんど溶剤を含まないため、粘度が上昇して均一な塗膜を作製することが困難になる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0038】
<合成例1>
<一般式(a)で表される化合物の製造>
4つ口フラスコ中で水酸化カリウム600質量部に対して、60%過酸化水素水を240質量部混合し、過酸化ナトリウム水溶液を調整した。次にイソノナン酸塩化物100質量部と、7-エチルヘキサデカン-1,16-ジカルボン酸塩化物200質量部との混合溶液を、撹拌下で少しずつ滴下し、15℃で10分撹拌した。撹拌後、混合溶液の有機相を食塩水により洗浄し、一般式(a)で表される化合物を得た。一般式(a)で表される化合物を用い、下記の条件におけるゲルパーミエイションクロマトグラフィーで数平均分子量の測定を行った。また、活性酸素量測定を行い、これらの結果からmを算出した。結果を表1に示す。
【0039】
<ゲルパーミエイションクロマトグラフィーの測定条件>
測定機器:TOSOH HLC-8320GPC
カラム:TOSOH TSKgel Super Multipore Hz-(4.6mmID×15cm)×2本
試料注入量:10μL
流量:THF 0.35mL/min
測定温度:40℃
検出器:RI
試料:試料0.1gをTHF25mLに入れ分散させ、0.2μmのメンブランフィルターで濾過したもの
【0040】
<活性酸素量測定>
活性酸素量測定は、ヨードメトリーにより活性酸素量(Act.O)を測定した。まず、300mLのフラスコにイソプロパノール50mL、氷酢酸5mL、飽和ヨウ化カリウム溶液5mLを入れた。次いで各重合開始剤を0.3g計り入れ、還流冷却器を取り付け3分間沸騰させた。その後、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液で色が消えるまで滴定し、(式1)を用いて滴定量から活性酸素量を算出した。mについては(式2)を用いて算出した。
【数1】
f=1.1639とした。
【数2】
【0041】
<合成例2>
<一般式(b)で表される化合物の製造>
上記の7-エチルヘキサデカン-1,16-ジカルボン酸塩化物を、7,8-ジエチルテトラデカン-1,14-ジカルボン酸塩化物に変更したこと以外は、上記の合成例1と同様の操作を行い、一般式(b)で表される化合物を得た。上記と同様の操作にて、数平均分子量および活性酸素量の測定を行い、nを算出した。結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
<実施例1-1>
<重合開始剤の調製>
上記の合成例1で得られた一般式(a)で表される化合物80質量部と、合成例2で得られた一般式(b)で表される化合物20質量部を10℃で混合し、重合開始剤を調整した。
【0044】
<実施例1-2~1-4、および比較例1-1~1-2>
<重合開始剤、および重合開始剤組成物の調製>
各実施例および比較例について、合成例1で得られた一般式(a)で表される化合物と、合成例2で得られた一般式(b)で表される化合物と、炭化水素系溶剤としてエチルベンゼンを用い、表2に示す配合量にて、実施例1-1と同様の操作により、重合開始剤および重合開始剤組成物を調整した。なお、表2の値は質量部を示す。
【0045】
<保管性の評価>
保管性は、実施例及び比較例の重合開始剤、または重合開始剤組成物を、0℃で48時間冷蔵保管した際の凝固性を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:液体状態を保持している。
×:固体、もしくは析出している。
【0046】
【0047】
<実施例2-1>
<重合体組成物の製造>
温度計、攪拌機、還流冷却器、300mL四つ口フラスコにトルエン100質量部を入れ、窒素パージをしながら100℃まで油浴中で温度を上げた。100℃になったところで滴下ポンプを用いて、スチレン(St)50質量部と、n-ブチルアクリレート(BA)と35質量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)15質量部と、上記の実施例1-1の重合開始剤3質量部からなる混合物を3時間かけて一定速度で滴下した後、同温度で3時間熟成し、ビニル系共重合体組成物を得た。
【0048】
<実施例2-2~2-4、および比較例2-1>
各実施例および比較例について、表3に示す原料および配合量にて、実施例2-1と同様の操作により、ビニル系共重合体組成物を得た。なお、表3の値は質量部を示す。
【0049】
<塗装性の評価>
上記で得られたビニル系共重合体組成物を、トルエンを用いて30質量%の固形分になるように調製した。そのトルエン希釈溶液をアクリル板に1滴垂らし、ヘラを用いて10cm/secで伸ばした際の塗装性について、以下の基準で評価した。
評価基準(a)
○:軽くてムラがない。
×:重い、又はヘラでしごくとムラが出る。
評価基準(b)
1滴垂らしたものを直線状に伸ばし、その伸びの長さ(cm)を測定した。長いほうが好ましい。
【0050】