(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-24
(45)【発行日】2024-02-01
(54)【発明の名称】型枠及びコンクリート製建材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/16 20060101AFI20240125BHJP
B28B 7/34 20060101ALI20240125BHJP
E04B 2/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B28B7/16 C
B28B7/34 F
B28B7/34 M
E04B2/00
(21)【出願番号】P 2020049076
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 達郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
(72)【発明者】
【氏名】津野 禎一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸本 和樹
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-088699(JP,A)
【文献】実開昭58-145707(JP,U)
【文献】特開平11-207717(JP,A)
【文献】特開平10-095008(JP,A)
【文献】特開2000-240191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0000177(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00-7/46
E04B 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にコンクリートを打設して
内側に矩形の開口部が形成された面材の建材を成型する型枠であって、
上方が開口するとともに、底部と立ち上がり縁部とを有しており、コンクリートを打設する姿勢に載置される型枠本体と、
前記型枠本体の底部の上面に貼り付けられる前面模様部と、前記型枠本体の少なくとも1つの立ち上がり縁部の内側面に貼り付けられる側面模様部と、を有し、建材の表面に凹凸模様を形成する可撓性を有するマットと、
前記マットが貼り付けられた前記立ち上がり縁部が、所定角度に立ち上がった起立状態と、前記所定角度よりも上端が外側に広がって傾いた勾配状態と、に移行可能な可動立ち上がり部で
あり、
前記立ち上がり縁部は、前記面材の外周端面を形成する外周縁部と、前記開口部の内周端面を形成する開口縁部と、を備えており、
前記開口部の互いに対向する2辺に形成される前記開口縁部が前記可動立ち上がり部であり、
前記マットの前記側面模様部は、前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられ、
前記面材は外壁面材であり、
前記側面模様部は前記開口部の両側面となる前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられて、前記開口部の両側面に水平目地模様を形成するものであり、
当該側面模様部は、前記開口縁部の角となる上端又は下端の水平目地模様が、中間部の水平目地模様と比べて、浅いことを特徴とする型枠。
【請求項2】
内部にコンクリートを打設して建材を成型する型枠であって、
上方が開口するとともに、底部と立ち上がり縁部とを有しており、コンクリートを打設する姿勢に載置される型枠本体と、
前記型枠本体の底部の上面に貼り付けられる前面模様部と、前記型枠本体の少なくとも1つの立ち上がり縁部の内側面に貼り付けられる側面模様部と、を有し、建材の表面に凹凸模様を形成する可撓性を有するマットと、
前記マットが貼り付けられた前記立ち上がり縁部が、所定角度に立ち上がった起立状態と、前記所定角度よりも上端が外側に広がって傾いた勾配状態と、に移行可能な可動立ち上がり部で
あり、
前記マットは前記前面模様部と前記側面模様部とが、一体に形成されるものであり、
当該前面模様部と当該側面模様部との境界の、前記型枠本体に向き合う角部が面取りされて、前記型枠本体の前記底部及び前記可動立ち上がり部に当接しない面取り部が形成されることを特徴とする型枠。
【請求項3】
内側に矩形の開口部が形成された面材を成型する型枠であって、
前記立ち上がり縁部は、
前記面材の外周端面を形成する外周縁部と、
前記開口部の内周端面を形成する開口縁部と、を備えており、
前記開口部の互いに対向する2辺に形成される前記開口縁部が前記可動立ち上がり部であり、
前記マットの前記側面模様部は、前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられることを特徴とする
請求項2に記載の型枠。
【請求項4】
前記面材は外壁面材であり、
前記側面模様部は前記開口部の両側面となる前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられて、前記開口部の両側面に水平目地模様を形成するものであり、
当該側面模様部は、開口縁部の角となる上端又は下端の水平目地模様が、中間部の水平目地模様と比べて、浅いことを特徴とする
請求項3に記載の型枠。
【請求項5】
前記可動立ち上がり部を前記起立状態に維持可能に位置決めするとともに、前記可動立ち上がり部を所定の勾配状態に維持可能に位置決めする位置決め手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の型枠。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかの型枠を用いて、コンクリート製建材を成型するコンクリート製建材の製造方法であって、
前記可動立ち上がり部を起立状態に維持して、前記型枠の内部にコンクリートを打設する打設工程と、
前記型枠の内部の前記コンクリートが脱型可能な硬さとなるまで養生する養生工程と、
前記養生工程を経た前記型枠の前記可動立ち上がり部を勾配状態に傾けて維持する脱型準備工程と、
前記コンクリートが固まったコンクリート成型物を持ち上げて前記型枠から脱型する脱型工程と、
を含むことを特徴とするコンクリート製建材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠及び当該型枠を用いたコンクリート製建材の製造方法に関し、特に、角度をつけて交差する2面に凹凸模様が設けられたコンクリート製建材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、外壁などのコンクリート製建材の製造方法として、型枠内に打設した生コンクリートを湿度及び温度が管理された養生室で養生し、その後、型枠から脱型することでコンクリート製建材を製造する方法が知られている。そして、型枠の内面に凹凸の模様を形成することで、建材の表面に凹凸模様を形成し、意匠性を高めたコンクリート製建材も知られている。
【0003】
ところで、コンクリート製建材の中には、例えば出隅部や入隅部の外壁材のように、角度をつけて互いに交差する2面以上の面に凹凸模様が設けられたものがある。このようなコンクリート製建材は、型枠から脱型する際に、型枠と建材の凹凸模様同士が引っ掛かりあうので、単純に一方向に引き抜くことが困難である。そこで、型枠の一方の面を形成する部材と、他方の面を形成する部材とを互いに分離できる別部材とし、打設の前にそれぞれの部材を組み立てるとともに、脱型の際にはこれらの部材をそれぞれ取り外してばらすことで脱型を可能とした型枠が知られている。しかし、このような型枠では、型枠の準備や脱型の際に手間がかかり、また、型枠の部品点数が多くなって管理の負担も増加する。
【0004】
そこで、型枠の凹凸模様が形成された2面を一体に形成しており、脱型の際に、当該2面の成す角の2等分線方向に型枠を取り外すことで、コンクリート製建材を型枠から脱型させる発明が提案されている(特許文献1参照)。2等分線方向であれば、型枠と建材の凹凸模様同士が引っ掛かることなく脱型することができ、2面を一体に形成することで、型枠の部品点数も減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のような型枠の凹凸模様が形成された2面を当該2面の成す角の2等分線方向に引き抜いて脱型する構成とする場合、2等分線方向に引っ掛かることがない凹凸模様に限定されるため、例えば、コンクリート製建材の凹凸模様を深く形成した場合のように、2等分線方向に引っ掛かるデザインの場合には脱型することができない。また、コンクリートを打設した際とは異なる姿勢で脱型することになるので、脱型の際のコンクリート製建材及び型枠の姿勢保持に手間がかかる。
【0007】
そこで、本発明は、交差する2面に凹凸模様が形成されたコンクリート製建材を成型する型枠であって、簡単な構造で脱型が容易となる型枠及びコンクリート製建材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の型枠は、内部にコンクリートを打設して内側に矩形の開口部が形成された面材の建材を成型する型枠であって、上方が開口するとともに、底部と立ち上がり縁部とを有しており、コンクリートを打設する姿勢に載置される型枠本体と、前記型枠本体の底部の上面に貼り付けられる前面模様部と、前記型枠本体の少なくとも1つの立ち上がり縁部の内側面に貼り付けられる側面模様部と、を有し、建材の表面に凹凸模様を形成する可撓性を有するマットと、前記マットが貼り付けられた前記立ち上がり縁部が、所定角度に立ち上がった起立状態と、前記所定角度よりも上端が外側に広がって傾いた勾配状態と、に移行可能な可動立ち上がり部であり、前記立ち上がり縁部は、面材の外周端面を形成する外周縁部と、前記開口部の内周端面を形成する開口縁部と、を備えており、前記開口部の互いに対向する2辺に形成される前記開口縁部が前記可動立ち上がり部であり、前記マットの前記側面模様部は、前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられ、前記面材は外壁面材であり、前記側面模様部は前記開口部の両側面となる前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられて、前記開口部の両側面に水平目地模様を形成するものであり、当該側面模様部は、前記開口縁部の角となる上端又は下端の水平目地模様が、中間部の水平目地模様と比べて、浅いことを特徴としている。
また、本発明の型枠は、内部にコンクリートを打設して建材を成型する型枠であって、上方が開口するとともに、底部と立ち上がり縁部とを有しており、コンクリートを打設する姿勢に載置される型枠本体と、前記型枠本体の底部の上面に貼り付けられる前面模様部と、前記型枠本体の少なくとも1つの立ち上がり縁部の内側面に貼り付けられる側面模様部と、を有し、建材の表面に凹凸模様を形成する可撓性を有するマットと、前記マットが貼り付けられた前記立ち上がり縁部が、所定角度に立ち上がった起立状態と、前記所定角度よりも上端が外側に広がって傾いた勾配状態と、に移行可能な可動立ち上がり部であり、前記マットは前記前面模様部と前記側面模様部とが、一体に形成されるものであり、当該前面模様部と当該側面模様部との境界の、前記型枠本体に向き合う角部が面取りされて、前記型枠本体の前記底部及び前記可動立ち上がり部に当接しない面取り部が形成されることを特徴としている。
【0009】
本発明の型枠は、内側に矩形の開口部が形成された面材を成型する型枠であって、前記立ち上がり縁部は、前記面材の外周端面を形成する外周縁部と、前記開口部の内周端面を形成する開口縁部と、を備えており、前記開口部の互いに対向する2辺に形成される前記開口縁部が前記可動立ち上がり部であり、前記マットの前記側面模様部は、前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられることを特徴としている。
【0010】
本発明の型枠は、前記面材は外壁面材であり、前記側面模様部は前記開口部の両側面となる前記可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられて、前記開口部の両側面に水平目地模様を形成するものであり、当該側面模様部は、開口部の角となる上端又は下端の水平目地模様が、中間部の水平目地模様と比べて、浅いことを特徴としている。
【0012】
本発明の型枠は、前記可動立ち上がり部を前記起立状態に維持可能に位置決めするとともに、前記可動立ち上がり部を所定の勾配状態に維持可能に位置決めする位置決め手段を備えることを特徴としている。
【0013】
本発明のコンクリート製建材の製造方法は、上記のいずれかの型枠を用いて、コンクリート製建材を成型するコンクリート製建材の製造方法であって、前記可動立ち上がり部を起立状態に維持して、前記型枠の内部にコンクリートを打設する打設工程と、前記型枠の内部の前記コンクリートが脱型可能な硬さとなるまで養生する養生工程と、前記養生工程を経た前記型枠の前記可動立ち上がり部を勾配状態に傾けて維持する脱型準備工程と、前記コンクリートが固まったコンクリート成型物を持ち上げて前記型枠から脱型する脱型工程と、を含むことことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の型枠によると、型枠本体の底部の上面に全面模様部が貼り付けられ、型枠本体の少なくとも1つの立ち上がり縁部の内側面に側面模様部が貼り付けられるので、型枠により成型されるコンクリート製建材の角度を設けて交差する2面以上に凹凸模様を形成することができる。そして、マットが貼り付けられた立ち上がり縁部が、可動立ち上がり部であり、所定角度に立ち上がった起立状態と、所定角度よりも上端が外側に広がって傾いた勾配状態と、に移行可能に形成されているので、可動立ち上がり部を起立状態に保持してコンクリートを打設して養生し、脱型の際に可動立ち上がり部を勾配状態とすることで、マットの側面模様部とコンクリート製建材との間に隙間が生まれ、凹凸模様に邪魔されることなくコンクリート製建材を上方に持ち上げることができ、脱型することができる。その後、可動立ち上がり部を起立状態に戻すことで、型枠は簡単に再使用可能となる。このように、本発明の型枠は、可動立ち上がり部を勾配状態とすることができるので、凹凸模様が深い場合であっても簡単に脱型することができ、2面以上に凹凸模様が形成されたコンクリート建材を効率的に製造することができる。
【0015】
本発明の型枠によると、型枠は、内側に矩形の開口部が形成された面材を成型する型枠であり、マットの側面模様部が、開口縁部の互いに対向する2辺に形成される可動立ち上がり部に貼り付けられるので、コンクリート製建材の開口縁の2面に凹凸模様を形成することができ、これら可動立ち上がり部を傾斜状態として、コンクリート製建材を持ち上げることで、極めて簡単に脱型することができる。
【0016】
本発明の型枠によると、成型されるコンクリート製建材は開口部を有する外壁面材であり、側面模様部が開口部の両側面となる可動立ち上がり部にそれぞれ貼り付けられて、開口部の両側面に水平目地模様を形成するので、外壁面材の左右両側の開口縁に水平目地模様を形成し、可動立ち上がり部を傾斜状態にすることで簡単に脱型することができる。そして、側面模様部は、開口部の角となる上端又は下端の水平目地模様が、中間部の水平目地模様と比べて、浅いので、比較的外力が集中しやすい開口縁の角に、脱型の際に加わる摩擦力を低減させることができ、外壁面材のひび割れを抑制することができる。
【0017】
本発明の型枠によると、マットは前面模様部と側面模様部とが、一体に形成されるものであるので、型枠本体により簡単に貼り付けることができるとともに、前面模様部と側面模様部との境界の、型枠本体に向き合う角部が面取りされて面取り部が形成されているので、型枠本体の可動立ち上がり部を起立状態から勾配状態に移行したときに、可撓性を有するマットに無理な力を加えることなく可動立ち上がり部に従って側面模様部を広げることができる。したがって、脱型時にマットをスムーズに勾配状態に変形させることができ、マット自体の劣化を抑制することができる。
【0018】
本発明の型枠によると、可動立ち上がり部を起立状態に維持可能に位置決めするとともに、可動立ち上がり部を所定の勾配状態に維持可能に位置決めする位置決め手段を備えるので、打設の前の型枠準備や脱型時の立ち上がり部を勾配状態にする操作を容易且つ正確に行うことができる。
【0019】
本発明のコンクリート製建材の製造方法によると、上記のような型枠を用いてコンクリート建材を形成するので、2面以上に凹凸模様が形成されたコンクリート建材を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図4】可動支持部及び可動立ち上がり部の構成を示す一部省略斜視図。
【
図5】(A)は第二不動挟持部の構成を示す斜視図、(B)は第二不動挟持部のメンテナンス開口を説明する正面図。
【
図6】第一不動挟持部及び第二不動挟持部の間に可動支持部が挟持される状態を説明する分解斜視図。
【
図7】起立状態の可動立ち上がり部、可動支持部、及び第一不動挟持部の状態を説明する図。
【
図8】勾配状態の可動立ち上がり部、可動支持部、及び第一不動挟持部の状態を説明する図。
【
図9】4つに分割されるマットの全体構成を説明する分解斜視図。
【
図11】コンクリート建材の製造方法の工程を示すフローチャート。
【
図12】生コンクリートを打設する前に予め準備された型枠を示す斜視図。
【
図13】打設工程を経て生コンクリートを打設した型枠の状態を示す斜視図。
【
図15】コンクリート製建材にレールが設けられた鉄筋を配置する状態を示す図。
【
図18】コンクリート製建材の全体構成を示す斜視図。
【
図19】コンクリート製建材の開口部の上端の内周端面を示す一部省略拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の型枠1及びコンクリート製建材の製造方法の実施形態について、各図を参照しつつ説明する。型枠1は、上方が開口しており、生コンクリート2を打設養生して、所望の固さまで凝結させて脱型することで、コンクリート製建材3を得る型枠1である。本実施形態においては、コンクリート製建材3は、
図18に示すように、図示しないサッシを外壁表面から屋内側にセットバックさせて、屋外側から見た場合に深く重厚な印象の開口部31を形成する開口部付きの外壁面材である。なお、本発明における「建材」は開口部付きの外壁面材に限定されるものではなく、例えば出隅部や入隅部を形成する建材であってもよく、又は、開口部の一部を形成する建材であってもよい。
【0022】
型枠1は、
図1及び
図9に示すように、矩形に形成され水平に載置される平坦な底部5と、底部5から立ち上がって形成された立ち上がり縁部6と、を有する型枠本体4と、型枠本体4の内側に貼り付けられ、コンクリート製建材3の表面に凹凸模様を形成するマット7と、を備える。なお、以下の説明において、型枠本体4の内側とは、コンクリートが打設される側をいい、型枠本体4の外側とは、立ち上がり縁部6を挟んで、コンクリートが打設される側と逆側をいう。型枠本体4は、鋼製であり、コンベアに乗って移動する搬送台に底部5が水平になるように載置されている。型枠本体4の底部5は、コンクリート製建材3の屋外側の面となり、型枠本体4の上方が屋内側となる。
【0023】
型枠本体4の立ち上がり縁部6は、
図1に示すように、コンクリート製建材3の上下左右の外周端面を形成する外周縁部61と、型枠本体4の中心に形成されて、コンクリート建材3の矩形の開口部31の上下左右の内周端面を形成する開口縁部62と、を有する。外周縁部61は、底部5の外周縁に沿って矩形に形成されており、内側の面が平坦に形成されており、上端が外側にフランジ状に広がって形成されている。外周縁部61は内側の面が上端に向かって外側に僅かに広がって形成されており、コンクリート製建材3を脱型する際の脱型勾配を形成している。外周縁部61は底部5に溶接固定されており、底部5に対して不動となっている。
【0024】
開口縁部62は、
図2に示すように、開口部31の上側の内周端面を形成するための上側立ち上がり部63と、開口部31の下側の内周端面を形成する下側立ち上がり部64と、開口縁部62の左右両側の内周端面を形成するための可動立ち上がり部65とを有する。上側立ち上がり部63及び下側立ち上がり部64は、それぞれ底部5に溶接固定されており、底部5に対して不動となっている。下側立ち上がり部64は、上側立ち上がり部63よりも長く形成されており、後述するマット7の厚さ分長く形成されている。下側立ち上がり部64及び上側立ち上がり部63にはそれぞれ補強リブ66が開口部31の内側に向かって突出して設けられている。
【0025】
可動立ち上がり部65は、
図7に示す起立状態と、起立状態よりも上端が開口部31側に広がるように傾斜した
図8に示す勾配状態とに移行可能である。可動立ち上がり部65は、起立状態のとき、鉛直に立ち上がる壁部67と、当該起立状態のとき、壁部67の上端から開口部31側に水平に伸びるフランジ68と、を有している。壁部67は、後述するマット7の側面模様部が貼り付けられて、コンクリート製建材3の開口部31の内周側面を形成する。フランジ68は、2か所にハンドル挿入穴69が設けられており、丸鋼をU字状に曲げて形成したハンドル40の両端を当該ハンドル挿入穴69に挿入して、操作することで、可動立ち上がり部65を起立状態と勾配状態に移行する操作を行うものである。
【0026】
可動立ち上がり部65の壁部67の開口部31側の面には、
図4、
図7、及び
図8に示すように、当該開口部31側に伸びる可動支持部8が2箇所に溶接されている。可動支持部8は、壁部67に対して垂直で、且つ、鉛直に形成される平板状である。可動支持部8の、壁部67に近い側に2つのピン孔81が形成されており、ピン孔81よりも壁部67から離れた位置には後述するボールプランジャ90のボール91を受ける2つのボール受け部82が形成されている。ボール受け部82は、球面状に窪んでおりボール91がはまり込む形状である。可動支持部8の両側には第一不動挟持部9a及び第二不動挟持部9bが形成されており、可動支持部8を挟持している。
【0027】
第一不動挟持部9aは、
図3、
図7、及び
図8に示すように、可動支持部8の一方の面に当接する平板状である。第一不動挟持部9aは、下面が底部5に溶接されている。第一不動挟持部9aには、ピン孔81に連通する2つの長孔92が形成されており、当該長孔92よりも壁部67から離れる方向に2つのボールプランジャ90が設けられている。ボールプランジャ90は、可動支持部8のボール受け部82にはめ合わされるボール91と、当該ボール91を可動支持部8に押し付けるコイルバネの付勢部93と、当該付勢部93がボール91を可動支持部8に押し付ける付勢力を調整するために、付勢部93の可動支持部8との距離を調整するボルト及びナットからなる調整部94と、を有している。本発明における「位置決め手段」は、本実施形態においては2つのボールプランジャ90がこれに相当する。
【0028】
また、第二不動挟持部9bは、
図5に示すように、可動支持部8の他方の面に当接する平板状である。第二不動挟持部9bには、第一不動挟持部9aと同様に、ピン孔81に連通する2つの長孔92が形成されている。また、第二不動挟持部9bには、メンテナンス蓋95によって閉じられたメンテナンス開口96が形成されており、可動支持部8の2つのボール受け部82が摩耗した場合には交換を行うことができるように形成されている。第二不動挟持部9bは下面が底部5に溶接されている。
【0029】
可動支持部8の2つのピン孔81にはそれぞれ可動ピン83が両端が突出するように挿入されて固定されている。
図6に示すように、可動支持部8は、第一不動挟持部9a及び第二不動挟持部9bの間に挟まれており、ピン孔81に挿入される2つの可動ピン83の両端が、第一不動挟持部9a及び第二不動挟持部9bの2つの長孔92にそれぞれ挿入された状態となっている。可動ピン83は、
図7及び
図8に示すように、それぞれの長孔92に沿って摺動可能であり、可動支持部8も可動ピン83の摺動に従って姿勢を変更可能となっている。そして、可動支持部8に固定されている可動立ち上がり部65も可動支持部8の動きに従って姿勢を変更する。したがって、可動ピン83が第一不動挟持部9a及び第二不動挟持部9bの長孔92の中で摺動することによって、可動立ち上がり部65は、壁部67が鉛直となる起立状態と、壁部67の上端が開口部31側に広がるように傾斜した勾配状態との間で姿勢を変更することとなる。
【0030】
2つの可動ピン83が長孔92の上端に位置するとき、可動立ち上がり部65は起立状態となり、2つの可動ピン83が長孔92の下端に位置するとき、可動立ち上がり部65は傾斜状態となる。そして、可動立ち上がり部65が起立状態のとき、第一不動挟持部9aに設けられた2つのボールプランジャ90の内、可動立ち上がり部65に近い側のボールプランジャ90の先端に設けられたボール91が、可動支持部8のボール受け部82にはまり込んで、可動支持部8の姿勢の変更を規制し、可動立ち上がり部65を起立状態に維持する。また、可動立ち上がり部65が傾斜状態のとき、第一不動挟持部9aに設けられた2つのボールプランジャ90の内、可動立ち上がり部65に遠い側のボールプランジャ90の先端に設けられたボール91が、可動支持部8のボール受け部82にはまり込んで、可動支持部8の姿勢変更を規制して、可動立ち上がり部65を傾斜状態に維持する。
【0031】
マット7は、
図9に示すように、可撓性を有する例えば樹脂製であり、コンクリート製建材3の表面に凹凸模様を形成するものである。マット7は、コンクリート製建材3を設置したときに、開口部31よりも上となる部分の模様を形成する上マット70と、開口部31の側方の模様を形成する2つの側マット72と、開口部31よりも下の部分の模様を形成する下マット71とを有している。上マット70は、型枠本体4の底部5の上面に貼り付けられる前面模様部73と、立ち上がり縁部6の開口縁部62のうち、開口部31の上側の内周端面を形成する上側立ち上がり部63に貼り付けられる上端模様部74と、が一体形成されている。2つの側マット72は、それぞれ型枠本体4の底部5の上面に貼り付けられる前面模様部73と、立ち上がり縁部6の開口縁部62のうち、左右両側に設けられた可動立ち上がり部65に貼り付けられる側面模様部75と、が一体形成されている。下マット71は、型枠本体4の底部5の下面に貼り付けられる前面模様部73を有している。なお、型枠本体4の外周縁部61及び開口縁部62の下側立ち上がり部64にはマット7が貼り付けられておらず、コンクリート製建材3の開口部31の下側の内周端面、及びコンクリート製建材3の外周端面には、凹凸模様が形成されていない。
【0032】
マット7によって形成される凹凸模様は、コンクリート製建材3を設置したときに、鉛直方向及び水平方向となる目地模様であり、マット7の前面模様部73は、型枠1の底部5の上面に貼り付けたときに上を向く面における目地が形成される部分に、型枠1の縦横方向に複数の突条76が形成されている。また、上端模様部74及び側面模様部75にはそれぞれ、立ち上がり方向に向かって伸びる突条76が、前面模様部73の突条76と連続するように形成されている。
【0033】
これによって、コンクリート製建材3の表面には、鉛直方向及び水平方向に複数の溝が形成され、目地のような模様が形成される。なお、マット7によって形成される凹凸模様はこれに限定されるものではなく、コンクリート製建材3を用いる建物の外観デザインに応じて、他の様々な模様を採用することができる。
【0034】
図10に示すように、可動立ち上がり部65に貼り付けられる側面模様部75に立ち上がり方向に向かって伸びる突条76によって形成される凹凸模様は、開口部31の両側面に屋内外方向に延びる水平目地模様32である。この側面模様部75は、
図19に示すように、開口部31の上端の角となる端部に形成された水平目地模様32aが、中間部の水平目地模様32と比べて浅くなるように、開口部31の上側となる側面模様部75の端部に形成された突条76aの突出高さが他の部分の突条76と比較して低く形成されている。
【0035】
側マット72の前面模様部73及び側面模様部75の境界の型枠本体4に向き合う角部は、
図9、
図14、及び
図15に示すように、面取りされて、型枠本体4の底部5及び可動立ち上がり部65に当接しない面取り部77が形成されている。このように面取り部77が形成されることで、型枠本体4の可動立ち上がり部65を起立状態から勾配状態に移行したときに、可撓性を有するマット7に無理な力を加えることなく可動立ち上がり部65に従って側面模様部75を広げることができ、脱型時にマット7をスムーズに勾配状態に変形させることができ、マット7自体の劣化を抑制することができる。
【0036】
次に、以上のように形成される型枠1を用いたコンクリート製建材の製造方法について、
図11を参照しつつ説明する。コンクリート製建材の製造方法は、まず、
図12に示すように、予め型枠本体4にマット7を貼り付けた型枠1を準備する(S101)。このとき、型枠1の可動立ち上がり部65のフランジ68に形成されたハンドル挿入穴69にハンドル40を挿入して、可動立ち上がり部65が起立状態となるように操作する。型枠1は、例えば製造ラインのコンベア上に配置されて、次の工程に搬送される。次に、
図13、及び
図14に示すように、計量して練り混ぜられた生コンクリート2を型枠1内に打設する(S102)。生コンクリート2は、型枠1の外周縁部61と開口縁部62との間に回るように打設され、上側となるコンクリート製建材3の裏面をコテでならし仕上げる。そして、
図15に示すように、コンクリート製建材3の上下方向に延びるレール11が溶接されたメッシュ状の鉄筋10を生コンクリート2に埋設し(S103)、型枠1を振動させて内部のコンクリートを締め固める。そして、型枠1毎、所望の温度及び湿度に管理された1次養生装置に入れて1次養生を行う(S104)。
【0037】
そして、1次養生が完了すると、次に脱型の準備を行う(S105)。具体的には、
図16に示すように、型枠1の可動立ち上がり部65のフランジ68に形成されたハンドル挿入穴69にハンドル40を挿入して、可動立ち上がり部65が勾配状態となるように操作する。可動立ち上がり部65が勾配状態となると、可動立ち上がり部65に貼り付けられている側面模様部75も可動立ち上がり部65に従って傾斜することとなり、側面模様部75が型枠1内で養生されたコンクリート製建材3の開口部31の側面から離れる。このとき、
図19に示すように、コンクリート製建材3の開口部31の側面の上端に形成された水平目地模様32aが、開口部31の側面の他の部分に形成された水平目地模様32よりも浅く形成されるので、割れを起こしやすい開口部31の角に負荷が集中することがなく、ひび割れの発生を抑制することができる。そして、両側の可動立ち上がり部65をそれぞれ勾配状態にすると、次に、
図17に示すように、レール11に係止具12をひっかけて、コンクリート製建材3をクレーンで持ち上げることで、型枠1からコンクリート製建材3を取り外す(S106)。
【0038】
脱型したコンクリート製建材3は、高温高圧のオートクレーブ窯に搬入して2次養生を行い(S107)、その後、各種コーティング剤などを塗装して(S108)、コンクリート製建材3を完成させる。
【0039】
以上のように本実施形態における型枠1及びコンクリート製建材の製造方法によると、
図18に示すように、コンクリート製建材3は、開口部31の側面に凹凸模様を形成した外壁面材でありつつ、開口部31の回りを複数に分割することなく一体成型することができるので、建物の建築時に、シーリングを必要とする外壁目地を減らすことができるとともに、躯体に取り付けるための取付金具の個数を減らすことができる。
【0040】
本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る型枠1及びコンクリート製建材の製造方法によると、深い凹凸を有する重厚感のあるデザインの建物の外壁を形成する型枠1及び製造方法として好適である。
【符号の説明】
【0042】
1 型枠
3 コンクリート製建材
4 型枠本体
5 底部
6 立ち上がり縁部
7 マット
61 外周縁部
62 開口縁部
65 可動立ち上がり部
73 前面模様部
75 側面模様部
90 ボールプランジャ(位置決め手段)